説明

熱伝導材

【課題】良好な熱伝導性を有すると共に、圧縮性や基材への密着性に優れ、液漏れを生じない安全性の高い熱伝導材を提供する。
【解決手段】(A)高分子ゲル部材と(B)放熱部材とが接合した構造を備えた熱伝導材であり、該高分子ゲル部材が、(C)水膨潤性粘土鉱物と、(D)(メタ)アクリルアミド系化合物の重合体とが複合化して形成された三次元網目中に、(E)熱伝導性媒体を含有することを特徴とする熱伝導材。アクリルアミド系化合物の重合体と水膨潤性粘土鉱物からなる三次元網目を有する高分子ゲルと放熱部材を密着し、積層すると、力学的にタフネスであり、液漏れが生じない熱伝導体となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水膨潤性粘土鉱物を含む高分子ゲルを構成成分とする熱伝導材に関する。電子機器部材、工業機械部材、医療関連部材、エネルギー関連部材など、熱伝導を必要とする分野において有用である。
【背景技術】
【0002】
近年、熱伝導の重要性はますます大きくなっており、特に、精密機器分野、とりわけ、ディスプレイ、コンピューター、携帯電話などを初めとする電子機器分野では、性能の向上、装置の小型化に伴い、機器内部で発生する熱を如何に外部に放出するかが重要な技術課題となっている。また、その他の工業機械、医療関連機器・部材、エネルギー関連部材などにおいても、優れた熱伝導材が求められている。これまで、熱伝導部材の一つとして、発熱源と放熱板の間に、密着性とクッション性を有するゴム状の熱伝導材が用いられてきた。通常、ゴム状の有機高分子は低い熱伝導性しか有さないため、多くの場合、ゴム状有機高分子の中に熱伝導性微粒子、例えば、金属微粒子や繊維、熱伝導性セラミック微粒子や繊維、炭素系微粒子や繊維などを出来るだけ高充填したものが用いられてきた。しかし、かかる微粒子を高充填するとゴム状有機高分子の柔らかさが失われ、その結果、発熱源および放熱板との密着性が失われて熱伝導性が低下する問題を有していた。一方、熱伝導性液体の使用は良好な熱伝導性を有することから望まれているが、液体であるため密封する必要があり、密封状態が何らかの理由で失われた場合、液漏れが生じ、事故につながる可能性があることから、安全上の問題を抱えていた。
【0003】
これまでに本発明者らは、水溶性高分子と層状粘土鉱物とが複合化して形成された三次元網目を有する高分子ゲルが、優れた溶媒吸収性や吸収速度、また高い伸張性や強度などの優れた力学物性を有することについて報告した(例えば特許文献1参照)。しかし、この技術は高分子ヒドロゲルに関するものであり、上記の従来の技術における問題を解決する材料について提案するものではない。
【0004】
【特許文献1】特開2002−53629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、良好な熱伝導性を有すると共に、圧縮性や基材への密着性に優れ、液漏れを生じない安全性の高い熱伝導材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究に取り組んだ結果、層状剥離した水膨潤性粘土鉱物と有機高分子が三次元網目を形成し、その中に熱伝導性媒体を含む高分子ゲル部材と放熱部材とからなる熱伝導材が、優れた熱伝導性、圧縮性、基材への密着性、液漏れを生じない安全性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、(A)高分子ゲル部材と(B)放熱部材とが接合した構造を備えた熱伝導材であり、該高分子ゲル部材が、(C)水膨潤性粘土鉱物と、(D)(メタ)アクリルアミド系化合物の重合体とが複合化して形成された三次元網目中に、(E)熱伝導性媒体を含有することを特徴とする熱伝導材を提案するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱伝導材は、(C)水膨潤性粘土鉱物と、(D)(メタ)アクリルアミド系化合物の重合体とが複合化して形成された三次元網目中に、(E)熱伝導性媒体を含有する高分子ゲル部材を使用しているため、優れた熱伝導性、圧縮性、基材への密着性、液漏れを生じない安全性を有し、電子機器部材、工業機械部材、医療関連部材、エネルギー関連部材など、熱伝導を必要とする分野において有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、(A)高分子ゲル部材と(B)放熱部材とが接合した構造を備えた熱伝導材であり、該高分子ゲル部材が、(C)水膨潤性粘土鉱物と、(D)(メタ)アクリルアミド系化合物の重合体とが複合化して形成された三次元網目中に、(E)熱伝導性媒体を含有することを特徴とする熱伝導材である。
