説明

熱処理炉ならびに耐炎化繊維束および炭素繊維の製造方法

【課題】低コストでエコに優れたポリアクリロニトリル系繊維束を耐炎化する熱処理炉および耐炎化繊維の製造方法並びに炭素繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】炉本体部が、前記被処理物の走行方向に対して交差方向に熱風を吹き込む熱風導入部と、同熱風を排出する熱風排出部を有する熱処理室と、前記被処理物の走行方向に対して交差方向に熱風の循環機構を有するシール室と、室内の気体を排出する排出部と前記気体を排ガス処理設備へ排出する排出手段を有するシール排気室から構成され、前記熱処理室の熱風排出部と熱風導入部は加熱手段と送風手段を有する熱風循環路により連結され、前記熱風循環路の途中には、排ガス処理設備へ分岐する枝路と新鮮熱風を導入する枝路を有し、前記シール排気室の排出部から排出された気体の少なくとも一部を還送する岐路を有し、前記熱風循環路、または、前記新鮮熱風を導入する枝路につながる導入路に接続される熱処理炉。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐炎化繊維を製造するための熱処理炉ならびに耐炎化繊維および炭素繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の熱処理炉、特に炭素繊維の製造に用いられる熱処理炉としては、熱処理室に熱風を吹き込む熱風導入部と、同熱風を排出する熱風排出部と、熱処理室の側壁に糸条導入口と糸条導出口(この糸条導入口と糸条導出口は、本発明における横長のスリット状の開口部に当たる。以下同じ)とを有し、熱処理室内で糸条を水平方向に走行させながら、その糸条に上方から熱風を吹き付けて熱処理するようにした熱処理炉が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ここでいう水平方向とは、地面に対して概略平行となる方向のことである。概略平行とした理由の1つは、糸条は自重によって懸垂するため、その走行方向は地面に対して完全に平行とはならないためである。また、熱処理室の両側で糸条を支えるガイドローラーに段差があるなどの原因で、糸条の走行方向が地面に対して傾斜しても、糸条が熱処理室の向かい合う2側面に渡してあれば、概略平行といえる。
【0004】
このような熱処理炉において、例えばそれが耐炎化炉である場合、ポリアクリロニトリル(PAN)系のプリカーサー(前駆体繊維)からなる糸条を、複数糸条水平面内において所定のピッチを保ちながら並列させて熱処理室内に導入され、かつ、熱処理室の両側に設置されたガイドローラーによって走行方向を反転されながら熱処理室内への出入を繰り返し、熱処理室の上下方向においても所定のピッチを保ちながら走行し、耐炎化処理される。
【0005】
さらに特許文献1に開示されている熱処理炉においては、熱処理室側壁の糸条導入口および糸条導出口の外側に隣接してシール室を設け、そのシール室に排出機構を備えることで、熱処理室から流出してきた熱風(以下、熱処理室流出ガスという。)が作業者の居る炉外雰囲気に漏れ出すことを防止している。
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された熱処理炉では、生産性を上げるための一手段として熱処理室内を出入りする段数を増やす場合、流れが糸条を通過する際に生じる抵抗が大きくなり、流れの上流から下流に向けて生じる圧力低下が増大する。このため、熱処理室内と炉外雰囲気との圧力差も増大し、前記シール室だけでは熱処理室流出ガスの漏れ出しを防ぐことが出来なくなる。結果、熱処理室の上方に設けた糸条導入口および糸条導出口からは熱処理室流出ガスが漏れ出し、熱処理室の下方に設けた糸条導入口および糸条導出口からは外気が熱処理室内へ流入するようになる。
【0007】
熱処理室内への外気流入は、熱処理室内の温度むらを引き起こし、製品の品質を低下させるという問題がある。また、外気の流入した領域は、温度が低いために糸条の熱処理が進行せず、生産性が低下してしまう問題がある。
【0008】
