説明

熱処理炉および熱処理物の製造方法

【課題】折り返しロールの機幅方向温度ムラを小さくすることで、均一な特性の熱処理物を製造することができる熱処理炉を提供する。
【解決手段】折り返して水平走行する被熱処理物を出入するための複数のスリット状開口部6を該被熱処理物の走行方向の一対の炉壁5に有し、該炉壁の外部で前記スリット状開口部の間に折り返しロール8を備えた熱処理炉において、上記折り返しロールが、ロールの内部の複数の領域に、別個に制御可能な温度調整手段9を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理炉および熱処理物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば、炭素繊維の製造工程の一つに代表されるように、有機繊維束に熱処理を行い連続的に熱処理物を製造する技術分野が存在する。かかる連続的な熱処理の工程では、熱により化学反応を進行させているが、化学反応が発熱反応の場合、加熱により反応を開始させるとともに、反応熱を除熱し、化学反応を制御することが必要である。前述の炭素繊維の例では、有機繊維束に熱風を吹き付けることにより有機繊維束を加熱し、酸化または環化反応を促している。その反応は、発熱を伴っており除熱しなければ暴走反応により有機繊維束が燃えて切れてしまう。よって、熱風による加熱と除熱のバランスをとる必要があり、低速で長時間、熱処理することにより製造を行っている。
【0003】
このような製造工程では、処理が低速であることから、生産性を上げるためには同時に処理する有機繊維束の本数を増やす必要がある。このため、多数本の有機繊維をシート状に引き揃え、ライン数を増やして熱処理を行っている。
【0004】
また、低速であるが故に長時間熱処理をする必要があることから、装置の大型化を抑制しつつ有効反応長を確保するために、1つの熱処理炉の中を何度も折り返している。
【0005】
かかる必要から、低速で長時間、熱処理するための熱処理炉として図2に示すような熱処理炉1’が使われている。
【0006】
熱処理炉1’では、水平方向にシート状に引き揃えられた多数本の有機繊維束7’が、スリット状開口部6を通って熱処理室2内に入り熱処理され、スリット状開口部6を通って一旦処理室外へ出、折り返しロール8により走行方向を180°折り返され、再度、熱処理室内に入るということを複数回繰り返して熱処理される。
【0007】
かかる構造の熱処理炉により、炭素繊維を製造する際に、多数の有機繊維束を同時に熱処理するため、製造された炭素繊維の特性にライン間でバラツキが生じることがあった。
【0008】
ライン間の特性のバラツキは、熱処理のムラに起因するものと考えられるが、熱処理のムラとはすなわち酸化または環化反応の進み具合、すなわち反応率にムラがあることである。反応率は糸温度によって決まり、糸温度は熱処理炉内の温度に依存するため、特性のバラツキは炉内温度ムラが要因の一つと考えられる。そのため、これまで炉内の温度を均一化する手段が種々検討されてきた。
【0009】
例えば、特許文献1において、有機繊維束が熱処理室内に入るスリットの上流側に遠赤外線や熱風により繊維の加熱手段を備えることで、処理室内のスリット状開口部近傍の温度低下を抑制する技術が開示されている。
【0010】
また、特許文献2において、熱風循環室により熱処理室の四方を囲むことで熱処理室全体を保温し、熱処理室の壁からの放熱を抑制し機幅方向の温度を均一化する技術が開示されている。
【0011】
これらは、いずれもスリット状開口部あるいは、熱処理室の壁からの放熱を抑制することで、炉内温度を均一としようとするものであるが、これらの方法を適用しても、製品の特性のバラツキ改善には限界があった。
【特許文献1】特開2003-342838号公報
【特許文献2】特開2000-178836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、熱処理ムラがなく、特性のバラツキの小さな熱処理品を生産性良く得ることが可能な熱処理炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、従来の熱処理炉を用いた熱処理では特性のバラツキの小さな熱処理品を得ることが出来ない原因を検討したところ、熱処理室外の折り返しロールにおいて、軸受けからの放熱や大気との熱伝達によって、折り返しロールの機幅方向中央部と比較して機幅方向端部のロール温度が低下し、かかる端部を通過する繊維が、中央部を通過する繊維と比較して相対的に繊維温度が低くなり繊維束の反応が進みにくくなり、また、機幅方向で温度の異なる繊維束が熱処理炉内に入ることで炉内温度の斑につながるためであろうとの考えの下に、折り返しロールの、ロール内部の複数の領域に、別個に制御可能な加熱手段を備え、温度制御してみたところ、従来の熱処理炉と比較して、格段に特性のバラツキの小さな熱処理品を得られることを見出した。すなわち、本発明は、以下に規定する熱処理炉及び熱処理物の製造方法を提供する。
【0014】
(1)折り返して水平走行する被熱処理物を出入するための複数のスリット状開口部を該被熱処理物の走行方向の一対の炉壁に有し、該炉壁の外部で前記スリット状開口部の間に折り返しロールを備えた熱処理炉において、該折り返しロールが、ロールの内部の複数の領域に、別個に制御可能な温度調整手段を備えることを特徴とする熱処理炉。
【0015】
(2)前記ロールの内部が、中央の領域とそれを挟む両端の領域に分割され、前記温度調整手段として加熱手段が、ロールの両端の領域に設置されている(1)に記載の熱処理炉。
【0016】
(3)前記ロールの内部が、中央の領域とそれを挟む両端の領域に分割され、前記温度調整手段として冷却手段が、ロールの中央の領域に設置されている請求項1に記載の熱処理炉。
【0017】
(4)前記ロールの内部が、中央の領域とそれを挟む両端の領域に分割され、前記温度調整手段としてロール両端の領域に加熱手段、ロール中央部の領域に冷却手段を設置した請求項1に記載の熱処理炉。
