説明

熱伝導性樹脂組成物

【課題】 フィラー高充填化と良好な成形流動性を両立し、かつフィラー分散状態の極めて良好な高熱伝導性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 200℃、10kgf荷重時の溶融粘度が5〜2000dPa・sであるポリエステル樹脂(A)70〜20体積部及び、熱伝導フィラー(B)30〜80体積部を含有する熱伝導性樹脂組成物であって、該樹脂組成物を0.5mm厚さのシートに加工したとき、シート表面における直径10cmの範囲内に存在するフィラー凝集体の数が3個以下であることを特徴とする熱伝導性樹脂組成物で解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超低溶融粘度のポリエステル樹脂、及び熱伝導フィラーを含有する熱伝導性樹脂組成物に関するものであり、さらに詳しくは、良好な成形流動性を保持しながらフィラーの高充填化を可能とし、かつ、フィラー分散状態が極めて良好な熱伝導性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコンやディスプレーの筐体、電子デバイス材料、自動車の内外装などの発熱の問題がクローズアップされており、熱伝導率の高い材料が求められている。これらの用途に熱可塑性樹脂組成物を使用する際、プラスチックは金属材料など無機物と比較して熱伝導性が低いため、発生する熱を逃がしづらいことが問題になることがある。このような課題を解決するため、熱伝導性の高い無機化合物を熱可塑性樹脂中に高充填することで、高熱伝導性樹脂組成物を得ようとする試みが広くなされている。熱伝導率の高い無機化合物としては、黒鉛、炭素繊維、金属ケイ素、マグネシウム、アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、マグネシア、アルミナなどが挙げられ、通常は30体積%以上、さらには50体積%以上もの高含有量で樹脂中に配合する必要がある。このフィラー高充填化技術において、しばしば問題となるのは、成形性及びフィラー分散状態である。
高熱伝導性熱可塑性樹脂を通常良く用いられる射出成形法で成形しようとすると、その高熱伝導性が故に金型内に流入した樹脂が高速に冷却固化してしまい、金型内のゲート部が固化した後は、全く型内に樹脂を流入させることができなくなるという課題がある。これを解決するためには、高熱伝導性熱可塑性樹脂を射出成形する際には、ホットランナーと特殊形状のゲートの組み合わせなど特殊な金型が必要となり、汎用金型での成形が不可能であることが普及の妨げとなっている。
また、フィラー分散状態は、熱伝導性熱可塑性樹脂の混練や熱伝導性などの物性において、極めて重要となる。例えば、樹脂とフィラーの濡れ性が悪く、フィラーの凝集体が生成したりすると、ストランドが不安定になりフィラー高充填化ができず、高熱伝導率化を阻害する。あるいは、フィラーの分散状態が不均一であると、熱伝導率が理論値に比べて著しく悪化するなどの問題が生じる。さらには、フィラーの硬度が高い場合には、その凝集物が原因で、成形加工時などに金型を切削するなどの問題が起こることが危惧される。
【0003】
かかる成形性に関する問題を解決すべく、フィラーを高充填した熱可塑性樹脂の射出成形性を向上させるため、室温で液体の有機化合物を添加する方法が例示されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながらこのような方法では、射出成形時に液体の有機化合物がブリードアウトし、金型を汚染するなどの課題がある。
【0004】
一方、かかる成形性に関する問題を解決すべく、金型内冷却時の固化速度を大幅に遅延しうる樹脂の使用により、成形流動性を改良し、射出成形性を改善するという発明がなされた(例えば、特許文献2参照)。しかし、かかる発明は射出成形時の成形流動性という点では改良されたものの、射出成形温度は高く設定する必要があり、また、フィラー充填率は60体積%程度を上限としており、フィラーを十分に高充填化できずに高熱伝導性を達成することができていないという点で問題である。このような問題が生じる理由としては、樹脂とフィラーの濡れ性が十分でないために、混練の際にストランドが切れるなどの問題に起因してフィラー高充填化が困難となることや、60体積%以上のフィラー高充填化により、樹脂組成物の溶融粘度が著しく上昇するために射出成形が困難になることなどの課題があり、フィラー高充填化と良好な射出成形性の両立には至っていない。
【0005】
他方、かかるフィラー分散状態に関する問題を解決すべく、フィラー凝集体を形成させることなく、樹脂中に均一に分散するため、流動性改質剤を混合してフィラーの流動性を改良する方法が例示されている(例えば、特許文献3参照)。かかるフィラー表面改質により、樹脂への分散性が良好となり、熱伝導性は改善するものの、フィラー高充填化という課題においては達成できていない。さらには、フィラー表面改質の工程が増えるためにコストアップに繋がるばかりか、樹脂の種類に応じて改質剤の変更が必要となり、フィラーの種類が多種多様となるため、ハンドリング性が良好でないなどの課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3948240号公報