特許文献2では、前記シール室の上部に熱風排出部および下部に熱風導入部を設け、熱処理室の上方の糸条導入口および糸条導出口からシール室へ流出してきた熱処理室流出ガスをシール室の上部で吸入し、その吸入した熱処理室流出ガスを循環させてシール室の下部に供給している。こうすることで、熱処理室の下方の糸条導入口および糸条導出口では、高温のシール室で吸入した熱処理室流出ガスが再度炉内へ流入してくるようになり、これにより熱処理室流出ガスの漏れ出しを大きく縮小すると共に、熱処理室内への低温の外気流入も抑制している。しかしながら、特許文献2に開示された熱処理炉をもってしてもやはり熱処理室流出ガスの漏れ出しはゼロでなく、一部シール室の外へ流出してしまう。
【0009】
特許文献3に開示された熱処理炉では、シール室のさらに外側にシール排気室を設けて、漏れ出てきた熱処理室流出ガスを外気とともに回収している。ここで、シール排気室で回収した熱処理室流出ガスは、中にシアン化合物及びアンモニア、一酸化炭素などの有害な成分が含まれているため、そのままでは大気に放出することは出来ない。このためシール排気室で排出される気体は、いったん排ガス処理設備に送られて、灯油もしくは天然ガスといったエネルギー燃料と共に燃焼処理するなどして、前記有害成分の処理を行っている。
【0010】
しかしながらシール排気室の排出機構は、いかに局所的な位置に排出機構を設けたとしても、漏れ出てきた熱処理室流出ガスを回収する際外気も多く吸い込んでしまうため、排出される気体の全体量は非常に大きなものとなってしまう。よって、シール排気室で排出される気体を送る排ガス処理設備のサイズも大きくなり設備費が高く、またその気体の量を燃焼させるためのエネルギー燃料の消費量も大きい。さらに、燃焼させたときに大気に放出する二酸化炭素、窒素化合物の量も比例して大きくなり、結果、設備費、エネルギー燃料費、環境において負荷の大きいシステムとなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−173761号公報
【特許文献2】特開2007−284842号公報
【特許文献3】特開2001−194072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、前記従来技術の問題点であるシール排気室で排出される気体による排ガス処理設備の設備費、エネルギー燃料費、環境の負荷を解決しようとするものであり、低コストで環境負荷の少ないポリアクリロニトリル系繊維束を耐炎化する熱処理炉および耐炎化繊維の製造方法並びに炭素繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は前記課題を解決するために次の構成を有する。すなわち、
(1)シート状のまたはシート状に引き揃えられた複数の線状の被処理物を、横長のスリット状の開口部を通して炉外に配された折り返しロールで走行方向に複数回折り返し熱処理する熱処理炉であって、炉本体部が、前記被処理物の走行方向に対して交差方向に熱風を吹き込む熱風導入部と、同熱風を排出する熱風排出部を有する熱処理室と、前記熱処理室の前後に、前記被処理物の走行方向に対して交差方向に熱風の循環機構を有するシール室と、前記シール室の前記熱処理室と対向する側に、室内の気体を排出する排出部と前記気体を排ガス処理設備へ排出する排出手段を有するシール排気室から構成され、前記熱処理室の熱風排出部と熱風導入部は加熱手段と送風手段を有する熱風循環路により連結され、前記熱風循環路の途中には、排ガス処理設備へ分岐する枝路と新鮮熱風を導入する枝路を有し、前記シール排気室の排出手段から前記排ガス処理設備への排出路の途中に前記シール排気室の排出部から排出された気体の少なくとも一部を、還送する岐路を有し、前記シール排気室の排出部から排出された気体の少なくとも一部を還送する岐路は、前記熱風循環路、または、前記新鮮熱風を導入する枝路につながる導入路に接続されてなることを特徴とする熱処理炉。
【0014】