【0018】
(5)前記ロール両端の領域において、ロールの内部の加熱手段が、機幅方向にさらに2つ以上の領域に分割されており、それぞれの領域で独立した制御手段を有する(2)または(4)に記載の熱処理炉。
【0019】
(6)前記ロールの内部の加熱手段が、ロール両端からロールの全長の20%以上50%以下の領域に設置されている(2)(4)および(5)のいずれかに記載の熱処理炉。
【0020】
(7)加熱手段が遠赤外線ヒータである(2)、(4)および(5)のいずれかに記載の熱処理炉。
【0021】
(8)前記ロールの内部の加熱手段が、ロールの表面温度を検出する温度センサと該温度センサにより検出された温度に基づいてフィードバック制御する制御回路を有する(1)から(7)のいずれかに記載の熱処理炉。
【0022】
(9)前記ロールの内部の温度調整手段が、200℃以上300℃以下に温度制御可能である(1)から(8)のいずれかに記載の熱処理炉。
【0023】
(10)折り返して水平走行する被熱処理物を出入するための複数のスリット状開口部を該被熱処理物の走行方向の一対の炉壁に有し、該炉壁の外部で前記スリット状開口部の間に折り返しロールを備え、前記折り返しロールがロールの内部の複数の領域に分割され、少なくともひとつの領域に制御可能な温度調整手段を備えた熱処理炉を用いて、前記折り返しロールの表面の最高温度と最低温度との差を制御して熱処理することを特徴とする熱処理物の製造方法。
【0024】
(11)ロールの中央の領域とそれを挟む両端の領域のロールの表面温度を検出し、該表面温度の差をフィードバックして加熱および/または冷却手段を制御する(10)に記載の熱処理物の製造方法。
【0025】
(12)被熱処理物が、ポリアクリロニトリルを含む連続繊維束であり、炉内温度を200℃以上300℃以下に制御した前記熱処理炉にて酸化雰囲気下で熱処理することにより、少なくとも部分的に酸化または環化された繊維束を得る(10)または(11)に記載の熱処理物の製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、熱処理ムラを小さくすることができるため、均一な特性の熱処理物を製造することができる
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の熱処理炉は、折り返して水平走行する被熱処理物を出入するための複数のスリット状開口部を該被熱処理物の走行方向の一対の炉壁に有し、該炉壁の外部で前記スリット状開口部の間に折り返しロールを備えた熱処理炉において、該折り返しロールのロールの内部が、複数の領域に分割され、少なくとも1の領域に制御可能な温度調整手段を備えることを特徴とする。
【0028】
折り返して水平走行する被熱処理物とは、典型的には有機繊維束に熱処理を行い連続的に熱処理物を製造する場合の有機繊維束が挙げられ、たとえば、炭素繊維の製造工程の一つである耐炎化工程における炭素繊維前駆体であるポリアクリロニロニトリル系繊維が挙げられる。このような工程では、熱により化学反応を進行させているが、化学反応が発熱反応の場合、加熱により反応を開始させるとともに、反応熱を除熱し、化学反応を制御することが必要である。前述の炭素繊維の例では、有機繊維束に熱風を吹き付けることにより有機繊維束を加熱し、酸化または環化反応を促している。その反応は、発熱を伴っており除熱しなければ暴走反応により有機繊維束が燃えて切れてしまう。よって、熱風による加熱と除熱のバランスをとる必要があり、低速で長時間、熱処理することにより製造を行っている。
【0029】
このような製造工程では、処理が低速であることから、生産性を上げるためには同時に処理する有機繊維束の本数を増やす必要がある。このため、かかる工程に適用する熱処理炉では多数本の被熱処理物(前述の例では有機繊維束)をシート状に引き揃え、ライン数を増やして熱処理を行っている。
【0030】
また、本発明の熱処理炉は、前述のように、熱風による加熱と除熱のバランスをとる必要から、低速で長時間熱処理をする必要があることから、装置の大型化を抑制しつつ有効反応長を確保するために、1つの熱処理炉の中を何度も折り返している。このため複数のスリット状開口部を該被熱処理物の走行方向の一対の炉壁に有し、該炉壁の外部で前記スリット状開口部の間に折り返しロールを備え、これにより折り返して、走行させる構成を採るものである。
【0031】
本発明の熱処理炉は、折り返しロールのロールの内部が、複数の領域に分割されている。本発明においてロールの内部とは、ロールを幅方向に見たときの幅方向の位置をいい、ロールの内部が複数の領域に分割されているとは、ロールの幅方向に制御可能な温度調節手段を有する部分領域が少なくとも1あり、1または複数の、制御可能な温度調節手段を有する部分領域と、温度調節手段を有しない部分領域とが配置されている、あるいは、制御可能な温度調節手段を有する部分領域が複数配置されていることをいう。かかる制御可能な温度調節手段を有する部分領域、温度調節手段を有しない部分領域という場合の領域の境界は、ロールの内側部分に隔壁を有するなど構造的に明確でなくても良い。例えば、制御可能な温度調節手段を有する部分領域が複数(制御可能な温度調節手段ごとに1の領域と数えるものとする)並んで配置されている場合、隣接する制御可能な温度調節手段の中間点を境界とする。なお、制御可能な温度調節手段を有する部分領域が並んで配置されているとは、隣接する制御可能な温度調節手段の間隔が、150mm以内であることをいうものとする。また、制御可能な温度調節手段を有する部分領域と温度調節手段を有しない部分領域が隣接している部分では、制御可能な温度調節手段の最端部に対応する位置を制御可能な温度調節手段を有する部分領域と温度調節手段を有しない部分領域との境界とする。
【0032】
