説明

熱伝導性塗料

【課題】放熱性に優れた熱伝導性塗料を提供すること。
【解決手段】熱伝導性が高く、表面が実質的に平滑ピッチ系炭素繊維フィラーと合成樹脂からなるマトリクスとを複合化することにより、熱伝導率 3W/(m・K)超の熱伝導性に優れる熱伝導性塗料が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピッチ系炭素繊維フィラーを原料に用いた塗料に関わるものである。さらに詳しくは、メルトブロー法によって作製した三次元ランダムマット状ピッチ系炭素繊維マットを粉砕してなるピッチ系炭素繊維フィラーのサイズ(形状・寸法)や熱伝導率を制御したうえで、硬化性樹脂と複合した熱伝導性塗料であり、発熱性電子部品の放熱材料に適するものである。
【背景技術】
【0002】
高性能の炭素繊維はポリアクリロニトリル(PAN)を原料とするPAN系炭素繊維と、一連のピッチ類を原料とするピッチ系炭素繊維に分類できる。そして炭素繊維は強度・弾性率が通常の合成高分子に比較して著しく高いという特徴を利用し、航空・宇宙用途、建築・土木用途、スポーツ・レジャー用途などに広く用いられている。
【0003】
炭素繊維は、通常の合成高分子に比較して熱伝導率が高く、放熱性に優れていると言われている。炭素繊維など炭素材料は、フォノンの移動により高い熱伝導率を達成すると言われている。フォノンは、結晶が発達している材料において良く伝達する。ところが市販のPAN系炭素繊維は結晶が充分に発達しているとは言えず、その熱伝導率は通常200W/(m・K)よりも小さく、サーマルマネジメントの観点からは必ずしも好適であるとは言えない。これに対して、ピッチ系炭素繊維は黒鉛化率が高いために結晶が良く成長し、PAN系炭素繊維に較べて高熱伝導率を達成しやすいと認識されている。
【0004】
近年、発熱性電子部品の高密度化や、携帯用パソコンをはじめとする電子機器の小型化、薄型化、軽量化に伴い、それらに用いられる放熱部材の低熱抵抗化の要求が益々高まっており、放熱部材の薄型化が要求されている。放熱部材としては、熱伝導性無機材料粉末が充填された硬化物からなる熱伝導性シート、ゲル状物質に熱伝導性無機材料粉末が充填され、柔軟性を有する硬化物からなる熱伝導性スペーサー、液状シリコーンに熱伝導性無機材料粉末が充填された流動性のある熱伝導性ペーストが例示される。これらのうち、薄葉化が容易なものは、熱伝導性ペーストである。
更なる薄葉化を可能にするには、マトリックスとして溶剤に可溶なものを用い、熱伝導性フィラー、マトリックス、溶剤と合わせて塗料の形状とすることである。
【0005】
熱伝導性塗料の熱伝導率を向上させるには、マトリックスに熱伝導材を高密充填させると共に薄葉化すればよく、その薄葉化のためには塗料の粘度と充填材のサイズを調整すればよい。熱伝導性が優れた物質として、酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、炭化ケイ素、石英及び水酸化アルミニウムなどの金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物並びに金属水酸化物などが知られている。特許文献1には放熱性添加剤として酸化チタン等の金属材料系の充填材を含む放熱塗膜が被覆された塗装体の記載がある。しかし、金属材料系の充填材は比重が高く、熱伝導性塗料の重量が大きくなってしまうという扱いにくい性質も有する。
【特許文献1】特開2005−1393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、熱伝導性に優れる塗料が求められているという観点から、分散性に優れた熱伝導材を塗料に添加するのが望ましい。また、ここに用いられる熱伝導材は高い熱伝導性を有すると同時に、塗料の中で熱流に沿うように繊維状態を維持できるような材料であることが要求される。このように塗料は、通常高温度で利用されるため、放熱性であるうえに、熱伝導性塗料としての耐熱性と機械的強度とを有することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、熱伝導性塗料の熱伝導性を向上させることを鑑み、ピッチ系炭素繊維フィラーが、塗料内において分散性に優れ、良好な熱伝導率を達成することを見出して本発明に到達した。
即ち、本発明の課題は、熱伝導材としてピッチ系炭素繊維フィラーと有機高分子又は無機高分子よりなる樹脂マトリックスと、これら及び溶剤とを複合し希釈した熱伝導性塗料によって解決できる。
【0008】
