説明

熱伝導性シート

【課題】柔軟性、加工性および耐熱性に優れる熱伝導性シートを提供すること。
【解決手段】曲げ弾性率が500MPa以下であるポリブチレンテレフタレート100重量部に対して、粒径が3〜15μm(D50)である窒化ホウ素を30〜70重量部含有させて熱伝導性シートを成形する。上記構成により得られる熱伝導性シートは、柔軟性に優れ発熱体や放熱体との密着が充分となるため、熱伝導のロスが少なく、最大限熱伝導性を発現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性、放熱性、耐熱変形性、加工性、表面平滑性、柔軟性に優れた熱伝導性シート関するものである。
【背景技術】
【0002】
LSI半導体素子やLED照明などの高性能化、高寿命化に伴い、半導体素子やLED発光部は発熱し易くなっている。これらの部材を長期にわたって特性を維持させるためには、熱発生源の背面に熱伝導性シートを設け、ヒートシンクなどの部材を通じて熱を外部環境に逃す必要がある。また、LSI半導体素子やLED照明の小型化に伴い、使用容積の大きいヒートシンクに代わって、熱伝導性シートのみを用いることも検討されてきている。
【0003】
熱伝導性シートとしては、シリコーン樹脂やアクリル樹脂からなるものが一般的である。シリコーン樹脂やアクリル樹脂かなる熱伝導性シートは柔軟性があり、成形加工が容易であるため非常に有用である。
しかしながら、シリコーン樹脂からなる熱伝導性シートは、シロキサンガスの発生が僅かながらあり、電極接点などへ付着し接点不良を発生させるおそれがある。また、アクリル系樹脂からなる熱伝導性シートは、耐熱性が不充分となる場合があった。
【0004】
そこで、本発明者は、電極接点の接着不良を起こすようなガスが発生せず、耐熱性を備えたポリブチレンテレフタレート(以下、「PBT」とも言う)を用いて熱伝導性シートを形成することを検討した。
ポリブチレンテレフタレートは、長期にわたって耐熱性や機械的強度に優れ、難燃化が容易であるため、電気・電子機器や自動車等の分野で広く使用されている。また、加熱滅菌処理に耐えられる耐熱性、吸水率が低く耐摩耗性に優れ、さらには耐薬品性、酸素/水蒸気バリア性等の特長から、食品や医薬関連用途としても用いられている。その一方で、剛性が非常に強いため成形品として用いられることが多く、シート化して利用されることは少ない。
特許文献1には、ポリブチレンテレフタレートを用いた放熱性樹脂組成物及びそれを含む成形品が開示されているが、柔軟性を必要とする材やLED関連部材には適用されないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−239898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、ポリブチレンテレフタレートを用い、特に加工性、柔軟性に優れた熱伝導性シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、このような知見の下、成し得たものであり、以下を要旨とする。
曲げ弾性率が500MPa以下であるポリブチレンテレフタレート100重量部に対して、粒径が3〜15μm(D50)である窒化ホウ素を30〜70重量部含有してなる熱伝導性シート。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱伝導性シートは、熱伝導剤として粒径3〜15μm(D50)の窒化ホウ素を、曲げ弾性率が500MPa以下のポリブチレンテレフタレート100重量部に対して30〜70重量部添加することによって、ポリブチレンテレフタレートを用いた場合であっても柔軟性のあるシートを提供することが可能となる。柔軟性の優れた熱伝導性シートは、発熱体や放熱体との密着が充分となるため熱伝導のロスが少なく、最大限熱伝導性を発現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明において使用されるポリブチレンテレフタレートは、テレフタル酸及び1,4−ブタンジオールを主原料とする連続重合により得られるものである。主原料とは、テレフタル酸が全ジカルボン酸成分の50モル%以上を占め、1,4−ブタンジオールが全ジオール成分の50モル%以上を占めることを言う。テレフタル酸は、全ジカルボン酸成分の80モル%以上を占めることが好ましく、95モル%以上を占めることが更に好ましい。1,4−ブタンジオールは、全ジオール成分の80モル%以上を占めることが好ましく、95モル%以上を占めることが更に好ましい。
【0011】
テレフタル酸以外のジカルボン酸成分は、特に制限されず、例えば、フタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸などを使用することが出来る。
【0012】
