説明

熱伝導性フィラーとその製造方法ならびに樹脂成形品製造方法

【課題】樹脂成形品の熱伝導率を十分向上させ得る熱伝導性フィラーとその製造方法の提供を課題としている。
【解決手段】無機物粒子が用いられて粉末状に形成されており、しかも、前記無機物粒子の表面には樹脂組成物が被覆されていることを特徴とする熱伝導性フィラーを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性フィラーとその製造方法ならびに樹脂成形品製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属粒子、無機酸化物粒子、無機窒化物粒子やこれらの複合粒子、さらには、それらに表面処理が施された粒子が熱伝導性フィラーとして広く用いられている。
これらの熱伝導性フィラーを樹脂組成物に含有させることにより、樹脂成形品の熱伝導性を向上させたりすることが行われており、エポキシ樹脂などの熱硬化性のベース樹脂に、熱伝導性フィラーを分散させた熱伝導性樹脂組成物は、チップ部品の封止や、発熱部品の搭載された回路と放熱板との間の絶縁層の形成などといった電子部品用途において広く用いられている。
例えば、特許文献1には、ベース樹脂とフィラーとを含む熱伝導性樹脂組成物によりシート状に形成された高熱伝導性樹脂層が、金属箔が用いられて形成された金属箔層上に積層された金属箔付高熱伝導接着シートが記載されており、この金属箔付高熱伝導接着シートが半導体チップの接着に用いられることが記載されている。
【0003】
この金属箔付高熱伝導接着シートのような高い熱伝導性が求められる樹脂成形品(以下「熱伝導性樹脂成形品」ともいう)には、通常、熱伝導率をより向上させることが求められている。
このことから、熱伝導性樹脂成形品の形成には、窒化ホウ素や窒化アルミニウムなどといった高い熱伝導率を有する無機窒化物が用いられたりしており、しかも、このような熱伝動性フィラーを高充填させることが検討されている。
例えば、特許文献2には、エポキシ樹脂中に熱伝導性フィラーを80〜95重量%もの高充填させた熱伝動性樹脂組成物を用いることにより、樹脂成形品の熱伝導率を3〜10W/mKとさせ得ることが記載されている。
【0004】
このように熱伝導性フィラーを高充填して熱伝導性シートのような樹脂成形品を作製する場合には、通常、樹脂組成物を溶剤に溶解させた溶液中に熱伝導性フィラーを混合して粘稠な混和物を作製し、この混和物を基材などに塗工する方法が採用されている。
【0005】
ところで、通常、無機化合物と有機化合物との親和性は、有機化合物どうしに比べて低く、熱伝導性フィラーに用いられるような無機物粒子は、樹脂組成物に対して濡れ性が低い。
そのため、従来の熱伝導性フィラーは、樹脂組成物に対する濡れ性が低い状態で樹脂成形品の形成に用いられており、このような方法で樹脂成形品を作製すると空気などを混入させやすく樹脂成形品中に空気層が形成されるおそれを有する。
このように、樹脂成形品中に空気層が形成されると熱伝導率などの特性を低下させてしまうこととなる。
【0006】
すなわち、従来の熱伝導性フィラーは、成形品の熱伝導率を十分向上させることが困難であるという問題を有している。
【0007】
【特許文献1】特開平11−186473号公報
【特許文献2】特開2001−348488号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、樹脂成形品の熱伝導率を十分向上させ得る熱伝導性フィラーとその製造方法の提供を課題としている。
また、本発明は、樹脂成形品の熱伝導率を十分向上させ得る樹脂成形品製造方法の提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題を解決すべく無機物粒子が用いられて粉末状に形成されており、しかも、前記無機物粒子の表面には樹脂組成物が被覆されていることを特徴とする熱伝導性フィラーなどを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱伝導性フィラーは、無機物粒子が用いられて粉末状に形成されており、しかも、無機物粒子の表面には樹脂組成物が被覆されていることから、熱伝導性フィラー表面に対する樹脂組成物の濡れ性を良好なものとさせ得る。