更に、本発明には熱伝導材としてのピッチ系炭素繊維フィラーを硬化性樹脂と複合した熱伝導性塗料であって、走査型電子顕微鏡での観察表面が実質的に平滑であり、六角網面の成長方向に由来する結晶粒サイズが少なくとも5nmであり、当該熱伝導性塗料に当該ピッチ系炭素繊維フィラーを5〜80重量%含み、当該熱伝導性塗料の熱伝導率が少なくとも3W/(m・K)であること、当該炭素繊維がメソフェーズピッチを原料とし、平均繊維径が5〜20μm、平均繊維長が5〜6000μm、平均繊維径に対する繊維径分散の百分率(CV値)が5〜20%であること、マトリクス100重量部に対し、当該ピッチ系炭素繊維フィラーを5〜1000重量含むことも好ましい。
【0009】
熱伝導材としてピッチ系炭素繊維フィラー100重量部に対して、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、石英、及び水酸化アルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機フィラー1〜500重量部をさらに含むことも好ましい。
【0010】
更に、熱伝導材としてピッチ系炭素繊維フィラー100重量部に対して、1〜500重量部のマグネシウム、金、銀、銅、アルミニウム、鉄、及び黒鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種の導電性フィラーを含むことも本発明に含まれる。
【0011】
加えて、熱伝導材としてピッチ系炭素繊維フィラー100重量部に対して、1〜50重量部のマグネシウム、金、銀、銅、アルミニウム、鉄、及び黒鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種の導電性フィラーを含むこと、並びに、マトリクスとして、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル系共重合体、、及びスチレン−ブタジエン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含むことも本発明の好ましい実施態様である。
【0012】
本発明には、熱伝導材としてのピッチ系炭素繊維フィラーを溶剤に浸漬せしめる工程と、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂及びスチレン−ブタジエン共重合体の群より選ばれる少なくとも1種の樹脂からなるマトリクスと混合して混合物を得る工程と、次いで前記溶剤と同一又は異なる溶剤により前記混合物を希釈する工程とを含む熱伝導性塗料の製造方法も包含される。また本発明には熱伝導材としてのピッチ系炭素繊維フィラーと、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、石英及び水酸化アルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機フィラーを溶剤に浸漬せしめる工程と、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂及びスチレン−ブタジエン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂からなるマトリクスと混合して混合物を得る工程と、次いで前記溶剤と同一又は異なる溶剤により前記混合物を希釈する工程とを含む熱伝導性塗料の製造方法も包含される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の熱伝導性塗料は、黒鉛結晶の広がり(六角網面の成長方向に由来する結晶粒子サイズ)を一定サイズ以上に制御し、かつ表面の形状が平滑になるように制御したピッチ系炭素繊維フィラーを利用することによって、高い熱伝導性を可能とし、また塗料としてのハンドリング性が良好なものなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明の実施の形態について説明する。
本発明で用いられるピッチ系炭素繊維の原料としては、例えば、ナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物、石油系ピッチや石炭系ピッチといった縮合複素環化合物等が挙げられる。その中でもナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物が好ましく、特に光学的異方性ピッチ、すなわちメソフェーズピッチが好ましい。メソフェーズピッチは、黒鉛化処理を行った際に黒鉛化度が向上しやすいため、炭素繊維の熱伝導性を向上させるうえで特に好ましいためである。
