説明

熱処理方法および熱処理装置

【構成】加熱、冷却、もしくはその繰り返しにより被処理物を熱処理して一体化した固形の処理物を得る熱処理方法において、熱処理用の容器として底面の少なくとも一部に凹部及び/又は凸部を有する容器を用いると共に、該容器中で形成された固形物が一体化した状態で温度変化を受ける過程を経た後、一体化した固形物を該容器から取り出すことを特徴とする熱処理方法、並びに該方法に用いる熱処理装置。
【効果】本発明によれば、容器に付着または固着する被処理物の熱処理において、熱処理後の容器からの剥離・排出が容易であり、安定した生産性を維持しながら熱処理物を製造することができる。また、搬送用容器を複数循環して連続的に熱処理を行う場合等では、特に製品の剥離・排出を短時間で確実に行う必要があるため、本発明により、工業的により有利に連続的な製造が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、工業的に使用される熱処理方法および熱処理装置に関する。更に詳しくは、容器に被処理物を入れて熱処理を行った後、一体化した状態で容器に付着又は固着する固形物を容易に取り出すことができる熱処理方法および熱処理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】被処理物を容器に入れて熱処理を行う場合、一体化した固形物が生成すると、容器と付着または固着することによって、抜き出し、排出が困難となり、安定した連続生産を行う上での障害となる場合が多い。
【0003】従来、この様に容器に入れて熱処理を行う場合において、抜き出しおよび排出を容易にする方法として、特公昭54−26565号公報、特公昭55−30044号公報、特開昭63−219548号公報、特公平2−200701号公報、特公平3−30887号公報、特公平4−272102号公報等に記載された方法が挙げられる。
【0004】特公昭54−26565号公報では、製鋼工場で溶解精錬された溶鋼用の取鍋、タンディッシュ等の受鋼容器において、容器の内張りとしてハイアルミナ質レンガを用いることによって、耐食性及び耐スポーリング性に優れ且地金付着現象を生じない容器が提案されている。この時用いられるハイアルミナ質レンガの製造は、水に難溶性のバリウム化合物の微粉末をBaO換算で2〜8%含むハイアルミナ坏土を1400〜1500℃で焼成することを特徴とするものである。
【0005】特公昭55−30044号公報では、金属粉末を還元雰囲気中で加熱する場合において、金属粉末を載積している金属容器あるいは金属板と金属粉末との固着を防止する方法として、上面に燃料の不完全燃焼による煤を付着させた金属容器あるいは金属板状に金属粉末を載積して、前記金属粉末と金属容器あるいは金属板との固着を防止しながら加熱することを特徴とする金属粉末の処理方法を提案している。
【0006】特開昭63−219548号公報では、永久磁石となりうる組成の合金の焼結もしくは焼結後の加熱処理において、熱処理容器内面にDy2 3 ,Tb4 7の希土類酸化物被膜層を形成し、該加熱容器内に前記合金の圧粉成形体もしくは焼成体を配置して、加熱処理を施すことを提案している。
【0007】特公平2−200701号公報では、容器内に鉄粉を入れ、主に減圧炉を使って、還元・焼鈍等の熱処理を施し、高品質な鉄粉などを製造する分野において、鉄粉熱処理用容器の鉄粉と接する内表面に高融点酸化物の塗布層とさらにその上に黒鉛の塗布層を設けることにより、容器と鉄粉の焼結を防止し、鉄粉の排出を容易ならしめる方法を提案している。
【0008】特公平3−30887号公報では、汚泥等の焼却灰の粉末焼成法において、粉末状の焼却灰をセラミックス製容器に収納し、1000〜1400℃にて焼成する方法を提案している。
【0009】特公平4−272102号公報では、容器内に鉄粉又は合金粉を入れ、主に減圧炉を使って、還元、焼鈍などの熱処理を施し、高品質な鉄粉などを製造する分野において、鉄粉又は合金鋼粉用熱処理容器であって、表面に酸化被膜を形成したステンレス鋼で構成され、かつ該酸化被膜表面から10A以内にSi、Al、Ti、Mn、及びCrの1種又は2種以上の元素が濃化している容器を用いる方法を提案している。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、特公昭54−26565号公報、特公昭55−30044号公報、特開昭63−219548号公報、特公平2−200701号公報および、特公平4−272102号公報に記載の方法においては、いずれの方法においても、容器表面に何らかの被覆膜あるいはコーティング層を設けており、容器作製において、作製コストが高価になり設備費が上がると共に、作製工程も複雑になり製造費も上がる等の欠点を持っている。また、コンタミが問題となる被処理物の熱処理においては、容器表面の被膜あるいはコーティング層の元素あるいは物質が製品の中に混入することが懸念される。
