説明

熱伝導性熱可塑性樹脂組成物

熱可塑性ポリマーと、フッ化カルシウムと、任意選択により、1つまたは複数の、繊維状充填材、液晶ポリマー、およびポリマー強化剤とを含む熱伝導性熱可塑性ポリマー樹脂組成物。この組成物は、成形されたまたは押出された部品について特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリマーと、フッ化カルシウムと、および任意選択により、繊維状充填材、液晶ポリマー、ならびにポリマー強化剤の1つまたは複数とを含む熱伝導性熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリマー樹脂組成物が、それらの優れた機械的特性および電気絶縁特性により、自動車部品、電気部品ならびに電子部品、機械部品等などの幅広い範囲の用途に用いられている。多くの場合において、それらが許容する設計柔軟性およびそれらの低コストにより、ポリマー樹脂組成物は、これらの用途において金属に取って代わってきた。しかしながら、これらの用途の多くでは、部品が、モータまたは電気照明などの熱源の近傍に位置することまたは接触させられることが要求される。従って、発生した熱を散逸させるために十分に熱伝導性である材料からこれらの部品を形成することが望ましい。金属部品は熱伝導性であるが、多くの場合これらは導電性でもあり、特定の用途においては好ましくない可能性がある。熱可塑性樹脂組成物は、一般に断熱性であり、大量の導電性添加剤を含有していない限り、典型的には電気絶縁性である。従って、熱伝導性、電気絶縁性熱可塑性樹脂組成物が望ましく、および金属、特にアルミニウムに多数の用途において取って代わることができる可能性がある。
【0003】
(特許文献1)には、フッ化カルシウム粉末をシランカップリング剤により表面処理し、コートされた粉末と、熱可塑性樹脂と、任意選択により充填剤とをブレンドして熱伝導性組成物を製造する方法が開示されている。しかしながら、表面処理工程はさらなる複雑さとコストをまねく。
【0004】
【特許文献1】特開2003−040619号公報
【特許文献2】米国特許第4,118,372号明細書
【特許文献3】米国特許第4,753,980号明細書
【特許文献4】米国特許第4,174,358号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願明細書においては、熱伝導性熱可塑性ポリマー組成物であって、この組成物の総重量に基づいた割合で、
(a)熱可塑性ポリエステル、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリアリーレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、およびシンジオタクチックポリスチレンからなる群から選択される、約15〜約70重量パーセントの少なくとも1種の等方性熱可塑性ポリマーと;
(b)約30〜約70重量パーセントの非コートフッ化カルシウムと;
(c)0〜約30重量パーセントの少なくとも1種の繊維状充填材と;
(d)0〜約40重量パーセントの少なくとも1種の液晶ポリマーと;
(e)0〜約15重量パーセントの少なくとも1種のポリマー強化剤と、
を含む熱伝導性熱可塑性ポリマー組成物が開示され、および権利請求される。
【0006】
さらに、本願明細書においては、熱伝導性熱可塑性ポリマー組成物であって、この組成物の総重量に基づいた割合で、
(a)熱可塑性ポリエステル、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリアリーレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、およびシンジオタクチックポリスチレンからなる群から選択される、約15〜約70重量パーセントの少なくとも1種の等方性熱可塑剤と;
(b)約30〜約70重量パーセントの表面コートされたフッ化カルシウムと;
(c)約2〜約15重量パーセントの少なくとも1種のポリマー強化剤または約5〜約40重量パーセントの少なくとも1種の液晶ポリマー、あるいはこれらの混合物と;
(d)0〜約30重量パーセントの少なくとも1種の繊維状充填材と;
を含む熱伝導性熱可塑性ポリマー組成物が開示され、および権利請求される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の組成物は、(a)少なくとも1種の等方性熱可塑性ポリマーと、(b)フッ化カルシウムと、任意選択により(c)少なくとも1種の繊維状充填材と、任意選択により(d)少なくとも一種の液晶ポリマーと、任意選択により(e)少なくとも一種のポリマー強化剤と、任意選択により(f)他の添加剤とを含む。
【0008】
