説明

熱伝導性樹脂組成物および熱伝導性フィルム

【課題】吸湿性を有し、電気絶縁性および熱伝導性に優れたフィルムを形成可能な熱伝導性樹脂組成物、ならびに該組成物を用いて熱伝導性フィルムを提供すること。
【解決手段】(A)バインダー樹脂と、(B1)窒化ホウ素粉末15〜70重量%と、(B2)セラミックス粉末(但し、窒化ホウ素粉末を除く。)5〜50重量%と、(B3)多孔質吸湿剤(但し、アルカリ土類金属酸化物を除く。)5〜30重量%とを含有する(但し、バインダー樹脂(A)と窒化ホウ素粉末(B1)とセラミックス粉末(B2)と多孔質吸湿剤(B3)との合計を100重量%とする。)ことを特徴とする熱伝導性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性樹脂組成物および熱伝導性フィルムに関する。より詳しくは、本発明は、熱伝導性樹脂組成物、ならびに該組成物から得られる、吸湿性を有し、電気絶縁性および熱伝導性に優れ、電気・電子部品などの発熱部材に対する放熱部材として使用可能な熱伝導性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気・電子部品などの発熱部材から発生する熱を逃がすため、該発熱部材と筐体などとの間に、放熱部材として熱伝導性フィルムが介設されている。この熱伝導性フィルムは熱可塑性樹脂組成物から得られるが、熱可塑性樹脂は金属材料などの無機物と比較して熱伝導性が低い。このため、熱伝導性無機粉末を熱可塑性樹脂に配合することで高熱伝導性樹脂組成物を得ようとする試みが広くなされている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記のように熱伝導性無機粉末を配合して高熱伝導性樹脂組成物を得る際、熱伝導性無機粉末として、無機フィラー(例:黒鉛)および金属フィラー(例:アルミニウム、銅)などの導電性かつ熱伝導性のフィラーが用いられる。ところが、このようなフィラーを含有する樹脂組成物は導電性を示してしまうため、電気・電子部品などの電気絶縁性が要求される用途では利用範囲が制限されてしまう。
【0004】
従って、電気絶縁性が要求される熱伝導性フィルムにあっては、熱伝導性無機粉末として上記導電性フィラーを使用することは困難であることから、窒化アルミニウムや酸化アルミニウムなどのセラミック系無機粉末が用いられることが多い(例えば、特許文献2および3参照)。
【0005】
しかしながら、窒化アルミニウムや酸化アルミニウムは誘電率が高いため、これを単に含有する熱伝導性フィルムは、電気絶縁性に関する性能が未だ充分ではなく、電気・電子部品などの電気絶縁性が要求される用途では利用範囲が制限されてしまう。
【0006】
また、上記高熱伝導性樹脂組成物を用いた場合には、該組成物を介して水分が電気・電子部品などの発熱部材内に浸入することで発熱部材が変質または腐食するおそれがある。特に、水分を嫌う発熱部材〔例:有機EL(Electro Luminescence)素子〕では、このことは大きな問題となる。この問題に対しては、吸湿剤としてアルカリ土類金属酸化物を用いることでその吸湿性を付与しようとする試みが広くなされている(例えば、特許文献4参照)。
【0007】
しかしながら、アルカリ土類金属酸化物は吸湿することで、強いアルカリ性を示すアルカリ土類金属水酸化物を与える。このようなアルカリ土類金属水酸化物は他の部材(例:発熱部材)を腐食することがあり、また電気絶縁性を悪化させることもある。このため、上記吸湿剤を含有する樹脂組成物もまた、電気・電子部品などの電気絶縁性が要求される用途では利用範囲が制限されてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−291220号公報
【特許文献2】特開2008−277768号公報
【特許文献3】特開2008−115356号公報
【特許文献4】特公表2004−006628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の従来技術に存在する課題を解決しようとするものである。すなわち、本発明の課題は、吸湿性を有し、電気絶縁性および熱伝導性に優れたフィルムを形成可能な熱伝導性樹脂組成物、ならびに該組成物から得られる熱伝導性フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、窒化ホウ素粉末/セラミックス粉末(例:窒化アルミニウム、酸化アルミニウム)/多孔質吸湿剤/バインダー樹脂をそれぞれ特定量用いることにより、吸湿性を有し、誘電率および熱伝導率に優れたフィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の[1]〜[11]に関する。
【0012】
[1](A)バインダー樹脂と、(B1)窒化ホウ素粉末15〜70重量%と、(B2)セラミックス粉末(但し、窒化ホウ素粉末を除く。)5〜50重量%と、(B3)多孔質吸湿剤(但し、アルカリ土類金属酸化物を除く。)5〜30重量%とを含有する(但し、バインダー樹脂(A)と窒化ホウ素粉末(B1)とセラミックス粉末(B2)と多孔質吸湿剤(B3)との合計を100重量%とする。)ことを特徴とする熱伝導性樹脂組成物。
【0013】
[2]前記窒化ホウ素粉末(B1)の50重量%平均粒子径(D50)が、1.0〜50.0μmの範囲にあることを特徴とする前記[1]に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【0014】
[3]前記セラミックス粉末(B2)が、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭化ケイ素および炭化ホウ素から選ばれる1種以上の無機化合物からなる粉末であることを特徴とする前記[1]または[2]に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【0015】
[4]前記多孔質吸湿剤(B3)が、A型シリカゲル、B型シリカゲル、アルミナゲル、シリカアルミナゲル、天然ゼオライトおよび合成ゼオライトから選ばれる1種以上の多孔質吸湿剤であることを特徴とする前記[1]〜[3]の何れか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【0016】
