説明

熱伝導性シート

【課題】 グラファイト粉末を用いたもので熱伝導性、電磁波シールド性の優れたシートを提供することである。
【解決手段】 ポリイミドフィルムを焼成して得られるグラファイトシートを粉末化し、そのグラファイト粉末を、ゴム、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー等の母材に混合分散させてシート状に作製する。
【効果】 軽いシート状で、熱伝導性、電磁波シールド性の優れたものが得られる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電子機器や産業機器における熱の放熱や電磁波ノイズ防止の目的で使用される、熱伝導性の高分子組成物と熱伝導性電磁波シールド性の高分子組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、パソコンをはじめとする小型電子機器、産業精密機器などに用いられるCPUは、高性能化に伴い、発熱量が増大し、放熱、均熱などの熱問題が課題となっている。また、上記した機器よりの電磁波の発生防止あるいは、素子の電磁波のノイズ防止が課題となっている。熱問題対策としては、柔軟性の不必要なところでは、Al板やCu板が熱伝導や放熱の役目として用いられている。柔軟性の必要なところには、熱伝導性材料粉末が充填されたシリコーンゴムシートなどが用いられている。
【0003】充填材としては、Al23、AlN、BN、SiN、SiO2、MgOなどの粉末や繊維状が用いられている。また、炭素系の充填材としてカーボンブラック、球状黒鉛粉末、炭素繊維などが用いられることが知られている。ただ、炭素系を用いた場合は、熱伝導性とともに電気伝導性も付与される。また、グラファイトシートのような熱伝導性シートと高分子フィルムなどを積層複合化した例が知られている。電磁波シールド性については、フェライトのような磁性粉末がゴムシート内に充填することによりつくられている。この場合は、熱伝導性シートと同様な使用法が可能である。ニッケル、銅などのメッシュ状などでも用いられている。
【0004】また、筐体自身を鉄、クロム、ニッケルなどの金属化合物を含んだ複合材料で作製したり、筐体内部に金属膜を蒸着法などにより設けることで、電磁波シールド効果がもたらされる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】現在の、主にマトリックス樹脂として用いられている熱伝導性シートとしては、まだまだ特性改善の要望がある。例えば、熱伝導性、シートの柔軟性、用途、形状に合わせた加工性の容易さなどである。高熱伝導性、高電磁波シールド性のシートにおいては、添加剤の量が通常は多くなり、柔軟性や切断などの加工性が悪くなるという問題を有する。本発明では、特殊なグラファイト粉末とゴム、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーなどの母材との複合化において、材料組成を検討することにより、従来のものよりの熱伝導性、電磁波シールド特性の向上を図るとともに、使いやすさの改善を図った。また、粉末を充填すると、電気伝導性が付与されて絶縁性が悪くなり、電気機器回路周辺で用いられる場合は問題になることがある。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために本発明が講じた技術的手段は、ゴム、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーなどの母材に分散する基本材料にグラファイト粉末を使用し、その中でもポリイミドフィルムを焼成することにより得られるグラファイトシートを粉末化したものである。グラファイト粉末としては、天然のものから、人工の膨張黒鉛、球状黒鉛などが知られている。ポリイミドフィルムを焼成することにより得られるグラファイトシートは、構造的に、グラファイト構造(鱗片配列)が進んだものが得られ、熱伝導的にも優れたものが得られる。
【0007】シートは、作製条件によっては、柔軟性のあるものが得られるが、通常は固くてもろい。また、引き裂き強度が弱く裂けやすい。従って、グラファイトシートは樹脂シートなどと積層化することにより強度を補強して利用される。グラファイト粉末を分散する母材としては、ゴム、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーなどが用いられる。ゴムの中では、シリコーンゴムが特性的にも扱い易さの点でも優れている。要するに、グラファイト粉末の分散性がよく、熱伝導性の優れたものが得られやすい。熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーなどもゴムのかわりに用いられるが、耐熱性や柔軟性を要求される場合にはシリコーンゴムに劣る。典型的なものとしてはポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリエステル系の樹脂、エラストマーが用いられる。
