説明

熱伝導性成形体

【課題】高分子マトリクスと、可塑剤と、熱伝導性充填材とを含む熱伝導性成形体について、その原料となる液状混合組成物の粘度を低く抑えることができ、且つオイルブリードを抑制した熱伝導性成形体を提供すること。
【解決手段】高分子マトリクスが、オレフィン系液状樹脂の硬化体でなり、可塑剤が、炭酸ジアルキルと引火点250℃以上の非シリコーン系オイルとを含んでなり、炭酸ジアルキルと非シリコーン系オイルの合計に対する炭酸ジアルキルの重量比率が0.05以上0.85未満であり、且つ炭酸ジアルキルの含有量が前記高分子マトリクス100重量部に対して100重量部未満とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱する電子部品に貼付してその電子部品の放熱や冷却という熱対策部材として用いる熱伝導性成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
粘度の低い液状ポリマーに多量の熱伝導性充填材を混合して液状混合組成物とし、この液状混合組成物を所定の形状に硬化させることで、熱伝導性の高い熱伝導性成形体が得られることが知られている。
こうした液状ポリマーとして液状シリコーンが好適に用いられていたが、低分子シロキサンによる接点不良を誘発するおそれがあることなどから、非シリコーン系の液状ポリマーに代替することへの市場の要求が強くなっている。こうした要求に対して、特開2006−312708号公報(特許文献1)には、非シリコーン系の液状ポリマーとしてポリ−α−オレフィン系樹脂を用いた例が記載されている。
【0003】
しかしながら、熱伝導率を高くするためには熱伝導性充填材を多量に含有させる必要があるが、熱伝導性充填材を高充填した液状ポリマーは粘度が高くなって製造が困難になる。一方、粘度を下げるために可塑剤を多量に添加するとオイルブリードが起こるという課題があった。また、低粘度の可塑剤を選択すると引火点が低く熱伝導性成形体とした場合に難燃性が低下するという課題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−312708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、熱伝導性成形体の原料となる、液状ポリマーに熱伝導性充填材を含有させた液状混合組成物の粘度を低く抑えることができ、且つオイルブリードを抑制した熱伝導性成形体を提供することを目的とする。また、難燃性に優れた熱伝導性成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく本発明は以下のように構成される。
高分子マトリクスと、可塑剤と、熱伝導性充填材とを含む熱伝導性成形体について、高分子マトリクスが、オレフィン系液状樹脂の硬化体でなり、可塑剤が、炭酸ジアルキルと引火点250℃以上の非シリコーン系オイルとを含んでなり、炭酸ジアルキルと非シリコーン系オイルの合計に対する炭酸ジアルキルの重量比率が0.05以上0.85未満であり、且つ炭酸ジアルキルの含有量が前記高分子マトリクス100重量部に対して100重量部未満であることを特徴とする熱伝導性成形体である。
【0007】
可塑剤に炭酸ジアルキルと引火点が250℃以上の非シリコーン系オイルとを含み、炭酸ジアルキルと引火点250℃以上の非シリコーン系オイルとの合計に対する炭酸ジアルキルの重量比率を0.05以上0.85未満としたため、難燃性に優れ、オイルブリードが少なく熱伝導性充填材を高充填させることが可能な熱伝導性成形体とすることができる。
【0008】
炭酸ジアルキルを混合することで可塑剤の含有量を少なくしても液状混合組成物の粘度を低くすることができる。よって、オイルブリードを抑制することができる程度に可塑剤の含有量を少なくすることができる。また熱伝導性成形体を製造する時に気泡を除去し易く、高品質の熱伝導性成形体を容易に製造することができる。換言すれば、液状混合組成物の粘度を製造可能な範囲で最大に設定した場合に、引火点250℃以上の非シリコーン系オイルのみを可塑剤として用いた場合よりも熱伝導性充填材を高充填することができるということであり、熱伝導性成形体の熱伝導率を高めることができる。
