説明

熱伝導性に優れたプリプレグ、プリプレグの製造方法、および積層板

【課題】効率よく耐熱特性、放熱特性および寸法安定性に優れた樹脂組成物からなるプリプレグおよび積層板を提供する。
【解決手段】窒化ホウ素ナノチューブ不織布状多孔体1〜99質量部と熱可塑性樹脂99〜1質量部からなる熱可塑性樹脂組成物であり、該多孔体の空隙に熱可塑性樹脂が充填されていることを特徴とする熱伝導性に優れるプリプレグ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物からなるプリプレグ、積層板およびその製造方法に関する。更に詳しくは、構造の規定された窒化ホウ素ナノチューブからなる不織布状多孔体と熱可塑性樹脂からなる基材を用いることによる、熱伝導性に優れるプリプレグ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種電気・電子機器製品の高性能化、高機能化および小型軽量化に伴いプリプレグを用いた積層板も様々な特性が求められている。特に、積層板がプリント配線板の絶縁層として、パソコンなどへの半導体素子類の高密度実装機器、自動車のエンジンルーム等に用いられる場合は、実装部品、あるいは周辺部材の発熱に伴い、積層板が高温状態に暴露されることにより樹脂が劣化するなどして、実装部品の機能低下が避けられない。
【0003】
例えば、走行時のエンジン発熱やブレーキ系摩擦による発熱が顕著な自動車の場合、高度に電子化された車の制御システムにおける電子デバイスやユニットの耐久性や動作特性は、使用環境の影響を直接的に受けることになる。電子制御機器が自動車全体の信頼性に及ぼす影響は非常に大きいことから、エンジンルームに配置されるプリント配線板の絶縁層において、積層板の耐熱性及び放熱性を向上させることは大きな課題となっている。
【0004】
かかる絶縁層の放熱特性を向上させるべく、例えば特許文献1にはエポキシ樹脂からなる絶縁接着シートに高熱伝導性の金属板を貼付することによる積層板が提案されている。更に、特許文献2では、シート状の繊維不織布からなる基材に熱硬化性樹脂を含むワニスを含浸して形成するプリプレグにおいて、高熱伝導率の無機材料からなるフィラーをワニスに添加するものが開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1の如き絶縁接着シートと金属板の物理的な貼付による積層板では、スルーホールを形成するときに金属板の絶縁処理が煩雑になる。また、絶縁性や寸法特性も低下するこという問題がある。また特許文献2に開示されている、高熱伝導性無機材料系のフィラーをワニスに添加した積層板では、フィラーによってワニスの粘度が顕著に増大し、繊維不織布からなる基材中にフィラーを含んだワニスを十分に含浸するには限界があり、積層板の耐熱性及び放熱性を十分に向上させることができなかった。
【0006】
一方これらの課題に対して、特許文献3に示すように、熱伝導性の高い無機繊維からなる不織布に熱伝導性のフィラーおよび熱硬化性樹脂を含浸し、成形することで耐熱性と放熱性を改良し、かつ加工性も有するプリプレグが提案されている。しかしながらここで用いられる無機繊維はバルクの不織布であり、より効果的に寸法安定性や放熱特性を発現するにはバルクサイズよりも微細かつ均質な繊維とフィラー、および樹脂の複合化が望ましい。またここで用いられるバルクのフィラー、熱伝導性無機繊維は何れも従来の絶縁性熱伝導材料であり、これらの熱伝導率は高々50〜100W/m・Kと金属材料と比較して低いレベルにある。従って、パワー系などより高レベルかつ高性能な放熱特性を要求される用途も含め、原理的に熱伝導率の観点から限界がある。
【0007】
一方で、マトリクスである熱硬化性樹脂に関しては、その化学的構造特性に基づく脆性、低耐衝撃性という欠点を有するため、その改善が求められていた。また、熱硬化性樹脂の場合、これをプリプレグとした時、樹脂のライフ等によるプリプレグの保存管理上の問題点や成形時間が長く生産性が低い等の問題もあった。このような課題解決のため、短時間での成形性に優れ、また耐衝撃性の高い熱可塑性樹脂に炭素繊維を複合用マトリクスに用いる技術も開示されている。例えば、熱可塑性樹脂に炭素繊維を複合化することによる成形性と強度に優れるプリプレグ(特許文献4)や、熱可塑性樹脂に熱伝導性フィラーを充填した組成物を電極であるリードフレームと一体化した射出成形による熱伝導性モジュールが提案されている(特許文献5,6)。特に熱伝導性モジュールにおいては、これまで金属やセラミックによる基板における性能およびコストの面で両立が難しい部分を補い、機械的強度と放熱性の両立を有するものと言われているが、やはり従来の熱伝導性フィラーの充填では性能、特に放熱性の視点からは限界がある。
