説明

熱伝導性組成物

【課題】熱伝導性、耐衝撃性、軽量性、成形性に優れる熱伝導性組成物を提供すること。
【解決手段】ポリカーボネート系高分子、ピッチ系黒鉛化短繊維、ピッチ系黒鉛化短繊維以外の熱伝導性フィラーからなる熱伝導性組成物であって、ピッチ系黒鉛化短繊維以外の熱伝導性フィラーは、熱伝導率が少なくとも1方向に100W/m・K以上であり、密度が4g/cm以下であり、ポリカーボネート系高分子100重量部に対しピッチ系黒鉛化短繊維を50〜100重量部、ピッチ系黒鉛化短繊維以外の熱伝導性フィラーを30〜150重量部含むことを特徴とする熱伝導性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート系高分子、ピッチ系黒鉛化短繊維及びピッチ系黒鉛化短繊維以外の熱伝導性フィラーを含む熱伝導性組成物に関わるものである。さらに詳しくは、ピッチ系黒鉛化短繊維と熱伝導性フィラーの熱伝導率、密度及び充填性に着目した熱伝導性組成物であり、電子部品の放熱部材や熱交換器に好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
高性能の炭素繊維はポリアクリロニトリル(PAN)を原料とするPAN系炭素繊維と、一連のピッチ類を原料とするピッチ系炭素繊維に分類できる。そして炭素繊維は強度・弾性率が通常の合成高分子に比較して著しく高いという特徴を利用し、航空・宇宙用途、建築・土木用途、産業用ロボット、スポーツ・レジャー用途など広く用いられている。また、PAN系炭素繊維は、主として、その強度を利用する分野に、そしてピッチ系炭素繊維は、弾性率を利用する分野に用いられることが多い。
【0003】
近年、省エネルギーに代表されるエネルギーの効率的使用方法が注目されている一方で、高速化されたCPUや電子回路のジュール熱による発熱が重篤な問題として認識されつつある。また、電子注入を発光原理とするエレクトロルミネッセンス素子においても同様に重篤な問題として顕在化している。一方、各種素子を形成するプロセスに目を向けると環境配慮型プロセスが求められており、その対策として鉛が添加されていない所謂鉛フリー半田への切り替えがなされている。鉛フリー半田は融点が通常の鉛含有半田に比較して高いため、プロセスの熱の効率的な使用が要求されている。そして、このような製品・プロセスが内包する熱に由来する問題を解決するためには、熱の効率的な処理(サーマルマネジメント)を達成する必要がある。
【0004】
一般に炭素繊維は、他の合成高分子に比較して熱伝導率が高いと言われているが、サーマルマネジメント用途に向けた、さらなる熱伝導の向上が検討されている。ところが、市販されているPAN系炭素繊維の熱伝導率は通常200W/(m・K)よりも小さい。これは、PAN系炭素繊維が所謂難黒鉛化炭素繊維であり、熱伝導を担う黒鉛性を高めることが非常に困難なことに由来している。これに対して、ピッチ系炭素繊維は易黒鉛化炭素繊維と呼ばれ、PAN系炭素繊維に比べて、黒鉛性を高くすることができるため、高熱伝導率を達成しやすいと認識されている。よって、効率的に熱伝導性を発現できる形状にまで配慮がなされた高熱伝導性フィラーにできる可能性がある。
【0005】
ただ、炭素繊維単体での熱伝導性部材への加工は困難であり、非常に特殊な手法を用いる必要がある。そこで、金属性フィラー等と同様に、何らかのマトリクスと炭素繊維を複合材化し、その組成物の熱伝導度を向上させることが求められる。
【0006】
ここでマトリクスについて考察する。熱伝導性組成物のマトリクスとして、樹脂等が幅広く使用されるが、炭素繊維を初めとするフィラーを添加すると、耐衝撃性が低下することが多い。その影響を抑制するために、耐衝撃性に優れるマトリクスを使用すると、耐衝撃性に優れる熱伝導性組成物を得られやすい。特許文献1には、ポリカーボネート系高分子を用いた熱伝導性組成物が提案されている。しかし、熱伝導率が十分とは言いがたい。
【0007】
次に、サーマルマネジメントに用いる成形体の特徴について考察する。一般的に炭素繊維を用いた成形体は、アスペクト比を有するために樹脂と混合する際に、粘度が高くなりやすく高充填するのが難しいことが多い。そのため、炭素繊維単独で使用するよりもアスペクト比の低い化合物、特に熱伝導性の無機化合物と複合して成形体を得ることが多くある。しかし、無機化合物は一部を除いて熱伝導性が炭素繊維より低いものが多く、炭素繊維と比較して効率的に熱伝導性を高めるのが難しい。特許文献2、3には、炭素繊維と無機化合物を組み合わせた成形体が報告されているが、その組成が必ずしも適切とは言えず、十分にその性能を引き出しているとは言い難い。
また、高い熱伝導率を得るために、多量の炭素繊維を添加すると、成形収縮率が大幅に低下するため、成形性が低下する問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−298552号公報
【特許文献2】特開平8−283456号公報
