説明

熱伝達組成物

本発明は、(i)約45〜約75重量%2,3,3,3‐テトラフルオロプロペン(R‐1234yf)、および(ii)約25〜約55重量%1,1,1,2‐テトラフルオロエタン(R‐134a)を含んでなる熱伝達組成物を提供する。(i)約20〜約90重量%R‐1234yf、(ii)約10〜約60重量%R‐134a、および(iii)約1〜約20重量%R‐32を含んでなる、所望によりから実質的になる、熱伝達組成物も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝達組成物、特にR‐134a、R‐152a、R‐1234yf、R‐22、R‐410A、R‐407A、R‐407B、R‐407C、R507およびR‐404aのような既存の冷媒の代替物または代用物として適する熱伝達組成物に関する。該組成物のうちあるものは、R‐134aに置き換わる代替物として特に適している。
【背景技術】
【0002】
機械冷却システムおよび関連熱伝達装置、例えばヒートポンプおよび空調システムは周知である。このようなシステムにおいて、冷媒液は周辺ゾーンから熱を受け取り低圧で蒸発する。得られた蒸気は次いで圧縮され、凝縮器へ送られ、そこでそれが凝縮して、第二ゾーンへ熱を放出し、凝縮液は膨張弁を通って蒸発器へ戻され、こうしてサイクルを完了する。蒸気を圧縮して液体を送り出すために要する機械的エネルギーは、例えば電気モーターまたは内燃機関により供給される。
【0003】
適切な沸点および高い気化潜熱を有することに加えて、冷媒で好ましい性質としては、低毒性、不燃性、非腐食性、高安定性および不快臭からの解放がある。他の望ましい性質は、25バール以下の圧力で速やかな圧縮性、圧縮時の低い吐出温度、高い冷却能力、高い効率(高い成績係数)および望ましい蒸発温度で1バール超の蒸発器圧力である。
【0004】
ジクロロジフルオロメタン(冷媒R‐12)は性質の適切な組合せを有し、長年にわたり最も広く用いられた冷媒であった。完全および部分的ハロゲン化クロロフルオロカーボン、例えばジクロロジフルオロメタンおよびクロロジフルオロメタンが地球の保護オゾン層を損なっているという国際的問題のために、それらの製造および使用が厳しく制限され、最終的には完全に廃止されるという一般協定があった。ジクロロジフルオロメタンの使用は1990年代に廃止された。
【0005】
クロロジフルオロメタン(R‐22)は、その低いオゾン破壊係数のために、R‐12の代替物として導入された。R‐22が強力な温室効果ガスであるという問題から、その使用も廃止されつつある。R‐410AおよびR‐407(R‐407A、R‐407BおよびR‐407Cを含む)がR‐22の代替冷媒として導入されてきた。しかしながら、R‐22、R‐410AおよびR‐407はすべて高い地球温暖化係数(GWP、温室温暖化係数としても知られる)を有している。
【0006】
1,1,1,2‐テトラフルオロエタン(冷媒R‐134a)がR‐12の代替冷媒として導入された。しかしながら、低いオゾン破壊係数を有するにもかかわらず、R‐134aは1430のGWPを有している。それより低いGWPを有するR‐134aの代替物を見つけることが望まれるのである。
【0007】
R‐152a(1,1‐ジフルオロエタン)がR‐134aの代替物として特定されていた。それはR‐134aよりやや効率的であり、120の温室温暖化係数を有している。しかしながら、R‐152aの燃焼性は、例えば自動車空調システムにおいてその安全な使用を行う上で、高すぎると判断されている。特に、空気中におけるその可燃下限は低すぎ、その火炎速度は高すぎ、その点火エネルギーは低すぎるのである。
【0008】
R‐1234yf(2,3,3,3‐テトラフルオロプロペン)が、ある用途、特に自動車空調またはヒートポンピング用途でR‐134aに置き換わる代替冷媒候補として特定されていた。そのGWPは約4である。R‐1234yfは可燃性であるが、その燃焼特性は自動車空調またはヒートポンピングを含めた一部の用途で許容されると一般的にみなされている。特に、その可燃下限、点火エネルギーおよび火炎速度はすべてR‐152aの場合よりかなり低い。しかしながら、R‐1234yfのエネルギー効率および冷却能力はR‐134aの場合よりかなり低いことがわかり、加えて該流体はシステム配管および熱交換器で高い圧力降下を示すことがわかった。この結論として、R‐1234yfを用いて、R‐134aに匹敵するエネルギー効率および冷却性能を達成するためには、設備の複雑さの増加と配管のサイズの増大が必要とされ、設備に伴う間接的排出の増加に繋がる。更に、R‐1234yfの生産は、R‐134aより、エネルギーとフッ素化および塩素化原材料の使用に際して、複雑かつ低効率であると思われる。そのように、R‐134aに置き換わるR‐1234yfの採用は、R‐134aの場合より原材料を多く消費し、温室効果ガスの間接的排出を多くもたらすのである。更に、R‐1234yfは、R‐134aで用いられている幾つかの標準ポリアルキレングリコール(PAG)潤滑剤、例えばNippon Denson ND8と混和しにくいことが知られている。
【発明の開示】
【0009】
本発明に関するタイプの熱伝達装置は実質的に閉鎖系であるが、設備の作動中またはメンテナンス作業中における漏出のために大気への冷媒の損失が生じうる。したがって、ゼロオゾン破壊係数を有する物質で完全および部分的ハロゲン化クロロフルオロカーボン冷媒を置き換えることが重要である。
【0010】
オゾン破壊の可能性に加えて、大気中で有意な濃度のハロカーボン冷媒は地球温暖化(いわゆる温室効果)に関与しているかもしれないと示唆されていた。したがって、ヒドロキシルラジカルのような他の大気成分と反応しうる能力の結果として、または光分解プロセスによる速やかな分解の結果として、比較的短い大気寿命を有する冷媒を用いることが望ましいのである。
【0011】
温室効果ガスの排出に関して、空調または冷却システムを作動した環境影響は、冷媒の直接GWPに関するのみならず、該システムを作動させる電気または燃料の消費に起因した二酸化炭素の排出を意味する、間接排出に関しても考慮されねばならない。総等価温暖化影響(TEWI)分析またはライフサイクル炭素排出量(LCCP)分析として知られるものを含めて、この総GWP影響の幾つかの測定基準が開発されてきた。これら測定の双方には、冷媒GWPの効果の評価と、全体温暖化影響に及ぼすエネルギー効率を含む。
【0012】
低燃焼性のように、改善された性質を有する代替冷媒を提供する必要性がある。フルオロカーボン燃焼化学は複雑かつ予測不能である。不燃性フルオロカーボンと可燃性フルオロカーボンとの混合が流体の燃焼性を減らすとは、必ずしも限らない。例えば、不燃性R‐134aが可燃性R‐152aと混合されると、R‐152aの量が純粋R‐152aの可燃下限より少ないとしても、該組成物は可燃性となりうることを、本発明者らは発見した(図1参照)。一方で、類似試験においてR‐152aと他の不燃性フルオロカーボン(R‐1225ye(Z))とを混合した効果が図2で示されている。R‐134aが他のフルオロカーボンの火炎化学に関与し、したがって単純に不活性な火炎抑制剤としては考えられないことが、この研究から明らかである。三元または四元組成物が考えられると、状況はより一層複雑で予測しづらくなる。
