説明

熱伝導性フィルム

【課題】電気絶縁性、強靭性および熱伝導性に優れたフィルムを提供すること。
【解決手段】(A)バインダー樹脂と、(B1)窒化ホウ素粉末15〜70重量%と、(B2)セラミックス粉末(但し、窒化ホウ素粉末を除く。)5〜50重量%と、(B3)ガラス粉末5〜30重量%とを含有する熱伝導性樹脂層(但し、バインダー樹脂(A)と窒化ホウ素粉末(B1)とセラミックス粉末(B2)とガラス粉末(B3)との合計を100重量%とする。)を少なくとも一層有することを特徴とする熱伝導性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性フィルムに関する。より詳しくは、本発明は、電気絶縁性、強靭性および熱伝導性に優れ、電気・電子部品などの発熱部材に対する放熱部材として使用可能な熱伝導性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気・電子部品などの発熱部材から発生する熱を逃がすため、該発熱部材と筐体などとの間に、放熱部材として熱伝導性フィルムが介設されている。この熱伝導性フィルムは熱可塑性樹脂組成物からなるが、熱可塑性樹脂は金属材料などの無機物と比較して熱伝導性が低い。このため、熱伝導性無機粉末を熱可塑性樹脂に配合することで高熱伝導性樹脂組成物を得ようとする試みが広くなされている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記のように熱伝導性無機粉末を配合して高熱伝導性樹脂組成物を得る際、熱伝導性無機粉末として、黒鉛などの無機フィラー;アルミニウム、銅などの金属フィラーなどの導電性かつ熱伝導性物質が用いられる。しかしながら、このような樹脂組成物は導電性を示してしまうため、電気・電子部品などの電気絶縁性が要求される用途では利用範囲が制限されてしまう。
【0004】
従って、電気絶縁性が要求される熱伝導性フィルムにあっては、熱伝導性無機粉末として上記導電性フィラーを使用することは困難であることから、窒化アルミニウムなどのセラミック系無機粉末が用いられることが多い(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、熱可塑性樹脂(A)と、酸化アルミニウムおよび窒化アルミニウムなどの高熱伝導性無機化合物(B)と、低融点ガラスなどの低融点無機物(C)とを含有する熱可塑性樹脂組成物を用いることで、電気絶縁性および熱伝導性を改善する技術も開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
しかしながら、酸化アルミニウムおよび窒化アルミニウムは誘電率が高いため、これを単に含有する熱伝導性フィルムは、電気絶縁性に関する性能が未だ充分ではなく、電気・電子部品などの電気絶縁性が要求される用途では利用範囲が制限されてしまう。また、フィルムの強靭性という観点からも、上記熱可塑性樹脂組成物からなる熱伝導性フィルムは、利用範囲が制限されるという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−291220号公報
【特許文献2】特開2008−277768号公報
【特許文献3】特開2008−169265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の従来技術に存在する課題を解決しようとするものである。すなわち、本発明の課題は、電気絶縁性、強靭性および熱伝導性のバランスに優れたフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、窒化ホウ素粉末とセ
ラミックス粉末とガラス粉末とを特定量用いることで、誘電率、破断強度および熱伝導率のバランスに優れたフィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の[1]〜[9]に関する。
[1](A)バインダー樹脂と、(B1)窒化ホウ素粉末15〜70重量%と、(B2)セラミックス粉末(但し、窒化ホウ素粉末を除く。)5〜50重量%と、(B3)ガラス粉末5〜30重量%とを含有する熱伝導性樹脂層(但し、バインダー樹脂(A)と窒化ホウ素粉末(B1)とセラミックス粉末(B2)とガラス粉末(B3)との合計を100重量%とする。)を少なくとも一層有することを特徴とする熱伝導性フィルム。
[2]前記熱伝導性樹脂層において、体積固有抵抗値が1.0×1010Ω・cm以上であり、破断強度が1.5N/mm2以上であり、かつ熱伝導率が1.0W/m・K以上であ
ることを特徴とする前記[1]に記載の熱伝導性フィルム。
[3]前記窒化ホウ素粉末(B1)の50重量%平均粒子径(D50)が、3.0〜40.0μmの範囲にあることを特徴とする前記[1]または[2]に記載の熱伝導性フィルム。
[4]前記セラミックス粉末(B2)が、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭化ケイ素および炭化ホウ素から選ばれる1種以上の無機化合物からなる粉末であることを特徴とする前記[1]〜[3]の何れかに記載の熱伝導性フィルム。
[5]前記ガラス粉末(B3)の23℃、1MHzにおける誘電率が、5〜8の範囲にあることを特徴とする前記[1]〜[4]の何れかに記載の熱伝導性フィルム。
[6]前記バインダー樹脂(A)が、アクリル系重合体であることを特徴とする前記[1]〜[5]の何れかに記載の熱伝導性フィルム。
[7]膜厚が10〜300μmの範囲にあることを特徴とする前記[1]〜[6]の何れかに記載の熱伝導性フィルム。
[8]前記熱伝導性樹脂層のみからなる単層フィルムであることを特徴とする前記[1]〜[7]の何れかに記載の熱伝導性フィルム。
[9]放熱部材として用いられることを特徴とする前記[1]〜[8]の何れかに記載の熱伝導性フィルム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電気絶縁性、強靭性および熱伝導性のバランスに優れたフィルムが提供される。本発明の熱伝導性フィルムは前記特性を有するため、電気・電子部品などの発熱部材から発生する熱を逃がすための放熱部材として、好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の熱伝導性フィルムについて、好適な態様も含めて具体的に説明する。
