説明

熱伝導率測定方法

【課題】測定精度が向上した熱伝導率測定方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る熱伝導率測定方法は、加熱板30と冷却熱板30との間に、試験体10を、前記試験体10の外周面11が前記加熱板30の外周面31及び前記冷却熱板40の外周面41より内側となるように配置し、前記加熱板30と前記冷却熱板40との間で前記試験体10の前記外周面11を断熱材20で覆い、熱流計法により前記試験体10の熱伝導率を測定する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導率測定方法に関し、特に、熱流計法による熱伝導率の測定における精度の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
断熱材等の試験体の熱伝導率を測定する方法として、熱流計法がある(例えば、特許文献1、特許文献2)。熱流計法は、簡便で使い勝手が良いため研究機関のみならず多くの企業で開発品の性能チェックや製品管理等に利用されている。
【0003】
ただし、熱流計法による測定精度は、標準物質を使用した熱流計の校正に依存する。このため、熱流計法においては、標準物質による熱流計の校正を適切に行う必要がある。
【0004】
この標準物質としては、例えば、断熱材の熱伝導率測定用として、米国の国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology:NIST)より、グラスウールボード(熱伝導率:0.03〜0.05W/(m・K))、Pyrex(登録商標)ガラス(熱伝導率:1W/(m・K))及びパイロセラム(熱伝導率:3〜5W/(m・K))が提供されている。
【0005】
そして、一般に、試験体の熱伝導率を測定する場合には、当該試験体の熱伝導率と同程度の熱伝導率を有する標準物質で校正された熱流計を使用する。このため、従来、例えば、グラスウールボードは、熱伝導率が0.03〜0.05W/(m・K)程度の試験体の測定に使用され、Pyrex(登録商標)ガラス及びパイロセラムは、熱伝導率が1W/(m・K)付近又はそれ以上の試験体の測定に使用されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭54−084780号公報
【特許文献2】実開平01−129651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、例えば、グラスウールボードは柔軟な表面を有するのに対し、Pyrex(登録商標)ガラス及びパイロセラムは硬い表面を有するため、当該Pyrex(登録商標)ガラス及びパイロセラムを標準物質として使用する場合には、当該標準物質の硬い表面と熱板との間に空気層からなる隙間が形成されてしまうという問題があった。
【0008】
標準物質と熱板との間に空気層が形成されると、当該標準物質の熱伝導率は、当該標準物質の真の熱伝導率より小さい値として測定されてしまう。また、標準物質を熱板に押しつける圧力が変化すると、空気層の厚さが変化するため、空気層が形成された状態で正確な校正を行うことは困難であった。また、空気層が形成された状態で熱流計の校正を行った場合、当該熱流計を使用した試験体の測定時に当該空気層と同一の空気層が形成されていなければ、当該試験体の熱伝導率を正確に測定することは困難であった。
【0009】
一方、従来、例えば、グラスウールボードで校正した熱流計を使用して、熱伝導率が1W/(m・K)以上の試験体の熱伝導率を測定すると、当該グラスウールボードの熱伝導率と当該試験体の熱伝導率との差が大きいため、当該試験体の熱伝導率を正確に測定することが困難であった。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであって、測定精度が向上した熱伝導率測定方法を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る熱伝導率測定方法は、加熱板と冷却熱板との間に、試験体を、前記試験体の外周面が前記加熱板の外周面及び前記冷却熱板の外周面より内側となるように配置し、前記加熱板と前記冷却熱板との間で前記試験体の前記外周面を断熱材で覆い、熱流計法により前記試験体の熱伝導率を測定することを特徴とする。本発明によれば、測定精度が向上した熱伝導率測定方法を提供することができる。
【0012】
また、前記方法においては、熱伝導率が前記試験体のそれの2分の1以下である標準物質で校正された熱流計を使用することとしてもよい。また、前記方法においては、前記試験体と前記加熱板との間及び前記試験体と前記冷却熱板との間の少なくとも一方に、熱伝導率が前記試験体のそれより小さい熱抵抗層を配置することとしてもよい。
【0013】
また、前記方法においては、前記試験体の前記加熱板側の第一伝熱表面及び前記冷却熱板側の第二伝熱表面のそれぞれに、温度センサーを直接接触させて配置することとしてもよい。この場合、前記温度センサーは示差熱電対であり、前記示差熱電対の起電力に基づき前記試験体の前記第一伝熱表面と前記第二伝熱表面との温度差を算出し、前記温度差に基づいて前記試験体の熱伝導率を測定することとしてもよい。
【0014】
また、前記方法においては、前記試験体と前記加熱板との間及び前記試験体と前記冷却熱板との間の少なくとも一方に、熱伝導率が前記試験体のそれより大きい熱拡散層を配置することとしてもよい。この場合、前記熱拡散層の前記試験体側に、放射率が前記熱拡散層のそれより大きい熱吸収層を配置することとしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、測定精度が向上した熱伝導率測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る熱伝導率測定方法における試験体の配置の一例の断面を示す説明図である。
【図2】図1に示す配置を平面視で示す説明図である。
【図3】図1に示す配置を構成する部材を斜視で示す説明図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る熱伝導率測定方法で使用される熱伝導率測定装置の一例の断面を示す説明図である。
【図5】従来の熱伝導率測定方法で使用されていた熱伝導率測定装置の断面を示す説明図である。
【図6A】本発明の一実施形態に係る熱伝導率測定方法における試験体の配置の他の例の断面を示す説明図である。
【図6B】本発明の一実施形態に係る熱伝導率測定方法における試験体の配置のさらに他の例の断面を示す説明図である。
【図6C】本発明の一実施形態に係る熱伝導率測定方法における試験体の配置のさらに他の例の断面を示す説明図である。
【図7A】本発明の一実施形態に係る比較例における試験体の配置の一例の断面を示す説明図である。