【0011】さらに、特開昭63−219548号公報記載の方法では、焼成炉の他に粉末成形プレス装置を必要とし、そのため成形プレス装置から焼成炉への成形品の搬送手段等を必要とし建屋が大きくなり、かつ、設備費運転費も高くなる。
【0012】また、特公平3−30887号公報記載の方法では、セラミックス製の容器を用いるため、耐衝撃性が弱いと共に、大型の容器を作製するのが非常に困難であり、さらには高価であるため工業的に用いるには不適当である。
【0013】以上のように、従来技術はいずれも容器の内表面に被膜層を設ける、もしくは被処理物に接する材質を工夫することにより製品の離型性を高める技術に留まるものであり、容器自体の構造や形態を工夫することにより製品の排出を容易にした技術はこれまで存在しなかった。
【0014】本発明の目的は、かかる課題を解決すべく、熱処理後に製品の容器からの剥離・排出が容易に行え、安定した生産性を維持しながら熱処理ができる熱処理方法および熱処理装置を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、容器の線膨張係数と一体化した固形物の線膨張係数の違いに着目して、本発明を完成した。すなわち本発明は、被処理物を熱処理することにより、一体化した固形物を得る熱処理方法であって、底面の少なくとも一部に凹部及び/又は凸部を有する容器に被処理物を入れて加熱、冷却もしくはその繰り返しの後、容器と一体化した固形物との線膨張係数の差異により、容器底部の凹凸と一体化した固形物が剥離し、容易に取り出せることを特徴とする。
【0016】すなわち、本発明の要旨は、(1) 加熱、冷却、もしくはその繰り返しにより被処理物を熱処理して一体化した固形の処理物を得る熱処理方法において、熱処理用の容器として底面の少なくとも一部に凹部及び/又は凸部を有する容器を用いると共に、該容器中で形成された固形物が一体化した状態で温度変化を受ける過程を経た後、一体化した固形物を該容器から取り出すことを特徴とする熱処理方法、(2) 容器の底面の凹部又は凸部の高さが、底面の長さの0.1%以上、50%以下である前記(1)記載の熱処理方法、(3) 加熱により一体化した固形物を得た後、容器中で固形物が一体化した状態で冷却する前記(1)または(2)記載の熱処理方法、(4) 冷却により一体化した固形物を得た後、容器中で固形物が一体化した状態で加熱する前記(1)または(2)記載の熱処理方法、(5) 固形物が一体化した状態での温度変化速度が50℃/hr以上である前記(1)〜(4)いずれか記載の熱処理方法、(6) 容器の材質の線膨張係数が8×10-6/℃以上である前記(1)〜(5)いずれか記載の熱処理方法、(7) 生成する一体化した固形物の線膨張係数が、容器の材質の線膨張係数と20%以上異なる前記(1)〜(6)いずれか記載の熱処理方法、(8) 生成する固形物が、一般式xM2 O・ySiO2 ・zM’O(式中、MはNaおよび/またはKを示し、M’はCaおよび/またはMgを示し、y/x=0.5〜3.5、z/x=0〜0.1である。)で表される結晶性珪酸化合物である前記(1)〜(7)いずれか記載の熱処理方法、並びに(9) 容器内に保持された被処理物を加熱、冷却、もしくはそれを繰り返して熱処理する熱処理装置において、該容器が、底面の少なくとも一部に凹部及び/又は凸部を有し、その高さが底面の長さの0.1%以上、50%以下であり、かつその材質の線膨張係数が8×10-6/℃以上であることを特徴とする熱処理装置、に関する。
【0017】以下、本発明を詳細に説明する。本発明の熱処理方法は、加熱、冷却、もしくはその繰り返しにより被処理物を熱処理して、一体化した固形物を得る熱処理方法において、熱処理用の容器として底面の少なくとも一部に凹部及び/又は凸部を有する容器を用いると共に、該容器中で形成された固形物が一体化した状態で容器及び/又は固形物が温度変化を受ける過程を経た後、一体化した固形物を該容器から取り出すことを特徴とするものである。