本願明細書において「熱可塑性ポリマー」とは、等方性熱可塑性ポリマーを意味する。本願明細書において「等方性」とは、本願明細書中において参照により包含される米国特許公報(特許文献2)に記載されているように、TOTテストまたはこの他の妥当な変法によりテストされた場合に等方性であるポリマーを意味する。熱可塑性ポリマーの混合物および/または熱可塑性コポリマーを用いることができる。熱可塑性ポリマーの例としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリアリーレート、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、およびシンジオタクチックポリスチレンが挙げられる。ポリエステル、ポリアミドおよびポリアセタールが好ましい。ポリエステルがより好ましい。
【0009】
好ましい熱可塑性ポリエステルとしては、0.3以上の内部粘度を有するポリエステルであって、普通、ジオールと、ジカルボン酸との線状飽和縮合物、またはその反応性誘導体が挙げられる。好ましくは、これらは、8〜14個の炭素原子を有する芳香族ジカルボン酸と、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールおよび式HO(CHOH(式中、nは2〜10の整数である)で表される脂肪族グリコールからなる群から選択される少なくとも1種のジオールとの縮合物を含むことができる。20モルパーセント以下のジオールは、アクゾノーベルケミカルズ社(Akzo Nobel Chemicals,Inc.)によりジアノール(Dianol)220の商品名で販売されているエトキシル化ビスフェノールAなどの芳香族ジオール;ハイドロキノン;ビフェノール;またはビスフェノールAであってもよい。50モルパーセント以下の芳香族ジカルボン酸は、少なくとも一種の8〜14個の炭素原子を有する異なる芳香族ジカルボン酸で置換することができ、および/または20モルパーセント以下は、2〜12個の炭素原子を有する脂肪族ジカルボン酸で置換することができる。コポリマーは、2種以上のジオールまたはその反応性等価物と、少なくとも1種のジカルボン酸またはその反応性等価物、あるいは2種以上のジカルボン酸またはその反応性等価物と、少なくとも1種のジオールまたはその反応性等価物とから調製されてもよい。ヒドロキシ安息香酸またはヒドロキシナフトエ酸あるいはこれらの反応性等価物などの二官能性オキシ酸モノマーを、コモノマーとして用いることも可能である。
【0010】
好ましくは、ポリエステルとしては、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリ(1,4−ブチレンテレフタレート)(PBT)、ポリ(プロピレンテレフタレート)(PPT)、ポリ(1,4−ブチレンナフタレート)(PBN)、ポリ(エチレンナフタレート)(PEN)、ポリ(1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)(PCT)、およびコポリマーならびに前述のものの混合物が挙げられる。1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート/イソフタレートコポリマーおよびイソフタル酸を含む芳香族ジカルボン酸から誘導されるその他の線状ホモポリマーエステル;ビベンゾイック酸;1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、および2,7−ナフタレンジカルボン酸を含むナフタレンジカルボン酸;4,4’−ジフェニレンジカルボン酸;ビス(p−カルボキシフェニル)メタン;エチレン−ビス−p−安息香酸;1,4−テトラメチレンビス(p−オキシ安息香)酸;エチレンビス(p−オキシ安息香)酸;1,3−トリメチレンビス(p−オキシ安息香)酸;および1,4−テトラメチレンビス(p−オキシ安息香)酸;および、グリコールであって、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールと;ネオペンチルグリコールと;シクロヘキサンジメタノールと;ならびに例えばエチレングリコール、1,3−トリメチレングリコール、1,4−テトラメチレングリコール、1,6−ヘキサメチレングリコール、1,8−オクタメチレングリコール、1,10−デカメチレングリコール、1,3−プロピレングリコールおよび1,4−ブチレングリコールなどの一般式HO(CHOH(式中、nは、2〜10の整数である)で表される脂肪族グリコールとからなる群から選択されるグリコールもまた好ましい。上記のように、20モルパーセント以下の、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸または1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を含む一種または複数の脂肪酸が存在してもよい。1,4−ブタンジオール、エトキシル化ビスフェノールA、およびテレフタル酸またはその反応性等価物から誘導されるコポリマーもまた好ましい。PET、PBT、およびPPTの少なくとも2種のランダムコポリマーおよび、PET、PBT、およびPPTの少なくとも2種の混合物および前述のもののいずれかの混合物もまた好ましい。