【図7B】本発明の一実施形態に係る比較例における試験体の配置の他の例の断面を示す説明図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る実施例において熱伝導率を測定した結果の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施形態に係る熱伝導率測定方法(以下、「本方法」という。)について、図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は、本実施形態に限られるものではない。
【0018】
図1は、本方法における試験体10の配置の一例の断面を示す説明図である。図2は、図1に示す配置を平面視で示す説明図である。すなわち、図1は、図2に示すI−I線で切断した配置の断面を示している。図3は、図1に示す配置を構成する部材を斜視で示す説明図である。図4は、本方法で使用される熱伝導率測定装置1の一例の断面を示す説明図である。図5は、従来の熱伝導率測定方法で使用されていた熱伝導率測定装置100の断面を示す説明図である。
【0019】
本方法は、熱流計(Heat Flow Meter)法(HFM法)により試験体10の熱伝導率を測定する方法である。熱流計法は、例えば、JIS A 1412−2に規定される。すなわち、JIS A 1412−2は、平板状の断熱材の定常状態における熱伝導率を熱流計法を使用して測定する方法を規定する。
【0020】
熱流計法は、試験体10を通過する熱流量を熱流計50により測定して当該試験体10の熱伝導率を求める方法である。なお、本発明において、熱流計法は、熱流計として標準板(標準物質で構成される板状の試験体)を使用する比較法(例えば、JIS A 1412−2の附属書Aに規定される平板比較法)を含む。
【0021】
熱流計法においては、まず、熱流計50と試験体10とを重ね、加熱板30と冷却熱板40とで所定の平均温度と温度差とを与え、定常状態を形成する。すなわち、図1及び図4に示すように、試験体10は、加熱板30と冷却熱板40との間に配置される。
【0022】
そして、高温側ヒータである加熱板30により試験体10の当該加熱板30側の伝熱表面(以下、「第一伝熱表面12a」という。)を第一の温度に保持し、低温側ヒータである冷却熱板40により当該試験体10の当該冷却熱板40側の伝熱表面(以下、「第二伝熱表面12b」という。)を当該第一の温度より低い第二の温度に保持することにより、当該第一伝熱表面12aと当該第二伝熱表面12bとの間に温度差を形成する。
【0023】
次に、試験体10を通過する熱流量を熱流計50で測定する。すなわち、図1及び図4に示す例において、試験体10の加熱板30側及び冷却熱板40側にはそれぞれ熱流計50が配置されている。より具体的に、この例において、第一伝熱表面12a側の熱流計50は、加熱板30に埋め込まれ、第二伝熱表面12b側の熱流計50は、冷却熱板40に埋め込まれている。
【0024】
そして、上述の温度差が形成された定常状態において、試験体10を通過する熱流量を熱流計50で測定する。なお、この例において、熱流計50は、温度センサーとしても機能する。すなわち、熱流計50に含まれる温度センサー(例えば、示差熱電対)によって試験体10の第一伝熱表面12aの温度及び第二伝熱表面12bの温度を測定する。
【0025】
また、この例では、測定精度を高めるため、試験体10の加熱板30側の熱流計50及び冷却熱板40側の熱流計50のそれぞれで熱流量を測定し、測定された熱流量の平均値を求めることとしているが、これに限られず、熱流計50は、試験体10の加熱板30側及び冷却熱板40側の少なくとも一方に配置されればよい。ただし、熱流計50が試験体10の加熱板30側及び冷却熱板40側の一方にのみ配置される場合であっても、温度センサーは当該試験体10の当該加熱板30側及び当該冷却熱板40側のそれぞれに配置する。
【0026】
そして、熱流計50により測定された結果を使用して、試験体10の熱伝導率は、下記の式(I)により求められる。
【数1】

【0027】
式(I)において、λは試験体10の熱伝導率であり、Qは試験体10を通過する熱流量であり、Δθは試験体10の第一伝熱表面12aと第二伝熱表面12bとの温度差であり、dは試験体10の厚さ(例えば、第一伝熱表面12aと第二伝熱表面12bとの距離)であり、Sは熱流が通過する面積(例えば、第一伝熱表面12aの面積と第二伝熱表面12bの面積とが同一の場合には当該面積)である。なお、実際の測定では、式(I)の右辺のパラメータのうち、特に、熱流量Q及び温度差Δθを正確に測定することが非常に難しい。
【0028】
本方法において、熱伝導率が既知の標準板を使用する場合には、熱流計50の代わりに試験体10と同一形状の当該標準板を当該試験体10に重ねて所定の平均温度と温度差とを与えて定常状態を形成し、当該試験体10を通過する熱流量を当該標準板によって求める。
【0029】
すなわち、試験体10及び標準板の周辺部分からの熱損失を無視できると仮定すれば、当該試験体10の熱伝導率は、下記の式(II)から求められる。
【数2】

【0030】
式(II)において、λは試験体10の熱伝導率(実測値)[W/(m・K)]であり、λは標準板の熱伝導率[W/(m・K)]であり、Δθは、標準板の加熱板30側(高温側)の表面と冷却熱板40側(低温側)の表面との温度差[℃]であり、Δθは、試験体10の第一伝熱表面12aと第二伝熱表面12bとの温度差[℃]であり、dは標準板の厚さ[m]であり、dは試験体10の厚さ[m]である。
【0031】
ここで、標準物質を使用した熱流計50の校正について説明する。熱流計50は、例えば、熱抵抗の安定している薄い板状の材料から構成される基板と、当該基板の一方の表面及び他方の表面に接続された複数の示差熱電対(サーモパイル)とを有する。この基板の一方の表面と他方の表面との間に温度差が形成されると、サーモパイルに起電力が発生する。
【0032】
熱流計50の校正においては、標準物質(具体的には、例えば、当該標準物質から構成される標準板)に当該熱流計50を重ね、当該標準物質の一方側の伝熱表面と他方側の伝熱表面との間に所定の温度差を形成した場合における熱流量と起電力との関係を求める。
【0033】
すなわち、まず、この場合の熱流量は、下記の式(III)で表される。
【数3】

【0034】
式(III)において、Qは標準物質を通過する熱流量であり、λは標準物質の熱伝導率であり、Δθは標準物質に形成される温度差であり、dは標準物質の厚さであり、Sは熱流の通過する面積(例えば、標準物質の伝熱表面の面積)である。ここで、熱伝導率λは温度の関数であることから、測定温度を変えることで、当該熱伝導率λが変わり、その結果、標準物質を通過する熱流量Qも変わる。
【0035】
