説明

熱分解酸化物粉末、その製造及び電気化学的なセルのためのセパレーターにおけるその使用

(i)元素の周期表の3A、4A、3B又は4B族の元素の原子、及び(ii)酸素原子を含有する粒子からなる熱分解酸化物粉末において、前記粒子はリチウム原子が酸素架橋を介して前記原子に結合していることを特徴とする熱分解酸化物粉末。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱分解酸化物粉末、その製造方法、電気化学的なセルのためのセパレーターを製造するための前記熱分解酸化物粉末の使用、電気化学的なセルを製造するための前記セパレーターの使用、及び前記セパレーターを含有する電気化学的なセルにも関する。
【0002】
本発明において電気化学的なセル又はバッテリーとは、全ての種類の電池及び蓄電池(二次電池)、特に、高エネルギー又は高出力系の形の、アルカリ金属、例えばリチウム、リチウムイオン、リチウムポリマー及びアルカリ土類金属の電池及び蓄電池を示す。
【0003】
電気化学的なセルはイオン伝導性を維持する一方で、セパレーターによって互いが隔てられている逆の極性の電極を含有する。
【0004】
セパレーターは従来、高いイオン透過性、良好な機械的強度、及び系において、例えば電気化学的なセルの電解質において使用される化学薬品及び溶媒に対する長期間の安定性を有する薄い多孔性の電気的絶縁材料である。電気化学的なセルにおいて、セパレーターは完全に電子的にアノードからカソードを絶縁することが望ましい。更に、セパレーターは持続的に弾性があり、及び系における、例えば電極パックにおける、充電及び放電の間の動きに従うことが望ましい。
【0005】
セパレーターは、これが使用される系の使用寿命、例えば電気化学的なセルの使用寿命の重大な決定的要素である。再充電可能な電気化学的なセル又はバッテリーの開発は従って適したセパレーター材料の開発によって影響される。電気的なセパレーター及びバッテリーに関する一般的な情報は例えばJ.O.Besenhardの「Handbook of Battery Materials」(VCH−Verlag、Weinheim 1999)において見出される。
【0006】
非常に大量の電気エネルギーが使用可能であることが決定的に必要である様々な適用において、高エネルギーバッテリーが使用される。これは例えば車両用バッテリー、またしかし、補助電源システムの場合である。エネルギー密度はしばしばこの分野において単位質量当たり「Wh/kg」、又は単位体積当たり「Wh/L」で示される。現在では高エネルギーバッテリーは350〜400Wh/L及び150〜200Wh/kgのエネルギー密度に達する。このようなバッテリーが供給することが期待される出力レベルはそこまで高くなく、従って内部抵抗に関しては妥協してもよい。言い換えれば、電解質で満たされたセパレーターの伝導率は、例えば高出力バッテリーの場合と同じ位高い必要はなく、従って例えば他のセパレーターの設計の使用も可能である。
【0007】
高エネルギー系は例えば、伝導率が0.1〜2mS/cmと比較的低いポリマー電解質さえも使用することが可能である。このようなポリマー電解質セルは高出力バッテリーとして使用されることはできない。
【0008】
高出力バッテリー系における使用のためのセパレーター材料は以下の特性を有することが好ましい:
前記セパレーター材料は相対的に小さい所要スペースを保証し、かつ内部抵抗を最小限に抑えるために非常に薄くなくてはならない。これらの低い内部抵抗を保証するために、セパレーターが高い多孔性を有することも重要である。更にこれらは小さい比重が達成されるために軽くなくてはならない。加えて、湿潤性は高いことが望ましい。というのは、さもないと濡れておらず、利用できない区域が形成されるからである。
【0009】
最近使用されるセパレーターは主に多孔性の有機ポリマーフィルム、又は無機不織布からなり、例えばガラス又はセラミック材料、又はセラミックペーパーからなる不織布である。これらは様々な会社によって製造される。主な製造者はここでは:Celgard、Tonen、Ube、Asahi、Binzer、Mitsubishi、Daramic及びその他である。
【0010】
多孔性複合材料からなる有利なセパレーターもある。前記多孔性複合材料は、多数の孔部を有し、かつ特に基板上及び内にセラミックの無機コーティングを有する電気的非伝導性材料からなるシート状のフレキシブルな基板を有する。
【0011】
