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熱処理ポリ−p−フェニレンスルフィドフィルムの製造方法
説明

熱処理ポリ−p−フェニレンスルフィドフィルムの製造方法

【課題】
高い平面性を有するのみならず、特に優れた寸法安定性を示す熱処理ポリ−p−フェニレンスルフィドフィルムを製造可能な製造方法、及びこの製造方法によって得ることのできる、平面性及び寸法安定性が高い熱処理ポリ−p−フェニレンスルフィドフィルムを提供する。
【解決手段】
二軸延伸されたポリ−p−フェニレンスルフィドフィルムを加熱する加熱工程を含む、熱処理ポリ−p−フェニレンスルフィドフィルムの製造方法であって、前記加熱工程において、前記加熱を160℃超290℃未満の範囲から選ばれる所定温度で行い、前記二軸延伸されたポリ−p−フェニレンスルフィドフィルムの当該所定温度における収縮応力よりも小さい引張応力を、前記二軸延伸されたポリ−p−フェニレンスルフィドフィルムに対し一方向に付加する製造方法、及び、該製造方法により得ることのできる熱処理ポリ−p−フェニレンスルフィドフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理ポリ−p−フェニレンスルフィドフィルムの製造方法及びそれにより得ることのできる熱処理ポリ−p−フェニレンスルフィドフィルムに関する。なお、以下、ポリ−p−フェニレンスルフィドを「PPS」という。
【背景技術】
【0002】
電気、電子部品分野において、機器の小型化や高機能化の観点から、電気特性や耐熱性に優れた絶縁基材の要求が増加している。
二軸延伸されたPPSフィルム(二軸延伸PPSフィルム)は優れた電気特性や機械的特性を有し、耐熱性に優れ、吸水率が低く、耐薬品性が高いという特性を有している。しかしながら、熱収縮による寸法変化を生じるため、例えば回路基板に使用された場合に熱が加わると回路のずれが生じやすいという問題があった。また、各種フレキシブル基板の製造時にスペーサーとして使用された場合には二軸延伸PPSフィルムの収縮により、基板の変形を生じさせやすいという問題があった。ここで、寸法安定性とは、温度などの周囲の条件に変動が生じてもその寸法を保持する性能をいう。
【0003】
特許文献1には、二軸延伸PPSフィルムを150〜280℃にて緊張下に熱処理した後、縦横両方に各々20%以内の制限収縮もしくは伸長または定長下で、熱処理温度より低く50℃以上の温度で再度熱処理することにより、寸法安定性を向上させる方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、アニール処理などで二軸延伸PPSフィルムの熱収縮率を小さくする加工を行うと、フィルムの平面性が著しく悪化してしまう場合があることが述べられている。
【特許文献1】特公昭59−5099号公報
【特許文献2】特開2004−96040号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
PPSフィルムの適用分野の拡大にともなって、二軸延伸PPSフィルムの寸法安定性のさらなる向上が望まれている。そこで、本発明の目的は、高い平面性を有するのみならず、特に優れた寸法安定性を示す熱処理PPSフィルムを製造可能な製造方法、及びこの製造方法によって得ることのできる、平面性及び寸法安定性が高い熱処理PPSフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、二軸延伸PPSフィルムを加熱する加熱工程を含む、熱処理PPSフィルムの製造方法であって、加熱工程において、加熱を160℃超290℃未満の範囲から選ばれる加熱温度で行い、二軸延伸PPSフィルムの加熱温度における収縮応力よりも小さい引張応力を、二軸延伸PPSフィルムに対し一方向に付加する、製造方法を提供する。
【0007】
本発明の製造方法は、二軸延伸PPSフィルムを160℃超290℃未満という所定の温度で加熱する点、また、その温度における二軸延伸PPSフィルムの収縮応力よりも小さい引張応力を一方向に付加する点、を主な特徴としており、このような条件で熱処理を行うことにより、高い平面性を有し寸法安定性にも非常に優れた熱処理PPSフィルムを製造可能となる。
【0008】