【0013】
〔熱伝導性フィルム〕
本発明の熱伝導性フィルムは、バインダー樹脂(A)と特定無機粉末(B)とを含有する層(以下「熱伝導性樹脂層」ともいう。)を少なくとも一層有する。ここで、前記熱伝導性樹脂層は、バインダー樹脂(A)と特定無機粉末(B)とを含有する熱伝導性樹脂組成物からなり;特定無機粉末(B)は、窒化ホウ素粉末(B1)とセラミックス粉末(B2)(但し、窒化ホウ素粉末を除く。)とガラス粉末(B3)とからなる。
【0014】
例えば、本発明の熱伝導性フィルムは、熱伝導性樹脂層のみからなる単層フィルムであってもよく、熱伝導性樹脂層を二層以上有する多層フィルムであってもよく、熱伝導性樹脂層と他の樹脂組成物からなる層とを有する二層以上の多層フィルムであってもよい。
【0015】
これらの中では、本発明の熱伝導性フィルムは、その製造を簡易かつ迅速にできること
から、熱伝導性樹脂層のみからなる単層フィルムであることが好ましい。また、本発明の熱伝導性フィルムは、バインダー樹脂(A)と特定無機粉末(B)とを含有するため、単層構造とした場合であっても、優れた電気絶縁性、強靭性および熱伝導性と、熱源などの被接着物に対する優れた密着性とを兼ね備えたものとなる。
【0016】
なお、熱伝導性樹脂層は、本発明の目的を損なわない範囲で、バインダー樹脂(A)および特定無機粉末(B)以外に、後述する分散剤、溶剤および添加剤などを含有してもよい。
【0017】
本発明の熱伝導性フィルムにおいて、熱伝導性樹脂層の体積固有抵抗値は、通常は1.0×1010Ω・cm以上、好ましくは1.0×1012Ω・cm以上である。体積固有抵抗値が前記値未満であると電気絶縁性が充分でない場合がある。なお、体積固有抵抗値は高いほど好ましいため上限は特にないが、その上限は、通常は1.0×1015Ω・cm、好ましくは1.0×1014Ω・cm程度である。
【0018】
本発明の熱伝導性フィルムにおいて、熱伝導性樹脂層の破断強度は、通常は1.5N/mm2以上、好ましくは2.0N/mm2以上である。破断強度が前記値未満であると、使用時に熱伝導性フィルムが容易に破断してしまうことがある。なお、破断強度は高いほど好ましいため上限は特にないが、その上限は、通常は10.0N/mm2、好ましくは8
.0N/mm2程度である。
【0019】
本発明の熱伝導性フィルムにおいて、熱伝導性樹脂層の熱伝導率は、通常は1.0W/m・K以上、好ましくは2.0W/m・K以上である。熱伝導率が前記値未満であると、熱伝導性フィルムを放熱部材として用いた場合に、その熱伝導性が不充分となることがある。なお、熱伝導率は高いほど好ましいため上限は特にないが、その上限は、通常は10.0W/m・K、好ましくは7.0W/m・K程度である。
【0020】
なお、本発明の熱伝導性樹脂層の体積固有抵抗値、破断強度および熱伝導率は、後述する実施例に記載の条件下で測定される値である。
【0021】
本発明の熱伝導性フィルムの膜厚は、通常は10〜300μm、好ましくは10〜100μm、より好ましくは20〜80μmである。また、熱伝導性フィルムが多層フィルムである場合には、熱伝導性フィルムの全膜厚に対する上記熱伝導性樹脂層の膜厚(熱伝導性樹脂層が二層以上ある場合はその合計の膜厚)の割合は、通常は20〜80%、好ましくは30〜70%の範囲にある。膜厚または割合が前記範囲を下回ると、熱伝導性フィルムの電気絶縁性が低下することがある。膜厚または割合が前記範囲を上回ると、キャスト塗工方式で生産する場合には、溶剤を充分に除去することが困難になってくるため、例えば、薄いフィルムを張り合わせて厚みを確保するなどの工程が必要になり、生産性が落ちることがある。
【0022】
〔熱伝導性樹脂組成物〕
上記熱伝導性樹脂層は、熱伝導性樹脂組成物からなる。前記熱伝導性樹脂組成物は、バインダー樹脂(A)および特定無機粉末(B)を必須成分として含有し、さらに分散剤、溶剤および添加剤などを任意成分として含有してもよい。
【0023】
《バインダー樹脂(A)》
バインダー樹脂(A)としては、熱可塑性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、アクリル系重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、これらの重合体にカルボキシル基やエポキシ基などの官能基を付与した重合体、シリコーンゴム、天然ゴムなどが挙げられる。これらの中では、熱伝導性樹脂組成物の取り扱い性、塗工性および柔
軟性の観点から、アクリル系重合体を好ましく用いることができる。
【0024】
なお、アクリル系重合体とは、(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体または共重合体の総称であり、具体的には(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を、全構成単位中に50〜100重量%含有する重合体のことを示す。
【0025】
アクリル系重合体の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算値で、好ましくは10000〜400000、より好ましくは20000〜200000、特に好ましくは30000〜160000である。Mwが前記範囲を下回ると熱伝導性フィルムに適度な強度を付与することが困難となる傾向があり、Mwが前記範囲を上回ると熱伝導性樹脂組成物の取り扱い性が劣る傾向がある。Mwは、モノマーの共重合割合および重合温度などの条件を適宜選択することにより制御することができる。なお、Mwは、後述する実施例に記載の条件下で測定される値である。
【0026】
アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸エステル、および必要に応じて他の単量体を重合することにより製造することができる。なお、アクリル系重合体を製造するに際して、重合開始剤を用いることが好ましい。
