説明

熱処理装置及び熱処理方法

【課題】冷却時の温度分布を抑制できる熱処理装置及び熱処理方法を提供する。
【解決手段】本発明の熱処理装置は、加熱された被処理物Mを冷却する冷却室120を備える熱処理装置であって、ミスト状の冷却液を冷却室120内に供給するミスト供給部20と、気体を冷却室120内に供給してミスト状の冷却液の流動方向を調整する気体供給部30とを有するという構成を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理装置及び熱処理方法に関し、例えば被処理物の焼き入れ等の処理に用いて好適な熱処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被処理物である金属材を加熱し、冷却することにより、いわゆる焼入れ等の処理を行う熱処理装置において高速の冷却を必要とする場合、従来は油冷方式の冷却装置やガス冷却方式の冷却装置が用いられている。上記油冷方式の冷却装置においては、冷却効率は優れているものの、細かな冷却コントロールがほとんどできず被熱処理品が変形しやすいという問題がある。一方、ガス冷却方式の冷却装置においては、ガスの流量制御等により冷却コントロールが容易であり、被熱処理品の変形に関しては優れているものの、冷却効率が低いという問題がある。
【0003】
そこで、特許文献1には、被熱処理品を囲んで液用ノズルとガス用ノズルとを配置し、液用ノズルから冷却液をスプレー式で供給し(いわゆるミスト冷却)、ガス用ノズルから冷却ガスを供給することにより、冷却コントロール性及び冷却効率の向上を図った技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−153386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したような従来技術には、以下のような問題が存在する。
冷却室内のミスト密度に分布が生じている場合には、冷却特性に差が生じて被処理物に温度分布が生じてしまう可能性がある。また、被処理物が複数の場合には、ミスト密度の分布に応じて被処理物間に温度差が生じる可能性がある。
このように、温度分布が被処理物に生じた場合には、変形の原因となる虞があるとともに、焼き入れ処理に用いた場合には、一様な硬さとならない虞がある。
一方、複数の被処理物に温度差が生じた場合には、被処理物間で品質に差が生じて品質不良となる可能性もある。
【0006】
本発明は、以上のような点を考慮してなされたもので、冷却時の温度分布を抑制できる熱処理装置及び熱処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明の熱処理装置は、加熱された被処理物を冷却する冷却室を備える熱処理装置であって、ミスト状の冷却液を冷却室内に供給するミスト供給部と、気体を冷却室内に供給してミスト状の冷却液の流動方向を調整する調整部とを有するという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、ミスト状の冷却液が冷却室内に供給されると共に、気体が冷却室内に供給される。ミスト状の冷却液の流動方向は、供給された気体の流動によって、被処理物に向かうように調整される。そのため、ミスト密度が低いために冷却液が付着しにくい被処理物の表面にも、冷却液を付着させることが可能となる。
【0008】
また、本発明の熱処理装置は、調整部が複数の方向に気体を供給するという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、冷却液の付着量が少ない被処理物の表面が複数存在する場合でも、それらの表面に冷却液を付着させることが可能となる。
【0009】
また、本発明の熱処理装置は、調整部が気体の供給方向を変更する変更部を有するという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、変更部の作動による気体の供給方向の変更に応じて、冷却室内におけるミスト状の冷却液の流動方向が変化する。
【0010】
また、本発明の熱処理装置は、被処理物を所定の方向で搬送する搬送部を有し、調整部は、搬送部の搬送方向に沿って延在して設けられ気体が導入される複数の管体と、管体に搬送方向に沿って互いに離間して設けられる複数のノズル部とを有し、変更部は、複数の管体に各々対応して設けられる開閉弁を有するという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、開閉弁の作動による気体の供給方向の変更に応じて、冷却室内におけるミスト状の冷却液の流動方向が変化する。また、気体を供給するノズル部は、被処理物の搬送方向に沿って互いに離間して複数設けられているため、ミスト状の冷却液の流動方向が、上記搬送方向に関して略一様に調整される。
