説明

熱処理バクテリンおよびそのような熱処理バクテリンから調製された乳剤ワクチン

熱処理バクテリン、熱処理バクテリンを生成する方法、およびそのような熱処理バクテリンから調製されたブタ用乳剤ワクチンを開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、ワクチンの分野、および乳剤ワクチンを安定化させる方法に関する。詳細には、本発明は、熱処理バクテリン、熱処理バクテリンを生成する方法、およびそのような熱処理バクテリンから調製されたブタ用乳剤ワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
動物の感染症を制御するために、ワクチン接種の使用が増加している。アジュバントが、ワクチン中で頻繁に使用される。これは、アジュバントは、抗原に対する液性免疫応答および/または細胞性免疫応答を増加させることができるからである。ワクチンはしばしば、乳剤として製剤化される。これは、乳剤は、アジュバントとして作用することができ、デポーとして、注射部位において抗原を保持する特性を有するからである。乳剤ワクチン中では、乳化剤が通常使用される。乳化剤を使用する以外に、また、乳剤ワクチンの安定性は、乳剤の液滴サイズを機械的手段によって低下させることによって達成することもできる。
【0003】
米国特許第5,084,269号は、鉱油と併せたレシチンを含有するアジュバントの処方に関するものであり、この処方によって、宿主動物内で生じる刺激作用が減少し、同時に全身性免疫の増加が誘発される。米国特許第5,084,269号による組成物は、Pfizer,Inc.の商標である商品名AMPHIGEN(登録商標)の下に商業的に使用されている。
【0004】
一般に、細菌性抗原は、加熱に対して不安定であり、高温に短時間曝露しただけでも、抗原の活性が低下する場合がある。例えば、現在の炭疽ワクチンは、生物学的活性を全て、37℃、48時間で失う恐れがある(S.Sing、N.Ahuja、V.Chauhan、E.Rajasekaran、W.S.Mohsin、R.BhatおよびR.Bhatnagar;Bioche.Biophys.Res.Commun.2002 Sep.6;295(5):1058〜62)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、熱処理バクテリン、熱処理バクテリンを生成する方法、およびそのような熱処理バクテリンから調製されたブタ用乳剤ワクチンに関する。この方法は、熱処理バクテリンを形成するために、バクテリンを約35〜約80℃の温度まで加熱することを含む。
【発明を実施するための形態】
【0007】
定義
許容できる抗原活性:「許容できる抗原活性」という用語は、同種の生存生物で攻撃された後に、ワクチン接種動物において防御免疫応答を誘発する能力、または上記生物を用いる成文化された効力試験に合格することを意味する。
【0008】
バクテリン:「バクテリン」という用語は、ワクチンの構成成分として使用することができる死菌の懸濁液を意味する。
【0009】
乳化剤:「乳化剤」という用語は、乳剤をより安定にするのに使用される物質を意味する。
【0010】
乳剤:「乳剤」という用語は、一方の液体の小さな液滴が、他方の液体の連続相中に懸濁している、2つの非混和性の液体の組成物を意味する。
【0011】
熱処理バクテリン:「熱処理バクテリン」という用語は、熱処理されており、熱処理前のリパーゼ活性の50%以下のリパーゼ活性を示し、許容できる抗原活性を示すバクテリンを意味する。
【0012】
逆相乳剤:「逆相乳剤」という用語は、油中水型の乳剤を意味する。
【0013】
リパーゼ:「リパーゼ」という用語は、乳剤ワクチン中の乳化剤の分解を引き起こすことができる酵素、すなわち、エステラーゼ、リパーゼおよびホスホリパーゼを意味する。
【0014】
順相乳剤:「順相乳剤」という用語は、水中油型の乳剤を意味する。
【0015】
水中油型乳剤:「水中油型乳剤」という用語は、油の小さな液滴が、水の連続相中に懸濁している乳剤を意味する。
【0016】
室温:「室温」という用語は、18〜25℃の温度を意味する。
【0017】
油中水型乳剤:「油中水型乳剤」という用語は、水滴が、油の連続相中に懸濁している乳剤を意味する。
【0018】
説明
