説明

熱伝導率測定装置

【課題】測定性能に優れた熱伝導率測定装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る熱伝導率測定装置は、試料を加熱する熱板(110)を備えた熱伝導率測定装置であって、前記熱板(110)は、二次元的に配置されフレキシブルに連結された複数のブロック(10)と、前記複数のブロック(10)に挿通されたヒータ線(20)と、を有するものである。前記ブロック(10)は、セラミックス製であることとしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導率測定装置に関し、特に、熱伝導率測定装置の測定性能の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
断熱材等の試料の熱伝導率の測定は、保護熱板(Guarded Hot Plate:GHP)法や熱流計法により行われている。特に、100℃以上の温度における熱伝導率は、GHP法により測定することが主流である。GHP法による熱伝導率の測定は、試料を加熱する熱板を備えた熱伝導率測定装置を使用して行われる。
【0003】
従来、この熱伝導率測定装置としては、例えば、特許文献1に記載されているように、ステンレス等の金属製の板材と当該板材に配置されたヒータ線とを有する熱板を備えたものがあった。また、非特許文献1においては、アルミナ製の板材と、当該板材上に配置された複数の碍子管と、当該複数の碍子管に挿通された白金線と、を有する熱板を備えた熱伝導率測定装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−169346号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】大村高弘;熱物性、Vol.21, No.2, pp.86-96, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の熱伝導率測定装置の熱板は、実質的に可とう性を有しないものであったため、例えば、表面に凹凸のある試料の熱伝導率を測定する場合には、当該試料と当該熱板との間に隙間が形成され、熱伝導率を正確に測定できないことがあった。また、上記従来の熱伝導率測定装置の熱板においては、後述する劣化や破損等の不具合が一部に生じた場合、当該不具合の影響が他の部分に伝播しやすかった。
【0007】
また、上記特許文献1に記載されている熱伝導率測定装置の熱板においては、ヒータ線が金属板に配置されているため、例えば、800℃程度の高温で熱伝導率の測定を繰り返すことにより、当該金属板が劣化して、ヒータ線や熱電対線の断線、当該金属板の変形や表面粗さの変化といった不具合が生じ、その結果、測定精度が低下したり、測定が不可能となることがあった。したがって、このような金属板を有する熱板を使用して、1000℃を超える高温で熱伝導率の測定を行うことは実質的に不可能であった。また、上述の不具合が生じた熱板の修理には多大な手間と費用を要していた。
【0008】
一方、上記非特許文献1に記載されている熱伝導率測定装置の熱板においては、ヒータ線がアルミナ板に配置されているため、1000℃を超える高温(例えば、1000℃〜1300℃)での測定も可能であった。しかしながら、一般に、セラミックスは熱衝撃に弱く、セラミックス製の部材のサイズが大きくなるにつれて破損しやすくなる。このため、上記非特許文献1に記載されているアルミナ板は、高温での急激な温度変化により破損しやすいという問題があった。
【0009】
また、熱板には熱電対が配置される。熱電対は、上記特許文献1に記載されているような金属板に対しては、溶接、又は当該金属板に穴や溝を形成して埋め込むといった方法により安定して固定することができた。しかしながら、上記非特許文献1に記載されているアルミナ板等のセラミックス板に対しては、金属板に対するような方法を使用できず、熱電対を安定して固定することが困難であった。このため、上記非特許文献1に記載されている熱伝導率測定装置においては、例えば、熱板に試料を設置する際に熱電対の位置がずれてしまう等、当該熱板の所望の位置に当該熱電対を安定して固定できないという問題があった。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであって、測定性能に優れた熱伝導率測定装置を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る熱伝導率測定装置は、試料を加熱する熱板を備えた熱伝導率測定装置であって、前記熱板は、二次元的に配置されフレキシブルに連結された複数のブロックと、前記複数のブロックに挿通されたヒータ線と、を有することを特徴とする。本発明によれば、測定性能に優れた熱伝導率測定装置を提供することができる。
【0012】
