熱光学フィルタ及びそれを用いた赤外線センサ
サンプル領域における化学物質を検出するための光センサには、光を生成し、その光がサンプル領域を通過するように導くための放射体が含まれる。また、センサには、光がサンプル領域を通過した後、光を受光し、検出器が受光する光に対応する信号を生成するための検出器が含まれる。更に、センサには、放射体と検出器との間に配置された熱光学フィルタが含まれる。光学フィルタは、放射体からの光のフィルタ処理を選択的に行うための調整可能な通過帯域を有する。光学フィルタの通過帯域は、光学フィルタの温度を変更することによって調整可能である。また、センサには、光学フィルタの通過帯域を制御し、検出器からの検出信号を受信するためのコントローラが含まれる。コントローラは、光学フィルタの通過帯域を変調し、検出信号を分析して化学物質の吸収ピークが存在するかどうかを判定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に化学センサに関する。
【背景技術】
【0002】
ある範疇の化学センサは、サンプル領域における低濃度の特定のガスを検出するために用いられる。通常のターゲットガスには、特に、CO2、CH4及びCOが含まれる。この範疇には、触媒燃焼、電気化学、光イオン化、水素炎イオン化、赤外線(IR)吸収、金属酸化物、熱伝導率及び熱量測定を含む多くの異なるセンサ技術が含まれる。これらの技術のうち、光学技術(特に、吸収)は最も厳密であるが、通常、民生用途にとっては、費用がかかり過ぎる。従って、通常、従来技術による民生用センサは、光センサの代わりに、廉価な電気化学センサを用いる。しかしながら、電気化学センサには、非特異的応答、有限の寿命といった難点があり、また、一般的に不正確である。低コストで堅牢な光学ガスセンサが、HVAC、家庭、車両等にとって商業的に重要となる。
【0003】
一般的に、光センサは、分散性(分光計)又は非分散性に分類され、後者は、狭帯域(レーザ又は狭帯域LED)光の利用又は狭帯域光を生成するように狭帯域フィルタを備えた光の利用のいずれかを実現する。光学化学センサは、化学物質の吸収プロファイルに合致する放射プロファイルを提供するようにフィルタ処理された光を用いる。センサは、化学物質が存在し得るサンプル領域を通過するように光を導き、更に、領域を透過することで、吸収波長において、光が減衰するかどうか、また、どれだけ減衰するかを判定する。減衰量は、領域における化学物質の濃度及び領域を通過する光の経路長に依存する。
【0004】
有毒な微量ガス(CO等)の検出には、ガスの極めて低い濃度(例えば、50ppm以下)の検出が必要である。4420〜4900nmまでの回転吸収線の帯域を有するCOを例にとると、1メートルの経路を通過する際、この波長における吸収は、わずか0.1パーセント程度である。そのような小さい吸収では、確実に検出するのは困難である。従って、そのような検出環境における光学的検出には、高精度の比較又は差分測定が必要となる。この比較は、1つが吸収に合致しもう1つが合致しない2つの固定フィルタを用いて、単一の光路上であってよい。この比較は、他の選択肢として、単一のフィルタを用い得るが、1つがガス中で相対的に長い距離に及び、もう1つが短い距離に及ぶ2つの光学経路を比較してもよい。第3の取り組み方法は、チューナブルレーザを用いて、超狭帯域光を導き、サンプル領域を通過させ、化学物質吸収ピーク上及びそこから離れた光の波長を変更し得る。しかしながら、チューナブルレーザは、相対的に高価な傾向にあり、低コスト用途(例えば、CO及びCO2監視装置)にとっては適切な選択ではない。
【0005】
チューナブルレーザの代替として廉価な光学化学センサを図1に示す。IR源12は、相対的に広帯域なスペクトルの光を導き、サンプルガス14、多数の帯域通過フィルタ16a〜16dを通過させて、多数の検出器18a〜18dに到達させる。(基準フィルタ16dを除く)各帯域通過フィルタは、異なる化学物質の吸収ピークに対応する中心波長の通過帯域を有する。この例では、フィルタ16aの中心波長は、CH4の吸収ピークに対応し、フィルタ16bの中心波長は、CO2の吸収ピークに対応し、フィルタ16cの中心波長は、COの吸収ピークに対応し、フィルタ16d(基準経路)の中心波長は、Ch4、CO2及びCOの吸収プロファイル外の波長である。場合によっては、基準検出器18dがIR源12のスペクトル全体を受光するようにし、光学化学センサが基準フィルタ16dを用いないことがある。
【0006】
各検出器18a〜18dは、制御・検出電子回路20に信号を供給する。制御・検出電子回路20は、各ガス検出器18a〜18cからの信号と、基準検出器18dからの信号とを比較する。ガス検出器からの信号レベルが、(基準検出器からの信号と比較して)小さいということは、対応するガスの存在を示す。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの側面において、サンプル領域における化学物質を検出するための光センサには、広帯域スペクトルを有する広帯域の光を生成するための放射体が含まれる。光は、サンプル領域を通過する光路に沿って進む。また、センサには、検出器が受光する光に対応する検出信号を生成するための検出器が含まれる。検出器は、光路に配置される。更に、センサには、光路を進む光のフィルタ処理を選択的に行うための調整可能な通過帯域を有する光学フィルタが含まれる。光学フィルタの通過帯域は、光学フィルタの温度を変更することによって調整可能である。1つの実施形態には、光学フィルタの通過帯域を制御するためのコントローラが含まれる。コントローラは、ある波長範囲全体において光学フィルタの通過帯域を変調する。また、コントローラは、検出器から検出信号を受信し、検出信号を分析して、化学物質の吸収ピークが存在するかどうかを判定する。
【0008】
一実施形態において、放射体の温度を変更すると、それに応じて光学フィルタの温度が変化し、これによって光学フィルタの波長が調整されるように、放射体及び光学フィルタが熱的に結合される。放射体及び光学フィルタは、熱放射を介してもしくは熱伝導を介して、又は何らかのその組立体を介して、熱的に結合し得る。
【0009】
光学フィルタは、放射体から独立して、光学フィルタの温度を変更するための発熱素子を含み得る。放射体は、第1基板フレーム上に搭載された薄膜メンブレンを含んでよく、放射体及び光学フィルタは、調整可能な光放射体(TOE)を形成するように互いに結合し得る。他の実施形態において、光学フィルタは、調整可能な光学検出器(TOD)を形成するように、検出器に近接して配置される。
【0010】
一実施形態において、コントローラは、化学物質の吸収ピークを中心とする所定の周波数において、通過帯域を周期的に変調し、化学物質の吸収ピークに対応する変動がないか検出信号を分析する。他の実施形態において、コントローラは、ロックイン検出手法を用いて、検出信号を分析する。更に他の実施形態において、コントローラは、コントローラが光学フィルタの中心波長を変調する際に、検出信号の導関数を評価し、複数の通過帯域変調サイクルの間における検出信号の導関数の平均を求め、化学物質の吸収ピークを検出する。
【0011】
一実施形態において、放射体、検出器及び光学フィルタは、近接して配置され、放射体/検出器/フィルタの組立体を形成する。更に、センサには、組立体に光を反射するための逆反射体が含まれ、コントローラは、光学フィルタの温度を変更するのに必要な電力量を計算する。コントローラは、その計算された電力量から、化学物質の吸収ピークが存在するかどうかを判定する。
【0012】
他の実施形態において、放射体及び検出器は、近接して配置され、放射体/検出器の組立体を形成する。更に、センサには、光学フィルタの通過帯域を制御し、検出器から検出信号を受信するためのコントローラが含まれる。コントローラは、光学フィルタの温度を変更するのに必要な電力量を計算し、また、計算された電力量から、化学物質の吸収ピークが存在するかどうかを判定する。
【0013】
他の側面において、ある範囲の波長全体において変換可能な波長スペクトルを有する光を生成するための調整可能な光放射体には、第1波長スペクトルを有する光を生成するための光源が含まれる。更に、調整可能な光放射体には、光源からの光のフィルタ処理を選択的に行うための調整可能な通過帯域を有する光学フィルタが含まれる。光学フィルタは、光源から光を受光し、第1波長スペクトルが第2波長スペクトルを含むように、第2波長スペクトルを有するフィルタ処理された光を生成する。光学フィルタの通過帯域は、光学フィルタの温度を変更することによって調整可能である。
【0014】
一実施形態において、光源の温度を変更すると、それに応じて光学フィルタの温度が変化するように、光源及び光学フィルタが熱的に結合される。熱的結合は、放射もしくは伝導又はその何らかの組合せを介してよい。他の実施形態において、光学フィルタには、光源の温度とは独立に光学フィルタの温度を変更するための発熱素子が含まれる。
【0015】
一実施形態において、光源には、第1シリコンフレーム上に薄膜メンブレンが含まれ、光源及び光学フィルタは、互いに結合される。
他の側面において、調整可能な通過帯域を有する光学フィルタメンブレン構造には、基板フレーム上において、少なくとも1つの共振空胴を形成する複数の積層薄膜層からなるフィルタメンブレンが含まれる。通過帯域は、フィルタメンブレンの温度を変更することによって調整可能である。更に、光学フィルタメンブレン構造には、フィルタメンブレンに対応付けられ、ある波長範囲全体において通過帯域を調整するための発熱体が含まれる。発熱体には、フィルタメンブレン上部に形成された環状発熱体構造を含み得る。もしくは、発熱体には、フィルタメンブレン側に赤外線を放射する放射性の放射体を含み得る。
【0016】
一実施形態において、フィルタメンブレンは、シリコンウェハの表面上に複数の積層薄膜層を成膜することによって、また、シリコンウェハの残留部分が、フィルタメンブレン周辺にシリコンフレームを形成するように、シリコンウェハの裏面上における開口部をエッチングにより除去することによって形成される。
【0017】
一実施形態において、フィルタ薄膜メンブレンには、ゲルマニウムが含まれる。他の実施形態において、フィルタメンブレンには、シリコンが含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
記載した実施形態は、調整可能光放射体(TOE)を用いて、狭帯域赤外線(IR)光をガスサンプルを通過させ検出器に導くCOガスセンサである。センサは、COスペクトル吸収特性全体において、即ち、約4500nmから約4700nmまでのIR光の波長を前後に変調する。
【0019】
以下に詳述するように、TOEには、ほとんど又は全く熱的結合されずに近接されるか、あるいは、放射体とフィルタが熱的に結合されるように直接的一体化によって、熱光学調整可能フィルタに対応付けられる黒体放射体が含まれる。図4A(以下に詳述)において、破線表示のボックス118は、調整可能熱光学フィルタと共に低コストの光源としての黒体放射体を含む調整可能光源(即ち、TOE)を形成するように、放射体とフィルタとの間の関連を表す。このTOE概念は、(限定しないが)2つの主要な実施形態を包含する。
【0020】
1つのTOE実施形態は、一定出力のスペクトル及び大きさを有する固定放射体を配置し、調整可能光学フィルタを背面照射する。放射体及びフィルタは、缶又は当該分野で公知の他の適切な電子回路パッケージ等、単一のパッケージに配置し得る。調整可能光学フィルタには、放射体とは独立に、調整用の専用の加熱機構が含まれる。放射体は、通常、一定の相対的に高い温度(例えば、500℃〜1000℃の間付近)で高強度放射を行うが、フィルタ温度は、その材料の完全性を維持するためにかなり低く、また、調整目的のために、例えば、25℃から400℃までの温度範囲において変化する。波長対温度調整比率は、ゲルマニウム材料及び中間IR設計の場合、0.6nm/℃が普通である。もっと一般的には、波長対温度調整比率は、通常、ゲルマニウムの場合、中心波長の1.3×10−4/℃によって与えられ、シリコンの場合、1℃当たり中心波長の6×10−5によって与えられる。
【0021】
調整可能フィルタに近接して搭載され、独立した発熱抵抗器がフィルタ構造に組み込まれた固定放射体の場合、放射体は、近接によってその調整に影響を及ぼさないように、ある程度フィルタから熱的に絶縁することが重要である。このことは、充分な距離を要素間に設けることによって、また、適切なパッケージ化によって行い得る。
【0022】
金属製の放物線形状、楕円形状又は他の形状の背面反射器を設けて、IR放射を集束させ、それをフィルタ開口部に誘導すると、図2Aに示すように、全てのそのような放射体の効率が改善される。図2Aに示す楕円形のフィルタは、放射体からの光をフィルタの入力開口部に再集束するために用い得る。図2Bは、走査プロセス中、放射体温度が一定に留まり、一方、フィルタの温度がその独立した発熱体回路を介して増減することを示す。この調整可能光学フィルタの実施形態は、高温の放射体を熱駆動式フィルタから絶縁する必要があることから、小型化のために限定された電位を有する。放射体がフィルタに近過ぎる場合、フィルタの温度は、放射体とは独立に制御できない。
【0023】