そこで、測定温度を変えながら、各測定温度におけるサーモパイルの起電力を測定することにより、下記の式(IV)で表される関係が得られる。
【数4】

【0036】
式(IV)において、Vは熱流計50で発生する起電力であり、f(V,θ)は起電力V及び温度θの関数である。すなわち、熱流計50を校正するということは、この関数f(V,θ)を決定することである。
【0037】
熱流計50が適切に校正されたかどうかは、当該熱流計50がどの程度の熱流量Qの範囲で校正されたかによって決まる。例えば、上記式(III)によれば、熱流計50の校正時の熱流量Qは、標準物質の熱伝導率λに比例する。
【0038】
このため、標準物質として、上述のグラスウールボードを使用した校正時の熱流量Qと、Pyrex(登録商標)ガラスを使用した校正時の熱流量Qとの比は、当該グラスウールボードの熱伝導率λ(0.035W/(m・K))と、当該Pyrex(登録商標)ガラスの熱伝導率λ(1W/(m・K))との比となる。すなわち、Pyrex(登録商標)ガラスを使用した校正時の熱流量Qは、グラスウールボードを使用した校正時の熱流量Qの約30倍となる。
【0039】
このため、例えば、グラスウールボードで校正した熱流計50を使って、Pyrex(登録商標)ガラスと同等の1W/(m・K)程度の熱伝導率を測定する場合には、当該グラスウールボードによる校正で得られた係数Aを使用して、当該グラスウールボードによる校正時の熱流量Qの約30倍もの大きな熱流量を測定することになり、測定の誤差が極めて大きくなってしまう。
【0040】
したがって、従来、例えば、熱伝導率がグラスウールボードのそれと同等の標準物質で校正した熱流計50を使って、Pyrex(登録商標)ガラスと同等の熱伝導率を測定することは適切でないというのが技術常識であった。
【0041】
しかしながら一方で、グラスウールボードのように柔軟な表面を有する標準物質を使用する場合には、Pyrex(登録商標)ガラスのように硬い表面を有する標準物質を使用する場合に比べて、当該標準物質と加熱板30及び/又は冷却熱板40との間に不要な熱抵抗となる空気層が形成されることを効果的に回避することができるため、熱流計50の正確な校正を行うことができる。
【0042】
そこで、本発明の発明者は、グラスウールボードで校正した熱流計50を使用して、Pyrex(登録商標)ガラスのように1W/(m・K)程度の熱伝導率を正確に測定する方法について、独自に鋭意検討を重ね、本発明を完成するに至った。
【0043】
本方法は、このような発明者独自の検討に基づくものであり、加熱板30と冷却熱板40との間に、試験体10を、当該試験体10の外周面11が当該加熱板30の外周面31及び当該冷却熱板40の外周面41より内側となるように配置し、当該加熱板30と当該冷却熱板40との間で当該試験体10の当該外周面11を断熱材20で覆い、熱流計法により当該試験体10の熱伝導率を測定する方法である。
【0044】
すなわち、本方法においては、まず、加熱板30及び冷却熱板40より小さいサイズの試験体10を使用する。より具体的に、試験体10の第一伝熱表面12aの面積及び第二伝熱表面12bの面積は、加熱板30の当該試験体10側の伝熱表面31の面積及び冷却熱板40の当該試験体10側の伝熱表面41の面積より小さくなっている。
【0045】
そして、このような試験体10の外周面11を、その全周にわたって断熱材20で囲むとともに、当該試験体10と当該断熱材20とを加熱板30と冷却熱板40との間に配置する。
【0046】
このとき、試験体10は加熱板30及び冷却熱板40より小さいため、その外周面11は、当該加熱板30の外周面31及び冷却熱板40の外周面41より内側に配置される。すなわち、図2に示す例では、試験体10の外周面11が、加熱板30の外周面31及び冷却熱板40の外周面41より径方向の内側となるように配置されている。
【0047】
なお、主熱板と当該主熱板を囲む保護熱板とを含む加熱板30を使用する場合(例えば、JIS A 1412−2の附属書Bに規定される保護熱板式熱流計法により熱伝導率を測定する場合)には、試験体10は、その外周面11が当該保護熱板の外周面より内側となるように配置されることとしてもよく、その外周面11が当該主熱板の外周面より内側となるように配置されることとしてもよい。
【0048】
そして、本方法においては、加熱板30と冷却熱板40との間に、試験体10及び当該試験体10の外周面11に沿って配置された断熱材20が挟持された状態で、当該試験体10の熱伝導率を測定する。本方法において熱伝導率を測定する温度は特に限られないが、例えば、−10〜600℃の範囲内であることとしてもよい。
【0049】
より具体的に、熱伝導率を測定する温度は、例えば、−10〜100℃の範囲内であることとしてもよく、−10〜70℃の範囲内であることとしてもよい。この場合、例えば、グラスファイバーボード等の繊維体である標準物質による熱流計50の適切な校正を確実に行うことができる。
【0050】
また、熱伝導率を測定する温度は、例えば、100〜600℃の範囲内であることとしてもよい。なお、上述のとおり、本方法により熱伝導率を測定する温度は、これらの例に限られず、例えば、試験体10(例えば、カーボン繊維断熱材等の無機材料から構成される試験体10)の厚さが100mmである場合、当該試験体10の第一伝熱表面12aを2000℃に維持するとともに、第二伝熱表面12bを400℃以下の温度に維持した状態で当該試験体10の熱伝導率を測定することとしてもよい。
【0051】
試験体10は、本方法において測定の対象となるものであれば特に限られない。試験体10を構成する材料は、熱伝導率を測定できるものであれば特に限られず、任意の無機材料及び/又は有機材料とすることができる。
【0052】
無機材料としては、例えば、ガラス、セラミックス、金属、砂、土、石及びレンガからなる群より選択される1種以上とすることができる。有機材料としては、例えば、合成樹脂、合成ゴム、天然ゴム、紙及び木材からなる群より選択される1種以上とすることができる。
【0053】
試験体10の形状は、加熱板30と冷却熱板40との間に配置できれば特に限られず、例えば、板状とすることができる。また、図1〜図4に示す例において、試験体10の第一伝熱表面12a及び第二伝熱表面12bの形状は円形となっているが、これに限られず、例えば、楕円や多角形等、任意の形状であってもよい。
【0054】
試験体10の熱伝導率は、特に限られないが、例えば、−10〜100℃又は−10〜70℃における熱伝導率は、0.1W/(m・K)以上であることとしてもよく、0.25W/(m・K)以上であることとしてもよく、0.5W/(m・K)以上であることとしてもよく、1.0W/(m・K)以上であることとしてもよい。試験体10の上記熱伝導率の上限値は特に限られないが、例えば、当該熱伝導率は、100W/(m・K)以下であることとしてもよい。