【特許文献3】特開2001−156227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、耐衝撃性、熱伝導性、軽量性、成形性に優れる組成物を提供することであり、ポリカーボネート系高分子に熱伝導性フィラーを高充填させた熱伝導性組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、耐衝撃性、熱伝導性、軽量性、成形性に優れる熱伝導性組成物を得ようと鋭意検討を重ねた結果、ポリカーボネート系高分子をマトリクスとし、熱伝導性に優れるピッチ系黒鉛化短繊維、特定の熱伝導率、密度を有するピッチ系黒鉛化短繊維以外の熱伝導性フィラーを混合することで、目的とする組成物を得ることが可能であることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
本発明は、ポリカーボネート系高分子、ピッチ系黒鉛化短繊維及びピッチ系黒鉛化短繊維以外の熱伝導性フィラーからなる熱伝導性組成物であって、ピッチ系黒鉛化短繊維以外の熱伝導性フィラーの熱伝導率は少なくとも1方向に100W/m・K以上であり、密度が4g/cm以下であり、ポリカーボネート系高分子100重量部に対しピッチ系黒鉛化短繊維を50〜100重量部、ピッチ系黒鉛化短繊維以外の熱伝導性フィラーを30〜150重量部含むことを特徴とする熱伝導性組成物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の熱伝導性組成物は、耐衝撃性に優れるポリカーボネート系高分子をマトリクスとし、更に熱伝導性に優れ、密度が高くないピッチ系黒鉛化短繊維及びピッチ系黒鉛化短繊維以外の熱伝導性フィラーを所定量使用することで、熱伝導性、耐衝撃性、軽量性、成形性を有する熱伝導性組成物を得ることを可能にせしめている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施の形態について順次説明する。
本発明の熱伝導性組成物は、ポリカーボネート系高分子とピッチ系黒鉛化短繊維、ピッチ系黒鉛化短繊維以外の熱伝導性フィラーを含む熱伝導性組成物であって、ポリカーボネート系高分子100重量部に対しピッチ系黒鉛化短繊維を50〜100重量部、ピッチ系黒鉛化短繊維以外の熱伝導性フィラーを30〜150重量部含むことと特徴とする熱伝導性組成物である。
【0014】
ポリカーボネート系高分子は、ポリカーボネート構造を70%以上主鎖に含んでいればよく、他の共重合成分を含んでいても構わない。なかでも芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましく、具体的には二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させて得られるものである。反応の方法としては例えば界面重縮合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などを挙げることができる。ポリカーボネート系高分子は耐衝撃性に優れる傾向にあるため、耐衝撃性を必要とされる用途に好適に用いることができる。
【0015】
一般的に熱伝導性組成物の熱伝導率を向上させるには、熱伝導性に優れるフィラーを高充填する必要がある。ピッチ系黒鉛化短繊維は500W/m・Kを超える熱伝導率を有するが、繊維状のため充填性に劣る。
【0016】
ピッチ系黒鉛化短繊維の充填性を補うための充填性に優れるフィラーとしては、アスペクト比が小さいもの、すなわち球状、面取り状、一定以下のアスペクト比を有する化合物が挙げられる。しかし、これら熱伝導性フィラーの熱伝導率が優れていないと、熱伝導率に優れる熱伝導性組成物が得られない。ピッチ系黒鉛化短繊維以外の熱伝導性フィラーの熱伝導率は少なくとも1方向において100W/M・Kであることが求められる。熱伝導性フィラーの熱伝導率の測定方法に特に限定は無いが、具体的には熱伝導性フィラーを溶融等の手法を用いて成形片を作成し(具体的には10mm角の成形片など)、レーザーフラッシュ法を用いて求めることができる。
【0017】
また、熱伝導性フィラーの密度が低くないと、熱伝導性組成物の密度が高くなり、樹脂の特徴である軽量性が生かせない。ピッチ系黒鉛化短繊維以外の熱伝導性フィラーの密度は4g/cm以下であることが好ましい。より好ましくは3.5g/cm以下である。
【0018】
ピッチ系黒鉛化短繊維は線膨張率が1ppm前後と非常に小さいため、これを多量に添加した熱伝導性組成物の線膨張率、成形収縮率が大幅に小さくなる傾向があり、型離れが悪くなるなど、成形性が低下する。
【0019】
本発明の熱伝導性組成物を構成するピッチ系黒鉛化短繊維以外の熱伝導性フィラーの線膨張率は3〜50ppmであることが好ましい。このようにポリカーボネート系高分子に近い線膨張率を有する熱伝導性フィラーを選択することで、熱伝導性組成物の線膨張率、成形収縮率の大幅な低下を抑制できる。ピッチ系黒鉛化短繊維以外の熱伝導性フィラーの線膨張率が3ppmを下回ると、熱伝導性組成物の型離れが低下する場合がある。逆に線膨張率が50ppmを上回ると、熱伝導性フィラーとポリカーボネート系高分子の界面が剥がれやすい傾向にある。
【0020】
前述の熱伝導率、密度、線膨張率を満足する熱伝導フィラーとして特に限定は無いが、具体的には金属ケイ素、炭化ケイ素、六方晶窒化ケイ素、窒化アルミ、金属アルミニウムなどが挙げられる。
