説明

熱分布表示体

【課題】熱分布の視認が可能な温度範囲が広く、広範な温度範囲に亘る熱分布の計測に用いられる熱分布表示体を提供する。
【解決手段】支持体上に、190℃以上の温度域で分解して色相が変化する電子供与性染料前駆体を含む、発色色調が互いに異なる少なくとも2種の電子供与性染料前駆体と、該電子供与性染料前駆体を発色させる電子受容性化合物と、バインダーとを含有し、地肌部の濃度より濃度が0.2高くなる温度T0.2が式(1)を満たす熱分布表示層を有している。


0.2:地肌部の濃度より0.2高くなる温度[℃]、Tmin:発色開始温度[℃]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子供与性染料前駆体を用いた熱分布表示体に関する。
【背景技術】
【0002】
シートの貼り合せや、フィルムにコーティングした転写層の熱転写などを目的とした方法として、熱プレス法が知られている。例えば、異方性導電膜(ACF)の貼り合わせやヒートシール、FPC等の電子部品の貼り合わせなど、熱プレスする場合にプレス面内の熱分布が製品の品質に影響する場合がある。
【0003】
熱プレスして製造するにあたり、製品の品質を向上させ、生産に要するタクトタイムを短縮させるためには、熱プレス面における温度とその分布が適正値となるように管理することが重要である。そのためには、実体温度を計測し、発生している温度分布に応じて調節する操作が必要とされる。
【0004】
ところが、プレス面内の温度分布の追跡には、従来から、シートや板部材に多数の熱電対や測温抵抗体、サーミスタなどを配置し、擬似面温度センサとしたものを熱プレス面に挟んで温度計測する方法が行なわれてきた(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、広い熱表面の温度を確認するためのシートや方法として、感熱紙を用いる方法がある。具体的な例として、加工対象物品又はその材料中に感熱シートを重ね、対向する熱プレス面の間に供給して熱プレスを行なう熱プレス過程と、熱プレスを行なった後の感熱シートにおける計測個所の濃度を計測する濃度計測過程と、計測した濃度に基づいて熱プレスの加熱温度を演算する温度演算過程とを設けて行なう温度計測方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
また、熱により多色に発色する多色発色型の感熱記録材料として、3種以上の電子供与性染料前駆体を用い、その少なくとも1種は固体微粒子状で含有され、少なくとも2種は所定のガラス転移点を持つマイクロカプセルに内包させて含有された感熱記録材料が開示されている(例えば、特許文献3参照)。このような感熱記録材料は、高感度であり、色分離性に優れるとされている。
【0007】
更に、近年では、熱を加えると黒色に発色する熱分布測定フィルム(サーモスケール)が上市されており、接触面の熱量分布を調べられる方法が提供されている。
【0008】
熱量分布を調べるための表示材料として、電子供与性染料前駆体と共に特定の電子受容性化合物を複数併用し、複数の電子受容性化合物の含有比率を特定の範囲として構成された熱分布表示体が開示されている(例えば、特許文献4参照)。この熱分布表示体によると、大きな温度差の熱分布の表示が可能であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−52666号公報
【特許文献2】特開2004−117145号公報
【特許文献3】特開2001−105738号公報
【特許文献4】特開2010−181218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記従来から用いられている感熱記録材料や感熱シートでは、高感度なために、発色開始温度が低く高温の測定はできない。また、温度変化に対する発色特性も急峻であり、狭い温度領域で発色濃度が急激に上がるため、小さな温度差や幅広い温度領域にわたる熱分布を計測することは困難である。また、上記のような多色発色型の感熱記録材料では、3種以上の発色成分を含み、一部を固体微粒子の状態で存在させて感度を高め、他を温度により互いに物質透過性が異なるマイクロカプセルに内包させることで、広い温度範囲での発色が期待されるが、そもそも多色画像を鮮やかに再現性良く形成することを目的とした材料のため、各色の発色特性はやはり急峻であり、狭い温度領域での濃度変化が大き過ぎ、比較的高温度の領域での温度差や幅広い温度領域にわたる熱分布の計測には適していない。
【0011】
一方で、上記のように熱で黒発色する熱分布測定フィルムも知られているが、単色表示しかできない、あるいは温度変化に対する感度が高すぎる等のために、色表示できる熱分布の温度幅は狭い。
また、上記の電子供与性染料前駆体と共に特定の電子受容性化合物を複数併用した熱分布表示体では、温度差の大きい熱分布の表示はある程度可能と期待される。しかしながら、温度差がある程度表示できても広範な温度域を連続的な色変化(グラデーション)により現すことまでは難しく、やはり表示可能な温度領域は狭い。そのため、広い温度領域における大きい温度差を多色に表示することは困難である。
したがって、従来提供されている材料では、計測可能な被計測用途が限られてしまう課題がある。
【0012】
熱プレス等の面加熱を施す分野では、面内温度が均一であることが求められるほか、例えば異方性導電膜(ACF)を取り扱い場合などは、ACFの貼り合わせ作業は通常、クリーンルーム内で行なわれている。クリーンルーム内では、通常の紙は紙粉が問題となるため、紙材を用いた材料を持ち込むことはできない。また、熱プレスは、100℃以上の温度で行なわれることから、主に設備の調整、検査用として、100℃以上の温度で発色して温度分布を表示できる熱分布測定フィルムが求められる。例えば、ACF接続用途で使用する場合の好ましい温度範囲は、100℃〜200℃の範囲が好適であり、更には120℃〜190℃の範囲がより好ましい。
熱分布の計測には、このような高温の温度領域で、しかも広い温度範囲にわたって温度分布を表示することが可能な熱分布表示体が好ましいが、このような熱分布表示体は、未だ提供されるに至っていないのが実情である。
【0013】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、熱分布の視認が可能な温度範囲が広く、広範な温度範囲に亘る熱分布の計測に用いられる熱分布表示体を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 支持体上に、190℃以上の温度域で分解して色相が変化する電子供与性染料前駆体を含む、発色色調が互いに異なる少なくとも2種の電子供与性染料前駆体と、該電子供与性染料前駆体を発色させる電子受容性化合物と、バインダーとを含有し、地肌部の濃度より濃度が0.2高くなる温度T0.2が下記式(1)を満たす熱分布表示層を有する熱分布表示体である。
【0015】
【数1】

【0016】
前記式(1)において、T0.2は、地肌部の濃度(Dmin)より濃度が0.2高くなる温度[℃]を表し、Tminは、発色開始温度[℃]を表す。
【0017】
<2> 前記少なくとも2種の電子供与性染料前駆体は、ガラス転移温度が互いに異なる壁材からなるマイクロカプセルに内包されている前記<1>に記載の熱分布表示体である。
【0018】
<3> 前記190℃以上の温度域で分解して色相が変化する電子供与性染料前駆体は、下記一般式(a)で表されるインドリルアザフタリド化合物である前記<1>又は前記<2>に記載の熱分布表示体である。
【0019】
【化1】



【0020】
前記一般式(a)において、R、R、R、R、及びRは、各々独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アリール基、カルバモイル基、アルコキシ基、又はヘテロ環基を表す。
【0021】
<4> 前記電子受容性化合物が、下記一般式(b)で表される化合物である前記<1>〜前記<3>のいずれか1つに記載の熱分布表示体である。
【0022】
【化2】

【0023】
前記一般式(b)において、R、R、R、及びRは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、カルボキシ基、カルバモイル基、ヒドロキシ基、アルキルスルホニル基、アルキル基、又はアリール基を表し、R〜Rのうち隣接する2つは互いに結合して環構造を形式してもよい。Mは、n価の金属原子を表し、nは1〜3の整数を表す。
【0024】
<5> 前記マイクロカプセルは、ウレタン結合及びウレア結合の少なくとも一方を有する高分子の壁を有する前記<1>〜前記<4>のいずれか1つに記載の熱分布表示体である。
【0025】
<6> 前記少なくとも2種の電子供与性染料前駆体として、シアン発色であって前記一般式(a)で表されるインドリルアザフタリド化合物とマゼンタ発色の電子供与性染料前駆体とを含む前記<3>〜前記<5>のいずれか1つに記載の熱分布表示体である。
【0026】
<7> 前記シアン発色のインドリルアザフタリド化合物及び前記マゼンタ発色の電子供与性染料前駆体は、ガラス転移温度が220℃未満の範囲で互いに異なる壁材からなるマイクロカプセルにそれぞれ内包されている前記<6>に記載の熱分布表示体である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、熱分布の視認が可能な温度範囲が広く、広範な温度範囲に亘る熱分布の計測に用いられる熱分布表示体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例1の熱分布表示材料の発色特性を示すグラフである。
【図2】(A)は、実施例1の熱分布表示材料により表される熱分布図であり、(B),(C)は、比較例5,6の熱分布表示材料により表される熱分布図であり、(D),(E)は、実施例12,13の熱分布表示材料により表される熱分布図である。
【図3】本発明の熱分布表示体の構成例を示す概略断面図である。
【図4】本発明の熱分布表示体を用いて熱圧着装置を検査する方法の一例を示す概略図である。
【図5】本発明の熱分布表示体を用いて熱圧着装置を検査する方法の他の一例を示す概略図である。
【図6】本発明の熱分布表示体を用いて熱圧着装置を検査する方法の他の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の熱分布表示体について詳細に説明する。
本発明の熱分布表示体は、支持体と該支持体上に配置される熱分布表示層とを少なくとも設けて構成されており、支持体上の本発明における熱分布表示層は、発色色調が互いに異なる電子供与性染料前駆体として、190℃以上の温度域で分解して色相が変化する電子供与性染料前駆体を含む2種以上の電子供与性染料前駆体と、該電子供与性染料前駆体を発色させる電子受容性化合物と、バインダーとを少なくとも用いて構成されたものである。また、熱分布表示層は、必要に応じて、さらに蛍光増白剤や架橋剤などの他の成分を用いて構成されてもよい。
【0030】
また、本発明における熱分布表示層は、その地肌部の濃度より濃度が0.2高くなる温度(T0.2)が下記式(1)を満たすように構成されている。
ここで、地肌部の濃度とは、熱分布表示層に対して加熱や加温等の外部から熱エネルギーを付与する処理を行なう前の、画像が記録されていない熱分布表示層(未発色部)の光学濃度(=熱分布表示層の最小濃度(Dmin))をいう。
また、T0.2は、10連型熱特性試験機(新東科学社製)にて加圧500g/cmで10秒間任意の温度に加熱した熱源を接触し、マクベス濃度計(RD−918型、グレタグ・マクベス社製)により光学濃度が未発色部の光学濃度+0.2となる温度である。
【0031】
【数1】

