説明

熱傷外傷の治療のためのVIIa因子の使用

本発明は、VIIa因子またはVIIa因子均等物の、熱傷外傷を治療するための医薬の製造における使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、熱傷外傷の急性期治療(acute treatment)のための方法に関し、これには熱傷を負った外傷患者における後期合併症(late complications)の予防又は重症度の最小化が含まれる。
【0002】
[発明の背景]
止血(Haemostasis)は、最終的には出血の停止に至る、複雑な生理学的なプロセスである。これは、3つの主成分の適切な機能に依存する、つまり:血管(特に、内皮ライニング)、凝固因子、および血小板である。一度、止血栓(haemostatic plug)が形成されると、線溶系のタイムリーな活性化が更なる不必要な止血活性を予防するために同等に重要である。この系の任意の機能不全(止血成分の数の減少又は分子的な機能異常またはフィブリン溶解成分の活性化の増加による)は、例えば、様々な重症度の出血素因(haemorrhagic diathesis)などの臨床的な出血を誘発しえる。
【0003】
最も生理学的な状況において、止血は、循環している活性化された凝固因子VII(FVIIa)と組織因子(TF)との相互作用、引続く傷害の部位でのTFの暴露によって惹起される。内在性のFVIIaは、TFと複合体を形成した後にのみタンパク質分解性に活性となる。通常、TFは、管壁の深層で発現し、傷害(injury)に続いて発現される。これによって凝固の高度に局所的な活性化が保証され、播種性凝固(disseminated coagulation)が予防される。また、TFは、非活性型(いわゆる暗号化TF)で存在するように思われる。暗号化(encrypted) 対 活性のTFの制御は、未だ知られていない。
【0004】
活性化された組換え型ヒトVII因子(rFVIIa)は、血友病AまたはBの被験者における出血発症(bleeding episodes)の、VIII因子またはIX因子に対するインヒビターを伴った治療に指摘されている。高い(薬理学的な)用量で与えられる場合、rFVIIaはTFと独立に活性型血小板と結合することができ、最初の止血栓の形成に重要である局所的なトロンビン産生を開始する。
【0005】
熱傷外傷(burn trauma)を被っている患者は、しばしば手術を必要とし及び/又は微小血管性の及び他の出血を経験する。
【0006】
このようなことから当該技術において、熱傷外傷の急性治療に対する、同様に熱傷外傷から生じる後期合併症の予防(prevention)および減弱(attenuation)に関して、改善された方法および組成物の必要性がある。
【0007】
[発明の概要]
本発明は、熱傷外傷の治療のための医薬を製造するための、VIIa因子またはVIIa因子均等物の使用を提供する。前記医薬が使用される典型的な患者は、凝固疾患性出血(coagulopathic bleedings)を罹患している患者を含むが、これらに限定されない広範な熱傷外傷を経験した患者である。
【0008】
また、本発明は熱傷外傷を治療するための方法を提供し、該方法は、患者に前記の予防または減弱化に効果的な量のVIIa因子またはVIIa因子均等物を投与することによって実施される。熱傷外傷を経験している典型的な患者は、5%以上のTBSA(例えば、10以上のTBSA)の組織の摘出などの組織の摘出を必要とする。また、典型的な患者は、微小血管の出血を経験する。
【0009】
熱傷創(burn wounds)の摘出は、しばしば多量の失血と関連し、同種(allogeneic)の血液輸血を必要とする。従って、幾つかの態様において、VIIa因子またはVIIa因子均等物の投与は、摘出および皮膚移植を経験している熱傷患者に必要とされる血液輸血を減少させる。
【0010】
幾つかの態様において、最初の投与工程は、外傷性の熱傷の発生の5時間内に実行される。幾つかの態様において、最初の投与工程は、摘出手術の開始直前に実行される。幾つかの態様において、投与工程は、摘出手術後(例えば、60分後に繰り返して)に実行される。幾つかの態様において、前記効果的な量は、少なくとも約40μg/kg(例えば、少なくとも約80μg/kg)のVIIa因子又は相当する量(a corresponding amount)のVIIa因子均等物を含む。幾つかの態様において、前記効果的な量は、少なくとも約100μg/kgのVIIa因子又は相当する量のVIIa因子均等物を含む。幾つかの態様において、第1の量の少なくとも約40μg/kg(例えば、少なくとも約80μg/kg)のVIIa因子又は相当する量のVIIa因子均等物は治療の開始時に投与され、第2の量の少なくとも約40μg/kg(例えば、少なくとも約80μg/kg)のVIIa因子又は相当する量のVIIa因子均等物は患者に治療の開始の1時間以上後に投与される。幾つかの態様において、第3の量の少なくとも約40μg/kg(例えば、少なくとも約80μg/kg)のVIIa因子又は相当するVIIa因子均等物は、より後の時間(例えば、第2の治療の開始の少なくとも約1時間後)に投与される。
【0011】
幾つかの態様において、前記方法は、更に前記患者に前記VIIa因子またはVIIa因子均等物による治療を増大(augments)させる量の第2の凝固剤を投与することを備える。好ましくは、前記第2の凝固剤は、凝固因子(V因子、VIII因子、IX因子、X因子、XI因子、XIII因子、フィブリノーゲン、トロンビン、TAFIを含むが、これらに限定されない);抗フィブリン溶解剤(antifibrinolytics)、例えば、PAI-1、アプロチニン、イプシロン-アミノカプロン酸またはトラネキサム酸、様々な抗血栓治療、同様に血小板、RBC、FFP、酸素運搬体(oxygen carriers)での輸血、様々なバイパスする因子(the various bypassing agents)および流体療法(コロイド/クリスタロイド)、又はその任意の組合わせである。
【0012】
また、本発明は、熱傷外傷を治療するためのパーツのキットを提供し、該キットは以下を具備する、
(i)VIIa因子またはVIIa因子均等物を含む医薬;および
(ii)以下に記す事項を記載している使用のための説明書:
a. 少なくとも約40μg/kg(例えば、少なくとも約80、例えば、少なくとも約100μg/kg)のVIIa因子又は相当する量のVIIa因子均等物を含有している第1の用量は、治療の開始時に投与すべきこと;
b. 少なくとも約40μg/kg(例えば、少なくとも約80μg/kg)のVIIa因子又は相当する量のVIIa因子均等物を含有している第2の用量は、治療の開始の1から24時間後に投与すべきこと。
【0013】
また、本発明は、熱傷外傷患者における熱傷外傷を治療する方法を提供し、これは以下により実施される:
(i)熱傷外傷患者の群(a group)に、VIIa因子またはVIIa因子均等物の治療に効果的な量を投与すること;および
(ii)VIIa因子またはVIIa因子均等物を受けた患者の前記群での熱傷外傷の後期合併症における減少を、該VIIa因子またはVIIa因子均等物を受けなかった患者の同群において予期されるであろう該後期合併症の発生頻度と比較して観察すること。
【0014】
[発明の詳細な記述]
重篤な熱傷傷害(burn injury)は、炎症反応、細胞免疫応答の抑制、および止血系の妨害を誘導する。これらの病理学的な変化は、傷害後の最初の週の間に最も顕著であり、手術によってさらに増強されえる。
【0015】
典型的には、熱傷外傷を経験している患者は組織の摘出を必要とし、および/または、微小血管出血(microvascular bleedings)を経験する。該出血は、即ち、漏出性出血(oozing bleedings)であり、例えば、粘膜表面からの漏出性連続性出血(oozing continuous bleedings)である。
【0016】
通常、熱傷創の摘出は、消費性凝固障害(consumption coagulopathy)、血液希釈(haemodilution)、および使用した外科技術に起因する大量の失血と関連し、同種間輸血を必要とする。輸血は、幾つかの感染性及び非感染性の合併症と関連する。さらにまた、熱傷患者において、同種間血液の輸血は、細胞免疫応答をさらに抑制する可能性があり、感染性の罹病率(morbidity)の増加を生じる。
【0017】
第1側面において、本発明は、熱傷外傷を治療する医薬の製造のための、VIIa因子またはVIIa因子均等物の使用に関する。
【0018】
第2側面において、本発明は、以下を具備する、熱傷外傷の治療のためのパーツのキット(a kit of parts)に関する
(i)VIIa因子またはVIIa因子均等物を含む医薬;および
(ii)以下に記す事項を記載している使用のための説明書:
a. 少なくとも約40μg/kg(例えば、少なくとも約80、例えば、少なくとも約100μg/kg)のVIIa因子又は相当する量のVIIa因子均等物を含有している第1の用量は、治療の開始時に投与すべきこと;
b. 少なくとも約40μg/kg(例えば、少なくとも約80μg/kg)のVIIa因子又は相当する量のVIIa因子均等物を含有している第2の用量は、治療の開始の1から24時間後に投与すべきこと。
【0019】
第3側面において、本発明は熱傷外傷を治療するための方法に関し、該方法は、該治療を必要とする患者に該治療に効果的な量のVIIa因子またはVIIa因子均等物を投与することを備える。
【0020】
第3側面において、本発明は熱傷外傷を治療するための方法に関し、該方法は、該治療を必要とする患者に、該治療に効果的な量のVIIa因子またはVIIa因子均等物を、熱傷外傷を治療する目的で意図的(intentionally)に投与することを備える。
【0021】
更なる側面において、本発明は、熱傷外傷患者における熱傷外傷を治療するための方法に関し、該方法は以下を備える、
(i)熱傷外傷患者の群に、VIIa因子またはVIIa因子均等物の前記治療に効果的な量を投与すること;および
(ii)前記群の患者間での熱傷外傷の1以上の臨床パラメータの減少を、前記VIIa因子またはVIIa因子均等物を受けなかった患者の同群で予期されるであろう前記臨床パラメータのレベルと比較して観察すること。
【0022】
更なる側面において、本発明は、微小血管出血の量を減少させる方法に関し、該方法は、該治療を必要とする患者に該治療に効果的な量のVIIa因子またはVIIa因子均等物を投与することを備える。
【0023】
更なる側面において、本発明は、移植片生存の公算(likelihood)を増加させる方法に関し、該方法は、該治療を必要とする患者に該治療に効果的な量のVIIa因子またはVIIa因子均等物を投与することを備える。
【0024】
更なる側面において、本発明は、移植片生存の時間を増加させる方法に関し、該方法は、該治療を必要とする患者に該治療に効果的な量のVIIa因子またはVIIa因子均等物を投与することを備える。
【0025】
更なる側面において、本発明は、手術誘導性の組織傷害(surgery-induced tissue injury)に対する免疫反応を減少させる又は変調させる(modulating)方法に関し、該方法は、該治療を必要とする患者に該治療に効果的な量のVIIa因子またはVIIa因子均等物を投与することを備える。
【0026】
本発明の1側面は、VIIa因子またはVIIa因子均等物の、摘出および皮膚移植を経験している熱傷患者に要求される、手術中(perioperative)の輸血における使用に関する。一系列の態様において、本発明による患者の治療は、10%、例えば20%、例えば40%、例えば60%、例えば80%、例えば100%まで手術中(perioperative)の輸血要求性における減少を生じる。
【0027】
熱傷創摘出および皮膚移植術は、重篤な熱傷傷害を有する患者に対する治療に標準的なものである。初期の熱傷傷害後の手術に関する至適時期(optimal timing)は、議論の余地がある問題であるが、大抵は傷害後48時間以内の手術の実施に集中しており、多段階のアプローチが望ましい。しかしながら、炎症性サイトカインのレベルは傷害の直後に最大であり、熱傷傷害は止血系における複雑な変化および過凝固状態の誘発を生じるので、皮膚摘出および皮膚移植は好ましくは熱傷の4日後以後に行われる。このアプローチによって、患者は初期の蘇生段階後に血行動態的に安定となることが許容される;それゆえに摘出および移植は、摘出および移植される創傷(wound)のサイズにかかわらず一段階の手術で行うことができる。
【0028】