【0008】上記母材にグラファイト粉末を分散する方法としては、溶媒を用いたり、あるいは溶媒を用いない液状で混合しても、あるいは固体を加熱溶融により混合しても、ローラーを用いて混練り混合してもよい。最終的な材料の硬さを調整したい場合は、適当に架橋材等を添加後、熱処理などを行い調整する。グラファイト粉末の充填量は、グラファイト粉末単独では5〜60重量%で目的の熱伝導性が得られ、20重量%以上であると電磁波シールド性の顕著な効果がみられはじめ、60重量%あたりが最大の効果がみられる。配合成分としては、グラファイト粉末を単独で配合する形態ばかりでなく、アルミニウム窒化物、アルミニウム酸化物、硼素窒化物等の無機粉末との混合で用いてもよい。更に、無機粉末を2種以上混合してもよい。無機粉末としては、上記以外のものを、分散性や寿命改善の目的で混合されることがあるが、本発明の目的である熱的特性や電磁波シールドの基本特性等が大きく影響を受けない範囲であれば何ら問題はない。母材に対するグラファイト粉末の充填量が60重量%以上であると、シート形状に成形できにくくなり、目的のシートを得られない。
【0009】アルミニウム窒化物、硼素窒化物の粉末をシリコーンゴムに分散した場合に、粒径や粒の形状によって特性が異なるが、充填量に応じて熱伝導性はある量まではよくなるが、ある量で飽和する傾向となり、さらに添加すると均一分散できなくなり、成形体の機械的強度が極端に弱くなってしまう。無機粉末で充填量を増やして、熱伝導性の改善をする場合、本発明でいうグラファイト粉末を混合することにより、その効果が期待できる。
【0010】グラファイト粉末を作製するポリイミドフィルムの厚さは5μmから500μm程度のものがよい。市販品を用いてもよいし、溶液をガラス板上に塗布後、加熱処理をしてフィルムを作製してもよい。フィルムは厚すぎると、熱分解等の影響でグラファイト構造のきちっとしたものが得られにくい。薄すぎると、フィルムの剛性強度が弱く、粉砕時に取り扱いにくい。粉砕は、ボールミリングやジェットミリング法を用いて行われる。粒径の大きさに分級は、粒度計の測定とミリングの条件により行った。ある平均粒径と分布をもった単独のもので、平均粒径の異なったもの同士の比較、さらに平均粒径の異なったものの混合での比較を行ったところ、熱伝導性、電磁波シールド性につてもその影響があることがわかった。特に、平均粒径が10μm以下のものと、平均粒径が20μm以上のものを混合することが、効果的であった。平均粒径の異なったものを混合した方が、グラファイト粉末の母材への分散性を改善できる。その比率は、体積%で、1/9から9/1の範囲で効果がみられる。電気伝導性、電磁波シールド性についても平均粒径の異なったものを混合した方が、特性がよくなる。また、グラファイト粉末の平均粒子径の大きさは、1〜100μmが好適で、100μm以上は母材の樹脂に充填しにくく、性能も低下し好ましくない。更に、グラファイト粉末を含有した上記シートの何れか片面、又は両面に、絶縁膜又は絶縁フィルム等を積層(ラミネート)してもよい。
【0011】請求項1に記載した、ポリイミドフィルムを焼成することにより得られるグラファイトシートを粉末化し、そのグラファイト粉末をゴム、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーなどの母材に分散した高分子組成物は、熱伝導性の優れたシートとなる。上記ポリイミドフィルムの厚さを請求項2記載の範囲とすることで、グラファイト構造のきちっとしたものが得られ、しかも取り扱いやすく、熱伝導性の優れたシートが得られる。又、グラファイト粉末の平均粒子径を請求項3記載の範囲とすることで、母材への分散性を均一にでき、熱伝導性の優れたシートが得られる。上記グラファイト粉末の他にアルミニウム窒化物、アルミニウム酸化物、あるいは硼素窒化物の無機粉末を混合する請求項4記載の構成とすることで、熱伝導性の優れたシートが得られる。
【0012】又、前記グラファイト粉末の母材に対する充填量を請求項5記載の範囲とすることで、熱伝導性の優れたシートが得られる。更に、前記グラファイト粉末の充填量を請求項6記載の範囲とすることで、熱伝導性および電磁波シールド特性を合わせ持ったシートが得られる。又、請求項7に記載のように、前記グラファイト粉末として平均粒子径が10μm以下のものと20μm以上のものを混合することで、グラファイト粉末の母材への分散性が改善でき、熱伝導性、電磁波シールド特性の優れたものが得られる。前記グラファイト粉末を含有したシートの表面に絶縁膜あるいは、絶縁フィルムなどを設けた請求項8の構成により、請求項1から7に記載の熱伝導性電磁波シールドシート特性の優れたものが得られる。
【0013】
【発明の実施の形態】以下、本発明の熱伝導性シートの実施例について説明し、同シートの熱伝導性、電磁波シールド特性の測定結果を以下に示す。
<実施例1>厚さ50μmのポリイミドフィルムを、2600℃で焼成してシート状グラファイトをまず作製した。このグラファイトシートを5mm角程度に鋏で切断後、ジェットミリング法により平均粒径10μmの粉末を作製した。そして、そのグラファイト粉末をシリコーンゴム(DY32−1006U東レ・ダウコーニング社製)に重量%で、20、30、40、50、60、70を充填したものを作製し、熱伝導率の測定を行った。充填量が70重量%のものは、粉末の不均一な分散不良がみられた。熱伝導率(W/(m・K))の測定は、京都電子工業社製の迅速熱伝導率測定器QTM−500を用いて行った。比較のために、球状黒鉛をシリコーンゴムに同量充填したものを製作し、同様に実験を行った。結果を表1に示す。表1より、グラファイト粉末を充填したものが球状黒鉛を充填したものより、熱伝導率が優れていることが明らかである。しかも、グラファイト粉末の充填量が増えると、熱伝導率も向上することが理解できる。
【表1】