したがって、この熱伝導性フィラーを用いて樹脂成形品を形成させる際に樹脂成形品中に空気層などが形成されることを抑制させることができ樹脂成形品の熱伝導率を向上させ得る。
【0011】
また、このような熱伝導性フィラーを製造するに際して樹脂組成物を溶媒に分散させた分散液と無機物粒子とを減圧下で混合攪拌して前記分散液で無機物粒子の表面を被覆し、前記溶媒を除去することにより無機物粒子の表面に樹脂組成物が被覆された粉末状の熱伝導性フィラーを作製する場合には、無機物粒子と該無機物粒子を被覆する樹脂組成物との界面における空気層の形成も抑制させることができ樹脂成形品の熱伝導率の向上にいっそう有効な熱伝導性フィラーを形成させ得る。
【0012】
さらに、樹脂組成物中に無機物粒子が分散されてなる樹脂成形品を製造する樹脂成形品製造方法において、樹脂組成物を溶媒に分散させた分散液と無機物粒子とを減圧下で混合攪拌して前記分散液で無機物粒子の表面を被覆し、前記溶媒を除去することにより無機物粒子の表面に樹脂組成物が被覆された粉末状の熱伝導性フィラーを作製し、該熱伝導性フィラーどうしを接着させることで熱伝導率に優れた樹脂成形品を簡便な方法で作製し得るという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、樹脂組成物中に無機物粒子が分散されている樹脂成形品として、全体がシート状に形成されている熱伝導性シートの形成に用いられる場合を例に熱伝導性フィラーを説明する。
【0014】
本実施形態の熱伝導性フィラーは、無機物粒子が用いられて粉末状に形成されており、しかも、前記無機物粒子の表面には樹脂組成物が被覆されている。
【0015】
この熱伝導性フィラーの無機物粒子には、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ガリウム、二酸化ケイ素、炭化ケイ素あるいはダイヤモンドなどを主成分とするものが例示でき、中でも、良好なる熱伝導性を有する点において酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、二酸化ケイ素、および、ダイヤモンドのいずれかを主成分とするものが好適である。
【0016】
この無機物粒子は、その大きさや形状に特に限定されるものではないが、通常、平均粒径が数μmから数十μmのものが用いられる。
また、形成する熱伝導性シートに良好なる熱伝導率を付与させ得る点から、熱伝導性フィラーに占める無機物粒子の割合は、質量で90%以上であることが好ましい。
また、無機物粒子表面の樹脂組成物の被覆状況を良好なるものとし得る点において、熱伝導性フィラーに占める無機物粒子の割合は、質量で97%以下であることが好ましい。
【0017】
この無機物粒子の表面に被覆される樹脂組成物には、通常、ポリマー成分と各種添加剤が含有されている。
前記樹脂成分としては、通常、各種の熱可塑性樹脂、ならびに、熱硬化性樹脂を例示でき、この内、熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂などのポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルアミドイミド樹脂、ポリエーテルアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂などが挙げられる。
前記熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。
これらは、単独で用いてもよく、複数混合して用いてもよい。
【0018】
なかでも、優れた接着性を示すと共に耐熱性にも優れていることからエポキシ樹脂を用いることが好適である。
