説明

熱光学位相シフタ、およびこれを用いた可変光減衰器、1×M光スイッチ、可変波長フィルタ

【課題】より低消費電力化を実現した熱光学位相シフタ、およびこれを用いた可変光減衰器、1×M光スイッチ、可変波長フィルタを提供すること。
【解決手段】請求項1に記載された発明は、光信号を導波するための光導波路13と、該光導波路13の一部を加熱することで前記光信号に位相変化を与えるヒータ15とを備え、前記ヒータ15の長手方向と前記光導波路13の加熱される部分131、132の長手方向とが同じ向きになるように重なって設けられており、前記光導波路の加熱される部分が、複数本の互いに平行な光導波路を光学的に結合して往復する1本の導波路となるようにした折り返し構造に形成されることで、前記加熱される部分の光導波路が前記ヒータと重なる位置に高密度に設けられていることを特徴とする熱光学位相シフタである。可変光減衰器、1×M光スイッチ、可変波長フィルタはこの熱光学位相シフタを用いて構成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱光学位相シフタおよび光干渉回路に関し、さらに詳細には、熱光学位相シフタおよびこれを用いた可変光減衰器、1×M光スイッチ、可変波長フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、通信容量の拡大のために複数の光波長を用いた光波長多重通信システム(WDMシステム)の開発が盛んである。この光波長多重通信システムにおいて、個々の光波長の光強度ばらつきを抑制するための可変光減衰器は重要な光部品である。
【0003】
従来から広く用いられている、光導波路を用いたマッハツェンダ干渉計型の可変光減衰器の一例を図1に示す。この可変光減衰器は、2つの方向性結合器104、105とそれらを連結するアーム導波路102から構成されるマッハツェンダ干渉計から構成されており、アーム導波路102の上方には光導波路101を加熱するための薄膜ヒータ103が装荷されている。薄膜ヒータ103に電流を流すことによって、アーム導波路102が加熱されて、そのアーム導波路102を伝搬する光信号の位相を変化させることによって、マッハツェンダ干渉計から出力される光信号強度を可変できる。
【0004】
このようなデバイスに用いられる光導波路の作製方法を図2に示す。シリコンを基板201とし、基板201上に石英ガラス202、シリコン203を積層して構成されるSilicon on Insulator(SOI)基板200を用いる。始めに、電子ビーム露光とプラズマエッチングによって、シリコン導波路203を形成する(210)。次に、CVD(化学気相成長)法によって、石英系ガラス204を堆積し、シリコン導波路203を埋め込んでいる。以上の工程により、導波路はシリコン、クラッドは石英ガラス(導波路の周囲をクラッドと定義)である埋め込み型の光導波路構造が完成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−47326号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Compact and low power thermo-optic switch using folded silicon waveguides」, Adam Densmore, Siegfried Janz, Rubin Ma, Jens H. Schmid, Dan-Xia Xu, Andre Delage, Jean Lapointe, Martin Vachon and Pavel Cheben, Optics Express, Vol.17 No. 13, June 22, 2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このマッハツェンダ干渉計型の可変光減衰器は、例えば2本のアーム導波路のうち一方のアーム導波路のみを加熱することによって、2本のアーム導波路を伝搬する光信号の位相差を生成して光信号を減衰させる減衰器として機能する。この加熱に必要な消費電力は1減衰器当たり70mW程度必要である。この可変光減衰器は波長ごとに必要となるため、例えば100波長分の可変光減衰器を用意すると、7W(70mW×100)もの消費電力が必要となるため、さらなる低消費電力化が求められている。