また、1,4−ブタンジオール以外のジオール成分も、特に制限されず、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1、6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール等の脂肪族ジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロール等の脂環式ジオール、キシリレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等の芳香族ジオール等を使用することが出来る。
【0013】
本発明においては、更に、共重合成分として、グリコール酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、アルコキシカルボン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸などの単官能成分、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール等の三官能以上の多官能成分などを使用することが出来る。
【0014】
上記ポリブチレンテレフタレートとしては、曲げ弾性率(ISO 178)が500MPa以下のものを用いる。曲げ弾性率が500MPaを超えると、得られるシートの柔軟性が損なわれる。柔軟性が損なわれると発熱体や放熱体との密着性も損なわれるため、シートに付与した熱伝導性が発揮しにくくなる。
【0015】
本発明において、ポリブチレンテレフタレートに熱伝導性を付与するための熱伝導剤として窒化ホウ素を用いる。
熱伝導剤としては、一般に、銀、銅、アルミニウム等の金属系熱伝導剤、黒鉛、炭素繊維、カーボンナノチューブ、炭化ケイ素等のカーボン系熱伝導剤、アルミナ、マグネシア等の金属酸化物系熱伝導剤、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム等の金属水酸化物系熱伝導剤、窒化アルミニウムなどの窒化物系熱伝導剤が広く用いられている。
しかしながら、本発明においては、金属やカーボン系熱伝導剤を使用すると導電性を有することから絶縁性が必要な部材へは使用できない。金属水酸化物を熱伝導剤として用いると、マトリックスが軟化点の高いポリブチレンテレフタレートであるため、シート成形温度下で金属水酸化物中の水が蒸発して発泡してしまったり、シート表面に凹凸が発生してしまったりするため好ましいものではない。窒化アルミニウム、アルミナ、マグネシアを用いた場合、粒子の硬度が高いため、例えばT−ダイ押出機でシート成形を行う場合、混練時にスクリューを摩耗させてしまうおそれがある。さらに、窒化アルミニウムや窒化ケイ素は湿熱下において加水分解し分解されアンモニアを発生し易いという問題もある。
以上のことから、本発明においては、窒化ホウ素を熱伝導剤として用いることとした。
【0016】
本発明において、窒化ホウ素は上記ポリブチレンテレフタレート100重量部に対して、30〜70重量部配合される。30重量部未満であると、熱伝導性が発現しにくい。反対に70重量部を超えると、熱伝導性付与効果は飽和するばかりでなく、シートの成形性やシートの表面平滑性、柔軟性が悪化する。
【0017】
窒化ホウ素の平均粒子径(D50)は3〜15μmである。3μm未満であると、ポリブチレンテレフタレート中に窒化ホウ素が分散し難く、シート加工性が損なわれる。また、15μmを超えると、シートの表面が粗れる傾向にあり、表面平滑性が損なわれる。
【0018】
本発明の熱伝導性シートは、熱伝導剤として粒径3〜15μm(D50)の窒化ホウ素を、ポリブチレンテレフタレート100重量部に対して30〜70重量部添加することによって、柔軟性を維持しつつ熱伝導性を有するシートを提供することが可能となる。柔軟性の優れた熱伝導性シートは、発熱体や放熱体との密着が充分となるため熱伝導のロスが少なく、最大限熱伝導性を発現することができる。
【0019】
本発明においては、必要に応じて粒子の充填量を高めるために粒子径の異なる2種類以上の窒化ホウ素を組み合わせての使用や、窒化ホウ素以外の熱伝導剤を併用することも可能であるが、本発明のシートの成形性および機械的物性、物理的物性を損ねない程度の量とすることが必要である。
【0020】
本発明においては、難燃剤、光安定剤、酸化防止剤、安定剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、粘着剤等の種々の添加剤を使用することができる。
難燃剤としては、メラミンシアヌレート、ポリ燐酸アンモニウム、燐酸エステル系化合物、燐酸アンモン、炭酸アンモン、錫酸亜鉛、トリアジン化合物、メラニン化合物、グアニジン化合物、硼酸、硼酸亜鉛、炭酸亜鉛、ハイドロタルサイト、膨張黒鉛等が挙げられる。これらの中でも、耐候性、環境面の点からメラミンシアヌレートが好ましく用いられる。難燃剤の配合量は、ポリブチレンテレフタレート100重量部に対し、10〜30重量部程度である。これら難燃剤は単独で使用しても、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0021】