【0055】
本方法においては、熱伝導率が試験体10のそれの2分の1以下である標準物質で校正された熱流計50を使用することとしてもよい。すなわち、この場合、本方法において所定の温度で測定される試験体10の熱伝導率は、熱流計50の校正に使用された標準物質のそれの2倍以上となる。標準物質の熱伝導率は、試験体10のそれの5分の1以下であることとしてもよく、10分の1以下であることとしてもよく、20分の1以下であることとしてもよい。なお、標準物質の熱伝導率は、試験体10のそれの1000分の1以上であることとしてもよい。
【0056】
標準物質の熱伝導率は、特に限られないが、例えば、−10〜100℃又は−10〜70℃における熱伝導率は、1.0W/(m・K)以下であることとしてもよく、0.5W/(m・K)以下であることとしてもよく、0.1W/(m・K)以下であることとしてもよく、0.05W/(m・K)以下であることとしてもよい。標準物質の上記熱伝導率の下限値は特に限られないが、例えば、当該熱伝導率は、0.001W/(m・K)以上であることとしてもよい。
【0057】
そして、本方法においては、このように熱伝導率の比較的小さい標準物質で校正した熱流計50を使用して、熱伝導率の比較的大きい試験体10の測定を行うことができる。
【0058】
すなわち、本方法においては、例えば、−10〜100℃又は−10〜70℃の温度範囲における熱伝導率が0.5W/(m・K)以下であって試験体10のそれの2分の1以下である標準物質で校正した熱流計50を使用して、当該温度範囲において、当該試験体10の熱伝導率を測定することとしてもよい。また、例えば、上記温度範囲における熱伝導率が0.1W/(m・K)以下であって試験体10のそれの2分の1以下、5分の1以下又は10分の1以下である標準物質で校正した熱流計50を使用して、当該温度範囲において、当該試験体10の熱伝導率を測定することとしてもよい。また、例えば、上記温度範囲における熱伝導率が0.05W/(m・K)以下であって試験体10のそれの2分の1以下、5分の1以下、10分の1以下又は20分の1以下である標準物質で校正した熱流計50を使用して、当該温度範囲において、当該試験体10の熱伝導率を測定することとしてもよい。
【0059】
また、本方法においては、例えば、−10〜100℃又は−10〜70℃の温度範囲における熱伝導率が0.5W/(m・K)以下の標準物質で校正した熱流計50を使用して、当該温度範囲において、1.0W/(m・K)以上である試験体10の熱伝導率を測定することとしてもよい。また、例えば、上記温度範囲における熱伝導率が0.1W/(m・K)以下の標準物質で校正した熱流計50を使用して、当該温度範囲において、0.2W/(m・K)以上、0.5W/(m・K)以上又は1.0W/(m・K)以上である試験体10の熱伝導率を測定することとしてもよい。また、例えば、上記温度範囲における熱伝導率が0.05W/(m・K)以下の標準物質で校正した熱流計50を使用して、当該温度範囲において、0.1W/(m・K)以上、0.25W/(m・K)以上、0.5W/(m・K)以上又は1.0W/(m・K)以上である試験体10の熱伝導率を測定することとしてもよい。
【0060】
標準物質は、熱流計50の校正に使用できるものであれば特に限られず、任意の無機材料及び/又は有機材料とすることができる。すなわち、標準物質は、例えば、繊維体であることとしてもよい。繊維体は、無機繊維及び/又は有機繊維から構成される成形体である。
【0061】
無機繊維としては、例えば、アルミナ−シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ロックウール、ガラス繊維(例えば、グラスウール)、バサルト繊維及び金属繊維からなる群より選択される1種以上を使用することができる。有機繊維としては、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、羊毛、木綿、麻及びアセテート繊維からなる群より選択される1種以上を使用することができる。
【0062】
また、標準物質は、例えば、合成樹脂であることとしてもよい。この場合、標準物質は、合成樹脂の発泡体であることとしてもよい。合成樹脂の発泡体としては、例えば、ウレタンフォーム及びポリスチレンフォームからなる群より選択される1種以上を使用することができる。
【0063】
標準物質は、グラスウールボードのように、柔軟な表面を有することが好ましい。すなわち、標準物質は、例えば、加熱板30の伝熱表面31及び冷却熱板40の伝熱表面41等の表面の形状に応じて変形し密着するような柔軟な表面を有することが好ましい。
【0064】
断熱材20は、試験体10の外周面11を介した熱の流入出を抑制できる断熱性を有するものであれば特に限られず、熱伝導率が当該試験体10のそれより小さい任意の断熱材を使用することができる。
【0065】
断熱材20を構成する材料は、上述の断熱性を発揮するものであれば特に限られず、任意の無機材料及び/又は有機材料とすることができる。無機材料としては、無機繊維を好ましく使用することができる。無機繊維系の断熱材20としては、例えば、アルミナ−シリカ系断熱材、アルミナ系断熱材、シリカ系断熱材、ロックウール断熱材、グラスウール断熱材、ケイ酸カルシウム保温材、金属繊維断熱材からなる群より選択される1種以上を使用することができる。無機繊維以外の無機材料から校正される断熱材20としては、例えば、金属箔を積層させることにより構成された金属保温材を使用することができる。
【0066】
有機材料としては、合成樹脂を好ましく使用することができる。この場合、断熱材20としては、合成樹脂の発泡体を好ましく使用することができる。合成樹脂の発泡体である断熱材20としては、例えば、ウレタンフォーム断熱材、ポリスチレンフォーム断熱材及び梱包材(例えば、エアキャップ)からなる群より選択される1種以上を使用することができる。また、有機繊維系の断熱材20を使用することもできる。また、断熱材20としては、例えば、ナノ複合材料断熱材(例えば、シリカ微粒子等の金属酸化物微粒子を含む多孔性断熱材)又は真空断熱材を使用することもできる。
【0067】
断熱材20の形状は、当該断熱材20が加熱板30と冷却熱板40との間で試験体10の外周面11を覆うことができれば特に限られず、例えば、板状又はシート状であることが好ましい。
【0068】
具体的に、断熱材20は、例えば、その厚さが試験体10のそれよりも小さいシート状の断熱材(例えば、無機繊維系のシート状断熱材)を複数積層して構成されてもよい。この場合、積層されるシート状断熱材の数によって、試験体10の厚さに合った、適切な厚さの断熱材20を形成することができる。
【0069】