外科的な摘出および移植術は、過剰な手術中の出血と関連する。出血の原因は、消費性凝固障害、血液希釈、および使用した外科技術を含む多因子性のものである。同種間輸血は、摘出および皮膚移植術を経験している患者に頻繁に必要とされている。しかし、同種間血液の免疫調節効果は、手術後の転帰(outcome)を悪化させる可能性がある。
【0029】
総体表面領域(TBSA;total body surface area)の広範な熱傷外傷(>10 %)を有する患者において、凝固障害が頻繁に認められる。これは次の事項の双方によって誘導される;つまり、熱傷外傷の部位での大規模な炎症反応によって同様にダメージをうけた組織の摘出および頻繁に適用される新たな組織の移植に関する後の手術によってである。最初に、摘出の間に、患者は、傷害部位での壊死性凝固活性組織(necrotic coagulation active tissue)における、凝固因子の希釈に及び凝固因子の消費に起因する出血傾向を有する。
【0030】
熱傷外傷の部位でのダメージをうけた又は壊死性の組織の摘出に関する時間は、外傷後1日から14日で変動する。幾人かの患者(通常は非常に広範な熱傷を有する)では、セプシスおよび炎症を発症する可能性がある(このような状況では、通常は外傷後4〜5日での早期の摘出が必要とされるだろう)。出血の増加は、早期の摘出で予期される。
【0031】
本発明は、重篤な熱傷患者(10%以上のTBSAの組織の摘出を必要とする)に特に適切である。というのも次の(i)から(iiii)に記す事項を有するからである、(i)手術前後の十分な輸液の必要性、(ii)出血の重症度は、患者の罹病率および最終的な死亡率に関連する、(iii)前記患者は微小血管出血を発症するリスクが高く、このことはさらに輸液の要求性を増加させ、罹病率および死亡率にネガティブに影響する、および/または(iiii)前記患者は、外科技術を必要とし、これによって大規模な内皮下TF(sub endothelial TF)が誘導される;これによって高リスクの患者集団をも生じ、播種性のTF発現が豊富となる。
【0032】
本発明は、熱傷外傷患者の治療に効果的に使用することができる方法および組成物を提供する。前記方法は、熱傷外傷患者にVIIa因子またはVIIa因子均等物を、治療に効果的な様式で投与することによって実行される。治療に効果的な様式には、既定量(a predetermined amount)のVIIa因子またはVIIa因子均等物を投与すること、および/または特定の投与計画(dosage regimen)、製剤(formulation)、投与の方式(mode of administration)、他の治療との組合せ、などを利用することが含まれえる。熱傷外傷を治療することにおける本発明の方法の有効性は、傷害および/または後期合併症の直接の結果の1以上の慣習的に使用されるパラメータを用いて評価されえる。直接の結果(Immediate consequence)には、例えば、失血(blood loss)およびショックの症状が含まれる。他方で、後期合併症には、限定されることなく、次のもの即ち、肺塞栓症(PE)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、播種性血管内血液凝固(DIC)、急性心筋梗塞(AMI)、脳血栓症(CT)、全身性炎症反応症候群(SIRS)、感染、セプシス、多臓器不全(MOF)、および急性肺障害(ALI)、1以上のこれらの症候群が原因の死が含まれる。
【0033】
幾つかの側面において、本発明は傷害および/または後期合併症の直接の結果のリスクを減少させる方法に関し、該方法は、該治療を必要とする患者に該治療に効果的な量のVIIa因子またはVIIa因子均等物を投与することを備える。一態様において、本発明は、1以上の次の症候群が原因の死を含む、肺塞栓症(PE)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、播種性血管内血液凝固(DIC)、急性心筋梗塞(AMI)、脳血栓症(CT)、全身性炎症反応症候群(SIRS)、感染、セプシス、多臓器不全(MOF)、および急性肺障害(ALI)からなるリストから選択される傷害および/または後期合併症の直接の結果のリスクを減少させる方法に関し、該方法は、該治療を必要とする患者に該治療に効果的な量のVIIa因子またはVIIa因子均等物を投与することを備える。一態様において、後期合併症は、多臓器不全(MOF;Multiple Organ Failure)である。一態様において、後期合併症は、急性呼吸障害(ARDS;Acute Respiratory Distress Syndrome)である。一態様において、後期合併症は、急性肺傷害(ALI;Acute Lung Injury)である。一態様において、後期合併症は、セプシス(sepsis)である。
【0034】
外傷における凝固障害は、多因子性であり、DICに似た凝固異常(凝固およびフィブリン溶解の全身性の活性化に起因する);過剰なフィブリン溶解〔これは幾人かの外傷被験者において初日に顕性(evident)である可能性がある〕;及び希釈性凝固障害(これは過剰な流体の投与に起因する)を包含する。幾つかの流体〔例えば、ヒドロキシエチルデンプン(HES)調製物〕によって、直接的に凝固が損なわれる可能性がある。大量輸血症候群(Massive transfusion syndrome)によって、凝固因子の枯渇および血小板機能の損傷を生じる。低体温(Hypothermia)は、凝固カスケードの緩慢な酵素活性および機能障害性の血小板の原因となる。また、代謝異常(例えば、アシドーシス)では、特に低体温と関連する場合に凝固が損なわれる。
【0035】
本発明による治療を必要とする患者の限定されることのない例には、以下に記す1以上を呈する患者が含まれる:
・ DICに似た凝固異常(凝固およびフィブリン溶解の全身性の活性化に起因する)
・ 過剰なフィブリン溶解(Excessive fibrinolysis)
・ 希釈性凝固障害(Dilutional coagulopathy);該障害は過剰な流体治療に起因し、これには限定されることなく、正常なプール血液(pooled blood)の血小板数および血小板活性と比較して、限定数の血小板および/または血小板機能の損傷が含まれる。
【0036】
・ ヒドロキシエチルスターチ(HES)調製物の受け取り
・ 低体温(体温約37゜C未満、例えば、約36゜C未満、約35゜C未満、または約34゜C未満などを有することが含まれる)
・ 代謝異常の少なくとも1つの次の徴候(限定されることなく、血液pH約7.5未満、例えば、約7.4未満、約7.3未満、約7.2未満、または約7.1未満を有しているアシドーシスが含まれる)。
【0037】
本発明の方法は、熱傷外傷を被った及び/又は熱傷を受けた組織の摘出が必要とされ、未治療の場合に顕著な失血〔例えば、患者の総血液量の10%を超える失血(40%を超える血液量の損失は、即時に生命を脅かせる事態である)〕が生じるだろう任意の患者に効果的に適用することができる。正常な血液量は、成体の理想的な体重の約7%および子供の理想的な体重の約8〜9%を表す。
【0038】
一系列の態様において、本発明により治療される患者は、10%以上のTBSAの組織の摘出を必要としている熱傷外傷を被っている患者である。別の系列の態様において、本発明により治療される患者は、15%以上のTBSAの組織の摘出を必要としている熱傷外傷を被っている患者である。別の系列の態様において、本発明により治療される患者は、20%以上のTBSAの組織の摘出を必要としている熱傷外傷を被っている患者である。別の系列の態様において、本発明により治療される患者は、25%以上のTBSAの組織の摘出を必要としている熱傷外傷を被っている患者である。別の系列の態様において、本発明により治療される患者は、30%以上のTBSAの組織の摘出を必要としている熱傷外傷を被っている患者である。別の系列の態様において、本発明により治療される患者は、微小血管出血を有する患者である。別の系列の態様において、組織の摘出を必要とし、本発明により治療される患者は、皮膚移植片の生存の延長を有する。本発明により治療される患者の移植片が、本発明による治療の非存在下よりも、より長期間を及び更なる介入なしで生存するだろうことを理解すべきである。従って、本発明による治療は、長期間の移植片維持および熱傷外傷患者における組織移植後に移植片拒絶がないか又はその程度が低くなる状態を提供する。
【0039】
一系列の態様において、本発明により治療される患者は、全血(WB;whole blood)、パック赤血球(pRBC;packed red blood cells)、または新鮮凍結血漿(FFP;fresh frozen plasma)での、例えば、約2ユニット、5ユニットを超える、又は約8ユニットを超える輸血を、彼らの外傷性の熱傷傷害の時間及びVIIa因子またはVIIa因子均等物の投与の時間の間に要求する患者である。典型的には、WBのユニットは、約450ml血液および63mlの従来の抗凝固剤/保存剤を含有する(36〜44%のヘマトクリットを有している)。典型的には、pRBCのユニットは、約200〜250ml赤血球、血漿、および従来の抗凝固剤/保存剤を含有する(70〜80%のヘマトクリットを有している)。一系列の態様において、本発明により治療される患者は、先天性であろうと後天性であろうと出血障害(例えば、血友病A、B、またはCなど)を被っていない。
【0040】
本発明の異なる態様において、患者が10ユニットを超えるPRBC(例えば、15、20、25、または30ユニットなどを超える)の輸血を受けている場合、又は患者が先天性の出血障害と診断されている場合、又は患者が気道傷害(inhalation injury)を有している場合、患者は治療から除外されてもよい。
【0041】
VIIa因子およびVIIa因子均等物:
本発明を実施するにあたって、熱傷外傷の治療に有効な任意のVIIa因子またはVIIa因子均等物を使用してもよい。一部の態様において、VIIa因子は、たとえば米国特許第4,784,950号(野生型VII因子)に開示されたとおりのヒトVIIa因子である。
【0042】
「VII因子(Factor VII)」の用語は、VII因子ポリペプチドの未切断(酵素前駆体)の形態、並びにタンパク質分解性にプロセスされてこれらのそれぞれの生理活性な形態に産生された、VIIa因子と称されるものを含むことが意図される。典型的には、VII因子は、残基152および153の間で切断されてVIIa因子を産出する。
【0043】
本明細書中に使用される、「野生型ヒトFVIIa(wild type human FVIIa)」は、米国特許第4,784,950号に開示されたアミノ酸配列を有しているポリペプチドである。
【0044】
VIIa因子均等物には、限定されることなく、ヒトVIIa因子と比較して化学的に修飾されている及び/又はヒトVIIa因子と比較して1以上のアミノ酸配列の変更を含んでいるVII因子ポリペプチドが含まれる。係る均等物は、ヒトVIIa因子と比較して、安定度、リン脂質結合(phospholipid binding)、変更された比活性などを含む異なる特性を呈してもよい。これには、野生型ヒトVIIa因子と比較して実質的に同じか又は改善された生物活性を呈している、FVIIバリアント(FVII variants)、VII因子関連ポリペプチド(Factor VII-related polypeptides)、VII因子誘導体およびVII因子抱合体(Factor VII conjugates)が含まれる。
【0045】
本明細書中に使用される「VII因子誘導体(Factor VII derivative)」の用語は、野生型VII因子と比べて実質的に同じか又は改善された生物活性を呈しているFVIIポリペプチドを意味することを意図しており、ここで親ペプチドの1以上のアミノ酸は、例えば、アルキル化、糖鎖形成、PEG化(PEGylation)、アシル化、エステル形成またはアミド形成などによって遺伝的および/または化学的および/または酵素的に修飾されている。これにはPEG化ヒトVIIa因子、システイン―PEG化ヒトVIIa因子及びそのバリアントが含まれるが、これらに限定されない。
【0046】