【0013】
ほとんどまたは全く修正なく冷却装置のような既存の装置に用いられる代替冷媒を提供する必要性もある。
【0014】
本発明の主目的は、したがって、低GWPを有しながら、例えば既存の冷媒(例えば、R‐134a、R‐1234yf、R‐152a、R‐22、R‐410A、R‐407A、R‐407B、R‐407C、R507およびR‐404a、特にR‐134a)を用いて到達する場合の値の理想的には20%以内、好ましくはこれら値の10%以内またはそれ以下(例えば、約5%)で(“成績係数”として便宜上表示される)能力およびエネルギー効率をなおも有する、既存の冷却使用の代替物として適した、または独自に用いうる熱伝達組成物を提供することである。流体間におけるこの程度の差異は、大したコスト差を伴うことなく、設備およびシステム作動特徴の再設計により通常解決されることが、当業界で知られている。組成物は、理想的には、既存の冷媒と比べて、低い毒性、許容しうる燃焼性、および/または潤滑剤との改善された混和性も有しているべきである。
【0015】
本発明は、
(i)約45〜約75重量%2,3,3,3‐テトラフルオロプロペン(R‐1234yf)、および
(ii)約25〜約55重量%1,1,1,2‐テトラフルオロエタン(R‐134a)、
を含んでなる熱伝達組成物の提供により、上記および他の欠点に取り組んでいる。
【0016】
上記の(フルオロ)ケミカルは、例えばApollo Scientific(UK)から市販されている。
【0017】
別記されない限り、これらの組成物は本発明の(二元)組成物と以下で称される。
【0018】
本発明の有利な組成物は、約45〜約65重量%のR‐1234yf、および/または約35〜約55重量%のR‐134aを含んでなる。
【0019】
本発明の好ましい組成物は、約45〜約60重量%のR‐1234yf、および/または約40〜約55重量%のR‐134aを含んでなる。
【0020】
本発明の一面は、約50〜約55重量%のR‐1234yf、および/または約45〜約50重量%のR‐134aを含んでなる組成物である。本発明の関連面は、約50〜約56重量%のR‐1234yf、および/または約44〜約50重量%のR‐134aを含んでなる組成物である。
【0021】
本発明の有利な組成物は、約54〜約58重量%のR‐1234yf、および/または約42〜約46重量%のR‐134aを含んでなる。本発明の関連面は、約54〜約56重量%のR‐1234yf、および/または約44〜約46重量%のR‐134aを含んでなる組成物である。
【0022】
R‐1234yfおよびR‐134aを含有する上記された本発明の組成物は、追加の成分、例えばR‐32を含有してもよい。このような三元組成物はこの明細書中に後で更に詳細に記載されている。一面において、しかしながら、本発明の組成物は上記された量のR‐1234yfおよびR‐134aから実質的になる(またはからなる)。
【0023】
好ましい二元組成物は、重量%でほぼ下記量のR‐1234yfおよびR‐134aから実質的になる(またはからなる):
【表1】

【0024】
上記表中イタリック体で示された二元組成物が、本発明の組成物の更に好ましい組合せである。これらの組成物は、以下で更に詳細に記載されるASHRAE34方法論で調べたところ、60℃において不燃性であると考えられる。上記で太字およびイタリック体で示された二元組成物が、本発明の組成物の他の好ましい組合せである。
【0025】
本発明は、R‐1234yf、R‐134aおよびジフルオロメタン(R‐32)から実質的になる熱伝達組成物も提供する。
【0026】
本発明は、(i)約20〜約90重量%R‐1234yf、(ii)約10〜約60重量%R‐134a、および(iii)約1〜約20重量%R‐32を含んでなる(あるいは所望により、から実質的になる、またはからなる)熱伝達組成物を更に提供する。
【0027】
これらは本発明の(三元)組成物とここでは称される。
【0028】
好ましい面において、本組成物は(i)約30〜約85重量%R‐1234yf、および/または(ii)約15〜約55重量%R‐134a、および/または(iii)約1〜約15重量%R‐32を含んでなる(あるいは所望により、から実質的になる、またはからなる)。
【0029】
有利な態様において、本組成物は(i)約40〜約80重量%R‐1234yf、および/または(ii)約20〜約50重量%R‐134a、および/または(iii)約1〜約10重量%R‐32を含んでなる(あるいは所望により、から実質的になる、またはからなる)。
【0030】
好ましい態様において、本組成物は(i)約50〜約75重量%R‐1234yf、および/または(ii)約25〜約45重量%R‐134a、および/または(iii)約1〜約10重量%R‐32を含んでなる(あるいは所望により、から実質的になる、またはからなる)。
【0031】
有利な面において、本組成物は(i)約55〜約70重量%R‐1234yf、および/または(ii)約25〜約40重量%R‐134a、および/または(iii)約2〜約10重量%R‐32を含んでなる(あるいは所望により、から実質的になる、またはからなる)。
【0032】
好ましい面において、本組成物は(i)約55〜約65重量%R‐1234yf、および/または(ii)約30〜約40重量%R‐134a、および/または(iii)約2〜約8重量%R‐32を含んでなる(あるいは所望により、から実質的になる、またはからなる)。
【0033】
R‐1234yf、R‐134aおよびR‐32の好ましい三元ブレンドのグループが、下記表に掲載されている。
【表2】

【0034】
上記でイタリック体で示された三元組成物が、本発明の組成物の更に好ましい組合せである。上記で太字およびイタリック体で示された三元組成物が、本発明の組成物の他の好ましい組合せである。これらの組成物は、以下で更に詳細に記載されるASHRAE34方法論で調べたところ、不燃性であると考えられる。
【0035】
この明細書は、上記された本発明の組成物の範囲内に属する多くの態様について記載している。例えば、本発明の組成物を構成する諸化合物の好ましい量も、本発明の組成物の有利な性質とそれらについて提案される有用性と並んで、詳細に記載されている。本発明のこのような特徴は、当業者により理解されるように、適宜に、どのように組み合わせてもよい、と理解されるべきである。
【0036】
本発明の組成物が(a)(R‐1234yf単独と比べて)低燃焼性または不燃性、(b)(R‐134a単独と比べて)低GWP、(c)R‐134aに匹敵するまたはそれと比べて更に改善された熱伝達性能(例えば冷却能力または空調性能)、(d)R‐1234yfと比べて改善された熱伝達性能(例えば冷却能力または空調性能)、および/または(e)(R‐1234yf単独と比べて)潤滑剤との改善された適合性の有利な組合せを有していることを、本発明者らは意外にも発見したのである。