【0008】
さらなる低消費電力化の実現のために、例えば特許文献1に記載の光回路が提案されている。この熱光学効果を用いた光回路においては、薄膜ヒータ近傍に断熱溝104を形成している。この断熱溝は、ヒータの両側に深い溝を形成したもので、基板水平方向への熱の拡散を抑制する働きがあり、消費電力を下げることが可能となる。
【0009】
しかしながら、この光回路では、基板水平方向の断熱溝幅を大きくし、導波路のリッジ幅を小さくするにつれて低消費電力化の効果が増大するが、6μm以下のリッジ幅では光学特性の劣化が発生するため、消費電力の低減には限界があった。
【0010】
また、非特許文献1には、熱光学効果を用いた光回路において、熱光学位相シフタの加熱領域にある導波路を渦巻状にし、ヒータ領域下の導波路を渦巻状に形成して高密度に配置することで、位相差の生成に必要な電力を抑え、低消費電力化が可能なマッハツェンダ干渉型光スイッチを作製することが提案されている。
【0011】
しかしながら、このスイッチは加熱領域の導波路が渦巻状で、ヒータは渦巻状導波路を横断する方向に180度折り返し導波路(折り返し構造)を持つ格子状に配置されていることから、ヒータは加熱領域にある導波路の全領域を覆うことができない。通常、ヒータ発熱による温度分布は導波路を分断する断面方向(垂直方向)に二次元に分布するため、渦巻状導波路全てにおいて一様の温度で加熱することは難しい。その結果、一様に加熱するためには、ヒータからの距離を離す必要があり、無駄な加熱領域を増加させてしまう。
【0012】
また、渦巻き状の導波路では加熱領域にある導波路のサイズが大きいため、薄膜ヒータ近傍に熱の流出を防止するための断熱溝を形成することは難しく、渦巻き状の導波路では十分な低消費電力化が困難であった。
【0013】
本発明の課題は、上記従来の問題に鑑みてなされたものであり、より低消費電力化を実現した熱光学位相シフタ、およびこれを用いた可変光減衰器、1×M光スイッチ、可変波長フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載された発明は、光信号を導波するための光導波路と、該光導波路の一部を加熱することで前記光信号に位相変化を与えるヒータとを備え、前記ヒータの長手方向と前記光導波路の加熱される部分の長手方向とが同じ向きになるように重なって設けられており、前記光導波路の加熱される部分が、複数本の互いに平行な光導波路を光学的に結合して往復する1本の導波路となるようにした折り返し構造に形成されることで、前記加熱される部分の光導波路が前記ヒータと重なる位置に高密度に設けられていることを特徴とする熱光学位相シフタである。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の熱光学位相シフタにおいて、前記折り返し構造は、曲げ導波路により複数本の導波路を光学的に結合していることを特徴とする。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の熱光学位相シフタにおいて、前記折り返し構造は、反射手段により複数本の導波路を光学的に結合していることを特徴とする。
【0017】
請求項4に記載された発明は、請求項1から3のいずれかに記載の熱光学位相シフタにおいて、前記ヒータの両側に、断熱性を高めるための溝を備えたことを特徴とする。
【0018】
請求項5に記載された発明は、2本の光導波路のうち少なくとも1本の光導波路が請求項1から3のいずれかに記載の熱光学位相シフタを有する2本の光導波路と、前記2本の光導波路のそれぞれによって連結される2つの方向性結合器とを備え、前記2本の光導波路のそれぞれの一部が、複数本の互いに平行な光導波路を光学的に結合して往復する1本の導波路となるようにした折り返し構造に形成されており、前記2本の光導波路の長手方向とは垂直な方向において前記折り返し構造が重なることがないように、前記2本の光導波路の長手方向にずれた位置に折り返し構造を配置することを特徴とする可変光減衰器である。
