説明

熱伝導性ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】高い熱伝導性を付与したゴム組成物、及びこの熱伝導性ゴム組成物からなる部材を使用した、ランフラット性能に優れた空気入りタイヤを提供する
【解決手段】ゴムに、ダイヤモンド微粒子が分散されてなる熱伝導性ゴム組成物であって、前記ダイヤモンド微粒子が、爆射法で得られたナノダイヤモンドであり、前記ダイヤモンド微粒子は、前記ゴムに対して1〜200質量%含有することを特徴とする熱伝導性ゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性ゴム組成物及びそれを用いた空気入りタイヤに関し、詳しくは、ダイヤモンド微粒子を含有させることにより高い熱伝導性を付与したゴム組成物、及びこの熱伝導性ゴム組成物からなる部材を使用することにより、ランフラット走行時の耐久性を高めた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、空気圧が失われた状態でも安全な場所まで走行を可能にする、いわゆるランフラット性能を付与したタイヤが開発されている。例えば、特開2000-351307号(特許文献1)及び特開2000-52724号(特許文献2)は、サイドウォール部に断面三日月形状のサイド補強ゴム層を配置し、このサイド補強ゴム層の剛性によってランフラット走行を可能にした空気入りタイヤを提案している。
【0003】
しかしながら、このようなサイドウォール部に断面三日月形状のサイド補強ゴム層を配置したサイド補強型ランフラットタイヤの場合、ランフラット走行時にサイド補強ゴム層が大きく発熱し、その発熱によってカーカス層やサイド補強ゴム層が強度低下し破壊に至ることがある。その対策として、サイド補強ゴム層には低発熱性のゴム組成物が使用されているが、蓄熱による耐久性の低下は避けられなかった。
【0004】
特開2004-359095号(特許文献3)、特開2004-359096号(特許文献4)及び特開2004-359097号(特許文献5)は、ランフラット走行時の耐久性を向上させるために、サイドウォール部で発生した熱を速やかに拡散させる技術を開示している。
【0005】
特許文献3は、左右一対のビード部間にカーカス層を装架するとともに、前記ビード部におけるビードコアの外周側にビードフィラーを配置した空気入りタイヤにおいて、前記ビードフィラーを、熱伝導率が0.35 kcal/mh℃以上で、かつ60℃での損失正接tanδが0.20以下である熱伝導性ゴム組成物で構成した空気入りタイヤを開示しており、前記熱伝導性ゴム組成物は、ゴムの合計100重量部に対して、アセチレンを原料とするカーボンブラックを30〜150重量部配合することにより高熱伝導性を付与していると記載している。
【0006】
特許文献4は、トレッド部にベルト層を埋設した空気入りタイヤにおいて、ベルトエッジ埋設領域に位置する少なくとも1つのタイヤ構成部材に熱伝導率が0.3 kcal/mh℃以上である熱伝導性ゴム組成物を用いた空気入りタイヤを開示しており、前記熱伝導性ゴム組成物は、ゴムの合計100重量部に対して、アセチレンを原料とするカーボンブラックを10〜100重量部配合することにより高熱伝導性を付与していると記載している。
【0007】
特許文献5は、サイドウォール部におけるカーカス層のタイヤ幅方向外側にサイドウォールゴム層及びリムクッションゴム層を配置した空気入りタイヤにおいて、前記サイドウォールゴム層及び前記リムクッションゴム層の少なくとも一方と前記カーカス層との間に、熱伝導率が0.3 kcal/mh℃以上である熱伝導性ゴム組成物からなるシート状の放熱層を配置した空気入りタイヤを開示しており、前記熱伝導性ゴム組成物は、ゴムの合計100重量部に対して、アセチレンを原料とするカーボンブラックを10〜100重量部配合することにより高熱伝導性を付与していると記載している。
【0008】
しかしながら、特許文献3〜5に記載の、アセチレンを原料とするカーボンブラックを含有する熱伝導性ゴム組成物は、熱伝導性を高めるためにカーボンブラックの添加量を増やすとゴム硬度が高くなってしまい、より高い熱伝導性を付与することが困難であるため、さらなるランフラット性能の向上は望めない。
【0009】
