説明

熱伝導複合シート及びその製造方法、並びに放熱装置

【課題】優れた熱伝導率を有し、且つ高い機械的強度を備えた熱伝導複合シートを提供する。
【解決手段】本発明の熱伝導複合シートは、第一の熱伝導層と第一の熱伝導層の間に、シート状の多孔質補強材が介在され、前記多孔質補強材の孔の少なくとも一部には、各熱伝導層を形成するポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物及び特定の結晶構造の六方晶窒化ほう素粒子の少なくとも一方が充填されてなる構成を有する。このとき、前記六方晶窒化ほう素粒子は、(0001)結晶面が鱗片の面方向、惰球の長軸方向又は棒状の長軸方向に配向し、且つその鱗片の面方向、惰球の長軸方向又は棒の長軸方向が各熱伝導層及び前記補強材の厚み方向に配向した状態とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導複合シート及びその製造方法、熱伝導複合シートを用いた放熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体パッケージやディスプレイ、パソコン、発光ダイオード(LED)等の電子機器や光学デバイス等においては、動作時における発熱性部品からの熱による誤動作や特性低下等を防止する目的で、放熱用の熱伝導シートが開発されている。
この熱伝導シートにおいては、発熱性部品の発熱量の増大傾向に伴い、より熱伝導率の高いものが求められている。これまで、熱伝導率を飛躍的に向上させる手法の一つとして、シート状体を構成する高分子化合物に熱伝導性充填材(熱伝導フィラ)として、特に熱伝導性の大きな窒化ほう素等の無機粉末を選択し、それをシート面に対し垂直に配向させた熱伝導シートが種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、照明分野においては、近年LEDの高密度化に伴い、LED電球から放出される熱に起因して、LED電球を覆う樹脂層が劣化し、光収束度の低下を引き起こす現象がますます問題となっている。
これに対し、液晶モジュールのような電子機器においては、LEDが搭載されたLED基板(発熱体)と、アルミや銅等からなる放熱体との間に熱伝導シート又は熱伝導グリースを挟み込み、これらを強トルクでネジ止めすることで密着させて、熱を放散させる放熱装置が使用されている。
【0004】
このような放熱装置においては、一般に熱伝導グリースに比べ、熱伝導シートの方が装置を組み立てる際の作業性に優れていることから、簡便に使用されている。
しかし、熱伝導シートを用いる場合、上述のように強トルクで締め付ける際に、熱伝導シートが破壊され、十分な放熱特性を確保できないという欠点があった。
【0005】
また、熱伝導シートの中間材として、無機充填材を含有するシロキサン含有エチレンプロピレンジエンゴム組成物の硬化物にて目止め処理されたガラス繊維クロスを使用した技術が知られている。これにより、高温高湿雰囲気中での使用に耐え得るべく、耐薬品性、絶縁性及び耐プラズマガス性の向上が図られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−26202号公報
【特許文献2】特開平7−125137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された熱伝導シートのように熱伝導フィラをシート面に対して垂直配向に配向させるとシートの引き裂き強度が弱くなるため、ハンドリング強度を保つ上で薄膜化しにくく、その結果として熱抵抗を充分に下げ難くなることがある。また強度を保つために樹脂架橋するとシートの変形性が規制される結果、特に薄膜化した場合には充分な密着性が得られず、熱抵抗を充分に下げ難くなる場合があった。
【0008】
また、特許文献2に開示される熱伝導シートでは、スラリー状の原料をガラス繊維クロスに含浸、塗工し、熱伝導フィラを均一分散させてシート化することにより、熱伝導率の確保を図っているものの、十分な熱伝導率は得られていない。
そこで、本発明は、優れた熱伝導率を有し、且つ高い機械的強度を備えた熱伝導複合シート及びその製造方法を提供することを課題とする。また本発明は、高い放熱能力を持ち、且つ信頼性の高い放熱装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は前記課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた結果、2層の熱伝導層の間に、多孔質補強材、好ましくは厚み方向に貫通する複数の貫通孔を有する補強材を配置し、熱伝導層/補強材/熱伝導層の積層構造を有する複合体をシート化することにより、優れた熱伝導率と高い機械的強度を備えた高機能性の熱伝導複合シートが得られることを見出した。
【0010】
すなわち本発明は、以下のものに関する。
<1>鱗片、惰球又は棒状の六方晶窒化ほう素粒子及びガラス転移温度が50℃以下であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物を含有する第一の熱伝導層と、
シート状の多孔質補強材と、
鱗片、惰球又は棒状の六方晶窒化ほう素粒子及びガラス転移温度が50℃以下であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物を含有する第二の熱伝導層と、がこの順に積層されてなり、
前記多孔質補強材の孔の少なくとも一部には前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物及び前記六方晶窒化ほう素粒子の少なくとも一方が充填され、
前記第一の熱伝導層及び前記第二の熱伝導層に含まれる前記六方晶窒化ほう素粒子は、(0001)結晶面が鱗片の面方向、惰球の長軸方向又は棒状の長軸方向に配向し、且つその鱗片の面方向、惰球の長軸方向又は棒の長軸方向が前記第一の熱伝導層、前記補強材及び前記第二の熱伝導層の厚み方向に配向している熱伝導複合シートである。
かかる熱伝導複合シートは、優れた熱伝導率とともに、高い機械的強度を有し、発熱量の大きい発熱性部品の放熱用として好適に使用できる。
【0011】
<2>前記多孔質補強材が、厚み方向に貫通する複数の貫通孔を有し、前記複数の貫通孔には、前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物が充填され、更に前記複数の貫通孔のうちの少なくとも一部の貫通孔に前記六方晶窒化ほう素粒子の少なくとも一部分が挿入されている前記<1>に記載の熱伝導複合シートである。
これにより、更に高い機械的強度を有する。
<3>前記多孔質補強材が織布である前記<1>又は<2>に記載の熱伝導複合シートである。
これにより、更に優れた機械的強度を付与できる。
<4>前記織布がガラス繊維からなる前記<3>に記載の熱伝導複合シートである。
これにより、薄膜での機械的強度を飛躍的に向上させることができる。
【0012】
<5>前記織布がメッシュ状体であり、そのメッシュ径が0.38mm以上である前記<3>又は<4>に記載の熱伝導複合シートである。
これにより、上記<1>〜<4>の発明の効果に加えて、更に高い機械的強度を維持しつつ、優れた熱伝導率を確保できる。
<6>前記織布の繊維径が0.6mm以下である前記<3>〜<5>の何れか一つに記載の熱伝導複合シートである。
これにより、更に高い熱伝導率を確保できる。
【0013】
<7>前記織布が二軸織り布又は平織り布である前記<3>〜<6>の何れか一つに記載の熱伝導複合シートである。
これにより、引張り強度と熱抵抗を制御することが可能となる。
<8>前記第一の熱伝導層及び前記第二の熱伝導層が難燃剤を更に含有し、前記第一の熱伝導層及び前記第二の熱伝導層の総体積中における前記難燃剤の含有率が5体積%〜50体積%の範囲である前記<1>〜<7>の何れか一つに記載の熱伝導複合シートである。
これにより、難燃性に優れる熱伝導複合シートを構成できる。
<9>前記第一の熱伝導層及び前記第二の熱伝導層の総体積中における前記六方晶窒化ほう素粒子の含有率が25体積%〜80体積%の範囲である前記<1>〜<8>の何れか一つに記載の熱伝導複合シートである。
これにより、上述の発明の効果に加えて、更に優れた熱伝導率を達成できる。
【0014】
<10>鱗片状、楕球状又は棒状であり、(0001)結晶面が、鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している六方晶窒化ほう素粒子と、ガラス転移温度が50℃以下であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物とを含有し、前記六方晶窒化ほう素粒子の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が厚み方向に配向した組成物層を2つ準備する工程と、前記組成物層の一方、厚み方向に貫通するシート状の多孔質補強材及び前記組成物層の他方をこの順に積層して加熱加圧する工程と、を有する熱伝導複合シートの製造方法である。