【0011】
塩化メチレンおよびトリフルオロ酢酸の3:1体積比混合物中、30℃で、少なくとも約0.5の内部粘度(IV)を有するポリ(エチレンテレフタレート)を用いることが特に好ましい。0.80〜1.0の範囲のより高い内部粘度を備えたPETは、高い引張強度および伸びなどの強化された機械的特性が要求される用途において用いることができる。
【0012】
熱可塑性ポリエステルは、ポリ(アルキレンオキシド)軟質セグメントを含有するコポリマーの形態であってもよい。ポリ(アルキレンオキシド)セグメントは、熱可塑性ポリエステル100部/重量当たり約1〜約15重量部で存在すべきである。ポリ(アルキレンオキシド)セグメントは、約200〜約3,250の範囲、好ましくは、約600〜約1,500の範囲の数平均分子量を有する。好ましいコポリマーは、PETまたはPBT鎖に組み込まれたポリ(エチレンオキシド)を含有する。組み込み方法は当業者に既知であり、ポリエステルを形成するための重合反応中にコモノマーとしてポリ(アルキレンオキシド)軟質セグメントを用いることを含むことができる。PETは、PBTおよび少なくとも1種のポリ(アルキレンオキシド)のコポリマーと共にブレンドされてもよい。ポリ(アルキレンオキシド)も、PET/PBTコポリマーと共にブレンドされてもよい。組成物のポリエステル部分中にポリ(アルキレンオキシド)軟質セグメントを含ませることにより、ポリエステルの結晶速度を加速させる可能性がある。
【0013】
好ましいポリアミドとしては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド612、ポリアミド610、またはテレフタル酸および/またはイソフタル酸から誘導されたものなどの、その他の脂肪族ポリアミドおよびセミ−芳香族ポリアミドが挙げられる。例としては、ポリアミド9T;10T;12T;ヘキサメチレンジアミン、アジピン酸、およびテレフタル酸から誘導されたポリアミド;およびヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、およびテレフタル酸から誘導されたポリアミドが挙げられる。2つ以上のポリアミドのブレンドを用いることができる。
【0014】
ポリアセタールは、ホモポリマー、コポリマー、またはこれらの混合物のいずれか1つまたは複数であり得る。ホモポリマーは、ホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒドの環状オリゴマーなどのホルムアルデヒド等価物を重合することにより調製される。コポリマーは、ポリオキシメチレン組成物の調製に一般に用いられる、1つまたは複数のコモノマーを含有することができる。通例用いられるコモノマーは、2〜12個の炭素原子のアルキレンオキシドを含む。コポリマーを選択すれば、コモノマーの量は20重量パーセント以下となり、好ましくは15重量パーセント以下となり、および最も好ましくは約2重量パーセントとなる。好ましいコモノマーはエチレンオキシドおよびブチレンオキシドであり、好ましいポリオキシメチレンコポリマーはホルムアルデヒドと、エチレンオキシドまたはブチレンオキシドとのコポリマーであり、ここで、エチレンオキシドまたはブチレンオキシドの量は約2重量パーセントである。また、ホモポリマーおよびコポリマーは:1)それらの末端ヒドロキシ基が、エステル基またはエーテル基を形成する化学反応によりエンドキャップされたもの;または、2)完全にはエンドキャップされておらず、コモノマー単位からの、幾つかのフリーヒドロキシ末端を有するコポリマーであることが好ましい。いずれの場合においても、好ましい末端基はアセテートおよびメトキシである。
【0015】
熱可塑性ポリマーは、組成物の総重量に基づいて、好ましくは約15〜約70重量パーセント、またはより好ましくは約30〜約60重量パーセントで存在するであろう。
【0016】
本発明において成分(b)として用いられるフッ化カルシウムは、粉末の形態であることが好ましいであろう。フッ化カルシウムは、使用前において、表面被覆されておらず、または表面処理されていないことが好ましいであろう。ポリマー強化剤および/または液晶ポリマーが組成物中に用いられている場合には、表面被覆または表面処理されたフッ化カルシウムが用いられてもよい。表面被覆の例はアミノシランまたはエポキシシランである。