特開2007-182095号(特許文献6)は、トレッド部と、その両側からタイヤ半径方向内方にのびる一対のサイドウォール部と、各サイドウォール部の内方に連なりかつリムに着座するビード部とを有する空気入りタイヤであって、前記ビード部のタイヤ内腔面側に、熱伝導率が0.10 W/(m・K)以上の熱伝導性ゴムを前記リムに接触するように設けた空気入りタイヤを開示しており、前記熱伝導性ゴムは、熱伝導性粒子として平均直径が10〜200μmの金属粉、樹脂又はダイヤモンド粉を含むのが好ましいと記載されている。
【0010】
しかしながら、特許文献6に記載されたように金属粉やダイヤモンド粉を含有する熱伝導性ゴムは、金属粉又はダイヤモンド粉と、ゴムとの接着性が不十分なため、その界面から剥離が生じ、耐亀裂性能を低下させるため改良が望まれている。
【0011】
一方、特開2008-1812号(特許文献7)は、フッ素化ナノダイヤモンドと、重量平均分子量が1,000から1,000,000の高分子量樹脂との混合物を開示しており、これらの混合物及びこの混合物から製造したフィルム等の成形物は高い熱伝導性及び絶縁性を有するとともに、経時的耐熱性、耐湿性、剛性等の耐久性に優れるので、半導体LSI素子の表面保護膜や層間絶縁材、半導体パッケージの封止材、電子写真複写機、ファクシミリ、プリンター等の定着ベルトに有用であると記載している。特許文献7は、ナノダイヤモンドをフッ素化することにより導電性のグラファイト類の不純物が一部除去され、ナノダイヤモンドの分散性及び絶縁性を高めることができると記載している。
【0012】
しかしながら、特許文献7に記載のフッ素化ナノダイヤモンドは、ナノダイヤモンドの表面に存在する導電性のグラファイト類の不純物を除去したものなので、ゴム等に高い含有量で添加した場合、ゴムとの密着性が不十分となりその界面から剥離が生じ、耐亀裂性能を低下させる原因となることが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2000-351307号公報
【特許文献2】特開2000-52724号公報
【特許文献3】特開2004-359095号公報
【特許文献4】特開2004-359096号公報
【特許文献5】特開2004-359097号公報
【特許文献6】特開2007-182095号公報
【特許文献7】特開2008-1812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明の目的は、高い熱伝導性を付与したゴム組成物を提供すること、及び前記熱伝導性ゴム組成物からなる部材を使用した、ランフラット性能に優れた空気入りタイヤを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、爆射法で得られたナノダイヤモンドを分散することにより、耐亀裂性能を低下させずに、熱伝導性に優れたゴム組成物が得られることを見出し、本発明に想到した。
【0016】
すなわち、本発明の熱伝導性ゴム組成物は、ゴムに、ダイヤモンド微粒子が分散されてなり、前記ダイヤモンド微粒子が、爆射法で得られたナノダイヤモンドであり、前記ダイヤモンド微粒子は、前記ゴムに対して1〜200質量%含有することを特徴とする。
【0017】
前記ダイヤモンド微粒子が、ダイヤモンドのコアとグラファイト系炭素のシェルとからなるコア/シェル構造を有していることを特徴とする熱伝導性ゴム組成物。
【0018】
前記ダイヤモンド微粒子が、2.55〜3.38 g/cm3の比重を有することを特徴とする熱伝導性ゴム組成物。
【0019】
前記ダイヤモンド微粒子が、疎水化処理されたダイヤモンド微粒子であることを特徴とする熱伝導性ゴム組成物。
【0020】
前記疎水化処理されたダイヤモンド微粒子が、ケイ素化処理又はフッ素化処理されたダイヤモンド微粒子であることを特徴とする熱伝導性ゴム組成物。
【0021】
前記ケイ素化処理がシリル化処理であることを特徴とする熱伝導性ゴム組成物。
【0022】
前記フッ素化処理がフルオロアルキル基含有オリゴマーによる処理であることを特徴とする熱伝導性ゴム組成物。
【0023】
本発明の熱伝導性ゴムシートは、前記熱伝導性ゴム組成物をシート状に成形してなる。
【0024】
本発明の空気入りタイヤは、前記熱伝導性ゴム組成物からなる少なくとも1つのタイヤ構成部材を有する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の熱伝導性ゴム組成物は、耐亀裂性能を低下させずに、熱伝導性に優れているので、この熱伝導性ゴム組成物からなる部材を使用することにより、ランフラット走行時の耐久性を高めた空気入りタイヤを提供することができる。
