説明

熱伝導性シリコーングリース組成物

【課題】オイルブリードを抑制するとともに作業性に優れ、良好な熱伝導性を有する熱伝導性シリコーングリース組成物を提供する。
【解決手段】(A)23℃における粘度が10〜100mPa・sであり、トリアルコキシシリル基とアルケニル基を有するシロキサンオリゴマー:100重量部、(B)異なる3種の平均粒径を有する熱伝導性充填材:1000〜3000重量部、(C)白金系触媒、(D)ポリオルガノハイドロジェンシロキサン:(A)成分のアルケニル基1個に対してSiH基が0.12〜0.18個となる量、(E)イソパラフィン系溶剤:20〜40重量部を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルブリードを抑制するとともに作業性に優れ、良好な熱伝導性を有する熱伝導性シリコーングリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から電子部品の多くには、使用時の温度上昇による損傷や性能低下を防止するために、ヒートシンク等の放熱体が広く用いられており、電子部品から発生する熱を放熱体に効率よく伝導させるため、一般に電子部品と放熱体との間には熱伝導性材料が介在されている。
【0003】
熱伝導性材料としては、放熱シートや放熱グリースが知られている。一般に、放熱グリースはその性状が液体に近く、放熱シートと比べて、発熱性電子部品や放熱体表面の凹凸に影響されることなく両者に密着して界面熱抵抗を小さくすることができる。このような放熱グリースとしては、シリコーンオイルをベースオイルとして、アルミニウム粉末などの熱伝導性充填剤を配合したシリコーングリース組成物が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、従来のシリコーングリース組成物では、熱伝導性充填剤を高充填すると熱伝導性能が改善されることが知られているが、組成物の粘度上昇を招き、作業性や成形性が低下しやすくなるため、その配合量の上限は制限されていた。近年の電子部品の高集積化、高速化にともなう発熱量のさらなる増大により、熱伝導性に優れたシリコーングリース組成物が求められているが、従来の組成物では、このような要求に十分に応えられるものではない。
【0005】
また、電子部品のON/OFFによる加熱/冷却サイクルにより、シリコーングリース組成物からオイルブリードが発生しやすい。このオイルブリードにより、電子部品が汚れたり、該組成物自体が拡散して放熱特性が低下するばかりか、電気接点の導通不良を引き起こす場合があった。
【特許文献1】特開2003−301189号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、オイルブリードを抑制するとともに作業性に優れ、良好な熱伝導性を有する熱伝導性シリコーングリース組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、(A)トリアルコキシシリル基とアルケニル基を有する低粘度のシロキサンオリゴマーと、(B)異なる平均粒径を有するフィラーを3種併用しそれぞれの配合比を規定した熱伝導性充填剤と、(E)イソパラフィン系溶剤とを配合し、(D)架橋剤を特定量配合することによって、(B)熱伝導性充填剤を高充填しても低粘度で作業性に優れ、さらにオイルブリードを抑制できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
すなわち、本発明の熱伝導性シリコーングリース組成物は、
(A)23℃における粘度が10〜100mPa・sであり、下記一般式で表されるアルケニル基含有シロキサンオリゴマー 100重量部、
【化3】

(式中、Rは独立に炭素原子数1〜6のアルキル基、Rは独立に炭素原子数2〜10のアルキレン基、Rは−COOR−で表される基、Xは炭素原子数1〜4のアルコキシ基、a,bは1以上の整数、cは0以上の整数、a+b+cは4以上である。Aは下記一般式:
【化4】

(式中、Rは前記規定の通り、Zはアルケニル基、dは10〜40の整数、eは0〜20の整数、d+eは10〜40である。)で表される基である。)
(B)下記(B1)、(B2)及び(B3)を含む熱伝導性充填剤 1000〜3000重量部(但し、(B1)は(B)成分中、50〜70vol%となる量、(B2)は10〜30vol%となる量、(B3)は10〜30vol%となる量)、
