説明

熱伝導性シリコーンゴム複合シート

【課題】電気絶縁性に優れ、また、強度および柔軟性に富み、更に、層間の接着性に優れ、特に熱伝導性の良好な熱伝導性シリコーンゴム複合シートを提供する。
【解決手段】中間層および該中間層の両面に積層された一対の外層を有する積層構造体を含むことを特徴とする熱伝導性シリコーンゴム複合シート。該積層構造体において、(A)中間層は、熱伝導率が0.3W/m・K以上である電気絶縁性の合成樹脂フィルム層であり、(B)外層は、(a)オルガノポリシロキサン、(b)硬化剤、(c)熱伝導性充填剤、並びに、(d)エポキシ基、アルコキシ基、メチル基、ビニル基、および式:Si−Hで表わされる基からなる群から選ばれた少なくとも1種の基を有するケイ素化合物系接着性付与剤を含む組成物を硬化させてなるシリコーンゴム層である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に発熱性電子部品と放熱フィン等の放熱部品との間に介装される放熱部材として好適な熱伝導性シリコーンゴム複合シートであって、電気絶縁性とともに熱伝導性が良好であり、また、強度および柔軟性に富んだ熱伝導性シリコーンゴム複合シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、パワートランジスタ、MOSトランジスター、FET、サイリスタ、整流器、トランス等の発熱性電子・電気部品の放熱部材用に電気絶縁性の熱伝導性材料が用いられている。例えば、シリコーンゴム等の合成ゴムに、酸化ベリリウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛等の金属酸化物粉末を配合したもの(特許文献1参照)や、シリコーンゴムに窒化ホウ素を配合し網目状の絶縁材で補強したもの(特許文献2参照)等が挙げられる。
【0003】
また、上記放熱部材の熱伝導性をより向上させるための一つの手段として、その厚みをできるだけ薄くすることが考えられる。しかし、その厚みをあまりに薄くすると放熱部材の強度、耐久性または電気絶縁性が損なわれるという問題が生じる。この問題点を改良するものとして、中間層に芳香族ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド,ポリエチレンナフタレート等の耐熱性、電気絶縁性及び機械的強度に富むフィルムを用い、外層に酸化ベリリウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム等を配合した熱伝導性および電気特性に優れたシリコーンゴム層を配した多層構造体とすることが提案されており、例えば、特許文献3には、酸化アルミニウム等を所定量配合したポリイミド(アミド)フィルムを中間層とし、該中間層の両面に一対の外層として、酸化アルミニウム等を配合したシリコーンゴム層を配置した少なくとも三層からなる積層体を有する熱伝導性の電気絶縁部材が記載されている。
【0004】
しかし、これらの多層構造を有する熱伝導電気絶縁部材には、外層部のシリコーンゴム層と、中間層の芳香族ポリイミド等のフィルムとの接着性が不安定で、経時的に層間剥離を生じやすく、耐久性に劣るという問題点がある。
【0005】
この問題点を改良するものとして、エポキシ基、アルコキシ基、ビニル基、および式:Si−Hで表わされる基からなる群から選ばれた少なくとも1種の官能性基を有するケイ素化合物系接着性付与剤を含む組成物を硬化させてなるシリコーンゴム層を外層として有する積層構造体を含むことを特徴とする熱伝導性シリコーンゴム複合シート(特許文献4)が挙げられる。しかし、この熱伝導性シリコーンゴム複合シートにおいては、中間層である芳香族ポリイミド等からなるフィルムの熱伝導率が、外層である熱伝導性シリコーンゴム層に比べて顕著に低いため、複合シート全体としての熱伝導特性が低くなってしまうという問題点がある。
【0006】
他にも公知の熱伝導性シリコーンゴム複合シートとしては特許文献5〜7に記載のものが挙げられるが、いずれも優れた層間接着性と良好な熱伝導性とを同時に満たすものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭47−32400号公報
【特許文献2】実開昭54−184074号公報
【特許文献3】特公平2−24383号公報
【特許文献4】特開2004−122664号公報
【特許文献5】特開2001−018330号公報
【特許文献6】特開平11−157011号公報
【特許文献7】特開平10−237228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、電気絶縁性に優れ、また、強度および柔軟性に富み、更に、層間の接着性に優れ、特に熱伝導性の良好な熱伝導性シリコーンゴム複合シートを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、
中間層および該中間層の両面に積層された一対の外層を有し、
(A)中間層は、熱伝導率が0.3W/m・K以上である電気絶縁性の合成樹脂フィルム層であり、