また、前記ブロックは、セラミックス製であることとしてもよい。また、前記熱板は、主熱板と保護熱板とを含み、前記主熱板及び前記保護熱板の一方又は両方が、前記複数のブロックを有することとしてもよい。また、前記熱板は、前記3つ以上のブロックの境界点に配置された熱電対をさらに有することとしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、測定性能に優れた熱伝導率測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る熱伝導率測定装置の一例について、その主な構成の断面を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る熱伝導率測定装置の一例について、その一部を構成する部材を斜視で示す説明図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る熱伝導率測定装置の熱板の一例を平面視で示す説明図である。
【図4】図3に示すIV−IV線で切断した熱板の断面を示す説明図である。
【図5】図3に示す熱板の一部を拡大して示す説明図である。
【図6】図4に示す熱板の一部を拡大して示す説明図である。
【図7】図6に示す熱板の一部が変形する様子を示す説明図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る熱伝導率測定装置の熱板の他の例について、その一部の断面を示す説明図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る熱伝導率測定装置の熱板のさらに他の例について、その一部の断面を示す説明図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る熱伝導率測定装置の熱板のさらに他の例について、その一部を平面視で示す説明図である。
【図11A】図10に示すXI−XI線で切断した熱板の断面を示す説明図である。
【図11B】図11Aに示す熱板の一部が変形する様子を示す説明図である。
【図12】本発明の一実施形態に係る熱伝導率測定装置の熱板のさらに他の例について、その一部を平面視で示す説明図である。
【図13】本発明の一実施形態に係る熱伝導率測定装置の他の例について、その主な構成の断面を示す説明図である。
【図14】本発明の一実施形態に係る実施例において、ロックウール断熱材の熱伝導率を測定した結果の一例を示す説明図である。
【図15】本発明の一実施形態に係る実施例において、シリカ系繊維断熱材の熱伝導率を測定した結果の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は、本実施形態に限られるものではない。
【0016】
まず、本実施形態に係る熱伝導率測定装置(以下、「本装置100」という。)の概要について説明する。図1は、本装置100の一例について、その主な構成の断面を示す説明図である。図2は、本装置100の一部を構成する部材を斜視で示す説明図である。
【0017】
図1及び図2に示すように、本装置100は、試料200を加熱する熱板110を備えた熱伝導率測定装置である。熱板110は、試料200の一方側に配置されている。熱板110は、試料200の一方側の表面(以下、「高温側表面201」という。)を加熱して、当該試料200内に熱流を生じさせる。
【0018】
また、この例において、熱板110は、主熱板120と保護熱板130とを含んでいる。主熱板120は、試料200の中央部分に対応する位置に配置されて、熱板110の中央部分を構成する。保護熱板130は、主熱板120の外周を囲むように配置されて、熱板110の外周部分を構成する。保護熱板130の温度は、主熱板120の温度と等しくなるように制御される。主熱板120と保護熱板130との間には、これらの間の熱伝導を抑制するための断熱層140が形成されている。
【0019】
本装置100は、さらに、試料200の他方側(熱板110とは反対側)に配置される冷却板150を備えている。すなわち、試料200は、熱板110と冷却板150とに挟持される。冷却板150は、試料200の他方側の表面(以下、「低温側表面202」という。)を高温側表面201より低い温度に維持する。
【0020】
具体的に、例えば、熱板110は、試料200の高温側表面201を第一の温度で加熱する高温側ヒータであり、冷却板150は、当該試料200の低温側表面202を当該第一の温度より低い第二の温度で加熱する低温側ヒータである。
【0021】
そして、定常状態においては、試料200の高温側表面201は第一の温度に維持され、当該試料200の低温側表面202は第二の温度に維持される。このとき、高温側表面201と低温側表面202との温度差(第一の温度と第二の温度との差)に基づいて、当該高温側表面201から当該低温側表面202に向けて、試料200内に熱流が生じる。
【0022】
