説明

熱伝達流体と相変化材料の組み合わせによる電気化学セルの熱管理法

本発明は、熱伝達流体を受容する入口と、1つまたは複数の電気化学セル(20)を受容する1つまたは複数の電気化学セル区画(12)と、1つまたは複数の熱エネルギー貯蔵材料(18)を収容する1つまたは複数の熱エネルギー貯蔵材料区画(14)と、デバイスを通して熱伝達流体を流す1つまたは複数の熱伝達流体区画(16)とを備えるデバイス(10)を含み、1つまたは複数の熱伝達流体区画(16)と1つまたは複数の電気化学セル区画(12)との間の空間は、好ましくは、熱エネルギー貯蔵材料(18)が実質的にない1つまたは複数の第1の領域(22)(すなわち部分)を含み、1つまたは複数の熱伝達流体区画(18)と1つまたは複数の熱エネルギー貯蔵材料区画(14)との間の空間は、好ましくは、電気化学セル(20)が実質的にない1つまたは複数の第2の領域(24)(すなわち部分)を含み、そのため、熱伝達流体区画(16)は、熱エネルギー貯蔵材料区画(14)および電気化学セル区画(12)の両方と直接熱連絡する、電気化学セルの温度を管理するデバイス、システム、およびプロセスを対象としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(出願日の利益の主張)
本願は、全ての目的のために参照により本明細書に援用される2010年1月8日出願の米国仮出願第61/293,229号の出願日の利益を主張するものである。
【0002】
本発明は、熱伝達流体と熱エネルギー貯蔵材料の組み合わせを用いた二次電池などの電気化学セルの熱管理に関する。
【背景技術】
【0003】
産業界では、一般に、電気化学セルに蓄積した電気を用いて車両に部分的または全面的に電力を供給する新しい手法を積極的に探している。自動車業界が認識している問題の一つは電気化学セルの温度を制御する必要があることである。電気化学セルの発電容量は温度に応じて変化することが知られており、電気化学セルは加熱されて高温になると故障することが知られている。
【0004】
電気化学セルの温度を調整する様々な手法が、米国特許第6,596,433B2号(Godmundssonら、2003年7月22日発行)、第5,817,434号(Brookerら、1998年10月6日発行された)、第5,449,571号(Longardnerら、1995年9月12日発行)、第6,797,427B2号(Malekiら、2001年8月9日発行)、および第6,942,944B2号(Al−Hallajら、2005年9月13日発行)に記載されており、それらの文献はその全体が参照により本明細書に援用される。これらの各手法は1つまたは複数の面で非効率である。例えば、Godmundssonら(米国特許第6,596,433B2号)により、空気を流すための通路から電気化学セルが完全に分離した、相変化材料を収容する区画を含むデバイスが教示されている。したがって、空気の流れが直接電気化学セルを冷却することはできない。熱はまず、空気の流れに到達する前に相変化材料を通して拡散するはずである。この配置は、特に、(自動車両の高速運転中または上り坂の運転中など)長時間にわたる高いバッテリ放電出力が必要なことがある用途を扱う場合に非効率である。さらに、Godmundssonは、相変化材料が冷却されたときに電気化学セルを加熱するシステムは教示していない。
【0005】
その基本的な考えは、電気化学セルの温度が最低ターゲット温度未満のときは熱を供給し、最高ターゲット温度を超えるときは熱を除去し、ターゲット温度範囲内のときは熱エネルギー貯蔵材料の内外に熱を伝達することによって電気化学セルをターゲット温度内で動作可能にすることである。現実的な解決策とするには、電気化学セルを加熱する手法に、車両を低温環境に駐車した後で電動機などの電気負荷に十分な電力をその温度で供給できる温度に電気化学セルを急速に加熱できるように、長時間(例えば、少なくとも4時間以上)にわたって効率的に熱を蓄積するデバイスを採用すべきである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
熱を効率的に蓄積するために電気化学セルから急速に熱を除去し、電気化学セルに急速に熱を供給し、電気化学セルを最低ターゲット温度と最高ターゲット温度との間に維持するデバイスおよびシステムか、またはそれらを組み合わせたデバイスおよびシステムが引き続き必要とされている。例えば、電気化学セルから熱伝達流体および熱エネルギー貯蔵材料の両方に直接熱を伝達できるデバイスが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、熱伝達流体を受容する入口と、1つまたは複数の電気化学セルを受容する1つまたは複数の電気化学セル区画と、1つまたは複数の熱エネルギー貯蔵材料を収容する1つまたは複数の熱エネルギー貯蔵材料区画と、デバイスを通して熱伝達流体を流す1つまたは複数の熱伝達流体区画とを含むデバイスであって、1つまたは複数の熱伝達流体区画と1つまたは複数の電気化学セル区画との間の空間が、好ましくは、熱エネルギー貯蔵材料が実質的にない1つまたは複数の第1の領域(すなわち1つまたは複数の第1の部分)を含み、1つまたは複数の熱伝達流体区画と、1つまたは複数の熱エネルギー貯蔵材料区画との間の空間が、好ましくは、電気化学セルが実質的に1つまたは複数の第2の領域(すなわち1つまたは複数の第2の部分)を含み、そのため、熱伝達流体区画が、熱エネルギー貯蔵材料区画および電気化学セル区画の両方と直接熱連絡しているデバイスである。
【0008】
本発明の別の態様は、本明細書で説明する温度調整デバイスと;蓄熱デバイスであって、出口を有する断熱容器、断熱容器内にあり熱エネルギー貯蔵材料を含む1つまたは複数の熱エネルギー貯蔵材料区画、および蓄熱デバイスを通して熱伝達流体を流す1つまたは複数の熱伝達流体区画を含む蓄熱デバイスにおいて、熱伝達流体区画が、熱エネルギー貯蔵材料区画と熱連絡している、蓄熱デバイスと;蓄熱デバイスの出口から温度調整デバイスの入口に熱伝達流体を流す手段と;を含み、システムが、1つまたは複数の電気化学セルの温度を調整する温度調整システムである、システムである。
【0009】
本発明の態様に関連するプロセスは、熱伝達流体を使用して本明細書で説明するバッテリ温度調整デバイスに熱を伝達するステップを含む、電気化学セルの温度を調整する方法である。
【0010】
本発明の態様に関連する別のプロセスは、蓄熱デバイスからバッテリ温度調整デバイスに熱を伝達するステップを含む、本明細書で説明するバッテリ温度調整システムを用いて電気化学セルの温度を調整する方法である。
【0011】
本発明のデバイス、システム、およびプロセスは、好都合に、電気化学セルから熱伝達流体および熱エネルギー貯蔵材料の両方に直接熱を伝達することができる。本発明のデバイス、システム、およびプロセスは、驚くべきことに、電気化学セルから熱を急速に除去するか、電気化学セルに熱を急速に供給するか、電気化学セルを最低ターゲット温度と最高ターゲット温度との間の温度に効率的に維持するか、熱を効率的に蓄積するか、またはそれらの任意の組み合わせを行うことができる。
【0012】
以下の詳細な説明において本発明の実施形態の非限定的な例による留意される複数の図面を参照しながら本発明をさらに説明する。同様の参照番号は複数の図面を通して同様の部品を指す。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】例示のバッテリ温度調整デバイスの部分断面図である。
【図2A】例示のバッテリ温度調整デバイスの部分断面図である。図2Aに示すように、熱伝達流体区画が、概して平面の面を有することができる。
【図2B】例示のバッテリ温度調整デバイスの部分断面図である。図2Bに示すように、バッテリ温度調整デバイスは、第1の熱伝達流体のための第1の熱伝達流体区画および第2の熱伝達流体のための第2の熱伝達流体区画を含むことができる。
【図3】別の例示のバッテリ温度調整デバイスの部分断面図である。
【図4】例示の温度調整デバイスの部分断面図である。図4に示すように、そのデバイスは、概して平面の面を有する電気化学セル区画を含むことができる。
【図5】例示の蓄熱デバイスの部分断面図である。
【図6】例示の蓄熱デバイスの部分断面図である。図6に示すように、蓄熱デバイスは毛細管構造を含むことができる。
【図7】バッテリ温度調整システムの概略図である。
【図8A】バッテリ温度調整システムの概略図である。図8Aに示すように、そのシステムは、電熱器を有する蓄熱デバイスを含むことができる。
【図8B】バッテリ温度調整システムの概略図である。図8Bに示すように、そのシステムが電熱器を有する蓄熱デバイスを含むことができるか、蓄熱デバイスがバッテリ温度調整デバイスを内部に組み込むことができるか、またはその両方である。
【図9】バッテリ温度調整システムの概略図である。図9に示すように、そのシステムは、バッテリ温度調整デバイスから熱を除去する第1の熱伝達流体と、バッテリ温度調整デバイスに熱を供給する第2の熱伝達流体とを含むことができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の詳細な説明では、好ましい実施形態に関連付けながら本発明の特有の実施形態を説明する。しかし、以下の説明は、本技法の特定の実施形態または特定の使用に特有のものである限り、単なる図示のものであり、単に例示的な実施形態の簡潔な説明を提示するに過ぎない。したがって、本発明は以下に説明する特有の実施形態に限定されず、むしろ、添付の請求項の真の範囲内に包含される全ての代替形態、修正形態、および等価物を含む。
【0015】
本明細書の教示から分かるように、本発明は、より効率的であるか、より信頼できるか、またはその両方の利益を有する電気化学セルの温度を調整する、固有のデバイス、システム、およびプロセスを提供する。
【0016】
本発明のバッテリ温度調整システムは、1つまたは複数の熱エネルギー貯蔵材料および1つまたは複数の熱伝達流体を含む。例えば、バッテリ温度調整システムは、新規のバッテリ温度調整デバイスを含むことができ、そのバッテリ温度調整デバイスは、1つまたは複数の電気化学セル、熱エネルギー貯蔵材料、および1つまたは複数の熱伝達流体区画を収容する。デバイス内の熱エネルギー貯蔵材料から熱を除去するか、電気化学セルから熱を除去するか、デバイス内の熱エネルギー貯蔵材料に熱を供給するか、電気化学セルに熱を供給するか、またはそれらの任意の組み合わせを行うために、デバイスを通して熱伝達流体を流すために、1つまたは複数の熱伝達流体区画を採用することができる。好ましくは、1つまたは複数の熱伝達流体区画は、熱エネルギー貯蔵材料と熱連絡する1つまたは複数の部分と、電気化学セルと熱連絡する1つまたは複数の部分とを含む。
【0017】
(バッテリ温度調整デバイス)
バッテリ温度調整デバイスは、1つまたは複数の熱伝達流体区画と、1つまたは複数の電気化学セル区画と、1つまたは複数の熱エネルギー貯蔵材料区画とを含むことができる。1つまたは複数の熱伝達流体区画と1つまたは複数の電気化学セル区画との間の空間は、好ましくは、熱エネルギー貯蔵材料が実質的にまたは全くない1つまたは複数の領域(すなわち、電気化学セル区画と熱伝達流体区画との間に挿入される熱エネルギー貯蔵材料がない1つまたは複数の領域)を含む。1つまたは複数の熱伝達流体区画と1つまたは複数の熱エネルギー貯蔵材料区画との間の空間は、好ましくは、電気化学セルが実質的にまたは全くない1つまたは複数の領域(すなわち、熱エネルギー貯蔵材料区画と熱伝達流体区画との間に挿入された電気化学セルまたは電気化学セルの一部分がない1つまたは複数の領域)を含む。したがって、熱伝達流体区画は、好ましくは、電気化学セル区画および熱エネルギー貯蔵材料区画の両方と熱連絡(例えば、直接熱連絡)している。
【0018】
その様々な態様では、本発明は、電気化学セルから熱を除去するか、電気化学セルに熱を供給するか、電気化学セルの温度を維持するか、またはそれらの任意の組み合わせを行うなど、電気化学セルの温度を制御することによってバッテリ温度調整デバイス内の1つまたは複数の電気化学セルの性能を改善または維持することに基づいている。
【0019】
バッテリ温度調整デバイスは、バッテリ内の電気化学セルの温度を電気化学セル最高動作温度未満の温度に冷却されるか、電気化学セルの最低動作温度を超える温度に加熱されるか、ターゲット温度範囲内に維持するか、またはそれらの任意の組み合わせを行うように好都合に採用することができる。したがって、バッテリ温度調整デバイスは、デバイスに熱エネルギーを伝達する1つもしくは複数の手段、デバイスから熱エネルギーを除去する1つもしくは複数の手段、デバイス内の温度を高温限界未満の温度に維持する1つもしくは複数の手段、デバイス内の温度を低温限界を超える温度に維持する1つもしくは複数の手段、またはそれらの任意の組み合わせを含むことができる。好ましくは、バッテリ温度調整デバイスは、少なくとも、電気化学セルを加熱する手段、電気化学セルを冷却する手段、および電気化学セル内の温度を維持する手段を含む。
【0020】
バッテリ温度調整デバイスは、1つまたは複数の電気化学セルを受容するかまたは別法で収容する1つまたは複数の電気化学セル区画と、1つまたは複数の熱伝達流体区画とを含む。1つまたは複数の熱伝達流体区画は、好ましくは、熱伝達流体が電気化学セルに入らないように、1つまたは複数の電気化学セル区画から独立している。バッテリ温度調整デバイスは、熱伝達流体区画を熱伝達流体に流入させるための1つまたは複数の熱伝達流体入口を収容することができる。バッテリ調整デバイスは、好ましくは、デバイスから熱伝達流体を取り出すための1つまたは複数の熱伝達流体出口を有する。