「改善された生物活性(improved biological activity)」の用語は、i)組換え型の野生型ヒトVIIa因子と比較して実質的に同じか又は増加したタンパク分解活性を有するFVIIポリペプチドを、又はii)組換え型の野生型ヒトVIIa因子と比較して実質的に同じか又は増加したTF結合活性を有するFVIIポリペプチドを、又はiii)組換え型の野生型ヒトVIIa因子と比較して実質的に同じか又は増加した血漿中の半減期を有するFVIIポリペプチドを意味する。「PEG化ヒトVIIa因子(PEGylated human Factor VIIa)」の用語は、ヒトVIIa因子ポリペプチドに結合されたPEG分子を有しているヒトVIIa因子を意味する。前記PEG分子は、VIIa因子ポリペプチドの任意のアミノ酸残基または炭水化物部分を含む、VIIa因子ポリペプチドの任意の部分に付着しえることが理解される。「システイン―PEG化ヒトVIIa因子(cysteine-PEGylated human Factor VIIa)」の用語は、ヒトVIIa因子に導入されたシステインのスルフヒドリル基に結合させたPEG分子を有しているVIIa因子を意味する。
【0047】
一系列の態様において、VIIa因子均等物は、少なくとも約10%、好ましくは少なくとも約30%、より好ましくは少なくとも約50%、および最も好ましくは少なくとも約70%のヒトVIIa因子の生物比活性(specific biological activity)を示すポリペプチドを含む。本発明の目的のために、VIIa因子の生物活性は、たとえば米国特許第5,997,864号に記載されているとおり、VII因子が欠乏した血漿およびトロンボプラスチンを用いて、調製物が血液凝固を促進する能力を測定することによって定量してもよい。このアッセイ法において、生物活性は、コントロールサンプルと比較した凝固時間の減少として表され、1単位/mlのVII因子活性を含むプールされたヒト血清標準と比べることにより「VII因子単位(Factor VII units)」に換算される。代わりに、VIIa因子の生物活性は、(i)脂質膜に包埋(embedded)されたTFおよびX因子を含む系において、VIIa因子またはVIIa因子均等物がXa因子を産生する能力を測定すること(Persson et al., J. Biol. Chem. 272:19919-19924, 1997);(ii)水性系におけるX因子の加水分解を測定すること(以下の例5を参照されたい);(iii)表面プラスモン共鳴に基づいた機器を使用して、VIIa因子またはVIIa因子均等物のTFに対する物理的な結合を測定すること(Persson, FEBS Letts. 413:359-363, 1997);および(iv)合成基質(synthetic substrate)のVIIa因子および/またはVIIa因子均等物による加水分解を測定することによって定量してもよい。
【0048】
VII因子均等物の例には、限定されることなく、以下のものが含まれる、即ち、野生型VIIa因子, L305V-FVII, L305V/M306D/D309S-FVII, L305I-FVII, L305T-FVII, F374P-FVII, V158T/M298Q-FVII, V158D/E296V/M298Q-FVII, K337A-FVII, M298Q-FVII, V158D/M298Q-FVII, L305V/K337A-FVII, V158D/E296V/M298Q/L305V-FVII, V158D/E296V/M298Q/K337A-FVII, V158D/E296V/M298Q/L305V/K337A-FVII, K157A-FVII, E296V-FVII, E296V/M298Q-FVII, V158D/E296V-FVII, V158D/M298K-FVII, and S336G-FVII, L305V/K337A-FVII, L305V/V158D-FVII, L305V/E296V-FVII, L305V/M298Q-FVII, L305V/V158T-FVII, L305V/K337A/V158T-FVII, L305V/K337A/M298Q-FVII, L305V/K337A/E296V-FVII, L305V/K337A/V158D-FVII, L305V/V158D/M298Q-FVII, L305V/V158D/E296V-FVII, L305V/V158T/M298Q-FVII, L305V/V158T/E296V-FVII, L305V/E296V/M298Q-FVII, L305V/V158D/E296V/M298Q-FVII, L305V/V158T/E296V/M298Q-FVII, L305V/V158T/K337A/M298Q-FVII, L305V/V158T/E296V/K337A-FVII, L305V/V158D/K337A/M298Q-FVII, L305V/V158D/E296V/K337A-FVII, L305V/V158D/E296V/M298Q/K337A-FVII, L305V/V158T/E296V/M298Q/K337A-FVII, S314E/K316H-FVII, S314E/K316Q-FVII, S314E/L305V-FVII, S314E/K337A-FVII, S314E/V158D-FVII, S314E/E296V-FVII, S314E/M298Q-FVII, S314E/V158T-FVII, K316H/L305V-FVII, K316H/K337A-FVII, K316H/V158D-FVII, K316H/E296V-FVII, K316H/M298Q-FVII, K316H/V158T-FVII, K316Q/L305V-FVII, K316Q/K337A-FVII, K316Q/V158D-FVII, K316Q/E296V-FVII, K316Q/M298Q-FVII, K316Q/V158T-FVII, S314E/L305V/K337A-FVII, S314E/L305V/V158D-FVII, S314E/L305V/E296V-FVII, S314E/L305V/M298Q-FVII, S314E/L305V/V158T-FVII, S314E/L305V/K337A/V158T-FVII, S314E/L305V/K337A/M298Q-FVII, S314E/L305V/K337A/E296V-FVII, S314E/L305V/K337A/V158D-FVII, S314E/L305V/V158D/M298Q-FVII, S314E/L305V/V158D/E296V-FVII, S314E/L305V/V158T/M298Q-FVII, S314E/L305V/V158T/E296V-FVII, S314E/L305V/E296V/M298Q-FVII, S314E/L305V/V158D/E296V/M298Q-FVII, S314E/L305V/V158T/E296V/M298Q-FVII, S314E/L305V/V158T/K337A/M298Q-FVII, S314E/L305V/V158T/E296V/K337A-FVII, S314E/L305V/V158D/K337A/M298Q-FVII, S314E/L305V/V158D/E296V/K337A-FVII, S314E/L305V/V158D/E296V/M298Q/K337A-FVII, S314E/L305V/V158T/E296V/M298Q/K337A-FVII, K316H/L305V/K337A-FVII, K316H/L305V/V158D-FVII, K316H/L305V/E296V-FVII, K316H/L305V/M298Q-FVII, K316H/L305V/V158T-FVII, K316H/L305V/K337A/V158T-FVII, K316H/L305V/K337A/M298Q-FVII, K316H/L305V/K337A/E296V-FVII, K316H/L305V/K337A/V158D-FVII, K316H/L305V/V158D/M298Q-FVII, K316H/L305V/V158D/E296V-FVII, K316H/L305V/V158T/M298Q-FVII, K316H/L305V/V158T/E296V-FVII, K316H/L305V/E296V/M298Q-FVII, K316H/L305V/V158D/E296V/M298Q-FVII, K316H/L305V/V158T/E296V/M298Q-FVII, K316H/L305V/V158T/K337A/M298Q-FVII, K316H/L305V/V158T/E296V/K337A-FVII, K316H/L305V/V158D/K337A/M298Q-FVII, K316H/L305V/V158D/E296V/K337A-FVII, K316H/L305V/V158D/E296V/M298Q/K337A-FVII, K316H/L305V/V158T/E296V/M298Q/K337A-FVII, K316Q/L305V/K337A-FVII, K316Q/L305V/V158D-FVII, K316Q/L305V/E296V-FVII, K316Q/L305V/M298Q-FVII, K316Q/L305V/V158T-FVII, K316Q/L305V/K337A/V158T-FVII, K316Q/L305V/K337A/M298Q-FVII, K316Q/L305V/K337A/E296V-FVII, K316Q/L305V/K337A/V158D-FVII, K316Q/L305V/V158D/M298Q-FVII, K316Q/L305V/V158D/E296V-FVII, K316Q/L305V/V158T/M298Q-FVII, K316Q/L305V/V158T/E296V-FVII, K316Q/L305V/E296V/M298Q-FVII, K316Q/L305V/V158D/E296V/M298Q-FVII, K316Q/L305V/V158T/E296V/M298Q-FVII, K316Q/L305V/V158T/K337A/M298Q-FVII, K316Q/L305V/V158T/E296V/K337A-FVII, K316Q/L305V/V158D/K337A/M298Q-FVII, K316Q/L305V/V158D/E296V/K337A-FVII, K316Q/L305V/V158D/E296V/M298Q/K337A-FVII, K316Q/L305V/V158T/E296V/M298Q/K337A-FVII, F374Y/K337A-FVII, F374Y/V158D-FVII, F374Y/E296V-FVII, F374Y/M298Q-FVII, F374Y/V158T-FVII, F374Y/S314E-FVII, F374Y/L305V-FVII, F374Y/L305V/K337A-FVII, F374Y/L305V/V158D-FVII, F374Y/L305V/E296V-FVII, F374Y/L305V/M298Q-FVII, F374Y/L305V/V158T-FVII, F374Y/L305V/S314E-FVII, F374Y/K337A/S314E-FVII, F374Y/K337A/V158T-FVII, F374Y/K337A/M298Q-FVII, F374Y/K337A/E296V-FVII, F374Y/K337A/V158D-FVII, F374Y/V158D/S314E-FVII, F374Y/V158D/M298Q-FVII, F374Y/V158D/E296V-FVII, F374Y/V158T/S314E-FVII, F374Y/V158T/M298Q-FVII, F374Y/V158T/E296V-FVII, F374Y/E296V/S314E-FVII, F374Y/S314E/M298Q-FVII, F374Y/E296V/M298Q-FVII, F374Y/L305V/K337A/V158D-FVII, F374Y/L305V/K337A/E296V-FVII, F374Y/L305V/K337A/M298Q-FVII, F374Y/L305V/K337A/V158T-FVII, F374Y/L305V/K337A/S314E-FVII, F374Y/L305V/V158D/E296V-FVII, F374Y/L305V/V158D/M298Q-FVII, F374Y/L305V/V158D/S314E-FVII, F374Y/L305V/E296V/M298Q-FVII, F374Y/L305V/E296V/V158T-FVII, F374Y/L305V/E296V/S314E-FVII, F374Y/L305V/M298Q/V158T-FVII, F374Y/L305V/M298Q/S314E-FVII, F374Y/L305V/V158T/S314E-FVII, F374Y/K337A/S314E/V158T-FVII, F374Y/K337A/S314E/M298Q-FVII, F374