説明

熱伝導性感圧接着剤組成物、熱伝導性感圧接着性シート状成形体、これらの製造方法、及び電子機器

【課題】生産性がよく、熱伝導性が高い熱伝導性感圧接着剤組成物及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体と、これらの製造方法と、該熱伝導性感圧接着剤組成物又は該熱伝導性感圧接着性シート状成形体を備えた電子機器とを提供する。
【解決手段】(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)、及び、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)を含む(メタ)アクリル樹脂組成物(A)を100質量部と、膨張化黒鉛粉(B)を5質量部以上70質量部以下と、膨張性黒鉛(C)を2質量部以上15質量部以下と、を含む混合組成物を115℃以上175℃以下の温度で加熱して、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)の重合反応と、膨張性黒鉛(C)の膨張と、が少なくとも行われてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性感圧接着剤組成物、熱伝導性感圧接着性シート状成形体、これらの製造方法、及び該熱伝導性感圧接着剤組成物又は該熱伝導性感圧接着性シート状成形体を備えた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラズマディスプレイパネルやパーソナルコンピュータ等の電子機器に備えられる集積回路(IC)チップ等のような電子部品は、その高性能化に伴って発熱量が増大している。その結果、温度上昇による機能障害対策を講じる必要性が生じている。一般的には、金属製のヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体を電子部品等に備えられる発熱体に取り付けることによって放熱させる方法が採られている。発熱体から放熱体への熱伝導を効率よく行うためには、各種熱伝導シートが使用されている。一般的に、発熱体と放熱体とを固定する用途においては、熱伝導性に加えて感圧接着性も備えた組成物(以下、「熱伝導性感圧接着剤組成物」という。)やシート(以下、「熱伝導性感圧接着性シート状成形体」という。)が必要とされている。
【0003】
上記熱伝導性感圧接着剤組成物や熱伝導性感圧接着性シート状成形体は、発熱体から放熱体へと熱を伝えることが主目的であるため、高い熱伝導性を有することが好ましい。熱伝導性感圧接着剤組成物や熱伝導性感圧接着性シート状成形体の熱伝導性を高くするためには、例えば、黒鉛等の熱伝導性が高いフィラーを添加することが考えられる。樹脂組成物と黒鉛とを組み合わせる技術としては、例えば特許文献1に、膨張黒鉛(膨張させた黒鉛。特許文献1の段落0003参照。)又は少なくとも部分的に圧縮した膨張黒鉛とからなるアクリル樹脂とを含む樹脂含浸体が開示されている。また、特許文献2には、(メタ)アクリル重合体と膨張黒鉛等を含む熱伝導性シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−256083号公報
【特許文献2】特開2005−226007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
黒鉛は熱伝導性が高く、樹脂組成物に添加することによって、該組成物の熱伝導性を向上させることができる。また、膨張させた黒鉛は嵩張るため、このような黒鉛を用いた場合は樹脂組成物内で黒鉛同士が繋がって熱の伝導経路を形成し易くなり、熱伝導性を向上させ易くなると考えられる。
【0006】
しかしながら、膨張させた黒鉛はその構造上、液状成分を取り込み易く、樹脂組成物に添加した場合には該樹脂組成物の流動性を低下させることがあった。流動性が低下した樹脂組成物はシート状等に成形することが困難になる。そのため、特許文献2に記載された熱伝導性シートのように樹脂組成物をシート状に成形する場合、該樹脂組成物には膨張させた黒鉛を多量に添加することはできなかった。すなわち、従来技術では、熱伝導性感圧接着剤組成物及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体の生産性と熱伝導性向上とを両立させることが難しかった。なお、特許文献1に記載された技術は、膨張黒鉛にアクリル樹脂を含浸させる技術であり、膨張黒鉛を含んだ樹脂組成物を成形する技術とは思想が異なる。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みて、生産性がよく、熱伝導性が高い熱伝導性感圧接着剤組成物及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体と、これらの製造方法と、該熱伝導性感圧接着剤組成物又は該熱伝導性感圧接着性シート状成形体を備えた電子機器とを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、所定の黒鉛を所定の条件で組み合わせて使用することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の第1の態様は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)、及び、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)を含む(メタ)アクリル樹脂組成物(A)を100質量部と、膨張化黒鉛粉(B)を5質量部以上70質量部以下と、膨張性黒鉛(C)を2質量部以上15質量部以下と、を含む混合組成物を115℃以上175℃以下の温度で加熱して、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)の重合反応と、膨張性黒鉛(C)の膨張と、が少なくとも行われてなる、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)である。
【0010】
本発明において「(メタ)アクリル」とは、「アクリル、及び/又は、メタクリル」を意味する。また、「膨張化黒鉛粉」とは、後に詳述するように、黒鉛を膨張させて粉砕した粉状体を意味する。また、「膨張性黒鉛」とは、後に詳述するように、加熱することで膨張させることができる黒鉛を意味する。また、「(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)の重合反応」とは、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)由来の構造単位を含む重合体を得る重合反応を意味する。また、好ましい態様として後述する、「(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)及び/又は(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)由来の構造単位を含む重合体の架橋反応」とは、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)同士の架橋反応、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)由来の構造単位を含む重合体同士の架橋反応、及び、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)と(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)由来の構造単位を含む重合体との架橋反応のうち、一又は複数の架橋反応を意味する。
【0011】
本発明の第2の態様は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)、及び、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)を含む(メタ)アクリル樹脂組成物(A)を100質量部と、膨張化黒鉛粉(B)を5質量部以上70質量部以下と、膨張性黒鉛(C)を2質量部以上15質量部以下と、を含む混合組成物をシート状に成形した後、又は該混合組成物をシート状に成形しながら、該混合組成物を115℃以上175℃以下の温度で加熱して、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)の重合反応と、膨張性黒鉛(C)の膨張と、が少なくとも行われてなる、熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)である。
【0012】
本発明の第3の態様は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)、及び、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)を含む(メタ)アクリル樹脂組成物(A)を100質量部と、膨張化黒鉛粉(B)を5質量部以上70質量部以下と、膨張性黒鉛(C)を2質量部以上15質量部以下と、を含む混合組成物を作製する工程、並びに、該混合組成物を115℃以上175℃以下の温度で加熱して、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)の重合反応と、膨張性黒鉛(C)の膨張とを行う工程、を含む、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)の製造方法である。
【0013】