[5]前記多孔質吸湿剤(B3)の比表面積が、100m2/g以上であることを特徴
とする前記[1]〜[4]の何れか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【0017】
[6]前記バインダー樹脂(A)が、アクリル系重合体であることを特徴とする前記[1]〜[5]の何れか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【0018】
[7]前記[1]〜[6]の何れか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物から形成される熱伝導性樹脂層を少なくとも一層有することを特徴とする吸湿性に優れた熱伝導性フィルム。
【0019】
[8]前記熱伝導性樹脂層において、体積固有抵抗値が1.0×109Ω・cm以上で
あり、かつ熱伝導率が1.0W/m・K以上であることを特徴とする前記[7]に記載の吸湿性に優れた熱伝導性フィルム。
【0020】
[9]膜厚が10〜300μmの範囲にあることを特徴とする前記[7]または[8]に記載の吸湿性に優れた熱伝導性フィルム。
【0021】
[10]前記熱伝導性樹脂層のみからなる単層フィルムであることを特徴とする前記[7]〜[9]の何れか1項に記載の吸湿性に優れた熱伝導性フィルム。
【0022】
[11]放熱部材として用いられることを特徴とする前記[7]〜[10]の何れか1項に記載の吸湿性に優れた熱伝導性フィルム。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、吸湿性を有し、電気絶縁性および熱伝導性に優れたフィルムを形成可能な熱伝導性樹脂組成物、ならびに該組成物から得られる熱伝導性フィルムが提供される。本発明の熱伝導性フィルムは前記特性を有するため、水分により変質または腐食するおそれがある電気・電子部品などの発熱部材から発生する熱を逃がすための放熱部材として、好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の熱伝導性樹脂組成物、および該組成物から形成される層(以下「熱伝導性樹脂層」ともいう。)を少なくとも一層有する熱伝導性フィルムについて、好適な態様も含めて具体的に説明する。
【0025】
〔熱伝導性樹脂組成物〕
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、バインダー樹脂(A)および特定無機粉末(B)を必須成分として含有し、さらに分散剤、溶剤および添加剤などを任意成分として含有してもよい。特定無機粉末(B)は、窒化ホウ素粉末(B1)とセラミックス粉末(B2)(但し、窒化ホウ素粉末を除く。)と多孔質吸湿剤(B3)(但し、アルカリ土類金属酸化物を除く。)とからなる。
【0026】
《バインダー樹脂(A)》
バインダー樹脂(A)としては、熱可塑性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、アクリル系重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、これらの重合体にカルボキシル基やエポキシ基などの官能基を付与した重合体、シリコーンゴム、天然ゴムなどが挙げられる。これらの中では、熱伝導性樹脂組成物の取り扱い性、塗工性および柔軟性の観点から、アクリル系重合体を好ましく用いることができる。
【0027】
なお、アクリル系重合体とは、(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体または共重合体の総称であり、具体的には(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を、全構成単位中に50〜100重量%含有する重合体のことを示す。
【0028】
アクリル系重合体の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算値で、好ましくは10000〜400000、より好ましくは20000〜200000、特に好ましくは30000〜160000である。Mwが前記範囲を下回ると熱伝導性フィルムに適度な強度を付与することが困難となる傾向があり、Mwが前記範囲を上回ると熱伝導性樹脂組成物の取り扱い性が劣る傾向がある。Mwは、モノマーの共重合割合および重合温度などの条件を適宜選択することにより制御することができる。なお、Mwは、後述する実施例に記載の条件下で測定される値である。
【0029】
アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸エステル、および必要に応じて他の単量体を重合することにより製造することができる。なお、アクリル系重合体を製造するに際して
、重合開始剤を用いることが好ましい。
【0030】
−(メタ)アクリル酸エステル−
(メタ)アクリル酸エステルは、下記一般式(1)で表される。
【0031】
【化1】

【0032】
式(1)中、Zは水素原子またはメチル基を表し、Rは1価の有機基を表す。
【0033】
上記一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステルとしては、アルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、フェノキシアルキル(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、エポキシ基含有(メタ)アクリレート、シクロアルキル(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0034】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0035】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0036】
フェノキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0037】
アルコキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−プロポキシエチル(メタ)アクリレート、2−ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2−メトキシブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0038】
エポキシ基含有(メタ)アクリレートとしては、グリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0039】
シクロアルキル(メタ)アクリレートとしては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、4−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0040】
ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートとしては、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0041】
また、(メタ)アクリル酸エステルとしては、末端に(メタ)アクリロイル基を有する、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレートなどのマクロモノマー類を挙げることもできる。
【0042】
これらの(メタ)アクリル酸エステルの中では、アルキル(メタ)アクリレートおよびヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、ブチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレートおよび2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0043】
(メタ)アクリル酸エステルは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
上記アクリル系重合体において、その全構成単位中、上記(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位は、通常は50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上含まれる。
【0045】
−他の単量体−
(メタ)アクリル酸エステルとともに使用可能な他の単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニルフタル酸、ビニルトルエンなどの芳香族ビニル化合物類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル類;(メタ)アクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリルなどのシアン化ビニル化合物類;1,3−ブタジエン、イソプレンなどの脂肪族共役ジエン類;(メタ)アクリル酸、クロトン酸などの不飽和モノカルボン酸;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などの不飽和ジカルボン酸;ビニルベンジルメチルエーテル、ビニルグリシジルエーテルなどのビニルエーテル類;末端に(メタ)アクリロイル基を有する、ポリスチレン、ポリシリコーンなどのマクロモノマー類などが挙げられる。他の単量体は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
−重合開始剤−
重合開始剤としては、N,N'−アゾビスイソブチロニトリル、4−アジドベンズアル
デヒドなどのアゾ化合物またはアジド化合物;ベンジル、ベンゾイン、ベンゾフェノン、カンファーキノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−メチル−[4'−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−1−プ
ロパノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オンなどのカルボニル化合物;ジt−ブチルパーオキサイド、ジt−ヘキシルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイドなどのパーオキサイド化合物な
どが挙げられる。重合開始剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
《特定無機粉末(B)》
特定無機粉末(B)は、窒化ホウ素粉末(B1)とセラミックス粉末(B2)(但し、窒化ホウ素粉末を除く。)と多孔質吸湿剤(B3)(但し、アルカリ土類金属酸化物を除く。)とからなる。
【0048】
<窒化ホウ素粉末(B1)>
窒化ホウ素粉末(B1)を用いることで、本発明の熱伝導性フィルムに優れた電気絶縁性および熱伝導性を付与することができる。窒化ホウ素粉末(B1)としては、凝集粒状、その結晶が平らな鱗片状(平板状)の窒化ホウ素が挙げられるが、凝集粒状の窒化ホウ素が好ましい。
【0049】
窒化ホウ素の形状は、通常は鱗片状であるため、その面方向の熱伝導率が厚み方向の熱伝導率に比べて約20倍優れているという異方性がある。従って、鱗片状の窒化ホウ素を含有する熱伝導性樹脂組成物をフィルム成形した場合には、通常は窒化ホウ素の鱗片状結晶がフィルムの面方向に配向するので、フィルムの厚み方向の熱伝導率が低くなる。これに対して、凝集粒状の窒化ホウ素を含有する熱伝導性樹脂組成物をフィルム成形した場合には、凝集粒状の窒化ホウ素は配向性がないので、フィルムの厚み方向の熱伝導率を確保することができる。
【0050】
窒化ホウ素粉末(B1)の50重量%平均粒子径(D50)は、1.0〜50.0μmの範囲にあることが好ましく、3.0〜40.0μmの範囲にあることがより好ましく、3.0〜20.0μmの範囲にあることが特に好ましい。D50が前記範囲にあると、窒化ホウ素粉末(B1)などの固形分を高密度に充填することができる。なお、窒化ホウ素粉末(B1)のD50は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法によって測定される。ここでD50とは、粒度分布を有する粉末において、該粉末を粒子径の小さいものから累積して、累積量が全粉末量の50重量%になる粒子径をいう。