Y/K337A/S314E/E296V-FVII, F374Y/K337A/S314E/V158D-FVII, F374Y/K337A/V158T/M298Q-FVII, F374Y/K337A/V158T/E296V-FVII, F374Y/K337A/M298Q/E296V-FVII, F374Y/K337A/M298Q/V158D-FVII, F374Y/K337A/E296V/V158D-FVII, F374Y/V158D/S314E/M298Q-FVII, F374Y/V158D/S314E/E296V-FVII, F374Y/V158D/M298Q/E296V-FVII, F374Y/V158T/S314E/E296V-FVII, F374Y/V158T/S314E/M298Q-FVII, F374Y/V158T/M298Q/E296V-FVII, F374Y/E296V/S314E/M298Q-FVII, F374Y/L305V/M298Q/K337A/S314E-FVII, F374Y/L305V/E296V/K337A/S314E-FVII, F374Y/E296V/M298Q/K337A/S314E-FVII, F374Y/L305V/E296V/M298Q/K337A-FVII, F374Y/L305V/E296V/M298Q/S314E-FVII, F374Y/V158D/E296V/M298Q/K337A-FVII, F374Y/V158D/E296V/M298Q/S314E-FVII, F374Y/L305V/V158D/K337A/S314E-FVII, F374Y/V158D/M298Q/K337A/S314E-FVII, F374Y/V158D/E296V/K337A/S314E-FVII, F374Y/L305V/V158D/E296V/M298Q-FVII, F374Y/L305V/V158D/M298Q/K337A-FVII, F374Y/L305V/V158D/E296V/K337A-FVII, F374Y/L305V/V158D/M298Q/S314E-FVII, F374Y/L305V/V158D/E296V/S314E-FVII, F374Y/V158T/E296V/M298Q/K337A-FVII, F374Y/V158T/E296V/M298Q/S314E-FVII, F374Y/L305V/V158T/K337A/S314E-FVII, F374Y/V158T/M298Q/K337A/S314E-FVII, F374Y/V158T/E296V/K337A/S314E-FVII, F374Y/L305V/V158T/E296V/M298Q-FVII, F374Y/L305V/V158T/M298Q/K337A-FVII, F374Y/L305V/V158T/E296V/K337A-FVII, F374Y/L305V/V158T/M298Q/S314E-FVII, F374Y/L305V/V158T/E296V/S314E-FVII, F374Y/E296V/M298Q/K337A/V158T/S314E-FVII, F374Y/V158D/E296V/M298Q/K337A/S314E-FVII, F374Y/L305V/V158D/E296V/M298Q/S314E-FVII, F374Y/L305V/E296V/M298Q/V158T/S314E-FVII, F374Y/L305V/E296V/M298Q/K337A/V158T-FVII, F374Y/L305V/E296V/K337A/V158T/S314E-FVII, F374Y/L305V/M298Q/K337A/V158T/S314E-FVII, F374Y/L305V/V158D/E296V/M298Q/K337A-FVII, F374Y/L305V/V158D/E296V/K337A/S314E-FVII, F374Y/L305V/V158D/M298Q/K337A/S314E-FVII, F374Y/L305V/E296V/M298Q/K337A/V158T/S314E-FVII, F374Y/L305V/V158D/E296V/M298Q/K337A/S314E-FVII, S52A-VII因子, S60A-VII因子; R152E-VII因子, S344A-VII因子, S344A-VII因子, Glaドメインを欠いているVIIa因子; およびP11Q/K33E-FVII, T106N-FVII, K143N/N145T-FVII, V253N-FVII, R290N/A292T-FVII, G291N-FVII, R315N/V317T-FVII, K143N/N145T/R315N/V317T-FVII;およびアミノ酸配列の233Thr〜240Asnに置換、付加、又は欠失を有しているFVII, アミノ酸配列の304Arg〜329Cysに置換、付加、又は欠失を有しているFVIIである。
【0049】
VII因子均等物の他の例には、限定されることなく、次のものが含まれる、即ち、S52A-FVIIa, S60A-FVIIa(Lino et al., Arch. Biochem. Biophys. 352: 182-192, 1998)を含む、野生型VII因子と実質的に同じ生物活性を有しているVII因子均等物;米国特許第5,580,560号に開示された増加したタンパク分解の安定性を呈しているFVIIa均等物;残基290及び291の間又は残基315及び316の間がタンパク分解性に切断されているVIIa因子(Mollerup et al., Biotechnol. Bioeng. 48:501-505, 1995);VIIa因子の酸化型(Kornfelt et al., Arch. Biochem. Biophys. 363:43-54, 1999);WO02/29025に開示されたFVII均等物;およびWO02/38162(Scripps研究所)に開示された増加したタンパク分解の安定性を呈しているFVII均等物;WO99/20767、WO00/66753、WO02/02764、および米国特許出願第20030211094(ミネソタ大学)に開示された修飾型Glaドメインを有し、増強された膜結合を呈しているFVII均等物;およびWO01/04287、WO01/58935、WO03/93465、および米国特許出願第20030165996号(Maxygen ApS)に開示されたFVII均等物である。
【0050】
VII因子均等物の他の例には、WO03/31464および米国特許出願US20040043446、US20040063911、US20040142856、US20040137557、およびUS20040132640(Neose Technologies, Inc.)に開示された糖PEG化(GlycoPegylated)FVII誘導体が含まれる。
【0051】
野生型FVIIaと比較して増加した生物活性を有しているFVII均等物の限定されることのない例には、WO01/83725、WO02/22776、WO02/077218、WO03/027147、WO04/029090、WO04/000366、WO03/037932;デンマーク国特許出願PA200301296、デンマーク国特許出願PA200400160、デンマーク国特許出願PA200301145、WO02/38162(Scripps Research Institute)に開示されたFVII均等物;およびJP2001061479(Chemo-Sero-Therapeutic Res Inst.)に開示された増強活性を有するFVIIa均等物が含まれる。
【0052】
調製および製剤:
本発明は、VIIa因子またはVIIa因子均等物の治療上の投与を包含し、これはVIIa因子調製物を含む製剤を用いて達成される。本明細書において使用されるものとして、「VII因子調製物(Factor VII preparation)」は、複数のVIIa因子ポリペプチドまたはVIIa因子均等物ポリペプチドを意味し、これにはバリアントおよび化学的に修飾された形態が含まれ、それらが合成される、起源細胞(a cell of origin)であろうがリコンビナント細胞であろうが、プログラムされてVIIa因子またはVIIa因子均等物を合成する細胞から分離されたものである。
【0053】
これらの起源の細胞からのポリペプチドの分離は、当該技術分野において既知の任意の方法によって達成されてもよく、付着した細胞培養から所望の産物を含む細胞培養培地を除去すること;非接着細胞を遠心分離または濾過して除去することなどを含むが、これらに限定されない。
【0054】
自由選択で(Optionally)、VII因子ポリペプチドは、さらに精製されてもよい。精製は、例えば、抗VII因子抗体カラム(例えば、Wakabayashi et al., J. Biol. Chem. 261:11097, 1986およびThim et al., Biochem. 27:7785, 1988を参照)などのアフィニティークロマトグラフィ;疎水性相互作用クロマトグラフィ;イオン交換クロマトグラフィ;サイズ排除クロマトグラフィ;電気泳動的な処置(例えば、調製用の等電点電気泳動(IEF)、溶解度の差(例えば、硫酸アンモニウム沈殿)または抽出などを含む、これらに限定されない、当該技術分野において既知の任意の方法を使用して達成されてもよい。一般に文献(Scopes, Protein Purification, Springer-Verlag, New York, 1982およびProtein Purification, J.-C. Janson and Lars Ryden, editors, VCH Publishers, New York, 1989)を参照されたい。精製に続いて、前記調製物は、宿主細胞に由来する非VII因子タンパク質を好ましくは約10重量%未満、より好ましくは約5%未満、および最も好ましくは約1%未満で含む。
【0055】
VII因子およびVII因子関連ポリペプチドは、XIIa因子またはたとえば、IXa因子、カリクレイン、Xa因子、およびトロンビンなどのトリプシン様の特異性を有するその他のプロテアーゼを使用するタンパク分解性の切断によって活性化されてもよい。例えば、Osterud et al., Biochem. 11:2853 (1972);Thomas, 米国特許第4,456,591号;およびHedner et al., J. Clin. Invest. 71:1836 (1983)を参照されたい。或いは、VII因子は、それをMonoQ(登録商標)(Pharmacia)などのイオン交換クロマトグラフィーに通すことにより活性化し得る。次いで、生じる活性化されたVII因子を後述するように処方し、投与してもよい。
【0056】
本発明に使用する薬学的組成物または製剤は、薬学的に許容される担体(好ましくは水性の担体または希釈剤)と組合される(好ましくは、溶解される)VIIa因子調製物を含む。水、緩衝水(buffered water)、0.4%塩類溶液(saline)、0.3%グリシンなどの種々の水溶性担体を使用してもよい。また、本発明の調製物は、傷害の部位に対してデリバリーまたはターゲティングするために、リポソーム調製物(liposome preparations)に処方することもできる。リポソーム調製物は、例えば、米国特許第4,837,028、4,501,728、および4,975,282号に一般的に記載されている。前記組成物は、従来のよく知られた滅菌法技術で殺菌し得る。生じる水溶液は、使用のためにパックされるか、又は無菌条件下で濾過して凍結乾燥され、凍結乾燥された調製物は投与の前に滅菌水溶液と混合されてもよい。
【0057】
前記組成物は、例えば、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、その他などの、pH調整および緩衝剤および/または張性調整剤(tonicity adjusting agents)を含むが、これらに限定されるものではない、薬剤的に許容される補助物質(auxiliary substances)またはアジュバントを含んでいてもよい。
【0058】
治療計画:
本発明の実施において、VIIa因子またはVIIa因子均等物は、熱傷外傷を治療するために単一用量の効果的な量(a single-dose-effective amount)を含む単一用量として、又は熱傷外傷を治療するために効果的な量を全体として含む段階的な一系列の用量(a staged series of doses)で、患者に投与してもよい。VIIa因子又はVIIa因子均等物の効果的な量(以下を参照されたい)は、単一用量で又は複数用量の集合で又は任意の他のタイプの規定された治療計画(treatment regimen)の一部として投与された場合に、熱傷外傷に関連する少なくとも1つの臨床パラメータに測定可能な改善をもたらす、VIIa因子又は均等物の量を意味する。VIIa因子均等物が投与される場合、効果的な量は、前記VIIa因子均等物の血液凝固活性とVIIa因子の血液凝固活性とを比較すること、及び投与される前記量をVIIa因子の既定の効果的な量と比例して調整することによって決定されえる。