【0008】
上述したような課題の解決には、ナノサイズの無機粒子やカーボンナノチューブのようなナノフィラーを使用することが考えられるが、カーボンナノチューブは絶縁上の問題から使用に制限があり、また無機粒子は凝集し易く、通常ナノレベルでの分散を実現するのが困難である。更に層状、板状の無機微粒子は線状構造のチューブとは異なり、二次元的な広がりを有するため複合樹脂の表面形状への影響が大きく、分散が十分でないと表面平滑性を損なう要因となり素材の使用が制限される一因となる。
【0009】
従来のフィラーの効果不足や不均一分散による樹脂複合プリプレグの物性低減などの課題を解決し、高い機械的強度、耐熱性を有し、かつ樹脂の寸法安定性,均質性に優れた高熱伝導性の熱可塑性樹脂複合材料からなるプリプレグを得るべく、ナノレベルの単位サイズで構成され、大きな比表面積による樹脂との均質複合が可能で、かつ物理化学的に高熱伝導率を有するナノフィラー部材の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−167775号公報
【特許文献2】特開2005−136051号公報
【特許文献3】特開2007−9089号公報
【特許文献4】特開2005−255927号公報
【特許文献5】特開平9−298344号公報
【特許文献6】特開平9−321395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、従来のようなバルク、あるいはナノメートルレベルでの分散が困難な無機フィラーを含有する熱可塑性樹脂組成物からなるプリプレグとは異なり、成型加工プロセスにおける加工性などを低下させること無く、効率よく耐熱特性、放熱特性および寸法安定性等を向上させたプリプレグ、積層板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、絶縁性の無機ナノ繊維であり、かつ従来の無機系熱伝導性材料と比較し遥かに高い熱伝導率を有する窒化ホウ素ナノチューブを予め不織布状の多孔性構造体した後に、熱可塑性樹脂を溶融状態、または溶液分散状態にて密に含浸、均質に複合化せしめて冷却固化または乾燥固化成形することにより、効率よく耐熱特性、放熱特性および寸法安定性に優れた樹脂組成物からなるプリプレグおよび積層板が得られることを見出し本発明に到達した。すなわち、本発明は、以下を要旨とする。
【0013】
1. 窒化ホウ素ナノチューブからなる不織布状多孔体1〜99質量部と熱可塑性樹脂が99〜1質量部からなる組成物であり、多孔体の空隙に熱可塑性樹脂が充填されていることを特徴とする熱伝導性に優れるプリプレグ。
2. 窒化ホウ素ナノチューブの平均直径が0.4nm〜1μm、平均アスペクト比が5以上であることを特徴とする上記1項に記載のプリプレグ。
3. 熱可塑性樹脂が、ポリメタクリル酸エステル、ポリオレフィン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリエステル、芳香族ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリアリーレンオキシド、熱可塑性ポリイミドおよびポリアミドイミド樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする上記1項または2項に記載のプリプレグ。
4. 熱可塑性樹脂を、窒化ホウ素ナノチューブよりなる不織布状多孔体と共に加熱、加圧することで該熱可塑性樹脂の融解させ繊維空隙に充填せしめ、次いで冷却固化させる工程を含む上記1〜3項のいずれか1項に記載のプリプレグの製造方法。
5. 熱可塑性樹脂の溶液若しくは分散液を、窒化ホウ素ナノチューブよりなる不織布状多孔体に含浸せしめ、次いで加熱、若しくは減圧により溶媒を蒸発させることにより該熱可塑性樹脂を該窒化ホウ素ナノチューブ不織布状多孔体の空隙に充填させる工程を含む上記1〜3項のいずれか1項に記載のプリプレグの製造方法。
6. 上記1〜3項のいずれか1項に記載のプリプレグ1枚以上を加熱加圧することにより成形された積層板。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、ナノメートルオーダーの繊維径からなる窒化ホウ素ナノチューブにより構成される不織布状多孔体の空隙に、熱可塑性樹脂をバルク繊維系不織布に比べてより細密かつ均質に含浸することができる。また、窒化ホウ素ナノチューブ自体が従来の無機熱伝導材に比べて遥かに高い熱伝導率を有するため、特別なフィラーを別途添加することなしに樹脂複合体としての放熱特性を効果的に獲得することができる。高度に熱伝導性のフィラーとしての機能を兼ねた窒化ホウ素ナノチューブ系不織布に均質に樹脂が複合されることにより、両成分の相互作用が相乗的に発現し、プリプレグとしての耐熱性及び放熱性を向上できる。更に窒化ホウ素ナノチューブの優れた機械特性と大きな比表面積効果により、樹脂とチューブが十分に界面接触することになり、更に窒化ホウ素ナノチューブの密度が低い場合でもプリプレグの強度が維持され、成形物が損傷を受けることなく、樹脂ワニスを多孔構造内に含浸することができる。