【0015】
原料ピッチとなる光学異方性ピッチの軟化点はメトラー法により求めることができ、250℃以上350℃以下が好ましい。軟化点が250℃より低いと、不融化の際に繊維同士の融着や大きな熱収縮が発生する。また、350℃より高いとピッチの熱分解が生じ糸状になりにくくなる。
【0016】
光学異方性ピッチは溶融後、ノズルより吐出しこれを冷却することによる溶融紡糸によって繊維化できる。紡糸方法としては、具体的には口金から吐出したピッチをワインダーで引き取る通常の紡糸法、熱風をアトマイジング源として用いるメルトブロー法、遠心力を利用してピッチを引き取る遠心紡糸法などが挙げられる。中でも、曲率半径の制御、生産性の高さなどの理由からメルトブロー法を用いるのが好ましい。
【0017】
光学異方性ピッチは溶融紡糸された後、不融化、焼成、必要に応じて粉砕を経て最後に黒鉛化することによってピッチ系炭素繊維フィラーとする。以下、メルトブロー法を例にとって、各工程について説明する。
【0018】
本発明においては、紡糸時の温度は、光学異方性ピッチの粘度が30〜250ポイズの範囲にある温度であることが望ましい。更に好ましくは50〜200ポイズの範囲にある温度である。紡糸ノズルは、導入角αが10〜55°であり、吐出口長さLと吐出口の径Dの比L/Dが6〜20の範囲にあるノズルが好ましく用いられる。紡糸条件がこの範囲にある時、熔融状態にある光学異方性ピッチに加えられる剪断作用が、光学異方性ピッチを構成する芳香環分子をある程度配列させることできる。紡糸条件がこの条件から外れるとき、例えば、粘度がより大きい、または導入角がより小さい、又はL/Dがより大きいときなど剪断力がより強く加わる条件では、配列が進みすぎて黒鉛化した際に、炭素繊維がフィブリル化を起こして割れやすくなる。逆に粘度がより小さい、または導入角がより大きい、またはL/Dがより小さいなど剪断力がより小さいなど剪断力の影響が小さい条件では、芳香環があまり配列しないため、黒鉛化処理しても黒鉛化度がそれほど向上せず、高い熱伝導性が得られない。
【0019】
ノズル孔から吐出(出糸)されたピッチ繊維は、100〜350℃に加温された毎分100〜10000mの線速度のガスを細化点近傍に吹き付けることによって短繊維化される。吹き付けるガスは空気、窒素、アルゴンを用いることができるが、コストパフォーマンスの点から空気で充分である。
【0020】
ピッチ繊維は、金網ベルト上に捕集され連続的なマット状物になり、さらにクロスラップされることで三次元ランダムマットとなる。
三次元ランダムマットとは、クロスラップされていることに加え、ピッチ繊維が三次元的に交絡しているマットをいう。この交絡は、ノズルから、金網ベルトに到達する間にチムニと呼ばれる筒において達成される。線状の繊維が立体的に交絡するために、通常一次元的な挙動しか示さない繊維の特性が立体的にも反映されるようになる。
【0021】
このようにして得られたピッチ繊維よりなる三次元ランダムマットは、公知の方法で不融化する。不融化は、空気又はオゾン、二酸化窒素、窒素、酸素、ヨウ素若しくは臭素を空気に添加したガスを用いて200〜350℃で達成される。安全性、利便性を考慮すると空気中で実施することが好ましい。また、不融化したピッチ繊維は、真空中、或いは窒素、アルゴン又はクリプトン等の不活性ガス中で600〜1500℃で焼成され、次いで2000〜3500℃で黒鉛化されるが、焼成は常圧で、且つコストの安い窒素中で実施される場合が多く、黒鉛化は使用する炉の形式に応じて、不活性ガスの種類を変更することが一般的である。不融化後或いは焼成後、必要に応じ得られた繊維を粉砕する。粉砕は公知の方法によって行うことができる。具体的には、カッター、ボールミル、ジェットミル、クラッシャーなどを用いることができる。粉砕された炭素繊維を必要に応じて焼成し、次いで黒鉛化する。黒鉛化温度は、炭素繊維としての熱伝導率を高くするためには、2000〜3500℃にすることが好ましい。より好ましくは2300〜3500℃である。黒鉛化の際に黒鉛性のルツボに入れ処理すると、外部からの物理的、化学的作用を遮断でき好ましい。黒鉛製のルツボは上記の炭素繊維を、所望の量入れることが出来るものであるならば大きさ、形状に制約はないが、黒鉛化処理中または冷却中に炉内の酸化性のガス、または水蒸気との反応による当該炭素繊維の損傷を防ぐために、フタ付きの気密性の高いものが好適に利用できる。
【0022】