本発明の第4の態様は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)、及び、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)を含む(メタ)アクリル樹脂組成物(A)を100質量部と、膨張化黒鉛粉(B)を5質量部以上70質量部以下と、膨張性黒鉛(C)を2質量部以上15質量部以下と、を含む混合組成物を作製する工程、並びに、該混合組成物をシート状に成形した後、又は、該混合組成物をシート状に成形しながら、該混合組成物を115℃以上175℃以下の温度で加熱して、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)の重合反応と、膨張性黒鉛(C)の膨張とを行う工程、を含む、熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)の製造方法である。
【0014】
本発明の第5の態様は、放熱体及び該放熱体に貼合された本発明の第1の態様の熱伝導性感圧接着剤組成物(F)、又は、放熱体及び該放熱体に貼合された本発明の第2の態様の熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)、を備えた電子機器である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、生産性がよく、熱伝導性が高い熱伝導性感圧接着剤組成物及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体と、これらの製造方法と、該熱伝導性感圧接着剤組成物又は該熱伝導性感圧接着性シート状成形体を備えた電子機器とを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.熱伝導性感圧接着剤組成物(F)、熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)
本発明の熱伝導性感圧接着剤組成物(F)は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)、及び、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)を含む(メタ)アクリル樹脂組成物(A)と、膨張化黒鉛粉(B)と、膨張性黒鉛(C)と、を含む混合組成物を115℃以上175℃以下の温度で加熱して、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)の重合反応と、膨張性黒鉛(C)の膨張と、が少なくとも行われてなるものである。また、本発明の熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)は、上記混合組成物をシート状に成形した後、又はシート状に成形しながら、該混合組成物を115℃以上175℃以下の温度で加熱して、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)の重合反応と、膨張性黒鉛(C)の膨張と、が少なくとも行われてなるものである。熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)を構成する物質等について以下に説明する。
【0017】
<(メタ)アクリル樹脂組成物(A)>
本発明に用いる(メタ)アクリル樹脂組成物(A)は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)、及び、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)を含んでいる。なお、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)を得る際には、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)の重合反応と、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)及び/又は(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)由来の構造単位を含む重合体の架橋反応とを行うことが好ましい。すなわち、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)由来の構造単位を含む重合体を得る重合反応、並びに、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)同士の架橋反応、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)由来の構造単位を含む重合体同士の架橋反応、及び、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)と(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)由来の構造単位を含む重合体との架橋反応、のうちいずれかの架橋反応を少なくとも行うことが好ましい。当該重合反応及び好ましくは架橋反応を行うことによって(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)由来の構造単位を含む重合体は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)の成分と混合及び/又は一部結合する。
【0018】
本発明において、アクリル酸エステル重合体(A1)及び(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)の使用量は、(メタ)アクリル樹脂組成物(A)100質量%に対して、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)は5質量%以上40質量%以下、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)は60質量%以上95質量%以下であることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)の含有比率を上記範囲とすることによって、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)を成形することが容易になる。
【0019】
((メタ)アクリル酸エステル重合体(A1))
本発明に用いることができる(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)は特に限定されないが、ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体の単位(a1)、及び、有機酸基を有する単量体単位(a2)を含有することが好ましい。
【0020】
上記(メタ)アクリル酸エステル単量体の単位(a1)を与える(メタ)アクリル酸エステル単量体(a1m)は特に限定はないが、例えば、アクリル酸エチル(単独重合体のガラス転移温度は、−24℃)、アクリル酸n−プロピル(同−37℃)、アクリル酸n−ブチル(同−54℃)、アクリル酸sec−ブチル(同−22℃)、アクリル酸n−ヘプチル(同−60℃)、アクリル酸n−ヘキシル(同−61℃)、アクリル酸n−オクチル(同−65℃)、アクリル酸2−エチルヘキシル(同−50℃)、アクリル酸2−メトキシエチル(同−50℃)、アクリル酸3−メトキシプロピル(同−75℃)、アクリル酸3−メトキシブチル(同−56℃)、アクリル酸エトキシメチル(同−50℃)、メタクリル酸n−オクチル(同−25℃)、メタクリル酸n−デシル(同−49℃)等を挙げることができる。中でも、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−メトキシエチルが好ましく、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルがより好ましく、アクリル酸2−エチルヘキシルがさらに好ましい。これらの(メタ)アクリル酸エステル単量体(a1m)は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0021】
(メタ)アクリル酸エステル単量体(a1m)は、それから導かれる単量体単位(a1)が、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)中、好ましくは80質量%以上99.9質量%以下、より好ましくは85質量%以上99.5質量%以下となるような量で重合に使用する。(メタ)アクリル酸エステル単量体(a1m)の使用量が上記範囲内であると、重合時の重合系の粘度を適正な範囲に保つことが容易になる。
【0022】
次に、有機酸基を有する単量体単位(a2)について説明する。有機酸基を有する単量体単位(a2)を与える単量体(a2m)は特に限定されないが、その代表的なものとして、カルボキシル基、酸無水物基、スルホン酸基等の有機酸基を有する単量体を挙げることができる。また、これらのほか、スルフェン酸基、スルフィン酸基、燐酸基等を含有する単量体も使用することができる。
【0023】
カルボキシル基を有する単量体の具体例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸や、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のα,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸の他、イタコン酸モノメチル、マレイン酸モノブチル、フマル酸モノプロピル等のα,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸部分エステル等を挙げることができる。また、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の、加水分解等によりカルボキシル基に誘導することができる基を有するものも同様に使用することができる。
【0024】
スルホン酸基を有する単量体の具体例としては、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のα,β−不飽和スルホン酸、及び、これらの塩を挙げることができる。