【0015】
本発明のプリプレグ、および該プリプレグ1枚以上を加熱加圧して成形される積層板、および該積層板を絶縁層として用いるプリント配線板では、機械特性に加え、耐熱特性および高熱伝導性が発現するので、高温雰囲気下での使用が予想される自動車機器用のプリント配線板、パソコン等の高密度実装プリント配線板に代表される、熱伝導性と絶縁性が必要な電子機器に用いられる電子部品の素材として好適に利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下本発明を詳細に説明する。
(窒化ホウ素ナノチューブおよびその不織布状多孔体)
本発明において、窒化ホウ素ナノチューブとは、窒化ホウ素からなるチューブ状材料であり、理想的な構造としては6角網目の面がチューブ軸に平行に管を形成し、一重管もしくは多重管になっているものである。窒化ホウ素ナノチューブの平均直径は、好ましくは0.4nm〜1μm、より好ましくは0.6〜500nm、さらにより好ましくは0.8〜200nmである。ここでいう平均直径とは、一重管の場合、その平均外径を、多重管の場合はその最外側の管の平均外径を意味する。平均長さは、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。平均アスペクト比は、好ましくは5以上、さらに好ましくは10以上である。平均アスペクト比の上限は、平均長さが10μm以下であれば限定されるものではないが、上限は実質25000である。よって、窒化ホウ素ナノチューブは、平均直径が0.4nm〜1μm、平均アスペクト比が5以上であることが好ましい。
【0017】
窒化ホウ素ナノチューブの平均直径および平均アスペクト比は、電子顕微鏡による観察から求めることが出来る。例えばTEM(透過型電子顕微鏡)測定を行い、その画像から直接窒化ホウ素ナノチューブの直径および長手方向の長さを測定することが可能である。また組成物中の窒化ホウ素ナノチューブの形態は例えば繊維軸と平行に切断した繊維断面のTEM(透過型電子顕微鏡)測定により把握することが出来る。
【0018】
窒化ホウ素ナノチューブは、アーク放電法、レーザー加熱法、化学的気相成長法を用いて合成できる。また、ホウ化ニッケルを触媒として使用し、ボラジンを原料として合成する方法も知られている。また、カーボンナノチューブを鋳型として利用して、酸化ホウ素と窒素を反応させて合成する方法もが提案されている。本発明に用いられる窒化ホウ素ナノチューブは、これらの方法により製造されるものに限定されない。窒化ホウ素ナノチューブとしては、強酸処理や化学修飾、あるいは他の高分子で被覆されるなどの表面改質を施した窒化ホウ素ナノチューブも使用することができる。特に高分子での被覆については、窒化ホウ素ナノチューブと相互作用が強く、また熱可塑性マトリクス樹脂との相互作用も強いものが好ましい。これらの高分子としては、例えば、ポリフェニレンビニレン系高分子、ポリチオフェン系高分子、ポリフェニレン系高分子、ポリピロール系高分子、ポリアニリン系高分子、ポリアセチレン系高分子等の共役系高分子が挙げられる。中でも、ポリフェニレンビニレン系高分子、ポリチオフェン系高分子が好ましい。更に共役系高分子以外にも、必要に応じてマトリックス樹脂との接着性、反応性等を改良するためにマトリックス樹脂と相溶性または反応性を有する他の樹脂でコーティングされてもよい。
【0019】
更に共役高分子やマトリクス樹脂による被覆以外にも、窒化ホウ素ナノチューブはカップリング剤で表面被覆処理されていてもよい。ここで使用されるカップリング剤としては、例えばシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤及びアルミネート系カップリング剤等が挙げられる。具体的にはシラン系カップリング剤の例としては、トリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グルシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グルシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。