しかも、常温固体のエポキシ樹脂が好ましい。
この常温固体のエポキシが好ましいのは、常温液体状のエポキシ樹脂を用いた場合には、熱伝導性シートを被着体に接着すべく加熱条件下において被着体に当接させた場合に、エポキシ樹脂の粘度が低下しすぎて、熱伝導性シートの端縁部から外にエポキシ樹脂が大きく滲み出してしまうおそれがあるためである。
このエポキシ樹脂の滲み出しが激しい場合には、例えば、熱伝導性シートの周囲で、例えは、放熱器取り付け箇所や接点箇所などの本来金属部分が露出しているべき個所にエポキシ樹脂被膜を形成させて、例えば、熱伝達に問題が生じたり、あるいは、導通不良などといった問題を生じさせてしまうおそれがある。
【0019】
一方で、被着体への接着時にある程度の粘度低下が生じないと被着体と熱伝導性シートとの間に空隙などが生じやすく被着体側からの熱伝導性を低下させるおそれもある。
これらの問題をより確実に抑制させ得る点において、このエポキシ樹脂としては、エポキシ当量450〜2000g/eqの常温固体のビスフェノールA型エポキシ樹脂と、エポキシ当量160〜220g/eqの多官能の常温固体で87℃から93℃の間に軟化点を有するノボラック型エポキシ樹脂とが(ビスフェノールA型エポキシ樹脂/ノボラック型エポキシ樹脂)=40/60〜60/40となる重量比率で混合されているものを用いることが好ましい。
なお、このエポキシ当量は、JIS K 7236により求めることができる。
【0020】
前記樹脂組成物にポリマー成分とともに含有される添加剤としては、特に限定されず、例えば、分散剤、硬化剤、硬化促進剤、老化防止剤、酸化防止剤、安定剤、消泡剤、難燃剤、増粘剤、顔料などといったものを挙げることができる。
【0021】
前記ポリマー成分としてエポキシ樹脂が含まれる場合においては、前記添加剤にエポキシ樹脂の硬化剤、硬化促進剤を含有させて無機物粒子の表面を被覆する樹脂組成物に熱硬化性を付与することができる。
この硬化剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、ジアミノジフェニルスルホン、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルメタン、トリエチレンテトラミンなどのアミン系硬化剤、フェノールノボラック樹脂、アラルキル型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂、ナフタレン型フェノール樹脂、ビスフェノール系フェノール樹脂などのフェノール系硬化剤、酸無水物などを用いることができる。
中でも、ジアミノジフェニルスルホンが好適である。
前記硬化促進剤としては、特に限定されるものではないが、三フッ化ホウ素モノエチルアミンなどのアミン系硬化促進剤が好適である。
【0022】
なお、表面に未硬化状態の樹脂組成物を備える熱伝導性フィラーとすることで、該熱伝導性フィラーを用いて樹脂成形品を形成する際にこの樹脂組成物の硬化反応を併せて実施して強度ならびに熱伝導性に優れた樹脂成形品を製造させ得る。
したがって、樹脂組成物のポリマー成分にエポキシ樹脂などの熱硬化性の樹脂を用い、添加剤に硬化剤や硬化促進剤を用いる場合には、前記無機物粒子にこの樹脂組成物を未硬化状態で被覆させることが好ましい。
【0023】
次いで、無機物粒子として窒化ホウ素粒子を用い、該窒化ホウ素粒子をエポキシ樹脂組成物で被覆する場合を例に熱伝導性フィラーの製造方法を説明する。
【0024】
(熱伝導性フィラーの製造方法)
減圧下での攪拌が可能なミキサーに前記窒化ホウ素粒子を投入すると共に、別途、この窒化ホウ素粒子の表面に被覆するエポキシ樹脂溶液を作製する。
なお、要すれば、エポキシ樹脂溶液の被覆前に、シランカップリング剤などのカップリング剤を投入して減圧下で攪拌し窒化ホウ素フィラーの表面処理を実施することもできる。
なお、樹脂組成物におけるポリマー成分にエポキシ樹脂が用いられている場合には、このカップリング剤としては、末端にグリシジル基あるいはアクリロイル基を有するものを用いることが好ましい。