これにより、優れた熱伝導率と高い機械的強度を備えた熱伝導複合シートを、生産性、コスト面及びエネルギー効率の点で有利に、且つ確実に製造できる。
【0015】
<11>発熱体と、放熱体と、前記発熱体と前記放熱体との間に、前記発熱体及び前記放熱体の双方に接するように配置された、前記<1>〜<9>の何れか一つに記載の熱伝導複合シートと、を有する放熱装置である。
これにより、長期間に亘り高い放熱能力を有する信頼性に優れた放熱装置を構成できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、優れた熱伝導率を有し、且つ高い機械的強度を備えた熱伝導複合シート及びその製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、高い放熱能力を持ち、且つ信頼性の高い放熱装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。また本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。更に本明細書において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0018】
<熱伝導複合シート>
本発明の熱伝導複合シートは、鱗片、惰球又は棒状の六方晶窒化ほう素粒子及びガラス転移温度が50℃以下であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物を含有する第一の熱伝導層と、シート状の多孔質補強材(以下、単に「補強材」と称することがある。)、好ましくは厚み方向に貫通する複数の貫通孔を有するシート状の補強材と、鱗片、惰球又は棒状の六方晶窒化ほう素粒子及びガラス転移温度が50℃以下であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物を含有する第二の熱伝導層と、がこの順に積層されてなる。
前記補強材の孔の少なくとも一部には前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物及び前記六方晶窒化ほう素粒子の少なくとも一方が充填される。好ましくは、厚み方向に貫通する複数の貫通孔を有するシート状の補強材の複数の貫通孔には、前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物が充填され、更に前記複数の貫通孔のうちの少なくとも一部の貫通孔に前記六方晶窒化ほう素粒子の少なくとも一部分が挿入される。
そして、前記第一の熱伝導層及び第二の熱伝導層に含まれる前記六方晶窒化ほう素粒子は、(0001)結晶面が鱗片の面方向、惰球の長軸方向又は棒状の長軸方向に配向し、且つその鱗片の面方向、惰球の長軸方向又は棒の長軸方向が前記第一の熱伝導層、前記補強材及び第二の熱伝導層の厚み方向に配向している。
【0019】
すなわち、本発明の熱伝導複合シートにおいては、第一の熱伝導層及び第二の熱伝導層に含まれているポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物及び六方晶窒化ほう素粒子の少なくとも一方の一部が、前記補強材の孔内に入り込む。特に、前記補強材が厚み方向に貫通する複数の貫通孔を有するシート状の補強材であり、前記第一の熱伝導層と第二の熱伝導層とが前記貫通孔を介してポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物が充填されて一体化されているものが好ましい。また、前記第一の熱伝導層及び第二の熱伝導層に含まれる六方晶窒化ほう素粒子の少なくとも一部分が複数の貫通孔のうちの少なくとも一部の貫通孔に挿入され、その鱗片の面方向、惰球の長軸方向又は棒の長軸方向が前記第一の熱伝導層及び第二の熱伝導層の厚み方向に配向しているものが好ましい。従って、第一の熱伝導層、補強材及び第二の熱伝導層が複合化されたシート全体としてみると、前記六方晶窒化ほう素粒子が特定の方向に配向した状態でほぼ連続的に存在している。このような構造は、例えば熱伝導複合シートの断面SEMを観察することで確認できる。
【0020】
前記補強材の孔の少なくとも一部には前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物及び前記六方晶窒化ほう素粒子の少なくとも一方が充填される。前記孔の少なくとも一部にポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物及び前記六方晶窒化ほう素粒子のうちの一方が充填されると熱伝導率が向上する。また、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物及び前記六方晶窒化ほう素粒子の両方が充填されると、更に優れた熱伝導率が得られる。ここで、前記六方晶窒化ほう素粒子は、前記孔内に粒子全体が挿入された状態に限らず、少なくとも一部分が挿入された状態でもよい。
前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物及び前記六方晶窒化ほう素粒子は確実に孔内に充填されることが好ましいが、効果を損なわない範囲で前記孔内に空隙が生じていてもよい。孔内の空隙部が少ないほど、熱抵抗の増加が抑えられる。前記貫通孔内の空隙率は、例えば50体積%以下であることが好ましく、20体積%以下であることがより好ましい。これにより優れた熱伝導率が実現できる。ここで、前記貫通孔内の空隙率は、複数の貫通孔の総体積中に占める空隙部の総体積の割合を意味する。前記貫通孔内の空隙率は、熱伝導複合シート断面のSEM観察から算出することができる。
【0021】
かかる構成の熱伝導複合シートは、従来の熱伝導シートでは得られなかった、優れた熱伝導率と高い機械的強度の両方を有する。この熱伝導複合シートは、例えば強トルクでの締め付けられるような使用方法においても、優れた強度が発揮されるため、破壊を生じることなく十分な放熱特性の実現を図ることができる。これは、例えば以下のように考えることができる。
【0022】
本発明の熱伝導複合シートにおいては、第一の熱伝導層と第二の熱伝導層(各熱伝導層)の間にシート状の多孔質補強材が挟み込まれた積層構造により、シート全体としての強度が確保される。
また、前記補強材の孔内に、各熱伝導層を形成するポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物及び各熱伝導層に含まれる六方晶窒化ほう素粒子の少なくとも一方が入り込んでおり、六方晶窒化ほう素粒子の(0001)結晶面が鱗片の面方向、惰球の長軸方向又は棒状の長軸方向にそれぞれ配向し、且つ鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が各熱伝導層や前記補強材の厚み方向に配向した状態にあるので、優れた熱伝導率が得られる。
【0023】
すなわち、熱伝導複合シートにおいては、好ましくは六方晶窒化ほう素粒子が優れた熱伝導性を発現できるような配向で、第一の熱伝導層中、補強材の孔内及び第二の熱伝導層中に連続的に配置されている。これにより、熱伝導性が十分とは言い難い補強材を含んでいても、十分に熱伝導率を確保でき、シート全体として優れた熱伝導性を実現することができる。
従って、このような積層構造とすることにより、優れた熱伝導率と高い機械的強度を併せ持つ高機能な熱伝導複合シートを提供することが可能になる。
【0024】
本発明の熱伝導複合シートにおいては、六方晶窒化ほう素粒子の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が熱伝導複合シートの厚み方向に配向しており、この特定の方向の配向性がないと充分な熱伝導率が得られない場合がある。
【0025】
なお、本発明において「熱伝導複合シートの厚み方向に配向」とは、熱伝導複合シートの厚み方向の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、任意の50個の六方晶窒化ほう素粒子について見えている方向から、長軸方向の熱伝導複合シート表面に対する角度(90度以上の場合は補角を採用する)を測定し、その平均値が60度〜90度の範囲になる状態をいう。
【0026】
[第一の熱伝導層及び第二の熱伝導層]