【0021】
ピッチ系黒鉛化短繊維以外の熱伝導性フィラーの形状は特に制限は無いが、具体的には平均粒子径が1〜20μmのものを用いるのが好ましい。平均粒子径が1μmを下回る場合、熱伝導性組成物の粘度が高くなり、熱伝導性フィラーの添加量が不十分になる傾向にある。逆に20μmを超える場合、熱伝導性フィラーがピッチ系黒鉛化短繊維の粒子間に入る可能性が低下し、熱伝導性組成物の粘度が高くなり、熱伝導性フィラーの添加量が不十分になる傾向にある。
熱伝導性組成物の線膨張率は、得られた成形体の長さの減少量と型の長さの比で算出する。本発明の熱伝導性組成物の好ましい成形収縮率は0.5〜2.0%である。
【0022】
本発明の熱伝導性組成物は、ポリカーボネート系高分子100重量部に対し、ピッチ系黒鉛化短繊維の含有量が50〜100重量部、好ましくは60〜100重量部含む。ピッチ系黒鉛化短繊維の含有量が50重量部未満だと、熱伝導性が期待できない。逆にピッチ系黒鉛化短繊維の含有量が100重量部を超えると、ピッチ系黒鉛化短繊維も含め、熱伝導性フィラーの添加量を増やすことが困難になり、熱伝導性が期待できない。
【0023】
本発明の熱伝導性組成物は、ポリカーボネート系高分子100重量部に対し、ピッチ系黒鉛化短繊維以外の熱伝導性フィラーの含有量が30〜150重量部、好ましくは50〜120重量部含む。ピッチ系黒鉛化短繊維以外の熱伝導性フィラーの含有量が30重量部未満だと、熱伝導性フィラーの添加量が少なく熱伝導性が期待できない。逆にピッチ系黒鉛化短繊維の含有量が150重量部超だと、熱伝導性組成物の耐衝撃性が低下する傾向にあるため、好ましくない。
【0024】
本発明の熱伝導性組成物は、該ピッチ系黒鉛化短繊維100重量部に対し、ピッチ系黒鉛化短繊維以外の熱伝導性フィラーを50〜200重量部含むことが好ましい。ピッチ系黒鉛化短繊維以外の熱伝導性フィラーの添加量がピッチ系黒鉛化短繊維100重量部に対し50重量部未満だと、熱伝導性組成物の粘度が向上しすぎ、成形性が低下する傾向にある。ピッチ系黒鉛化短繊維以外の熱伝導性フィラーの添加量がピッチ系黒鉛化短繊維100重量部に対し200重量部を超えると、熱伝導率の主体を担うピッチ系黒鉛化短繊維の割合が低下し、熱伝導性が期待できない。
【0025】
本発明におけるピッチ系黒鉛化短繊維は、充填させたときの成形性や熱伝導性の発現等の観点から、特定の形状のピッチ系黒鉛化短繊維を用いることが好ましい。
本発明におけるピッチ系黒鉛化短繊維は、光学顕微鏡で観測した平均繊維径(D1)が2〜20μmであることが好ましい。D1が2μmを下回る場合、樹脂と複合する際に当該短繊維の本数が多くなるため、熱伝導性組成物の粘度が高くなり、熱伝導性フィラーの添加量が不十分になることがある。逆にD1が20μmを超えると、マトリクスと複合する際に短繊維の本数が少なくなるため、当該短繊維同士が接触しにくくなり、熱伝導性組成物とした時に効果的な熱伝導を発揮しにくくなることがある。D1の好ましい範囲は5〜15μmであり、より好ましくは7〜13μmである。
【0026】
本発明におけるピッチ系黒鉛化短繊維は、光学顕微鏡で観測したピッチ系黒鉛化短繊維における繊維径分散(S1)の平均繊維径(D1)に対する百分率(CV値)は3〜15%が好ましい。CV値は繊維径のバラツキの指標であり、小さい程、工程安定性が高く、製品のバラツキが小さいことを意味している。CV値が3%より小さい時、繊維径が極めて揃っているため、ピッチ系黒鉛化短繊維の間隙に入るサイズの小さな短繊維の量が少なくなり、ピッチ系黒鉛化短繊維をより密に充填するのが困難になり、結果として熱伝導性組成物とした時に効果的な熱伝導を発揮しにくくなることがある。逆にCV値が15%より大きい場合、マトリクスと複合する際に、分散性が悪くなり、均一な性能を有する熱伝導性組成物を得ることが困難になることがある。CV値は好ましくは、5〜13%である。CV値は、紡糸時の溶融メソフェーズピッチの粘度を調節すること、具体的には、メルトブロー法にて紡糸する際は、紡糸時のノズル孔での溶融粘度を5.0〜25.0Pa・sに調整することで実現できる。
【0027】
ピッチ系黒鉛化短繊維は、一般的には平均繊維長1mm未満からなるミルドファイバーと平均繊維長1mm以上10mm未満からなるカットファイバーの2種類がある。ミルドファイバーの外観は粉状のため分散性に優れ、カットファイバーの外観は繊維状に近いため、繊維同士の接触が得られやすい特徴がある。
【0028】
本発明におけるピッチ系黒鉛化短繊維はミルドファイバーに該当し、その平均繊維長(L1)は、20〜500μmであることが好ましい。ここで、平均繊維長は個数平均繊維長とし、光学顕微鏡下で測長器を用い、複数の視野において所定本数を測定し、その平均値から求めることができる。L1が20μmより小さい場合、当該短繊維同士が接触しにくくなり、高い熱伝導率を有する熱伝導性組成物を得るのが期待しにくくなる。逆に500μmより大きくなる場合、熱伝導性組成物の粘度が高くなり、熱伝導性フィラーの添加量が不十分になる傾向にある。より好ましくは、20〜300μmの範囲である。この様なピッチ系黒鉛化短繊維を得る手法として特に制限はないがミリングの条件、すなわちカッター等で粉砕する際の、カッターの回転速度、ボールミルの回転数、ジェットミルの気流速度、クラッシャーの衝突回数、ミリング装置中の滞留時間を調節することにより平均繊維長を制御することができる。また、ミリング後のピッチ系炭素短繊維から、篩等の分級操作を行って、短い繊維長または、長い繊維長のピッチ系炭素短繊維を除去することにより調整することができる。