【0021】
好ましくは、バッテリ温度調整デバイスは、デバイス中に熱を伝達する手段と、デバイス外に熱を伝達する手段とを含む。例えば、バッテリ温度デバイスは、デバイスの外側にある構成要素と熱連絡することができる。こうした熱連絡には、デバイスに熱を急速に供給するかまたはデバイスから熱を急速に除去できるように、熱伝達流体などの流体、または熱伝導率および接触面積の十分に高い固体を含むことができる。バッテリ温度調整デバイスに熱を伝達する手段は、好ましくは、温度調整デバイスを通して熱伝達流体を循環させるステップを含む。バッテリ温度調整デバイスの外に熱を伝達する手段は、好ましくは、デバイスを通して熱伝達流体を循環させるステップを含む。バッテリ温度調整デバイスを加熱する熱伝達流体と冷却する熱伝達流体は、互いに同じでもよく、異なっていてもよい。バッテリ温度調整デバイスを加熱する熱伝達流体および冷却する熱伝達流体は、両方とも、同じ熱伝達流体区画を通して循環させることができる。あるいは、バッテリ温度調整デバイスは、デバイスを冷却する第1の熱伝達流体およびデバイスを加熱する第2の熱伝達流体を含むことができる。任意選択で、バッテリ温度調整デバイスに用いられる熱伝達流体のうちのいずれかは、本質的に作動流体を含むかまたは作動流体から構成することができる。例えば、デバイスは、デバイス内に熱を伝達する作動流体、デバイス外に熱を伝達する作動流体、またはその両方を含むことができる。
【0022】
(熱エネルギー貯蔵材料区画)
上記で説明したように、熱エネルギー貯蔵材料は、好ましくは、1つまたは複数の区画から独立している。通例、熱エネルギー貯蔵材料は、単位がW/m・Kの熱伝導率が比較的低いか、単位がm/sの熱拡散率が比較的低いか、またはその両方である。例えば、熱エネルギー貯蔵材料の熱伝導率、熱拡散率、またはその両方を、熱エネルギー貯蔵材料がその中に供給される区画の材料よりも低くすることができる。熱伝導率が比較的高いか、熱拡散率が比較的高いか、またはその両方である熱エネルギー貯蔵材料を用いることもできる。好ましくは、1つまたは複数の区画の形状および/またはサイズは、熱エネルギー貯蔵材料に熱エネルギーを急速に供給するかまたは熱エネルギー貯蔵材料から熱エネルギーを急速に除去できるように選択される。したがって、熱エネルギー貯蔵材料区画は、熱エネルギー貯蔵材料の内外への熱伝達速度を高める1つまたは複数の手段を用いることができる。熱伝達速度は、熱エネルギー貯蔵材料の体積当たりの電力(すなわち、ワット/m)として測定することができる。例えば、1つまたは複数の熱エネルギー貯蔵材料は、(例えば、1つまたは複数の他の寸法と比べて)比較的小さい少なくとも1つの寸法を有することができるか、熱エネルギー貯蔵材料を、複数の区画内に蓄積することができるか、1つまたは複数の区画は、内部に熱伝導性の物体(例えば、フィン、ワイヤ、メッシュなど)を有することができるか、またはそれらを任意に組み合わせることができる。
【0023】
熱エネルギー貯蔵材料は、好ましくは、十分な数のセルまたはカプセルの間に供給され、そのため、1つまたは2つのセルまたはカプセルが故障した場合は、場合によっては逃げてしまう熱エネルギー貯蔵材料の量は少ないか、デバイスが機能し続けるか、またはその両方が起こる。例えば、単一のセル内の熱エネルギー貯蔵材料の量は、デバイス内の熱エネルギー貯蔵材料全体の量に基づいて、好ましくは、35パーセント未満、より好ましくは10パーセント未満、さらにより好ましくは約5パーセント未満、最も好ましくは約2パーセント未満である。好ましくは、セルの一部または全部は、熱エネルギー貯蔵材料の少なくとも0.01パーセントを収容する。
【0024】
熱エネルギー貯蔵材料区画と熱伝達流体区画との間の接触領域は、熱伝達流体によって熱エネルギー貯蔵材料を効率的に除去できるように十分高くすることができる。ATESMは、1つまたは複数の熱伝達流体区画と1つまたは複数の熱エネルギー貯蔵材料区画との間の接触領域であり、AECは、1つまたは複数の熱伝達流体区画と1つまたは複数の電気化学セル区画との間の接触領域である。ATESM/(ATESM+AEC)の比は、0.01超、好ましくは0.05超、より好ましくは0.10超、さらにより好ましくは約0.2超、最も好ましくは約0.25超とすることができる。ATESM/VTESMの比は、熱エネルギー蓄積区画の中心からの熱拡散による熱の遅れが小さくなるように、十分に高くすることができる。ここで、VTESMは、(温度25℃で測定した)1つまたは複数の熱エネルギー貯蔵材料区画内の熱エネルギー貯蔵材料の体積である。例えば、ATESM/VTESMの比は、好ましくは約0.05mm−1超、より好ましくは約0.2mm−1超、さらにより好ましくは約0.5mm−1超、最も好ましくは約1mm−1超である。
【0025】
熱エネルギー貯蔵材料は、好ましくは、個別に独立した複数の(カプセルなどの)セル内にあり、それらのセルは、複数のセルの全表面積が比較的大きいか、セルの表面からセルの中心までの距離が比較的短いか、またはその両方である。複数のセル(例えば、カプセル)を1つまたは複数の層のセルに配置することができる。例えば、蓄熱デバイスは、複数の層のセル(例えば、カプセル)を含むことができる。各セル層は、単一のセルまたは複数のセルを収容することができる。概して、セル層は、1つのセル、または構造上互いに接続された複数のセルを指す。例えば、セル層は、熱エネルギー貯蔵材料を収容する1つまたは複数の空間が形成されるように、熱エネルギー貯蔵材料をそれらの間に有する2枚のシート(例えば、2枚のフォイル)の少なくとも外周をシールして取り付けることによって形成することができる。1層のセル(例えば、1層のカプセル)は比較的厚さが薄いか、表面積と体積の比が比較的大きいか、またはその両方であり、そのため、セルの内部から熱を急速に除去できることが理解されよう。セルを層内でどのような配置にしてもよい。例えば、セルは互いに同じサイズまたは形状のものとしてもよく、サイズおよび形状が異なるものとしてもよく、セルを繰り返しパターン(例えば、1、2、またはそれ以上のセルを収容するパターン)に配置することもでき、概して繰り返さないパターンに配置することもできる。本発明の好ましい態様では、セルは、各カプセル層においてある配列(例えば、1次元の配列、2次元の配列、または放射状の配列)のカプセルとして配置される。
【0026】
蓄熱デバイスは、複数のカプセル層を含むことができ、1対または複数対の隣接するカプセル層の間に空間がある。その空間を熱伝達流体区画の一部分として使用することができる。カプセル層は、片面に空間を有するか、対抗する2つの面に空間を有するか、空間を有しないか、またはそれらの任意の組み合わせでよい。例えば、全ての対の隣接するカプセル層の間に空間があってよい。
【0027】
カプセル層は、弓形の面と、概して平坦な対抗する面とを有することができる。概して弓形の面は、熱伝達流体のために特に魅力的なことがあるか、弓形の通路は、カプセルを概して弓形の電気化学セル区画と接触させるように熱伝達流体とカプセルとの間の熱の流れを増大させることができるか、またはその両方である。概して平坦な面は、熱伝達流体区画を通って流れるときの熱伝達流体の圧力効果を低減するために、カプセルを概して平坦な電気化学セル区画に接触させるために、またはその両方のために、特に魅力的なことがある。概して平坦な面は、熱伝達流体区画を毛細管ポンプ式ループのコンデンサとして使用できるように、任意選択の毛細管構造を配置するのに特に魅力的なこともある(毛細管構造の厚さは、作動流体区画の一部分の両側にある2つのカプセル層の間の離隔距離を決めることができる)。両方とも概して平坦な面を有する層、または両方とも弓形の対抗する面を有する層を用いることもできる。部分的または実質的に全体に互いに入れ子になる隣接する2つのカプセル層を用いることもできる。例えば、隣接する2つのカプセル層は、互いに入れ子にしてもよく、2つの層の間で熱伝達流体を流すことができるように隙間によって分離してもよい。
【0028】
カプセルのサイズおよび形状を、カプセル内に収容された相変化材料への熱伝達およびそこからの熱伝達を最大にするように選択することができる。カプセルの(例えば、カプセル層)の平均の厚さは、カプセルの中心から急速に熱を逃がすことができるように選択することができる。カプセルの平均の厚さは、好ましくは、約100mm未満、より好ましくは約30mm未満、さらにより好ましくは約10mm未満、さらにより好ましくは約5mm未満、最も好ましくは約3mm未満である。カプセルは、熱エネルギーを効果的に蓄積するのに十分に厚くなければならない。カプセルの平均の厚さは、好ましくは、約0.1mm超、より好ましくは約0.5mm超、さらにより好ましくは約0.8mm超、最も好ましくは1.0mm超である。
【0029】
カプセルは、好ましくは、表面積と体積の比が比較的大きく、そのため、作動流体との接触領域、熱伝達流体との接触領域、またはその両方が比較的大きくなり、したがって、急速にカプセルに熱を供給しかつ/またはカプセルから熱を除去することができる。例えば、カプセルは、作動流体区画との接触を最大にする面を有することができるか、カプセルと作動流体区画との間の熱伝達を最大にする形状を有することができるか、またはその両方が可能である。作動流体区画と相変化材料区画との間のインターフェースの全表面積と、蓄熱デバイス内の熱エネルギー貯蔵材料の全体積の比は、約0.02mm−1超、好ましくは約0.05mm−1超、より好ましくは約0.1mm−1超、さらにより好ましくは約0.2mm−1超、最も好ましくは約0.3mm−1超になるように選択することができる。作動流体区画と相変化材料区画との間のインターフェースの全表面積と、蓄熱デバイス内の熱エネルギー貯蔵材料の全体積の比は、デバイスが熱を蓄積するのに十分な熱エネルギー貯蔵材料を収容するように十分に低くなければならない。作動流体区画と相変化材料区画との間のインターフェースの全表面積と、蓄熱デバイス内の熱エネルギー貯蔵材料の全体積の比は、好ましくは、約30mm−1未満になるように選択される。
【0030】
熱エネルギー貯蔵材料区画は、ブリスタパックまたはブリスタパック積層体の形態でよい。例えば、複数の独立したカプセルを形成するように互いにシールされた、エンボス加工された金属層と平坦な金属層との間に熱エネルギー貯蔵材料を封入することができる。限定されるものではないが、蓄熱デバイスは、2009年2月20日出願の米国特許出願第12/389,598号「Heat Storage Devices」に記載されている、カプセルまたはカプセルの構成(例えば、ブリスタパックまたはブリスタパック積層体)を用いることができる。
【0031】
(カプセルの形成)
熱エネルギー貯蔵材料のカプセルは、熱エネルギー貯蔵材料の封入を行う任意の方法を用いて形成することができる。限定されるものではないが、そのプロセスは、以下のうちの1つまたはそれらの任意の組み合わせを用いることができる。シートにパターンを画定するように薄い材料シート(例えば、フォイル)をエンボス加工するかまたは別法で変形するステップ、エンボス加工したシートの窪みを熱エネルギー貯蔵材料で充填するステップ、エンボス加工したシートを第2のシート(例えば、概して平坦なシート)でカバーするステップ、またはそれらの2枚のシートを貼付するステップ。カプセルを形成するプロセスには、2009年2月20日出願の米国特許出願第12/389,598号「Heat Storage Devices」に記載されたプロセスを用いることができる。
【0032】
熱エネルギー貯蔵材料を封入するための適切なシートには、好ましくはシートが漏出なしに熱エネルギー貯蔵材料を収容できるように、耐久性があるか、腐食抵抗性があるか、またはその両方である、薄い金属シート(例えば、金属フォイル)が含まれる。金属シートは、1年超の、好ましくは5年超の繰り返し熱サイクル車両環境で機能可能とすることができる。そうでない場合に金属シートは、動作中に熱エネルギー貯蔵材料に接触する、実質的に不活性の外面を有することができる。限定されるものではないが、利用できる例示的な金属シートには、少なくとも1つの層の真鍮、銅、アルミニウム、ニッケル鉄合金、青銅、チタン、ステンレス鋼などを有する金属シートが含まれる。そのシートは、概して貴金属でもよく、酸化物層(例えば、自然酸化物層または表面に形成できる酸化物層)を有する金属を含むものであってもよい。例示的な一金属シートはアルミニウムフォイルであり、そのアルミニウムフォイルは、アルミニウム層またはアルミニウム含有合金(例えば、アルミニウム50重量パーセント超、好ましくはアルミニウム90重量パーセント超を含有するアルミニウム合金)の層から構成される。別の例示的な金属シートはステンレス鋼である。適切なステンレス鋼には、オーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、またはマルテンサイト系ステンレス鋼が含まれる。限定されるものではないが、ステンレス鋼は、濃度約10重量パーセント超、好ましくは約13重量パーセント超、より好ましくは約15重量パーセント超、最も好ましくは約17重量パーセント超のクロムを含むことができる。ステンレス鋼は、濃度約0.30重量パーセント未満、好ましくは約0.15重量パーセント未満、より好ましくは約0.12重量パーセント未満、最も好ましくは約0.10重量パーセント未満の炭素を含むことができる。例えば、ステンレス鋼304(SAE呼称)は、クロム19重量パーセントおよび炭素約0.08重量パーセントを含有する。適切なステンレス鋼は、316(SAE呼称)など、モリブデンを含有するステンレス鋼も含む。