【0026】
本発明の熱伝導性ゴム組成物は、電子・電気機器部品の圧着接合に用いられ、加熱圧着板の熱を被圧着体に伝達する熱伝導性ゴム部材、いわゆる放熱・伝熱スペーサーとして好適である。
【0027】
さらに、本発明の熱伝導性ゴム組成物は、シート、チューブ、キャップ、ケース、パッキン、ガスケット、ローラー、ダンパー等に成形することにより、高い熱伝導性が必要とされる様々な部材として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の空気入りタイヤの一例を示す子午線半断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[1] 熱伝導性ゴム組成物
本発明の熱伝導性ゴム組成物は、ゴムと、ダイヤモンド微粒子とからなり、前記ダイヤモンド微粒子がゴム中に分散されてなるものである。前記ダイヤモンド微粒子は、爆射法で得られたナノダイヤモンドであり、前記ゴムに対して1〜200質量%含有する。
【0030】
本発明の熱伝導性ゴム組成物は、ダイヤモンド(熱伝導率:約2000 W/mK)を含有することにより、高い熱伝導率を発揮することができる。熱伝導性ゴム組成物の熱伝導率は、高ければ高いほど好ましいが、0.5 W/mK以上であるのが好ましく、1 W/mK以上であるのがより好ましく、2 W/mK以上であるのが最も好ましい。
【0031】
(1) ダイヤモンド微粒子
ダイヤモンド微粒子として、爆射法で得られたナノダイヤモンドを使用する。爆射法としては、水及び/又は氷の存在下で爆薬を爆発させて行うウエット法、水及び/又は氷を使用しないで気流によって冷却するドライ法等があるが、本発明では爆射法であればどの方法を採用しても良い。爆射法で得られた未精製のナノダイヤモンドは、ナノダイヤモンドの表面をグラファイト系炭素が覆ったコア/シェル構造を有しており黒く着色している。未精製のナノダイヤモンドをこのまま用いても良いが、未精製のナノダイヤモンドを酸化処理し、グラファイト相の一部を除去して用いてもよい。ダイヤモンドの表面を覆うグラファイト系炭素を有することにより、ダイヤモンド微粒子とゴムとの密着性が良好となり、さらに熱伝導性が高まる。熱伝導率が高まる理由は、ダイヤモンドに対してより柔らかいグラファイト系炭素によってナノダイヤモンド粒子同士の接触面積が増加するためと推定される。またダイヤモンドは高い硬度を有するため、それを含有する熱伝導性ゴム組成物も高い硬度を有する。
【0032】
ダイヤモンド微粒子の比重は、2.55〜3.38 g/cm3であるのが好ましい。ダイヤモンド微粒子の比重は、ダイヤモンド微粒子中のダイヤモンドとグラファイトとの量によって決まる。すなわち、未精製のナノダイヤモンドに施す酸化処理の程度によって、ダイヤモンド微粒子中のダイヤモンドとグラファイトとの量を変え、ダイヤモンド微粒子の比重を調節することができる。ダイヤモンド微粒子の比重は、2.6〜3.35 g/cm3であるのがさらに好ましく、2.63〜3.3 g/cm3であるのが最も好ましい。
【0033】
未精製のナノダイヤモンドは、約2.55 g/cm3の比重を有し、メジアン径(動的光散乱法)は200〜250 nm程度である。この未精製のナノダイヤモンドを酸化処理することにより、比重は精製度(どれだけグラファイト系炭素を除去したか)に伴って増加する。酸化処理したダイヤモンド微粒子は、2〜10 nm程度のダイヤモンドの一次粒子からなるメジアン径30〜250 nm(動的光散乱法)の二次粒子である。
【0034】
ダイヤモンドの比重を3.50 g/cm3、グラファイトの比重を2.25 g/cm3として、ダイヤモンドとグラファイトの割合を計算すると、比重2.55 g/cm3はダイヤモンド24容積%及びグラファイト76容積%の組成を有する粒子に相当し、比重3.38 g/cm3はダイヤモンド90容積%及びグラファイト10容積%の組成を有する粒子に相当する。ダイヤモンド微粒子の比重が2.55 g/cm3未満であると、ダイヤモンドの有する高い熱伝導性が十分に発揮されず、比重が3.38 g/cm3を越えると、ダイヤモンド微粒子とゴムとの密着性が低下するとともに、ダイヤモンド微粒子同士の接触面積が減少し、熱伝導性の向上効果が低下する。
【0035】