チタネート系カップリング剤の例としては、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルオリス(ジオクチルバイロフォスフェート)、イソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルバイロフォスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルバイロフォスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルフォスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート等が挙げられる。また、アルミネート系カップリング剤の例としては、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等が挙げられる。これらの化合物は、水溶液、またはアルコール類、ケトン類、グリコール類、炭化水素類の有機溶媒の溶液、あるいは水とこれら有機溶媒との混合溶媒の溶液として使用される。必要に応じて上記溶液に、酢酸、塩酸等の酸、またはアルカリによりpH調整を行ってもよい。
【0020】
本発明においては、上記のように得られた窒化ホウ素ナノチューブを、不織布の形状(以下、不織布状多孔体と称することがある)にして用いる。窒化ホウ素ナノチューブを不織布状多孔体にするには、公知の不織布の製造方法を適用しうる。なかでも、窒化ホウ素ナノチューブを溶媒に分散させた分散液を濾過または湿式抄紙して、窒化ホウ素ナノチューブをシ−トの形状に捕集したのち、このシート状物を乾燥する方法が簡便で好ましい。その際、窒化ホウ素ナノチューブを分散させる溶媒としては、炭素数1〜10のアルコール類、アミン類、有機カルボン酸類、有機カルボン酸エステル類、有機酸アミド類、ケトン類、エーテル類、スルホキシド、スルホン、スルホラン類などの有機溶媒、水または界面活性剤を含む水などが挙げられる。窒化ホウ素ナノチューブと溶媒の混合量は、窒化ホウ素ナノチューブ1gあたり、溶媒が1〜100000mLとなる量であると好ましく、2〜10000mLとなる量であるとより好ましく、5〜1000mLとなる量であると更に好ましく、10〜500mLとなる量であると特に好ましい。また、窒化ホウ素ナノチューブの溶媒への分散性を高めるために、攪拌・振盪処理や超音波処理を行ってもよい。
【0021】
上記の分散液の濾過などにより得られた窒化ホウ素ナノチューブのシート状物を、さらに乾燥することにより、本願発明にて用いる不織布状多孔体が得られる。該乾燥処理は、自然乾燥でも加熱乾燥でもよく、常圧雰囲気下での乾燥でも減圧下の乾燥でもよく、連続式でもバッチ式でもよい。
【0022】
窒化ホウ素ナノチューブは、カーボンナノチューブに匹敵する、優れた機械的物性、熱伝導性を有するだけでなく、化学的に安定でカーボンナノチューブよりも優れた耐酸化性を有することが知られている。また、ホウ素原子と窒素原子の間のダイポール相互作用により局所的な極性構造を有しており、極性構造を有する媒体への親和性、分散性がカーボンナノチューブより優れることが期待される。更に電子構造的に広いバンドギャップを有するため絶縁性であり、絶縁放熱材料としても期待できる他、カーボンナノチューブと異なり白色であることから着色を嫌う用途にも応用できるなど、ポリマーの特徴を活かしたプリプレグの創製が可能となる。なお、窒化ホウ素ナノチューブの製造方法としては、カーボンナノチューブや窒化炭素を原料に用いるものもあるが、これらの方法では原料のカーボンナノチューブ等が生成した窒化ホウ素ナノチューブに混入し、褐色や黒色を呈することがあるため、本願発明に用いる窒化ホウ素ナノチューブとしては、気体状の酸化ホウ素(B)とアンモニアを反応させて得たものが、不純物が少なく特に綺麗な白色であり好ましい。
【0023】
本発明のプリプレグにおいては、熱可塑性樹脂99〜1質量部に対して、窒化ホウ素ナノチューブからなる不織布状多孔体が、1〜99質量部の範囲内で含有される。より好ましくは熱可塑性樹脂95〜20質量部に対して、窒化ホウ素ナノチューブからなる不織布状多孔体が、5〜80質量部の範囲内で含有されるプリプレグであり、更に好ましくは熱可塑性樹脂90〜30質量部に対して、窒化ホウ素ナノチューブからなる不織布状多孔体が、10〜70質量部の範囲内で含有されるプリプレグである。
【0024】