【0033】
シートを形成するとき、カプセルを熱エネルギー貯蔵材料で充填するとき、カプセルを使用する間、またはそれらの任意の組み合わせのときに、穴またはひび割れが形成されないように、金属シートの厚さは十分に厚い。輸送などの用途のために、金属シートは、好ましくは、比較的薄く、そのため、蓄熱デバイスの重さが金属シートによって大幅に増加されることがない。金属シートの適切な厚さは、約10μm超、好ましくは約20μm超、より好ましくは約50μm超でよい。金属フォイルの厚さは、厚さ約3mm未満、好ましくは1mm未満、より好ましくは0.5mm未満(例えば、約0.25mm未満)でよい。
【0034】
(熱エネルギー貯蔵材料)
限定されるものではないが、蓄熱デバイスに関する適切な熱エネルギー貯蔵材料には、顕熱、潜熱、または好ましくはその両方として比較的高い熱エネルギー密度をとることができる材料が含まれる。熱エネルギー貯蔵材料は、好ましくは、蓄熱デバイスの動作温度範囲と適合している。例えば、熱エネルギー貯蔵材料は、好ましくは、蓄熱デバイスの動作温度が低いときは固体であるか、蓄熱デバイスの動作温度が最高のときは少なくとも部分的に液体(例えば、全てが液体)であるか、デバイスの動作温度が最高のときは(例えば、少なくとも約1,000時間、好ましくは少なくとも約10,000時間にわたって)あまり劣化も分解もしないか、またはそれらの任意の組み合わせとなる。熱エネルギー貯蔵材料は、固体から液体への転移温度(例えば、液相温度、融解温度、または共融温度)を有する相変化材料でよい。固体から液体への転移温度は、約30℃超、好ましくは約35℃超、より好ましくは約40℃超、さらにより好ましくは約45℃超、最も好ましくは約50℃超でよい。熱エネルギー貯蔵材料の固体から液体への転移温度は、約400℃未満、好ましくは約350℃未満、より好ましくは約290℃未満、さらにより好ましくは約250℃未満、最も好ましくは約200℃未満でよい。熱エネルギー貯蔵材料の融解熱密度は、約0.1MJ/リットル超、好ましくは約0.2MJ/リットル超、より好ましくは約0.4MJ/リットル超、最も好ましくは約0.6MJ/リットル超でよい。通例、熱エネルギー貯蔵材料の融解熱密度は、約5MJ/リットル未満である。しかし、融解熱密度が高い熱エネルギー貯蔵材料を用いることもできる。熱エネルギー貯蔵材料の密度は、約5g/cm未満、好ましくは約4g/cm未満、より好ましくは約3.5g/cm未満、最も好ましくは約3g/cm未満でよい。
【0035】
熱エネルギー貯蔵材料区画は、当技術分野で知られた熱エネルギー貯蔵材料を収容することができる。その熱エネルギー貯蔵材料区画に採用できる熱エネルギー貯蔵材料の例には、Atul Sharma、V.V.Tyagi、C.R.Chen、D.Buddhi、「Review on thermal energy storage with phase change materials and applications」、Renewable and Sustainable Energy Reviews 13 (2009) 318-345、およびBelen Zalba、Jose Ma Marin、 Luisa F. Cabeza、Harald Mehling、「Review on thermal energy storage with phase change: materials, heat transfer analysis and applications」、Applied Thermal Engineering 23 (2003) 251-283に記載の材料が含まれる。それらの文献は両方とも参照によりその全体が本明細書に援用される。熱伝達デバイスに採用できる適切な熱エネルギー貯蔵材料の他の例には、2009年2月20日出願の米国特許出願第12/389,416号「Thermal Energy Storage Materials」、および2009年2月20日出願の米国特許出願第12/389,598号「Heat Storage Devices」に記載された熱エネルギー貯蔵材料が含まれる。
【0036】
熱エネルギー貯蔵材料は、有機材料、無機材料、または有機材料と無機材料の混合物を含むことができる。利用できる有機化合物には、パラフィン、および脂肪酸などの非パラフィン系有機材料が含まれる。利用できる無機材料には、含水塩および金属が含まれる。熱エネルギー貯蔵材料は、固体から液体への転移が概して単一の温度である化合物または混合物(例えば、共融混合物)でよい。熱エネルギー貯蔵材料は、ある範囲の温度(例えば、約3℃超、または約5℃超の範囲)で固体から液体に転移する化合物または混合物でよい。
【0037】
限定されるものではないが、単独でまたは混合物として使用できる適切な非パラフィン系有機材料には、ポリエチレングリコール、カプリン酸、エラジン酸(eladic acid)、ラウリン酸、ペンタデカン酸、トリステアリン、ミリスチン酸、パルマチン酸(palmatic acid)、ステアリン酸、アセトアミド、フマル酸メチル、ギ酸、カプリル酸、グリセリン、D−乳酸、パルミチン酸メチル、カンフェニロン(camphenilone)、臭化ドカシル(docasyl bromide)、カプリロン(caprylone)、フェノール、ヘプタデカノン(heptadecanone)、1−シクロヘキシロオクタデカン(cyclohexylooctadecane)、4−ヘプタデカノン、p−トルイジン、シアナミド、メチルエイコサナーテ(methyl eicosanate)、3−ヘプタデカノン、2−ヘプタデカノン、ヒドロケイ皮酸(hydrocinnamic)、セチルアルコール、ネフチルアミン(nepthylamine)、カンフェン、o−ニトロアニリン、9−ヘプタデカノン、チモール、ベヘン酸メチル、ジフェニルアミン、p−ジクロロベンゼン、オキソレート(oxolate)、次リン酸(hypophosphoric)、二塩化o−キシレン、クロロ酢酸(chloroacetic)、ニトロナフタレン、トリミリスチン、ヘプタウデカン酸(heptaudecanoic)、蜜ろう、グリオリック酸(glyolic acid)、グリコール酸、p−ブロモフェノール、アゾベンゼン、アクリル酸、ジントトルエント(dinto toluent)、フェニル酢酸、チオシナミン、ブロムしょうのう(bromcamphor)、ズレン、ベンジルアミン、メチルブロムブレンゾアーテ(methyl brombrenzoate)、アルファナプトール(alpha napthol)、グラウタリック酸(glautaric acid)、二塩化p−キシレン、カテコール、キノン、アセトアニリド、無水コハク酸、安息香酸、スチベン、ベンズアミド、またはそれらの任意の組み合わせが含まれる。
【0038】
限定されるものではないが、単独でまたは混合物として使用できる適切な無機塩類には、KHPO・6HO、FeBr・6HO、Μn(ΝO・6HO、FeBr・6HO、CaCl・12HO、LiNO・2HO、LiNO・3HO、NaCO・10HO、NaSO・10HO、KFe(SO・12HO、CaBr・6HO、LiBr・2HO、Ζn(ΝO・6HO、FeCl・6HO、Μn(ΝO・4HO、NaHPO・12HO、CoSO・7HO、KF・2HO、MgI・8HO、CaI・6HO、KHPO・7HO、Zn(NO・4HO、Mg(NO)・4HO、Ca(NO)・4HO、Fe(NO・9HO、NaSiO・4HO、ΚΗΡO・3HO、Na・5HO、MgSO・7HO、Ca(NO・3HO、Ζn(ΝO・2HO、FeCl・2HO、Ni(NO・6HO、MnCl・4HO、MgCl・4HO、CHCOONa・3HO、Fe(NO・6HO、NaAl(SO・10HO、NaOH・HO、NaPO・12HO、LiCHCOO・2HO、Al(NO・9HO、Ba(OH)・8HO、Mg(NO・6HO、KAl(SO・12HO、MgCl・6HO、またはそれらの任意の組み合わせが含まれる。濃度が水よりも高いまたは低い無機塩類を使用できることが理解されよう。
【0039】
熱エネルギー貯蔵材料は、少なくとも1つの第1の金属含有材料、より好ましくは少なくとも1つの第1の金属含有材料と少なくとも1つの第2の金属含有材料の組み合わせを含むことができる(あるいは、さらに、それらから本質的に構成されるかまたはそれらから構成されてよい)。第1の金属含有材料、第2の金属含有材料、またはその両方が、実質的に純金属、実質的に純金属および1つもしくは複数の追加の合金化材料(例えば、1つまたは複数の他の金属)を含有するような合金、金属間化合物、金属化合物(例えば、塩、酸化物、またはそれ以外のもの)、またはそれらの任意の組み合わせでよい。好ましい一手法は、金属化合物の一部として1つまたは複数の金属含有材料を用いることであり、より好ましい手法は、少なくとも2つの金属化合物の混合物を用いることである。一例として、適切な金属化合物を、酸化物、水酸化物、窒素および酸素を含有する化合物(例えば、硝酸塩、亜硝酸塩、またはその両方)、ハロゲン化合物、またはそれらの任意の組み合わせから選択することができる。3成分、4成分、または他の複数成分の材料システムを利用可能にすることもできる。本明細書の熱エネルギー貯蔵材料は2つ以上の共融材料の混合物でよい。
【0040】
(断熱)
バッテリ温度調整デバイスは、好ましくは、電気化学セルが熱を生成していないときにデバイスからの熱損失が低減されるかまたは最低限に抑えられるように少なくとも部分的に断熱されている。断熱すると、電気化学セルが比較的長時間にわたって熱を生成していないときに、デバイスが温度を最低ターゲット温度を超える温度に維持可能にすることができる。断熱により、断熱材を収容しておらずそれ以外は同一であるデバイスよりもある時間だけ長く、好ましくは少なくとも50パーセント長く、最も好ましくは100パーセント長く、温度を最低ターゲット温度を超える温度にデバイスが維持可能にすることができる。デバイスを最高ターゲット温度に加熱し、次いで、デバイスをさらに加熱することなしに(すなわち、熱伝達流体は循環せず、電気化学セルは充電も放電もされずに)デバイスを−30℃の外気温にさらすことによって、デバイスが最低ターゲット温度を超える温度のままである時間を測定することができる。このように測定すると、バッテリ温度調整デバイスは、好ましくは少なくとも約5分間、より好ましくは少なくとも20分間、最も好ましくは少なくとも約60分間にわたって最低ターゲット温度を超える温度に維持する。
【0041】
蓄熱デバイスによる熱損失を防止する既知の任意の形態の断熱を利用することができる。例えば、参照によりその全体が本明細書に援用される米国特許第6,889,751号に記載された任意の断熱を用いることができる。蓄熱デバイスは、好ましくは、1つまたは複数の面で断熱されるように(熱に関して)断熱した容器である。好ましくは、周囲または外部に露出した一部または全部の表面が、隣接した断熱材を有する。断熱材は、対流熱損失を低減し、放射熱損失を低減し、伝導熱損失を低減し、またはそれらの任意の組み合わせを低減することによって機能することができる。好ましくは、好ましくは比較的熱伝導が低い断熱材料または断熱構造を使用することで断熱することができる。離間した対向する壁の間の隙間を使用することで断熱することができる。その隙間は、空気空隙など、気体状媒体によって占有されてよく、あるいは、場合によっては、(例えば、デュワー瓶を使用して)真空にされた空間、熱伝導率が低い材料もしくは構造、熱放射率が低い材料もしくは構造、対流が低い材料もしくは構造、またはそれらの任意の組み合わせでもよい。限定されるものではないが、断熱には、セラミック断熱(石英またはガラス断熱など)、ポリマー断熱、またはそれらの任意の組み合わせが含まれてよい。断熱は、繊維形態、フォーム形態、高密度層、コーティング、またはそれらの任意の組み合わせの形態でよい。断熱材は、織物材料、不織材料、またはそれらの組み合わせの形態でよい。熱伝達デバイスを、デュワー瓶、より具体的には、内部貯蔵空洞を画定するように構成された概して対抗する壁と、大気圧未満に真空引きされているそれらの対抗する壁の間の壁の空洞とを含む容器を用いて断熱することができる。それらの壁はさらに、放射熱損失を最小限に抑えるために反射性の表面コーティング(例えば、鏡面)を利用することができる。
【0042】
好ましくは、システムの周りに真空断熱が用いられる。より好ましくは、参照によりその全体が本明細書に援用される米国特許第6,889,751号に記載されている真空断熱が用いられる。
【0043】
図1は、例示的なバッテリ温度調整デバイス10の図示の部分断面図である。図1を参照すると、バッテリ温度調整デバイス10は、1つまたは複数の電気化学セル区画12、1つまたは複数の熱エネルギー貯蔵材料区画14、および1つまたは複数の熱伝達流体区画16を含むことがある。その熱エネルギー貯蔵材料区画は、1つまたは複数の熱エネルギー貯蔵材料18を収容することがある。電気化学セル区画は、1つまたは複数の電気化学セル20を収容することがある。熱伝達流体区画と電気化学セル区画22との間の空間の一部分には、熱エネルギー貯蔵材料が実質的にまたは全くない。熱伝達流体区画と熱エネルギー貯蔵材料区画24との間の空間の一部分には、電気化学セルが実質的にないかまたは全くない。図1に示すように、熱エネルギー貯蔵材料区画14と電気化学セル区画12との間の接触領域は、比較的小さいかまたはそれどころかゼロであることがある。例えば、熱エネルギー貯蔵材料のうちの電気化学セル区画または熱伝達流体区画のいずれかと接触する全表面積に基づいて、熱エネルギー貯蔵材料区画の表面積のうちの約5パーセント未満、約3パーセント未満、約2パーセント未満、または約1パーセント未満が、電気化学セル区画に接触することがある。