(2)前記新鮮熱風を導入する枝路につながる導入路には予備加熱手段を有し、前記シール排気室の排出部から排出された気体の少なくとも一部を還送する岐路は、前記予備加熱手段の手前で前記新鮮熱風を導入する枝路につながる導入路に接続されてなることを特徴とする請求項1記載の熱処理炉。
【0015】
(3)前記予備加熱手段が前記排ガス処理設備の排ガスの熱を利用した熱交手段であることを特徴とする請求項2記載の熱処理炉。
【0016】
(4)請求項1〜3のいずれかに記載の横型熱処理炉を用い、ポリアクロニトリル系繊維束を酸化性の熱風中で耐炎化処理する耐炎化繊維束の製造方法。
【0017】
(5)請求項4に記載の製造方法で得られた耐炎化繊維束を、不活性雰囲気中で炭素化処理する炭素繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、熱処理炉外への熱処理室内流出ガスの漏れ出しと熱処理室への低温外気の流入を防ぎ、かつ排ガス処理設備に送る排ガス量を大きく削減させることが可能であり、工程安定性の確保と、設備費、エネルギー燃料費の削減による低コスト化が実現出来る。
【0019】
また同時にエネルギー燃料によって発生する二酸化炭素、窒素化合物の量も小さくなり、環境負荷の低減効果も大きい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施態様に係る熱処理炉の概略構成図である。
【図2】本発明の別の実施態様に係る熱処理炉の概略構成図である。
【図3】本発明のさらに別の実施態様に係る熱処理炉の概略構成図である。
【図4】従来用いられてきた熱処理炉の一般的な概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面に示す実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明の一実施態様に係る熱処理炉の概略構成図である。
【0023】
本発明の熱処理炉1は、シート状のまたはシート状に引き揃えられた複数の線状の被処理物Aが出入りする熱処理室2の前後にシール室3と、前記シール室3の前記熱処理室2と対向する側にシール排気室4を有する熱処理炉であり、熱処理室2、シール室3それぞれに熱風の循環手段、シール排気室4に室内の気体を排出する手段を持って、シール排気室4から排ガス処理設備22への排気路21の途中に還送路27を有し、前記還送路27が熱処理室2への熱風の循環路16に新鮮熱風を導入する導入路26に接続しているものである。
【0024】
本実施様態において、熱処理室2は、被処理物Aが出入りする横長のスリット状の開口部を有する糸条導入口および糸条導出口5を対向する2つの側壁に複数段有し、前記被処理物Aの走行方向に対して交差方向に熱風を吹き込む熱風導入部8と、同熱風を排出する熱風排出部9を有し、前記熱風排出部9と熱風導入部8は熱風を所望の温度まで加温する加温用電気ヒーター14と熱風循環ファン15を有する熱処理室への熱風循環路16により連結され、前記熱処理室への熱風循環路16の途中には、排ガス処理設備22へ分岐する分枝路24と新鮮熱風を導入する導入路26を有している。
【0025】
シール室3は、被処理物Aが出入りする横長のスリット状の開口部を有する糸条導入口および糸条導出口6を対向する2つの側壁に複数段有し、前記被処理物Aの走行方向に対して交差方向に熱風を吹き込む熱風導入部10と、同熱風を排出する熱風排出部11を有し、前記熱風排出部11と熱風導入部10は熱風を所望の温度まで加温する加温用電気ヒーター17と熱風循環ファン18を有する熱風循環路19により連結されている。
【0026】
またシール排気室4は、被処理物Aが出入りする横長のスリット状の開口部を有する糸条導入口および糸条導出口7を対向する2つの側壁に複数段有し、室内の気体を排出する排出部12と、前記排出部12と排ガス処理設備22は排出ファン20を有する排気路21により連結している。ここで、排出ファン20と排ガス処理設備22の間の排気路21に、岐路として還送路27を有し、前記還送路27は前記新鮮熱風を導入する導入路26に接続されている。
【0027】