【0032】
前記式(1)において、T0.2は、地肌部の濃度(Dmin)より濃度が0.2高くなる温度[℃]を表し、Tminは、発色開始温度[℃]を表す。すなわち、
本発明における熱分布表示層は、発色開始から濃度が0.2上昇するまでの温度差が10℃以上である発色感度(温度上昇に対する濃度上昇の傾き)の低い発色特性を示すことを意味する。これは、サーマルヘッド等の発熱素子やレーザーの熱で画像を記録するいわゆる感熱記録材料とは区別されるものであることを示す。式(1)で示されるように、「0.2/(T0.2−Tmin)」が0.02を超えるものであると、感度が高すぎて小さな温度変化で急峻な濃度変化が発現し、熱分布を忠実に再現することができない。換言すれば、前記式(1)を満たすことで、加熱により発色する発色部の発色濃度(光学濃度)が、小さな温度差に対して小さな変化で現れるので、広い温度範囲において発色濃度の差を表すことができる。より小さい温度差が現れる熱分布表示が可能になる点で、「0.2/(T0.2−Tmin)」は、0.015以下がより好ましい。
なお、T0.2は、熱分布表示層表面の温度であり、概表面の温度を計測することにより得られる値である。また、Tminは、Dminから濃度が上昇し始める温度であり、加熱部の濃度をマクベス濃度計(RD−918、グレタグ・マクベス社製)により計測することで得られる値である。
【0033】
従来より、電子供与性染料前駆体を電子受容性化合物と共に含有する熱分布表示体は知られているが、熱分布が計測できる温度範囲は狭く限られているため、さまざまな温度分布を計測したいニーズに対し、それぞれの測定温度にあった熱分布表示体が必要であった。例えばACF接続用途で使用する場合の好ましい温度範囲は100℃〜200℃の範囲が好適であり、このような温度領域で連続的な色変化が現れる熱分布表示体に対する要望があった。このような状況に鑑みて、
本発明においては、前記式(1)で表される発色特性を有する熱分布表示層に複数の電子供与性染料前駆体を、「190℃以上の温度域で分解して色相が変化する」電子供与性染料前駆体が存在するように含める。190℃以上の温度域で分解して色相が変化する電子供与性染料前駆体は、190℃以上に達するとそれ自体が分解し、電子受容性化合物との反応で発色する色相と異なる色相を発現する。これにより、温度上昇と共に色の濃淡や色相変化が起きる温度範囲が高温域に拡大し、190℃以上の高温域を含む広範な温度範囲において熱分布に対応した色相変化が現れるようになる。その結果として、熱分布を計測しようとする被測定面における温度差が比較的大きい場合でも、視認可能なグラデーションのある画像が得られ、幅広い温度範囲に亘り被測定面の熱分布が容易に捉えられる。
【0034】
具体的には、図2(A)及び(D)〜(E)に示すように、200℃を超える高温域を含む広い温度範囲において、色の濃淡及び色相変化が得られる。広い範囲の温度分布を計測するには、従来から用いられている材料では、図2(B)〜(C)に示すように、色の濃淡又は色相変化が現れて熱の分布が表される温度範囲は狭く、何種類も必要になるが、本発明の熱分布表示体では、広範な温度範囲において熱分布を示す色変化が連続的なグラデーションとして現れるため、1種類で必要な温度範囲をカバーすることが可能である。
【0035】
<熱分布表示層>
本発明の熱分布表示体は、少なくとも1層の熱分布表示層を支持体上に設けて構成されている。この熱分布表示層は、電子供与性染料前駆体及び電子受容性化合物とポリマーとを含有する。
電子供与性染料前駆体は、ポリマーと混合して得られる形態で用いられてもよいし、ポリマーを用いて形成されたマイクロカプセル(以下、単に「カプセル」ともいう。)に内包された形態で用いられてもよい。電子供与性染料前駆体をバインダーと共に熱分布表示層に含めることで、熱応答性を付与することができると共に、加熱や加温等の外部からの熱エネルギーが付与される前に電子供与性染料前駆体と電子受容性化合物とが反応し発色するのを防ぐことができる。また、熱分布表示体の保存安定性も向上する。
【0036】
−電子供与性染料前駆体−
本発明における熱分布表示層は、少なくとも2種の電子供与性染料前駆体(以下、単に「染料前駆体」ともいう。)を含み、その少なくとも1種として、190℃以上の温度域で分解して色相が変化する電子供与性染料前駆体を含有する。
【0037】
電子供与性染料前駆体は、エレクトロンを供与して、或いは、酸等のプロトンを受容して発色する性質を有するものであり、実質的に無色のものを制限なく含有することができる。中でも、特にラクトン、ラクタム、サルトン、スピロピラン、エステル、アミド等の部分骨格を有し、電子受容性化合物と接触したときに、これらの部分骨格が開環もしくは開裂する無色の化合物が好ましい。
【0038】
電子供与性染料前駆体としては、例えば、トリフェニルメタンフタリド系化合物、フルオラン系化合物、フェノチアジン系化合物、インドリルフタリド系化合物、ロイコオーラミン系化合物、ローダミンラクタム系化合物、トリフェニルメタン系化合物、トリアゼン系化合物、スピロピラン系化合物、フルオレン系化合物、ピリジン系化合物、ピラジン系化合物等が挙げられる。
【0039】
前記フタリド類の具体例としては、米国再発行特許第23024号明細書、米国特許第3491111号明細書、同第3491112号明細書、同第3491116号明細書、同第3509174号明細書等に記載された化合物が挙げられる。
前記フルオラン類の具体例としては、米国特許第3624107号明細書、同第3627787号明細書、同第3641011号明細書、同第3462828号明細書、同第3681390号明細書、同第3920510号明細書、同第3959571号明細書等に記載された化合物が挙げられる。
前記スピロピラン類の具体例としては、米国特許第3971808号明細書等に記載された化合物が挙げられる。
前記ピリジン系及びピラジン系化合物類としては、米国特許第3775424号明細書、同第3853869号明細書、同第4246318号明細書等に記載された化合物が挙げられる。
前記フルオレン系化合物の具体例としては、特開昭63−094878号公報等に記載された化合物が挙げられる。
【0040】
具体的には、例えば、2−アニリノ−3−メチル−6−ジエチルアミノフルオラン、2−アニリノ−3−メチル−6−N−シクロヘキシル−N−メチルアミノフルオラン、2−p−クロロアニリノ−3−メチル−6−ジブチルアミノフルオラン、2−アニリノ−3−メチル−6−ジオクチルアミノフルオラン、2−アニリノ−3−クロロ−6−ジエチルアミノフルオラン、2−アニリノ−3−メチル−6−N−エチル−N−イソアミルアミノフルオラン、2−アニリノ−3−メチル−6−N−エチル−N−ドデシルアミノフルオラン、2−アニリノ−3−メトキシ−6−ジブチルアミノフルオラン、2−o−クロロアニリノ−6−ジブチルアミノフルオラン、2−p−クロロアニリノ−3−エチル−6−N−エチル−N−イソアミルアミノフルオラン、2−o−クロロアニリノ−6−p−ブチルアニリノフルオラン、2−アニリノ−3−ペンタデシル−6−ジエチルアミノフルオラン、2−アニリノ−3−エチル−6−ジブチルアミノフルオラン、2−o−トルイジノ−3−メチル−6−ジイソプロピルアミノフルオラン、2−アニリノ−3−メチル−6−N−イソブチル−N−エチルアミノフルオラン、2−アニリノ−3−メチル−6−N−エチル−N−テトラヒドロフルフリルアミノフルオラン、2−アニリノ−3−クロロ−6−N−エチル−N−イソアミルアミノフルオラン、2−アニリノ−3−メチル−6−N−メチル−N−γ−エトキシプロピルアミノフルオラン、2−アニリノ−3−メチル−6−N−エチル−N−γ−エトキシプロピルアミノフルオラン、2−アニリノ−3−メチル−6−N−エチル−N−γ−プロポキシプロピルアミノフルオラン等が挙げられる。
【0041】
また、電子供与性染料前駆体として少なくとも1種は、190℃以上の温度域で分解して色相が変化する電子供与性染料前駆体が用いられる。この染料前駆体は、190℃未満では、電子受容性化合物との反応により発色して所定の色相(例えばシアン色)を呈し、190℃以上になるとそれ自体が熱分解し、前記所定の色相とは異なる色相(例えばイエロー色)を呈する。このような染料前駆体を、これとは異なる色相に発色する他の染料前駆体と共に含有することで、従来は表示が困難であった高温域での熱分布が表せられるようになる。
【0042】
前記「190℃以上の温度域で分解して色相が変化する電子供与性染料前駆体」としては、190℃以上の温度域で分解したときに電子受容性化合物との反応で発現する色相と異なる色相を発現し、色相変化をもたらす染料前駆体の中から制限なく選択することができる。このような染料前駆体としては、下記一般式(a)で表されるインドリルアザフタリド化合物(4−アザフタリド系化合物)が好ましい。
【0043】
【化3】