【特許文献2】特開2009−91440号公報
【特許文献3】特許第3714502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、フィラー高充填化と良好な成形流動性を両立し、かつ、フィラー分散状態が極めて良好な高熱伝導性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明の熱伝導性樹脂組成物は、200℃、10kgf荷重時の溶融粘度が5〜2000dPa・sであるポリエステル樹脂(A)70〜20体積部及び、熱伝導フィラー(B)30〜80体積部を含有する熱伝導性樹脂組成物であって、該樹脂組成物を0.5mm厚さのシートに加工したとき、シート表面における直径10cmの範囲内に存在するフィラー凝集体の数が3個以下であることを特徴とする熱伝導性樹脂組成物である。
ここで、フィラー凝集体の数は、シート表面において直径10cmの範囲を任意に選択し、この範囲に目視で確認できるフィラー凝集体の数である。フィラー凝集体については、下記で説明する。
【0009】
前記ポリエステル樹脂(A)を構成するジカルボン酸成分のうち80モル%以上がテレフタル酸及び/またはナフタレンジカルボン酸であり、かつ前記ポリエステル樹脂(A)を構成するジオール成分のうち40モル%以上が1,4−ブタンジオールであることができる。さらには、(A)を構成するジオール成分のうち2モル%以上が、ポリアルキレンエーテルグリコールであることが好ましい。
また、前記熱伝導フィラー(B)は、マグネシアであることが好ましい。
以下、熱伝導フィラーを単にフィラーと称する事がある。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、フィラー分散状態が良好であり、かつ良好な成形流動性を保持しながらフィラーの高充填化を可能とした熱伝導性樹脂組成物が得られる。詳しくは、本発明により、フィラーの表面処理を施さずとも、フィラーの凝集体の形成が効果的に抑制されて、熱伝導率や外観の改良が可能な熱伝導性樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳述する。
本発明の熱伝導性樹脂組成物におけるポリエステル樹脂(A)及び、熱伝導フィラー(B)は、ポリエステル樹脂(A)70〜20体積部及び、熱伝導フィラー(B)30〜80体積部となるように含有する。(A)の含有量が多いほど、得られる樹脂組成物の耐衝撃性、成形加工性が向上し、溶融混練時の樹脂との混練が容易になる傾向がある、という観点、及び(B)が多いほど熱伝導率が向上する傾向があり好ましいという観点を考慮してこれらを両立させるために、含有量は、好ましくは(A)60〜20体積部及び(B)40〜80体積部、より含有量は好ましくは(A)50〜25体積部及び(B)50〜75体積部、さらに好ましくは(A)40〜30体積部及び(B)60〜70体積部である。
【0012】
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)と熱伝導フィラー(B)の配合割合が、体積部で表されるが、樹脂組成物を製造する際は、(A)、(B)各々の比重より、質量基準で配合を行う。(A)は樹脂単体の比重、(B)はフィラーの化学種単体の比重を基に配合量を決める。このように体積部で配合量を表すのは、本発明により得られる樹脂組成物の重要な特性である熱伝導性が、組成物中の熱伝導フィラーの質量割合ではなく、体積割合が大きな意味を持つからである。
本発明の熱伝導性樹脂組成物が、ポリエステル樹脂(A)、熱伝導フィラー(B)以外の成分を含む場合も、同様に配合量を決定する。
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)中の熱伝導フィラー(B)の分散性が非常に良いので、樹脂組成物中の空隙(空気層)がほとんどない。したがって、熱伝導フィラー(B)が、配合比通り充填されているかどうかは、得られた熱伝導性樹脂組成物の比重を測定すれば、(A)、(B)各々の比重を基に確認する事ができる。
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)と熱伝導フィラー(B)の合計で、90体積%以上占めることが好ましい。熱伝導性樹脂組成物中の(A)と(B)の合計は、95体積%以上がより好ましく、97体積%以上がさらに好ましい。
【0013】
本発明における熱伝導性樹樹脂組成物は、該樹脂組成物を0.5mm厚さのシートに加工したとき、シート表面における直径10cmの範囲内に存在するフィラー凝集体の数が3個以下である必要がある。フィラー凝集体が3個超であると、成形機などの金型を切削することが危惧されるだけでなく、外観の悪化や熱伝導性などの諸物性にも悪影響を及ぼす可能性がある。シート表面における直径10cmの範囲内に存在するフィラー凝集体の数は、2個以下であることが好ましい。