【0018】従って、用いられる被処理物は、加熱、冷却、もしくはそれを繰り返して熱処理することにより得られる固形物が一体化するものであれば、何ら限定されるものではない。例えば、液体である場合の粘度、比重等も特に限定されることはなく、また固体である場合にも、粉末状、粒状、顆粒状、塊状、造粒状、成型物等の各種の性状、形状、粒度のものを用いることができる。
【0019】例えば、本発明により生成する固形物の有用性の点より、一般式xM2 O・ySiO2 ・zM’O(式中、MはNaおよび/またはKを示し、M’はCaおよび/またはMgを示し、y/x=0.5〜3.5、z/x=0〜0.1である。)で表される結晶性珪酸化合物である場合が、好適例の一つとして挙げられる。この化合物は、種々の用途に用いることが可能であり、例えば、軟水化剤として好適に用いられる。
【0020】本発明における熱処理とは、少なくとも加熱あるいは冷却工程を有するものであり、またそれを繰り返すものであってもよい。従って、昇温、降温、定温過程を有することになる。一般的な熱処理としては、加熱温度は、30℃以上、1300℃以下、好ましくは、100℃以上、1000℃以下、さらに好ましくは、300℃以上、800℃以下であり、冷却温度は、−270℃以上、60℃以下、好ましくは、−100℃以上、30℃以下、さらに好ましくは、0℃以上、20℃以下である。なお、加熱あるいは冷却工程には、加熱装置や冷却装置を用いる積極的な操作以外に、放冷(自然冷却)等の消極的なものも含まれる。
【0021】本発明においては、容器中で形成された固形物が一体化した状態で温度変化を受ける過程(工程)を経ることにより容器から剥離し、一体化した固形物を容易に取り出すことが可能となるが、かかる温度変化は、加熱、冷却、もしくはその繰り返しの際の、昇温または降温過程で生じるものである。
【0022】本発明では、製品の離型性の点で、当該温度変化における温度変化速度が50℃/hr以上が好ましく、100℃/hr以上がより好ましく、200℃/hr以上が特に好ましい。加熱あるいは冷却工程における温度変化幅は対象とする系により特に限定されず、固形物と容器が良好に剥離する温度変化幅を適宜設定すれば良い。
【0023】次に、本発明に用いられる容器について説明する。本発明に用いられる容器は、底面の少なくとも一部に凹部及び/又は凸部を有するものである。これを、図1a〜eを用いて説明すると、aの容器においては、破線で示す基準面より下に凸になっており、容器としては凹部を持つ。aの容器に対し、bの容器の様に、上下反転した形状でもよい。また、cの容器は底面の基準面を面I〜面III と変えることにより、凹凸の考え方が変わるが、基準面を面IIと考えると、この容器は凹部及び凸部を有するものとなる。さらに、凹部または凸部の個数についても特に制限はない。また、a〜eの容器の様に凹部または凸部の形状についても特に制限はない。また、eの容器の様に、凹部または凸部の高さあるいは深さ、間隔も特に制限はされないが、個数、形状、高さ、深さ、間隔ともに、容器の作製が容易であるものが望ましい。
【0024】また、本発明では容器の底面の凹部又は凸部の高さが、底面の長さの0.1%以上、50%以下であることが好ましく、1.0%以上、40%以下がより好ましく、1.5%以上、30%以下が最も好ましい。ここで底面の長さとは、多角形の場合は底面の辺の内最も長い辺の長さ、底面が円形もしくは楕円形等の場合は直径、もしくは長径を言い、凹部又は凸部の高さとは、基準面から凹部又は凸部の最頂部までの距離をいう。例えば図1のdの容器では、底面の基準面が点線で表され、Hが凸部の高さ、Lが底面の長さとなる。
【0025】図2を用いて、一体化した固形物が容易に取り出せる理由を説明すると次のようになる。例えば、図1のaの容器を用いて加熱工程の後冷却する熱処理を行う場合、図2のaの様な容器に仕込まれた被処理物は、加熱時には図2のbの様に膨張した底面に沿った形状で(ここで点線は、熱処理前の容器の底面の位置を示す。)熱処理され、一体化した固形物となる。その状態で温度を低下させると、図2のcの様に容器の底面などが収縮し、一体化した固形物は、収縮による応力により上部に押し上げられ、そのままの形状で容器から容易に剥離する。このように本発明は、加熱により一体化した固形物を得た後、容器中で固形物が一体化した状態で冷却する熱処理方法に好適に適用することができる。また、冷却により一体化した固形物を得た後、容器中で固形物が一体化した状態で加熱する熱処理方法にも同様に適用することができる。この場合、加熱による容器の膨張により凹部や凸部と固形物との間に隙間が生じ、固形物の剥離が容易となる。