第一の熱伝導層及び第二の熱伝導層は、鱗片、惰球又は棒状の六方晶窒化ほう素粒子(以下、単に「六方晶窒化ほう素粒子」という。)の少なくとも1種とガラス転移温度が50℃以下であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物(以下、単に「ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物」という。)の少なくとも1種とをそれぞれ含み、必要に応じてその他の成分を含む、組成物(以下、「樹脂組成物」と称することがある。)から構成される。
【0027】
第一の熱伝導層に含まれる六方晶窒化ほう素粒子と第二の熱伝導層に含まれる六方晶窒化ほう素粒子とは、同一のものであっても、異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
また、第一の熱伝導層に含まれるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物と第二の熱伝導層に含まれるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物とは、同一のものであっても、異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0028】
(六方晶窒化ほう素粒子)
前記第一の熱伝導層と第二の熱伝導層は、鱗片状、楕球状又は棒状である六方晶窒化ほう素粒子から選択される少なくとも1種であり、(0001)結晶面が前記鱗片の面方向、前記楕球の長軸方向又は前記棒の長軸方向に配向している六方晶窒化ほう素粒子の少なくとも1種を含む。
【0029】
かかる特定の結晶構造の六方晶窒化ほう素粒子を含むことで、本発明の熱伝導複合シートは、優れた熱伝導性を達成することができる。
前記六方晶窒化ほう素粒子の形状は、鱗片状、楕球状又は棒状であり、中でも鱗片状が好ましい。六方晶窒化ほう素粒子の形状が鱗片状、楕球状又は棒状であることで、熱伝導性と成形性に優れた熱伝導複合シートを構成することができる。
一方、六方晶窒化ほう素粒子の形状が、球状や不定形の場合は熱伝導性に劣る場合があり、繊維状の場合はシートに成形するのが困難で生産性に劣る場合がある。
【0030】
本発明で用いられる六方晶窒化ほう素粒子の結晶は六方晶形をとる。該六方晶窒化ほう素粒子は、六方晶形において6員環が形成される面(以下、「六員環面」ともいう)、すなわち(0001)結晶面が粒子中で特定の方向に配向している。具体的には、六方晶窒化ほう素粒子の形状が鱗片状の場合には(0001)結晶面が鱗片の面方向に配向している。また六方晶窒化ほう素粒子の形状が前記楕球状の場合には(0001)結晶面が楕球の長軸方向に配向している。更に六方晶窒化ほう素粒子の形状が棒状の場合には(0001)結晶面が棒の長軸方向に配向している。六方晶窒化ほう素粒子がかかる特定の結晶構造を有することで熱伝導性に優れる。
【0031】
ここで六方晶窒化ほう素粒子の形状が楕球状又は棒状の場合における長軸とは、六方晶窒化ほう素粒子をSEM(走査型電子顕微鏡、倍率20倍〜200倍程度)を用いて観察し、2つの平行な平面で六方晶窒化ほう素粒子を挟んだ場合に、その平面間の距離が最大となるように選ばれる平面と六方晶窒化ほう素粒子との2つの接点を通る軸を意味する。
【0032】
六方晶窒化ほう素粒子の(0001)結晶面の配向性は、X線回折測定により確認することができる。具体的には以下のようにして確認することができる。
先ず、六方晶窒化ほう素粒子の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が、シート又はフィルムの面方向に対して実質的に平行に配向した測定用サンプルシートを作製する。
【0033】
前記測定用サンプルシートの具体的な調製方法としては、例えば10体積%以上の六方晶窒化ほう素粒子と樹脂との混合物をシート化する。前記樹脂としては、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物に相当する材料が使用可能であるが、これに限定されるものではない。例えば、非晶質樹脂のようなX線回折の妨げになるピークが現れない材料や形状を作ることが可能である材料であれば、樹脂でなくても用いることができる。
【0034】
前記混合物のシートを好ましくは元の厚みの1/10以下となるようにプレスする。次いで、プレスしたシートを積層し、得られた積層体を更に1/10以下まで押しつぶす操作を3回以上繰り返す。この操作により、調製した測定用サンプルシート中では、六方晶窒化ほう素粒子の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が、測定用サンプルシートの面方向に対し実質的に平行に配向した状態になる。
前記のように調製した測定用サンプルシートの表面に対し、X線回折測定を行うと、2θ=77°付近に現れる六方晶窒化ほう素粒子の(110)面に対応するピークの高さを、2θ=27°付近に現れる六方晶窒化ほう素粒子の(002)面に対応するピークの高さで割った値が0〜0.02となる。
【0035】
このことより、本発明において、「結晶中の(0001)結晶面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している」とは、六方晶窒化ほう素粒子及びポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物等を含有した樹脂組成物をシート化したものの表面に対し、X線回折測定を行い、2θ=77°付近に六方晶窒化ほう素粒子の(110)面に対応するピークの高さを、2θ=27°付近に現れる六方晶窒化ほう素粒子の(002)面に対応するピークの高さで割った値が0〜0.02となる状態であることが分かる。
【0036】
前記六方晶窒化ほう素粒子としては、板状窒化ほう素粉末、鱗片状窒化ほう素粉末等が挙げられ、市販の六方晶窒化ほう素粒子から適宜選択して用いることができる。
前記六方晶窒化ほう素粒子としては、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物と混合した際に、鱗片状の六方晶窒化ほう素粒子になり易いものが好ましい。具体的には、鱗片状窒化ほう素粉末であることが好ましい。これにより六方晶窒化ほう素粒子を所望の状態に配向させ易く、粒子間接触も保ち易く、高い熱伝導性を達成することができる。
【0037】
前記六方晶窒化ほう素粒子の大きさは特に制限されないが、熱伝導率の向上の観点から、長径の平均値が前記第一の熱伝導層又は第二の熱伝導層の各膜厚×0.8以上であることが好ましい。このような大きさであると、六方晶窒化ほう素粒子が前記第一の熱伝導層又は第二の熱伝導層の厚み方向にほぼ貫通することになり、優れた熱伝導性が達成できる。なお、理論最大値は全数貫通の場合であり、膜厚×1である。該六方晶窒化ほう素粒子の長径の平均値は、好ましくは0.03mm〜2.0mm、より好ましくは0.1mm〜1.0mm、特に好ましくは0.2mm〜0.5mmである。
【0038】
ここで「長径の平均値」とは、熱伝導複合シートの厚み方向の断面をSEM(走査型電子顕微鏡、倍率20倍〜200倍程度)を用いて観察し、任意の50個の六方晶窒化ほう素粒子について見えている方向から長径を測定し、平均値を求めた結果をいう。
また、六方晶窒化ほう素粒子の長径は、観察される六方晶窒化ほう素粒子を平行な2つの面で挟んだ場合に、2つの面の距離が最大になる長さである。
【0039】
また、六方晶窒化ほう素粒子の重量平均粒子径は特に制限されない。熱伝導性と柔軟性の観点から、20μm〜1000μmであることが好ましく、40μm〜500μmであることがより好ましい。
なお、六方晶窒化ほう素粒子の重量平均粒子径は、原料の六方晶ほう素粒子の粒子径を測定した値で、通常、JISふるいで分級し、各粒径成分の重量を電子天秤にて秤量し、累積重量分布曲線を求め、累積質量が50%に達する径を意味する。
【0040】
重量平均粒子径の好ましい範囲は、各熱伝導層の厚みにより異なるが、各熱伝導層の厚みの1/100倍〜10倍の範囲が好ましく、1/10倍〜7倍がより好ましく、1倍〜4倍が更に好ましい。重量平均粒子径が前記範囲以上であると、伝熱パスに影響を及ぼす六方晶硼素粒子間の界面が良好となり、優れた熱伝導率が得られる。一方、前記範囲以下であれば、効率的にスライスすることができ、均一な厚みのシートを作製することができる。
【0041】
熱伝導複合シートにおける六方晶窒化ほう素粒子の含有率は、特に制限されず、六方晶窒化ほう素粒子の形状や種類によって適宜選択することができる。中でも、前記樹脂組成物総体積中の25体積%〜80体積%であることが好ましく、30体積%〜70体積%であることがより好ましい。前記六方晶窒化ほう素粒子の含有率が、25体積%以上であると、熱伝導性がより向上する傾向がある。また80質量%以下であると、熱伝導複合シートの柔軟性が向上し、密着性が向上する傾向があり、良好な三層構造の熱伝導複合シートが作製できる。