【0019】
請求項6に記載された発明は、請求項5に記載された可変光減衰器前記方向性結合器は、入力側に形成された第1の3dB結合器と、出力側に形成された第2の3dB結合器とであることを特徴とする。
【0020】
請求項7に記載された発明は、光信号が入力される1本の入力導波路と、前記1本の入力導波路に接続された1入力N出力の第1のスラブ導波路と、前記第1のスラブ導波路の出力に接続されたN本のアレイ導波路と、前記アレイ導波路に接続されたN入力M出力の第2のスラブ導波路と、前記第2のスラブ導波路の出力に接続されたM本の出力導波路とを備え、前記N本のアレイ導波路のそれぞれは、光路長が互いに等しく、請求項1から3のいずれかに記載の熱光学位相シフタを有し、該熱光学位相シフタによって前記N本のアレイ導波路を導波する光信号に位相変化を与えることによって、M本の出力導波路のうちの所望の出力導波路に前記光信号を出力することを特徴とする1×M光スイッチである。
【0021】
請求項8に記載された発明は、光信号が入力される1本の入力導波路と、前記1本の入力導波路に接続された1入力N出力の第1のスラブ導波路と、前記第1のスラブ導波路の出力に接続されたN本のアレイ導波路と、前記アレイ導波路に接続されたN入力1出力の第2のスラブ導波路と、前記第2のスラブ導波路の出力に接続された1本の出力導波路とを備え、前記N本のアレイ導波路のそれぞれは、光路長が互いに異なり、請求項1から3のいずれかに記載の熱光学位相シフタを有し、該熱光学位相シフタによって前記N本のアレイ導波路を導波する互いに周波数の異なる光信号のそれぞれに位相変化を与えることによって、複数の周波数の光信号のうちの所望の周波数の光信号を前記出力導波路から出力することを特徴とする可変波長フィルタである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】光導波路を用いたマッハツェンダ干渉計型の可変光減衰器の従来の構成例を示す図である。
【図2】光導波路の作製方法を示す図である。
【図3】第1の実施形態にかかる熱光学位相シフタを用いた可変光減衰器の構成を示す図である。
【図4】アーム導波路を構成する埋め込み型の光導波路の構成を示す図である。
【図5】第2の実施形態にかかる熱光学位相シフタを用いた可変光減衰器を示す図である。
【図6】反射手段によって光学的に結合される2つの光導波路を示す図である。
【図7】第3の実施形態にかかる可変光減衰器を示す図である。
【図8】第4の実施形態にかかる1×M(Mは2以上の整数)多ポートスイッチの回路構成を示す図である。
【図9】第4の実施形態にかかる1×M(Mは2以上の整数)多ポートスイッチの回路構成の他の例を示す図である。
【図10】折り返し構造の構成例を示す図である。
【図11】第5の実施形態にかかる可変波長フィルタの回路構成を示す図である。
【図12】第5の実施形態にかかる可変波長フィルタの回路構成の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0024】
(第1の実施形態)
図3は、本発明の第1の実施形態にかかる熱光学位相シフタを用いた可変光減衰器の構成を示す図である。可変光減衰器は、入力された光信号を熱光学位相シフタ(単に、位相シフタともいう)によって位相変調することで光信号強度を所望の値に調整し出力する機能を有する。図3に示すように、可変光減衰器は、2つの方向性結合器12、14とそれらを連結する2本のアーム導波路(光導波路)13とを備えたマッハツェンダ干渉計として構成されている。2本のアーム導波路13の上部には、薄膜ヒータ15が配置されており、この薄膜ヒータ15に接続された配線16に電流を供給することによって熱光学位相シフタとして機能することができる。また薄膜ヒータ15の両脇には、薄膜ヒータ15に沿って断熱溝17が形成されている。
【0025】
