説明

熱伝導性樹脂組成物の製造方法

【課題】充填材を高充填することにより熱伝導性を高め、かつピール強度の低下を抑えた熱伝導性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】樹脂成分100重量部に、熱伝導率が10W/m・K以上の充填材200重量部以上の表面をシリコーン重合体で処理して分散させ、かつシランカップリング剤を配合する熱伝導性樹脂組成物の製造方法であって、{(充填材の比表面積)×(充填材の配合重量)}:{(シランカップリング剤の最小被覆面積)×(シランカップリング剤の配合重量)}が1:0.7〜1:3.0であり、硬化物の熱伝導率が1.5W/m・K以上である熱伝導性樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップなどの電子部品はその集積密度が非常に高く、動作速度も高速化されているため発熱量も大きく、発熱密度も高くなる。
また、電気自動車など低電圧大電流を流すプリント配線板では電流量に比例して導体回路部から発熱が起こる。
そのため発生した熱を放散する必要がある。
【0003】
その放散方法として部品や装置にファンを付け強制的に空冷するなど直接部品を冷やす方法、実装を行う基板の熱拡散、熱容量を高くするため、実装部に熱伝導を目的としたサーマルビアを設置して基板全体に熱拡散する方法(非特許文献1参照)、基板に熱拡散、熱容量を高くする目的に金属板を配したメタルベース基板も適用されている。
【0004】
金属層を有するメタルベース基板では、有機絶縁層の熱伝導率が低いと有機絶縁層が熱伝導の律速になり金属層を設置した有意性が低くなってしまう。
有機絶縁層の熱伝導性はMaxwellの理論式、即ち、次式で表され、この式から樹脂硬化物の熱伝導率を高めるためには絶縁樹脂中の高熱伝導性充填材の充填率を高くすればいいことがわかる。
【0005】
【数1】