(B)外層は、(a)オルガノポリシロキサン、(b)硬化剤、(c)熱伝導性充填剤、並びに、(d)エポキシ基、アルコキシ基、メチル基、ビニル基、および式:Si−Hで表わされる基からなる群から選ばれた少なくとも1種の基を有するケイ素化合物系接着性付与剤を含む組成物を硬化させてなるシリコーンゴム層である、
積層構造体を含むことを特徴とする熱伝導性シリコーンゴム複合シートを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱伝導性シリコーンゴム複合シートは、熱伝導性充填剤が配合されているため熱伝導性が良好なシリコーンゴム層を外層として有するのみならず、熱伝導性に優れた合成樹脂フィルム層を中間層として有することから、熱伝導性に非常に優れる。また、該中間層は更に電気絶縁性および機械的強度にも優れるため、その補強効果により本発明の複合シートは十分な強度と柔軟性を有する。これらの点から、本発明の複合シートは、発熱性電子・電気部品と放熱部品との間に介装される電気絶縁性の放熱部材として好適である。特に、熱伝導性に非常に優れるため、高発熱体に適用すると効果的である。しかも、シリコーンゴム層は接着性付与剤を含有しているため、シリコーンゴム層と合成樹脂フィルム層とが強固に密着することができるので、本発明の複合シートは耐久性にも優れるという顕著な作用・効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について、詳細に説明する。なお、本明細書において、合成樹脂フィルム層の熱伝導率は、レーザーフラッシュ法に基づき25℃において測定された値である。
【0012】
[(A)熱伝導性中間層]
本発明の複合シートの中間層としては、耐熱性および電気絶縁性に優れた柔軟で機械的強度が高く、かつ0.3W/m・K以上の熱伝導性を有している合成樹脂フィルム層であれば、特に限定されず、公知のものを全て用いることができる。
【0013】
この熱伝導性合成樹脂フィルム層の熱伝導率は、通常、0.3W/m・K以上であり、好ましくは0.4W/m・K以上である。熱伝導率が0.3W/m・K未満であると、本発明の複合シートの熱伝導性に支障が生じやすい。なお、本発明の目的を達成する上ではこの熱伝導率は高ければ高いほどよく、その上限は何ら限定されないが、実用上は10W/m・K程度以下とすればよい。
【0014】
この熱伝導性合成樹脂フィルム層の厚さは、通常、5〜40μm、好ましくは10〜30μmの範囲である。前記厚さが、厚すぎると本発明の複合シートの熱伝導性に支障が生じることとなり、逆に薄すぎると中間層として発揮すべき強度が不足し、また、耐電圧特性が劣化して、電気絶縁性能が不十分となる場合がある。更に、該熱伝導性合成樹脂フィルム層は、耐電圧特性を低下させるような孔がないフィルム層である必要がある。
【0015】
該中間層として用いられる0.3W/m・K以上の熱伝導率を有する熱伝導性合成樹脂フィルム層は、典型的には合成樹脂と該合成樹脂中に分散配合された熱伝導性粉体とを含むフィルムからなる層である。合成樹脂および熱伝導性粉体のおのおのは1種単独でも2種以上組み合わせても使用することができる。
【0016】
合成樹脂としては、例えば、芳香族ポリイミド;ポリアミド;ポリアミドイミド;ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体等のフッ素系ポリマーを挙げることができる。合成樹脂として前記フッ素系ポリマーを用いる場合には、得られるフィルムの表面に対し金属Na/ナフタレン系処理液を用いて化学エッチング処理を施すことが、接着性の向上の点から好ましい。
【0017】
合成樹脂中に分散配合される熱伝導性粉体としては、例えば、酸化亜鉛粉末、酸化アルミニウム粉末、酸化マグネシウム粉末、水酸化アルミニウム粉末、窒化ホウ素粉末、窒化アルミニウム粉末、炭化ケイ素粉末、ダイヤモンド粉末等の熱伝導性無機粉末が挙げられるが、これに限定されるものではなく、熱伝導性および絶縁性を有するものであればいかなるものでもよい。これらの粉体は一種でも二種以上の組み合わせでも使用することができる。
【0018】
また、0.3W/m・K以上の熱伝導率を有する熱伝導性合成樹脂フィルム層は、合成樹脂に熱伝導性粉体を配合せずに、合成樹脂の結晶性を向上させて熱伝導性を向上させた熱伝導性合成樹脂フィルムを用いてもよい。
さらに、結晶度を高めた合成樹脂に上記の熱伝導性粉体を分散したものでもよい。
【0019】
前記合成樹脂フィルム層は、融点が200℃以上、好ましくは250℃以上であれば、耐熱性に優れ、機械的強度の低下も熱変形も生じにくいので、好適である。
【0020】
前記合成樹脂フィルム層の好適例としては、例えば、融点が250℃以上の耐熱性を有する熱伝導性フィルムとして、芳香族ポリイミド系フィルムであるカプトン(登録商標)MTタイプ(商品名、東レデュポン(株)製)等が挙げられる。
【0021】
[(B)外層]
