説明

熱伝達特性測定方法および装置

【課題】対象の熱伝達特性の測定や,熱負荷を利用した非破壊検査を精度よく行うためには、対象の加熱乃至は冷却に、空間分布と時間制御の精度が必要になる。しかし、この二つの要求を同時に満足できる加熱・冷却法は少ない。本発明は、簡便で安価に、空間的一様性と時間制御性を兼ね備えた加熱・冷却法を提供し、さらにこの方法を利用した熱伝達特性測定法を提供することを目的とする。
【解決手段】 流体に圧力変動を加えて流体温度を変動させ、この温度変動を利用して対象を加熱乃至は冷却する。そして、流体乃至は流体に接する物体に生じる温度変化を検出し、検出された温度変化に基づいて、流体乃至は物体の熱伝達特性を測定する。 流体中の圧力変動は音速で伝播するから、広い領域にわたる一様な加熱冷却が可能である。さらに、流体中の温度変動の信号を得ることも容易であり、加熱冷却の時間制御を極めて高精度に行うことが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体、液体、気体の熱伝達特性を測定する方法と装置に関わる。また、熱伝導特性の測定によって含有成分を検出するクロマトグラフィーの熱伝導度検出部や、熱負荷を与えたときの対象の温度変化を測定する非破壊検査などに応用される。
【背景技術】
【0002】
対象を加熱乃至は冷却したときの温度変化から熱拡散率や熱伝導率などの熱物性を測定する場合、あるいは熱負荷を与えたときの温度応答から対象の状態を非破壊に検査する場合などに、対象を加熱乃至は冷却する方法として、従来は、ヒーターに電流を流してジュール熱を発生する方法(交流カロリメーター法などを含む)、ペルチェ効果を利用する方法、レーザーを照射する方法(レーザーフラッシュ法)、ハロゲンランプなどで照射する方法、マイクロ波や誘導を利用する方法、温度の異なる熱源に接触させる方法(温冷風式を含む)、液体の蒸発潜熱を利用する方法などが用いられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の測定や非破壊検査を精度よく実施するためには、加熱乃至は冷却の、空間的な分布と時間制御の精度が求められる。しかし、二つの要求を同時に満足できる加熱・冷却法は少なく、二つの要求を同時に追求しようとすれば極めて高コストの装置が必要となってくる。本発明は、簡便で安価な、空間的一様性と時間制御性を兼ね備えた加熱・冷却法を提供し、さらにこの方法を利用した熱伝達特性測定法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明では、上記の目的を達成するために、流体に圧力変動を加えて流体温度を変動させ、この温度変動を利用して対象を加熱乃至は冷却する。そして、流体乃至は流体に接する物体に生じる温度変化を検出し、検出された温度変化に基づいて、流体乃至は物体の熱伝達特性を測定する(請求項1および2)。
【0005】
請求項3に記載の熱伝達特性測定装置では、物体近傍の温度境界層内の温度変化を検出する。請求項4に記載の熱伝達特性測定装置は、加熱冷却だけでなく、温度の検出にも流体中の圧力変化を利用する。請求項5に記載の熱伝達特性測定装置では、被測定物質と基準物質の熱伝達特性の差を検出する差働式の構成をとる。
【発明の効果】
【0006】
流体の圧力、体積、温度の間には状態方程式が成り立ち、例えば圧縮して流体の圧力が上昇すれば、これに伴って流体温度が上昇する。このことを利用すれば、流体に接触する対象あるいは流体自身を、加熱冷却することができる。流体中の圧力変動は音速で伝播するから、広い領域にわたる一様な加熱冷却が可能である。特に、流体の熱伝達特性を測定する目的に対しては、流体自身を直接加熱冷却することができる。さらに、圧縮手段からの同期信号、流体中の圧力検出手段、乃至は流体中の温度検出手段を利用して、流体中の温度変動の信号を得ることも容易であり、加熱冷却の時間制御を極めて高精度に行うことが可能である。
【0007】
本発明では、圧力変動を利用して対象の加熱冷却を行い、このときに生じる温度変化が対象の熱伝達特性に依存することに基づいて、温度変化を検出して熱伝達特性を測定する。圧力変動を利用することで、上記の通り、非常に広い空間的範囲について均一な熱負荷を加えることが可能になるだけでなく、熱負荷の位相なども精密に制御することが可能となる。このため、簡便安価でかつ高精度の熱伝達特性測定が可能となる。