λc:混合品の熱伝導率 λ:充填材の熱伝導率 λo:樹脂の熱伝導率 φ:充填材の体積分率
【0006】
しかし、多量の充填材を配合するとペースト状になり樹脂の流動性の悪化など製造上の問題が発生するため、平均粒径が常用対数値で1以上異なる充填材を3種以上組合せて高充填化する方法(特許文献1)、六方晶の様な異方性の充填材を配向性の制御をして高充填化する方法(特許文献2)、金属箔にセラミックを溶射してセラミック層を形成し、さらにその上に極薄い絶縁樹脂層を形成して接着する方法(特許文献3)が提案されている。
【0007】
しかしながら、上記の特許文献1、特許文献2及び特許文献3の方法では、数種の充填材や特殊な充填材、特殊な工法を行うため煩雑で高価な製品となってしまう。そのため、充填材の表面をシリコーン重合体で処理することによって粘度を低下させる方法(特許文献4)もあるが、高充填化を行うと密着力の大幅な低下が発生してしまい実用に耐えない。
【0008】
【非特許文献1】「電子材料」、No.9、1994年、p37−43
【特許文献1】特開2001−348488号公報
【特許文献2】特開平05−174623号公報
【特許文献3】特開平08−048003号公報
【特許文献4】特開平09−504302号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、充填材を高充填することにより熱伝導性を高め、かつピール強度の低下を抑えた熱伝導性樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の問題点について種々検討した結果、充填材をシリコーン重合体で処理し、充填材の表面をコーティングして分散性を向上した後、コーティングしているシリコーン層と有機絶縁樹脂間に橋渡しを行うシラン化合物を添加することにより、充填材−絶縁樹脂の化学結合力を向上させ、高いピール強度を得ることができることを見出した。
【0011】
本発明は、樹脂成分100重量部に、熱伝導率が10W/m・K以上の充填材200重量部以上の表面をシリコーン重合体で処理して分散させ、かつシランカップリング剤を配合する熱伝導性樹脂組成物の製造方法であって、{(充填材の比表面積)×(充填材の配合重量)}:{(シランカップリング剤の最小被覆面積)×(シランカップリング剤の配合重量)}が1:0.7〜1:3.0であり、硬化物の熱伝導率が1.5W/m・K以上であることを特徴とする熱伝導性樹脂組成物の製造方法に関する。
【0012】
また、本発明は、シリコーン重合体が、末端が無機酸化物の表面と反応可能なシラノール基を有しており、シロキサン単位の重合度が2〜100であるシリコーンオリゴマーである上記の熱伝導性樹脂組成物の製造方法に関する。
また、本発明は、樹脂成分が、熱硬化性樹脂を必須成分とするものである請求項1又は2記載の熱伝導性樹脂組成物の製造方法に関する。
【0013】
また、本発明は、樹脂成分が、熱硬化性樹脂、硬化剤及び硬化促進剤を含有するものである上記の熱伝導性樹脂組成物の製造方法に関する。
また、本発明は、樹脂成分が、さらに可撓性材料を含有する上記の熱伝導性樹脂組成物の製造方法に関する。
【0014】
また、本発明は、樹脂成分に、表面をシリコーン重合体で処理した充填材を分散させた後、シランカップリング剤を添加する上記の熱伝導性樹脂組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法により得られる熱伝導性樹脂組成物は、充填材の表面をシリコーン重合体で処理し、かつシランカップリング剤を配合するため、充填材の充填量を高くして熱伝導率を上げてもピール強度を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に用いられる、樹脂成分としては、任意の温度領域で、樹脂の溶融粘度を樹脂の硬化度により変えることができる熱硬化性樹脂を必須成分とするものが好ましい。
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。特に加工性、取り扱い性、価格の点でエポキシ樹脂が好ましい。
【0017】
エポキシ樹脂の種類としては、2官能以上のエポキシ樹脂が用いられる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、多官能フェノールのジグリジルエーテル化物、これらの水素添加物等が挙げられ、これらは単独で用いてもよく、何種類かを併用して用いてもよい。
【0018】
絶縁樹脂に難燃性が必要とされる場合は、ハロゲン化エポキシ樹脂を配合する。
また、これらのハロゲン化エポキシ樹脂を添加せずに難燃性を満足させるためにテトラブロモビスフェノールA、デカブロモジフェニルエーテル、酸化アンチモン、テトラフェニルフォスフィン、有機リン化合物、酸化亜鉛等の一般に難燃剤、難燃助剤と言われる化合物を特性が著しく低下しない範囲で添加してよい。
【0019】
硬化剤としては、アミン化合物、例えば、リエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジエチルアミノプロピルアミン等の脂肪族アミンや、メタフェニレンジアミン、4,4′−ジアミノジフェニルメタンなどの芳香族アミン、酸無水物、例えば、無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸等や、3フッ化ホウ素モノエチルアミン、イソシアネート、ジシアンジアミド、レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、ユリア樹脂等が挙げられる。
【0020】
これらの硬化剤は、単独で用いてもよく、併用して用いてもよい。硬化剤の配合量は、エポキシ樹脂のエポキシ当量1に対して、硬化剤の反応基当量比が0.3〜1.5当量が熱伝導性樹脂組成物の塗布、乾燥時の樹脂硬化度制御に好ましい。
【0021】