【0037】
当業者であれば、この明細書の開示に基づき、燃焼性、GWP、冷却性能などの望ましい組合せを有した本発明の組成物を生産するために適した量のR‐1234yf、R‐134a(およびR‐32)を選択することができるであろう。
【0038】
本発明の組成物はゼロのオゾン破壊係数を有する。
【0039】
意外にも、本発明の組成物は、低いGWPで、高い燃焼危険性をもたらすことなく、R‐134a、R‐152a、R‐1234yf、R‐22、R‐410A、R‐407A、R‐407B、R‐407C、R507およびR‐404a、特にR‐134aのような既存の冷媒の代替物として、使用に際して許容される性質を発揮することがわかった。
【0040】
別記されない限り、ここで用いられている“低温度冷却”とは約−40〜約−80℃の蒸発温度を有する冷却を意味する。“中温度冷却”とは約−15〜約−40℃の蒸発温度を有する冷却を意味する。
【0041】
別記されない限り、GWPのIPCC(気候変動に関する政府間パネル)AR4(第四次評価報告書)値がここでは用いられていた。これに基づくと、R‐1234yf、R‐32およびR‐134aのGWPは各々4、675および1430である。
【0042】
一態様において、本発明の組成物はR‐134a、R‐22、R‐410A、R‐407A、R‐407B、R‐407C、R‐507またはR‐404a、特にR‐134aより低いGWPを有している。好都合には、本発明の組成物のGWPは約3500、3000、2500または2000未満である。例えば、GWPは2500、2400、2300、2200、2100、2000、1900、1800、1700、1600または1500未満である。本発明の組成物のGWPは、好ましくは1400、1300、1200、1100、1000、900、800、700、600または500未満である。
【0043】
好ましくは、本組成物は、組成物の個別可燃性成分(例えばR‐1234yf)と比べた場合に、低い燃焼危険性のものである。一面において、本組成物は、R‐1234yf単独と比べて、(a)高い可燃下限(LFL)、(b)高い点火エネルギー、または(c)低い火炎速度のうち1以上を有している。好ましい態様において、本発明の組成物は不燃性である。
【0044】
燃焼性は、2004年付けAddendum 34p通りの試験方法論でASTM標準E‐681を組み入れたASHRAE標準34に従い調べられ、その全内容が参照によりここに組み込まれる。
【0045】
一部の用途において、ASHRAE34方法論により不燃性として処方が分類されることは不要かもしれない、例えば冷却設備装填物を周囲へ漏出させることにより可燃性混合物を作ることが物理的に不可能であれば、適用に際し使用上安全とするほど十分に空気中で可燃限界が下げられる流体を開発することが可能である。R‐134aおよび所望によりR‐32を冷媒R‐1234yfに加えた効果が、空気との混合物中でこうして燃焼性を変えていくことにある、と我々は発見したのである。
【0046】
一定圧力下における非共沸混合物の沸点と露点温度との差異と考えられる温度勾配は、冷媒の特徴をなすものである、流体を混合物で置き換えることが望まれるならば、代替流体で類似したまたは低い勾配を有することが多くの場合に好ましい。一態様において、本発明の組成物は非共沸性である。
【0047】
便宜上、本発明の組成物の(蒸発器における)温度勾配は約15K未満、例えば約10Kまたは5K未満である。
【0048】
有利には、本発明の組成物の体積冷却能力は、それが置き換わる既存の冷媒流体(例えばR‐134a)の約15%以内、好ましくは約10%または更には約5%以内である。
【0049】
一態様において、本発明の組成物のサイクル効率(成績係数)は、それが置き換わる既存の冷媒流体(例えばR‐134a)の約10%以内、好ましくは約5%以内であるか、または更にはそれが置き換わる既存の冷媒流体より良い。
【0050】
便宜上、本発明の組成物の圧縮器吐出温度は、それが置き換わる既存の冷媒流体(例えばR‐134a)の約15K、好ましくは約10Kまたは更には約5K以内である。
【0051】
ここで用いられているように、本組成物で挙げられたすべての%量は、請求項を含めて、別記されない限り、組成物の合計重量を基準にした重量によるものである。(パーセンテージのような)記述された値に関して用いられる“約”という用語について、我々は記述値の±50、40、30、20、10、5、4、3、2または1%を意味する。
【0052】
本発明の熱伝達組成物は既存設計の設備で使用に適し、既存のHFC冷媒と一緒に現在用いられている潤滑剤の全種類と適合する。それらは、所望により、適切な添加剤の使用により鉱油で安定化または適合化される。
【0053】
好ましくは、熱伝達設備で用いられる場合、本発明の組成物は潤滑剤と組み合わされる。
【0054】
便宜上、潤滑剤は鉱油、シリコーン油、ポリアルキルベンゼン類(PAB)、ポリオールエステル類(POE)、ポリアルキレングリコール類(PAG)、ポリアルキレングリコールエステル類(PAGエステル)、ポリビニルエーテル類(PVE)、ポリ(アルファ‐オレフィン類)およびそれらの組合せからなる群より選択される。
【0055】
本発明の(不燃性)組成物の利点は、それらがR‐1234yfと比べてPAG潤滑剤との改善された混和性を示すことである。
【0056】
有利には、潤滑剤は更に安定剤を含んでなる。
【0057】
好ましくは、安定剤はジエン系化合物、ホスフェート類、フェノール化合物類およびエポキシド類とそれらの混合物からなる群より選択される。
【0058】
便宜上、本冷媒組成物は更に追加の難燃剤を含んでなる。
【0059】
有利には、追加の難燃剤はトリ(2‐クロロエチル)ホスフェート、(クロロプロピル)ホスフェート、トリ(2,3‐ジブロモプロピル)ホスフェート、トリ(1,3‐ジクロロプロピル)ホスフェート、リン酸二アンモニウム、様々なハロゲン化芳香族化合物、酸化アンチモン、アルミニウム三水和物、ポリ塩化ビニル、フッ素化ヨードカーボン、フッ素化ブロモカーボン、トリフルオロヨードメタン、ペルフルオロアルキルアミン類、ブロモ‐フルオロアルキルアミン類およびそれらの混合物からなる群より選択される。
【0060】
好ましくは、熱伝達組成物は冷媒組成物である。
【0061】
好ましくは、熱伝達装置は冷却装置である。
【0062】
便宜上、熱伝達装置は自動車空調システム、住宅用空調システム、業務用空調システム、住宅用冷蔵庫システム、住宅用冷凍庫システム、業務用冷蔵庫システム、業務用冷凍庫システム、冷却機空調システム、冷却機冷却システムと、業務用または住宅用ヒートポンプシステムからなる群より選択される。好ましくは、熱伝達装置は冷却装置または空調システムである。