本発明の熱処理炉は前述のように、ロールの内部が、複数の領域に分割されているが、その少なくとも1の領域に制御可能な温度調整手段を備えることを特徴とする。ここで、制御可能な温度調節手段とは、ロールを任意の温度に維持するため、ロールの温度に応じてロールを加熱または冷却するための手段のことをいう。
【0033】
加熱手段としては直接加熱方式と間接加熱方式とがある。直接加熱方式とはロール内部にヒータの入る穴を加工してヒータを挿入したり高温の熱媒を循環したりしてロールを直接加熱する方法である。挿入するヒータとしては、例えばシーズヒータやカートリッジヒータが一般的である。しかし、ロールの内部にヒータを挿入してしまうと、ロールが回転しているために、ヒータへ電力を供給することが困難になる。熱媒でも同様に熱媒の供給、回収が困難になる。一方、間接加熱方式とは、ロールの内部の空気を加熱して熱伝達によりロールを加熱する方式、または、ふく射によりロールの内壁面を加熱する方式のことを言う。
【0034】
冷却手段も直接冷却方式と間接冷却方式とがある。直接冷却方式にはロール内部に流路を作成し冷却水を循環させる方法等がある。間接冷却方式には冷却風を吹き付ける方法等がある。
【0035】
本発明の熱処理炉の好ましい態様の1つとして、前記ロールの内部が、中央の領域とそれを挟む両端の領域に分割され、前記温度調整手段として加熱手段が、ロールの両端の領域に設置されている構成が挙げられる。ここで、中央の領域とは、ロールの軸方向に垂直な面でロールを3つの領域に区分した場合の真ん中の領域をいい、それを挟む両端の領域とは、中央の領域の両側にある残りの2つの領域をいう。仕切り板で物理的に区分されていてもよいし、必ずしも物理的に区分されている必要はない。また、加熱手段としては、ロールの温度を上げるためのものであれば特に限定されず、ロール内部にヒータの入る穴を加工してシーズヒータやカートリッジヒータ等を挿入する、ロールに流路を形成して熱媒を循環させる、ロール内部に赤外線ヒータを設置する等の手段がある。かかる構成をとることにより、軸受けからの放熱や大気との熱伝達により機幅方向中央部と比較して温度の下がり易かった端部の温度を上げることができ、ロール温度を機幅方向で均一にすることが可能となるので好ましい。
【0036】
本発明の熱処理炉の好ましい態様の1つとして、前記ロールの内部が、中央の領域とそれを挟む両端の領域に分割され、前期温度調整手段として冷却手段が、ロールの中央の領域に設置されている構成が挙げられる。また、冷却手段としては、ロールの温度を下げることができる手段であれば特に限定されず、ロールに流路を形成して冷却水を循環させる、ロールに冷却風を吹き付ける等の手段がある。かかる構成をとることにより、中央部の温度を下げることができ、ロール温度を機幅方向で均一にすることが可能となるので好ましい。
【0037】
本発明の熱処理炉の好ましい態様の1つとして、前記ロールの内部が、中央の領域とそれを挟む両端の領域に分割され、前期温度調整手段としてロール両端の領域に加熱手段、ロール中央部の領域に冷却手段を設置されている構成が挙げられる。かかる構成をとることにより、温度の下がりやすいロールの両端部が加熱され、温度の下がりにくいロールの中央部が冷却されることでロール温度を機幅方向で均一にすることが可能となるので好ましい。
【0038】
本発明の熱処理炉は、前述の温度調整手段として加熱手段が、ロールの両端の領域に設置されている構成において、ロールの内部の加熱手段が、各端部領域において、機幅方向にさらに2つ以上の領域に分割されており、それぞれの領域が独立した制御手段を有することが好ましい。かかる構成とすることにより、中央部から端部へ向かって連続的に温度が低下するロールに対して、端部のロールほど出力値を上げるというようなより精密な温度コントロールが可能となるためである。ここで、独立した制御手段とは、複数ある加熱手段にそれぞれに対して出力値が設定できることをいう。たとえば図4に前記折り返しロール8の各端部の加熱手段を2つの領域に分割した例を示す。9aの加熱手段を9bの出力よりも大きくすることによって、ロール表面温度をより均一な状態に保つことが可能となる。
【0039】
本発明の熱処理炉は、前述の温度調整手段として加熱手段が、ロールの両端の領域に設置されている構成において、ロールの内部の加熱手段が、ロール両端からロールの全長の20%以上50%以下の領域に設置されていることが好ましい。ここで、ロールの全長とは、炉の側壁間距離をいう。炉の側壁とは例えば図3において機幅方向の炉壁11のことであり、すなわちロールの全長はWのことをいう。ロール全長の30%の場合、ロール全長15%の長さの加熱手段がロールの両端部に1つずつ設置されていることをいう。50%以上の長さでは、機幅方向中央部まで加熱手段を設置することになる。しかし、中央部は温度が高いため、加熱の必要性が低いためである。かかる構成とすることにより、ロール表面温度をより均一な状態に保つことが可能となるためである。
【0040】
本発明の熱処理炉は、前述の温度調整手段として加熱手段が、ロールの両端の領域に設置されている構成において、ロールの内部の加熱手段が、遠赤外線ヒータであることが好ましい。ここで、遠赤外線ヒータは、電磁波の内の遠赤外線を物体に放射吸収させて熱を発生させるヒータでたとえばセラミックヒータ、石英ヒータ等のことをいう。加熱手段として、遠赤外線ヒータを用いることにより、ヒータを固定した状態で回転するロールの内壁面を間接的に加熱するためヒータへの電力の供給が容易であり、また、輻射を利用するために熱損失が少ないためである。
【0041】