本明細書において集積TOE(ITOE)と呼称するTOEの第2実施形態には、極端な近接によって、又は接合材料もしくは他の取付け手法を介してフィルタを放射体に取り付けることによって(図2C参照)、IR放射体が熱的に結合されたフィルタが含まれる。上述した第1TOE実施形態の場合と同様に、ITOEの放射体及びフィルタも、缶又は当該分野で知られている他の適切な電子回路パッケージ等の単一のパッケージに配置し得る。図2Cに示すように、TOEが反射器焦点にある放物線状の反射器は、ガス及び検出器側に放射を導く。熱的結合により、フィルタは、放射体によって直接加熱される(よって調整される)ため、フィルタは、それ自体の内部加熱構成要素又は独立した加熱回路を必要としない。熱的結合には、放射性及び伝導性の結合を含み得るが、伝導より放射性の結合が好まれる。この理由は、放射性の結合は、時間に対して温度を大きく変化できるためである。本実施形態において、放射体温度は、一定温度で動作する代わりに、例えば、800℃と1000℃との間で周期的に変動し、フィルタが、熱的結合を介して、例えば、100℃と400℃との間において加熱される(図2D参照)。放射体温度範囲とフィルタ温度範囲との間の関係は、適切な構造及び寸法決めによって、及び、フィルタが透過しない波長を吸収する適切な層をフィルタに設けることによって定められ、これによって、放射体に対するその結合が強化される。他の実施形態は、異なる温度範囲及び関係を用い得る。放射体においては、放射体を周期的に加熱する際、フィルタを間接的に調整する1つの発熱体回路だけが必要である。この結果、調整可能放射体は完全に集積されたものとなり、これは、例えば、TO5缶パッケージの内側にちょうど収まるように極めて小さくてよい。
【0024】
黒体放射体の温度が高くなるにつれて、任意の与えられた波長におけるその放射が、図3Aに示すように、その温度に比例して大きくなることは公知である。従って、図2Cの調整可能放射体の出力も、図3Bに示すように調整されると、大きくなると予想し得る。そのような出力パワーの変動は、特に、変動が過剰な場合、望ましくない。しかしながら、ゲルマニウムの透過率は、その温度が高くなるにつれて小さくなる。従って、ゲルマニウム膜を用いるフィルタの場合、フィルタ透過率が低下すると、放射体がフィルタを加熱する(そして、これにより調整する)につれて、増大した黒体照射が相殺される傾向にあり、この結果、図3Cに示すように、出力強度が一定又はほぼ一定になる。フィルタそれ自体も、更に温度に対して全体的強度上昇に寄与する黒体放射体である。これらの3つの因子を組み合わせると、TOEが所望の波長を走査する際、一定の又はほぼ一定の出力強度を有するTOEを生成し得る。出力変動が小さいと、当該分野で公知の電子的手法を介して、検出器において又はその後に補正し得る。
【0025】
COガスセンサは、その構成膜の熱光学特性を利用して、熱的機構を用いてTOEを調整する。熱光学フィルタは、電子ビーム成膜、スパッタリング、及びプラズマ化学蒸着法(PECVD)等の薄膜成膜用の既存手法により製作する場合、費用が相対的に安い。更に、相対的に簡単な設計変更により広範囲な帯域幅が提供される。従って、化学センサへのTOEの組み込みは、IR調整可能なフィルタに対する低コストで大量生産可能な取り組み方法であり、また、広範囲な目標波長に渡って利用し得る。
【0026】
図4Aを参照すると、一実施形態であるCOガスセンサ100には、黒体放射体102、調整可能フィルタ104、多経路ガスセル106、検出器108及びコントローラ110が含まれる。黒体放射体102は、調整可能フィルタ104に広帯域の黒体放射エネルギを提供する。コントローラ110によって、調整可能フィルタ104は、CO吸収プロファイルに対応する範囲の波長全体においてその透過を走査する。調整可能フィルタ104は、同じ範囲の波長も走査するスペクトルを持つ、フィルタ処理された光を生成するように、放射体102からの光をフィルタ処理する。調整可能フィルタ104からのフィルタ処理された光は多経路ガスセル106に入射されるが、多経路ガスセル106は、フィルタ処理された光がガスセル106内のガスサンプル中を多数回通過できるようになっている。検出器108は、光がガスサンプルを通過した後、その光をガスセル106から受光し、受光する光に対応する検出信号を生成する。コントローラ110は、検出信号を分析して吸収ピークが存在するかどうか判定する。
【0027】
以下の項では、このCOガスセンサ100の各構成要素に関して詳述する。
黒体放射体102(本明細書では、黒体源とも呼称する)は、図2Aに示すように、相対的に広い黒体スペクトルを有する電磁波エネルギを生成する。黒体放射体102は、調整可能フィルタ104側に赤外光116を放射する。記載した実施形態において、黒体放射体102は、シリコン基板であり、薄いシリコン又はダイヤモンド状の炭素からなる1つ又は複数の導電性層が化学蒸着法(CVD)又は他の薄膜成膜手法を介して成膜されている。シリコン基板裏面の内側部分は、エッチングにより完全に除去され、シリコンフレームには、薄膜放射体だけが残る。この構造は、急激な温度変化に対応し得る相対的に小さな熱的慣性を有する放射体になる。電気的接点は、薄膜の外縁に成膜される。薄膜放射体は、これらの電気的接点間に電位を印加することによって加熱され、これによって電流が導電性膜中を流れる。
【0028】
長寿命で低コストかつ高強度IR出力とする場合は、種々の他の放射体構造を選択してもよい。また、効率的な光学系を設けるためには、できるだけ小さい放射体が望まれる。そのような放射体には、導電性を有するように不純物が添加されたシリコンチップ、薄いシリコンメンブレン、ダイヤモンド状の炭素からなる薄いメンブレン、又は金属製コイルもしくはフィラメントが含まれる(本明細書で用いる“メンブレン”には、単一の薄膜層又は互いに積層された多数の薄膜層を含み得る)。タングステンワイヤからなる小型白熱電球もまた、可能な放射体であるが、そのガラス製の封体部は、ほとんどの中間IR放射線を遮断する。Ni、Fe、又はAlを含むCr合金(“ニクロム”又は“カンタル(kanthal )”等)は、金属製コイル又はフィラメント放射体の場合、良い選択である。この理由は、それらは、もしあれば4000〜5000nmの間のIR放射を遮断する窓部を必要とせず、1000C以上で空気中において動作でき、寿命が長いためである。
【0029】
黒体放射体102には、ミクロンレベルの凹凸が形成されたシリコン表面を含み得るが、この結果、単純なシリコン膜と比較して、ある程度狭い黒体スペクトルになる。この狭い黒体スペクトルによって、浪費される帯域外のIRエネルギが少ないことから、放射体に供給されるパワーをより効率的に用いることができる。例えば、ダリ(Daly)らによる、1999年、ボストンでのMat.Res.Soc.Symp.OOO4.7 、"リソグラフィにより形成されたシリコン表面からの調整されたIR放射"を参照されたい。
【0030】
調整可能フィルタ104は、CO吸収特性範囲において、帯域通過透過応答を提供する熱光学フィルタである。一般的に、本明細書に述べた調整可能光学フィルタは、アイギス・セミコンダクタ(Aegis Semiconductor,Inc.)社によって、1500nm又はその付近での用途のために、電気通信業界向けに包括的に開発された狭帯域通過フィルタである。上記特許及び公報において述べたように(例えば、2004年1月の光波技術の機関紙参照)、これらのフィルタは、単一又は多空洞のファブリ・ペロ線形状又は偏平頂上線形状であってよく、様々な帯域幅で動作し得る。そのようなフィルタは、内部の伝導性膜又は金属抵抗膜による加熱又は冷却によって調整可能である。本明細書に述べた実施形態は、元来1.5ミクロンでの用途用に開発されアモルファスシリコンを用いる技術を、より長い波長3〜12マイクロメートルに拡張して、ガス検出に用いるようにした。これらの根底にある原理はほとんど同じであり、例外として、中間IR用途の場合、シリコンの代わりにゲルマニウムを用いることが多いが、これは、中間IR波長において、ゲルマニウムの透過率が優れていることやゲルマニウムの波長対温度調整比率が大きいためである。
【0031】
中間IR範囲用途(ほぼ2〜5ミクロン波長)の場合、調整可能フィルタ104は、シリコン・オン・インシュレータ(SOI)ウェハ上に成膜されたゲルマニウム及び一酸化シリコンの薄膜から形成される。そのような薄膜フィルタは、公知の方法を用いて、設計・製作される。例えば、記載した実施形態において、フィルタ104は、3つの共振空洞からなる約20層の薄膜構造で設計され、4.55ミクロン波長において約0.1ミクロン幅(100nm)である“正方形の”透過領域を示し、この透過領域内では、約90%が透過する。この特定の空洞の数、層の数、寸法の組は、この説明のための単に代表的な事例であり、他の構造も用い得る。そのような熱光学調整可能薄膜フィルタの例は、2003年10月7日に出願された米国特許出願第60/509,379号、”チューナブル・フィルタ・メンブレン構造”に記載されており、その全体を引用参照する。
【0032】
図4B及び4Cは、TO8缶パッケージの熱調整可能フィルタ104の実施形態を示す。フィルタ104は、ヘッダ130上に搭載されており、ヘッダ130は、缶パッケージの基部として機能する。ワイヤボンディングにより、フィルタ104上の発熱体リング132がヘッダ130のピンに接続される。缶136の頂部及びヘッダ130上の遮蔽フィルタ134によって、約4000〜5000nmまでの帯域幅内の光だけが通過し、これによって無関係な帯域外の光が除外される。
【0033】
調整可能フィルタ104は、その温度を変更することによって調整される。中心波長4.45ミクロンのゲルマニウム系フィルタの例示事例において、温度に伴う中心波長の変化率は、1℃当たり約0.6nm、即ち、100℃毎に60nmである。CO吸収帯域は、約4420〜4900nmまで2重ピーク構造を有する。検出は、4450〜4570nmまでの120nmの調整範囲で、CO吸収ピーク付近に存在する勾配上でフィルタ104を調整することによって行われるが、この調整範囲は、200℃の範囲に渡るフィルタの温度調整を暗に意味する。波長変化量の他の選択肢は、特定の用途(即ち、他の化学物質の検出)に又は特定の問題を解決するために用い得る。例えば、CO2吸収特性は、CO吸収ピークのちょうど短波長側において発生するため、2つのわずかに高い波長間で調整すると、CO2吸収からの干渉を回避し得る。
【0034】
熱量が小さくその結果高速な熱光学調整可能フィルタにするために、フィルタ104の一実施形態は、シリコンフレーム上に薄いメンブレン140を採用する。フィルタ104の下地は、シリコン・オン・インシュレータ基板であるが、この基板は、SiO2144の500nm層を500ミクロン厚の結晶シリコンウェハ142上に成膜し、そして、300nm層の結晶シリコン146をSiO2層144上に成膜することによって形成される。多数の膜が、結晶シリコン146上に成膜され、図5Aに示すように(エッチング前)、フィルタメンブレン140を形成する。フィルタメンブレン140を形成する薄膜積層には、例えば、中間IR用途の場合、アモルファスゲルマニウムと一酸化シリコンとが交互に重なり合う層が含まれる。メンブレン内において交互に重なり合う層に対する1つの可能な公式は、以下の通りである。即ち、
(3/4波c-Si)L(HL)24H(LH)3L(HL)34H(LH)3L(HL)34H(LH)3
この公式において、Lは、一酸化シリコンの四分の一波長、Hは、アモルファスゲルマニウムの四分の一波長であり、四分の一波長は4650nmに対して定義される。これは、4650nmを中心とした通過帯域約100nmの3空洞の平頂フィルタである。発熱体(この場合、環状発熱体構造)は、積層フィルタ層140上に配置されるが、他の実施形態では、発熱体は省略し得る。
【0035】
種々のエッチング手法が、シリコンウェハ142及びSiO2層144のパターン化されたフィルタ開口部領域を除去するために用いられ、図5Bに示すように、上部にGe/SiO膜積層メンブレン140を伴った状態で薄い結晶シリコン層146が残される(ウェハからの1つのフィルタだけを示す)。メンブレンは、数マイクロメートルの厚さを有し、アクティブな光学開口部は、約2〜3mmである。ゲルマニウムを用いると、約3〜12マイクロメートルと有利である。近赤外線における1.5〜3マイクロメートルでの同様な計測器又はセンサは、アモルファスシリコン薄膜から形成し得る。図5Cは、図5Bにおける構造の平面図(薄膜メンブレン140を向く方向)を示す。薄膜中のシリコン及びゲルマニウム材料は、ある波長帯域(例えば、中心波長が調整可能な状態で、4000nmから6000nmの範囲において100nmの幅)を透過し、放射体からの短波長を吸収して効率的な放射性の加熱を行うようになっている。
【0036】
一般的に、図5A、5B及び5Cに示す調整可能・フィルタ・メンブレン構造は、単独型のフィルタとして、また更に、TOEの構成要素(即ち、後述するように、調整可能光学検出器;TOD)として用い得る。そのような単独型のメンブレンフィルタは、化学センサの一部として以外に多くの用途を有する。例えば、そのような調整可能・フィルタ・メンブレン構造は、電気通信用途、写真及びビデオ装置、試験/測定装置や他の多くに用い得る。
【0037】
単独型のフィルタとして、調整可能・フィルタ・メンブレン構造には、フィルタの温度を変更するための発熱体が含まれる。発熱体は、(例えば、1つ又は複数のメンブレン層に不純物を添加して、それらを適切に伝導性にすることによって)フィルタメンブレン構造それ自体に、あるいは、フィルタメンブレン上に(例えば、金属製の環状発熱体の形態で)含み得る。その結果得られるフィルタメンブレン/発熱体は、極めて小さい熱量を有し、支持フレームから絶縁され、これによって調整可能光学フィルタ要素を高速で均一に且つ効率的に加熱し得る。
【0038】
従来技術による熱光学調整可能薄膜光学フィルタは、溶融シリカ基板上に成膜された集積不純物添加ポリシリコン発熱体を用いて調整される。発熱体は、フィルタそれ自体の前に成膜され、従って、フィルタとスラブ(slab)との間に配置される。この基板は、通常500um厚の“スラブ”であり、また、発熱体を基板から絶縁するものは何もなく、発熱体の温度は急激に変化し得ない。図5A、5B及び5Cのメンブレンフィルタは、更に均一な加熱及びより少ない光学散乱を提供することによって、熱光学調整可能フィルタの光学的性能を改善する。それはまた、安定な発熱素子を提供し、発熱素子の抵抗は、フィルタ温度、ひいては波長を較正するために用い得る。更に、それによって、このフィルタ構造には、反射防止膜が不要であることから、処理が簡素化される。
【0039】