【0063】
有利には、熱伝達装置は遠心型圧縮器を内蔵している。
【0064】
本発明は、ここで記載されているような熱伝達装置における本発明の組成物の使用も提供する。
【0065】
本発明の別な面によると、本発明の組成物を含んでなる発泡剤が提供される。
【0066】
本発明の他の面によると、発泡体を形成可能な1種以上の成分と本発明の組成物を含んでなる発泡性組成物が提供される。
【0067】
好ましくは、発泡体を形成可能な1種以上の成分は、ポリウレタン類、熱可塑性ポリマーおよび樹脂、例えばポリスチレン、およびエポキシ樹脂から選択される。
【0068】
本発明の別な面によると、本発明の発泡性組成物から得られる発泡体が提供される。
【0069】
好ましくは、発泡体は本発明の組成物を含んでなる。
【0070】
本発明の他の面によると、スプレーされるべき物質と、本発明の組成物を含んでなる噴射剤とを含んでなる、スプレー用組成物が提供される。
【0071】
本発明の別な面によると、本発明の組成物を凝縮させ、その後で冷却されるべき物品の近くで該組成物を蒸発させることを含んでなる、物品を冷却する方法が提供される。
【0072】
本発明の他の面によると、加熱されるべき物品の近くで本発明の組成物を凝縮させ、その後で該組成物を蒸発させることを含んでなる、物品を加熱する方法が提供される。
【0073】
本発明の別な面によると、本発明の組成物を含んでなる溶媒とバイオマスを接触させ、該溶媒から物質を分離することを含んでなる、バイオマスから物質を抽出する方法が提供される。
【0074】
本発明の他の面によると、本発明の組成物を含んでなる溶媒と物品を接触させることを含んでなる、物品を清浄化する方法が提供される。
【0075】
本発明の別な面によると、本発明の組成物を含んでなる溶媒と水溶液を接触させ、該溶媒から物質を分離することを含んでなる、水溶液から物質を抽出する方法が提供される。
【0076】
本発明の他の面によると、本発明の組成物を含んでなる溶媒と粒状固体マトリックスを接触させ、該溶媒から物質を分離することを含んでなる、粒状固体マトリックスから物質を抽出する方法が提供される。
【0077】
本発明の別な面によると、本発明の組成物を含有している機械的動力発生装置が提供される。
【0078】
好ましくは、機械的動力発生装置はランキンサイクルまたはその変法を用いて熱から動力を発生するように構成されている。
【0079】
本発明の他の面によると、既存の熱伝達流体を除去して、本発明の組成物を導入する工程を含んでなる、熱伝達装置を改修する方法が提供される。好ましくは、熱伝達装置は冷却装置または(スタティック)空調システムである。有利には、該方法は温室効果ガス(例えば、二酸化炭素)排出権の割当を得る工程を更に含んでなる。
【0080】
上記の改修方法によると、既存の熱伝達流体は、本発明の組成物を導入する前に、熱伝達装置から完全に除去される。既存の熱伝達流体は熱伝達装置から一部除去され、その後で本発明の組成物を導入することもできる。
【0081】
既存の熱伝達流体がR‐134aである他の態様において、R‐1234yf(および所望によりR‐32および/または組成物の他の成分、例えば潤滑剤、安定剤または追加の難燃剤)が熱伝達装置でR‐134aへ加えられ、それにより本発明の組成物と、本発明の熱伝達装置をその場で形成することができる。望ましい割合で本発明の組成物の諸成分を簡単に用意するために、R‐1234yf(および所望によりR‐32)を加える前に、既存のR‐134aの一部が熱伝達装置から除去されてもよい。
【0082】
このように、本発明は、R‐1234yfおよび所望によりR‐32を、R‐134aである既存の熱伝達流体を含有した熱伝達装置へ導入することを含んでなる、本発明の組成物および/または熱伝達装置を製造する方法を提供する。所望により、R‐134aの少なくとも一部が、R‐1234yf(および所望によりR‐32)を導入する前に、熱伝達装置から除去される。
【0083】
もちろん、本発明の組成物は、望ましい割合でR‐134a、R‐1234yf(および三元組成物の場合にはR‐32)を混合することでも、簡単に製造される。本組成物は次いで、R‐134aまたはいずれか他の既存の熱伝達流体を含有しない熱伝達装置、例えばR‐134aまたはいずれか他の既存の熱伝達流体が除去されていた装置へ加えられる(またはここで記載されているようないずれか他の手法で用いられる)。
【0084】
本発明の別な面において、既存の化合物または組成物を含んでなる製品の取扱いから生じる環境影響を減らす方法が提供され、該方法は少なくとも部分的に既存の化合物または組成物を本発明の組成物で置き換えることを含んでなる。好ましくは、この方法は温室効果ガス排出権の割当を得る工程を含んでなる。
【0085】
環境影響とは、我々は製品の取扱いによる温室温暖化ガスの発生および排出を含める。
【0086】
上記のように、この環境影響は、漏出または他の損失から有意な環境影響を有する化合物または組成物の排出を含むのみならず、装置によりその使用期間中に消費されるエネルギーから生じる二酸化炭素の排出も含めて考えられる。このような環境影響は総等価温暖化影響(TEWI)として知られる測定により定量しうる。この測定は、例えばスーパーマーケット冷却システムを含めた、ある固定冷却および空調設備の環境影響の定量化に用いられてきた(例えばhttp://en.wikipedia.org/wiki/Total equivalent warming impact参照)。
【0087】
環境影響は、化合物または組成物の合成および製造から生じる温室効果ガスの排出を含めて、更に考えられる。この場合には、ライフサイクル炭素排出量(LCCP、例えばhttp://www.sae.org/events/aars/presentations/2007papasavva.pdf参照)として知られる測定を行うために、製造時排出がエネルギー消費および直接損失効果に加えられる。LCCPの使用は自動車空調システムの環境影響を評価する際に一般的である。
【0088】
排出権は地球温暖化に関与している汚染物質排出を減らすために与えられ、例えば預託、取引または売却される。それらは二酸化炭素の換算量で便宜上表示される。そのため、1kgのR‐407Aの排出が避けられるとすれば、1×1990=1990kg CO換算の排出権が与えられる。
【0089】
本発明の他の態様において、(i)既存の化合物または組成物を本発明の組成物で置き換え(本発明の組成物は既存の化合物または組成物より低いGWPを有している)、および(ii)該置換え工程で温室効果ガス排出権を得ることを含んでなる、温室効果ガス排出権を生み出す方法が提供される。
【0090】
好ましい態様において、本発明の組成物の使用は、既存の化合物または組成物の使用により達成される場合よりも低い総等価温暖化影響および/または低いライフサイクル炭素排出量を有する設備をもたらす。
【0091】