本発明の熱処理炉は、繊維束を耐炎化する場合、耐炎化炉内から外気への有害ガスの流出および熱処理室内への低温外気の流入を抑制し、かつ排ガス処理設備に送る排ガス量を大きく削減するものである。
【0028】
熱処理炉1としては、加熱炉外ローラー13を複数個介し、酸化性の熱風を熱処理室2の上方に設けられた熱風導入部8から被処理物Aである糸の走行方向に対して交差する方向、好ましくは直角方向に吹き付け、耐炎化繊維を得る耐炎化繊維の製造装置において特に有効である。
【0029】
前記の如く、熱処理炉1の外側にローラー13を配設することにより、熱処理炉1に人が入ることなく作業が可能であることから、スタート準備のし易さ、メンテナンスのし易さや、定常運転時に巻き付きや糸切れが発生した場合でも生産設備を停止することなく処置が可能であり、炉内にローラーを配設する耐炎化装置に対し生産性は優れている。一方、炉内の気密性や熱効率の観点からは、糸を炉外に搬出および搬入するための開口部が必要であり、また糸を一度冷却することから、炉内にローラーを配設する炉に対して耐炎化効率は劣るが、長期連続運転、多糸条化、高糸条密度化が求められており、炉外にローラーが配設されている炉が優位である場合が多いと考えられる。
【0030】
酸化性の熱風を炉の上方から糸の走行方向と交差する方向、好ましくは直角方向に吹き付けることにより、糸の走行方向に対して並行方向に吹き付ける方法に対して酸化反応に伴う発熱を効率よく除熱出来るため、高温、短時間での耐炎化処理が可能である。
【0031】
一方、糸の走行方向に対して交差する方向、好ましくは直角方向に熱風を吹き付けることで、糸が抵抗となり、前記したように流れが糸を通過する際に生じる抵抗で、流れの上流から下流に向けて圧力低下が生じる。このため、炉上方では被処理物Aが出入りする横長のスリット状の開口部を有する糸条導入口および糸条導出口5から熱処理室流出ガスが外気へ漏れ出し、炉下方では横長のスリット状の開口部を有する糸条導入口および糸条導出口5から熱処理炉1の周辺の外気が熱処理室2へ吸い込むこととなる。炉外の低温の雰囲気を吸い込むことによって、熱処理室2内下方の温度を低下し、熱処理室2内の温度むらを増加させてしまう。
【0032】
熱処理室流出ガスの漏れ出しおよび外気の流入を抑制するため、被処理物が出入りする横長のスリット状の開口部を有する糸条導入口および糸条導出口5を極力狭くするなどする必要があるものの、ゼロにすることは困難である。
【0033】
前記特許文献2のように上方の被処理物が出入りする開口部を有する糸条導入口および糸条導出口5から流出した熱処理室流出ガスをシール室3の上部の熱風排出部11で吸入し、その吸入した熱処理室流出ガスを循環ファン18にて循環させてシール室3の下部の熱風導入部10で供給して開口部を有する糸条導入口および糸条導出口5から再度炉内へ流入させる方法があり、熱処理室流出ガスの炉外への漏れ出しを大きく低減することが出来るが、それでもやはり完全ではなく一部シール室の外へ漏れ出してしまう問題がある。
【0034】
また前記特許文献3のように、シール室3のさらに外側にシール排気室4を設けて、上方の被処理物が出入りする開口部を有する糸条導入口および糸条導出口6から流出した熱処理室流出ガスを排出部12にて外気とともに回収し排出する方法があるが、排出される気体は外気を多く含み、全体量が非常に大きなものとなってしまうため、排出される気体を燃焼処理する排ガス処理設備22のサイズも大きくなり設備費が高く、またその気体の量を燃焼させるためのエネルギー燃料の消費量も大きい。さらに、燃焼させたときに大気に放出する二酸化炭素、窒素化合物の量も比例して大きくなり、結果、設備費、エネルギー燃料費、環境において負荷の高いシステムとなってしまう。
【0035】
ここで、前述したようにシール排気室4で排出される気体は、外気を多く含んでいるので熱処理室流出ガスの濃度は小さく、他の工程から排出するガスに比べ比較的クリーンなガスと言える。
【0036】
したがって本発明においては、排ガス処理設備22に送られる排ガス量を削減するため、シール排気室4で排出される気体を再利用することに着目した。すなわち、本発明においては、シール排気室4から排ガス処理設備22への排気路21の途中に岐路として還送路27を有し、前記還送路27が熱処理室2の熱風循環路16もしくは熱風循環路16に導入している新鮮熱風導入路26に接続していることを特徴とする。