本発明において複合シートに含まれる外層は、(a)オルガノポリシロキサン、(b)硬化剤、(c)熱伝導性充填剤、並びに、(d)エポキシ基、アルコキシ基、メチル基、ビニル基、および式:Si−Hで表わされる基からなる群から選ばれた少なくとも1種の基を有するケイ素化合物系接着性付与剤を含む組成物を硬化させてなるシリコーンゴム層である。この(B)層の厚さは、本発明の複合シートの適用形態・適用対象により、設定することができ、特に制限されないが、通常、30〜800μm、好ましくは50〜400μm程度の範囲とするのがよい。概して、前記厚さが薄すぎると電子部品への形状追随性が悪くなることから、熱伝導性が悪くなるという傾向があり、また、厚すぎると熱伝達特性が損なわれるという傾向があり、いずれにしても好ましくない。
【0022】
<(a)オルガノポリシロキサン>
(a)成分のオルガノポリシロキサンは、平均組成式:R1aSiO(4-a)/2(式中、R1は同一または異なる置換または非置換の炭素原子数1〜10、好ましくは1から8の1価炭化水素基を表わし、aは1.90〜2.05の正数である)で表わされるものである。
【0023】
上記R1としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、オクタデシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基、3−フェニルプロピル基等のアラルキル基;3,3,3−トリフルオロプロピル基、3−クロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基等が挙げられる。
【0024】
この(a)成分のオルガノポリシロキサンとしては、一般的には、主鎖がジメチルシロキサン単位からなるもの、または、前記主鎖のメチル基の一部がビニル基、フェニル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等で置き換えられたものが好ましい。また、その分子鎖末端が、トリオルガノシリル基または水酸基で封鎖されたものとすればよく、前記トリオルガノシリル基としては、トリメチルシリル基、ジメチルビニルシリル基、トリビニルシリル基等が例示される。
【0025】
また、(a)成分の重合度は、通常、200〜12,000、好ましくは200〜10,000の範囲とし、オイル状であってもガム状であってもよく、成形方法等にしたがって選択すればよい。
【0026】
下記(b)成分の硬化剤が、オルガノハイドロジェンポリシロキサンおよび白金系触媒を含む付加反応硬化型のものである場合、(a)成分のオルガノポリシロキサンは、ケイ素原子結合アルケニル基を1分子中に2個以上、好ましくは3個以上有するオルガノポリシロキサンである。ケイ素原子結合アルケニル基の含有量が上記範囲の下限未満であると、得られる組成物が十分に硬化しなくなる。また、ケイ素原子に結合する上記アルケニル基としてはビニル基が好ましい。アルケニル基は、分子鎖末端および側鎖のいずれか一方または両方にあればよく、少なくとも1個のアルケニル基が分子鎖末端のケイ素原子に結合していることが好ましい。
【0027】
この場合の具体例としては、例えば、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン等を挙げることができる。これらは1種単独でも2種以上組み合わせても使用することができる。
【0028】
下記(b)成分の硬化剤が有機過酸化物である場合、(a)成分のオルガノポリシロキサンは、特に限定されないが、1分子中に少なくとも2個の上記アルケニル基を有するものが好ましい。
【0029】
この場合の具体例としては、例えば、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端メチルフェニルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチル(3,3,3-トリフルオロプロピル)ポリシロキサン、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上組み合わせても使用することができる。
【0030】
<(b)硬化剤>
(b)成分がヒドロシリル化反応硬化剤である場合、前記硬化剤は、1分子中にケイ素原子結合水素原子を平均2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと白金系触媒からなるものである。前記オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、アルケニル基を有する(a)成分に付加反応する架橋剤として機能するものである。
【0031】
このオルガノハイドロジェンポリシロキサンの具体例としては、例えば、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサン等が挙げられる。(b)成分は1種単独でも2種以上組み合わせても使用することができる。
【0032】