また、この例において、本装置100は、熱板110の試料200と反対側に配置された断熱材160、当該断熱材160の当該熱板110と反対側に配置されて、その温度が主熱板120の温度と等しくなるように制御される補償ヒータ170、当該補償ヒータ170の当該断熱材160と反対側に配置された断熱材161、冷却板150の当該試料200と反対側に配置された断熱材162、これらを含む積層体の外周を囲むように配置された断熱材163、及び当該断熱材163の外周を囲むように配置された外周ヒータ171をさらに備えている。
【0023】
ここで、本装置100による熱伝導率の測定方法について説明する。図1及び図2に示す例に係る本装置100は、例えば、GHP法又は周期加熱法による熱伝導率の測定に使用することができ、特にGHP法による測定に好ましく使用することができる。また、この例に係る本装置100においては、試料200が熱板110の一方側にのみ配置されているため、熱伝導率の測定は、いわゆる1枚法により行うこととなる。
【0024】
GHP法では、下記式(I)に示すように、厚さdの平板である試料200を熱板110で加熱して、当該試料200の高温側表面201から低温側表面202に向けて(すなわち、熱板110から冷却板150に向けて)一次元定常熱流を生じさせ、このときの発熱量Qと、熱流面積S、当該試料200の高温側表面201と低温側表面202との温度差Δθから、熱伝導率λを求める。
【0025】
【数1】

【0026】
測定時には、保護熱板130の温度を、主熱板120の温度と等しくなるように制御することによって、試料200の中央部分から外周方向に熱流が生じることを抑制する。また、断熱材160によって熱板110の試料200と反対側を断熱し、さらに、補償ヒータ170の温度を、主熱板120の温度と等しくなるように制御することによって、当該主熱板120から当該試料200と反対側に熱流が生じることを抑制し、当該主熱板120から冷却板150への効率的な熱流を実現する。なお、温度の測定には、例えば、熱電対が好ましく使用される。
【0027】
測定の対象となる試料200は、熱板110と冷却板150との間に挟持できるものであれば特に限られない。すなわち、試料200としては、例えば、断熱材、プラスチック、木材、石膏ボード、セメントとすることができる。断熱材としては、例えば、ロックウール断熱材、グラスウール断熱材、アルミナファイバーウール断熱材、アルミナ系繊維質断熱材、アルミナシリカ系繊維質断熱材等の繊維質断熱材や、ケイ酸カルシウム断熱材等の多孔質断熱材が挙げられる。試料200の形状は、平板状とすることが好ましい。
【0028】
次に、本装置100の熱板110について詳細に説明する。図3は、本装置100の熱板110の一例を平面視で示す説明図である。図4は、図3に示すIV−IV線で切断した熱板110の断面を示す説明図である。図5は、図3に示す熱板110の一部を拡大して示す説明図である。図6は、図4に示す熱板110の一部を拡大して示す説明図である。図7は、図6に示す熱板110の一部が変形する様子を示す説明図である。
【0029】
なお、本実施形態において、本装置100が同様の部材を複数有する場合には、番号に小文字のアルファベットを加えた符号を付して説明することがある。また、同様の複数の部材を互いに区別する必要がない場合には、小文字のアルファベットを省略して番号のみからなる符号を付して説明することもある。
【0030】
図3〜図7に示すように、本装置100の熱板110は、二次元的に配置されフレキシブルに連結された複数のブロック10と、当該複数のブロック10に挿通されたヒータ線20と、を有している。
【0031】
この例において、熱板110は、主熱板120と保護熱板130とを有している。そして、これら主熱板120及び保護熱板130の両方が、複数のブロック10を有している。より具体的に、熱板110は、1つの四角形状の主熱板120と、当該主熱板120の4つの辺に対応する位置に配置される4つの保護熱板130a〜130dと、を有している。そして、主熱板120、及び当該主熱板120を囲むように配置された4つの保護熱板130a〜130dの各々が、複数のブロック10を有して構成されている。
【0032】
複数のブロック10は、互いに別体として形成された部材である。ブロック10の形状やサイズは、複数の当該ブロック10を二次元的に配置し、且つフレキシブルに連結できれば特に限られない。
【0033】
すなわち、複数のブロック10は、例えば、その試料200側の表面(以下、「上面11」という。)が二次元的に連なって、熱板110の当該試料200側の表面(以下、「上面111」という。)を構成できるように形成されている。具体的に、図6に示すように、複数のブロック10a〜10dの各々は平坦な上面11a〜11dを有し、当該上面11a〜11dが二次元的に連なって、熱板110の平坦な上面111を形成している。また、図3〜図7に示す例において、各ブロック10は、四角柱状に形成されている。