【0011】
また、本発明の熱処理装置は、所定の時間の経過後に気体の供給方向を変更するように変更部を制御する制御部を有するという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、所定の時間の経過後に気体の供給方向が変更されるため、冷却室内におけるミスト状の冷却液の流動が所定の方向で安定した後に、他の方向に変化する。したがって、被処理物の所定の表面に対して冷却に十分な量の冷却液を付着させることが可能となる。
【0012】
また、本発明の熱処理装置は、所定の時間の経過前に気体の供給方向を変更するように変更部を制御する制御部を有するという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、所定の時間の経過前に気体の供給方向が変更されるため、冷却室内におけるミスト状の冷却液の流動は安定せず乱流となる。したがって、被処理物の表面が複雑な形状を呈している場合や、複数の被処理物を同時に冷却する場合であっても、ミスト状の冷却液が乱流となって流動することにより、被処理物のいずれの面にも冷却液を付着させることが可能となる。
【0013】
また、本発明の熱処理装置は、被処理物の温度を計測する温度計測部と、温度計測部の計測結果に基づいて、変更部を制御する第2制御部とを有するという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、温度計測部の計測結果に基づいた第2制御部の変更部に対する制御により、気体の供給方向が変更される。そして、この変更に応じて、冷却室内におけるミスト状の冷却液の流動方向が変化する。
【0014】
また、本発明の熱処理装置は、温度計測部が被処理物の温度を複数箇所で計測し、計測した被処理物における温度差に基づいて第2制御部が変更部を制御するという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、被処理物における温度差に基づいた第2制御部の変更部に対する制御により、気体の供給方向が変更される。そのため、例えば高温となっている被処理物の表面に対して、重点的に冷却液を付着させることが可能となる。
【0015】
また、本発明の熱処理装置は、温度計測部が複数の被処理物の温度を各々計測し、第2制御部が計測した複数の被処理物間における温度差に基づいて変更部を制御するという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、複数の被処理物間における温度差に基づいた第2制御部の変更部に対する制御により、気体の供給方向が変更される。そのため、例えば高温となっている所定の被処理物に対して、重点的に冷却液を付着させることが可能となる。
【0016】
また、本発明の熱処理装置は、気体が、冷却室内の気圧を調整する気圧調整ガスであるという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、ミスト状の冷却液の流動方向は、供給された気圧供給ガスの流動によって、被処理物に向かうように調整される。
【0017】
また、本発明の熱処理装置は、気体が、被処理物を冷却する冷却ガスであるという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、ミスト状の冷却液の流動方向は、供給された冷却ガスの流動によって、被処理物に向かうように調整される。
【0018】
また、本発明は、加熱された被処理物を冷却室内にミスト状の冷却液を供給して冷却する冷却工程を備える熱処理方法であって、気体を冷却室内に供給してミスト状の冷却液の流動方向を調整する調整工程を備えるという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、ミスト状の冷却液が冷却室内に供給されると共に、気体が冷却室内に供給される。ミスト状の冷却液の流動方向は上記調整工程で、供給された気体の流動によって、被処理物に向かうように調整される。そのため、ミスト密度が低いために冷却液が付着しにくい被処理物の表面にも、冷却液を付着させることが可能となる。
【0019】
また、本発明は、気体が、複数の方向に供給されるという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、冷却液の付着量が少ない被処理物の表面が複数存在する場合でも、それらの表面に冷却液を付着させることが可能となる。
【0020】