硬化促進剤としては、イミダゾール化合物、有機リン化合物、第3級アミン、第4級アンモニウム塩等が使用されるが、第2級アミノ基をアクリロニトリル、イソシアネート、メラミン、アクリレート等でマスク化して潜在性を持たせたイミダゾール化合物を用いてもよい。
【0022】
ここで用いられるイミダゾール化合物としては、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、4−エチル−2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、4,5−ジフェニルイミダゾール、1−シアノ−2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾリン、2−エチル−4−メチルイミダゾリン、2−ウンデシルイミダゾリン、2−フェニル−4−メチルイミダゾリン等が挙げられる。
【0023】
これらの硬化促進剤は、単独で用いてもよく、併用して用いてもよい。硬化促進剤の配合量は、エポキシ樹脂100重量部に対して0.01〜6重量部の範囲が好ましい。0.01重量部未満では効果が小さく、6重量部を超えるとワニスの保存性が悪化する傾向がある。
【0024】
本発明の熱伝導性樹脂組成物の製造にあたり、上記の樹脂成分は、通常、溶剤に溶解した溶液として用いられる。上記の樹脂成分を溶解する溶剤としては、アセトン、ブタノン、トルエン、キシレン、4−メチル−2−ペンタノン、酢酸エチル、エチレングリコールモノエチルエーテル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、エタノール等が挙げられる。
上記の溶剤は、単独で用いてもよく、併用して用いてもよい。また特性上問題がなければ粉末状にした上記材料を鹸濁化などすることによる水溶液化でもよい。
【0025】
本発明に用いられる樹脂成分には、上記の成分以外でも、必要に応じて本発明の効果を阻害しない範囲で他の化合物を混合することも可能である。例えば、硬化物に可とう性を与えたり低弾性化をおこなうために、可とう性材料を添加してよい。
【0026】
可とう性材料としては、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリウレタン、アクリル樹脂、アクリルニトリルゴム、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキシド等が挙げられるが、耐電食性などの点から前述の熱硬化性樹脂と反応する官能基を有する可とう性樹脂、例えば、末端カルボキシル基NBRゴムなどを用いることが好ましい。
【0027】
これらの可とう性材料は、単独で用いてもよく、併用で用いてもよい。
可とう性材料の配合量は、熱硬化性樹脂、硬化剤及び硬化促進剤からなる熱硬化樹脂組成物全量100重量部に対して20〜150重量部が好ましく、60〜120重量部がより好ましい。20重量部未満では効果が小さく、150重量部を超えると樹脂硬化物の耐電食性が著しく悪化する傾向がある。
【0028】
本発明の熱伝導性樹脂組成物においては、充填材は、熱伝導率の向上を主たる目的として配合される。充填材としては、アルミナ等の酸化アルミニウム、ジルコニア、ムライト、マグネシア等の無機酸化物や、窒化アルミニウム、窒化珪素、窒化ホウ素等の窒化系セラミックスや、金属粒子やカーボン粒子の表面をセラミックコートなどで絶縁処理したものなどが挙げられる。本発明に用いられる充填材の熱伝導率は、10W/m・K以上であり、好ましくは15W/m・K以上である。なお、本発明において、充填材の熱伝導率は、レーザフラッシュ法により得られる値である。
充填材は、平均粒径が0.1〜20μmであることが好ましく、1〜10μmであることがより好ましい。
【0029】
充填材の添加量は、樹脂成分100重量部あたり200重量部以上であり、200〜1,600重量部の範囲が好ましく、400〜1,400重量部の範囲がより好ましく、500〜1,400重量部の範囲がさらに好ましい。200重量部未満では高熱伝導性充填材を添加した効果が小さく、1,600重量部を超えると最密充填量に近づき成形性が困難になる傾向がある。
【0030】
本発明に用いられるシリコーン重合体は、2官能性シロキサン単位(RSiO)、3官能性シロキサン単位(RSiO)(式中、Rは有機基であり、シリコーン重合体中のR基は互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい)及び4官能性シロキサン単位(SiO)から選ばれる少なくとも1種類のシロキサン単位を含有し、シロキサン単位の重合度が2〜7,000であるものが好ましい。さらに好ましいものは、重合度が2〜100、特に好ましくは2〜70のシリコーンオリゴマーである。また、末端に充填材の表面と反応可能な官能基を1個以上有することが好ましい。例えば、充填材が無機酸化物である場合、無機酸化物の表面と反応しうる官能基としては、無機酸化物表面の水酸基と反応しうるアルコキシ基、シラノール基等が挙げられ、シラノール基が特に好ましい。また、3官能性シロキサン単位及び4官能性シロキサン単位の少なくとも一方を含有することが好ましい。
【0031】
ここで、重合度は、その重合体の分子量(低重合度の場合)又はゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより標準ポリスチレン若しくはポリエチレングリコールの検量線を利用して測定した数平均分子量から算出したものである。
【0032】
前記のRとしては、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基等が挙げられる。水酸基と反応する官能基としては、シラノール基、炭素数1〜4のアルコキシル基、炭素数1〜4のアシルオキシ基、塩素等のハロゲン等がある。
本発明に用いられるシリコーン重合体は、例えば、一般式(I)
【0033】
【化1】