【0044】
前記一般式(a)において、R、R、R、R、及びRは、各々独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アリール基、カルバモイル基、アルコキシ基、又はヘテロ環基を表す。
【0045】
〜Rで表されるアルキル基としては、無置換でも置換基を有してもよく、炭素数1〜12のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、t−ブチル基、イソプロピル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられる。
【0046】
〜Rで表されるシクロアルキル基としては、無置換でも置換基を有してもよく、炭素数3〜8のシクロアルキル基が好ましく、例えば、シクロプロピル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0047】
〜Rで表されるアラルキル基としては、無置換でも置換基を有してもよく、炭素数7〜20のアラルキル基が好ましく、例えば、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
【0048】
〜Rで表されるアリール基としては、無置換でも置換基を有してもよく、炭素数6〜10のアリール基が好ましく、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0049】
〜Rで表されるカルバモイル基としては、無置換でも置換基を有してもよく、炭素数1〜8のカルバモイル基が好ましく、例えば、無置換のカルバモイル基、メチルカルバモイル基、エチルカルバモイル基、ジメチルカルバモイル基等が挙げられる。
【0050】
〜Rで表されるアルコキシ基としては、無置換でも置換基を有してもよく、炭素数1〜8のアルコキシ基が好ましく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、2-プロポキシ基、t−ブトキシ基等が挙げられる。
【0051】
〜Rで表されるヘテロ環基としては、無置換でも置換基を有してもよく、ヘテロ原子として窒素原子、酸素原子、硫黄原子を含む炭素数5〜10のものが好ましい。ヘテロ環基の例としては、テトラヒドロフリル、ピロリジニル、ピラゾリジニル、イミダゾリジニル、ピペリジル、モルホリニル、チアモルホリニル、ピペラジニル等が挙げられる。
【0052】
前記一般式(a)で表されるインドリルアザフタリド化合物の例としては、以下に示す化合物が挙げられる。但し、本発明においては、これらに制限されるものではない。
【0053】
【化4】