【0026】従って、本発明では容器の材質の線膨張係数が重要となるが、製品の離型性と材料の入手し易さ、容器製作の容易さ等を考慮すると、8×10-6/℃以上が好ましく、10×10-6/℃以上、30×10-6/℃以下がより好ましく15×10-6/℃以上、25×10-6/℃以下が最も好ましい。なお、この線膨張係数は、容器中で固形物が一体化した状態で温度変化する時の温度付近における線膨張係数を意味する。
【0027】また、一体化した固形物の線膨張係数と容器の材質の線膨張係数の関係も重要であり、製品の離型性を考慮すると、生成する一体化した固形物の線膨張係数が、容器の材質の線膨張係数と20%以上異なるのが好ましく、25%以上異なるのがより好ましく、30%以上異なるのが特に好ましい。
【0028】容器の材質については、上記の点を考慮しつつ、熱処理の温度、被処理物の性状によって適宜選択されることが望ましいが、例えば種々の金属、合金、セラミックス、プラスチックなどが用いられる。
【0029】例えば、生成する固形物が、一般式xM2 O・ySiO2 ・zM’O(式中、MはNaおよび/またはKを示し、M’はCaおよび/またはMgを示し、y/x=0.5〜3.5、z/x=0〜0.1である。)で表される結晶性珪酸化合物で、500℃以上の熱処理を行う場合、金属の中でもSUS304、SUS310S、SUS316、SUS316Lが、好適に用いられる。
【0030】次に本発明の熱処理装置について説明するが、かかる熱処理装置は、前記の熱処理方法に好適に用いられるものである。即ち、本発明の熱処理装置は、容器内に保持された被処理物を加熱、冷却、もしくはそれを繰り返して熱処理する熱処理装置において、該容器が、底面の少なくとも一部に凹部及び/又は凸部を有し、その高さが底面の長さの0.1%以上、50%以下であり、かつその材質の線膨張係数が8×10-6/℃以上であることを特徴とするものである。
【0031】以下、最も基本的な装置構成を有する装置の概略説明図である図3を用いて説明する。この製造装置は被処理物を前記の容器(搬送用容器)内に供給し、これを加熱炉内で搬送しつつ加熱し、その後冷却するものである。この場合、被処理物を連続して供給することにより、製品を連続して製造することができる。
【0032】この図3にかかる製造装置は、ガスの入口および出口、被処理物が供給される搬送用容器の入口および出口、並びに内部を加熱するよう配設された加熱手段を有する加熱炉と、該加熱炉内に搬送用容器を通過させる搬送手段を備え、ガスの流通下、該加熱炉内で搬送用容器を搬送しつつ被処理物を熱処理することにより、一体化した固形物を得ることを可能としたものである。
【0033】加熱炉8は、ガスの入口3およびガスの出口4、被処理物供給される搬送用容器の入口5および出口6を有し、その周囲に加熱手段2が設けられている。このとき、搬送用容器7は単に搬送用部材1に載置されていてもよく、搬送用部材1を駆動させることにより、搬送用容器7が搬送されるように構成されている。また、搬送のための駆動装置も特に限定されることはなく、たとえば回転数可変モーターが好適である。
【0034】なお、加熱炉8の内部で、被処理物の搬送用容器7への供給や製品の搬送用容器7からの排出ができるように、加熱炉8に被処理物の供給口や排出口を設けてもよい。 加熱方法としては、特に限定されるものではなく、例えは、燃焼ガス、電気ヒーターなどを用いることができ300℃以下においては、蒸気、熱媒による加熱でもよい。なお本発明においては、加熱炉内の温度を一定に保つ目的で通常保温材を用いるなどして断熱を行っている。なお、冷却方法としては、冷却槽や気体による強制対流冷却を使用したり、容器を取り出した後、放冷などすればよい。
【0035】また、容器搬送の方式も、特に限定されるものではなく、例えば、ベルト、ローラー、プッシャー等を使用することもできる。また、工業的により有利に熱処理を行う点より、搬送用容器を複数循環して連続的に熱処理を行えるような熱処理装置等を好適に利用することができる。