未精製のダイヤモンドの酸化処理方法としては、(a) 硝酸等の共存下で高温高圧処理する方法(酸化処理A)、(b)水及び/又はアルコールからなる超臨界流体中で処理する方法(酸化処理B)、(c)水及び/又はアルコールからなる溶媒に酸素を共存させて、前記溶媒の標準沸点以上の温度及び0.1 MPa(ゲージ圧)以上の圧力で処理する方法(酸化処理C)、又は(d)380〜450℃で酸素を含む気体により処理する方法(酸化処理D)が挙げられる。これらの酸化処理は、単独で行ってもよいし、組合せて行っても良い。酸化処理を組合せる場合は、爆射法で得られた未精製のダイヤモンドにまず酸化処理Aを施し、さらに酸化処理B〜Cのいずれかを施すのが好ましい。
【0036】
爆射法で得られた未精製のダイヤモンドに酸化処理Aを施すことによりグラファイト相の一部が除去されたナノダイヤモンド(グラファイト-ダイヤモンド粒子)が得られ、このグラファイト-ダイヤモンド粒子に酸化処理B〜Cのいずれかの処理を施すことにより前記グラファイト相をさらに除去することができる。
【0037】
ダイヤモンド微粒子は、疎水化処理するのが好ましい。前記疎水化処理としては、ケイ素化処理又はフッ素化処理が挙げられる。ケイ素化処理は、ダイヤモンド微粒子にケイ素原子を含有する基を修飾する処理であり、フッ素化処理は、ダイヤモンド微粒子にフッ素原子を含有する基を修飾する処理である。ケイ素化処理及びフッ素化処理は、前記ナノダイヤモンド表面に存在する-COOH、-OH等の親水性官能基にケイ素原子を有する基、及びフッ素原子を有する基を結合させて行う。ダイヤモンド微粒子に、ケイ素化処理及びフッ素化処理の両方の処理を施しても良い。このようにダイヤモンド微粒子を疎水化処理することにより、ダイヤモンド微粒子とゴムとの密着性がより強固になり、耐亀裂性能をより高めることができる。
【0038】
ダイヤモンド微粒子に修飾するケイ素原子の量は、特に限定されないが、ダイヤモンド微粒子に対して、0.1〜25質量%であるのが好ましく、0.2〜20質量%であるのがより好ましい。またダイヤモンド微粒子に修飾するフッ素原子の量は、特に限定されないが、ダイヤモンド微粒子に対して、0.1〜20質量%であるのが好ましく、0.2〜15質量%であるのがより好ましい。
【0039】
ケイ素を有するダイヤモンド微粒子、フッ素を有するダイヤモンド微粒子、並びにケイ素及びフッ素を有するダイヤモンド微粒子は、ダイヤモンド微粒子をケイ素化処理及び/又はフッ素化処理することにより得ることができる。ケイ素化処理は、フッ素化処理よりも先に行うのが好ましい。
【0040】
(a)ケイ素化処理
前記爆射法で得られた未精製のナノダイヤモンド、又は前記酸化処理して得られたナノダイヤモンドに、シリル化剤、アルコキシシラン、シランカップリング剤等を反応させることによりナノダイヤモンドの表面にある水酸基等の親水性基を、ケイ素を含む有機基に置換することができる。ケイ素化処理は、シリル化剤を用いるのが好ましい。
【0041】
好ましいシリル化剤としては、トリエチルクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ジエチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、アセトキシトリメチルシラン、アセトキシシラン、ジアセトキシジメチルシラン、メチルトリアセトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、ジフェニルジアセトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、2-トリメチルシロキシペント-2-エン-4-オン、n-(トリメチルシリル)アセトアミド、2-(トリメチルシリル)酢酸、n-(トリメチルシリル)イミダゾール、トリメチルシリルプロピオレート、ノナメチルトリシラザン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルジシロキサン、トリメチルシラノール、トリエチルシラノール、トリフェニルシラノール、t-ブチルジメチルシラノール、ジフェニルシランジオール等が挙げられる。本発明に用いられるシリル化剤は、これらの化合物に限定されない。
【0042】
シリル化剤溶液の溶媒はヘキサン、シクロヘキサン、ペンタン、ヘプタン等の炭化水素類、アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、ベンゼン、トルエン等の芳香族化合物が好ましい。
【0043】