更に、従来技術による熱光学調整可能薄膜光学フィルタは、発熱体のXY平面(即ち、図5Cに示す広い表面に対応する平面)全体において熱的に不均一であるという難点がある。これは、板状発熱体の具体化の結果であるが、板状発熱体は、縁部より中央部の方が高温である。この不均一性は、フィルタそれ自体の全体の調整勾配に変換され、その光学性能を劣化させる。更に、不純物が添加されたポリシリコン発熱体は、長時間高温に曝されると、抵抗ドリフトを呈することが知られている。この問題を抑制するために、このドリフトは、初期較正プロセス時、実験的に特徴付けられ、信号処理時、補正される。従って、図5A、5B及び5Cのメンブレンフィルタ構造が安定化された発熱体抵抗は、ドリフト補正の必要がなくなる。
【0040】
一実施形態において、そのようなメンブレンフィルタ構造は、(上述したように、また、2001年12月4日に出願された米国特許出願第10/005,174号、2002年6月17日に出願された特許出願第10/174,503号、及び2002年8月2日に出願された米国特許出願第10/211,970号(これら全てを本明細書に引用・参照する)において述べたように)、酸化結晶シリコン(c-Si )ウェハの表面上に薄膜フィルタ層を成膜することによって形成される。c-Siウェハ の上部表面は、例えば、当該分野で公知のウェット酸化によって酸化される。次に、環状発熱体構造147が、ボンディングワイヤ接続用の接合パッドと共にこのフィルタ上に形成される。接合パッドは、例えば、Ti/Auを介してメタライズされる。当該分野で公知のフォトリソグラフィマスキング手法を用いて、孔又は“井戸”が、ウェハの裏面からシリコン基板中にエッチングされ、酸化物エッチング停止層(この層は、フィルタをエッチングから保護する)で停止する。そして、この酸化物層は、酸化物エッチング液を用いて除去される。この結果、薄いメンブレンが、ブランケット・コート(blanket-coat)・フィルタ積層によって形成され、上部に環状発熱体構造147を有する。
【0041】
この手法は、従来技術による方法の場合よりある程度簡単であり、その結果、処理工程の数が低減される。発熱体は、従来技術による発熱体(例えば、上述したスラブ発熱体)よりも安定しており、また、フィルタメンブレンを更に均一に加熱して光学特性を改善する。発熱体は、従来技術による発熱体と比較して、より滑らかな発熱体表面を有しており、これにより散乱が低減され、また、挿入損失及び隣接チャネル阻止等の光学特性が改善される。この調整可能・メンブレン・フィルタの熱量が小さいため、従来技術による発熱体より速く温度を変更でき、その結果、より速い調整時定数になる。また、熱量が小さいため、従来技術によるほとんどの発熱体より消費電力が小さい。
【0042】
記載した実施形態の場合、調整可能フィルタ104は、破線で表したボックス118で象徴的に図4に示す黒体放射体102に対応付けられている。2つの構成要素が、TOEユニット120を形成し、TOEユニット120は、フィルタ104がスペクトル制御を行うため、従来技術による低コストのIR源より出力スペクトルが狭く、調整可能な範囲が広い。
【0043】
放射体102及びフィルタが熱的に結合された実施形態において、放射体102は、放射体102の温度が変化するにつれて、熱的結合を介して、フィルタ104の温度(これにより、波長)を調整する。放射体102の温度は、コントローラ110によって、その薄膜を介して駆動される電流量に従って変化する。この実施形態は、フィルタ104が調整される際、一定の(又はほぼ一定の)光学パワー出力を維持する。上述したように、(ゲルマニウムに特有の材料特性のために)温度上昇に伴うゲルマニウム光透過の低下は、黒体放射体の温度が上昇するにつれて、そのパワー出力が大きくなることによって相殺される。従って、この設計には、放射体制御及びフィルタの熱的調整双方のために、別個のものではなく1つの発熱体回路だけが必要である。
【0044】
放射体102及び調整可能フィルタ104が熱的に結合されていないTOE実施形態の場合、調整可能フィルタ104には、フィルタ104温度を変更するための専用の発熱素子が含まれる。コントローラ110からの第2の独立な発熱体回路は、この発熱素子に加熱電流を供給する。
【0045】
上述した熱的に結合された実施形態を製作する1つの方法は、次の通りである。放射体ウェハ及びフィルタウェハを背中合わせに接合し、個別のチップにダイシングする。各チップは、シリコン基板フレームにおける薄膜放射体及びシリコンフレーム中の対応する薄膜フィルタから構成する。基板は、当該分野で公知の他のウェハ材料を含んでよい。放射体ウェハ及びフィルタウェハは各々エッチバックされ、図5Bに示すように、それぞれメンブレンを形成することから、ウェハを背中合わせに配置すると、メンブレン間に空間が形成され、これにより、放射体膜の温度が増減する際、放射体膜によるフィルタの放射性の加熱が可能になる。その結果得られるTOE装置120の全体的な放射は狭帯域であり、また、調整可能である。
【0046】
放射体102とフィルタ104との間の熱的結合を適切に選択することによって、放射体が800℃である時、フィルタが100℃であるように、また、放射体が1000℃である時、フィルタが400℃(図2D参照)であるように、放射体102の温度とフィルタ104との間に特別な依存関係を提供するTOEを設計し得る。この熱的結合により、(上述したように)フィルタ104におけるゲルマニウムの透過率と温度に対する放射体102の黒体出力との間の相殺関係のために、TOE120からの相対的に一定のIR放射122は、放射体102の温度が800℃から1000℃の範囲で変化する際、4450から4570nmの範囲で変化するようになる。
【0047】
放射体102とフィルタ104との間の熱的結合は、放射性結合、対流性結合及び伝導性結合の組合せであるが、放射性結合が支配的であり、対流性結合は、望ましくない。この理由は、それに対応付けられた時定数が大きいためである。放射性結合の量は、放射体とフィルタメンブレンとの間の距離(即ち、エッチングされた基板厚さの深さ)と共に薄膜層に用いられる材料の吸収スペクトルによって決まる。伝導性結合は、異なる接合材料を用いることによって、又は、既知の導電率のスペーサを放射体102とフィルタ104との間に配置することによって、変更し得る。対流性結合は、TOEを真空中又は非導電性ガス中に封止することによって、小さく維持し得る。
【0048】
多経路ガスセル106は、TOE装置120から放射された調整可能な狭帯域IR光122を受光するように向けられる。当該分野で“ホワイト”セルとして知られている多経路ガスセル106には、サンプルガスを通過する経路長を大幅に長くする多数の内部経路の折り返し部が含まれ、これによって吸収ピークの大きさが大きくなる。そのようなホワイトセルの一例は、赤外線分析社(Infrared Analysis, Inc)製の“ウルトラ・ミニ(Ultra-Mini)”であり、これは、長さ10cmであるが、折り返された2.4メートルの光学経路を提供する。TOE装置120から放射された光は、入力レンズを通って多経路ガスセル106に入射され、多数の経路を介してガスセル106内のサンプルガスを通過し、出力レンズを通ってガスセル106から出射される。
【0049】
検出器108は、多経路ガスセルから光124を受光する。記載した実施形態において、検出器108には、サーモパイル、即ち、多数の熱電対を含むプローブが含まれる。各熱電対には、熱せられると小さい電位を生成する一対の異なる金属が含まれる。こうして、サーモパイルは、構成熱電対の数及びサーモパイルの温度に比例する検出信号126を生成する。そのような検出器の一例は、デクスタ・リサーチ社(Dexter Research )製のST150サーモパイルであり、これは、サファイア窓を備えキセノンガスが充填されたTO5缶にパッケージ化されている。
【0050】
コントローラ110は、検出器108から検出信号126を受信し、TOE120の黒体放射体102に制御信号128を供給する。コントローラ110は、制御信号128を0.5Hzで変調することにより、その周波数において、700℃と900℃との間で、放射体102の温度を振動させる。コントローラ110は、その結果得られる検出信号126を評価し、吸収ピークが存在するかどうかを判定する。コントローラは、ロックイン検出、導関数検出、又は当該分野で公知の他の幾つかの同様な適切な手法のいずれかを用いて、検出信号126を評価し得る。
【0051】
ロックイン調整機構には、0.5Hz制御信号と共に、経時変化する検出信号126をロックイン増幅器に出力することが含まれる。ロックイン検出は、雑音中の小信号を識別するための公知の手法である(同期検出とも称される。例えば、スタンフォード・リサーチ・システムズ社(Stanford Research Systems Inc.)、www.thinksrs.com、応用メモ3(Application Note 3)“ロックイン増幅器について”参照)。ロックイン増幅器は、特定の選択された周波数の狭い範囲内だけの信号を増幅し、これによって、その範囲外にある雑音及び無関係な信号を除去する。ロックイン増幅器は、0.5Hzを中心とした極めて狭い帯域の周波数内の検出器信号126だけを増幅し、これにより、他の周波数で発生する様々な供給源からの雑音及びドリフトを有効に除去する。(ロックイン増幅器からの)ロックイン検出信号の後の変分は、センサ出力である。
【0052】
放射体が充分速い時定数を有する場合、制御信号126は、制御信号(例えば、50Hz)より高い周波数の“チョッピング信号”と重ね合わせ得る。“チョッピング”は、IR信号処理の分野で公知の雑音低減手法である。フィルタは、チョッピング信号に応答するのに充分なほど高速ではなく、このため、フィルタは、制御信号のより低い周波数においてのみ変化する(即ち、制御信号の封体部によってフィルタ温度が変化する)。放射をチョッピングするための他の手法(例えば、機械的チョッピング)は、他の実施形態に用い得る。
【0053】
導関数検出手法には、フィルタが調整される際、検出信号126の1次(又は2次)の導関数を求めること、及び、多数の調整サイクルの間、1次(又は2次)導関数の平均をとることが含まれる。場合によっては、特に、スペクトル特性の導関数(即ち、吸収ピーク)が、簡単な演算又はアナログ回路(例えば、スペクトル特性に合致したアナログフィルタ)によって識別し得る特有の特性を提示する場合、導関数検出は、ロックイン検出に優る。
【0054】
記載した実施形態は、調整可能放射体を用いて、化学物質吸収ピークを検出するためのスペクトル変更を行うが、他の構成を用いる他の実施形態もまた用い得る。光学化学センサの様々な実施形態を図6A〜6Fに示す。
【0055】
図6Aにおける実施形態は、放射源150に対するフィルタ152の位置が、記載した実施形態と主に異なる。黒体放射源150は、広範なスペクトル(即ち、広帯域)IR放射を生成する。熱光学調整可能薄膜フィルタ152が、この放射源150の正面に配置され、また、関連する回路が、フィルタ152を種々の波長設定値まで走査する。フィルタ処理された放射154は、測定対象のサンプル156を含む空洞を通過し、広帯域検出器158は、放射がサンプル156を通過した後、放射強度を測定する。関連する回路は、その波長に対する放射強度に“くぼみ”がないか計測し、特定の化学物質がサンプル中に存在するかどうかを判定し、そうであれば、くぼみの大きさから化学物質濃度を求める。フィルタ152及び放射源150は、熱的に結合されていないため、調整可能フィルタ152には、放射源150とは独立にフィルタ152の温度を変更するための発熱素子が含まれる。一実施形態において、発熱素子には、フィルタ上に成膜された薄膜金属リングが含まれる。
【0056】
図6Bは、放射体がフィルタに接合された状態における、記載した実施形態(即ち、図2)の構成を示す。
図6Cに示す実施形態は、調整可能フィルタが、検出器付近に配置されるという点において、記載した実施形態と異なる。黒体放射源170は、広範なスペクトルのIR放射を生成する。広帯域放射は、サンプル156を含む空洞を通過し、関連する回路(図示せず)は、熱光学調整可能薄膜フィルタ172を走査し、広帯域放射の異なる波長を広帯域検出器174に入射させる。広帯域検出器174は、フィルタ172からのフィルタ処理されたIR放射の放射強度を測定する。関連する回路は、その波長に対して、放射強度に“くぼみ”がないか計測し、特定の化学物質がサンプル中に存在するかどうかを判定し、そうであれば、くぼみの大きさから化学物質濃度を求める。
【0057】
図6Dに示す実施形態は、調整可能フィルタと検出器とを互いに結合して、調整可能光学検出器(TOD)を形成する。この実施形態は、黒体放射源180を用いて、広範なスペクトルのIR放射を生成する。広帯域放射は、サンプル156を含む空洞を通過する。サンプル156を通過した後、熱光学調整可能薄膜フィルタと広帯域熱検出器182との組立体は、広帯域放射を受光する。関連する回路(図示せず)は、フィルタ/検出器182を加熱して異なる波長を走査し、その間、フィルタ/検出器182を対応する温度に加熱するのに必要な電力量を記録する。フィルタ/検出器182に到達するIR放射が少ない場合(即ち、サンプル156がIR光の一部を吸収する場合)、より多くのエネルギがフィルタ/検出器182の温度を(また、これにより波長を)変更するのに必要である。外部回路は、このエネルギ差異を用いて、サンプル中の化学物質濃度を計算する。
【0058】
フィルタは、その調整機構のおかげで加熱しなければならず、付近の検出器を圧倒するような量の黒体放射をそれ自体放出しない場合、TOD構成は、有用である。このことは、多くの用途においてそれらが相対的に高コストであるために実現不可能な光子検出器とは反対に、本質的にマイクロ温度計であるサーモパイル等の低コスト非冷却式IR検出器にとって懸念すべきことである。TOD構成要素を含むパッケージは、キセノン等のガスを充填して、サーモパイル検出器の応答性を改善し得る。
【0059】