2本のアーム導波路13のそれぞれは、図4に示すような、石英系クラッド11の内部にシリコンコア10a、10bが埋め込まれた埋め込み型の光導波路として構成されている。位相シフタとして機能する薄膜ヒータ15に配線16を介して電流を供給して、アーム導波路13を構成する2つのシリコンコア10a、10bに与える温度を調整することにより2本の導波路13(10a、10b)における光信号(2つの光信号)に位相差を与える。可変光減衰器では、この位相差を持った2つの光信号を干渉させることによって、入力された光信号強度を所望の値に調整して出力することができる。また、薄膜ヒータ15の両脇の断熱溝17は、2本のアーム導波路13同士の熱干渉を抑制するとともに、ヒータ15の加熱効率の向上に寄与する。
【0026】
このアーム導波路13は、図2に示す工程によって作製できる。すなわち、まず、シリコン基板201上に、SiO2層202、シリコン層203が形成されたSOI(Silicon on Insulator)基板200を用意する。このSOI基板200を電子ビーム露光と反応性エッチングにより処理することによって、導波路のコアの形状とされたシリコンコア203が形成された基板210を得る。次に、導波路のコアの形状とされたシリコンコア203を覆うように、SiO2を主体とした上部クラッドガラス204を堆積して導波路積層体220を得る。さらに、その上に、配線パターン・ヒータパターンを作製する。そして、断熱溝としての深溝をフォトリソグラフィー技術と反応性イオンエッチングにより作製する。
【0027】
本発明の熱光学位相シフタは、図3に示すように、薄膜ヒータ15が配置されている領域の下部において、薄膜ヒータ15の長手方向に、アーム導波路13(シリコンコア10)が少なくとも1回以上往復している折り返し構造を備えていることに特徴がある。この折り返し構造は、言い換えると、複数本の互いに平行な光導波路を光学的に結合して往復する1本の導波路となるようにした構造である。すなわち、本発明の熱光学位相シフタのアーム導波路13は、その加熱領域において、薄膜ヒータ15の一端から他端に向かって延びている直線導波路131と、往復導波路132とを備えて構成される点に特徴がある。
【0028】
本実施形態の往復導波路132は、ヒータ15の他端部分で直線導波路131の終端から180度進行方向を変えた第1の曲げ導波路133と、この他端部分からヒータ15の一端に戻るように延びている直線の往路導波路134と、さらにこの一端部分で導波路が180度進行方向を変えた第2の曲げ導波路135と、再びヒータ15の他端に向かって延びる直線の復路導波路136とから構成される折り返し構造が一回以上繰り返された構成とすることができる。アーム導波路13は、折り返し構造を備えることにより、その直線導波路131および往復導波路132の全領域がヒータ15の加熱領域に格納されることができ、加熱される部分の光導波路がヒータと重なる位置に高密度に設けられることとなる。
【0029】
従来の可変光減衰器では、図1に示すように、アーム導波路102の加熱される部分は直線形の導波路であり、これに加熱すべき領域の導波路と同じ長さのヒータ103を設ける必要があった。一方、本発明のように180度の曲げ導波路133、135の2つを一組として採用して折り返し導波路(折り返し構造)により高密度に配置された導波路132を用いると、従来の直線形のアーム導波路102に比べ、同じ長さの薄膜ヒータ103により加熱される導波路長が長くなるので、一度の加熱で温められる導波路領域が増え、位相差を変化させるために必要な電力の供給は抑えられる。これは一般に薄膜ヒータ15の幅はアーム導波路13を構成するシリコンコア10の幅よりも十分大きいため、本実施形態の可変光減衰器の構造とすることにより、薄膜ヒータ15の加熱領域が無駄なくアーム導波路13の加熱に寄与するからである。
【0030】
このように本実施形態の熱光学位相シフタを用いた可変光減衰器によれば、従来の折り返しのない(直線形の)アーム導波路に比べ、同じ長さの薄膜ヒータにより加熱される導波路長が長くなるので、同じ温度上昇でより大きな位相変化が得られることとなる。またヒータ15の両脇に断熱溝17が形成されており、ヒータ15の下部にある導波路断面における熱分布は、基板に向かってほぼ一次元で温度勾配ができる。その結果、ヒータ15下部の複数の導波路は、ヒータ15からの距離によらず一様に加熱されることとなり、ヒータ15に極限まで近づけることが可能となり、より効率的な温度上昇が可能となる。