【0025】
単量体(a2m)としては、上に例示した有機酸基を有する単量体のうち、カルボキシル基を有する単量体がより好ましく、中でも、アクリル酸部位又はメタクリル酸部位を有する単量体が特に好ましい。これらの単量体は工業的に安価で容易に入手することができ、他の単量体成分との共重合性も良く、生産性の点でも好ましい。なお、単量体(a2m)は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0026】
有機酸基を有する単量体(a2m)は、それから導かれる単量体単位(a2)が(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)中、好ましくは0.1質量%以上20質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上15質量%以下となるような量で重合に使用する。有機酸基を有する単量体(a2m)の使用量が上記範囲内であると、重合時の重合系の粘度を適正な範囲に保つことが容易になる。
【0027】
なお、有機酸基を有する単量体単位(a2)は、前述のように、有機酸基を有する単量体(a2m)の重合によって、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)中に導入するのが簡便であり好ましいが、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)を生成後に、公知の高分子反応により、有機酸基を導入してもよい。
【0028】
また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)は、有機酸基以外の官能基を有する単量体(a3m)から誘導される単量体単位(a3)を含有していてもよい。
【0029】
上記有機酸基以外の官能基としては、水酸基、アミノ基、アミド基、エポキシ基、メルカプト基等を挙げることができる。
【0030】
水酸基を有する単量体としては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル等の、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル等を挙げることができる。
【0031】
アミノ基を有する単量体としては、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノメチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、アミノスチレン等を挙げることができる。
【0032】
アミド基を有する単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸アミド単量体等を挙げることができる。
【0033】
エポキシ基を有する単量体としては、(メタ)アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル等を挙げることができる。
【0034】
有機酸基以外の官能基を有する単量体(a3m)は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0035】
これらの有機酸基以外の官能基を有する単量体(a3m)は、それから導かれる単量体単位(a3)が、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)中、10質量%以下となるような量で重合に使用することが好ましい。10質量%以下の単量体(a3m)を使用することにより、重合時の重合系の粘度を適正な範囲に保つことが容易になる。
【0036】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)は、上述したガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a1)、有機酸基を有する単量体単位(a2)、及び、有機酸基以外の官能基を有する単量体単位(a3)以外に、上述した単量体と共重合可能な単量体(a4m)から誘導される単量体単位(a4)を含有していてもよい。単量体(a4m)は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0037】
単量体(a4m)から導かれる単量体単位(a4)の量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)の10質量%以下が好ましく、より好ましくは、5質量%以下である。
【0038】
単量体(a4m)は、特に限定されないが、その具体例として、上記(メタ)アクリル酸エステル単量体(a1m)以外の(メタ)アクリル酸エステル単量体、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸完全エステル単量体、アルケニル芳香族単量体、共役ジエン系単量体、非共役ジエン系単量体、シアン化ビニル単量体、カルボン酸不飽和アルコールエステル単量体、オレフィン系単量体等を挙げることができる。
【0039】
上記(メタ)アクリル酸エステル単量体(a1m)以外の(メタ)アクリル酸エステル単量体の具体例としては、アクリル酸メチル(単独重合体のガラス転移温度は、10℃)、メタクリル酸メチル(同105℃)、メタクリル酸エチル(同63℃)、メタクリル酸n−プロピル(同25℃)、メタクリル酸n−ブチル(同20℃)等を挙げることができる。
【0040】
α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸完全エステル単量体の具体例としては、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、イタコン酸ジメチル等を挙げることができる。
【0041】
アルケニル芳香族単量体の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、メチルα−メチルスチレン、ビニルトルエン、及び、ジビニルベンゼン等を挙げることができる。
【0042】
共役ジエン系単量体の具体例としては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレンと同義)、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、シクロペンタジエン等を挙げることができる。
【0043】
非共役ジエン系単量体の具体例としては、1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネン等を挙げることができる。
【0044】
シアン化ビニル単量体の具体例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリル等を挙げることができる。
【0045】
カルボン酸不飽和アルコールエステル単量体の具体例としては、酢酸ビニル等を挙げることができる。
【0046】
オレフィン系単量体の具体例としては、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン等を挙げることができる。
【0047】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法(GPC法)で測定して、標準ポリスチレン換算で10万以上100万以下の範囲にあることが好ましく、20万以上50万以下の範囲にあることが、より好ましい。
【0048】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)は、ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を成形する(メタ)アクリル酸エステル単量体(a1m)、有機酸基を有する単量体(a2m)、必要に応じて使用する、有機酸基以外の官能基を含有する単量体(a3m)、及び、必要に応じて使用するこれらの単量体と共重合可能な単量体(a4m)を共重合することによって特に好適に得ることができる。
【0049】
重合の方法は、特に限定されず、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、塊状重合等のいずれであってもよく、これ以外の方法でもよい。ただし、好ましくは、溶液重合である。中でも重合溶媒として、酢酸エチル、乳酸エチル等のカルボン酸エステルやベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族溶媒を用いた溶液重合がより好ましい。重合に際して、単量体は、重合反応容器に分割添加してもよいが、全量を一括添加するのが好ましい。重合開始の方法は、特に限定されないが、重合開始剤として熱重合開始剤を用いるのが好ましい。熱重合開始剤は、特に限定されず、過酸化物及びアゾ化合物のいずれでもよい。
【0050】
過酸化物重合開始剤としては、t−ブチルヒドロペルオキシドのようなヒドロペルオキシドや、ベンゾイルペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシドのようなペルオキシドの他、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩等を挙げることができる。これらの過酸化物は、還元剤と適宜組み合わせて、レドックス系触媒として使用することもできる。
【0051】
アゾ化合物重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)等を挙げることができる。
【0052】
重合開始剤の使用量は、特に限定されないが、単量体100質量部に対して、0.01質量部以上50質量部以下の範囲であるのが好ましい。
【0053】
これらの単量体のその他の重合条件(重合温度、圧力、撹拌条件等)は、特に制限がない。
【0054】