【0009】
また、炭酸ジアルキルの含有量を高分子マトリクス100重量部に対し100重量部未満としたため、難燃性に優れた熱伝導性成形体とすることができる。炭酸ジアルキルの含有量が100重量部を超えると、熱伝導性成形体の難燃性が低下するおそれがあるためである。
【0010】
炭酸ジアルキルと非シリコーン系オイルの合計の含有量が高分子マトリクス100重量部に対して121重量部〜257重量部とすることができる。121重量部より少ないと、熱伝導性充填材を高充填することができず、熱伝導性成形体の熱伝導率を十分に高めることができない。一方、257重量部を超えるとオイルブリードが発生するおそれがある。
【0011】
熱伝導性充填材には金属水酸化物を含むものとすることができる。換言すれば、熱伝導性充填材の一部に金属水酸化物を含むものとすることができ、また、熱伝導性充填材の全てを金属水酸化物とすることができる。熱伝導性充填材に金属水酸化物を用いることで、熱伝導性成形体の難燃性を高めることができ、また、熱伝導性成形体に占める熱伝導性充填材の量を相対的に高めることができる。
【0012】
また、高分子マトリクスはポリイソブチレンを主成分とすることが好適である。ポリイソブチレンは、オレフィン系液状樹脂の中でも比較的耐熱性が高く、機械的強度が高いからである。そのため、高温での使用や、長期の使用に好適な熱伝導性成形体とすることができる。
【0013】
また、引火点が250℃以上の非シリコーン系オイルをパラフィンオイルとすることができる。パラフィンオイルと炭酸ジアルキルを組合せた可塑剤は、それぞれの単独の粘度の平均値よりも低粘度になるという相乗効果があるため、難燃性の低下を抑えながら、効果的に低粘度化することができるためである。
そして、こうした組合せを採用することで、熱伝導性をより高めた配合において、作業性の良い液状混合組成物を得ることでき、製造が容易で、可塑剤のオイルブリードを抑制した難燃性の高い熱伝導性成形体を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の熱伝導性成形体によれば、熱伝導性充填材を高充填しても作業性の良い液状混合組成物を得ることでき、製造が容易で、オイルブリードが抑制された熱伝導性成形体である。また、難燃性に優れた熱伝導性成形体である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】可塑剤配合量と粘度の関係を示す図である。
【図2】等粘度曲線を説明する図である。
【図3】試料1〜試料11のプロットと等粘度曲線を説明する図である。
【図4】炭酸ジアルキルの量が100重量部未満の範囲を説明する図である。
【図5】ブリードの限界値を説明する図である。
【図6】最適な炭酸ジアルキルの割合の範囲を説明する図である。
【図7】熱抵抗を評価する装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の熱伝導性成形体は、オレフィン系液状樹脂でなる高分子マトリクスと、炭酸ジアルキルと引火点250℃以上の非シリコーン系オイルとを所定割合で含む可塑剤と、熱伝導性充填材とでなる液状混合組成物を硬化した硬化体である。以下これらの成分について説明する。
【0017】
高分子マトリクス: 高分子マトリクスにはオレフィン系液状樹脂が用いられる。オレフィン系液状樹脂は非シリコーン系高分子であることから、低分子シロキサンに起因する接点障害などが発生するおそれがない。また、オレフィン系液状樹脂は、非シリコーン系高分子の中でも熱伝導性充填材を混合する製造段階で脱泡性が良く、ポットライフが比較的長い硬化系を調整することができる。また、熱伝導性成形体として必要な耐熱性を有することができる。