【0034】
ブロック10のサイズは、熱板110のフレキシビリティを実現することができ、当該ブロック10にヒータ線20を挿通できれば特に限られない。ブロック10のサイズを小さくすることにより、熱板110の上面111が、試料200の高温側表面201の形状に追従しやすくなるとともに、ヒータ線20で加熱された場合に当該ブロック10の温度を均一化しやすくなる。
【0035】
すなわち、ブロック10は、例えば、面積が25〜1600mmの上面11を有し、厚さが1〜40mmの部材とすることができる。より具体的に、ブロック10が四角柱状の場合、当該ブロック10は、例えば、5〜40mm×5〜40mmの四角形の上面11を有し、厚さが1〜40mmの部材とすることができる。
【0036】
ブロック10を構成する材料は、ヒータ線20の発熱に耐える耐熱性と、当該ヒータ線20からの熱を試料200に伝える熱伝導性と、を有するものであれば特に限られない。すなわち、ブロック10は、上述の耐熱性及び熱伝導性を有する任意の無機材料又は有機材料で構成することができ、特に耐熱性の観点から無機材料で構成されることが好ましい。また、ブロック10を構成する材料は、絶縁性を有するものが好ましい。したがって、ブロックは、例えば、非金属無機材料で構成することが好ましい。
【0037】
具体的に、ブロック10を構成する材料としては、例えば、セラミックス、ガラス、金属、合成樹脂、セメントを使用することができ、特にセラミックスを好ましく使用することができる。
【0038】
セラミックスは、特に500℃以上で熱伝導率を測定する場合に好ましい。セラミックスとしては、例えば、1000℃における熱伝導率が3W/m・K以上のものを好ましく使用することができる。また、セラミックスとしては、例えば、嵩密度が2000kg/m以上のものを好ましく使用することができる。
【0039】
具体的に、セラミックスとしては、例えば、アルミナ(Al)、ムライト、マグネシア(MgO)、炭化珪素(SiC)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化ベリリウム(BeO)、窒化ホウ素(BN)、炭酸ジルコニウム(Zr(CO)、ガラスを結晶化させたセラミックス(例えば、商標名「パイロセラム」等で知られるデヒドロセラミックス)を使用することができ、特に、アルミナ(Al)を好ましく使用することができる。金属としては、例えば、アルミニウム、鉄、チタン、ステンレス、銅、金を使用することができる。
【0040】
そして、複数のブロック10は、二次元的に配置されている。複数のブロック10の配置は、当該複数のブロック10が全体として熱板110を構成するような二次元的なものであれば特に限られず、例えば、行列状(マトリックス状)に配置することができる。
【0041】
すなわち、複数のブロック10は、例えば、ヒータ線20に沿った方向(以下、「縦方向」という。)と、当該ヒータ線20に直交する方向(以下、「横方向」という。)と、にそれぞれ直列的に配置される。
【0042】
具体的に、この例では、図3及び図5に示すように、縦方向において隣接する同一形状のブロック10(例えば、ブロック10eとブロック10a,10b)は、当該ブロック10の横方向長さの半分だけずれて直列的に配置され、横方向において隣接する同一形状のブロック(例えば、ブロック10a〜10d)は、ずれることなく直列的に配置されている。
【0043】
さらに、複数のブロック10は、フレキシブルに連結されている。すなわち、複数のブロック10は、互いの相対的な位置関係を変更可能に連結されている。したがって、熱板110は、一次元的又は二次元的に曲げられるようになっている。
【0044】
具体的に、この例では、図6に示すように、複数のブロック10a〜10dの平坦な上面11a〜11dが連なることにより、熱板110の平坦な上面111を形成することができる。一方、複数のブロック10a〜10dはフレキシブルに連結されているため、図7に示すように、一部のブロック10c,10dが、他のブロック10a,10bに対して相対的に変位することができる。
【0045】
この結果、複数のブロック10a〜10dの上面11a〜11dが連なって形成される熱板110の上面111には、凹凸形状が形成される。すなわち、図7に示す例では、熱板110の上面111において、一部のブロック10c,10dの変位に対応して凸形状が形成されている。このように、複数のブロック10は、試料200の高温側表面201の形状に追従できるよう、フレキシブルに連結されている。
【0046】
ヒータ線20は、通電することにより発熱する発熱線であれば特に限られない。具体的に、ヒータ線20は、例えば、ニクロム線、白金線、二珪化モリブデン線、フェライト系合金、タングステン、炭化珪素、ジルコニア、鉄クロム合金等の金属線とすることができる。ヒータ線20の直径は、ブロック10に挿通できる範囲で適宜設定することができ、例えば、0.1〜5mmとすることができる。