上記範囲内とすることにより、窒化ホウ素ナノチューブからなる不織布状多孔体を効率的に熱可塑性樹脂と複合化させることが可能となるからである。また、窒化ホウ素ナノチューブからなる不織布状多孔体が過度に多い場合は、樹脂マトリクスが多孔体上を十分に被覆することが困難となり好ましくない。本発明の樹脂組成物は、窒化ホウ素ナノチューブに由来する窒化ホウ素フレーク、触媒金属等を含む場合がある。
【0025】
本発明で使用される熱可塑性樹脂としては、融点またはガラス転移温度が150℃以上の結晶性又は非晶性の熱可塑性樹脂が好ましい。好ましい熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリメタクリル酸エステル類、ポリオレフィン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリエステル、芳香族ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリアリーレンオキシド、熱可塑性ポリイミドおよびポリアミドイミド樹脂が挙げられ、なかでもポリメタクリル酸エステル類、芳香族ポリカーボネートが特に好ましい。これらの熱可塑性樹脂は単独で用いられても良く、2種類以上を併用しても良い。
【0026】
本発明のプリプレグには、本発明の効果を阻害しない範囲で必要に応じて適宜、ゴム類を添加することができる。添加化合物として使用できるゴム類としては特に限定されず、例えば、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2−ポリブタジエン、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム等が挙げられる。マトリクス樹脂との相溶性を高めるために、これらのゴムを官能基変性したものであることが好ましい。これらのゴム類は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。これらゴム類のような他の樹脂成分の配合量としては、熱可塑性樹脂の特徴を活かすため、熱可塑性樹脂に対して質量比で1:1以下の配合量が好ましく、より好ましくは質量比0.8:1の配合量である。ゴム成分の配合量が、ゴム成分:熱可塑性樹脂=1:1(質量比)を超えると樹脂硬化物の難燃性が損なわれることがある。
【0027】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂は、窒化ホウ素ナノチューブより成る不織布状多孔体、及び他の添加剤と複合、成形後に更に加熱成形せしめることにより最終的な成形物を製造することができる。
【0028】
(プリプレグの製造方法について)
本発明の熱可塑性樹脂プリプレグは、以下に述べる方法によって製造される。即ち、マトリクスである熱可塑性樹脂を、窒化ホウ素ナノチューブよりなる不織布状多孔体と共に加熱、加圧することで該熱可塑性樹脂を融解させ繊維空隙に充填せしめ、次いで冷却固化させる方法、又はマトリクスである熱可塑性樹脂の溶液若しくは分散液を、窒化ホウ素ナノチューブよりなる不織布状多孔体に含浸せしめ、次いで加熱、若しくは減圧により溶媒を蒸発させることにより該熱可塑性樹脂を該窒化ホウ素ナノチューブ不織布状多孔体の空隙に充填させることにより、窒化ホウ素ナノチューブからなる不織布状多孔体と熱可塑性樹脂とをナノレベルで一体化させる方法などを好ましく用いることができる。
【0029】
また、共役系高分子やカップリング剤で表面を被覆処理された窒化ホウ素ナノチューブを使用する場合は、窒化ホウ素ナノチューブにこれらを被覆処理した後、被覆された窒化ホウ素ナノチューブ繊維より成る不織布状多孔体を上記のように熱可塑性樹脂と共に加熱、加圧して樹脂を融解して繊維間に充填せしめるか、又は窒化ホウ素ナノチューブからなる不織布状多孔体を熱可塑性樹脂溶液に含浸し、次いで加熱、加圧下により溶媒を蒸発させると同時に固化させることにより窒化ホウ素ナノチューブからなる不織布状多孔体と熱可塑性樹脂とを一体化させる方法によって本発明の樹脂組成物を製造することができる。
【0030】
上記のように、本発明の製造方法において、熱可塑性樹脂を溶解または分散させるための溶媒としては、熱可塑性樹脂の種類に応じて、芳香族系炭化水素類、アルコール類、ケトン類、ハロゲン化炭化水素類から選ばれる1種類以上の有機溶媒または該有機溶媒と水との混合溶媒等を好適に用いることができる。具体的には、芳香族系炭化水素類としてベンゼン、トルエン、キシレン等が、アルコール類としてメタノール、エタノール、イソプロパノール、メチルセロソルブ等が、ケトン類としてはアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が、更にハロゲン化炭化水素類としては塩化メチレン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン等が挙げられる。中でも好ましいものとして、エタノール、イソプロパノール、アセトン若しくはそれらと水との混合物、又は塩化メチレン、ジクロロエタン等である。