分子内に反応性の官能基を有する液状樹脂を用いたことで、液状混合組成物を硬化して熱伝導性成形体を形成することができる。具体的には、アリル基、ビニル基などを有するオレフィン系液状樹脂を用いることができ、反応性とポットライフのバランスからアリル末端の液状樹脂とすることが好ましい。
【0018】
液状樹脂の数平均分子量は、好ましくは1000〜20000の範囲であり、より好ましくは5000〜7000の範囲である。数平均分子量が1000未満では、硬化後に充分な架橋構造をとることができず、熱伝導性成形体の機械的強度が低下して、脆くなるおそれがある。一方、数平均分子量が20000を越えると、粘度が高くなり、熱伝導性充填材を高充填し難くなる。
こうしたオレフィン系液状樹脂としては、ポリイソブチレン、エチレン−プロピレン系ポリマーを挙げることができる。
【0019】
熱伝導性充填材: 熱伝導性充填材としては、高い熱伝導性を有する金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物、炭素質フィラーなどを用いることができる。具体的には、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭素繊維、黒鉛などが挙げられる。これらの熱伝導性充填材の中で、電気絶縁性が要求される用途では、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物などが好適であり、またこれらの中でも難燃性を高める観点から金属水酸化物を用いることが好ましい。一方、熱伝導性を高める観点からは炭素繊維を用いることが好ましい。炭素繊維はまた、反磁性体であり磁場により任意の方向に均一に配向させやすい。磁場により熱伝導性充填材を配向させる場合には、磁場発生装置として、具体的には、永久磁石や電磁石、超伝導磁石などを用いることができる。
熱伝導性充填材は一の種類を単独で用いてもよいが、複数の種類を混合して用いることで熱伝導性や難燃性をバランスよく高めることができる。また、絶縁性の付与や充填性の向上及び劣化の抑制などのために表面処理を施した熱伝導性充填材を用いてもよい。
【0020】
熱伝導性充填材の含有量は、高分子マトリクス100重量部に対して好ましくは150重量部から5400重量部の範囲である。150重量部より少ないと、熱伝導性成形体の熱伝導性を高めることができず、5400重量部より多いと、粘度が増加して成形性が悪化したり、硬度が増して接触熱抵抗が高くなり熱特性が悪くなったりするおそれがある。
形状も特に限定されるものではなく、例えば、片鱗状、針状、粒状等の熱伝導性充填材を用いることができる。これらの形状の中では、高分子マトリクス中に高充填しやすい粒状や、磁場や電場、あるいは流動場や剪断場によって任意の方向に配向させることができる繊維状が好ましい。
【0021】
熱伝導性充填材の粒径は、好ましくは0.1μm〜100μmであり、より好ましくは1μm〜50μmである。0.1μmよりも小さいと、液状混合組成物の粘度が上昇してシート等への成形が困難になる。100μmより大きいと熱伝導性成形体の硬さが硬くなるおそれがある。粒径については、均一な粒径のものを用いても良いが、高充填するため、あるいは熱伝導性成形体の硬さを柔軟にするために、2種類以上の異なる平均粒径を有する熱伝導性充填材を混合することが好ましい。
【0022】
可塑剤: 可塑剤は、第1に液状樹脂に熱伝導性充填材を含有した液状混合組成物の粘度を低くするための成分である。そして、第2に熱伝導性成形体の硬さを柔らかくするための成分でもある。こうした可塑剤には、炭酸ジアルキルと引火点250℃以上の非シリコーン系オイルとを含んでいる。
引火点が250℃以上の非シリコーン系オイルの動粘度は、好適には70mm/s〜400mm/sの範囲であり、液状混合組成物を低粘度にすることができる。また、熱伝導性成形体の難燃性を悪化させ難く、仮に高分子マトリクス100重量部に非シリコーン系オイル300重量部を添加しても高い難燃性(UL94 V−0)を比較的容易に得ることができる。このような非シリコーン系オイルとしては、パラフィン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、エチレンとαオレフィンのコオリゴマーやこれらの混合物などが挙げられる。