【0051】
<セラミックス粉末(B2)>
セラミックス粉末(B2)(但し、窒化ホウ素粉末を除く。)を用いることで、本発明の熱伝導性フィルムに優れた熱伝導性および強靭性を付与することができる。セラミックス粉末(B2)としては、窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの金属窒化物;酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化ベリリウム、酸化銅、亜酸化銅などの金属酸化物;炭化ケイ素、炭化ホウ素などの金属炭化物;ダイヤモンドなどの絶縁性炭素材料などからなる粉末が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
これらの中では、粒度分布の制御が容易で、熱伝導性に優れることから、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭化ケイ素および炭化ホウ素から選ばれる1種以上の無機化合物からなる粉末が好ましい。
【0053】
セラミックス粉末(B2)の形状としては、粒子状、微粒子状、ナノ粒子状、凝集粒子状、チューブ状、ナノチューブ状、ワイヤ状、ロッド状、針状、板状、不定形状、ラグビーボール状、六面体状、大粒子と微小粒子とが複合化した複合粒子状などが挙げられる。
【0054】
セラミックス粉末(B2)とバインダー樹脂(A)との密着性を高めたり、作業性を容易にしたりするため、セラミックス粉末(B2)はシラン処理剤などの表面処理剤で表面処理がなされたものであってもよい。表面処理剤としてば、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤などが挙げられる。表面処理方法としては、従来公知の処理方法を
利用できる。
【0055】
セラミックス粉末(B2)の50重量%平均粒子径(D50)は、1.0〜30.0μmの範囲にあることが好ましく、2.0〜10.0μmの範囲にあることがより好ましい。D50が前記範囲にあると、セラミックス粉末(B2)などの固形分を高密度に充填することができる。なお、本発明におけるセラミックス粉末(B2)のD50は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法によって測定される。
【0056】
<多孔質吸湿剤(B3)>
多孔質吸湿剤(B3)(但し、アルカリ土類金属酸化物を除く。)を用いることで、本発明の熱伝導性樹脂組成物および熱伝導性フィルム中の残留水分量を低減し、また該フィルムに優れた吸湿性(例:フィルムを通過する水分を吸着する。)を付与することができる。
【0057】
多孔質吸湿剤(B3)としては、A型シリカゲル、B型シリカゲル、アルミナゲル、シリカアルミナゲル、天然ゼオライト、合成ゼオライトなどの、水分を吸着しても液体にならない多孔質吸湿剤が好ましい。多孔質吸湿剤(B3)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
一方、吸湿剤としてアルカリ土類金属酸化物(例:酸化カルシウム)を用いると、吸湿により強いアルカリ性を示すアルカリ土類金属水酸化物が生成するため、発熱部材が腐食する、あるいはフィルムの電気絶縁性が悪化することがある。
【0059】
多孔質吸湿剤(B3)の比表面積は、好ましくは100m2/g以上、より好ましくは
200m2/g以上である。なお、比表面積は大きいほど好ましいため上限は特にないが
、その上限は、通常は800m2/g程度である。多孔質吸湿剤(B3)の比表面積はB
ET比表面積であり、JIS−K6221に準拠し、窒素吸着法によって測定される。
【0060】
多孔質吸湿剤(B3)の50重量%平均粒子径(D50)は、1.0〜40.0μmの範囲にあることが好ましく、3.0〜20.0μmの範囲にあることがより好ましい。D50が前記範囲にあると、多孔質吸湿剤(B3)などの固形分を高密度に充填することができる。なお、多孔質吸湿剤(B3)のD50は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法によって測定される。
【0061】
多孔質吸湿剤(B3)の粉末形状は、不定形状など特に限定されない。また粉末の平均粒子径を調整するために分級処理を行ってもよい。分級処理としては、風力式分級機や篩い分け装置などを用いることができる。
【0062】
《バインダー樹脂(A)および特定無機粉末(B)の含有量》
上記熱伝導性樹脂組成物において、バインダー樹脂(A)、窒化ホウ素粉末(B1)、セラミックス粉末(B2)および多孔質吸湿剤(B3)の含有量は、下記範囲にあることを特徴とする。
【0063】
すなわち、バインダー樹脂(A)と窒化ホウ素粉末(B1)とセラミックス粉末(B2)と多孔質吸湿剤(B3)との合計100重量%に対して、
窒化ホウ素粉末(B1)は15〜70重量%、セラミックス粉末(B2)は5〜50重量%、多孔質吸湿剤(B3)は5〜30重量%の範囲で含まれ;
窒化ホウ素粉末(B1)は25〜65重量%、セラミックス粉末(B2)は10〜45重量%、多孔質吸湿剤(B3)は5〜25重量%の範囲で含まれることが好ましく;
窒化ホウ素粉末(B1)は35〜60重量%、セラミックス粉末(B2)は15〜40重
量%、多孔質吸湿剤(B3)は5〜20重量%の範囲で含まれることが特に好ましい。
【0064】
また、バインダー樹脂(A)と窒化ホウ素粉末(B1)とセラミックス粉末(B2)と多孔質吸湿剤(B3)との合計100重量%に対して、バインダー樹脂(A)は、1〜40重量%の範囲で含まれることが好ましく、5〜30重量%の範囲で含まれることがより好ましく、5〜25重量%の範囲で含まれることが特に好ましい。
【0065】
バインダー樹脂(A)、窒化ホウ素粉末(B1)、セラミックス粉末(B2)および多孔質吸湿剤(B3)が上記範囲で含まれることにより、吸湿性を有し、電気絶縁性および熱伝導性のバランスに優れたフィルムを得ることが出来る。
【0066】
《分散剤》