フィラー凝集体の数は、シート表面において直径10cmの範囲を任意に選択し、この範囲に目視で確認できるフィラー凝集体の数である。直径10cmの範囲は、シート表面である必要はないが、本発明においては、フィラー凝集体を含め、熱伝導フィラー(B)が、ポリエステル樹脂(A)中に、均一に分散しているため、シート表面を観察することで、直径10cmの任意の範囲におけるフィラー凝集体の数を把握する事ができる。
本発明では、目視で確認できない非常に微小なフィラー凝集体については、物性に悪影響を及ぼす可能性が小さいためカウントしない。
なお、ここでフィラー凝集体とは、本発明の熱伝導性樹脂組成物に用いる2種以上の熱伝導フィラーのうち、最も平均粒径が大きいフィラーの平均粒径の3倍以上のサイズがある、樹脂などが介在しないフィラーのみの集合体であり、シート化した際に目視で確認できるものをいう。
【0014】
フィラー凝集体が目視で確認可能かどうかについては、実際にフィラー凝集体のサイズを測定することでも確認できる。次の方法により、フィラー凝集体のサイズを測定し、用いた2種以上の熱伝導フィラーのうち、最も平均粒径が大きいフィラーの平均粒径の3倍以上であれば、フィラー凝集体とすることができる。
フィラー凝集体のサイズは、シート断面のSEM観察画像において確認することができる。このとき、凝集体の断面を作製するため、フィラー凝集体の中心部を切断する必要がある。
このとき、断面作製はクロスセクションポリッシャ加工で行なうことができる。断面作製の他の方法には、例えば、フェザーカッターなどによる割断法などがあるが、切断作業時に凝集体が潰れてしまう可能性があるため、好ましくない。
【0015】
本発明における樹脂組成物は、全熱伝導フィラー量を100質量%としたとき、そのうち25〜70質量%(B−i)をポリエステル樹脂(A)に混合して混練した樹脂組成物に残りの熱伝導フィラー75〜30質量%(B−ii)を添加して混練を行う必要がある。さらには、平均粒径が異なる2種類以上のフィラーを用い、平均粒径が小さいフィラーを(B−i)、平均粒径が大きいフィラーを(B−ii)として混練する必要がある。残フィラーの添加は、一回で行なっても良いし、複数回に分けて行っても良い。残フィラーを一回で添加するほうが、製造工程が煩雑にならないため、好ましい。
この条件を満足しない場合、すなわち、一回目に樹脂と混合するフィラー量が25質量%未満あるいは70質量%超である場合、フィラーを分割する効果が薄れ、フィラー凝集体が生成しやすくなる。あるいは、平均粒径が小さいフィラーを後から添加した場合も、フィラー凝集体が生成しやすくなる。
全フィラー量のうち、平均粒径が小さいフィラー(B−i)30〜60質量%を樹脂(A)に混合して混練したのち、平均粒径が大きいフィラー(B−ii)70〜40質量%を添加して混練を行うほうが、より好ましく、平均粒径が小さいフィラー(B−i)35〜50質量%を樹脂(A)に混合して混練したのち、平均粒径が大きいフィラー(B−ii)65〜50質量%を添加して混練を行うほうが、さらに好ましい。
【0016】
混練方法は種々の方法を用いることができる。例えば、サイドフィードを1系列利用し、樹脂とフィラーの一部(B−i)をドライブレンドしたものを元フィードに投入し、サイドフィードに残りのフィラー(B−ii)を投入して、連続的に混練することができる。または、サイドフィードを2系列利用し、樹脂を元フィードに投入し、元フィードに近いサイドフィードにフィラーの一部(B−i)、元フィードから遠いサイドフィードに残りのフィラー(B−ii)を投入して、連続的に混練してもよい。あるいは、樹脂(A)とフィラーの一部(B−i)とを混練して、一旦ペレットなどとして取り出し、それを残りのフィラー(B−ii)と混合した後、再度、混練してもよい。
この中でもサイドフィードを利用する方法は、分散性が良好となり、生産効率が良いため好ましい。
【0017】
樹脂(A)と熱伝導フィラー(B)との混練機台は、特に限定されるものではない。例えば、単軸、二軸などの押出機のような溶融混練機にて溶融混練することにより製造することができる。または、加熱ロール、バンバリーミキサーなどの混練機を使用してもよい。
【0018】
該熱伝導フィラー(B)は2種類以上のフィラーを含有する必要がある。フィラーが2種類以上とは、フィラーの物質種、形状、平均粒径、粒度分布、表面処理剤などが異なる2種以上という意味である。なお、本発明での平均粒径は、レーザー散乱粒度分布計などの粒度分布測定装置を用いて測定したものとする。
【0019】
本発明において使用される熱伝導フィラー(B)の平均粒径は、1〜100μmであることが好ましい。1.5〜80μmであることがより好ましく、2〜70μmであることがさらに好ましい。
平均粒径の異なる2種類のフィラーを用いる場合、樹脂中への最密充填、樹脂組成物の熱伝導率、凝集物生成の問題、ハンドリングのしやすさを考慮すると、粒径が小さいフィラーの平均粒径は1〜20μm、粒径が大きいフィラーの平均粒径は20〜100μmであることが好ましい。粒径が小さいフィラーの平均粒径は1〜15μmであることがより好ましく、1〜10μmであることがさらに好ましい。フィラー表面積が小さいと、樹脂との濡れ性の悪さの影響を受けにくく、凝集物を生成しにくいという観点から、粒径が大きいフィラーの平均粒径は30μm以上であることがより好ましく、さらに好ましくは40μm以上である。