シリル化剤の種類や濃度にもよるが、シリル化反応は10〜40℃で十分攪拌しながら進行させるのが好ましい。10℃未満では反応が進行しにくく、40℃超ではナノダイヤモンド表面に均一にシリル化されなくなる。例えば、トリエチルクロロシランのヘキサン溶液をシリル化剤として使用した場合、10〜40℃で10〜40時間程度攪拌しながら反応させると、ナノダイヤモンド表面の水酸基が十分にシリル修飾される。
【0044】
(b)フッ素化処理
前記爆射法で得られた未精製のナノダイヤモンド、又は前記酸化処理により得られたナノダイヤモンドは、(i)フルオロアルキル基含有オリゴマーを使用した方法、(ii)フルオロアルキルアゾ化合物を用いた方法、(iii)フッ素ガスと直接反応させる方法、(iv)ClF、ClF3、ClF5等のハロゲンフッ化物を反応させる方法、(v)フッ素プラズマによる方法等により、その表面をフッ素又はフッ素を有する基で修飾することができる。本発明の目的には、前記フルオロアルキル基含有オリゴマーを使用した方法を用いるのが好ましい。
【0045】
(i)フルオロアルキル基含有オリゴマーを使用した方法
高分子主鎖の両末端にフルオロアルキル基が直接炭素−炭素結合により導入された高分子界面活性剤(含フッ素オリゴマー)は、水溶液中又は有機溶媒中において自己組織化したナノレベルの分子集合体を形成することが知られている。このフルオロアルキル基が末端に導入された含フッ素オリゴマーを用いることにより、フルオロアルキル基で修飾したナノダイヤモンドを形成することができる。
【0046】
フルオロアルキル基で修飾したナノダイヤモンドは、爆射法で得られた未精製のナノダイヤモンド、又は前記酸化処理により得られたナノダイヤモンドを、一般式(A)で表される含フッ素オリゴマーで処理することによって得ることができる。
【0047】
【化1】

【0048】
ここで、RFはフルオロアルキル基であり、具体的には、-CF(CF3)OC3F7、-CF(C3F)OCF2CF(CF3)OC3F7等の基が好ましい。Rは置換基であり、-N(CH3)2、-OH、-NHC(CH3)2CH2C(=O)CH3、-Si(OCH3)3、-COOH等の基が好ましい。nは5〜2000であるのが好ましい。
【0049】
ナノダイヤモンドと一般式(A)で表される含フッ素オリゴマーとをメタノール、エタノール等のアルコール溶媒中で混合し、室温〜80℃で2〜48時間撹拌することによりナノダイヤモンド表面にフルオロアルキル基(RF)が修飾された複合粒子を高い収率で得ることができる。反応を促進させるために、アンモニア等の塩基を使用してもよい。
【0050】
(ii) フルオロアルキルアゾ化合物を用いた方法
下記反応式に記載したように、ナノダイヤモンドの存在下で、パーフルオロヘキサンに溶解したアゾビスパーフルオロオクチル1に、Xeエキシマランプにより波長172 nmの光を室温で照射することによりナノダイヤモンドにパーフルオロオクチルを付加させることができる。この反応はアルゴン気流下で行い、前記照射時間は10分〜2時間程度である。なお、この方法に用いるナノダイヤモンドは、パーフルオロヘキサンに分散しやすいようにあらかじめ疎水化処理を行うのが好ましい。
【0051】
【化2】

【0052】
(iii)フッ素ガスと直接反応させる方法
フッ素ガスと直接反応させる方法は、ナノダイヤモンドを入れた反応管(ニッケル製等)に、フッ素ガスとアルゴン等の不活性ガスとの混合ガスを300〜500℃で10〜500時間流すことにより行う。
【0053】
また、フッ素ガスと反応させる他の方法として、ナノダイヤを入れた反応炉に、150℃、で3〜4時間不活性ガス中で加熱し、その後反応炉にフッ素ガス及びフッ化水素(3:1)を入れ、150℃のまま48時間加熱することによりフッ素を行う方法がある。不活性ガスとしては、ヘリウム、窒素、アルゴンが使用でき、又は真空で処理しても良い。
【0054】
フッ素化ダイヤモンド微粒子のフッ素含有量は0.1〜20 wt%であるのが好ましく、0.2〜15 wt%であるのが好ましい。フッ素含有量が0.1 wt%未満であると、フッ素含有の高分子樹脂を用いたとき、樹脂との相溶性が低下する。フッ素含有量が20 wt%以上であると、非フッ素系の溶剤や添加剤との相溶性が低下する。
【0055】
(2)ゴム