【0014】<実施例2>アルミニウム窒化物(AlN)を充填材として、同様にシリコーンゴムに30、40、50、60重量%を充填した場合の結果を表2に示す。さらに、それぞれに、5重量%の上記グラファイト粉末をさらに加えた時の結果を表2に示す。表2から明らかなように、アルミニウム窒化物のみを充填したものより、グラファイト粉末を5重量%混合したものが、熱伝導率が向上されることがわかる。
【表2】


【0015】<実施例3>実施例1の試料を用いて、電磁波シールド性を(株)アドバンテスト社製シールド材評価機、および同社製スペクトラムアナライザR3273を用いて、10MHz〜1000MHzの範囲で測定した。その結果を表3に示す。同表から明らかなように、球状黒鉛を充填したものより、グラファイト粉末を充填したものが電磁波シールド性に優れることがわかる。又、グラファイト粉末の充填量が増えると、電磁波シールド性も向上することが理解できる。
【表3】


【0016】<実施例4>グラファイト粉末を、ウレタン樹脂に重量%で、0、20、30、40、50、60混合し、加熱・硬化させて試料を製作した。その試料の熱伝導率と電磁波シールド性能を測定した結果を表4に示す。同表から明らかなように、グラファイト粉末を充填する母材がウレタン樹脂でも、実施例1に示したリコーンゴムに充填したものと比較して、熱伝導率がそれほど違わないことがわかる。
【表4】


【0017】<実施例5>実施例1のグラファイト粉末を充填した試料に、厚さ0.05mmのPETフィルムをラミネートし、表面絶縁化したシートを作製した。そのシートの熱伝導性、電磁波シールド特性を測定したところ、表5の通りであった。グラファイト粉末を用いると母材が何であれ、電気伝導性が付与される。
【表5】


【0018】<実施例6>グラファイト粉末の平均粒径3、20、50、100μmで、充填率が50%のものの熱伝導率及び電磁波シールド性能について比較を行った。この結果を表6に示す。また、充填率は同じで、粒径の大きさの異なった粉末(平均粒子径10μmと20μmの2種)を混合をして作製した場合の結果を表7に示す。
【表6】


【表7】


【0019】
【発明の効果】本発明の熱伝導性シートは、請求項1〜8に記載の構成により、軽いシート状で熱伝導性に優れ、且つ柔軟性や切断等の加工性に優れたシートを提供できる。又、請求項2の構成により、グラファイト構造がきちっとしたグラファイト粉末を含有したシートを提供でき、安定した熱伝導性を確保できる。更に、請求項3の構成により、グラファイト粉末の充填がしやすく、均一分散した熱伝導性シートを提供することができる。又、請求項4の構成により、無機粉末のみを混入したシートより熱伝導性を向上することができる。更に、請求項5の構成により、熱伝導性の優れたシートを提供できる。また、請求項6の構成により、熱伝導性に加え、電磁波シールド性に優れたシートを提供できる。更に、請求項7の構成により、グラファイト粉末の分散性を改善でき、グラファイト粉末が均一に分散したシートを提供できる。また、請求項8の構成により、絶縁性を確保しながら、熱伝導性に優れたシートを提供でき、電気機器回路周辺でも安心して使用することができる熱伝導性シートを提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポリイミドフィルムを焼成して得られるグラファイトシートを粉末化し、そのグラファイト粉末をゴム、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーなどの母材に分散したことを特徴とする熱伝導性シート。
【請求項2】 上記グラファイト粉末は、ポリイミドフィルムの5μmから500μmの厚さのフィルムを2000℃以上で焼成後、粉末化したことを特徴とする請求項1記載の熱伝導性シート。
【請求項3】 上記グラファイト粉末の平均粒子径の大きさが、1〜100μmであることを特徴とする請求項1又は2記載の熱伝導性シート。
【請求項4】 上記グラファイト粉末に加えてアルミニウム窒化物あるいはアルミニウム酸化物、硼素窒化物を混合することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項5】 上記グラファイト粉末を母材に対し5〜60重量%充填することを特徴とする請求項1ないし4の何れか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項6】 上記グラファイト粉末を母材に対し20〜60重量%充填することを特徴とする熱伝導性電磁波シールドシート。
【請求項7】 上記グラファイト粉末は、平均粒子径が10μm以下のものと20μm以上のものの混合であることを特徴とする請求項5又は6に記載の熱伝導性電磁波シールドシート。
【請求項8】 上記グラファイト粉末を含有したシートの片面又は両面に、絶縁膜あるいは、絶縁フィルムなどを設けたことを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の熱伝導性電磁波シールドシート。

【公開番号】特開2003−105108(P2003−105108A)
【公開日】平成15年4月9日(2003.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−300135(P2001−300135)
【出願日】平成13年9月28日(2001.9.28)
【出願人】(595015890)株式会社ファインラバー研究所 (15)
【Fターム(参考)】