本発明で用いるピッチ系炭素繊維フィラーは、走査型電子顕微鏡での観察表面が実質的に平滑であることが好ましい。ここで平滑であるとは、走査型電子顕微鏡による観察において、表面の凹凸が確認されないこと、表面の亀裂が確認されないこと、フィラーの割れが確認されないことを意味する。ここで実質的にとは、例えば電子顕微鏡での観察において、視野中(倍率1000)に上記欠陥部が10箇所以下であれば、少々含まれていてもよいことを意味する。走査型電子顕微鏡による観察表面が実質的に平滑であると、ピッチ系炭素繊維フィラーとマトリクス樹脂とを混合して熱伝導性塗料を作成した場合、ピッチ系炭素繊維フィラーとマトリクス樹脂との相互作用が小さくなり、その結果、熱伝導性塗料の粘度が小さくなり、ハンドリング性が向上する。逆に、ピッチ系炭素繊維フィラーが平滑でないと、ピッチ系炭素繊維フィラーとマトリクス樹脂との相互作用が大きくなり、その結果、熱伝導性塗料の粘度が大きくなり、ハンドリング性が低下する。
【0023】
ピッチ系炭素繊維フィラーの観察表面を平滑にするには、炭素繊維フィラーを粉砕後に黒鉛化することにより、ピッチ系炭素繊維フィラーの欠損を減殺でき、また欠損の発生を抑制することが可能となるので、平滑化を達成することができる。逆に、黒鉛化処理後に粉砕すると、ピッチ系炭素繊維フィラーの欠損が多くなり、走査型電子顕微鏡での観察表面に欠損が観察される。
【0024】
本発明で用いるピッチ系炭素繊維フィラーは、六角網面の成長方向に由来する結晶粒サイズが5nm以上であることが必要である。六角網面の成長方向に由来する結晶粒サイズは公知の方法によって求めることができ、X線回折法にて得られる炭素結晶の(110)面からの回折線によって求めることができる。結晶粒サイズが重要になるのは、熱伝導が主としてフォノンによって担われており、フォノンを発生するのが結晶であることに由来している。より好ましくは、結晶粒サイズは20nm以上であり、さらに好ましくは30nm以上である。
【0025】
三次元ランダムマット状炭素繊維の平均繊維径は5〜20μmであることが必要である。5μm未満の場合には、マットの形状が保持できなくなることがあり生産性が低い。繊維径が20μmを超えると、不融化工程でのムラが大きくなり部分的に融着が起きることがある。より好ましくは、平均繊維径は5〜15μmであり、さらに好ましくは7〜12μmである。
【0026】
これに対して、ピッチ系炭素繊維フィラーの平均繊維長は5〜6000μmであることが好ましい。一方5μmを下回ると繊維としての特徴が失われ、充分な熱伝導度を発揮できない。他方6000μmを超えると、繊維の交絡が著しく増大し、熱伝導性塗料の粘度が高くなりハンドリングが困難になる。より好ましくは、平均繊維長は10〜3000μm、さらに好ましくは20〜1000μmである。
【0027】
なお、平均繊維径に対する繊維径分散の百分率として求められるCV値は、5〜20%であることが好ましい。CV値が5%を下回ることは工程上あり得ない。また、CV値が20%を超えると、不融化でトラブルを起こしやすい直径20μm以上の繊維が増える可能性が高くなり、生産性の観点から好ましくない。
【0028】
本発明に関わる熱伝導性塗料の熱伝導率は公知の方法によって測定することができるが、その中でも、プローブ法、ホットディスク法、レーザーフラッシュ法が好ましく、特にプローブ法が簡易的で好ましい。一般に炭素繊維そのものの熱伝導度は数百W/(m・K)であるが、複合体にすると、欠陥の発生、空気の混入、予期せぬ空隙の発生により、熱伝導率は急激に低減する。よって、熱伝導性塗料としての熱伝導率は実質的に2W/(m・K)を超えることが困難であるとされてきた。
【0029】
これに対し、本発明ではピッチ系炭素繊維フィラーを用いることにより、この問題を解決し、塗料として熱伝導率3W/(m・K)以上を実現できた。より望ましくは、熱伝導率は5W/(m・K)以上であり、さらに望ましくは8W/(m・K)以上である。
【0030】
ピッチ系炭素繊維フィラーの含有率は、マトリクス100重量部に対し、当該ピッチ系炭素繊維フィラーを5〜1000重量部である。一方、含有率が5重量部未満であると熱伝導率が低く、仮にいくら薄化しても低熱抵抗化は困難となる。他方、1000重量部を超えると塗料の流動性が低くなり、薄葉化が困難となる。さらに望ましい含有率は25〜900重量部である。
【0031】
また、ピッチ系炭素繊維フィラー以外の熱伝導材として、酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、炭化ケイ素、石英、水酸化アルミニウム、銀粉などの金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、金属炭化物、金属水酸化物又は金属を添加材として加えても構わない。
【0032】