(B1)平均粒径が10μm以上、50μm未満の酸化アルミニウムもしくはアルミニウム、
(B2)平均粒径が1μm以上、10μm未満の酸化アルミニウムもしくはアルミニウム、
(B3)平均粒径が0.1μm以上、1μm未満の酸化アルミニウム
(C)白金系触媒、
(D)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を3個以上有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン (A)成分のアルケニル基1個に対して、ケイ素原子に結合した水素原子が0.12〜0.18個となる量、ならびに
(E)イソパラフィン系溶剤 20〜40重量部
を含有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
上記構成により、オイルブリードを抑制するとともに作業性に優れ、良好な熱伝導性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の熱伝導性シリコーングリース組成物について詳細に説明する。
【0011】
[(A)成分]
(A)成分のアルケニル基含有シロキサンオリゴマーは、アルケニル基を末端の一部に有しており、さらに、トリアルコキシシリル基を有する。(A)成分は、後述する(B)成分の熱伝導性充填剤を多量に配合しても、組成物に良好な分散性と作業性を付与するウエッターとして作用するとともに、(C)成分の白金系触媒の存在下で(D)成分のSi−H基をもつ架橋剤と付加反応を行う。
【0012】
(A)成分は、下記一般式:
【化5】

で表される。
【0013】
式中、Rは独立に炭素原子数1〜6のアルキル基である。Rとしては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、好ましくはメチル基である。Rは独立に炭素原子数2〜10のアルキレン基である。Rとしては、下記直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基が挙げられる。
−CHCH
−CHCHCH
−CHCH(CH)−
−CHCH(CH)CH
【0014】
は−COOR−で表される基である。Rは前記規定のとおりである。
【0015】
Xは炭素原子数1〜4のアルコキシ基であり、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などが挙げられ、好ましくはメトキシ基である。
【0016】
a,bは、1以上の整数であり、好ましくは1〜2である。cは、0以上の整数であり、好ましくは0〜1である。a+b+cの和は、4以上であり、好ましくは4である。
【0017】
Aは、下記一般式:
【化6】

で表される基である。
【0018】
式中、Rは上述したとおりである。Zはアルケニル基であり、例えばビニル基、アリル基、ブテニル基、ペテニル基、ヘキセニル基などの炭素原子数2〜6のアルケニル基が挙げられ、好ましくはビニル基である。
【0019】
dは10〜40の整数であり、好ましくは20〜30の整数である。
【0020】
eは0〜20の整数であり、好ましくは0〜5の整数である。
【0021】
d+eは10〜40であり、好ましくは20〜30である。d+eが10未満であると、分子量が低く架橋後の未反応物がブリードアウトしやすい。一方、40を超えると、組成物の粘度上昇を抑制できず、良好な作業性が得られない。
【0022】
(A)成分の23℃における粘度は、10〜100mPa・sであり、好ましくは30〜80mPa・sである。粘度が10mPa・s未満であると、分子量が低く架橋後の未反応物がブリードアウトしやすくなる。一方、100mPa・sを超えると、組成物の製造プロセスにおいて、(B)成分の熱伝導性充填剤と(A)成分を混練した際に(B)成分を分散させることは可能であるがパテ状になりやすく、他成分の配合が困難になる。
【0023】
[(B)成分]
(B)成分の熱伝導性充填剤は、組成物に熱伝導性を付与する成分であり、特定の平均粒径を有するアルミニウムもしくは酸化アルミニウムを3種併用する。すなわち、(B)成分には、(B1)平均粒径が10μm以上、50μm未満のアルミニウム粉末もしくは酸化アルミニウム粉末、(B2)平均粒径が1μm以上、10μm未満のアルミニウム粉末もしくは酸化アルミニウム粉末、(B3)平均粒径が0.1μm以上、1μm未満の酸化アルミニウム粉末を用いる。本組成物に電気絶縁性が要求される場合には、(B)成分(すなわち(B1)、(B2)、(B3))は全て酸化アルミニウムであることが好ましい。