また、本発明は、前記気体の供給方向を変更する工程を備えるという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、気体の供給方向の変更に応じて、冷却室内におけるミスト状の冷却液の流動方向が変化する。
【0021】
また、本発明は、被処理物を所定の方向で搬送する工程を備え、気体は、被処理物の搬送方向に沿って延在して設けられる複数の管体に導入されると共に、管体に搬送方向に沿って互いに離間して設けられる複数のノズル部から冷却室内に供給され、気体の供給方向は、複数の管体に各々対応して設けられる開閉弁の作動により変更されるという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、開閉弁の作動による気体の供給方向の変更に応じて、冷却室内におけるミスト状の冷却液の流動方向が変化する。また、気体を供給するノズル部は、被処理物の搬送方向に沿って互いに離間して複数設けられているため、ミスト状の冷却液の流動方向が、上記搬送方向に関して略一様に調整される。
【0022】
また、本発明は、気体の供給方向が、所定の時間の経過後に変更されるという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、所定の時間の経過後に気体の供給方向が変更されるため、冷却室内におけるミスト状の冷却液の流動が所定の方向で安定した後に、他の方向に変化する。したがって、被処理物の所定の表面に対して冷却に十分な量の冷却液を付着させることが可能となる。
【0023】
また、本発明は、気体の供給方向が、所定の時間の経過前に変更されるという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、所定の時間の経過前に気体の供給方向が変更されるため、冷却室内におけるミスト状の冷却液の流動は安定せず乱流となる。したがって、被処理物の表面が複雑な形状を呈している場合や、複数の被処理物を同時に冷却する場合であっても、ミスト状の冷却液が乱流となって流動することにより、被処理物のいずれの面にも冷却液を付着させることが可能となる。
【0024】
また、本発明は、被処理物の温度を計測する計測工程を備え、計測工程で計測した温度に基づいて、気体の供給方向が変更されるという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、計測工程での計測結果に基づいて、気体の供給方向が変更される。そして、この変更に応じて、冷却室内におけるミスト状の冷却液の流動方向が変化する。
【0025】
また、本発明は、計測工程では被処理物の温度を複数箇所で計測し、計測した被処理物における温度差に基づいて、気体の供給方向が変更されるという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、被処理物における温度差に基づいて、気体の供給方向が変更される。そのため、例えば高温となっている被処理物の表面に対して、重点的に冷却液を付着させることが可能となる。
【0026】
また、本発明は、計測工程では複数の被処理物の温度を各々計測し、計測した複数の被処理物間の温度差に基づいて、気体の供給方向が変更されるという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、複数の被処理物間における温度差に基づいて、気体の供給方向が変更される。そのため、例えば高温となっている所定の被処理物に対して、重点的に冷却液を付着させることが可能となる。
【0027】
また、本発明は、気体として、冷却室内の気圧を調整する気圧調整ガスが用いられるという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、ミスト状の冷却液の流動方向は、供給された気圧供給ガスの流動によって、被処理物に向かうように調整される。
【0028】
また、本発明は、気体として、被処理物を冷却する冷却ガスが用いられることを特徴とするという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、ミスト状の冷却液の流動方向は、供給された冷却ガスの流動によって、被処理物に向かうように調整される。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
本発明によれば、ミスト密度が低いために冷却液の付着量が少ない被処理物の表面にも十分な冷却液を付着させることが可能となるため、被処理物の表面を略均一に冷却することができる。したがって、本発明によれば、冷却時における被処理物の温度分布を抑制することができ、変形や硬さのバラツキ等を抑え、品質不良の発生を回避できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】真空熱処理炉100の全体構成図である。