【0047】
ヒータ線20の配置は、当該ヒータ線20を複数のブロック10に挿通できれば特に限られない。この例において、ヒータ線20は、二次元的に配置された複数のブロック10の各々に挿通されるように、二次元的に配置されている。具体的に、ヒータ線20は、図3に示すように、二次元的に蛇行しながら配置されている。
【0048】
また、主熱板120及び4つの保護熱板130a〜130dの各々に、1本のヒータ線20が挿通されている。さらに、図3及び図5に示すように、主なブロック10には、蛇行するヒータ線20が2回ずつ挿通されている。
【0049】
また、この例において、ヒータ線20は、図4、図6及び図7に示すように、その試料200側が複数のブロック10で覆われている。すなわち、各ブロック10は、当該ブロック10に挿通されているヒータ線20の試料200側をその上面11で覆っている。
【0050】
したがって、ヒータ線20は、ブロック10を介して試料200を加熱することとなる。すなわち、ヒータ線20がブロック10を加熱し、加熱された当該ブロック10が試料200を加熱する。このとき、ブロック10は小さな部材であるため、当該ブロック10の内部に収容されたヒータ線20を発熱させることにより、当該ブロック10を効率よく加熱し、当該ブロック10の温度を容易に均一化することができる。
【0051】
また、この例において、ヒータ線20は、複数のブロック10に固定されている。すなわち、図4、図6及び図7に示すように、ブロック10の内部にはヒータ線20に対応する形状で当該ヒータ線20を嵌合可能な嵌合部13が形成されており、当該ヒータ線20は、当該嵌合部13に嵌め入れられている。
【0052】
なお、ブロック10は、嵌合部13に嵌め入れられたヒータ線20を中心に回動可能とすることもできる。また、この例において、嵌合部13は、ブロック10の試料200と反対側の表面(上面11と反対側の表面)に開口している。
【0053】
また、複数のブロック10は、ヒータ線20によって互いにフレキシブルに連結することもできる。すなわち、この例において、複数のブロック10は、その各々に挿通されたヒータ線20によってまとめられ、全体として熱板110を構成している。
【0054】
そして、可とう性を有するヒータ線20がたわむことによって、図7に示すように、複数のブロック10の一部(ブロック10c,10d)が変位し、熱板110の上面111の一部を変形させることができる。また、ブロック10が、当該ブロック10に挿通されたヒータ線20を中心に回動可能である場合には、当該ブロック10の回動によっても、熱板110を変形させることができる。
【0055】
熱板110は、図5〜図7に示すように、3つ以上のブロック10の境界点に配置された熱電対30をさらに有することができる。すなわち、本装置100においては、熱板110の温度を制御するため(より具体的には、例えば、主熱板120の温度を所定値となるように制御するため、また、保護熱板130の温度を当該主熱板120の温度と一致するように制御するため)、当該熱板110に熱電対30を配置する。
【0056】
熱電対30は、熱板110に関する温度制御に使用できるものであれば特に限られず、例えば、R型熱電対、T型熱電対、K型熱電対、B型熱電対、N型熱電対、E型熱電対、J型熱電対、S型熱電対を使用することができる。熱電対30は、図6に示すように、第一の金属線32(例えば、プラス極)、第二の金属線33(例えば、マイナス極)及びこれらの接合点を構成する先端部31を有している。
【0057】
そして、図5〜図7に示す例では、熱電対30の先端部31が、隣接する3つのブロック10a,10b,10eの境界点(境界線の交差点)に配置されている。より具体的に、この例では、図6及び図7に示すように、隣接するブロック10a,10bの上面11a,11bの端部が面取りされているため、一方のブロック10aの上面11aと他方のブロック10bの上面11bとの間に窪み40が形成されている。そして、この窪み40に熱電対30の先端部31が配置されている。
【0058】
このように、隣接する3つ以上のブロック10の境界点に熱電対30を配置することにより、熱板110において当該熱電対30を所望の位置に確実に配置することができる。特に、境界点に窪み40が形成されている場合には、熱電対30の位置を確実に固定することができる。なお、熱電対30は、例えば、隣接するブロック10a,10bの間に挟むことにより、熱板110における所望の位置に固定することもできる。
【0059】
図8は、本装置110の熱板110の他の例について、その一部の断面を示す説明図である。図9は、本装置110の熱板110のさらに他の例について、その一部の断面を示す説明図である。図10は、本装置110の熱板110のさらに他の例について、その一部の断面を平面視で示す説明図である。図11Aは、図10に示すXI−XI線で切断した熱板110の断面(すなわち、ヒータ線20の延びる方向に沿って切断した熱板110の断面)を示す説明図である。図11Bは、図11Aに示す熱板110の一部が変形する様子を示す説明図である。