熱伝導性ゴム組成物に用いるゴムは、特に限定されるものではなく、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化NBR、水素化SBR、エチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、ブチルゴム(IIR)等を挙げることができる。熱伝導性ゴム組成物には、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤などの配合剤を必要に応じて添加することが可能である。また、熱伝導性をさらに高める目的で、カーボンブラック、黒鉛等のフィラーを添加しても良い。
【0056】
[2] 空気入りタイヤ
本発明の空気入りタイヤの実施形態の一例を示す。空気入りタイヤは、図1に示すように、トレッド部1と、前記トレッド部1の両側からタイヤ半径方向内方にのびる一対のサイドウォール部2と、各サイドウォール部2の内方に連なりかつリムに着座する一対のビード部3と、トレッド部1からサイドウォール部2を経てビード部3のビードコア5に至るカーカス層4A,4Bと、前記カーカス層4A,4Bのタイヤ半径方向外側かつトレッド部1の内部に配置された2層のベルト層9A,9Bと、前記ビードコア5のタイヤ半径方向の外面から外側に先細状でのびるビードフィラー6と、前記カーカス層4A,4Bの内側面かつサイドウォール領域に配された断面略三日月状のサイド補強ゴム層8と、前記サイド補強ゴム層8の内側にビード部3,3間にトロイド状に跨ってのびるガスバリア性を有するインナーライナー層7とを含む。前記カーカス層4A,4Bは、前記一対のビード部3,3間に装架され、前記ビード部3に配置されたビードコア5の周りにタイヤ内側から外側へ折り返されており、前記ビードフィラー6をカーカス層4A,4Bの本体部分と巻き上げ部分との間に挟み込んでいる。
【0057】
前記サイド補強ゴム層8はタイヤ剛性を補強し、ランフラット性能を付与するものであり、低発熱性のゴム組成物から構成するのが好ましい。前記ベルト層9A,9Bは補強コードがタイヤ周方向に対して傾斜し、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。前記ベルト層9A,9Bの外周側には、補強コードをタイヤ周方向に配向してなるベルトカバー層10が埋設されている。このベルトカバー層10はベルトエッジ部において2層に積層されている。
【0058】
タイヤ外側の前記トレッド部1にはキャップトレッドゴム層11A及びアンダートレッドゴム層11B、前記サイドウォール部2にはサイドウォールゴム層12、前記サイドウォール部2から前記ビード部3にかけてはリムクッションゴム層13が設けられており、前記ビード部3の、リム(図示せず)と接する部分には有機繊維コードをゴム被覆してなるフィニッシング層14が設けられている。ベルト層9A,9Bのエッジ部には、ベルト層9A,9Bの間にベルト層間ゴム層16が挟まれており、最内側のベルト層9Aのエッジ部と最外側のカーカス層4Bとの間にベルト下部ゴム層17が充填されている。
【0059】
空気入りタイヤにおいて、前記ビードフィラー6、前記ベルト層9A,9B、前記ベルトカバー層10、前記キャップトレッドゴム層11A、前記アンダートレッドゴム層11B、前記ベルト層間ゴム層16、及び前記ベルト下部ゴム層17の少なくとも1つの部材を爆射法で得られたナノダイヤモンドを含む熱伝導性ゴム組成物から構成するのが好ましい。なかでも、前記ビードフィラー6を熱伝導性ゴム組成物で構成した態様、前記キャップトレッドゴム層11Aを熱伝導性ゴム組成物で構成した態様、前記アンダートレッドゴム層11Bを熱伝導性ゴム組成物で構成した態様、前記ベルト層9A,9Bを熱伝導性ゴム組成物で構成した態様が好ましく、前記ベルト層9A,9Bのエッジ埋設領域に位置する少なくとも1つのタイヤ構成部材に熱伝導性ゴム組成物を適用した態様が好ましい。
【0060】
これらのタイヤ構成部材の少なくとも1つの部材の熱伝導率を大きくすることにより、ランフラット走行時にサイドウォール部2で発生した熱を速やかにビードコア5やリムに拡散させることができる。その結果、カーカス層4A,4Bやサイド補強ゴム層8の強度低下を抑制し、ランフラット走行距離を大幅に延ばすことができる。
【0061】
前記熱伝導性ゴム組成物の熱伝導率は、0.5 W/mK以上であるのが好ましく、1 W/mK以上であるのがより好ましく、2 W/mK以上であるのが最も好ましい。熱伝導率が0.5 W/mK未満であるとビードコア5やリムへの熱伝導を迅速に行うことができない。
【実施例】