【0027】
−(メタ)アクリル酸エステル−
(メタ)アクリル酸エステルは、下記一般式(1)で表される。
【0028】
【化1】

【0029】
式(1)中、Zは水素原子またはメチル基を表し、Rは1価の有機基を表す。
【0030】
上記一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステルとしては、アルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、フェノキシアルキル(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、アルキルグリシジル(メタ)アクリレート、シクロアルキル(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0031】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0032】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(
メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0033】
フェノキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0034】
アルコキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−プロポキシエチル(メタ)アクリレート、2−ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2−メトキシブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0035】
アルキルグリシジル(メタ)アクリレートとしては、グリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0036】
シクロアルキル(メタ)アクリレートとしては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、4−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0037】
ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートとしては、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0038】
また、(メタ)アクリル酸エステルとしては、末端に(メタ)アクリロイル基を有する、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレートなどのマクロモノマー類を挙げることもできる。
【0039】
これらの(メタ)アクリル酸エステルの中では、アルキル(メタ)アクリレートおよびヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、ブチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレートおよび2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0040】
(メタ)アクリル酸エステルは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
上記アクリル系重合体において、その全構成単位中、上記(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位は、通常は50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上含まれる。
【0042】
−他の単量体−
(メタ)アクリル酸エステルとともに使用可能な他の単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニルフタル酸、ビニルトルエンなどの芳香族ビニル化合物類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル類;(メタ)アクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリルなどのシアン化ビニル化合物類;1,3−ブタジエン、イソプレンなどの脂肪族共役ジエン類;(メタ)アクリル酸、クロトン酸などの不飽和モノカルボン酸;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などの不飽和ジカル
ボン酸;ビニルベンジルメチルエーテル、ビニルグリシジルエーテルなどのビニルエーテル類;末端に(メタ)アクリロイル基を有する、ポリスチレン、ポリシリコーンなどのマクロモノマー類などが挙げられる。他の単量体は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
−重合開始剤−
重合開始剤としては、N,N'−アゾビスイソブチロニトリル、4−アジドベンズアル
デヒドなどのアゾ化合物またはアジド化合物;ベンジル、ベンゾイン、ベンゾフェノン、カンファーキノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−メチル−[4'−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−1−プ
ロパノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オンなどのカルボニル化合物;ジt−ブチルパーオキサイド、ジt−ヘキシルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイドなどのパーオキサイド化合物などが挙げられる。重合開始剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