【0031】
本実施形態においては、シリコンコアによりアーム導波路13を構成する態様を例に挙げて説明したが、ヒータ下部のみをシリコンコアで形成し、その他のコアは石英コアを用いて構成してもよい。
【0032】
(第2の実施形態)
図5は、本発明の第2の実施形態にかかる熱光学位相シフタを用いた可変光減衰器を示す図である。図5に示すように、本実施形態で説明する熱光学位相シフタは、第1の実施形態の曲げ導波路133、135(図3参照)の代わりに、光導波路を分断するように挿入された反射板もしくは反射膜として形成される反射手段18を用いる構成である。その他の構成は第1の実施形態と同様である。
【0033】
反射手段18は図6に示すように、2つの光導波路A、Bの端部に設けられており、一方の光導波路Aから反射手段18に入射光P1が入射され、反射手段18によって反射された反射光P2が他方の光導波路Bに結合されることにより2つの光導波路を光学的に接続している。
【0034】
本実施形態の可変光減衰器を作製する際には、第1の実施形態と同様に、シリコンコアの形成、クラッドガラスの堆積を行い、導波路積層体220(図2参照)をまず作製する。この導波路積層体220を電子ビーム露光と反応性エッチングにより処理して、反射膜を形成する部分に溝を作る。次に、その溝を埋めるように反射手段となるAlを堆積した後、表面に堆積した余分なAlを反応性エッチングによって取り除く。さらにその上に、第1の実施形態と同様に配線パターン・ヒータパターンを作製し、最後に断熱溝を作製する。また、ミラー(反射手段)の材料としては、Alの他、Au、Ag等の金属膜でも作製できる。
【0035】
本実施形態の可変光減衰器によれば、第1の実施形態の効果に加えて、ミラー(反射手段)による光導波路の折り返し構造を用いることで、曲げ導波路を用いる構成よりも小型に作製することが可能である。
【0036】
本実施例では導波路コアとしてシリコンコアを用いているが、コア材料としては石英ガラスやポリマー材料を用いても同様な効果が得られる。
【0037】
本実施形態においては、シリコンコアによりアーム導波路13を構成する態様を例に挙げて説明したが、ヒータ下部のみをシリコンコアで形成し、その他のコアは石英コアを用いて構成してもよい。
【0038】
(第3の実施形態)
図7は、本発明の第3の実施形態にかかる可変光減衰器を示す図である。第1の実施形態の可変光減衰器では、隣接するアーム導波路に形成された折り返し構造の位置が導波路長手方向とは垂直な方向に整列していたが、本実施形態の可変光減衰器では、隣接するアーム導波路に形成された折り返し構造132の位置が導波路長手方向とは垂直な方向に整列しておらず、導波路長手方向に平行移動した位置に、それぞれの折り返し構造が重なることがないようにずらして配置されていることを特徴とする。この構成により、アーム導波路間に断熱溝を設けず、アーム導波路間の間隔を狭くした場合でも熱干渉を抑制することができる。また、熱干渉抑制によって温度むらが予防でき、設定減衰量の変化を引き起こす位相シフト量の制御が可能になる。さらに、例えば2本のアーム導波路のうちの一方のみを加熱して位相差を与える構成の可変光減衰器に用いた場合は、加熱が必要な一方のアーム導波路のみが加熱され、加熱が不要なもう一方のアーム導波路も加熱されず、低消費電力化が図れる。
【0039】
因みに、非特許文献1の渦巻き状導波路では、渦巻き導波路自体のサイズが大きいため、折り返し構造を有する導波路を長手方向に対して垂直に整列させず、長手方向に平行移動した位置に、それぞれが重なることがないようにずらして配置することは困難である。
【0040】