【0029】
本発明におけるピッチ系黒鉛化短繊維は、黒鉛結晶からなり、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが30nm以上であることが好ましい。結晶子サイズは六角網面の成長方向のいずれも、黒鉛化度に対応するものであり、熱物性を発現するためには、一定サイズ以上が必要である。六角網面の成長方向の結晶子サイズは、X線回折法で求めることができる。測定手法は集中法とし、解析手法としては学振法が好適に用いられる。六角網面の成長方向の結晶子サイズは、(110)面からの回折線を用いて求めることができる。
【0030】
本発明におけるピッチ系黒鉛化短繊維は、透過型電子顕微鏡による繊維末端観察において、グラフェンシートの端面が閉じていることが好ましい。グラフェンシートの端面が閉じている場合、余分な官能基の発生や、形状に起因する電子の局在化が起こり難い。このため、ピッチ系黒鉛化短繊維に活性点が生じず、熱伝導性組成物にした時、マトリクスの劣化、例えば加水分解を抑制し、湿熱耐久性能を向上することが可能となる。50万〜400万倍に拡大した透過型電子顕微鏡による視野範囲で、グラフェンシートの端面は80%超閉じていることが好ましい。80%以下であると余分な官能基の発生や、形状に起因する電子の局在化を引き起こし、マトリクスとの反応を促進する可能性があるため好ましくない。グラフェンシート端面の閉鎖率は90%以上が好ましく、更には95%以上が更に好ましい。
【0031】
グラフェンシート端面構造は、黒鉛化の前に粉砕を実施するか、黒鉛化の後に粉砕を実施するかにより、大きく異なる。すなわち、黒鉛化後に粉砕処理を行った場合、黒鉛化で成長したグラフェンシートが切断破断され、グラフェンシート端面が開いた状態になり易い。一方、黒鉛化前に粉砕処理を行った場合、黒鉛の成長過程でグラフェンシート端面がU字上に湾曲し、湾曲部分がピッチ系黒鉛化短繊維端部に露出した構造になり易い。このため、グラフェンシート端面閉鎖率が80%を超えるようなピッチ系黒鉛化短繊維を得るためには、粉砕を行った後に黒鉛化処理することが好ましい。
【0032】
本発明におけるピッチ系黒鉛化短繊維は走査型電子顕微鏡での側面の観察表面が実質的に平坦であることが好ましい。ここで、実質的に平坦であるとは、フィブリル構造のような激しい凹凸をピッチ系黒鉛化短繊維に有しないことを意味する。ピッチ系黒鉛化短繊維の表面に激しい凹凸のような欠陥が存在する場合には、マトリクスとの混練に際して表面積の増大に伴う粘度の増大を引き起こし、成形性を悪化させる。よって、表面凹凸のような欠陥はできるだけ小さい状態が望ましい。より具体的には、走査型電子顕微鏡において1000倍で観察した像での観察視野に、凹凸のような欠陥が10箇所以下であることとする。この様なピッチ系黒鉛化短繊維を得る手法としては、ミリングを行った後に黒鉛化処理を実施することによって、好ましく得ることができる。
【0033】
以下本発明の組成物を構成するピッチ系炭素短繊維の好ましい製造法について述べる。
本発明で用いられるピッチ系炭素短繊維の原料としては、例えば、ナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物、石油系ピッチや石炭系ピッチといった縮合複素環化合物等が挙げられる。その中でもナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物が好ましく、特にメソフェーズピッチが好ましい。メソフェーズピッチのメソフェーズ率としては少なくとも90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは99%以上である。なお、メソフェーズピッチのメソフェーズ率は、溶融状態にあるピッチを偏光顕微鏡で観察することで確認出来る。
【0034】
更に、原料ピッチの軟化点としては、230℃以上340℃以下が好ましい。不融化処理は、軟化点よりも低温で処理する必要がある。このため、軟化点が230℃より低いと、少なくとも軟化点未満の低い温度で不融化処理する必要があり、結果として不融化に長時間を要するため好ましくない。一方、軟化点が340℃を超えると、紡糸に340℃を超える高温が必要となり、ピッチの熱分解を引き起こし、発生したガスで糸に気泡が発生するなどの問題を生じるため好ましくない。軟化点のより好ましい範囲は250℃以上320℃以下、更に好ましくは260℃以上310℃以下である。なお、原料ピッチの軟化点はメトラー法により求めることが出来る。原料ピッチは、二種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。組み合わせる原料ピッチのメソフェーズ率は少なくとも90%以上であり、軟化点が230℃以上340℃以下であることが好ましい。
【0035】