《特定無機粉末(B)》
特定無機粉末(B)は、窒化ホウ素粉末(B1)とセラミックス粉末(B2)(但し、窒化ホウ素粉末を除く。)とガラス粉末(B3)とからなる。
【0045】
<窒化ホウ素粉末(B1)>
窒化ホウ素粉末(B1)を用いることで、本発明の熱伝導性フィルムに優れた電気絶縁性および熱伝導性を付与することができる。窒化ホウ素粉末(B1)としては、凝集粒状、その結晶が平らな鱗片状(平板状)の窒化ホウ素が挙げられるが、凝集粒状の窒化ホウ素が好ましい。
【0046】
窒化ホウ素の形状は、通常は鱗片状であるため、その面方向の熱伝導率が厚み方向の熱伝導率に比べて約20倍優れているという異方性がある。従って、鱗片状の窒化ホウ素を含有する熱伝導性樹脂組成物をフィルム成形した場合には、通常は窒化ホウ素の鱗片状結晶がフィルムの面方向に配向するので、フィルムの厚み方向の熱伝導率が低くなる。これに対して、凝集粒状の窒化ホウ素を含有する熱伝導性樹脂組成物をフィルム成形した場合には、凝集粒状の窒化ホウ素は配向性がないので、フィルムの厚み方向の熱伝導率を確保することができる。
【0047】
窒化ホウ素粉末(B1)の50重量%平均粒子径(D50)は、3.0〜40.0μmの範囲にあることが好ましく、3.0〜20.0μmの範囲にあることがより好ましい。D50が前記範囲にあると、窒化ホウ素粉末(B1)などの固形分を高密度に充填することができる。なお、窒化ホウ素粉末(B1)のD50は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法によって測定される値である。ここでD50とは、粒度分布を有する粉末において、該粉末を粒子径の小さいものから累積して、累積量が全粉末量の50重量%になる粒子径をいう。
【0048】
<セラミックス粉末(B2)>
セラミックス粉末(B2)を用いることで、本発明の熱伝導性フィルムに優れた強靭性および熱伝導性を付与することができる。セラミックス粉末(B2)としては、窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの金属窒化物;酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化ベリリウム、酸化銅、亜酸化銅などの金属酸化物;炭化ケイ素、炭化ホウ素などの金属炭化物;ダイヤモンドなどの絶縁性炭素材料などからなる粉末が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
これらの中では、粒度分布の制御が容易で、熱伝導性に優れることから、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭化ケイ素および炭化ホウ素から選ばれる1種以上の無機化合物からなる粉末が好ましい。
【0050】
セラミックス粉末(B2)の形状としては、粒子状、微粒子状、ナノ粒子、凝集粒子状、チューブ状、ナノチューブ状、ワイヤ状、ロッド状、針状、板状、不定形、ラグビーボール状、六面体状、大粒子と微小粒子とが複合化した複合粒子状などが挙げられる。
【0051】
セラミックス粉末(B2)とバインダー樹脂(A)との密着性を高めたり、作業性を容易にしたりするため、セラミックス粉末(B2)はシラン処理剤などの表面処理剤で表面処理がなされたものであってもよい。表面処理剤としてば、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤などが挙げられる。表面処理方法としては、従来公知の処理方法を利用できる。
【0052】
セラミックス粉末(B2)の50重量%平均粒子径(D50)は、1.0〜30.0μmの範囲にあることが好ましく、2.0〜10.0μmの範囲にあることがより好ましい。D50が前記範囲にあると、セラミックス粉末(B2)などの固形分を高密度に充填することができる。なお、本発明におけるセラミックス粉末(B2)のD50は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法によって測定される値である。
【0053】
<ガラス粉末(B3)>
ガラス粉末(B3)を用いることにより、本発明の熱伝導性フィルムに優れた電気絶縁性および強靭性を付与することができる。特に、誘電率が後述する範囲にあるガラス粉末を用いることにより、電気絶縁性、強靭性および熱伝導性のバランスに優れたフィルムを得ることが出来る。
【0054】
また、窒化ホウ素粉末(B1)、セラミックス粉末(B2)およびガラス粉末(B3)の密度は、通常は窒化ホウ素粉末(B1)<ガラス粉末(B3)<セラミックス粉末(B2)の順に大きくなる。このため、窒化ホウ素粉末(B1)およびセラミックス粉末(B2)とともにガラス粉末(B3)を用いることにより、熱伝導性樹脂組成物における特定無機粉末(B)の分散性(安定性)が向上するとともに、フィルムの強靭性および熱伝導性が向上する。
【0055】
ガラス粉末(B3)の密度は、2.0〜3.5g/cm3の範囲にあることが好ましく
、2.0〜3.0g/cm3の範囲にあることがより好ましい。ガラス粉末(B3)の密
度が前記範囲を上回ると、窒化ホウ素粉末(B1)との密度差が大きくなり過ぎ、ペーストの分散安定性が悪くなる。
【0056】
ガラス粉末(B3)としては、
酸化鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素および酸化カルシウム
(PbO−B23−SiO2−CaO)系;
酸化亜鉛、酸化ホウ素および酸化ケイ素(ZnO−B23−SiO2)系;
酸化鉛および酸化ケイ素(PbO−SiO2)系;
酸化鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素および酸化アルミニウム
(PbO−B23−SiO2−Al23)系;
酸化鉛、酸化亜鉛、酸化ホウ素および酸化ケイ素
(PbO−ZnO−B23−SiO2)系;
酸化鉛、酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素および酸化チタン