図7に示す例では、可変光減衰器の導波路長の等しい2本のアーム導波路のうち一方の導波路の折り返し構造132aのみをヒータ15の下に設け、他方の導波路の折り返し構造132bはヒータ15の下に重ならない位置に設けることによって、加熱部分の導波路長を異ならせて位相差を与える構成としている。ヒータ15を設ける位置はこれに限定されない。図7に示すように、両方の導波路に重なる位置とせずに、一方の導波路の折り返し構造132aの位置のみにヒータが設けられていてもよい。また、2つの折り返し構造132a、132bのそれぞれに重なる位置に別々のヒータを設けてもよい。
【0041】
このように本実施形態の可変光1減衰器によれば、隣接するアーム導波路に形成された折り返し構造132の位置が導波路長手方向とは垂直な方向に整列しておらず、導波路長手方向に平行移動した位置に、それぞれの折り返し構造が重なることがないようにずらして配置されている構成により、アーム導波路間に断熱溝を設けず、アーム導波路間の間隔を狭くした場合でも熱干渉を抑制することができる。また位相差を変化させるために必要な電力が抑制でき、より大きな低消費電力化とより高度な位相シフト制御が期待できる。
【0042】
本実施形態では、熱光学位相シフタとして第1の実施形態のものを採用した場合を例に挙げて説明したが、これに代えて第2の実施形態のものを採用してもよい。この場合、図7に示す薄膜ヒータ15下部の折り返し構造において採用している180度進行方向を変える曲げ導波路の代わりに反射手段18(図5参照)が用いられる。
【0043】
本実施形態においては、シリコンコアによりアーム導波路13を構成する態様を例に挙げて説明したが、ヒータ下部のみをシリコンコアで形成し、その他のコアは石英コアを用いて構成してもよい。
【0044】
(第4の実施形態)
図8は、本発明の第4の実施形態にかかる1×M(Mは2以上の整数)多ポートスイッチの回路構成を示す図である。なお同図においては、配線は省略して示している。図8に示すように、本実施形態の多ポート光スイッチは、1本の入力導波路23と、M本の出力導波路24と、1入力N(Nは2以上の整数)出力の第1のスラブ導波路21およびN入力M出力の第2のスラブ導波路22と、これら2つのスラブ導波路21、22を連結するN本の光導波路(アレイ導波路)20とを備えた光干渉回路として構成できる。薄膜ヒータ15下部のアレイ導波路20には図10に示すように第1の実施形態と同様の折り返し構造が構成されている。薄膜ヒータ15下部のアレイ導波路20の折り返し構造は、第1の実施形態と同様の構成に限らず、第2の実施形態と同様の構成を採用してもよい。図8に示す光干渉回路として構成される1×M多ポートスイッチは、入力された光信号強度をM個のポートのうちの所望のポートに出力する機能を有する。
【0045】
本実施形態の1×M多ポート光スイッチの動作を説明する。1本の入力導波路23から入射した光信号は、第1のスラブ導波路21に入力され、第1のスラブ導波路21においてN本のアレイ導波路20に分配される。次に、それぞれのアレイ導波路20を伝搬する光信号は位相シフタとして機能するヒータ15により所望の位相差が与えられる。位相差が与えられた光信号は、第2のスラブ導波路に入力されるが、第2のスラブ導波路22の出力端で集光する位置は与えられた位相差により決定される。その集光位置をM本の出力導波路24のいずれかが接続された位置に調整されることにより、M本の出力導波路25のいずれかから出力させることができる。
【0046】
ところで1×M多ポート光スイッチでは、M本の出力導波路のいずれかから集光した光を出力させるためには、位相シフタとして機能する複数のヒータによる位相変化量をそれぞれ個別に所望の値にする必要がある。従来の光スイッチでは、位相変化を与えるために加熱されるアーム導波路部分が直線形の導波路であり、加熱する部分の導波路の長さと同じ長さのヒータが必要となるため、位相差を変化させるために必要な電力が大きくなっていた。本実施形態の1×M多ポート光スイッチによれば、ヒータ15の下に折り返し構造を有する高密度に配置された導波路を用いることにより、直線形のアーム導波路に比べ、同じ長さの薄膜ヒータ15により加熱される導波路長が長くなるので、一度の加熱で温められる導波路領域が増え、位相差を変化させるために必要な電力の供給が抑えられる。