【図2】第1の実施形態における冷却室120の正面断面図である。
【図3】第2の実施形態における冷却室120の正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の熱処理装置及び熱処理方法の実施の形態を、図1から図3を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
また、本実施形態では、熱処理装置として、2室型の真空熱処理炉(以下、単に「真空熱処理炉」と称する)の例を示す。
【0032】
〔第1実施形態〕
図1は、本実施形態に係る真空熱処理炉100の全体構成図である。
真空熱処理炉(熱処理装置)100は、被処理物Mに対して焼き入れ等の熱処理を施すものであって、加熱室110と、冷却室120とが隣接して配置されている。加熱室110と冷却室120との間には隔壁130が設けられ、隔壁130の開放時に、被処理物Mを加熱室110から冷却室120へ移動させ、冷却室120内で被処理物Mを冷却できる構成となっている。
【0033】
被処理物Mは、真空熱処理炉100によって1つづつ熱処理が施されるものであり、所定量の炭素を含有した鋼等の金属材料(合金含む)によって形成されている。また、本実施形態の被処理物Mは、略直方体状に形成されている。
【0034】
本発明は、冷却室120における冷却処理に特徴を有しているため、以下、冷却室120について詳述する。
図2は、本実施形態における冷却室120の正面断面図である。なお、以下、図2における紙面右側を単に「右側」(左側も同様)と、紙面上方を単に「上方」(下方も同様)と称する。
冷却室120は、その外殻を形成する略円筒状の真空容器1を有している。また、冷却室120には、搬送部10と、ミスト供給部20と、気体供給部(調整部)30と、温度計測部40と、制御部(制御部、第2制御部)50とが設けられている。
【0035】
搬送部10は、被処理物Mを水平方向に沿った所定の方向で搬送するものであって、互いに間隔を空けて対向配置され被処理物Mの搬送方向に延在する一対の支持フレーム11と、各支持フレーム11の対向する面に回転自在に、且つ上記搬送方向に所定間隔を空けて設けられた複数のローラ12と、鉛直方向に沿って設けられ支持フレーム11の両端部を指示する第2支持フレーム13とを有している。
なお、以下の説明においては、搬送部10による被処理物Mの搬送方向を単に搬送方向と称する。
【0036】
ミスト供給部20は、冷却室120内に冷却液をミスト状に供給することによって被処理物Mを冷却するものであって、冷却液供給管21と、冷却液回収・供給系22とを備えている。
なお、本実施形態の冷却液としては、例えば水、油、ソルト又はフッ素系不活性液体等が用いられる。
【0037】
冷却液供給管21は、搬送方向で延在する管状の部材であり、搬送部10による被処理物Mの搬送経路を中心として、真空容器1の周方向に略等間隔(ここでは90°間隔)で複数(ここでは4つ)設けられている。より詳細には、冷却液供給管21は、水平方向から±45°の位置に設けられている。各冷却液供給管21は、冷却室120の搬送方向での長さに亘る長さで形成されている。
各冷却液供給管21には、搬送部10上に載置された被処理物Mに向けて冷却液をミスト状に噴射する噴射部23が長さ方向全体に亘って、それぞれ所定間隔を空けて複数設けられている。
【0038】
なお、冷却液供給管21及び噴射部23の配置としては、ミスト状の冷却液が重力の影響を受けることから、供給量に差が生じる可能性がある上下方向を避けることが好ましく、好適には、水平方向に沿ってミスト状の冷却液を供給する。ただし、上下方向に沿って冷却液を供給する場合には、重力による影響を考慮して供給量を異ならせればよい。また、冷却液供給管21を4つではなく、例えば3つ配置する場合には、鉛直成分を極力減らすためにも、天頂部と、この天頂部を挟んで±120°の位置に配置することが好ましい。
【0039】
冷却液回収・供給系22は、冷却室120内に供給された冷却液を回収する排液管24と、排液管24に接続されると共に回収された排液を冷却する熱交換器25と、冷却液供給管21に冷却液を送液する配管26と、熱交換器25で冷却された冷却液を配管26を介して冷却液供給管21に送液するポンプ27と、後述する制御部50からの指示に従いポンプ27の動作を制御するインバータ28と、被処理物Mからの受熱により気化した冷却液を液化する液化器(液化トラップ)29とを有している。