本組成の複合シートの外層を構成する組成物において、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンの含有量は、通常、(a)成分中のケイ素原子結合アルケニル基1モルに対して、本成分中のケイ素原子結合水素原子が、通常、0.1〜4.0モル、好ましくは0.3〜2.0モルとなる量である。本成分の含有量が少なすぎると得られるシリコーンゴム組成物が十分に硬化しなくなることがあり、一方、多すぎると得られるシリコーンゴムが非常に硬質となり、表面に多数のクラックを生じるなどの問題が発生することがある。
【0033】
オルガノハイドロジェンポリシロキサンとともに用いられる白金系触媒は本組成物の硬化を促進するための触媒であり、例えば、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金のオレフィン錯体、白金のアルケニルシロキサン錯体、白金のカルボニル錯体等が挙げられる。本組成物において、白金系触媒の含有量は、特に限定されず、触媒としての有効量でよいが、(a)成分に対して本成分中の白金金属が質量単位で、通常、0.01〜1,000 ppmとなる量であり、好ましくは、0.1〜500 ppmとなる量である。本成分の含有量が少なすぎると得られるシリコーンゴム組成物が十分に硬化しなくなることがあり、一方、多量に使用しても得られるシリコーンゴム組成物の硬化速度は向上せず、経済的に不利となることがある。
【0034】
(b)成分の硬化剤が有機過酸化物である場合、前記有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエート等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上組み合わせても使用することができる。この有機過酸化物の添加量は、上記(a)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して、通常、0.1〜5質量部の範囲内となる量であることが好ましい。
【0035】
<(c)熱伝導性充填剤>
(c)成分の熱伝導性充填剤としては、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化ケイ素、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素等の無機粉末が、好適に例示される。(c)成分は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0036】
この(c)成分の平均粒径は、好ましくは50μm以下、より好ましくは20μm以下である。
【0037】
また、この(c)成分の配合量は、(a)成分100質量部に対して、通常、100〜1,800質量部、好ましくは200〜1,600質量部の範囲である。前記配合量が少なすぎると外層の熱伝導性が不十分なものとなり、一方、多すぎると(c)成分の組成物中への均一な配合が困難になるとともに成形加工性が悪くなってしまう。
【0038】
<(d)ケイ素化合物系接着性付与剤>
本(d)成分は、本発明の熱伝導性シリコーンゴム複合シートを特徴づける重要な成分であり、この成分を、外層を構成するシリコーンゴム組成物中に配合することにより、(A)中間層の熱伝導性合成樹脂フィルム層と(B)外層のシリコーンゴム層とが互いに強固な接着性を示し、層間剥離を生じることなく、経時的にも耐久性に優れたものとすることができる。また、(A)中間層の熱伝導性合成樹脂フィルム層に対して接着性向上を目的としたプライマー処理を施す工程を省略することができるので、複合シート製造工程の簡略化が図られ、更に、プライマー層を有しないことから、熱伝導性が低減しない複合シートを得ることができる。
【0039】
この(d)成分のケイ素化合物系接着性付与剤は、エポキシ基、アルコキシ基、メチル基、ビニル基および式:Si−Hで表わされる基からなる群から選ばれた少なくとも1種の基を有するケイ素化合物であることが必要とされる。特に、1分子中に前記群から選ばれた基を2個以上有するケイ素化合物であるものが好ましい。
【0040】
さらに好ましくは、前記(b)成分の硬化剤がヒドロシリル化反応硬化剤である場合には、該(d)成分のケイ素化合物は、ビニル基、Si−Hで表わされる基またはこれらの両方と、エポキシ基、アルコキシ基またはこれらの両方とを有する。また、別の好ましい実施形態では、前記(b)成分の硬化剤が有機過酸化物硬化剤である場合には、該(d)成分のケイ素化合物は、メチル基、ビニル基またはこれらの両方と、エポキシ基、アルコキシ基またはこれらの両方とを有する。
【0041】
この(d)成分の配合量は、(a)成分100質量部に対して、通常、0.1〜3.0質量部、好ましくは0.5〜2.0質量部の範囲とするのがよい。前記配合量が少なすぎれば、接着性付与効果が発揮されず、また、多すぎると機械的特性が損なわれるという問題を生じるので好ましくない。
【0042】
このような基を有するケイ素化合物としては、具体的には、下記のものを例示することができる。但し、下記のものに限定されるものではない。
【0043】
【化1】