【0008】
請求項3に記載の、物体近傍の流体中に温度センサーを設置する装置においては、流体を直接加熱し、かつ温度変化を直接測定する方式であるため、流体、特に、測定の難しい気体の熱伝達特性を、簡便安価かつ高精度に測定することが可能となる。また、請求項4記載の装置においては、音響機器のみを用いて熱伝達特性測定装置を構成することができ、更に安価簡便な装置を実現することが可能となる。
【0009】
請求項5に記載の装置においては、装置を差働構造にして、基準物質との比較によって測定を行うため、熱伝達特性の変化を極めて敏感に検出することができる。この装置は、安価でかつ高感度のガスクロマトクラフィー熱伝達特性検出部などとして応用することが可能である。
【0010】
本発明を非破壊検査に応用した場合には、熱負荷の空間的一様性の効果が大きい。レーザー照射、赤外線照射、ハロゲンランプによる加熱、温風による加熱あるいは冷風による冷却など従来の加熱手段には、広い範囲にわたって均一な熱負荷を加えることが難しいという問題点があるが、本発明によって、均一な熱負荷が実現できるため、高精度・高信頼性の非破壊検査が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【実施例】
【0012】
(第一実施例)
図1は、気体の熱拡散率を測定するように構成した本発明の第一の実施例である。図において、1は温度センサーであり、その構造については後述する。2はスピーカーであり、測定セル3内に圧力変動を加える働きをしている。4は測定対象である気体10を導く管である。5は電磁バルブであり、気体10の測定セル3への流入流出を制御している。11は発振器で、演算部14からの制御信号に基づき、角周波数ωの余弦波信号をスピーカー2および位相比較器13に出力している。12は電気抵抗検出回路であり、温度センサー1の細線の電気抵抗を電圧出力に変換する。位相比較器13は、測定セル3内の圧力変動と、温度センサー1の電気抵抗の変動との位相差φを検出している。演算部14は、前記の通り発振器に角周波数の制御信号を出力するとともに、位相比較器13からの位相差信号φと角周波数ωとに基づいて気体の熱拡散率を演算し、表示部15に出力している。16は、バルブコントローラーであり、電磁バルブを制御して、気体10を測定セル3内に適切なタイミングでサンプリングする役割を果たしている。
【0013】
図2は、温度センサー1の構造を示す図である。図中の101は、直径dの金属細線であり、センサー基台102から距離hだけ隔てて、基台に平行に懸架されている。103および103’は、細線101の両端のコネクター部分であり、このコネクター部分から出たリード線が電気抵抗検出回路12に接続されている。この実施例では、温度センサー1は、直径約5μmの円断面金属細線101を基台102に取り付けたものである。測定装置をより小型化したい場合は、マイクロマシン技術を利用し、梁状構造をパターニングした後に、その下層をエッチングで除去することで、図2と同様の構造を製作して温度センサーとして用いることもある。
【0014】
いま、角周波数ωにおける波長λ=2πc/ωは、測定セル3の寸法に比べて十分に大きくなるように選ばれている(cは音速)。このとき、スピーカーの振動によって測定セル内に生じる圧力変動は、測定セル内で一様としてよい。その圧力変動をPcos(ωt)とする。一方、測定セル3の寸法は、角周波数ωにおける温度境界層厚さδ=(2κ/ρcω)1/2=(2α/ω)1/2に比べれば十分に大きくなるように設計されている(κは気体の熱伝導率、ρは気体の密度、cは気体の等圧比熱、αは気体の熱拡散率)。この場合、温度変動の振幅は、測定セル内の大部分で断熱圧縮の場合の値P/ρcに等しい。しかし、壁面やセンサー基台の温度はほぼ一定であるため、その近傍には温度境界層が生じる。平らな壁面から距離yだけ垂直に隔たった場所での温度変動の大きさは、
θ(y)=(P/ρc)(1−exp(−(1+i)y/δ)) ・・・・(1)
となる。ただし、iは虚数単位を表し、θは、温度変動を複素表示した時の振幅である(鳥越・石井:音を利用した表面積の測定、計測自動制御学会論文集、34巻、3号、182ページ、1998年)。θ(y)の振幅(P/ρcで規格化)と位相をy/δに対してプロットしたグラフを図3に示す。
【0015】