【0054】
本発明における熱分布表示層は、前記「190℃以上の温度域で分解して色相が変化する電子供与性染料前駆体」として前記一般式(a)で表されるインドリルアザフタリド化合物の少なくとも1種と、それ以外の染料前駆体の少なくとも1種とを含む2種以上を含有することが好ましい。
【0055】
更には、広範な温度範囲にわたって表示される熱分布表示が良好である点で、シアン発色の前記一般式(a)で表されるインドリルアザフタリド化合物の少なくとも1種とマゼンタ発色の電子供与性染料前駆体の少なくとも1種とを含む2種以上を含む態様が好ましい。更にはこれらのうち、少なくとも前記マゼンタ発色の電子供与性染料前駆体の少なくとも1種(及び好ましくは、シアン発色の一般式(a)で表されるインドリルアザフタリド化合物の少なくとも1種)がTg<220℃のマイクロカプセルに内包された態様がより好ましい。
この場合、シアン発色のインドリルアザフタリド化合物とマゼンタ発色の電子供与性染料前駆体の含有比率(シアン/マゼンタ比[質量比])は、特に制限されるものではないが、中でも1/2〜2/1が広範な温度域で熱分布の表示が良好に現れる点で好ましい。
【0056】
熱分布表示層中に含まれる複数種の電子供与性染料前駆体(「190℃以上の温度域で分解して色相が変化する電子供与性染料前駆体」を含む。)の各々の含有比率としては、電子受容性化合物に対して、10〜100質量%であることが好ましく、20〜60質量%であることがより好ましい。各電子供与性染料前駆体の含有比率が10質量%以上であると、視認できる発色濃度が得られやすい。また、電子供与性染料前駆体の含有比率が100質量%以下であると、保存安定性が良好に保たれ、地肌濃度の上昇が低く抑えられる点で有利である。
また、電子供与性染料前駆体の熱分布表示層中における総量としては、視認できる発色濃度の点で、層の全質量に対して、8〜30質量%であることが好ましい。
【0057】
電子供与性染料前駆体は、保存安定性及び地肌濃度の上昇防止の観点から、後述するポリマーで作製されたカプセルに内包された有機高分子複合体として用いられることが好ましい。
また、熱分布表示層には2種以上の電子供与性染料前駆体が含有されるが、各々の電子供与性染料前駆体は、ガラス転移温度(Tg)が互いに異なる壁材からなるマイクロカプセルに内包されていることが好ましい。このとき、Tgが異なるマイクロカプセルのTg間の温度差は、広範な温度範囲における熱分布表示が良好である点で、15℃以上が好ましく、より好ましくは15〜40℃の範囲であり、更に好ましくは20〜30℃の範囲である。
【0058】
−ポリマー−
熱分布表示層に含有される前記電子供与性染料前駆体は、ポリマーと共に含有されてもよい。例えば電子供与性染料前駆体が前記有機高分子複合体の形態で用いられる場合、電子供与性染料前駆体はポリマーで作製されたカプセルに内包されていてもよい。
【0059】
前記ポリマーは、電子供与性染料前駆体と共に有機高分子複合体を形成し得る高分子化合物の中から特に制限なく選択することができ、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリビニル、ポリウレタン、ポリウレア、ポリウレタンポリウレア等が挙げられる。中でも、電子供与性染料前駆体は、保存安定性及び地肌濃度の上昇防止の観点から、後述するイソシアネート化合物と揮発性有機溶剤とを用いて得られるポリマーで作製されたマイクロカプセルに電子供与性染料前駆体が内包された染料前駆体含有マイクロカプセル(有機高分子複合体)として含有されることが好ましく、特にウレタン結合及び/又はウレア結合を有する高分子の壁を有する染料前駆体含有マイクロカプセルとして含有されるのがより好ましい。中でも、ウレタン結合及び/又はウレア結合を有する高分子は、ポリウレタンポリウレアが特に好ましい。
【0060】
(イソシアネート化合物)
前記ポリマーを得るためのイソシアネート化合物は、芳香族化合物や炭化水素化合物等に2個以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物の場合のほか、イソシアネート化合物を用いた縮合体、重合体又は付加体等の場合を含む。一分子(ポリマー、アダクト物等を含む)内に2個以上のイソシアネート基を有する化合物が好ましい。
【0061】
芳香族化合物や炭化水素化合物等に2個のイソシアネート基を有する化合物としては、例えば、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、ナフタレン−1,4−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−ビフェニルジイソシアネート、3,3’−ジメチルジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、キシリレン−1,4−ジイソシアネート、キシリレン−1,3−ジイソシアネート、4−クロロキシリレン−1,3−ジイソシアネート、2−メチルキシリレン−1,3−ジイソシアネート、4,4’−ジフェニルプロパンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルヘキサフルオロプロパンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、プロピレン−1,2−ジイソシアネート、ブチレン−1,2−ジイソシアネート、シクロヘキシレン−1,2−ジイソシアネート、シクロヘキシレン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキシレン−1,4−ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン及び1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が挙げられる。
以上では2官能であるジイソシアネート化合物を例示したが、これらに類推される3官能のトリイソシアネート化合物、4官能のテトライソシアネート化合物であってもよい。
【0062】
また、上記イソシアネート化合物と、エチレングリコール類、ビスフェノール類等の2官能アルコール、フェノール類との付加物も利用できる。
【0063】
イソシアネート化合物を用いた縮合体、重合体又は付加体の例としては、前述の2官能イソシアネート化合物の3量体であるビューレット又はイソシアヌレート、トリメチロールプロパンなどのポリオールと2官能イソシアネート化合物の付加体として多官能としたもの、ベンゼンイソシアネートのホルマリン縮合物、メタクリロイルオキシエチルイソシアネート等の重合性基を有するイソシアネート化合物の重合体、リジントリイソシアネートなども用いることができる。特に、キシレンジイソシアネートおよびその水添物、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートおよびその水添物を主原料としこれらの3量体(ビューレットあるいはイソシヌレート)の他、トリメチロールプロパンとのアダクト体として多官能としたものが好ましい。
これらの化合物については「ポリウレタン樹脂ハンドブック」(岩田敬治編、日刊工業新聞社発行(1987))に記載されている。
【0064】
これらの中で、多官能イソシアネートとしては、芳香族系の多官能イソシアネートが好ましく、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、キシリレン−1,4−ジイソシアネート、キシリレン−1,3−ジイソシアネート、トリメチロールプロパンとキシリレン−1,4−ジイソシアネートまたはキシリレン−1,3−ジイソシアネートとの付加物が好ましく、特にキシリレン−1,4−ジイソシアネート及びキシリレン−1,3−ジイソシアネート、トリメチロールプロパンとキシリレン−1,4−ジイソシアネートまたはキシリレン−1,3−ジイソシアネートとの付加物が好ましい。
【0065】
(揮発性有機溶剤)
前記揮発性有機溶剤は、沸点が40℃以上150℃未満の有機溶媒であり、好ましくは40℃以上130℃以下の沸点を有する有機溶媒が挙げられる。
【0066】
前記ポリマーを得るために用いられる揮発性有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル(沸点77℃)、酢酸イソプロピル(沸点88℃)、酢酸ブチル(沸点124〜127℃)、酢酸イソブチル(沸点118℃)、メチレンクロライド(沸点40℃)、テトラヒドロフラン(沸点66℃)などを挙げることができる。また、これらを2種以上混合して用いてもよい。これらの中でも特に酢酸エチルが好ましい。
【0067】
〜有機高分子複合体の製造〜
前記有機高分子複合体は、例えば、前記電子供与性染料前駆体と前記イソシアネート化合物と前記揮発性有機溶剤とを含む電子供与性染料前駆体含有液を水相に分散させて、前記電子供与性染料前駆体含有液を含む油滴が分散された分散液を調製し(分散工程)、前記油滴中の前記イソシアネート化合物を重合反応させる(重合工程)ことで製造することができる。
前記重合工程における前記イソシアネート化合物の反応度が70%のときの前記分散液中の前記揮発性有機溶剤の含有量は、前記重合反応の開始時の含有量に対して10%以下とすることが好ましい。
【0068】
以下、有機高分子複合体の製造方法を詳細に説明する。
<<分散工程>>
本発明における分散工程は、電子供与性染料前駆体含有液(油相)を油滴として水相に乳化分散させる工程である。乳化分散は、高速撹拌機、超音波分散装置等の通常の微粒子乳化に用いられる手段、例えば、ホモジナイザー、マントンゴーリー、超音波分散機、ディゾルバー、ケディーミル等、その他公知の乳化分散装置を用いて容易に行なうことができる。
【0069】
油相の水相に対する混合比(油相質量/水相質量)は、0.5〜1.5が好ましく、0.7〜1.2がより好ましい。該混合比が0.5〜1.5の範囲内であると、適度の粘度に保持でき、製造適性に優れ、乳化液の安定性に優れる。
【0070】
用いる水相には保護コロイドとして水溶性高分子を溶解した水溶液を使用することが好ましく、前記水溶性高分子は、分散を均一に且つ容易にすると共に、乳化分散した水溶液を安定化させる分散媒として作用する。
【0071】
水溶性高分子としては、例えば、ポリビニルアルコールおよびその変成物、ポリアクリル酸アミドおよびその誘導体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、スチレン/無水マレイン酸共重合体、エチレン/無水マレイン酸共重合体、イソブチレン/無水マレイン酸共重合体、ポリビニルピロリドン、エチレン/アクリル酸共重合体、酢酸ビニル/アクリル酸共重合体、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、カゼイン、ゼラチン、澱粉誘導体、アラビヤゴム及びアルギン酸ナトリウムを挙げることができ、ポリビニルアルコールおよびその変性物、ゼラチン及びその変性物、セルロース誘導体を用いることが好ましい。
これらの水溶性高分子は、イソシアネート化合物と反応しないか、極めて反応し難いものが好ましく、例えばゼラチンのように分子鎖中に反応性のアミノ基を有するものは予め反応性をなくしておくことが重要である。
水溶性高分子は、1種類のみを使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0072】
本発明においては、ポリエーテルが界面活性剤としても働くため、電子供与性染料前駆体含有液中にポリエーテル化合物を添加する場合、界面活性剤を別途添加することなく安定に分散を行うことが可能であるが、熱分布表示体の性能に悪影響を及ぼさない範囲内で必要に応じて界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤は、油相または水相のいずれに添加して使用してもよい。界面活性剤の使用量は、油相の質量に対し1質量%以下、特に0.5質量%以下が好ましい。
【0073】
乳化分散に用いる界面活性剤については、特開2010−180294号公報の段落番号[0066]〜[0073]に記載されており、本発明の熱分布表示体に適宜適用することができる。
【0074】
分散工程により得られた油滴であるエマルジョン粒子の粒径は、前述の有機高分子複合体の体積平均50%粒径(D50v)と同じ粒径であることが好ましく、エマルジョン粒子の粒径の好ましい範囲も同様である。
【0075】
<<重合工程>>
重合工程は、油滴中に含まれるイソシアネート化合物を重合反応させる工程である。分散液中の揮発性有機溶剤の含有量は、分散液の撹拌速度や撹拌時間、重合反応の際の液温や排気風量を調節することにより適宜調整することができる。重合反応は、分散液中にイソシアネート化合物の重合反応触媒を添加するか、分散液の温度を上昇させて行なうことができる。
【0076】
通常のマイクロカプセルの製造方法では、水相にイソシアネート化合物と付加反応を起こす化合物、例えば、ポリオールや多官能アミノ化合物、を添加しておき、油相に含まれるイソシアネートが水分子の活性水素だけでなく水相に含まれるポリオールや多官能アミノ化合物と界面で付加反応しポリウレタンやポリウレアを生成して壁を形成する。
水相に添加しうるポリオールとしては、具体的にはプロピレングリコール、グリセリン及びトリメチロールプロパンなどが挙げられ、1種類のみ使用しても、2種類以上を併用してもよい。また、水相に添加しうる多官能アミノ化合物としては、ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン等を挙げることができ1種類のみ使用しても、2種類以上を併用してもよい。更に、ポリオールと多官能アミノ化合物とを併用してもよい。これらの化合物も先の「ポリウレタン樹脂ハンドブック」に記載されている。
【0077】
重合工程中に、マイクロカプセル等の有機高分子複合体同士の凝集を防止するためには、加水して有機高分子複合体同士の衝突確率を下げることが好ましく、充分な攪拌を行うことも好ましい。水の添加量は、電子供与性染料前駆体含有液の濃度が2質量%〜50質量%となるようにすることが好ましく、より好ましくは、5質量%〜30質量%である。
【0078】
また、重合工程中に改めて凝集防止用の分散剤を添加してもよい。重合反応の進行に伴って炭酸ガスの発生が観測され、その発生の終息をもって凡その形成反応の終点と見なすことができる。通常、数時間反応させることにより、目的とする有機高分子複合体を得ることができる。
【0079】
上記の有機高分子複合体の製造方法では、必要に応じて金属含有染料、ニグロシン等の荷電調節剤、或いは、その他任意の添加物質を添加することができる。これらの添加剤は壁の形成時、又は任意の時点で含有することができる。
【0080】
重合工程後に、有機高分子複合体に含まれる揮発性有機溶媒を除去するために、加熱することも好ましい。揮発性有機溶媒が残存すると、保存時に徐々に揮発して、性能が不安定となり易い。揮発性有機溶媒を除去するための加熱温度は、使用した揮発性有機溶媒の種類によるが、100℃未満であることが好ましく、40〜70℃であることがより好ましい。
【0081】
前記電子供与性染料前駆体含有液中の電子供与性染料前駆体の含有量としては、5〜50質量%が好ましく、10〜30質量%がさらに好ましい。
【0082】
前記電子供与性染料前駆体含有液中のイソシアネート化合物の含有量としては、2〜50質量%が好ましく、5〜30質量%がさらに好ましい。
また、前記電子供与性染料前駆体含有液中のイソシアネート化合物の含有量は、揮発性有機溶剤100質量部に対して5〜75質量部であることが好ましく、10〜50質量部であることがさらに好ましい。イソシアネート化合物の含有量が揮発性有機溶剤100質量部に対して5〜75質量部であると、揮発性有機溶媒の蒸散のコントロールにより、イソシアネート化合物の反応度を制御しやすい。
【0083】
前記電子供与性染料前駆体含有液中の揮発性有機溶剤の含有量としては、20〜90質量%が好ましく、30〜70質量%がさらに好ましい。
【0084】
前記電子供与性染料前駆体含有液は、必要に応じて適宜、紫外線吸収剤、酸化防止剤などを含有してもよい。
【0085】
前記電子供与性染料前駆体含有液は、所定量の電子供与性染料前駆体とイソシアネート化合物と揮発性有機溶剤と必要に応じて用いられるその他の成分とを混合及び、撹拌又は分散等の公知の手法を用いることにより調製される。前記電子供与性染料前駆体含有液は、溶液の状態であってもよいし、分散液の状態であってもよい。
【0086】
−電子受容性化合物−
本発明における熱分布表示層は、前記電子供与性染料前駆体を発色させる電子受容性化合物の少なくとも1種を含有する。前記電子供与性染料前駆体を、ポリマーと共に混合しあるいはカプセル化する等により有機高分子複合体として用いる場合、電子受容性化合物は有機高分子複合体に内包されないことが好ましい。
【0087】
電子受容性化合物としては、フェノール誘導体、サリチル酸誘導体、ヒドロキシ安息香酸エステル等が挙げられる。これらの中でも特に、ビスフェノール類、ヒドロキシ安息香酸エステル類が好ましい。例えば、2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジクロロフェニル)プロパン、1,1−(p−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−(p−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−(p−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−(p−ヒドロキシフェニル)−2−エチルヘキサン、3,5−ジ(α−メチルベンジル)サリチル酸及びその多価金属塩、3,5−ジ(tert−ブチル)サリチル酸及びその多価金属塩、3−α,α−ジメチルベンジルサリチル酸及びその多価金属塩、p−ヒドロキシ安息香酸ブチル、p−ヒドロキシ安息香酸ベンジル、p−ヒドロキシ安息香酸−2−エチルヘキシル、p−フェニルフェノール及びp−クミルフェノールを挙げることができる。
【0088】
電子受容性化合物の中でも、下記一般式(b)で表される化合物が好ましい。この化合物は、前記電子供与性染料前駆体をマイクロカプセルに内包するなど有機高分子複合体として含有する場合、例えばカプセル壁のTgを下げる効果が小さく、上記式(1)を満たすような熱分布表示層では、発色濃度が小さな温度差に対して小さな変化で現れるので、各温度に対して発色濃度の差を表すことができる利点がある。
【0089】
【化5】