【0023】
炭酸ジアルキルの動粘度は好適には10mm/s〜40mm/sであって比較的低粘度であり、少量の添加で液状混合組成物を低粘度にすることができる。10mm/sよりも低い場合には、低粘度化の効果は優れるものの揮発性が高くなるため、熱伝導性成形体の硬さが経時で硬くなるおそれがある。一方、40mm/sより高い場合には、低粘度化の効果が低くなる。炭酸ジアルキルとしては、ROCOOR(Rは炭素数が10〜18のアルキル基)が好ましい。炭酸ジアルキルは非シリコーン系オイルよりも効果的に低粘度にすることができ、例えば、高分子マトリクス100重量部に対して炭酸ジアルキルを150重量部添加した液状混合組成物は、前記非シリコーン系オイルを300重量部添加した液状混合組成物よりも低粘度となる。
【0024】
炭酸ジアルキルと引火点250℃以上の非シリコーン系オイルの合計に対する炭酸ジアルキルの重量比率は0.05以上0.85未満である。こうした範囲で配合することで、液状混合組成物を低粘度にしながら、難燃性の低下を抑えた熱伝導性組成物を得ることができる。炭酸ジアルキルの重量比率が0.05未満では、可塑剤がブリードしない含有量に止めながら、液状混合組成物を十分に低粘度化することができない。0.85以上では、難燃性が低下しやすく、好適な粘度と難燃性の両立が困難になる。
【0025】
炭酸ジアルキルの含有量は、高分子マトリクス100重量部に対して100重量部未満である。炭酸ジアルキルの含有量が100重量部を超えると、熱伝導性成形体の難燃性が低下するおそれがあるためである。なお、高分子マトリクス100重量部に対して100重量部未満としているが、炭酸ジアルキルは必須の成分であるため、0重量部を超える量は含まれる。
【0026】
炭酸ジアルキルと非シリコーン系オイルの合計の含有量は、高分子マトリクス100重量部に対して121重量部〜257重量部とすることができる。121重量部未満では、熱伝導性充填材を高充填することができず、熱伝導性成形体の熱伝導性を高めることができない。一方、257重量部を超えると、可塑剤のブリードが多くなる。
【0027】
なお、可塑剤としては比較的低粘度の可塑剤が一般的に好適であり、また、硬化後に硬くなり難い非反応性可塑剤が好適である。ところが、低粘度の可塑剤は引火点が低く、高分子マトリクスに混合すると、難燃性を低下させやすいという問題があり、また非反応性可塑剤を多量に添加すると熱伝導性成形体からブリードするおそれがあるという問題がある。特に、熱伝導性を高めるためには、熱伝導性充填材の充填量を多くする必要があり、それに伴い可塑剤の添加量も多くなるのでこうした問題点は解決する必要があった。炭酸ジアルキルも低粘度の可塑剤として難燃性を悪化させるおそれがあるという欠点を有するものの、原理は不明であるが、同程度の粘度の他の可塑剤と比較して少量の添加量で液状混合組成物を低粘度にする効果が特に高かった。そこで、この性質を利用して炭酸ジアルキルと非シリコーン系オイルとを上記所定の割合で組合せることによってこれらの問題点を解決できたのである。
【0028】
その他の成分: 熱伝導性成形体の難燃性を高めるために、難燃剤を加えることが好ましい。難燃剤としてはリン系難燃剤、窒素系難燃剤、金属水酸化物などを用いることができ、適宜難燃助剤などを併用することができる。また、熱伝導性充填材の分散性を高めるために、分散剤やカップリング剤を混合することができる。さらに、耐候性を高めるために、酸化防止剤や老化防止剤を添加することができる。また、液状混合組成物には、生産性、耐候性、および耐熱性などの向上を目的として、さらに触媒、硬化遅延剤、劣化防止剤等を含んでもよい。こうした以外にも本発明の目的を損なわない範囲で種々の機能向上のための種々の添加剤を含めることができる。