【0059】
本発明によるVIIa因子またはVIIa因子均等物の投与は、好ましくは、外傷性の熱傷傷害(traumatic burn injury)の発生後の約6時間以内(例えば、約4時間以内、約2時間以内、または約1時間以内など)に開始される。或いは、投与は、熱傷をうけた組織の摘出が必要な患者における手術の開始前の任意の時間に開始されてもよく、例えば、手術前の約6時間以内、例えば、約4時間以内、約2時間以内など、または手術前の約1時間以内、例えば、手術直前に開始されてもよい。
【0060】
単一用量(single dose)の投与は、全用量(entire dose)のVIIa因子またはVIIa因子均等物を大量瞬時投与(bolus)として約5分間未満の期間で投与されることを意味する。幾つかの態様において、前記投与は、約2.5分間未満の期間で発生する;また、幾つかにおいては、約1分間未満で発生する。典型的には、単一用量の効果的な量は、少なくとも約40μg/kgのヒトVIIa因子又は相当する量のVIIa因子均等物、例えば、少なくとも約50μg/kg、75μg/kg、または90μg/kg、または少なくとも150μg/kgのVIIa因子を含む。
【0061】
幾つかの態様において、本発明による単一用量のVIIa因子またはVIIa因子均等物の投与に続き、前記患者は少なくとも約30分間のインターバルで更なるVIIa因子またはVIIa因子均等物を受けない。幾つかの態様において、投与後のインターバルは、少なくとも約45分間、例えば、少なくとも約1時間、少なくとも約1.5時間、または少なくとも約2時間である。
【0062】
他の態様において、前記患者は、次の(i)〜(iii)に記す計画によりVIIa因子またはVIIa因子均等物を受ける:
(i)前記患者は、少なくとも約40μg/kgを含んでいる第1の量のVIIa因子またはVIIa因子均等物を受け;
(ii)少なくとも約30分間の期間後に、第2の量のVIIa因子またはVIIa因子均等物が投与され、該量は少なくとも約40μg/kgを含み;および
(iii)前記第2の量の投与から少なくとも約30分間の期間後に、第3の量のVIIa因子またはVIIa因子均等物が投与され、該量は少なくとも約40μg/kgを含む。
【0063】
前記第3の量の投与に続く少なくとも約30分間の期間後に、前記患者は、少なくとも約40μg/kgを含む、更なる(第4)量のVIIa因子またはVIIa因子均等物をうけてもよい。
【0064】
他の態様において、前記第1の量のVIIa因子またはVIIa因子均等物は、少なくとも約40μg/kg(例えば少なくとも約80μg/kg、例えば少なくとも約100μg/kgまたは少なくとも約150μg/kg)を含み;他の態様において、前記第2の量のVIIa因子またはVIIa因子均等物は、少なくとも約75μg/kg(例えば少なくとも約90μg/kg)を含み;他の態様において、前記第3(および自由選択で第4)の量のVIIa因子またはVIIa因子均等物は、少なくとも約75μg/kg(例えば、少なくとも約90μg/kg)を含む。
【0065】
一態様において、前記第1の用量は約200μg/kg、前記第2の用量は約100μg/kg、および前記第3(および自由選択で第4)の用量は約100μg/kgを含む。
【0066】
他の態様において、前記患者は、前記第2の量のVIIa因子またはVIIa因子均等物を、前記第1の投与から少なくとも約45分間の期間後(例えば、少なくとも約1時間、少なくとも約1.5時間、少なくとも約2時間、少なくとも約2.5時間、または少なくとも約3時間後)にうける。
【0067】
他の態様において、前記患者は、前記第3(および自由選択で第4)の量のVIIa因子またはVIIa因子均等物を、前の投与から少なくとも約45分間の期間後(例えば、少なくとも約1時間、少なくとも約1.5時間、少なくとも約2時間、少なくとも約2.5時間、または少なくとも約3時間後)にうける。
【0068】
一態様において、前記患者は約200μg/kgを含んでいる第1の用量を受け取り;約1時間の期間後に、前記患者は約100μg/kgを含んでいる第2の用量を受け取り;そして前記第1の用量から約3時間の期間後に、前記患者は約100μg/kgを含んでいる第3の用量を受け取る。
【0069】
以下の表によって、本発明の異なる非限定の態様が説明される:
【表1−1】

【表1−2】

VIIa因子またはVIIa因子均等物の効果的な量(同様に全体の投与計画)が患者の止血状態(haemostatic status)により変動しえること、これは次に1以上の臨床パラメータ〔例えば、循環している凝固因子の相対的レベル;失血(blood lost)の量;出血の割合;ヘマトクリットなどが含まれる〕に反映されるだろうことが理解される。効果的な量は、値からマトリックス(a matrix)を構築し、前記マトリックスの異なるポイントを試験することによる、ルーチン実験で当業者が決定し得ることがさらに理解される。
【0070】
例えば、一系列の態様において、本発明は、(i)第1の用量のVIIa因子またはVIIa因子均等物を投与すること;(ii)患者の凝固状態を、既定の時間後に評価すること;および(iii)前記評価に基づいて、必要に応じてVIIa因子またはVIIa因子均等物の更なる用量を投与することを包含する。工程(ii)および(iii)は、満足な止血(satisfactory hemostasis)が達成されるまで反復されてもよい。
【0071】
本発明によると、VIIa因子またはVIIa因子均等物は、任意の効果的な経路で投与されてもよい(静脈内、筋肉内、皮下、粘膜、および肺の投与を含むが、限定されない)。好ましくは、投与は、静脈内経路による。
【0072】
組み合わせ治療:
本発明は、VIIa因子またはVIIa因子均等物と協調(concert)した付加的な薬剤の組み合わせ投与を包含する。幾つかの態様において、前記付加的な薬剤には、凝固剤(coagulant)が含まれ、これには限定されることなく、例えば、V因子(例えば、PCT/DK02/00736を参照されたい), VIII因子, IX因子(例えば、WO02/062376を参照されたい), X因子, XI因子, XIII因子(例えば、WO01/85198を参照されたい), フィブリノーゲン, トロンビン, TAFI(例えば、PCT/DK02/00734を参照されたい)などの凝固因子、例えばPAI-1, アプロチニン, イプシロン-アミノカプロン酸またはトラネキサム酸(例えば、PCT/DK02/00735; PCT/DK02/00742; PCT/DK02/00751; PCT/DK02/00752を参照されたい)などの抗フィブリン溶解剤;様々な抗血栓治療、同様に血小板, RBC, FFP, 酸素運搬体, 様々なバイパスする因子での輸血および流体療法〔コロイド(colloids)/クリスタロイド(crystalloids)〕又はこれらの任意の組み合わせが含まれる。[これらも関連性がある?: 組織因子経路インヒビター(TFPIインヒビター)(例えば、WO01/85199を参照されたい);プロテインCインヒビター(例えば、PCT/DK02/00737を参照されたい);トロンボモジュリン(例えば、PCT/DK02/00738を参照されたい);プロテインSインヒビター(例えば、PCT/DK02/00739を参照されたい);組織プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター(例えば、PCT/DK02/00740を参照されたい);α2-抗プラスミン(例えば、PCT/DK02/00741を参照されたい)のインヒビター;
VIIa因子と他の薬剤との組合せの投与を含む態様において、VIIa因子またはVIIa因子均等物の投与量(dosage)は、それ自身(on its own)で効果的な量を含み、付加的な薬剤(s)が前記患者への治療上の利点を増加させることが理解される。或いは、VIIa因子または均等物の組合せ及び第2の薬剤は、熱傷外傷を治療するために効果的な量を全体として(together)含んでもよい。また、効果的な量は、特定の治療計画との関連で規定されてもよいことも理解される(この事項には、タイミングおよび投与の数、投与の方式、製剤、などが含まれる)。
【0073】
治療転帰:
本発明は、熱傷外傷を治療する方法および組成物を提供する。治療には、熱傷外傷の程度の指標(indicative)である任意のパラメータの測定可能な改善または寛解が包含される。係るパラメータの限定されることのない例には、以下に記すものが含まれる:
・ 凝固状態、例えば、DICに似た凝固異常;過剰なフィブリン溶解;希釈性凝固障害において反映されるようなものであり、これには限定されることなく、正常なプール血液(pooled blood)の血小板数および血小板活性と比較して、限定数の血小板および/または血小板機能の損傷が含まれる。
【0074】
・ 低体温(体温約37゜C未満、例えば、約36゜C未満、約35゜C未満、または約34゜C未満などを有することが含まれる)
・ 代謝異常の徴候(限定されることなく、血液pH約7.5未満、例えば、約7.4未満、約7.3未満、約7.2未満、または約7.1未満を有しているアシドーシスが含まれる)。
【0075】
・ 失血
熱傷外傷を治療することにおける本発明の方法の有効性は、後期合併症における統計的な減少を評価することによって潜在的に測定しえるものであり;該後期合併症には、限定されることなく、1以上のこれらの症候群が原因の死を含む、肺塞栓症(PE), 急性呼吸窮迫症候群(ARDS), 播種性血管内血液凝固(DIC), 急性心筋梗塞(AMI), 脳血栓症(CT), 全身性炎症反応症候群(SIRS), 感染, 多臓器不全(MOF), および急性肺障害(ALI)が含まれる。
【0076】
本発明の実施において、後期合併症は、従来の方法(例えば、一般的な凝固に関連するパラメータ、例えば、APTT, フィブリノーゲン, 血小板, D-ダイマー, 抗トロンビン-III, F1+2, TAT, INR, ヘマトクリット, ヘモグロビンおよび白血球など)を用いて評価されえる。
【0077】
血液は、S-ビリルビン, S- アルブミン, S-クレアチニン, S-カリウム, S-ナトリウム, S-アラニンアミノトランスフェラーゼ, およびFVII:C(薬物動態)に関しても分析されてもよい。
【0078】
血液化学。評価は、本発明による治療の開始から少なくとも約20日(例えば、少なくとも約30日, 少なくとも約35日, または治療の開始から少なくとも約40日など)で実施しえる。
【0079】
臓器ダメージまたは臓器不全には、限定されることなく、腎臓、肺、副腎(adrenal)、肝臓、腸、心血管系、および/または止血系における構造へのダメージおよび/または機能へのダメージが包含される。臓器ダメージの例には、形態学的/構造的なダメージ及び/又は臓器の機能に対するダメージ〔例えば、肺クリアランス損傷によるタンパク質(例えば、サーファクタント)又は流体の蓄積〕又は肺の変化機構(pulmonary change mechanisms)に対するダメージ又は肺胞血管膜ダメージが含まれるが、これらに限定されることはない。「臓器傷害(organ injury)」、「臓器ダメージ(organ damage)」、および「臓器不全(organ failure)」の用語は、交換可能(interchangeably)に使用されえる。通常、臓器ダメージは、臓器不全に至る。臓器不全の用語によって、正常で健常な人物において対応する臓器の平均的で正常な機能と比較した、臓器機能における減少が意味される。臓器不全は、機能における軽微な減少(例えば、正常の80〜90%)であってもよく又は機能における重度の減少(例えば、正常の10〜20%)であってもよく;また、前記減少は臓器機能の完全なる不全であってもよい。臓器不全には、限定されることなく、生物学的機能(例えば、尿排出)の減少が含まれ、これは組織壊死、糸球体(腎臓)の欠損(loss)、フィブリン沈着、出血(haemorrhage)、浮腫、または炎症などによるものである。臓器ダメージには、限定されることなく、組織壊死、糸球体(腎臓)の欠損、フィブリン沈着、出血、浮腫、または炎症が含まれる。
【0080】