【0060】
図8〜図11に示すように、ブロック10は、ヒータ線20の一方側を覆う上面11と、当該ヒータ線20の他方側を覆う表面(以下、「下面12」という。)と、を有することもできる。より具体的に、この例において、ブロック10は、ヒータ線20の全周を覆っている。
【0061】
そして、複数のブロック10a〜10dの平坦な上面11a〜11dが連なることにより熱板110の上面111が形成され、平坦な下面12a〜12dが連なることにより、熱板110の反対側の平坦な表面(以下、「下面112」という。)が形成されている。また、各ブロック10は、その上面11側部分と下面12側部分とが対称に形成されており、当該上面11と当該下面12との中間の位置にヒータ線20が収容されている。
【0062】
図8に示す例において、ヒータ線20は、ブロック10の内部に形成された嵌合部13に嵌め入れられている。図9に示す例において、ブロック10は、ヒータ線20が挿通される筒状の保持部14と、当該保持部14と当該ヒータ線20とを収容する外殻部15と、を有している。この場合、保持部14を絶縁性の材料(例えば、セラミックス製碍子管)で構成すれば、外殻部15を導電性の材料(例えば、金属)で構成することができる。なお、図9に示す例では、外殻部15と保持部14との間には、ブロック10内における当該保持部14の位置を固定するために充填材16(例えば、アルミナ系ファイバーのような繊維質断熱材)が充填されている。
【0063】
図10、図11A及び図11Bは、ヒータ線20の延びる方向においても効果的に変形することのできるブロック10の一例を示す。この例において、ブロック10の内部にはヒータ線20が挿通される保持部14が形成されている。この保持部14は、ブロック10の上面11側及び下面12側にそれぞれ設けられて互いに対向する上内面17及び下内面18を有している。そして、保持部14内において、ヒータ線20は、上内面17と下内面18との間に挿通されている。
【0064】
図11A及び図11Bに示すように、上内面17及び下内面18は、ヒータ線20の延びる方向におけるブロック10の一方側及び他方側から中央に向けて凸に湾曲した形状で形成されている。すなわち、上内面17及び下内面18は、ヒータ線20の延びる方向におけるブロック10の中央から一方側及び他方側に向けて、当該ヒータ線20から離れるように湾曲しながら傾斜している。このため、図11Bに示すように、ヒータ線20の延びる方向に連なって配置された複数のブロック10a〜10dのうち、一部のブロック10c,10dを当該ヒータ線20に対して容易に傾斜させることができる。
【0065】
この結果、複数のブロック10a〜10dの上面11a〜11dが連なって形成される熱板110の上面111には、凹凸形状が形成される。すなわち、図11Bに示す例では、熱板110の上面111において、一部のブロック10c,10dの変位に対応して凸形状が形成されている。このように、複数のブロック10は、ヒータ線20の延びる方向においても、試料200の高温側表面201の形状に追従することができる。
【0066】
なお、熱板110の複数のブロック10をフレキシブルに連結する態様は、上述の例に限られない。すなわち、例えば、ブロック10内に形成されたヒータ線20が挿通される空間が、当該ヒータ線20の直径より大きければ、当該ブロック10を当該ヒータ線20の延びる方向においても試料200の高温側表面201の形状に追従できるようフレキシブルに連結することができる。また、ヒータ線20自身が柔軟性(可とう性)に優れている場合には、複数のブロック10の変形がより容易になる。
【0067】
図12は、本装置100の熱板110のさらに他の例について、その一部を平面視で示す説明図である。この例において、複数のブロック10は、縦方向及び横方向において互いにずれることなく直線的に配置されている。そして、隣接する4つのブロック10a,10b,10e,10fの境界点に熱電対30の先端部31が配置されている。また、各ブロック10には、ヒータ線20が1回ずつ挿通されている。
【0068】
図13は、本装置100の他の例について、その主な構成の断面を示す説明図である。図13に示す例では、熱板110の一方側に第一の試料200aが配置されるとともに、当該熱板110の他方側にも第二の試料200bが配置される。第一の試料200aと第二の試料200bとは同質且つ同一形状で形成されている。すなわち、第一の試料200a及び第二の試料200bとしては、同一の材料で同一の形状に形成された試料を2つ使用する。
【0069】