【0090】
前記一般式(b)において、R、R、R、及びRは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、カルボキシ基、カルバモイル基、ヒドロキシ基、アルキルスルホニル基、アルキル基、又はアリール基を表す。R〜Rのうち、隣接する2つは互いに結合して環構造を形式してもよい。Mは、n価の金属原子を表し、nは1〜3の整数を表す。
【0091】
前記一般式(b)においてR、R、R、又はRとして表されるアルキル基は、無置換でも置換基を有してもよく、炭素数が1〜8であることが好ましく、直鎖状でも分岐状でも環状でもよいし、更にフェニル基やハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。
前記R、R、R、又はRで表されるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、t−ブチル、シクロヘキシル、2−フェニルエチル基等が挙げられる。該アルキル基は、直鎖状又は分岐状の構造を有し、炭素数が1〜4(置換基の炭素数を含まない)であるものがより好ましい。
【0092】
、R、R、又はRで表されるアリール基は、無置換でも置換基を有してもよく、3〜6員環で炭素数が3〜6であることが好ましく、ヘテロ原子を有していてもよい。
前記R、R、R、又はRで表されるアリール基としては、例えば、フェニル、ベンジル、トリル、ナフチル、2−フリル、2−チエニル、2−ピリジル等が挙げられる。前記R、R、R、又はRで表されるアリール基は、ヘテロ原子を有さず、炭素数が6〜8である5員又は6員環のアリール基であることがより好ましい。
【0093】
、R、R、又はRで表されるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0094】
アミノ基、カルバモイル基、アルキル基、及びアリール基が更に有し得る置換基としては、ハロゲン原子、アミノ基、カルボキシ基、カルバモイル基、ヒドロキシ基、アルキルスルホニル基、アルキル基、及びアリール基等が挙げられ、該置換基の炭素数は1〜8であることが好ましい。
【0095】
上記の中でも、前記R〜Rは、水素原子、アルキル基、又はアリール基を表すことが好ましい。
前記R〜Rの好ましい組み合わせとしては、Rが水素原子であり、Rがフェニル基を有する炭素数2又は3のアルキル基(フェニル基の炭素数を含めると炭素数8又は9)であり、Rが水素原子であり、Rがフェニル基を有する炭素数2又は3のアルキル基(フェニル基の炭素数を含めると炭素数8又は9)である態様が好ましい。
【0096】
また、前記R〜Rのうち、隣接する2つは互いに結合して環を形成してもよい。
【0097】
一般式(b)中のMは、n価の金属原子を表し、nは1〜3の整数を表す。
前記Mとしては、例えば、ナトリウム原子、カリウム原子、銅原子、アルミニウム原子、カルシウム原子、亜鉛原子等が挙げられる。中でも、多価の金属原子、すなわち2価以上の金属原子であることが好ましく、Mはアルミニウム原子、カルシウム原子、又は亜鉛原子であることが好ましい。より好ましくは、Mは亜鉛原子である。
【0098】
前記一般式(b)で表される化合物の具体例を以下に示す。但し、本発明においては、これらに制限されるものではない。
具体例としては、4−ペンタデシルサリチル酸、3,5−ジ(α−メチルベンジル)サリチル酸、3,5−ジ(ter−オクチル)サリチル酸、5−α−(p−α−メチルベンジルフェニル)エチルサリチル酸、3−α−メチルベンジル−5−ter−オクチルサリチル酸、5−テトラデシルサリチル酸、4−ヘキシルオキシサリチル酸、4−シクロヘキシルオキシサリチル酸、4−デシルオキシサリチル酸、4−ドデシルオキシサリチル酸、4−ペンタデシルオキシサリチル酸、4−オクタデシルオキシサリチル酸等の、亜鉛、アルミニウム、カルシウム、銅の塩等が挙げられる。
【0099】
本発明においては、これらの電子受容性化合物を1種単独で用いるほか、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
電子受容性化合物の含有量は、発色濃度の観点から、電子供与性染料前駆体の全質量に対して、20〜1000質量%であることが好ましく、50〜500質量%であることがより好ましい。
【0100】
−バインダー−
本発明における熱分布表示層は、バインダーの少なくとも1種を含有する。
前記バインダーとしては、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エピクロルヒドリン変性ポリアミド、エチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、イソブチレン−無水マレインサリチル酸共重合体、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸アミド、メチロール変性ポリアクリルアミド、デンプン誘導体、カゼイン、ゼラチン等が挙げられる。
【0101】
また、これらのバインダーに耐水性を付与する目的で耐水性の改良剤を加えたり、疎水性ポリマーのエマルジョン、具体的には、アクリル樹脂エマルジョン、スチレン−ブタジエンラテックス等を添加することもできる。
【0102】
バインダーの含有量は、熱分布表示層の熱源への転写防止の観点から、熱分布表示層の全固形分に対して、5〜30質量%であることが好ましく、10〜20質量%であることがより好ましい。
【0103】
前記熱分布表示層に用いられるバインダーとしては、透明性を良好なものとする観点から、ポリビニルアルコール(PVA)が好ましく、カルボキシ変性ポリビニルアルコールやアルキルエーテル変性ポリビニルアルコール等の変性PVAを用いることもできる。
【0104】
−他の成分−
本発明における熱分布表示層は、上記の電子供与性染料前駆体、電子受容性化合物、及びバインダーに加えて、さらに他の成分を含有することができる。
他の成分としては、特に制限されるものではなく、目的又は必要に応じて適宜選択することができる。他の成分として、例えば、架橋剤、増感剤、顔料、潤滑剤、公知の熱可融性物質、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0105】
前記バインダーのうち、水溶性の高分子化合物(例えば、ゼラチンやポリビニルアルコール)を用いる場合には、架橋剤を含有し、バインダーを架橋することで、保存安定性をより一層向上させることができる。
架橋剤としては、公知の架橋剤の中から適宜選択することができる。例えば、N−メチロール尿素、N−メチロールメラミン、尿素−ホルマリン等の水溶性初期縮合物;グリオキザール、グルタルアルデヒド等のジアルデヒド化合物類;硼酸、硼砂等の無機系架橋剤;ポリアミドエピクロルヒドリン等が挙げられる。
【0106】
熱分布表示層は、顔料を含んでもよい。顔料としては、有機顔料及び無機顔料のいずれも使用可能である。熱分布表示層に用いられる顔料としては、その体積平均粒径が、0.10〜5.0μmであるものが好ましい。
また、熱分布表示層に顔料を含めると共にあるいは含めずに、後述する顔料を含有する光反射層を、支持体上の熱分布表示層の上に設けてもよい。
【0107】
架橋剤以外の他の成分、具体的には、増感剤、顔料、潤滑剤、公知の熱可融性物質、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤等については、特開2010−180294号公報の段落番号[0091]〜[0106]に記載されており、本発明の熱分布表示体に適宜適用することができる。
【0108】
〜熱分布表示層の形成〜
本発明における熱分布表示層は、電子供与性染料前駆体(好ましくは電子供与性染料前駆体が内包されたマイクロカプセル等の有機高分子複合体)と、電子受容性化合物と、バインダーと、必要に応じて熱分布表示層が含有し得る前記他の成分とを配合して調製された熱分布表示層形成用の塗布液を、支持体上に塗布することによって形成することができる。
【0109】
本発明においては、熱分布表示層形成用の塗布液中に電子受容性化合物を添加し、更に熱増感剤などを添加してもよい。この場合、それぞれを別々に乳化分散あるいは固体分散し、微粒化して添加、あるいは適宜混合した後に乳化分散あるいは固体分散し微粒化して添加することができる。乳化分散する方法は、有機溶媒中にこれらの化合物を溶解し、水溶性高分子水溶液をホモジナイザー等で攪拌している中に添加することができる。微粒子化を促進するにあたり、疎水性有機溶媒、界面活性剤、水溶性高分子を使用することが好ましい。
【0110】
電子受容性化合物、熱増感剤などを固体分散するには、これらの粉末を水溶性高分子水溶液中に投入し、ボールミル等の公知の分散手段を用いて微粒子化する方法が好適である。微粒子化に際しては、熱感度、保存性、記録層の透明性、製造適性などの熱分布表示体及びその製造方法に必要な特性を満足しうる粒子径を得るように行なうことが好ましい。
【0111】
電子受容性化合物は、乳化状態ではなく、固体分散した状態となるように調製することが好ましい。
【0112】
熱分布表示層形成用の塗布液は、例えば、上記のようにして作製した有機高分子複合体と電子受容性化合物を含有する固体分散物とを混合することによって、調製することができる。
【0113】
マイクロカプセル等の有機高分子複合体の調製の際に保護コロイドとして用いた水溶性高分子、並びに前記分散物の調製の際に保護コロイドとして用いた水溶性高分子は、熱分布表示層におけるバインダーとして機能する。また、これら保護コロイドとは別にバインダーを添加し混合して、熱分布表示層形成用塗布液を調製することも好ましい態様である。
【0114】
本発明における熱分布表示層は、支持体上に、1〜25g/mの範囲で設けられていることが好ましい。また、熱分布表示層の厚みは、1〜25μmであることが好ましい。
熱分布表示層は、上述したように2層以上を積層して用いることも可能であり、この場合、全熱分布表示層の熱分布表示体の全質量に対する含有量が1〜25g/mであることが好ましい。
【0115】
<支持体>
本発明の熱分布表示体は、支持体を設けて構成されている。
支持体としては、公知の支持体の中から適宜選択することができる。支持体の例として、中性紙、酸性紙、再生紙、ポリオレフィン樹脂ラミネート紙、合成紙、ポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、三酢酸セルロースフィルム等のセルロース誘導体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリプロピレンフィルムやポリエチレンフィルム等のポリオレフィンフィルム、ポリ−4−メチルペンテン−1、アイオノマー、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ABS樹脂、AS樹脂、メタクリル樹脂、ポリビニルアルコール、EVA、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア・メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルフォン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリアリルエーテルニトリル、ポリベンゾイミダール、金属箔などを単独あるいは2種以上配合されたものからなるフィルム、あるいはこれらのフィルムを組み合わせた複合シートなどの使用が考えられる。
中でも、カール等の変形を効果的に防止するために、縦方向及び横方向における熱収縮率が1%未満であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましい。
【0116】
特に透明性を付与する場合は、高分子フィルムからなる支持体が好ましい。その例として、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、三酢酸セルロースフィルム、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィンフィルム等の合成高分子フィルム、等が挙げられる。中でも、高温耐性のある、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)の支持体が好ましい。
【0117】
広い温度範囲の熱分布表示に用いるために、ガラス転移温度(Tg)の高い透明性の支持体が好ましい。透明性があるとは、発色を支持体を通して視認するため、発色の視認を損なわない程度の光透過性を有していることをいい、好ましくは後述の全光線透過率を有することをいう。このような透明支持体のTgの範囲は、100℃以上が好ましく、130℃以上がより好ましく、150℃以上が最も好ましい。
上記のうち、Tgが150℃以上の透明支持体としては、例えば、PC(ポリカーボネート:Tg=150℃)、PEN(ポリエチレンナフタレート:Tg=155℃)、COP(シクロオレフィンポリマー:Tg=160℃)、PSU(ポリサルフォン:Tg=185℃)、PAR(ポリアリレート:Tg=193℃)、PES(ポリエーテルサルホン:Tg=223℃)、PEI(ポリエーテルイミド:Tg=217℃)、PI(ポリイミド:Tg=410〜450)等を挙げることができる。また、上市されている市販材料を使用してもよく、市販品の例として、昭和電工社製のハイブリッド熱硬化樹脂(商品名;ポリエステル、Tg=250℃)、東ソー社製のOPSフィルム(商品名;アラミド、Tg=250℃)、倉敷紡績社製のEXAMID(商品名;ナイロン、Tg=250℃)、新日鉄化学社製のシルプラスHT2010N(商品名;有機・無機共重合体、Tg=300℃)、東レ社製の透明アラミドフィルム(商品名;アラミド、Tg=315℃)、及びその他市販の耐熱透明フィルムが挙げられる。
【0118】
支持体における可視光の全光線透過率としては、60%〜100%の範囲が好ましく、75%〜100%の範囲がより好ましく、85%〜100%の範囲が最も好ましい。全光線透過率が60%以上であることで、視認性により優れる。
なお、全光線透過率は、JIS K 7361−1に準拠して測定される値である。
【0119】
また、前記合成高分子フィルムが透明である場合、任意の色相に着色されていてもよい。合成高分子フィルムを着色する方法としては、樹脂フィルムを成形する前に樹脂に染料を混練してフィルムを成形する方法、着色顔料を分散した塗布液を調製し、支持体上に塗布する方法、染料を適当な溶剤に溶かした塗布液を調製し、これを無色透明な樹脂フィルム上に公知の塗布方法、例えば、カーテンコート法、ダイコート法、グラビアコート法、ローラーコート法、ワイヤーコート法等により塗布する方法が挙げられる。
【0120】
<他の層>
本発明の熱分布表示体は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、前記熱分布表示層のほか、保護層や中間層、耐熱性保護層、アンダーコート層、光反射層、バック層、紫外線吸収層等の他の層を有していてもよい。
【0121】
本発明の熱分布表示体には、熱源と熱分布表示体との間の接着を防止するため、最表層に耐熱性保護層を有していることが好ましい。本発明における耐熱性保護層とは、100℃以上〜220℃以下の温度範囲での変形が少ない層をいう。耐熱性保護層には、例えば、上記の支持体に使用可能な材料を保護層として適用することができる。また、耐熱性保護層は、熱源と接するものであるため、透明であることは必ずしも必要ではないので、不透明材料も使用可能である。耐熱性保護層は、熱分布表示体上に最外層として形成され、場合により一体とすることもできる。耐熱性保護層は、必ずしも一体に設けられている必要はなく、熱分布表示体とは別に、シートとして準備しておき、使用時に熱分布表示体に重ねて使用してもよい。
耐熱性保護層は、支持体と同様にTgが150℃以上の透明樹脂フィルムの他、不透明な耐熱樹脂も使用できる。不透明な耐熱樹脂としては、PEK(ポリエーテルケトン:Tg=157℃)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン:Tg=143℃)、PAI(ポリアミドイミド:Tg=280℃)、変性PPE(ポリフェニレンエーテル:Tg=210℃)、PBO(ポリベンゾオキサゾール:Tg=300℃)、PBI(ポリベンゾイミダゾール:Tg=418℃)を挙げることができる。さらに、熱伝導性の良好な金属箔や炭素材料箔、金属酸化物板、金属窒化物板などの無機材料を使用してもよい。
金属としては、アルミ、銅、ステンレスを用いることができる。中でも、入手性が良く、高温で酸化し難い金属、例えばアルミ箔、ステンレス箔がより好適に用いられる。
炭素材料としては、グラファイトシートなどの市販品が使用可能である。
金属酸化物、金属窒化物などの無機材料としては、アルミナ、シリカ、チタニアなどのセラミック板やガラス板を使用可能である。
【0122】
耐熱性保護層の厚みは、熱分布表示体上に形成して一体とする態様では、1μm〜50μmが好ましく、2μm〜30μmがさらに好ましく、3μm〜20μmが最も好ましい。厚みが50μm以下であると、温度に対する感度が良好であり、また厚みが1μm以上であると、試験後においても耐熱性保護層が熱源に貼り付きにくい。
また、耐熱性保護層は、無機顔料(金属酸化物や金属窒化物の粉末)とバインダーとを含有させて形成することで、光反射機能を有する耐熱性保護層とすることができる。
【0123】
上記のような耐熱性保護層を、熱分布表示体とは別のシート、すなわち耐熱性シートとして単独で使用する場合、シートの厚みは、20μm〜1000μmが好ましく、30μm〜500μmがより好ましく、50μm〜200μmが最も好ましい。厚みが1000μm以下であると、温度に対する感度が良好であり、また厚みが20μm以上であると、取り扱い性により優れる。
【0124】
光反射層は、少なくとも顔料を含有し、好ましくは白色顔料を含有する。光反射層を熱分布表示層上に設けることで、支持体面の上方から観察したとき、発色部がクリアに見え、熱分布の濃度・色相の差が見やすくなる。この光反射層は、下記の顔料等を含有していることで、上記の耐熱性保護層、すなわち光反射機能を有する耐熱性保護層として使用することができる。
【0125】
顔料としては、酸化チタン、カオリン、水酸化アルミニウム、非晶質シリカ、酸化亜鉛等の無機顔料が好適に挙げられる。
また、光反射層は、顔料と共に、バインダーを含有することができ、該バインダーを架橋する架橋成分を更に含有してもよい。前記バインダーとしては、ゼラチンやポリビニルアルコール等の水溶性の高分子化合物が好ましい。この場合、架橋剤をさらに含有し、バインダーを架橋することで、保存安定性をより一層向上させることができる。前記架橋剤としては、公知の架橋剤の中から適宜選択すればよい。例えば、N−メチロール尿素、N−メチロールメラミン、尿素−ホルマリン等の水溶性初期縮合物;グリオキザール、グルタルアルデヒド等のジアルデヒド化合物類;硼酸、硼砂等の無機系架橋剤;ポリアミドエピクロルヒドリン等が挙げられる。
光反射層の厚みについては、特に制限はなく、1.0〜6.0μmが好ましい。
【0126】
〜熱分布表示体の製造方法〜
本発明の熱分布表示体は、例えば、支持体の一方の側に、熱分布表示層形成用の塗布液(以下、「熱分布表示層用塗布液」という。)を塗布して熱分布表示層を形成することにより作製することができる。また、必要に応じて、該熱分布表示層上に中間層用塗布液及び保護層用塗布液を塗布し、該塗布と共にあるいは塗布せずに、該側とは逆側に、既述のように、単一もしくは複数の層からなるバック層を、バック層用塗布液を塗布して形成することができる。更に、必要に応じて、前記一方及び他方において他の層を形成してもよい。
ここで、前記熱分布表示層と中間層及び保護層とは同時に形成されてもよい。この場合、熱分布表示層用塗布液と中間層及び保護層用塗布液とを支持体上に同時に重層塗布することにより形成することができる。
【0127】
上記のようにして作製される本発明の熱分布表示体は、例えば、図3に示すような積層構造に構成されたものでもよい。すなわち、図3に示す熱分布表示体は、例えばPEN等の支持体の熱源と接触される一方面に熱分布表示層(発色層)と耐熱性保護層とを順次有する態様であってもよい。この場合、支持体の他方面が観察面であり、この表面から熱分布の状態を視認することができる。
【0128】
〜熱分布の計測、検査、確認〜
本発明の熱分布表示体を用い、例えば、加熱ローラや熱板等の加熱面上に本発明の熱分布表示体を配置し、該加熱面の熱によって熱分布表示体の熱分布表示層を加熱し発色させることにより、熱分布表示体に連続した色相変化を有する画像を形成することで熱分布が捉えられる。
熱分布表示体は、熱源の加熱面に直に接触するように配置されてもよく、あるいは該加熱面と熱分布表示体との間に例えば耐熱性シート等のシートやフィルムなどの中間体を挟んで配置されてもよい。
【0129】
熱分布の具体的な計測等は、以下のように行なってもよい。すなわち、
例えば、図4に示すように、熱圧着装置のステージ上に、例えばACFや包装エンドシールの代わりに、既述の本発明の熱分布表示体を置き、熱圧着治具の例であるヒータブロックを熱分布表示体の上から押圧し、押圧後に熱分布表示体に連続した色の変化(グラデーション)として現れた熱分布を目視で確認することで、ACF等が置かれる部分の熱分布が所望とする範囲にあるか否かを判定してもよい。このように、本圧着時の押圧開始前にあらかじめ熱分布表示体で熱分布を確認、検査するための検査方法として好適に利用することができる。これにより、熱圧着装置による熱圧着不良が防止され、歩留まりの向上が図られる。
また、図5に示すように、液晶パネル上にFPC(フレキシブルプリント配線板)を熱圧着させる場合にも、既述の本発明の熱分布表示体を用いることで、所望範囲の熱分布で熱圧着が行なわれるか否かを判定してもよい。
更に、図6に示すように、真空熱圧着装置のステージ上に、熱溶融樹脂の代わりに、既述の本発明の熱分布表示体を置き、その上に保護フィルム、加圧シートを重ね、加圧シートの上から熱圧着治具(例えばヒータブロック)で押圧し、押圧後に熱分布表示体に連続した色の変化(グラデーション)として現れた熱分布を目視で確認することで、熱圧着する部分の熱分布が所望とする範囲にあるか否かを判定してもよい。このように、本圧着時の押圧開始前にあらかじめ熱分布表示体で熱分布を計測、確認、検査するための検査方法として好適に利用することができる。これにより、太陽電池セル、合わせガラスなどの真空圧着時の熱分布の均一性検査が可能であり、熱圧着不良による歩留まりの向上が図られる。
【実施例】
【0130】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0131】
なお、本実施例において、平均粒径は、レーザー回折粒度分布測定装置LA700〔(株)堀場製作所製〕にて測定した。
【0132】
−マイクロカプセルの調製−
下記の(1)〜(10)より選択される電子供与性染料前駆体70gと、酢酸エチル150gと、を70℃に加熱して溶解した後、45℃まで冷却した。これに壁材として下記表1に記載の壁材100gを加えて混合し、溶液を得た。この溶液を、5.9質量%のポリビニルアルコール水溶液((株)クラレ製、PVA−217E)400gの水相中に加えた後、ロボミックス(特殊機化工業(株)製)を用いて回転数3000rpmで乳化分散を行ない、乳化液を得た。得られた乳化液に水300g及びテトラエチレンペンタミン10.0gを添加した後、温度60℃で4時間かけてカプセル化反応を行なった。その後、水を加えて濃度を22質量%に調整し、下記表1に示す20種の染料前駆体含有マイクロカプセル液A〜Tを調製した。
なお、上記において、粒子径は、ロボミックスの回転数を3000rpm一定とし、乳化分散する時間を2〜8分の範囲で変更することにより調整した。
【0133】
・シアン色系染料前駆体:
【化6】