この実施例では、スピーカーの振動周波数は数十Hz程度に設定されている。このとき、直径5μm程度の金属細線の内部の温度分布はほとんど一様となり、その温度は周囲の気体の温度とほとんど同じである。例えば、直径5μmのタングステン線、空気中、周波数40Hzの条件では、タングステン線の内部平均温度と遠方の空気温度の差は、振幅で1%程度、位相差で0.04rad程度である。細線の直径が細いほど、周波数が低いほど、この差は小さくなる。金属細線の内部温度が周囲の気体の温度とほとんど等しくなることを利用すれば、細線を気体温度のセンサーとして用いることができる。本実施例では、電気抵抗検出回路12によって、金属細線の温度変化に伴う電気抵抗変化を測定して、細線近傍の気体の温度変化を検出している。
【0016】
式(1)から、センサーの基台から距離hの細線101の場所での温度変動振幅は
θ(h)=(P/ρc)(1−exp(−(1+i)h/δ)) ・・・・(2)
である。この温度変動の位相は、h/δだけで決まり、hが固定された一定値であるから、温度境界層厚さδ=(2α/ω)1/2だけの関数となる。さらに、角周波数ωは既知であるから、距離hにおける温度変動の位相を測定すれば、気体の熱拡散率αを知ることができる。本実施例では、遠方における温度変動の位相すなわち圧力変動の位相と、細線の電気抵抗変動の位相との差φを検出し、この位相差から熱拡散率αを計算している。なお、図3から分かるように、金属細線の高さhが3δより大きい場合には、位相差はほとんどゼロとなるだけでなく、位相差と熱拡散率αの関係は一意ではなくなる。したがって、高さhは3δ以下に設定しておくことが必要であり、さらに、熱拡散率αの変化による位相の変化の割合が大きい領域、すなわちδと同程度以下の値とするのが有利である。例えば気体が空気の場合には、40Hzにおいてδ=0.4mmである。
【0017】
以上が、気体の熱拡散率を測定するための代表的な構成である第一実施例の動作の説明である。しかし、本発明による熱拡散率測定の構成は、第一実施例の構成に限定されるものではなく、多くのバリエーションが考えられる。例えば、式(1)の基となる熱伝導方程式が線形であるから、重ね合わせの理が成り立つ。したがって、正弦的な圧力変動ではなく、任意波形の圧力変動を加えた場合にも、各フーリエ成分について(1)式が成り立つ。このことを利用すれば、同時に複数の周波数について温度変動の複素振幅を測定することもできる。この場合には、或るフーリエ成分について上述の方法を適用する方式だけでなく、周波数による位相差の変化の情報や、周波数による振幅の変化の情報を利用して熱拡散率を計算することも可能である。ところで、測定セル3の上流側と下流側の圧力差が大きい場合には、上流側と下流側の電磁バルブを交互に開閉することで、気体10のサンプリングを行うと同時に、セル内に矩形波状の圧力変動を発生させることができる。重ね合わせの理を利用すれば、この圧力変動からも熱拡散率を測定することが可能であり、この場合には、スピーカー2を省略することができる。
【0018】
上記実施例では、金属細線101の抵抗変化すなわち気体の温度変化の位相情報を用いて、気体の熱伝達率αを測定している。しかし、スピーカー2によって加えられる圧力変動の振幅Pは一定であるから、その時の温度変動振幅は、(1)式あるいは(2)式から分かるように、気体のρcによって変化する。すなわち、気体の温度変化の位相情報だけでなく、振幅の情報も利用すれば、熱伝達率αだけでなくρcをも知ることができる。κ/ρc=αの関係を用いれば、気体の熱伝導率κを同時に測定できることが分かる。また、密度ρが別途知られていれば、比熱cも求められる。
【0019】
圧力変動と同期した信号を用いて、温度変動との位相差を計算する第一実施例の方法ではなく、遠方での気体の温度変動(P/ρc)を直接測定して、壁面近傍の温度変動との位相差を求めるようにすることもできる。図4は、この方式に適した温度センサーの構成を示したものである。センサー基台102からhの距離に張られた104が、遠方での気体の温度変動を検出するための金属細線である。図3から分かるように、hが十分に大きければ、その場所での温度変動振幅の位相は一定であり、遠方温度検出用細線104で検出した温度変動を、位相の参照信号として利用することができる。なお、この信号を、熱伝導率κや比熱cを測定するための信号としても利用できることは言うまでもない。
【0020】