本発明は、リパーゼ活性が低下しているバクテリン、そのようなバクテリンから調製されたブタ用乳剤ワクチン、およびバクテリンのリパーゼ活性を低下させる方法に関する。抗原性を示す構成成分に加えて、バクテリンの中には、リパーゼ活性を示すものがある。リパーゼ活性を示すバクテリンを乳剤中に組み込むと、リパーゼが、乳剤を作り出すために使用した乳化剤を分解する恐れがある。高いリパーゼ活性を示すバクテリンを含有する乳剤ワクチンは、不安定な乳剤となる傾向があり、リパーゼのレベルが低いバクテリンを含有する乳剤ワクチンは、安定である傾向がある。死滅させた場合、リパーゼ活性を示すバクテリンをもたらす場合がある細菌の例として、ブタ丹毒菌(Erysipelothrix rhusiopathiae)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、大腸菌(Escherichia coli)、マイコプラズマ・ハイオニューモニエ(Mycoplasma hyopneumoniae)、およびレプトスピラ(Leptospira)種、例として、既知の病原体であるレプトスピラ・カニコーラ(Leptospira canicola)、レプトスピラ・グリポティフォーサ(Leptospira grippotyphosa)、レプトスピラ・ハージョ(Leptospira hardjo)、レプトスピラ・イクテロヘモリジア(Leptospira icterohaemorrhagiae)、レプトスピラ・ブラチスラバ(Leptospira bratislava)、およびレプトスピラ・ポモナ(Leptospira pomona)が挙げられる。これらの細菌は、ブタにおいて疾患を引き起こす恐れがあり、これらの疾患に対するワクチン接種が望ましい。レプトスピラのバクテリンは、高いリパーゼ活性を示す可能性がより高く、一方、ブタ丹毒菌(Erysipelothrix rhusiopathiae)のバクテリンは、より低く、より扱いやすいリパーゼ活性を示し得る。
【0019】
リパーゼは、乳剤を作り出すために使用する乳化剤を分解することができ、したがって、乳剤を不安定にし、乳剤の分解を引き起こす恐れがあり、1つまたは複数の乳剤を分解する酵素、例として、エステラーゼ、リパーゼおよびホスホリパーゼを含む場合がある。これらの酵素、すなわち、エステラーゼ、リパーゼおよびホスホリパーゼはまとめて、リパーゼと呼ばれる。バクテリンのリパーゼ活性は、O−ピバロイルオキシメチルウンベリフェロン(C−POM)と呼ばれる合成基質を使用して測定することができる。リパーゼが引き起こす加水分解の速度が、リパーゼ活性の尺度である。この反応におけるリパーゼが引き起こす加水分解の反応速度を、リパーゼ活性による産物の蛍光強度の増加によってモニターする。反応速度は、選ばれた正確な加水分解試験条件に依存し、したがって、加水分解速度によって測定したリパーゼ活性レベルは、同じ試験条件下で得たデータを使用して比較すべきである。文献の方法が、Kurioka S. およびMatsuda M. (1976) Ana.
Biochem. 75: 281-289、De Silva N.S. およびQuinn P.A. (1987) J. Clin. Microbiol. 25: 729-731、ならびにGrau A.およびOrtiz A. (1998) Chem. Phys. of
Lipids. 91: 109-118を含めて、いくつかの論文に開示されている。
【0020】
乳剤ワクチンの場合、乳剤の分解によって、構成成分の相分離が引き起こされる。相分離が生じると、容器から取り出される個々の用量が、ワクチン構成成分を同じレベルで含有しない恐れがあるので、こうした相分離は望ましくない。さらに、乳剤の崩壊から、乳化剤のアジュバント活性の喪失、およびワクチンの抗原作用の低下に至る恐れもある。
【0021】
弱毒化生ウイルスが頻繁に、ワクチンの中にバクテリンと一緒に含まれる。単一のワクチンを使用して、1つのワクチンで異なる疾患に対して免疫を生み出すことができるので、そのようなワクチンは有用である。リパーゼ活性がバクテリン中に存在すると、乳剤からの乳化剤の放出が引き起こされる。この遊離の乳化剤は、生ワクチンウイルスを破壊して不活性化し、これによって、ウイルスの感染性の喪失が生じる恐れがある。
【0022】