【0047】
本実施形態では、第1または第2の実施形態の可変光減衰器と同様に、長手方向に垂直な方向に折り返し構造が整列した構成の1×M多ポートスイッチを例に挙げて説明したが、図9に示す構成としてもよい。すなわち、第3の実施形態の可変光減衰器と同様に、隣接するアーム導波路に形成された折り返し構造132の位置が導波路長手方向とは垂直な方向に整列しておらず、導波路長手方向に平行移動した位置に、それぞれの折り返し構造が重なることがないようにずらして配置されている構成の1×M多ポートスイッチとしてもよい。
【0048】
(第5の実施形態)
図11は、本発明の第5の実施形態にかかる可変波長フィルタの回路構成を示す。なお同図においては、配線は省略して示している。図11に示すように、本実施形態の可変波長フィルタは、1本の入力導波路28と、1本の出力導波路29と、1入力N(Nは2以上の整数)出力のスラブ導波路26およびN入力1出力のスラブ導波路27と、これら2本のスラブ導波路26、27を連結する長さの異なるN本の光導波路(アレイ導波路)25とを備えた光干渉回路であり、薄膜ヒータ15下部のアレイ導波路25には折り返し構造を有する高密度に配置された導波路が配置されている。薄膜ヒータ15の下部のアレイ導波路25の拡大図を図10に示す。
【0049】
本実施形態の可変波長フィルタの動作を説明する。1本の入力導波路から入射した光信号は、第1のスラブ導波路21に入力され、第1のスラブ導波路21においてN本のアレイ導波路25に分配される。次に、N本のアレイ導波路25を伝搬する光信号は、長さの異なるN本のアレイ導波路25を伝搬した後に第2のスラブ導波路に入力される。長さの異なるN本のアレイ導波路25を伝搬することで、第2のスラブ導波路において波長によって異なる位置に集光する。また、位相シフタとして機能するヒータ15によって位相を変えることで集光位置を変化させることができるので、必要とする波長の集光位置を出力導波路29との接続位置に調整することにより、特定の波長のみを取り出すことができる。
【0050】
ところで可変波長フィルタでは、1本の出力導波路から特定の波長の光信号を出力させるためには、位相シフタとして機能する複数のヒータによる位相変化量をそれぞれ個別に所望の値にする必要がある。従来の可変波長フィルタでは、位相変化を与えるために加熱されるアーム導波路部分が直線形の導波路であり、加熱する部分の導波路の長さと同じ長さのヒータが必要となるため、位相差を変化させるために必要な電力が大きくなっていた。本実施形態の可変波長フィルタによれば、ヒータ15の下に折り返し構造を有する高密度に配置された導波路を用いることにより、直線形のアーム導波路に比べ、同じ長さの薄膜ヒータ15により加熱される導波路長が長くなるので、一度の加熱で温められる導波路領域が増え、位相差を変化させるために必要な電力の供給が抑えられる。よって、本実施形態の可変波長フィルタによれば、より高度な位相シフト制御とより大きな低消費電力化が期待できる。
【0051】
また本実施形態の可変波長フィルタによれば、図12の構成とすることができる。従来の可変波長フィルタでは、隣接するアーム導波路の間隔が非常に狭い場合には、熱干渉が発生し、一方のアーム導波路のみが加熱されず、加熱が不要なもう一方のアーム導波路も加熱されてしまい、消費電力の増大を招いていた。この問題を解消するべく、本実施形態の可変波長フィルタでは、図12に示す構成、すなわち、第3の実施形態の可変光減衰器と同様に、隣接する導波路の長手方向とは垂直な方向において折り返し構造が重なることがないように、導波路の長手方向にずれた位置に折り返し構造を配置した構成とすることができる。この配置とすることにより、隣接するアーム導波路の間隔が非常に狭い場合でもアーム導波路間での熱干渉を抑制でき、温度むらによる設定位相変化量のずれの発生を防止できる。
【符号の説明】
【0052】
10 シリコンコア
11 石英系クラッド
12、14 方向性結合器
13 アーム導波路(光導波路)
15 薄膜ヒータ
16 配線
17 断熱溝
101 入力光導波路
102 アーム導波路