これらの方法は、いずれか適切な製品で、例えば、空調、冷却(例えば、低および中温度冷却)、熱伝達、発泡剤、エアロゾルまたはスプレー用噴射剤、気体誘電体、凍結手術、獣医処置、歯科処置、消火、火炎抑制、溶媒(例えば、フレーバーおよびフレグランスの担体)、クリーナー、エアホーン、ペレットガン、局所麻酔剤および膨張用途の分野で行われる。好ましくは、分野は空調または冷却である。
【0092】
適切な製品の例としては、熱伝達装置、発泡剤、発泡性組成物、スプレー用組成物、溶媒および機械的動力発生装置がある。好ましい態様において、製品は熱伝達装置、例えば冷却装置または空調ユニットである。
【0093】
既存の化合物または組成物は、それに置き換わる本発明の組成物より高い、GWPおよび/またはTEWIおよび/またはLCCPで測定されるような環境影響を有している。既存の化合物または組成物はフルオロカーボン化合物、例えばペルフルオロ‐、ヒドロフルオロ‐、クロロフルオロ‐またはヒドロクロロフルオロ‐カーボン化合物を含んでなるか、またはそれはフッ素化オレフィンを含んでなる。
【0094】
好ましくは、既存の化合物または組成物は冷媒のような熱伝達化合物または組成物である。置き換えられる冷媒の例としては、R‐134a、R‐152a、R‐1234yf、R‐410A、R‐407A、R‐407B、R‐407C、R507、R‐22およびR‐404A、特にR‐134aがある。
【0095】
いかなる量の既存の化合物または組成物も、環境影響を減らせるように置き換えられる。これは、置き換えられる既存の化合物または組成物の環境影響と、本発明の代替組成物の環境影響に依存する。好ましくは、製品中における既存の化合物または組成物は本発明の組成物で完全に置換えられる。
【実施例】
【0096】
燃焼性試験
燃焼性試験に関するASHRAE標準34方法論をこの試験作業に用いた。用いられた方法は、ASTM E681‐04“化学物質(蒸気および気体)の燃焼性の濃度限界に関する標準試験法”Annex 1“着火しづらい大きな消炎距離を有する材料に関する試験法”(参照によりここに組み込まれる)に準拠している。該試験を記録するためにビデオカメラを用い、燃焼性の最終決定を行うために記録を確認した。15KVにて30mAで給電される、1/4インチスパークギャップで1mm L形のタングステン電極を用いるスパーク点火を用いた。スパーク時間は電子タイマーで0.2〜0.4秒間に設定した。
【0097】
全試験を12リットル短首丸底フラスコで行った。攪拌装置はE681に記載された通りである。気圧を各ランの前に調べ、フラスコに望ましい組成物を入れるために必要な各成分の分圧を計算するためにその圧力を用いた:体積分率および分圧が気体法則と関連しているからである。圧力測定は、0.01psiまで正確に測定しうる較正済み2バールDruck圧力変換器により行った。23℃で飽和湿度の50%に相当するようにフラスコ中の空気湿度を調整した。用いられた試験温度は全試験について60℃であった。
【0098】
燃焼性試験の結果が図1〜7にグラフで示されている。図は三角組成プロットで燃料、希釈物および空気の三元組成を表しており、そこでは軸が各成分の体積分率で尺度付けされている。図にプロットされた曲線(図2を除く)は組成物の可燃領域を表している。
【0099】
図1は23℃におけるR‐152a(燃料)、R‐134a(希釈物)および空気の燃焼挙動を示している。図2は100℃におけるR‐152a(燃料)、R‐1225ye(Z)(希釈物)および空気の燃焼挙動を示している。R‐134aが火炎化学において積極的な役割を果たし、燃焼性を抑えるように働かないことは、R‐152aとR‐134aとの可燃領域の形状、特に底部の下向き湾曲から推論される。対照的に、図2における可燃領域の形状は、R‐1225ye(Z)がR‐152aの燃焼性を減らすように働くことを示している。
【0100】
我々はASHRAE標準34燃焼性試験プロトコールを用いて空気中23℃および60℃でR‐1234yfの燃焼性を調べたところ、それが温度にかなり感受性であることをみつけた。
【0101】
R‐1234yfの燃焼性は、図3および4で示されているように、不活性二酸化炭素COを用いて抑制される。23℃において、少なくとも52%v/vCOを有するR‐1234yfおよびCOの混合物は不燃性であることがわかった。(図4で示されているように)60℃では対照的に、R‐1234yf/COの混合物を不燃性にするために要するCOの最少量は66%v/vである。燃料/空気/希釈物組成物の三角地図における可燃領域の面積は、23℃の場合から実質的に増加していたこともわかる。
【0102】
我々はR‐134aをR‐1234yfへ加える効果についても調べた。結果が図5および6で示されている。23℃では、少なくとも30%v/vのR‐134aと混合されると、R‐1234yfは不燃性化しうる。60℃では、少なくとも48%v/vのR‐134aと混合されると、R‐1234yfは不燃性化しうる。更に、可燃領域の大きさはCOで観察される場合と比べてかなり減少している。
【0103】
図6は、60℃におけるR‐1234yf/R‐134a/空気の混合物に関して重要な下記データについて表している:
空気中R‐1234yfの可燃下限:6%v/v
空気中R‐1234yfの可燃上限:15%v/v
不燃性R‐1234yf/R‐134a混合物の最小R‐134a含有率:45%v/v(42w/w):この混合物は600のGWPを有している。
【0104】
混合された冷媒がASHRAE燃焼性評価で不燃性として通るためには、分別分析が行われて、冷媒の製造時に作られる最悪例処方とこの混合物の取扱いから生じうる最悪例分別化組成物との双方に関する燃焼性が評価されねばならない。最悪例分別化組成物の評価に関する試験温度は60℃であり、最悪例処方の評価に関する場合は100℃である。更なる詳細は、参照によりここに組み込まれる、ASHRAE標準34‐2007のAppendix Bでみられる。
【0105】
R‐1234yfとR‐134aとの蒸気液体平衡挙動を静的平衡セル装置で一連の二元組成物の蒸気圧の測定により調べた。これは、恒温浴に入れられ、既知量のR‐1234yfおよびR‐134aで満たされた、正確に知られた体積の攪拌サンプルセルからなっていた。該流体の混合物の蒸気圧をある温度範囲にわたり測定し、次いで参照によりここに組み込まれるThe Properties of Gases and Liquids 4th edition(Reid,RC;Prausnitz,JM;Poling,BE pub.McGraw Hill 1986)で概述されているようなBarker法を用いて、これらのデータを適切な熱力学モデルへ回帰した。
【0106】
該システムは、約−29.4℃の共沸標準沸点で、組成が1気圧のとき約15%v/v(13.7%w/w)R‐134aである最低沸騰共沸物を形成することがわかった。この実験で得られたデータを蒸気液体平衡モデルに当てはめ、観察されたデータを復元しうるこのモデルの能力を回帰により証明した。該モデルは、液相逃散能を表す上でWilson式、および蒸気相逃散能を上で状態のRedlich Kwong式に準拠していた。次いでR‐1234yf/R‐134a混合物の挙動を試験するためにこの熱力学モデルを用いた。