【0042】
なお、本明細書における六方晶窒化ほう素粒子の含有率(体積%)は、下記式(1)により求めた値である。

六方晶窒化ほう素粒子の含有率(体積%)=
(Aw/Ad)/((Aw/Ad)+(Bw/Bd)+(Cw/Cd))×100 ・・・式(1)

ここで、前記式(1)中、Awは、六方晶窒化ほう素粒子の質量組成(質量%)、Bwは、後述するポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物の質量組成(質量%)、Cwは、りん酸エステル系難燃剤等のその他の任意成分の質量組成(質量%)、Adは、六方晶窒化ほう素粒子の比重(本発明においてAdは六方晶窒化ほう素粒子の場合に2.3で計算する。)、Bdは、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物の比重、Cdは、その他の任意成分(りん酸エステル系難燃剤等)の比重をそれぞれ表す。
【0043】
(ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物)
前記第一の熱伝導層及び前記第二の熱伝導層は、ガラス転移温度が50℃以下であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物の少なくとも1種を含む。
【0044】
前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物は、ガラス転移温度Tgが50℃以下であり、好ましくは−70℃〜20℃、より好ましくは−60℃〜0℃である。ガラス転移温度Tgが50℃を超える場合は、柔軟性が十分でなくなり、発熱体及び放熱体に対する密着性が低下する場合がある。
なお、ガラス転移温度Tgは示差走査熱量装置(DSC)により、通常の条件で測定される。
また、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物を構成するモノマーの種類及び含有率を適宜選択することで、ガラス転移温度を所望の範囲とすることができる。
【0045】
前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物は、少なくとも1種の(メタ)アクリル酸エステルを含み、必要に応じて(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な他のモノマーを含むモノマー組成物を重合させることで得ることができる。
ここで(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及びメタクリル酸の少なくとも一方を意味する。
【0046】
モノマー組成物を構成する(メタ)アクリル酸エステルは、熱伝導複合シートの熱伝導性と柔軟性の観点から、炭素数1〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルであることが好ましく、炭素数2〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルであることがより好ましい。
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルにおけるアルキル基は、環状、直鎖状及び分岐鎖状のいずれであってもよいが、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましい。また前記アルキル基は置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ヒドロキシ基、グリシジル基、ジアルキルアミノ基等を挙げることができる。
【0047】
前記(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル等の無置換の(メタ)アクリル酸エステルや、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸グリシジルエステル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等の置換基を有する(メタ)アクリル酸エステルなどを挙げることができる。これらは1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物における(メタ)アクリル酸エステルの含有率は、熱伝導複合シートの熱伝導性と柔軟性の観点から、70質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましい。
【0048】
この(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸等のカルボキシ基含有モノマー、(メタ)アクリロニトリル等のニトリル基含有モノマー、(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有モノマー、スチレン等のスチレン系モノマー等を挙げることができる。
これらは1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物における(メタ)アクリル酸エステル以外のモノマーに由来する構造単位の含有率は特に制限されない。熱伝導複合シートの熱伝導性と柔軟性の観点から、30質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。
【0050】
前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物としては、強度と応力緩和性の観点から、炭素数2〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルと(メタ)アクリル酸等に由来する構造単位とを含み、重量平均分子量が10万以上100万以下である共重合体が好ましい。また、熱伝導性と柔軟性の観点から、炭素数2〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来し、含有率が前記共重合体中に85質量%以上である構造単位と、(メタ)アクリル酸に由来し、含有率が前記共重合体中に15質量以下である構造単位とを含み、重量平均分子量が30万以上90万以下である共重合体がより好ましい。更に、この共重合体には、適宜反応活性な官能基が導入されてもよい。
なお、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物の重量平均分子量は、GPCを用いる通常の方法により測定することができる。
【0051】
前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物の含有率は、特に制限されないが、前記樹脂組成物総体積中の10体積%〜70体積%であることが好ましく、20体積%〜50体積%であることがより好ましい。前記樹脂組成物の総体積中に10体積%以上であることで、シートが脆くなることを抑制できる傾向があり、70体積%以下であることで、熱伝導性や強度がより向上する傾向がある。
【0052】
前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物には、更に硬化剤として多官能エポキシ系樹脂等の硬化剤が添加されてもよい。特に、アクリル酸ブチル及びアクリル酸2−エチルヘキシルを共重合成分中に70質量%〜99質量%である構造単位と、(メタ)アクリル酸を1質量%〜10質量%である構造単位とを含む共重合体に、硬化剤として多官能エポキシ系樹脂を添加した架橋硬化物は、製造時の適度な反応速度の点及び得られるシートの柔軟性と強度のバランスの点において、より好適である。この架橋硬化物においては、アクリル酸ブチルやアクリル酸2−エチルヘキシル等の共重合成分が多いと、ガラス転移温度が下がる傾向にある。従って、該架橋硬化物のガラス転移温度が50℃以下となるように、これらの共重合成分の量を適宜調製すれることが好ましい。
【0053】
前記硬化剤としては、従来公知のものがいずれも使用可能であり、具体的に例示すれば、多官能エポキシ系樹脂、多官能イソシアネート、多官能アミン、イミダゾール、フェノール性水酸基を複数有する化合物等が挙げられる。
【0054】
(その他の任意成分)
また、前記樹脂組成物においては、更に難燃剤などのその他の任意成分が必要に応じて添加されてもよい。
前記難燃剤としては特に限定されず、例えば赤りん系難燃剤やりん酸エステル系難燃剤等が挙げられる。