加熱工程において、二軸延伸PPSフィルムを巻き取りながら、加熱を連続的に行うことが好ましい。また、この時に、収縮応力よりも小さい引張応力を、二軸延伸PPSフィルムに対し、巻き取り方向に付加することが好ましい。二軸延伸PPSフィルムを巻き取りながら、加熱を連続的に行うことで、平面性及び寸法安定性が特に優れた熱処理PPSフィルムを連続的に得ることができ、工業的に有利となる。
【0009】
この場合において、二軸延伸PPSフィルムに付加する、収縮応力よりも小さい引張応力は、1m幅・40μm厚の断面積を有するフィルム相当で、0kgf超20kgf未満であることが好ましい。160℃超290℃未満の加熱温度において上記の範囲にある引張応力を与えると、平面性が高く寸法安定性がさらに向上した熱処理PPSフィルムを効率的に得ることができるようになる。上記引張応力の数値は、1m幅・40μm厚の断面積を有するフィルムの場合の数値であり、異なる断面形状のフィルムについては1m幅・40μm厚の断面積の時の強度に換算して引張応力を評価する。
【0010】
上記製造方法により熱処理PPSフィルムが得られるが、この熱処理PPSフィルムフィルムは、平面性が高く、寸法安定性に優れるため、例えば精密電子回路基板や基板製造時のスペーサー(剥離フィルム)などの、寸法のずれが許されない用途に好適に利用することが可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、高い平面性を有し、非常に優れた寸法安定性を示す熱処理PPSフィルムの製造方法が提供される。また、この製造方法によって得られる、平面性及び寸法安定性が高い熱処理PPSフィルムが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の熱処理PPSフィルムの製造方法は、二軸延伸PPSフィルムを加熱する加熱工程を含む。この加熱工程においては、加熱を160℃超290℃未満の範囲から選ばれる加熱温度で行い、この温度における二軸延伸PPSフィルムの収縮応力よりも小さい引張応力を、二軸延伸PPSフィルムの巻き取り方向に付加する。
【0013】
加熱工程は、例えば、160℃超290℃未満の範囲から選ばれる温度(T1)に設定された炉(乾燥炉など)の中で二軸延伸PPSフィルムを保持することで実施できる。この場合において、乾燥炉の温度が全体的にT1になるように均一化してもよく、上記範囲内ではあるがT1とは異なる、T2、T3、T4・・・と複数温度領域を設けて、これらの温度領域に二軸延伸PPSフィルムを晒すようにしてもよい。さらには、乾燥炉の温度をT1からT2まで徐々に変化するようにしてもよい。加熱温度が160℃以下では二軸延伸PPSフィルムの寸法安定性の向上が不十分になる場合があり、加熱温度が290℃以上では二軸延伸PPSフィルムが溶融しフィルム形状の保持が困難となる。加熱温度は、160℃超290℃未満が好ましく、160℃超285℃未満がより好ましく、160℃超260℃未満がさらにより好ましく、160℃超250℃未満がさらにより好ましく、180℃超250℃未満がさらにより好ましく、180℃超240℃未満が特に好ましい。
【0014】
加熱工程においては、二軸延伸PPSフィルム全体が一様に加熱温度に到達するように加熱することが好ましい。したがって、二軸延伸PPSフィルムの厚さや幅等にしたがって、乾燥炉中の移動速度や加熱時間を制御するのが好適である。以下に述べるように、二軸延伸PPSフィルムを乾燥炉中で連続的に加熱する場合は、乾燥炉から引き出されるまでの間に厚さ方向が一様に加熱温度に到達するようにすればよい。加熱時間が短すぎると二軸延伸PPSフィルムの寸法安定性を充分に向上させることができず、長すぎると収縮量が増加し、また不均一となるため、平面性不良となる。
例えば、1m幅・40μm厚の二軸延伸PPSフィルムを、乾燥炉中で20m/分の速度で移動させて加熱する場合には、二軸延伸PPSフィルムの乾燥炉中の滞在時間は15秒〜2分とするとよい。また、例えば、1m幅・25μm厚の二軸延伸PPSフィルムを、乾燥炉中で40m/分の速度で移動させて加熱する場合には、二軸延伸PPSフィルムの乾燥炉中の滞在時間を15秒〜1分とするよい。
【0015】