【0107】
1気圧で共沸物含有率より高い割合のR‐134aを含有している混合物は、非共沸であり、蒸気と液体で組成差を示すことがわかった。R‐134aの液体組成が40%v/v付近にあるならば、蒸気相の組成は液相と比べてR‐1234yfに富んでいる。これは、いかなる評価における最悪例分別化組成も特定の液体組成と平衡状態にある蒸気であることを意味している。60℃で不燃性試験に通るためには、この蒸気組成は少なくとも45%v/v R‐134aでなければならない。ASHRAE標準34 Appendix Bは、混合物の大気沸点より10ケルビン度高い温度で組成が調べられる、と規定している。これは、45%v/v R‐134a混合物で−19℃の温度に相当する。
【0108】
蒸気相中45%v/v R‐134a組成物と平衡状態にある液体組成物は、−19℃において約47%v/vまたは44%w/wである。したがって、R‐1234yf/R‐134a二元混合物がASHRAE燃焼性評価で確実に通るためには、少なくとも44%w/w R‐134aの組成物が要求されると予想される。各々4および1430のR‐1234yfおよびR‐134aに関する第四次評価報告書(AR4)GWP値に基づくと、このような44%R‐134a混合物のGWPは631である。
【0109】
燃料としてR‐1234yfを用いる、先に図6で示された実験を、体積割合12:88でR‐32とR‐1234yfとの二元燃料混合物について、60℃で繰り返した。結果が図7で示されている。R‐32も可燃性である:空気中におけるその可燃下限および上限は各々14%および30%である;空気中におけるその火炎速度は約7cm/sである;その最小点火エネルギーは30〜100ミリジュールである。それはR‐1234yfより幾つかの点で可燃性であると考えられ、空気中におけるその火炎速度は2cm/s未満であり、その最小点火エネルギーは500ミリジュールより大きい。
【0110】
この場合に、体積割合12:88でR‐32/R‐1234yfからなる二元燃料混合物の重要な性質は、以下であることがわかった:
空気中における燃料の可燃下限7.5%v/v
燃料の可燃上限15%v/v
不燃性混合物を得るために燃料へ加えられるべきR‐134aの最小含有率:34%v/v(33w/w)
【0111】
R‐1234yf/R‐32/R‐134a三元混合物の場合で、(i)R‐134aと混合されたときにおけるこの燃料の可燃領域がR‐1234yf/R‐134a二元混合物の可燃領域より小さく、(ii)空気中の可燃下限がR‐1234yf/R‐134a二元混合物の場合よりかなり高く、および(iii)不燃性混合物を作るために要するR‐134aの量がR‐1234yf/R‐134a二元混合物の場合より少ないことは、図7を図6と比べることにより明らかである。
【0112】
体積(モル)基準で割合12:88にあるR‐32およびR‐1234yfの二元混合物の場合、不燃性組成物を得るための最小R‐134a含有率は60℃で34%v/vであることがわかった。これは重量基準で4%R‐32、33%R‐134aおよび63%R‐1234yfの三元組成物に相当する。意外にも、R‐32およびR‐1234yfの混合物を不燃性にするためにそれに加える必要があるR‐134aの量(33%w/w)は、火炎速度および点火エネルギーに基づきR‐32成分がR‐1234yfより可燃性と考えられるとしても、純粋R‐1234yfに必要とされる場合(42〜44%w/w)よりもかなり少ない。
【0113】
R‐32で675およびR‐134aで1430のAR4データを用いた4%R‐32、33%R‐134aおよび63%R‐1234yf(w/w)の三元組成物のGWPは、501である。4%R‐32、34%R‐134aおよび62%R‐1234yf(w/w)の類似三元組成物は、516のGWPを有する。このように、(低いGWPのように)改善された環境影響を有する不燃性処方を得ることは、R‐32をR‐1234yf/R‐134a系へ加えることにより可能である。
【0114】
空調性能
本発明の選択された組成物の性能を蒸気圧縮サイクルの理論的モデルで評価した。該モデルでは、流体の関連熱力学的性質を計算するために、各成分の理想ガスエンタルピーの相関と一緒に、混合物の蒸気圧および蒸気液体平衡挙動に関して実験で測定されたデータを用いて、状態のPeng Robinson方程式へ回帰した。該モデルをThe Mathworks Ltd.により英国で発売されたMatlabソフトウェアパッケージで実施した。R‐32およびR‐134aの理想ガスエンタルピーは、パブリックドメイン計測情報、即ちソフトウェアパッケージ REFPROP v8.0で例示されているようなNIST Fluid Properties Databaseから求めた。R‐1234yfの理想ガス熱容量をある温度範囲にわたり実験で求めた。
【0115】
これらの計算は、下記条件を用いて、(例えば)INEOS Fluor“KleaCalc”ソフトウェア(当業者に知られている冷却および空調システムの性能を予測するために有用な他のモデルも用いてよい)で用いられているような標準アプローチに従い行った:
平均蒸発温度: 0℃
平均凝縮温度: 60℃
凝縮器過冷: 5K
蒸発器過熱: 5K
圧縮器等エントロピー効率: 67%
冷却力: 6kW
吸引ライン管直径: 16.2mm
【0116】
計算上、蒸発器および凝縮器の圧力降下は無視しうると仮定した。
【0117】
結果が下記表で示されており、そこで組成は重量基準で掲載されている。
【表3】

【0118】
不燃性二元R‐1234yf/R‐134aはR‐1234yfと比べて改善された性能を呈する。漏出で失われる冷媒に置き換えて既存の系中へ混ぜれば、性能はR‐134aの場合に近いままで留まるであろう。
【0119】
不燃性三元R‐32/R‐1234yf/R‐134a組成物はこれら組成物のR‐134aに最も近い組合せであり、不燃性二元R‐1234yf/R‐134a混合物と比べて改善されたエネルギー効率、低い圧力降下および低いGWPを呈する。これは、LCCP分析で評価してみると、全体的環境影響が系へR‐32の添加により減ることを意味している。
【0120】
ここで規定されたR‐1234yf/R‐134aまたはR‐32/R‐1234yf/R‐134aの不燃性組成物は、R‐1234yfと比べて、標準PAG潤滑剤との改善された混和性を示す。
【0121】
更に、それらの熱力学的性質はR‐1234yfと比べて改善され、R‐134aに十分近いため、それらはR‐134a向けに設計されたシステムで空調性能上わずかな損失のみで用いられる。したがって、それらは可燃性R‐1234yfと対照的にほんのわずかなシステム変更でR‐134a向けに設計されたテクノロジーで用いられる。
【0122】
