説明

熱伝導性感圧接着剤組成物及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体、これらの製造方法、並びに電子部品

【課題】本発明は、柔軟性を有しつつ薄く成形可能な熱伝導性感圧接着剤組成物及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体、これらの製造方法、並びに、該シート状成形体を備えた電子部品を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)5質量%以上40質量%以下、及び、ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)を主成分とし、多官能性単量体(a6m)を含む(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)60質量%以上95質量%以下、を含む(メタ)アクリル樹脂組成物(A)100質量部と、チタネート処理された難燃性無機化合物(B)100質量部以上550質量部以下と、長周期表1族、2族、12族、又は13族の金属の弱酸塩(D)30質量部以上550質量部以下と、重合開始剤(C)0.01質量部以上10質量部以下と、を含む混合組成物中の、(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)の重合及び架橋反応が行われて成る、熱伝導性感圧接着剤組成物(E)とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性感圧接着剤組成物、該熱伝導性感圧接着剤組成物の製造方法、熱伝導性感圧接着性シート状成形体、該熱伝導性感圧接着性シート状成形体の製造方法、及び該熱伝導性感圧接着性シート状成形体を備えた電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラズマディスプレイパネル(PDP)、集積回路(IC)チップ等のような電子部品は、その高性能化に伴って発熱量が増大している。その結果、温度上昇による機能障害対策を講じる必要性が生じている。一般的には、金属製のヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体を電子部品等の発熱体に取り付けることにより、放熱させる方法が取られている。発熱体から放熱体への熱伝導を効率よく行うためには、各種熱伝導シートが使用されている。一般的に、発熱体と放熱体とを固定する用途においては、熱伝導性感圧接着性シート状成形体が必要とされている。
【0003】
上記熱伝導性感圧接着性シート状成形体は、発熱体から放熱体へと熱を伝えることを目的の一つとして用いられるため、熱伝導性感圧接着性シート状成形体の熱伝導率を高くすることが好ましい。熱伝導性感圧接着性シート状成形体の諸性能を向上させるためには、各種フィラーを添加することが考えられる。例えば、特許文献1には、アルミナや水酸化アルミニウム等のフィラーをアクリル系熱伝導材料に添加する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−111757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アルミナや水酸化アルミニウムは、樹脂組成物に添加することによって当該樹脂組成物の熱伝導率を向上させることができるフィラーとして知られている。しかしながら、これらのフィラーを熱伝導性感圧接着性シート状成形体に含有させる場合、その含有率を上げると、熱伝導性感圧接着性シート状成形体の柔軟性が損なわれるという問題があった。また、熱伝導性感圧接着性シート状成形体の熱抵抗を低減させる(厚さ方向に熱を伝え易くする)ためには、当該熱伝導性感圧接着性シート状成形体を薄くすることが考えられるが、従来のフィラーが添加された熱伝導性感圧接着性シート状成形体を薄くすることは困難であった。薄くしても作製時等に破れないように強度を持たせようとすると、柔軟性が損なわれ、熱伝導性感圧接着性シート状成形体として使用し難くなるためである。
【0006】
そこで、本発明は、柔軟性を有しつつ薄く成形可能な熱伝導性感圧接着剤組成物及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体、これらの製造方法、並びに、該シート状成形体を備えた電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、熱伝導性感圧接着剤組成物について鋭意研究を続けた結果、特定のフィラーを特定の組み合わせ且つ割合で添加することによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
第1の本発明は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)5質量%以上40質量%以下、及び、ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)を主成分とし、多官能性単量体(a6m)を含む(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)60質量%以上95質量%以下、を含む(メタ)アクリル樹脂組成物(A)100質量部と、チタネート処理された難燃性無機化合物(B)100質量部以上550質量部以下と、長周期表1族、2族、12族、又は13族の金属の弱酸塩(D)30質量部以上550質量部以下と、重合開始剤(C)0.01質量部以上10質量部以下と、を含む混合組成物中の、(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)の重合及び架橋反応が行われて成る、熱伝導性感圧接着剤組成物(E)である。
【0009】
本発明において「(メタ)アクリル」とは、「アクリル、及び/又は、メタクリル」を意味する。また、本発明において「ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)を主成分とし」とは、(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)全体を基準として、当該混合物中にガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)を50質量%以上含むことを意味する。さらに、「チタネート処理」とは、チタネート系カップリング剤を用いて行う表面処理を意味する。
【0010】
第1の本発明の熱伝導性感圧接着剤組成物(E)において、(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)が、ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)90質量%以上99.9質量%以下、及び、多官能性単量体(a6m)0.1質量%以上10質量%以下を含んで成ることが好ましい。
【0011】
第2の本発明は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)5質量%以上40質量%以下、及び、ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体を主成分(a5m)とし、多官能性単量体(a6m)を含む(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)60質量%以上95質量%以下、を含む(メタ)アクリル樹脂組成物(A)100質量部と、チタネート処理された難燃性無機化合物(B)100質量部以上550質量部以下と、長周期表1族、2族、12族、又は13族の金属の弱酸塩(D)30質量部以上550質量部以下と、重合開始剤(C)0.01質量部以上10質量部以下と、を含む混合組成物をシート状に成形した後、又は前記混合組成物をシート状に成形しながら、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)の重合及び架橋反応が行われて成る、熱伝導性感圧接着剤シート状成形体(F)である。
【0012】
第2の本発明の熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)において、(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)が、ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)90質量%以上99.9質量%以下、及び、多官能性単量体(a6m)0.1質量%以上10質量%以下を含んで成ることが好ましい。
【0013】
第3の本発明は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)5質量%以上40質量%以下、及び、ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)を主成分とし、多官能性単量体(a6m)を含む(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)60質量%以上95質量%以下、を含む(メタ)アクリル樹脂組成物(A)100質量部と、チタネート処理された難燃性無機化合物(B)100質量部以上550質量部以下と、長周期表1族、2族、12族、又は13族の金属の弱酸塩(D)30質量部以上550質量部以下と、重合開始剤(C)0.01質量部以上10質量部以下と、を混合する混合工程、並びに、混合工程の後、(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)の重合及び架橋反応を行う工程、を含む、熱伝導性感圧接着剤組成物(E)の製造方法である。
【0014】