【0044】
【化2】

【0045】
【化3】

【0046】
【化4】

【0047】
【化5】

【0048】
(d)成分は、1種単独でも2種以上組み合わせても使用することができる。
【0049】
[熱伝導性複合シートの製造]
<(B)外層用のコーティング組成物の調製>
先ず、上記(a)成分のオルガノポリシロキサンと(c)成分の熱伝導性充填剤とを、ニーダー、バンバリーミキサー、プラネタリーミキサー、品川ミキサー等の混合機を用いて、必要に応じ100℃以上程度の温度に加熱しつつ、混練りする。この混練り工程で、所望により、外層の熱伝導性能を損なわない範囲内で、フュームドシリカ、沈降性シリカ等の補強性シリカ;シリコーンオイル、シリコーンウェッター等;白金、酸化チタン、ベンゾトリアゾール等の難燃剤等を添加・混合してもよい。
【0050】
混練り工程で得られた均一混合物を、室温に冷却した後、ストレーナー等を通して濾過し、次いで、2本ロール、品川ミキサー等を用いて、前記混合物に所要量の(d)成分の接着性付与剤、更に(b)成分の硬化剤を添加して、再度、混練りする。この再度の混練り工程で、所望により、1−エチニル−1−シクロヘキサノール等のアセチレン化合物系付加反応制御剤、有機顔料、無機顔料等の着色剤、酸化鉄、酸化セリウム等の耐熱性向上剤等を添加・混合してもよい。
【0051】
この再度の混練り工程で得られた外層用組成物を外層用コーティング剤として、直接、次工程に供してもよいが、必要に応じて、更にトルエン等の溶剤を加えて、プラネタリーミキサー、ニーダー等の攪拌機に投入して混合して、外層用コーティング剤としても差し支えない。
【0052】
<コーティング工程>
上記工程により得られた外層用コーティング剤を、上記(A)中間層の熱伝導性合成樹脂フィルム層の両面に、逐次、乾燥炉、加熱炉および巻き取り装置を備えたナイフコーター、キスコーター等のコーティング装置を用いて、連続的に所定の一定の厚さにコーティングした後、溶剤等を乾燥・蒸散させ、付加反応硬化型の場合は、80〜200℃、好ましくは100〜150℃程度に、また、過酸化物硬化型の場合は、100〜200℃、好ましくは110〜180℃程度に、加熱して架橋・硬化させることにより、優れた熱伝導性、電気絶縁性、機械的強度、柔軟性、耐熱性、および耐久性を有する本発明の熱伝導性シリコーンゴム複合シートを得ることができる。
【0053】
なお、本発明の熱伝導性シリコーンゴム複合シートは、もとより三層の積層体に限定されず、所望により、上記(A)層と(B)層とを、例えば、(B)/(A)/(B)/(A)/(B)の5層積層構造としてもよく、また、別途、ガラスクロス、グラファイトシート、アルミホイル等の層を含むものとしてもよい。
【実施例】
【0054】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。また、本実施例において、中間層として用いた熱伝導性合成樹脂フィルムの熱伝導率は、レーザーフラッシュ法に基づく熱抵抗測定器(ネッチ社製、キセノンフラッシュアナライザー;LFA447 NanoFlash)により25℃において測定された値であり、当社における測定値である。測定は、各合成樹脂フィルムの片面にカーボンをスプレーコートした後に該表面について行った。
【0055】
[実施例1]
(a)平均重合度8,000のジメチルビニルシロキシ基で両末端を封止したジメチルポリシロキサン100質量部、および(c)熱伝導性充填剤として平均粒径4μmの酸化アルミニウム粉末750質量部をバンバリーミキサーにて室温で40分混練りし、次いで100メッシュのストレーナーにて濾過後、2本ロールを用いて、この(a)+(c)の混合物100質量部に、(d)接着性付与剤として下記構造式:
【0056】
【化6】