赤りん系難燃剤としては、純粋な赤りん粉末の他に、安全性や安定性を高める目的で種々のコーティングを施したもの、マスターバッチになっているもの等が挙げられ、市販品(例えば、燐化学工業株式会社製のノーバレッド、ノーバエクセル、ノーバクエル、ノーバペレット(いずれも商品名)等)が使用可能である。
【0055】
りん酸エステル系難燃剤としては、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート等の脂肪族りん酸エステルやトリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジル−2,6−キシレニルホスフェート、トリス(t−ブチル化フェニル)ホスフェート、トリス(イソプロピル化フェニル)ホスフェート、りん酸トリアリールイソプロピル化物等の芳香族りん酸エステル、或いはレゾルシノールビスジフェニルホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビスジキシレニルホスフェート等の芳香族縮合りん酸エステル等が挙げられる。これらは一種類を用いても、二種類以上を併用してもよい。中でも液状のりん酸エステル系難燃剤が熱伝導複合シートの柔軟性に寄与するので好ましい。
【0056】
前記難燃剤の含有率は特に制限されないが、前記樹脂組成物総体積中に、好ましくは5体積%〜50体積%、より好ましくは10体積%〜40体積%である。前記難燃剤の含有率が前記範囲であれば、充分な難燃性が発現され、且つ柔軟性の点で有利となるので好ましい。前記難燃剤の含有率が5体積%以上である場合は充分な難燃性が得られ、50体積%以下である場合は高い機械的強度が確保できる。
【0057】
前記樹脂組成物が六方晶窒化ほう素粒子、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物に加えて、リン酸エステル系等の難燃剤を含む場合、各成分の含有率は、六方晶窒化ほう素粒子の含有率が総質量中の5質量%以上25質量%以下であり、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物の含有率が総質量中の40質量%以上75質量%以下であり、りん酸エステル系の難燃剤の含有率が総質量中の10質量%以上40質量%以下であることが好ましい。各成分の含有率が前記範囲であることにより、常温での強度、熱伝導性、熱圧着時の密着性、薄膜での高い密着性、難燃性のいずれにおいても優れる熱伝導複合シートを構成できる。
【0058】
また、前記その他の任意成分としては、例えば液状ポリブテン、液状リン酸エステル等の粘着性付与剤などが挙げられる。前記樹脂組成物中にポリブテン等の粘着性付与剤を添加することで、表面に滲み出しタック性の効力を発揮し易い。
ポリブテンを添加する場合、その含有量は、特に制限されないが、樹脂組成物総体積の、5体積%〜40体積%が好ましい。5体積%以上の場合、充分なタック性が得られ、40体積以下の場合、シートの強度を十分に確保することができる。更に好ましい範囲は10体積%〜30体積%である。
【0059】
[補強材]
補強材は、少なくとも一方の面に孔を有する多孔質のシート状体とされる。前記孔は、前記熱伝導複合シートの厚み方向に貫通していてもよく、非貫通でもよい。中でも、貫通孔であることが好ましい。該孔には、前記第一の熱伝導層と第二の熱伝導層を形成する前記樹脂組成物が充填される。これにより、補強材を介在させることによる熱伝導複合シートの熱伝導率の低下が抑えられる。
【0060】
補強材としては、前記孔を有する多孔質のシート状のものであれば特に制限されない。例えば、織布、不織布等を挙げることができる。前記孔内に空隙ができることなく、前記樹脂組成物が充填され、空隙の存在に起因する熱伝導率の低下が抑えられることから、織布又は不織布が好ましく、織布がより好ましい。
前記補強材の素材としては、例えばポリエステル、ナイロン、アクリル樹脂等の合成繊維やガラス等の無機繊維等が挙げられる。
前記補強材が織布である場合、その編み方としては、特に制限されない。例えば、平織り、二軸織り等が挙げられる。引張り強度の観点からは、二軸織りが好ましく、熱抵抗の観点からは平織りが好ましい。
【0061】
前記孔の形状は、格子状、ドット状、不定形状等いずれでもよい。
前記孔が貫通孔である場合そのサイズは、熱伝導複合シートに対して十分な強度を付与できる範囲で、孔径が大きいことが好ましい。孔径が大きいほど、強度の点で不利になる場合があるが、前記貫通孔の内部への前記樹脂組成物の充填率を高めることができ、優れた熱伝導率が得られる。具体的には、強度と熱伝導性の観点から、0.1mm以上であることが好ましく、0.2mm以上であることがより好ましく、更に0.3mm以上であることがより好ましい。
前記貫通孔の形状やサイズは、前記貫通孔の内部への前記樹脂組成物の充填率が高くなるように、補強材の種類や素材に応じて適宜選択されればよい。
【0062】
前記補強材としては、強度の観点から、ガラス繊維からなる織布(ガラスクロス)が好適である。前記ガラスクロスとしては、特に制限されず、例えば市販のガラスクロスから適宜選択することができる。
前記補強材がガラスクロスである場合、熱伝導性の観点から、メッシュ状体のものが好ましく、そのメッシュ径は0.1mm以上であることが好ましく、0.2mm以上であることがより好ましく、更に0.38mm以上であることがさらに好ましく、2.5mm以下であることが特に好ましい。
また、織布の繊維径は、熱伝導性の観点から、2mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましく、更に0.6 mm以下であることがさらに好ましく、0.3mm以上であることが特に好ましい。
前記補強材の厚みは、強度と熱伝導性の観点から、100μm〜500μmの範囲が好ましく、熱伝導複合シートの厚みを制御する上では130μm〜250μmの範囲がより好ましい。
【0063】
[保護フィルム]
また、本発明の熱伝導複合シートの第一の熱伝導層及び第二の熱伝導層の表面を保護するために、各熱伝導層の表面を保護フィルムで覆っておいてもよい。保護フィルムの材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルナフタレート、メチルペンテンフィルム等の樹脂、コート紙、コート布、アルミ等の金属が使用できる。これらの保護フィルムは、2種以上組み合わせて多層フィルムとしてもよく、保護フィルムの表面が、シリコーン系、シリカ系等の離型剤等で処理されたものが好ましく用いられる。
保護フィルムの厚みは、特に制限されないが、熱伝導複合シートを所望の形状にプリカットした際のカットの保護フィルムへの切り込み深さと強度の関係、シートの取り扱い性等の観点から、50μm〜200μmの範囲が好ましく、75μm〜150μmの範囲がより好ましい。
【0064】
<熱伝導複合シートの製造方法>
本発明の熱伝導複合シートの製造方法は、下記工程(1)及び(2)を含み、必要に応じてその他の工程を含んでもよい。これにより、特定の結晶構造の六方晶窒化ほう素粒子と、ガラス転移温度が50℃以下であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物とを含有し、前記六方晶窒化ほう素粒子が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が厚み方向に配向した状態の2つの組成物層の間に補強材が配置された積層構造を有する優れた熱伝導率と高い機械的強度を備えた熱伝導複合シートを製造することができる。
(1)鱗片状、楕球状又は棒状であり、(0001)結晶面が、鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している六方晶窒化ほう素粒子と、ガラス転移温度が50℃以下であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物とを含有し、前記六方晶窒化ほう素粒子の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が厚み方向に配向した組成物層を2つ準備する工程。
(2)前記組成物層の一方、シート状の多孔質補強材、好ましくは厚み方向に貫通する複数の貫通孔を有するシート状の補強材、及び前記組成物層の他方をこの順に積層して加熱加圧する工程。
【0065】
以下、各工程(1)及び(2)について説明する。
(1)組成物層を2つ準備する工程
前記組成物層を2つ準備する工程は、例えば下記工程(a)〜(c)を含むことが好ましい。
以下、各工程(a)〜(c)について説明する。
(a)一次シートの作製工程