【0029】
熱伝導性成形体の製造方法: 熱伝導性成形体の原料となるオレフィン系液状樹脂、可塑剤、熱伝導性充填材を混合、分散させて液状混合組成物を得る。そして、この液状混合組成物を金型に注入した後、硬化して熱伝導性成形体を形成する方法を用いることができる。また、樹脂フィルムや金属板等の基材上に液状混合組成物を流延させて硬化する方法等が挙げられる。
【実施例】
【0030】
試料の作製: 本発明の実施例または比較例として作成した試料1〜試料11について説明する。なお、各試料の説明において重複部分の説明は省略する。試料1〜試料11の組成を表1に示す。
【0031】
[試料1]
高分子マトリクスとして、末端にアリル基を有するポリイソブチレン(数平均分子量=5000):67重量部に、可塑剤として炭酸ジアルキル(C1429OCOOC1429、40℃における動粘度17.6mm/s、引火点210℃):33重量部と、熱伝導性充填材として平均粒径10μmの水酸化アルミニウム:240重量部と、平均粒径1μmの水酸化アルミニウム:10重量部、さらに平均繊維長100μmのピッチ系炭素繊維:55重量部と、硬化剤(CR300、株式会社カネカ製):2.5重量部と、白金触媒(PT−CS−3.2cS、Ferro社(米国)製):0.2重量部と、難燃剤として赤燐(ノーバレット120UF、燐化学工業株式会社製):10重量部と、を配合し振動攪拌器により混合して液状混合組成物を調製した。熱伝導性充填材にはチタネート系カップリング剤で表面処理済みのものを用いた。また、熱伝導性充填材やその他の添加剤は、高分子マトリクスと可塑剤の合計量に対して一定の添加量とした。
【0032】
この液状混合組成物を真空脱泡後、シート形状のキャビティを有する金型に注入し、磁束密度が8テスラの磁場を印加して、前記炭素繊維を厚み方向に配向させた。その後130℃雰囲気で1時間加熱することにより前記液状混合組成物を硬化させてシート状の熱伝導性成形体を得た。
【0033】
[試料2、試料3]
試料1に対し炭酸ジアルキルの添加量を変えた試料とした。
【0034】
[試料4〜試料8]
可塑剤として、前記炭酸ジアルキルに加え、引火点250℃以上の非シリコーン系オイルとしてパラフィンオイル(PW−90、出光興産株式会社製、40℃における動粘度90mm/s、引火点272℃)を混合した試料とした。
【0035】
[試料9〜試料11]
可塑剤として、非シリコーン系オイルのみを用いた試料とした。
【0036】
【表1】

【0037】
試料の評価
上記試料1〜試料11として作製したそれぞれの熱伝導性成形体、およびその作製過程で得られたそれぞれの液状混合組成物に対して各種の試験を行い評価した。その評価方法を以下に説明するが、評価結果は表1に示す。
【0038】
[液状混合組成物の粘度]
液状混合組成物の粘度を、回転粘度計(ブルックフィールド社製、商品名:DV−E型、スピンドルNo.14)を用い、25℃雰囲気下で、10rpmの回転数で測定した。
【0039】
[オイルブリード]
熱伝導性成形体でのオイルブリードの程度を評価した。
熱伝導性成形体を100℃の恒温槽内に24時間置き、その後熱伝導性成形体の表面を目視により観察した。表中の“ブリード”欄において、“あり”は試験片がオイルブリードを起こしたことを示し、“なし”は試験片がオイルブリードを起こさなかったことを示す。
【0040】
[難燃性]
熱伝導性成形体の難燃性について、米国アンダー・ライターズ・ラボラトリーズ・インク(Under Writers Laboratories Inc)によって制定された燃焼試験(UL94)によって評価した。