【0024】
(B1)成分の平均粒径は10μm以上、50μm未満であり、好ましくは10〜30μmである。平均粒径が50μmを超えると、組成物の安定性が悪化し、オイル分離が起こりやすい。(B1)の最大粒径は60μm以下であって、粒径10〜30μmの粒子を(B1)中に90重量%以上含むことが好ましい。(B1)は平均粒径が上記範囲であれば、粒径もしくは粒度分布の異なるものを混合して用いてもよい。平均粒径及び最大粒径は、レーザ回折法により測定した値である。(B1)の形状は、制限されるものではなく、例えば球状、不定形状のいずれでもよい。
【0025】
(B2)成分の平均粒径は1μm以上、10μm未満であり、好ましくは2〜7μmである。(B2)の最大粒径は10μm以下であって、粒径2〜7μmの粒子を(B2)中に90重量%以上含むことが好ましい。(B2)は平均粒径が上記範囲であれば、粒径もしくは粒度分布の異なるものを混合して用いてもよい。(B2)の形状は、制限されるものではなく、例えば球状、不定形状のいずれでもよい。
【0026】
(B3)成分の平均粒径は0.1μm以上、1μm未満であり、好ましくは0.2〜0.8μmである。平均粒径が0.1μm未満であると、所望の低粘度の組成物が得られ難い。(B3)の最大粒径は3μm以下であって、粒径0.2〜0.8μmの粒子を(B3)中に60重量%以上含むことが好ましい。(B3)は平均粒径が上記範囲であれば、粒径もしくは粒度分布の異なるものを混合して用いてもよい。(B3)の形状は、制限されるものではなく、例えば球状、不定形状のいずれでもよい。
【0027】
(B)成分の配合量は、(A)成分100重量部に対して、1000〜3000重量部、好ましくは1500〜2500重量部である。配合量が1000重量部未満であると、所望の熱伝導率が得られない。一方、3000重量部を越えると、組成物の流動性が低下して作業性の悪化を招く。
【0028】
ただし、(B1)、(B2)、(B3)の配合割合は、(B1)は(B)成分中、50〜70vol%となる量、好ましくは55〜65vol%となる量である。なお、アルミニウムの比重は2.70であり、アルミナの比重は3.97である。(B1)の配合割合が(B)成分中、70vol%を超えても、50vol%未満であっても、組成物の製造プロセスで(B)成分と(A)成分を混練した際に、(B)成分が分散せずに粉状になりやすく、他成分の配合が不能になる。
【0029】
また、(B2)は(B)成分中、10〜30vol%となる量、好ましくは15〜25vol%となる量である。(B2)の配合割合が(B)成分中、30vol%を超えても、10vol%未満であっても、組成物の粘度が上昇し、良好な作業性が得られない。
【0030】
また、(B3)は(B)成分中、10〜30vol%となる量、好ましくは15〜25vol%となる量である。(B3)の配合割合が(B)成分中、30vol%を超えると、組成物の製造プロセスで(B)成分と(A)成分を混練した際に、(B)成分が分散せずに粉状になりやすく、他成分の配合が不能になる。一方、(B)成分中、10vol%未満であると、組成物の粘度が上昇し、良好な作業性が得られない。
【0031】
[(C)成分]
【0032】
(C)成分としては、ヒドロシリル化反応に用いる触媒として周知の白金系触媒を使用することができ、例えば白金黒、塩化第二白金、塩化白金酸、塩化白金酸と一価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類やビニルシロキサンとの錯体、白金ビスアセトアセテートなどが挙げられる。
【0033】
(C)成分の配合量は、組成物の硬化に必要な量であればよく、所望の硬化速度などに応じて適宜調整することができる。通常、組成物の合計量に対し、白金元素に換算して0.01〜100ppmの範囲とすることが好ましい。配合量が0.01ppm未満であると、組成物が十分に硬化しにくく、一方、100ppmを越える量を配合しても組成物の硬化速度が顕著に向上しにくい。
【0034】
[(D)成分]
(D)成分のポリオルガノハイドロジェンシロキサンは架橋剤であり、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を3個以上有する。この水素原子は、分子鎖末端のケイ素原子に結合していても、分子鎖中間のケイ素原子に結合していても、両者に結合していてもよい。
【0035】
(D)成分としては、式:
SiO[4−(p+q)]/2
で示されるものが用いられる。
【0036】
式中、Rは、脂肪族不飽和結合を除く、同一または異なる、置換または非置換の一価炭化水素基である。Rとしては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基のようなアルキル基;フェニル基、トリル基のようなアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基のようなアラルキル基;およびこれらの基の水素原子の一部または全部がフッ素、塩素、臭素などのハロゲン原子やシアノ基で置換されているもの、例えばクロロメチル基、ブロモエチル基、トリフルオロプロピル基、シアノエチル基などが挙げられ、なかでも、合成のし易さ、コストの点から、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基等の炭素原子数1〜4のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0037】
p、qは、それぞれ、0.5≦p≦2、0<q≦2、0.5<p+q≦3を満足する正数であり、好ましくは0.6≦p≦1.9、0.01≦q≦1.0、0.6≦p+q≦2.8を満足する正数である。
【0038】
(D)成分の分子構造としては、直鎖状、分岐鎖状、環状あるいは三次元網目状のいずれであってもよく、1種単独または2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0039】
(D)成分の23℃における粘度は、0.001〜1Pa・sであり、好ましくは0.01〜0.5Pa・sである。
【0040】
(D)成分の配合量は、(A)成分のアルケニル基1個に対して、(D)成分のケイ素原子に結合した水素原子が0.12〜0.18個となる量であり、好ましくは0.13〜0.16個となる量である。ケイ素原子に結合した水素原子が0.12個未満では、オイルブリードの低減が不十分になる。一方、0.18個を越えると、組成物の製造プロセスにおいて、(A)〜(D)成分を加熱しながら混練した際に硬い硬化物になりやすく、(E)成分(溶剤)での希釈が不能となる。
【0041】
[(E)成分]
(E)成分のイソパラフィン系溶剤は、熱伝導性充填剤の(B)成分を高充填しても、組成物の粘度を下げて、作業性を良好にする成分である。
【0042】
(E)成分の沸点は特に制限されるものではないが、好ましくは200〜300℃である。沸点が200℃未満であると、組成物を厚さ0.1mmとなるようにガラス板に挟み込み、耐熱エージング(例えば150℃で10日間)すると、その揮発し易さから、組成物にクラックが発生する。一方、沸点が300℃を越えると、組成物中の溶剤が揮発せず、本来の放熱特性を発揮しない。
【0043】
(E)成分としては、例えば、出光興産社製のIPソルベント「IP−2028」、「IP―2835」を使用することができる。
【0044】
(E)成分の配合量は、(A)成分100重量部に対して20〜40重量部、好ましくは25〜35重量部である。配合量が20重量部未満では、組成物の粘度を十分に下げることができず、所望の低粘度の組成物が得られない。一方、40重量部を越えると、組成物の放熱特性が低下する。
【0045】
[その他任意成分]
本発明の熱伝導性シリコーングリース組成物は、上記(A)〜(E)の各成分を基本成分とし、これらに必要に応じて本発明の目的を損なわない範囲で、その他任意成分として反応抑制剤、補強性シリカ、難燃性付与剤、耐熱性向上剤、可塑剤、着色剤、接着性付与剤などを添加してもよい。
【0046】
[熱伝導性シリコーングリース組成物の製造方法]
本発明の熱伝導性シリコーングリース組成物の製造方法としては、必要に応じて加熱手段及び冷却手段を備えた周知の混練機で(A)〜(D)成分を混練した後、(E)成分を添加して混練する方法が挙げられる。(A)〜(D)成分の添加順序は、(A)成分と(B)成分を混練した後、(C)成分、(D)成分の順に添加して混練をする。混練機としては、例えばプラネタリーミキサー、3本ロール、ニーダー、品川ミキサー等が挙げられ、単独またはこれらを組み合わせて使用することができる。
【0047】
好ましくは、以下に示す製造方法が挙げられる。この製造方法によれば、途中で静置することなく、加熱、冷却をしながら連続的に混練することで、組成物のオイルブリードの抑制の効果をさらに高めることができる。