まず、六方晶窒化ほう素粒子と、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物とを含有する一次シート用樹脂組成物を得る。一次シート用樹脂組成物は、これらを混合することにより得られるが、混合方法は特に制限されない。例えば、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物を溶剤に溶かしておいて、そこに六方晶窒化ほう素粒子及び必要に応じて他の成分を加え、攪拌する方法、又は、前記六方晶窒化ほう素粒子と前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物とをロール混練する方法又はニーダー、ブラベンダ、押出機等により混合する方法等を用いることができる。
【0066】
次いで得られた一次シート用樹脂組成物を、六方晶窒化ほう素粒子の重量平均粒子径の20倍以下の厚みに圧延成形、プレス成形、押出成形又は塗工し、前記六方晶窒化ほう素粒子の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が厚み方向に配向した一次シートを作製する。ここで、前記六方晶窒化ほう素粒子の配向方向は、完全に厚み方向に揃うのではなく、概ね揃っていればよい。
【0067】
前記一次シート用樹脂組成物を、圧延成形、プレス成形、押出成形又は塗工することにより、六方晶窒化ほう素粒子の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が厚み方向に配向した一次シートを作製するが、圧延成形又はプレス成形が、確実に六方晶窒化ほう素粒子を配向させ易いので好ましい。
【0068】
前記六方晶窒化ほう素粒子の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が厚み方向に配向した状態とは、六方晶窒化ほう素粒子の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が、シートの面方向に対し実質的に平行に配向するように配向した状態をいう。シート面内での六方晶窒化ほう素粒子の向きは、前記一次シート用樹脂組成物を成形する際に、該一次シート用樹脂組成物の流動する方向を調整することによってコントロールされる。つまり、該一次シート用樹脂組成物を圧延ロールに通す方向、該一次シート用樹脂組成物を押出す方向、該一次シート用樹脂組成物を塗工する方向、該一次シート用樹脂組成物をプレスする方向を調整することで、前記六方晶窒化ほう素粒子の向きがコントロールされる。前記六方晶窒化ほう素粒子は、基本的に異方性を有する粒子であるため、該一次シート用樹脂組成物を圧延成形、プレス成形、押出成形又は塗工することにより、通常、六方晶窒化ほう素粒子の向きは揃って配置される。
【0069】
また、一次シートを作製する際、六方晶窒化ほう素粒子と、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物と、とを含有する一次シート用樹脂組成物の、成形前の形状が塊状物である場合は、塊状物の厚み(d0)に対し、成形後の一次シートの厚み(dp)が、dp/d0<0.15になるよう圧延成形、プレス成形又は押出成形するか、押し出し機出口の一次シート断面形状に相当する形状調整によって、一次シートの横幅(W)に対し厚み(dp´)がdp´/W<0.15となるように押し出し成形することが好ましい。dp/d0<0.15又はdp´/W<0.15となるよう成形することにより、前記六方晶窒化ほう素粒子の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が厚み方向に配向させ易くなる。
【0070】
(b)成形体を得る工程
次いで、前記一次シートを積層して成形体を得る。一次シートを積層する方法は特に限定されず、例えば、複数枚の一次シートを積層する方法、一次シートを折り畳む方法等が挙げられる。積層する際は、シート面内で六方晶窒化ほう素粒子の配向方向を揃えて積層する。積層する際の一次シートの形状は特に限定されず、例えば矩形状の一次シートを積層した場合は角柱状の成形体が得られ、円形状の一次シートを積層した場合は円柱状の成形体が得られる。
【0071】
複数の一次シートを積層する方法、一次シートを折り畳む方法に代えて、一次シートを捲回して成形体を得ることも可能である。一次シートを捲回する方法も特に限定されず、前記一次シートを六方晶窒化ほう素粒子の配向方向を軸にして捲回すればよい。捲回の形状は特に限定されず、例えば円筒形でも角筒形でもよい。
【0072】
一次シートを積層する際の圧力は、この後の工程の一次シート面から出る法線に対し0度〜30度の角度でスライスする都合上、スライス面がつぶれずに十分な積層面又は捲回面の面積が確保される程度に弱く、且つシート間が十分に接着する程度に強くなるよう調整される。通常は、この調整で積層面又は捲回面間の接着力を充分に得られるが、不足する場合は、溶剤又は接着剤等を薄く一次シートに塗布した上で積層を行ってもよい。また、積層は適宜加熱下で行ってもよい。
【0073】
(c)スライス工程
次いで、前記成形体を一次シート面から出る法線に対し0度〜30度の角度で、好ましくは0度〜15度の角度で前記成形体をスライスして、所定の厚さを持った組成物層を得る。スライスする角度が30度を超える場合は熱伝導率が低下する傾向がある。
前記成形体が積層体である場合は、一次シートの積層方向と垂直若しくはほぼ垂直となるようにスライスすればよい。また、前記成形体が捲回体である場合は捲回の軸に対して垂直もしくはほぼ垂直となるようにスライスすればよい。また、円形状の一次シートを積層した円柱状の成形体の場合は、前記角度の範囲内でかつら剥きのようにスライスしてもよい。
【0074】
スライスする方法は特に制限はなく、例えば、マルチブレード法、レーザー加工法、ウォータージェット法、ナイフ加工法等が挙げられるが、熱伝導複合シートの厚みを均一に保ちやすい点で、ナイフ加工法が好ましい。スライスする際の切断具は特に制限はないが、鋭利な刃を備えたスライサー、カンナ等が、得られる熱伝導複合シートの、表面近傍の六方晶窒化ほう素粒子の配向を乱し難く、且つ薄いシートも作製し易いので好ましい。
【0075】
スライスは、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物の、Tg(ガラス転移温度)+5℃〜Tg(ガラス転移温度)+50℃の温度範囲で行うのが好ましく、Tg(ガラス転移温度)+10℃〜Tg(ガラス転移温度)+40℃の温度範囲で行うのがより好ましい。スライスする際の温度が、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物の、Tg(ガラス転移温度)+50℃以下の場合は、成形体が良好な柔軟さ(硬さ)になってスライスしやすく、また六方晶窒化ほう素粒子の配向が制御しやすい。Tg(ガラス転移温度)+5℃以上である場合は、成形体に柔軟性があり、スライスしやすく、スライス直後にシートが割れ難い傾向がある。
【0076】
前記組成物層の厚さは、用途等により適宜設定されるが、好ましくは0.05mm〜3mm、より好ましくは0.1mm〜1mmであり、更により好ましくは0.15mm〜0.3mmの範囲である。組成物層の厚みは、薄いほど熱抵抗特性が向上するが、製造時の取り扱いを考慮し、150μm〜300μmの範囲がより好ましい。組成物層の厚さが0.05mm以上である場合は、シートとしての取り扱い性に優れ、複合化が容易となる。3mm以下の場合は、十分な放熱効果が得られる。
【0077】
(2)2つの組成物層と補強材とを積層する工程
本発明の熱伝導複合シートの製造方法においては、前記組成物層を2つ準備する工程後、前記組成物層の一方、シート状の多孔質補強材及び前記組成物層の他方をこの順に積層して加熱加圧する工程を行う。
この工程は、以下のようにして行うことができる。
【0078】
先ず、上述のようにして準備した一方の組成物層の片面に、シート状の多孔質補強材を重ね、この補強材を挟み込むようにして他方の組成物層の片面を重ね合わせる。これにより、前記組成物層の一方、補強材及び前記組成物層の他方が、この順で積層された積層体が形成される。
【0079】
続いて、この積層体を挟持した状態で加熱加圧する。これにより、前記組成物層(加熱加圧されていない状態)を形成するポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物が加熱加圧により塑性変形し、該ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物により形成される各組成物層が補強材を挟み込むかたちで密着されて、一方の組成物層からなる第一の熱伝導層、補強材及び他方の組成物層からなる第二の熱伝導層とがこの順に積層されてなる熱伝導複合シート(第一の熱伝導層及び第二の熱伝導層は熱伝導複合シートの構成部材であり、加熱加圧された状態にあるものを示す。)が得られる。このとき、補強材の孔には、塑性変形したポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物の一部が充填されるとともに、孔に前記六方晶窒化ほう素粒子の少なくとも一部分が挿入される。これにより、各熱伝導層と補強材とが孔を介して一体化される。更に、シート全体に亘り、前記六方晶窒化ほう素粒子が特定の方向に配向した状態で連続的に存在する。