103 ヒータ
104、105 方向性結合器
200 SOI基板
201 基板
202 石英ガラス
203 シリコン、シリコン導波路
204 石英系ガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光信号を導波するための光導波路と、該光導波路の一部を加熱することで前記光信号に位相変化を与えるヒータとを備え、
前記ヒータの長手方向と前記光導波路の加熱される部分の長手方向とが同じ向きになるように重なって設けられており、前記光導波路の加熱される部分が、複数本の互いに平行な光導波路を光学的に結合して往復する1本の導波路となるようにした折り返し構造に形成されることで、前記加熱される部分の光導波路が前記ヒータと重なる位置に高密度に設けられていることを特徴とする熱光学位相シフタ。
【請求項2】
前記折り返し構造は、曲げ導波路により複数本の導波路を光学的に結合していることを特徴とする請求項1に記載の熱光学位相シフタ。
【請求項3】
前記折り返し構造は、反射手段により複数本の導波路を光学的に結合していることを特徴とする請求項1に記載の熱光学位相シフタ。
【請求項4】
前記ヒータの両側に、断熱性を高めるための溝を備えたことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の熱光学位相シフタ。
【請求項5】
2本の光導波路のうち少なくとも1本の光導波路が請求項1から3のいずれかに記載の熱光学位相シフタを有する2本の光導波路と、前記2本の光導波路のそれぞれによって連結される2つの方向性結合器とを備え、
前記2本の光導波路のそれぞれの一部が、複数本の互いに平行な光導波路を光学的に結合して往復する1本の導波路となるようにした折り返し構造に形成されており、前記2本の光導波路の長手方向とは垂直な方向において前記折り返し構造が重なることがないように、前記2本の光導波路の長手方向にずれた位置に折り返し構造を配置することを特徴とする可変光減衰器。
【請求項6】
前記方向性結合器は、入力側に形成された第1の3dB結合器と、出力側に形成された第2の3dB結合器とであることを特徴とする請求項5に記載された可変光減衰器。
【請求項7】
光信号が入力される1本の入力導波路と、
前記1本の入力導波路に接続された1入力N出力の第1のスラブ導波路と、
前記第1のスラブ導波路の出力に接続されたN本のアレイ導波路と、
前記アレイ導波路に接続されたN入力M出力の第2のスラブ導波路と、
前記第2のスラブ導波路の出力に接続されたM本の出力導波路とを備え、
前記N本のアレイ導波路のそれぞれは、光路長が互いに等しく、請求項1から3のいずれかに記載の熱光学位相シフタを有し、該熱光学位相シフタによって前記N本のアレイ導波路を導波する光信号に位相変化を与えることによって、M本の出力導波路のうちの所望の出力導波路に前記光信号を出力することを特徴とする1×M光スイッチ。
【請求項8】
光信号が入力される1本の入力導波路と、
前記1本の入力導波路に接続された1入力N出力の第1のスラブ導波路と、
前記第1のスラブ導波路の出力に接続されたN本のアレイ導波路と、
前記アレイ導波路に接続されたN入力1出力の第2のスラブ導波路と、
前記第2のスラブ導波路の出力に接続された1本の出力導波路とを備え、
前記N本のアレイ導波路のそれぞれは、光路長が互いに異なり、請求項1から3のいずれかに記載の熱光学位相シフタを有し、該熱光学位相シフタによって前記N本のアレイ導波路を導波する互いに周波数の異なる光信号のそれぞれに位相変化を与えることによって、複数の周波数の光信号のうちの所望の周波数の光信号を前記出力導波路から出力することを特徴とする可変波長フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−3442(P2013−3442A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136299(P2011−136299)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】