各試料の試験片(長さ127mm×幅12.7mm×厚さ1mm又は0.5mm)を、試験片の長手方向が鉛直方向となるように固定用クランプに保持した状態で、バーナー(口径:10mm、長さ:約10cm)の炎に10秒間接炎した後、炎から離して各試験片の燃焼時間を記録した。さらに、二度目の接炎後における火種の保持時間(グローイング時間)と、試験片の下方に配置されている脱脂綿を発火させる滴下物の有無とを記録した。以上の操作を各試験片について、5回1組として行った。そして、表2に示す判定基準に基づいて、「V−0」(表2では「94V−0」)又は「V−1」(表2では「94V−1」)についての合否を判定した。なお、この難燃性の判定基準は、「V−0」の方が「V−1」よりも難燃性が高いことを示し、「V−1」の判定基準が不合格であった試験片については、難燃性がないと判定し、表中の“難燃性”欄において“×”と記載した。
【0041】
【表2】

【0042】
[熱抵抗]
熱伝導性成形体の熱抵抗を測定した。
図7で示すように、基板(24)上の発熱体(25)及び放熱体(26)(ヒートシンク(株式会社アルファ製FH60−30)と、その上部に取り付けられたファン(風量:0.01kg/sec、風圧:49Pa))で試料1〜試料11の試験片(27)(10mm×10mmの寸法にカットしたもの)を挟持し、放熱体(26)上に重り(28)を載置して一定荷重(40N)を試験片(27)に加えた。そして、発熱体(25)が発熱した状態で10分間放置した後、試験片(27)における発熱体(25)側の外面の温度T1と放熱体(26)側の外面の温度T2とを測定機(29)により測定した。そして、下記式(1)により試験片(27)の熱抵抗値を算出した。発熱体(25)は通常、CPUに代表される電子部品であるが、シートの性能評価の簡素化および迅速化のため、本試験では発熱体(25)として発熱量が25Wであるヒータを用いた。
熱抵抗値(℃/W)=(T1(℃)−T2(℃))/発熱量(W)・・・式(1)
【0043】
各試験の評価結果の分析
[液状混合組成物の粘度]
図2には、液状混合組成物の粘度について、横軸に“可塑剤中の炭酸ジアルキルの割合”をとり、縦軸に“可塑剤配合量”をとってプロットしたグラフを示す。
非シリコーン系オイルと炭酸ジアルキルとからなる可塑剤中の炭酸ジアルキルの重量比率が多くなるほど、可塑剤の合計量が少なくても液状混合組成物の粘度を低粘度にすることができることがわかる。これらの粘度の値とともに、実際の作業性から粘度の評価をした。具体的には、液状混合組成物を調製した後の脱泡性が良く、ブレードコーターを用いてシートを作製した時に、シートの厚みが設定した厚みどおりに作製できたものを、表1の「粘度の評価」において“○”とした。また、特に粘度が比較的低いことから、シート成形時にシーティング速度を速くしても所望の厚みの熱伝導性成形体を作製できたものを“◎”とした。一方、脱泡性が悪く極めて脱泡に時間がかかるもの、あるいはブレードコーターでシートを作製するときに、液状混合組成物の流動性が劣ることに起因してシートの厚みを所望の厚みに調製することが困難であったものを“×”とした。
【0044】
次に、液状混合組成物の粘度を詳細に分析するために試料1〜試料11の可塑剤の配合量と粘度の関係を図1に示した。
【0045】
図1において、「DAC」は炭酸ジアルキルを意味し、その後の数字は炭酸ジアルキルと非シリコーン系オイルとでなる可塑剤中の炭酸ジアルキルの割合を示す。例えば「DAC1.0」は、炭酸ジアルキルの割合が1.0(炭酸ジアルキルが100%で非シリコーン系オイルを含まない)であることを、「DAC0.5」は炭酸ジアルキルの割合が0.5(炭酸ジアルキルが50%で残りの50%が非シリコーン系オイル)であることを意味する。
【0046】
測定結果を基に、可塑剤中の炭酸ジアルキルの割合が一定の場合の可塑剤配合量と粘度の関係を示す近似式、式(2)〜式(5)を見積もった。
y=1.78×10−0.460 式(2)・炭酸ジアルキルの割合が1.0
y=2.72×10−0.684 式(3)・炭酸ジアルキルの割合が0.5
y=8.63×10−0.778 式(4)・炭酸ジアルキルの割合が0.33
y=3.64×10−0.658 式(5)・炭酸ジアルキルの割合が0
※)ただし、xは液状混合組成物の粘度(mPa・s)を表し、yは高分子マトリクス100重量部に対する可塑剤配合量(重量部)を表す。