重合反応終了後、必要により、得られた重合体を重合媒体から分離する。分離の方法は特に限定されない。例えば、溶液重合の場合、重合溶液を減圧下に置き、重合溶媒を留去することにより、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)を得ることができる。
【0055】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)の重量平均分子量は、重合の際に使用する重合開始剤の量や、連鎖移動剤の量を適宜調整することによって制御することができる。
【0056】
((メタ)アクリル酸エステル単量体(α1))
(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)は、(メタ)アクリル酸エステル単量体を含有するものであれば特に限定されないが、ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を成形する(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)を含有するものであることが好ましい。
【0057】
ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を成形する(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)の例としては、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)の合成に用いる(メタ)アクリル酸エステル単量体(a1m)と同様の(メタ)アクリル酸エステル単量体を挙げることができる。(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0058】
(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)における(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)の比率は、好ましくは50質量%以上100質量%以下、より好ましくは75質量%以上100質量%以下である。(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)における(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)の比率を上記範囲とすることによって、感圧接着性や柔軟性に優れた熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)を得やすくなる。
【0059】
また、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)は、(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)及びそれと共重合可能な単量体との混合物としてもよい。
【0060】
(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)は、ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を成形する(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)、及び、これらと共重合可能な有機酸基を有する単量体(a6m)を含むものとしてもよい。
【0061】
上記単量体(a6m)の例としては、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)の合成に用いる単量体(a2m)として例示したものと同様の有機酸基を有する単量体を挙げることができる。単量体(a6m)は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0062】
(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)における単量体(a6m)の比率は、30質量%以下が好ましく、より好ましくは10質量%以下である。(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)における単量体(a6m)の比率を上記範囲とすることによって、感圧接着性や柔軟性に優れた熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)を得やすくなる。
【0063】
(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)は、(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)及び所望により共重合させることができる有機酸基を有する単量体(a6m)と、これらと共重合可能な単量体(a7m)との混合物としてもよい。(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)における単量体(a7m)の比率は、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。
【0064】
上記単量体(a7m)の例としては、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)の合成に用いる単量体(a3m)、及び単量体(a4m)として例示したものと同様の単量体を挙げることができる。単量体(a7m)は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0065】
<重合開始剤>
熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)を得る際に、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)及び後述する多官能性単量体は重合する。その重合を促進するため、重合開始剤を用いることが好ましい。
【0066】
本発明に用いることができる重合開始剤としては、光重合開始剤、アゾ系熱重合開始剤、有機過酸化物熱重合開始剤等が挙げられる。得られる熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)に優れた接着性を付与する等の観点からは、有機過酸化物熱重合開始剤を用いることが好ましい。
【0067】
光重合開始剤としては、公知の各種光重合開始剤を用いることができる。その中でも、アシルホスフィンオキサイド系化合物が好ましい。好ましい光重合開始剤であるアシルホスフィンオキサイド系化合物としては、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0068】
アゾ系熱重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)等が挙げられる。
【0069】
有機過酸化物熱重合開始剤としては、t−ブチルヒドロペルオキシドのようなヒドロペルオキシドや、ベンゾイルペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシド、1,6−ビス(t−ブチルペルオキシカルボニルオキシ)ヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンのようなペルオキシド等を挙げることができる。ただし、熱分解時に臭気の原因となる揮発性物質を放出しないものが好ましい。また、有機過酸化物熱重合開始剤の中でも、1分間半減期温度が100℃以上かつ170℃以下のものが好ましい。
【0070】
重合開始剤の使用量は、(メタ)アクリル樹脂組成物(A)100質量部に対し、0.01質量部以上10質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以上5質量部以下であることがより好ましく、0.3質量部以上1質量部以下であることがさらに好ましい。重合開始剤の使用量を上記範囲とすることによって、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)の重合転化率を適正な範囲にし易くなり、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)に単量体臭が残ることを防止し易くなる。なお、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)の重合転化率は、95質量%以上であることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)の重合転化率が95質量%以上であれば、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)に単量体臭が残ることを防止し易くなる。また、重合開始剤の使用量を上記範囲とすることによって、重合反応の過度な(急激な)進行を防止し、その結果、熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)が平滑なシート状にならなかったり材料破壊を起こしたりする事態を防止し易くなる。
【0071】
<多官能性単量体>
本発明の熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)には、多官能性単量体も用いることが好ましい。多官能性単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)に含まれる単量体と共重合可能なものを用いる。また、多官能性単量体は重合可能な不飽和結合を複数有しており、該不飽和結合を末端に有することが好ましい。このような多官能性単量体を用いることによって、共重合体に分子内及び/又は分子間架橋を導入して、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)の感圧接着剤としての凝集力を高めることができる。
【0072】