【0044】
図2Aは、例示的なバッテリ温度調整デバイス10’の別の図示の部分断面図である。図2Aに示すように、熱エネルギー貯蔵材料区画14’の形状は、電気化学セル区画12が少なくとも部分的に熱エネルギー貯蔵材料区画内に入れ子になるように選択されることがある。熱エネルギー貯蔵材料区画と電気化学セル区画との間の接触領域26は、熱エネルギー貯蔵材料が電気化学セルと直接熱連絡するように比較的高いことがある。例えば、熱エネルギー貯蔵材料のうちの電気化学セル区画または熱伝達流体区画のいずれかと接触する全表面積に基づいて、熱エネルギー貯蔵材料区画の表面積のうちの少なくとも約5パーセント、少なくとも約10パーセント、少なくとも約20パーセント、または少なくとも約30パーセントが、電気化学セル区画に接触することがある。熱エネルギー蓄積区画は、複数のブリスタパックなど、複数のカプセルから構成することができる。図2Aに示すように、熱エネルギー蓄積区画は、少なくとも第1のブリスタパック28および第2のブリスタパック30を含むことができる。第1のブリスタパック28と第2のブリスタパック30とを互いに分離することができ、第1のブリスタパックと第2のブリスタパックとの間の空間は、熱伝達流体区画16’の少なくとも一部分を画定することができる。例えば、第1のブリスタパックの概して平坦な第1の面29と、第1の面に面する第2のブリスタパックの概して平坦な面29’を、空間が熱伝達流体を流すことが可能になるように互いに分離することができる。図2Bに示すように、バッテリ温度調整デバイスは、熱を除去し熱を供給するための別個の熱伝達流体区画を含むことができる。例えば、バッテリ温度調整デバイス10’’は、第1の熱伝達流体区画16’および第2の熱伝達流体区画32を有することができる。図2Bに示すように、熱伝達流体区画のうちの1つ(または両方)が、使用時に作動流体34を収容することができる。
【0045】
第1のブリスタパックおよび第2のブリスタパックを、概して対称的に配置された熱エネルギー貯蔵材料のカプセルと位置合わせすることができる。こうした配置を図1、図2A、および図2Bに示す。第1および第2のブリスタパックを非対称の配置に位置合わせすることができる。例えば、図3に示すように、第1のブリスタパック28’を第2のブリスタパック30’に対して輸送することができる。したがって、熱伝達流体区画と電気化学セル区画との間の空間の少なくとも一部分は、熱エネルギー貯蔵材料を収容することができる(すなわち、熱伝達流体区画を電気化学セル区画との間に熱エネルギー貯蔵材料を部分的に挿入することができる)。
【0046】
図4に示すように、電気化学セル区画12’が、概して平坦な面を有することができる。1つまたは複数の熱エネルギー貯蔵材料区画14’’を含む第1のブリスタパック28’’は、ブリスタパックの概して平坦な面が電気化学セル区画の概して平坦な面と接触するように配置することができる。隣接する第2のブリスタパック30’’が、第1のブリスタパック28’’と部分的に入れ子になることができる。2つのブリスタパック間の空間を熱伝達流体区画16’’の一部分として用いることができる。
【0047】
電気化学セル区画/電気化学セル
電気化学セル区画は、好ましくは、1つまたは複数の電気化学セルを受容するかまたは別法で収容することができる。電気化学セル区画は、好ましくは、熱エネルギー貯蔵材料区画および熱伝達流体区画の両方と熱連絡している。
【0048】
電気化学セルは、電気を生成する当技術分野で知られた電気化学セルでよい。例えば、電気化学セルは、1つまたは複数の化学反応から電気エネルギーを誘導することができる。電気化学セルは、一次電気化学セルまたは二次電気化学セルでよい。好ましくは、電気化学セルは、再充電できる二次電気化学セルである。限定されるものではないが、適切な二次電気化学セルには、鉛蓄電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、またはそれらの任意の組み合わせが含まれる。好ましい電気化学セルは、1つまたは複数のアノードおよび1つまたは複数のカソードを含む。好ましくは、半透膜などのセパレータがアノードとカソードとの間に用いられる。電気化学セルは、好ましくは、電解質を含む。使用できる一次電気化学セルの一例は、燃料から電気を生成する燃料電池である。
【0049】
(熱伝達流体区画)
バッテリ温度調整デバイスは熱伝達流体区画を有し、その熱伝達流体区画は、デバイスを通って循環する熱伝達流体を収容することができる。熱伝達流体区画は、好ましくは、熱伝達流体区画に熱伝達流体を流すための1つまたは複数の入口に接続される。熱伝達流体区画は、好ましくは、熱伝達流体を熱伝達流体区画の外に流すための1つまたは複数の出口に接続される。熱伝達流体区画は、1つまたは複数の熱伝達流体区画の壁によって少なくとも部分的に画定された空間、1つまたは複数の熱エネルギー蓄積区画によって少なくとも部分的に画定された空間、1つまたは複数の電気化学セル区画によって少なくとも部分的に画定された空間、バッテリ温度調整デバイスのハウジングまたは容器によって少なくとも部分的に画定された空間、またはそれらの任意の組み合わせとすることができる。
【0050】
熱伝達流体区画は、好ましくは、電気化学セルおよび熱エネルギー貯蔵材料の両方から熱を除去できるかまたはそれに熱を供給できるように、1つまたは複数の電気化学セル区画および1つまたは複数の熱エネルギー貯蔵材料区画の両方と十分に熱連絡している。熱伝達流体区画は、好ましくは、1つまたは複数(またはより好ましくは全ての)電気化学セル区画と直接熱連絡している。直接熱連絡は、熱伝達流体区画のうちの熱エネルギー貯蔵材料も熱伝導率が低い材料もない部分と電気化学セルとの間の最短距離の任意の経路とすることができる。熱伝導率が低い材料には、熱伝導率が約100W/(m・K)未満、好ましくは約10W/(m・K)未満、より好ましくは約3W/(m・K)未満の材料が含まれる。例えば、熱伝達流体または熱伝達流体区画は、1つまたは複数(または好ましくは全て)の電気化学セル区画の壁に接触してもよく、熱伝導率が高い(例えば、約5W/(m・K)超、約12W/(m・K)超、または約110W/(m・K)超の)材料によって電気化学セル区画から実質的にまたは全面的に分離してもよい。熱エネルギー貯蔵材料または熱伝導率の低い材料の非常に薄い(例えば、約0.1mm未満、好ましくは約0.01mm未満、より好ましくは約0.001mm未満の)層は、認識可能な程熱伝達に影響を及ぼすことなく、熱伝達流体区画と電気化学セルとの間にあってよいことが理解されよう。したがって、1つまたは複数の電気化学セル区画と1つまたは複数の熱伝達流体区画との間の空間は、好ましくは、熱エネルギー貯蔵材料が実質的にない1つまたは複数の領域を含む。熱伝達流体区画は、好ましくは、1つまたは複数(またはより好ましくは全て)の熱エネルギー蓄積区画と直接熱連絡している。直接熱連絡は、熱伝達流体区画のうちの電気化学セルがないか、熱伝導率が低い材料がないか、またはその両方がない部分と、熱エネルギー蓄積区画との間の最短距離の任意の経路とすることができる。例えば、熱伝達流体または熱伝達流体区画は、1つまたは複数(または好ましくは全て)の熱エネルギー貯蔵材料区画の壁に接触してもよく、熱伝導率の高い(例えば、約5W/(M・K)超、約12W/(m・K)超、または約110W/(m・K)超の)材料によって熱エネルギー貯蔵材料区画から実質的にまたは全面的に分離してもよい。熱伝導率の低い材料の非常に薄い(例えば、約0.1mm未満、好ましくは約0.01mm未満、より好ましくは約0.001mm未満)の層は、認識可能なほど熱伝達に影響を及ぼすことなく、熱伝達流体区画と熱エネルギー貯蔵材料区画との間にあってよいことが理解されよう。したがって、1つまたは複数の熱エネルギー貯蔵材料区画と1つまたは複数の熱伝達流体区画との間の空間は、好ましくは、電気化学セルが実質的にない1つまたは複数の領域を含む。
【0051】
(バッテリ温度調整システム)
デバイスから熱を除去するか、デバイスに熱を伝達するか、またはその両方を行うために、バッテリ温度調整デバイスを通って流れる1つまたは複数の熱伝達流体を含むバッテリ温度調整デバイスをシステムに用いることができる。バッテリ温度調整システムは、好ましくは、バッテリ温度調整デバイスから熱を受容するための1つまたは複数の要素(すなわち、熱除去要素)、バッテリ温度調整デバイスに熱を供給するための1つまたは複数の要素(すなわち、熱供給要素)、またはその両方を含む。熱除去要素は、好ましくは、バッテリ温度調整デバイスと流体接続しており、そのため、その両方を通って熱伝達流体が循環することができる。熱除去要素は、好ましくは、バッテリ温度調整デバイスに接続され、そのデバイスは、熱伝達流体を熱除去要素に伝達する第1のラインと、熱伝達流体を熱除去要素の外に伝達する第2のラインとを含む2以上のライン(例えば、チューブ)を有する。熱供給要素は、好ましくは、バッテリ温度調整デバイスに接続され、そのデバイスは、熱伝達流体を熱供給要素に伝達する第1のラインと、熱伝達流体を熱供給要素の外に伝達する第2のラインとを含む2以上のライン(例えば、チューブ)を有する。熱供給要素は、好ましくは、バッテリ温度調整デバイスと流体接続しており、そのため、その両方を通って熱伝達流体が循環することができる。そのシステムは、好ましくは、熱伝達流体を循環させる1つまたは複数のポンプを含む。システムは、好ましくは、システム内の1つまたは複数の温度を測定するための1つまたは複数の温度プローブを含む。その1つまたは複数の温度プローブは、電気化学セル、熱伝達流体、熱供給要素、熱除去要素、外気温、バッテリ温度蓄積デバイス、熱エネルギー貯蔵材料、またはそれらの任意の組み合わせの温度を測定することができる。システムは、好ましくは、熱供給要素への熱伝達流体の流れが開始もしくは終了できるか、熱除去要素への熱伝達流体の流れが開始もしくは終了できるか、またはその両方ができるように、1つまたは複数のライン上に1つまたは複数のバルブを含む。システムは、任意選択で、電気抵抗ヒータなどのヒータを1つまたは複数含むことができる。その電気抵抗ヒータを、存在する場合は、熱供給要素を加熱するための熱を生成するために用いることができる。システムは、好ましくは、コントローラを1つまたは複数含む。コントローラは、熱供給要素への熱伝達流体の流れ、熱除去要素への熱伝達流体の流れ、またはその両方を制御することができる。コントローラは、1つもしくは複数のバルブ、1つもしくは複数のポンプ、1つもしくは複数のヒータ、またはそれらの任意の組み合わせを制御することができる。システムは、熱供給要素を断熱する1つもしくは複数の手段、熱供給要素をバッテリ温度調整デバイスに接続する1つもしくは複数(例えば、全ての)ライン、またはそれらの任意の組み合わせを含むことができる。
【0052】
(熱供給要素/蓄熱デバイス)
バッテリ温度調整システムは、好ましくは、バッテリ温度調整デバイスに熱を供給する熱供給要素を含む。熱供給要素は、バッテリ温度調整デバイス内の電気化学セルに熱を伝達できるように熱伝達流体を加熱できるどんな要素でもよい。適切な熱供給要素は、熱を蓄積するか、1つまたは複数の他の要素から熱を伝達するか、またはその両方を行うことができる。熱供給要素は、存在する場合は、好ましくは、バッテリ温度調整デバイスを加熱する熱エネルギーを効率的に蓄積する蓄熱デバイスから本質的に構成されるか、またはその蓄熱デバイスを含む。蓄熱デバイスは、バッテリ温度調整デバイスの外部にあってもよく、バッテリ温度デバイスに組み込んでもよい。蓄熱デバイスは、(例えば、断熱材を除く)デバイスの全体積に基づいて(例えば、J/mで測定して)比較的密度の高い熱エネルギーを蓄積することができる。例えば、蓄熱デバイスは、バッテリ温度調整デバイスの密度を超える、好ましくは少なくとも20パーセントを超える、より好ましくは少なくとも50パーセントを超える熱エネルギー密度を蓄積可能とすることができる。
【0053】
蓄熱デバイスは、好ましくは、蓄熱デバイスからの熱損失割合が低減されるかまたはなくなるように少なくとも部分的に断熱される。バッテリ温度調整デバイスに関して説明した断熱はいずれも、蓄熱デバイスの断熱に用いることができる。
【0054】
蓄熱デバイスを用いることで、バッテリ温度調整デバイスの断熱材を低減するかまたはなくすことが可能でよい。例えば、(体積が比較的大きいことがある)バッテリ温度調整デバイスを断熱するよりも、(1つまたは複数の電気化学セルを全体に収容しないときは体積が比較的小さくなることがある)蓄熱デバイスを断熱するのをより効率的にすることができる。
【0055】
蓄熱デバイスは、好ましくは、1つまたは複数の熱伝達流体区画および1つまたは複数の熱エネルギー貯蔵材料区画を含む。
【0056】
蓄熱デバイスの熱エネルギー貯蔵材料区画は、本明細書で説明したバッテリ温度調整デバイス用の任意の熱エネルギー貯蔵材料区画でよい。好ましくは、蓄熱デバイスの熱エネルギー貯蔵材料区画は、熱伝達流体区画から熱エネルギー貯蔵材料を断熱する構造の1つまたは複数の熱エネルギー貯蔵材料を含む。熱エネルギー貯蔵材料を、1つもしくは複数のセルまたはカプセルに封入することができる。例えば、熱エネルギー貯蔵材料を、1つまたは複数のブリスタパックなど、より多くのカプセル層に設けることができる。