【0134】
(5)マゼンタ色系染料前駆体:
3,3’−ビス(1−n−オクチル−2−メチルインドール3−イル)フタリド(日本チバガイギー社製、Pergascript Red I−6B)
(6)イエロー色系染料前駆体:
1−(4−n−ドデシルオキシ−3−メトキシフェニル)−2−(2−キノリル)エチレン(山田化学工業社製、Y721)
(7)レッド色系染料前駆体:
6’−[エチル(4−メチルフェニル)アミノ]−2’−メチル−スピロ[イソベンゾフラン−1(3H),9’−(9H)キサンテン]−3−オン(山田化学工業社製、Red 520)
(8)オレンジ色系染料前駆体:
3’−クロロ−6’−(シクロヘキシルアミノ)−スピロ[イソベンゾフラン−1(3H),9’−(9H)キサンテン]−3−オン(BASFジャパン社製:Pergascript ORANGE I−G)
(9)ブルー色系染料前駆体:
クリスタルバイオレッドラクトン(ヒルトンデイビス社製、Copikem1)
(10)ブラック色系染料前駆体:
2−アニリノ−6−(N−エチル−N−イソブチルアミノ)−3−メチルフルオラン(山田化学工業社製、S−204)
【0135】
−マイクロカプセル液の各カプセル壁のTgの測定−
上記で得られたマイクロカプセル液について、各カプセル壁のガラス転移温度(Tg)をEXSTAR6000(セイコーインスツルメント社製)により測定した。測定結果は、下記表1に示す。
【0136】
【表1】