通常、ラジカル熱重合等の重合時には、多官能性単量体を用いずとも、ある程度の架橋反応は進行する可能性がある。しかしながら、より確実に所望の量の架橋構造を形成させるためには、多官能性単量体を用いることが好ましい。
【0073】
上記多官能性単量体としては、例えば、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,12−ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の多官能性(メタ)アクリレートや、2,4−ビス(トリクロロメチル)−6−p−メトキシスチレン−5−トリアジン等の置換トリアジンの他、4−アクリルオキシベンゾフェノンのようなモノエチレン系不飽和芳香族ケトン等を用いることができる。中でも、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートが好ましい。多官能性単量体は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0074】
熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)の製造に用いる多官能性単量体の量は、(メタ)アクリル樹脂組成物(A)を100質量部として、0.1質量部以上15質量部以下であることが好ましく、0.2質量部以上8質量部以下であることがより好ましく、0.5質量部以上2質量部以下であることがさらに好ましい。多官能性単量体の使用量を上記範囲とすることによって、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)に感圧接着剤としての適正な凝集力を付与し易くなる。
【0075】
<膨張化黒鉛粉(B)>
本発明に用いる膨張化黒鉛粉(B)とは、黒鉛を膨張させた後に粉砕して得られものである。本発明に用いる膨張化黒鉛粉(B)の例としては、酸処理した黒鉛を500℃以上1200℃以下にて熱処理して100ml/g以上300ml/g以下に膨張させ、次いでそれを粉砕する工程を含む方法によって得られたものを挙げることができる。より好ましくは、黒鉛を強酸で処理した後にアルカリ中で焼結し、その後再度強酸で処理したものを500℃以上1200℃以下にて熱処理して酸を除去すると共に100ml/g以上300ml/g以下に膨張させ、次いで粉砕する工程を含む方法によって得られたものを挙げることができる。上記熱処理の温度は、特に好ましくは800℃以上1000℃以下である。
【0076】
上述したように、膨張化黒鉛粉(B)のような膨張させた黒鉛を添加して樹脂組成物の熱伝導性を向上させる場合、該黒鉛を多量に添加すると樹脂組成物の流動性が低下してシート状等に成形できなくなるという問題があった。本発明によれば、膨張化黒鉛粉(B)と後述する膨張性黒鉛(C)とを組み合わせて用いることにより、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)のもととなる混合組成物に必要な流動性を持たせつつ、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)に高い熱伝導性を付与することができる。すなわち、本発明によれば、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)の生産性と熱伝導性向上とを両立することができる。この理由としては、以下のことが考えられる。
【0077】
膨張性黒鉛(C)は膨張化黒鉛粉(B)に比べて液状成分を取り込み難いため、樹脂組成物に膨張性黒鉛(C)添加したとしても、同量の膨張化黒鉛粉(B)を添加した場合に比べて該樹脂組成物の流動性を低下させ難い。よって、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)のもととなる混合組成物に、膨張性黒鉛(C)と膨張化黒鉛粉(B)とを添加した場合、これらの合計量と同量の膨張化黒鉛粉(B)を添加した場合に比べて、該混合組成物の流動性が低下し難くなる(すなわち、流動しやすい状態を保つ)。そして、膨張性黒鉛(C)及び膨張化黒鉛粉(B)を含む混合組成物を加熱すると、後述するように膨張性黒鉛(C)が膨張し、混合組成物中に分散された膨張化黒鉛粉(B)の間を膨張した膨張性黒鉛(C)が繋ぐことによって熱の伝導経路が形成され、熱伝導性が向上した熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)を得ることができると考えられる。
【0078】
本発明に用いる膨張化黒鉛粉(B)の平均粒径は、10μm以上1000μm以下であることが好ましく、20μm以上700μm以下であることがより好ましく、30μm以上500μm以下であることがさらに好ましい。膨張化黒鉛粉(B)の平均粒径を上記範囲とすることによって、熱の伝導経路を形成しやすくなり、また膨張化黒鉛粉(B)が破壊される事態を抑制しやすくなる。
【0079】
なお、本発明において「平均粒径」とは、以下に説明する方法で測定したものを意味する。すなわち、レーザー式粒度測定機(株式会社セイシン企業製)を用い、マイクロソーティング制御方式(測定領域内にのみ測定対象粒子を通過させ、測定の信頼性を向上させる方式)により測定したものを意味する。この測定方法によれば、セル中に測定対象粒子0.01g〜0.02gを流すことで、測定領域内に流れてくる測定対象粒子に波長670nmの半導体レーザー光が照射され、その際のレーザー光の散乱と回折が測定機にて測定されることにより、フランホーファの回折原理から平均粒径及び粒径分布を算出することができる。
【0080】
また、本発明に用いる膨張化黒鉛粉(B)の量は、(メタ)アクリル樹脂組成物(A)100質量部に対して、5質量部以上70質量部以下である。膨張化黒鉛粉(B)の量は、10質量部以上60質量部以下であることが好ましく、20質量部以上50質量部以下であることがより好ましい。膨張化黒鉛粉(B)の量を上記範囲とすることによって、後述する膨張性黒鉛(C)との組み合わせで、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)のもととなる混合組成物の流動性が低下することを抑制しつつ、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)の熱伝導性を向上させることができる。上記範囲を超えて膨張化黒鉛粉(B)を添加すると、上記混合組成物の流動性が低下し、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)の生産性が低下したり、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)の硬度が増大して形状追随性が低下したりする虞がある。熱伝導性感圧接着剤組成物(F)や熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)の形状追随性が低下すると、発熱体と放熱体との間に熱伝導性感圧接着剤組成物(F)や熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)を配置した場合に、発熱体から放熱体へと熱を伝え難くなる。
【0081】
<膨張性黒鉛(C)>
本発明に用いる膨張性黒鉛(C)とは、加熱することによって膨張させることができる黒鉛である。本発明に用いる膨張性黒鉛(C)の例としては、天然黒鉛の層間に硫酸や硝酸等の酸を挿入した状態で粉末にしたものを挙げることができる。このような膨張性黒鉛(C)は、例えば、800℃以上1000℃以下に急速に加熱することによって層間に挿入された酸が膨張し、黒鉛結晶の100〜300倍程度に膨張させることができる。ただし、膨張性黒鉛(C)を膨張させ過ぎると、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)の熱伝導性が低くなる虞がある。また、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)の強度が低くなる虞もある。一方、膨張性黒鉛(C)の膨張が不十分であれば、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)の熱伝導性を向上させる効果が不十分となる。なお、本発明において膨張性黒鉛(C)は、(メタ)アクリル樹脂組成物(A)等を含む混合組成物中で膨張させるため、重合及び所望により架橋した(メタ)アクリル樹脂組成物(A)の重合体によって膨張性黒鉛(C)の膨張が抑制される。よって、(メタ)アクリル樹脂組成物(A)の重合や架橋反応が終わった後では膨張性黒鉛(C)が膨張し難くなるため、(メタ)アクリル樹脂組成物(A)の重合や架橋反応が始まる前又は該反応と同時に、膨張性黒鉛(C)が膨張していると考えられる。
【0082】
膨張性黒鉛(C)の膨張率は、膨張性黒鉛(C)を膨張させる前後における、混合組成物、及び、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)又は熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)の比重から計算することができる。膨張性黒鉛(C)は、粒径が1.5倍以上3倍以下になるように膨張させることが好ましく、2倍以上2.5倍以下になるように膨張させることがより好ましい。
【0083】
熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)内における膨張性黒鉛(C)の膨張率は、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)を得る際の加熱温度、加熱時間、(メタ)アクリル樹脂組成物(A)の硬化具合等に影響されると考えられる。熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)内における膨張性黒鉛(C)の膨張率を調整するには、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)を得る際の加熱温度又は加熱時間を調整する方法が簡便である。当該加熱温度は、115℃以上175℃以下とすることが必要である。また、当該加熱時間は、例えば、20分程度とすることができる。