図6Eの実施形態は、黒体放射体/黒体検出器/熱光学調整可能フィルタ190の単一の組立体を用いる。この組立体は、加熱され、波長走査狭帯域赤外線を放射する。この放射線は、逆反射体192の助けを借りて、サンプル156を含む空洞を2回通過する。背面反射された放射線は、フィルタ処理され、黒体放射体/検出器組立体190に吸収される。図6Dに示す実施形態と同様に、関連する回路(図示せず)は、組立体190を加熱して、異なる波長を走査し、その間、組立体190を対応する温度に加熱するのに必要な電力量を記録する。組立体190に到達するIR放射線が少ない場合、より多くのエネルギが、組立体190の温度を(また、これにより波長を)変更するのに必要である。外部回路は、このエネルギ差異を用いて、サンプル中の化学物質濃度を計算する。
【0060】
図6Fの実施形態は、組み合わせられた黒体放射体/検出器200を用いて、サンプル156を含む空洞を通過する広帯域IR放射線を生成する。熱光学調整可能薄膜フィルタ202は、このIR放射線の狭帯域部分を反射する。関連する回路(図示せず)は、フィルタ202の波長を走査する。黒体放射体/検出器200は、放射線が再度サンプル156を通過した後、IR放射線の反射された狭帯域部分を再吸収する。図6D及び5Eに示す実施形態と同様に、関連する回路(図示せず)は、放射体/検出器200を加熱して、異なる波長を走査し、その間、放射体/検出器200を対応する温度に加熱するのに必要な電力量を記録する。放射体/検出器200に到達するIR放射線が少ない場合、より多くのエネルギが、放射体/検出器200の温度を(また、これにより波長を)変更するのに必要である。外部回路は、このエネルギ差異を用いて、サンプル中の化学物質濃度を計算する。
【0061】
一般的に、図6A〜6Fにおいて述べた実施形態は、相互に緊密な関係があり、異なる種類の放射体及び検出器が、異なる波長で用いられている。中間IR波長において、低コスト放射体には、黒体高温放射源(例えば、高温のワイヤや伝導性のメンブレン)が含まれ、低コスト検出器には、非冷却式サーモパイル又は焦電性装置が含まれる。近IR波長において、低コスト放射体には、LEDが含まれ、低コスト検出器は、PINフォトダイオード等の光子検出器である。近IR波長において、放射源及び検出器双方は、中間IR波長に用いられるものよりも更に効率的である。
【0062】
実際、これらの因子は、調整可能光学検出器(図6D及び6EのTOD)の具体化用途を近IR(2000nm未満)の有用な波長に限定し、この場合、200〜300℃に加熱されたフィルタからの放射線は、測定対象のIR放射線と比較して、検出器を圧倒しない。2000nm高調波帯域における(例えば)CO2の分光、又は、吸収が1400nm〜1800nm範囲で起こる他の微量ガスの分光には、TODを用い得る。これらの短波長では、黒体放射体が、近IR放射源として有効に機能するためには、非実用的な高温が必要であることから、通常の放射体には、LEDが含まれる。
【0063】
例えば、4600nmの長波長の場合、高温のフィルタは、数ミリメートルの間隔内に配置されたサーモパイル検出器を圧倒するため、TODは、実用的でない。この場合、調整可能光放射体(図6BのTOE)構成の方が良い選択である。
【0064】
パッケージ化された調整可能フィルタが放射体又は検出器何れにも対応付けされないように光学系に配置された調整可能光学フィルタ(図6A及び6CのTOF)構成は、他の実施形態にも用いられる。本明細書に述べた実施形態は、TOE、TOD又はTOFとして実現されているかどうかに関わらず、全て調整可能フィルタに基づいている。
【0065】
他の実施形態は、(図2A及び2Dに示す背面反射器を用いること以外に)放射体から検出器に到達する光学パワーを大きくして、光学化学センサの信号分解能及び精度を向上する。検出器における光学パワーを大きくするための1つの手法は、図7に示すように、楕円反射空洞の焦点に放射体/フィルタ及び検出器を配置することである。検出器における光学パワーを最大にするための他の手法は、図8に示すように、光学集積球に放射体/フィルタ及び検出器を配置することである。更に他の手法は、別個の規模の大きいハイパワーで広帯域(即ち、黒体)の放射体を利用し、図9に示すように、適切な光学系を介して、規模が小さい調整可能フィルタ要素を通して放射体からの光を集光することである。調整可能光学フィルタの面積が小さければ、動作電圧が低く保たれ、規模の大きい放射体からの光を集光すると、検出器における光学パワー密度が大きくなる。
【0066】
他の側面、変形例及び実施形態は、請求項の範囲内にある。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】従来技術による光学化学センサを示す図。
【図2A】第1TOE実施形態を示す図。
【図2B】図2Aにおける放射体及びTOEのフィルタの温度対時間を示す図。
【図2C】第2TOE実施形態を示す図。
【図2D】図2Cにおける放射体及びTOEのフィルタの温度対時間を示す図。
【図3A】黒体放射対波長を示す図。
【図3B】COの吸収スペクトルと比較した、調整の3つの状態における調整可能フィルタのスペクトル放射を示す図。
【図3C】ゲルマニウムの温度依存吸収の効果が含まれる図3Bのグラフを示す図。
【図4A】COガスセンサの実施形態を示す図。
【図4B】パッケージ化された調整可能なフィルタの実施形態を示す図。
【図4C】パッケージ化された調整可能なフィルタの実施形態を示す図。
【図5A】エッチングに先立ちメンブレンフィルタを組み立てるための構造を示す図。
【図5B】エッチング後のメンブレンフィルタを示す図。
【図5C】図5Aにおけるフィルタの平面図を示す図。
【図6A】図4Aのセンサの他の実施形態を示す図。
【図6B】図4Aのセンサの他の実施形態を示す図。
【図6C】図4Aのセンサの他の実施形態を示す図。
【図6D】図4Aのセンサの他の実施形態を示す図。
【図6E】図4Aのセンサの他の実施形態を示す図。
【図6F】図4Aのセンサの他の実施形態を示す図。
【図7】図4Aのセンサの他の実施形態を示す図。
【図8】図4Aのセンサの他の実施形態を示す図。
【図9】図4Aのセンサの他の実施形態を示す図。
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に化学センサに関する。
【背景技術】
【0002】
ある範疇の化学センサは、サンプル領域における低濃度の特定のガスを検出するために用いられる。通常のターゲットガスには、特に、CO2、CH4及びCOが含まれる。この範疇には、触媒燃焼、電気化学、光イオン化、水素炎イオン化、赤外線(IR)吸収、金属酸化物、熱伝導率及び熱量測定を含む多くの異なるセンサ技術が含まれる。これらの技術のうち、光学技術(特に、吸収)は最も厳密であるが、通常、民生用途にとっては、費用がかかり過ぎる。従って、通常、従来技術による民生用センサは、光センサの代わりに、廉価な電気化学センサを用いる。しかしながら、電気化学センサには、非特異的応答、有限の寿命といった難点があり、また、一般的に不正確である。低コストで堅牢な光学ガスセンサが、HVAC、家庭、車両等にとって商業的に重要となる。
【0003】
一般的に、光センサは、分散性(分光計)又は非分散性に分類され、後者は、狭帯域(レーザ又は狭帯域LED)光の利用又は狭帯域光を生成するように狭帯域フィルタを備えた光の利用のいずれかを実現する。光学化学センサは、化学物質の吸収プロファイルに合致する放射プロファイルを提供するようにフィルタ処理された光を用いる。センサは、化学物質が存在し得るサンプル領域を通過するように光を導き、更に、領域を透過することで、吸収波長において、光が減衰するかどうか、また、どれだけ減衰するかを判定する。減衰量は、領域における化学物質の濃度及び領域を通過する光の経路長に依存する。
【0004】
有毒な微量ガス(CO等)の検出には、ガスの極めて低い濃度(例えば、50ppm以下)の検出が必要である。4420〜4900nmまでの回転吸収線の帯域を有するCOを例にとると、1メートルの経路を通過する際、この波長における吸収は、わずか0.1パーセント程度である。そのような小さい吸収では、確実に検出するのは困難である。従って、そのような検出環境における光学的検出には、高精度の比較又は差分測定が必要となる。この比較は、1つが吸収に合致しもう1つが合致しない2つの固定フィルタを用いて、単一の光路上であってよい。この比較は、他の選択肢として、単一のフィルタを用い得るが、1つがガス中で相対的に長い距離に及び、もう1つが短い距離に及ぶ2つの光学経路を比較してもよい。第3の取り組み方法は、チューナブルレーザを用いて、超狭帯域光を導き、サンプル領域を通過させ、化学物質吸収ピーク上及びそこから離れた光の波長を変更し得る。しかしながら、チューナブルレーザは、相対的に高価な傾向にあり、低コスト用途(例えば、CO及びCO2監視装置)にとっては適切な選択ではない。
【0005】
チューナブルレーザの代替として廉価な光学化学センサを図1に示す。IR源12は、相対的に広帯域なスペクトルの光を導き、サンプルガス14、多数の帯域通過フィルタ16a〜16dを通過させて、多数の検出器18a〜18dに到達させる。(基準フィルタ16dを除く)各帯域通過フィルタは、異なる化学物質の吸収ピークに対応する中心波長の通過帯域を有する。この例では、フィルタ16aの中心波長は、CH4の吸収ピークに対応し、フィルタ16bの中心波長は、CO2の吸収ピークに対応し、フィルタ16cの中心波長は、COの吸収ピークに対応し、フィルタ16d(基準経路)の中心波長は、Ch4、CO2及びCOの吸収プロファイル外の波長である。場合によっては、基準検出器18dがIR源12のスペクトル全体を受光するようにし、光学化学センサが基準フィルタ16dを用いないことがある。
【0006】
各検出器18a〜18dは、制御・検出電子回路20に信号を供給する。制御・検出電子回路20は、各ガス検出器18a〜18cからの信号と、基準検出器18dからの信号とを比較する。ガス検出器からの信号レベルが、(基準検出器からの信号と比較して)小さいということは、対応するガスの存在を示す。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの側面において、サンプル領域における化学物質を検出するための光センサには、広帯域スペクトルを有する広帯域の光を生成するための放射体が含まれる。光は、サンプル領域を通過する光路に沿って進む。また、センサには、検出器が受光する光に対応する検出信号を生成するための検出器が含まれる。検出器は、光路に配置される。更に、センサには、光路を進む光のフィルタ処理を選択的に行うための調整可能な通過帯域を有する光学フィルタが含まれる。光学フィルタの通過帯域は、光学フィルタの温度を変更することによって調整可能である。1つの実施形態には、光学フィルタの通過帯域を制御するためのコントローラが含まれる。コントローラは、ある波長範囲全体において光学フィルタの通過帯域を変調する。また、コントローラは、検出器から検出信号を受信し、検出信号を分析して、化学物質の吸収ピークが存在するかどうかを判定する。
【0008】
一実施形態において、放射体の温度を変更すると、それに応じて光学フィルタの温度が変化し、これによって光学フィルタの波長が調整されるように、放射体及び光学フィルタが熱的に結合される。放射体及び光学フィルタは、熱放射を介してもしくは熱伝導を介して、又は何らかのその組立体を介して、熱的に結合し得る。
【0009】
光学フィルタは、放射体から独立して、光学フィルタの温度を変更するための発熱素子を含み得る。放射体は、第1基板フレーム上に搭載された薄膜メンブレンを含んでよく、放射体及び光学フィルタは、調整可能な光放射体(TOE)を形成するように互いに結合し得る。他の実施形態において、光学フィルタは、調整可能な光学検出器(TOD)を形成するように、検出器に近接して配置される。
【0010】
一実施形態において、コントローラは、化学物質の吸収ピークを中心とする所定の周波数において、通過帯域を周期的に変調し、化学物質の吸収ピークに対応する変動がないか検出信号を分析する。他の実施形態において、コントローラは、ロックイン検出手法を用いて、検出信号を分析する。更に他の実施形態において、コントローラは、コントローラが光学フィルタの中心波長を変調する際に、検出信号の導関数を評価し、複数の通過帯域変調サイクルの間における検出信号の導関数の平均を求め、化学物質の吸収ピークを検出する。
【0011】
一実施形態において、放射体、検出器及び光学フィルタは、近接して配置され、放射体/検出器/フィルタの組立体を形成する。更に、センサには、組立体に光を反射するための逆反射体が含まれ、コントローラは、光学フィルタの温度を変更するのに必要な電力量を計算する。コントローラは、その計算された電力量から、化学物質の吸収ピークが存在するかどうかを判定する。
【0012】
他の実施形態において、放射体及び検出器は、近接して配置され、放射体/検出器の組立体を形成する。更に、センサには、光学フィルタの通過帯域を制御し、検出器から検出信号を受信するためのコントローラが含まれる。コントローラは、光学フィルタの温度を変更するのに必要な電力量を計算し、また、計算された電力量から、化学物質の吸収ピークが存在するかどうかを判定する。
【0013】
他の側面において、ある範囲の波長全体において変換可能な波長スペクトルを有する光を生成するための調整可能な光放射体には、第1波長スペクトルを有する光を生成するための光源が含まれる。更に、調整可能な光放射体には、光源からの光のフィルタ処理を選択的に行うための調整可能な通過帯域を有する光学フィルタが含まれる。光学フィルタは、光源から光を受光し、第1波長スペクトルが第2波長スペクトルを含むように、第2波長スペクトルを有するフィルタ処理された光を生成する。光学フィルタの通過帯域は、光学フィルタの温度を変更することによって調整可能である。
【0014】
一実施形態において、光源の温度を変更すると、それに応じて光学フィルタの温度が変化するように、光源及び光学フィルタが熱的に結合される。熱的結合は、放射もしくは伝導又はその何らかの組合せを介してよい。他の実施形態において、光学フィルタには、光源の温度とは独立に光学フィルタの温度を変更するための発熱素子が含まれる。