【0036】以上の装置において、熱処理用の容器の凹部又は凸部の高さや線膨張係数のより好ましい範囲は前述のとおりである。
【0037】
【実施例】以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例等によりなんら限定されるものではない。
【0038】実施例1(1)原料液の調製3号水ガラス(大阪珪曹社製−K3号)213kgを300リットル攪拌槽に仕込み、常温にて攪拌下48%NaOH溶液(東ソー社製)61kgおよびCa(OH)2 (土佐石灰社製)29kgを投入した。このとき槽内温度は48%NaOH溶液の溶解熱により60℃まで昇温した。3時間攪拌した後、白濁スラリー300kgが得られた。
【0039】(2)熱処理装置容器として、図4のaの容器(SUS310S製,線膨張係数は16.2×10-6/℃)を用い、熱処理装置としてモトヤマの熱風循環炉DC6060(炉内寸法高さ600mm×幅600mm×奥行き600mm)を用いた。
(3)熱処理容器に(1)で調製された原料液を10kg投入し、炉内温度800℃になるように熱風温度を調節し、熱処理時間は、15時間とした。なお、この時間は、予め実験を行い含水率28重量%に至るまでの乾燥時間が6時間、その後の熱処理時間が、9時間を要することを確認した。熱処理後、炉内より一体化した固体形物とともに容器を取り出し、さらに1.5m/sで空気を送ることにより冷却速度約200℃/hrで200℃まで強制対流により冷却した後、容器と一体化した固形物(製品)は剥離し、容器を反転させることにより、製品は容易に排出された。なお、得られた製品は4kgであった。この製品はX線回折装置にて分析したところ、十分に結晶化した珪酸化合物Na2 O・1.5SiO2 ・0.5CaOであり、含水率は0重量%であった(線膨張係数は23.4×10-6/℃、以下同じ)。
【0040】実施例2(1)原料粉の製造実施例1(1)で得られた白濁スラリー300kgを噴霧乾燥により乾燥を行った。噴霧乾燥塔は大川原化工機社製、2.2mφ×5.5mH、送風温度260℃、排風温度115℃の条件で行ったところ、含水率20重量%、平均粒子径297μm、嵩比重0.5kg/リットルの乾燥粉126kgが得られた。なお、含水率は700℃で1時間加熱した時の重量減少値より求め、平均粒子径は篩いによる重量分率の累積50%の値であり、嵩比重はメスシリンダーにてタッピングせずに測定した値である。
【0041】実施例2の(1)で製造された乾燥粉においても実施例1(2)の熱処理装置を用い、同じく実施した。なお、熱処理時間は、原料が既に乾燥されているため9時間とした。なお、仕込み重量は13.4kg、層高は16cmであった。熱処理後、炉内へ800Nm3 /hrで空気を送り込むことにより冷却速度約130℃/hrで200℃まで強制対流冷却すると、容器と一体化した固形物(製品)は剥離し、容器を反転させることにより、製品を容易に取り出すことが出来た。得られた製品は10.7kgであった。この製品はX線回折装置にて分析したところ、十分に結晶化した珪酸化合物Na2 O・1.5SiO2 ・0.5CaOであり、含水率は0重量%であった。
【0042】実施例3実施例1で用いた原料液を図4bの容器(材質はaの容器と同じ)に入れ、実施例1と同条件にて熱処理を行った。容器に調製された原料液を10kg投入し、炉内温度800℃になるように熱風温度を調節し、熱処理時間は実施例1と同じく15時間とした。熱処理後、炉内へ500Nm3 /hrで空気を送り込むことにより冷却速度約100℃/hrで200℃まで強制対流により冷却すると、容器と一体化した固形物(製品)は剥離し、容器を反転させることにより、製品は容易に排出された。なお、得られた製品は4kgであった。この製品はX線回折装置にて分析したところ、十分に結晶化した珪酸化合物Na2 O・1.5SiO2 ・0.5CaOであり、含水率は0重量%であった。
【0043】実施例4実施例2で用いた乾燥粉を図4bの容器にいれ、実施例2と同条件にて熱処理を行った。仕込み重量は13.4kg、層高は16cmであった。熱処理後、炉内より容器を取り出し、さらに冷却速度約50℃/hrで200℃まで放冷すると、容器と一体化した固形物(製品)は剥離し、容器を反転させることにより、製品を容易に取り出すことが出来た。得られた製品は10.7kgであった。この製品はX線回折装置にて分析したところ、十分に結晶化した珪酸化合物Na2 O・1.5SiO2 ・0.5CaOであり、含水率は0重量%であった。