【0062】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0063】
実施例1
(1)ダイヤモンド微粒子の作製
TNT(トリニトロトルエン)とRDX(シクロトリメチレントリニトロアミン)を60/40の比で含む0.65 kgの爆発物を3 m3の爆発チャンバー内で爆発させて、生成するナノダイヤモンドを保存するための雰囲気を形成した後、同様の条件で2回目の爆発を起こし未精製のナノダイヤモンド粒子を合成した。爆発生成物が膨張し熱平衡に達した後、15 mmの断面を有する超音速ラバルノズルを通して35秒間ガス混合物をチャンバーより流出させた。チャンバー壁との熱交換及びガスにより行われた仕事(断熱膨張及び気化)のため、生成物の冷却速度は280℃/分であった。サイクロンで捕獲した生成物(黒色の粉末)の比重は2.55 g/cm3、メジアン径(動的光散乱法)は220 nmであった。この未精製のナノダイヤモンド粒子は比重から計算して、76体積%のグラファイト系炭素と24体積%のダイヤモンドからなっていると推定された。この未精製のナノダイヤモンド粒子は、ラマンスペクトルにおける1,330±10 cm-1のピーク強度Iaと、1,610±100 cm-1のピーク強度Ibとの比が0.85であった。
【0064】
(2)空気入りタイヤの作製
60質量部の天然ゴム、40質量部のスチレンブタジエンゴム(Nipol 1502、日本ゼオン製)、50質量部のFEF級カーボン(HTC#100、新日化カーボン)、100質量部の前記ダイヤモンド粒子、4質量部の酸化亜鉛(亜鉛華#3、正同化学)、1質量部のステアリン酸(ビーズステアリン酸、日本油脂)。8質量部のアロマオイル(エキストラクト4号S、昭和シェル石油)、1質量部の老化防止剤(ノクラック224、大内新興化学)、5質量部の硫黄(クリスティックスHSOT20、フレクシス)、及び1質量部の促進剤(ノクセラーNS、大内新興化学)から構成される熱伝導性ゴム組成物(熱伝導率:1.1 W/mK)を、ランフラット性能を付与するためのサイド補強ゴム層を備えた空気入りタイヤ(タイヤサイズ245/40ZR18)のビードフィラー部に使用した。この空気入りタイヤは、ランフラット耐久性に優れたものであった。
【0065】
実施例2
(1) ケイ素修飾ダイヤモンド粒子の作製
実施例1で作製したナノダイヤモンド粒子を60質量%硝酸水溶液と混合し、160℃、12気圧、20分の条件で酸化性分解処理を行った後、130℃、11気圧、30時間で酸化性エッチング処理を行った。酸化性エッチング処理により、未精製のナノダイヤモンドからグラファイトが一部除去された粒子が得られた。この粒子を、アンモニアを用いて、210℃、20気圧、20分還流し中和処理した後、自然沈降させデカンテーションにより35質量%硝酸での洗浄を行い、さらにデカンテーションにより3回水洗し、遠心分離により脱水し、120℃で加熱乾燥し、グラファイト相を有するナノダイヤモンドの粉末を得た。このナノダイヤモンドの粉末の比重は2.93 g/cm3であり、メジアン径は120 nm(動的光散乱法)であった。比重から計算して、54体積%のダイヤモンドと46体積%のグラファイト系炭素からなっていると推定された。
【0066】
得られたナノダイヤモンドの粉末をメチルイソブチルケトンに3質量%の濃度で分散させ、トリメチルクロロシランのメチルイソブチルケトン溶液(濃度7.5質量%)を1:1の容量で加え、48時間撹拌してナノダイヤモンドをトリメチルシランで修飾した。得られた分散物をメチルイソブチルケトンで洗浄後、乾燥し、トリメチルシラン修飾ナノダイヤモンド粉末を得た。このトリメチルシラン修飾ナノダイヤモンド粉末は、ラマンスペクトルにおける1,330±10 cm-1のピーク強度Iaと、1,610±100 cm-1のピーク強度Ibとの比が0.92であった。
【0067】
(2)空気入りタイヤの作製
実施例1の空気入りタイヤにおいて、用いたダイヤモンド粒子の代わりに、前記トリメチルシラン修飾ナノダイヤモンド粉末を使用した以外実施例1と同様にして、熱伝導性ゴム組成物(熱伝導率:1.0 W/mK)を、ビードフィラー部に使用してなる空気入りタイヤを作製した。この空気入りタイヤは、ランフラット耐久性に優れたものであった。
【0068】
実施例3
(1) フッ素修飾ダイヤモンド粒子の作製
実施例1で作製したナノダイヤモンド粒子を3質量%の濃度でメタノールに分散させ、下記式(A):
【0069】
【化3】

【0070】