【0020】
樹脂とフィラーの濡れ性が悪い場合、フィラーの凝集物が形成される可能性がある。特にフィラーの表面積が大きい場合、すなわちフィラー平均粒径が10μm未満と小さい場合には、樹脂との接触面積が大きくなり、濡れ性の悪さがより顕著に影響するため、凝集体が形成されやすい傾向がある。
【0021】
粒径が小さいフィラーを(B−i)として先に混練した場合、その時点ではやはり凝集体が確認されるが、粒径が大きいフィラーを(B−ii)として添加して再混練することで、凝集体の形成がなく、分散状態の良好な樹脂組成物が得られる。逆に、粒径が大きいフィラーを(B−i)として先に混練し、粒径が小さいフィラーを(B−ii)として添加して再混練した場合には、凝集体は残留し、分散状態は良好とならない。
この原因として、ひとつには、(B−i)を混練した段階での溶融粘度を比較すると、粒径が小さいフィラーを用いた場合のほうが、粒径が大きいフィラーを用いた場合に比べて、大きくなることが挙げられる。すなわち、(B−i)に粒径が小さいフィラーを用いた場合のほうが、(B−ii)を添加した段階でのせん断力が大きく、フィラー分散効果が高くなる。
さらに、(B−i)の滞留時間は(B−ii)に比べて長く、その寄与による(B−i)の分散効果も大きい。
すなわち、本発明のフィラー凝集体抑制効果は、平均粒径の小さいフィラーを(B−i)として先に添加することで、高いせん断力を得ること、(B−i)の滞留時間を長くすること、の2つの要因の組み合わせから達成されるものである。
【0022】
3種類以上のフィラーを用いる場合、上記と同様の方法で、平均粒径が最も小さいフィラーから順に段階的に混練することで、凝集体の生成を抑制することが可能である。
【0023】
本発明に用いられるポリエステル樹脂(A)は、200℃での溶融粘度が5〜2000dPa・sであることが必要である。2000dPa・s超の高溶融粘度になると、フィラー高充填後の樹脂組成物の溶融粘度が著しく上昇し、良好な成形流動性が得られない。2000dPa・s以下、好ましくは1000dPa・s以下の溶融粘度を有するポリエステル樹脂を使用することで、フィラー高充填後でも良好な成形流動性を得ることができる。また、200℃での溶融粘度は低いほうが好ましいが、熱伝導性樹脂組成物の機械的強度を考慮すると下限としては5dPa・s以上が必要であり、好ましくは20dPa・s以上、より好ましくは100dPa・s以上、さらに好ましくは200dPa・s以上である。
【0024】
ポリエステル樹脂(A)は、ジカルボン酸成分の合計量を100モル%とすると、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸及び/またはナフタレンジカルボン酸を80モル%以上含有することが望ましい。より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上である。80モル%未満であると、機械的強度、耐熱性が低下する傾向がある。
フィラー高充填化と良好な成形流動性の両立がより優れると言う観点から、ジカルボン酸成分としてナフタレンジカルボン酸が好ましい。
ジカルボン酸成分として、そのメチルエステル誘導体を用いてもよい。ナフタレンジカルボン酸は、反応性、ポリマー鎖の立体構造などを考慮すると、その異性体の中でも特に2,6−ナフタレンジカルボン酸またはそのメチルエステル誘導体が好ましい。
【0025】
ポリエステル樹脂(A)は、ジオール成分の合計量を100モル%とすると、グリコール成分として1,4−ブタンジオールを40モル%以上含有することが望ましい。より好ましくは50モル%以上である。40モル%未満であると、結晶性が低下しすぎてブロッキングや成形性・耐熱性の悪化が問題となる。上限は80モル%以下が好ましく、より好ましくは70モル%以下である。80モル%を超えると結晶化速度が速くなりすぎるため、フィラーとの濡れ性が悪化し、フィラー浮きが原因でストランド切れなどが生じやすくなり、フィラー高充填化が困難となる傾向がある。
【0026】
フィラー高充填化後も良好な成形流動性を維持するためには、フィラー配合前の樹脂の溶融粘度が低いことが望ましく、その目的でポリアルキレンエーテルグリコールを共重合することが望ましい。
該ポリアルキレンエーテルグリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ(エチレンオキシド・プロピレンオキシド)共重合体、ポリ(エチレンオキシド・テトラヒドロフラン)共重合体、ポリ(エチレンオキシド・プロピレンオキシド・テトラヒドロフラン)共重合体などが挙げられ、ポリエステル樹脂(A)のジオール成分の合計量を100%としたとき、ポリアルキレンエーテルグリコールは、2モル%以上であることが好ましく、より好ましくは5モル%、さらに好ましくは10モル%、最も好ましくは20モル%以上である。上限は耐熱性やブロッキングなどの取り扱い性を考慮すると好ましくは60モル%以下、より好ましくは50モル%以下である。
【0027】