(PbO−ZnO−B23−SiO2−TiO2)系;
酸化ビスマス、酸化ホウ素および酸化ケイ素(Bi23−B23−SiO2)系;
酸化亜鉛、酸化リンおよび酸化ケイ素(ZnO−P25−SiO2)系;
酸化亜鉛、酸化ホウ素および酸化カリウム(ZnO−B23−K2O)系;
酸化リン、酸化ホウ素および酸化アルミニウム(P25−B23−Al23)系;
酸化亜鉛、酸化リン、酸化ケイ素および酸化アルミニウム
(ZnO−P25−SiO2−Al23)系;
酸化亜鉛、酸化リンおよび酸化チタン(ZnO−P25−TiO2)系;
酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素および酸化カリウム
(ZnO−B23−SiO2−K2O)系;
酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化カリウムおよび酸化カルシウム
(ZnO−B23−SiO2−K2O−CaO)系;
酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化カリウムおよび酸化アルミニウム
(ZnO−B23−SiO2−K2O−Al23)系;
酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化カリウム、酸化カルシウムおよび酸化アルミニウム(ZnO−B23−SiO2−K2O−CaO−Al23)系;
酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化カリウム、酸化アルミニウム、酸化カルシウムおよび酸化ストロンチウム(ZnO−B23−SiO2−K2O−Al23−CaO−SrO)系などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
ガラス粉末(B3)の50重量%平均粒子径(D50)は、0.5〜5.0μmの範囲にあることが好ましく、1.5〜3.5μmの範囲にあることがより好ましい。D50が前記範囲にあると、ガラス粉末(B3)などの固形分を高密度に充填することができる。なお、本発明におけるガラス粉末(B3)のD50は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法によって測定される値である。
【0058】
ガラス粉末(B3)の23℃、1MHzにおける誘電率は、5〜8の範囲にあることが好ましく、5〜7の範囲にあることがより好ましい。誘電率が前記範囲にあると、電気絶縁性に優れたフィルムを得ることができる。
【0059】
ガラス粉末(B3)の軟化点は、400℃以上であることが好ましく、450℃以上であることがより好ましい。軟化点が前記値未満のガラス粉末は、耐水性や耐候性が低いため、該ガラス粉末を含有するフィルムは劣化しやすいという問題がある。また軟化点が前記値未満のガラス粉末は、原材料が高価であり、製造上の安定性も乏しい。軟化点の上限は特に限定されないが、通常は750℃、好ましくは650℃程度である。なお、ガラス粉末(B3)の軟化点は、示差走査熱量測定(DSC)により測定される値である。
【0060】
ガラス粉末(B3)は、従来公知の方法および装置を用いて、所定の組成および軟化点を有するように原料酸化物を混合・溶融・固化させた後、所定の平均粒子径となるように粉砕することにより得ることができる。また、ガラス粉末(B3)の形状は、不定形など特に限定されない。
【0061】
粉砕方法としては、媒体撹拌ミル、コロイドミル、湿式ボールミルなどの湿式粉砕方法;ジェットミル、乾式ボールミル、ロールクラッシャーなどの乾式粉砕方法などが挙げられ、複数の粉砕方法を組み合せて用いてもよい。また、粉砕して得られる粉末の平均粒子径を調整するために分級処理を行ってもよい。分級処理としては、風力式分級機や篩い分け装置などを用いることができる。
【0062】
<特定無機粉末(B)の含有量>
上記熱伝導性樹脂層または熱伝導性樹脂組成物において、バインダー樹脂(A)、窒化
ホウ素粉末(B1)、セラミックス粉末(B2)およびガラス粉末(B3)の含有量は、下記範囲にある。すなわち、バインダー樹脂(A)と窒化ホウ素粉末(B1)とセラミックス粉末(B2)とガラス粉末(B3)との合計100重量%に対して、
窒化ホウ素粉末(B1)が15〜70重量%、セラミックス粉末(B2)が5〜50重量%、ガラス粉末(B3)が5〜30重量%の範囲で含まれ;
窒化ホウ素粉末(B1)が25〜65重量%、セラミックス粉末(B2)が10〜45重量%、ガラス粉末(B3)が5〜20重量%の範囲で含まれることが好ましく;
窒化ホウ素粉末(B1)が35〜60重量%、セラミックス粉末(B2)が15〜40重量%、ガラス粉末(B3)が5〜15重量%の範囲で含まれることが特に好ましい。
【0063】
バインダー樹脂(A)、窒化ホウ素粉末(B1)、セラミックス粉末(B2)およびガラス粉末(B3)が上記範囲で含まれることにより、電気絶縁性、強靭性および熱伝導性のバランスに優れたフィルムを得ることが出来る。
【0064】
《分散剤》
熱伝導性樹脂組成物は、さらに分散剤を含有してもよい。分散剤としては、シランカップリング剤などが挙げられる。シランカップリング剤としては、下記一般式(2)で表される化合物;3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリヘキシルシランなどのメタクリロキシ基含有シラン化合物などが挙げられる。
【0065】
【化2】

【0066】
式(2)中、pは3〜20、好ましくは4〜16の整数、mは1〜3の整数、nは1〜3の整数、aは1〜3の整数である。
【0067】