【0137】
(実施例1〜9)
−光反射層用塗布液の調製−
(1)光反射層用顔料分散液の調製
酸化チタン(石原産業社製、R780−2)50g、濃度25質量%のポリカルボン酸(花王社製、デモールEP)0.6g、及び8.0質量%のポリビニルアルコール水溶液(クラレ社製、PVA−205(鹸化度:88%))70gを混合し、酸化チタンを分散した。さらに、サンドミルを用いて粉砕し、平均粒径0.35μmの光反射層用顔料分散液を調製した。
【0138】
(2)光反射層用塗布液の調製
前記光反射層用顔料分散液30g、5.0質量%のポリビニルアルコール水溶液(旭電化(株)製、EP−130)90g、4.0質量%のホウ酸5g、及び2.0質量%のドデシルベンゼンスルホン酸Na2.0gを混合し、光反射層用塗布液を得た。
【0139】
−熱分布表示層用塗布液の調製−
電子受容性化合物として下記構造のサリチル酸亜鉛塩(化合物1−1)の42.5質量%水懸濁液(三光(株)製、LR−220)25g、下記表2に示す染料前駆体含有マイクロカプセル液(I)20g、下記表2に示す染料前駆体含有マイクロカプセル液(II)20g、5質量%のポリビニルアルコール水溶液(旭電化(株)製、EP−130)50g、グリオキザール0.25g、及び50質量%の蛍光増白剤(日本化薬社製、カヤホール S)0.1gを混合し、熱分布表示層用塗布液を調製した。
【0140】
【化7】