まず、(A)成分と(B)成分を混練機で混練した後、(C)成分を添加して混練し、さらに、(D)成分、その他任意成分を添加して混練する。
【0048】
続いて、混練を停止せずに、混練機で100℃以上、好ましくは130〜160℃に加熱して60〜120分途中で静置することなく連続的に混練する。100℃未満で加熱すると、(C)成分の存在下で進行する(A)成分と(D)成分との付加反応の進行が遅く、時間を要する。
【0049】
続いて、混練を停止せずに、温度を50℃以下、好ましくは20〜30℃まで冷却する。
【0050】
続いて、(E)成分を上記混練機に加えて、常温(23℃)で連続的に混練する。
【0051】
このようにして、熱伝導性シリコーングリース組成物が得られる。熱伝導性シリコーングリース組成物の性状は、常温で伸展性を有するグリース状である。このため、CPU等の発熱性電子部品に塗布した際に作業性や塗布性能が良好であり、さらには、発熱性電子部品や放熱体表面の凹凸に影響されることなく、これらを密着させて界面熱抵抗を小さくすることができる。
【0052】
熱伝導性シリコーングリース組成物の粘度(JIS K 6249)は、23℃において100〜500Pa・s、好ましくは150〜400Pa・sである。粘度が500Pa・sを超えると、シリンジ等を用いて電子部品に塗布した場合に、吐出し難くなり所望の厚さになりにくいなど、作業性が悪化する。一方、100Pa・s未満であると、塗布時に液ダレを起こしやすい。
【0053】
また、熱伝導性シリコーングリース組成物は、23℃における熱伝導率が3.0W/(m・K)以上、好ましくは3.5W/(m・K)以上である。熱伝導率が3.0W/(m・K)未満であると、熱伝導性能が不十分になる場合があり用途が限定されやすい。
【0054】
よって、本発明の熱伝導性シリコーングリース組成物は、(B)成分の熱伝導性充填剤を高充填しても、上記のような低粘度を有するため、作業性や塗布性能に優れている。また、(B)成分の熱伝導性充填剤の高充填が可能であるため、上記のような優れた熱伝導率を有する。
【0055】
さらに、熱伝導性シリコーングリース組成物は、電子部品のON/OFFによる加熱/冷熱サイクルでのオイルブリードの発生を抑制できるため、該組成物を発熱性電子部品と放熱体との間に介在させた場合に、オイルブリードによる周辺部品への汚染がないため、電子部品の性能劣化、誤作動などを招くことがなく、信頼性に優れている。
【0056】
次に、本発明の熱伝導性シリコーングリース組成物を用いた半導体装置について図面を参照して説明する。図1は、半導体装置の構成を模式的に示す断面図である。
【0057】
半導体装置1は、配線基板2に実装されたCPU3等の発熱性電子部品とヒートシンク4等の放熱体との間に、上述した熱伝導性シリコーングリース組成物5を介在させてなる。熱伝導性シリコーングリース組成物5の厚さは、5〜300μmであることが好ましい。厚さが5μmより薄いと、押圧の僅かなずれによりCPU3とヒートシンク4との間に隙間が生じる恐れがある。一方、300μmより厚いと、熱抵抗が大きくなり、放熱効果が悪化し易い。
【0058】
このような半導体装置1は、配線基板2に実装されたCPU3に、例えばシリンジで熱伝導性シリコーングリース組成物5を5〜300μmの厚みで塗布した後、ヒートシンク4と配線基板2とをクランプ6等で押圧することによって得られる。
【0059】
熱伝導性シリコーングリース組成物5を塗布した後、該組成物5中に含有している溶剤を常温〜120℃で5分以上、好ましくは10〜180分乾燥させて揮発させることが好ましい。溶剤を揮発させる温度条件として、温度が常温未満であると、溶剤が揮発しにくくなって、乾燥時間が長くなる。一方、温度が120℃を超えると、乾燥時間を短縮できるが、取り扱い時の安全性の点で好ましくない。
【0060】
熱伝導性シリコーングリース組成物5に含まれる溶剤を揮発させることで、熱抵抗を小さくでき、放熱効果を高めることができる。
【実施例】
【0061】
本発明の熱伝導性シリコーングリース組成物を実施例により詳細に説明する。実施例および比較例で得られた熱伝導性シリコーングリース組成物は、以下のようにして評価し、結果を表1に示した。表1に示した特性は、23℃において測定した値である。なお、平均粒径は、レーザ回折法により測定した値である。
【0062】
[粘度]
23℃のおける熱伝導性シリコーングリース組成物の粘度を粘度計(商品名:Brookfield Engineering社製、HBT型)を用いて測定した。
【0063】