【0084】
本発明によれば、膨張性黒鉛(C)を上記のように膨張させるため、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)の比重は、膨張性黒鉛(C)を膨張させる前の混合組成物に比べて小さくなる。従来、樹脂組成物の比重が小さくなると該樹脂組成物の熱伝導性は低下すると考えられていた。しかしながら、本発明によれば、膨張性黒鉛(C)を膨張させて比重が小さくなっても、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)は高い熱伝導性を有するようになる。また、比重が小さくなることによって、柔らかくなる(形状追従性が増す)という効果や、単価が安くなるという利点をも有する。
【0085】
本発明に用いる膨張性黒鉛(C)の膨張前の平均粒径、すなわち、混合組成物を加熱する前の膨張性黒鉛(C)の平均粒径は、10μm以上1000μm以下であることが好ましく、20μm以上700μm以下であることがより好ましく、30μm以上500μm以下であることがさらに好ましい。膨張性黒鉛(C)の平均粒径を上記範囲とすることによって、膨張化黒鉛粉(B)との組み合わせで、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)のもととなる混合組成物の流動性が低下することを抑制しつつ、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)の熱伝導性を向上させることができる。
【0086】
また、本発明に用いる膨張性黒鉛(C)の量は、(メタ)アクリル樹脂組成物(A)100質量部に対して、2質量部以上15質量部以下である。膨張性黒鉛(C)の量は、3質量部以上12質量部以下であることが好ましく、4質量部以上10質量部以下であることがより好ましい。膨張性黒鉛(C)の量を上記範囲とすることによって、上述したように、膨張化黒鉛粉(B)との組み合わせで、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)のもととなる混合組成物の流動性が低下することを抑制しつつ、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)の熱伝導性を向上させることができる。上記範囲を超えて膨張性黒鉛(C)を添加すると、膨張性黒鉛(C)を膨張させたときに膨張性黒鉛(C)が膨張し過ぎて熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)内に熱の伝導経路を形成し難くなるといった問題や、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)の強度が弱くなるといった問題を生じる虞がある。
【0087】
<その他の添加剤>
本発明の熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)には、上述した成分以外にも本発明の効果を妨げない範囲で公知の各種添加剤を添加することもできる。公知の添加剤としては、発泡剤(発泡助剤を含む。);金属の酸化物、PITCH系炭素繊維等の熱伝導性無機化合物;金属の水酸化物、金属塩水和物等の難燃性熱伝導無機化合物;リン酸エステル等の難燃剤;ガラス繊維;外部架橋剤;カーボンブラック、二酸化チタン等の顔料;クレー等のその他の充填材;フラーレン、カーボンナノチューブ等のナノ粒子;ポリフェノール系、ハイドロキノン系、ヒンダードアミン系等の酸化防止剤;アクリル系ポリマー粒子、微粒シリカ、酸化マグネシウム等の増粘剤;等を挙げることができる。
【0088】
2.製造方法
本発明の熱伝導性感圧接着剤組成物(F)は、これまでに説明した物質を混合した後、加熱して、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)の重合反応と、膨張性黒鉛(C)の膨張とを少なくとも行うことにより得ることができる。
【0089】
すなわち、本発明の熱伝導性感圧接着剤組成物(F)の製造方法は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)、及び、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)を含む(メタ)アクリル樹脂組成物(A)と、膨張化黒鉛粉(B)と、膨張性黒鉛(C)と、を含む混合組成物を作製する工程、並びに、該混合組成物を115℃以上175℃以下の温度で加熱して、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)の重合反応と、膨張性黒鉛(C)の膨張とを行う工程、を含んでいる。また、本発明の熱伝導性感圧接着剤組成物(F)の製造方法は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)及び/又は(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)由来の構造単位を含む重合体の架橋反応を行う工程をさらに含むことが好ましい。なお、その他に使用できる物質や、各物質の好ましい含有比率や、各物質の好ましい平均粒径等の条件は上述した通りであるため、説明を省略する。
【0090】
本発明の熱伝導性感圧接着剤組成物(F)の製造方法において、上記加熱には、例えば、熱風、電気ヒーター、赤外線等を用いることができる。このときの加熱温度及び加熱時間は、重合開始剤が効率良く分解し、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)及び多官能性単量体の重合が進行し、且つ、膨張性黒鉛(C)を適度に膨張させることができる範囲とする。当該温度範囲は、115℃以上175℃以下であり、用いる重合開始剤の種類等によって異なるが、120℃以上160℃以下が好ましく、125℃以上155℃以下がより好ましい。また、加熱時間は、例えば、10分以上30分以下とすることができ、15分以上25分以下であることが好ましい。
【0091】
本発明の熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)は、これまでに説明した材料を混合してシート状に成形した後、又はシート状に成形しながら、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)の重合反応と、膨張性黒鉛(C)の膨張とを少なくとも行うことにより得ることができる。
【0092】
すなわち、本発明の熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)の製造方法は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)、及び、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)を含む(メタ)アクリル樹脂組成物(A)を100質量部と、膨張化黒鉛粉(B)を5質量部以上70質量部以下と、膨張性黒鉛(C)を2質量部以上15質量部以下と、を含む混合組成物を作製する工程、並びに、混合組成物をシート状に成形した後、又は、混合組成物をシート状に成形しながら、混合組成物を115℃以上175℃以下の温度で加熱して、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)の重合反応と、膨張性黒鉛(C)の膨張とを行う工程を含んでいる。また、本発明の熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)の製造方法は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)及び/又は(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)由来の構造単位を含む重合体の架橋反応を行う工程をさらに含むことが好ましい。なお、その他に使用できる物質や、各物質の好ましい含有比率や、各物質の好ましい平均粒径等は上述した通りであるため、説明を省略する。
【0093】
本発明の熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)の製造方法において、上記加熱の条件は、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)の製造方法と同様であるため、説明を省略する。
【0094】
上記混合組成物をシート状に成形する方法は、特に限定されない。好適な方法としては、例えば、混合組成物を、剥離処理したポリエステルフィルム(以下、「離型PETフィルム」という場合がある。)等の工程紙の上に塗布するキャスト法、混合組成物を、必要ならば二枚の離型PETフィルム間に挟んで、所定の間隔をあけて設置されたロールの間を通す方法、及び、押出機を用いて、混合組成物を押出す際にダイスを通して厚さを制御する方法等が挙げられる。
【0095】
熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)の厚さは0.05mm以上5mm以下にすることができる。熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)の厚さを薄くすることによって、熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)の厚み方向の熱抵抗を低くすることができる。かかる観点から、熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)の厚さの上限は、好ましくは3mmである。一方、熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)の厚さをある程度厚くすることによって、当該熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)を発熱体及び放熱体に貼付する際に空気を巻き込むことを防止し易く、結果として熱抵抗の増加を防止し、被着体への貼り付け工程における作業性を良好にし易くなる。かかる観点から、熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)の厚さの下限は、好ましくは0.1mmである。