【0057】
蓄熱デバイスの出力が比較的高いか、蓄熱デバイスの全体積が比較的小さいか、またはその両方になるように、蓄熱デバイスの体積の大部分を熱エネルギー貯蔵材料によって占有することができる。例えば、蓄熱デバイスの熱伝達流体区画の体積と熱エネルギー貯蔵材料(例えば、相変化材料)の体積の比は、約20:1未満(好ましくは約10:1未満、より好ましくは約5:1未満、さらにより好ましくは約2:1未満、最も好ましくは約1:1未満)でよい。蓄熱デバイスは、好ましくは水圧に対する過度の抵抗なしに、蓄熱デバイスから熱を効率的に除去するのに十分に大きい熱伝達流体区画を有することができる。例えば、蓄熱デバイスの熱伝達流体区画の体積と熱エネルギー貯蔵材料(例えば、相変化材料)の体積の比は、好ましくは、少なくとも約1:200、より好ましくは少なくとも約1:100、さらにより好ましくは少なくとも約1:50、最も好ましくは少なくとも約1:25である。
【0058】
蓄熱デバイスは、加熱される物体(バッテリ温度調整デバイスの電気化学セルなど)を所望の温度まで加熱できるように、十分な量の熱エネルギー貯蔵材料を収容することができる。例えば、蓄熱デバイスは、少なくとも10℃、好ましくは少なくとも約20℃、より好ましくは少なくとも約30℃、最も好ましくは少なくとも約40℃だけバッテリ温度調整デバイスの温度を上昇させるように、十分な量の熱エネルギー貯蔵材料を収容することができる。
【0059】
図5および図6に、2つの蓄熱デバイス42、42’の断面を示す。それらの蓄熱デバイスは、複数のブリスタパック28’’’に封入された熱エネルギー貯蔵材料18’を含む。ブリスタパックは、熱伝達流体区画16’’’’、16’’’’’がカプセルと熱連絡するように配置される。ブリスタパックは、概して平坦な面および弓形の面を有する。図5に示すように、熱伝達流体区画16’’’’は、隣接するブリスタパックの2つの弓形面の間に空間を含むことができる。図6に示すように、熱伝達流体区画16’’’’’は、隣接するブリスタパックの2つの概して平坦な面の間に空間を含むことができる。図6に示すように、熱伝達流体区画は、任意選択で、毛細管力を用いて熱伝達流体区画を通して熱伝達流体(例えば、作動流体34)をポンプ輸送できるように、毛細管構造33を含むことができる。毛細管ポンプ式ループを用いる毛細管構造およびシステムの例は、参照によりその全体が本明細書に援用されるSoukhojakらによる2009年12月14日出願のPCT特許出願第PCT/US09/67823号に記載されている。例えば、毛細管構造は、平均の孔の半径は、約2mm未満、好ましくは約1mm未満、より好ましくは約400μm未満、さらにより好ましくは約100μm未満、さらにより好ましくは約30μm未満、さらにより好ましくは約20μm未満、最も好ましくは約10μm未満とすることができる。蓄熱デバイスは、熱伝達流体が蓄熱デバイスに流入できるように入口37を1つまたは複数含む。蓄熱デバイスは、熱伝達流体が蓄熱デバイスから流出できるように出口39を1つまたは複数含む。蓄熱デバイスは、好ましくは、1つまたは複数の断熱手段から部分的にまたは完全に断熱される。蓄熱デバイスが比較的低い割合で外気へ熱を失うように、好ましくは、十分な断熱材が使用される。図5および図6に示すように、断熱36は、真空チャンバを含むことができる。図6に示すように、蓄熱デバイスに用いられる熱伝達流体は、任意選択で、作動流体34でよい。
【0060】
熱の蓄積に用いられる熱エネルギー貯蔵材料は、バッテリ温度調整デバイスに使用する本明細書で説明する任意の熱エネルギー貯蔵材料でよい。蓄熱デバイスの熱エネルギー貯蔵材料は、バッテリ温度調整デバイスの熱エネルギー貯蔵材料と同じでもよい。蓄熱デバイスの熱エネルギー貯蔵材料は、バッテリ温度調整デバイスの熱エネルギー貯蔵材料と異なっていてもよい。例えば、蓄熱デバイスは、バッテリ温度調整デバイスに用いられる熱エネルギー貯蔵材料の転移温度とは転移温度(例えば、液相温度、融解温度、または共融温度)が異なる熱エネルギー貯蔵材料を用いることができる。好ましくは、蓄熱デバイスは、比較的転移温度の高い熱エネルギー貯蔵材料を用いる。例えば、蓄熱デバイスは、バッテリ温度調整デバイスの熱エネルギー貯蔵材料の転移温度よりも転移温度が高い熱エネルギー貯蔵材料を含むことができる。本発明の特定の態様では、蓄熱デバイスは、転移温度が約60℃超、約80℃超、または約100℃超の熱エネルギー貯蔵材料を含むことができる。蓄熱デバイスは、転移温度が約350℃未満、約250℃未満、約200℃未満、または約150℃未満の熱エネルギー貯蔵材料を含むことができる。
【0061】
(温度調整デバイスと蓄熱デバイスとの間のライン/接続)
上記で論じたように、システムは、好ましくは、熱伝達流体を循環させるための熱伝達流体ラインを含む。それらのラインは、循環ループを形成するように、2以上の構成要素(例えば、熱除去要素または熱供給要素、およびバッテリ温度調整デバイス)を接続することができる。それらのラインは、好ましくは、熱伝達流体の温度および圧力で漏出もひび割れもしない。ラインは、好ましくは、熱伝達流体による腐食に実質的にまたは完全に抵抗する材料から作製される。システムは、漏出なしに流れることができるように、熱を収容するラインを用いることができる。
【0062】
(熱伝達流体/作動流体)
低温のときにそれを通って循環するバッテリ温度調整デバイスおよび他の構成要素(例えば、熱供給要素、1つもしくは複数の接続チューブもしくはライン、熱除去要素、またはそれらの任意の組み合わせ)を通って流体が(例えば、凝固することなく)流れるように、1つまたは複数の電気化学セルを加熱および/または冷却するのに使用される熱伝達流体は、どんな液体または気体でもよい。熱伝達流体は、バッテリ温度調整システムに用いられる温度で熱を伝達できる当技術分野で知られた熱伝達流体またはクーラントでよい。熱伝達流体は、液体でも気体でもよい。好ましくは、熱伝達流体は、使用中に曝露されることがある最低動作温度(例えば、予期される最低の外気温)で流動することができる。例えば、熱伝達流体は、圧力約1気圧、温度約25℃、好ましくは約0℃、より好ましくは−20℃、最も好ましくは約−40℃で液体または気体でよい。限定されるものではないが、1つまたは複数の電気化学セルを加熱および/または冷却する好ましい熱伝達流体は、約40℃で液体である。
【0063】
熱伝達流体は、大量の熱エネルギーを、通例、顕熱として輸送可能であるべきである。適切な熱伝達流体は、(例えば約25℃で測定した)比熱が少なくとも約1J/g・K、好ましくは少なくとも約2J/g・K、さらにより好ましくは少なくとも約2.5J/g・K、最も好ましくは少なくとも約3J/g・Kでよい。好ましくは、熱伝達流体は液体である。例えば、当技術分野で知られたエンジンクーラントを熱伝達流体として用いることができる。システムは、電気化学セルを加熱しかつ電気化学セルを冷却するための単一の熱伝達流体を用いることができる。あるいは、そのシステムは、電気化学セルを加熱するための第1の熱伝達流体と、電気化学セルを冷却するための第2の熱伝達流体とを用いることができる。
【0064】
限定されるものではないが、単独でまたは混合物として使用できる熱伝達流体には、当業者に知られた熱伝達流体が含まれ、水を含有する流体、1つもしくは複数のアルキレングリコール、1つもしくは複数のポリアルキレングリコール、1つもしくは複数の油、1つもしくは複数の冷却材、1つもしくは複数のアルコール、1つもしくは複数のベタイン、またはそれらの任意の組み合わせが含まれる。熱伝達流体は、本明細書に後で説明するような作動流体を(例えば、前記で説明した流体に加えてまたはその代わりに)含むかまたは本質的にそれから構成されてよい。使用されることがある適切な油には、天然油、合成油、またはその組み合わせが含まれる。例えば、熱伝達流体は、鉱油、ひまし油、シリコーン油、フッ化炭素油、またはそれらの任意の組み合わせを含むかまたは実質的に(例えば、少なくとも80重量パーセント、少なくとも90重量パーセント、または少なくとも95重量パーセント)それから構成することができる。
【0065】
特に好ましい熱伝達流体は、1つまたは複数のアルキレングリコールを含むかまたは本質的にそれから構成される。限定されるものではないが、適切なアルキレングリコールには、約1から約8のアルコキシ基が含まれる。例えば、アルキレングリコールは、約1から約6の炭素原子を含有するアルコキシ基を含むことができる。アルキレングリコール分子のアルコキシ基は、互いに同じでもよく、異なっていてもよい。任意選択で、アルキレングリコールは、異なるアルコキシ基または異なる比のアルコキシ基をそれぞれ含有する異なるアルキレングリコールの混合物を含むことができる。好ましいアルコキシ基には、エチレン酸化物、プロピレン酸化物、およびブチレン酸化物が含まれる。任意選択で、アルキレングリコールを代わりに使用することができる。例えば、アルキレングリコールの代わりに、約1から約6炭素原子を含有する1つまたは2つのアルキル基など、1つまたは2つのアルキル基を使用することができる。したがって、アルキレングリコールは、1つもしくは複数のアルキレングリコールモノルキルエーテル、1つもしくは複数のアルキレングリコールジアルキルエーテル、またはそれらの組み合わせを含むかまたは本質的にそれから構成することができる。アルキレングリコールは、ポリアルキレングリコールを含むこともできる。特に好ましいアルキレングリコールには、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、およびブチレングリコールが含まれる。上記のグリコールはいずれも、単独でまたは混合物として使用することができ、例えば、水との混合物としてグリコールを用いることができる。特に好ましい熱伝達流体には、グリコールと水から実質的に(例えば、熱伝達流体の全重量に基づいて少なくとも80重量パーセント、少なくとも90重量パーセント、または少なくとも96重量パーセント)構成された混合物、またはグリコールと水の混合物から全体的に構成された混合物が含まれる。混合物中の水の濃度は、熱伝達流体の全重量に基づいて、好ましくは、約5重量パーセント超、より好ましくは約10重量パーセント超、さらにより好ましくは約15重量パーセント超、最も好ましくは約20パーセント超である。混合物中のグリコールの濃度は、熱伝達流体の全重量に基づいて、好ましくは、約5重量パーセント超、より好ましくは約10重量パーセント超、さらにより好ましくは約15重量パーセント超、最も好ましくは約20パーセント超である。
【0066】
任意選択で、1つもしくは複数の電気化学セルを加熱および/または冷却するための熱伝達流体には、作動流体を含むかまたは実質的に全体がそれから構成されてよい。例えば、システムは、加熱され蒸発する場合は蓄熱デバイスを通って、次いで、凝縮する場合はバッテリ温度調整デバイスに(すなわち、第1の熱伝達流体区画を通って)流れる作動流体を含むことができる。したがって、蓄熱デバイスは、作動流体用の蒸発器として機能することができ、バッテリ温度調整デバイスは、作動流体用のコンデンサとして機能することができる。作動流体が用いられる場合は、コンデンサに(例えば、バッテリ温度調整デバイスに)供給される熱は、好ましくは、作動流体の蒸発熱を含む。そのシステムは、蓄熱デバイスに作動流体を返すコールドラインと、蓄熱デバイスから作動流体を除去するヒートラインとを含むことができる。コールドラインおよびヒートラインは、好ましくは、作動流体がループを通って流れるときに漏出なしに作動流体を収容することができる。蓄熱デバイス(例えば、蓄熱デバイスの熱エネルギー貯蔵材料)が作動流体の全ての要素を合わせた蒸気圧が約1気圧を超えるのに十分な温度であり、作動流体が流動できるようにバルブが開いているときに、作動流体は、a)毛細管構造によってポンプ輸送され、b)少なくとも部分的に蒸発し、c)少なくとも部分的にコンデンサに輸送され、d)コンデンサ内で少なくとも部分的に凝縮して、蓄熱デバイスから熱を除去することができる。したがって、システムは、任意選択で、毛細管ポンプ式ループを含むことができる。
【0067】
(作動流体)
作動流体は、熱エネルギー貯蔵材料が液相温度以上のときに、蓄熱デバイス内で部分的または完全に蒸発(液相から気相に転移)できる任意の流体とすることができる。限定されるものではないが、例示的な作動流体は、1つもしくは複数のアルコール、1つもしくは複数のケトン、1つもしくは複数の炭化水素、フッ化炭素、ハイドロフルオロカーボン(例えば、当技術分野で知られたハイドロフルオロカーボン自動車用冷却材など、当技術分野で知られたハイドロフルオロカーボン冷却材)、水、アンモニア、またはそれらの任意の組み合わせを含むかまたは本質的にそれから構成することができる。
【0068】
適切な作動流体(例えば、毛細管ポンプ式ループ用の作動流体)は、以下の特徴のうちの1つまたはそれらの任意の組み合わせを有する純物質および混合物を含む:熱エネルギー蓄積システムの最高温度における良好な化学的安定性、低粘性(例えば、約100mPa?s未満)、毛細管構造の良好な濡れ(例えば、良好なウィックの濡れ)、毛細管ポンプ式ループの材料(容器の材料、熱エネルギー貯蔵材料を封入するのに用いられる材料、蒸気および液体ラインの材料など)との化学的適合性(例えば、作動流体がその材料の腐食をあまり引き起こさない)、蒸発器およびコンデンサ温度の両方に伝導される温度依存性の蒸気圧、高体積蒸発潜熱(すなわち、融解潜熱の生成、および約25℃のときのジュール/リットル単位の作動流体密度)、またはコンデンサの熱伝達流体の凝固点以下の凝固点(例えば、不凍液の凝固点以下の凝固点、約−40℃以下の凝固点、またはその両方)。例えば、作動流体の平衡状態は、温度−40℃、圧力1気圧で、少なくとも90パーセントが液体でよい。