【0037】
シール排気室4で排出される気体の一部もしくは全てを熱処理室2の新鮮給気エアとして再利用することで、排ガス処理設備22に送られる排ガス量を劇的に削減することが出来る。該方法により、排ガス処理設備22のサイズダウンによる設備費削減、また排ガスを燃焼させるためのエネルギー燃料の消費量削減による燃料費削減、さらに燃焼させたときに大気に放出する二酸化炭素、窒素化合物も大きく減少することが出来る。
【0038】
なおシール排気室4で排出される気体のうち、排ガスとして燃焼処理する分と熱処理室2の新鮮給気エアとして再利用する分の量配分は、還送路27、もしくは排気路21の還送路27の岐路から排ガス処理設備22の間にダンパー等の流量制限を設けることによってコントロールすることが可能である。望ましくはシール排気室4で排出される気体の全てを新鮮給気エアとして再利用出来れば効果は非常に大きい。
【0039】
図2は、本発明の別の実施態様に係る熱処理炉の概略構成図であるが、前記還送路27は、熱風循環路16に導入している新鮮熱風導入路26でなく、熱処理室熱風排出部9と加温用電気ヒーター14の間の熱風循環路16に直接接続しても良い。なお、シール排気室4で排出される気体は熱処理室流出ガスの熱を保有しているため、熱処理室2の熱風循環路16に導入しても、温度低下は少なく加温用電気ヒーター14で充分に補充可能である。
【0040】
また図3は、本発明のさらに別の実施態様に係る熱処理炉の概略構成図である。新鮮熱風導入路26の途中に新鮮給気エアの予備加熱手段として排ガスの熱を利用した排ガス熱交23を有しており、還送路27を排ガス熱交23の導入側で新鮮熱風導入路26と接続し、シール排気室4で排出される気体を新鮮給気エアと混合して予備加熱している。前述のようにシール排気室4で排出される気体は熱処理室流出ガスの熱を保有しているため、元々の冷たい外気の新鮮給気エアよりも排ガス熱交23を通った後の温度は高くなり、それを熱風循環路16に導入することで、加温用電気ヒーター14の負荷を低減するというエネルギー効率に優れた耐炎化炉を提供することが出来る。
【0041】
なお本発明は、シール排気室4で排出される気体が、外気と混合して、熱処理室流出ガスの濃度が小さいほど、全体の量が大きいほどより効果的となってくる。特に、シール室のシール性を上げて熱処理室流出ガスの漏れ出しを低減した耐炎化炉、シール排気室で漏れ出した熱処理室流出ガスを回収するため外気も多く吸い込み過ぎてしまう耐炎化炉に効果的となってくる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
【0043】
[実施例1]太さ1.1デシテックスのPAN系のプリカーサー単糸を12,000本束ねた糸条を耐炎化処理した。熱処理室の上部に熱風導入部を設け、下部に熱風排出部を設けることで、熱処理室の上方から下方へ熱風を流し、糸条に対して上方から熱風を吹き付けた。熱風排出部から吸入した熱風は、再び熱風導入部に戻して循環使用した。熱風排出部と熱風導入部との間に設けたファンの回転数を変更し、熱風導入部および熱風排出部における風量を250,000Nm3/hrになるように制御した。また熱風循環経路には、排ガス処理設備へ10,000Nm3/hr分岐する枝路と新鮮熱風10,000Nm3/hrを導入する枝路と、さらに加温用電気ヒーターを設置し、加温用電気ヒーターによって熱風導入部における熱風250,000Nm3/hrの平均温度が250℃になるように制御した。なお、新鮮熱風を導入する枝路は途中に排ガス処理設備の熱交を通ることで、新鮮熱風を予備加熱している。
【0044】