第4の本発明は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)5質量%以上40質量%以下、及び、ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)を主成分とし、多官能性単量体(a6m)を含む(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)60質量%以上95質量%以下、を含む(メタ)アクリル樹脂組成物(A)100質量部と、チタネート処理された難燃性無機化合物(B)100質量部以上550質量部以下と、長周期表1族、2族、12族、又は13族の金属の弱酸塩(D)30質量部以上550質量部以下と、重合開始剤(C)0.01質量部以上10質量部以下と、を混合する混合工程、並びに、混合工程で得られた混合組成物をシート状に成形した後、又は、該混合組成物をシート状に成形しながら、(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)の重合及び架橋反応を行う工程、を含む、熱伝導性感圧接着剤シート状成形体(F)の製造方法である。
【0015】
第5の本発明は、放熱体と、該放熱体に貼合された第1の本発明の熱伝導性感圧接着剤組成物(E)、又は、該放熱体に貼合された第2の本発明の熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)とを備えた電子部品である。
【発明の効果】
【0016】
第1の本発明の熱伝導性感圧接着剤組成物及び第2の本発明の熱伝導性感圧接着性シート状成形体は、柔軟性を有しつつ薄く成形することが可能である。第1の本発明の熱伝導性感圧接着剤組成物及び第2の本発明の熱伝導性感圧接着性シート状成形体は、薄く成形することが可能であるため、熱抵抗を低減させることができる。また、第3又は第4の本発明によれば、柔軟性を有しつつ薄く成形することが可能な、熱伝導性感圧接着剤組成物又は熱伝導性感圧接着性シート状成形体を得ることができる。さらに、第5の本発明の電子部品は、第1の本発明の熱伝導性感圧接着剤組成物、又は第2の本発明の熱伝導性感圧接着性シート状成形体を備えることによって、放熱体へと熱を伝えやすくできるため、放熱性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.熱伝導性感圧接着剤組成物(E)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)
本発明の熱伝導性感圧接着剤組成物(E)は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)、及び、ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)を主成分として多官能性単量体(a6m)を含む(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)、を含む(メタ)アクリル樹脂組成物(A)と、チタネート処理された難燃性無機化合物(B)と、特定の金属の炭酸塩(D)と、重合開始剤(C)と、を所定の割合で含む混合組成物中の、(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)を重合及び架橋反応させて成るものである。また、本発明の熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)は、上記混合組成物をシート状に成形した後、又は上記混合組成物をシート状に成形しながら、(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)を重合及び架橋反応させて成るものである。熱伝導性感圧接着剤組成物(E)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)に含まれる主な物質について以下に説明する。
【0018】
<(メタ)アクリル樹脂組成物(A)>
本発明に用いる(メタ)アクリル樹脂組成物(A)は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)、及び、ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)を主成分とし、多官能性単量体(a6m)を含む(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)、を含んでいる。なお、上述したように、熱伝導性感圧接着剤組成物(E)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)を得る際には(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)の重合及び架橋反応が行われる。当該重合及び架橋反応を行うことによって(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)の重合体は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)の成分と混合及び/又は一部結合する。
【0019】
本発明において、(メタ)アクリル樹脂組成物(A)に含有されるアクリル酸エステル重合体(A1)及び(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)の量は、(メタ)アクリル樹脂組成物(A)100質量%に対して、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)5質量%以上40質量%以下、(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)60質量%以上95質量%以下であることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)の含有比率が、60質量%未満又は95質量%を超えると、熱伝導性感圧接着剤組成物(E)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)の成形性が劣ることがある。
【0020】
((メタ)アクリル酸エステル重合体(A1))
本発明に用いることができる(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)は特に限定されないが、ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体の単位(a1)、及び、有機酸基を有する単量体単位(a2)を含有することが好ましい。
【0021】
上記(メタ)アクリル酸エステル単量体の単位(a1)を与える(メタ)アクリル酸エステル単量体(a1m)は特に限定はないが、例えば、アクリル酸エチル(単独重合体のガラス転移温度は、−24℃)、アクリル酸n−プロピル(同−37℃)、アクリル酸n−ブチル(同−54℃)、アクリル酸sec−ブチル(同−22℃)、アクリル酸n−ヘプチル(同−60℃)、アクリル酸n−ヘキシル(同−61℃)、アクリル酸n−オクチル(同−65℃)、アクリル酸2−エチルヘキシル(同−50℃)、アクリル酸2−メトキシエチル(同−50℃)、アクリル酸3−メトキシプロピル(同−75℃)、アクリル酸3−メトキシブチル(同−56℃)、アクリル酸2−エトキシメチル(同−50℃)、メタクリル酸n−オクチル(同−25℃)、メタクリル酸n−デシル(同−49℃)などを挙げることができる。中でも、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−メトキシエチルが好ましく、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルがより好ましく、アクリル酸2−エチルヘキシルがさらに好ましい。
【0022】
これらの(メタ)アクリル酸エステル単量体(a1m)は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0023】
(メタ)アクリル酸エステル単量体(a1m)は、それから導かれる単量体単位(a1)が、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)中、好ましくは80質量%以上99.9質量%以下、より好ましくは85質量%以上99.5質量%以下となるような量で重合に使用される。(メタ)アクリル酸エステル単量体(a1m)の使用量が、上記範囲内であると、重合時の重合系の粘度を適正な範囲に保つことができる。
【0024】
上記有機酸基を有する単量体単位(a2)を与える単量体(a2m)は特に限定されないが、その代表的なものとして、カルボキシル基、酸無水物基、スルホン酸基などの有機酸基を有する単量体を挙げることができる。また、これらのほか、スルフェン酸基、スルフィン酸基、燐酸基などを含有する単量体も使用することができる。
【0025】
カルボキシル基を有する単量体の具体例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などのα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸や、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などのα,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸の他、イタコン酸モノメチル、マレイン酸モノブチル、フマル酸モノプロピルなどのα,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸部分エステルなどを挙げることができる。また、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの、加水分解などによりカルボキシル基に誘導することができる基を有するものも同様に使用することができる。
【0026】
スルホン酸基を有する単量体の具体例としては、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのα,β−不飽和スルホン酸、及び、これらの塩を挙げることができる。