また、このカップリング剤に代えて酸価を有する化合物が用いられてなる分散剤や0mgKOH/gを超え35mgKOH/g以下のアミン価を有する化合物が用いられてなる分散剤で窒化ホウ素フィラーの表面処理を実施することもできる。
【0025】
前記窒化ホウ素粒子の表面をカップリング剤や分散剤で処理しておくことによりエポキシ樹脂溶液に対する濡れ性を向上させることができ、窒化ホウ素粒子の表面にエポキシ樹脂組成物を比較的均一な状態で被覆させることができる。
【0026】
前記エポキシ樹脂溶液としては、エポキシ樹脂を、例えば、2−ブタノンなどの溶剤に溶解させ、さらに、ジアミノジフェニルスルホンなどの硬化剤や、三フッ化ホウ素モノエチルアミンなどの硬化促進剤を含有させたものなどを用いることができる。
【0027】
次いで、窒化ホウ素粒子が投入されているミキサー内にこのエポキシ樹脂溶液を投入して、例えば、1〜20kPaの減圧下で数分間から数時間攪拌する。
このとき減圧下での攪拌を実施するのは、窒化ホウ素粒子とこの窒化ホウ素粒子を被覆するエポキシ樹脂溶液との界面に空気層などが形成されるおそれを抑制することができ、この熱伝導性フィラーを用いて形成する熱伝導性シートに優れた熱伝導率を発揮させ得るためである。
また、減圧下で攪拌することにより、あまり熱を加えることなく溶剤を除去させ得る。
したがって、エポキシ樹脂組成物を未硬化の状態で窒化ホウ素粒子の表面に被覆させ得る。
【0028】
この攪拌後には常圧に戻し、この時点で溶剤が残留しているようであれば、さらに、追加乾燥を実施することが好ましい。
このとき、熱伝導性フィラーがタック性を有しているような状態であれば、追加乾燥の期間中は、攪拌を継続することが好ましい。
このように熱伝導性フィラーが十分に乾燥するまで攪拌を実施することにより熱伝導性フィラーを凝集が抑制された粉末状態とすることができる。
【0029】
(熱伝導性シートの製造方法)
次いで、この熱伝導性フィラーを用いてシート状の樹脂成形品である熱伝導性シートを作製する方法について説明する。
この熱伝導性フィラーは、表面に未硬化状態のエポキシ樹脂組成物が被覆されていることから、この熱伝導性フィラー単独で熱伝導性シートを形成させることができる。
また、同様にして作製された別の熱伝導性フィラーと混合して熱伝導性シートを形成させることもできる。
【0030】
さらには、この熱伝導性フィラーを無機物粒子のマスターバッチとして用い、無機物粒子が含有されていないか、あるいは、含有されていたとしても熱伝導性フィラーよりも低濃度にした含有されていない樹脂組成物とこの熱伝導性フィラーとを混合して熱伝導性シートに用いることもできる。
【0031】
熱伝導性フィラー単独、または、複数の熱伝導性フィラーを混合して用いる場合のように、全体が粉末状態のものから熱伝導性シートを作製するには、金型を用いたプレス成形や、押出し成形などの方法が好適である。
このとき、全体が粉末状態の熱伝導性フィラーを用いることから、エア抜け性も良好で形成される熱伝導性シートに空気層が形成されるおそれを低減し得る。
また、要すれば、真空プレスやベント機構付の押出し機を用いることにより、熱伝導性シート内に空気層が形成されるおそれをさらに低減させ得る。
さらに、基材に対して静電塗装法により熱伝導性フィラーをコーティングした後に加熱・加圧する方法なども採用可能である。
【0032】
熱伝導性フィラーと樹脂組成物とを混合して用いるマスターバッチ式の方法においては、この金型を用いたプレス成形、押出し成形などに加えて、射出成形やカレンダー成形なども好適な方法として挙げることができる。
【0033】
このようにして製造される熱伝導性シートは、樹脂組成物が無機物粒子の表面に液体状態で被覆され、しかも、減圧下で被覆されていることから、無機物粒子と樹脂組成物との界面に空気層が形成されるおそれが十分低減されており、上記のような特別の加工方法を要することなく簡便な加工方法を採用しつつも熱伝導率に優れた樹脂成形品を作製し得る。