熱伝導性塗料の体積抵抗値を制御したい場合は、電気絶縁性の無機フィラーを添加することができる。具体的には酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛などの金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなどの金属窒化物などが挙げられ、これらの中で酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、石英、及び水酸化アルミニウムが好ましく使用し得る。これらの無機フィラーは単独で使用してもよく、また2種以上併用してもよい。また、無機フィラーの添加量としては、ピッチ系炭素繊維フィラー100重量部に対し1〜2500重量部の範囲で添加することができ、好ましくは1〜500重量部の範囲、さらに好ましくは1〜50重量部の範囲で添加し得る。上記範囲を逸脱した場合、塗料のハンドリング性が低下するか、又は所望の体積抵抗値が得られないなどの問題があるので好ましくない。すなわち本発明の熱伝導性塗料には熱伝導材としてピッチ系炭素繊維フィラー100重量部に対して、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、石英、及び水酸化アルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機フィラー1〜500重量部、より好ましくは1〜50重量部、さらに含むことが好ましい。
【0033】
一方、熱伝導性塗料の電気伝導性を制御したい場合には、金属やその合金、黒鉛などの導電性フィラーを添加することができる。これらの中でマグネシウム、金、銀、銅、アルミニウム、鉄又は黒鉛が好ましく使用しうる。これらは単独で使用してもよく、また2種以上で混用使用してもよい。なかんずく黒鉛は、鱗片状、膨張黒鉛、天然黒鉛、膨張黒鉛の圧延製品などを適宜用いることができる。また導電性フィラーの添加量としては、ピッチ系炭素繊維フィラー100重量部に対し1〜2500重量部の範囲で添加することができ、好ましくは1〜500重量部の範囲、さらに好ましくは1〜50重量部の範囲で添加し得る。上記範囲を逸脱した場合、塗料のハンドリング性が低下するか、又は所望の電気伝導性が得られないなどの問題があり好ましくない。すなわち本発明の熱伝導性塗料には熱伝導材としてピッチ系炭素繊維フィラー100重量部に対して、1〜500重量部、より好ましくは1〜50重量部のマグネシウム、金、銀、銅、アルミニウム、鉄、及び黒鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種の導電性フィラーを含むことが好ましい。
【0034】
本発明の熱伝導性塗料はシェアレート1.7(1/S)のとき、0.1〜15Pa・S(1〜150poise)であることが望ましい。さらに好ましくは0.3〜10Pa・S(30〜100poise)である。0.1Pa・S(1poise)未満のときは塗料の流動性が高すぎて、直ぐに流れ出てしまい、塗料として不向きである。15Pa・S(150poise)を超えると、流動性が低すぎて薄葉化が困難になる。しかし、薄葉化が必要でない場合には、最大で50Pa・Sまで粘度を上げても構わない。ただより好ましくは30Pa・S程度までの増粘に抑制すればよい。なお、粘度は公知の方法を用いて測定できるが、具体的には、例えばB型粘度計を用いて測定することができる。
【0035】
本発明で用いられるマトリクスとして使用される樹脂は、気密性、絶縁性等の特性が備わったものである。これらをマトリクスとすることによって信頼性の高い熱伝導性塗料が得られる。これらマトリクスに特に制限はないが、具体的にはシリコーン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂及びスチレン−ブタジエン共重合体が一般的に使用される。すなわち本発明の熱伝導性塗料にはマトリクスとして、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、及びスチレン−ブタジエン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含むことが好ましい。これらは必要に応じ共重合化して使用できる。また、シリコーン樹脂は熱硬化性型、熱可塑性型、オイル状のいずれでも構わない。
本発明で用いられる溶剤は、特に制限はないが、マトリクスと親和性が高い必要がある。
【0036】