【0027】
単量体(a2m)としては、上に例示した有機酸基を有する単量体のうち、カルボキシル基を有する単量体がより好ましく、中でも、アクリル酸又はメタクリル酸を有する単量体が特に好ましい。これらの単量体は工業的に安価で容易に入手することができ、他の単量体成分との共重合性も良く、生産性の点でも好ましい。なお、単量体(a2m)は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0028】
有機酸基を有する単量体(a2m)は、それから導かれる単量体単位(a2)が(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)中、0.1質量%以上20質量%以下、好ましくは0.5質量%以上15質量%以下となるような量で重合に使用されるのが望ましい。有機酸基を有する単量体(a2m)の使用量が上記範囲内であると、重合時の重合系の粘度を適正な範囲に保つことができる。
【0029】
なお、有機酸基を有する単量体単位(a2)は、前述のように、有機酸基を有する単量体(a2m)の重合によって、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)中に導入するのが簡便であり好ましいが、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)生成後に、公知の高分子反応により、有機酸基を導入してもよい。
【0030】
また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)は、有機酸基以外の官能基を有する単量体(a3m)から誘導される単量体単位(a3)を含有していてもよい。
【0031】
上記有機酸基以外の官能基としては、水酸基、アミノ基、アミド基、エポキシ基、メルカプト基などを挙げることができる。
【0032】
水酸基を有する単量体としては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピルなどの、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルなどを挙げることができる。
【0033】
アミノ基を有する単量体としては、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノメチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、アミノスチレンなどを挙げることができる。
【0034】
アミド基を有する単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドなどのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸アミド単量体などを挙げることができる。
【0035】
エポキシ基を有する単量体としては、(メタ)アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテルなどを挙げることができる。
【0036】
有機酸基以外の官能基を有する単量体(a3m)は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0037】
これらの有機酸基以外の官能基を有する単量体(a3m)は、それから導かれる単量体単位(a3)が、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)中、10質量%以下となるような量で重合に使用されるのが好ましい。10質量%以下の単量体(a3m)を使用することにより、重合時の重合系の粘度を適正な範囲に保つことができる。
【0038】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)は、上述したガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a1)、有機酸基を有する単量体単位(a2)、及び、有機酸基以外の官能基を有する単量体単位(a3)以外に、上述した単量体と共重合可能な単量体(a4m)から誘導される単量体単位(a4)を含有していてもよい。単量体(a4m)は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0039】
単量体(a4m)から導かれる単量体単位(a4)の量は、アクリル酸エステル重合体(A1)の10質量%以下が好ましく、より好ましくは、5質量%以下である。
【0040】
単量体(a4m)は、特に限定されないが、その具体例として、上記(メタ)アクリル酸エステル単量体(a1m)以外の(メタ)アクリル酸エステル単量体、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸完全エステル、アルケニル芳香族単量体、共役ジエン系単量体、非共役ジエン系単量体、シアン化ビニル単量体、カルボン酸不飽和アルコールエステル、オレフィン系単量体などを挙げることができる。
【0041】
上記(メタ)アクリル酸エステル単量体(a1m)以外の(メタ)アクリル酸エステル単量体の具体例としては、アクリル酸メチル(単独重合体のガラス転移温度は、10℃)、メタクリル酸メチル(同105℃)、メタクリル酸エチル(同63℃)、メタクリル酸n−プロピル(同25℃)、メタクリル酸n−ブチル(同20℃)などを挙げることができる。
【0042】
α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸完全エステルの具体例としては、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、イタコン酸ジメチルなどを挙げることができる。
【0043】
アルケニル芳香族単量体の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、メチルα−メチルスチレン、ビニルトルエン、及び、ジビニルベンゼンなどを挙げることができる。
【0044】
共役ジエン系単量体の具体例としては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレンと同義)、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、シクロペンタジエンなどを挙げることができる。
【0045】
非共役ジエン系単量体の具体例としては、1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネンなどを挙げることができる。
【0046】
シアン化ビニル単量体の具体例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリルなどを挙げることができる。
【0047】
カルボン酸不飽和アルコールエステル単量体の具体例としては、酢酸ビニルなどを挙げることができる。
【0048】
オレフィン系単量体の具体例としては、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテンなどを挙げることができる。
【0049】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法(GPC法)で測定して、標準ポリスチレン換算で10万以上100万以下の範囲にあることが好ましく、20万以上50万以下の範囲にあることが、より好ましい。
【0050】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)は、ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を成形する(メタ)アクリル酸エステル単量体(a1m)、有機酸基を有する単量体(a2m)、必要に応じて使用する、有機酸基以外の官能基を含有する単量体(a3m)、及び、必要に応じて使用するこれらの単量体と共重合可能な単量体(a4m)を共重合することによって特に好適に得ることができる。
【0051】
重合の方法は、特に限定されず、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、塊状重合などのいずれであってもよく、これ以外の方法でもよい。好ましくは、溶液重合であり、中でも重合溶媒として、酢酸エチル、乳酸エチルなどのカルボン酸エステルやベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族溶媒を用いた溶液重合がより好ましい。重合に際して、単量体は、重合反応容器に分割添加してもよいが、全量を一括添加するのが好ましい。重合開始の方法は、特に限定されないが、重合開始剤として熱重合開始剤を用いるのが好ましい。熱重合開始剤は、特に限定されず、過酸化物及びアゾ化合物のいずれでもよい。
【0052】
過酸化物重合開始剤としては、t−ブチルヒドロペルオキシドのようなヒドロペルオキシドや、ベンゾイルペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシドのようなペルオキシドの他、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩などを挙げることができる。これらの過酸化物は、還元剤と適宜組み合わせて、レドックス系触媒として使用することもできる。
【0053】
アゾ化合物重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)などを挙げることができる。
【0054】
重合開始剤の使用量は、特に限定されないが、単量体100質量部に対して、0.01質量部以上50質量部以下の範囲であるのが好ましい。
【0055】
これらの単量体のその他の重合条件(重合温度、圧力、撹拌条件など々)は、特に制限がない。
【0056】
重合反応終了後、必要により、得られた重合体を重合媒体から分離する。分離の方法は特に限定されないが、溶液重合の場合、重合溶液を減圧下に置き、重合溶媒を留去することにより、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)を得ることができる。