メソフェーズピッチは溶融法により紡糸され、その後不融化、炭化、粉砕、黒鉛化によってピッチ系黒鉛化短繊維となる。場合によっては、粉砕の後、分級工程を入れることもある。
【0036】
以下各工程の好ましい態様について説明する。
紡糸方法には、特に制限はないが、所謂溶融紡糸法を適応することができる。具体的には、口金から吐出したメソフェーズピッチをワインダーで引き取る通常の紡糸延伸法、熱風をアトマイジング源として用いるメルトブロー法、遠心力を利用してメソフェーズピッチを引き取る遠心紡糸法などが挙げられる。中でもピッチ系炭素繊維前駆体の形態の制御、生産性の高さなどの理由からメルトブロー法を用いることが望ましい。このため以下本発明におけるピッチ系黒鉛化短繊維の製造方法に関してはメルトブロー法について記載する。
【0037】
ピッチ系炭素繊維前駆体を形成する紡糸ノズルの形状はどのようなものであっても良い。通常真円状のものが使用されるが、適時楕円などの異型形状のノズルを用いても何ら問題ない。ノズル孔の長さ(LN)と孔径(DN)の比(LN/DN)としては、2〜20の範囲が好ましい。LN/DNが20を超えると、ノズルを通過するメソフェーズピッチに強いせん断力が付与され、繊維断面にラジアル構造が発現する。ラジアル構造の発現は、黒鉛化の過程で繊維断面に割れを生じさせることがあり、機械特性の低下を引き起こすことがあるため好ましくない。一方、LN/DNが2未満では、原料ピッチにせん断を付与することが出来ず、結果として黒鉛の配向が低いピッチ系炭素繊維前駆体となる。このため、黒鉛化しても黒鉛化度を十分に上げることが出来ず、熱伝導性を向上させ難く好ましくない。機械強度と熱伝導性の両立を達成するには、メソフェーズピッチに適度のせん断を付与する必要がある。このため、ノズル孔の長さ(LN)と孔径(DN)の比(LN/DN)は2〜20の範囲が好ましく、更には3〜12の範囲が特に好ましい。
【0038】
紡糸時のノズルの温度、メソフェーズピッチがノズルを通過する際のせん断速度、ノズルからブローされる風量、風の温度等についても特に制約はなく、安定した紡糸状態が維持できる条件、即ち、メソフェーズピッチのノズル孔での溶融粘度が1〜100Pa・sの範囲にあれば良い。
【0039】
ノズルを通過するメソフェーズピッチの溶融粘度が1Pa・s未満の場合、溶融粘度が低すぎて糸形状を維持することが出来ず好ましくない。一方、メソフェーズピッチの溶融粘度が100Pa・sを超える場合、メソフェーズピッチに強いせん断力が付与され、繊維断面にラジアル構造を形成するため好ましくない。メソフェーズピッチに付与するせん断力を適切な範囲にせしめ、かつ繊維形状を維持するためには、ノズルを通過するメソフェーズピッチの溶融粘度を制御する必要がある。このため、メソフェーズピッチの溶融粘度を1〜100Pa・sの範囲にするのが好ましく、更には3〜30Pa・sの範囲にすることが好ましく、5〜25Pa・sの範囲にすることが更に好ましい。
【0040】
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維は、平均繊維径(D1)が2〜20μm以下であることを特徴とするが、ピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維径の制御は、ノズルの孔径を変更する、あるいはノズルからの原料ピッチの吐出量を変更する、あるいはドラフト比を変更することで調整可能である。ドラフト比の変更は、100〜400℃に加温された毎分100〜20000mの線速度のガスを細化点近傍に吹き付けることによって達成することができる。吹き付けるガスに特に制限は無いが、コストパフォーマンスと安全性の面から空気が望ましい。
【0041】
ピッチ系炭素繊維前駆体は、金網等のベルトに捕集されピッチ系炭素繊維前駆体ウェブとなる。その際、ベルト搬送速度により任意の目付量に調整できるが、必要に応じ、クロスラップ等の方法により積層させてもよい。ピッチ系炭素繊維前駆体ウェブの目付量は生産性及び工程安定性を考慮して、150〜1000g/mが好ましい。
【0042】
このようにして得られたピッチ系炭素繊維前駆体ウェブは、公知の方法で不融化処理し、ピッチ系不融化繊維ウェブにする。不融化は、空気、或いはオゾン、二酸化窒素、窒素、酸素、ヨウ素、臭素を空気に添加したガスを用いた酸化性雰囲気下で実施できるが、安全性、利便性を考慮すると空気中で実施することが望ましい。また、バッチ処理、連続処理のどちらでも処理可能であるが、生産性を考慮すると連続処理が望ましい。不融化処理は150〜350℃の温度で、一定時間の熱処理を付与することで達成される。より好ましい温度範囲は、160〜340℃である。昇温速度は1〜10℃/分が好適に用いられ、連続処理の場合は任意の温度に設定した複数の反応室を順次通過させることで、上記昇温速度を達成できる。昇温速度のより好ましい範囲は、生産性及び工程安定性を考慮して、3〜9℃/分である。
【0043】
ピッチ系不融化繊維ウェブは、600〜2000℃の温度で、真空中、或いは窒素、アルゴン、クリプトン等の不活性ガスを用いた非酸化性雰囲気中で炭化処理され、ピッチ系炭素繊維ウェブになる。炭化処理は、コスト面を考慮して、常圧かつ窒素雰囲気下での処理が望ましい。また、バッチ処理、連続処理のどちらでも処理可能であるが、生産性を考慮すれば連続処理が望ましい。