【0040】
気体供給部(調整部)30は、冷却室120内の気圧を調整するための気圧調整ガスを冷却室120内に供給すると共に、該気圧調整ガスによって冷却室120内におけるミスト状の冷却液の流動方向を調整するためのものである。気体供給部30は、気体供給管(管体)31と、気体回収・供給系32とを備えている。
なお、本実施形態の気体調整ガスとしては、例えばアルゴン、ヘリウム、窒素等の不活性ガスが用いられる。
【0041】
気体供給管31は、搬送方向で延在する管状の部材であり、搬送部10による被処理物Mの搬送経路を中心として、真空容器1の周方向に略等間隔(ここでは90°間隔)で複数(ここでは4つ)設けられている。より詳細には、気体供給管31は、図2に示す真空容器1の3時、6時、9時、12時の位置(上下左右の位置)に設けられる。なお、以下、これらの気体供給管31を、順に第1気体供給管31aないし第4気体供給管31dと称する場合がある。各気体供給管31は、冷却室120の搬送方向での長さに亘る長さで形成されている。
各気体供給管31には、搬送部10上に載置された被処理物Mに向けて開口するノズル部33が長さ方向全体に亘って、それぞれ所定間隔を空けて複数設けられている。
【0042】
気体回収・供給系32は、冷却室120内に供給された気圧調整ガスを回収する排気管34と、各気体供給管31に気圧調整ガスを供給する配管35と、排気管34に接続されると共に配管35を介して各気体供給管31に気圧調整ガスを供給するファン36と、後述する制御部50からの指示に従いファン36の動作を制御する第2インバータ37と、配管35における各気体供給管31との接続箇所近傍に各々設けられ制御部50の指示に従い開閉する開閉弁(変更部、開閉弁)38とを有している。なお、第1気体供給管31aないし第4気体供給管31dに各々対応する開閉弁38を、順に第1開閉弁38aないし第4開閉弁38dと称する場合がある。
なお、実際にはファン36は図示しない羽根車と図示しないモータとにより構成されており、第2インバータ37はこのモータを制御することによりファン36の動作を制御するものである。
【0043】
温度計測部40は、被処理物Mの表面温度を計測するものであって、第1温度センサ40aないし第4温度センサ40dから構成される。第1温度センサ40aないし第4温度センサ40dは、第1気体供給管31aないし第4気体供給管31dに各々対向する被処理物Mの表面にそれぞれ設けられ、各温度センサの計測結果は制御部50に出力される。
本実施形態の第1温度センサ40aないし第4温度センサ40dとしては、熱電対が用いられているが、例えば放射温度計のような非接触式の温度計測器により被処理物Mの複数箇所を計測する構成としてもよい。
【0044】
制御部50は、温度計測部40から計測結果を取得し、かつインバータ28、第2インバータ37及び各開閉弁38に対して動作指示を出力するものである。制御部50は、インバータ28及び第2インバータ37に動作指示を出力することで、ポンプ27及びファン36の動作を制御し、冷却液及び気圧調整ガスの供給量を調整することができる。また、制御部50は、各開閉弁38を各々独立に所定の時間で開放することができる。
【0045】
続いて、上記の真空熱処理炉100において、加熱された被処理物Mを冷却室120で冷却する手順について説明する。
まず、搬送部10によって加熱室110で加熱された被処理物Mが、冷却室120内に搬入される。
【0046】
次に、冷却室120内にミスト状の冷却液を供給する。
制御部50の指示によりインバータ28がポンプ27を作動させ、冷却液が配管26を介して冷却液供給管21に供給される。冷却液供給管21に供給された冷却液は、冷却室120内に噴射部23からミスト状に噴射される。噴射部23はミスト状の冷却液を緩やかに拡散するように噴射するため、噴射直後のミスト状の冷却液は、噴射部23の周辺に滞留し、次第に重力の影響を受けて下降する。すなわち、噴射部23から冷却液を噴射するのみでは、冷却室120内のミスト密度に分布が生じる虞がある。
【0047】
本実施形態では、冷却液の供給と共に、冷却室120内に気圧調整ガスを供給する。
制御部50の指示により第2インバータ37がファン36を作動させ、気圧調整ガスが配管35に供給される。ここで、制御部50は、特定の開閉弁38のみを開放する。
例えば、図2に示すように、被処理物Mの右側に設けられる第1気体供給管31aに対応する第1開閉弁38aのみを開放する。気圧調整ガスは、第1開閉弁38aを通って第1気体供給管31aに供給され、ノズル部33を介して冷却室120内に供給される。ノズル部33は、被処理物Mに向かって開口しているため、気圧調整ガスは、第1気体供給管31aのノズル部33から被処理物Mに向かって供給され、この方向で流動する。