【0057】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)の重量平均分子量は、重合の際に使用する重合開始剤の量や、連鎖移動剤の量を適宜調整することによって制御することができる。
【0058】
((メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1))
(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)は、ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)を主成分とし、多官能性単量体(a6m)を含んでいる。前述したように、上記の「主成分」とは、「50質量%以上含有する」ことを意味する。
また、(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)が、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)90質量%以上99.9質量%以下、及び、多官能性単量体(a6m)0.1質量%以上10質量%以下を含んでいることが好ましい。前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)の含有比率を、90質量%以上99.9質量%以下とすると、感圧接着性や柔軟性に優れた熱伝導性感圧接着剤組成物(E)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)を得やすくなる。
【0059】
ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)としては、例えば、アクリル酸エチル(単独重合体のガラス転移温度は、−24℃)、アクリル酸n−プロピル(同−37℃)、アクリル酸n−ブチル(同−54℃)、アクリル酸sec−ブチル(同−22℃)、アクリル酸n−ヘプチル(同−60℃)、アクリル酸n−ヘキシル(同−61℃)、アクリル酸n−オクチル(同−65℃)、アクリル酸2−エチルヘキシル(同−50℃)、アクリル酸2−メトキシエチル(同−50℃)、アクリル酸3−メトキシプロピル(同−75℃)、アクリル酸3−メトキシブチル(同−56℃)、アクリル酸2−エトキシメチル(同−50℃)、メタクリル酸n−オクチル(同−25℃)、メタクリル酸n−デシル(同−49℃)などを挙げることができる。中でも、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−メトキシエチルがより好ましく、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルがさらに好ましく、アクリル酸2−エチルヘキシルが特に好ましい。前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0060】
多官能性単量体(a6m)としては、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)と共重合可能な多官能性単量体を用いる。多官能性単量体(a6m)を共重合させることにより、共重合体に分子内及び/又は分子間架橋を導入して、感圧接着剤としての凝集力を高めることができる。
【0061】
多官能性単量体(a6m)としては、例えば、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,12−ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの多官能性(メタ)アクリレートや、2,4−ビス(トリクロロメチル)−6−p−メトキシスチレン−5−トリアジンなどの置換トリアジンの他、4−アクリルオキシベンゾフェノンのようなモノエチレン系不飽和芳香族ケトンなどを用いることができる。中でも、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートが好ましい。多官能性単量体(a6m)は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0062】
(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)は、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)や多官能性単量体(a6m)と共重合可能な、有機酸基を有する単量体(a7m)を含んでいてもよい。当該有機酸基を有する単量体(a7m)の例としては、上記単量体(a2m)として例示したものと同様の有機酸基を有する単量体を挙げることができるので、説明を省略する。有機酸基を有する単量体(a7m)は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0063】
上記単量体(a7m)は、(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)中、10質量%以下となるような量で重合に使用されるのが好ましい。10質量%以下の単量体(a7m)を使用することにより、重合時の混合組成物の粘度を適正な範囲に保つことができる。
【0064】
また、(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)は、当該(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)に含まれる上述した単量体と共重合可能な他の単量体(a8m)を含有していてもよい。当該単量体(a8m)の例としては、上記単量体(a3m)及び単量体(a4m)として例示するものと同様の単量体を挙げることができるので、説明を省略する。単量体(a8m)は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0065】
上記単量体(a8m)は、(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)中、10質量%以下となるような量で重合に使用されるのが好ましい。10質量%以下の単量体(a8m)を使用することにより、重合時の混合組成物の粘度を適正な範囲に保つことができる。
【0066】
<重合開始剤(C)>
熱伝導性感圧接着剤組成物(E)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)を成形する際、これらに含まれる(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)を重合する。その重合を促進するため、熱伝導性感圧接着剤組成物(E)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)を構成する混合組成物は、重合開始剤(C)を含有している。
【0067】
本発明に用いることができる重合開始剤(C)としては、光重合開始剤、アゾ系熱重合開始剤、有機過酸化物熱重合開始剤などが挙げられるが、得られる熱伝導性感圧接着剤組成物(E)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)の接着力等の観点から、有機過酸化物熱重合開始剤が好ましく用いられる。
【0068】
光重合開始剤としては、公知の各種光重合開始剤を用いることができる。その中でも、アシルホスフォンオキサイド系化合物が好ましい。好ましい光重合開始剤であるアシルホスフィンオキサイド系化合物としては、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドなどが挙げられる。
【0069】
アゾ系熱重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)などが挙げられる。
【0070】
有機過酸化物熱重合開始剤としては、t−ブチルヒドロペルオキシドのようなヒドロペルオキシドや、ベンゾイルペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシド、1,6−ビス(t−ブチルペルオキシカルボニルオキシ)ヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンのようなペルオキシドなどを挙げることができるが、熱分解時に臭気の原因となる揮発性物質を放出しないことが好ましい。有機過酸化物熱重合開始剤の中でも、1分間半減期温度が100℃以上かつ170℃以下のものが好ましい。
【0071】
重合開始剤(C)の使用量は、(メタ)アクリル樹脂組成物(A)100質量部に対し、0.01質量部以上10質量部以下である。重合開始剤(C)の使用量の下限は、好ましくは0.1質量部であり、より好ましくは0.3質量部である。一方、重合開始剤(C)の使用量の上限は、好ましくは5質量部であり、より好ましくは1質量部である。(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)の重合転化率は、95質量%以上であることが好ましい。重合開始剤(C)の使用量が0.01質量部未満であれば、(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)の重合転化率が低くなり、熱伝導性感圧接着剤組成物(E)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)に単量体臭が残る虞がある。また、重合開始剤(C)の使用量が10質量部を超えると、重合開始剤(C)を添加することにより重合反応の進行を過度に誘発し、その結果、熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)が平滑なシート状にならず、材料破壊を起こす虞がある。
【0072】
<チタネート処理された難燃性無機化合物(B)>