シート状の断熱材20としては、例えば、アルミナ−シリカ系ペーパー等の無機繊維系ペーパー、発泡ゴムシートやウレタンフォームシート等の発泡樹脂系ペーパー、木質ペーパーや紙等の有機繊維系ペーパーからなる群より選択される1種以上を使用することができる。
【0070】
断熱材20の熱伝導率は、試験体10のそれより小さければ特に限られないが、例えば、当該試験体10の熱伝導率の10分の1以下であることとしてもよい。また、例えば、断熱材20の−10〜100℃又は−10〜70℃における熱伝導率は、0.2W/(m・K)以下であることとしてもよい。断熱材20の上記熱伝導率の下限値は特に限られないが、例えば、当該熱伝導率は、0.001W/(m・K)以上であることとしてもよい。
【0071】
断熱材20は、その内周面21と試験体10の外周面11との距離が1mm以下となるように配置されることが好ましく、その内周面21の少なくとも一部が試験体10の外周面11と接するように配置されることがより好ましく、その内周面21が試験体10の外周面11に密着するように配置されることが特に好ましい。
【0072】
なお、図1〜図4に示す例において、断熱材20は、その外周面22が、伝熱方向(加熱板30から冷却熱板40に向かう方向)において、加熱板30の外周面31及び冷却熱板40の外周面41と重なるように配置されているが、これに限られない。
【0073】
すなわち、断熱材20の外周面22の位置は、当該断熱材20によって試験体10の外周面11を介した熱の流入出を抑制できれば特に限られず、例えば、当該外周面22が加熱板30の外周面31及び冷却熱板40の外周面41より内側となるように配置されることとしてもよく、当該外周面22が加熱板30の外周面31及び冷却熱板40の外周面41より外側となるように配置されることとしてもよい。
【0074】
ただし、断熱材20の外周面22が、加熱板30の外周面31及び冷却熱板40の外周面41より外側となる場合には、外気との熱交換が行われる面積が増大してしまい、また、当該外周面22が当該外周面31,41より内側となる場合には、当該加熱板30及び冷却熱板40と外気との間で熱の流入出が生じてしまい、いずれの場合も測定の誤差が大きくなりやすい。このため、図1〜図4に示すように、伝熱方向において、断熱材20の外周面22の位置は、加熱板30の外周面31及び冷却熱板40の外周面41の位置と一致していることが好ましい。
【0075】
図4に示す熱伝導率測定装置1は、図1〜図3に示すような試験体10の配置を含み、さらに当該配置を囲む断熱層60を備えている。この断熱層60は、加熱板30の外周面31及び冷却熱板40の外周面41を介する熱の流入出を抑制するために設けられている。
【0076】
図4に示す例において、この断熱層60は、加熱板30の外周面31、断熱材20の外周面22及び冷却熱板40の外周面41を囲むように配置されている。また、図4に示す例において、断熱層60と、加熱板30の外周面31、断熱材20の外周面22及び冷却熱板40の外周面41との間には空気層61が形成されている。
【0077】
断熱層60を構成する材料は、加熱板30の外周面31及び冷却熱板40の外周面41を介する熱の流入出を抑制するものであれば特に限られず、例えば、ウレタンフォーム、アルミナシリカ系断熱材、ケイ酸カルシウム保温材、ロックウール、グラスウール及びポリスチレンフォームからなる群より選択される1種以上であることとしてもよい。
【0078】
本方法によれば、加熱板30と冷却熱板40との間で、試験体10の外周面11を介した熱の流入出を効果的に抑制することができる。このため、例えば、熱伝導率が試験体10のそれより小さい標準物質で校正した熱流計50を使用する場合であっても、当該試験体10の熱伝導率を精度よく測定することができる。
【0079】
すなわち、本方法においては、加熱板30及び冷却熱板40よりも小さいサイズの試験体10を使用し、且つ当該加熱板30と冷却熱板40との間で当該試験体10の外周面11を断熱材20で覆うことにより、当該試験体10の外周面11を介した熱の流入出を効果的に抑制し、熱伝導率が当該試験体10のそれより小さい標準物質による熱流計50の校正時の環境に近い環境を実現する。
【0080】
そして、熱伝導率が小さい標準物質で校正した熱流計50を、当該校正時の環境に近い環境で使用することにより、当該標準物質のそれより大きな試験体10の熱伝導率を精度よく測定することができる。
【0081】
なお、従来は、図5に示すように、試験体110のサイズは、加熱板130及び冷却熱板140のサイズと同一であった。すなわち、試験体110は、その外周面111が、伝熱方向において、加熱板130の外周面131及び冷却熱板140の外周面141と一致する位置となるように配置されていた。
【0082】
この点、例えば、上述のJIS A 1412−2には、試験体110のサイズは、加熱板130を完全に覆うサイズとすることや、試験体110の形状及び寸法は、加熱板130のそれらに合わせることが規定されている。
【0083】
これは、従来、熱伝導率が試験体110のそれと同等の標準物質で熱流計150を校正することが技術常識であったため、加熱板130及び冷却熱板140を、これらと同一の形状及び寸法の当該試験体110で完全に覆うことにより、当該標準物質による校正時と同一の環境を形成できると考えられていたためである。
【0084】
これに対し、本発明の発明者は、熱伝導率が試験体10のそれより小さい標準物質で熱流計50を校正し、且つ当該熱流計50を当該校正時の環境に近い環境で使用することにより、当該標準物質の熱伝導率より大きな当該試験体10の熱伝導率を正確に測定するという独自の技術思想に基づき検討を重ね、上述のような本方法に到達したのである。
【0085】
また、図5に示すように、従来の熱伝導率測定装置100も、図4に示す断熱層60と同様の断熱層160を有していた。この断熱層160は、試験体110の外周面111と接することなく配置されていた。すなわち、断熱層160と、加熱板130の外周面131、試験体110の外周面111及び冷却熱板140の外周面141との間には空気層161が形成されていた。具体的、断熱層160は、例えば、これら外周面131,111,141から1mm以上離れて配置されていた。
【0086】
図6Aには、本方法における試験体10の配置の他の例を示す。すなわち、本方法においては、図6Aに示すように、試験体10と加熱板30との間及び当該試験体10と冷却熱板40との間の少なくとも一方に、熱伝導率が当該試験体10のそれより小さい熱抵抗層70を配置することとしてもよい。具体的に、図6Aに示す例においては、試験体10と加熱板30との間及び当該試験体10と冷却熱板40との間にそれぞれ熱抵抗層70が配置されている。
【0087】
熱抵抗層70の熱伝導率は、試験体10のそれより小さければ特に限られないが、例えば、当該試験体10のそれの10分の1以下であることとしてもよく、2分の1以下であることとしてもよい。