【0069】
作動流体の蒸気圧は、作動流体をポンプ輸送するのに十分な蒸気の流れが生成されるように蒸発器内で十分に高くすべきである。好ましくは、作動流体の蒸気圧は、蒸発器からコンデンサにワットで測定される所望の火力を運ぶのに十分な蒸気の流れが生成されるように蒸発器内で十分に高くすべきである。蒸発器内の作動流体の蒸気圧は、好ましくは、毛細管ポンプ式ループが漏出も破裂もしないように十分に低い。
【0070】
毛細管構造に対する作動流体の濡れは、毛細管構造の材料上の作動流体の接触角を特徴とすることができる。好ましくは、その接触角は、約80度未満、より好ましくは約70度未満、さらに好ましくは約60度未満、最も好ましくは約55度未満である。
【0071】
作動流体は、好ましくは、中程度の圧力、温度約90℃未満で凝縮する。例えば、作動流体は、約90℃で、圧力約2MPa未満、好ましくは約0.8MPa未満、より好ましくは約0.3MPa未満、さらにより好ましくは約0.2MPa未満、最も好ましくは約0.1MPa未満で凝縮することができる。
【0072】
作動流体は、好ましくは、非常に低い温度で流動することができる。例えば、作動流体を非常に低い周囲温度に曝露することができ、好ましくは、作動流体は温度約0℃、好ましくは約−10℃、より好ましくは約−25℃、さらにより好ましくは約−40℃、最も好ましくは約−60℃で、コンデンサから蓄熱デバイスに流動することができる。作動流体は、好ましくは、蓄熱デバイスが完全にチャージされたときの温度では気体状態である。例えば、作動流体の沸点は、1気圧のときには、蓄熱デバイス内の熱エネルギー貯蔵材料の相転移温度よりも低く、好ましくは、熱エネルギー貯蔵材料の相転移温度よりも少なくとも20℃低く、より好ましくは、熱エネルギー貯蔵材料の相転移温度よりも少なくとも40℃低くすることができる。本発明の様々な態様では、1気圧のときの作動流体の沸点(または作動流体の全ての成分を合わせた蒸気圧が1気圧に等しいときの温度)が、(例えば、作動流体が周囲条件で液体になるように)約30℃超、好ましくは約35℃超、より好ましくは約50℃超、さらに好ましくは約60℃超、最も好ましくは約70℃超であることが望ましいことがある(でよい)。本発明の様々な態様では、作動流体が1気圧のときの沸点(または作動流体の全ての成分を合わせた蒸気圧が1気圧に等しいときの温度)は、約180℃未満、好ましくは約150℃未満、より好ましくは約120℃未満、最も好ましくは約95℃未満でよい。
【0073】
特に好ましい作動流体は、水およびアンモニアを含むかまたは実質上それらから構成される。例えば、作動流体の水とアンモニアとの複合濃度は、作動流体である水およびアンモニアの全重量を基準に少なくとも約80重量パーセント、より好ましくは少なくとも約90重量パーセント、最も好ましくは少なくとも約95重量パーセントでよい。アンモニア濃度は、作動流体の沸点を水の沸点より低く(例えば、水の沸点よりも少なくとも10℃低く)維持するのに十分なものにすることができる。アンモニア濃度は、作動流体の全重量を基準に約2重量パーセント超、好ましくは約10重量パーセント超、より好ましくは約15重量パーセント超、最も好ましくは約18重量パーセント超でよい。アンモニア濃度は、作動流体の全重量を基準に約80重量パーセント未満、好ましくは約60重量パーセント未満、より好ましくは約40重量パーセント未満、最も好ましくは約30重量パーセント未満でよい。作動流体の水の濃度は、作動流体の全重量を基準に約20重量パーセント超、好ましくは約40重量パーセント超、より好ましくは約60重量パーセント超、最も好ましくは約70重量パーセント超でよい。作動流体の水の濃度は、作動流体の全重量を基準に約98重量パーセント未満、好ましくは約95重量パーセント未満、より好ましくは約90重量パーセント未満、さらに好ましくは約85重量パーセント未満、最も好ましくは約82重量パーセント未満でよい。例えば、アンモニア約21重量パーセントおよび水約79重量パーセントの溶液は、液相点が約−40℃であり、沸点域の上限が1気圧で約100℃未満である。この溶液を、室温で非圧力容器に(例えば、液体として)貯蔵することができる。
【0074】
好ましくは、作動流体は全ての成分を合わせた蒸気圧が、約0℃から約250℃までのある温度で1気圧に等しい。
【0075】
作動流体は、熱エネルギーを蓄熱デバイスから効率的に伝達することができ、そのため、(例えば、熱を除去するために作動流体ではない熱伝達流体を使用するデバイスと比較すると)蓄熱デバイスから熱量を除去するのに必要な作動流体の量は比較的少ない。好ましくは、作動流体によって伝達される熱の大部分は、蒸発熱の形態で伝達される。作動流体の体積、作動流体の流量、またはその両方は、作動流体ではない熱伝達流体を用い初期出力が同じシステムと比較すると、熱エネルギー蓄積において比較的小さくてよい。蓄熱デバイス容器1リットル当たりの作動流体の流量(すなわち、蓄熱デバイスに流入する液体状態の作動流体)は、約5リットル/分未満、好ましくは約2リットル/分未満、より好ましくは約1リットル/分未満、さらに好ましくは約0.5リットル/分未満、最も好ましくは約0.1リットル/分未満でよい。システム内の作動流体の体積と蓄熱デバイス容器の全体積の比、またはシステム内の作動流体の体積と蓄熱デバイス内の熱エネルギー貯蔵材料の体積の比を、システムの全重量が作動流体の重量によって過度に衝撃を受けないように十分に低くすべきである。システム内の作動流体の体積(例えば、毛細管ポンプ式ループ内の)と蓄熱デバイス容器全体積(すなわち、容器内の体積)の比(またはさらには、システム内の作動流体の体積と、蓄熱デバイス内の熱エネルギー貯蔵材料の体積の比)は、約20未満、好ましくは約10未満、より好ましくは約4未満、さらに好ましくは約2未満、最も好ましくは約1未満でよい。
【0076】
上記に説明したように、作動流体は、熱エネルギーの一部を蒸発熱の熱の形態で伝達することができる。作動流体は、好ましくは、蒸発熱が高く、そのため、伝達できる熱量が高い。蓄熱デバイスの適切な作動流体は、蒸発熱が約200kJ/モル超、好ましくは約500kJ/モル超、より好ましくは約750kJ/モル超、さらに好ましくは約1000kJ/モル超、最も好ましくは約1200kJ/モル超でよい。
【0077】
作動流体の温度が0℃未満でよい適用例では、作動流体は、好ましくは、(例えば、作動流体が凍結せず、破裂を起こさず、または凍結も破裂もしないように)水ではない。
【0078】
作動流体と接触する材料は作動流体による腐食に抵抗できることが理解されよう。例えば、作動流体(例えば、作動流体蒸気ラインの内部、作動流体液体ラインの内部、蓄熱デバイスの熱伝達流体区画の表面、1つまたは複数のバルブの内面、コンデンサの作動流体区画の表面、作動流体リザーバの内面など)と接触できる、蓄熱デバイスまたはバッテリ温度調整システムの任意の1つまたは全ての面は、ステンレス鋼から作製されてよい。
【0079】
本明細書で説明する熱エネルギー蓄積システムに用いられる作動流体または熱伝達流体はいずれも追加のパッケージを含むことができることが理解されよう。例えば、追加のパッケージは、安定剤、腐食抑制剤、潤滑油、極圧添加剤、またはそれらの任意の組み合わせを含むことができる。
【0080】
(バルブ/分流加減器)
バッテリ温度調整システムは、1つもしくは複数のバルブまたは他の当技術分野で知られた熱伝達流体の流路を制御する手段を含むことができる。そのシステムは、開いているときはバッテリ温度調整デバイスに熱を供給する要素を通る熱伝達流体の流れを可能にし、閉じているときは、その要素を通る流れを防止するバルブを含むことができる。例えば、そのシステムは、蓄熱デバイスを通る熱伝達流体の循環を開閉するバルブを1つまたは複数含むことができる。システムは、開いているときはバッテリ温度調整デバイスから熱を除去する要素を通る熱伝達流体の流れを可能にし、閉じているときはその要素を通る流れを防止するバルブを含むことができる。例えば、システムは、ラジエータなどの熱伝達デバイスを通る熱伝達流体の循環を開閉するバルブを1つまたは複数含むことができる。熱を供給する要素から熱を除去する要素に熱伝達流体の流れを分流するための1つまたは複数のバルブ単一のバルブを使用できることが理解されよう。例えば、システムは、熱を供給する要素を通して熱伝達流体を循環させるための第1の位置と、熱を除去する要素を通して熱伝達流体を循環させるための第2の位置とを有する、切り換えバルブを含むことができる。切り換えバルブは、熱供給要素および熱除去要素の両方に流れるように熱伝達流体を循環させ、2つの流れの相対速度を制御することもできることが理解されよう。システムは、バッテリ温度調整デバイスを通る熱伝達流体の流れを停止および開始するバルブを1つまたは複数含むこともできる。
【0081】
(熱受容要素/熱交換器)
そのシステムは、バッテリ温度調整デバイスからの熱を受容する熱受容要素を含む。熱受容要素は、熱伝達流体が熱受容要素を通って1つまたは複数の入口に流入でき、1つまたは複数の出口から流出できるように熱伝達流体区画を有することができる。熱受容要素は、出口を通って流れるときの熱伝達温度が入口に流入するときの温度よりも低くなるように、熱伝達流体から熱を除去することによって機能することができる。熱受容要素は、熱伝達流体から受容した熱の一部または全部をヒートシンクにまたは別の流体に伝達することができる。したがって、熱受容要素は熱交換器でよい。熱交換器は、液体または気体でよい第2の熱伝達流体に熱を伝達することができる。熱交換器は、バッテリ温度調整デバイスから熱を除去する熱伝達流体と同じかまたは異なる第2の熱伝達流体を用いることができる。好ましくは、第2の熱伝達流体はクーラント(車両のクーラントなど)または空気である。例えば、熱交換器は、空気との接触表面積が大きいラジエータでよい。ラジエータは、バッテリ温度調整デバイスから(熱伝達流体を介して)ラジエータの周りの空気に熱を伝達することができる。別の例として、熱交換器は、クーラント流体などの液体に熱を伝達することができ、その液体はその後(例えば、ラジエータに)循環する。
【0082】
熱受容要素を用いる代わりに、デバイスを通して空気流を流すことによってバッテリ温度調整デバイスを冷却できることが理解されよう。こうした空気流は、任意選択で、空気の流れを調整するために、ファン、ブロワ、ダンパ、またはそれらの任意の組み合わせを使用することができる。
【0083】
(コントローラ)
そのシステムは、好ましくは、コントローラを1つまたは複数含む。そのコントローラを用いて、熱受容要素への熱伝達流体の流れを制御することができる。コントローラを用いて、熱供給要素への熱伝達流体の流れおよび熱供給要素からの熱伝達流体の流れを制御することができる。コントローラは、熱供給要素内に位置するかまたは熱供給要素と熱連絡しているヒータなどのヒータを制御することができる。コントローラは、熱伝達流体をポンプ輸送する1つまたは複数のポンプを制御することができる。例えば、コントローラは、ポンプが始動するか、停止するか、ポンプ輸送速度を上昇させるか、ポンプ輸送速度を低下させるか、またはそれらの任意の組み合わせのときに制御することができる。コントローラは、システムの1つまたは複数の温度などの予め選択した1つまたは複数の条件を監視することができる。コントローラは、1つまたは複数の電気化学セルの温度、熱伝達流体、バッテリ温度調整デバイス、熱エネルギー貯蔵材料、外部条件、またはそれらの任意の組み合わせを監視することができる。コントローラは、電気化学セルによって生成される熱量、(例えば、放散して、熱伝達流体を通して、またはその両方によって)バッテリ温度調整デバイスから除去される熱量、熱伝達流体によって供給される熱量、またはそれらの任意の組み合わせなど、予め選択した熱流束に関連する1つまたは複数の条件を監視することができる。車両に使用されるシステムでは、コントローラは、車両が動作中であるかどうか、車両が加速しているかどうか、車両が減速しているかどうか、車両が停止しているかどうか、車両が外部電源にプラグ接続されているかどうか、車両が動作中であることが予期される時間、外気温の予報、またはそれらの任意の組み合わせに関連した、1つまたは複数の予め選択した条件を監視することができる。コントローラは、所定の値との1つまたは複数の予め選択した条件の測定値を比較することができる。その比較は、1つもしくは複数のバルブを開閉すべきかどうか(および場合によってはその範囲)、1つもしくは複数のポンプを動作させるべきかどうか、電流を電熱器に供給すべきかどうか、またはそれらの任意の組み合わせを判定するために、コントローラによって使用することができる。
【0084】
(任意選択のヒータ)