【0034】
なお、本実施形態においては、熱伝導性シートを例に説明したが、熱伝導性フィラーの用途を熱伝導性シートに限定するものではない。
また、熱伝導性フィラーを窒化ホウ素粒子にエポキシ樹脂組成物を被覆する場合を主として例示したが、本発明においては熱伝導性フィラーをこのような材料を用いたものに限定するものではない。
さらに、本実施形態においては、熱伝導性フィラーの製造方法を形成される樹脂成形品中に空気層が形成されるおそれをいっそう低減させ得る点において、減圧下にて無機物粒子の表面に樹脂組成物を被覆させる場合を例に説明したが、本発明においては、熱伝導性フィラーの製造方法をこのような方法に限定するものではない。
例えば、水系溶媒に無機物粒子とともにアクリルモノマーと重合開始剤とを分散させたスラリーを作製して、該スラリー中で無機物粒子の表面に重合させたアクリル樹脂を被覆させるような場合も本発明の意図する範囲である。
【実施例】
【0035】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
(樹脂溶液の調整)
ビスフェノール型エポキシ樹脂(東都化成社製、商品名「YD−011」)66gと、クレゾールノボラック樹脂(東都化成社製、商品名「YDCN704」)66gと、硬化剤である4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(和歌山精化社製、商品名「セイカキュアーS」)26g、硬化促進剤である三フッ化ホウ素モノエチルアミン1.3gと、2−ブタノン106gとを混合溶解させて樹脂溶液を作製した。
【0037】
(熱伝導性フィラー(表面に樹脂組成物が被覆された無機物粒子)の製造)
(前処理)
酸化アルミニウム粒子であるマイクロン社製、商品名「AH35−2」(平均粒子径:35μm)90gと同じく酸化アルミニウム粒子であるマイクロン社製、商品名「AH3−32」(平均粒子径:3μm)10gを混合したものに、信越化学工業社製、シランカップリング剤(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)、商品名「KBM−403」を加えて酸化アルミニウム粒子の表面にシランカップリング剤を被覆させた。
【0038】
(樹脂組成物の被覆)
前記前処理を実施した酸化アルミニウム粒子100gを、減圧装置を備えた攪拌釜に投入すると共に、作製される熱伝導性フィラーに占める無機物粒子の割合が71体積%となるように前記樹脂溶液17gを攪拌釜に加え、さらに、攪拌釜内が1kPaの減圧下となるように脱気して20分間攪拌を実施した。
この減圧下での攪拌後常圧に戻して、室温で一昼夜にわたる自然乾燥を実施して、表面にエポキシ樹脂組成物が未硬化状態で被覆された酸化アルミニウム粒子である熱伝導性フィラー粉末を作製した。
【0039】
(実施例2)
用いる無機物粒子を酸化アルミニウム粒子に代えて窒化ホウ素粒子(昭和電工社製、商品名「UHP−1」)100gとし、シランカップリング剤に代えて分散剤(ビックケミー社製、商品名「Disperbyk−2001」、固形分濃度46%)1.1gを前処理に用いた点、ならびに、樹脂溶液の添加量を17gに代えて、熱伝導性フィラーに占める無機物粒子の割合が55体積%となるように70.8gとした以外は実施例1と同様に熱伝導性フィラー粉末を作製した。
【0040】
(実施例3)
用いる窒化ホウ素粒子をGEスペシャルティ・マテリアルズ社製、商品名「PTX−25」100gとし、前処理に用いる分散剤をビックケミー社製、商品名「Disperbyk−164」(固形分濃度60%)1.7gとした以外は実施例2と同様に無機物粒子の割合が55体積%となるようにして熱伝導性フィラー粉末を作製した。
【0041】
(実施例4)
用いる無機物粒子を窒化ホウ素粒子に代えて窒化アルミニウム素粒子(ダウ・ケミカル社製、商品名「scan70」、100g)とした以外は実施例3と同様に熱伝導性フィラー粉末を作製した。