該ポリアルキレンエーテルグリコールとしてポリテトラメチレングリコールが望ましい。ポリテトラメチレングリコールの数平均分子量は400以上であることが好ましく、より好ましくは500以上、さらに好ましくは600以上、特に好ましくは700以上であり、上限は好ましくは4000、より好ましくは3500、さらに好ましくは3000以下である。ポリテトラメチレングリコールの数平均分子量が400未満であると、耐加水分解性が低下することがある。一方4000を超えると、ブチレンテレフタレート及び/またはブチレンナフタレート単位からなるポリエステル部分との相溶性が低下し、ブロック状に共重合することが難しくなる場合がある。
【0028】
本発明に用いられるポリエステル樹脂の製造方法としては、公知の方法をとることができるが、例えば、上記のジカルボン酸及びジオール成分を150〜250℃でエステル化反応後、減圧しながら230〜300℃で重縮合することにより、目的のポリエステルを得ることができる。あるいは、上記のジカルボン酸のジメチルエステルなどの誘導体とジオール成分を用いて150℃〜250℃でエステル交換反応後、減圧しながら230℃〜300℃で重縮合することにより、目的のポリエステルを得ることができる。
【0029】
ポリエステル樹脂(A)を製造する際には、熱劣化、酸化劣化などを抑制するなどの目的で酸化防止剤を添加することが好ましく、反応前、反応途中あるいは反応終了後に添加してもよい。例えば、公知のヒンダードフェノール系、リン系、チオエーテル系の酸化防止剤を用いることができる。
これら酸化防止剤は、単独で、または複合して使用できる。添加量は、ポリエステル樹脂(A)に対して0.1質量%以上5質量%以下が好ましい。0.1質量%未満だと熱劣化防止効果に乏しくなることがある。5質量%を超えると、他物性などに悪影響を与える場合がある。
【0030】
また、ポリエステル樹脂(A)には、反応性や得られた共重合体の機械的特性、化学的特性を損なわない範囲で、共重合可能な公知の成分が使用できる。該成分としては炭素数8〜22の2価以上の芳香族カルボン酸、炭素数4〜12の2価以上の脂肪族カルボン酸、さらには炭素数8〜15の2価以上の脂環式カルボン酸などのカルボン酸類及びこれらのエステル形成性誘導体、炭素数2〜20の脂肪族化合物であって分子内に2個以上の水酸基を有する化合物類、炭素数6〜40の芳香族化合物であって分子内に2個以上の水酸基を有する化合物類、及びこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0031】
具体的には、カルボン酸類としては、テレフタル酸及びナフタレンジカルボン酸以外に、例えば、イソフタル酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタンアントラセンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マレイン酸、トリメシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、デカヒドロナフタレンジカルボン酸などのカルボン酸又はそのエステル形成能を有する誘導体が挙げられ、水酸基含有化合物類としては、1,4−ブタンジオールの他に、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、ハイドロキノン、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの化合物又はそのエステル形成能を有する誘導体が挙げられる。
共重合量としては、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0032】
本発明の熱伝導性樹脂組成物に配合する熱伝導フィラー(B)は、特に制限されるものではない。組成物の熱伝導率を向上させる効果を考慮すると、単体での熱伝導率が10W/m・K以上のものが好ましい。より好ましくは15W/m・K以上、さらに好ましくは20W/m・K以上、特に好ましくは30W/m・K以上のものが用いられる。熱伝導フィラー(B)単体での熱伝導率の上限は特に制限されず、高ければ高いほど好ましいが、一般的には3000W/m・K以下、さらには2500W/m・K以下のものが好ましく用いられる。
【0033】
熱伝導フィラー(B)の形状については、種々の形状のものを適応可能である。例えば粒子状、微粒子状、ナノ粒子、凝集粒子状、ワイヤ状、ロッド状、針状、板状、不定形、ラグビーボール状、六面体状、大粒子と微小粒子とが複合化した複合粒子状、など種々の形状を例示することができる。またこれら熱伝導フィラー(B)は天然物であってもよいし、合成されたものであってもよい。天然物の場合、産地などには特に限定はなく、適宜選択することができる。
【0034】