(式中Xは、塩素等の臭素以外のハロゲン又は−OR′を示し、ここで、R′は炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルキルカルボニル基を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基等の有機基、nは0〜2の整数を意味する)
で表されるシラン化合物を加水分解、重縮合させて得ることができる。前記一般式(I)で表されるシラン化合物の具体例としては、下記式(II)〜(X)
【0034】
【化2】

等のテトラアルコキシシランなどの4官能性シラン化合物(以下、シラン化合物における官能性とは、縮合反応性の官能基を有することを意味する)、
【0035】
【化3】

等のモノアルキルトリアルコキシシラン、
【0036】
【化4】

(ただし、Phはフェニル基を示す。以下同様)等のフェニルトリアルコキシシラン、
【0037】
【化5】

等のモノアルキルトリアシルオキシシラン
【0038】
【化6】

等のモノアルキルトリハロゲノシランなどの3官能性シラン化合物、
【0039】
【化7】

等のジアルキルジアルコキシシラン、
【0040】
【化8】

等のジフェニルジアルコキシシラン、
【0041】
【化9】

等のジアルキルジアシルオキシシラン、
【0042】
【化10】

等のジアルキルジハロゲノシランなどの2官能性シラン化合物がある。
【0043】
本発明に用いられる前記一般式(I)で表されるシラン化合物としては、4官能性シラン化合物又は3官能性シラン化合物、2官能性シラン化合物のいずれか又はその混合物が適宜使用される。
【0044】
本発明に用いられるシリコーン重合体は、前記した一般式(I)で表されるシラン化合物を加水分解、重縮合して製造されるが、このとき、触媒としては、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、フッ酸等の無機酸、シュウ酸、マレイン酸、スルホン酸、ギ酸、酢酸等の有機酸を使用することが好ましく、アンモニア、トリメチルアンモニウム等の塩基性触媒を用いることもできる。
【0045】
これら触媒は、一般式(I)で表されるシラン化合物の量に応じて適当量用いられるが、好適には一般式(I)で表されるシラン化合物1モルに対し0.001〜1.0モルの範囲で用いられる。
【0046】
また、この反応に際して、水が存在させられる。水の量も適宜決められるが、多すぎる場合には塗布液の保存安定性が低下するなどの問題があるので、水の量は、一般式(I)で表されるシラン化合物が有する加水分解性基(例えばアルコキシル基など)1モルに対して、0を超え5モル以下が好ましく、0.5〜2モルの範囲がより好ましい。
【0047】
また、上記の加水分解・重縮合は、溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては特に制限はない。
シリコーン重合体の反応は、シラン化合物と触媒、水、溶媒を適宜配合・攪拌して得られるが、その際のシラン化合物の濃度や反応温度、反応時間等については特に制限はない。
【0048】
本発明において、充填材は、シリコーン重合体で表面処理する。処理量は充填材の重量100重量部に対して0.3〜10重量部が好ましい。0.3重量部未満では効果が小さく、10重量部を超えると効果が飽和してくる傾向がある。
表面処理の方法としては、(1)予め充填材のみをシリコーン重合体で処理したあと樹脂に配合してもよく、また(2)樹脂成分に充填材を配合後にシリコーン重合体を加えて表面処理してもよく、(3)樹脂成分にシリコーン重合体を配合した後に充填材を加えて表面処理してもよく、(4)樹脂成分にシリコーン重合体と充填材とを同時に配合して表面処理してもよい。(1)の場合、例えば、充填材にシリコーン重合体又はその溶液を噴霧してシリコーン重合体で表面コーティングした充填材を、樹脂成分又はその溶液に配合し、撹拌して表面処理された充填材を分散させてもよいし、あるいは、シリコーン重合体又はその溶液中に充填材を添加して表面処理した後、そのシリコーン重合体又はその溶液と充填材との混合物を樹脂成分又はその溶液に配合し、撹拌して表面処理された充填材を分散させてもよい。(2)、(3)、(4)の場合も、シリコーン重合体及び樹脂成分は、そのまま用いてもよく、溶液として用いてもよい。均一な表面処理及び分散処理を行なうためには、溶液として用いることが好ましい。
【0049】
シリコーン重合体及び樹脂成分を溶液とする場合、溶剤としては特に制限はなく、上記したものなどを用いることができる。溶液とする場合、シリコーン重合体溶液の固形分濃度は、20〜70重量%とすることが好ましく、40〜70重量%とすることがより好ましく、50〜60重量%とすることがさらに好ましい。樹脂成分溶液の固形分濃度は、最終的に得られる熱伝導性樹脂組成物のワニスの固形分濃度が40〜70重量%になる濃度とすることが好ましい。
【0050】
表面処理及び分散処理の温度は特に制限はないが、通常、20〜60℃で行なうことが好ましく、30〜40℃で行なうことがより好ましい。
【0051】
シランカップリング剤は、充填材の表面処理時に同時に添加してもよく、充填材のシリコーン重合体による表面処理後、又は、表面処理した充填材の樹脂成分との配合時に同時に添加してもよいが、表面処理した充填材を樹脂成分に配合、分散した後に添加することが、充填材表面がシリコーン重合体で処理された効果がワニスが低粘度化することで確認できるため、品質確認上好ましい。
【0052】
シランカップリング剤としては、ビニルトリクロルシランやビニルトリエトキシシランのようなビニル官能基を有するもの、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ官能基を有するもの、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ官能基を有するものなどが挙げられる。
【0053】