但し、炭酸ジアルキルの割合が0.1の試料は1点しかないため、近似式を作成することはできなかった。また、本願において近似式は全て最小二乗法によるものである。
【0047】
得られた近似式に任意の粘度の値を代入することで、その液状混合組成物の粘度が前記値となる可塑剤配合量を見積もることができる。例えば粘度56000mPa・sを代入することで、各炭酸ジアルキルの割合のときに、粘度が56000mPa・sとなる可塑剤配合量を見積もることができた。
【0048】
さらに図1で求めた各近似式、式(2)〜式(5)から粘度56000mPa・sと粘度42000mPa・sの場合の可塑剤配合量を算出し、横軸に“可塑剤中の炭酸ジアルキルの割合”、縦軸に“可塑剤配合量(重量部)”としたグラフ中にプロットした。そして、図2に示す粘度56000mPa・sの等粘度曲線(曲線1)と粘度42000mPa・sの等粘度曲線(曲線2)を作成した。なお、56000mPa・sは試料4の粘度であり、42000mPa・sは試料5の粘度である。
【0049】
そして、この図2の上に、試料1〜試料11をプロットし、粘度56000mPa・sの等粘度曲線(曲線1)を基準として、この等粘度曲線よりも粘度が低い試料を好ましい粘度の試料とし、この等粘度曲線よりも粘度が高い試料を高粘度の試料と位置づけた図3を作成した。図3を見ると、炭酸ジアルキルとパラフィンオイルを混合した試料の粘度は、それぞれを単独に用いた試料どうしを結ぶ直線よりも低粘度となることがわかる。このことから、炭酸ジアルキルとパラフィンオイルの組合せには、粘度を下げる相乗効果があるものと考えられる。
【0050】
[難燃性]
図4では、横軸に“可塑剤中の炭酸ジアルキルの割合”、縦軸に“可塑剤配合量(重量部)”としたグラフ中に試料1〜試料11にプロットした際、難燃性の試験結果から、難燃性を有する試料を「○」とし、難燃性のない試料を「●」と表記した。
炭酸ジアルキルの重量比率が多くなると、急激に難燃性が悪くなる傾向があることがわかる。
難燃性の評価結果については、試料2、試料4、試料8の評価結果を基に閾値を推定した。すなわち、高分子マトリクス100重量部に対する可塑剤中の炭酸ジアルキルが100重量部である試料2および試料8は難燃性がなく、前記炭酸ジアルキルが97重量部である試料5は難燃性がV−0であった。また、パラフィンオイルの影響についても試料5に対してパラフィンオイルが少ない試料2と、パラフィンオイルが多い試料8とで、難燃性の評価結果に差があることから、本発明の範囲ではパラフィンオイルの配合量は難燃性にほとんど影響を及ぼさないものと考えられる。以上のことから、炭酸ジアルキルが100重量部未満であれば難燃性を有することができるものと考えられる。こうした分析に基づき図4には、炭酸ジアルキルが100重量部であることを示す曲線3(難燃性限界値曲線)を示す。
【0051】
[オイルブリード]
図5には、各試料のオイルブリードの評価結果を示す。可塑剤の配合量が300重量部と多量である試料8および試料11でオイルブリードが見られ、他の試料はオイルブリードが起こらなかった。本評価結果内では、可塑剤の配合量が同程度の試料において炭酸ジアルキルの重量比率が増すことで、オイルブリードし易くなった試料はなく、少なくとも試料10の257重量部を上限として、それ以下の可塑剤の配合量では、オイルブリードは起こらないものと考えられる。そのためオイルブリード“あり”の試料とオイルブリード“なし”の試料を区切る補助線として、直線4(y=257の直線)(ブリード限界値直線)を示した。
【0052】