加熱工程においては、乾燥炉の出口側に巻き取り機を設置し、二軸延伸PPSフィルムを巻き取りながら連続的に加熱工程を行うことが好ましい。この過程において、二軸延伸PPSフィルムが巻き取り方向に受ける引張応力が、1m幅・40μm厚の断面積を有するフィルム相当で0kgfより大きく且つ加熱工程の温度における二軸延伸PPSフィルムの収縮応力より小さく保たれることが重要である。この引張応力は、1m幅・40μm厚の断面積を有するフィルム相当で、0kgf超20kgf未満であることが好ましく、0kgf超5kgf未満であることがより好ましく、0kgf超2kgf未満であることがより好ましく、0kgf超1kgf未満であることが特に好ましい。この製造方法により、熱処理PPSフィルムの平面性を保ち、寸法安定性を劇的に向上させることが可能である。
【0016】
なお、ある温度における二軸延伸PPSフィルムの収縮応力は例えば熱分析装置(TMA)(SII(株)製、型式TMA/SS6100、標準型)を用い、昇温速度10℃/分で30℃から345℃まで昇温させることにより測定することができる。表1に、上記方法により測定した、各温度における二軸延伸PPSフィルムの収縮応力の測定値を示す。サンプルには40μm厚の二軸延伸PPSフィルムを用い、サンプル長を15mmで一定に保ち、昇温過程における荷重の変化から、温度と収縮応力の関係を求めた。この測定に用いた二軸延伸PPSフィルムは、繰り返し単位であるポリ−p−フェニレンスルフィドが70モル%以上含まれる重合体であり、重量平均分子量(Mw)は約50,000であり、310℃での溶融粘度は、せん断速度1,200/秒の条件下で1580ポイズであった。測定に用いた二軸延伸PPSフィルムを得るためのモノマーとしては、水硫化ナトリウムと水酸化ナトリウムを使用した。表1の収縮応力は、40μm厚の二軸延伸PPSフィルムの、1m幅当たりの応力として示した。
【0017】
【表1】

【0018】
表1より、本発明の熱処理PPSフィルムの製造方法において、例えば200℃で加熱工程を実施する場合には、二軸延伸PPSフィルムが巻き取り方向に受ける引張応力が1m幅・40μm厚の断面積を有するフィルム相当で0kgfより大きく0.51kgf未満となるように調節すると良いことがわかる。
【0019】
以上の製造方法により、高い平面性を有し、非常に優れた寸法安定性を示す熱処理PPSフィルムを製造することが可能である。
【0020】
続いて、本発明の製造方法に用いることができる二軸延伸PPSフィルムについて説明する。
二軸延伸PPSフィルムの材料であるPPSポリマーは、ポリマー組成物中の70モル%以上、好ましくは90モル%以上が下記構造式(1)で示される構成単位からなる重合体である。この成分が70モル%未満ではポリマーの結晶性、熱転移温度等が低くなり、PPSを主成分とするフィルムの特長である、耐熱性や機械的特性等を充分発揮することができない場合がある。
【化1】

【0021】
ポリマーの構成単位のうち30モル%未満、好ましくは15モル%未満であれば、共重合可能なスルフィド結合を含有する上記構造式(1)以外の単位が含まれていても差し支えない。共重合可能なスルフィド結合を含有する単位としては、下記構造式(2)で示される構成単位からなるものが具体例として挙げられ、これらのうち1つ又は2つ以上を共存させてもよい。構造式(2)中、Qはハロゲン原子またはメチル基を示し、mは1〜4の整数を示す。
【化2】

【0022】
PPSポリマーに、上記構造式(2)で示される構成単位を含ませる場合、ポリマーの構成単位は、ランダム共重合、ブロック共重合のいずれの形態で重合されたものであってもよい。また、ポリマーの末端または末端近くに上記構造式(1)以外の構成単位が存在してもよい。ポリマーの残りの30モル%未満はPPSポリマー以外のポリマー、着色剤、紫外線吸収剤などの添加物を含んでもよい。
【0023】
二軸延伸PPSフィルムは、例えば次のような方法で未延伸フィルムを得た後に、二軸延伸することにより製造可能である。
まず、PPSを主成分とする樹脂組成物を押出し機に供給し、ペレットの形態にする。本発明におけるPPSの溶融粘度は、310℃、せん断速度1200/秒の条件下で200ポイズ以上であることが好ましい。ここで、せん断速度とは、平行な板の間を粘性流体が通過する際の速度勾配として定義される値である。本発明において、この条件下におけるPPSの溶融粘度は200〜20,000ポイズの範囲であることが好ましく、300〜18,000ポイズの範囲であることがさらに好ましい。溶融粘度が200ポイズ未満では、フィルムの機械的特性、耐熱性に劣りPPSフィルムの特徴が発揮出来ない場合がある。また、溶融粘度が20,000ポイズ以上では、押出し機や瀘過装置などに高負荷がかかり問題となる場合がある。また、この過程でPPSを主成分とする樹脂組成物をペレットの形態にせず、押出し機の出口に直接成形用のダイを接続し、フィルム状にキャストすることも可能である。