【0015】
一実施形態において、光源には、第1シリコンフレーム上に薄膜メンブレンが含まれ、光源及び光学フィルタは、互いに結合される。
他の側面において、調整可能な通過帯域を有する光学フィルタメンブレン構造には、基板フレーム上において、少なくとも1つの共振空胴を形成する複数の積層薄膜層からなるフィルタメンブレンが含まれる。通過帯域は、フィルタメンブレンの温度を変更することによって調整可能である。更に、光学フィルタメンブレン構造には、フィルタメンブレンに対応付けられ、ある波長範囲全体において通過帯域を調整するための発熱体が含まれる。発熱体には、フィルタメンブレン上部に形成された環状発熱体構造を含み得る。もしくは、発熱体には、フィルタメンブレン側に赤外線を放射する放射性の放射体を含み得る。
【0016】
一実施形態において、フィルタメンブレンは、シリコンウェハの表面上に複数の積層薄膜層を成膜することによって、また、シリコンウェハの残留部分が、フィルタメンブレン周辺にシリコンフレームを形成するように、シリコンウェハの裏面上における開口部をエッチングにより除去することによって形成される。
【0017】
一実施形態において、フィルタ薄膜メンブレンには、ゲルマニウムが含まれる。他の実施形態において、フィルタメンブレンには、シリコンが含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
記載した実施形態は、調整可能光放射体(TOE)を用いて、狭帯域赤外線(IR)光をガスサンプルを通過させ検出器に導くCOガスセンサである。センサは、COスペクトル吸収特性全体において、即ち、約4500nmから約4700nmまでのIR光の波長を前後に変調する。
【0019】
以下に詳述するように、TOEには、ほとんど又は全く熱的結合されずに近接されるか、あるいは、放射体とフィルタが熱的に結合されるように直接的一体化によって、熱光学調整可能フィルタに対応付けられる黒体放射体が含まれる。図4A(以下に詳述)において、破線表示のボックス118は、調整可能熱光学フィルタと共に低コストの光源としての黒体放射体を含む調整可能光源(即ち、TOE)を形成するように、放射体とフィルタとの間の関連を表す。このTOE概念は、(限定しないが)2つの主要な実施形態を包含する。
【0020】
1つのTOE実施形態は、一定出力のスペクトル及び大きさを有する固定放射体を配置し、調整可能光学フィルタを背面照射する。放射体及びフィルタは、缶又は当該分野で公知の他の適切な電子回路パッケージ等、単一のパッケージに配置し得る。調整可能光学フィルタには、放射体とは独立に、調整用の専用の加熱機構が含まれる。放射体は、通常、一定の相対的に高い温度(例えば、500℃〜1000℃の間付近)で高強度放射を行うが、フィルタ温度は、その材料の完全性を維持するためにかなり低く、また、調整目的のために、例えば、25℃から400℃までの温度範囲において変化する。波長対温度調整比率は、ゲルマニウム材料及び中間IR設計の場合、0.6nm/℃が普通である。もっと一般的には、波長対温度調整比率は、通常、ゲルマニウムの場合、中心波長の1.3×10−4/℃によって与えられ、シリコンの場合、1℃当たり中心波長の6×10−5によって与えられる。
【0021】
調整可能フィルタに近接して搭載され、独立した発熱抵抗器がフィルタ構造に組み込まれた固定放射体の場合、放射体は、近接によってその調整に影響を及ぼさないように、ある程度フィルタから熱的に絶縁することが重要である。このことは、充分な距離を要素間に設けることによって、また、適切なパッケージ化によって行い得る。
【0022】
金属製の放物線形状、楕円形状又は他の形状の背面反射器を設けて、IR放射を集束させ、それをフィルタ開口部に誘導すると、図2Aに示すように、全てのそのような放射体の効率が改善される。図2Aに示す楕円形のフィルタは、放射体からの光をフィルタの入力開口部に再集束するために用い得る。図2Bは、走査プロセス中、放射体温度が一定に留まり、一方、フィルタの温度がその独立した発熱体回路を介して増減することを示す。この調整可能光学フィルタの実施形態は、高温の放射体を熱駆動式フィルタから絶縁する必要があることから、小型化のために限定された電位を有する。放射体がフィルタに近過ぎる場合、フィルタの温度は、放射体とは独立に制御できない。
【0023】
本明細書において集積TOE(ITOE)と呼称するTOEの第2実施形態には、極端な近接によって、又は接合材料もしくは他の取付け手法を介してフィルタを放射体に取り付けることによって(図2C参照)、IR放射体が熱的に結合されたフィルタが含まれる。上述した第1TOE実施形態の場合と同様に、ITOEの放射体及びフィルタも、缶又は当該分野で知られている他の適切な電子回路パッケージ等の単一のパッケージに配置し得る。図2Cに示すように、TOEが反射器焦点にある放物線状の反射器は、ガス及び検出器側に放射を導く。熱的結合により、フィルタは、放射体によって直接加熱される(よって調整される)ため、フィルタは、それ自体の内部加熱構成要素又は独立した加熱回路を必要としない。熱的結合には、放射性及び伝導性の結合を含み得るが、伝導より放射性の結合が好まれる。この理由は、放射性の結合は、時間に対して温度を大きく変化できるためである。本実施形態において、放射体温度は、一定温度で動作する代わりに、例えば、800℃と1000℃との間で周期的に変動し、フィルタが、熱的結合を介して、例えば、100℃と400℃との間において加熱される(図2D参照)。放射体温度範囲とフィルタ温度範囲との間の関係は、適切な構造及び寸法決めによって、及び、フィルタが透過しない波長を吸収する適切な層をフィルタに設けることによって定められ、これによって、放射体に対するその結合が強化される。他の実施形態は、異なる温度範囲及び関係を用い得る。放射体においては、放射体を周期的に加熱する際、フィルタを間接的に調整する1つの発熱体回路だけが必要である。この結果、調整可能放射体は完全に集積されたものとなり、これは、例えば、TO5缶パッケージの内側にちょうど収まるように極めて小さくてよい。
【0024】
黒体放射体の温度が高くなるにつれて、任意の与えられた波長におけるその放射が、図3Aに示すように、その温度に比例して大きくなることは公知である。従って、図2Cの調整可能放射体の出力も、図3Bに示すように調整されると、大きくなると予想し得る。そのような出力パワーの変動は、特に、変動が過剰な場合、望ましくない。しかしながら、ゲルマニウムの透過率は、その温度が高くなるにつれて小さくなる。従って、ゲルマニウム膜を用いるフィルタの場合、フィルタ透過率が低下すると、放射体がフィルタを加熱する(そして、これにより調整する)につれて、増大した黒体照射が相殺される傾向にあり、この結果、図3Cに示すように、出力強度が一定又はほぼ一定になる。フィルタそれ自体も、更に温度に対して全体的強度上昇に寄与する黒体放射体である。これらの3つの因子を組み合わせると、TOEが所望の波長を走査する際、一定の又はほぼ一定の出力強度を有するTOEを生成し得る。出力変動が小さいと、当該分野で公知の電子的手法を介して、検出器において又はその後に補正し得る。
【0025】
COガスセンサは、その構成膜の熱光学特性を利用して、熱的機構を用いてTOEを調整する。熱光学フィルタは、電子ビーム成膜、スパッタリング、及びプラズマ化学蒸着法(PECVD)等の薄膜成膜用の既存手法により製作する場合、費用が相対的に安い。更に、相対的に簡単な設計変更により広範囲な帯域幅が提供される。従って、化学センサへのTOEの組み込みは、IR調整可能なフィルタに対する低コストで大量生産可能な取り組み方法であり、また、広範囲な目標波長に渡って利用し得る。
【0026】
図4Aを参照すると、一実施形態であるCOガスセンサ100には、黒体放射体102、調整可能フィルタ104、多経路ガスセル106、検出器108及びコントローラ110が含まれる。黒体放射体102は、調整可能フィルタ104に広帯域の黒体放射エネルギを提供する。コントローラ110によって、調整可能フィルタ104は、CO吸収プロファイルに対応する範囲の波長全体においてその透過を走査する。調整可能フィルタ104は、同じ範囲の波長も走査するスペクトルを持つ、フィルタ処理された光を生成するように、放射体102からの光をフィルタ処理する。調整可能フィルタ104からのフィルタ処理された光は多経路ガスセル106に入射されるが、多経路ガスセル106は、フィルタ処理された光がガスセル106内のガスサンプル中を多数回通過できるようになっている。検出器108は、光がガスサンプルを通過した後、その光をガスセル106から受光し、受光する光に対応する検出信号を生成する。コントローラ110は、検出信号を分析して吸収ピークが存在するかどうか判定する。
【0027】
以下の項では、このCOガスセンサ100の各構成要素に関して詳述する。
黒体放射体102(本明細書では、黒体源とも呼称する)は、図2Aに示すように、相対的に広い黒体スペクトルを有する電磁波エネルギを生成する。黒体放射体102は、調整可能フィルタ104側に赤外光116を放射する。記載した実施形態において、黒体放射体102は、シリコン基板であり、薄いシリコン又はダイヤモンド状の炭素からなる1つ又は複数の導電性層が化学蒸着法(CVD)又は他の薄膜成膜手法を介して成膜されている。シリコン基板裏面の内側部分は、エッチングにより完全に除去され、シリコンフレームには、薄膜放射体だけが残る。この構造は、急激な温度変化に対応し得る相対的に小さな熱的慣性を有する放射体になる。電気的接点は、薄膜の外縁に成膜される。薄膜放射体は、これらの電気的接点間に電位を印加することによって加熱され、これによって電流が導電性膜中を流れる。
【0028】
長寿命で低コストかつ高強度IR出力とする場合は、種々の他の放射体構造を選択してもよい。また、効率的な光学系を設けるためには、できるだけ小さい放射体が望まれる。そのような放射体には、導電性を有するように不純物が添加されたシリコンチップ、薄いシリコンメンブレン、ダイヤモンド状の炭素からなる薄いメンブレン、又は金属製コイルもしくはフィラメントが含まれる(本明細書で用いる“メンブレン”には、単一の薄膜層又は互いに積層された多数の薄膜層を含み得る)。タングステンワイヤからなる小型白熱電球もまた、可能な放射体であるが、そのガラス製の封体部は、ほとんどの中間IR放射線を遮断する。Ni、Fe、又はAlを含むCr合金(“ニクロム”又は“カンタル(kanthal )”等)は、金属製コイル又はフィラメント放射体の場合、良い選択である。この理由は、それらは、もしあれば4000〜5000nmの間のIR放射を遮断する窓部を必要とせず、1000C以上で空気中において動作でき、寿命が長いためである。
【0029】
黒体放射体102には、ミクロンレベルの凹凸が形成されたシリコン表面を含み得るが、この結果、単純なシリコン膜と比較して、ある程度狭い黒体スペクトルになる。この狭い黒体スペクトルによって、浪費される帯域外のIRエネルギが少ないことから、放射体に供給されるパワーをより効率的に用いることができる。例えば、ダリ(Daly)らによる、1999年、ボストンでのMat.Res.Soc.Symp.OOO4.7 、"リソグラフィにより形成されたシリコン表面からの調整されたIR放射"を参照されたい。
【0030】
調整可能フィルタ104は、CO吸収特性範囲において、帯域通過透過応答を提供する熱光学フィルタである。一般的に、本明細書に述べた調整可能光学フィルタは、アイギス・セミコンダクタ(Aegis Semiconductor,Inc.)社によって、1500nm又はその付近での用途のために、電気通信業界向けに包括的に開発された狭帯域通過フィルタである。上記特許及び公報において述べたように(例えば、2004年1月の光波技術の機関紙参照)、これらのフィルタは、単一又は多空洞のファブリ・ペロ線形状又は偏平頂上線形状であってよく、様々な帯域幅で動作し得る。そのようなフィルタは、内部の伝導性膜又は金属抵抗膜による加熱又は冷却によって調整可能である。本明細書に述べた実施形態は、元来1.5ミクロンでの用途用に開発されアモルファスシリコンを用いる技術を、より長い波長3〜12マイクロメートルに拡張して、ガス検出に用いるようにした。これらの根底にある原理はほとんど同じであり、例外として、中間IR用途の場合、シリコンの代わりにゲルマニウムを用いることが多いが、これは、中間IR波長において、ゲルマニウムの透過率が優れていることやゲルマニウムの波長対温度調整比率が大きいためである。
【0031】
中間IR範囲用途(ほぼ2〜5ミクロン波長)の場合、調整可能フィルタ104は、シリコン・オン・インシュレータ(SOI)ウェハ上に成膜されたゲルマニウム及び一酸化シリコンの薄膜から形成される。そのような薄膜フィルタは、公知の方法を用いて、設計・製作される。例えば、記載した実施形態において、フィルタ104は、3つの共振空洞からなる約20層の薄膜構造で設計され、4.55ミクロン波長において約0.1ミクロン幅(100nm)である“正方形の”透過領域を示し、この透過領域内では、約90%が透過する。この特定の空洞の数、層の数、寸法の組は、この説明のための単に代表的な事例であり、他の構造も用い得る。そのような熱光学調整可能薄膜フィルタの例は、2003年10月7日に出願された米国特許出願第60/509,379号、”チューナブル・フィルタ・メンブレン構造”に記載されており、その全体を引用参照する。
【0032】
図4B及び4Cは、TO8缶パッケージの熱調整可能フィルタ104の実施形態を示す。フィルタ104は、ヘッダ130上に搭載されており、ヘッダ130は、缶パッケージの基部として機能する。ワイヤボンディングにより、フィルタ104上の発熱体リング132がヘッダ130のピンに接続される。缶136の頂部及びヘッダ130上の遮蔽フィルタ134によって、約4000〜5000nmまでの帯域幅内の光だけが通過し、これによって無関係な帯域外の光が除外される。
【0033】