対象とする細菌を培養し、次いで、そうした細菌を死滅させて、細胞壁の構成成分を含めて、多様な細菌の構成成分を含有するバクテリンを生成することによって、ワクチン中で有用なバクテリンを形成することができる。これらの細菌は、merthiolate、ホルマリン、ホルムアルデヒド、ジエチルアミン、バイナリーエチレンイミン(binary ethyleneimine)(BEI)、ベータプロピオラクトン(BPL)およびグルタルアルデヒド等の化合物にそれらの細菌を曝露させることを含めた、多様な方法によって死滅させることができる。これらの化合物の組合せを使用することができる。さらに、細菌を、滅菌放射線を用いて死滅させることも可能である。
【0023】
これまでに、そのようなリパーゼ活性を示すバクテリンのリパーゼ活性を、熱処理によって低下させることができることが見いだされている。具体的には、バクテリンを約35〜約80℃の温度まで加熱して、熱処理バクテリンを形成することによって、バクテリンのリパーゼ活性を低下させることができ、この熱処理バクテリンは、許容できる抗原活性を示す。熱処理を、十分な期間にわたり実施し、その結果、熱処理バクテリンのリパーゼ活性が、熱処理前のバクテリンに見いだされる活性の50%以下となる。乳剤ワクチンの良好な安定性を得るためには、リパーゼ活性をゼロにまで低下させる必要はない。本発明者らは、良好な有効期間を有するワクチンを、熱処理前のリパーゼ活性レベルの50%以下であるリパーゼ活性レベルを示す熱処理バクテリンから調製できることを見いだすに至った。
【0024】
試験基質を加水分解する速度を、バクテリンのリパーゼ活性の尺度として使用する場合、熱処理前の試験基質の加水分解速度を、熱処理後の加水分解速度と比較する。加水分解速度が新鮮なバクテリンについて観察される加水分解速度の50%以下まで低下するように、熱処理を実施する。
【0025】
同じ方法を使用して、熱処理前の活性および熱処理後の活性を測定する限り、リパーゼ活性レベルを測定する正確な方法には決定的な重要性はない。例えば、試験基質の加水分解速度を、1つの基質を使用して測定する場合、異なる基質では、異なる速度が生じる恐れがあろう。しかし、最初の活性の決定のためにも処理後の活性の決定のためにも、同じ基質を使用すれば、相対的な速度は依然として、熱処理の効果を示す。
【0026】
レプトスピラ・ポモナ(Leptospira Pomona)のバクテリン(9 CFR §113.101)、レプトスピラ・イクテロヘモリジア(Leptospira Icterohaemorrhagiae)のバクテリン(9 CFR §113.102)、レプトスピラ・カニコーラ(Leptospira Canicola)のバクテリン(9 CFR §113.103)、レプトスピラ・グリポティフォーサ(Leptospira Grippotyphosa)のバクテリン(9 CFR §113.104)、ならびにレプトスピラ・ハージョ(Leptospira Hardjo)のバクテリン(9 CFR §113.105)について、抗原活性の成文化された試験がある(9 CFR §113.101、113.102、113.103、113.104および113.105)。これらの種については、ハムスターを同種の生存細菌を用いて攻撃した場合、少なくとも80%の非ワクチン接種ハムスターが生存しないモデルにおいて、少なくとも75%のワクチン接種ハムスターが生存するような、ワクチン接種ハムスターにおいて防御免疫応答を誘発する能力として、許容できる抗原活性を定義することができる。抗原がレプトスピラ・ハージョ(Leptospira hardjo)である場合、許容できる抗原活性を、細菌抗原であるレプトスピラ・ハージョ(Leptospira hardjo)を含むワクチンを用いてワクチン接種されている仔ウシにおいて、レプトスピラ・ハージョ(Leptospira hardjo)に対する血清学的凝集幾何平均力価≧40を誘発する、ワクチンの能力と定義することができる。その他のバクテリンについては、許容できる抗原活性を、同種の生存生物で攻撃された後に、ワクチン接種動物において防御免疫応答を誘発する能力、または上記生物を用いる効力試験に合格することと定義する。
【0027】