上記熱伝導性樹脂組成物は、さらに分散剤を含有してもよい。分散剤としては、シランカップリング剤などが挙げられる。シランカップリング剤としては、下記一般式(2)で表される化合物;3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリヘキシルシランなどのメタクリロキシ基含有シラン化合物などが挙げられる。
【0067】
【化2】

【0068】
式(2)中、pは3〜20、好ましくは4〜16の整数、mは1〜3の整数、nは1〜3の整数、aは1〜3の整数である。これらの中では、n−ブチルトリメトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、n−ヘキサデシルトリメトキシシラン、n−デシルジメチルメトキシシラン、n−ヘキサデシルジメチルメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、n−デシルトリエトキシシラン、n−ヘキサデシルトリエトキシシラン、n−デシルエチルジエトキシシラン、n−ヘキサデシルエチルジエトキシシラン、n−ブチルトリプロポキシシラン、n−デシルトリプロポキシシラン、n−ヘキサデシルトリプロポキシシランなどが特に好ましい。また、分散剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
上記熱伝導性樹脂組成物において、上記分散剤を用いる場合、その含有量は、バインダー樹脂(A)および特定無機粉末(B)の合計100重量部に対して、好ましくは0.1〜5.0重量部、より好ましくは0.5〜3.0重量部である。
【0070】
《溶剤》
上記熱伝導性樹脂組成物は、その塗工性が向上することから、さらに溶剤を含有してもよい。溶剤は、バインダー樹脂(A)の溶解性および特定無機粉末(B)との親和性が良好であり、熱伝導性樹脂組成物に適度な粘性を付与することができ、乾燥処理により容易に蒸発除去できる溶剤であることが好ましい。
【0071】
上記溶剤としては、標準沸点(1気圧における沸点)が60〜200℃の範囲にある、ケトン類、アルコール類およびエステル類(以下、これらを「特定溶剤」ともいう。)が好ましい。
【0072】
上記特定溶剤としては、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルブチルケトン、ジプロピルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;
n−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、シクロヘキサノール、ジアセトンアルコールなどのアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテル系アルコール類;
メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチル−3−エトキシプロピオネートなどのエーテル系エステル類;酢酸−n−ブチル、酢酸アミルなどの飽和脂肪族モノカルボン酸アルキルエステル類;乳酸エチル、乳酸−n−ブチルなどの乳酸エステル類などが挙げられる。
【0073】
これらの中では、メチルブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチル−3−エトキシプロピオネートおよび乳酸エチルが好ましい。また、上記特定溶剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0074】
さらに、上記特定溶剤以外の溶剤を用いてもよく、例えば、テレビン油、テルピネオール、ブチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールおよびベンジルアルコールが挙げられる。
【0075】
上記熱伝導性樹脂組成物において、上記溶剤を用いる場合、その含有量は、バインダー樹脂(A)および特定無機粉末(B)の合計100重量部に対して、好ましくは10〜70重量部、より好ましくは20〜60重量部である。
【0076】
《添加剤》
上記熱伝導性樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、特定無機粉末(B)以外の無機粉末を含有してもよい。また、上記熱伝導性樹脂組成物は、可塑剤、接着助剤、ハレーション防止剤、レベリング剤、保存安定剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの添加剤を含有してもよい。
【0077】
《熱伝導性樹脂組成物の調製方法》
上記熱伝導性樹脂組成物は、バインダー樹脂(A)、特定無機粉末(B)ならびに必要に応じて用いられる分散剤、溶剤および添加剤などの任意成分を、ロール混練機、ミキサー、ホモミキサー、ビーズミルまたはサンドミルなどの混練・分散機を用いて混練することにより調製することができる。
【0078】
上記熱伝導性樹脂組成物は、ペースト状、固体状、液体状など何れの形状の組成物でも構わないが、フィルムへの成形性などの観点から、ペースト状組成物であることが好ましい。例えば、上記のようにして調製される熱伝導性樹脂組成物の粘度は、1〜20Pa・sであることが好ましく、3〜15Pa・sであることがより好ましい。
【0079】
〔熱伝導性フィルム〕
本発明の熱伝導性フィルムは、上記熱伝導性樹脂組成物から形成される熱伝導性樹脂層を少なくとも一層有する。例えば、本発明の熱伝導性フィルムは、熱伝導性樹脂層のみからなる単層フィルムであってもよく、熱伝導性樹脂層を二層以上有する多層フィルムであってもよく、熱伝導性樹脂層と他の樹脂組成物からなる層とを有する二層以上の多層フィルムであってもよい。
【0080】
これらの中では、本発明の熱伝導性フィルムは、その製造を簡易かつ迅速にできることから、熱伝導性樹脂層のみからなる単層フィルムであることが好ましい。また、熱伝導性樹脂層はバインダー樹脂(A)と特定無機粉末(B)とを含有するため、単層構造とした場合であっても、本発明の熱伝導性フィルムは、優れた電気絶縁性、熱伝導性および強靭性と、熱源・発熱部材などの被接着物に対する優れた密着性とを兼ね備えたものとなる。
【0081】
本発明の熱伝導性フィルムにおいて、熱伝導性樹脂層の体積固有抵抗値は、通常は1.0×109Ω・cm以上、好ましくは1.0×1010Ω・cm以上、より好ましくは1.