【0024】
続いて、上記の工程で得られたPPSを主成分とする樹脂ペレットを、押出し機に供給する。供給した樹脂を熱溶融し、ダイにて目的のフィルム形状に成形し、吐出させる。この過程でフィルタ等を介して溶融した樹脂を瀘過し塵埃または添加物の凝集物など粗大異物を除去することが、良好なPPSフィルムを得るうえで好ましい。
ダイから吐出されたフィルムを、金属ドラム等の冷却体上に押し当て、冷却固化することにより未延伸フィルムが得られる。
【0025】
このようにして得られた未延伸フィルムを、二軸延伸することにより強度を付与する。二軸延伸とは、縦方向および横方向に分子配向を与えるために延伸することをいう。ここで、縦方向とは、フィルムの長手方向(巻き取り方向)を指し、横方向とは、フィルムの幅方向を指す。延伸は、逐次二軸延伸してもよいし、同時に二方向に延伸してもよい。また、さらに縦及び/又は横方向に再延伸を行ってもよい。
【0026】
ここでは逐次二軸延伸する場合について説明する。まず、ロール間延伸によって縦方向への延伸を行い、続いてテンター延伸機を用いて横方向への延伸を行う。
【0027】
まず、縦方向への延伸について説明する。縦方向への延伸は、通常は、ロールの周速差により施される。この延伸は1段階で行ってもよく、また、複数本のロール対を使用して多段階で行ってもよい。
【0028】
縦方向への延伸時のPPSフィルムの表面温度は80〜110℃が好ましく、85〜105℃がさらに好ましい。延伸の温度が80℃以下では、延伸応力が高くなり、フィルムが白化してしまう場合がある。また、延伸の温度が105℃以上では延伸ロールにフィルムが断続的に密着するスティックスリップが生じ、均一延伸が困難となる。延伸温度の設定は、通常は、ロールの温度を調節することにより行う。
【0029】
また、縦方向への延伸の倍率は、2.6〜5.0倍が好ましく、3.0〜4.0倍がさらに好ましい。延伸の倍率が2.6倍以下では縦方向の十分な強度および耐熱性を得るのが困難となる。また、延伸の倍率が5.0倍以上では横方向へ延伸可能な倍率が低くなり、十分な倍率の横方向への延伸ができず、縦方向と横方向の物性のバランスをとることが困難となる。
【0030】
また、縦方向への延伸速度は100〜50,000%/分が好ましく、200〜40,000%/分がさらに好ましい。延伸速度が100%/分以下では生産性が悪くなる傾向がある。また、延伸速度が50,000%/分以上ではテンター延伸機における熱処理の時間が短くなり、寸法安定性に優れる二軸延伸PPSフィルムが得られない場合がある。
【0031】
次に、横方向への延伸について説明する。縦方向に延伸されたPPSフィルムをテンター延伸機に導入し、テンター延伸機のクリップでPPSフィルムの両端をつかんで引っ張り、横方向の延伸を行う。
【0032】
横方向への延伸時のPPSフィルムの温度は80〜110℃が好ましく、85〜105℃がさらに好ましい。延伸の温度が80℃以下では、延伸が均一に行われず、良好な表面性が得られない場合がある。また、延伸の温度が110℃以上では配向結晶化が十分に進まず、弾性率や耐熱物性が不十分となる傾向がある。
【0033】
また、横方向への延伸の倍率は、2.5〜5.0倍が好ましく、3.0〜4.5倍がさらに好ましい。延伸の倍率が2.5倍以下では横方向で均一な延伸倍率を得ることが難しく、平面性不良の要因となる場合がある。また、延伸の倍率が5.0倍以上では、破断が頻発し、生産性に欠ける傾向がある。
【0034】
また、横方向への延伸速度は100〜5,000%/分が好ましく、150〜3,000%/分がさらに好ましい。延伸速度が100%/分以下では生産性が悪くなる傾向にある。また、延伸速度が5,000%/分以上ではテンター延伸機における熱処理の時間が短くなり、寸法安定性に優れる二軸延伸PPSフィルムが得られない場合がある。
【0035】
横方向への延伸後直ちにクリップ間の距離を0.1〜10%、より好ましくは0.5〜7%縮めることでPPSフィルムを緩和させ、テンター延伸機内で延伸温度以上、融点以下の熱固定処理を行うことが好ましい。この熱固定処理により、横方向の高温下における収縮率を低下させる効果が得られる。熱固定処理の温度は240℃超290℃未満が好ましく、250℃超285℃未満がさらに好ましい。熱固定処理の温度が240℃以下では、熱固定による横方向の緩和が効率よく行われず、高温下で寸法安定性に優れる二軸延伸PPSフィルムを得るのが困難になる。また、熱固定処理の温度が290℃以上ではPPSフィルムの融点を超えてしまうため、製膜が困難になる。