【0031】
本願発明において用いられる上記の溶媒は、窒化ホウ素ナノチューブからなる不織布状多孔体を浸漬させたときに繊維間の空隙に浸入し、適度に開繊させるという作用もあるので、分散溶液中の熱可塑性樹脂の濃度は1〜50質量%であると好ましく、1〜30質量%であるとより好ましく、5〜20質量%であると更に好ましい。
【0032】
窒化ホウ素ナノチューブからなる不織布状多孔体を浸漬させるときのサスペンジョンの温度は、樹脂の分散状態が良好に保たれている限り特に制限は無く、またm用いられる熱可塑性樹脂や分散媒の種類、濃度によって異なるが、通常は5〜50℃が好ましく、5〜30℃であるとより好ましく、15〜30℃であるとより一層好ましい。浸漬時間は、熱可塑性樹脂の付着量にも依存するが、通常は5〜180秒間で充分である。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。なお、熱可塑性樹脂として、帝人化成株式会社製の芳香族ポリカーボネート樹脂(AD5503、メルトフロレート54g/10min、平均分子量約15,000)、三菱レーヨン株式会社製のポリメチルメタクリレート樹脂(ACRYPET(登録商標) VH001、メルトフロレート2.0g/10min、平均分子量約1,000,000)を用いた。
【0034】
(1)熱膨張係数
熱膨張係数は、TAインストルメント製TA2940を用いて空気中、30〜80℃の範囲で昇温速度10℃/分にて測定し、セカンドスキャンの値より求めた。
【0035】
(2)熱伝導率
熱伝導率は、50mm×50mmのサンプルを用い、プローブ法(非定常熱線法)により、迅速熱伝導率測定計(KEMTHERM QTM-D3 型、京都電子工業(株)製)を用いて測定した。具体的には熱伝導率既知の基準試料の上に試料を乗せて、みかけの熱伝導率を次式により基準試料の熱伝導率(対数)に対してプロットし、偏差が0となるときの熱伝導率を内挿により求めて、試料の熱伝導率を導出した。
偏差={(未知試料込のみかけの熱伝導率)−(基準試料の熱伝導率)}/(基準試料の熱伝導率)
【0036】
[参考例1 窒化ホウ素ナノチューブの製造]
窒化ホウ素製のるつぼに、1:1のモル比でホウ素と酸化マグネシウムを入れ、坩堝を高周波誘導加熱炉で1300℃に加熱した。ホウ素と酸化マグネシウムは反応し、気体状の酸化ホウ素(B)とマグネシウムの蒸気が生成した。この生成物をアルゴンガスにより反応室へ移送し、温度を1100℃に維持してアンモニアガスを導入した。酸化ホウ素とアンモニアが反応し、窒化ホウ素が生成した。1.55gの混合物を十分に加熱し、副生成物を蒸発させると、反応室の壁から310mgの白色の固体が得られた。続いて得られた白色固体を濃塩酸で洗浄、イオン交換水で中性になるまで洗浄後、60℃で減圧乾燥を行い窒化ホウ素ナノチューブ(以下、BNNTと略すことがある)を得た。この操作を繰り返す事で1gのBNNTを得た。いずれも、平均直径が27.6nm、平均長さが2460nmのチューブ状であった。
【0037】
[参考例2 窒化ホウ素ナノチューブ不織布(多孔体)の製造]
参考例1で得られた窒化ホウ素ナノチューブ1gを1−プロパノール100mlに添加して、3周波超音波洗浄器(アズワン製、出力100W、28Hz)で10分超音波処理を行うことで窒化ホウ素ナノチューブが懸濁した分散液を得た。この窒化ホウ素ナノチューブが均一分散した懸濁液を、面積5cm×8cmの濾紙上に展開、溶媒吸引することにより捕集、乾燥することで目付け400g/mの窒化ホウ素ナノチューブ不織布を調製した。該不織布の走査型電子顕微鏡観察より、窒化ホウ素ナノチューブが互いに絡み合って積層した微細繊維構造を基本として不織布状多孔体が形成されていることを確認した(以下、上記の窒化ホウ素ナノチューブ不織布を窒化ホウ素ナノチューブ不織布状多孔体と称する)。
【0038】
[実施例1]
参考例2で得られた窒化ホウ素ナノチューブ不織布状多孔体1g(5cm×8cm)を金型基板上に静置した。これに、芳香族ポリカーボネート樹脂1.5gを5mlの塩化メチレンに混合溶解した溶液を滴下したところ、溶液は窒化ホウ素ナノチューブ不織布状多孔体内に均一に浸透した。この溶液が含浸された窒化ホウ素ナノチューブ不織布状多孔体を、室温にて2時間、次いで50℃で2時間乾燥し、芳香族ポリカーボネートと窒化ホウ素ナノチューブ不織布状多孔体からなる組成物を得た。この組成物を金型に固定したまま、200kg/cm(19.6MPa)の加圧下に210℃で5分間加熱し、厚さ約0.5mmのシート状成形体を作成した。このシート状成形体から、50mm×10mmの試験用成形体を切り出し、その一部を更に切り出して熱膨張係数の測定に用いた。また、上記シート状成形体から50mm×50mmの試験用成形体を切り出し、熱伝導率の測定に用いた。結果を表1に示す。