肺ダメージには、形態学的/構造的なダメージ及び/又は肺の機能に対するダメージ〔例えば、肺クリアランス損傷によるタンパク質(例えば、サーファクタント)又は流体の蓄積〕又は肺の変化機構に対するダメージ又は肺胞血管膜ダメージが包含されるが、これらに限定されない。「肺傷害(lung injury)」、「肺ダメージ(lung damage)」および「肺不全(lung failure)」の用語は、交換可能に使用されえる。
【0081】
臓器の機能および効率を試験するための方法、及び係る試験に関する適切な生化学的な又は臨床的なパラメータは、熟練した臨床医に周知の事項である。
【0082】
係るマーカー、又は臓器機能の生化学的なパラメータは、例えば、以下に記すものである:
呼吸:PaO2/FiO2比
凝固:血小板
肝臓:ビリルビン
心血管:血圧および昇圧治療(vasopressor treatment)に関する必要性
腎臓:クレアチニンおよび尿の排出
他の臨床評価には、人工呼吸器解除日数(ventilator free days)、無臓器不全日数(organ failure free days)、昇圧剤解除日数(vasopressor treatment free days)、SOFAスコアおよび肺傷害スコア評価、同様にバイタルサインが含まれる。
【0083】
凝固障害または炎症を試験する方法も、熟練した臨床医に周知である。凝固性の又は炎症性の状態の係るマーカーは、例えば、PTT、フィブリノーゲン枯渇、TAT複合体の上昇、ATIII活性、IL-6、IL-8、またはTNFR-1である。
【0084】
慢性臓器ダメージには、ARDSに起因する長期のダメージが包含されるが、これに限定されない。この後遺症(特に肺の機構における)には、限定されることなく、軽微な制限(mild restriction)、閉塞(obstruction)、一酸化炭素の拡散能の損傷(impairment of the diffusing capacity for carbon monoxide)、又は運動でのガス交換異常、持続性の低酸素血症を伴う線維化肺胞炎、肺胞死腔の増加、及び肺胞または肺のコンプライアンスにおける更なる減少が含まれえる。肺性の高血圧症(肺毛細管ベットの閉塞による)は、重篤なもので、右心室の不全に至るだろう。
【0085】
本発明において、予防には、限定されることなく、熱傷外傷と関連する後期合併症と関連する1以上の症状またはコンディションの減弱(attenuation)、消失(elimination)、最小化(minimization)、軽減(alleviation)または寛解(amelioration)が含まれ、これには、ある程度の臓器不全および/またはダメージを既にうけた臓器への更なるダメージおよび/または損傷の予防、同様に、臓器不全および/またはダメージをうけていない更なる臓器のダメージおよび/または損傷の予防が含まれるが、これらに限定されない。係る症状またはコンディションの例には、形態学的/構造的なダメージ及び/又は臓器〔例えば、肺、腎臓、副腎、肝臓、腸(bowel)、心血管系及び/又は止血系であるが、これらに限定されない〕の機能に対するダメージが含まれるが、これらに限定されない。係る症状またはコンディションの例には、形態学的/構造的なダメージ及び/又は臓器の機能に対するダメージ〔例えば、肺クリアランス損傷によるタンパク質(例えば、サーファクタント)又は流体の蓄積〕又は肺の交換機構(pulmonary exchange mechanism)に対するダメージ又は肺胞血管膜に対するダメージ、尿排出の減少(腎臓)、組織壊死、糸球体の欠損(腎臓)、フィブリン沈着、出血、浮腫、または炎症が含まれるが、これらに限定されない。
【0086】
臓器の不全またはダメージの減弱には、該臓器の機能の少なくとも1つの周知のマーカーによって測定される臓器機能(表2から5を参照されたい)における、本発明により治療されていない熱傷外傷患者において認められた対応する値と比較した、任意の改善が包含される。
【0087】
予防には、急性肺障害(ALI)のARDSへの進行を予防することも含まれる。ALIは、次の判定基準(Bernard et al., Am.J.Respir.Crit.Care Med 149: 818-24, 1994)、即ち:急性発症(acute onset);胸部放射線像の両側性の浸潤物;<18mmHgの肺動脈の楔入圧または左房高血圧(left atrial hypertension)の臨床証拠の非存在;および< 300のPaO2:FiO2によって規定される。ARDSは、次の判定基準(Bernard et al., Am.J.Respir.Crit.Care Med 149: 818-24, 1994)、即ち:急性発症;胸部放射線像の両側性の浸潤物;<18mmHgの肺動脈の楔入圧または左房高血圧の臨床証拠の非存在;および<200のPaO2:FiO2によって規定される(PaO2は動脈血酸素の分圧を意味し、FiO2は吸入された酸素の分率)。
【0088】
後期合併症の測定:
以下は、熱傷外傷の後期合併症の発生率(incidence)および重症度を評価する方法の限定されることのない例である。
【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

一系列の態様において、本発明の実施によって、1以上の以下に記す臨床転帰を生じる:
・ 失血の減少(失血の完全な停止が含まれる)
・ ショック(例えば、低体温および血液pHが含まれる)の1以上のパラメータにおける改善。
【0089】
一系列の態様において、本発明の実施によって、1以上の以下に記す臨床転帰を生じる:
・ 治療の開始後20日に測定された場合に、約9を超えるグラスゴウコーマスコア;
・ 治療の開始後30日に測定された場合に、約11を超えるグラスゴウコーマスコア;
・ 治療の開始後40日に測定された場合に、約13を超えるグラスゴウコーマスコア;
・ 治療の開始後20日に測定された場合に、約4未満のMOFスコア;
・ 治療の開始後30日に測定された場合に、約3未満のMOFスコア;
・ 治療の開始後40日に測定された場合に、約2未満のMOFスコア;
・ 治療の開始後20日に測定された場合に、約8未満のARDSスコア;
・ 治療の開始後30日に測定された場合に、約6未満のARDSスコア;
・ 治療の開始後40日に測定された場合に、約4未満のARDSスコア;
・ 治療の開始後20日に測定された場合に、約3未満のSIRSスコア;
・ 治療の開始後30日に測定された場合に、約2未満のSIRSスコア;
・ 治療の開始後40日に測定された場合に、約1未満のSIRSスコア:
・ 任意の上記のグラスゴウコーマスコア、MOFスコア、ARDSスコア、および/またはSIRスコアの任意の組合せ。
【0090】
治療の他の指標:
本発明の方法の有効性は、他の臨床パラメータを用いて評価されてもよい;これには、限定されることなく、本発明によるVIIa因子またはVIIa因子均等物を投与された類似の患者と比較して、任意の1以上の以下に記すパラメータにおける減少が含まれる、つまり:投与される必要のある血液、血漿、赤血球、パック赤血球、または容積代償製品(volume replacement products)のユニットにおける減少;熱傷外傷を被った後の入院日数の減少〔これには患者が集中治療室(ICU)で過ごすだろう日数の減少が含まれる〕、及び特定の処置(例えば、人工呼吸器など)が必要とされる日数の減少である。転帰の限定されることのない例には、次の事項が含まれる、つまり:(i)少なくとも約2ユニット、4ユニット、または6ユニットを投与される必要のある、血液、血漿、赤血球、パック赤血球、または容積代償製品(volume replacement products)のユニットにおける減少;(ii)1日、2日、または4日までのICU日数の減少;(iii)1日、2日、または4日までの人工呼吸器に依存した日数の減少;(iv)2日、4日、または8日までの総入院日数(total days of hospitalization)の減少である。
【0091】
本発明は、以下の例によってさらに説明されるが、保護の範囲を限定するものとして解釈されない。これまでの記載において及び以下に記載される例において開示された特徴は、別々に及びその任意の組み合わせの両方ともが、本発明のその多様な形態に具現化するための材料(material)である。
【0092】
[例]
例1
本発明の発明者は、VIIa因子又は相当する量のVIIa因子均等物〔例えば、NovoSeven(登録商標)〕の前止血効果および安全性を、(i)出血が臨床上の主な問題である患者の標準化コホートにおいて、(ii)同時発生の疾病又は試験結果の解釈に干渉するだろう薬物療法(medications)を有していない患者、(iii)手術、麻酔、輸液(transfusion practice)、手術後処置、およびリハビリに関して、標準的な様式で治療された患者において調査した。
【0093】
熱傷外傷の犠牲者へのVIIa因子投与
以下の試験を、重篤な熱傷外傷における出血コントロールのための補助的療法として、組換え型で活性型の凝固因子VII(rFVIIa, NovoSeven(登録商標))の有効性および安全性を評価するために実施した。
【0094】
我々は、熱傷傷害を負い10%を超えるTBSAの皮膚移植を必要とする18患者において、プラセボ対照ランダム化試験(a placebo-controlled, randomized study)を実施した。80μg/kg rFVIIaの用量を、手術の直前に投与し、その1時間後に繰り返した。我々の研究において、試験期間(30日)の間に記録された血栓塞栓症合併症の臨床的な徴候または症状は存在しなかった。さらにまた、rFVIIaの投与は、プラセボ群と比較して、24時間の手術後の輸液要求性を有意に減少させた(p<0,05)。これらの発見は、次の着想を支持するものである;その着想とは、rFVIIaが局所的なトロンビン産生を脈管ダメージの部位で開始させ、これによってフィブリンのポリメリゼーションおよび止血の達成を生じ、患者の全身的な凝固には影響しないことである。
【0095】
試験デザインI:
手術後の24時間及びその後(per and 24-hour postoperative)の輸液要求性における、NovoSeven(登録商標)の前向きの二重盲検ランダム化プラセボ対照試験(A prospective double blind, randomized placebo controlled study)
10%以上のTBSAの摘出を必要とする、熱傷傷害を伴う患者は、除外された。
【0096】
以下を有する患者は排除された:1)吸入傷害(inhalation injury)、2)既存の遺伝性の又は後天性の凝固障害、3)有意な肝臓または腎臓の欠陥(impairment)、4)40%未満のEFまたは手術の3ヶ月内のAMI、5)手術の3ヶ月内の血栓塞栓性状態。
【0097】
4μg/ml ドーパミン/時間以上の強心性サポート(inotropic support)を必要とするセプシス。
【0098】
試験デザインII:
手術は、全ての患者で同じ2人の外科医により実施された
患者は、同じ2人の麻酔医によって麻酔され、同じタイプの麻酔を受けた。
【0099】
血液サンプルを、その後にT=0, および 20, 40, 60, 120, 240, および 480 分で採取した。
【0100】
Hb, Hct, 血小板, aPTT, INR, F1+F2, D-ダイマーの分析を、手術後の最初の7日間で12時間ごとに実施した。
【0101】
理学的検査を、手術後の最初の7日間に毎日2回実施した
全患者は、手術後の抗血栓予防(antithrombotic prophylaxis)をうけた。
【0102】
方法:
組換え型ヒトFVIIa 80μg/kgまたはプラセボを、手術開始の直前に与え、その60分間後に繰り返した。
【0103】
生存可能な組織までの筋膜を巻き込まない接線方向の摘出(Tangential excision)法を使用した。ドナーからの採取を、熱傷傷害の摘出前に実施した。
【0104】
ヘマトクリットが25%に達した場合、RBCを輸血し、FFPを、輸血されたRBCと1:1の比率で輸血し、PLTを毎8RBC後に輸血した。
【0105】
評価:
微小血管の出血(MVB)は、以下のとおり規定された:
1.大量の手術野からの漏出タイプ(oozing type)の出血、および/または
2.止血が以前に達成された領域からの出血の開始、および/または
3.脈管内アクセスライン(intra vascular access lines)(CVK, 動脈性の及び静脈性のカテーテル)からの出血の開始。
【0106】
4.全身性の低血圧および/または輸血要求性の徴候の増大と共に.