本発明の熱伝導性塗料は、上記諸材料を万能混合攪拌機、ニーダー等で混練し、溶剤で希釈することによって製造することができる。このとき、ピッチ系炭素繊維フィラーをマトリクスに親和性の高い溶剤に浸漬させ減容し、ここにマトリクスを混合し混練することによって希釈に必要とする溶剤量を抑制し、更には増粘を抑制できる。
【0037】
本発明の熱伝導性塗料の用途は、電子部品の放熱部材、熱伝導性充填剤、温度測定用等の絶縁性充填剤等がある。例えば、本発明の熱伝導性塗料は、MPU、パワートランジスタ、トランス等の発熱性電子部品からの熱を放熱フィンや放熱ファン等の放熱部品に伝熱させるために使用され、発熱性電子部品と放熱部品の間に挟み込まれて使用される。これによって、発熱性電子部品と放熱部品間の伝熱が良好となり、長期的に発熱性電子部品の誤作動を軽減させることができる。或いは、ヒートパイプとヒートシンクの接続や、種々の発熱体の組込まれたモジュールとヒートシンクとの接続に好適に用いることができる。
【0038】
混練する前にピッチ系炭素繊維フィラーは、電解酸化などによる酸化処理やカップリング剤やサイジング剤で処理することにより、表面を改質させたものとして使用することも可能である。また、無電解メッキ法、電解メッキ法、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなどの物理的蒸着法、化学的蒸着法、塗装、浸漬、微細粒子を機械的に固着させるメカノケミカル法などの適応によって金属やセラミックスを表面に被覆させたものでもよい。以下、更に詳しく本発明について実施例を掲げて説明する。
【実施例】
【0039】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
なお、本実施例における各値は、以下の方法に従って求めた。
(1)ピッチ系炭素繊維フィラーの平均繊維径は、黒鉛化を経たピッチ系炭素繊維フィラーをJIS R7607に準じ、光学顕微鏡下でスケールを用いて60本測定し、その平均値から求めた。
(2)ピッチ系炭素繊維フィラーの平均繊維長は、黒鉛化を経たピッチ系炭素繊維フィラーを抜き取り、光学顕微鏡下において測長器により2000本測定し、その平均値から求めた。
(3)ピッチ系炭素繊維フィラーの結晶サイズは、X線回折に現れる(110)面からの反射を測定し、学振法にて求めた。
(4)ピッチ系炭素繊維フィラーの表面は走査型電子顕微鏡で観察した。
(5)熱伝導性塗料の熱伝導率は、塗料をリファレンスプレート上に1mm厚に塗布し、京都電子社製QTM−500を用いプローブ法で求めた。
(6)熱伝導性塗料の電気伝導率は、ダイアインスツルメンツのロレスタEP或いはハイレスタで測定した。
(7)熱伝導性塗料の粘度はB型粘度計にて計測した。
【0040】
[実施例1]
縮合多環炭化水素化合物よりなるピッチを主原料とした。光学的異方性割合は100%、軟化点が283℃であった。直径0.2mmの孔の紡糸口金を使用し、スリットから加熱空気を毎分5500mの線速度で噴出させて、溶融ピッチを牽引して平均直径14.5μmのピッチ系繊維を作製した。紡出された繊維をベルト上に捕集してマットとし、さらにクロスラッピングで目付320g/mのピッチ系繊維からなる三次元ランダムマットとした。
【0041】
この三次元ランダムマットを空気中で170℃から285℃まで平均昇温速度2℃/分で昇温して不融化、更に800℃で焼成を行った。この三次元ランダムマットをカッター(ターボ工業製)を用いて800rpmで粉砕し、3000℃で黒鉛化した。
黒鉛化後のピッチ系炭素繊維フィラーの平均繊維径は9.8μm、平均繊維径に対する繊維直径分散の比は12%であった。平均繊維長は50μmであった。六角網面の成長方向に由来する結晶サイズは70nmであった。ピッチ系炭素繊維フィラーの走査型電子顕微鏡で観察した表面は平滑であった。
【0042】
アセトン50重量部と、ピッチ系炭素繊維フィラー80重量部とを混合し、この混合物にアクリル樹脂(日本触媒社製商品名「ユーダブルS5000」)20重量部を加え、プラネタリーミキサーを用いて30分間混練しながら真空脱泡し、更にアセトン300重量部を添加し希釈して塗料を製造した。
作製した熱伝導性塗料の熱伝導率を測定したところ、5.9W/(m・K)であり、電気伝導度は1.7×10Ω/□(Ω/sq.)であった。また粘度は1.0Pa・Sであった。
【0043】
[実施例2]
実施例1と同様の手法でピッチ系炭素繊維フィラーを作製した。
ヘキサン50重量部と、ピッチ系炭素繊維フィラー80重量部とを混合し、この混合物にシリコーン樹脂(東芝シリコーン社製商品名「TSF451−100」)20重量%を加え、プラネタリーミキサーを用いて30分間混練しながら真空脱泡し、更にヘキサン(1:1)300重量部を用いて混練物を希釈して熱伝導性塗料を得た。