本発明の熱処理炉は、前記ロールの内部の温度調整手段が、ロールの表面温度を検出する温度センサと該温度センサにより検出された温度に基づいてフィードバック制御する制御回路を有することが好ましい。温度センサとは、温度を検知して電気信号に変換する器具のことであり、例えば接触式のサーミスタや熱電対、非接触式の放射温度計等のことをいう。接触式の温度計は、測定部と被処理物とが接触して品質の悪化や、被処理物が切断されることによる生産性の悪化といった問題を引き起こす可能性があるため非接触式の温度センサを用いることが好ましい。スポット径は3mm以下であることが望ましい。処理条件により被処理物の径、ライン間ピッチは異なるが、3mm以下であればほとんどの処理条件においてライン間の領域でロール表面温度を測定することができるためである。フィードバック制御する制御回路とは温度調節手段の出力値を自動的に調整する回路のことで、たとえば、ロール表面温度の最高温度と最低温度との差が小さくなるように温度調整手段の出力値を決定することのできる回路のことを言う。かかる構成をとることにより、外気温や生産条件によらずロール表面温度を機幅方向で均一に保つことが可能となる。
【0042】
本発明の熱処理炉は、前記ロール内部の温度調整手段が、200℃以上300度以下に温度制御可能であることが望ましい。この熱処理炉は各ライン間の均一な熱処理が行えることから、炉内温度を200℃以上300℃以下に制御可能とすることにより、ポリアクリロニトリルを含む連続繊維束を被熱処理物として酸化雰囲気下で熱処理することにより、少なくとも部分的に酸化または環化されたいわゆる耐炎化した繊維束を得る、耐炎化炉に好適である。炉内温度とは、熱風の熱処理室流入時の温度のことをいい、耐炎化炉の場合、具体的には、炉内温度とは、ダクト12と熱処理室2とが接続している面13の中心における熱風温度を示す。
図1では熱風が熱処理室2を上から下へ向かって流れる構成を示しているため、上側の接続している面の中心で温度を測定する。なお、熱風が下から上へ向かって流れる場合は、下側の接続している面の中心で温度を測定する。耐炎化炉では、繊維束に熱風を吹き付けて200℃以上に加熱することで酸化または環化反応が起こりやすくなる。その反応は、発熱を伴っており除熱しなければ暴走反応により有機繊維束が燃え切れてしまうため、炉内温度は300℃以下であることが好ましい。
【0043】
本発明の熱処理物の製造方法は、折り返して水平走行する被熱処理物を出入するための複数のスリット状開口部を該被熱処理物の走行方向の一対の炉壁に有し、該炉壁の外部で前記スリット状開口部の間に折り返しロールを備え、前記折り返しロールがロールの内部が複数の領域に分割され、少なくとも1の領域に制御可能な温度調整手段を備えた熱処理炉を用いて、前記折り返しロールの表面の最高温度と最低温度との差を制御して熱処理することを特徴とする。ロールの表面温度の最高温度と最低温度とは、シート状に引き揃えられた被処理物の両端のライン間の領域におけるロールの表面温度の最高温度と最低温度のことを言う。最高温度と最低温度の測定は、例えば、非接触温度計によりロールの機幅方向中央部と端部で測定する前述の方法で行う。温度差は必要とされる特性に対応する温度の管理幅によって決定され、管理幅が狭くより均一な特性を必要とする場合には、温度差を小さく設定し、管理幅が広く特性の均一性がさほど重視されない場合には温度差を大きく設定すればよい。かかる構成をとることにより、ロール機幅方向の最高温度と最低温度との差を管理することができるため、熱処理量を制御することができる。その結果、糸の太さムラ等の特性のバラツキを制御することが可能となる。 本発明の熱処理物の製造方法は、ロールの中央と端部のロール表面温度を検出し、該表面温度の差をフィードバックして加熱および/または冷却手段を制御することを特徴とする。ロールの中央とは、最も温度の高い機幅方向の2つの炉壁の中間をいい、端部とは、最も温度の低いシート状に引き揃えられた被処理物のうち最もロール端部に近いラインと2番目に近いラインとの間のことをいう。かかる構成をとることにより、少ない温度の検出数で効率的にフィードバックをかけることが可能となる。
【0044】
本発明の熱処理物の製造方法とは、ポリアクリロニトリルを含む連続繊維束であり、炉内温度を200℃以上300℃以下に制御した前記熱処理炉にて酸化雰囲気下で熱処理することにより、少なくとも部分的に酸化または環化された繊維束を得る。連続繊維束とは、単糸が数千から数万本束めたマルチフィラメントのことをいう。酸化雰囲気下とは、酸素が含有している気体のことをいい、たとえば空気のようなものである。少なくとも部分的に酸化または環化したとは、ポリアクリルニトリルの分子鎖内のある部分では酸化または環化反応が進んでいるが残りの部分では反応が進んでいないということである。
【0045】
以下に本発明の望ましい実施の1形態を例に、図面を参照しながら説明する。
【0046】
図1は温度調節手段として加熱手段を用いた場合の熱処理炉の一例を簡略化して示した断面図で、図4は図1のA−A’矢視の断面図である。図1において、熱処理炉1は、熱処理室2、ダクト12、ダクト内ヒータ3、ファン4を有する熱処理炉全体を示している。ダクト内ヒータ3で所望の温度に加熱された熱風は、ファン4で送風されて、熱処理室2内を上から下へ向けて流れる。熱処理室2を流れ出た熱風は再びダクト12へ送風される。このように、ダクト内ヒータ3で所望の温度に加熱された熱風はファン4により熱処理室2とダクト12を循環している。なお、熱処理室2内を熱風が下から上へ向かって流れるように循環方向を逆転させても良い。
【0047】
熱処理室2は、一対の走行方向の炉壁5にスリット状開口部6と前記走行方向の炉壁5の外部で前記スリット状開口部6の間に折り返しロール8を有する。機幅方向の炉壁11やダクト12は断熱材により覆われていることが好ましい。熱効率を高めることによりダクト内ヒータ3の消費電力を小さくすることができるためである。本発明の熱処理炉1は、かかる構造を有することにより、該スリット状開口部6を介して熱処理室2にシート状に機幅方向に引き揃えられた多本数の被熱処理物(図中では有機繊維束7)を通過させ熱処理を行うものである。
【0048】