【0042】
(比較例1)
ヘンシェルミキサーに、実施例1の熱伝導性フィラーと同じ配合比率となるように、酸化アルミニウム粒子、シランカップリング剤、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤を投入し、3000rpmの回転数で10分間攪拌を行い、酸化アルミニウム粒子やエポキシ樹脂粉末などが均一に混合された粉末を作製した。
【0043】
(比較例2)
ヘンシェルミキサーに、実施例2の熱伝導性フィラーと同じ配合比率となるように、窒化ホウ素粒子、分散剤、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤を投入し、3000rpmの回転数で10分間攪拌を行い、窒化ホウ素粒子やエポキシ樹脂粉末などが均一に混合された粉末を作製した。
【0044】
(熱伝導性シートの作製)
(製造例1乃至6)
実施例1の熱伝導性フィラー粉末を金型に入れ、プレス成形(180℃×5分間)によりシート化して製造例1の熱伝導性シート(厚み0.2mm)を作製した。
同様に実施例2乃至4の熱伝導性フィラー粉末ならびに比較例1、2の粉末を用いたものをそれぞれ製造例2乃至6の熱伝導性シート(厚み0.2mm)として作製した。
【0045】
(評価)
各製造例の熱伝導性シートの熱伝導率の測定を実施した。
なお、熱伝導率は、アイフェイズ社製、商品名「ai−phase mobile」により熱拡散率を求め、さらに、示差走査熱量計(DSC)を用いた測定により熱伝導性シートの単位体積あたりの熱容量を測定し、先の熱拡散率に乗じることにより算出した。
【0046】
また、熱伝導性シートの脆さを指触にて判定し、取り扱いが良好で成形時における支障が生じないと見られるものを「○」、やや脆い感じがあるものの実用上問題ない普通レベルと感じられるものを「△」、もろく、成形時に慎重な取り扱いを要するものを「×」として判定した。
結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
(実施例5)
(樹脂溶液の調整)
ビスフェノール型エポキシ樹脂(東都化成社製、商品名「YD−011」)66gと、クレゾールノボラック樹脂(東都化成社製、商品名「YDCN704」)66gと、硬化剤である4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(和歌山精化社製、商品名「セイカキュアーS」)26g、硬化促進剤である三フッ化ホウ素モノエチルアミン1.3gと、2−ブタノン106gとを混合溶解させて樹脂溶液を作製した。
【0049】
(熱伝導性フィラー(表面に樹脂組成物が被覆された無機物粒子)の製造)
窒化ホウ素粒子(昭和電工社製、商品名「UHP−1」)100g、前記樹脂溶液8g、2−ブタノン10g、分散剤(ビックケミー社製、商品名「Disperbyk−2001」、固形分濃度46%)2gを、減圧装置を備えた攪拌釜に投入して、この攪拌釜内が1kPaの減圧下となるように脱気しつつ20分間攪拌を実施した。
この減圧下での攪拌後常圧に戻して、さらに、溶剤を自然乾燥させて、表面にエポキシ樹脂組成物が未硬化状態で被覆された窒化ホウ素粒子である熱伝導性フィラー粉末を作製した。
【0050】
(実施例6)
使用材料を、窒化ホウ素粒子(昭和電工社製、商品名「UHP−1」)100g、ポリカルボジイミド樹脂溶液(オプトメイト社製、商品名「HR−712」、固形分20質量%)10g、シクロヘキサノン10g、分散剤(ビックケミー社製、商品名「Disperbyk−164」、固形分濃度60%)1.7gとした以外は実施例5と同様に熱伝導性フィラー粉末を作製した。
【0051】
(実施例7)
使用材料を、窒化ホウ素粒子(昭和電工社製、商品名「UHP−1」)100g、ポリスチレン樹脂溶液(固形分20質量%)10g、2−ブタノン10g、分散剤(ビックケミー社製、商品名「Disperbyk−164」、固形分濃度60%)1.7gとした以外は実施例5と同様に熱伝導性フィラー粉末を作製した。