【0048】
そして、この気圧調整ガスの流動によって、冷却室120内におけるミスト状の冷却液の流動方向は、被処理物Mに向かうように調整される(調整工程)。なお、ノズル部33は、気体供給管31に搬送方向に関して互いに離間して複数設けられているため、ミスト状の冷却液の流動方向は搬送方向に関して略一様に調整される。よって、ミスト状の冷却液は、第1気体供給管31aのノズル部33から被処理物Mに向かって流動し、被処理物Mの右側表面にミスト状の冷却液が付着する。
【0049】
冷却液は、加熱された被処理物Mの表面に付着することで蒸発し、この蒸発時に被処理物Mの熱を奪うことから、冷却液が付着した被処理物Mの表面を冷却することができる(冷却工程)。なお、蒸発した冷却液は、液化器29にて再び液化され再利用される。
【0050】
また、制御部50は、開閉弁38を所定の時間だけ開放する。
この所定の時間とは、冷却室120内に供給された気圧調整ガスが安定した流れ、すなわち略一定の流動経路で流動する流れを形成するに足る時間である。よって、気圧調整ガス及びミスト状の冷却液の流動は共に安定するため、被処理物Mの表面に対して冷却に十分な量の冷却液を付着させることができる。
【0051】
次に、制御部50は、上記所定の時間の経過後に、開放する開閉弁38を切り替える。
例えば、第1開閉弁38aを閉鎖し、代わりに第2開閉弁38bを開放する。第2開閉弁38bの開放により、気圧調整ガスは第2気体供給管31bのノズル部33から供給され、真空容器1の底部から被処理物Mに向かって流動する。そして、ミスト状の冷却液の流動方向も、真空容器1の底部から被処理物Mに向かうように調整され、被処理物Mの下面にミスト状の冷却液が付着する。したがって、第2開閉弁38bを開放することで、被処理物Mの下面を冷却することができる。
【0052】
続いて、同様に、第3開閉弁38c及び第4開閉弁38dをそれぞれ開放することで、被処理物の左側表面及び上面を各々冷却することができる。
したがって、制御部50が特定の開閉弁38のみを開放することで、冷却室120内にミスト状の冷却液の流れを作り出し、ミスト密度が低い箇所があったとしても被処理物Mの表面に対して冷却に十分な冷却液を付着させることができる。
【0053】
さらに、制御部50は、開閉弁38の開放時間を微調整する。
温度計測部40が、被処理物Mの各表面の温度を計測し、その計測結果を制御部50に出力する。制御部50は、この計測結果から被処理物Mにおける温度分布の有無を確認し、所定の表面が他の表面に比べて高い温度を有している場合には、高い温度を有する表面に対応する開閉弁38の開放時間を増加させる。
【0054】
例えば、第3温度センサ40cが他のセンサよりも高い温度を計測した場合には、被処理物Mの左側表面が他の面よりも高い温度を有していることになる。そこで、第3開閉弁38cの開放時間を増加させ、第3気体供給管31cのノズル部33からの気圧調整ガスの供給を延長し、被処理物Mの左側表面を他の面に比べてより重点的に冷却することができる。
よって、被処理物Mにおける表面の温度分布に基づいて、開閉弁38の開放時間を微調整することができ、被処理物Mの表面をより均一に冷却することができる。
【0055】
したがって、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
本実施形態によれば、ミスト密度が低いために冷却液の付着量が少ない被処理物Mの表面にも十分な冷却液を付着させることが可能となるため、被処理物Mの表面を略均一に冷却することができる。したがって、本発明によれば、冷却時における被処理物Mの温度分布を抑制することができ、変形や硬さのバラツキ等を抑え、品質不良の発生を回避できるという効果がある。
【0056】
〔第2実施形態〕
図3は、本実施形態における冷却室120の正面断面図である。
この図において、図1及び図2に示す第1実施形態の構成要素と同一の要素については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0057】
本実施形態における冷却室120は、複数の被処理物Mをまとめて冷却するものである。なお、本実施形態における被処理物Mは、第1実施形態における被処理物Mに比べて小さな外形で形成されている。
搬送部10におけるローラ12上には、トレー14が載置されている。トレー14は、パンチング穴等の冷却液用流動孔が形成された板材を格子状に配列した構成となっており、複数段を有している。被処理物Mは、トレー14の各段に複数載置されている。
【0058】