シート状に機幅方向に引き揃えられた多本数の被熱処理物(図中では有機繊維束7)は該スリット状開口部6から、一旦、炉外に出、折り返しロール8によって走行方向を180°折り返し、再度、熱処理室2に入る。これらを繰り返して熱処理室2内を通過し、熱処理される。また、熱風を流す方向についても、この形態では引き揃えられた被熱処理物を含む面に対して垂直な方向に流すように構成しているが、引き揃えられた被熱処理物を含む面に対して平行な方向に流すように構成しても良い。また、上記の形態においては、被熱処理物が熱処理室内を5回通過するようにしているが、通過回数は、被熱処理物の走行速度、炉体長等に応じて必要な処理時間を確保できるよう、任意に設定して良い。
【0049】
本例においては、前記折り返しロール8は、その内部の複数の領域に別個に出力を制御することができる加熱手段9が設けられている。
【0050】
加熱手段9が折り返しロール8の外部に設置された場合、生産開始時に被熱処理物(図中では有機繊維束7)を折り返しロール8に掛けるときに邪魔になり作業性が悪化する。また、生産中に被熱処理物が切れて折り返しロール8に巻きついたとき、被熱処理物が加熱手段9に接触して火災を引き起こす可能性がある。かかる理由により加熱手段9は折り返しロール8の内部に設置することが好ましい。また、加熱手段は、折り返しロール8の複数の領域に備えられ、かつ、別個に制御できることが必要である。折り返しロール8は、温度調整手段を設けない場合には、熱処理室2を通過することで温度の高くなっている被熱処理物と接触している機幅方向中央部の温度が高く、一方、軸受けからの放熱や大気との熱伝達によって端部の温度が低くなっている。したがって、1つの加熱手段9で折り返しロール8全体を均一に加熱するのでは、機幅方向の温度むらを小さくするのが困難である。かかる理由により、折り返しロール8の温度を機幅方向で均一に保つためには、複数の加熱手段9を折り返しロール8の内部に設置し、それぞれの設置領域における折り返しロール8の温度に合わせて別個に加熱手段9の出力を制御することが必要である。
【0051】
前記折り返しロール8の温度は機幅方向中央部から端部へ向けて温度が低下する場合が多いため、前記折り返しロール8の内部の加熱手段9は、少なくとも折り返しロール8の両端部に設置されることが前記折り返しロール8の温度を幅方向に均一化できることから好ましい。ただし、温度の高い折り返しロール8の機幅方向中央部の温度より高い温度で均一化するのであるならば、前記折り返しロール8の内部の加熱手段9は、両側端部だけでなく、中央部にも設置して折り返しロール8全体に設置されても良い。中央部の加熱手段9の出力は小さく、両側端部の出力は大きくすることで、折り返しロール8の機幅方向中央部の温度より高い温度で均一化することが可能となる。
【0052】
また、温度調節手段として、加熱手段9に換えて/または加えて、前記折り返しロール8の機幅方向中央部に冷却手段を設置しても折り返しロール8の温度を機幅方向で均一に保つことができる。かかる態様においては、冷却手段として冷却風をロールに吹き付ける構成が温度が下がり易く好ましい。図5に示す様に折り返しロールの両端部に加熱手段9を、さらに中央部に冷却手段14を設置することも好ましい。なお、かかる態様におけるロール8に冷却手段を設置した領域とは、ロール8の冷却手段14に対向する冷却手段14の幅の領域をいうものとする。
【0053】
また、前記折り返しロール8の温度は幅方向に連続的に温度が低下するため、1つの加熱手段だけでロール温度を均一に保つことは困難な場合がある。このような場合には、前記折り返しロール8の各端部の加熱手段を2つ以上の領域に分割して設置することも好ましい。かかる構成を採ることにより、端部のヒータほど出力値をあげるというようなより精密な温度コントロールが可能となるため、ロール表面温度をより均一に保つことができるためである。図6に前記折り返しロール8の各端部の加熱手段を2つの領域に分割した例を示す。9aの加熱手段の出力を9bの出力よりも大きくすることによって、ロール表面温度をより均一な状態に保つことが可能となる。
【0054】
加熱手段9の長さは、ロール全長の20%以上50%以下であることが好ましい。50%以上の長さでは、機幅方向中央部まで加熱手段9を設置することになる。しかし、中央部は温度が高いため、加熱の必要性が低い場合が多い。すなわち、加熱手段9は別個に制御できるため、中央部の加熱手段9は、必要性が低いためである。
【0055】
一方、20%以下の長さでは、外気温が低い場合などには、折り返しロール8の機幅方向温度を均一に保つことが難しくなる場合が生じるためである。
【0056】
折り返しロールの加熱方法は、折り返しロールの内部に遠赤外線ヒータを取り付けて折り返しロールの内壁面を加熱するのが好ましい。ロールの加熱方法としては、直接加熱方式と間接加熱方式が考えられる。直接加熱方式とは、ロール内部にヒータの入る穴を加工してヒータを挿入してヒータを直接加熱する方法である。挿入するヒータとしては、シーズヒータやカートリッジヒータが一般的である。しかし、ロールの内部にヒータを挿入してしまうと、ロールが回転しているために、ヒータへ電力を供給することが困難になる。一方、間接加熱方式とは、ロールの内部の空気を加熱して熱伝達によりロールを加熱する方式、または、ふく射によりロールの内壁面を加熱する方式のことを言う。間接加熱では、ヒータを固定した状態で回転するロールの内壁面を間接的に加熱するためヒータへの電力の供給は問題にならない。空気を加熱して熱伝達によりロールを加熱する方式は、空気を介してロールを加熱するために熱損失が大きい。一方、ふく射による加熱方式は、ロールの内壁面を加熱し空気を加熱しにくいので熱損失が少ない。かかる理由により、ふく射を利用した遠赤外線ヒータを用いることが好ましい。
【0057】