バッテリ温度調整システムは、任意選択で、ヒータを1つまたは複数含むことができる。そのヒータは、蓄熱デバイスの熱エネルギー貯蔵材料の温度を転移温度を超える温度に上昇させることができる任意のヒータでよい。ヒータは、エネルギー(例えば、電気エネルギー、機械エネルギー、化学エネルギー、またはそれらの任意の組み合わせ)を熱(すなわち、熱エネルギー)に変換する任意のヒータでよい。1つまたは複数のヒータは1つまたは複数の電熱器でよい。1つまたは複数のヒータを用いて、バッテリ温度調整システムの熱エネルギー貯蔵の一部または全部を加熱することができる。例えば、ヒータを用いて、蓄熱デバイスの熱エネルギー貯蔵材料を加熱するか、バッテリ温度調整デバイスの熱エネルギー貯蔵材料を加熱するか、またはその両方を加熱することができる。好ましくは、そのシステムは、蓄熱デバイスと熱連絡するヒータを1つまたは複数含む。例えば、そのシステムは、蓄熱デバイスの断熱材内にヒータを1つまたは複数含むことができる。電熱器が電気化学セルから、外部電源から、またはその両方から電気を用いることができる。例えば、車両が静止した物体に接続されたコンセントにプラグ接続されているときは、蓄熱デバイスを、外部電源からの電気を使用して蓄熱デバイス内の熱エネルギー貯蔵材料の液相温度を超える温度に維持することができる。車両が静止した物体に接続されたコンセントにプラグ接続されていないときは、蓄熱デバイスを、電気化学セルによって生成される電気を使用して蓄熱デバイス内の熱エネルギー貯蔵材料の液相温度を超える温度に維持することができる。
【0085】
後で電気化学セルを加熱するために使用される蓄熱デバイスを加熱するために電熱器を使用することは、電熱器からの熱で電気化学セルを直接加熱するのと比べて、高効率であるか、必要な断熱が少ないか、またはその両方であるなどの利点を有することが分かっている。
【0086】
図7に示すように、バッテリ温度調整システム40は、バッテリ温度調整デバイス10を含むことができ、そのバッテリ温度調整デバイス10は、蓄熱デバイス42およびラジエータ58などの熱交換器に、熱伝達流体50を循環して流すための1つまたは複数のラインによって接続されている。熱伝達流体は、バッテリ温度調整デバイスから出て、ラジエータ58につながるラジエータ送出ライン64と、蓄熱デバイス42につながる蓄熱デバイス送出ライン46とに分かれる。システムは、蓄熱デバイス42に対するラジエータ58に入る熱伝達流体50の流れの量を調整する切り換えバルブ48などのバルブを1つまたは複数含む。蓄熱デバイス42を出る熱伝達流体50は、蓄熱デバイス返還ライン44を通ってバッテリ温度調整デバイス10に戻ることができる。ラジエータ58を出る熱伝達流体50は、ラジエータ返還ライン66を通ってバッテリ温度調整デバイス10に戻ることができる。それらの2つの返還ライン44、66は互いに一緒になってよい。図7に示すように、システムは、温度プローブ54、56を1つまたは複数含むこともできる。例えば、そのシステムは、バッテリ温度調整デバイス、蓄熱デバイス温度プローブ54、またはその両方の温度を測定するための電気化学セルプローブ56を含むことができる。蓄熱デバイス42内の熱エネルギー貯蔵材料の温度を測定するための蓄熱デバイス温度プローブ54を使用することができる。システム40は、好ましくは、ポンプ62または熱伝達流体を循環させる他の手段を含む。システム40は、コントローラ52を1つまたは複数含むこともできる。コントローラ52は、熱伝達流体がその速度でポンプ輸送される速度を調整するポンプ62を制御し、熱伝達流体の循環を防止することができる。コントローラ52は、切り換えバルブ48など、蓄熱デバイス42およびラジエータ58への熱伝達流体50の流れを制御する1つまたは複数のバルブを制御することができる。
【0087】
図8Aに示すように、システム40’は、蓄熱デバイス42と熱連絡している電熱器68を含むことができる。例えば、電熱器68は、蓄熱デバイス42の内側にあってもそれに隣接していてもよい。好ましくは、電熱器68は、断熱材の内側にあり、そのため、概して断熱材が電熱器と蓄熱デバイスとの間には挿入されない。
【0088】
図8Bを参照すると、システム40’’は、バッテリ温度調整デバイスに組み込まれた蓄熱デバイスを含むことができる。こうした構成は、蓄熱デバイスが熱を蓄積する間に、蓄熱デバイスが電気化学セルを加熱するために熱を放出している間、またはその両方が行われる間に、環境への熱損失を最小限に抑えることができる。
【0089】
図9に示すように、システム40’’’は、バッテリ温度調整デバイス10を通して第1の熱伝達流体50と第2の熱伝達流体74とを独立して循環させる手段を含むことができる。バッテリ温度調整デバイス10は、ラジエータ送出ライン64およびラジエータ返還ライン66によってラジエータ58に接続される。第1の熱伝達流体50は、バッテリ温度調整デバイス10から熱を除去しラジエータ59に伝達できるように、ラジエータ送出ライン64およびラジエータ返還ライン66を通って循環する。バッテリ温度調整デバイス10は、蓄熱デバイス送出ライン44および蓄熱デバイス返還ライン46によって蓄熱デバイス42に接続される。第2の熱伝達流体74は、蓄熱デバイス42からバッテリ温度調整デバイス10に熱を供給できるように、蓄熱デバイス送出ライン64および蓄熱デバイス返還ライン66を通って循環する。第2の熱伝達流体74は作動流体でよく、蓄熱デバイスは毛細管構造を含むことができ、そのため、作動流体の流れは毛細管力によって蓄熱デバイスにポンプ輸送される。したがって、蓄熱デバイスは、任意選択で、作動流体のための蒸発器であってよく、バッテリ温度調整デバイスは作動流体のためのコンデンサであってよい。そのシステムは、第1の熱伝達流体の流量を制御するバルブ70およびポンプ62を1つまたは複数含むことができる。システムは、第2の熱伝達流体の流量を制御するための1つまたは複数のバルブ72および任意選択でポンプ(図示せず)を含むことができる。
【0090】
(システムの動作)
電気化学セルの温度を管理するプロセスにおいて、本明細書で説明するデバイスおよびシステムを用いることができる。そのプロセスは、バッテリ温度調整デバイス内のバッテリ温度を、最低ターゲット温度以上、最高ターゲット温度以下、またはその両方(すなわち、ターゲット温度範囲内)に維持するステップを含むことができる。バッテリ温度がターゲット温度範囲内であると、熱伝達流体は循環することができないか、または比較的低速でバッテリ温度調整デバイスを通って循環することができる。好ましくは、バッテリ温度がターゲット温度範囲内であるときは、熱伝達流体はバッテリ温度調整デバイスを通って循環しない。バッテリ温度が最高ターゲット温度を超えるときは、バッテリ温度調整デバイスを冷却することができる。したがって、バッテリ温度が最高ターゲット温度を超えるときは、熱伝達流体はバッテリ温度調整デバイスを通って循環し、デバイスから熱を除去することができる。例えば、熱伝達流体は、バッテリ温度が最高遮断温度に達するまで、バッテリ温度調整デバイスを通って循環することができる。冷却サイクル遮断温度は、最高ターゲット温度でもよく、最高ターゲット温度未満の温度でもよい。例えば、冷却サイクル遮断温度は、最低ターゲット温度と最高ターゲット温度との間の温度でよい。バッテリ温度がターゲット温度未満のときは、バッテリ温度調整デバイスを加熱することができる。したがって、バッテリ温度がターゲット温度未満のときは、熱伝達流体がバッテリ温度調整デバイスを通って循環して、デバイスに熱を供給することができる。例えば、熱伝達流体は、バッテリ温度が加熱サイクル遮断温度に達するまで、バッテリ温度デバイスを通って循環することができる。加熱サイクル遮断温度は、最低ターゲット温度でもよく、最低ターゲット温度未満の温度でもよい。例えば、加熱サイクル遮断温度は、最低ターゲット温度と最高ターゲット温度との間の温度でもよい。
【0091】
電気化学セルの充電中、電気化学セルの放電中、またはその両方を行う間に、バッテリ温度調整デバイス内で熱を生成することができることが理解されよう。冷却サイクルを用いて、バッテリ温度が最高動作温度に達するかそれを超えるのを防止することができる。例えば、最高動作温度を超える温度では、一時的にまたは永久にバッテリが損傷することがある。バッテリ温度が最高動作温度に達するかまたはそれを超える場合は、そのプロセスは、バッテリ温度調整デバイス内の1つまたは複数のまたはそれどころか全ての電気化学セルを遮断することができる。
【0092】
上記で説明したように、バッテリ温度調整デバイスは、熱エネルギー貯蔵材料を1つまたは複数含む。好ましくは、熱エネルギー貯蔵材料は、ターゲット温度範囲内の転移温度(例えば、融解温度、液相温度、または共融温度)を有する。したがって、熱エネルギー貯蔵材料を用いて、バッテリ温度をターゲット温度範囲内に(すなわち、転移温度にまたはそれに近い温度に)維持することができる。任意選択で、バッテリ温度調整デバイスは、比較的転移温度の高い(例えば、最高ターゲット温度以下の)第1の熱エネルギー貯蔵材料と、第1の熱エネルギー貯蔵材料よりも転移温度の低い第2の熱エネルギー貯蔵材料とを含むことができる。例えば、第1の熱エネルギー貯蔵材料は、最高ターゲット温度以下の転移温度を有することができ、第2の熱エネルギー貯蔵材料は、最低ターゲット温度以上の転移温度を有することができる。
【0093】
熱エネルギー貯蔵材料を用いて、好都合に、電気化学セルが熱を生成しているときに(例えば、電気化学セルが充電または放電されているときに)、電気化学セルから熱エネルギーを除去することができる。電気化学セルの動作中には、バッテリ温度は、最初は、ターゲット温度範囲内であり、熱エネルギー貯蔵材料(例えば、第1の熱エネルギー貯蔵材料)の転移温度未満でよい。電気化学セルが熱を生成すると、熱エネルギーの一部を、熱エネルギー貯蔵材料を加熱するのに使用することができる。熱エネルギー貯蔵材料がその転移温度に達するときは、熱エネルギーの一部を使用して熱エネルギー貯蔵材料を融解することができる。したがって、熱エネルギーの一部を、熱エネルギー貯蔵材料の融解潜熱に変換することができる。バッテリ温度が上昇する速度を、熱エネルギーが融解潜熱に変換されるときに(例えば、熱エネルギー貯蔵材料なしの同一のデバイスと比較して)低下させることができる。熱エネルギー貯蔵材料(例えば、第1の熱エネルギー貯蔵材料)の一部または全部が融解するときは、バッテリ温度は最高ターゲット温度に達することができる。熱エネルギーを融解潜熱に変換することによって(すなわち、熱エネルギー貯蔵材料を融解することによって)、バッテリ温度調整デバイスから(例えば、熱伝達流体を用いて)熱エネルギーを除去する必要性が低減できるか、延引できるか、またはその両方が可能である。
【0094】
バッテリ温度が最高ターゲット温度を超えるときは、熱伝達流体の循環を開始するステップまたは熱伝達流体が循環する速度を増加するステップを含む冷却サイクルを開始することができる。冷却サイクル中に、バッテリからの熱エネルギーを、バッテリ温度よりも低温のデバイスの外にあるバッテリ温度調整デバイスから1つまたは複数の構成要素に伝達することができる。限定されるものではないが、冷却サイクル中にバッテリ温度調整デバイスから除去される熱エネルギーの一部または全部を熱伝達デバイスに伝達することができる。使用できる例示的な熱伝達デバイスには、ラジエータ、熱リザーバ、(本明細書で説明したような)蓄熱デバイス、またはそれらの任意の組み合わせが含まれる。好ましくは、(例えば、冷却サイクル中に)バッテリ温度調整デバイスから除去される熱エネルギーの一部または全部が(例えば、ラジエータを通して)外気を加熱するために使用される。冷却サイクル中には、電気化学セルの冷却は、電気化学セル区画に、熱エネルギー貯蔵材料区画に、または好ましくはその両方に熱伝達流体を接触させるステップを含むことができる。
【0095】
外気温がターゲット最低温度を下回ってよいことが理解されよう。1つまたは複数の電気化学セルが放電も充電もしていないかまたは平均の充電量および放電量が比較的低い期間中に、バッテリ温度調整デバイスから熱エネルギーが環境に失われることがある。転移温度が最低ターゲット温度以上の熱エネルギー貯蔵材料(例えば、第2の熱エネルギー貯蔵材料)を用いることによって、熱エネルギー貯蔵材料の結晶化の熱により、バッテリ温度が低下する速度を(例えば、熱エネルギー貯蔵材料のないデバイスと比べて)低くすることができる。
【0096】
バッテリ温度が最低ターゲット温度未満の温度まで下がるときは、加熱サイクルを使用してバッテリ温度を上昇させることができる。加熱サイクル中は、バッテリ温度調整デバイス内で熱エネルギーを生成するか、デバイスに伝達するか、またはその両方を行うことができる。好ましくは、加熱サイクル中に、熱エネルギーがバッテリ温度調整デバイスに伝達される。例えば、熱エネルギーをバッテリ温度調整デバイスに熱伝達流体を使用して伝達することができる。したがって、加熱サイクルは、バッテリ温度調整デバイスを通して熱伝達流体の循環を開始するステップ、またはデバイスを通る熱伝達流体の流量を増加させるステップを含むことができる。例えば、熱伝達流体は、流体を加熱するために温度がバッテリ温度を超える(好ましくは最低ターゲット温度を超える)1つまたは複数の構成要素(例えば、1つまたは複数の熱源)を通って、熱エネルギーの少なくとも一部をデバイスに伝達するためにバッテリ温度調整デバイスを通って流動することができる。熱伝達流体は、同じ相のままとすることができ(例えば、熱伝達流体が液体または気体のままとすることができ)、熱を顕熱として伝達することができるか、または、熱伝達流体を作動流体とすることができ、熱の少なくとも一部を凝縮熱としてデバイスに伝達する(蒸発熱として熱源から流体に伝達する)ことができる。加熱サイクル中には、電気化学セルの加熱は、熱伝達流体を電気化学セル区画に、熱エネルギー貯蔵材料区画に、または好ましくはその両方に接触させるステップを含むことができる。
【0097】