【0036】
熱固定処理後、テンター延伸機の出口部分で室温まで冷却されたPPSフィルムを、巻き取り機で巻き取り、二軸延伸PPSフィルムが得られる。この二軸延伸PPSフィルムの厚さは、3〜120μmの範囲が好ましく、5〜100μmの範囲がさらに好ましい。3μm以下では、延伸製膜時に異物の影響を受けやすく、製膜が困難になる。また、120μm以上では、縦延伸時におけるロール間にかかる負荷が高く、製膜が困難になる。
【0037】
続いて、上記方法により得られた二軸延伸PPSフィルムを加熱工程に供する。加熱工程に用いる設備としては、通常のロールサポート方式のコーターが使用できる。もしくは、フローティング方式の乾燥炉を有するコーティング設備も使用できる。また、塗工が必須でないため、コーティングヘッドを有さない乾燥炉であってもよい。フィルムが受ける引張応力を乾燥炉中で測定する測定手段を設けることにより、加熱工程において二軸延伸PPSフィルムが受ける引張応力を測定することができる。
【0038】
乾燥炉入り口に送り出し部、出口にニップロールがある場合は、送り出し部のブレーキ力と乾燥炉出口のニップロールの速度で二軸延伸PPSフィルムが受ける引張応力を調節する。送り出し部のブレーキが強い場合、乾燥炉出口のニップ速度にあまり依存せず、二軸延伸PPSフィルムが受ける引張応力は高くなる。一方で送り出し部のブレーキ力が弱い場合、ニップロール速度を遅くすることで、二軸延伸PPSフィルムが受ける引張応力を低くおさえることが可能となる。またニップロール速度を高速にした場合、二軸延伸PPSフィルムが受ける引張応力は増加するが、そのような場合には、ブレーキ力を下げることにより二軸延伸PPSフィルムが受ける引張応力を低く調節することができる。
【0039】
乾燥炉の入り口と出口の両方にニップロールが設置してある場合は、この両者の速度比を調節することで、容易に二軸延伸PPSフィルムが受ける引張応力を制御可能である。出口のロールが入り口よりも速ければ、二軸延伸PPSフィルムが受ける引張応力は増加し、逆であれば、非常に弱い引張応力を達成することができる。
【0040】
本発明の実施例ではロールサポート方式のコーターを用い、乾燥炉への送り出し部のブレーキ力と乾燥炉出口のニップロール速度で二軸延伸PPSフィルムが受ける引張応力を調節したが、乾燥炉の種類および二軸延伸PPSフィルムが受ける引張応力の制御方法はこれに制限されるものではない。
【0041】
加熱時間は1〜60秒が好ましく、2〜30秒がさらに好ましい。時間が1秒以下では、二軸延伸PPSフィルムを縦および横方向に十分に緩和させることが困難であり、高温下における寸法安定性を改良することができない場合がある。また、加熱時間が60秒以上では生産性が悪くなる傾向にある。
【0042】
加熱温度は、160℃超290℃未満が好ましく、160℃超285℃未満がより好ましく、160℃超260℃未満がさらにより好ましく、160℃超250℃未満がさらにより好ましく、180℃超250℃未満がさらにより好ましく、180℃超240℃未満が特に好ましい。160℃以下では、縦および横方向に十分に緩和させることが困難であり、高温下での寸法安定性を改良することができない傾向がある。
290℃以上では、二軸延伸PPSフィルムの溶融が起きる場合がある。また収縮量が多く、収縮が不均一に起こるため、平面性が著しく低下する傾向がある。
【0043】
加熱工程において二軸延伸PPSフィルムが受ける引張応力は、加熱温度における二軸延伸PPSフィルムの収縮応力よりも低く抑える必要がある。フィルムの収縮応力は温度によって異なる。例えば加熱温度が160℃超250℃未満である場合においては、二軸延伸PPSフィルムが受ける引張応力は、1m幅・40μm厚の断面積を有するフィルム相当で、0kgf超5kgf未満であることが好ましく、0kgf超2kgf未満であることがより好ましく、0kgf超1kgf未満であることが特に好ましい。加熱温度が160℃超250℃未満である場合において、1m幅・40μm厚の断面積を有するフィルム相当で5kgf以上の引張応力を与えた場合には、寸法安定性に優れるフィルムを得ることが困難な場合がある。