[熱伝導率]
(溶剤揮発前)
得られた組成物を深さ2.5cmの型に流し込み、その上にポリ塩化ビニリデンフィルムを被せて、京都電子工業(株)社製の熱伝導率計(商品名:QTM−500)で該組成物の熱伝導率を測定した。
(溶剤揮発後)
得られた組成物を150℃のオーブンで24時間加熱脱溶後、上記した方法と同様に該組成物の熱伝導率を測定した。
【0064】
[オイルブリードの長さ]
熱伝導性シリコーングリース組成物0.5gをすりガラス板に塗布し、冷熱サイクル試験(1サイクル:−55℃×30分+150℃×30分)を100サイクル行い、該組成物の周辺に滲み出したオイルブリードの長さを測定した。
【0065】
[クラックの発生]
熱伝導性シリコーングリース組成物をガラス板上に塗布し、厚さ0.1mmとなるように別のガラス板で挟み込み、150℃で240時間エージングした後、クラックの発生数を目視で測定した。
【0066】
[実施例1]
まず、(A1)23℃における粘度が0.050Pa・sであり、下記式:
【化7】

で表されるビニル基含有シロキサンオリゴマー(式中、Viはビニル基を意味する。ビニル基量0.68mmol/g)100重量部、(B1−1)平均粒径18μmの丸み状の酸化アルミニウム1140重量部、(B2−1)平均粒径3μmの丸み状の酸化アルミニウム380重量部、(B3−1)平均粒径0.4μmの丸み状の酸化アルミニウム380重量部をプラネタリーミキサーで均一に混練し、(C)塩化白金酸のビニルシロキサン錯体化合物(白金量2.0重量%)0.2重量部(白金量として0.5ppm)、(D)23℃における粘度が0.1Pa・sであり、式:
(CH)SiO[SiH(CH)O]17[Si(CH)O]81Si(CH)
で表されるポリオルガノハイドロジェンシロキサン(Si−H基の含有量2.3mmol/g)4.14重量部をさらに添加して混練した。
続いて、混練を停止せずに、プラネタリーミキサーで150℃に加熱して120分間連続的に混練した後、混練を停止せずに、温度を30℃まで冷却した。
続いて、(E−2)イソパラフィン系溶剤(商品名:IPソルベント2028、出光興産社製、沸点220℃)26重量部をプラネタリーミキサーに添加し、常温(23℃)で10分間均一に混練して、熱伝導性シリコーングリース組成物を得た。
この組成物の特性を測定し、結果を表1に示した。
【0067】
[実施例2]
実施例1の(E―2)沸点が220℃のイソパラフィン系溶剤26重量部を、(E―3)沸点が290℃のイソパラフィン系溶剤26重量部とした以外は、実施例1と同様にして、熱伝導性シリコーングリース組成物を得た。
この組成物の特性を測定し、結果を表1に示した。
【0068】
[実施例3]
実施例1の(E―2)沸点が220℃のイソパラフィン系溶剤26重量部と(D)ポリオルガノハイドロジェンシロキサン4.14重量部を、(E―2)沸点が220℃のイソパラフィン系溶剤30重量部、(D)ポリオルガノハイドロジェンシロキサン4.73重量部とした以外は、実施例1と同様にして、熱伝導性シリコーングリース組成物を得た。
この組成物の特性を測定し、結果を表1に示した。
【0069】
[実施例4]
実施例1の(B1−1)平均粒径18μmの酸化アルミニウム1140重量部を、(B1−2)平均粒径20μmのアルミニウム770重量部とした以外は、実施例1と同様にして、熱伝導性シリコーングリース組成物を得た。
この組成物の特性を測定し、結果を表1に示した。
【0070】
[実施例5]
実施例1の(B1−1)平均粒径18μmの酸化アルミニウム1140重量部、(B2−1)平均粒径3μmの酸化アルミニウム380重量部、(B3−1)平均粒径0.4μmの酸化アルミニウム380重量部を、(B1−2)平均粒径20μmのアルミニウム700重量部、(B2−2)平均粒径2μmのアルミニウム233重量部、(B3−1)平均粒径0.4μmの酸化アルミニウム345重量部とした以外は、実施例1と同様にして、熱伝導性シリコーングリース組成物を得た。
この組成物の特性を測定し、結果を表1に示した。
【0071】
[比較例1]
実施例1の(D)ポリオルガノハイドロジェンシロキサンの4.14重量部を、2.96重量部とした以外は、実施例1と同様にして、熱伝導性シリコーングリース組成物を得た。
この組成物の特性を測定し、結果を表1に示した。
【0072】
[比較例2]
実施例1の(D)ポリオルガノハイドロジェンシロキサン4.14重量部を、5.91重量部とすると、(A)〜(D)成分の混合物が加熱反応後、硬い硬化物となったため、(E)イソパラフィン系溶剤での希釈が不能となり、組成物の作成を中止した。