【0017】
フッ化カルシウムは、組成物の総重量に基づいて、好ましくは約30〜約70重量パーセント、またはより好ましくは約45〜約60重量パーセントで存在するであろう。
【0018】
本発明において成分(c)として用いられる繊維状充填材は針状繊維材料である。好ましい繊維状充填材の例としては、珪灰石(ケイ酸カルシウムウィスカ)、ガラスファイバー、ホウ酸アルミニウム繊維、炭酸カルシウム繊維、およびチタン酸カリウム繊維が挙げられる。繊維状充填材は、好ましくは少なくとも5、またはより好ましくは少なくとも10の重量平均アスペクト比を有するであろう。用いられるとき、任意選択の繊維状充填材は、組成物の総重量に基づいて、好ましくは約5〜約30重量パーセント、またはより好ましくは約5〜約20重量パーセントで存在するであろう。
【0019】
「液晶ポリマー」(「LCP」と略される)によって、本願明細書中において参照により包含される米国特許公報(特許文献2)に記載されているように、TOTテストまたはその他の妥当な変法を用いてテストされた場合に等方性であるポリマーを意味する。有用なLCPとしては、ポリエステル、ポリ(エステル−アミド)、およびポリ(エステル−イミド)が挙げられる。LCPの好ましい一形態は、ポリマー主鎖中の全ての基が芳香族(エステル基などの結合基を除く)であるが、芳香族ではない側鎖基が存在してもよい「全芳香族」である。用いられるとき、本発明の組成物の成分(d)における液晶ポリマーは、組成物の総重量に基づいて、好ましくは約5〜約40重量パーセントで存在し、またはより好ましくは約10〜約30重量パーセントで存在するであろう。
【0020】
本発明の成分(e)として任意選択により用いられるポリマー強化剤は、用いられる熱可塑性ポリマーに対して有効なすべての強化剤である。
【0021】
熱可塑性ポリマーがポリエステルである場合、強化剤は、通常エラストマーとなり、または、一般に<200℃、好ましくは<150℃という比較的低い融点を有し、およびそれに結合して、熱可塑性ポリエステル(および任意選択によりその他の存在するポリマー)と反応可能である官能基を有する。熱可塑性ポリエステルは、普通、カルボキシル基およびヒドロキシル基を有しているため、これらの官能基は、普通カルボキシル基および/またはヒドロキシル基と反応可能である。このような官能基の例としては、エポキシ、カルボン酸無水物、ヒドロキシル(アルコール)、カルボキシル、およびイソシアネートが挙げられる。好ましい官能基はエポキシならびにカルボン酸無水物であり、特にエポキシが好ましい。このような官能基は、普通、小さな分子をすでに存在するポリマー上にグラフトすることにより、または、ポリマー強化剤分子が共重合により形成されている場合には、所望の官能基を含有するモノマーを共重合することにより、ポリマー強化剤に「結合」されている。グラフトの例として、無水マレイン酸を、フリーラジカルグラフト法を用いることにより、炭化水素ゴム上にグラフトしてもよい。得られたグラフトポリマーは、それに結合されたカルボン酸無水物および/またはカルボキシル基を有する。官能基がポリマーに共重合されたポリマー強化剤の例は、エチレンと、適した官能基を含有する(メタ)アクリレートモノマーとのコポリマーである。本願明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート、メタクリレート、またはこの二つの混合物のいずれであってもよい化合物を意味する。有用な(メタ)アクリレート官能性化合物としては、(メタ)アクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、および2−イソシアネートエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。エチレンおよび官能性(メタ)アクリレートモノマーに追加して、ビニルアセテート;エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、およびシクロヘキシル(メタ)アクリレートなどの非官能化(メタ)アクリレートエステルなどの他のモノマーがこのようなポリマーに共重合されてもよい。好ましい強化剤としては、本願明細書中において参照により包含される米国特許公報(特許文献3)に列挙されているものが挙げられる。特に好ましい強化剤は、エチレンと、エチルアクリレートまたはn−ブチルアクリレートと、グリシジルメタクリレートとのコポリマーである。
【0022】
熱可塑性ポリエステルと共に用いられたポリマー強化剤は、約0.5〜約20重量パーセントの官能基含有モノマーを、好ましくは約1.0〜約15重量パーセント、より好ましくは約7〜約13重量パーセントの官能基含有モノマーを含有していることが好ましい。2種類以上の官能性モノマーがポリマー強化剤中に存在してもよい。ポリマー強化剤の量および/または官能基の量を増加させることにより組成物の靭性が増加することが見出された。しかしながら、これらの量は、好ましくは、特に、最終的な部分形状が維持される前に、組成物が架橋され得る点までは増加されるべきではない。