本発明は下記請求項で規定されている。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】23℃におけるR‐152a/R‐134a/空気の燃焼性図。
【図2】100℃におけるR‐152a/R‐1225ye(Z)/空気の燃焼性図。
【図3】23℃におけるR‐1234yf/CO/空気混合物の燃焼性図。
【図4】60℃におけるR‐1234yf/CO/空気混合物の燃焼性図。
【図5】23℃におけるR‐1234yf/R‐134a/空気混合物の燃焼性図。
【図6】60℃におけるR‐1234yf/R‐134a/空気混合物の燃焼性図。
【図7】60℃におけるR‐134a含有R‐32/R‐1234yf燃料(12:88v/v)の燃焼性図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
R‐1234yf、R‐134aおよびジフルオロメタン(R‐32)から実質的になる熱伝達組成物。
【請求項2】
(i)約20〜約90重量%R‐1234yf、
(ii)約10〜約60重量%R‐134a、および
(iii) 約1〜約20重量%R‐32、
を含んでなる、所望により、から実質的になる熱伝達組成物。
【請求項3】
R‐1234yfが約40〜約80重量%の量で存在し、および/または
R‐134aが約20〜約50重量%の量で存在し、および/または
R‐32が約1〜約10重量%の量で存在している、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
R‐1234yfが約55〜約70重量%の量で存在し、および/または
R‐134aが約25〜約40重量%の量で存在し、および/または
R‐32が約2〜約10重量%の量で存在している、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
(i)約45〜約75重量%2,3,3,3‐テトラフルオロプロペン(R‐1234yf)、および
(ii)約25〜約55重量%1,1,1,2‐テトラフルオロエタン(R‐134a)、
を含んでなる熱伝達組成物。
【請求項6】
R‐1234yfおよびR‐134aから実質的になる、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
R‐1234yfが約45〜約60重量%の量で存在し、および/または
R‐134aが約40〜約55重量%の量で存在している、請求項5または6に記載の組成物。
【請求項8】
R‐1234yfが約50〜約60重量%の量で存在し、および/または
R‐134aが約40〜約50重量%の量で存在している、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
R‐1234yfが約54〜約58重量%の量で存在し、および/または
R‐134aが約42〜約46重量%の量で存在している、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
組成物が、1000未満、好ましくは900、800、700、600または500未満のGWPを有している、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
温度勾配が約15k未満、好ましくは約10k未満である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
組成物が、置き換えようと意図される既存の冷媒の約15%以内、好ましくは約10%以内の体積冷却能力を有している、請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
組成物がR‐1234yf単独よりも可燃性が低い、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
組成物が、R‐1234yf単独と比べて、
(a)高い可燃限界、
(b)高い点火エネルギー、および/または
(c)低い火炎速度、
を有している、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
不燃性である、請求項13または14に記載の組成物。
【請求項16】
組成物が、置き換えようと意図される既存の冷媒の約10%以内のサイクル効率を有している、請求項1〜15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
組成物が、置き換えようと意図される既存の冷媒の約15k以内、好ましくは約10k以内の圧縮器吐出温度を有している、請求項1〜16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
潤滑剤を更に含んでなる、請求項1〜17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
潤滑剤が、鉱油、シリコーン油、ポリアルキルベンゼン類(PABs)、ポリオールエステル類(POEs)、ポリアルキレングリコール類(PAGs)、ポリアルキレングリコールエステル類(PAGエステル)、ポリビニルエーテル類(PVEs)、ポリ(アルファ‐オレフィン類)およびそれらの組合せから選択される、請求項24に記載の組成物。
【請求項20】
安定剤を更に含んでなる、請求項1〜19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
安定剤が、ジエン系化合物類、ホスフェート類、フェノール化合物類およびエポキシド類とそれらの混合物から選択される、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
追加の難燃剤を更に含んでなる、請求項1〜21のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項23】
追加の難燃剤が、トリ(2‐クロロエチル)ホスフェート、(クロロプロピル)ホスフェート、トリ(2,3‐ジブロモプロピル)ホスフェート、トリ(1,3‐ジクロロプロピル)ホスフェート、リン酸二アンモニウム、様々なハロゲン化芳香族化合物、酸化アンチモン、アルミニウム三水和物、ポリ塩化ビニル、フッ素化ヨードカーボン、フッ素化ブロモカーボン、トリフルオロヨードメタン、ペルフルオロアルキルアミン類、ブロモ‐フルオロアルキルアミン類およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
冷媒組成物である、請求項1〜23のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項25】
請求項1〜24のいずれか一項に記載の組成物を含有している、熱伝達装置。
【請求項26】
熱伝達装置における、請求項1〜24のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項27】
冷却装置である、請求項25または26に記載の熱伝達装置。
【請求項28】