本実施例では、温度一定の壁面と温度が変動する気体との間で熱移動が生じ、これに伴って形成される温度境界層内の温度変動を検出して、熱拡散率を測定している。この基礎原理からすれば、センサーの構造が、平面基台上に懸架した細線に限定されないことは明らかである。図5に示したのは、温度センサーの他の構成例である。図5の例では、二枚の平行平板の中央に細線を懸架した構造を取っている。この場合には、細線位置の温度変動の複素振幅は、(1)式とは異なる関数形となる。しかし、平行平板の間隔と変動周波数が一定なら、複素振幅の位相が熱拡散率のみの関数である点は同じである。この他にも、円筒の内部に懸架した細線などを用いることもできるし、原理的には、壁面と温度検出部との相対位置関係が一定でさえあれば、任意の形状と組み合わせをセンサーとして利用することができる。
【0021】
さらに、本実施例のように、角周波数を一定として位相差を検出する方法の他に、位相差が一定になるようにフェーズロックトループを構成して、この時の角周波数に基づいて熱拡散率を算出してもよい。このことは、温度センサー部として、上記のどの構造を用いた場合でも同様である。また、交流的な圧力変動ではなく、ステップ状入力の様に直流成分を含む圧力変動に対する温度変化を測定する方式も可能である。
【0022】
(第二実施例)
図6は、差働構成を取った本発明の第二実施例である。図において、下側の測定セルの構成は第一実施例と同じである。上側の3’は、基準ガス20の熱拡散率を検知するための基準セルであり、1’は基準ガス用の温度センサーであり、下側の測定セル3内の温度センサー1と同じ形状を持っている。4’は基準ガスを導く管、5’は基準ガスを適切なタイミングでサンプリングするための電磁バルブである。測定セル3と基準セル3’には、スピーカー2によって、振幅が同じで逆位相の差働的な圧力変動が加わる。温度センサー1および1’の電気抵抗変化は、もし被測定気体10と基準ガス20とが同一成分であれば、180度の位相差を持つ。これに対して、被測定気体中に基準ガスと異なる組成の成分が含まれていると、熱拡散率が変化するため、位相差は180度からずれた値をとる。本実施例では、電気抵抗検出回路と位相差計を用いて(図示せず)、この位相のずれを測定して、被測定ガス中の成分検出を行っている。
【0023】
なお、温度センサー1および1’を用いる代わりに、測定セル3および3’内の圧力変動を検出して、その位相差を測定することで、熱拡散率の変化を検出することができる。第二実施例では、圧力変動によって気体の温度変動を発生し、気体からセンサー基台への熱移動のために起こる温度変化を検出している。これによって対象気体の熱物性が測定できるのは、上記の熱移動の大きさと位相が、対象の熱物性に依存しているからである。このことは、気体から各セル壁面への熱移動もまた気体の熱物性に依存し、各セル内気体の平均温度が気体の熱物性に依存することを意味する。もし、測定セル3および3’の形状が、内表面積が大きく伝熱距離が小さくなるように設計されていれば、セル内平均温度は、セル内気体の熱物性に大きく依存するようになる。例え同じ容積変動を加えても、容器内平均温度変動が異なれば、発生する圧力変動は異なる。したがって、測定セル3および3’内の気体の熱物性値に差が在る場合には、セル内圧力変動の位相差は180度からのずれを生じる。このことを利用すれば、測定セル3および3’内の圧力変動を検出する、マイクロホンなどの圧力検出器を、温度センサーの代わりに用いることができる。
【0024】
第二実施例の温度センサー構成だけでなく、第一実施例に関連して説明した種々の温度検出法は、いずれも、第二実施例のような差動構成に適用することが可能である。また、二つのセルの温度センサー信号の位相から熱物性の変化を検出するのではなく、温度変動の振幅の変化を利用して熱物性の変化を検出することもできる。
【0025】
(第三実施例)