【0023】
熱可塑性ポリエステルと共に用いられるポリマー強化剤は、エチレンのコポリマーではない熱可塑性アクリルポリマーであってもよい。熱可塑性アクリルポリマーは、アクリル酸、アクリレートエステル(メチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、およびn−オクチルアクリレートなど)、メタクリル酸、およびメタクリレートエステル(メチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート(BA)、イソブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート(GMA)その他など)を重合することにより形成される。前述の種類のモノマーの1つまたは複数を、スチレン、アクリロニトリル、ブタジエン、イソプレン、およびその他と共に重合することにより形成されたコポリマーと並んで、前述の種類のモノマーの2つ以上から誘導されるコポリマーを用いることもできる。これらのコポリマーにおける成分の一部または全ては、好ましくは0℃以下のガラス転移温度を有するべきである。熱可塑性アクリルポリマー強化剤の調製に好ましいモノマーは、メチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、およびn−オクチルアクリレートである。
【0024】
熱可塑性アクリルポリマー強化剤はコアシェル構造を有することが好ましい。コアシェル構造は、コア部分が好ましくは0℃以下のガラス転移温度を有するが、同時にシェル部分が好ましくはコア部分のガラス転移温度より高いガラス転移温度を有するものである。コア部分はシリコーンと共にグラフトされてもよい。シェルセクションは、シリコーン、フッ素等などの低表面エネルギー基材と共にグラフトされてもよい。表面にグラフトされた低表面エネルギー基材を有するコアシェル構造を備えたアクリルポリマーは、本発明の組成物の、熱可塑性ポリエステルおよびその他の成分と混合される際または混合された後にそれ自身と凝集することになり、容易に均一に組成物中に分散され得る。
【0025】
ポリアミドに対する好ましい強化剤は米国特許公報(特許文献4)に記載されている。好ましい強化剤としては、酸無水物、ジカルボン酸またはその誘導体、カルボン酸またはその誘導体、および/またはエポキシ基などの相溶化剤により変性されたポリオレフィンが挙げられる。相溶化剤は、不飽和酸無水物、ジカルボン酸またはその誘導体、カルボン酸またはその誘導体、および/またはエポキシ基をポリオレフィンにグラフトすることにより導入することができる。相溶化剤はまた、不飽和酸無水物、ジカルボン酸またはその誘導体、カルボン酸またはその誘導体、および/またはエポキシ基を含有するモノマーと共重合することによりポリオレフィンが形成される際に、導入されてもよい。相溶化剤は、好ましくは3〜20個の炭素原子を含有する。ポリオレフィンにグラフトされ得る(またはコモノマーとしてポリオレフィンを形成するために用いられ得る)典型的な化合物の例は、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水クロトン酸および無水シトラコン酸である。
【0026】
ポリアセタールに対する好ましい強化剤としては、熱可塑性ポリウレタン、ポリエステルポリエーテルエラストマー、その他の官能性化および/またはグラフトゴム、およびポリオレフィンであって、それらの主鎖にグラフトされているか、または1つまたは複数の極性基を含有するモノマーと共重合されて組み込まれたかの、いずれかの極性基を含有するポリオレフィンが挙げられる。好ましいコモノマーは、グリシジルメタクリレートなどのエポキシド基を含有するものである。好ましい強化剤はエバグマ(EBAGMA)(エチレン、ブチルアクリレート、およびグリシジルメタクリレートから誘導されたターポリマー)である。
【0027】
用いられるとき、任意選択のポリマー強化剤は、組成物の総重量に基づいて、好ましくは約2〜約15重量パーセント、またはより好ましくは約5〜約15重量パーセントで存在するであろう。
【0028】
本発明の組成物は、任意選択により、用いられる熱可塑性ポリマーに適当な、1つまたは複数の可塑剤を含んでもよい。熱可塑性ポリエステルに対する適当な可塑剤の例としては、ポリ(エチレングリコール)400ビス(2−エチルヘキサノエート)、メトキシポリ(エチレングリコール)550(2−エチルヘキサノエート)、およびテトラ(エチレングリコール)ビス(2−エチルヘキサノエート)等が挙げられる。用いられるとき、可塑剤は、好ましくは、組成物の総重量に基づいて約0.5〜約5重量パーセントで存在するであろう。