熱処理は、様々な温度で、種々の長さの時間にわたり実施することができる。一般に、加熱は、約35〜約80℃の温度で、約20分〜約24時間にわたって行うことができる。バクテリンを、より高い温度、例として、約75〜約80℃まで加熱する場合には、加熱時間が、上記時間範囲下限となる。加熱をより低い温度で行う場合には、より長い期間にわたって加熱を行う。温度と時間との別の組合せは、約60〜約70℃の温度での約9〜約10時間の加熱である。温度と時間との別の組合せは、約65〜約70℃の温度での約5〜約8時間の加熱である。温度と時間との別の組合せは、約65〜約70℃の温度での約1時間の加熱である。温度と時間との別の組合せは、約55〜約65℃の温度での約5〜約8時間の加熱である。
【0028】
このバクテリンは、熱処理後には、新たに調製したバクテリンよりも低いリパーゼ活性を示すが、それ以外の点では、新たに調製するバクテリンと同じように製剤化することができる。したがって、熱処理バクテリンを、ワクチン中に、ワクチンを生成する通常の方法によって組み込むことができる。これらの方法は、当技術分野ではよく知られている。
【0029】
乳剤ワクチンは、所望のバクテリンを、油相および1つまたは複数の乳化剤と併せることによって形成することができる。次いで、この組合せを激しく撹拌して、乳剤を形成する。適切な撹拌方法は、ホモジナイズし、それに続いて、顕微溶液化すること(microfluidizing)を含む。また、保存剤および賦形剤も、乳化の前に、この組合せに含めることができる。
【0030】
ワクチンは、バクテリンおよびウイルス抗原の両方を含むことができる。バクテリンおよびウイルス抗原を含むワクチンを調製する場合、バクテリン、任意の含めるべきウイルス抗原、1つまたは複数の乳化剤、ならびに場合により保存剤および賦形剤を、油相と併せ、乳化させる。乳剤の形成に続き、製剤のpHを、NaOH溶液またはHCl溶液のいずれかを使用して、適切なpHに調整することができる。ワクチンとして使用するためには、一般に、注射部位における刺激を回避するために、pHは中性付近であることが望ましい。通常、pHを、約7.0〜約7.3とする。
【0031】
乳剤ワクチンを形成するために適している油相には、代謝可能でない油および代謝可能な油がある。代謝可能でない油として、鉱油、例として、白色鉱油および軽鉱油が挙げられる。代謝可能な油として、植物油、魚油および合成脂肪酸グリセリドが挙げられる。
【0032】
本発明の乳剤ワクチンを調製する場合に使用することができる乳化剤の例には、通常のワクチンの乳化剤である、リン脂質、ソルビタンエステル、ポリエトキシル化ソルビタンエステルおよびマンニトール誘導体がある。リン脂質乳化剤として、レシチン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、およびレシチン(例えば、AMPHIGEN(登録商標)等)が挙げられる。ソルビタンエステル乳化剤として、ソルビタンモノラウレート(例えば、Span(登録商標)20およびArlacel(登録商標)20)、ソルビタンモノオレエート(例えば、Span(登録商標)80およびArlacel(登録商標)80)、ソルビタンモノパルミテート(例えば、Span(登録商標)40およびArlacel(登録商標)40)、ならびにソルビタンモノステアレート(例えば、Span(登録商標)60およびArlacel(登録商標)60)が挙げられる。ポリエトキシル化ソルビタンエステルとして、ポリエトキシソルビタンモノラウレート(例えば、Tween(登録商標)20およびTween(登録商標)21)、ポリエトキシソルビタンモノオレエート(例えば、Tween(登録商標)80)、ポリエトキシソルビタンモノパルミエート(例えば、Tween(登録商標)40)、およびポリエトキシソルビタンモノステアレート(例えば、Tween(登録商標)60)が挙げられる。マンニトール誘導体乳化剤として、マンニトールオクタデカン酸エーテルが挙げられる。Span(登録商標)、Arlacel(登録商標)およびTween(登録商標)は、ICI Americasの商標である。AMPHIGEN(登録商標)は、Pfizer,Inc.の商標である。一般に、ワクチンを、順相の水中油型の乳剤として製剤化するが、逆相の油中水型の乳剤として調製することも可能である。
【0033】