本発明の熱処理炉は、前記折り返しロール8の表面温度を検出する温度センサ10と該温度センサにより検出された温度に基づいて、加熱手段9および/または冷却手段14をフィードバック制御する制御回路を有することが好ましい。かかる構成を有することにより、加熱手段9および/または冷却手段14の出力値を、ロールの表面温度の最高温度と最低温度との温度差により決定することができる。なお、ロールの表面温度の最高温度と最低温度は、シート状に引き揃えられた被処理物の両端のライン間の領域におけるロールの表面温度の最高温度と最低温度を示し、測定に用いる温度センサは、非接触温度計が好ましい。接触式の温度計は、測定部と被処理物とが接触して品質の悪化や、被処理物が切断されることによる生産性の悪化といった問題を引き起こす可能性があるためである。ロール表面温度の測定は、1本のロールに対して少なくとも機幅方向中央部と端部の少なくとも2箇所で行うことが好ましい。なお、ここでいう端部とは、シート状に引き揃えられた被処理物のうち最もロール端部に近いラインと2番目に近いラインとの間のことを言う。中央部で最高温度を、端部で最低温度を測定する。さらに好ましくは、中央部と両側端部の3箇所で行うことが好ましい。熱処理炉の形状が必ずしも左右対称であるとは限らないためである。この場合、両側端部の2つの測定値は、その平均値を最低温度とする。なお、温度センサのスポット径は直径3mm以下であることが望ましい。処理条件により被処理物の径、ライン間ピッチは異なるが、3mm以下であればほとんどの処理条件においてライン間の領域でロール表面温度を測定することができるためである。
【0058】
なお、必ずしも全てのロールで測定する必要はなく、複数あるロールのうち1本だけを測定し、その結果をもとに測定していないロールの加熱手段9の出力値を決めるような構成でも良い。前記温度差は必要とされる特性に対応する温度の管理幅によって決定され、管理幅が狭くより均一な特性を必要とする場合には、温度差を小さく設定し、管理幅が広く特性の均一性がさほど重視されない場合には温度差を大きく設定すれば良いことから、処理条件の緻密なコントロールが可能となる。
【0059】
この熱処理炉は各ライン間の均一な熱処理が行えることから、炉内温度を200℃以上300℃以下に制御可能とすることにより、ポリアクリロニトリルを含む連続繊維束を被熱処理物として酸化雰囲気下で熱処理することにより、少なくとも部分的に酸化または環化されたいわゆる耐炎化した繊維束を得る、耐炎化炉に好適である。炉内温度とは、熱風の熱処理室流入時の温度のことをいい、耐炎化炉の場合、具体的には、炉内温度とは、ダクト12と熱処理室2とが接続している面13の中心における熱風温度を示す。
【0060】
図1では熱風が熱処理室2を上から下へ向かって流れる構成を示しているため、上側の接続している面の中心で温度を測定する。なお、熱風が下から上へ向かって流れる場合は、下側の接続している面の中心で温度を測定する。耐炎化炉では、繊維束に熱風を吹き付けて200℃以上に加熱することで酸化または環化反応が起こりやすくなる。その反応は、発熱を伴っており除熱しなければ暴走反応により有機繊維束が燃え切れてしまうため、炉内温度は300℃以下であることが好ましい。
【0061】
本発明の製造方法は、折り返しロールの表面温度の最高温度と最低温度との差を制御して熱処理することが好ましい。ロールの表面温度の最高温度と最低温度は、シート状に引き揃えられた被処理物の両端のライン間の領域におけるロールの表面温度の最高温度と最低温度を示す。最高温度と最低温度の測定は、非接触温度計によりロールの機幅方向中央部と端部で測定する前述の方法で行う。温度差は必要とされる特性に対応する温度の管理幅によって決定され、管理幅が狭くより均一な特性を必要とする場合には、温度差を小さく設定し、管理幅が広く特性の均一性がさほど重視されない場合には温度差を大きく設定すればよい。
【0062】
本発明の製造方法は、1本の折り返しロールの機幅方向において、最も温度の高い中央部と、最も温度の低い端部の温度を、温度センサにより検出し、その温度差が小さくなるようフィードバックにより加熱手段9および/または冷却手段14の出力値を決定した熱処理炉で製造することが好ましい。なお、ここでの端部とは、シート状に引き揃えられた被処理物のうち最もロール端部に近いラインと2番目に近いラインとの間のことを言う。
【0063】
前述のとおり、本発明者は、従来の熱処理炉を用いた熱処理では特性のバラツキの小さな熱処理品を得ることが出来ない原因を検討したところ、熱処理室外の折り返しロールにおいて、軸受けからの放熱や大気との熱伝達によって、折り返しロールの機幅方向中央部と比較して機幅方向端部のロール温度が低下し、かかる端部を通過する繊維が、中央部を通過する繊維と比較して相対的に繊維温度が低くなり繊維束の反応が進みにくくなり、また、機幅方向で温度の異なる繊維束が熱処理炉内に入ることで炉内温度の斑につながるためであろうとの仮説の下に検討し本発明に至った。ここではかかる仮説の妥当性を確認し、本発明におけるヒータの配置等に関する知見を得るために、折り返しロールの、ロール内部の複数の領域に、別個に制御可能な加熱手段を備え、温度制御する系をコンピュータにより熱流体解析を行った。 図7、8のように構成されたモデル空間に対し、市販の汎用熱流体解析ソフト(株式会社シー・ディー・アダプコ・ジャパンの「STAR−CD」)による熱流体解析を行った。なお、図9は図7のB−B’矢視の断面図である。本ソフトは流体の運動方程式であるナヴィエ・ストークス方程式を有限体積法により解析するものである。固体と流体の熱連成解析機能を用いることにより、ロールと糸の温度も解析することができる。なお、解析では糸の移動に伴い熱が輸送される現象もモデル化している。すなわち、炉外で温度の低下した被処理物が熱処理炉内に入ることによって、炉内温度が低下する現象も考慮されている。
【0064】
解析は3次元で、機幅方向中央断面を対称面とした1/2モデルで行った。熱処理室の走行方向距離(x)は7m、高さ(y)は1.5m、炉外領域の走行方向距離(w)は3m、ロールはステンレス製の円筒中空で外径(d)0.25m、内径(d’)0.20m、スリット状開口距離(s)は0.02mとした。機幅方向の長さ(z)は1.5mとした。直径3mmの被処理物250本を揃えて、速度3m/分でロールを介して2回折り返し、ジグザグに熱処理室を出入している。なお、125本の被処理物は、機幅方向で10mmの等間隔に引き揃えられている。