上記実験例(試料の作製、評価)は本発明の1例であり、例えば、用いる高分子マトリクスや可塑剤の粘度、難燃剤や熱伝導性充填材の配合量により、液状混合組成物の粘度や最適な可塑剤の配合量は異なってくる。しかし、熱伝導性成形体の熱伝導性を高めようとするときに、配合を調整するにしても、成形性、オイルブリードの抑制、難燃性などの観点から自ずと配合の限界があり、そうした限界的な配合に対して、可塑剤を「炭酸ジアルキルと引火点が250℃以上の非シリコーン系オイルとを混合し、且つ炭酸ジアルキルの配合量を高分子マトリクス100重量部に対して100重量部以下とする」ことで、従来のよりも成形し易い液状混合組成物を調製できること、あるいは、従来の限界よりも、より多くの熱伝導性充填材を配合することで熱伝導性を高めながら、可塑剤のオイルブリードを抑制し、難燃性に優れた熱伝導性組成物を得ることができるということが、これらの実験例から導き出される。
【0053】
このような観点から実験例の評価結果について図6を用いて検討すると、「粘度56000mPa・sを示す曲線1とブリード限界値直線(直線4)の交点」から「粘度56000mPa・sを示す曲線1と難燃性限界値曲線(曲線3)の交点(ただし交点を含まず)」まで、すなわち炭酸ジアルキルの割合が0.05以上0.85未満であることが、上記効果を得るために適した配合である。こうした範囲について、本実験例の材料を用いたときの可塑剤の配合量を見積もると121〜257重量部となる。
【0054】
前記炭酸ジアルキルの範囲が、0.21〜0.60の範囲であれば、より熱伝導性を高めようとしたときに、成形性、オイルブリードの抑制、難燃性の特性を満たすことができる。図2について説明すれば、熱伝導性充填材の配合量を多くできる配合とは、液状混合組成物の粘度を低粘度にできる配合であり、ここでは「粘度42000mPa・sを示す曲線2とブリード限界値直線(直線4)の交点」から「粘度42000mPa・sを示す曲線2と難燃性限界値曲線(曲線3)の交点(ただし交点を含まず)」までの範囲、すなわち炭酸ジアルキルの割合を0.21以上0.60未満と規定することができる。こうした範囲について、本実験例の可塑剤の配合量を見積もると、166重量部〜257重量部となる。
【0055】
なお、上記実施形態は本発明の一例であり、こうした形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に反しない任意の変更形態を含むものである。
【符号の説明】
【0056】
24 基板
25 発熱体
26 放熱体
27 試験片
28 重り
29 測定機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子マトリクスと、可塑剤と、熱伝導性充填材とを含む熱伝導性成形体において、
高分子マトリクスが、オレフィン系液状樹脂の硬化体でなり、
可塑剤が、炭酸ジアルキルと引火点250℃以上の非シリコーン系オイルとを含んでなり、
炭酸ジアルキルと非シリコーン系オイルの合計に対する炭酸ジアルキルの重量比率が0.05以上0.85未満であり、且つ炭酸ジアルキルの含有量が前記高分子マトリクス100重量部に対して100重量部未満であることを特徴とする熱伝導性成形体。
【請求項2】
前記炭酸ジアルキルと非シリコーン系オイルの合計の含有量が前記高分子マトリクス100重量部に対して121重量部〜257重量部である請求項1記載の熱伝導性成形体。
【請求項3】
前記熱伝導性充填材が金属水酸化物を含む熱伝導性充填材である請求項1または請求項2記載の熱伝導性成形体。
【請求項4】
前記高分子マトリクスがポリイソブチレンを主成分とする高分子マトリクスである請求項1〜請求項3何れか1項記載の熱伝導性成形体。
【請求項5】
前記非シリコーン系オイルがパラフィンオイルである請求項1〜請求項4何れか1項記載の熱伝導性成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−23593(P2013−23593A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160116(P2011−160116)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000237020)ポリマテック株式会社 (234)
【Fターム(参考)】