上記一般式(2)で表される化合物の具体例としては、n−ブチルトリメトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、n−ヘキサデシルトリメトキシシラン、n−デシルジメチルメトキシシラン、n−ヘキサデシルジメチルメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、n−デシルトリエトキシシラン、n−ヘキサデシルトリエトキシシラン、n−デシルエチルジエトキシシラン、n−ヘキサデシルエチルジエトキシシラン、n−ブチルトリプロポキシシラン、n−デシルトリプロポキシシラン、n−ヘキサデシルトリプロポキシシランが挙げられる。また、分散剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
上記熱伝導性樹脂組成物において、上記分散剤は、バインダー樹脂(A)および特定無機粉末(B)の合計100重量部に対して、好ましくは0.1〜5.0重量部、より好ましくは0.5〜3.0重量部の範囲で含まれる。
【0069】
《溶剤》
熱伝導性樹脂組成物は、その塗工性が向上することから、さらに溶剤を含有してもよい。溶剤は、バインダー樹脂(A)の溶解性および特定無機粉末(B)との親和性が良好で
あり、熱伝導性樹脂組成物に適度な粘性を付与することができ、乾燥処理により容易に蒸発除去できる溶剤であることが好ましい。
【0070】
上記溶剤としては、標準沸点(1気圧における沸点)が60〜200℃の範囲にある、ケトン類、アルコール類およびエステル類(以下、これらを「特定溶剤」ともいう。)が好ましい。
【0071】
上記特定溶剤としては、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルブチルケトン、ジプロピルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;
n−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、シクロヘキサノール、ジアセトンアルコールなどのアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテル系アルコール類;
メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチル−3−エトキシプロピオネートなどのエーテル系エステル類;酢酸−n−ブチル、酢酸アミルなどの飽和脂肪族モノカルボン酸アルキルエステル類;乳酸エチル、乳酸−n−ブチルなどの乳酸エステル類などが挙げられる。
【0072】
これらの中では、メチルブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチル−3−エトキシプロピオネートおよび乳酸エチルが好ましい。また、上記特定溶剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0073】
さらに、上記特定溶剤以外の溶剤を用いてもよく、例えば、テレビン油、エチルセロソルブ、メチルセロソルブ、テルピネオール、ブチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトール、イソプロピルアルコールおよびベンジルアルコールが挙げられる。
【0074】
上記熱伝導性樹脂組成物において、上記溶剤は、バインダー樹脂(A)および特定無機粉末(B)の合計100重量部に対して、好ましくは10〜70重量部、より好ましくは20〜60重量部の範囲で含まれる。
【0075】
《添加剤》
上記熱伝導性樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、特定無機粉末(B)以外の無機粉末を含有してもよい。また、上記熱伝導性樹脂組成物は、可塑剤、接着助剤、ハレーション防止剤、レベリング剤、保存安定剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの添加剤を含有してもよい。
【0076】
《熱伝導性樹脂組成物の調製方法》
上記熱伝導性樹脂組成物は、バインダー樹脂(A)、特定無機粉末(B)ならびに必要に応じて用いられる分散剤、溶剤および添加剤などの任意成分を、ロール混練機、ミキサー、ホモミキサーまたはサンドミルなどの混練・分散機を用いて混練することにより調製することができる。
【0077】
上記熱伝導性樹脂組成物は、ペースト状、固体状、液体状など何れの形状の組成物でも構わないが、フィルムへの成形性などの観点から、ペースト状組成物であることが好ましい。例えば、上記のようにして調製される熱伝導性樹脂組成物の粘度は、1〜20Pa・sであることが好ましく、3〜15Pa・sであることがより好ましい。
【0078】
〔熱伝導性フィルムの製造方法〕
本発明の熱伝導性フィルムは、上記熱伝導性樹脂組成物をそのままフィルム状に成形して製造することができる。また、本発明の熱伝導性フィルムは、上記熱伝導性樹脂組成物を支持フィルム上に塗布して熱伝導性樹脂層を形成し、該樹脂層を支持フィルムから剥離することにより製造することもできる。また、上記熱伝導性樹脂組成物および他の樹脂組成物の塗布を複数回行うことにより、二層以上の多層フィルムを製造することもできる。
【0079】
また、支持フィルム上に上記熱伝導性樹脂層が形成されたフィルムは、転写フィルムとして用いることができる。すなわち、前記転写フィルムは、支持フィルム、および該支持フィルム上に形成された、上記熱伝導性樹脂組成物からなる熱伝導性樹脂層を有する。さらに前記転写フィルムは、熱伝導性樹脂層上に形成されたカバーフィルムを有していてもよい。以下、転写フィルムの各構成要素について具体的に説明する。
【0080】
《支持フィルム》
支持フィルムは、耐熱性および耐溶剤性を有するとともに、可撓性を有する樹脂フィルムであることが好ましい。支持フィルムが可撓性を有することにより、ロールコーターまたはブレードコーターなどによって支持フィルム上に上記熱伝導性樹脂組成物を塗布することができる。また、転写フィルムを、ロール状に巻回した状態で保存および供給することができる。
【0081】
支持フィルムを形成する樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニルおよびポリフロロエチレンなどの含フッ素樹脂、ナイロン、セルロースなどが挙げられる。
【0082】