温度計測部40における第1温度センサ40aは、トレー14内の右側に位置する被処理物Mに設けられている。同様に、第2温度センサ40b、第3温度センサ40c、第4温度センサ40dは、トレー14内の下側、左側、上側に位置する被処理物Mにそれぞれ設けられている。なお、第1実施形態と同様に、熱電対タイプの温度センサの代わりに放射温度計等の非接触型の温度計測器を使用してもよい。
【0059】
本実施形態における制御部50は、所定の時間、すなわち冷却室120内に供給された気圧調整ガスが安定した流れを形成するに足る時間が経過する前に、開放する開閉弁38を切り替えることを特徴とする。よって、気圧調整ガスの流動は安定せず乱流状態となる。気圧調整ガスの流動が乱流状態となっているため、冷却室120内に供給されるミスト状の冷却液の流動も乱流状態となる。
【0060】
本実施形態では、複数の被処理物Mがトレー14に載置されているため、例えばトレー14の中央部に載置されている被処理物Mには、ミスト状の冷却液を付着させることが難しい。そこで、冷却室120内におけるミスト状の冷却液の流動を乱流状態とすることで、上記のような冷却液を付着させにくい被処理物Mに対しても、冷却に十分な冷却液を付着させることができる。
【0061】
なお、複数の開閉弁38を同時に開放してもよい。この場合には、複数のノズル部33から異なる方向で供給された気圧調整ガスが互いに干渉し合うことにより、冷却室120内におけるミスト状の冷却液の流動を乱流状態とすることができる。
【0062】
したがって、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
本実施形態によれば、複数の被処理物Mの冷却時において、冷却液を付着させにくい被処理物Mに対しても、冷却に十分な冷却液を付着させることができる。したがって、本実施形態によれば、冷却時における複数の被処理物Mの温度差を抑制することができ、硬さのバラツキ等を抑え、品質不良の発生を回避できるという効果がある。
【0063】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0064】
例えば、上記実施形態では、第1実施形態では所定の時間の経過後に開放する開閉弁38を切り替え、第2実施形態では所定の時間の経過前に開放する開閉弁38を切り替えているが、これに限定されるものではなく、互いに逆の方法を用いてもよい。これは、被処理物Mの表面形状等により、より適切な流動状態が異なるためである。
【0065】
また、上記実施形態では、温度計測部40を用いて被処理物Mの温度を計測しているが、これに限定されるものではなく、温度計測部40を用いることなく、制御部50がタイマ等で計測した一定の時間毎に開放する開閉弁38を切り替える構成としてもよい。
【0066】
また、上記実施形態では、ミスト状の冷却液の流動方向を調整するものとして、冷却室120内の気圧を調整するための気圧調整ガスを用いているが、これに限定されるものではなく、被処理物Mを冷却するための冷却ガスを用いてもよい。なお、この場合には、冷却室120から回収された冷却ガスを再び冷却するための熱交換器が排気管34に設置してもよい。
【符号の説明】
【0067】
100…真空熱処理炉(熱処理装置)、120…冷却室、10…搬送部、20…ミスト供給部、30…気体供給部(調整部)、31…気体供給管(管体)、33…ノズル部、38…開閉弁(変更部、開閉弁)、40…温度計測部、50…制御部(制御部、第2制御部)、M…被処理物



【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱された被処理物を冷却する冷却室を備える熱処理装置であって、
ミスト状の冷却液を前記冷却室内に供給するミスト供給部と、
気体を前記冷却室内に供給して前記ミスト状の冷却液の流動方向を調整する調整部とを有することを特徴とする熱処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の熱処理装置において、
前記調整部は、複数の方向に前記気体を供給することを特徴とする熱処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載の熱処理装置において、
前記調整部は、前記気体の供給方向を変更する変更部を有することを特徴とする熱処理装置。
【請求項4】
請求項3に記載の熱処理装置において、
前記被処理物を所定の方向で搬送する搬送部を有し、
前記調整部は、前記搬送部の搬送方向に沿って延在して設けられ前記気体が導入される複数の管体と、前記管体に前記搬送方向に沿って互いに離間して設けられる複数のノズル部とを有し、