【0010】
本発明における(D)(メタ)アクリルアミド系化合物の重合体としては、層状剥離した(C)水膨潤性粘土鉱物と三次元網目を形成し、且つ、その中に(E)熱伝導性媒体を含むことができるものである。具体的には、(メタ)アクリルアミド系化合物の単独重合物や、(メタ)アクリルアミド系化合物と他のモノマーの共重合物が最も有効に用いられる。
【0011】
(A)(メタ)アクリルアミド系化合物としては、下記式(1)で表される化合物、及びジアセトンアクリルアミド、N−アクリロイルピロリディン、N−アクリロイルピペリディン、N−アクリロイルメチルホモピペラディン、N−アクリロイルメチルピペラディン等が例示される。
【0012】
また、式1で表される化合物の例としては、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−シクロプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−シクロプロピルメタクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチル−N−エチルアクリルアミド、N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド、N−メチル−N−n−プロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−(ヒドロキシメチル)アクリルアミド、等がある。これらの化合物は単独で、あるいは二種以上を併用して用いることができる。
【0013】
【化1】

(式中、Rは水素原子又はメチル基、R及びRは、それぞれ独立的にヒドロキシ基で置換されていても良い炭素数が1〜6のアルキル基を表す。)
【0014】
本発明に用いられる、(C)水膨潤性粘土鉱物としては、粘土鉱物のうち水に微細、且つ均一に分散可能で、水に溶解もしくは膨潤する性質を有するものであり、特に水中で分子状(単一層状)又はそれに近いレベルで均一分散可能な層状粘土鉱物であることが好ましい。より好ましくは1〜10層程度のナノメーターレベル(の厚み)で分散しているもの、特に好ましくは1又は2層程度の厚みで分散しているものである。例えば、水膨潤性スメクタイトや水膨潤性雲母などが用いられる。具体的には、ナトリウムを層間イオンとして含んだ水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリロナイト、水膨潤性サポナイト、水膨潤性合成雲母などが挙げられる。
【0015】
本発明に用いられる高分子ゲルに含まれる(メタ)アクリルアミド系化合物の重合体と粘土鉱物の割合は上記性質が達成されれば良く、また用いる(メタ)アクリルアミド系化合物の重合体や水膨潤性粘土鉱物の種類によっても異なり必ずしも限定されないが、好ましくは粘土鉱物/(メタ)アクリルアミド系化合物の重合体の質量比が0.01〜10、より好ましくは0.03〜2.0、特に好ましくは0.05〜1.0である。
【0016】
粘土鉱物/(メタ)アクリルアミド系化合物の重合体の質量比が0.01未満では本発明の目的とする高分子ゲルが出来ないか、圧縮に対する応答性が悪く、10を越えると高分子ゲルが脆かったり、熱伝導性が不良となる問題が生じてくる。
【0017】
本発明に使用する(A)高分子ゲル部材の形状は、フィルムまたはシート状の形状が好ましく、厚さは使用する機器により変化して用いることができ、必ずしも限定されないが、好ましくは0.1〜300mmであり、0.5〜50mmであることがより好ましい。
【0018】
本発明に用いられる(B)放熱部材を例示すれば、伝熱性に優れた無機および有機材料で(A)高分子ゲル部材と密着性に優れたものが用いられる。具体的には、銅、アルミ、鉄、ステンレスなどの金属、窒化アルミニウム、炭化珪素などのセラミック、グラファイト、非晶質炭素などの炭素材、熱伝導性粒子を充填した有機高分子が例示され、これらのフィルムまたはシートが用いられる。(B)放熱部材の厚さは、放熱効果が得られればよく、特に限定されるものではないが、0.01〜50mmであることが好ましく、0.05〜10mmであることがより好ましい。