【0088】
また、例えば、熱抵抗層70の−10〜100℃又は−10〜70℃における熱伝導率は、0.05W/(m・K)以下であることとしてもよく、0.1W/(m・K)以下であることとしてもよい。熱抵抗層70の上記熱伝導率の下限値は特に限られないが、例えば、当該熱伝導率は、0.001W/(m・K)以上であることとしてもよい。
【0089】
熱抵抗層70を構成する材料は、当該熱抵抗層70による熱抵抗を試験体10によるそれより大きくするものであれば特に限られず、任意の無機材料及び/又は有機材料とすることができる。
【0090】
無機材料及び/又は有機材料としては、無機繊維及び/又は有機繊維を好ましく使用することができる。無機繊維としては、例えば、アルミナ−シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ロックウール、ガラス繊維及びバサルト繊維からなる群より選択される1種以上を使用することができる。有機繊維としては、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、羊毛、木綿、麻及びアセテート繊維からなる群より選択される1種以上を使用することができる。
【0091】
また、熱抵抗層70を構成する有機材料は、ゴム等の合成樹脂であることとしてもよい。この場合、熱抵抗層70としては、発泡ゴムシート等、合成樹脂の発泡体を好ましく使用することができる。また、熱抵抗層70は、木材及び/又は紙で構成されることとしてもよい。
【0092】
熱抵抗層70は、柔軟なシートから構成されることが好ましい。すなわち、例えば、熱抵抗層70が無機繊維及び/又は有機繊維から構成されるシート、ゴムシート及び発泡体シートからなる群より選択される1種以上である場合には、当該熱抵抗層70は、柔軟なシートから構成されたものとすることができる。
【0093】
熱抵抗層70が柔軟なシートから構成されることにより、例えば、当該熱抵抗層70と、試験体10の第一伝熱表面12a及び/又は第二伝熱表面12bとの間に隙間(空気層)が形成されることを効果的に回避することができる。
【0094】
本方法においては、熱抵抗層70を設けることにより、試験体10を通過する熱流量を効果的に低減することができる。すなわち、試験体10に熱抵抗層70を積層することにより、当該試験体10と当該熱抵抗層70とを含み、正味の熱伝導性が当該試験体10単独のそれより低い、仮想的な試験体を形成することができる。
【0095】
このため、例えば、熱伝導率が試験体10のそれより小さい標準物質で校正した熱流計50を使用する場合であっても、当該試験体10の熱伝導率を精度よく測定することができる。
【0096】
すなわち、本方法においては、熱抵抗層70を設けることにより、試験体10を通過する熱流量を効果的に抑制し、熱伝導率が当該試験体10のそれより小さい標準物質による熱流計50の校正時の環境に近い環境を実現する。
【0097】
そして、熱伝導率が小さい標準物質で校正した熱流計50を、当該校正時の環境に近い環境で使用することにより、当該標準物質より大きな試験体10の熱伝導率を精度よく測定することができる。
【0098】
また、熱伝導率が試験体10のそれより小さく柔軟な表面を有する標準物質で校正した熱流計50を使用する場合には、柔軟なシートから構成される熱抵抗層70を設けることにより、当該標準物質による熱流計50の校正時の環境により近い環境を実現することもできる。
【0099】
また、本方法は、図6Aに示すように、試験体10の第一伝熱表面12a及び第二伝熱表面12bのそれぞれに、温度センサー51を直接接触させて配置することとしてもよい。すなわち、この場合、試験体10の第一伝熱表面12aの温度を測定するための温度センサー51が当該第一伝熱表面12aに直接接触して配置され、第二伝熱表面12bの温度を測定するための温度センサー51が当該第二伝熱表面12bに直接接触して配置される。温度センサー51は、温度を測定できるものであれば特に限られないが、例えば、熱電対であることとしてもよい。
【0100】
温度センサー51を配置する方法は特に限られず、例えば、当該温度センサー51と、試験体10の第一伝熱表面12a及び第二伝熱表面12bとを溶接する方法や、粘着テープによって当該温度センサー51を当該第一伝熱表面12a及び第二伝熱表面12bに貼り付ける方法を使用することができる。
【0101】
なお、図6Aに示す例では、第一伝熱表面12a及び第二伝熱表面12bのそれぞれに温度センサー51を配置するとともに、試験体10の加熱板30側及び冷却熱板40側のそれぞれに熱流計50が配置されているが、温度センサー51の配置はこれに限られず、例えば、温度センサーとしても機能する熱流計50を当該第一伝熱表面12a及び第二伝熱表面12bのそれぞれに接触させて配置することとしてもよい。
【0102】
試験体10の第一伝熱表面12a及び第二伝熱表面12bのそれぞれに、温度センサー51を直接接触させて配置することにより、当該第一伝熱表面12aの温度及び第二伝熱表面12bの温度を正確に測定することができる。
【0103】
すなわち、上述のとおり、上記式(I)に基づき試験体10の熱伝導率を測定するにあたっては、当該試験体10の第一伝熱表面12aと第二伝熱表面12bとの温度差を正確に測定することは容易でない。特に、試験体10の熱伝導率が比較的大きい場合には、第一伝熱表面12aと第二伝熱表面12bとの温度差が小さくなるため、当該温度差を正確に測定することは難しい。
【0104】
この点、試験体10の第一伝熱表面12a及び第二伝熱表面12bのそれぞれに直接接触する温度センサー51によれば、小さな温度差を正確に測定することができる。
【0105】
さらに、本方法においては、温度センサー51は示差熱電対であり、当該示差熱電対の起電力に基づき試験体10の第一伝熱表面12aと第二伝熱表面12bとの温度差を算出し、当該温度差に基づいて当該試験体10の熱伝導率を測定することとしてもよい。
【0106】
すなわち、この場合、温度センサー51は、第一伝熱表面12a及び第二伝熱表面12bのそれぞれに直接接触して配置された示差熱電対である。示差熱電対は、特に限られないが、例えば、Kタイプ、Tタイプ、Bタイプ、Rタイプ、Sタイプ、Nタイプ、Eタイプ及び/又はJタイプのものを使用することができる。
【0107】
そして、定常状態において生じる示差熱電対の起電力を測定し、測定された当該起電力を温度に換算することにより、当該第一伝熱表面12aと当該第二伝熱表面12bとの温度差を算出する。
【0108】
このように示差熱電対の起電力から換算することにより、当該示差熱電対の温度測定により算出する場合に比べて、第一伝熱表面12aと第二伝熱表面12bとの温度差をより正確に求めることができる。
【0109】