【0044】比較例1実施例1で用いた原料液を図4のcの容器(材質はaの容器と同じ)に入れ、実施例1と同条件にて熱処理を行った。熱処理後、炉内より容器を取り出し、実施例1と同様にして冷却した後、反転させたが製品は排出されなかった。容器を反転させた状態で、高さ20cmの高さから落下したところ製品は容器から剥離し、排出することが出来た。
【0045】比較例2実施例2で用いた乾燥粉を図4のcの容器に入れ、実施例2と同条件で熱処理を行った。熱処理後、炉内より容器を取り出し、実施例2と同様にして冷却した後、反転させたが製品は排出されなかった。容器を反転させた状態で、底部全体を木槌で数回叩いたところ製品が排出された。
【0046】
【発明の効果】本発明の熱処理方法および熱処理装置によれば、容器を用いなければ熱処理が行えず、かつ、容器に付着または固着する被処理物の熱処理において、熱処理後の容器からの剥離・排出が容易であり、安定した生産性を維持しながら熱処理物を製造することができる。また、搬送用容器を複数循環して連続的に熱処理を行う場合等では、特に製品の剥離・排出を短時間で確実に行う必要があるため、本発明により、工業的により有利に連続的な製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明に用いられる容器の形状の例を縦断面図により示したものである。
【図2】図2は、図1のaの容器を用いた場合の本発明の作用・効果の一例を、模式図により示したものである。
【図3】図3は、本発明の製造装置の一例を縦断面図により示したものである。
【図4】図4は、実施例、比較例で用いた容器の縦断面図を示したものである。
【符号の説明】
1 搬送手段
2 加熱手段
3 ガスの入口
4 ガスの出口
5 搬送用容器の入口
6 搬送用容器の出口
7 搬送用容器
8 加熱炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】 加熱、冷却、もしくはその繰り返しにより被処理物を熱処理して一体化した固形の処理物(以下、「固形物」という)を得る熱処理方法において、熱処理用の容器として底面の少なくとも一部に凹部及び/又は凸部を有する容器を用いると共に、該容器中で形成された固形物が一体化した状態で温度変化を受ける過程を経た後、一体化した固形物を該容器から取り出すことを特徴とする熱処理方法。
【請求項2】 容器の底面の凹部又は凸部の高さが、底面の長さの0.1%以上、50%以下である請求項1記載の熱処理方法。
【請求項3】 加熱により一体化した固形物を得た後、容器中で固形物が一体化した状態で冷却する請求項1または2記載の熱処理方法。
【請求項4】 冷却により一体化した固形物を得た後、容器中で固形物が一体化した状態で加熱する請求項1または2記載の熱処理方法。
【請求項5】 固形物が一体化した状態での温度変化速度が50℃/hr以上である請求項1〜4いずれか記載の熱処理方法。
【請求項6】 容器の材質の線膨張係数が8×10-6/℃以上である請求項1〜5いずれか記載の熱処理方法。
【請求項7】 生成する一体化した固形物の線膨張係数が、容器の材質の線膨張係数と20%以上異なる請求項1〜6いずれか記載の熱処理方法。
【請求項8】 生成する固形物が、一般式xM2 O・ySiO2 ・zM’O(式中、MはNaおよび/またはKを示し、M’はCaおよび/またはMgを示し、y/x=0.5〜3.5、z/x=0〜0.1である。)で表される結晶性珪酸化合物である請求項1〜7いずれか記載の熱処理方法。
【請求項9】 容器内に保持された被処理物を加熱、冷却、もしくはそれを繰り返して熱処理する熱処理装置において、該容器が、底面の少なくとも一部に凹部及び/又は凸部を有し、その高さが底面の長さの0.1%以上、50%以下であり、かつその材質の線膨張係数が8×10-6/℃以上であることを特徴とする熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開平8−323191
【公開日】平成8年(1996)12月10日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−159947
【出願日】平成7年(1995)6月1日
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)