【0141】
−熱分布表示材料の作製−
厚み75μmの透明なポリエチレンナフタレート支持体(帝人社製、テオネックスQ51(Tg=155℃、全光線透過率=86.7%);「PEN支持体」という。)の一方の面に、上記の熱分布表示層用塗布液、光反射層用塗布液を順次、固形分量が4.0g/m、4.0g/mとなるように塗布し、乾燥させることにより、熱分布表示材料を作製した。
【0142】
(実施例10〜11)
実施例1において、熱分布表示層用塗布液を、3種の染料前駆体含有マイクロカプセル液を用いた下記の熱分布表示層用塗布液に代えたこと以外は、実施例1と同様にして、熱分布表示材料を作製した。ここで、熱分布表示層用塗布液、光反射層用塗布液の塗布量は、それぞれ5.5g/m、4.0g/mとした。
〜熱分布表示層用塗布液の調製〜
電子受容性化合物として下記構造のサリチル酸亜鉛塩(化合物1−1)の42.5質量%水懸濁液(三光(株)製、LR−220)25g、下記表2に示す染料前駆体含有マイクロカプセル液(I)15g、下記表2に示す染料前駆体含有マイクロカプセル液(II)15g、下記表2に示す染料前駆体含有マイクロカプセル液(III)15g、5質量%のポリビニルアルコール水溶液(旭電化(株)製、EP−130)50g、グリオキザール0.25g、及び50質量%の蛍光増白剤(日本化薬社製、カヤホール S)0.1gを混合し、熱分布表示層用塗布液を調製した。
【0143】
(比較例1〜3)
実施例1、3、6において、熱分布表示層用塗布液の調製に用いたサリチル酸亜鉛塩(化合物1−1)の42.5質量%水懸濁液(LR−220)25gを、下記の電子受容性化合物分散液35gに代えたこと以外は、実施例1、3、6と同様にして、比較用の熱分布表示材料を作製した。
〜電子受容性化合物分散液の調製〜
4−[[4−(1−メチルエトキシ)フェニル]スルホニル]フェノール(日本曹達社製、D−8)60gと、濃度5質量%の部分鹸化ポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA−205)水溶液140gとを、サンドミルを用いて粉砕しながら攪拌し、平均粒径0.6μmの電子受容性化合物分散液を調製した。
【0144】
(比較例4)
実施例1において、染料前駆体含有マイクロカプセル液(I)として用いた染料前駆体含有マイクロカプセル液Aを、染料前駆体含有マイクロカプセル液Iに代えたこと以外は、実施例1と同様にして、比較用の熱分布表示材料を得た。
【0145】
(比較例5〜7)
実施例1において、熱分布表示層用塗布液を、下記表2に示すように1種の染料前駆体含有マイクロカプセル液のみを用いた下記の熱分布表示層用塗布液に代えたこと以外は、実施例1と同様にして、比較用の熱分布表示材料を作製した。ここで、熱分布表示層用塗布液、光反射層用塗布液の塗布量は、それぞれ3.0g/m、4.0g/mとした。
〜熱分布表示層用塗布液の調製〜
電子受容性化合物として前記構造のサリチル酸亜鉛塩(化合物1−1)の42.5質量%水懸濁液(三光(株)製、LR−220)25g、下記表2に示す染料前駆体含有マイクロカプセル液(I)30g、5質量%のポリビニルアルコール水溶液(旭電化(株)製、EP−130)50g、グリオキザール0.25g、及び50質量%の蛍光増白剤(日本化薬社製、カヤホール S)0.1gを混合し、熱分布表示層用塗布液を調製した。
【0146】
(評価)
以上のようにして得られた熱分布表示体に対し、10連型熱特性試験機(新東科学社製)を用いて、130℃から220℃までの温度範囲において10℃おきに温度を変えて熱源を10秒間接触させた。その後、発色した各濃度をマクベス濃度計(RD−918、グレタグ・マクベス社製)で測定すると共に、それぞれの発色に対して目視で色の違い、濃度の違いが視認できる温度範囲を調べた。結果を下記表2に示す。
【0147】
【表2】

【0148】
前記表2に示すように、実施例では、130℃から220℃にも及ぶ広範な温度範囲において色相の異なる発色が視認できる程度に得られ、従来に比べて、温度範囲の広い熱分布を計測することができた。例えば実施例1においては、図1に示すような発色特性を示す。これにより、図2(A)に現れるような多色での熱分布表示が可能になる。すなわち、実施例1の場合、130〜160℃ではシアン色の濃淡により熱分布が表され、160〜190℃では、シアン色にマゼンタ色が混ざって青色〜紫色の色相変化により熱分布が現れる。さらに、190〜220℃では、4−アザフタリド(例えば実施例1ではシアン色系染料前駆体(1))が熱分解してイエロー色が発現し、さらに紫色〜ピンク色の色相変化により熱分布が現れることが分かる。このように、電子供与性染料前駆体の熱分解による発色で190℃以上の高温度域で色相変化が得られるので、n色の発色に対応するn種の染料前駆体で130℃付近から200℃以上の高温域において(n+1)色の熱分布が現れる。これにより、高温領域を含めた従来よりも広範な温度領域に亘り、熱分布の計測が可能になる。
これに対し、比較例では、計測できる熱分布範囲を広く確保することが困難であった。ここで、比較例5,6で得られた熱分布を図2(B),図2(C)に示す。比較例5の熱分布表示材料は、140〜160℃に高いγ値を有しており、図2(B)に示されるように130〜150℃付近で濃淡がみられるが150〜160℃付近に達するとほぼ黒色を呈し、それ以降は熱変化の有無を表示できなかった。ここで表示可能な温度範囲は130〜160℃であった。また、比較例6の熱分布表示材料は、160〜180℃に高いγ値を有しており、図2(C)に示されるように190℃付近に達するとほぼ黒色を呈し、それ以降は熱変化の有無を表示できなかった。ここで表示可能な温度範囲は140〜190℃であった。
【0149】
(実施例12)
実施例1において、熱分布表示層用塗布液の調製に用いた染料前駆体含有マイクロカプセル液(I)の量を20gから13gとし、染料前駆体含有マイクロカプセル液(II)の量を20gから26gとすることで、シアン色系染料前駆体とマゼンタ系染料前駆体の含有比率(シアン/マゼンタ比[質量比])を1/2に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、熱分布表示材料を作製した。
【0150】
その結果、図2(D)に示すように、発色温度及び発色色相がやや異なるものの、実施例1と同様に、高温域を含む広範な温度範囲(140℃付近から200℃以上の範囲)に亘り熱分布の表示が可能であった。
【0151】
(実施例13)
実施例1において、熱分布表示層用塗布液の調製に用いた染料前駆体含有マイクロカプセル液(I)の量を20gから26gとし、染料前駆体含有マイクロカプセル液(II)の量を20gから13gとすることで、シアン色系染料前駆体とマゼンタ系染料前駆体の含有比率(シアン/マゼンタ比[質量比])を2/1に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、熱分布表示材料を作製した。
【0152】
その結果、図2(E)に示すように、発色温度及び発色色相がやや異なるものの、実施例1と同様に、高温域を含むより広範な温度範囲に亘って熱分布の表示が可能であった。シアン/マゼンタ比が2/1である本実施例では、実施例1に比べ、より明瞭な色相変化が現れ、130℃付近から220℃付近に亘る熱分布がはっきりと表示された。
【産業上の利用可能性】
【0153】
本発明の熱分布表示体は、異方性導電膜(ACF)の貼り合わせや、ヒートシール、フレキシブルプリント配線板(FPC)等の電子部品の貼り合わせなど、熱プレス等による面での加熱が施されるような分野、焼付け塗装の乾燥炉の管理など、などに好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、190℃以上の温度域で分解して色相が変化する電子供与性染料前駆体を含む、発色色調が互いに異なる少なくとも2種の電子供与性染料前駆体と、該電子供与性染料前駆体を発色させる電子受容性化合物と、バインダーとを含有し、地肌部の濃度より濃度が0.2高くなる温度T0.2が下記式(1)を満たす熱分布表示層を有する熱分布表示体。
【数1】


〔式中、T0.2は、地肌部の濃度(Dmin)より濃度が0.2高くなる温度[℃]を表し、Tminは、発色開始温度[℃]を表す。〕
【請求項2】
前記少なくとも2種の電子供与性染料前駆体は、ガラス転移温度が互いに異なる壁材からなるマイクロカプセルに内包されている請求項1に記載の熱分布表示体。
【請求項3】
前記190℃以上の温度域で分解して色相が変化する電子供与性染料前駆体は、下記一般式(a)で表されるインドリルアザフタリド化合物である請求項1又は請求項2に記載の熱分布表示体。
【化1】


〔一般式(a)中、R、R、R、R、及びRは、各々独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アリール基、カルバモイル基、アルコキシ基、又はヘテロ環基を表す。〕
【請求項4】
前記電子受容性化合物が、下記一般式(b)で表される化合物である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の熱分布表示体。
【化2】



〔一般式(b)中、R、R、R、及びRは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、カルボキシ基、カルバモイル基、ヒドロキシ基、アルキルスルホニル基、アルキル基、又はアリール基を表し、R〜Rのうち隣接する2つは互いに結合して環構造を形式してもよい。Mは、n価の金属原子を表し、nは1〜3の整数を表す。〕
【請求項5】
前記マイクロカプセルは、ウレタン結合及びウレア結合の少なくとも一方を有する高分子の壁を有する請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の熱分布表示体。
【請求項6】
前記少なくとも2種の電子供与性染料前駆体として、シアン発色であって前記一般式(a)で表されるインドリルアザフタリド化合物とマゼンタ発色の電子供与性染料前駆体とを含む請求項3〜請求項5のいずれか1項に記載の熱分布表示体。
【請求項7】
前記シアン発色のインドリルアザフタリド化合物及び前記マゼンタ発色の電子供与性染料前駆体は、ガラス転移温度が220℃未満の範囲で互いに異なる壁材からなるマイクロカプセルにそれぞれ内包されている請求項6に記載の熱分布表示体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−57662(P2013−57662A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−181057(P2012−181057)
【出願日】平成24年8月17日(2012.8.17)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】