Quil A、コレステロール、リン酸アルミニウムおよび水酸化アルミニウム等の多様なアジュバント、ならびにmerthiolate等の保存剤を、ワクチン中で使用することができる。Quil Aは、南米の木、キラヤ・サポナリア(Quillaja Saponaria)モリナ(Molina)の樹皮から抽出したキラヤサポニン(quillaja saponin)の精製混合物である。Quil Aは、免疫系に対して直接作用して、感受性の状況全般を活性化する。そうするに当たって、Quil Aは、液性応答および細胞媒介性応答の両方を誘発する。親油性鎖によって、抗原とアジュバントとが相互作用して、細胞質ゾル内に送達されて、内在する経路においてプロセシングを受ける。Quil Aはしばしば、コレステロールと共に使用される。これは、コレステロールを適切な割合で添加した場合には、コレステロールによって、あまり望ましくない副作用が排除されるからである。コレステロールがQuil Aと結合すると、コレステロールは、ヘリックス様構造を形成する不溶性の複合体をQuil Aと形成し、それによって、免疫応答の賦活を助ける、Quil A分子の糖単位が露出する。
【0034】
通常、ブタのウイルス抗原を、バクテリンを含有するワクチンに添加する。このアプローチの1つの利点は、同じ結果を達成するためにいくつかの異なるワクチンの投与を必要とする代わりに、1つのワクチンを使用して、いくつかの疾患に対する免疫を生み出すことができることである。死滅させたウイルスおよび弱毒化生ウイルスの両方を、ワクチン中で使用することができる。使用することができる、ブタ疾患を引き起こすウイルスには、ブタアデノウイルス、ブタサーコウイルス、ブタヘルペスウイルス、仮性狂犬病ウイルス、ブタコレラウイルス、ブタ流行性下痢症ウイルス、ブタ血球凝集性脳脊髄炎ウイルス、ブタパルボウイルス、ブタ呼吸器コロナウイルス、ブタ生殖器呼吸器ウイルス、ブタインフルエンザ、伝染性胃腸炎ウイルス、および水疱性口内炎ウイルスがある。
【0035】
リパーゼ活性がバクテリン中に存在すると、乳剤からの乳化剤の放出を引き起こす恐れがある。この遊離の乳化剤は、生存ウイルスの外被を破壊し、生ワクチンウイルスを不活性化し、これによって、ウイルスの感染性の喪失が生じる恐れがある。したがって、バクテリンの熱処理は、乳剤を安定化させ、そのアジュバント効果を保つのに役立ち、さらに、ウイルスがもつウイルス感染性も保つ。
【0036】
以下の実施例を、さらに例示する目的で提供するが、これらには、特許請求の範囲に記載の発明の範囲を限定する意図はない。
【0037】
手順
手順1 濁度の決定
濁度を、光散乱法によって、比濁分析単位(NU)で決定する。定義された条件下における、試料により散乱した光の強度を、標準の参照懸濁液により散乱した光の強度と比較する。散乱光の強度が強いほど、試料の濁度が高い。光源は試料の方向に向いており、光散乱が、光源の方向に対して90°で測定される。測定器を、ホルマジン懸濁液からの光散乱を測定することによって較正する。
【0038】
比濁計の較正
蒸留水を0.2μmのポアサイズを有するメンブランフィルターを通してろ過することによって、超ろ過水を調製する。メスフラスコ中で、1.00gの硫酸ヒドラジン(NH)HSOを超ろ過水中に溶解させ、超ろ過水を用いて100mlに希釈することによって、第1の溶液を調製する。メスフラスコ中で、10.00gのヘキサメチレンテトラアミンを超ろ過水中に溶解させ、超ろ過水を用いて100mlに希釈することによって、第2の溶液を調製する。5.0mlの第1の溶液と5.0mlの第2の溶液とを混合することによって、ホルマジン懸濁液を調製する。この混合物を、およそ24℃で24時間静置する。この混合物を、超ろ過水を用いて100mlに希釈して、400NUの濁度を有する濁度用懸濁液の保存液を形成する。10.00mlの濁度用懸濁液の保存液を、超ろ過水を用いて100mlに希釈することによって、40NUのホルマジン濁度用懸濁液を調製する。保存液を希釈することによって、さらなる較正用の溶液を調製する。
【0039】
濁度の測定
測定すべき試料を、超ろ過水を用いて希釈して、濁度が比濁計の較正した範囲内に収まるようにする。濁度を測定し、原液の濁度を、以下の式を使用して計算する。
原液の濁度(NU)=[M×(D+O)]/O
式中、
Mは、希釈試料の濁度(NU)であり、
Dは、希釈水の容積(mL)であり、
Oは、試料原液の容積(mL)である。
【0040】