従って、このような熱伝導複合シートの製造方法によれば、優れた強度を確保しつつ、高い熱伝導率を備えた高機能な熱伝導複合シートを提供することが可能となる。
【0080】
前記組成物層と補強材を積層して加熱加圧する方法としては、従来公知の方法がいずれも使用可能であり、例えば熱ロールや熱プレス等が挙げられる。
この加熱加圧時の条件は、前記組成物層の構成や厚さに応じて適宜設定されることが好ましい。例えば、熱ロールを使用する場合は、1MPa〜20MPaの圧力条件にて、ロール温度50℃〜90℃で移動速度0.1m/min〜1.5m/minとすることが好ましい。
また、準備する組成物層の厚さによって熱伝導複合シートの厚さは変動する。例えば、0.3mm厚の熱伝導複合シートを作製する場合、0.15mm厚の組成物層を2つ準備した後に、補強材を挟み、熱ロール等で圧着して0.3mm厚の熱伝導複合シートを得ることができる。
なお、前記組成物層表面を保護する目的で、上記保護フィルムを更に積層させてもよい。
【0081】
<放熱装置>
本発明の放熱装置は、先に説明した本発明の熱伝導複合シート又は、本発明の製造方法により得られた熱伝導複合シートが、発熱体と放熱体の間に配置させて得られる。
本発明の熱伝導複合シートは、発熱体としてその表面温度が200℃を超えないものに好適である。
本発明の熱伝導複合シート又は本発明の製造方法により製造された熱伝導複合シートが、特に好適に使用できる温度範囲は−10℃〜120℃であり、LED、半導体パッケージ、ディスプレイ、電灯等が好適な発熱体の例として挙げられる。
【0082】
前記放熱体としては、例えば、アルミ、銅のフィン・板等を利用したヒートシンク、ヒートパイプに接続されているアルミや銅のブロック、内部に冷却液体をポンプで循環させているアルミや銅のブロック、ペルチェ素子及びこれを備えたアルミや銅のブロック等が使用できる代表的なものである。
【0083】
本発明の放熱装置は、発熱体と放熱体に本発明の熱伝導複合シート又は本発明の製造方法により得られた熱伝導複合シートの、各々の面を接触させることで成立する。発熱体、熱伝導複合シート及び放熱体を充分に密着させた状態で固定できる方法であれば、接触させる方法に制限はないが、密着を持続させる観点からばねを介してねじ止めする方法、クリップで挟む方法等のように押し付ける力が持続する接触方法が好ましい。
【実施例】
【0084】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は質量基準である。
【0085】
(実施例1)
先ず、六方晶窒化ほう素粒子として、鱗片状の六方晶窒化ほう素粒子(モーメンティブ株式会社製、商品名;HGF−L、重量平均粒子径10μm)を3700g、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物として、アクリル酸ブチル/アクリル酸エチル/アクリル酸共重合体(アクリル酸ブチル:アクリル酸エチル:アクリル酸=19:76:5(質量比)、ナガセケムテックス株式会社製、重量平均分子量600000、Tg;−41℃)を700g、硬化剤として、液状BPA型・BPF型高純度エポキシ樹脂(新日鉄化学株式会社製、商品名;YDF-8170C)14g及び難燃剤として、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)(りん酸エステル系難燃剤、大八化学工業株式会社製、商品名;CR−741)を600gをそれぞれ用意し、予備混合して一次シート用樹脂組成物を調製した。
各成分の配合比は、この一次シート用樹脂組成物総体積に対する各成分の比重から計算したところ、六方晶窒化ほう素粒子約60体積%、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物約23.2体積%、硬化剤約0.2体積%、及び難燃剤約16.6体積%であった。
【0086】
前記一次シート用樹脂組成物を温度80℃に設定した加圧ニーダ機(モリヤマ株式会社製、商品名;LABOLATRY MILL(8×20Tロール))を用いて混練し、混練物を得た。
この混練物の一部を直径1cmの球状に丸め、小型プレスで0.5mm厚のシート状にした。これを20枚に切り分けたものを積層して再度同様にプレスした。
この操作を更にもう1回繰り返した後、得られた混練シートの表面をX線回折により分析したところ、2θ=77°付近に六方晶窒化ほう素粒子の(110)面に対応するピークは確認できず、用いた六方晶窒化ほう素粒子が、「結晶中の(0001)結晶面が鱗片の面方向に配向している」ことを確認できた。
【0087】
得られた混練シートを、2mm〜3mm角程度の大きさに刻んでペレット状にした。これを、ラボプラストミル(東洋精機工業株式会社製、製品名;MODEL20C200)を用い、100℃で幅60mm、厚み1mmのシート状に押し出し、一次シートを得た。
【0088】
この一次シートを4cm×20cmの大きさにカッターで切り出し、40枚積層し、手で軽く押さえてシート間を接着させ、更に3kgの重石を載せた上、70℃の熱風乾燥機で1時間処理してシート間を充分に接着させ、厚さ4cmの成形体を得た。
次いで、この成形体をドライアイスで−20℃に冷却した後、4cm×20cmの積層断面を、超仕上げカンナ盤(株式会社丸仲鐵工所製、商品名;スーパーメカ(スリット部からの刀部の突出長さ:0.19mm))を用いてスライスし(一次シート面から出る法線に対し0度の角度でスライス)、縦4cm×横20cm×厚さ0.15mmの組成物層を得た。
【0089】
そして、前記組成物層に、平織りのガラスクロス(i)(日東紡製、商品名;KS5210、縦4cm×横20cm×0.180mm)、前記組成物層の順で手で重ねて、更に両方の組成物層の表面に接するように、離型処理された縦5cm×横30cmのPETシート(膜厚75μm)を前記組成物層がはみ出さないように挟んで、熱ロールにて80℃の温度で移動速度0.3m/minで圧着して、厚さ0.30mmの熱伝導複合シート(I)を得た。
【0090】
得られた熱伝導複合シート(I)の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、任意の50個の六方晶窒化ほう素粒子について見えている方向から、鱗片の面方向の熱伝導複合シート表面に対する角度及び長径を測定しその平均値を求めたところ、角度は90度であり、六方晶窒化ほう素粒子の鱗片の面方向は熱伝導複合シートの厚み方向に配向していることが認められた。また、長径の平均値は、0.18mmであった。更に、前記ガラスクロス(i)の貫通孔には、前記組成物層に含まれるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物が充填されるとともに、前記六方晶窒化ほう素粒子の鱗片の面方向が熱伝導複合シート(I)の厚み方向に配向した状態で挿入され、空隙率は10体積%以下であることが確認できた。
【0091】
熱伝導複合シート(I)を2cm角に打ち抜いたものを、高さ5mm以上になるまで積層した上、25℃においてアスカー硬度計C型で測定したところ、アスカーC硬度は60と柔軟なゴムシートであることが確認できた。
次に、この熱伝導複合シート(I)の熱伝導率の指標として用いた熱抵抗を以下の方法により求めた。
【0092】
1.0cm角の熱伝導複合シートを、トランジスタ(2SC2233)と水冷銅ヒートシンクとの間に挟み、トランジスタを押し付けながら電流を通じた。そして、トランジスタの温度T1(℃)と、銅ヒートシンクの温度T2(℃)をそれぞれ測定し、これら測定値と印可電力W1(W)から、次式(2)によって熱抵抗X(℃・cm2/W)を算出した。
X=(T1−T2)/W1 ・・・・式(2)
【0093】
この結果、上記熱伝導複合シート(I)の熱伝導率を測定したところ、10W/mKと良好な値を示した。また、熱伝導複合シート(I)の測定時におけるトランジスタと銅ヒートシンクに対する密着性も良好であった。
【0094】
また、この熱伝導複合シート(I)の引張り強度を測定した。
すなわち、1cm×5cmに打ち抜いた熱伝導複合シートをサンプルとし、株式会社東洋精機製作所製の測定機(商品名;STROGRAPH E−S)を用いて、温度25℃、引張速度5mm/分以下の条件下で引張り強度を測定したところ、7MPaと十分な取り扱い性を有することが明らかとなった。