【0057】
で表されるケイ素化合物1.0質量部、(b)有機過酸化物としてジ(2−メチルベンゾイル)パーオキサイド1.9質量部、および着色剤としてKE−カラーR20(商品名:信越化学工業(株)製)0.4質量部を添加・配合して、更に混練りして混合物を作製した。
【0058】
次いで、上記で得られた混合物100質量部をトルエン47質量部に溶解してコーティング剤を作製し、先ず、熱伝導性芳香族ポリイミド系フィルム(酸化アルミニウム粉体分散タイプ。商品名:カプトン100MT、東レデュポン(株)製、熱伝導率:0.42W/m・K、厚さ:25μm)の片面にコーティングし、乾燥温度:80℃、および硬化温度:150℃の条件で処理して、厚さ62.5μmに成形されたゴム層を形成させた。次いで、別の片面にも同様にして、コーティング、乾燥、および硬化処理を施して、全体の厚さが150μmの熱伝導性シリコーンゴム複合シートを作製した。
【0059】
[実施例2]
実施例1において、(d)成分のケイ素化合物の使用量を1.0質量部から0.5質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、全体の厚さが150μmの熱伝導性シリコーンゴム複合シートを作製した。
【0060】
[実施例3]
(a)25℃における粘度が600mm2/sのジメチルビニルシロキシ基で両末端を封止したジメチルポリシロキサン100質量部、(c1)熱伝導性充填剤として平均粒径4μmの酸化アルミニウム粉末750質量部、および(c2)平均粒径9μmの窒化ホウ素粉末250部を、プラネタリーミキサーにて室温で20分混練りし、100メッシュのストレーナーにて濾過して仕上げた後、更にこの(a)+(c1)+(c2)の混合物100質量部に、(d)接着性付与剤として下記構造式:
【0061】
【化7】

【0062】
で表されるケイ素化合物1.0質量部、(b1)塩化白金酸のビニルシロキサン錯体(白金金属含有量:1質量%)0.35質量部を均一に配合し、次いで、付加反応制御剤として1−エチニル−1−シクロヘキサノール0.06質量部を添加配合し、更に(b2)下記構造式で表されるメチルハイドロジェンポリシロキサン(SiH基含有量:0.0050モル/g)1.5質量部(SiH基/(a)中のビニル基(モル比):4.0)を均一に混合してシリコーンゴム組成物を調製した。
【0063】
【化8】