調整可能フィルタ104は、その温度を変更することによって調整される。中心波長4.45ミクロンのゲルマニウム系フィルタの例示事例において、温度に伴う中心波長の変化率は、1℃当たり約0.6nm、即ち、100℃毎に60nmである。CO吸収帯域は、約4420〜4900nmまで2重ピーク構造を有する。検出は、4450〜4570nmまでの120nmの調整範囲で、CO吸収ピーク付近に存在する勾配上でフィルタ104を調整することによって行われるが、この調整範囲は、200℃の範囲に渡るフィルタの温度調整を暗に意味する。波長変化量の他の選択肢は、特定の用途(即ち、他の化学物質の検出)に又は特定の問題を解決するために用い得る。例えば、CO2吸収特性は、CO吸収ピークのちょうど短波長側において発生するため、2つのわずかに高い波長間で調整すると、CO2吸収からの干渉を回避し得る。
【0034】
熱量が小さくその結果高速な熱光学調整可能フィルタにするために、フィルタ104の一実施形態は、シリコンフレーム上に薄いメンブレン140を採用する。フィルタ104の下地は、シリコン・オン・インシュレータ基板であるが、この基板は、SiO2144の500nm層を500ミクロン厚の結晶シリコンウェハ142上に成膜し、そして、300nm層の結晶シリコン146をSiO2層144上に成膜することによって形成される。多数の膜が、結晶シリコン146上に成膜され、図5Aに示すように(エッチング前)、フィルタメンブレン140を形成する。フィルタメンブレン140を形成する薄膜積層には、例えば、中間IR用途の場合、アモルファスゲルマニウムと一酸化シリコンとが交互に重なり合う層が含まれる。メンブレン内において交互に重なり合う層に対する1つの可能な公式は、以下の通りである。即ち、
(3/4波c-Si)L(HL)24H(LH)3L(HL)34H(LH)3L(HL)34H(LH)3
この公式において、Lは、一酸化シリコンの四分の一波長、Hは、アモルファスゲルマニウムの四分の一波長であり、四分の一波長は4650nmに対して定義される。これは、4650nmを中心とした通過帯域約100nmの3空洞の平頂フィルタである。発熱体(この場合、環状発熱体構造)は、積層フィルタ層140上に配置されるが、他の実施形態では、発熱体は省略し得る。
【0035】
種々のエッチング手法が、シリコンウェハ142及びSiO2層144のパターン化されたフィルタ開口部領域を除去するために用いられ、図5Bに示すように、上部にGe/SiO膜積層メンブレン140を伴った状態で薄い結晶シリコン層146が残される(ウェハからの1つのフィルタだけを示す)。メンブレンは、数マイクロメートルの厚さを有し、アクティブな光学開口部は、約2〜3mmである。ゲルマニウムを用いると、約3〜12マイクロメートルと有利である。近赤外線における1.5〜3マイクロメートルでの同様な計測器又はセンサは、アモルファスシリコン薄膜から形成し得る。図5Cは、図5Bにおける構造の平面図(薄膜メンブレン140を向く方向)を示す。薄膜中のシリコン及びゲルマニウム材料は、ある波長帯域(例えば、中心波長が調整可能な状態で、4000nmから6000nmの範囲において100nmの幅)を透過し、放射体からの短波長を吸収して効率的な放射性の加熱を行うようになっている。
【0036】
一般的に、図5A、5B及び5Cに示す調整可能・フィルタ・メンブレン構造は、単独型のフィルタとして、また更に、TOEの構成要素(即ち、後述するように、調整可能光学検出器;TOD)として用い得る。そのような単独型のメンブレンフィルタは、化学センサの一部として以外に多くの用途を有する。例えば、そのような調整可能・フィルタ・メンブレン構造は、電気通信用途、写真及びビデオ装置、試験/測定装置や他の多くに用い得る。
【0037】
単独型のフィルタとして、調整可能・フィルタ・メンブレン構造には、フィルタの温度を変更するための発熱体が含まれる。発熱体は、(例えば、1つ又は複数のメンブレン層に不純物を添加して、それらを適切に伝導性にすることによって)フィルタメンブレン構造それ自体に、あるいは、フィルタメンブレン上に(例えば、金属製の環状発熱体の形態で)含み得る。その結果得られるフィルタメンブレン/発熱体は、極めて小さい熱量を有し、支持フレームから絶縁され、これによって調整可能光学フィルタ要素を高速で均一に且つ効率的に加熱し得る。
【0038】
従来技術による熱光学調整可能薄膜光学フィルタは、溶融シリカ基板上に成膜された集積不純物添加ポリシリコン発熱体を用いて調整される。発熱体は、フィルタそれ自体の前に成膜され、従って、フィルタとスラブ(slab)との間に配置される。この基板は、通常500um厚の“スラブ”であり、また、発熱体を基板から絶縁するものは何もなく、発熱体の温度は急激に変化し得ない。図5A、5B及び5Cのメンブレンフィルタは、更に均一な加熱及びより少ない光学散乱を提供することによって、熱光学調整可能フィルタの光学的性能を改善する。それはまた、安定な発熱素子を提供し、発熱素子の抵抗は、フィルタ温度、ひいては波長を較正するために用い得る。更に、それによって、このフィルタ構造には、反射防止膜が不要であることから、処理が簡素化される。
【0039】
更に、従来技術による熱光学調整可能薄膜光学フィルタは、発熱体のXY平面(即ち、図5Cに示す広い表面に対応する平面)全体において熱的に不均一であるという難点がある。これは、板状発熱体の具体化の結果であるが、板状発熱体は、縁部より中央部の方が高温である。この不均一性は、フィルタそれ自体の全体の調整勾配に変換され、その光学性能を劣化させる。更に、不純物が添加されたポリシリコン発熱体は、長時間高温に曝されると、抵抗ドリフトを呈することが知られている。この問題を抑制するために、このドリフトは、初期較正プロセス時、実験的に特徴付けられ、信号処理時、補正される。従って、図5A、5B及び5Cのメンブレンフィルタ構造が安定化された発熱体抵抗は、ドリフト補正の必要がなくなる。
【0040】
一実施形態において、そのようなメンブレンフィルタ構造は、(上述したように、また、2001年12月4日に出願された米国特許出願第10/005,174号、2002年6月17日に出願された特許出願第10/174,503号、及び2002年8月2日に出願された米国特許出願第10/211,970号(これら全てを本明細書に引用・参照する)において述べたように)、酸化結晶シリコン(c-Si )ウェハの表面上に薄膜フィルタ層を成膜することによって形成される。c-Siウェハ の上部表面は、例えば、当該分野で公知のウェット酸化によって酸化される。次に、環状発熱体構造147が、ボンディングワイヤ接続用の接合パッドと共にこのフィルタ上に形成される。接合パッドは、例えば、Ti/Auを介してメタライズされる。当該分野で公知のフォトリソグラフィマスキング手法を用いて、孔又は“井戸”が、ウェハの裏面からシリコン基板中にエッチングされ、酸化物エッチング停止層(この層は、フィルタをエッチングから保護する)で停止する。そして、この酸化物層は、酸化物エッチング液を用いて除去される。この結果、薄いメンブレンが、ブランケット・コート(blanket-coat)・フィルタ積層によって形成され、上部に環状発熱体構造147を有する。
【0041】
この手法は、従来技術による方法の場合よりある程度簡単であり、その結果、処理工程の数が低減される。発熱体は、従来技術による発熱体(例えば、上述したスラブ発熱体)よりも安定しており、また、フィルタメンブレンを更に均一に加熱して光学特性を改善する。発熱体は、従来技術による発熱体と比較して、より滑らかな発熱体表面を有しており、これにより散乱が低減され、また、挿入損失及び隣接チャネル阻止等の光学特性が改善される。この調整可能・メンブレン・フィルタの熱量が小さいため、従来技術による発熱体より速く温度を変更でき、その結果、より速い調整時定数になる。また、熱量が小さいため、従来技術によるほとんどの発熱体より消費電力が小さい。
【0042】
記載した実施形態の場合、調整可能フィルタ104は、破線で表したボックス118で象徴的に図4に示す黒体放射体102に対応付けられている。2つの構成要素が、TOEユニット120を形成し、TOEユニット120は、フィルタ104がスペクトル制御を行うため、従来技術による低コストのIR源より出力スペクトルが狭く、調整可能な範囲が広い。
【0043】
放射体102及びフィルタが熱的に結合された実施形態において、放射体102は、放射体102の温度が変化するにつれて、熱的結合を介して、フィルタ104の温度(これにより、波長)を調整する。放射体102の温度は、コントローラ110によって、その薄膜を介して駆動される電流量に従って変化する。この実施形態は、フィルタ104が調整される際、一定の(又はほぼ一定の)光学パワー出力を維持する。上述したように、(ゲルマニウムに特有の材料特性のために)温度上昇に伴うゲルマニウム光透過の低下は、黒体放射体の温度が上昇するにつれて、そのパワー出力が大きくなることによって相殺される。従って、この設計には、放射体制御及びフィルタの熱的調整双方のために、別個のものではなく1つの発熱体回路だけが必要である。
【0044】
放射体102及び調整可能フィルタ104が熱的に結合されていないTOE実施形態の場合、調整可能フィルタ104には、フィルタ104温度を変更するための専用の発熱素子が含まれる。コントローラ110からの第2の独立な発熱体回路は、この発熱素子に加熱電流を供給する。
【0045】
上述した熱的に結合された実施形態を製作する1つの方法は、次の通りである。放射体ウェハ及びフィルタウェハを背中合わせに接合し、個別のチップにダイシングする。各チップは、シリコン基板フレームにおける薄膜放射体及びシリコンフレーム中の対応する薄膜フィルタから構成する。基板は、当該分野で公知の他のウェハ材料を含んでよい。放射体ウェハ及びフィルタウェハは各々エッチバックされ、図5Bに示すように、それぞれメンブレンを形成することから、ウェハを背中合わせに配置すると、メンブレン間に空間が形成され、これにより、放射体膜の温度が増減する際、放射体膜によるフィルタの放射性の加熱が可能になる。その結果得られるTOE装置120の全体的な放射は狭帯域であり、また、調整可能である。
【0046】
放射体102とフィルタ104との間の熱的結合を適切に選択することによって、放射体が800℃である時、フィルタが100℃であるように、また、放射体が1000℃である時、フィルタが400℃(図2D参照)であるように、放射体102の温度とフィルタ104との間に特別な依存関係を提供するTOEを設計し得る。この熱的結合により、(上述したように)フィルタ104におけるゲルマニウムの透過率と温度に対する放射体102の黒体出力との間の相殺関係のために、TOE120からの相対的に一定のIR放射122は、放射体102の温度が800℃から1000℃の範囲で変化する際、4450から4570nmの範囲で変化するようになる。
【0047】
放射体102とフィルタ104との間の熱的結合は、放射性結合、対流性結合及び伝導性結合の組合せであるが、放射性結合が支配的であり、対流性結合は、望ましくない。この理由は、それに対応付けられた時定数が大きいためである。放射性結合の量は、放射体とフィルタメンブレンとの間の距離(即ち、エッチングされた基板厚さの深さ)と共に薄膜層に用いられる材料の吸収スペクトルによって決まる。伝導性結合は、異なる接合材料を用いることによって、又は、既知の導電率のスペーサを放射体102とフィルタ104との間に配置することによって、変更し得る。対流性結合は、TOEを真空中又は非導電性ガス中に封止することによって、小さく維持し得る。
【0048】
多経路ガスセル106は、TOE装置120から放射された調整可能な狭帯域IR光122を受光するように向けられる。当該分野で“ホワイト”セルとして知られている多経路ガスセル106には、サンプルガスを通過する経路長を大幅に長くする多数の内部経路の折り返し部が含まれ、これによって吸収ピークの大きさが大きくなる。そのようなホワイトセルの一例は、赤外線分析社(Infrared Analysis, Inc)製の“ウルトラ・ミニ(Ultra-Mini)”であり、これは、長さ10cmであるが、折り返された2.4メートルの光学経路を提供する。TOE装置120から放射された光は、入力レンズを通って多経路ガスセル106に入射され、多数の経路を介してガスセル106内のサンプルガスを通過し、出力レンズを通ってガスセル106から出射される。
【0049】
検出器108は、多経路ガスセルから光124を受光する。記載した実施形態において、検出器108には、サーモパイル、即ち、多数の熱電対を含むプローブが含まれる。各熱電対には、熱せられると小さい電位を生成する一対の異なる金属が含まれる。こうして、サーモパイルは、構成熱電対の数及びサーモパイルの温度に比例する検出信号126を生成する。そのような検出器の一例は、デクスタ・リサーチ社(Dexter Research )製のST150サーモパイルであり、これは、サファイア窓を備えキセノンガスが充填されたTO5缶にパッケージ化されている。
【0050】
コントローラ110は、検出器108から検出信号126を受信し、TOE120の黒体放射体102に制御信号128を供給する。コントローラ110は、制御信号128を0.5Hzで変調することにより、その周波数において、700℃と900℃との間で、放射体102の温度を振動させる。コントローラ110は、その結果得られる検出信号126を評価し、吸収ピークが存在するかどうかを判定する。コントローラは、ロックイン検出、導関数検出、又は当該分野で公知の他の幾つかの同様な適切な手法のいずれかを用いて、検出信号126を評価し得る。
【0051】
ロックイン調整機構には、0.5Hz制御信号と共に、経時変化する検出信号126をロックイン増幅器に出力することが含まれる。ロックイン検出は、雑音中の小信号を識別するための公知の手法である(同期検出とも称される。例えば、スタンフォード・リサーチ・システムズ社(Stanford Research Systems Inc.)、www.thinksrs.com、応用メモ3(Application Note 3)“ロックイン増幅器について”参照)。ロックイン増幅器は、特定の選択された周波数の狭い範囲内だけの信号を増幅し、これによって、その範囲外にある雑音及び無関係な信号を除去する。ロックイン増幅器は、0.5Hzを中心とした極めて狭い帯域の周波数内の検出器信号126だけを増幅し、これにより、他の周波数で発生する様々な供給源からの雑音及びドリフトを有効に除去する。(ロックイン増幅器からの)ロックイン検出信号の後の変分は、センサ出力である。