本発明に用いる、チタネート処理された難燃性無機化合物(B)における、チタネート処理の方法は特に限定されず、公知のチタネート系カップリング剤を用いて行うことができる。
【0073】
チタネート系カップリング剤としては、例えば、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、イソプロピルトリ(N−アミドエチル・アミノエチル)チタネート、ジクミルフェニルオキシアセテートチタネート、及びジイソステアロイルエチレンチタネート等が挙げられる。
【0074】
チタネート処理された難燃性無機化合物(B)としては、長周期表2族又は13族の金属の水酸化物にチタネート処理を施したものが好適である。上記の、長周期表2族又は13族の金属としては、当該2族の金属として、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等を、当該13族の金属として、アルミニウム、ガリウム、インジウム等を、それぞれ挙げることができる。上記の、長周期表2族又は13族の金属の水酸化物にチタネート処理を施したものの中でも、チタネート処理された水酸化アルミニウムが特に好ましい。熱伝導性感圧接着剤組成物(E)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)に優れた難燃性を付与することができるからである。なお、チタネート処理された難燃性無機化合物(B)としては、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0075】
熱伝導性感圧接着剤組成物(E)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)に含有されるチタネート処理された難燃性無機化合物(B)の量は、(メタ)アクリル樹脂組成物(A)100質量部に対して、100質量部以上550質量部以下である。チタネート処理された難燃性無機化合物(B)の含有量の上限は、好ましくは450質量部であり、より好ましくは400質量部である。一方、チタネート処理された難燃性無機化合物(B)の含有量の下限は、好ましくは150質量部であり、より好ましくは200質量部である。チタネート処理された難燃性無機化合物(B)の含有量が550質量部を超えると、熱伝導性感圧接着剤組成物(E)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)の素となる混合組成物の粘度が増し、熱伝導性感圧接着剤組成物(E)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)の生産性が低下するとともに、硬度が増大して形状追随性が低下する傾向にある。一方、チタネート処理された難燃性無機化合物(B)の含有量が100質量部未満であると、熱伝導性感圧接着剤組成物(E)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)の難燃性が劣る虞がある。
【0076】
従来、シラン処理(シランカップリング剤を用いた表面処理。以下、同じ。)やチタネート処理を添加剤に施すことによって、当該添加剤を樹脂組成物に混合しやすくなることが知られていた。一方、カップリング剤で表面処理を施された添加剤を樹脂組成物に添加しても、当該添加剤は表面が覆われているため、添加剤同士の接触が少なくなり、熱伝導率を向上させることは難しいと考えられていた。しかしながら、本発明者らは、チタネート処理された水酸化アルミニウム等の難燃性無機化合物と、後述する、炭酸カルシウム等の金属の弱酸塩とを上記(メタ)アクリル樹脂組成物(A)等に混合することによって、良好な熱伝導率を有する熱伝導性感圧接着剤組成物(E)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)を得られることを見出した。また、通常は、樹脂組成物に添加する添加剤の量を増やせば、当該樹脂組成物は脆くなる。そのため、添加剤を多量に添加した樹脂組成物を薄く成形しようとすると、作製時等に破損するという問題があった。さらに、通常は、シラン処理された添加剤を用いた方が添加剤の本来の機能を発揮しやすいことが知られている。しかしながら、本発明者らは、チタネート処理された水酸化アルミニウム等の難燃性無機化合物と、炭酸カルシウム等の金属の弱酸塩とを上記(メタ)アクリル樹脂組成物(A)等に混合することによって、これらの添加剤の添加量をある程度増やしたとしても、熱伝導性感圧接着剤組成物(E)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)を薄く成形する際に柔軟性を維持しつつ、破損を防止できることを見出した。このように、本発明の熱伝導性感圧接着剤組成物(E)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)は、薄く成形することが可能であり、熱伝導率及び柔軟性をバランス良く備えている。
【0077】
<長周期表1族、2族、12族、又は13族の金属の弱酸塩(D)>
本発明に用いる金属の弱酸塩(D)は、長周期表1族、2族、12族、又は13族の金属の弱酸塩である。当該金属の弱酸塩(D)の具体例としては、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)などの金属の、炭酸塩、リン酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、酪酸塩、シュウ酸塩などの弱酸塩、などが挙げられる。これらの中から、本発明に用いる金属の弱酸塩(D)としては、上に例示した金属の炭酸塩が好ましい。また、Caの上記した弱酸塩が好ましい。本発明に用いる金属の弱酸塩(D)として最も好ましいのは、炭酸カルシウムである。炭酸カルシウムは廉価であり入手が容易で、熱伝導性感圧接着剤組成物(E)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)の生産コストを低減させ、生産性を向上させることができる。
【0078】
熱伝導性感圧接着剤組成物(E)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)に含有される金属の弱酸塩(D)の量は、(メタ)アクリル樹脂組成物(A)100質量部に対して、30質量部以上550質量部以下である。金属の弱酸塩(D)の含有量の上限は、好ましくは400質量部であり、より好ましくは300質量部である。一方、金属の弱酸塩(D)の含有量の下限は、好ましくは100質量部であり、より好ましくは200質量部である。金属の弱酸塩(D)の含有量が550質量部を超えると、熱伝導性感圧接着剤組成物(E)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)の硬度が増大し、形状追随性が低下する傾向にある。一方、金属の弱酸塩(D)の含有量が30質量部未満であると、金属の弱酸塩(D)を含有させることによる効果を得にくくなる。
【0079】
従来、炭酸カルシウム等は増量剤として知られていたが、炭酸カルシウム等の金属の弱酸塩が熱伝導率を向上させるための添加剤として用いられることはなかった。したがって、炭酸カルシウム等の金属の弱酸塩を添加することによって、熱伝導性感圧接着剤組成物(E)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)の熱伝導率は低下すると予想された。しかしながら、本発明者らは、炭酸カルシウム等の金属の弱酸塩の添加量をある程度増やしたとしても、他の添加剤と組み合わせて用いることによって、ある程度の熱伝導率を有する熱伝導性感圧接着剤組成物(E)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)を得られることを見出した。また、通常は樹脂組成物に添加する添加剤の量を増やせば、当該樹脂組成物は脆くなる。そのため、添加剤を多量に添加した樹脂組成物を薄く成形しようとすると、作製時等に破損するという問題があった。しかしながら、本発明者らは、炭酸カルシウム等の金属の弱酸塩の添加量をある程度増やしたとしても、他の添加剤と組み合わせて用いることによって、熱伝導性感圧接着剤組成物(E)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)を薄く成形しても、柔軟性を維持しつつ、作製時等における破損を防止できることを見出した。以上のように、本発明の熱伝導性感圧接着剤組成物(E)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)は、薄く成形することが可能であり、熱伝導率及び柔軟性をバランス良く備えている。
【0080】
本発明の熱伝導性感圧接着剤組成物(E)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)は、少なくとも、上述した(メタ)アクリル樹脂組成物(A)、チタネート処理された難燃性無機化合物(B)、金属の弱酸塩(D)、及び重合開始剤(C)を所定の割合で含んでいればよく、これらの添加剤を組み合わせて添加することによる上記効果を妨げない範囲で、公知の添加剤を添加することもできる。公知の添加剤としては、リン酸エステル;発泡剤(発泡助剤を含む。);金属の水酸化物、金属塩水和物等の難燃性熱伝導無機化合物;ガラス繊維;膨張化黒鉛粉、アルミナ、PITCH系炭素繊維等の熱伝導性無機化合物;外部架橋剤;カーボンブラック、二酸化チタンなど顔料;クレーなどのその他の充填材;フラーレン、カーボンナノチューブなどのナノ粒子;ポリフェノール系、ハイドロキノン系、ヒンダードアミン系などの酸化防止剤;アクリル系ポリマー粒子、微粒シリカ、酸化マグネシウムなど増粘剤;等を挙げることができる。
【0081】
2.製造方法
本発明の熱伝導性感圧接着剤組成物(E)は、これまでに説明した材料を混合した後、(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)の重合及び架橋反応を行うことにより得ることができる。
【0082】