そして、本装置100は、さらに、第一の試料200aの熱板110と反対側に配置される第一の冷却板150aと、第二の試料200bの当該熱板110と反対側に配置される第二の冷却板150bと、備えている。すなわち、第一の試料200aは、熱板110と第一の冷却板150aとに挟持され、第二の試料200bは、当該熱板110と第二の冷却板150bとに挟持される。
【0070】
また、本装置100は、第一の冷却板150aの第一の試料200aと反対側に配置された断熱材162a、第二の冷却板150bの第二の試料200bと反対側に配置された断熱材162b、これらを含む積層体の外周を囲むように配置された断熱材163、及び当該断熱材163の外周を囲むように配置された外周ヒータ171をさらに備えている。
【0071】
この例に係る本装置100によれば、熱板110の一方側と他方側との両方に試料200a,200bが配置されるため、いわゆる2枚法による熱伝導率の測定が可能となる。すなわち、熱伝導率の測定において、熱板110からの熱は、第一の試料200a側と第二の試料200b側とに2分され、第一の冷却板150aと第二の冷却板150bとに向けて、当該第一の試料200aと当該第二の試料200bとの内部を流れる。
【0072】
この場合、熱板110を構成するブロック10は、図8及び図9に示すように、ヒータ線20の第一の試料200a側(上面11側)と第二の試料200b側(下面12側)とを覆うように形成され、その当該第一の試料200a側部分(上面11側部分)と当該第二の試料200b側部分(下面12側部分)とが対称に形成されたものであることが好ましい。
【0073】
なお、本装置100は、上述の例に限られるものではない。すなわち、本装置100が主熱板120と保護熱板130とを含む場合には、当該主熱板120及び当該保護熱板130の一方のみが、複数のブロック10を有することとしてもよい。さらに、冷却板150、150a、150bも複数のブロック10を有することとしてもよい。
【0074】
また、熱板110に含まれる保護熱板130の数は特に限られず、1又は任意の2以上とすることができる。また、各ブロック10においてヒータ線20が挿通される数は特に限られず、1又は任意の2以上とすることができる。
【0075】
また、本装置100は、GHP法以外の方法による熱伝導率の測定に使用することもできる。すなわち、本装置100は、例えば、周期加熱法による熱伝導率の測定に使用することができる。具体的に、例えば、熱板110が主熱板120と保護熱板130とを含む場合には、当該主熱板120のヒータ線20と当該保護熱板130のヒータ線20とを電気的に直列に接続することにより、当該熱板110を周期加熱ヒータとして使用する。
【0076】
以上説明したような本装置100によれば、複数のブロック10がフレキシブルに連結されているため、当該熱板110が試料200の形状に追従することができる。このため、例えば、試料200の表面に凹凸がある場合であっても、当該試料200と熱板110との間に隙間が形成されるのを効果的に回避して、熱伝導率を正確に測定することができる。
【0077】
また、複数のブロック10は、その各々が互いに別体に形成され、その後、フレキシブルに連結されたものであるため、隣接するブロック10は、互いの一部でのみ接触している。このため、熱板110を構成する一部のブロック10に生じた劣化や破損の影響は、他のブロック10に伝播しにくい。すなわち、例えば、図6〜図9に示す例において、一部のブロック10aに劣化や破損が生じた場合であっても、その影響は、他のブロック10b〜10dには伝播しにくい。
【0078】
また、例えば、熱板110の周囲の環境の温度が変化した場合には、当該温度の変化の影響が当該熱板110の中心部分にまで伝播しにくい。すなわち、図6〜図9に示すブロック10aが、熱板110の端部を構成する場合には、当該熱板110の周囲の環境の温度が変化すると、当該ブロック10aはその影響を受けやすいが、当該熱板110のより内部を構成する他のブロック10b〜10dには、当該影響は伝播しにくい。
【0079】
このように、熱板110の一部に熱的変化が生じた場合であっても、その影響は当該熱板110の他の部分に伝播しにくい。また、熱板110は、複数のブロック10の集合体として構成されているため、その一部に不具合が生じた場合の修理は比較的容易である。
【0080】
また、ブロック10がセラミックス製である場合には、本装置100は、高温での使用に適したものとなる。すなわち、この場合、ブロック10は、金属が劣化するような高温でも劣化することなく使用することができる。
【0081】
また、ブロック10は比較的小さな部材であるため、熱衝撃による破損は生じにくい。したがって、この場合、本装置100は、従来の熱伝導率測定装置では5〜10回程度の測定を行うことで破損のために測定が不可能となっていた800℃以上の高温でも熱伝導率を正確に繰り返し測定することができる。
【0082】
もちろん、本装置100は、従来の熱伝導率測定装置でも測定は可能ではあったが安定して測定することが困難であった温度範囲、例えば、800〜1300℃においても、熱伝導率を正確に繰り返し測定することができる。