手順2 リパーゼの解析
O−ピバロキシメチルウンベリフェロンを蛍光発生基質として使用して、リパーゼの活性を決定した。この非蛍光性基質が、リパーゼの触媒作用を受けて加水分解すると、ヒドロキシメチルエーテルが生じ、これは、水性条件下では不安定である。この不安定なヒドロキシメチルエーテルの分解によってホルムアルデヒドおよび蛍光を発する産物であるウンベリフェロンが生じる。生じたウンベリフェロンの蛍光強度を、時間の関数としてモニターすることによって、リパーゼの酵素活性が高感度で速度論的に測定される。
【0041】
O−ピバロキシメチルウンベリフェロン(Molecular Probes、製品番号P35901)の溶液を、希釈されてないDMSO中で、5mMの保存液濃度で調製した。未使用の溶液を、遮光して−20℃で保存した。5mM O−ピバロキシメチルウンベリフェロン溶液を、58mM TRIS−HCl緩衝液(pH8.0)を使用して希釈して750μMとし、得られた溶液を、37℃まであらかじめ加温した。バクテリン試料または対照緩衝液/媒体を、室温、6500×gで10分間遠心分離して、ペレットおよび上清を形成した。低容積96ウエルプレート(Corning3393、黒色ポリスチレン非結合性表面、半分の領域(half area))のアッセイウエル中で、15μLの100mM TRIS−HCl緩衝液(pH8.0)を、バクテリン試料または対照緩衝液/媒体からの室温の15μLの上清と併せることによって、反応を実施した。37℃で10分間プレインキュベートし、次いで、20μLの750μm O−ピバロキシメチルウンベリフェロンまたは対照緩衝液/媒体を添加することによって、反応を開始した。得られた反応混合物は、53mM TRIS−HCl緩衝液(pH8.0)、および0または300μmのO−ピバロキシメチルウンベリフェロンを含有していた。蛍光強度を、30〜45秒間隔で、1時間の時間にわたり測定した(Spectramax Gemini XS、37℃、λex=360nm、λem=460nm、PMT感度設定:「medium」、1ウエル当たり6回の読取り)。反応速度を、得られたプログレス曲線の傾きから決定した。
【0042】
手順3 ブタ丹毒菌(Erysipelothrix rhusiopathiae)調製物の濁度の測定
ブタ丹毒菌(Erysipelothrix rhusiopathiae)調製物の濁度を、分光光学的に600nmの波長において測定する。結果を、光学単位(OU)で報告する。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
熱処理によるリパーゼ活性の低下
以下の種:レプトスピラ・カニコーラ(Leptospira canicola)、レプトスピラ・イクテロヘモリジア(Leptospira icterohaemorrhagiae)、レプトスピラ・グリポティフォーサ(Leptospira grippotyphosa)、レプトスピラ・ハージョ(Leptospira hardjo)、およびレプトスピラ・ポモナ(Leptospira pomona)を含有する、merhiolateで死滅させたレプトスピラのプールを調製して、個々のバクテリンを形成した。併せたバクテリンの6つの試料を、4℃、37℃、45℃、56℃、65℃および80℃で、一晩(およそ12時間)保存した。4℃で保存した試料を、未処理の対照として用いた。37℃、45℃、56℃、65℃および80℃で、12時間保存した試料を、熱処理試料とした。保存後、試験基質がそれぞれのバクテリンの存在下で加水分解する速度を、手順2の方法に従って測定した。試料の加水分解速度を、4℃で保存した試料の加水分解速度で割り、これに100を乗じると、保存後に残存するそれぞれのバクテリンの、元のリパーゼ活性のパーセントとなる。以下の表は、保存温度、および保存後に残存していた元のリパーゼ活性のパーセントを示す。
【0044】
【表1】

【0045】
レプトスピラ・ブラチスラバ(Leptospira Bratislava)を2回段階希釈した。段階希釈物を、merthiolateを用いて不活性化し、次いで、65℃で8時間熱処理した。試料を、前処理の間に取り出し、処理の間には2時間毎に取り出した。リパーゼ活性を、手順2の方法に従って、各時点で決定した。試料を採取し、試験基質がそれぞれの試料の存在下で加水分解する速度を測定した。試料の加水分解速度を、最初の加水分解速度で割り、これに100を乗じると、熱処理後に残存するそれぞれのバクテリンの、元のリパーゼ活性のパーセントとなる。以下の表は、試料採取時間、およびその時間において残存する、元のリパーゼ活性の平均パーセントを示す。