二軸延伸PPSフィルムに与える引張応力を決定するには、表1に示した温度と二軸延伸PPSフィルムの収縮応力の関係を表す数値を参考にすればよい。しかしながら、フィルムの収縮応力は二軸延伸PPSフィルムの延伸条件やテンター熱処理条件によって変化するため、表1に示した数値に制限されない。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例を示して、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定される物ではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲での種々の変更が可能である。
【0045】
(実施例1)
PPS(株式会社クレハ製、フォートロンKPS−W312;310℃、せん断速度1200/秒における溶融粘度1580ポイズ)の粉末を用意した。PPS粉末100重量部に平均粒径0.7μmのCaCO(日東粉化工業(株)製、商品名NITOREX#30PS)を0.3質量部とステアリン酸カルシウム0.2重量部とをブレンドし、ヘンシャルミキサーを用い、10分間混合し、PPSを主成分とする混合粉末を得た。この粉末を押出し機に供給し、310℃で溶融し、樹脂ペレットを得た。この樹脂ペレットを35mm径の押出し機を用いて300℃で溶融し、目開き40μmの焼結フィルタで濾過した。続いて、長さ270mm、間隙0.75mmの直線状リップを有するダイから押出し、表面を40℃に保った金属ドラム上にキャストして冷却させ、330μm厚の未延伸フィルムを得た。このフィルムを、ロール表面温度を約80℃に調節した金属ロールに接触させて予熱後、約90℃に調節した金属ロール上で延伸速度2500%/分で縦方向に3.5倍にロール間延伸を行った。
【0046】
続いて縦方向に延伸したPPSフィルムをテンター延伸機に導入し、温度が92℃に調節された雰囲気中で延伸速度490%/分で横方向に3.6倍に延伸した。延伸後直ちに横方向の緩和率を2%にして、270℃で30秒間熱固定した。熱固定終了後、テンター出口において徐冷処理を行なった。こうして約40μm厚の二軸延伸PPSフィルムを得た。
【0047】
この二軸延伸PPSフィルムをロールサポート方式のコーターの送り出し部に取り付け、フィルムを200℃に加熱された乾燥炉に通し、連続的に加熱工程を行ない、実施例1の熱処理PPSフィルムを得た。加熱時間は60秒であった。加熱を行う際、巻き取り機による巻き取りによって二軸延伸PPSフィルムが巻き取り方向に受ける引張応力は、1m幅・40μm厚の断面積を有するフィルム相当で0.1kgfであった。また横方向には特に力を与えずに加熱を行った。得られた熱処理PPSフィルムに顕著な色や平面性の変化は見られず、良好であった。
【0048】
この熱処理PPSフィルムから3cm×30cmの短冊を縦方向および横方向に切り出し、長寸法(短冊の長手側の寸法)を測った後、160℃に保ったオーブン中に24時間放置し、室温で冷やした後、寸法を測定した。元寸法に対する熱処理後の寸法変化の割合を求め、寸法変化率とした。負の数値は収縮を意味し、正の値は膨張を意味する。
【0049】
(実施例2)
実施例1で示した方法で得た加熱工程前の二軸延伸PPSフィルムを220℃に加熱された乾燥炉に通して加熱工程を行ない、実施例2の熱処理PPSフィルムを得た。加熱時間は60秒であった。加熱を行う際、巻き取り機による巻き取りによって二軸延伸PPSフィルムが巻き取り方向に受ける引張応力は、1m幅・40μm厚の断面積を有するフィルム相当で0.1kgfであった。また横方向には特に力を与えずに加熱を行った。得られた熱処理PPSフィルムに顕著な色や平面性の変化は見られず、良好であった。この熱処理PPSフィルムを160℃で24時間保持した後の寸法変化率を、実施例1と同様な方法により算出した。
【0050】
(実施例3)
実施例1で示した方法で得た加熱工程前の二軸延伸PPSフィルムを235℃に加熱された乾燥炉に通して加熱工程を行ない、実施例3の熱処理PPSフィルムを得た。加熱時間は60秒であった。加熱を行う際、巻き取り機による巻き取りによって二軸延伸PPSフィルムが巻き取り方向に受ける引張応力は、1m幅・40μm厚の断面積を有するフィルム相当で0.1kgfであった。また横方向には特に力を与えずに加熱を行った。得られた熱処理PPSフィルムに顕著な色や平面性の変化は見られず、良好であった。この熱処理PPSフィルムを160℃で24時間保持した後の寸法変化率を、実施例1と同様な方法により算出した。