【0052】
放射体が充分速い時定数を有する場合、制御信号126は、制御信号(例えば、50Hz)より高い周波数の“チョッピング信号”と重ね合わせ得る。“チョッピング”は、IR信号処理の分野で公知の雑音低減手法である。フィルタは、チョッピング信号に応答するのに充分なほど高速ではなく、このため、フィルタは、制御信号のより低い周波数においてのみ変化する(即ち、制御信号の封体部によってフィルタ温度が変化する)。放射をチョッピングするための他の手法(例えば、機械的チョッピング)は、他の実施形態に用い得る。
【0053】
導関数検出手法には、フィルタが調整される際、検出信号126の1次(又は2次)の導関数を求めること、及び、多数の調整サイクルの間、1次(又は2次)導関数の平均をとることが含まれる。場合によっては、特に、スペクトル特性の導関数(即ち、吸収ピーク)が、簡単な演算又はアナログ回路(例えば、スペクトル特性に合致したアナログフィルタ)によって識別し得る特有の特性を提示する場合、導関数検出は、ロックイン検出に優る。
【0054】
記載した実施形態は、調整可能放射体を用いて、化学物質吸収ピークを検出するためのスペクトル変更を行うが、他の構成を用いる他の実施形態もまた用い得る。光学化学センサの様々な実施形態を図6A〜6Fに示す。
【0055】
図6Aにおける実施形態は、放射源150に対するフィルタ152の位置が、記載した実施形態と主に異なる。黒体放射源150は、広範なスペクトル(即ち、広帯域)IR放射を生成する。熱光学調整可能薄膜フィルタ152が、この放射源150の正面に配置され、また、関連する回路が、フィルタ152を種々の波長設定値まで走査する。フィルタ処理された放射154は、測定対象のサンプル156を含む空洞を通過し、広帯域検出器158は、放射がサンプル156を通過した後、放射強度を測定する。関連する回路は、その波長に対する放射強度に“くぼみ”がないか計測し、特定の化学物質がサンプル中に存在するかどうかを判定し、そうであれば、くぼみの大きさから化学物質濃度を求める。フィルタ152及び放射源150は、熱的に結合されていないため、調整可能フィルタ152には、放射源150とは独立にフィルタ152の温度を変更するための発熱素子が含まれる。一実施形態において、発熱素子には、フィルタ上に成膜された薄膜金属リングが含まれる。
【0056】
図6Bは、放射体がフィルタに接合された状態における、記載した実施形態(即ち、図2)の構成を示す。
図6Cに示す実施形態は、調整可能フィルタが、検出器付近に配置されるという点において、記載した実施形態と異なる。黒体放射源170は、広範なスペクトルのIR放射を生成する。広帯域放射は、サンプル156を含む空洞を通過し、関連する回路(図示せず)は、熱光学調整可能薄膜フィルタ172を走査し、広帯域放射の異なる波長を広帯域検出器174に入射させる。広帯域検出器174は、フィルタ172からのフィルタ処理されたIR放射の放射強度を測定する。関連する回路は、その波長に対して、放射強度に“くぼみ”がないか計測し、特定の化学物質がサンプル中に存在するかどうかを判定し、そうであれば、くぼみの大きさから化学物質濃度を求める。
【0057】
図6Dに示す実施形態は、調整可能フィルタと検出器とを互いに結合して、調整可能光学検出器(TOD)を形成する。この実施形態は、黒体放射源180を用いて、広範なスペクトルのIR放射を生成する。広帯域放射は、サンプル156を含む空洞を通過する。サンプル156を通過した後、熱光学調整可能薄膜フィルタと広帯域熱検出器182との組立体は、広帯域放射を受光する。関連する回路(図示せず)は、フィルタ/検出器182を加熱して異なる波長を走査し、その間、フィルタ/検出器182を対応する温度に加熱するのに必要な電力量を記録する。フィルタ/検出器182に到達するIR放射が少ない場合(即ち、サンプル156がIR光の一部を吸収する場合)、より多くのエネルギがフィルタ/検出器182の温度を(また、これにより波長を)変更するのに必要である。外部回路は、このエネルギ差異を用いて、サンプル中の化学物質濃度を計算する。
【0058】
フィルタは、その調整機構のおかげで加熱しなければならず、付近の検出器を圧倒するような量の黒体放射をそれ自体放出しない場合、TOD構成は、有用である。このことは、多くの用途においてそれらが相対的に高コストであるために実現不可能な光子検出器とは反対に、本質的にマイクロ温度計であるサーモパイル等の低コスト非冷却式IR検出器にとって懸念すべきことである。TOD構成要素を含むパッケージは、キセノン等のガスを充填して、サーモパイル検出器の応答性を改善し得る。
【0059】
図6Eの実施形態は、黒体放射体/黒体検出器/熱光学調整可能フィルタ190の単一の組立体を用いる。この組立体は、加熱され、波長走査狭帯域赤外線を放射する。この放射線は、逆反射体192の助けを借りて、サンプル156を含む空洞を2回通過する。背面反射された放射線は、フィルタ処理され、黒体放射体/検出器組立体190に吸収される。図6Dに示す実施形態と同様に、関連する回路(図示せず)は、組立体190を加熱して、異なる波長を走査し、その間、組立体190を対応する温度に加熱するのに必要な電力量を記録する。組立体190に到達するIR放射線が少ない場合、より多くのエネルギが、組立体190の温度を(また、これにより波長を)変更するのに必要である。外部回路は、このエネルギ差異を用いて、サンプル中の化学物質濃度を計算する。
【0060】
図6Fの実施形態は、組み合わせられた黒体放射体/検出器200を用いて、サンプル156を含む空洞を通過する広帯域IR放射線を生成する。熱光学調整可能薄膜フィルタ202は、このIR放射線の狭帯域部分を反射する。関連する回路(図示せず)は、フィルタ202の波長を走査する。黒体放射体/検出器200は、放射線が再度サンプル156を通過した後、IR放射線の反射された狭帯域部分を再吸収する。図6D及び5Eに示す実施形態と同様に、関連する回路(図示せず)は、放射体/検出器200を加熱して、異なる波長を走査し、その間、放射体/検出器200を対応する温度に加熱するのに必要な電力量を記録する。放射体/検出器200に到達するIR放射線が少ない場合、より多くのエネルギが、放射体/検出器200の温度を(また、これにより波長を)変更するのに必要である。外部回路は、このエネルギ差異を用いて、サンプル中の化学物質濃度を計算する。
【0061】
一般的に、図6A〜6Fにおいて述べた実施形態は、相互に緊密な関係があり、異なる種類の放射体及び検出器が、異なる波長で用いられている。中間IR波長において、低コスト放射体には、黒体高温放射源(例えば、高温のワイヤや伝導性のメンブレン)が含まれ、低コスト検出器には、非冷却式サーモパイル又は焦電性装置が含まれる。近IR波長において、低コスト放射体には、LEDが含まれ、低コスト検出器は、PINフォトダイオード等の光子検出器である。近IR波長において、放射源及び検出器双方は、中間IR波長に用いられるものよりも更に効率的である。
【0062】
実際、これらの因子は、調整可能光学検出器(図6D及び6EのTOD)の具体化用途を近IR(2000nm未満)の有用な波長に限定し、この場合、200〜300℃に加熱されたフィルタからの放射線は、測定対象のIR放射線と比較して、検出器を圧倒しない。2000nm高調波帯域における(例えば)CO2の分光、又は、吸収が1400nm〜1800nm範囲で起こる他の微量ガスの分光には、TODを用い得る。これらの短波長では、黒体放射体が、近IR放射源として有効に機能するためには、非実用的な高温が必要であることから、通常の放射体には、LEDが含まれる。
【0063】
例えば、4600nmの長波長の場合、高温のフィルタは、数ミリメートルの間隔内に配置されたサーモパイル検出器を圧倒するため、TODは、実用的でない。この場合、調整可能光放射体(図6BのTOE)構成の方が良い選択である。
【0064】
パッケージ化された調整可能フィルタが放射体又は検出器何れにも対応付けされないように光学系に配置された調整可能光学フィルタ(図6A及び6CのTOF)構成は、他の実施形態にも用いられる。本明細書に述べた実施形態は、TOE、TOD又はTOFとして実現されているかどうかに関わらず、全て調整可能フィルタに基づいている。
【0065】
他の実施形態は、(図2A及び2Dに示す背面反射器を用いること以外に)放射体から検出器に到達する光学パワーを大きくして、光学化学センサの信号分解能及び精度を向上する。検出器における光学パワーを大きくするための1つの手法は、図7に示すように、楕円反射空洞の焦点に放射体/フィルタ及び検出器を配置することである。検出器における光学パワーを最大にするための他の手法は、図8に示すように、光学集積球に放射体/フィルタ及び検出器を配置することである。更に他の手法は、別個の規模の大きいハイパワーで広帯域(即ち、黒体)の放射体を利用し、図9に示すように、適切な光学系を介して、規模が小さい調整可能フィルタ要素を通して放射体からの光を集光することである。調整可能光学フィルタの面積が小さければ、動作電圧が低く保たれ、規模の大きい放射体からの光を集光すると、検出器における光学パワー密度が大きくなる。
【0066】
他の側面、変形例及び実施形態は、請求項の範囲内にある。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】従来技術による光学化学センサを示す図。
【図2A】第1TOE実施形態を示す図。
【図2B】図2Aにおける放射体及びTOEのフィルタの温度対時間を示す図。
【図2C】第2TOE実施形態を示す図。
【図2D】図2Cにおける放射体及びTOEのフィルタの温度対時間を示す図。
【図3A】黒体放射対波長を示す図。
【図3B】COの吸収スペクトルと比較した、調整の3つの状態における調整可能フィルタのスペクトル放射を示す図。
【図3C】ゲルマニウムの温度依存吸収の効果が含まれる図3Bのグラフを示す図。
【図4A】COガスセンサの実施形態を示す図。
【図4B】パッケージ化された調整可能なフィルタの実施形態を示す図。
【図4C】パッケージ化された調整可能なフィルタの実施形態を示す図。
【図5A】エッチングに先立ちメンブレンフィルタを組み立てるための構造を示す図。
【図5B】エッチング後のメンブレンフィルタを示す図。
【図5C】図5Aにおけるフィルタの平面図を示す図。
【図6A】図4Aのセンサの他の実施形態を示す図。
【図6B】図4Aのセンサの他の実施形態を示す図。
【図6C】図4Aのセンサの他の実施形態を示す図。
【図6D】図4Aのセンサの他の実施形態を示す図。
【図6E】図4Aのセンサの他の実施形態を示す図。
【図6F】図4Aのセンサの他の実施形態を示す図。
【図7】図4Aのセンサの他の実施形態を示す図。
【図8】図4Aのセンサの他の実施形態を示す図。
【図9】図4Aのセンサの他の実施形態を示す図。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル領域における化学物質を検出するための光センサであって、
前記サンプル領域を通過する光路に沿って進む広帯域の光を生成するための放射体と、
受光する前記光に対応する検出信号を生成するための検出器であって、前記光路に配置される前記検出器と、
前記光路を進む前記光のフィルタ処理を選択的に行うための調整可能な通過帯域を有する光学フィルタであって、前記通過帯域が、前記光学フィルタの温度を変更することによって調整可能である前記光学フィルタと、
を備える光センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の光センサは、更に、
前記光学フィルタの前記通過帯域を制御するためのコントローラであって、ある波長範囲全体において前記光学フィルタの前記通過帯域を変調する前記コントローラを備える、光センサ。
【請求項3】
請求項1に記載の光センサは、更に、
前記検出器から前記検出信号を受信するためのコントローラであって、前記検出信号を分析して、前記化学物質の吸収ピークが存在するかどうかを判定する前記コントローラを備える、光センサ。
【請求項4】
請求項1に記載の光センサであって、
前記広帯域の光は黒体スペクトルを有する、光センサ。
【請求項5】
請求項1に記載の光センサであって、
前記放射体の温度を変更すると、それに応じて前記光学フィルタの温度が変化し、これによって前記光学フィルタの波長が調整されるように、前記放射体及び前記光学フィルタが熱的に結合される、光センサ。
【請求項6】
請求項5に記載の光センサであって、
前記放射体及び光学フィルタは、熱放射を介して熱的に結合される、光センサ。
【請求項7】
請求項5に記載の光センサであって、
前記放射体及び光学フィルタは、熱伝導を介して熱的に結合される、光センサ。
【請求項8】
請求項1に記載の光センサであって、
前記光学フィルタは、前記放射体から独立して前記光学フィルタの温度を変更するための発熱素子を含む、光センサ。
【請求項9】
請求項1に記載の光センサであって、
(i) 前記放射体は、第1基板フレーム上に搭載された薄膜メンブレンを含み、(ii)前記放射体及び光学フィルタは、調整可能な光放射体(TOE)を形成するように互いに結合される、光センサ。
【請求項10】
請求項1に記載の光センサであって、
前記コントローラは、前記化学物質の吸収ピーク付近の所定の周波数において前記通過帯域を周期的に変調し、前記化学物質の吸収ピークに対応する変動がないか前記検出信号を分析する、光センサ。
【請求項11】
請求項10に記載の光センサであって、
前記コントローラは、ロックイン検出手法を用いて前記検出信号を分析する、光センサ。
【請求項12】
請求項1に記載の光センサであって、
前記コントローラは、(i) 前記コントローラが前記光学フィルタの中心波長を変調する際、前記検出信号の導関数を評価し、(ii)複数の通過帯域変調サイクルの間における前記検出信号の前記導関数の平均を求め、前記化学物質の吸収ピークを検出する、光センサ。