電気絶縁性を示す熱伝導フィラー(B)としては具体的には、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化ケイ素、酸化ベリリウム、酸化亜鉛、酸化銅、亜酸化銅、などの金属酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、などの金属窒化物、炭化ケイ素などの金属炭化物、炭酸マグネシウムなどの金属炭酸塩、ダイヤモンド、などの絶縁性炭素材料、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、などの金属水酸化物、を例示することができる。これらは単独あるいは複数種類を組み合わせて用いることができる。これらのうち、樹脂との濡れ性が比較的良好であることから、アルミナ、マグネシア、酸化亜鉛が好ましく、より好ましくはアルミナ、マグネシアである。単体での熱伝導率がより高いという観点から、さらに好ましくはマグネシアである。
【0035】
電気伝導性を示す熱伝導フィラー(B)としては具体的には、黒鉛、炭素繊維、などの炭素材料、金属ケイ素、アルミニウム、マグネシウムなどの金属材料を例示することができる。これらは単独あるいは複数種類を組み合わせて用いることができる。
【0036】
本発明における樹脂組成物は、熱伝導フィラー(B)に表面処理を行なわずとも、樹脂中でのフィラー分散状態は非常に良好となるが、樹脂と無機化合物との界面の接着性を高めたり、作業性を容易にしたりする目的で、シラン処理剤などの各種表面処理剤で表面処理がなされたものであってもよい。表面処理剤としては特に限定されず、例えばシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、など従来公知のものを使用することができる。中でもエポキシシランなどのエポキシ基含有シランカップリング剤、及び、アミノシランなどのアミノ基含有シランカップリング剤、ポリオキシエチレンシラン、などが樹脂の物性を低下させることが少ないため好ましい。無機化合物の表面処理方法としては特に限定されず、通常の処理方法を利用できる。
【0037】
本発明により得られる熱伝導性樹脂組成物をより高性能なものにするため、フェノール系安定剤、イオウ系安定剤、リン系安定剤などの熱安定剤などを、単独又は2種類以上を組み合わせて添加することが好ましい。さらに必要に応じて、一般に良く知られている、安定剤、滑剤、離型剤、可塑剤、リン系以外の難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料、染料、帯電防止剤、導電性付与剤、分散剤、相溶化剤、抗菌剤などを、単独又は2種類以上を組み合わせて添加してもよい。
【0038】
本発明により得られた熱伝導性樹脂組成物の成形加工法としては特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂について一般に用いられている成形法、例えば、射出成形、ブロー成形、押出成形、真空成形、プレス成形、カレンダー成形などが利用できる。これらの中でも成形サイクルが短く生産効率に優れること、本組成物が射出成形時の流動性が良好であるという特性を有していること、などから、射出成形法により射出成形することが好ましい。
【0039】
このようにして得られた組成物は、樹脂フィルム、樹脂成形品、樹脂発泡体、塗料やコーティング剤、などさまざまな形態で、電子材料、磁性材料、触媒材料、構造体材料、光学材料、医療材料、自動車材料、建築材料、などの各種の用途に幅広く用いることが可能である。本発明で得られた高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物は、現在広く用いられている射出成形機や押出成形機などの一般的なプラスチック用成形機が使用可能であるため、複雑な形状を有する製品への成形も容易である。特に優れた成形加工性、高熱伝導性、という優れた特性を併せ持つことから、発熱源を内部に有する携帯電話、ディスプレー、コンピューターなどの筐体用樹脂として、非常に有用である。
【0040】
本発明により得られた高熱伝導性樹脂組成物は、家電、OA機器部品、AV機器部品、自動車内外装部品、などの射出成形品などに好適に使用することができる。特に多くの熱を発する家電製品やOA機器において、外装材料として好適に用いることができる。
【0041】
さらには発熱源を内部に有するがファンなどによる強制冷却が困難な電子機器において、内部で発生する熱を外部へ放熱するために、これらの機器の外装材として好適に用いられる。これらの中でも好ましい装置として、ノートパソコンなどの携帯型コンピューター、PDA、携帯電話、携帯ゲーム機、携帯型音楽プレーヤー、携帯型TV/ビデオ機器、携帯型ビデオカメラ、などの小型あるいは携帯型電子機器類の筐体、ハウジング、外装材用樹脂として非常に有用である。また自動車や電車などにおけるバッテリー周辺用樹脂、家電機器の携帯バッテリー用樹脂、ブレーカーなどの配電部品用樹脂、モーターなどの封止用材料、としても非常に有用に用いることができる。
【0042】
本発明の高熱伝導性樹脂組成物は、従来良く知られている組成物に比べて、フィラーの凝集体の生成が非常に少なく、熱伝導率、成形加工性が良好であり、上記の用途における部品あるいは筐体用として有用な特性を有するものである。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、実施例に記載された各測定値は次の方法によって測定したものである。
【0044】