充電式リチウムバッテリーのためにセパレーターにおいてフィラーとして無機化合物が使用されることは公知である(B.Kumar、L.G.Scanlon:「Composite Electrolytes for Lithium Rechargeable Batteries」、Journal of Electroceramics 5:2、127−139、2000)。これらの無機化合物はこれらのセパレーターにおいて様々な機能を果たす。これらはポリマー電解質のガラス転移温度に影響を及ぼし、伝導性の塩の解離を促進し、リチウムイオンの輸率を向上させ、及びリチオ化されたグラファイト電極(SEI)上の保護層の安定性を向上させる。これらの目的のための最適材料はリチウム塩又はガラス状リチウム化合物、例えばLi3N又はLi1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3である。しかしこれらは大きな粒子の形状でしか得られない。確かに、これらは0.2〜0.5μmの小さい平均サイズを有する粒子に粉砕されることが可能であり、ポリマーと共に有利な、非常に薄いセパレーターに加工することが可能である。しかし、これらの小さな平均サイズを有する粒子と同様に、粉砕は20〜50μmの大きな平均サイズを有する粒子をも製造する。これらの大きな平均サイズを有する粒子はポリマーと共に、有利な非常に薄いセパレーターに加工されることは不可能である。これらは従って粉砕の後、小さい平均一次粒子サイズを有する粒子から分離されなくてはならない。この分離は様々な分級方法、例えば湿式分級又はエアセパレーションによって可能であるが、非常に不便で費用がかかる。これは、比較的容易く及び、すぐに大きな平均一次粒子サイズを有する粒子によってふるいが詰まってしまうので、従って実施可能な及び経済的な分離が可能でないからである。大きな平均一次粒子サイズを有する粒子の分離に関連したこれらの不利な点と同様に、しかし、小さな平均一次粒子サイズを有する上記のリチウム化合物はまだ更なる不利な点を有する。前記リチウム化合物はおよそ2〜5m2/gの小さい比表面積しか有しない。しかしセパレーターの特性は無機フィラーの表面積サイズによって影響されるので、これらのリチウム化合物は、特に高出力系のための非常に薄いセパレーターに対して利点を与えることにおいて、限定的にしか役立ない。
【0012】
他方で、上述のリチウム化合物よりも粒子が更により小さい一次粒子サイズを有する熱分解酸化物粉末がセパレーターにおいて使用される。例としては、熱分解シリカであり、前記熱分解シリカは例えばDegussaからAerosil(R)として、又はCabotからCab−o−silとして入手可能である。加えて、金属酸化物及び遷移金属酸化物の、他の熱分解酸化物粉末もある。これらの熱分解酸化物粉末の平均一次粒子サイズは、数ナノメーター(およそ7〜40nm)だけである一方で、これらの比表面積は50〜500m2/gと非常に大きい。一次粒子サイズ及び比表面積に関して、これらの熱分解酸化物粉末は事実上、高出力系のための高い伝導率を有する非常に薄いポリマー電解質における使用のために理想的である。これは、前記熱分解酸化物粉末が容易にポリマー中に細かく分散され、及び有利な薄いセパレーターに加工されることが可能であるからである。しかしこれらの熱分解酸化物粉末は表面上に負電荷を有しておらず、かつこれらは電荷の移動に寄与するリチウムイオンを全く含有していない。加えて、従来の熱分解酸化物粉末、例えばAerosilの使用はしばしば電気化学的なセルのためのセパレーターにおけるどのような使用に関しても問題を呈する。これらの問題は従来の熱分解酸化物粉末の、比較的高い含水量及び/又は塩化物含有量のせいである。従来の熱分解酸化物粉末は大きな比表面積を有し、従ってその細孔中に、細孔の凝結のために、結合していない形で存在する水を粉末中に含有している可能性がある。この水は乾燥によって、例えば、上昇した温度において除去することが可能である。しかし、加えて、従来の熱分解酸化物粉末は部分的に加水分解された酸化物、例えば二酸化ケイ素の形状でも水を含有しており、これは酸化物の三次元構造の表面上に存在する。このような湿った酸化物粉末が電気化学的なセルのためのセパレーターの製造のために使用される場合は、しかし、乾燥工程においては細孔中の水しか除去できない。対照的に、部分的に加水分解された酸化物の形状で存在する水はこの方法において除去することは可能でない。これは、電気化学的なセルのためのセパレーターにおける酸化物粉末の使用に関する問題を生じる。というのはこの水は、バッテリーを損傷する発熱性の反応においてバッテリーの構成要素、例えばリチオ化された電極又は伝導性の塩と反応するからである。セルは全体として、結果的に非常に熱くなり、これは更に多量のエネルギーが最初の充電サイクルにおいて使用されることを意味する。これは更に、明らかに劣った長期の安定性を生じる。また、特にホットスポットの形で非常に激しい過熱が生じる。結果として、セルは製造工程のうちに非常に激しく損傷され、最初から役に立たない可能性がある。この理由から電気化学的なセルのためのセパレーターにおける従来の熱分解酸化物粉末の使用は限定されている。従って本発明の目的は、製造することが単純で、特にポリマー電解質と共に単純に及び容易に電気化学的なセルのためのセパレーターに加工することが可能で、及び電気化学的なセルのためのセパレーターの特性、特にカチオンのためのセパレーターの輸率をこのようなセパレーターを使用する電気化学的なセルにおいて向上させる新規の材料を提供することである。
【0013】
前記の目的は、