冷却サイクル用の熱伝達流体および加熱サイクル用の熱伝達流体は互いに同じでよく、バッテリ温度調整デバイスの同じ部分を通って循環することができる。したがって、加熱サイクル中に、熱源を通して熱伝達流体を循環させるか、熱伝達デバイスを通る熱伝達流体の循環を防止するか、または好ましくはその両方を行うための、1つまたは複数のバルブを用いることができる。同様に、冷却サイクル中に、熱源を通る熱伝達流体の循環を防止するための、熱伝達デバイスを通して熱伝達流体を循環させるための、または好ましくはその両方のためのバルブを1つまたは複数用いることができる。
【0098】
任意選択で、車両が停止しているときに車両の外の電源にプラグ接続されたバッテリ温度調整システムを車両に用いることができる。車両が停止しているときは、電熱器を用いてシステム内の熱エネルギー貯蔵材料を加熱することができる。例えば、熱エネルギー貯蔵材料の一部または全部が冷却されたときは、電熱器を用いて熱エネルギー貯蔵材料の温度を上昇させることができる。そのプロセスは、車両の外の電源から電気を受け取る電熱器で車両内において熱エネルギー貯蔵材料(例えば、バッテリ温度調整デバイス、蓄熱デバイス、またはその両方の、熱エネルギー貯蔵材料)を加熱するステップを含むことができる。電熱器を使用して熱エネルギー貯蔵材料を加熱するステップは、熱エネルギー貯蔵材料の一部または全部が液体から固体に相転移したときに用いることができる。したがって、そのプロセスは、電熱器からの熱によって熱エネルギー貯蔵材料の一部または全部を融解するステップを含むことができる。電熱器を用いて熱エネルギー貯蔵材料を加熱するステップは、熱エネルギー貯蔵材料の全てが液体状態にあるときに用いることができる。したがって、そのプロセスは、電熱器を用いて熱エネルギー貯蔵材料の温度を上昇させるステップを含むことができる。
【0099】
本発明のデバイス、システム、およびプロセスがバッテリを用いる自動車用途に、特に、電気エンジンから動力を受け取るドライブトレインを有する自動車用途に有効なことがあることが理解されよう。限定されるものではないが、ハイブリッド電気車両およびプラグイン式電気車両に本発明を用いることができる。
【0100】
図7を参照すると、温度プローブ56がバッテリ温度調整デバイスの温度を測定することができる。コントローラ52は、バッテリ温度調整デバイスの温度を所定のターゲット温度範囲と比較することができる。温度が所定のターゲット温度範囲内のときは、コントローラ52は、ポンプ62を停止するか、ポンプ62のポンプ速度を低下させるか、バルブ48を閉じるか、またはそれらの任意の組み合わせを行うことができる。バッテリ温度調整デバイスの温度が最高ターゲット温度に近い(例えば、最高ターゲット温度に向けて上昇している)かまたはそれを超えるときは、コントローラは、熱交換器に供給するライン64を通って流体が流動できる位置まで切り換えバルブ48を開くことができる。コントローラは、2つの構成要素を接続するライン64、66を使用して熱伝達流体がバッテリ温度調整デバイス10と熱交換器58との間を循環するように、ポンプ62を始動するか、またはポンプ62の速度を上昇させることもできる。バッテリ温度調整デバイスの温度が最低ターゲット温度に近い(例えば、最低ターゲット温度に向けて低下している)かまたはその温度未満のときは、コントローラは、蓄熱デバイスがバッテリ温度調整デバイスを加熱できるかどうかを判定するために、温度プローブ54を用いて蓄熱デバイス42の温度を得ることができる。温度コントローラは、熱伝達流体がライン44を通って蓄熱デバイス42に流動可能になるように切り換えバルブ48を開く。コントローラは、2つの構成要素を接続するライン44、46を使用して熱伝達流体がバッテリ温度調整デバイス10と蓄熱デバイス42との間を循環するように、ポンプ62を始動させるか、またはポンプ62の速度を上昇させることもできる。
【符号の説明】
【0101】
10 デバイス
12 電気化学セル区画
14 熱エネルギー貯蔵材料区画
16 熱伝達流体区画
18 熱エネルギー貯蔵材料
20 電気化学セル
22 第1の領域
24 第2の領域
28 第1のブリスタパック
30 第2のブリスタパック
29 第1の面
29’ 平坦な面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)熱伝達流体を受容する入口と、
ii)1つまたは複数の電気化学セルを受容する、1つまたは複数の電気化学セル区画と、
iii)1つまたは複数の熱エネルギー貯蔵材料を収容する、1つまたは複数の熱エネルギー貯蔵材料区画と、
iv)デバイスを通して前記熱伝達流体を流す、1つまたは複数の熱伝達流体区画とを備えるデバイスであって、
前記デバイスが温度調整デバイスであり、
前記1つまたは複数の熱伝達流体区画と前記1つまたは複数の電気化学セル区画との間の空間が、前記熱エネルギー貯蔵材料が実質的にない1つまたは複数の領域を含み、
前記1つまたは複数の熱伝達流体区画と前記1つまたは複数の熱エネルギー貯蔵材料区画との間の空間が、電気化学セルが実質的にない1つまたは複数の領域を含むことにより、
前記熱伝達流体区画が、前記熱エネルギー貯蔵材料区画および前記電気化学セル区画の両方と直接熱連絡する、デバイス。
【請求項2】
前記1つまたは複数の電気化学セル区画が、ある動作温度範囲を有する電気化学セルを含み、前記熱エネルギー貯蔵材料が、前記電気化学セルの動作温度範囲内の液相温度を有する相変化材料である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記1つまたは複数の熱エネルギー貯蔵材料が、第1の液相温度を有するある量の第1の相変化材料と、第2の液相温度を有するある量の第2の相変化材料とを含み、前記第1の液相温度が前記第2の液相温度よりも低い、請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記デバイスが、最低ターゲット温度および最高ターゲット温度を有する電気化学セル区画内の電気化学セルを含み、前記デバイスが、前記電気化学セルの温度が前記最高ターゲット温度を超えるときは電気化学セル区画から熱を除去することができ、前記電気化学セルの温度が前記最低ターゲット温度未満のときは電気化学セル区画に熱を供給することができる、請求項1から3のいずれかに記載のデバイス。
【請求項5】
前記熱エネルギー貯蔵材料区画が複数のカプセルを含み、前記複数のカプセルが、第1の金属製シートをエンボス加工して複数の凹所を形成し、少なくとも部分的に前記凹所を前記熱エネルギー貯蔵材料で充填し、第2の金属製シートを前記第1の金属製シート上に配置し、前記熱エネルギー貯蔵材料が前記第1の金属製シートと前記第2の金属製シートとの間に封入されるように前記第1の金属製シートおよび前記第2の金属製シートを接合することによって形成される、請求項1から4のいずれかに記載のデバイス。
【請求項6】
前記第1の金属製シートが、熱エネルギー貯蔵材料区画の外部に外面を有し、前記外面の1つまたは複数の部分が、電気化学セルまたは電気化学セルを収容する区画に接触し、前記外面の1つまたは複数の部分が、熱伝達流体を収容する区画に接触する、請求項1から5のいずれかに記載のデバイス。
【請求項7】
熱エネルギー貯蔵材料区画が、体積と表面積の比が約10mm未満になる体積および表面積を有する、請求項1から6のいずれかに記載のデバイス。
【請求項8】
前記熱伝達流体区画が、体積と表面積の比が約0.5mm未満になる体積および表面積を有する、請求項1から7のいずれかに記載のデバイス。
【請求項9】
前記1つまたは複数の熱エネルギー貯蔵材料区画が、熱エネルギー貯蔵材料が、隣接する2つのカプセル間を流れないように、個別に独立した複数のカプセルを含む、請求項1から8のいずれかに記載のデバイス。
【請求項10】
前記第1の金属製シートがアルミニウムシートまたは銅シートである、請求項1から9のいずれかに記載のデバイス。
【請求項11】
前記第1の金属製シートの厚さが約0.1mm未満である、請求項1から10のいずれかに記載のデバイス。
【請求項12】
i)請求項1から11のいずれかに記載の前記温度調整デバイスと、
ii)出口を有する断熱容器、前記断熱容器内にあり熱エネルギー貯蔵材料を含む1つまたは複数の熱エネルギー貯蔵材料区画、および蓄熱デバイスを通して熱伝達流体を流すための1つまたは複数の熱伝達流体区画を含む蓄熱デバイスであって、前記熱伝達流体区画が前記熱エネルギー貯蔵材料区画と熱連絡している、蓄熱デバイスと、
iii)前記蓄熱デバイスの出口から前記温度調整デバイスの入口に熱伝達流体を流す手段とを含むシステムであって、
前記システムが1つまたは複数の電気化学セルの温度を調整する温度調整システムである、システム。
【請求項13】
前記蓄熱デバイスから前記温度調整デバイスへの前記熱伝達流体の流れを制御するコントローラを備える、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記コントローラによって調整される1つまたは複数のバルブを備える、請求項12または13に記載のシステム。
【請求項15】
前記コントローラが、前記蓄熱デバイスからの熱が、所定の最低動作温度未満の温度の前記電気化学セルを含む条件で前記1つまたは複数の電気化学セルに伝達されるように、1つまたは複数のバルブを制御する、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
ポンプ、ファン、ブロワ、またはそれらの任意の組み合わせを備える、請求項12から15のいずれかに記載のシステム。
【請求項17】
ラジエータを含む、請求項12から16のいずれかに記載のシステム。
【請求項18】
前記熱伝達流体を含む、請求項12から17のいずれかに記載のシステム。
【請求項19】
前記蓄熱デバイスの熱エネルギー貯蔵材料が、前記温度調整デバイスの熱エネルギー貯蔵材料とは異なる、請求項12から18のいずれかに記載のシステム。
【請求項20】
前記蓄熱デバイスの熱エネルギー貯蔵材料の液相温度が、バッテリの好ましい動作温度範囲内にある、請求項12から19のいずれかに記載のシステム。
【請求項21】
前記蓄熱デバイスの熱エネルギー貯蔵材料区画が、前記熱エネルギー貯蔵材料を含む複数のカプセルを含み、前記蓄熱デバイスのカプセルが、第1の金属製シートをエンボス加工して複数の凹所を形成し、少なくとも部分的に前記凹所を前記熱エネルギー貯蔵材料で充填し、第2の金属製シートを前記第1の金属製シート上に配置し、前記熱エネルギー貯蔵材料が前記第1の金属製シートと前記第2の金属製シートとの間に封入されるように前記第1の金属製シートおよび前記第2の金属製シートを接合することによって形成される、請求項12から20のいずれかに記載のシステム。
【請求項22】
前記蓄熱デバイスの第1の金属製シートが第1の外面を有し、前記蓄熱デバイスの第2の金属製シートが第2の外面を有し、前記熱伝達流体が、前記第1の外面、前記第2の外面、またはその両方と熱接触する、請求項12から21のいずれかに記載のシステム。
【請求項23】
前記蓄熱デバイスの第1の金属製シートが第1の外面を有し、前記蓄熱デバイスの第2の金属製シートが第2の外面を有し、前記熱伝達流体が、前記第1の外面、前記第2の外面、またはその両方と直接接触する、請求項12から22のいずれかに記載のシステム。
【請求項24】
前記蓄熱デバイスの熱エネルギー貯蔵材料が相変化材料を含み、前記温度調整デバイスが出口を有し、前記蓄熱デバイスが入口を有し、前記システムが、バッテリから生成された熱を前記蓄熱デバイスの相変化材料を融解するために使用できるように、前記温度調整デバイスの出口から前記蓄熱デバイスの入口に熱伝達流体を伝達する手段を含む、請求項12から23のいずれかに記載のシステム。
【請求項25】
前記熱伝達流体を前記温度調整デバイスと前記蓄熱デバイスとの間で循環させる毛細管ポンプ式ループを含む、請求項12から24のいずれかに記載のシステム。
【請求項26】
熱伝達流体を使用して請求項1から11のいずれかに記載の前記バッテリ温度調整デバイスに熱を伝達するステップを含む、電気化学セルの温度を調整する方法。
【請求項27】
前記熱伝達流体を使用して前記温度調整デバイスから熱を伝達するステップをさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
請求項12から25のいずれかに記載のバッテリ温度調整システムを使用して電気化学セルの温度を調整する方法であって、前記蓄熱デバイスから前記バッテリ温度調整デバイスに熱を伝達するステップを含む方法。
【請求項29】
前記熱伝達流体を使用して前記温度調整デバイスから熱を伝達するステップをさらに含む、請求項28に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8A】
image rotate

【図8B】
image rotate

【図9】
image rotate


【公表番号】特表2013−516742(P2013−516742A)
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−548024(P2012−548024)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【国際出願番号】PCT/US2010/061213
【国際公開番号】WO2011/084728
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー (1,383)
【Fターム(参考)】