本発明の透明難燃性フィルムは、カレンダー成形法、押出成形法、インフレーション成形法等により成形される。熱伝導性シートの厚みは、0.05〜3.0mmであることが好ましい。0.05mm未満であるとフィルムの強度が低下する傾向にあり、3.0mmを超えると柔軟性が損なわれ、発熱体や放熱体と密着しにくくなって熱伝導性が充分に発揮されなくなるおそれがある。
【0022】
本発明の熱伝導性シートの成形にあたっては、窒化ホウ素をあらかじめ少量のポリブチレンフタレート中に分散させておくこと(マスターバッチ化すること)が好ましい。あらかじめ少量のポリブチレンテレフタレート中に窒化ホウ素を分散させておくと、シート組成物中に均一に分散されやすい。また、マスターバッチ化することにより、窒化ホウ素の凝集を抑制することができるとともに、シート成形時における組成物の流れ性が向上するため、窒化ホウ素の凝集粒のない表面性状に優れたフィルムを得ることができる。
【0023】
上記本発明の熱伝導性シートは、熱源に貼り合わせて使用される。このとき、シートの熱源との接着面には放熱剤を含む粘着層を設けてもよい。
また、放熱性を向上させるために、熱伝導性シートに金属メッキを施したり、シリカ、金属粉等を含有する放熱塗料を塗工することも可能である。
さらには、熱伝導性シートに導電配線プリントを施し、配線基板シートとして使用し、LED発光基板とヒートシングとの間に設置して熱圧着させてモジュール化することも可能である。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0025】
<実施例1〜5、比較例1〜10>
表1に記載の配合資材を真空オーブン(80℃×760mmHg条件下)により6時間乾燥させ、表1に記載の配合からなる樹脂組成物を用い、T−ダイ押出機(加工温度220℃)にて厚さ0.08mmのシートを得た。
【0026】
各実施例および比較例の配合から得られたフィルムについて、以下の測定・評価を行なった。
なお、比較例3については、窒化ホウ素粒子が細かく凝集エネルギーが高いため、樹脂との混練り時に凝集状態が解かれず、安定して熱伝導性シートを得ることができなかった。比較例6については、シート成形時に水酸化マグネシウムが樹脂溶融熱により脱水分解し樹脂を発泡させてしまったため、熱伝導性シートを得ることができなかった。
【0027】
<熱伝導性>
非定常熱線比較法(ホットワイヤー法)に基づき、迅速熱伝導率計(京都電子工業社製、QTM−500)を用いて熱伝導率を測定し、以下の基準で評価した。
○・・・1W/mK以上
×・・・1W/mK未満
【0028】
<柔軟性>
ISO 17235に準拠して、シートの柔らかさ(たわみ量)をソフトネス計測装置(MSA社製、ST−300)にて測定し、以下の基準で評価した。
○・・・2mm以上
×・・・2mm未満
【0029】
<加工性>
シートの成膜性を評価した。
○・・・問題なし
△・・・混練しにくい
×・・・押出機の吐出が不安定、又は押出機のスクリューが摩耗する
【0030】
<耐熱性>
電気オーブン(130℃、1hr)後のシートの性状を評価した。
○・・・変形なし
×・・・変形
【0031】
<表面平滑性>
シートの表面粗さを光沢計(日本電色工業社製、ハンディ光沢計PG−1)にて、60°光沢率を測定し、以下の基準で評価した。なお、光沢率の数値は大きいほうが平滑性に優れる。
○・・・5以上
×・・・5未満
【0032】
<耐湿熱性>
恒温槽70℃×95%RHの雰囲気下に4週間静置したフィルムの劣化度合いをソフトネス計測装置(MSA社製、ST−300)を用い、柔軟性(たわみ量)を測定し、試験前後のたわみ量変化率にて評価した。
○・・・7%未満
×・・・7%以上
【0033】
【表1】

【0034】
表中;
PBT1:ポリブチレンテレフタレート(三菱エンジニアリングプラスチック社製、ノバデュラン5510S、曲げ弾性率360MPa)
PBT2:ポリブチレンテレフタレート(三菱エンジニアリングプラスチック社製、ノバデュラン5505S、曲げ弾性率720MPa)
オレフィン系樹脂1:エチレン−メタクリル酸共重合体(三井デュポンポリケミカル社製、ニュクレルAN49021C)
オレフィン系樹脂2:低密度ポリエチレン(東ソー社製、ペトロセン180R)
オレフィン系樹脂3:ポリプロピレン(日本ポリプロピレン社製、RFG4VA)
熱伝導剤1:窒化ホウ素(粒径9.5μm(D50))
熱伝導剤2:窒化ホウ素(粒径13μm(D50))
熱伝導剤3:窒化ホウ素(粒径4.0μm(D50))
熱伝導剤4:窒化ホウ素(粒径2.2μm(D50))
熱伝導剤5:窒化ホウ素(粒径18μm(D50))
熱伝導剤6:窒化アルミニウム(粒径6.5μm(D50))
熱伝導剤7:水酸化マグネシウム(粒径6.8μm(D50))
【0035】
実施例1〜5は、表1からわかるように柔軟性、加工性、耐熱性、表面平滑性、耐湿熱性に優れた熱伝導性シートを得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲げ弾性率が500MPa以下であるポリブチレンテレフタレート100重量部に対して、粒径が3〜15μm(D50)である窒化ホウ素を30〜70重量部含有してなる熱伝導性シート。