【0095】
(実施例2、実施例3)
実施例1において使用したガラスクロス(i)を、下記表1に示す通り、繊維径及びメッシュ径の異なる種々のガラスクロス(ii)、ガラスクロス(iii)にそれぞれ代え、それ以外は上述と同様にして熱伝導複合シート(II)及び熱伝導複合シート(III)をそれぞれ作製し、これらを実施例2及び実施例3とした。
【0096】
得られた熱伝導複合シート(II)、(III)の各断面について、実施例1と同様のSEM観察を行ったところ、六方晶窒化ほう素粒子の鱗片の面方向は熱伝導複合シートの厚み方向に配向していることが認められた。また、長径の平均値は、0.18mmであった。
【0097】
かかる熱伝導複合シート(II)、(III)を用い、実施例1と同様にしてアスカーC硬度を調べたところ、アスカーC硬度は60と柔軟なゴムシートであることが確認できた。
また、上述と同様に、熱伝導率及び引張り強度を測定した。
この結果を下記表1に示す。
【0098】
表1より、熱伝導率は、いずれも5.1W/mKと良好な値を示し、トランジスタと銅ヒートシンクに対する密着性も良好であった。
引張り強度については、7MPaと十分な取り扱い性を有することが明らかとなった。
【0099】
(実施例4、実施例5)
実施例1において使用した六方晶窒化ほう素粒子を、鱗片状の六方晶窒化ほう素粒子(モーメンティブ株式会社製、商品名;PT−110A、重量平均粒子径10μm)2000gに代えるとともに、難燃剤を1000gとし、またガラスクロスとして前記表1に示す通り、二軸織りの各種ガラスクロス(iv)、ガラスクロス(v)にそれぞれ代え、それ以外は上述と同様にして熱伝導複合シート(IV)及び熱伝導複合シート(V)をそれぞれ作製し、これらを実施例4及び実施例5とした。
【0100】
得られた熱伝導複合シート(IV)、(V)の各断面について、実施例1と同様のSEM観察を行ったところ、六方晶窒化ほう素粒子の鱗片の面方向は熱伝導複合シートの厚み方向に配向していることが認められた。また、長径の平均値は、0.18mmであった。
【0101】
かかる熱伝導複合シート(IV)、(V)を用い、実施例1と同様にしてアスカーC硬度を調べたところ、アスカーC硬度は60と柔軟なゴムシートであることが確認できた。
また、上述と同様に、熱伝導率及び引張り強度を測定した。この結果を前記表1に併せて示す。
この結果、二軸織りのガラスクロス(iv)、(v)を用いた場合には、優れた熱伝導率を維持しつつ、20MPaと非常に優れた取り扱い性を示した。
【0102】
【表1】

【0103】
(比較例1)
実施例1において調製した一次シート用樹脂組成物において、ガラスクロスを使用せず、厚さ0.3mmの熱伝導シート(VI)を得た。
【0104】
以下、実施例1と同様に評価して熱伝導シート(VI)の性状を求めた。
熱伝導シート(VI)の断面をSEM観察し、任意の50個の六方晶窒化ほう素粒子について見えている方向から、鱗片の面方向の熱伝導複合シート表面に対する角度及び長径を測定し、その平均値を求めたところ、角度は89度であり、六方晶窒化ほう素粒子の鱗片の面方向は組成物層の厚み方向に配向していることが認められた。また、長径の平均値は0.18mmであった。
アスカーC硬度は65と柔軟なゴムシートであることが確認できた。
【0105】
この熱伝導シート(VI)の熱伝導率を測定したところ、10W/mKと良好な値を示した。また、熱伝導シート(VI)のトランジスタと銅ヒートシンクに対する密着性も良好であった。
【0106】
この熱伝導複合シート(VI)の引張り強度を測定したところ、0.3MPaと取り扱い性には足りない値を示した。
【0107】
以上のことから、本発明にかかる熱伝導複合シートにおいては、いずれもガラスクロスを用いない従来の熱伝導シートと同等の優れた熱伝導率を有しつつ、同時に高い機械的強度を発揮することが分かった。
【0108】
次に、実施例1〜5において使用した種々のガラスクロスの形状が熱伝導複合シートの特性に及ぼす影響について検討した。
この結果、表1に示すように、実施例1で使用したガラスクロス(i)のように、メッシュ径が比較的大きいものを使用した場合には、極めて優れた熱伝導率が実現することが明らかとなった。
【0109】
また、実施例2、3に比べて、繊維径が比較的細いガラスクロス(i)を用いた実施例1、4、5では、優れた熱伝導率を示した。
従って、補強材としては、伝導面積を十分確保できるように、メッシュ径や繊維径などの形状を適宜選択することが熱伝導率の向上に寄与することがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鱗片、惰球又は棒状の六方晶窒化ほう素粒子及びガラス転移温度が50℃以下であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物を含有する第一の熱伝導層と、
シート状の多孔質補強材と、
鱗片、惰球又は棒状の六方晶窒化ほう素粒子及びガラス転移温度が50℃以下であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物を含有する第二の熱伝導層と、がこの順に積層されてなり、前記多孔質補強材の孔の少なくとも一部には前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物及び前記六方晶窒化ほう素粒子の少なくとも一方が充填され、
前記第一の熱伝導層及び前記第二の熱伝導層に含まれる前記六方晶窒化ほう素粒子は、(0001)結晶面が鱗片の面方向、惰球の長軸方向又は棒状の長軸方向に配向し、且つその鱗片の面方向、惰球の長軸方向又は棒の長軸方向が前記第一の熱伝導層、前記補強材及び前記第二の熱伝導層の厚み方向に配向している熱伝導複合シート。
【請求項2】
前記多孔質補強材が、厚み方向に貫通する複数の貫通孔を有し、前記複数の貫通孔には、前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物が充填され、更に前記複数の貫通孔のうちの少なくとも一部の貫通孔に前記六方晶窒化ほう素粒子の少なくとも一部分が挿入されている請求項1に記載の熱伝導複合シート。
【請求項3】
前記多孔質補強材が織布である請求項1又は請求項2に記載の熱伝導複合シート。
【請求項4】
前記織布がガラス繊維からなる請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の熱伝導複合シート。
【請求項5】
前記織布がメッシュ状体であり、そのメッシュ径が0.38mm以上である請求項3又は請求項4に記載の熱伝導複合シート。
【請求項6】
前記織布の繊維径が0.6mm以下である請求項3〜請求項5の何れか一項に記載の熱伝導複合シート。
【請求項7】
前記織布が二軸織り布又は平織り布である請求項3〜請求項6の何れか一項に記載の熱伝導複合シート。
【請求項8】
前記第一の熱伝導層及び前記第二の熱伝導層が難燃剤を更に含有し、前記第一の熱伝導層及び前記第二の熱伝導層の総体積中における前記難燃剤の含有率が5体積%〜50体積%の範囲である請求項1〜請求項7の何れか一項に記載の熱伝導複合シート。
【請求項9】
前記第一の熱伝導層及び前記第二の熱伝導層の総体積中における前記六方晶窒化ほう素粒子の含有率が25体積%〜80体積%の範囲である請求項1〜請求項8の何れか一項に記載の熱伝導複合シート。
【請求項10】
鱗片状、楕球状又は棒状であり、(0001)結晶面が、鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している六方晶窒化ほう素粒子と、ガラス転移温度が50℃以下であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物とを含有し、前記六方晶窒化ほう素粒子の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が厚み方向に配向した組成物層を2つ準備する工程と、
前記組成物層の一方、シート状の多孔質補強材及び前記組成物層の他方をこの順に積層して加熱加圧する工程と、
を有する熱伝導複合シートの製造方法。
【請求項11】
発熱体と、
放熱体と、
前記発熱体と前記放熱体との間に、前記発熱体及び前記放熱体の双方に接するように配置された、請求項1〜請求項9の何れか一項に記載の熱伝導複合シートと、
を有する放熱装置。

【公開番号】特開2013−18171(P2013−18171A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152324(P2011−152324)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】