【0044】
炭化処理されたピッチ系炭素繊維ウェブは、所望の繊維長にするために、切断、破砕・粉砕等の処理が実施される。また、場合によっては、分級処理が実施される。処理方式は所望の繊維長に応じて選定されるが、切断にはギロチン式、1軸、2軸及び多軸回転式等のカッターが好適に使用され、破砕、粉砕には衝撃作用を利用したハンマ式、ピン式、ボール式、ビーズ式及びロッド式、粒子同士の衝突を利用した高速回転式、圧縮・引裂き作用を利用したロール式、コーン式及びスクリュー式等の破砕機・粉砕機等が好適に使用される。所望の繊維長を得るために、切断と破砕・粉砕を多種複数機で構成してもよい。処理雰囲気は湿式、乾式のどちらでもよい。分級処理には、振動篩い式、遠心分離式、慣性力式、濾過式等の分級装置等が好適に使用される。所望の繊維長は、機種選定のみならず、ロータ・回転刃等の回転数、供給量、刃間クリアランス、系内滞留時間等を制御することによっても得ることができる。また、分級処理を用いる場合には、所望の繊維長は篩い網孔径等を調整することによっても得ることができる。
【0045】
上記の切断、破砕・粉砕処理、場合によっては分級処理を併用して作成したピッチ系炭素短繊維は、2000〜3500℃に加熱し黒鉛化して最終的なピッチ系黒鉛化短繊維とする。黒鉛化は、アチソン炉、電気炉等にて実施され、真空中、或いは窒素、アルゴン、クリプトン等の不活性ガスを用いた非酸化性雰囲気下等で実施される。
【0046】
本発明においてピッチ系黒鉛化短繊維は、マトリクスであるポリカーボネート系高分子との親和性をより高め、ハンドリング性の向上を目的として、表面処理やサイジング処理をしても良い。また、必要に応じて表面処理した後にサイジング処理をしても良い。表面処理の方法として特に限定は無いが、具体的には、電着処理、めっき処理、オゾン処理、プラズマ処理、酸処理などが挙げられる。サイジング処理に用いるサイジング剤に特に限定は無いが、具体的にはエポキシ化合物、水溶性ポリアミド化合物、飽和ポリエステル、不飽和ポリエステル、酢酸ビニル、アルコール、グリコールを単独又はこれらの混合物で用いることができる。サイジング剤はフィラーに対し0.01〜10重量%、付着させても良い。しかし、サイジング剤付着ピッチ系炭素繊維フィラーは活性点を持つ可能性もあることから、サイジング処理は極力少ないことが好ましい。好ましい付着量は0.1〜2.5重量%である。
【0047】
本発明の熱伝導性組成物は、ピッチ系黒鉛化短繊維とマトリクスとを混合して作製するが、混合の際には、ニーダー、各種ミキサー、ブレンダー、ロール、押出機、ミリング機、自公転式の撹拌機などの混合装置又は混練装置が好適に用いられる。
【0048】
本発明の熱伝導性組成物の熱伝導率をより高めるために、ピッチ系黒鉛化短繊維および上記の熱伝導性フィラー以外のフィラーを必要に応じて添加してもよい。具体的には、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、などの金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物、窒化ホウ素などの金属窒化物、酸化窒化アルミニウムなどの金属酸窒化物、炭化珪素などの金属炭化物、金、銀、銅、アルミニウムなどの金属もしくは金属合金、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、ダイヤモンドなどの炭素材料などが挙げられる。これらを機能に応じて適宜添加してもよい。また、2種類以上併用することも可能である。
【0049】
ただ、上記化合物は、密度がピッチ系黒鉛化短繊維より大きなものが多く、軽量化を目的とするときには、添加量や添加比率に気を配る必要がある。
また、必要に応じて他の添加剤を複数、組成物に添加しても構わない。他の添加剤としては離型剤、難燃剤、乳化剤、軟化剤、可塑剤、界面活性剤を挙げることができる。
【0050】
本発明の熱伝導組成物の用途は、電子部品の放熱部材等がある。例えば、本発明の熱伝導性組成物は、MPUやパワートランジスタ、トランス等の発熱性電子部品からの熱を放出する、放熱フィンや放熱ファン等の放熱部品に使用される。これによって、発熱性電子部品からの熱の拡散が良好となり、長期的に発熱性電子部品の誤作動を軽減させることができる。
【実施例】
【0051】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
なお、本実施例における各値は、以下の方法に従って求めた。
(1)ピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維径は、JIS R7607に準じ、光学顕微鏡下でスケールを用いて60本測定し、その平均値から求めた。
(2)ピッチ系黒鉛化短繊維の個数平均繊維長は、光学顕微鏡下において測長器で2000本(10視野、200本ずつ)測定し、その平均値から求めた。
(3)ピッチ系黒鉛化短繊維の結晶子サイズは、X線回折に現れる(110)面からの反射を測定し、学振法にて求めた。