0×1011Ω・cm以上である。体積固有抵抗値が前記値未満であると電気絶縁性が充分でない場合がある。なお、体積固有抵抗値は高いほど好ましいため上限は特にないが、その上限は、通常は1.0×1015Ω・cm程度である。
【0082】
本発明の熱伝導性フィルムにおいて、熱伝導性樹脂層の熱伝導率は、通常は1.0W/m・K以上、好ましくは1.5W/m・K以上である。熱伝導率が前記値未満であると、熱伝導性フィルムを放熱部材として用いた場合に、その熱伝導性が不充分となることがある。なお、熱伝導率は高いほど好ましいため上限は特にないが、その上限は、通常は10.0W/m・K程度である。
【0083】
なお、熱伝導性樹脂層の体積固有抵抗値および熱伝導率は、後述する実施例に記載の条件下で測定される値である。
【0084】
本発明の熱伝導性フィルムの膜厚は、通常は10〜300μm、好ましくは10〜100μm、より好ましくは20〜80μmである。また、熱伝導性フィルムが多層フィルムである場合には、熱伝導性フィルムの全膜厚に対する上記熱伝導性樹脂層の膜厚(熱伝導性樹脂層が二層以上ある場合はその合計の膜厚)の割合は、通常は20〜80%、好ましくは30〜70%の範囲にある。膜厚または割合が前記範囲を下回ると、熱伝導性フィルムの電気絶縁性が低下することがある。膜厚または割合が前記範囲を上回ると、キャスト塗工方式で生産する場合には、溶剤を充分に除去することが困難になってくるため、例えば、薄いフィルムを張り合わせて厚みを確保するなどの工程が必要になり、生産性が落ちることがある。
【0085】
〔熱伝導性フィルムの製造方法〕
本発明の熱伝導性フィルムは、上記熱伝導性樹脂組成物をそのままフィルム状に成形して製造することができる。また、本発明の熱伝導性フィルムは、上記熱伝導性樹脂組成物を支持フィルム上に塗布して熱伝導性樹脂層を形成し、該樹脂層を支持フィルムから剥離することにより製造することもできる。また、上記熱伝導性樹脂組成物および他の樹脂組成物の塗布を複数回行うことにより、二層以上の多層フィルムを製造することもできる。
【0086】
また、支持フィルム上に上記熱伝導性樹脂層が形成されたフィルムは、転写フィルムとして用いることができる。すなわち、前記転写フィルムは、支持フィルム、および該支持フィルム上に形成された、上記熱伝導性樹脂組成物からなる熱伝導性樹脂層を有する。さらに前記転写フィルムは、熱伝導性樹脂層上に形成されたカバーフィルムを有していてもよい。以下、転写フィルムの各構成要素について具体的に説明する。
【0087】
《支持フィルム》
支持フィルムは、耐熱性および耐溶剤性を有するとともに、可撓性を有する樹脂フィルムであることが好ましい。支持フィルムが可撓性を有することにより、ロールコーターまたはブレードコーターなどによって支持フィルム上に上記熱伝導性樹脂組成物を塗布することができる。また、転写フィルムをロール状に巻回した状態で保存および供給すること
ができる。
【0088】
支持フィルムを形成する樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリフロロエチレンなどの含フッ素樹脂、ナイロン、セルロースなどが挙げられる。
【0089】
支持フィルムの膜厚は、通常は20〜100μmである。また、支持フィルム表面には離型処理が施されていることが好ましい。これにより、熱源・発熱部材などの被接着物への転写工程において、支持フィルムからの熱伝導性樹脂層の剥離操作を容易に行うことができる。
【0090】
《カバーフィルム》
転写フィルムには、熱伝導性樹脂層表面を保護するために、該樹脂層上にカバーフィルムが設けられていてもよい。前記カバーフィルムは、可撓性を有する樹脂フィルムであることが好ましい。これにより、転写フィルムをロール状に巻回した状態で保存および供給することができる。
【0091】
カバーフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルムおよびポリビニルアルコール系フィルムなどが挙げられる。
【0092】
カバーフィルムの膜厚は、通常は20〜100μmである。また、カバーフィルム表面には離型処理が施されていてもよい。これによりカバーフィルムの剥離操作を容易に行うことができる。
【0093】
また、カバーフィルムと熱伝導性樹脂層との密着力は、転写フィルムの性質上、熱伝導性樹脂層と支持フィルムとの密着力よりも小さいことが好ましい。
【0094】
《熱伝導性樹脂層》
熱伝導性樹脂層は、通常は上記熱伝導性樹脂組成物を支持フィルム上に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥して溶剤の全部または一部を除去することにより形成される。
【0095】