【0029】
本発明の組成物において用いられた熱可塑性ポリマーがポリエステルである場合、組成物はまた、任意選択により、カルボキシル化有機ポリマーのナトリウム塩またはカリウム塩、長鎖脂肪酸のナトリウム塩、安息香酸のナトリウム等などの、1つまたは複数の成核剤を含んでもよい。ポリエステルの一部またはすべては、少なくともそのいくつかがナトリウムまたはカリウムで中和された、末端基を有するポリエステルと置換されてもよい。用いられるとき、成核剤は、好ましくは、組成物の総重量に基づいて約0.1〜約4重量パーセントで存在するであろう。
【0030】
本発明の組成物はまた、任意選択により、1つまたは複数の難燃剤を含み得る。適当な難燃剤の例としては、これに限定されないが、臭素化ポリスチレン、臭素化スチレンのポリマー、臭素化エポキシ化合物、臭素化ポリカーボネート、およびポリ(ペンタブロモベンジルアクリレート)が挙げられる。用いられるとき、難燃剤は、好ましくは、組成物の総重量に基づいて約5〜約20重量パーセントで存在するであろう。難燃剤を含む組成物は、さらに特にこれに限定されないが、アンチモン酸ナトリウムおよび酸化アンチモンなどの、1つまたは複数の難燃相乗剤を含んでなってもよい。用いられるとき、成核剤は、好ましくは、組成物の総重量に基づいて約1〜約6重量パーセントで存在するであろう。
【0031】
本発明の熱可塑性樹脂組成物はまた、任意選択により、上記の成分に追加して、熱安定剤、抗酸化剤、染色剤、顔料、離型剤、潤滑剤、紫外線安定剤、(塗料)粘着促進剤等などの添加剤を含んでもよい。用いられるとき、前述の添加剤は、好ましくは、組み合わせて、組成物の総重量に基づいて約0.1〜約5重量パーセントで存在するであろう。
【0032】
本発明の組成物は溶融−混合ブレンドの形態にあり、ここで、ポリマー成分の全ては互いに十分に分散されており、および非ポリマー要素の全ては、ブレンドは一体化された統一体を形成するよう、均質に分散されると共にポリマーマトリックスにより結合されている。ブレンドは、いずれかの溶融混合方法を用いて成分材料を組み合わせることにより得ることができる。樹脂組成物を得るために、成分材料は、一軸または二軸スクリュー押出機、ブレンダー、ニーダー、バンバリーミキサー等などの溶融ミキサーを用いて均質になるまで混合されてもよい。材料の一部が溶融ミキサー内で混合されてもよく、および次いで、残りの材料が追加され、均質になるまでさらに溶融混合されてもよい。本発明の熱伝導性ポリマー樹脂組成物の製造における混合順序は、当業者によって理解されるであろうように、個々の成分が1回で溶融されてもよい、または、充填剤および/またはその他の成分がサイドフィーダーから供給されてもよいようなものであり得る。
【0033】
本発明の組成物は、例えば、射出成形、吹込成形、または押し出し成形などの当業者に既知の方法を用いることにより、物品に成形することができる。このような物品としては、モータハウジング、ランプハウジング、自動車およびその他の車両におけるランプハウジング、および電気ならびに電子ハウジングに用いられるものを挙げることができる。自動車およびその他の車両におけるランプハウジングの例は、ヘッドライト、テールライトおよびブレーキライトを含むフロントライトおよびリヤライトであり、特に、発光ダイオード(LED)ランプを用いたものである。この物品は、多数の用途において、アルミニウムまたはその他の金属から形成されている物品の代替として役立つことができる。
【実施例】
【0034】
(配合および成形方法)
表1に示されたポリマー組成物を、30mmのヴェルナーアンドプフライデラー(Werner and Pfleiderer)二軸スクリュー押出機中で配合することにより調製した。全部の要素を一緒にブレンドし、押出し機の後方(バレル1)に加えた。ただし、ニグロス(Nyglos)およびガラスファイバーは、バレル5(10バレルの内の)にサイドフィードし、可塑剤は液体注入ポンプを用いて加えた。ポリ(ブチレンテレフタレート)組成物については約270℃およびポリ(エチレンテレフタレート)組成物については約285℃にバレル温度を設定し、結果的にそれぞれ、約280℃および320℃の溶融温度となった。
【0035】
機械特性の計測のために、3または6ozの射出成形機で組成物をASTMテスト試験片に成形した。熱伝導性試験のために、これらを2インチの直径で厚さが1/8インチ(3.2mm)であるディスクに成形した。溶融温度は約270〜300℃であり、および成形温度は、ポリ(ブチレンテレフタレート)組成物については約80℃、およびポリ(エチレンテレフタレート)組成物については120℃であった。