【0019】
本発明に用いられる(E)熱伝導性媒体としては、熱伝導性を有する液状媒体であって、(C)と(D)とからなる三次元網目の中に安定して含まれるものが用いられる。ここで、安定して含まれるとは圧縮などの変形によっても媒体が三次元網目から遊離しないで含まれることを意味する。例えば、水または水と混和する液体またはそれらの混合物が挙げられる。具体的には、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、メチルエチルケトン、メチルセルソルブ、グリセリン、ジグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコールおよびこれらの混合物等が例示される。その他、炭化水素系オイルやシリコーンオイルと水が乳化したものなども挙げられる。
【0020】
本発明において、熱伝導性を向上させるために、更に(F)熱伝導性粒子を含ませることも可能である。熱伝導性粒子としては、金属、セラミック、炭素系を中心としたものが良好に用いられ、特に(E)熱伝導性媒体中に分散するものが好ましい。具体的には、銅、アルミなどの金属微粒子または繊維、窒化アルミ、窒化珪素などのセラミック微粒子または繊維、黒鉛、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、炭素繊維などの炭素微粒子または繊維が例示される。熱伝導性粒子の添加量としては、熱伝導性を向上し、好ましくは高分子ゲルの圧縮性などを大きく低減しない範囲で選択することが好ましいが、用いる熱伝導性粒子の種類や形状により異なり、一概に規定されない。一般的には、熱伝導性媒体に対する質量比として0.01〜2、好ましくは0.03〜0.1、特に好ましくは0.05〜0.5が用いられる。
【0021】
本発明における熱伝導材は、(A)高分子ゲル部材と(B)放熱部材が強く密着していることが必須であり、より好ましくは、(A)と(B)が一体化しているものである。(A)と(B)の密着が不十分だと熱伝導が低下する。
【0022】
また、本発明における熱伝導材は、(A)高分子ゲル部材が密封された構造を有することが好ましく、揮発性の高い熱伝導性媒体を用いた場合は密封された構造を有することが特に好ましい。密封方法は、高分子フィルム、金属フィルム、金属蒸着フィルムおよびそれらを組み合わせて用いることができ、好ましくは、薄い、及び/または熱伝導性の高いフィルムやシートを用いることが有効である。特に、前記の(B)放熱部材を密封容器の一部として用いることは特に有効である。以上の密封された高分子ゲル部材は、密封が何らかの理由で破壊されても、熱伝導性媒体が液体として流出することは無く、更に圧縮等の外部刺激によっても液状に遊離してくることはない。従って、熱伝導性の高い液状媒体を用いているにもかかわらず、本発明においては、事故の場合の安全性に優れている特徴を有する。
【0023】
本発明における高分子ゲルは、良好な機械的性質を示し、例えば圧縮や引っ張り又は曲げ変形に対して耐えるタフネスを有する。特に、圧縮に対しては、80%以下の繰り返し圧縮に対して破壊せず、且つ、可逆的な変形応答をすることが特徴である。80%を超えると残留歪みによる非可逆的変形が増加してくる。
【0024】
本発明において用いる高分子ゲルは、例えば、上記の(メタ)アクリルアミド系化合物を層状剥離した水膨潤性粘土鉱物の共存下、水溶液中でラジカル重合反応を行わせることにより得られる。開始反応には、過酸化物の存在及び/又は紫外線照射等の公知の方法が用いられ、加熱又は紫外線照射により加速することもできる。また、必要に応じて、有機架橋剤(例えば、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−プロピレンビスアクリルアミド、ジ(アクリルアミドメチル)エーテル、1,2−ジアクリルアミドエチレングリコール、1,3−ジアクリロイルエチレンウレア、エチレンジアクリレート、N,N’−ジアリルタータルジアミド、N,N’−ビスアクリリルシスタミンなどの二官能性化合物や、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどの三官能性化合物)を少量添加しておくことも可能である。更に、反応溶液に予め熱伝導性粒子を共存させておくこと、重合容器の一部として放熱部材として働く熱伝導性フィルムまたはシートを用いることも有効である。