すなわち、本発明の熱伝導性感圧接着剤組成物(E)の製造方法は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)5質量%以上40質量%以下、及び、ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)を主成分とし、多官能性単量体(a6m)を含む(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)60質量%以上95質量%以下、を含む(メタ)アクリル樹脂組成物(A)100質量部と、チタネート処理された難燃性無機化合物(B)100質量部以上550質量部以下と、長周期表1族、2族、12族、又は13族の金属の弱酸塩(D)30質量部以上550質量部以下と、重合開始剤(C)0.01質量部以上10質量部以下と、を混合する混合工程、並びに、混合工程の後、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)の重合及び架橋反応を行う工程を有している。なお、各材料の好ましい含有比率等は上述した通りであり、説明を省略する。また、(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)の重合及び架橋反応を行う際には、加熱することが好ましい。当該加熱には、例えば、熱風、電気ヒーター、赤外線などを用いることができる。このときの加熱温度は、重合開始剤(C)が効率良く分解し、(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)の重合が進行する温度が好ましい。温度範囲は、用いる重合開始剤(C)の種類により異なるが、100℃以上200℃以下が好ましく、130℃以上180℃以下がより好ましい。
【0083】
本発明の熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)は、これまでに説明した材料を混合してシート状に成形した後、又はシート状に成形しながら、(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)の重合及び架橋反応を行うことにより得ることができる。
【0084】
すなわち、本発明の熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)の製造方法は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)5質量%以上40質量%以下、及び、ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)を主成分とし、多官能性単量体(a6m)を含む(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)60質量%以上95質量%以下、を含む(メタ)アクリル樹脂組成物(A)100質量部と、チタネート処理された難燃性無機化合物(B)100質量部以上550質量部以下と、長周期表1族、2族、12族、又は13族の金属の弱酸塩(D)30質量部以上550質量部以下と、重合開始剤(C)0.01質量部以上10質量部以下と、を混合する混合工程、並びに、混合工程で得られた混合組成物をシート状に成形した後、又は、混合組成物をシート状に成形しながら、(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)の重合及び架橋反応を行う工程を有している。なお、各材料の好ましい含有比率等は上述した通りであり、説明を省略する。また、(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)の重合及び架橋反応を行う際には、加熱することが好ましい。当該加熱には、例えば、熱風、電気ヒーター、赤外線などを用いることができる。このときの加熱温度は、重合開始剤(C)が効率良く分解し、(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)の重合が進行する温度が好ましい。温度範囲は、用いる有重合開始剤(C)の種類により異なるが、100℃以上200℃以下が好ましく、130℃以上180℃以下がより好ましい。
【0085】
上記混合組成物をシート状に成形する方法は、特に限定されない。好適な方法としては、例えば、混合組成物を、剥離処理したポリエステルフィルムなどの工程紙の上に塗布するキャスト法、混合組成物を、必要ならば二枚の剥離処理した工程紙間に挟んで、ロールの間を通す方法、及び、押出機を用いて、混合組成物を押出す際にダイスを通して厚さを制御する方法などが挙げられる。
【0086】
熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)は、上述したように、従来の熱伝導性感圧接着性シート状成形体より薄く成形することが可能である。具体的には、熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)の厚さは0.05mm以上0.5mm以下にすることができる。熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)の厚さを薄くすることによって、熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)の厚み方向の熱抵抗を低くすることができる。かかる観点から、熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)の厚さの上限は、好ましくは0.4mmである。一方、熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)の厚さの下限は、好ましくは0.2mmである。熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)が0.05mmより薄いと、当該熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)を発熱体及び放熱体に貼付する際に空気を巻き込み易く、結果として、熱抵抗の増加をまねいたり、被着体への貼り付け工程における作業性が劣ったりする虞がある。
【0087】
また、熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)は、基材の片面又は両面に成形することもできる。当該基材を構成する材料は特に限定されない。当該基材の具体例としては、アルミニウム、銅、ステンレス鋼、ベリリウム銅などの熱伝導性に優れる金属、及び、合金の箔状物や、熱伝導性シリコーンなどのそれ自体熱伝導性に優れるポリマーからなるシート状物や、熱伝導性添加物を含有させた熱伝導性プラスチックフィルムや、各種不織布や、ガラスクロスや、ハニカム構造体などを挙げることができる。プラスチックフィルムとしては、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリメチルペンテン、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、芳香族ポリアミドなどの耐熱性ポリマーからなるフィルムを使用することができる。
【0088】
3.使用例
本発明の熱伝導性感圧接着剤組成物(E)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)は、電子部品の一部として用いることができる。その際、放熱体のような基材上に直接的に成形して、電子部品の一部として提供することもできる。当該電子部品の具体例としては、エレクトロルミネッセンス(EL)、発光ダイオード(LED)光源を有する機器における発熱部周囲の部品、自動車等のパワーデバイス周囲の部品、燃料電池、太陽電池、バッテリー、携帯電話、携帯情報端末(PDA)、ノートパソコン、液晶、表面伝導型電子放出素子ディスプレイ(SED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、又は集積回路(IC)など発熱部を有する機器や部品を挙げることができる。
【0089】
なお、本発明の熱伝導性感圧接着剤組成物(E)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)の電子機器への使用方法の一例として、LED光源を具体例に下記に記述するような使用方法を挙げることができる。すなわちLED光源に直接貼り付ける;LED光源と放熱材料(ヒートシンク、ファン、ペルチェ素子、ヒートパイプ、グラファイトシートなど)との間に挟みこむ;LED光源に接続された放熱材料(ヒートシンク、ファン、ペルチェ素子、ヒートパイプ、グラファイトシートなど)に貼り付ける;LED光源を取り囲む筐体として使用する;LED光源を取り囲む筐体に貼り付ける;LED光源と筐体との隙間を埋める;などの方法である。LED光源の用途例としては、透過型の液晶パネルを有する表示装置のバックライト装置(テレビ、携帯、PC、ノートPC、PDAなど);車両用灯具;工業用照明;商業用照明;一般住宅用照明;などが挙げられる。
【0090】
また、LED光源以外の具体例としては、以下が挙げられる。すなわち、PDPパネル;IC発熱部;冷陰極管(CCFL);有機EL光源;無機EL光源;高輝度発光LED光源;高輝度発光有機EL光源;高輝度発光無機EL光源;CPU;MPU;半導体素子;などである。
【0091】
更に本発明の熱伝導性感圧接着剤組成物(E)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)の使用方法としては、装置の筐体に貼り付けることなどを挙げることができる。例えば、自動車などに使用される装置では、自動車に備えられる筐体の内部に貼り付ける;自動車に備えられる筐体の外側に貼り付ける;自動車に備えられる筐体の内部にある発熱部(カーナビ/燃料電池/熱交換器)と該筐体とを接続する;自動車に備えられる筐体の内部にある発熱部(カーナビ/燃料電池/熱交換器)に接続した放熱板に貼り付ける;ことなどが挙げられる。