【0065】
境界条件として、熱処理室内においては、上面に250℃の空気が流速1m/秒で均一に供給される流入境界16を、下面には上面より供給された流量分が流出する流出境界17を、熱処理炉の内壁面には厚さ0.1mの断熱材に相当する壁面境界19を与えた。熱処理室の外側領域には、上下面と側面が大気圧0.1MPaになるよう圧力境界15を設定した。なお、解析初期における雰囲気温度は30℃とし、圧力境界15から解析領域に流入してくる空気の温度は30℃とした。ロール領域には、30℃の空気と熱伝達係数10.0W/mKで接触するような熱伝達境界20を、ヒータに相当する領域の内壁面にヒータの出力値をヒータ出力境界21として与え、冷却風を吹き付ける領域の外壁面に30℃の空気と熱伝達境界60.0W/mKで接触するような冷却熱伝達境界22を与えた。また、機幅方向中央断面には対称境界18を設定することで1/2モデルにしている。
【0066】
ロール2本だけで折り返している構成であるが、この構成で炉内温度の均一化効果を確認することができれば、ロールの数が増えた場合でも効果が得られることは明白である。よって、以上の条件は、本発明による熱処理炉の状況をよく模擬していると言える。
【0067】
それぞれ図9、表1のように異ならせ、本発明の解析例、比較解析例として熱流体解析を行った。
【0068】
図9は各解析例および比較解析例のロール断面形状を表している。ロール軸方向中央の断面に対して対称形状であるため半分のみを記載している。ヒータ(1)23とヒータ(2)24の出力および長さ、冷却風を吹き付ける領域25の長さは表1に示すとおりである。
【0069】
図10、11に示すロール表面および炉内6点、T1_ roll、T2_roll、T1_edge、T2_edge、T1_middle、T2_ middleにおける温度の解析結果から評価を行った。なお、図11は図10のC−C‘矢視の断面図である。温度評価位置の高さ(e)は0.625m、T1とT2の機幅方向の間隔(d)は1.245mとした。添え字「middle」は走行方向の炉内中央の位置で、「edge」は走行方向の炉壁からの距離(c)が0.2mの位置を表す。
【0070】
表1に記載されている項目は、前記6点の温度結果を用いて下式により算出した値である。
【0071】
【数1】

【0072】
【表1】

【0073】
[解析例1]
端部に500W/m2のヒータが0.5m、中央部に240W/m2のヒータが1.0m、ロール全体にヒータが設置されている状態とした。
【0074】
[比較解析例1]
ヒータのない従来の一般的な熱処理炉と言える。ヒータを設けた解析例1と比較してロール表面の機幅方向温度差、炉内の機幅方向温度差のいずれも大きい。
【0075】
[解析例2]
端部にのみ500W/m2で長さ0.5mのヒータが設置されている状態とした。解析例1と比較してロールの温度が低下する端部に熱を与えているため、ロール表面、炉内のいずれも機幅方向温度差は小さくなっている。
【0076】
[解析例3]
解析例2において端部のヒータを出力の異なる2つのヒータに等分して、それぞれの出力が500W/m2と950W/m2の状態とした。最もロールの温度が下がる端部のヒータ出力を大きくしたことによって、ロール表面および炉内の機幅方向温度差は小さくなった。今回検討した解析例の中で最もロール表面および炉内の機幅方向温度差が小さいため、最も均一な特性の熱処理物を製造できると考えられる。
【0077】
[解析例4]
解析例2において端部に500W/m2で長さが0.2mのヒータが設置されている状態とした。ヒータ長さが短ければ、ロール表面温度を高く均一に保つことが難しくなる。
【0078】
[解析例5]
解析例2において端部に500W/m2で長さが1.0mのヒータが設置されている状態とした。解析例2と比較してロール表面および炉内の機幅方向温度差はが大きくなっている。ヒータ長さが長すぎても、ロール温度を均一に保つことが難しくなることがわかる。
【0079】
[解析例6]
中央部に0.75m(全体モデルでは1.5m)の冷却領域が設置されている状態とした。最もロールの温度が上がる中央部を冷却したことによって、比較解析例1と比較してロール表面および炉内の機幅方向温度差は小さくなった。
【0080】
[解析例7]
解析例2において中央部に0.75m(全体モデルでは1.5m)の冷却領域が設置されている状態とした。解析例2と比較して、ロール表面および炉内の機幅方向温度差は小さくなった。
以上の熱流体解析結果から本発明によりロール表面および炉内の機幅方向温度差を小さくすることができることから、均一な特性の熱処理物を製造できることを確認した。
【実施例】
【0081】
本発明を実施例に基づいて説明する。
【0082】
[実施例1]
図12、13のように構成された熱処理炉で評価を行った。前記熱処理炉は解析を実施した形状と同じである。ただし、解析は1/2モデルで実施したため、機幅方向の長さ(z’)は3mである。図12は機幅方向中央断面における概略図を、図13は図12のD−D’における断面図である。熱処理室の走行方向距離(x)が7m、機幅方向の長さ(z’)が3m、高さ(y)が1.5m、ロールはステンレス製の円筒中空で外径(d)0.25m、内径(d’)0.20m、スリット状開口距離(s)が0.02mの耐炎化炉で評価を行った。直径3mmのポリアクリロニトリルを含む繊維束250本を揃えて、速度3m/分でロールを介して2回折り返し、ジグザグに熱処理室を出入している。なお、250本の繊維束は、機幅方向で10mmの等間隔に引き揃えている。それぞれのロール内部の両側端部には、長さ(L1)0.5mの遠赤外線ヒータ26を設置した。これは、ロール全長の33.3%の領域にヒータを設置したことになる。遠赤外線ヒータ26はフィードバック制御回路を備えている。中央部と端部に設置された2つの温度センサ10によって検出されたロール表面温度の最高温度と最低温度との温度差が15℃以下になるように遠赤外線ヒータの出力を制御した。なお、温度センサには、スポット径2mmの放射温度計を用いた。熱処理室には250℃の熱風を上から下へ向かって流速1m/秒で均一に供給した。