【0046】
【表2】

【0047】
(実施例2)
実験的ワクチン製剤の調製
レプトスピラ・カニコーラ(Leptospira canicola)、レプトスピラ・イクテロヘモリジア(Leptospira icterohaemorrhagiae)、レプトスピラ・グリポティフォーサ(Leptospira grippotyphosa)、レプトスピラ・ハージョ(Leptospira hardjo)、レプトスピラ・ポモナ(Leptospira pomona)、レプトスピラ・ブラチスラバ(Leptospira Bratislava)、ブタ丹毒菌(Erysipelothrix rhusiopathiae)、およびブタパルボウイルスの培養物を培養した。それぞれのレプトスピラ培養物の濁度を、比濁分析単位(NU)で測定した。ブタ丹毒菌(Erysipelothrix rhusiopathiae)培養物の濁度は、光学単位(OU)で測定した。これらの細菌を、merthiolateを用いて死滅させて、バクテリンを形成した。それぞれのレプトスピラのバクテリンを、65℃で8時間熱処理して、リパーゼ活性を低下させた。ブタ丹毒菌(Erysipelothrix rhusiopathiae)のバクテリンは、熱処理しなかった。レプトスピラのバクテリンを、死滅させたブタパルボウイルスおよび死滅させたブタ丹毒菌(Erysipelothrix rhusiopathiae)と併せ、次いで、AMPHIGEN(登録商標)、アジュバント、保存剤および希釈用緩衝液と混合し、その結果、ワクチンの各2ml用量が、以下の表に記載する構成成分を含有していた。
【0048】
【表3】

【0049】
(実施例3)
ハムスターおよびブタにおける効力試験
実施例2のワクチンを、標準的な実験室動物モデルを使用して効力について試験するために、ハムスターおよびウサギに投与した。次いで、試験ハムスターを、レプトスピラ・カニコーラ(Leptospira canicola)、レプトスピラ・イクテロヘモリジア(Leptospira icterohaemorrhagiae)、レプトスピラ・グリポティフォーサ(Leptospira grippotyphosa)、レプトスピラ・ブラチスラバ(Leptospira Bratislava)、またはレプトスピラ・ポモナ(Leptospira pomona)の1回用量を用いて攻撃して、ワクチンの効力を試験した。生存動物数を測定して、効能として示した。レプトスピラ・ハージョ(Leptospira hardjo)に対する、ウサギの顕微鏡下凝集力価を測定して、ワクチンのその画分の効力を実証した。以下の表は、熱処理レプトスピラのバクテリンから調製したワクチンは、効能の判断基準に合格する、抗原に対する応答をもたらすことができることを示す。
【0050】
【表4】

ウサギにおいて、ブタ丹毒菌(Erysipelothrix rhusiopathiae)を、ワクチンの血清的力価を参照ワクチンの力価と比較することによって試験した。このワクチンは、3.0のRP(相対効力)を示した。PPVを、赤血球凝集アッセイにおいて試験したところ、これは、1024HA/0.05mlのHA力価を示した。320HA/0.05mlの力価が、ワクチンについての許容値である。
【0051】
(実施例4)
ワクチンの生理化学的試験
ワクチンを、実施例2で記載した処方に従って、熱処理レプトスピラのバクテリンおよびその他の構成成分を用いて調製した。類似のワクチンを、熱処理していないレプトスピラのバクテリンから、実施例2の方法に従って調製した。両方のワクチン製剤を、4℃で、0、6、12、15および18カ月間保存した。粒子サイズを、それぞれのワクチンについて、各時点でレーザー回析計を使用して解析した。
【0052】
以下に示すグラフは、それぞれのワクチンについて、数カ月(0、6、12、15および18カ月)にわたりモニターした粒子サイズ分布を示す。
【0053】
【表5】