【0073】
[比較例3]
実施例1の(E―2)沸点が220℃のイソパラフィン系溶剤26重量部を、(E―1)沸点が160℃のイソパラフィン系溶剤26重量部とした以外は、実施例1と同様にして、熱伝導性シリコーングリース組成物を得た。
この組成物の特性を測定し、結果を表1に示した。
【0074】
[比較例4]
実施例1の(A―1)23℃における粘度が0.050Pa・sであるビニル基含有シロキサンオリゴマー100重量部を、(A−2)下記式:
【化8】

で表され、23℃における粘度が0.180Pa・sであるビニル基含有シロキサンオリゴマー100重量部とすると、(B)成分が(A)成分に分散したが、パテ状となったため、組成物の作成を中止した。
【0075】
[比較例5]
実施例1の(A―1)23℃における粘度が0.050Pa・sであるビニル基含有シロキサンオリゴマー100重量部を、(A−3)23℃における粘度が0.05Pa・sであり、下記式:
【化9】

で表されるビニル基をもたないシロキサンオリゴマー100重量部とし、(C)塩化白金酸のビニルシロキサン錯体化合物、(D)ポリオルガノハイドロジェンシロキサンおよび(E)イソパラフィン系溶剤を添加しない以外は、実施例1と同様にして、熱伝導性シリコーングリース組成物を得た。
この組成物の特性を測定し、結果を表1に示した。
【0076】
[比較例6]
実施例1の(B1−1)平均粒径18μmの酸化アルミニウム1140重量部、(B2−1)平均粒径3μmの酸化アルミニウム380重量部、(B3−1)平均粒径0.4μmの酸化アルミニウム380重量部を、(B1−1)平均粒径18μmの酸化アルミニウム1520重量部、(B2−1)平均粒径3μmの酸化アルミニウム190重量部、(B3−1)平均粒径0.4μmの酸化アルミニウム190重量部とすると、(B)成分が(A)成分に分散せず、粉状のままであったため、組成物の作成を中止した。
【0077】
[比較例7]
実施例1の(B1−1)平均粒径18μmの酸化アルミニウム1140重量部、(B2−1)平均粒径3μmの酸化アルミニウム380重量部、(B3−1)平均粒径0.4μmの酸化アルミニウム380重量部を、(B1−1)平均粒径18μmの酸化アルミニウム760重量部、(B2−1)平均粒径3μmの酸化アルミニウム570重量部、(B3−1)平均粒径0.4μmの酸化アルミニウム570重量部とすると、(B)成分が(A)成分に分散せず、粉状のままであったため、組成物の作成を中止した。
【0078】
[比較例8]
実施例1の(B1−1)平均粒径18μmの酸化アルミニウム1140重量部、(B2−1)平均粒径3μmの酸化アルミニウム380重量部、(B3−1)平均粒径0.4μmの酸化アルミニウム380重量部を、(B1−1)平均粒径18μmの酸化アルミニウム950重量部、(B2−1)平均粒径3μmの酸化アルミニウム760重量部、(B3−1)平均粒径0.4μmの酸化アルミニウム190重量部とすると、(B)成分が(A)成分に分散したが、パテ状となったため、組成物の作成を中止した。
【0079】
[比較例9]
実施例1の(B1−1)平均粒径18μmの酸化アルミニウム1140重量部、(B2−1)平均粒径3μmの酸化アルミニウム380重量部、(B3−1)平均粒径0.4μmの酸化アルミニウム380重量部を、(B1−1)平均粒径18μmの酸化アルミニウム1330重量部、(B2−1)平均粒径3μmの酸化アルミニウム95重量部、(B3−1)平均粒径0.4μmの酸化アルミニウム475重量部とすると、(B)成分が(A)成分に分散したが、パテ状となったため、組成物の作成を中止した。
【0080】
[比較例10]
実施例1の(B1−1)平均粒径18μmの酸化アルミニウム1140重量部、(B2−1)平均粒径3μmの酸化アルミニウム380重量部、(B3−1)平均粒径0.4μmの酸化アルミニウム380重量部を、(B1−1)平均粒径18μmの酸化アルミニウム950重量部、(B2−1)平均粒径3μmの酸化アルミニウム190重量部、(B3−1)平均粒径0.4μmの酸化アルミニウム760重量部とすると、(B)成分が(A)成分に分散せず、粉状のままであったため、組成物の作成を中止した。
【0081】
[比較例11]