【0083】
ロール表面温度は温度センサ10によって検出し(1)式で、炉内温度は図10、11に示す6箇所に熱電対を取り付けて(2)(3)式により評価した。
【0084】
その結果、ロール表面の機幅方向温度差は15℃、炉内の機幅温度差は1.3℃、と小さかった。
【0085】
[比較例1]
実施例1においてヒータの電源をオフにした状態、すなわち従来の一般的な熱処理炉で測定を行った。
【0086】
その結果、ロール表面の機幅方向温度差は45℃、炉内の機幅温度差は3.3℃、と大きかった。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の1実施形態に係る熱処理炉の断面図である。
【図2】従来の熱処理炉の断面図である。
【図3】本発明の1実施形態に係る熱処理炉の断面図である。
【図4】図1のA−A’矢視の断面図である。
【図5】図1のA−A’矢視の断面図である。
【図6】図1のA−A’矢視の断面図である。
【図7】解析モデルの断面図である。
【図8】図7のB−B’矢視の断面図である。
【図9】解析例および比較解析例のロール断面図である。
【図10】温度評価位置を示す断面図である。
【図11】図10のC−C’矢視の断面図である。
【図12】本発明の1実施形態に係る熱処理炉の断面図である。
【図13】図12のD−D’矢視の断面図である。
【符号の説明】
【0088】
1 :熱処理炉
1’:従来の熱処理炉
2 :熱処理室
3 :ヒータ
4 :ファン
5 :走行方向の炉壁
6 :スリット状開口部
7 :被熱処理物
7’:有機繊維束
8 :折り返しロール
9 :加熱手段
9a:加熱手段a
9b:加熱手段b
10:温度センサ
11:機幅方向の炉壁
12:ダクト
13:ダクトと熱処理室とが接続している面
14:冷却手段
15:圧力境界
16:流入境界
17:流出境界
18:対称境界
19:壁面境界
20:熱伝達境界
21:ヒータ出力境界
22:冷却熱伝達境界
23:ヒータ(1)
24:ヒータ(2)
25:冷却風を吹き付ける領域
26:遠赤外線ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
折り返して水平走行する被熱処理物を出入するための複数のスリット状開口部を該被熱処理物の走行方向の一対の炉壁に有し、該炉壁の外部で前記スリット状開口部の間に折り返しロールを備えた熱処理炉において、該折り返しロールのロールの内部が、複数の領域に分割され、少なくとも1の領域に制御可能な温度調整手段を備えることを特徴とする熱処理炉。
【請求項2】
前記ロールの内部が、中央の領域とそれを挟む両端の領域に分割され、前記温度調整手段として加熱手段が、ロールの両端の領域に設置されている請求項1に記載の熱処理炉。
【請求項3】
前記ロールの内部が、中央の領域とそれを挟む両端の領域に分割され、前記温度調整手段として冷却手段が、ロールの中央の領域に設置されている請求項1に記載の熱処理炉。
【請求項4】
前記ロールの内部が、中央の領域とそれを挟む両端の領域に分割され、前記温度調整手段としてロール両端の領域に加熱手段、ロール中央部の領域に冷却手段を設置した請求項1に記載の熱処理炉。
【請求項5】
前記ロール両端の領域において、ロールの内部の加熱手段が、機幅方向にさらに2つ以上の領域に分割されており、それぞれの領域が独立した制御手段を有する請求項2または4に記載の熱処理炉。
【請求項6】
前記ロールの内部の加熱手段が、ロール両端からロールの全長の20%以上50%以下の領域に設置されている請求項2、4および5のいずれかに記載の熱処理炉。
【請求項7】
加熱手段が遠赤外線ヒータである請求項2、4および5のいずれかに記載の熱処理炉。
【請求項8】
前記ロールの内部の温度調整手段が、ロールの表面温度を検出する温度センサと該温度センサにより検出された温度に基づいてフィードバック制御する制御回路を有する請求項1から7のいずれかに記載の熱処理炉。
【請求項9】
前記ロールの内部の温度調整手段が、200℃以上300℃以下に温度制御可能である請求項1から8のいずれかに記載の熱処理炉。
【請求項10】
折り返して水平走行する被熱処理物を出入するための複数のスリット状開口部を該被熱処理物の走行方向の一対の炉壁に有し、該炉壁の外部で前記スリット状開口部の間に折り返しロールを備え、前記折り返しロールがロールの内部が複数の領域に分割され、少なくとも1の領域に制御可能な温度調整手段を備えた熱処理炉を用いて、前記折り返しロールの表面の最高温度と最低温度との差を制御して熱処理することを特徴とする熱処理物の製造方法。
【請求項11】
ロールの中央の領域とそれを挟む両端の領域のロールの表面温度を検出し、該表面温度の差をフィードバックして加熱および/または冷却手段を制御する請求項10に記載の熱処理物の製造方法。
【請求項12】
被熱処理物が、ポリアクリロニトリルを含む連続繊維束であり、炉内温度を200℃以上300℃以下に制御した前記熱処理炉にて酸化雰囲気下で熱処理することにより、少なくとも部分的に酸化または環化された繊維束を得る請求項10または11に記載の熱処理物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−267794(P2008−267794A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80170(P2008−80170)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】