また、熱抵抗層70が柔軟なシートから構成されている場合には、当該熱抵抗層70を試験体10の第一伝熱表面12a及び/又は第二伝熱表面12bに積層することにより、当該第一伝熱表面12a及び第二伝熱表面12bに配置された温度センサー51の凹凸による隙間の形成を効果的に回避することができる。
【0110】
図6Bには、本方法における試験体10の配置のさらに他の例を示す。すなわち、本方法においては、図6Bに示すように、試験体10と加熱板30との間及び当該試験体10と冷却熱板40との間の少なくとも一方に、熱伝導率が当該試験体10のそれより大きい熱拡散層80を配置することとしてもよい。
【0111】
具体的に、図6Bに示す例において、熱拡散層80は、試験体10と加熱板30との間及び当該試験体10と冷却熱板40との間のそれぞれに配置されており、より具体的には、一方の熱抵抗層70と試験体10(さらに具体的には、試験体10及び断熱材20)との間及び他方の熱抵抗層70と当該試験体10(さらに具体的には、当該試験体10及び当該断熱材20)との間のそれぞれに配置されている。なお、熱抵抗層70は、例えば、一方の熱抵抗層70と加熱板30との間及び他方の熱抵抗層70と冷却熱板40との間のそれぞれに配置されることとしてもよいが、上述の図6Bに示す配置が好ましい。
【0112】
熱拡散層80の熱伝導率は、試験体10の熱伝導率より大きければ特に限られず、例えば、当該試験体10の熱伝導率の10倍以上であることとしてもよく、100倍以上であることとしてもよい。
【0113】
また、例えば、熱拡散層80の−10〜100℃又は−10〜70℃における熱伝導率は、10W/(m・K)以上であることとしてもよく、100W/(m・K)以上であることとしてもよい。熱拡散層80の上記熱伝導率の上限値は特に限られないが、例えば、当該熱伝導率は、2000W/(m・K)以下であることとしてもよい。
【0114】
熱拡散層80を構成する材料は、当該熱拡散層80の熱伝導率が試験体10のそれより大きくなるものであれば特に限られず、任意の無機材料及び/又は有機材料とすることができる。すなわち、熱拡散層80は、例えば、金属シート、合成樹脂シート及び炭素繊維シートからなる群より選択される1種以上であることとしてもよい。
【0115】
金属シートを構成する金属としては、熱伝導率の高いものが好ましく、例えば、アルミニウム、金、銀、銅、鉄、白金、ステンレス及びこれらの合金からなる群より選択される1種以上を使用することができる。合成樹脂シートとしては、粘着性のあるものが好ましく、例えば、ポリイミドフィルム及びフッ素系樹脂フィルムからなる群より選択される1種以上を使用することができる。
【0116】
熱拡散層80を設けることにより、試験体10の第一伝熱表面12a及び/又は第二伝熱表面12bに沿った方向における熱伝導を促進し、当該方向における当該第一伝熱表面12aの温度及び/又は第二伝熱表面12bの温度を均一化することができる。
【0117】
このため、例えば、熱流計50及び/又は温度センサー51を配置する位置、及び/又は当該熱流計50及び/又は温度センサー51が存在することによる外部との熱交換の影響を効果的に低減することができる。
【0118】
図6Cには、本方法における試験体10の配置のさらに他の例を示す。すなわち、本方法においては、図6Cに示すように、熱拡散層80の試験体10側に、放射率が当該熱拡散層80のそれより大きい熱吸収層81を配置することとしてもよい。
【0119】
具体的に、図6Cに示す例において、熱吸収層81は、一方の熱拡散層80の試験体10側及び他方の熱拡散層80の当該試験体10側のそれぞれに配置されており、より具体的には、一方の熱拡散層80と試験体10(さらに具体的には、試験体10及び断熱材20)との間及び他方の熱拡散層80と当該試験体10(さらに具体的には、当該試験体10及び当該断熱材20)との間のそれぞれに配置されている。
【0120】
熱吸収層81の放射率は、熱拡散層80の放射率より大きければ特に限られないが、1.0に近いほど好ましく、例えば、0.5以上であることとしてもよく、0.8以上であることが好ましい。熱吸収層81を構成する材料は、当該熱吸収層81の放射率が熱拡散層80のそれより大きくなるものであれば特に限られない。すなわち、熱吸収層81は、例えば、熱拡散層80の試験体10側の表面に黒色の塗料を塗布することにより形成された層であることとしてもよい。
【0121】
熱吸収層81を設けることにより、熱拡散層80による熱輻射の反射を効果的に抑制することができる。
【0122】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例】
【0123】
市販の熱伝導率測定装置(HC−110、英弘精機株式会社製)を使用して、熱流計法により、試験体10の熱伝導率を測定した。この熱伝導率測定装置は、−10℃以上の温度における熱伝導率の測定に好ましく使用されるものであった。
【0124】
標準物質としては、NISTから提供されたグラスファイバーボード(SRM 1450c)を使用した。このグラスファイバーボードは、加熱板30等の表面と良好に接触する柔軟な表面を有し、当該グラスファイバーボードと当該加熱板30等の表面との接触熱抵抗をほぼ無視できる程度の低い熱伝導率(約0.035W/(m・K)と高い空隙率とを有していた。また、このグラフファイバーボードは、6〜70℃の温度範囲で好ましく使用されるものであった。
【0125】
試験体10としては、NISTから提供されたPyrex(登録商標)ガラス(Pyrex(登録商標) 7740)を使用した。このPyrex(登録商標)ガラスは、直径が50mm、厚さが6.6mm、重量が29.7g、密度が2.2×10kg/mであった。
【0126】
加熱板30及び冷却熱板40はいずれも、温度センサーとしても機能する熱流計50が埋め込まれた直径が61mmの円板状のヒータであった。そして、グラスファイバーボードにより校正した熱流計50を使用して、Pyrex(登録商標)ガラスからなる試験体10の熱伝導率を測定した。
【0127】
[比較例1]
図7Aに示すように、加熱板30と冷却熱板40との間に、試験体10を、当該試験体10の外周面11が当該加熱板30の外周面31及び当該冷却熱板40の外周面41より内側となるように配置し、当該試験体10の外周面11を断熱材20(例えば、図6A参照)等で覆うことなく、当該試験体10の熱伝導率を測定した。
【0128】
すなわち、図7Aに示すように、試験体10の外周面11と加熱板30及び冷却熱板40の外周面31,41との間には何も配置されず、空気層62からなる隙間が形成されていた。
【0129】
[比較例2]