【0083】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例】
【0084】
図1〜図7に示すような本装置100を製造した。ブロック10としては、20mm×20mmの上面11を有し、厚さが10mmであるアルミナ製の部材を使用した。ヒータ線20としては、直径が3.2mmの二珪化モリブデン線を使用した。ヒータ線20は、図6に示すように、ブロック10に形成された2つの嵌合部13に嵌め入れられることにより、当該ブロック10に2回ずつ挿通された。
【0085】
そして、この本装置100を使用して、1枚式のGHP法により、2種類の試料(ロックウール断熱材及びシリカ系繊維断熱材)の熱伝導率を測定した。すなわち、実施例1として、本装置100を使用して、100℃、200℃、300℃及び400℃におけるロックウール断熱材の熱伝導率を測定した。また、実施例2として、本装置100を使用して、100℃、200℃、300℃、400℃、500℃及び600℃におけるシリカ系繊維断熱材の熱伝導率を測定した。
【0086】
また、比較のため、市販のGHP法用の熱伝導率測定装置(HC−090、英弘精機製)を使用して、同様に熱伝導率を測定した。この市販の熱伝導率測定装置は、図1及び図2に示すような構成を備えていた。ただし、この熱伝導率測定装置の主熱板及び保護熱板はいずれも、ステンレス製の金属板と、当該金属板に配置されたヒータ線と、を有するものであった。
【0087】
そして、比較例1として、市販の熱伝導率測定装置を使用して、ロックウール断熱材の熱伝導率を測定した。また、比較例2として、市販の熱伝導率測定装置を使用して、シリカ系繊維断熱材の熱伝導率を測定した。
【0088】
図14及び図15には、ロックウール断熱材及びシリカ系繊維断熱材の熱伝導率を測定した結果をそれぞれ示す。図14及び図15において、横軸は熱伝導率を測定した温度(℃)を示し、縦軸は各温度で測定された熱伝導率(W/(m・K))を示す。黒塗り丸印は、市販の熱伝導率測定装置を使用して測定した結果(比較例1、比較例2)を示し、白抜き四角印は、本装置100を使用して測定した結果(実施例1、実施例2)を示す。また、図14及び図15において、2本の破線で囲んだ領域は、市販の熱伝導率測定装置を使用して測定した結果との誤差がプラス10%(+10%)〜マイナス10%(−10%)である範囲を示している。
【0089】
図14及び図15に示すように、本装置100による測定結果は、市販の熱伝導率測定装置による測定結果とほぼ一致していた。すなわち、本装置100は、上述のように熱板110がフレキシブルに連結された複数のブロック10を有するという従来にない構成を備えながら、熱伝導率を高い精度で測定できることが確認された。
【符号の説明】
【0090】
10 ブロック、11 上面、12 下面、13 嵌合部、14 保持部、15 外殻部、16 充填材、17 上内面、18 下内面、20 ヒータ線、30 熱電対、31 先端部、32 第一の金属線、33 第二の金属線、40 窪み、100 熱伝導率測定装置、110 熱板、111 上面、112 下面、120 主熱板、130 保護熱板、140 断熱層、150 冷却板、160,161,162,163 断熱材、170 補償ヒータ、171 外周ヒータ、200 試料、201 高温側表面、202 低温側表面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を加熱する熱板を備えた熱伝導率測定装置であって、
前記熱板は、
二次元的に配置されフレキシブルに連結された複数のブロックと、
前記複数のブロックに挿通されたヒータ線と、
を有する
ことを特徴とする熱伝導率測定装置。
【請求項2】
前記ブロックは、セラミックス製である
ことを特徴とする請求項1に記載された熱伝導率測定装置。
【請求項3】
前記熱板は、主熱板と保護熱板とを含み、
前記主熱板及び前記保護熱板の一方又は両方が、前記複数のブロックを有する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載された熱伝導率測定装置。
【請求項4】
前記熱板は、前記3つ以上のブロックの境界点に配置された熱電対をさらに有する
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載された熱伝導率測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−32231(P2012−32231A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170854(P2010−170854)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】