溶融粘度は、島津製作所(株)製のフローテスター(CFT−500C型)を用いて測定した。200℃に設定した加熱体中央のシリンダー中に水分率0.1%以下に乾燥した樹脂試料を充填し、充填1分経過後、プランジャーを介して試料に荷重(10kgf)をかけ、シリンダー底部のダイ(孔径:1.0mm、厚み:10mm)より、溶融した試料を押出し、プランジャーの降下距離と降下時間を記録し、溶融粘度を算出した。樹脂の融点が200℃超の場合、温度を250℃に設定して、測定した。
【0045】
比熱は、TAインスツルメンツ(株)製DSC2920を用いて測定した。樹脂組成物10.0mgをアルミパンに入れ、室温から10℃/分の昇温温度で200℃まで昇温し、200℃に達してから5分間保持した後に、10℃/分で降温した。同様に、基準物質としてサファイア26.8mgをアルミパンに入れ、同条件で測定した。さらに、ブランクとしてサンプルを入れていない空のアルミパンを同条件で測定した。それぞれのDSC曲線の23℃におけるHeat Flowの値を読み取り、下記式1により比熱容量を算出した。
Cpは試料比熱、C’pは23℃における基準物質(サファイア)比熱、hは空容器と試料のDSC曲線の差、Hは空容器と基準物質(サファイア)のDSC曲線の差、mは試料質量(g)、m’は基準物質(サファイア)質量(g)を表す。
(式1)
Cp=(h/H)×(m’/m)×C’p
【0046】
各種測定に用いたシートサンプルは、テスター産業(株)製ヒートプレス機SA−302−Iを用いて作製した。混練樹脂組成物3gを、190℃で2分間溶融後、100kgf/cmの荷重をかけ、1分後に水につけて急冷し、およそ0.5mmのシートサンプルを得た。樹脂の融点が185℃以上のものを用いた組成物の場合は、200℃で溶融した。
【0047】
比重は、東洋精機(株)製自動比重計D−H100を用いて測定した。ヒートプレスして得られたシートサンプルの10mm×10mmをサンプリングし、水中置換法により比重測定を行なった。
【0048】
熱拡散率は、アイフェイズ(株)製の熱拡散係数測定装置ai−phase Mobile1を用いて測定した。ヒートプレスして得られたシートサンプルの厚み方向の熱拡散率を測定した。
【0049】
熱伝導率は、前記方法で求めた比熱、比重、熱拡散率から下記式2により算出した。
(式2)
熱伝導率(W/m・K)=比重×比熱(J/g・K)×熱拡散率(m/sec)
【0050】
(製造例:ポリエステル樹脂(A1))
撹拌機、温度計、溜出用冷却器を装備した反応缶内に、ジメチルテレフタレート194質量部、1,4−ブタンジオール100質量部、数平均分子量2000のポリテトラメチレングリコール「PTMG2000」(三菱化学(株)製)800質量部、テトラブチルチタネート0.25質量部を加え、170〜220℃で2時間エステル化反応を行った。エステル化反応終了後、255℃まで昇温する一方、系内をゆっくり減圧にしてゆき、60分かけて255℃で665Paとした。そしてさらに133Pa以下で30分間重縮合反応を行い、ポリエステル樹脂(A1)を得た。このポリエステル樹脂(A1)の組成は、テレフタル酸//1,4−ブタンジオール/PTMG2000=100//60/40モル%であり、融点は140℃で、溶融粘度は350dPa・sであった。
【0051】
(製造例:ポリエステル樹脂(A2)〜(A3)、(C1)〜(C2))
ポリエステル樹脂(A2)〜(A3)、(C1)〜(C2)は、ポリエステル樹脂(A1)と同様な方法により合成した。それぞれの組成及び物性値を下記に示す。なお、ポリエステル樹脂(C1)〜(C2)は、比較例の原料として用いた。
(A2):2,6−ナフタレンジカルボン酸//1,4−ブタンジオール/PTMG2000=100//60/40モル%、融点160℃、溶融粘度500dPa・s。
(A3):2,6−ナフタレンジカルボン酸//1,4−ブタンジオール/PTMG2000=100//70/30モル%、融点185℃、溶融粘度650dPa・s。
(C1):2,6−ナフタレンジカルボン酸//1,4−ブタンジオール/PTMG1000=100//97/3モル%、融点240℃、溶融粘度9000dPa・s(250℃時)。
(C2):テレフタル酸//1,4−ブタンジオール=100//100モル%、融点227℃、溶融粘度6500dPa・s(250℃時)。
【0052】
ポリエステル樹脂(A1)〜(A3)は、200℃における溶融粘度が5〜2000dPa・sを満たすが、ポリエステル樹脂(C1)〜(C2)は、200℃における溶融粘度が2000dPa・sを超えるものである。
【0053】
実施例及び比較例に用いた原料は、下記の通りである。
熱伝導フィラー(B)
(B1):マグネシア粉末(宇部マテリアルズ(株)製RF−10C−C、単体での熱伝導率42〜60W/m・K、平均粒径6.6μm、体積固有抵抗1017Ω・cm、比重3.58)
(B2):マグネシア粉末(宇部マテリアルズ(株)製RF−50−C、単体での熱伝導率42〜60W/m・K、平均粒径56.6μm、体積固有抵抗1017Ω・cm、比重3.58)
(B3):マグネシア粉末(宇部マテリアルズ(株)製RF−10C−C、単体での熱伝導率42〜60W/m・K、平均粒径12.0μm、体積固有抵抗1017Ω・cm、比重3.58)