図7Bに示すように、上述した比較例1の配置(図7Aに示す配置)に次の構成を追加して、試験体10の熱伝導率を測定した。すなわち、試験体10の第一伝熱表面12a及び第二伝熱表面12bのそれぞれに温度センサー51を直接接触させて配置するとともに、当該第一伝熱表面12a上の温度センサー51の加熱板30側、及び当該第二伝熱表面12b上の温度センサー51の冷却熱板40側のそれぞれに、無機繊維ペーパーの一種であるセラミックスペーパーから構成される熱抵抗層70を積層した。
【0130】
温度センサー51としては、市販の示差熱電対(Kタイプ)を使用し、当該示差熱電対の起電力から換算することにより、試験体10の第一伝熱表面12aと第二伝熱表面12bとの温度差を算出した。
【0131】
[実施例1]
図6Aに示すように、上述した比較例2の配置(図7Bに示す配置)に次の構成を追加して、試験体10の熱伝導率を測定した。すなわち、加熱板30と冷却熱板40との間で、試験体10の外周面11を断熱材20で覆った。断熱材20は、リング状のセラミックスペーパーを複数積層することにより形成した。
【0132】
[実施例2]
図6Bに示すように、上述した実施例1の配置(図6Aに示す配置)に次の構成を追加して、試験体10の熱伝導率を測定した。すなわち、一方の熱抵抗層70と試験体10との間、及び他方の熱抵抗層70と当該試験体10との間に熱拡散層80を配置した。熱拡散層80としては、円形のアルミニウム箔を使用した。
【0133】
[実施例3]
図6Cに示すように、上述した実施例2の配置(図6Bに示す配置)に次の構成を追加して、試験体10の熱伝導率を測定した。すなわち、熱拡散層80の試験体10側の表面に熱吸収層81を形成した。熱吸収層81は、熱拡散層80を構成するアルミニウム箔の試験体10側の表面に黒色の塗料を塗布することにより形成した。
【0134】
[熱伝導率の測定結果]
図8に熱伝導率を測定した結果を示す。図8において、横軸は熱伝導率を測定した温度θ(℃)を示し、縦軸は測定された熱伝導率λ(W/(m・K))を示す。また、図8において、白抜き三角印は比較例1、白抜き菱形印は比較例2、黒塗り四角印は実施例1、黒塗り三角印は実施例2、及び黒塗り丸印は実施例3においてそれぞれ測定された値を示し、実線は、使用された熱伝導率測定装置の製造者(英弘精機株式会社)から試験体10(Pyrex(登録商標) 7740)の真の熱伝導率として提供された標準値を示す。
【0135】
図8に示すように、比較例1及び比較例2において測定された熱伝導率は、標準値より顕著に小さかった。すなわち、比較例1及び比較例2においては、試験体10の熱伝導率を正確に測定することはできなかった。
【0136】
これに対し、実施例1〜3において測定された熱伝導率は、標準値に近かった。すなわち、実施例1〜3においては、加熱板30と冷却熱板40との間で試験体10の外周面11を断熱材20で覆うことにより、比較例1,2に比べて測定精度が顕著に向上した。さらに、実施例2では、標準値との差が10%の範囲内の熱伝導率が得られ、実施例3では、当該標準値との差が5%の範囲内の熱伝導率が得られた。
【0137】
このように、加熱板30と冷却熱板40との間に、試験体10を、当該試験体10の外周面11が当該加熱板30の外周面31及び当該冷却熱板40の外周面41より内側となるように配置し、当該加熱板30と当該冷却熱板40との間で当該試験体10の当該外周面11を断熱材20で覆うことにより、熱流計50の校正に使用した標準物質の熱伝導率の約30倍に相当する1W/(m・K)程度の熱伝導率を精度よく測定することができた。
【符号の説明】
【0138】
1 熱伝導率測定装置、10 試験体、11 試験体の外周面、12a 第一伝熱表面、12b 第二伝熱表面、20 断熱材、21 断熱材の内周面、22 断熱材の外周面、30 加熱板、31 加熱板の外周面、32 加熱板の伝熱表面、40 冷却熱板、41 冷却熱板の外周面、42 冷却熱板の伝熱表面、50 熱流計、60 断熱層、61 空気層、62 空気層、70 熱抵抗層、80 熱拡散層、81 熱吸収層、100 従来の熱伝導率測定装置、100 試験体、111 試験体の外周面、130 加熱板、131 加熱板の外周面、140 冷却熱板、141 冷却熱板の外周面、150 熱流計、160 断熱層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱板と冷却熱板との間に、試験体を、前記試験体の外周面が前記加熱板の外周面及び前記冷却熱板の外周面より内側となるように配置し、
前記加熱板と前記冷却熱板との間で前記試験体の前記外周面を断熱材で覆い、
熱流計法により前記試験体の熱伝導率を測定する
ことを特徴とする熱伝導率測定方法。
【請求項2】
熱伝導率が前記試験体のそれの2分の1以下である標準物質で校正された熱流計を使用する
ことを特徴とする請求項1に記載の熱伝導率測定方法。
【請求項3】
前記試験体と前記加熱板との間及び前記試験体と前記冷却熱板との間の少なくとも一方に、熱伝導率が前記試験体のそれより小さい熱抵抗層を配置する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の熱伝導率測定方法。
【請求項4】
前記試験体の前記加熱板側の第一伝熱表面及び前記冷却熱板側の第二伝熱表面のそれぞれに、温度センサーを直接接触させて配置する
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の熱伝導率測定方法。
【請求項5】
前記温度センサーは示差熱電対であり、
前記示差熱電対の起電力に基づき前記試験体の前記第一伝熱表面と前記第二伝熱表面との温度差を算出し、
前記温度差に基づいて前記試験体の熱伝導率を測定する
ことを特徴とする請求項4に記載の熱伝導率測定方法。
【請求項6】
前記試験体と前記加熱板との間及び前記試験体と前記冷却熱板との間の少なくとも一方に、熱伝導率が前記試験体のそれより大きい熱拡散層を配置する
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の熱伝導率測定方法。
【請求項7】
前記熱拡散層の前記試験体側に、放射率が前記熱拡散層のそれより大きい熱吸収層を配置する
ことを特徴とする請求項6に記載の熱伝導率測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6A】
image rotate

【図6B】
image rotate

【図6C】
image rotate

【図7A】
image rotate

【図7B】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−88258(P2013−88258A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228250(P2011−228250)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】