【0036】
(試験方法)
熱伝導性を、ASTM F−433−77に従い、2インチの直径で厚さが1/8インチのディスクについて、ホロメトリックス(Holometrix)TCA−300熱伝導性分析器を用いて50℃で測定した。その結果を表1に示す。少なくとも0.5W/m・Kの熱伝導性が許容可能であるとみなされる。
【0037】
引張強度はASTM D638−58Tを用いて測定した。
【0038】
曲げ弾性率はASTM D790−58Tを用いて測定した。
【0039】
ノッチ付アイゾッド衝撃抵抗はASTM D256を用いて測定した。
【0040】
溶融粘度は1000cm−1および表1に示した温度で、カイエンス(Kayeness)溶融レオメターを用いて測定した。
【0041】
以下の用語が表1で用いられている:
PBTは、本願特許出願人製の、クラスチン(Crastin)(登録商標)6131、内部粘度が約0.82であるポリ(ブチレンテレフタレート)ホモポリマーを指す。
【0042】
PETは、本願特許出願人製の、クライスター(Crystar)(登録商標)TF3934、内部粘度が約0.67であるポリ(エチレンテレフタレート)ホモポリマーを指す。
【0043】
フッ化カルシウムは、オハイオ州クリーブランドのシーフォースミネラル&オア社(Seaforth Mineral & Ore Co.,Inc.,Cleveland,OH)製の325メッシュ粉末である。
【0044】
硫酸バリウムは、独国ドゥイスブルグのザハトレーベンヘミー社(Sachtleben Chemie GmbH Duisburg,Germany)製のグラッデブランク−フィックス(Gradde Blanc−fixe)HD80である。
【0045】
雲母は、オハイオ州クリーブランドのシーフォースミネラル&オア社(Seaforth Mineral & Ore Co.,Inc.,Cleveland,OH)製の金雲母マイカ(Phlogopite Mica)5040である。
【0046】
ニグロス(Nyglos)(登録商標)4は、カナダ国アルバータ州カルガリーのニコミネラルズ(Nyco Minerals,Calgary,Alberta,Canada)から入手可能な、平均長さ約9μmでサイジング無しの珪灰石繊維を指す。
【0047】
エバグマ(EBAGMA)は、66.75重量パーセントのエチレン、28重量パーセントのn−ブチルアクリレート、および5.25重量パーセントのグリシジルメタクリレートから形成される、エチレン/n−ブチルアクリレート/グリシジルメタクリレートターポリマーを指す。これは、ASTM法D1238により計測されたとおり、12g/10分のメルトインデックスを有する。
【0048】
プラストホール(Plasthall)(登録商標)809は、イリノイ州シカゴのC.P.ホール社(C.P.Hall Company,Chicago,Ill)から供与された可塑剤であるポリ(エチレングリコール)400ジ−2−エチルヘキサノエートを指す。
【0049】
ガラス繊維は、ペンシルベニア州ピッツバーグのPPGインダストリーズ社(PPG Industries,Inc.Pittsburgh,PA)製のPPG3563ガラス繊維を指す。
【0050】
イルガノックス(Irganox)(登録商標)1010は、ニューヨーク州タリータウンのチバスペシャリティケミカルズ社(Ciba Specialty Chemicals,Inc.,Tarrytown,NY)製の抗酸化剤を指す。
【0051】
LCPは、本願特許出願人製の液晶ポリマーである、ゼナイト(Zenite)(登録商標)6000を指す。
【0052】
【表1】

【0053】
実施例1と比較例1および比較例2との比較は、フッ化カルシウムを含有する熱可塑性ポリマー組成物は許容される熱伝導性を示し、同時に、その他の充填剤(硫酸バリウムおよび雲母)を含有するものは示さないことを実証している。実施例2〜4は、フッ化カルシウムを含有しおよび優れた熱伝導性を有する熱可塑性ポリマー組成物は、ポリマー耐衝撃性改良剤を用いることにより強化され得ることを実証している。実施例3は、このような組成物の溶融粘度は、可塑剤を用いることにより低減され得ることを実証している。実施例5と比較例3および比較例4との比較は、優れた熱伝導性を有する組成物は、液晶ポリマーおよびフッ化カルシウムを用いることにより、得ることができることを実証している。および実施例5と実施例1との比較は、液晶ポリマーを、フッ化カルシウムを含む熱可塑性ポリマー組成物中に用いることにより、熱伝導性をさらに増加させることができることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導性熱可塑性ポリマー組成物であって、この組成物の総重量に基づいた割合で、