熱伝導性樹脂層を支持フィルム上に塗布する方法としては、膜厚の均一性が高く、かつ膜厚が大きい(例えば10μm以上の)塗膜を効率よく形成することができる方法であることが好ましく、具体的には、ロールコーターによる塗布方法、ブレードコーターによる塗布方法、カーテンコーターによる塗布方法およびワイヤーコーターによる塗布方法などが挙げられる。
【0096】
塗膜の乾燥条件としては、例えば50〜150℃で0.5〜30分程度であり、乾燥後における溶剤の残存割合(熱伝導性樹脂層中の溶剤の含有量)は、通常は2重量%以内である。
【0097】
上述のようにして形成される熱伝導性樹脂層の膜厚は、通常は10〜300μm、好ましくは10〜100μm、より好ましくは20〜80μmである。膜厚が前記範囲にあると、所期の電気絶縁性、吸湿性および熱伝導性を確保することができる。
【0098】
〔熱伝導性フィルムの用途〕
本発明の熱伝導性フィルムは吸湿性に優れるとともに、体積固有抵抗値および熱伝導率が通常は上述の範囲にある熱伝導性樹脂層を有するため電気絶縁性および熱伝導性に優れる。このため、本発明の熱伝導性フィルムは、電気・電子部品などの発熱部材に対する放
熱部材として好適に用いることができる。
【0099】
具体的には、本発明の吸湿性に優れた熱伝導性フィルムは、家電製品、OA機器部品、AV機器部品などの水分により変質または腐食するおそれがある発熱部材に対する放熱部材として好適に用いることができる。特に、水分により変質または腐食しやすい有機EL発光素子近傍で発生する熱を逃がすための放熱部材として好適に用いることができる。
【実施例】
【0100】
以下、本発明の熱伝導性樹脂組成物および熱伝導性フィルムについて実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例および比較例中の「部」および「%」は、特記しない限り、「重量部」および「重量%」を示す。
【0101】
<重量平均分子量(Mw)の測定方法>
バインダー樹脂(アクリル系重合体)の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、東ソー(株)製、商品名:HLC−8220GPC)を用いて、ポリスチレン換算で測定した値である。
測定方法:ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法
標準物質:ポリスチレン
装置:東ソー(株)製、商品名:HLC−8220GPC
カラム:東ソー(株)製、商品名:Tskguardcolumn SuperHZM-M
溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
測定温度:40℃
〔熱伝導性フィルムの評価〕
(1)熱伝導率
株式会社アイフェイズ製熱伝導率測定システム(ai−Phase Mobile 1u、温度波分析法により測定)を用いて、下記実施例または比較例で得られた平均膜厚50μmの熱伝導性フィルムの熱伝導率(W/m・K)を測定した。
【0102】
(2)体積固有抵抗値
熱伝導性樹脂層からなる熱伝導性フィルムの体積固有抵抗値(μΩ・cm)は、下記実施例または比較例で得られた熱伝導性樹脂組成物を用いて、ガラス基板からなるパネル(150mm×150mm×1.8mm)上に乾燥後の平均膜厚50μmの熱伝導性樹脂層を形成し、NPS社製の「Resistivity Processor ModelΣ−5」を用いて測定した。
【0103】
(3)吸湿量
下記実施例または比較例で得られた熱伝導性フィルムを用いて5cm×5cm×50μmのフィルムを作製し、該フィルムを温度23℃・湿度65%の恒温恒湿層内に保管し、24時間後のフィルムの重量増加量を測定した。このフィルムの重量増加量を吸湿量とした。
【0104】
〔合成例1〕バインダー樹脂の合成
ブチルメタクリレート30部、エチルヘキシルメタクリレート30部、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート20部およびN,N’−アゾビスイソブチロニトリル0.75部を、攪拌機付きオートクレーブに仕込み、窒素雰囲気下において室温で均一になるまで攪拌した。
【0105】
攪拌後、80℃で3時間重合させ、さらにN,N’−アゾビスイソブチロニトリル0.25部を加えて1時間重合させ、100℃で1時間重合を継続させた後、室温まで冷却し
てポリマー溶液を得た。
【0106】
得られたポリマー溶液は重合率が99%であり、このポリマー溶液から析出したアクリル系重合体(以下「バインダー樹脂(A1)」ともいう。)のMwは81000であり、300℃での熱重量減少率は5重量%であった。
【0107】
[実施例1]
(1)熱伝導性樹脂組成物の調製