【0096】
また、熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)は、基材の片面又は両面に成形することもできる。当該基材を構成する材料は特に限定されない。当該基材の具体例としては、アルミニウム、銅、ステンレス鋼、ベリリウム銅等の熱伝導性に優れる金属、及び、合金の箔状物や、熱伝導性シリコーン等のそれ自体熱伝導性に優れるポリマーからなるシート状物や、熱伝導性添加物を含有させた熱伝導性プラスチックフィルムや、各種不織布や、ガラスクロスや、ハニカム構造体等を挙げることができる。プラスチックフィルムとしては、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリメチルペンテン、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、芳香族ポリアミド等の耐熱性ポリマーのフィルムを使用することができる。
【0097】
3.使用例
本発明の熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)は、電子機器等に備えられる電子部品等の一部として用いることができる。その際、放熱体等で構成される基材上に直接的に成形して、電子機器に備えられる部品の一部として提供することもできる。当該電子機器及び電子部品の具体例としては、エレクトロルミネッセンス(EL)、発光ダイオード(LED)光源を有する機器における発熱部周囲の部品、自動車等のパワーデバイス周囲の部品、燃料電池、太陽電池、バッテリー、携帯電話、携帯情報端末(PDA)、ノートパソコン、液晶、表面伝導型電子放出素子ディスプレイ(SED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、又は集積回路(IC)等、発熱部を有する機器や部品を挙げることができる。
【0098】
なお、本発明の熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)の電子機器への使用方法の一例としては、LED光源を例にすると下記に記述するような使用方法を挙げることができる。すなわちLED光源に直接貼り付ける;LED光源と放熱材料(ヒートシンク、ファン、ペルチェ素子、ヒートパイプ、グラファイトシート等)との間に挟みこむ;LED光源に接続された放熱材料(ヒートシンク、ファン、ペルチェ素子、ヒートパイプ、グラファイトシート等)に貼り付ける;LED光源を取り囲む筐体として使用する;LED光源を取り囲む筐体に貼り付ける;LED光源と筐体との隙間を埋める;等の方法である。LED光源の用途例としては、透過型の液晶パネルを有する表示装置のバックライト装置(テレビ、携帯、PC、ノートPC、PDA等);車両用灯具;工業用照明;商業用照明;一般住宅用照明;等が挙げられる。
【0099】
また、LED光源以外の具体例としては、以下のものが挙げられる。すなわち、PDPパネル;IC発熱部;冷陰極管(CCFL);有機EL光源;無機EL光源;高輝度発光LED光源;高輝度発光有機EL光源;高輝度発光無機EL光源;CPU;MPU;半導体素子;等である。
【0100】
更に本発明の熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)の使用方法としては、装置の筐体に貼り付けること等を挙げることができる。例えば、自動車等に備えられる装置に使用する場合、自動車に備えられる筐体の内部に貼り付ける;自動車に備えられる筐体の外側に貼り付ける;自動車に備えられる筐体の内部にある発熱部(カーナビ/燃料電池/熱交換器)と該筐体とを接続する;自動車に備えられる筐体の内部にある発熱部(カーナビ/燃料電池/熱交換器)に接続した放熱板に貼り付ける;こと等が挙げられる。
【0101】
なお、自動車以外にも、同様の方法で本発明の熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)を使用することができる。その対象としては、例えばパソコン;住宅;テレビ;携帯電話機;自動販売機;冷蔵庫;太陽電池;表面伝導型電子放出素子ディスプレイ(SED);有機ELディスプレイ;無機ELディスプレイ;有機EL照明;無機EL照明;有機ELディスプレイ;ノートパソコン;PDA;燃料電池;半導体装置;炊飯器;洗濯機;洗濯乾燥機;光半導体素子と蛍光体とを組み合わせた光半導体装置;各種パワーデバイス;ゲーム機;キャパシタ;等が挙げられる。
【0102】
更に、発明の熱伝導性感圧接着剤組成物(F)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)は上記の使用方法に留まらず、用途に応じて他の方法で使用することも可能である。例えば、カーペットや温暖マット等の熱の均一化のために使用する;LED光源/熱源の封止剤として使用する;太陽電池セルの封止剤として使用する;太陽電池のバックシ−トとして使用する;太陽電池のバックシ−トと屋根との間に使用する;自動販売機内部の断熱層の内側に使用する;有機EL照明の筐体内部に、乾燥剤や吸湿剤と共に使用する;有機EL照明の筐体内部の熱伝導層及びその上に、乾燥剤や吸湿剤と共に使用する;有機EL照明の筐体内部の熱伝導層、放熱層、及びその上に、乾燥剤や吸湿剤と共に使用する;有機EL照明の筐体内部の熱伝導層、エポキシ系の放熱層、及びその上に、乾燥剤や吸湿剤と共に使用する;人や動物を冷やすための装置、衣類、タオル、シート等の冷却部材に対し、身体と反対の面に使用する;電子写真複写機、電子写真プリンタ等の画像成形装置に搭載する定着装置の加圧部材に使用する;電子写真複写機、電子写真プリンタ等の画像成形装置に搭載する定着装置の加圧部材そのものとして使用する;制膜装置の処理対象体を載せる熱流制御用伝熱部として使用する;制膜装置の処理対象体を載せる熱流制御用伝熱部に使用する;放射性物質格納容器の外層と内装の間に使用する;太陽光線を吸収するソーラパネルを設置したボックス体の中に使用する;CCFLバックライトの反射シートとアルミシャーシの間に使用する;こと等を挙げることができる。
【実施例】
【0103】
以下に、実施例にて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、ここで用いる「部」や「%」は、特に断らない限り、質量基準である。
【0104】
<流動性>
後述する第1、第2、及び第3混合工程(膨張化黒鉛粉を用いない場合は、第1、及び第2混合工程)を経て得られた混合組成物の流動性を評価した。具体的には、混合組成物が入れられたホバート容器を水平面に対して30°傾け、1分後の該混合組成物の状態で評価した。その結果を表1及び表2に示した。混合組成物が傾斜に沿って流れた場合を「○」、動かなかった場合を「×」とした。混合組成物に流動性がある方が、該混合組成物をシート状に成形し易くなる。すなわち、熱伝導性感圧接着性シート状成形体を製造し易くなる。
【0105】
<熱伝導率>
熱伝導性感圧接着剤シート状成形体の熱伝導率を評価した。熱伝導率が高いほど、熱伝導性が高いといえる。まず、後に説明するようにして作製した熱伝導性感圧接着剤シート状成形体を幅50mm×長さ110mmの大きさに裁断した試験片を用意した。その後、当該試験片の一方の面から離型PETフィルムを剥離し、当該離型PETフィルムを剥がした面全体を覆うように、空気が入らないようにポリ塩化ビニリデン製のラップフィルム(厚さ15μm)を貼った。そして、このラップフィルムを貼った試験片を用いて熱伝導率を測定した。熱伝導率(単位:W/m・K)の測定は、迅速熱伝導率計(京都電子工業株式会社製、QTM―500)を用いて、非定常熱線比較法により行った。なお、リファレンスプレートには、シリコーンスポンジ(電流値:1A)、シリコーンゴム(電流値:2A)、及び、石英(電流値:4A)をこの順で使用した。ただし、熱伝導率が1.5W/m・Kを超える場合は、リファレンスプレートとして、石英(電流値:4A)、ジルコニア、ムライトをこの順で使用した。当該測定は、23℃雰囲気下で行った。その結果を表1及び表2に示した。
【0106】
<比重>
後に説明するようにして作製した熱伝導性感圧接着剤シート状成形体を幅30mm×長さ50mmの大きさに裁断した試験片を用意した。この試験片を自動比重計(株式会社東洋精機製作所製、DENSIMETER−H)のクランプに挟み、比重計上部の天秤のフックに掛けて試験片の比重を測定した。
【0107】
<熱伝導性感圧接着剤シート状成形体の作製>
(実施例1)
反応器に、アクリル酸2−エチルヘキシル94%とアクリル酸6%とからなる単量体混合物100部、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.03部及び酢酸エチル700部を入れて均一に溶解し、窒素置換後、80℃で6時間重合反応を行った。重合転化率は97%であった。得られた重合体を減圧乾燥して酢酸エチルを蒸発させ、粘性のある固体状の(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1−1)を得た。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1−1)の重量平均分子量(Mw)は270,000、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)は3.1であった。重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、テトラヒドロフランを溶離液とするゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、標準ポリスチレン換算で求めた。