同じく、シール室の上部に熱風排出部を設け、下部に熱風導入部を設けることで、熱処理室の上方の糸条導入口および糸条導出口からシール室へ流出してきた熱処理室流出ガスをシール室の上部で吸入し、その吸入した熱処理室流出ガスを循環させてシール室の下部に供給させた。熱風排出部と熱風導入部との間に設けたファンの回転数を変更し、熱風導入部および熱風排出部における風量を熱処理室の前後にて各15,000Nm3/hrになるように制御した。また、熱風排出部と熱風導入部との間に設けた加温用電気ヒーターによって、熱風導入部における熱風の平均温度が250℃になるように制御した。
【0045】
さらに、シール排気室の上部に排出部を設けることで、シール室の上方の糸条導入口および糸条導出口からシール排気室へ流出してきた熱処理室流出ガスをシール排気室の上部で排出している。排出部と排ガス処理設備との間に設けたファンの回転数を変更し、排出部における気体の排出量を合計10,000Nm3/hrになるように制御した。排出部から排出した気体の温度は150℃であった。
【0046】
また、シール排気室の排出部から排出した気体は、図2に示すように燃焼処理するため排ガス処理設備に持っていく分と、再利用のため熱処理室熱風循環路に持っていく分とに分けて搬送している。なお、それぞれの配分量は切替ダンパーの開閉度の調整によって、排ガス処理分を5,000Nm3/hr、再利用分を5,000Nm3/hrとちょうど半分ずつとなるように制御した。
【0047】
排ガス処理分は、他の工程の排ガスと混合して、最終的に25,000Nm3/hrの量で、排ガス処理設備にて800℃にて燃焼処理させている。その際、燃焼させるためのエネルギー燃料として消費した灯油の量を測定した。また、熱処理室の熱風循環経路における加温用電気ヒーターの消費電力も測定した。測定結果を表1に示す。
【0048】
[実施例2]太さ1.1デシテックスのPAN系のプリカーサー単糸を12,000本束ねた糸条を耐炎化処理した。シール排気室の排出部から排出した気体を再利用に持っていく経路は、直接熱処理室の熱風循環路に接続するのではなく、図3に示すように熱風循環路の新鮮熱風を導入する枝路の途中の排ガス処理設備の熱交の導入部で接続している。
【0049】
その他の条件は実施例1と同じにし、実施例1と同様の測定を行った。結果を表1に示す。
【0050】
[実施例3]太さ1.1デシテックスのPAN系のプリカーサー単糸を12,000本束ねた糸条を耐炎化処理した。シール排気室の排出部から排出した気体は、切替ダンパーの開閉度の調整によって、排ガス処理分を0Nm3/hr、再利用分を10,000Nm3/hrと全て再利用するよう制御した。排ガス処理分は、他の工程の排ガスと混合して、最終的に20,000Nm3/hrの量となる。
【0051】
その他の条件は実施例2と同じにした。結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
[比較例1]太さ1.1デシテックスのPAN系のプリカーサー単糸を12,000本束ねた糸条を耐炎化処理した。シール排気室の排出部から排出した気体は岐路なく、全て排ガス処理設備に持って行き燃焼処理している。概略図を図4に示す。
【0054】
排ガス処理分は、他の工程の排ガスと混合して、最終的に30,000Nm3/hrの量となる。その他の条件は実施例1と同じにした。結果を表1に示す。
【0055】
実施例1は、シール排気室で排出される気体の再利用分を予備加熱無しで熱処理室の熱風循環路に接続するため、接続時熱風の温度が低下し、比較例1と比べ熱処理室の熱風循環路の加温用電気ヒーターの消費電力が高くなるが、それに比べても再利用分による灯油の消費量削減効果は大きく、また排ガスによる環境負荷も大きく低下している。実施例2では、シール排気室で排出される気体の再利用分を新鮮給気エアと同じく排ガス熱交で予備加熱することで、実施例1の灯油消費量削減効果はキープしたまま、熱処理室の熱風循環路の加温用電気ヒーターの消費電力も、シール排気室で排出される気体が元々保有している熱分だけ比較例1と比べ低下させることを確認出来た。さらに実施例3で、シール排気室で排出される気体の再利用分の量を増加させることで、灯油消費量と熱処理室の熱風循環路の加温用電気ヒーターの消費電力の削減効果はより大きくすることが出来ることも確認とれた。
【0056】