(4)ピッチ系黒鉛化短繊維の端面は、透過型電子顕微鏡で100万倍の倍率で観察し、400万倍に写真上で拡大し、グラフェンシートを確認した。
(5)ピッチ系黒鉛化短繊維の表面は走査型電子顕微鏡で1000倍の倍率で観察し、凹凸を確認した。
(6)熱伝導性組成物の熱伝導率は、京都電子工業製QTM−500を用いて求めた。
(7)熱伝導性組成物の成形収縮率は、50mm×100mmの金型の短辺中央から、射出圧力40MPaで成形した場合の、成形片の長辺の長さを測定し、(100mm−(長辺の長さ))/100mm*100から算出した。
【0052】
[参考例1]
縮合多環炭化水素化合物よりなるピッチを主原料とした。光学的異方性割合は100%、軟化点が283℃であった。直径0.2mmφの孔のキャップを使用し、スリットから加熱空気を毎分5500mの線速度で噴出させて、溶融ピッチを牽引して平均直径14.5μmのピッチ系短繊維を作製した。この時の紡糸温度は328℃であり、溶融粘度は13.5Pa・S(135poise)であった。紡出された繊維をベルト上に捕集してマットとし、さらにクロスラッピングで目付400g/mのピッチ系炭素繊維前駆体からなるピッチ系炭素繊維前駆体ウェブとした。
このピッチ系炭素繊維前駆体ウェブを空気中で170℃から320℃まで平均昇温速度5℃/分で昇温して不融化、更に800℃で焼成を行った。このピッチ系炭素繊維ウェブをカッター(ターボ工業製)を用いて900rpmで粉砕し、3000℃で黒鉛化した。
ピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維径は9.8μm、平均繊維径に対する繊維径分散の比(CV値)は9%であった。個数平均繊維長は70μm、六角網面の成長方向に由来する結晶サイズは70nmであった。
ピッチ系黒鉛化短繊維の端面は透過型顕微鏡の観察によりグラフェンシートが閉じていることを確認した。また、表面は走査型電子顕微鏡の観察により、凹凸は1個であり実質的に平滑であった。
【0053】
[実施例1]
ポリカーボネート(帝人化成製:L−1225WP)100重量部と金属ケイ素(キンセイマテック製:#600、平均粒子径5μm、熱伝導率150W/m・K、密度2.33g/cm、線膨張率8ppm)75重量部と参考例1で作成したピッチ系黒鉛化短繊維75重量部とを二軸混練機(栗本鐵工所製)を用いて混合し熱伝導性組成物を得た。熱伝導性組成物を射出成形機(東芝機械製EC40NII)を用いて厚み2mmの熱伝導性成形体を得た。この熱伝導率は12.1W/m・K、成形収縮率0.7%であった。
【0054】
[実施例2]
ポリカーボネート(帝人化成製:L−1225WP)100重量部と金属ケイ素(キンセイマテック製:#600、平均粒子径5μm、熱伝導率150W/m・K、密度2.33g/cm、線膨張率8ppm)40重量部と参考例1で作成したピッチ系黒鉛化短繊維60重量部とを二軸混練機(栗本鐵工所製)を用いて混合し熱伝導性組成物を得た。熱伝導性組成物を射出成形機(東芝機械製EC40NII)を用いて厚み2mmの熱伝導性成形体を得た。この熱伝導率は8.7W/m・K、成形収縮率1.0%であった。
【0055】
[実施例3]
ポリカーボネート(帝人化成製:L−1225WP)100重量部と金属ケイ素(キンセイマテック製:#600、平均粒子径5μm、熱伝導率150W/m・K、密度2.33g/cm、線膨張率8ppm)115重量部と参考例1で作成したピッチ系黒鉛化短繊維80重量部とを二軸混練機(栗本鐵工所製)を用いて混合し熱伝導性組成物を得た。熱伝導性組成物を射出成形機(東芝機械製EC40NII)を用いて厚み2mmの熱伝導性成形体を得た。この熱伝導率は15.2W/m・K、成形収縮率0.6%であった。
【0056】
[実施例4]
ポリカーボネート(帝人化成製:L−1225WP)100重量部と炭化ケイ素(キンセイマテック製、熱伝導率350W/m・K、密度3.22g/cm、線膨張率6ppm)100重量部と参考例1で作成したピッチ系黒鉛化短繊維80重量部とを二軸混練機(栗本鐵工所製)を用いて混合し熱伝導性組成物を得た。熱伝導性組成物を射出成形機(東芝機械製EC40NII)を用いて厚み2mmの熱伝導性成形体を得た。この熱伝導率は13.8W/m・K、成形収縮率0.6%であった。
【0057】
[実施例5]
ポリカーボネート(帝人化成製:L−1225WP)100重量部とアルミニウム(和光純薬製、熱伝導率270W/m・K、密度2.7g/cm、線膨張率20ppm)120重量部と参考例1で作成したピッチ系黒鉛化短繊維80重量部とを二軸混練機(栗本鐵工所製)を用いて混合し熱伝導性組成物を得た。熱伝導性組成物を射出成形機(東芝機械製EC40NII)を用いて厚み2mmの熱伝導性成形体を得た。この熱伝導率は16.5W/m・K、成形収縮率0.6%であった。
【0058】
[比較例1]
ポリカーボネート(帝人化成製:L−1225WP)100重量部と金属ケイ素(キンセイマテック製:#600、平均粒子径5μm、熱伝導率150W/m・K、密度2.33g/cm、線膨張率8ppm)120重量部とを二軸混練機(栗本鐵工所製)を用いて混合し熱伝導性組成物を得た。熱伝導性組成物を射出成形機(東芝機械製EC40NII)を用いて厚み2mmの熱伝導性成形体を得た。この熱伝導率は2.8W/m・K、成形収縮率1.2%であった。