支持フィルムの膜厚は、通常は20〜100μmである。また、支持フィルム表面には離型処理が施されていることが好ましい。これにより、熱源などの被接着物への転写工程において、支持フィルムからの熱伝導性樹脂層の剥離操作を容易に行うことができる。
【0083】
《カバーフィルム》
転写フィルムには、熱伝導性樹脂層表面を保護するために、該樹脂層上にカバーフィルムが設けられていてもよい。前記カバーフィルムは、可撓性を有する樹脂フィルムであることが好ましい。これにより、転写フィルムをロール状に巻回した状態で保存および供給することができる。
【0084】
カバーフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルムおよびポリビニルアルコール系フィルムなどが挙げられる。
【0085】
カバーフィルムの膜厚は、通常は20〜100μmである。また、カバーフィルム表面には離型処理が施されていてもよく、これによりカバーフィルムの剥離操作を容易に行うことができる。
【0086】
また、カバーフィルムと熱伝導性樹脂層との密着力は、転写フィルムの性質上、熱伝導性樹脂層と支持フィルムとの密着力よりも小さいことが好ましい。
【0087】
《熱伝導性樹脂層》
熱伝導性樹脂層は、通常は上記熱伝導性樹脂組成物を支持フィルム上に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥して溶剤の全部または一部を除去することにより形成される。
【0088】
熱伝導性樹脂層を支持フィルム上に塗布する方法としては、膜厚の均一性が高く、かつ
膜厚が大きい(例えば10μm以上の)塗膜を効率よく形成することができる方法であることが好ましく、具体的には、ロールコーターによる塗布方法、ブレードコーターによる塗布方法、カーテンコーターによる塗布方法およびワイヤーコーターによる塗布方法などが挙げられる。
【0089】
塗膜の乾燥条件としては、例えば50〜150℃で0.5〜30分程度であり、乾燥後における溶剤の残存割合(熱伝導性樹脂層中の溶剤の含有量)は、通常は2重量%以内である。
【0090】
上述のようにして形成される熱伝導性樹脂層の膜厚は、通常は10〜300μm、好ましくは10〜100μmである。膜厚が前記範囲にあると、所期の電気絶縁性、強靭性および熱伝導性を確保することができる。
【0091】
〔熱伝導性フィルムの用途〕
本発明の熱伝導性フィルムは、体積固有抵抗値、破断強度および熱伝導率が上述の範囲とすることができ、電気絶縁性、強靭性および熱伝導性に優れる。このため、本発明の熱伝導性フィルムは、電気・電子部品などの発熱部材に対する放熱部材として好適に用いることができる。
【0092】
具体的には、本発明の熱伝導性フィルムは、家電製品、OA機器部品、AV機器部品、自動車内外装部品などの発熱部材に対する放熱部材として好適に用いることができる。特に、多量の熱を発する家電製品やOA機器の外装材料として好適に用いることができる。
【0093】
また、本発明の熱伝導性フィルムは、照明装置などが有する光源で発生した熱を放熱するための放熱部材として用いることができる。特に有機EL(Electro Luminescence)照明装置において、有機EL発光素子近傍で発生する熱を逃がすための放熱部材として好適に用いることができる。
【実施例】
【0094】
以下、本発明の熱伝導性フィルムについて実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例および比較例中の「部」および「%」は、特記しない限り、「重量部」および「重量%」を示す。
【0095】
<重量平均分子量(Mw)の測定方法>
バインダー樹脂(アクリル系重合体)の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、東ソー(株)製、商品名:HLC−8220GPC)を用いて、ポリスチレン換算で測定した値である。
測定方法:ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法
標準物質:ポリスチレン
装置:東ソー(株)製、商品名:HLC−8220GPC
カラム:東ソー(株)製、商品名:Tskguardcolumn SuperHZM-M
溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
測定温度:40℃
<ガラス粉末(B3)の誘電率の測定方法>
ガラス粉末(B3)を溶融し、型中に流し込み、除冷してガラスブロックを作製した。ガラスブロックの両面を鏡面研磨した後、その表面に全電極を蒸着し、アジレントテクノロジー株式会社製インピーダンスアナライザ4294Aを用いて、周波数1MHzにて静電容量を測定し、試料の面積と厚みから誘電率を算出した。
【0096】
<ガラス粉末(B3)の比重の測定方法>
ガラス粉末(B3)の比重は、東京サイエンス株式会社製空気比較式比重計(東京サイエンス1000型)を用いて測定した。
【0097】
<ガラス粉末(B3)の軟化点の測定方法>
ガラス粉末(B3)を試料ホルダーに封入し、示差走査熱量計(TA Instruments社製 2920NDSC)を用い、窒素雰囲気下に10℃/分で30℃から700℃まで昇温して、得られた吸熱ピークトップの温度をガラス粉末(B3)の軟化点とした。
【0098】
〔熱伝導性フィルムの評価〕
(1)熱伝導率
熱伝導性樹脂層からなる熱伝導性フィルムの熱伝導率(W/m・K)は、株式会社アイフェイズ製熱伝導率測定システム(ai−Phase Mobile 1u、温度波分析法により測定)を用いて測定した。
【0099】
(2)体積固有抵抗値
熱伝導性樹脂層からなる熱伝導性フィルムの体積固有抵抗(μΩ・cm)は、熱伝導性樹脂組成物を用いて、ガラス基板からなるパネル(150mm×150mm×1.8mm)上に所定膜厚の熱伝導性樹脂層を形成し、NPS社製の「Resistivity Proccessor ModelΣ−5」を用いて評価した。
【0100】
(3)破断強度
熱伝導性フィルムから、12mm×75mmのダンベル状のサンプルをそれぞれ作製し、このサンプルの両端をつかみ、距離35mmとなるように、引っ張り試験機(EZ GRAPH、島津製作所製)のチャックに固定した。引張速度300mm/minで引っ張