前記変更部は、前記複数の管体に各々対応して設けられる開閉弁を有することを特徴とする熱処理装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の熱処理装置において、
所定の時間の経過後に前記気体の供給方向を変更するように前記変更部を制御する制御部を有することを特徴とする熱処理装置。
【請求項6】
請求項3又は4に記載の熱処理装置において、
所定の時間の経過前に前記気体の供給方向を変更するように前記変更部を制御する制御部を有することを特徴とする熱処理装置。
【請求項7】
請求項3から6のいずれか一項に記載の熱処理装置において、
前記被処理物の温度を計測する温度計測部と、
前記温度計測部の計測結果に基づいて、前記変更部を制御する第2制御部とを有することを特徴とする熱処理装置。
【請求項8】
請求項7に記載の熱処理装置において、
前記温度計測部は、前記被処理物の温度を複数箇所で計測し、
前記第2制御部は、計測した前記被処理物における温度差に基づいて、前記変更部を制御することを特徴とする熱処理装置。
【請求項9】
請求項7に記載の熱処理装置において、
前記温度計測部は、複数の前記被処理物の温度を各々計測し、
前記第2制御部は、計測した前記複数の被処理物間における温度差に基づいて、前記変更部を制御することを特徴とする熱処理装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の熱処理装置において、
前記気体は、前記冷却室内の気圧を調整する気圧調整ガスであることを特徴とする熱処理装置。
【請求項11】
請求項1から9のいずれか一項に記載の熱処理装置において、
前記気体は、前記被処理物を冷却する冷却ガスであることを特徴とする熱処理装置。
【請求項12】
加熱された被処理物を、冷却室内にミスト状の冷却液を供給して冷却する冷却工程を備える熱処理方法であって、
気体を前記冷却室内に供給して前記ミスト状の冷却液の流動方向を調整する調整工程を備えることを特徴とする熱処理方法。
【請求項13】
請求項12に記載の熱処理方法において、
前記気体は、複数の方向に供給されることを特徴とする熱処理方法。
【請求項14】
請求項13に記載の熱処理方法において、
前記気体の供給方向を変更する工程を備えることを特徴とする熱処理方法。
【請求項15】
請求項14に記載の熱処理装置において、
前記被処理物を所定の方向で搬送する工程を備え、
前記気体は、前記被処理物の搬送方向に沿って延在して設けられる複数の管体に導入されると共に、前記管体に前記搬送方向に沿って互いに離間して設けられる複数のノズル部から前記冷却室内に供給され、
前記気体の供給方向は、前記複数の管体に各々対応して設けられる開閉弁の作動により変更されることを特徴とする熱処理方法。
【請求項16】
請求項14又は15に記載の熱処理方法において、
前記気体の供給方向が、所定の時間の経過後に変更されることを特徴とする熱処理方法。
【請求項17】
請求項14又は15に記載の熱処理方法において、
前記気体の供給方向が、所定の時間の経過前に変更されることを特徴とする熱処理方法。
【請求項18】
請求項14から17のいずれか一項に記載の熱処理方法において、
前記被処理物の温度を計測する計測工程を備え、
前記計測工程で計測した温度に基づいて、前記気体の供給方向が変更されることを特徴とする熱処理方法。
【請求項19】
請求項18に記載の熱処理方法において、
前記計測工程では、前記被処理物の温度を複数箇所で計測し、
計測した前記被処理物における温度差に基づいて、前記気体の供給方向が変更されることを特徴とする熱処理方法。
【請求項20】
請求項18に記載の熱処理方法において、
前記計測工程では、複数の前記被処理物の温度を各々計測し、
計測した前記複数の被処理物間の温度差に基づいて、前記気体の供給方向が変更されることを特徴とする熱処理方法。
【請求項21】
請求項12から20のいずれか一項に記載の熱処理方法において、
前記気体として、前記冷却室内の気圧を調整する気圧調整ガスが用いられることを特徴とする熱処理方法。
【請求項22】
請求項12から20のいずれか一項に記載の熱処理方法において、
前記気体として、前記被処理物を冷却する冷却ガスが用いられることを特徴とする熱処理方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−249332(P2010−249332A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95892(P2009−95892)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】