【0052】
(実施例8)
メチルメタクリレート10g、分散剤(ビックケミー社製、商品名「Disperbyk−2001」、固形分濃度46%)2g、重合開始剤(和光純薬社製、「アゾビスイソブチロニトリル」)0.1gを酢酸エチル100gに溶解した溶液に窒化ホウ素粒子(昭和電工社製、商品名「UHP−1」)100gを分散させた分散液を作製した。
次いで、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1gを水500gに分散させて水性溶媒を作製し、前記分散液をホモミキサーでこの水性溶媒中に分散させ、70℃の状態で5時間保持してメチルメタクリレートの重合を実施した。
重合後は、吸引ろ過を実施してアクリル樹脂が表面に被覆された窒化ホウ素粒子をろ別して、洗浄、乾燥させて熱伝導性フィラー粉末を作製した。
【0053】
(比較例3)
樹脂が被覆されていない窒化ホウ素粒子(昭和電工社製、商品名「UHP−1」)を比較例3の熱伝導性フィラーとした。
【0054】
(熱伝導性シートの作製)
(製造例7)
実施例5の熱伝導性フィラー粉末100g、エポキシ樹脂(東都化成社製、商品名「YSLV−80XY」)11.3g、クレゾールノボラック樹脂(東都化成社製、商品名「YDCN−701」)11.3g、硬化促進剤(三フッ化ホウ素モノエチルアミン)0.26gを小型粉砕機に投入してこれらを混合した粉末原料を作製した。
この粉末原料を、金型を用いてプレス成形(180℃×10分間)によりシート化して製造例7の熱伝導性シート(厚み0.2mm)を作製した。
【0055】
(製造例8)
実施例5の熱伝導性フィラー粉末50g、エポキシ樹脂(東都化成社製、商品名「YSLV−80XY」)5.6g、クレゾールノボラック樹脂(東都化成社製、商品名「YDCN−701」)5.6g、硬化促進剤(三フッ化ホウ素モノエチルアミン)0.13gを混練機(東洋精機社製、商品名「ラボプラストミル」)小型粉砕機に投入して80℃の温度で15分間混練しペースト状原料を作製した。
このペースト状原料を、金型を用いてプレス成形(180℃×10分間)によりシート化して製造例8の熱伝導性シート(厚み0.2mm)を作製した。
【0056】
(製造例9)
製造例7において形成された粉末原料をランズバーグインダストリー社製の粉体静電塗装機で銅箔に0.2mm厚さに塗工し、この塗工されたものを180℃×1時間加熱して熱伝導性シートを作製した。
【0057】
(製造例10)
実施例6の熱伝導性フィラーを用いたこと以外は、製造例8と同様にして熱伝導性シートを作製した。
【0058】
(製造例11)
実施例7の熱伝導性フィラー100gをポリスチレン樹脂(PSジャパン社製、汎用ポリスチレン樹脂)15gで希釈した後に、射出成形温度200℃に設定された射出成形機を用いて厚み0.2mmの熱伝導性シートを射出成形により作製した。
【0059】
(製造例12)
実施例8の熱伝導性フィラーを用いたこと以外は、製造例8と同様にして熱伝導性シートを作製した。
【0060】
(製造例13)
実施例8の熱伝導性フィラーを用いたこと、希釈に用いた樹脂をポリスチレン樹脂に代えてポリメチルメタクリレート樹脂(三菱レーヨン社製、商品名「アクリペットVH」)とした以外は、製造例8と同様にして熱伝導性シートを作製した。
【0061】
(製造例14)
比較例3の熱伝導性フィラーを用いたこと以外は、製造例7と同様にして熱伝導性シートを作製した。
なお、この製造例14で得られた熱伝導性シートは、表面に凸凹が見られるとともに内部にも空気層が形成されており、非常に脆く成形性に劣るものであった。
【0062】
(製造例15)
比較例3の熱伝導性フィラーを用いたこと以外は、製造例9と同様にして熱伝導性シートを作製した。
なお、この製造例15で得られた熱伝導性シートは、内部に空気層が多数形成されており、非常に脆く成形性に劣るものであった。
【0063】