熱処理していないレプトスピラのバクテリンから調製したワクチン(上のグラフ)は、粒子サイズの増加を示し、これは、乳剤の分解を示している。熱処理レプトスピラのバクテリンから調製したワクチン(下のグラフ)は、粒子サイズが18カ月間を通して保持されたことを示し、これは、乳剤の安定性を示している。
【0054】
(実施例5)
PPVの赤血球凝集アッセイ(HA)
熱処理していないレプトスピラのバクテリンおよび熱処理レプトスピラのバクテリンから調製した、実施例2に記載したワクチン製剤(実施例2のリストのワクチンは、記載した抗原全てを含有していた。すなわち、全ての作用が同じワクチンから得られた)を最初に、HA力価および溶血力価について試験した。種々の時点におけるHA力価の安定性。試料のpHを11〜11.2に調整して、水酸化アルミニウムゲルからPPV(ブタパブロウイルス)ウイルスを抽出することによって、HAアッセイを実施した。次いで、試料を遠心分離し、上清を収集して、アッセイ中で使用した。モルモットの赤血球細胞を96ウエルプレートに添加して、凝集の指標とした。試料の上清を、2つ組みの列にわたり、1:5の希釈度から開始して2倍に希釈した。プレートを、5±3℃で16〜24時間インキュベートする。各ウエルについて、赤血球凝集の程度を、0〜4にスコア化する。最終希釈物が2以上のスコアを示す場合には、力価を記録する。熱処理していないワクチンの場合、ワクチンを試験する間に、ワクチンが溶血を引き起こすことが観察された。溶血力価は、溶血が観察された希釈度において最も高かった。熱処理ワクチンは、溶血を起こさなかった。
【0055】
以下のチャートは、長期にわたるHA力価および溶血力価の平均を示す。CTCは、熱処理レプトスピラのバクテリンを有するワクチンである。OOPは、熱処理レプトスピラのバクテリンを有さないワクチンである。
【0056】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳剤と、死菌の懸濁液を含む熱処理バクテリンであって、前記死菌がレプトスピラ・ブラチスラバ(Leptospira Bratislava)種の細菌であるバクテリンと、ブタアデノウイルス、ブタサーコウイルス、ブタヘルペスウイルス、仮性狂犬病ウイルス、ブタコレラウイルス、ブタ流行性下痢症ウイルス、ブタ血球凝集性脳脊髄炎ウイルス、ブタパルボウイルス、ブタ呼吸器コロナウイルス、ブタ生殖器呼吸器ウイルス、ブタインフルエンザ、伝染性胃腸炎ウイルス、および水疱性口内炎ウイルスからなる群から選択される1から13種のブタ疾患を引き起こすウイルスを含むワクチン。
【請求項2】
レシチン調製物、およびミョウバンに基づくアジュバントをさらに含む、請求項1に記載のワクチン。
【請求項3】
油性調製物中のレシチンをさらに含む、請求項2に記載のワクチン。
【請求項4】
死菌の懸濁液を含む熱処理バクテリンであって、前記死菌がレプトスピラ・カニコーラ(Leptospira canicola)、レプトスピラ・イクテロヘモリジア(Leptospira icterohaemorrhagiae)、レプトスピラ・グリポティフォーサ(Leptospira grippotyphosa)、レプトスピラ・ハージョ(Leptospira hardjo)、レプトスピラ・ポモナ(Leptospira Pomona)、およびブタ丹毒菌(Erysipelothrix rhusiopathiae)からなる群から選択される1から6つの細菌の種であるバクテリンをさらに含む、請求項1に記載のワクチン。
【請求項5】
レシチン調製物、およびミョウバンに基づくアジュバントをさらに含む、請求項4に記載のワクチン。
【請求項6】
油性調製物中のレシチンをさらに含む、請求項5に記載のワクチン。

【公表番号】特表2011−507827(P2011−507827A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538934(P2010−538934)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際出願番号】PCT/IB2008/003369
【国際公開番号】WO2009/090461
【国際公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(593141953)ファイザー・インク (302)
【Fターム(参考)】