(RFは-CF(CF3)OC3F7基、Rは-OH基、nは約800である。)表される含フッ素オリゴマー、及び28質量%アンモニア水を、ナノダイヤモンド分散物100質量部に対してそれぞれ50質量部及び10質量部加え、80℃で20時間撹拌して反応させた。得られた分散物を中和、洗浄及び乾燥し、ナノダイヤモンド表面がフルオロアルキル基で修飾された複合粒子を得た。このトリメチルシラン修飾ナノダイヤモンド粉末は、ラマンスペクトルにおける1,330±10 cm-1のピーク強度Iaと、1,610±100 cm-1のピーク強度Ibとの比が0.87であった。
【0071】
(2)空気入りタイヤの作製
実施例1の空気入りタイヤにおいて、用いたダイヤモンド粒子の代わりに、前記トリメチルシラン修飾ナノダイヤモンド粉末を使用した以外実施例1と同様にして、熱伝導性ゴム組成物(熱伝導率:1.1 W/mK)を、ビードフィラー部に使用してなる空気入りタイヤを作製した。この空気入りタイヤは、ランフラット耐久性に優れたものであった。
【符号の説明】
【0072】
1・・・トレッド部
2・・・サイドウォール部
3・・・ビード部
4A,4B・・・カーカス層
5・・・ビードコア
6・・・ビードフィラー
7・・・インナーライナー層
8・・・サイド補強ゴム層
9A,9B・・・ベルト層
10・・・ベルトカバー層
11A・・・キャップトレッドゴム層
11B・・・アンダートレッドゴム層
12・・・サイドウォールゴム層
13・・・リムクッションゴム層
14・・・フィニッシング層
16・・・ベルト層間ゴム層
17・・・ベルト下部ゴム層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムに、ダイヤモンド微粒子が分散されてなる熱伝導性ゴム組成物であって、前記ダイヤモンド微粒子が、爆射法で得られたナノダイヤモンドであり、前記ダイヤモンド微粒子は、前記ゴムに対して1〜200質量%含有することを特徴とする熱伝導性ゴム組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の熱伝導性ゴム組成物において、前記ダイヤモンド微粒子が、ダイヤモンドのコアとグラファイト系炭素のシェルとからなるコア/シェル構造を有していることを特徴とする熱伝導性ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の熱伝導性ゴム組成物において、前記ダイヤモンド微粒子が、2.55〜3.38 g/cm3の比重を有することを特徴とする熱伝導性ゴム組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の熱伝導性ゴム組成物において、前記ダイヤモンド微粒子が、疎水化処理されたダイヤモンド微粒子であることを特徴とする熱伝導性ゴム組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の熱伝導性ゴム組成物において、前記疎水化処理されたダイヤモンド微粒子が、ケイ素化処理又はフッ素化処理されたダイヤモンド微粒子であることを特徴とする熱伝導性ゴム組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の熱伝導性ゴム組成物において、前記ケイ素化処理がシリル化処理であることを特徴とする熱伝導性ゴム組成物。
【請求項7】
請求項5に記載の熱伝導性ゴム組成物において、前記フッ素化処理がフルオロアルキル基含有オリゴマーによる処理であることを特徴とする熱伝導性ゴム組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の熱伝導性ゴム組成物をシート状に成形してなる熱伝導性ゴムシート。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の熱伝導性ゴム組成物からなる少なくとも1つのタイヤ構成部材を有する空気入りタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2012−87273(P2012−87273A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237816(P2010−237816)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(500462834)ビジョン開発株式会社 (51)
【Fターム(参考)】