【0039】
[実施例2]
参考例2で得られた窒化ホウ素ナノチューブ不織布状多孔体1g(5cm×8cm)を金型基板上に静置した。これに、ポリメチルメタクリレート樹脂を粒径約100μmに粉砕した粉末1.5gを均一に降り掛け、金型に固定したまま、200kg/cm(19.6MPa)の加圧下に180℃で5分間加熱し、ポリメチルメタクリレート樹脂と窒化ホウ素ナノチューブ不織布状多孔体からなる組成物のシート状成形体(厚さ約0.5mm)を作成した。このシート状成形体から、実施例1と同様に、試験用成形体を切り出して熱膨張係数、熱伝導率の測定に用いた。結果を表1に示す。
【0040】
[比較例1]
窒化ホウ素ナノチューブ不織布状多孔体を含有しない以外は、実施例1と同様に芳香族ポリカーボネート樹脂のシート状成形体を作製し、熱膨張係数、熱伝導率の測定を行った。結果を表1に示す。
【0041】
[比較例2]
窒化ホウ素ナノチューブ不織布状多孔体を含有しない以外は、実施例2と同様にポリメチルメタクリレート樹脂の成形体を作製した。シート状成形体を作製し、熱膨張係数、熱伝導率の測定を行った。結果を表1に示す。
【0042】
以上の結果より本発明の窒化ホウ素系ナノチューブからなる不織布を含有する熱可塑性樹脂組成物は、窒化ホウ素ナノチューブを含有しない熱可塑性樹脂に比べて優れた耐熱特性、放熱特性および寸法安定性等を有することがわかる。
【0043】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のプリプレグ、および該プリプレグ1枚以上を加熱加圧して成形される積層板、および該積層板を絶縁層として用いるプリント配線板では、機械特性に加え、耐熱特性および高熱伝導性が発現するので、高温雰囲気下での使用が予想される自動車機器用のプリント配線板、パソコン等の高密度実装プリント配線板に代表される、熱伝導性と絶縁性が必要な電子機器に用いられる電子部品の素材として好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ホウ素ナノチューブからなる不織布状多孔体1〜99質量部と熱可塑性樹脂が99〜1質量部からなる組成物であり、多孔体の空隙に熱可塑性樹脂が充填されていることを特徴とする熱伝導性に優れるプリプレグ。
【請求項2】
窒化ホウ素ナノチューブの平均直径が0.4nm〜1μm、平均アスペクト比が5以上であることを特徴とする請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項3】
熱可塑性樹脂が、ポリメタクリル酸エステル、ポリオレフィン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリエステル、芳香族ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリアリーレンオキシド、熱可塑性ポリイミドおよびポリアミドイミド樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載のプリプレグ。
【請求項4】
熱可塑性樹脂を、窒化ホウ素ナノチューブよりなる不織布状多孔体と共に加熱、加圧することで該熱可塑性樹脂を融解させ繊維空隙に充填せしめ、次いで冷却固化させる工程を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項5】
熱可塑性樹脂の溶液若しくは分散液を、窒化ホウ素ナノチューブよりなる不織布状多孔体に含浸せしめ、次いで加熱、若しくは減圧により溶媒を蒸発させることにより該熱可塑性樹脂を該窒化ホウ素ナノチューブ不織布状多孔体の空隙に充填させる工程を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のプリプレグ1枚以上を加熱加圧することにより成形された積層板。

【公開番号】特開2012−25787(P2012−25787A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51914(P2009−51914)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】