【0108】
次に、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート及びペンタエリスリトールジアクリレートを60:35:5の割合で混合した多官能性単量体1部と、アクリル酸2−エチルヘキシル(2EHA)70部と、有機過酸化物熱重合開始剤(1,6−ビス(t−ブチルペルオキシカルボニルオキシ)ヘキサン(1分間半減期温度は150℃である。))1部と、を電子天秤で計量し、これらを上記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1−1)30部と混合した。混合には、恒温槽(東機産業株式会社製、商品名「ビスコメイト 150III」)及びホバートミキサー(株式会社小平製作所製、商品名「ACM−5LVT型」、容量:5L)を用いた。ホバート容器の温調は60℃に設定し、回転数目盛を3にして10分間攪拌した。この工程を第1混合工程という。
【0109】
次に、膨張性黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「9950200」、平均粒径:250μm)5部を計量して上記ホバート容器に投入し、ホバート容器の温調を60℃に設定し、回転数目盛を5にして10分間攪拌した。この工程を第2混合工程という。
【0110】
次に、膨張化黒鉛粉(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC−50」、平均粒径:250μm)30部を計量して上記ホバート容器に投入し、ホバート容器内を真空(−0.1MPa(G))にして、ホバート容器の温調を60℃に設定し、回転数目盛を3にして10分間、真空脱泡しながら攪拌した。この工程を第3混合工程という。
【0111】
次に、上記第1、第2、及び第3混合工程を経て得た混合組成物を厚さ50μmの離型PETフィルム上に垂らし、当該混合組成物上にさらに厚さ50μmの別の離型PETフィルムを被せた。混合組成物が離型PETフィルムに挟持されたこの積層体を、両者の間隔を1mmにした1組のロール間を通し、シート状にした。その後、当該積層体をオーブンに投入し、表1に示した作製温度で15分間加熱した。この加熱工程によって、(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合及び架橋反応させるとともに、膨張性黒鉛を膨張させ、熱伝導性感圧接着性シート状成形体(以下、単に「シート」と表記する。)(G1)を得た。なお、シート(G1)中の残存単量体量から(メタ)アクリル酸エステル単量体の重合転化率を計算したところ、99.9%であった。
【0112】
(実施例2乃至8、及び比較例1乃至7)
各物質の配合、及び作製温度を表1及び表2に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2乃至8、及び比較例1乃至7にかかる熱伝導性感圧接着性シート状成形体を作製した。ただし、膨張化黒鉛粉を用いなかった場合は、上記第3混合工程を行っていない。また、リンペン状黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「CNP35」、平均粒径:30μm)は、第2混合工程において混合した。なお、比較例5では、混合組成物の流動性が低く、熱伝導性感圧接着性シート状成形体を作製できなかった。
【0113】
【表1】

【0114】
【表2】

【0115】
表1に示すように、実施例にかかるシート(G1)乃至(G8)は、いずれもシート状に成形する前の混合組成物の流動性が良く、シート状に成形することが容易であった。また、シート(G1)乃至(G8)は熱伝導率が高かった。一方、表2に示すように、比較例にかかるシート(GC1)乃至(GC7)は、シート状に成形する前の混合組成物の流動性が悪くてシート状に成形することが困難であるか、シート状に成形できたとしても熱伝導率が低かった。具体的には、以下の通りであった。
・比較例1:膨張性黒鉛を用いなかった比較例1のシート(GC1)は熱伝導率が低かった。膨張性黒鉛を用いなかったことで、シート内における熱の伝導経路の形成が不十分であったためと推察できる。
・比較例2:膨張化黒鉛粉に替えてリンペン状黒鉛を用いた比較例2のシート(GC2)も熱伝導率が低かった。リンペン状黒鉛は同質量の膨張化黒鉛粉に比べて体積が小さい。そのため、膨張性黒鉛を膨張させても該膨張性黒鉛が分散したリンペン状黒鉛間を十分に繋ぐことができず、シート内における熱の伝導経路の形成が不十分であったと推察できる。
・比較例3:膨張性黒鉛に替えてリンペン状黒鉛を用いた比較例3のシート(GC3)も熱伝導率が低かった。リンペン状黒鉛と膨張化黒鉛粉との組み合わせでは、膨張化黒鉛粉と膨張性黒鉛との組み合わせに比べて、シート内における熱の伝導経路の形成が不十分であったためと推察できる。
・比較例4:膨張性黒鉛の使用量を多くした比較例4のシート(GC4)も熱伝導率が低かった。シートの比重が小さくなっていることから、膨張性黒鉛の含有量を多くし過ぎたことでシート内の空隙が多くなったためと推察できる。
・比較例5:比較例5では、膨張化黒鉛粉の使用量を多くし過ぎたことによって混合組成物の流動性が低くなり、シート状に成形できなかった。
・比較例6:比較例6のシート(GC6)も熱伝導率が低かった。作製温度を低くしたことによって、膨張性黒鉛の膨張が不十分となり、シート内における熱の伝導経路の形成が不十分であったためと推察できる。
・比較例7:比較例7のシート(GC7)も熱伝導率が低かった。シートの比重が小さくなっていることから、作製温度を高くしたことによって膨張性黒鉛の膨張が過剰となり、シート内の空隙が多くなったためと推察できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)、及び、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)を含む(メタ)アクリル樹脂組成物(A)を100質量部と、
膨張化黒鉛粉(B)を5質量部以上70質量部以下と、
膨張性黒鉛(C)を2質量部以上15質量部以下と、
を含む混合組成物を115℃以上175℃以下の温度で加熱して、
前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)の重合反応と、前記膨張性黒鉛(C)の膨張と、が少なくとも行われてなる、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)。
【請求項2】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)、及び、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)を含む(メタ)アクリル樹脂組成物(A)を100質量部と、
膨張化黒鉛粉(B)を5質量部以上70質量部以下と、
膨張性黒鉛(C)を2質量部以上15質量部以下と、
を含む混合組成物をシート状に成形した後、又は前記混合組成物をシート状に成形しながら、前記混合組成物を115℃以上175℃以下の温度で加熱して、
前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)の重合反応と、前記膨張性黒鉛(C)の膨張と、が少なくとも行われてなる、熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)。
【請求項3】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)、及び、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)を含む(メタ)アクリル樹脂組成物(A)を100質量部と、
膨張化黒鉛粉(B)を5質量部以上70質量部以下と、
膨張性黒鉛(C)を2質量部以上15質量部以下と、
を含む混合組成物を作製する工程、並びに、
前記混合組成物を115℃以上175℃以下の温度で加熱して、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)の重合反応と、前記膨張性黒鉛(C)の膨張とを行う工程、
を含む、熱伝導性感圧接着剤組成物(F)の製造方法。
【請求項4】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)、及び、(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)を含む(メタ)アクリル樹脂組成物(A)を100質量部と、
膨張化黒鉛粉(B)を5質量部以上70質量部以下と、
膨張性黒鉛(C)を2質量部以上15質量部以下と、
を含む混合組成物を作製する工程、並びに、
前記混合組成物をシート状に成形した後、又は、前記混合組成物をシート状に成形しながら、前記混合組成物を115℃以上175℃以下の温度で加熱して、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(α1)の重合反応と、前記膨張性黒鉛(C)の膨張とを行う工程、を含む、熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)の製造方法。
【請求項5】
放熱体及び該放熱体に貼合された請求項1に記載の熱伝導性感圧接着剤組成物(F)、又は、放熱体及び該放熱体に貼合された請求項2に記載の熱伝導性感圧接着性シート状成形体(G)、を備えた電子機器。

【公開番号】特開2013−6951(P2013−6951A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140241(P2011−140241)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】