得られた熱伝導性塗料の熱伝導率を測定したところ、6.7W/(m・K)であった。また、電気伝導度は2.4×10Ω/□(Ω/sq.)であり、粘度は0.9Pa・Sであった。
【0044】
[実施例3]
実施例1と同様の手法でピッチ系炭素繊維フィラーを作製した。
水50重量部と、ピッチ系炭素繊維フィラー80重量部とを混合し、そこにスチレン−ブタジエン共重合体(日本ゼオン社製商品名「Nipol LX407AS」)20重量%を加え、プラネタリーミキサーを用いて30分間混合しながら真空脱泡して熱伝導性塗料を得た。
得られた熱伝導性塗料の熱伝導率を測定したところ、5.1W/(m・K)であった。また電気伝導度は1.8×10Ω/□(Ω/sq.)であり、粘度は1.1Pa・Sであった。
【0045】
[実施例4]
実施例1と同様の手法でピッチ系炭素繊維フィラーを作製した。
水50重量部と、ピッチ系炭素繊維フィラー80重量部とを混合し、この混合物に酢酸ビニル樹脂(住友化学社製商品名「Sumikaflex」)20重量%を添加し、ついでプラネタリーミキサーを用いて30分間混合しながら真空脱泡して熱伝導性塗料を製造した。
製造された熱伝導性塗料の熱伝導率を測定したところ、5.8W/(m・K)であった。なお、電気伝導度は1.8×10Ω/□(Ω/sq.)であり、粘度は1.0Pa・Sであった。
【0046】
[実施例5]
実施例1と同様の手法でピッチ系炭素繊維フィラーを作製した。
ヘキサン50重量部と、ピッチ系炭素繊維フィラー60重量部と、窒化ホウ素20重量部と、シリコーン樹脂(東芝シリコーン社製商品名「TSF451−100」)20重量部とをプラネタリーミキサーを用いて30分間混合しながら真空脱泡して塗料を製造した。
作製した熱伝導性塗料の熱伝導率を測定したところ、5.4W/(m・K)であった。電気伝導度は1.9×10Ω/□(Ω/sq.)であった。粘度は0.8Pa・Sであった。
【0047】
[実施例6]
実施例1と同様の手法で三次元ランダムマット状炭素繊維を作製した。
ヘキサン50重量部と、ピッチ系炭素繊維フィラー60重量部と、銀粉20重量部と、シリコーン樹脂(東芝シリコーン社製商品名「TSF451−100」)20重量部とをプラネタリーミキサーを用いて30分間混合しながら真空脱泡して塗料を製造した。
作製した熱伝導性塗料の熱伝導率を測定したところ、6.7W/(m・K)であった。電気伝導度は1.2×10Ω/□(Ω/sq.)であった。粘度は1.0Pa・Sであった。
【0048】
[比較例1]
ピッチ系炭素繊維フィラーの含有率を3%とした以外は、実施例1と同じ方法で塗料を作製した。
成形された熱伝導性塗料の熱伝導率を測定したところ、0.5W/(m・K)であった。電気伝導度は1.9×10Ω/□(Ω/sq.)であった。粘度は0.5Pa・Sであった。ピッチ系炭素繊維フィラーの量が5%を下回ったため、充分な熱伝導率を有さなかった。
【0049】
[比較例2]
アセトン、ピッチ系炭素繊維フィラー及びアクリル樹脂を同時に混合した以外は、実施例1と同じ方法で塗料を作成した。
成形された熱伝導性塗料の熱伝導率を測定したところ、4.7W/(m・K)であった。また電気伝導度は2.6×10Ω/□(Ω/sq.)であった。粘度は20.0Pa・Sであった。予めピッチ系炭素繊維フィラーを分散させてから希釈しなかったため、ピッチ系炭素繊維フィラーの分散性が悪く、粘度が高くなりハンドリング性が低くなった。
【0050】
[比較例3]
三次元ランダムマット状炭素繊維を黒鉛化後に粉砕し、ピッチ系炭素繊維フィラーを得た以外は、実施例1と同じ方法で塗料を作製した。このときのピッチ系炭素繊維フィラーの表面は平滑でなかった。
成形された熱伝導性塗料の熱伝導率を測定したところ、5.6W/(m・K)であった。電気伝導度は2.4×10Ω/□(Ω/sq.)であった。粘度は16.0Pa・Sであった。ピッチ系炭素繊維フィラーの表面が平滑でないため、粘度が高くなり、ハンドリング性が低くなった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の熱伝導性塗料は、黒鉛結晶の広がりを一定サイズ以上に制御し、表面性を制御したピッチ系炭素繊維フィラーを利用することによって、高い熱伝導性が発現でき、ハンドリング性に優れることを明らかにでき、放熱性部材への適用を可能ならしめている。さらに電子部品用放熱シートや熱交換器等への密着性を高めることによって、熱伝導効率を高めるとともに、軽量化を達成できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導材としてピッチ系炭素繊維フィラーと、有機高分子又は無機高分子樹脂からなるマトリクスとを含む熱伝導性塗料。