自動車空調システム、住宅用空調システム、業務用空調システム、住宅用冷蔵庫システム、住宅用冷凍庫システム、業務用冷蔵庫システム、業務用冷凍庫システム、冷却機空調システム、冷却機冷却システムと、業務用または住宅用ヒートポンプシステムからなる群より選択される、請求項27に記載の熱伝達装置。
【請求項29】
圧縮器を内蔵している、請求項27または28に記載の熱伝達装置。
【請求項30】
請求項1〜24のいずれか一項に記載の組成物を含んでなる、発泡剤。
【請求項31】
発泡体を形成可能な1種以上の成分と請求項1〜24のいずれか一項に記載の組成物とを含んでなる発泡性組成物であって、発泡体を形成可能な1種以上の成分が、ポリウレタン類、熱可塑性ポリマーおよび樹脂、例えばポリスチレン、およびエポキシ樹脂、ならびにそれらの混合物から選択される、発泡性組成物。
【請求項32】
請求項31の発泡性組成物から得られうる、発泡体。
【請求項33】
請求項1〜24のいずれか一項に記載の組成物を含んでなる、請求項32に記載の発泡体。
【請求項34】
スプレーされるべき物質と、請求項1〜24のいずれか一項に記載の組成物を含んでなる噴射剤とを含んでなる、スプレー用組成物。
【請求項35】
請求項1〜24のいずれか一項に記載の組成物を凝縮させた後、冷却されるべき物品の近くで該組成物を蒸発させることを含んでなる、物品を冷却する方法。
【請求項36】
加熱されるべき物品の近くで請求項1〜24のいずれか一項に記載の組成物を凝縮させ後、該組成物を蒸発させることを含んでなる、物品を加熱する方法。
【請求項37】
請求項1〜24のいずれか一項に記載の組成物を含んでなる溶媒とバイオマスを接触させ、該溶媒から物質を分離することを含んでなる、バイオマスから物質を抽出する方法。
【請求項38】
請求項1〜24のいずれか一項に記載の組成物を含んでなる溶媒と物品を接触させることを含んでなる、物品を清浄化する方法。
【請求項39】
請求項1〜24のいずれか一項に記載の組成物を含んでなる溶媒と水溶液を接触させ、該溶媒から物質を分離することを含んでなる、水溶液から物質を抽出する方法。
【請求項40】
請求項1〜24のいずれか一項に記載の組成物を含んでなる溶媒と粒状固体マトリックスを接触させ、該溶媒から物質を分離することを含んでなる、粒状固体マトリックスから物質を抽出する方法。
【請求項41】
請求項1〜24のいずれか一項に記載の組成物を含有している、機械的動力発生装置。
【請求項42】
ランキンサイクルまたはその変法を用いて熱から動力を発生するように構成されている、請求項41に記載の機械的動力発生装置。
【請求項43】
既存の熱伝達流体を除去して、請求項1〜24のいずれか一項に記載の組成物を導入する工程を含んでなる、熱伝達装置を改修する方法。
【請求項44】
熱伝達装置が冷却装置である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
熱伝達装置が空調システムである、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
既存の化合物または組成物を含んでなる製品の取扱いから生じる環境影響を減らす方法であって、既存の化合物または組成物を請求項1〜24のいずれか一項に記載の組成物で少なくとも部分的に置き換えることを含んでなる、方法。
【請求項47】
請求項1〜24のいずれか一項に記載の組成物、および/または請求項25または27〜29のいずれか一項に記載の熱伝達装置を製造する方法であって、R‐1234yf、および所望によりR‐32、および所望により潤滑剤、安定剤および/または追加の難燃剤を、R‐134aである既存の熱伝達流体を含有した熱伝達装置へ導入することを含んでなる、方法。
【請求項48】
R‐1234yf、および所望によりR‐32、および所望により潤滑剤、安定剤および/または追加の難燃剤を導入する前に、既存のR‐134aの少なくとも一部を熱伝達装置から除去する工程を含んでなる、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
(i)既存の化合物または組成物を請求項1〜24のいずれか一項に記載の組成物で置き換えが、その際、請求項1〜24のいずれか一項に記載の組成物は既存の化合物または組成物より低いGWPを有していること、および(ii)該置換え工程で温室効果ガス排出権を得ることを含んでなる、温室効果ガス排出権を生み出す方法。
【請求項50】
本発明の組成物の使用が、既存の化合物または組成物の使用により達成される場合よりも低い総等価温暖化影響および/または低いライフサイクル炭素排出量をもたらす、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
空調、冷却、熱伝達、発泡剤、エアロゾルまたはスプレー用噴射剤、気体誘電体、凍結手術、獣医処置、歯科処置、消火、火炎抑制、溶媒、クリーナー、エアホーン、ペレットガン、局所麻酔剤および膨張用途の分野からの製品で行われる、請求項49または50に記載の方法。
【請求項52】
製品が熱伝達装置、発泡剤、発泡性組成物、スプレー用組成物、溶媒または機械的動力発生装置から選択される、請求項48または51に記載の方法。
【請求項53】
製品が熱伝達装置である、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
既存の化合物または組成物が熱伝達組成物である、請求項48〜53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
熱伝達組成物が、R‐134a、R‐1234yfおよびR‐152a、R‐22、R‐410A、R‐407A、R‐407B、R‐407C、R‐507およびR‐404a、好ましくはR‐134aから選択される冷媒である、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
所望により実施例を参照しつつ、実質的にここまでに記載されているような、あらゆる新規の熱伝達組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−503230(P2013−503230A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526107(P2012−526107)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【国際出願番号】PCT/GB2010/000775
【国際公開番号】WO2011/023923
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(510127697)メキシケム、アマンコ、ホールディング、ソシエダッド、アノニマ、デ、カピタル、バリアブレ (24)
【氏名又は名称原語表記】MEXICHEM AMANCO HOLDING S.A. DE C.V.
【Fターム(参考)】