MVBを連続的に評価した。
【0107】
エンドポイント:
一次:
1. 手術後の24時間及びその後のRBC輸血要求性。
【0108】
2. 全体の手術後の24時間及びその後の総輸血要求性(RBC+FFP+PLT)。
【0109】
二次:
1. 手術中の微小脈管出血の発生。
【0110】
2. 30日生存。
【0111】
3. 有害なイベント;特に30日試験期間中の血栓塞栓症合併症。
【0112】
結果:
年齢、性別、手術時間(surgical time)、病院滞在(hospital stay)又は平均TBSA摘出(mean TBSA excised)に関して、治療群間の差異はなく、これはプラセボ群において19%であり、組換え型ヒトFVIIa群において22%である。
【0113】
輸血RBC要求性:
rFVIIa群:平均5単位, SD 5,78。
【0114】
プラセボ群:平均15単位, SD 11,02 p=0,035。
【0115】
総輸血要求(RBC+FFP+PLT):
rFVIIa群:平均17単位, SD 20,43。
【0116】
プラセボ群:平均36単位, SD 22,52 p=0,041。
【0117】
MVBを発症している患者は、有意に大きなTBSA%摘出(larger TBSA % excised)を有していた(非MVB群における18%と比較して29%)(p=0,03)。
【0118】
MVBを発症している患者は、非MVB群における7ユニットと比較して、有意に大きなRBC輸血要求性;21ユニットを有していた(p=0,005)。
【0119】
MVB群における総輸血要求性は、非MVB群における20ユニットと比較して、50ユニットであった(p=0,007)。
【0120】
生存は、コホートの残りにおいて14患者中の14患者と比較して、MVB群において4患者中で1患者であった(p=0,005)。
【0121】
30日生存は、15/18患者または83%であった。
【0122】
全ての非生存患者(3)は、プラセボ群, p=0,10(Fischer exact test)からであった。
【0123】
微小脈管出血は4患者で発生し、3はプラセボ群において、1はrFVIIa群においてであった(p=0,3)。
【0124】
有害なイベントはなく、特に血栓塞栓症合併はなかった。
【0125】
MVBを発症している患者は、有意に大きなTBSA%摘出を有していた(非MVB群における18%と比較して29%)(p=0,03)。
【0126】
MVBを発症している患者は、非MVB群における7ユニットと比較して、有意に大きなRBC輸血要求性;21ユニットを有していた(p=0,005)。
【0127】
MVB群における総輸血要求性は、非MVB群における20ユニットと比較して、50ユニットであった(p=0,007)。
【0128】
生存は、コホート(cohort)の残りにおいて14患者中の14患者と比較して、MVB群において4患者中で1患者であった(p=0,005)。
【0129】
結論:
rFVIIa;組換え型ヒトFVIIaを80μg/kg x2の用量で投与することによって、10%以上を摘出され、皮膚移植された熱傷傷害を有する患者における、手術後の24時間及びその後の輸血要求性が有意に減少した。
【0130】
rFVIIa;NovoSevenを80μg/kg x2の用量で投与することは、接線摘出(tangential excision)および皮膚移植を受けている熱傷傷害を有する患者において安全である。
【0131】
MVBを手術後に発生している熱傷患者は、MVBを発生していない患者よりも、有意に高い輸血要求性と低い30日生存とを示した。
【0132】
意味(Implications):
試験は、rFVIIa;NovoSevenを受けた患者において、よりよい生存および微小脈管出血の発生頻度の低下を示した。
【0133】
このカテゴリーの患者においてrFVIIa;NovoSevenを用いることの安全性および作用機構の現在の知識は、次の事項を暗示(implies)する。その事項とは、高いTF発現に分類される他の患者(外傷, セプシス, DIC, ICH)においても、rFVIIa;NovoSevenを使用することが安全であろうことである。
【0134】
例2
手術が計画された18人の連続した患者はランダム化されて、最初に皮膚摘出時に投与されるプラセボまたは40μg/kg rFVIIaの何れか、および90分後に第2の用量(40 μg/kg)を受けた。手術の間および24時間後までの輸血要求性が比較された。加えて、熱傷傷害を有する患者において同様にrFVIIaに関連する有害なイベント(adverse events)において通常認められる手術後の合併症が、モニターされた。
【0135】
rFVIIaは、輸血される血液成分のユニットの総数を、プラセボと比較して、有意に減少させる(17 vs 37, p=0.01)。我々は、rFVIIa治療群において、改善された移植物生存(p=0.1)および多臓器不全(multiple organ failures)における減少(p=0.08)にむかう傾向をさらに観察した。薬物に関連するものであると考えられる有害なイベント(特に、血栓塞栓性のイベント)は存在しなかった。
【0136】
試験デザイン:
試験は、コペンハーゲンの大学病院で実施された、単一センター(single-centre)、ランダム化、二重盲検、プラセボ対照試験であった。試験プロトコールは、地域の機関の倫理委員会によって承認され、患者のインフォームドコンセントは文書で得られた。
【0137】
算入(inclusion)の判定基準は:総体表面領域の10%以上(9の法則によって推測される)の全層(full thickness)での熱傷創摘出および皮膚移植を計画された、>18歳の熱での熱傷を有する患者であった。除外の判定基準は:低分子ヘパリン(LMWH)での手術後の血栓予防法に関する禁忌を有する患者;非ステロイド性の抗炎症薬(NSAID)を手術前7日以内に受けた患者;敗血症(sepsis)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)陽性、妊娠、25 mL/min未満のクレアチニンクリアランス、進行した肝硬変症、又は急性肝炎、透析を必要とする腎不全、既知の凝固障害、既知の重篤なアテローム性動脈硬化症(急性心筋梗塞、糖尿病、重篤な高血圧の既往歴)、又は最終6ヶ月内での深部静脈血栓症の既往歴を有する患者であった。
【0138】
算入の判定基準に合致した患者は、スクリーニング時に、プラセボまたはrFVIIa〔NovoSeven(登録商標), Novo Nordisk A/S, Bagsvaerd, デンマーク〕40 μg/kgの何れかをうけるようランダム化され、これは手術の開始の直前に静脈内ボーラス注射として与えられ、第2の用量(40μg/kg)は90分後に与えられる。接線摘出(Tangential excision)の技術が使用された。全ての外科的な処置は、同じ外科チームによって実行された。手術後、全ての患者は、完全に移動可能となるまで又は退院するまで、LMWHで血栓予防法(thromboprophylaxis)をうけた。
【0139】
手術中(間および手術後24時間まで)の輸血は、処理について知らない麻酔医によって決定された。次の輸液ガイドラインが遵守された、つまり:ヘモグロビン(Hb)濃度が5.5 mmol/L未満に低下した場合に赤血球(RBC)が輸血された。新鮮凍結血漿(FFP)がRBCに対して1:1の比で輸血されたか、又は微小血管出血の徴候が存在した。血小板濃縮物は、血小板数<80x109/Lの場合に、又は輸血された推定血液容量(estimated blood volume)ごとに、又は微小血管出血の徴候が存在する場合に与えられた。微小血管の出血は、止血が全身血圧における減少と共に以前に達成された部位でのドナーの皮膚からの再出血として規定された。使用された全ての血液成分は白血球除去(leucodepleted)され、7日よりも古いRBCユニットは輸血されなかった。
【0140】
一次エンドポイントは、手術の間および手術後の24時間までに輸血された血液成分のトータルユニット数(RBC+FFP+血小板)であった。二次エンドポイントは、手術時間(operating time)、微小血管出血を有する患者の数、手術後7日での%移植物生存、手術後に集中治療室(ICU)で過ごした日数、入院の日数、及び手術後30日での患者生存率であった。さらにまた、熱傷傷害を有する患者において通常認められる手術後の合併症は、患者が病院から退院するまで記録された。これらには、創感染(wound infection)、肺炎、セプシス、急性の肺傷害、腎不全、循環障害(circulatory failure)、および多臓器不全が含まれる。加えて、全ての患者は、試験薬物に関する有害なイベント(特に、血栓塞栓のイベント)に関して30日間モニターされた。
【0141】
ヘモグロビン濃度、血小板、およびプロトロンビン時間国際標準化比率(PT-INR;prothrombin time-international normalised ratio)は、手術開始の直前、並びに2および4時間後に測定された。加えて、VII因子:凝固活性 (FVII:C)、トロンビン-抗トロンビン複合体(TAT; Enzygnost TAT micro, Dade Behring)、組織因子(TF;Imubind TF ELISA kit, American Diagnostica Inc.)、およびインターロイキン-6(IL-6; Quantikine Human IL-6 Immunoassay, R&D Systems)は、手術開始の直前に及びその後の20min, 40min, 1hr, 2hr , 4hr , および8hrに測定された。全てのアッセイは、処理を知らない研究室の技術員によって実施された。
【0142】
rFVIIaおよびプラセボ群からの結果は、必要に応じて、計数したデータに対し独立t-検定、二標本ウィルコクソン順位和検定またはフィッシャーの直接確率検定(Fisher’s exact test)を用いて比較された。<0.05のp値を、統計的に有意であると考えた。
【0143】
結果:
21の連続的な患者は算入判定基準に合致し、18が試験に参加した。3人の患者は除外された。というのも、外科医も麻酔医もいなかったからである。9患者はrFVIIaをうけ、9患者はプラセボをうけた。プラセボおよびrFVIIa群の患者間のベースライン特性に統計学的に有意な差は、存在しなかった(表7)。全ての患者は、熱傷傷害の4日後以降に一段階の手術(one-stage surgery)を経験した。
【0144】
結果は、表8に要約される。輸血された血液の総ユニット数(RBC+FFP+血小板)は、プラセボ群と比較して、rFVIIa群において有意に減少していた(中央値17 vs 37, p=0.01)。rFVIIa群中の1患者およびプラセボ群中の4患者は、微小血管出血を発症した(p=0.29)。これらの患者は、微小血管出血を発症しなかった患者よりも、有意により輸血を必要とした(37 vs 18, p<0.01)。そのうえ、プラセボ群と比較して、rFVIIa群において、多臓器不全の発症の減少にむかう(p=0.08)、及び移植片生存のパーセンテージの増加にむかう(p=0.1)傾向があった。
【0145】
手術後にセプシス、創感染、又は肺炎を発症した患者数に関して、rFVIIaおよびプラセボ群間に差はなかった。3患者は30日の試験期間を生存せず;彼らは全てプラセボ群であった。rFVIIaに関連すると考えられた有害なイベントは存在しなかった。
【0146】
手術前のPT-INR値は、患者の両群で正常範囲内であった。rFVIIaの投与によって、中央値PT-INR(median PT-INR)が治療前の1.20から<0.70へと短くなり、8時間でベースラインの値に戻りはじめた(データ示さず)。プラセボ群中のPT-INRは、変化しないままであった。FVII:Cの濃度は、手術の開始前にrFVIIaおよびプラセボ群の両群において、正常範囲(0.54-1.23 U/mL)内であった。前記レベルはプラセボ群で変化しないままであった。他方で、rFVIIa群において、FVII:Cは投薬後に20倍まで増加した(図1)。
【0147】
TATのベースラインレベルは、両群で類似し、正常範囲(1.0-4.1ng/mL)よりも高かった(図2)。rFVIIa投与の約40分後、TATのレベルはプラセボ群におけるものよりも有意に高かった(p=0.05)。しかし、この効果は第2の用量の投与後の1時間内に減った(abated)。
【0148】
手術前の全患者における血漿IL-6濃度は、正常範囲(<3.0pg/mL)よりも高かった(図3)。興味深いことに、プラセボ群において、手術は、有意(p=0.05)な、血漿IL-6レベルにおける6倍の増加を誘導し、手術開始後の4時間で最大レベルに達した。対照的に、rFVIIa治療患者において、IL-6のピークレベルは、若干早く2〜4時間で達し、手術は本群においてIL-6レベルの有意ではない3.3倍の増加を誘発するのみであった。これらの所見は、rFVIIaがこれらの患者での炎症誘発性(proinflammatory)のサイトカイン応答を変調(modulated)したことを指摘している。