(a)熱可塑性ポリエステル、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリアリーレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、およびシンジオタクチックポリスチレンからなる群から選択される、約15〜約70重量パーセントの少なくとも1種の等方性熱可塑性ポリマーと;
(b)約30〜約70重量パーセントの非コートフッ化カルシウムと;
(c)0〜約30重量パーセントの少なくとも1種の繊維状充填材と;
(d)0〜約40重量パーセントの少なくとも1種の液晶ポリマーと;
(e)0〜約15重量パーセントの少なくとも1種のポリマー強化剤と
を含むことを特徴とする熱伝導性熱可塑性ポリマー組成物。
【請求項2】
繊維状充填材は、組成物の総重量に基づいて5〜約30重量パーセントで存在することを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
液晶ポリマーは、組成物の総重量に基づいて約5〜約40重量パーセントで存在することを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
熱可塑性ポリマーは、少なくとも1種の熱可塑性ポリエステルであることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
ポリマー強化剤は、組成物の総重量に基づいて約2〜約15重量パーセントで存在することを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
繊維状充填材は、珪灰石であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
ポリマー強化剤は、エチレンと、ブチルアクリレートと、グリシジルメタクリレートとのコポリマー、および/またはエチレンと、エチルアクリレートと、グリシジルメタクリレートとのコポリマーであることを特徴とする請求項4に記載の組成物。
【請求項8】
ポリマー強化剤は、コアシェルアクリルポリマーであることを特徴とする請求項4に記載の組成物。
【請求項9】
熱伝導性熱可塑性ポリマー組成物であって、この組成物の総重量に基づいた割合で、
(a)熱可塑性ポリエステル、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリアリーレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、およびシンジオタクチックポリスチレンからなる群から選択される約15〜約70重量パーセントの少なくとも1種の等方性熱可塑剤と;
(b)約30〜約70重量パーセントの表面コートされたフッ化カルシウムと;
(c)約2〜約15重量パーセントの少なくとも1種のポリマー強化剤または約5〜約40重量パーセントの少なくとも1種の液晶ポリマー、あるいはこれらの混合物と;
(d)0〜約30重量パーセントの少なくとも1種の繊維状充填材と
を含むことを特徴とする熱伝導性熱可塑性ポリマー組成物。
【請求項10】
繊維状充填材は、組成物の総重量に基づいて5〜約30重量パーセントで存在することを特徴とする請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
熱可塑性ポリマーは、少なくとも1種の熱可塑性ポリエステルであることを特徴とする請求項9に記載の組成物。
【請求項12】
ポリマー強化剤は、エチレンと、ブチルアクリレートと、グリシジルメタクリレートとのコポリマー、および/またはエチレンと、エチルアクリレートと、グリシジルメタクリレートとのコポリマーであることを特徴とする請求項9に記載の組成物。
【請求項13】
ポリマー強化剤は、コアシェルアクリルポリマーであることを特徴とする請求項9に記載の組成物。
【請求項14】
請求項1に記載の組成物から製造されることを特徴とする物品。
【請求項15】
モータハウジングの形態であることを特徴とする請求項14に記載の物品。
【請求項16】
自動車用ランプハウジングの形態であることを特徴とする請求項14に記載の物品。
【請求項17】
請求項9に記載の組成物から製造されることを特徴とする物品。

【公表番号】特表2007−517968(P2007−517968A)
【公表日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−549538(P2006−549538)
【出願日】平成17年1月11日(2005.1.11)
【国際出願番号】PCT/US2005/000866
【国際公開番号】WO2005/071001
【国際公開日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】