図7は、導電性薄板の熱伝達特性を測定するように構成した本発明の第三実施例である。図7において、2、11、12は第一実施例と同じで、それぞれ、スピーカー、発振器、電気抵抗測定回路である。32は、測定対象の薄板であり、その厚さ2hは、周囲の気体の温度が変動したときに、薄板内平均温度の変動が無視できない程度の値である。301は、薄板32上に蒸着ないしはスパッタリングによって形成した金属性の電極である。33は測定用セルであり、蓋を開閉して被測定物体32を出し入れできるようになっている。測定用セル33内は、密度と熱物性が既知の測定用気体30に満たされている。34は、同期検波回路であって、薄板32の電気抵抗変化の信号を、圧力変動と同相の成分と直交する成分とに分離して、その大きさを出力している。35は演算回路であり、発振器11の発振角周波数を制御するとともに、同期検波回路34からの信号に基づいて、被測定薄板32の熱伝達特性を算出し、表示部36に出力している。37はバルブであり、測定用セル33の蓋を開閉した後、セル内を気体30で満たす工程のあいだ開かれるが、測定工程中は閉められる。
【0026】
スピーカー2を振動させ、測定セル内に正弦的な圧力変動を発生させると、気体30の温度が正弦的に変動する。薄板32は気体と接しているため、熱移動が生じ薄板内には温度分布が生じる。電極301間の電気抵抗は、薄板32内の平均温度で決まり、気体の温度変動に伴って変動する。薄板32の平均温度変動の複素振幅は
β・(P/ρc)・(δ/(1+i)h)・sinh((1+i)h/δ)/(β・cosh((1+i)h/δ)+sinh((1+i)h/δ)) ・・・・(3)
で与えられる。ここで、薄板の密度をρ、比熱をc、熱伝導率をκ、熱拡散率をα、薄板内の熱境界層厚さをδ=(2α/ω)1/2で表しており、β=((ρcκ)/(ρκ))1/2である。測定用気体30の密度ρ、熱伝導率κ、等圧比熱cは既知であるから、複素振幅の振幅と位相乃至は実部と虚部が分かれば、薄板の熱拡散率および熱伝導率を計算することができる。
【0027】
本実施例では、測定対象の薄板32が導電性であるので、電極を形成して薄板32内の電気抵抗を測定することで平均温度を検出し、薄板の熱伝達特性を測定している。薄板が導電性で無い場合には、薄板表面にスパッタリング乃至は蒸着によって金属薄膜を形成し、その電気抵抗を測定して薄板表面の温度を検出することで、薄板の熱伝達特性を知ることができる。なおこの場合、表面温度を検出する手段は金属薄膜の電気抵抗測定に限らず、表面に接触させた熱電対、サーミスターなどを用いることもできるし、放射温度計やサーモリフレクタンス法など、非接触式の温度検出法を利用した構成をとることも可能である。また、薄板を、金属薄膜側を下にして、熱物性が既知の物質で出来た基台に接触させて設置し、金属薄膜の無い上面を気体の温度変動にさらす構成として、金属薄膜に生じる温度変動を検出するようにしてもよい。この構成は、従来の交流カロリメーター法の一構成と同じであり、交流カロリメーター法における加熱の手段として、本発明を適用したものとなっている。
【0028】
第三実施例は、既知の気体の雰囲気中で、被測定物体を加熱して熱伝達特性を測定するものであったが、上記の説明から明らかなように、逆に物体の熱物性が既知であるなら、気体の熱伝達特性を測定することができる。すなわち、既知の物体乃至は既知の薄板を設置して、その表面温度乃至は平均温度を検出するようにすれば、気体の熱伝達特性の測定装置を構成することができる。この場合に、ガスクロマトグラフィーにおけるように、気体の熱伝達特性の絶対値ではなく、被測定気体の熱伝達特性が基準気体と異なることを検出する目的には、温度変化の複素振幅ではなく、位相だけ乃至は振幅だけを検出するようにすれば十分である。
【0029】
(第四実施例)
図8は、本発明を非破壊検査に応用した第四実施例の構成である。43は検査対象の基盤であり、その上部に薄膜41が接着されている。42は、接着不良のために生じた基盤43と薄膜41の間の空隙である。44は、検査対象を内部に入れる検査槽である。45は、検査槽44内を加圧するためのポンプである。46は、赤外線サーモカメラであり、薄膜41の表面の温度分布を測定している。なお、この実施例では、検査槽44に観測窓が開けてあり、気密状態を保ちつつ、赤外線サーモカメラによる測定が可能となるようになっているが、赤外線センサーを検査槽の内部に設置して、観測窓を介さずに測定することもできる。また、検査槽を設けずに、開放空間内で、対象に向けて音波を放射して検査を行う場合もある。
【0030】