これらのシランカップリング剤は、単独で用いてもよく、併用して用いてもよい。
シランカップリング剤の添加量は、{(充填材の比表面積(m2/g))×(充填材の配合重量)}:{(シランカップリング剤の最小被覆面積(m2/g))×(シランカップリング剤の配合重量)}が1:0.7〜1:3.0となる量であり、好ましくは1:0.9〜1:2.0とされる。1:0.7未満では、充填材の表面を覆うのに不足で効果が少なく、1:3.0を超えると効果が飽和してくる傾向がある。
シランカップリング剤も、そのまま添加してもよいし、溶液として添加してもよい。溶液とする場合、溶媒としては上記したものなどを用いることができ、固形分濃度は50〜100重量%とすることが好ましい。シリコーン重合体、樹脂成分及びシランカップリング剤のいずれかを溶液として用いた場合、通常、本発明の熱伝導性樹脂組成物は、ワニスとして得られる。
【0054】
なお、本発明において、充填材の比表面積は、BET比表面積測定法によって測定した値である。また、本発明において、シランカップリング剤の最小被覆面積は、シランカップリング剤の各分子がSiO3/2部のみで充填材と接触または結合し、それと反対側部分が、官能基の大きさ、種類にかかわらず、充填材表面に対し垂直方向にSiO3/2部と同面積で配列した場合に被覆できる面積と仮定して得られる値であり、従って、シランカップリング剤1gあたりの最小被覆面積は、シランカップリング剤の分子量によって決まる。
【0055】
このようにして得られる本発明の熱伝導性樹脂組成物は、硬化することにより、熱伝導率が、1.5W/m・k以上、好ましくは1.7W/m・k以上の硬化物となる。硬化物の熱伝導率の測定は、熱伝導性樹脂組成物を好ましくは60〜200℃で溶剤除去・Bステージ化を行ない、150〜200℃で、30〜180分間加熱することにより硬化させて硬化物とし、レーザフラッシュ法により得られた硬化物の熱伝導率を測定することにより得られる。
【0056】
本発明の熱伝導性樹脂組成物(又はワニス状態の熱伝導性樹脂組成物)をキャリア箔や基材に塗布、又は含浸し、通常、60〜200℃の範囲、好ましくは70〜180℃の範囲で加熱して溶剤除去、熱硬化を行うことにより、絶縁層付き金属箔、絶縁層付き有機フィルム、プリプレグなどを得ることができる。
ここでいうキャリア箔とは、銅、アルミニウム及びこれら金属の合金からなる金属箔やPET、OPP等の有機フィルムなどが挙げられる。基材としてはガラス織布、ガラス不織布等の無機基材やアラミド布、アラミド不織布等の有機材料が挙げられる。
【実施例】
【0057】
実施例1
以下の材料を用いてシリコーン重合体を合成した。
テトラメトキシシラン40重量部にメタノール93重量部混合した溶液に、酢酸を0.47重量部及び蒸留水を18.9重量部配合し、50℃で8時間撹拌してシリコーン重合体を合成した。これにブタノンを加え25重量%の溶液(1)とした。シリコーン重合体のシロキサン単位の重合度は、10であり、末端にメトキシ基及び/又はシラノール基を有するものである。
【0058】
以下の材料を用いて絶縁樹脂ワニスを配合した。
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名エピコート828)…50重量部
フェノールノボラック型エポキシ樹脂(大日本インキ(株)製商品名、エピクロンN−865)…10重量部
ノボラック型フェノール樹脂(日立化成工業(株)製、商品名HP−850N)…40重量部
1−シアノ−2−エチル−4−メチルイミダゾール(四国化成(株)製、商品名2E4MZ−CN)…0.3重量部
末端カルボキシ基NBRゴム(日本合成ゴム社製、商品名PNR−1H)20重量%ブタノン溶液500重量部
に、ブタノンを加えて溶解・攪拌し、25重量%の溶液(2)とした。
【0059】
上記で得た溶液(2)400重量部(固形分100重量部含有)に、アルミナ(アドマテックス社製、商品名アドマファインアルミナAC2500SI、比表面積7.2m/g、平均粒径0.7μm、熱伝導率34W/m・K)450重量部及び溶液(1)を90重量部加えて、温度30℃で、120分間攪拌した。
【0060】
攪拌後、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン社製、商品名KBM−403、被覆面積:330m/g)9重量部(比表面積:被覆面積=1:0.91)を加えて温度30℃で60分間撹拌し、ワニスとした。
【0061】
このワニスを、銅箔(古河サーキットフォイル製、商品名GTS−MP70)に乾燥硬化後に絶縁層の厚さが80μmになるように塗布した。90℃で2分、120℃で2分乾燥硬化し、銅箔付き絶縁樹脂シートを作製した。
【0062】
この銅箔付き絶縁樹脂シートを、厚さが2mmのアルミ板(日本軽金属製)にプレス積層した。積層条件は、真空プレスで加熱、加圧した。なお、加熱条件は、製品最高温度180±5℃で70分保持後冷却した。また加圧は、加熱開始から加圧し、4MPaでプレス終了まで保持した。
積層プレス終了後、アルミ板を保護フィルムで保護し、その後、銅箔面をエッチングで回路加工を行い、メタルコア配線板を作製した。
【0063】
比較例1
実施例1の配合でシリコーン重合体の溶液(1)を加えない以外は実施例1と同様の工程を経てメタルコア配線板を作製した。
【0064】
比較例2
実施例1の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの添加を行わない以外は実施例1と同様の工程を経てメタルコア配線板を作製した。
【0065】
比較例3
実施例1のアルミナの配合量を180重量部とし、シリコーン重合体の溶液(1)及び3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを添加しないこと以外は、実施例1と同様の工程を経てメタルコア配線板を作製した。
【0066】
効果の確認
実施例1及び各比較例で作製したメタルコア配線板の特性を比較した。その結果を表1に示す。
【0067】
【表1】