このように、本発明によって、シール排気室で排出された気体の少なくとも一部を再利用し、熱処理室の熱風循環路の新鮮給気エアとして導入することで、排ガス処理設備の燃焼エネルギーの燃料を大きく削減でき、さらに新鮮熱風導入路の予備加熱手段を利用することで、熱処理室の熱風循環路の加温用電気ヒーターの消費電力も削減することが出来た。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係る熱処理炉および耐炎化方法は、特に耐炎化処理を必要とする用途に好適であり、中でも炭素繊維製造工程に用いて好適なものである。
【符号の説明】
【0058】
1:熱処理炉
2:熱処理室
3:シール室
4:シール排気室
5:熱処理室の糸条導入口および糸条導出口
6:シール室の糸条導入口および糸条導出口
7:シール排気室の糸条導入口および糸条導出口
8:熱処理室の熱風導入部
9:熱処理室の熱風排出部
10:シール室の熱風導入部
11:シール室の熱風排出部
12:シール排気室の排出部
13:ガイドローラー
14:熱処理室加温用電気ヒーター
15:熱処理室循環ファン
16:熱処理室循環路
17:シール室加温用電気ヒーター
18:シール室循環ファン
19:シール室循環路
20:シール排気室排気ファン
21:シール排気室排気路
22:排ガス処理設備
23:排ガス熱交
24:排ガス処理設備行き分岐路
25:新鮮熱風送気ファン
26:新鮮熱風導入路
27:シール排気室の排出気体の還送路
A:被処理物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状のまたはシート状に引き揃えられた複数の線状の被処理物を、横長のスリット状の開口部を通して炉外に配された折り返しロールで走行方向に複数回折り返し熱処理する熱処理炉であって、
炉本体部が、前記被処理物の走行方向に対して交差方向に熱風を吹き込む熱風導入部と、同熱風を排出する熱風排出部を有する熱処理室と、
前記熱処理室の前後に、前記被処理物の走行方向に対して交差方向に熱風の循環機構を有するシール室と、
前記シール室の前記熱処理室と対向する側に、室内の気体を排出する排出部と前記気体を排ガス処理設備へ排出する排出手段を有するシール排気室から構成され、
前記熱処理室の熱風排出部と熱風導入部は加熱手段と送風手段を有する熱風循環路により連結され、
前記熱風循環路の途中には、排ガス処理設備へ分岐する枝路と新鮮熱風を導入する枝路を有し、
前記シール排気室の排出手段から前記排ガス処理設備への排出路の途中に前記シール排気室の排出部から排出された気体の少なくとも一部を、還送する岐路を有し、
前記シール排気室の排出部から排出された気体の少なくとも一部を還送する岐路は、前記熱風循環路、または、前記新鮮熱風を導入する枝路につながる導入路に接続されてなることを特徴とする熱処理炉。
【請求項2】
前記新鮮熱風を導入する枝路につながる導入路には予備加熱手段を有し、前記シール排気室の排出部から排出された気体の少なくとも一部を還送する岐路は、前記予備加熱手段の手前で前記新鮮熱風を導入する枝路につながる導入路に接続されてなることを特徴とする請求項1記載の熱処理炉。
【請求項3】
前記予備加熱手段が前記排ガス処理設備の排ガスの熱を利用した熱交手段であることを特徴とする請求項2記載の熱処理炉。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の横型熱処理炉を用い、ポリアクロニトリル系繊維束を酸化性の熱風中で耐炎化処理する耐炎化繊維束の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の製造方法で得られた耐炎化繊維束を、不活性雰囲気中で炭素化処理する炭素繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−223471(P2010−223471A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69581(P2009−69581)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】