【0064】
次いで、上記で得られた混合物100質量部をトルエン15質量部に溶解してコーティング剤を作製し、先ず、熱伝導性芳香族ポリイミド系フィルム(商品名:カプトン100MT、東レデュポン(株)製、熱伝導率:0.42W/m・K、厚さ:25μm)の片面にコーティングし、乾燥温度:80℃、および硬化温度:150℃の条件で処理して、厚さ62.5μmに成形されたゴム層を形成させた。次いで、別の片面にも同様にして、コーティング、乾燥、および硬化処理を施して、全体の厚さが150μmの熱伝導性シリコーンゴム複合シートを作製した。
【0065】
[実施例4]
実施例1において、(d)成分の接着性付与剤を、下記構造式:
【0066】
【化9】

【0067】
で表されるケイ素化合物1.0質量部に変えた以外は、実施例1と同様にして、全体の厚さが150μmの熱伝導性シリコーンゴム複合シートを作製した。
【0068】
[実施例5]
実施例1において、(d)成分の接着性付与剤を、下記構造式:

【0069】
で表されるケイ素化合物1.0質量部に変えた以外は、実施例1と同様にして、全体の厚さが150μmの熱伝導性シリコーンゴム複合シートを作製した。
【0070】
[実施例6]
(a)25℃における粘度が5000mm2/sのジメチルビニルシロキシ基で両末端を封止したジメチルポリシロキサン100質量部、(c)熱伝導性充填剤として平均粒径4μmの酸化アルミニウム粉末750質量部を、プラネタリーミキサーにて室温で20分混練りし、100メッシュのストレーナーにて濾過して仕上げた後、更にこの(a)+(c)の混合物100質量部に、(d)接着性付与剤として下記構造式:
【0071】
【化10】

【0072】
で表されるケイ素化合物0.5質量部、(b1)塩化白金酸のビニルシロキサン錯体(白金金属含有量:1質量%)0.35質量部を均一に配合し、次いで、付加反応制御剤として1−エチニル−1−シクロヘキサノール0.06質量部を添加配合し、更に(b2)下記構造式で表されるメチルハイドロジェンポリシロキサン(SiH基含有量:0.0016モル/g)1.25質量部(SiH基/(a)中のビニル基(モル比):2.8)を均一に混合してシリコーンゴム組成物を調製した。
【0073】
【化11】

【0074】
次いで、上記で得られた混合物100質量部をトルエン15質量部に溶解してコーティング剤を作製し、先ず、熱伝導性芳香族ポリイミド系フィルム(商品名:カプトン100MT、東レデュポン(株)製、熱伝導率:0.42W/m・K、厚さ:25μm)の片面にコーティングし、乾燥温度:80℃、および硬化温度:150℃の条件で処理して、厚さ62.5μmに成形されたゴム層を形成させた。次いで、別の片面にも同様にして、コーティング、乾燥、および硬化処理を施して、全体の厚さが150μmの熱伝導性シリコーンゴム複合シートを作製した。
【0075】
[実施例7]
実施例6において、(d)成分の接着性付与剤を、下記構造式:
【0076】
【化12】