【実施例】
【0025】
次いで本発明を実施例により、より具体的に説明するが、もとより本発明は、以下に示す実施例にのみ限定されるものではない。
【0026】
(実施例1)
20℃の水浴中に設置した内部を窒素置換したガラス容器に、溶存酸素を除去した純水56.88gを入れ、攪拌しながら0.914gの水膨潤性粘土鉱物(合成ヘクトライト:商標ラポナイトXLG)を加え、無色透明の溶液を調製した。これにアクリルアミド系化合物(ジメチルアクリルアミド:DMAA)を加え無色透明溶液を得た。次いで、触媒としてN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TMED)48μlを、開始剤として、ペルオキソ二硫酸カリウム(KPS)の10%水溶液3.18gを攪拌して加え無色透明溶液を得た。該溶液を、厚み1mmのアルミシート(内表面梨地仕上げ:100×100mm:放熱部材)とそれと一体化されたポリプロピレン袋(厚み20ミクロン)に充填して、20℃で12時間重合させ、120×120×10mmの放熱部材と密封された高分子ゲル部材からなる複合材料(熱伝導材)を調製した。ここで、高分子ゲルの一面はアルミシート(梨地仕上げ面)と強く結合し完全に一体になっていた。得られた熱伝導材の高分子ゲル(ポリプロピレンフィルム)側を60℃の発熱体の上に密着して置き、上から、放熱部材、高分子ゲル部材、発熱部となるように設置した。ここで発熱部は定常的に60℃になるようにし、放熱部材の表面温度の時間変化を測定した。その結果、放熱部材表面温度が3分後に50℃、6分後に55℃に到達し、優れた熱伝導性を有することが明らかとなった。また、放熱部材の上から機械的に20%の繰り返し圧縮を加えた所、高分子ゲルは破壊することなく可逆的な変形を示した。
【0027】
(実施例2)
アルミシートの代わりに銅シート(厚み1mm)を用いること、形状が120×120×3mmであることを除くと実施例1と同様にして複合材料(熱伝導材)を合成した。実施例1と同様にして測定した、放熱部材表面温度は30秒後に58℃に達した。
【0028】
(実施例3)
アルミシートの形状が30×30×1mm、ゲル形状が30×30×50mmであることを除くと実施例1と同様にして熱伝導材を調製した。繰り返し70%の圧縮歪みを加えた所、高分子ゲルは破壊することなく可逆的な変形を示した。
【0029】
(実施例4)
反応液中に、酸処理したカーボンナノチューブ(マルチウオール:直径30nm、長さ100ミクロン)をDMAAの5質量%を加える以外は、実施例1と同様にして、カーボンナノチューブが高分子ゲル中に分散して含まれた熱伝導材を調製した。実施例1と同様にして測定した放熱部材の温度変化は2分後に51℃、3分後に56℃であった。
【0030】
(比較例1、2)
高分子ゲルの代わりに、シリコンゴム(130×130×10mm)(比較例1)、およびハードポリウレタンゴム(130×130×10mm)(比較例2)を用い、実施例1と同様に厚み1mmのアルミ放熱板を用いてその表面温度の時間変化を実施例1と同様にして測定した。比較例1では、32℃(3分後)、36.5℃(6分後)であった。比較例2では、29℃(3分後)、31℃(30分後)であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)高分子ゲル部材と(B)放熱部材とが接合した構造を備えた熱伝導材であり、該高分子ゲル部材が、(C)水膨潤性粘土鉱物と、(D)(メタ)アクリルアミド系化合物の重合体とが複合化して形成された三次元網目中に、(E)熱伝導性媒体を含有することを特徴とする熱伝導材。
【請求項2】
(A)高分子ゲル部材が密封された構造である請求項1記載の熱伝導材。
【請求項3】
(A)高分子ゲル部材が、80%の圧縮に対して破壊せず、且つ、可逆的な変形応答をするものである請求項1または2に記載の熱伝導材。
【請求項4】
前記(E)熱伝導性媒体中に(F)熱伝導性粒子が含まれている請求項1〜3のいずれかに記載の熱伝導材。

【公開番号】特開2008−156406(P2008−156406A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−344162(P2006−344162)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】