【0051】
(実施例4)
実施例1で示した方法で得た加熱工程前の二軸延伸PPSフィルムを240℃に加熱された乾燥炉に通して加熱工程を行ない、実施例4の熱処理PPSフィルムを得た。加熱時間は30秒であった。加熱を行う際、巻き取り機による巻き取りによって二軸延伸PPSフィルムが巻き取り方向に受ける引張応力は、1m幅・40μm厚の断面積を有するフィルム相当で3kgfであった。また横方向には特に力を与えずに加熱を行った。得られた熱処理PPSフィルムに顕著な色や平面性の変化は見られず、良好であった。この熱処理PPSフィルムを160℃で24時間保持した後の寸法変化率を、実施例1と同様な方法により算出した。
【0052】
(実施例5)
実施例1で示した方法で得た加熱工程前の二軸延伸PPSフィルムを260℃に加熱された乾燥炉に通して加熱工程を行ない、実施例5の熱処理PPSフィルムを得た。加熱時間は30秒であった。加熱を行う際、巻き取り機による巻き取りによって二軸延伸PPSフィルムが巻き取り方向に受ける引張応力は、1m幅・40μm厚の断面積を有するフィルム相当で3kgfであった。また横方向には特に力を与えずに加熱を行った。得られた熱処理PPSフィルムに顕著な色や平面性の変化は見られず、良好であった。この熱処理PPSフィルムを160℃で24時間保持した後の寸法変化率を、実施例1と同様な方法により算出した。
【0053】
(実施例6)
実施例1で示した方法で得た加熱工程前の二軸延伸PPSフィルムを200℃に加熱された乾燥炉に通して加熱工程を行ない、実施例6の熱処理PPSフィルムを得た。加熱時間は17秒であった。加熱を行う際、巻き取り機による巻き取りによって二軸延伸PPSフィルムが巻き取り方向に受ける引張応力は、1m幅・40μm厚の断面積を有するフィルム相当で0.1kgfであった。また横方向には特に力を与えずに加熱を行った。得られた熱処理PPSフィルムに顕著な色や平面性の変化は見られず、良好であった。この熱処理PPSフィルムを160℃で24時間保持した後の寸法変化率を、実施例1と同様な方法により算出した。
【0054】
(実施例7)
実施例1で示した方法で得た加熱工程前の二軸延伸PPSフィルムを200℃に加熱された乾燥炉に通して加熱工程を行ない、実施例7の熱処理PPSフィルムを得た。加熱時間は33秒であった。加熱を行う際、巻き取り機による巻き取りによって二軸延伸PPSフィルムが巻き取り方向に受ける引張応力は、1m幅・40μm厚の断面積を有するフィルム相当で0.1kgfであった。また横方向には特に力を与えずに加熱を行った。得られた熱処理PPSフィルムに顕著な色や平面性の変化は見られず、良好であった。この熱処理PPSフィルムを160℃で24時間保持した後の寸法変化率を、実施例1と同様な方法により算出した。
【0055】
(比較例1)
実施例1で示した方法で得た加熱工程前の二軸延伸PPSフィルムから3cm×30cmの短冊を縦方向および横方向に切り出し、比較例1のPPSフィルムとした。このフィルムを160℃で24時間保持した後の寸法変化率を、実施例1と同様な方法により算出した。
【0056】
(比較例2)
実施例1で示した方法で得た加熱工程前の二軸延伸PPSフィルムを160℃に加熱された乾燥炉に通して加熱工程を行ない、比較例2の熱処理PPSフィルムを得た。加熱時間は30秒であった。加熱を行う際、巻き取り機による巻き取りによって二軸延伸PPSフィルムが巻き取り方向に受ける引張応力は、1m幅・40μm厚の断面積を有するフィルム相当で0.1kgfであった。また横方向には特に力を与えずに加熱を行った。得られた熱処理PPSフィルムに顕著な色や平面性の変化は見られず、良好であった。この熱処理PPSフィルムを160℃で24時間保持した後の寸法変化率を、実施例1と同様な方法により算出した。
【0057】
(比較例3)
実施例1で示した方法で得た加熱工程前の二軸延伸PPSフィルムを290℃に加熱された乾燥炉に通して加熱工程を行ない、比較例3の熱処理PPSフィルムを得た。加熱時間は30秒であった。加熱を行う際、巻き取り機による巻き取りによって二軸延伸PPSフィルムが巻き取り方向に受ける引張応力は、1m幅・40μm厚の断面積を有するフィルム相当で3kgfであった。また横方向には特に力を与えずに加熱を行った。得られた熱処理PPSフィルムに顕著な色や平面性の変化は見られず、良好であった。この熱処理PPSフィルムを160℃で24時間保持した後の寸法変化率を、実施例1と同様な方法により算出した。