【請求項2】
請求項1に記載のピッチ系炭素繊維フィラーが走査型電子顕微鏡での観察表面が実質的に平滑であり、六角網面の成長方向に由来する結晶サイズが5nm以上であり、当該熱伝導性塗料中にマトリクス100重量部に対し、当該ピッチ系炭素繊維フィラーを5〜1000重量部含み、当該熱伝導性塗料の熱伝導率が3W/(m・K)以上であることを特徴とする熱伝導性塗料。
【請求項3】
ピッチ系炭素繊維フィラーがメソフェーズピッチを原料とし、平均繊維径が5〜20μm、平均繊維長が5〜6000μm、平均繊維径に対する繊維径分散の百分率(CV値)が5〜20%である請求項1又は請求項2に記載の熱伝導性塗料。
【請求項4】
熱伝導材としてピッチ系炭素繊維フィラー100重量部に対して、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、石英、及び水酸化アルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機フィラー1〜500重量部をさらに含む請求項1〜3のいずれかに記載の熱伝導性塗料。
【請求項5】
熱伝導材としてピッチ系炭素繊維フィラー100重量部に対して、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、石英、及び水酸化アルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機フィラー1〜50重量部をさらに含む請求項4に記載の熱伝導性塗料。
【請求項6】
熱伝導材としてピッチ系炭素繊維フィラー100重量部に対して、1〜500重量部のマグネシウム、金、銀、銅、アルミニウム、鉄、及び黒鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種の導電性フィラーを含む請求項1〜5のいずれかに記載の熱伝導性塗料。
【請求項7】
熱伝導材としてピッチ系炭素繊維フィラー100重量部に対して、1〜50重量部のマグネシウム、金、銀、銅、アルミニウム、鉄、及び黒鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種の導電性フィラーを含む請求項6に記載の熱伝導性塗料。
【請求項8】
マトリクスとして、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、及びスチレン−ブタジエン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む請求項1〜7のいずれかに記載の熱伝導性塗料。
【請求項9】
熱伝導材としてのピッチ系炭素繊維フィラーを溶剤に浸漬せしめる工程と、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、及びスチレン−ブタジエン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂からなるマトリクスとを混合して混合物を得る工程と、次いで前記溶剤と同一又は異なる溶剤により前記混合物を希釈する工程とを含む熱伝導性塗料の製造方法。
【請求項10】
熱伝導材としてのピッチ系炭素繊維フィラーと、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、石英、及び水酸化アルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機フィラーとを溶剤に浸漬せしめる工程と、前記ピッチ系炭素繊維フィラーと前記無機フィラーとからなる浸漬物と、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、及びスチレン−ブタジエン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂からなるマトリクスとを混合して混合物を得る工程と、次いで前記溶剤と同一又は異なる溶剤により前記混合物を希釈する工程とを含む熱伝導性塗料の製造方法。

【公開番号】特開2008−303263(P2008−303263A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−150126(P2007−150126)
【出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】