【0077】
で表されるケイ素化合物0.5質量部に変えた以外は、実施例1と同様にして、全体の厚さが150μmの熱伝導性シリコーンゴム複合シートを作製した。
【0078】
[比較例1]
実施例1において、熱伝導性芳香族ポリイミド系フィルム(商品名:カプトン100MT、東レデュポン(株)製、熱伝導率:0.42W/m・K、厚さ:25μm)に代えて、芳香族ポリイミド系フィルム(商品名:カプトン100H、東レデュポン(株)製、熱伝導率:0.08W/m・K、厚さ:25μm)を用いた以外は、実施例1と同様にして、全体の厚さが150μmの熱伝導性シリコーンゴム複合シートを作製した。
【0079】
[比較例2]
実施例1において、上記(d)成分のケイ素化合物を使用しなかった以外は、実施例1と同様にして、厚さ150μmの熱伝導性シリコーンゴム複合シートを作製した。
【0080】
なお、表1及び表2に実施例1〜3および比較例1〜2における(a)成分と(c)成分を含む混合物およびコーティング剤の組成を示す。表1及び表2中の各成分についての数値は質量部で表す量を意味する。
【0081】
[諸特性の評価手法]
上記実施例1〜3および比較例1〜2で作製した各複合シートについて、下記手法により諸特性を測定した。その測定結果を表1及び表2に示す。
【0082】
〔一般特性〕
・引張り強度(MPa)、引裂き強度(kN/m)、絶縁破壊電圧(kV):
JIS K 6249に準拠して測定した。
【0083】
・接着強度(N/cm):
JIS K 6259に準拠して、180度剥離試験を行って、接着強度を測定した。なお、試験試料として、厚さ25μmの芳香族ポリイミド系フィルムの片側の表面上に、肉厚1mmのゴム層を形成させた2層構造のものを作製した。
【0084】
〔熱特性〕
・熱抵抗(℃/W)
サンプルをヒートシンク(放熱部品)とTO−3P型トランジスタの間に挟み(接触面積:約2.7cm2)、直径3.0mmのねじで固定(ネジ締め圧力:49.0±9.8N(5±1kgf))した後、トランジスタに電力(10W)をかけた。10分経過後に、トランジスタの温度(T)及びヒートシンクの温度(T)を測定し、次式により熱抵抗を算出した。
【0085】
熱抵抗(℃/W)=(T−T)/10
【0086】
【表1】

【0087】
(*注:実施例3、6及び7の(b)硬化剤の量は、メチルハイドロジェンポリシロキサンの配合量である)
【0088】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の熱伝導性シリコーンゴム複合シートは、発熱性電子部品と放熱部品との間に介装される放熱部材として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中間層および該中間層の両面に積層された一対の外層を有し、
(A)中間層は、熱伝導率が0.3W/m・K以上である電気絶縁性の合成樹脂フィルム層であり、
(B)外層は、(a)オルガノポリシロキサン、(b)硬化剤、(c)熱伝導性充填剤、並びに、(d)エポキシ基、アルコキシ基、メチル基、ビニル基、および式:Si−Hで表わされる基からなる群から選ばれた少なくとも1種の基を有するケイ素化合物系接着性付与剤を含む組成物を硬化させてなるシリコーンゴム層である、
積層構造体を含むことを特徴とする熱伝導性シリコーンゴム複合シート。
【請求項2】
前記(A)層が合成樹脂と該合成樹脂中に分散配合された熱伝導性粉体とを含むフィルムからなる層である請求項1に係る熱伝導性シリコーンゴム複合シート。
【請求項3】
前記合成樹脂が芳香族ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエステル、フッ素系ポリマーまたはこれらの2種以上の組み合わせである請求項2に係る熱伝導性シリコーンゴム複合シート。
【請求項4】
前記熱伝導性粉体が酸化亜鉛粉末、酸化アルミニウム粉末、酸化マグネシウム粉末、水酸化アルミニウム粉末、窒化ホウ素粉末、窒化アルミニウム粉末、炭化ケイ素粉末、ダイヤモンド粉末またはこれらの2種以上の組み合わせである請求項2または3に係る熱伝導性シリコーンゴム複合シート。
【請求項5】
前記(b)成分の硬化剤がヒドロシリル化反応硬化剤であり、且つ、前記(d)成分のケイ素化合物系接着性付与剤が、ビニル基、Si−Hで表わされる基またはこれらの両方と、エポキシ基、アルコキシ基またはこれらの両方とを有する、請求項1〜4のいずれか1項に係る熱伝導性シリコーンゴム複合シート。
【請求項6】
前記(b)成分の硬化剤が有機過酸化物硬化剤であり、且つ、前記(d)成分のケイ素化合物系接着性付与剤が、メチル基、ビニル基またはこれらの両方と、エポキシ基、アルコキシ基またはこれらの両方とを有する、請求項1〜4のいずれか1項に係る熱伝導性シリコーンゴム複合シート。

【公開番号】特開2011−25676(P2011−25676A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137200(P2010−137200)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】