【0058】
(比較例4)
実施例1で示した方法で得た加熱工程前の二軸延伸PPSフィルムを160℃に加熱された乾燥炉に通して加熱工程を行ない比較例4の熱処理PPSフィルムを得た。加熱時間は60秒であった。加熱を行う際、巻き取り機による巻き取りによって二軸延伸PPSフィルムが巻き取り方向に受ける引張応力は、1m幅・40μm厚の断面積を有するフィルム相当で10kgfであった。また横方向には特に力を与えずに加熱を行った。得られた熱処理PPSフィルムに顕著な色や平面性の変化は見られず、良好であった。この熱処理PPSフィルムを160℃で24時間保持した後の寸法変化率を、実施例1と同様な方法により算出した。
【0059】
(比較例5)
実施例1で示した方法で得た加熱工程前の二軸延伸PPSフィルムを200℃に加熱された乾燥炉に通して加熱工程を行ない、比較例5の熱処理PPSフィルムを得た。加熱時間は60秒であった。加熱を行う際、巻き取り機による巻き取りによって二軸延伸PPSフィルムが巻き取り方向に受ける引張応力は、1m幅・40μm厚の断面積を有するフィルム相当で10kgfであった。また横方向には特に力を与えずに加熱を行った。得られた熱処理PPSフィルムに顕著な色や平面性の変化は見られず、良好であった。この熱処理PPSフィルムを160℃で24時間保持した後の寸法変化率を、実施例1と同様な方法により算出した。
【0060】
(比較例6)
実施例1で示した方法で得た加熱工程前の二軸延伸PPSフィルムを220℃に加熱された乾燥炉に通して加熱工程を行ない、比較例6の熱処理PPSフィルムを得た。加熱時間は60秒であった。加熱を行う際、巻き取り機による巻き取りによって二軸延伸PPSフィルムが巻き取り方向に受ける引張応力は、1m幅・40μm厚の断面積を有するフィルム相当で10kgfであった。また横方向には特に力を与えずに加熱を行った。得られた熱処理PPSフィルムに顕著な色や平面性の変化は見られず、良好であった。この熱処理PPSフィルムを160℃で24時間保持した後の寸法変化率を、実施例1と同様な方法により算出した。
【0061】
(比較例7)
実施例1で示した方法で得た加熱工程前の二軸延伸PPSフィルムを235℃に加熱された乾燥炉に通して加熱工程を行ない、比較例7の熱処理PPSフィルムを得た。加熱時間は60秒であった。加熱を行う際、巻き取り機による巻き取りによって二軸延伸PPSフィルムが巻き取り方向に受ける引張応力は、1m幅・40μm厚の断面積を有するフィルム相当で10kgfであった。また横方向には特に力を与えずに加熱を行った。得られた熱処理PPSフィルムに顕著な色や平面性の変化は見られず、良好であった。この熱処理PPSフィルムを160℃で24時間保持した後の寸法変化率を、実施例1と同様な方法により算出した。
【0062】
結果を表2にまとめた。表2中の収縮応力は、40μm厚の二軸延伸PPSフィルムの、各温度における1m幅当たりの収縮応力の測定値である。
【0063】
【表2】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
二軸延伸されたポリ−p−フェニレンスルフィドフィルムを加熱する加熱工程を含む、熱処理ポリ−p−フェニレンスルフィドフィルムの製造方法であって、
前記加熱工程において、前記加熱を160℃超290℃未満の範囲から選ばれる加熱温度で行い、且つ前記二軸延伸されたポリ−p−フェニレンスルフィドフィルムの当該加熱温度における収縮応力よりも小さい引張応力を、前記二軸延伸されたポリ−p−フェニレンスルフィドフィルムに対し一方向に付加する、製造方法。
【請求項2】
前記加熱工程において、前記二軸延伸されたポリ−p−フェニレンスルフィドフィルムを巻き取りながら、前記加熱を連続的に行い、
前記収縮応力よりも小さい引張応力を、前記二軸延伸されたポリ−p−フェニレンスルフィドフィルムに対し巻き取り方向に付加する、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記引張応力が、1m幅・40μm厚の断面積を有するフィルム相当で、0kgf超20kgf未満である、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項記載の製造方法により得ることのできる、熱処理ポリ−p−フェニレンスルフィドフィルム。