【請求項13】
請求項1に記載の光センサであって、
前記光学フィルタは、調整可能な光学検出器(TOD)を形成するように、前記検出器に近接して配置される、光センサ。
【請求項14】
請求項1に記載の光センサであって、
前記放射体、前記検出器及び前記光学フィルタは、近接して配置され、放射体/検出器/フィルタの組立体を形成し、
当該光センサは、更に、
前記組立体に前記光を反射して戻すための逆反射体と、
前記光学フィルタの前記通過帯域を制御し、前記検出器から前記検出信号を受信するためのコントローラであって、前記光学フィルタの温度を変更するのに必要な電力量を計算し、その計算結果から前記化学物質の吸収ピークが存在するかどうかを判定する前記コントローラと、
を備える光センサ。
【請求項15】
請求項1に記載の光センサであって、
前記放射体及び前記検出器は、近接して配置され、放射体/検出器の組立体を形成し、
当該光センサは、更に、
前記光学フィルタの前記通過帯域を制御し、前記検出器から前記検出信号を受信するためのコントローラであって、前記光学フィルタの温度を変更するのに必要な電力量を計算し、その計算結果から前記化学物質の吸収ピークが存在するかどうかを判定する前記コントローラを備える、光センサ。
【請求項16】
ある範囲の波長全体において変換可能な波長スペクトルを有する光を生成するための調整可能な光放射体であって、
第1波長スペクトルを有する光を生成するための光源と、
前記光源からの前記光のフィルタ処理を選択的に行うための調整可能な通過帯域を有する光学フィルタと、を備え、
前記光学フィルタは、前記光源から光を受光して、前記第1波長スペクトルに含まれている第2波長スペクトルを有するフィルタ処理された光を生成し、
前記光学フィルタの前記通過帯域は、前記光学フィルタの温度を変更することによって調整可能である、調整可能な光放射体。
【請求項17】
請求項16に記載の調整可能な光放射体であって、
前記光源の温度を変更すると、それに応じて前記光学フィルタの温度が変化するように、前記光源及び前記光学フィルタが熱的に結合される、調整可能な光放射体。
【請求項18】
請求項16に記載の調整可能な光放射体であって、
前記光源及び光学フィルタは、熱放射を介して熱的に結合される、調整可能な光放射体。
【請求項19】
請求項17に記載の調整可能な光放射体であって、
前記光源及び光学フィルタは、熱伝導を介して熱的に結合される、調整可能な光放射体。
【請求項20】
請求項16に記載の調整可能な光放射体であって、
前記光学フィルタは、前記光源の温度とは独立して前記光学フィルタの温度を変更するための発熱素子を含む、調整可能な光放射体。
【請求項21】
請求項16に記載の調整可能な光放射体であって、
(i) 前記光源は、第1シリコンフレーム上に薄膜メンブレンを含み、(ii)前記光源及び光学フィルタは互いに結合されている、調整可能な光放射体。
【請求項22】
調整可能な通過帯域を有する光学フィルタメンブレン構造であって、
基板フレーム上における複数の積層薄膜層からなるフィルタメンブレンであって、前記通過帯域が、前記フィルタメンブレンの温度を変更することによって調整可能である前記フィルタメンブレンと、
前記フィルタメンブレンに対応付けられ、ある波長範囲全体において前記通過帯域を調整するための発熱体と、
を備える光学フィルタメンブレン構造。
【請求項23】
請求項22に記載の光学フィルタメンブレン構造であって、
前記発熱体は、前記フィルタメンブレン上に形成された環状発熱体構造を含む、光学フィルタメンブレン構造。
【請求項24】
請求項22に記載の光学フィルタメンブレン構造であって、
前記フィルタメンブレンが、(i) シリコンウェハの表面上に前記複数の積層薄膜層を成膜すること、(ii)前記シリコンウェハの残留部分によりフィルタメンブレン周辺にシリコンフレームが形成されるように、前記シリコンウェハの裏面上の開口部をエッチングにより除去すること、によって形成される、光学フィルタメンブレン構造。
【請求項25】
請求項22に記載の光学フィルタメンブレン構造であって、
前記発熱体は、前記フィルタメンブレンに向かって赤外線を放射する放射性の放射体を含む、光学フィルタメンブレン構造。
【請求項26】
請求項22に記載の光学フィルタメンブレン構造であって、
薄膜の前記フィルタメンブレンはゲルマニウムを含む、光学フィルタメンブレン構造。
【請求項27】
請求項22に記載の光学フィルタメンブレン構造であって、
薄膜の前記フィルタメンブレンはシリコンを含む、光学フィルタメンブレン構造。
【請求項1】
サンプル領域における化学物質を検出するための光センサであって、
前記サンプル領域を通過する光路に沿って進む広帯域の光を生成するための放射体と、
受光する前記光に対応する検出信号を生成するための検出器であって、前記光路に配置される前記検出器と、
前記光路を進む前記光のフィルタ処理を選択的に行うための調整可能な通過帯域を有する光学フィルタであって、前記通過帯域が、前記光学フィルタの温度を変更することによって調整可能である前記光学フィルタと、
を備える光センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の光センサは、更に、
前記光学フィルタの前記通過帯域を制御するためのコントローラであって、ある波長範囲全体において前記光学フィルタの前記通過帯域を変調する前記コントローラを備える、光センサ。
【請求項3】
請求項1に記載の光センサは、更に、
前記検出器から前記検出信号を受信するためのコントローラであって、前記検出信号を分析して、前記化学物質の吸収ピークが存在するかどうかを判定する前記コントローラを備える、光センサ。
【請求項4】
請求項1に記載の光センサであって、
前記広帯域の光は黒体スペクトルを有する、光センサ。
【請求項5】
請求項1に記載の光センサであって、
前記放射体の温度を変更すると、それに応じて前記光学フィルタの温度が変化し、これによって前記光学フィルタの波長が調整されるように、前記放射体及び前記光学フィルタが熱的に結合される、光センサ。
【請求項6】
請求項5に記載の光センサであって、
前記放射体及び光学フィルタは、熱放射を介して熱的に結合される、光センサ。
【請求項7】
請求項5に記載の光センサであって、
前記放射体及び光学フィルタは、熱伝導を介して熱的に結合される、光センサ。
【請求項8】
請求項1に記載の光センサであって、
前記光学フィルタは、前記放射体から独立して前記光学フィルタの温度を変更するための発熱素子を含む、光センサ。
【請求項9】
請求項1に記載の光センサであって、
(i) 前記放射体は、第1基板フレーム上に搭載された薄膜メンブレンを含み、(ii)前記放射体及び光学フィルタは、調整可能な光放射体(TOE)を形成するように互いに結合される、光センサ。
【請求項10】
請求項1に記載の光センサであって、
前記コントローラは、前記化学物質の吸収ピーク付近の所定の周波数において前記通過帯域を周期的に変調し、前記化学物質の吸収ピークに対応する変動がないか前記検出信号を分析する、光センサ。
【請求項11】
請求項10に記載の光センサであって、
前記コントローラは、ロックイン検出手法を用いて前記検出信号を分析する、光センサ。
【請求項12】
請求項1に記載の光センサであって、
前記コントローラは、(i) 前記コントローラが前記光学フィルタの中心波長を変調する際、前記検出信号の導関数を評価し、(ii)複数の通過帯域変調サイクルの間における前記検出信号の前記導関数の平均を求め、前記化学物質の吸収ピークを検出する、光センサ。
【請求項13】
請求項1に記載の光センサであって、
前記光学フィルタは、調整可能な光学検出器(TOD)を形成するように、前記検出器に近接して配置される、光センサ。
【請求項14】
請求項1に記載の光センサであって、
前記放射体、前記検出器及び前記光学フィルタは、近接して配置され、放射体/検出器/フィルタの組立体を形成し、
当該光センサは、更に、
前記組立体に前記光を反射して戻すための逆反射体と、
前記光学フィルタの前記通過帯域を制御し、前記検出器から前記検出信号を受信するためのコントローラであって、前記光学フィルタの温度を変更するのに必要な電力量を計算し、その計算結果から前記化学物質の吸収ピークが存在するかどうかを判定する前記コントローラと、
を備える光センサ。
【請求項15】
請求項1に記載の光センサであって、
前記放射体及び前記検出器は、近接して配置され、放射体/検出器の組立体を形成し、
当該光センサは、更に、
前記光学フィルタの前記通過帯域を制御し、前記検出器から前記検出信号を受信するためのコントローラであって、前記光学フィルタの温度を変更するのに必要な電力量を計算し、その計算結果から前記化学物質の吸収ピークが存在するかどうかを判定する前記コントローラを備える、光センサ。
【請求項16】
ある範囲の波長全体において変換可能な波長スペクトルを有する光を生成するための調整可能な光放射体であって、
第1波長スペクトルを有する光を生成するための光源と、
前記光源からの前記光のフィルタ処理を選択的に行うための調整可能な通過帯域を有する光学フィルタと、を備え、
前記光学フィルタは、前記光源から光を受光して、前記第1波長スペクトルに含まれている第2波長スペクトルを有するフィルタ処理された光を生成し、
前記光学フィルタの前記通過帯域は、前記光学フィルタの温度を変更することによって調整可能である、調整可能な光放射体。
【請求項17】
請求項16に記載の調整可能な光放射体であって、
前記光源の温度を変更すると、それに応じて前記光学フィルタの温度が変化するように、前記光源及び前記光学フィルタが熱的に結合される、調整可能な光放射体。
【請求項18】
請求項16に記載の調整可能な光放射体であって、
前記光源及び光学フィルタは、熱放射を介して熱的に結合される、調整可能な光放射体。
【請求項19】
請求項17に記載の調整可能な光放射体であって、
前記光源及び光学フィルタは、熱伝導を介して熱的に結合される、調整可能な光放射体。
【請求項20】
請求項16に記載の調整可能な光放射体であって、
前記光学フィルタは、前記光源の温度とは独立して前記光学フィルタの温度を変更するための発熱素子を含む、調整可能な光放射体。
【請求項21】
請求項16に記載の調整可能な光放射体であって、
(i) 前記光源は、第1シリコンフレーム上に薄膜メンブレンを含み、(ii)前記光源及び光学フィルタは互いに結合されている、調整可能な光放射体。
【請求項22】
調整可能な通過帯域を有する光学フィルタメンブレン構造であって、
基板フレーム上における複数の積層薄膜層からなるフィルタメンブレンであって、前記通過帯域が、前記フィルタメンブレンの温度を変更することによって調整可能である前記フィルタメンブレンと、
前記フィルタメンブレンに対応付けられ、ある波長範囲全体において前記通過帯域を調整するための発熱体と、
を備える光学フィルタメンブレン構造。
【請求項23】
請求項22に記載の光学フィルタメンブレン構造であって、
前記発熱体は、前記フィルタメンブレン上に形成された環状発熱体構造を含む、光学フィルタメンブレン構造。
【請求項24】
請求項22に記載の光学フィルタメンブレン構造であって、
前記フィルタメンブレンが、(i) シリコンウェハの表面上に前記複数の積層薄膜層を成膜すること、(ii)前記シリコンウェハの残留部分によりフィルタメンブレン周辺にシリコンフレームが形成されるように、前記シリコンウェハの裏面上の開口部をエッチングにより除去すること、によって形成される、光学フィルタメンブレン構造。
【請求項25】
請求項22に記載の光学フィルタメンブレン構造であって、
前記発熱体は、前記フィルタメンブレンに向かって赤外線を放射する放射性の放射体を含む、光学フィルタメンブレン構造。
【請求項26】
請求項22に記載の光学フィルタメンブレン構造であって、
薄膜の前記フィルタメンブレンはゲルマニウムを含む、光学フィルタメンブレン構造。
【請求項27】
請求項22に記載の光学フィルタメンブレン構造であって、
薄膜の前記フィルタメンブレンはシリコンを含む、光学フィルタメンブレン構造。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図6F】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図6F】
【図7】
【図8】
【図9】
【公表番号】特表2007−524828(P2007−524828A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−517479(P2006−517479)
【出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【国際出願番号】PCT/US2004/019758
【国際公開番号】WO2004/113887
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【出願人】(503465155)アイギス セミコンダクター インコーポレイテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】AEGIS SEMICONDUCTOR,INC.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【国際出願番号】PCT/US2004/019758
【国際公開番号】WO2004/113887
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【出願人】(503465155)アイギス セミコンダクター インコーポレイテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】AEGIS SEMICONDUCTOR,INC.
【Fターム(参考)】
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