表1中、銅箔ピール強度は、各メタルコア配線板の銅箔を10mm幅にパターン形成し、室温で、90゜垂直に、50mm/分のヘッドスピードで剥離して測定した。
また、表1中の熱伝導率は、各実施例、比較例で調製した熱伝導性樹脂組成物ワニスを用い、150℃で5分間加熱して溶剤除去・B−ステージ化を行ない、次いで180℃で70分間加熱して硬化させて硬化物とし、その硬化物の熱伝導率をレーザフラッシュ法にて測定した値である。
【0068】
表1に示されるように、実施例1で作製したメタルコア配線板は比較例1で作製したメタルコア配線板に対して塗工外観及び製品歩留がよい、また比較例2で作製したメタルコア配線板に対して銅箔ピール強度が高い、さらに比較例3で作製したメタルコア配線板にと比較して、熱伝導性樹脂組成物の硬化物の熱伝導率が高いということが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分100重量部に、熱伝導率が10W/m・K以上の充填材200重量部以上の表面をシリコーン重合体で処理して分散させ、かつシランカップリング剤を配合する熱伝導性樹脂組成物の製造方法であって、{(充填材の比表面積)×(充填材の配合重量)}:{(シランカップリング剤の最小被覆面積)×(シランカップリング剤の配合重量)}が1:0.7〜1:3.0であり、硬化物の熱伝導率が1.5W/m・K以上であることを特徴とする熱伝導性樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
シリコーン重合体が、末端が無機酸化物の表面と反応可能なシラノール基を有しており、シロキサン単位の重合度が2〜100であるシリコーンオリゴマーである請求項1記載の熱伝導性樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
樹脂成分が、熱硬化性樹脂を必須成分とするものである請求項1又は2記載の熱伝導性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
樹脂成分が、熱硬化性樹脂、硬化剤及び硬化促進剤を含有するものである請求項3記載の熱伝導性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
樹脂成分が、さらに可撓性材料を含有する請求項3又は4記載の熱伝導性樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
樹脂成分に、表面をシリコーン重合体で処理した充填材を分散させた後、シランカップリング剤を添加する請求項1〜5いずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2008−31405(P2008−31405A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−302810(P2006−302810)
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】