【0149】
血漿TF濃度は、群間で統計学的に差はなく、全ての測定されたタイムポイントで正常範囲(149±72pg/mL)内であった(データ示さず)。
【表7】

【表8】

本例は、摘出および皮膚移植を経験している、全層の熱傷創を有する患者における、rFVIIaの有効性および安全性の別の試験である。本試験に使用された経験的な用法(empirical dose regimen)(2つの用量に対し、40μg/kg)は、全体的な輸血要求性を有意に減少させた。rFVIIaを受けている患者は、プラセボ群と比較して、生存率が増加している(9患者のうち9 vs. 9患者のうち6)。また、多臓器不全を発症する患者数の減少へと向かう傾向が存在した。さらにまた、プラセボ群と比べて、rFVIIa処理群において組織片生存の増加へと向かう傾向が観察され、このことはrFVIIa処理が影響された組織における局所的なホメオスタシスを損なわせないことを指摘している。プラセボ群中の4患者は、微小血管出血を発症した(rFVIIa群中で1患者のみであったことと比較される)。これらの患者は、残りのコホートと比べて、有意により多くの輸血を要求した。微小血管出血を発生したrFVIIa処理群中の患者は、第1の用量のrFVIIaが投与され、総体表面領域の35%の摘出およびドナー部位からの皮膚採集が完了した80分後に、輸血を要求した。第2の用量のrFVIIaの投与の5分後、微小血管出血は止まり、再出現しなかった。このことは通常は治療することが困難である本出血コンディションにおける、rFVIIaのプロ止血効果(pro-haemostatic effect)を示している。
【0150】
手術開始前のTATレベルの増加によって、これらの患者の特性である過凝固状態(hypercoagulable state)が確認された。rFVIIaの投与は、さらにTATレベルを有意に増加させた;これはrFVIIa増強性のトロンビン産生の証拠を提供するものである。FVII:CおよびTAT濃度の双方は、第1の用量の投与の8時間後にベースライン値に接近した。本研究において、血栓塞栓性の有害なイベントは存在しなかった。
【0151】
熱傷傷害を伴う患者において、細菌感染に対する感受性の増加を生じる細胞免疫機能の抑制は、罹病率および死亡率に直接的に影響する主な合併症である。マクロファージ並びにIL-6を含む免疫および急性期応答の制御に関与する多面性サイトカイン(a pleiotropic cytokine)は、熱傷および外傷性の傷害の後の免疫機能不全を惹起することに中心的な役割を担っている。幾つかの臨床コンディション(例えば、熱傷、外傷、癌、および感染)は、異常に高いレベルの循環IL-6および異常な免疫応答と関連する。高レベルのIL-6は、T細胞機能を抑制し、死亡率の増加とポジティブに相関する。さらにまた、重症の患者において、凝固系の活性化および炎症反応の間の相互作用は、臨床転帰を悪くし、多臓器不全を生じ、最終的には死亡へと至ることとなるだろう。
【0152】
本試験において、全ての患者は、手術前にIL-6レベルが上昇しており、これは傷害への炎症性反応を反映するものである。手術処置は、さらなるIL-6レベルの一過性の上昇を生じ、手術の開始の4時間後に、その最大レベルに達した(プラセボ処理患者において)。興味深いことには、rFVIIaをうけた患者において、手術誘導性IL-6(surgery-induced IL-6)は、手術前のベースラインと比べて有意に上昇せず、手術開始の2〜4時間後により早くピークに達した。本所見は、rFVIIaが手術誘導性の組織傷害を変調しえることを示唆する。我々は、この炎症性を変調する効果が少なくとも部分的に、rFVIIa処理群における多臓器不全が少ない傾向が観察されたことを説明するであろうと推測している。これらの所見から、我々は、rFVIIaの使用によって、現在は知られていない機構によって(その止血に関する潜在性に加えて)本患者集団に手術によって惹起される炎症を減少させることによって恩恵を与えることをはじめて示唆する。以前の報告とは対照的に、我々は、IL-6レベルが増加したにもかかわらず、循環TFレベルにおける随伴性の増加を観察しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】図1は、rFVIIa(黒塗り四角)およびプラセボ(空四角)群におけるFVII:Cのレベルを示す。各データポイントは、6-8患者の平均およびSEMを表す。
【図2】図2は、rFVIIa(黒塗り四角)およびプラセボ(空四角)群におけるトロンビン-抗トロンビン複合体のレベルを示す。各データポイントは、6-8患者の平均およびSEMを表す。
【図3】図3は、rFVIIa(黒塗り四角)およびプラセボ(空四角)群におけるインターロイキン-6のレベルを示す。各データポイントは、6-8患者の平均およびSEMを表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱傷外傷の治療する医薬を製造するための、VIIa因子またはVIIa因子均等物の使用。
【請求項2】
請求項1に記載の使用であって、前記患者は、10%以上のTBSAの摘出を必要とする熱傷外傷を被っている使用。
【請求項3】
請求項1または2に記載の使用であって、前記患者は微小血管出血を有する使用。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の使用であって、前記医薬が少なくとも約40μg/kg、例えば、少なくとも約80μg/kg、例えば、少なくとも約100μg/kgのVIIa因子又は相当する量のVIIa因子均等物を含む使用。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の使用であって、前記医薬が、少なくとも約40μg/kg、例えば少なくとも約80を又は相当する量のVIIa因子均等物を含有している第1の用量を、次に治療の開始後1〜24時間に投与される少なくとも約40μg/kg、例えば少なくとも約80μg/kgのVIIa因子又は相当する量のVIIa因子均等物を含有している第2の用量を投与するためのものである使用。
【請求項6】
請求項5に記載の使用であって、更なる、少なくとも約40μg/kg、例えば少なくとも約80μg/kgのVIIa因子又は相当する量のVIIa因子均等物を含有している第3の用量が、前記第2の治療の開始の少なくとも約1時間後に投与される使用。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の使用であって、前記医薬が、全血(WB)、パック赤血球(pRBC)、または新鮮凍結血漿(FFP)での、例えば、約2ユニット、5ユニットを超える、又は約8ユニットを超える輸血を、彼らの外傷性の熱傷傷害の時間及びVIIa因子またはVIIa因子均等物の投与の時間の間に要求する患者の治療のためのものである使用。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか1項に記載の使用であって、前記医薬が、前記VIIa因子またはVIIa因子均等物による前記の予防または減弱化を増大(augments)させる量の第2の凝固剤をさらに含む使用。
【請求項9】
請求項8に記載の使用であって、前記第2の凝固剤が、凝固因子および抗フィブリン溶解剤からなる群から選択される使用。
【請求項10】
請求項9に記載の使用であって、前記凝固剤が、V因子、VIII因子、IX因子、X因子、XI因子、XIII因子、フィブリノーゲン、トロンビン、TAFI、PAI-1、アプロチニン、イプシロン-アミノカプロン酸またはトラネキサム酸、様々な抗血栓治療、同様に血小板、RBC、FFP、酸素運搬体での輸血、様々なバイパスする因子および流体療法(コロイド/クリスタロイド)からなる群から選択される使用。
【請求項11】
以下を具備する、熱傷外傷の治療のためのパーツのキット:
(i)VIIa因子またはVIIa因子均等物を含む医薬;および
(ii)以下に記す事項を記載している使用のための説明書:
a. 少なくとも約40μg/kg、例えば、少なくとも約80、例えば、少なくとも約100μg/kgのVIIa因子又は相当する量のVIIa因子均等物を含有している第1の用量は、治療の開始時に投与すべきこと;
b. 少なくとも約40μg/kg、例えば少なくとも約80μg/kgのVIIa因子又は相当する量のVIIa因子均等物を含有している第2の用量は、治療の開始の1から24時間後に投与すべきこと。
【請求項12】
請求項11に記載のキットであって、前記使用のための説明書が、少なくとも約40μg/kg、例えば少なくとも約80μg/kgのVIIa因子又は相当する量のVIIa因子均等物を含有している自由選択の第3の用量が、前記患者に前記第2の治療の開始の少なくとも約1時間後に投与しえることをさらに記載するキット。
【請求項13】
熱傷外傷を治療するための方法であって、該治療を必要とする患者に該治療に効果的な量のVIIa因子またはVIIa因子均等物を投与することを備える方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法であって、前記患者は、10%以上のTBSAの摘出を必要とする熱傷外傷を被っている方法。
【請求項15】
請求項13または14に記載の方法であって、前記患者は微小血管出血を有する方法。
【請求項16】
請求項13〜15の何れか1項に記載の方法であって、前記効果的な量が少なくとも約40μg/kg、例えば少なくとも約80μg/kg、例えば少なくとも約100μg/kgのVIIa因子又は相当する量のVIIa因子均等物を含む方法。
【請求項17】
請求項13〜16の何れか1項に記載の方法であって、前記第1の量の少なくとも約40μg/kg、例えば少なくとも約80μg/kgのVIIa因子又は相当する量のVIIa因子均等物は治療の開始時に投与され、第2の量の少なくとも約40μg/kg、例えば少なくとも約80μg/kgのVIIa因子又は相当する量のVIIa因子均等物は患者に治療の開始の1〜24時間以上後に投与される方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法であって、前記患者に第3の量の少なくとも約40μg/kg、例えば少なくとも約80μg/kgのVIIa因子又は相当する量のVIIa因子均等物を、前記第2の治療の開始の少なくとも約1時間後に投与することをさらに備える方法。
【請求項19】
請求項13〜18の何れか1項に記載の方法であって、前記患者に前記VIIa因子またはVIIa因子均等物による前記治療を増大させる量の第2の凝固剤を投与することをさらに備える方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法であって、前記第2の凝固剤が、凝固因子および抗フィブリン溶解剤からなる群から選択される方法。
【請求項21】
請求項20に記載の方法であって、前記凝固剤が、V因子、VIII因子、IX因子、X因子、XI因子、XIII因子、フィブリノーゲン、トロンビン、TAFI、PAI-1、アプロチニン、イプシロン-アミノカプロン酸またはトラネキサム酸、様々な抗血栓治療、同様に血小板、RBC、FFP、酸素運搬体での輸血、様々なバイパスする因子および流体療法(コロイド/クリスタロイド)からなる群から選択される方法。
【請求項22】
熱傷外傷を予防するための方法であって、該治療を必要とする患者に、該治療に効果的な量のVIIa因子またはVIIa因子均等物を、熱傷外傷を治療する目的で意図的に投与することを備える方法。
【請求項23】
大多数(majority)の熱傷外傷患者における熱傷外傷を治療するための方法であって、以下を備える方法:
(i)熱傷外傷患者の群に、VIIa因子またはVIIa因子均等物の前記治療に効果的な量を投与すること;および
(ii)前記群の患者間での熱傷外傷の1以上の臨床パラメータの減少を、前記VIIa因子またはVIIa因子均等物を受けなかった患者の同群で予期されるだろう前記臨床パラメータのレベルと比較して観察すること。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−537205(P2007−537205A)
【公表日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−512212(P2007−512212)
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【国際出願番号】PCT/EP2005/052150
【国際公開番号】WO2005/107795
【国際公開日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(501497563)ノボ ノルディスク ヘルス ケア アクチェンゲゼルシャフト (58)
【Fターム(参考)】