【0092】
なお、自動車以外にも、同様の方法で本発明の本発明の熱伝導性感圧接着剤組成物(E)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)を使用することができる。その対象としては、例えばパソコン;住宅;テレビ;携帯電話機;自動販売機;冷蔵庫;太陽電池;表面伝導型電子放出素子ディスプレイ(SED);有機ELディスプレイ;無機ELディスプレイ;有機EL照明;無機EL照明;有機ELディスプレイ;ノートパソコン;PDA;燃料電池;半導体装置;炊飯器;洗濯機;洗濯乾燥機;光半導体素子と蛍光体とを組み合わせた光半導体装置;各種パワーデバイス;ゲーム機;キャパシタ;などが挙げられる。
【0093】
更に、本発明の本発明の熱伝導性感圧接着剤組成物(E)及び熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)は上記の使用方法に留まらず、用途に応じて他の方法で使用することも可能である。例えば、カーペットや温暖マットなどの熱の均一化のために使用する;LED光源/熱源の封止剤として使用する;太陽電池セルの封止剤として使用する;太陽電池のバックシ−トとして使用する;太陽電池のバックシ−トと屋根との間に使用する;自動販売機内部の断熱層の内側に使用する;有機EL照明の筐体内部に、乾燥剤や吸湿剤と共に使用する;有機EL照明の筐体内部の熱伝導層及びその上に、乾燥剤や吸湿剤と共に使用する;有機EL照明の筐体内部の熱伝導層、放熱層、及びその上に、乾燥剤や吸湿剤と共に使用する;有機EL照明の筐体内部の熱伝導層、エポキシ系の放熱層、及びその上に、乾燥剤や吸湿剤と共に使用する;人や動物を冷やすための装置、衣類、タオル、シートなどの冷却部材に対し、身体と反対の面に使用する;電子写真複写機、電子写真プリンタなどの画像形成装置に搭載する定着装置の加圧部材に使用する;電子写真複写機、電子写真プリンタなどの画像形成装置に搭載する定着装置の加圧部材そのものとして使用する;制膜装置の処理対象体を載せる熱流制御用伝熱部として使用する;制膜装置の処理対象体を載せる熱流制御用伝熱部に使用する;放射性物質格納容器の外層と内装の間に使用する;太陽光線を吸収するソーラパネルを設置したボックス体の中に使用する;CCFLバックライトの反射シートとアルミシャーシの間に使用する;ことなどを挙げることができる。
【実施例】
【0094】
以下に、実施例にて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、ここで用いる「部」や「%」は、特に断らない限り、質量基準である。
【0095】
<外観>
後に説明するようにして厚さ0.3mmの熱伝導性感圧接着剤シート状成形体を作製後、外観の評価を目視で行った。後に説明するように、試験片の表面には離型処理を施したポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、「離型PETフィルム」という。)が貼合されている。当該評価は、熱伝導性感圧接着剤シート状成形体の両面に離型PETフィルムが貼合された状態で行った。その結果を表1及び表2に示した。表1及び表2において、熱伝導性感圧接着剤シート状成形体にピンホールやクラック等の欠陥がない場合を「良好」とし、欠陥が見られた場合は、その内容を記載した。なお、熱伝導性感圧接着剤シート状成形体にピンホールやクラックが生じた場合、品質が低下し、特に絶縁性を必要とする用途には使えなくなる。
【0096】
<PETからの剥離性>
後に説明するようにして厚さ0.3mmの熱伝導性感圧接着剤シート状成形体を作製後、両面に貼合された離型PETフィルムのうち一方を剥がし、その際の熱伝導性感圧接着剤シート状成形体の状態を目視で観察した。その結果を表1及び表2に示した。表1及び表2において、熱伝導性感圧接着剤シート状成形体を破損させることなく離型PETフィルムを剥がせた場合を「剥離可能」とし、熱伝導性感圧接着剤シート状成形体が破損した場合を「材料破壊」とした。なお、この評価の段階で破損したものは製品として使用できないため、以下の評価は行っていない。
【0097】
<熱伝導率>
後に説明するようにして厚さ0.3mmの熱伝導性感圧接着剤シート状成形体を作製した後、それを幅50mm×長さ110mmの大きさに裁断した試験片を用意した。その後、当該試験片から一方の面から離型PETフィルムを剥離し、当該離型PETフィルムを剥がした面に、空気が入らないように、ポリ塩化ビニリデン製のラップフィルム(厚さ15μm)を貼った。このラップフィルムの大きさは、試験片の粘着面より大きいものであれば良い。そして、このラップフィルムを貼った試験片を用いて熱伝導率を測定した。熱伝導率(単位:W/m・K)の測定は、迅速熱伝導率計(商品名「QTM―500」、京都電子工業株式会社製)を用いて、非定常熱線比較法により行った。なお、リファレンスプレートには、シリコーンスポンジ(電流値:1A)、シリコーンゴム(電流値:2A)、及び、石英(電流値:4A)をこの順で使用した。測定は23℃雰囲気下で行った。その結果を表1及び表2に示した。この評価による結果が0.5W/m・Kより大きければ、熱伝導率が高いと言える。
【0098】
<硬度(柔軟性)>
後に説明するようにして厚さ0.3mmの熱伝導性感圧接着剤シート状成形体を作製した後、それを幅30mm×長さ50mmの大きさに切断した試験片を複数枚用意した。それらの試験片から離型PETフィルムを剥がし、離型PETフィルムを剥がした面にタルクを使用して粉打ちした。厚さが6mm程度になるように試験片を積層し、硬度計(商品名「CL−150」、高分子計器株式会社製、JIS K7312準拠)の試料台上に載せた。その後、ダンパーを落として硬度の測定を行った。ダンパーが試料に接してから20秒後の値を測定値として読み取った。測定は23℃雰囲気下で行った。その結果を表1及び表2に示した。この評価による結果が50未満であれば、柔軟性が優れていると言える。
【0099】
(実施例1)
反応器に、アクリル酸2−エチルヘキシル94%とアクリル酸6%とからなる単量体混合物100部、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.03部及び酢酸エチル700部を入れて均一に溶解し、窒素置換後、80℃で6時間重合反応を行った。重合転化率は97%であった。得られた重合体を減圧乾燥して酢酸エチルを蒸発させ、粘性のある固体状の(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1−1)を得た。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1−1)の重量平均分子量(Mw)は270,000、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)は3.1であった。重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、テトラヒドロフランを溶離液とするゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、標準ポリスチレン換算で求めた。
【0100】
次に、アクリル酸エステル単量体混合物(α1−1)として、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート及びペンタエリスリトールジアクリレートを60:35:5の割合で混合した多官能性単量体((a6m)として)0.2部及び、アクリル酸2−エチルヘキシル((a5m)として)(表1及び表2では、「2EHA」と略記している。)79部と、有機過酸化物熱重合開始剤(C)として1,6−ビス(t−ブチルペルオキシカルボニルオキシ)ヘキサン(1分間半減期温度は150℃である。)1.0部とを電子天秤で計量し、これらを上記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1−1)20部と混合した。混合には、恒温槽(東機産業株式会社製、商品名「ビスコメイト 150III」)及びホバートミキサー(株式会社小平製作所製、商品名「ACM−5LVT型」、容量:5L)を用いた。ホバート容器の温調は60℃に設定し、10分間攪拌した。この工程を第1混合工程という。
【0101】
次に、チタネート処理された水酸化アルミニウム((B)として)(日本軽金属株式会社製、商品名「B53T」、平均粒径:50μm)300部と、炭酸カルシウム((D)として)(竹原工業株式会社製、商品名「C−10」、平均粒径:30μm、BET比表面積:0.5m/g)250部とを計量して上記ホバート容器に投入し、ホバート容器の温調を60℃に設定して10分間攪拌した。この工程を第2混合工程という。その後、ホバート容器内を真空にし、ホバート容器の温調を60℃に設定して5分間攪拌した。この工程を第3混合工程という。
【0102】
次に、上記第1〜第3混合工程を経て得た混合組成物を離型PETフィルム上に垂らし、当該混合組成物上にさらに離型PETフィルムを被せた。混合組成物が離型PETフィルムに挟持されたこの積層体を、両者の間隔を0.3mmにしたロールの間を通し、シート状にした。その後、当該積層体をオーブンに投入し、150℃で15分間加熱した。この加熱工程によって、アクリル酸エステル単量体混合物(α1−1)を重合及び架橋反応させ、熱伝導性感圧接着剤シート状成形体(以下、単に「シート」と表記する。)(F1)を得た。なお、シート(F1)中の残存単量体量から(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1−1)の重合転化率を計算したところ、99.9%であった。
【0103】
(実施例3、4、6〜8、及び比較例4、5、7、8)
各添加剤の使用量を表1及び表2に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、シート(F3、F4、F6〜F8、FC4、FC5、FC7、FC8)を得た。
【0104】
(実施例2、5、及び比較例1〜3、6)