(製造例16)
比較例3の熱伝導性フィラーを用いたこと以外は、製造例11と同様にして熱伝導性シートを作製した。
なお、この製造例16で得られた熱伝導性シートは、面内に無機物粒子が密で樹脂組成物が粗となっている部分と、樹脂が多く無機物粒子が粗となっている部分とが生じており、実質、熱伝導性シートとして用いることができないものであった。
【0064】
(評価)
製造例7乃至15の熱伝導性シートについて、熱伝導率ならびに絶縁破壊電圧の測定を実施した(製造例16の熱伝導性シートは評価できず)。
なお、熱伝導率は、アイフェイズ社製、商品名「ai−phase mobile」により熱拡散率を求め、さらに、示差走査熱量計(DSC)を用いた測定により熱伝導性シートの単位体積あたりの熱容量を測定し、先の熱拡散率に乗じることにより算出した。
また、絶縁破壊電圧は、常温の絶縁油(JIS C 2320に規定された1種2号絶縁油)中で1kV/minの昇圧速度で測定した。
さらに、各熱伝導性シートの脆さを指触にて判定し、取り扱いが良好で成形時における支障が生じないと見られるものを「○」、やや脆い感じがあるものの実用上問題ない普通レベルと感じられるものを「△」、もろく、成形時に慎重な取り扱いを要するものを「×」として判定した。
結果を表2に示す。
【0065】
【表2】

【0066】
表1、2などの結果からも、無機物粒子が用いられて粉末状に形成されており、しかも、無機物粒子の表面には樹脂組成物が被覆されている熱伝導性フィラーは、 樹脂組成物に対する濡れ性が良好で樹脂成形品を形成させる際に樹脂成形品中に空気層などが形成されることを抑制させることができ樹脂成形品の熱伝導率を十分向上させ得ることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機物粒子が用いられて粉末状に形成されており、しかも、前記無機物粒子の表面には樹脂組成物が被覆されていることを特徴とする熱伝導性フィラー。
【請求項2】
前記樹脂組成物が、減圧下で無機物粒子の表面に被覆されたものである請求項1記載の熱伝導性フィラー。
【請求項3】
全体に占める前記無機物粒子の割合が、質量で90〜97%である請求項1または2に記載の熱伝導性フィラー。
【請求項4】
前記無機物粒子が、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化ケイ素、および、ダイヤモンドの内の少なくとも1種を主成分とする粒子である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の熱伝導性フィラー。
【請求項5】
前記樹脂組成物が熱硬化性を有し、しかも、未硬化の状態で無機物粒子の表面に被覆されている請求項1乃至4のいずれか1項に記載の熱伝導性フィラー。
【請求項6】
樹脂組成物を溶媒に分散させた分散液と無機物粒子とを減圧下で混合攪拌して前記分散液で無機物粒子の表面を被覆し、前記溶媒を除去することにより無機物粒子の表面に樹脂組成物が被覆された粉末状の熱伝導性フィラーを作製することを特徴とする熱伝導性フィラー製造方法。
【請求項7】
樹脂組成物中に無機物粒子が分散されてなる樹脂成形品を製造する樹脂成形品製造方法であって、
樹脂組成物を溶媒に分散させた分散液と無機物粒子とを減圧下で混合攪拌して前記分散液で無機物粒子の表面を被覆し、前記溶媒を除去することにより無機物粒子の表面に樹脂組成物が被覆された粉末状の熱伝導性フィラーを作製し、該熱伝導性フィラーどうしを接着させることにより樹脂成形品を作製することを特徴とする樹脂成形品製造方法。

【公開番号】特開2008−189814(P2008−189814A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−25891(P2007−25891)
【出願日】平成19年2月5日(2007.2.5)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】