(A)バインダー樹脂として合成例1で得られたバインダー樹脂(A1)10%、(B1)窒化ホウ素粉末(D50=3.0μm)35%、(B2)セラミックス粉末として酸化アルミニウム粉末(D50=2.5μm)45%、および(B3)多孔質吸湿剤としてA型シリカゲル粉末(不定形、D50=5.5μm、密度2.2g/cm3、比表面積5
00m2/g)10%からなる混合物100部と、
溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート40部と、
分散剤としてn−デシルトリメトキシシラン2部と
をビーズミルで混練りした後、ステンレスメッシュ(400メッシュ、38μm径)でフィルタリングすることにより、熱伝導性樹脂組成物を調製した。この熱伝導性樹脂組成物を用いて、上記(2)体積固有抵抗値に従い、熱伝導性樹脂層の体積固有抵抗値を測定した。評価結果を表1に示す。
【0108】
(2)転写フィルムの作製、評価
上記(1)で得られた熱伝導性樹脂組成物をPETフィルムからなる支持フィルム上にブレードコーターを用いて塗布して塗膜を形成し、該塗膜を100℃で5分間乾燥して溶剤を完全に除去することにより、平均膜厚50μmの熱伝導性樹脂層を支持フィルム上に形成した。次いで、支持フィルムから熱伝導性樹脂層を剥離し、該樹脂層からなる熱伝導性フィルムを得た。この熱伝導性フィルムを用いて、上記(1)熱伝導率および(3)吸湿量に従い、熱伝導性フィルムの熱伝導率および吸湿量を測定した。評価結果を表1に示す。
【0109】
[実施例2〜8、比較例1〜3]
実施例1において、バインダー樹脂(A)および特定無機粉末(B)を表1記載の組成で用いたこと以外は実施例1と同様に行った。評価結果を表1に示す。
【0110】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)バインダー樹脂と、
(B1)窒化ホウ素粉末15〜70重量%と、
(B2)セラミックス粉末(但し、窒化ホウ素粉末を除く。)5〜50重量%と、
(B3)多孔質吸湿剤(但し、アルカリ土類金属酸化物を除く。)5〜30重量%と
を含有する(但し、バインダー樹脂(A)と窒化ホウ素粉末(B1)とセラミックス粉末(B2)と多孔質吸湿剤(B3)との合計を100重量%とする。)ことを特徴とする熱伝導性樹脂組成物。
【請求項2】
前記窒化ホウ素粉末(B1)の50重量%平均粒子径(D50)が、1.0〜50.0μmの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項3】
前記セラミックス粉末(B2)が、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭化ケイ素および炭化ホウ素から選ばれる1種以上の無機化合物からなる粉末であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項4】
前記多孔質吸湿剤(B3)が、A型シリカゲル、B型シリカゲル、アルミナゲル、シリカアルミナゲル、天然ゼオライトおよび合成ゼオライトから選ばれる1種以上の多孔質吸湿剤であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項5】
前記多孔質吸湿剤(B3)の比表面積が、100m2/g以上であることを特徴とする
請求項1〜4の何れか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項6】
前記バインダー樹脂(A)が、アクリル系重合体であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物から形成される熱伝導性樹脂層を少なくとも一層有することを特徴とする吸湿性に優れた熱伝導性フィルム。
【請求項8】
前記熱伝導性樹脂層において、
体積固有抵抗値が1.0×109Ω・cm以上であり、かつ
熱伝導率が1.0W/m・K以上である
ことを特徴とする請求項7に記載の吸湿性に優れた熱伝導性フィルム。
【請求項9】
膜厚が10〜300μmの範囲にあることを特徴とする請求項7または8に記載の吸湿性に優れた熱伝導性フィルム。
【請求項10】
前記熱伝導性樹脂層のみからなる単層フィルムであることを特徴とする請求項7〜9の何れか1項に記載の吸湿性に優れた熱伝導性フィルム。
【請求項11】
放熱部材として用いられることを特徴とする請求項7〜10の何れか1項に記載の吸湿性に優れた熱伝導性フィルム。

【公開番号】特開2011−1452(P2011−1452A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−145390(P2009−145390)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】