第2混合工程において使用した添加剤を表1及び表2に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、シート(F2、F5、FC1〜FC3、FC6)を得た。なお、実施例1で用いていない添加剤は、下記の通りである。
・リン酸エステル:味の素ファインテクノ株式会社製、商品名「レオフォス65」、化合物名「リン酸トリアリールイソプロピル化物」
・チタネート処理された水酸化アルミニウム((B)として)(B103T):日本軽金属株式会社製、商品名「B103T」、平均粒径:8μm
・シラン処理された水酸化アルミニウム(BW53ST):日本軽金属株式会社製、商品名「BW53ST」、平均粒径:50μm
・水酸化アルミニウム(B53):日本軽金属株式会社製、商品名「B53」、平均粒径:50μm
・炭酸カルシウム((D)として)(NA−300):清水工業株式会社製、商品名「NA−300」、平均粒径:16μm、BET比表面積:0.3m/g
・タルク:日本タルク株式会社製、化学名:含水珪酸マグネシウム[MgSi10(OH)]、SiO約60%とMgO約30%と結晶水4.8%とが主成分。
【0105】
【表1】

【0106】
【表2】

【0107】
表1に示すように、実施例にかかるシート(F1)〜(F8)は、いずれも外観が良く、剥離性も優れていた。また、これらのシート(F1)〜(F8)は、熱伝導率が高く、柔軟性も優れていた。一方、表2に示すように、比較例にかかるシート(FC1)〜(FC8)は上記性能のいずれかが劣っていた。具体的には、以下の通りであった。
・比較例1:長周期表1族、2族、12族、又は13族の金属の弱酸塩(D)を含有していない比較例1のシート(FC1)は、離型PETフィルムを剥離する際に破損しており、製品として使用できないものであった。
・比較例2:シート(F1)に用いた水酸化アルミニウムに代えてシラン処理された水酸化アルミニウムを用いた比較例2のシート(FC2)は、ピンホールができていた。また、離型PETフィルムを剥離する際に破損しており、製品として使用できないものであった。
・比較例3:シート(F1)に用いた水酸化アルミニウムに代えてチタネート処理されていない水酸化アルミニウムを用いた比較例3のシート(FC3)は、ピンホールができていた。また、離型PETフィルムを剥離する際に破損しており、製品として使用できないものであった。
・比較例4:長周期表1族、2族、12族、又は13族の金属の弱酸塩(D)の含有量が本発明で規定する範囲より少なかった比較例4のシート(FC4)は、離型PETフィルムを剥離する際に破損しており、製品として使用できないものであった。
・比較例5:長周期表1族、2族、12族、又は13族の金属の弱酸塩(D)の含有量が本発明で規定する範囲を超えていた比較例5のシート(FC5)は、ピンホールができていた。また、硬度が高く、柔軟性が劣っていた。
・比較例6:シート(F1)に用いた炭酸カルシウムに代えてタルクを用いた比較例6のシート(FC6)は、ピンホールができていた。また、離型PETフィルムを剥離する際に破損しており、製品として使用できないものであった。
・比較例7:チタネート処理された難燃性無機化合物(B)の含有量が本発明で規定する範囲より少なかった比較例7のシート(FC7)は、熱伝導率が低かった。
・比較例8:チタネート処理された難燃性無機化合物(B)の含有量が本発明で規定する範囲を超えていた比較例8のシート(FC8)は、ピンホールができていた。また、離型PETフィルムを剥離する際に破損しており、製品として使用できないものであった。
【0108】
以上、現時点において最も実践的であり、かつ好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明した。しかしながら、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う熱伝導性感圧接着剤組成物、熱伝導性感圧接着剤シート状成形体、熱伝導性感圧接着剤組成物の製造方法、熱伝導性感圧接着剤シート状成形体の製造方法、及び電子部品もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)5質量%以上40質量%以下、及び、ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)を主成分とし、多官能性単量体(a6m)を含む(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)60質量%以上95質量%以下、を含む(メタ)アクリル樹脂組成物(A)100質量部と、
チタネート処理された難燃性無機化合物(B)100質量部以上550質量部以下と、
長周期表1族、2族、12族、又は13族の金属の弱酸塩(D)30質量部以上550質量部以下と、
重合開始剤(C)0.01質量部以上10質量部以下と、
を含む混合組成物中の、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)の重合及び架橋反応が行われて成る、熱伝導性感圧接着剤組成物(E)。
【請求項2】
前記(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)が、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)90質量%以上99.9質量%以下、及び、前記多官能性単量体(a6m)0.1質量%以上10質量%以下を含んで成る、請求項1に記載の熱伝導性感圧接着剤組成物(E)。
【請求項3】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)5質量%以上40質量%以下、及び、ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体を主成分(a5m)とし、多官能性単量体(a6m)を含む(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)60質量%以上95質量%以下、を含む(メタ)アクリル樹脂組成物(A)100質量部と、
チタネート処理された難燃性無機化合物(B)100質量部以上550質量部以下と、
長周期表1族、2族、12族、又は13族の金属の弱酸塩(D)30質量部以上550質量部以下と、
重合開始剤(C)0.01質量部以上10質量部以下と、
を含む混合組成物をシート状に成形した後、又は前記混合組成物をシート状に成形しながら、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)の重合及び架橋反応が行われて成る、熱伝導性感圧接着剤シート状成形体(F)。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)が、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)90質量%以上99.9質量%以下、及び、前記多官能性単量体(a6m)0.1質量%以上10質量%以下を含んで成る、請求項3に記載の熱伝導性感圧接着剤シート状成形体(F)。
【請求項5】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)5質量%以上40質量%以下、及び、ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)を主成分とし、多官能性単量体(a6m)を含む(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)60質量%以上95質量%以下、を含む(メタ)アクリル樹脂組成物(A)100質量部と、
チタネート処理された難燃性無機化合物(B)100質量部以上550質量部以下と、
長周期表1族、2族、12族、又は13族の金属の弱酸塩(D)30質量部以上550質量部以下と、
重合開始剤(C)0.01質量部以上10質量部以下と、
を混合する混合工程、並びに、
前記混合工程の後、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)の重合及び架橋反応を行う工程、
を含む、熱伝導性感圧接着剤組成物(E)の製造方法。
【請求項6】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A1)5質量%以上40質量%以下、及び、ガラス転移温度が−20℃以下となる単独重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体(a5m)を主成分とし、多官能性単量体(a6m)を含む(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)60質量%以上95質量%以下、を含む(メタ)アクリル樹脂組成物(A)100質量部と、
チタネート処理された難燃性無機化合物(B)100質量部以上550質量部以下と、
長周期表1族、2族、12族、又は13族の金属の弱酸塩(D)30質量部以上550質量部以下と、
重合開始剤(C)0.01質量部以上10質量部以下と、
を混合する混合工程、並びに、
前記混合工程で得られた混合組成物をシート状に成形した後、又は、前記混合組成物をシート状に成形しながら、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体混合物(α1)の重合及び架橋反応を行う工程、
を含む、熱伝導性感圧接着剤シート状成形体(F)の製造方法。
【請求項7】
放熱体と、該放熱体に貼合された請求項1若しくは2に記載の熱伝導性感圧接着剤組成物(E)、又は、該放熱体に貼合された請求項3若しくは4に記載の熱伝導性感圧接着性シート状成形体(F)と、を備えた電子部品。

【公開番号】特開2012−116886(P2012−116886A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265548(P2010−265548)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】