【0059】
[比較例2]
ポリカーボネート(帝人化成製:L−1225WP)100重量部と金属ケイ素(キンセイマテック製:#600、平均粒子径5μm、熱伝導率150W/m・K、密度2.33g/cm、線膨張率8ppm)100重量部とを二軸混練機(栗本鐵工所製)を用いて混合し熱伝導性組成物を得た。熱伝導性組成物を射出成形機(東芝機械製EC40NII)を用いて厚み2mmの熱伝導性成形体を得た。この熱伝導率は2.2W/m・K、成形収縮率1.3%であった。
【0060】
[比較例3]
ポリカーボネート(帝人化成製:L−1225WP)100重量部と参考例1で作成したピッチ系黒鉛化短繊維75重量部とを二軸混練機(栗本鐵工所製)を用いて混合し熱伝導性組成物を得た。熱伝導性組成物を射出成形機(東芝機械製EC40NII)を用いて厚み2mmの熱伝導性成形体を得た。この熱伝導率は3.5W/m・K、成形収縮率0.3%であった。
【0061】
[比較例4]
ポリカーボネート(帝人化成製:L−1225WP)100重量部と金属ケイ素(キンセイマテック製:#600、平均粒子径5μm、熱伝導率150W/m・K、密度2.33g/cm、線膨張率8ppm)15重量部と参考例1で作成したピッチ系黒鉛化短繊維75重量部とを二軸混練機(栗本鐵工所製)を用いて混合し熱伝導性組成物を得た。熱伝導性組成物を射出成形機(東芝機械製EC40NII)を用いて厚み2mmの熱伝導性成形体を得た。この熱伝導率は5.0W/m・K、成形収縮率0.4%であった。
【0062】
[比較例5]
ポリカーボネート(帝人化成製:L−1225WP)100重量部と金属ケイ素(キンセイマテック製:#600、平均粒子径5μm、熱伝導率150W/m・K、密度2.33g/cm、線膨張率8ppm)100重量部と参考例1で作成したピッチ系黒鉛化短繊維30重量部とを二軸混練機(栗本鐵工所製)を用いて混合し熱伝導性組成物を得た。熱伝導性組成物を射出成形機(東芝機械製EC40NII)を用いて厚み2mmの熱伝導性成形体を得た。この熱伝導率は5.0W/m・K、成形収縮率0.7%であった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の熱伝導性組成物は、熱伝導性に優れ、MPUやパワートランジスタ、トランス等の発熱性電子部品からの熱を拡散する放熱フィンや放熱ファン等の高い放熱特性が要求される場所に用いることが可能であり、サーマルマネージメントを確実なものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート系高分子、ピッチ系黒鉛化短繊維、ピッチ系黒鉛化短繊維以外の熱伝導性フィラーからなる熱伝導性組成物であって、ピッチ系黒鉛化短繊維以外の熱伝導性フィラーは、熱伝導率が少なくとも1方向に100W/m・K以上であり、密度が4g/cm以下であり、ポリカーボネート系高分子100重量部に対しピッチ系黒鉛化短繊維を50〜100重量部、ピッチ系黒鉛化短繊維以外の熱伝導性フィラーを30〜150重量部含むことを特徴とする熱伝導性組成物。
【請求項2】
ピッチ系黒鉛化短繊維以外の熱伝導性フィラーの線膨張率が3〜50ppmであることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性組成物。
【請求項3】
ピッチ系黒鉛化短繊維以外の熱伝導性フィラーが、金属ケイ素、炭化ケイ素、六方晶窒化ケイ素、窒化アルミ、金属アルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項1〜2のいずれか1項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項4】
該ピッチ系黒鉛化短繊維100重量部に対し、ピッチ系黒鉛化短繊維以外の熱伝導性フィラーが50〜200重量部含まれていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項5】
該ピッチ系黒鉛化短繊維が、メソフェーズピッチを原料とし、平均繊維径が2〜20μmであり、平均繊維径に対する繊維径分散の百分率(CV値)が3〜15であり、個数平均繊維長が20〜500μmであり、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが30nm以上であり、透過型電子顕微鏡によるフィラー端面観察においてグラフェンシートが閉じており、かつ走査型電子顕微鏡での観察表面が実質的に平坦である請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱伝導性組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱伝導性組成物を、成形してなる熱伝導性成形体。

【公開番号】特開2012−77224(P2012−77224A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224806(P2010−224806)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】