実施例1の(B1−1)平均粒径18μmの酸化アルミニウム1140重量部、(B2−1)平均粒径3μmの酸化アルミニウム380重量部、(B3−1)平均粒径0.4μmの酸化アルミニウム380重量部を、(B1−1)平均粒径18μmの酸化アルミニウム1330重量部、(B2−1)平均粒径3μmの酸化アルミニウム475重量部、(B3−1)平均粒径0.4μmの酸化アルミニウム95重量部とすると、(B)成分が(A)成分に分散したが、パテ状となったため、組成物の作成を中止した。
【0082】
【表1】

【0083】
表1から明らかなように、各実施例は、(B)熱伝導性充填剤を高充填しても、23℃における粘度が220〜480Pa・sの低粘度であるため、電子部品に組成物を塗布した場合には、良好な塗布性能や作業性を付与する。
【0084】
また、(B)熱伝導性充填剤の高充填が可能であるため、3.8〜4.8W/(m・K)の高い熱伝導率を有する。特に、組成物中の溶剤を揮発させると、揮発前と比べて、熱伝導率をさらに向上させることが可能であり、この場合には、5.2〜6.1W/(m・K)の熱伝導率を有する。
【0085】
また、加熱/冷熱サイクルによるオイルブリードの発生を抑制でき、組成物を150℃で240時間耐熱エージングした場合にも硬質になりにくく、クラックの発生を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の熱伝導シリコーングリース組成物を適用した半導体装置の一例を示す断面図。
【符号の説明】
【0087】
1…半導体装置、2…配線基板、3…CPU、4…ヒートシンク、5…熱伝導性シリコーングリース組成物、6…クランプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)23℃における粘度が10〜100mPa・sであり、下記一般式で表されるアルケニル基含有シロキサンオリゴマー 100重量部、
【化1】

(式中、Rは独立に炭素原子数1〜6のアルキル基、Rは独立に炭素原子数2〜10のアルキレン基、Rは−COOR−で表される基、Xは炭素原子数1〜4のアルコキシ基、a,bは1以上の整数、cは0以上の整数、a+b+cは4以上である。Aは下記一般式:
【化2】

(式中、Rは前記規定の通り、Zはアルケニル基、dは10〜40の整数、eは0〜20の整数、d+eは10〜40である。)で表される基である。)
(B)下記(B1)、(B2)及び(B3)を含む熱伝導性充填剤 1000〜3000重量部(但し、(B1)は(B)成分中、50〜70vol%となる量、(B2)は10〜30vol%となる量、(B3)は10〜30vol%となる量)、
(B1)平均粒径が10μm以上、50μm未満の酸化アルミニウムもしくはアルミニウム、
(B2)平均粒径が1μm以上、10μm未満の酸化アルミニウムもしくはアルミニウム、
(B3)平均粒径が0.1μm以上、1μm未満の酸化アルミニウム
(C)白金系触媒、
(D)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を3個以上有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン (A)成分のアルケニル基1個に対して、ケイ素原子に結合した水素原子が0.12〜0.18個となる量、ならびに
(E)イソパラフィン系溶剤 20〜40重量部
を含有することを特徴とする熱伝導性シリコーングリース組成物。
【請求項2】
前記(E)成分の沸点が、200〜300℃であることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性シリコーングリース組成物。
【請求項3】
23℃における粘度が、100〜500Pa・sであることを特徴とする請求項1または2に記載の熱伝導性シリコーングリース組成物。
【請求項4】
熱伝導率が、3.0W/(m・K)以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーングリース組成物。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−138036(P2009−138036A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313074(P2007−313074)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(000221111)モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社 (257)
【Fターム(参考)】