【0054】
(実施例1)
上記の方法で重合したポリエステル樹脂(A1)40体積部と、熱伝導フィラー(B1)24体積部とを、180℃に予熱した東洋精機(株)製卓上型混練機ラボプラストミル20C200に投入し、40rpmで10分間混練した。取り出した後、チップ状にカットしたものを熱伝導フィラー(B2)36体積部と混合したのち、再度、40rpmで10分間混練した。
【0055】
(実施例2〜5)
ポリエステル樹脂(A)、熱伝導フィラー(B)の種類や配合量を、表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして混練した。なお、融点が高いポリエステル樹脂(A3)を用いた実施例5の混練は200℃で行なった。
【0056】
(実施例6)
ポリエステル樹脂(A1)35体積部と熱伝導フィラー(B1)25体積部をドライブレンドしたものを元フィードから供給し、熱伝導フィラー(B2)40質量部をサイドフィードから供給して、二軸押出機TEM37BS(東芝機械(株)製)にて200℃、250rpmで混練を行なった。
【0057】
(実施例7)
ポリエステル樹脂(A2)40体積部を元フィードから供給し、熱伝導フィラー(B1)24体積部を元フィード側に近いサイドフィードから、熱伝導フィラー(B2)36体積部を元フィード側から遠いサイドフィードから供給して、TEM37BSにて200℃、250rpmで混練を行なった。
【0058】
(比較例1)
ポリエステル樹脂(A1)57体積部と、熱伝導フィラー(B1)17体積部、(B2)26体積部とを一括して、180℃に予熱したラボプラストミルに投入し、40rpmで10分間混練した。
【0059】
(比較例2〜7)
ポリエステル樹脂、熱伝導フィラーの種類や配合量、仕込み方法を表2に示すように変更した以外は比較例1、または実施例1と同様にして混練した。比較例4は、予め熱伝導フィラー(B1)と(B2)を混合しておき、これを分割添加した。なお、溶融粘度が比較的高いポリエステル樹脂(C1)、(C2)を用いた比較例6、7の混練はそれぞれ250℃、240℃で行なった。
【0060】
[評価方法]
以下のようにして、フィラー凝集体の数の評価を行なった。
(フィラー凝集体の数)
得られた樹脂組成物を0.5mm厚さのシートに加工し、シート中央付近の10cmφの範囲内において、シート表面に存在する目視で確認できるフィラー凝集体の数をカウントした。
【0061】
それぞれの配合、及び結果を表1、表2に示す。混練可能な水準においてはいずれも射出成形可能であったが、本発明外の樹脂組成物と比べ、本発明により得られる樹脂組成物はフィラー凝集体の形成が効果的に抑制され、かつ、それに起因して優れた熱伝導性を示すことがわかる。また、フィラーの凝集体を抑制することで、外観が優れ、成形機などの金型を切削する危険性を排除することが可能である。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0064】
以上から、本発明により得られる熱可塑性樹脂組成物は、フィラー高充填化が可能、かつフィラー分散状態が極めて良好であり、さらに高熱伝導性でありながら、射出成形時の成形流動性も非常に優れた高熱伝導性熱可塑性樹脂組成物であり、産業上の利用価値が大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
200℃、10kgf荷重時の溶融粘度が5〜2000dPa・sであるポリエステル樹脂(A)70〜20体積部及び、熱伝導フィラー(B)30〜80体積部を含有する熱伝導性樹脂組成物であって、該樹脂組成物を0.5mm厚さのシートに加工したとき、シート表面における直径10cmの範囲内に存在するフィラー凝集体の数が3個以下であることを特徴とする熱伝導性樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂(A)を構成するジカルボン酸成分のうち80モル%以上がテレフタル酸及び/またはナフタレンジカルボン酸であり、かつ前記ポリエステル樹脂(A)を構成するジオール成分のうち40モル%以上が1,4−ブタンジオールであることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂(A)のジオール成分のうち2モル%以上が、ポリアルキレンエーテルグリコールであることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱伝導フィラー(B)が、マグネシアであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。

【公開番号】特開2013−14758(P2013−14758A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−129035(P2012−129035)
【出願日】平成24年6月6日(2012.6.6)
【出願人】(000003160)東洋紡株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】