ポンプ45から気体を流入させることによって検査槽44内の圧力を上昇させると、検査槽内の気体の温度は、室温よりも上昇する。このとき、薄膜41の表面から薄膜内部へ、さらに基盤43への熱流束が生じる。ところが、空隙42の上部は、適切に接着された部分と比較して熱抵抗が大きく異なるので、薄膜表面の温度分布は一様ではなく、空隙の形状に対応した分布を持つことになる。この温度分布の不均一を赤外線サーモカメラ46で測定することで、接着の不良箇所を検出することができる。なお、以上の原理で非破壊検査を行うには、加圧に限らず、検査槽内を減圧して温度を下げてやってもよい。また、薄膜表面の温度分布の変化が僅かで、雑音の影響を受ける場合には、交流的に加減圧を繰り返し、その加減圧信号と赤外線サーモカメラの信号との相関をとって、SN比を改善することがある。この他、対象の熱抵抗分布が、正常な対象であっても初めから一様ではない場合には、観測された温度分布と正常な温度分布との差を利用して検査を行うようにすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、物質の基本的な特性量である熱伝達特性を測定する方法と装置に関わるから、科学研究の分野、物質を扱う広い産業分野で利用される。また、熱伝達特性そのものを測定する目的ではなく、間接的な利用分野として、熱伝達特性を利用して成分検出を行うクロマトグラフィーの熱伝導度検出部などにも使用される。この他、熱負荷を与えたときの対象の温度変化を測定する非破壊検査などにも適用可能であることから、設備の診断や保守、多くの産業分野の診断・検査技術としても利用される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第一実施例の構成を示す図である。
【図2】温度センサー1の構造を示す図である。
【図3】壁面からの距離と温度変動の複素振幅の関係を示すグラフである。
【図4】遠方の温度変動を同時に検出するセンサーの構造図である。
【図5】平行平板を用いた温度センサーの構造図である。
【図6】差働構成をとった本発明の第二実施例を示す図である。
【図7】本発明の第三実施例を示す図である。
【図8】本発明を非破壊検査に応用した第四実施例を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1 温度センサー
1’ 温度センサー
101 金属細線
102 センサー基台
103 コネクター部
103’ コネクター部
104 遠方場温度検出用金属細線
2 スピーカー
3 測定セル
3’ 基準セル
4 管
4’ 管
5 電磁バルブ
5’ 電磁バルブ
10 被測定気体
11 発振器
12 電気抵抗検出回路
13 位相比較器
14 演算部
15 表示部
16 バルブコントローラー
20 基準ガス
30 測定用ガス
301 金属薄膜
302 電極
32 被測定物体
33 測定セル
34 同期検波回路
35 演算部
36 表示部
37 バルブ
41 薄膜
42 空隙
43 基盤
44 検査槽
45 ポンプ
46 赤外線サーモカメラ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体に圧力変動を加えて流体温度を変動させ、
上記流体乃至は上記流体と接する物体の温度変化を検出し、
検出された上記温度変化に基づいて、上記流体乃至は上記物体の熱伝達特性を測定することを特徴とする熱伝達特性測定方法。
【請求項2】
流体に圧力変動を加えて流体温度を変動させる手段と、
上記流体乃至は上記流体と接する物体の温度変化を検出する手段と、
上記検出手段によって検出された温度変化に基づいて、上記流体乃至は上記物体の熱伝達特性を算出する手段とを備えることを特徴とする熱伝達特性測定装置。
【請求項3】
物体近傍の流体中に温度センサーを設置し、上記物体近傍に生じる温度境界層内の温度変化を検出することを特徴とする請求項2に記載の熱伝達特性測定装置。
【請求項4】
温度変化を流体の圧力変化の形で検出することを特徴とする請求項2に記載の熱伝達特性測定装置。
【請求項5】
測定対象の熱伝達特性を、基準物質の熱伝達特性と比較して測定する構成としたことを特徴とする請求項2乃至4に記載の熱伝達特性測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−208257(P2006−208257A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−22452(P2005−22452)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(593155341)
【Fターム(参考)】