り試験を行い、熱伝導性樹脂層からなる熱伝導性フィルムの破断強度を測定した。
【0101】
〔合成例1〕バインダー樹脂の合成
ブチルメタクリレート30部、エチルヘキシルメタクリレート30部、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート20部およびN,N’−アゾビスイソブチロニトリル0.75部を、攪拌機付きオートクレーブに仕込み、窒素雰囲気下において室温で均一になるまで攪拌した。
【0102】
攪拌後、80℃で3時間重合させ、さらにN,N’−アゾビスイソブチロニトリル0.25部を加えて1時間重合させ、100℃で1時間重合を継続させた後、室温まで冷却してポリマー溶液を得た。
【0103】
得られたポリマー溶液は、重合率が98%であり、このポリマー溶液から析出した共重合体(以下「バインダー樹脂(A1)」ともいう。)のMwは80000であり、300℃での熱重量減少率は5重量%であった。
【0104】
[実施例1]
(1)熱伝導性樹脂組成物の調製
(A)バインダー樹脂として合成例1で得られたバインダー樹脂(A1)30%、(B1)窒化ホウ素粉末(D50=4.0μm)35%、(B2)セラミックス粉末として酸化アルミニウム粉末(D50=2.5μm)25%、および(B3)ガラス粉末としてZnO−B23−SiO2系ガラス粉末(不定形、D50=2.5μm、密度2.6g/c
3、誘電率6.5、軟化点560℃)10%からなる混合物100部と、溶剤としてプ
ロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート40部と、分散剤としてn−デシルトリメトキシシラン1.5部とをビーズミルで混練りした後、ステンレスメッシュ(400
メッシュ、38μm径)でフィルタリングすることにより、熱伝導性樹脂組成物を調製した。この熱伝導性樹脂組成物を用いて、上記(2)体積固有抵抗値に従い、乾燥後の膜厚20μmの熱伝導性樹脂層の体積固有抵抗値を測定した。測定結果を表1に示す。
【0105】
(2)転写フィルムの作製、評価
(1)で得られた熱伝導性樹脂組成物を、PETフィルムからなる支持フィルム上に、ブレードコーターを用いて塗布して塗膜を形成し、該塗膜を100℃で5分間乾燥して溶剤を完全に除去することにより、膜厚20μmの熱伝導性樹脂層を支持フィルム上に形成した。次いで、支持フィルムから熱伝導性樹脂層を剥離し、該樹脂層からなる熱伝導性フィルムを得た。この熱伝導性フィルムを用いて、上記(1)熱伝導率および(3)破断強度に従い、熱伝導率および破断強度を測定した。測定結果を表1に示す。
【0106】
[実施例2〜8、比較例1〜3]
実施例1において、バインダー樹脂(A)および特定無機粉末(B)を表1記載の成分・組成で用いたこと以外は実施例1と同様にして、熱伝導性樹脂組成物を調製し、転写フィルムを作製した。次いで、支持フィルムから熱伝導性樹脂層を剥離し、該樹脂層からなる熱伝導性フィルムを得た。上記(1)〜(3)の測定結果を表1に示す。
【0107】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)バインダー樹脂と、
(B1)窒化ホウ素粉末15〜70重量%と、
(B2)セラミックス粉末(但し、窒化ホウ素粉末を除く。)5〜50重量%と、
(B3)ガラス粉末5〜30重量%と
を含有する熱伝導性樹脂層(但し、バインダー樹脂(A)と窒化ホウ素粉末(B1)とセラミックス粉末(B2)とガラス粉末(B3)との合計を100重量%とする。)を少なくとも一層有することを特徴とする熱伝導性フィルム。
【請求項2】
前記熱伝導性樹脂層において、
体積固有抵抗値が1.0×1010Ω・cm以上であり、
破断強度が1.5N/mm2以上であり、かつ
熱伝導率が1.0W/m・K以上である
ことを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性フィルム。
【請求項3】
前記窒化ホウ素粉末(B1)の50重量%平均粒子径(D50)が、3.0〜40.0μmの範囲にあることを特徴とする請求項1または2に記載の熱伝導性フィルム。
【請求項4】
前記セラミックス粉末(B2)が、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭化ケイ素および炭化ホウ素から選ばれる1種以上の無機化合物からなる粉末であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の熱伝導性フィルム。
【請求項5】
前記ガラス粉末(B3)の23℃、1MHzにおける誘電率が、5〜8の範囲にあることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の熱伝導性フィルム。
【請求項6】
前記バインダー樹脂(A)が、アクリル系重合体であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の熱伝導性フィルム。
【請求項7】
膜厚が10〜300μmの範囲にあることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の熱伝導性フィルム。
【請求項8】
前記熱伝導性樹脂層のみからなる単層フィルムであることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の熱伝導性フィルム。
【請求項9】
放熱部材として用いられることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載の熱伝導性フィルム。

【公開番号】特開2010−195960(P2010−195960A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43820(P2009−43820)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】