(i)元素の周期表の3A、4A、3B又は4B族の元素の原子、及び
(ii)酸素原子
を含有する粒子からなる熱分解酸化物粉末において、前記粒子はリチウム原子が酸素架橋を介して前記原子に結合していることを特徴とする熱分解酸化物粉末によって達成される。
【0014】
熱分解酸化物粉末とは、特に高温加水分解、例えば火炎加水分解によって製造することが可能な、元素の周期表の3A、4A、3B又は4B族の元素の、細かく分割された、非常によく分散する酸化物を意味する。
【0015】
酸素架橋を介して結合したリチウム原子が存在する構造の証明はラマン分光法を介して可能である。
【0016】
特に、熱分解酸化物粉末はケイ素、アルミニウム又は/及びジルコニウムの元素の酸化物又は混合酸化物を含有する。とりわけ有利には、本発明の熱分解酸化物粉末は細かく分割された酸化ケイ素である。
【0017】
本発明の酸化物粉末において、リチウムは少なくとも粒子の表面上に存在してよい。しかし、リチウムが粒子の内部に同様に存在することも可能である。熱分解酸化物粉末は20〜500m2/g、及び特に50〜380m2/gの比表面積を有してもよい。比表面積はBET法によって決定されてよい(DIN66131)。
【0018】
本発明の酸化物粉末で達成されることが可能な高い比表面積は、表面伝導率及び従ってセパレーターにおける重要な特性、イオン伝導性を高めるのに有利である。加えて、本発明の熱分解酸化物粉末の使用はセパレーターにおいて使用される、例えばポリマー電解質における伝導性の塩の解離を高める。更に本発明の熱分解酸化物粉末が電気化学的なセルのためのセパレーターにおいて使用される場合には、従来の熱分解酸化物粉末の場合にその高い含水量のせいである問題は、明らかによりまれにしか起こらなくなる。
【0019】
本発明の熱分解酸化物粉末の含水量の減少は、以下のように合理的に説明される。部分的に加水分解された酸化物、例えば二酸化ケイ素の形状において結合水を含有する酸化物粉体の構造における変化は、−M−O−H−構造を有する基を−M−O−Li−構造を有する基へと変換することになる(Mはセラミック材料を形成する元素である)。Mは有利には元素の周期表の3A、4A、3B又は4B族の元素であり、一般にはケイ素、アルミニウム及びジルコニウムの元素のうちの一つである。即ち、構造は酸素架橋を介して元素Mのうちの一種類の原子に結合したリチウム原子を含有するように製造される。不利な状況の結果として水がこの構造に達したとしても、これは大きな問題とならない。確かに、−M−O−Li−構造のわずかな加水分解は−M−O−H−構造の基の再形成を再び生じる可能性がある。しかし、この再形成された−M−O−H−構造はいまや隔離されている。この近辺にはセパレーターとしての適用において、電気化学的なセルの構成要素を損傷する自由水を放出するために結合することが可能な、更なる−M−O−H−基はもはや存在しない。
【0020】
本発明の有利な実施態様においては、熱分解酸化物粉末はほぼLi2Oを含有しない。これは、セパレーターにおいて使用される場合に水を引きつけないという有利な点を有する。Li2Oは吸湿性である。
【0021】
本発明の熱分解酸化物粉末は、以下の工程を有する次の方法により製造されることが可能である:
(a)
(a−1)リチウム化合物、
(a−2)熱分解酸化物、又は加水分解する及び/又は酸化する気体の存在下で熱分解によって熱分解酸化物を生成する蒸発可能な化合物、及び
(a−3)場合により溶液又は分散溶媒
を含有する混合物を供給し、
及び
(b)前記混合物を50℃より低くない温度において反応させる。
【0022】
リチウム化合物は有利には硝酸リチウム、塩化リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウム、ギ酸リチウム、アジ化リチウム、水素化金属リチウム、例えば特に有利なLiAlH4、リチウムアルコキシド又は有機リチウム化合物から選択される。
【0023】
本発明の実施態様の一つにおいては、混合物は熱分解酸化物、有利にはケイ素、アルミニウム、又はジルコニウムの元素の熱分解酸化物、及び溶液又は分散溶媒を含有する。熱分解酸化物は有利にはこの中でリチウム化合物の溶液と混合される。熱分解酸化物の一次粒子サイズは有利には5〜100nm、特に5〜50nm、及びとりわけ有利には7〜40nmである。リチウム化合物と熱分解酸化物との反応は50〜450℃、有利には100〜350℃の温度において実施される。
【0024】
使用される熱分解酸化物は従来の熱分解酸化物、例えば市販のAerosilであってよい。
【0025】
例えば電気化学的なセルのためのセパレーターへの更なる加工のためには、反応において得られた生成物が十分に細かく分割されていない場合には、上昇した温度における反応には必要ならば更なる方法の工程として粉砕操作が引き続いてもよい。しかし、平均の粒子サイズが非常に均質な分布を有する非常に細かく分割された粉体を得るためには、粉砕は単純で容易な方法である。というのは、出発材料として使用される熱分解酸化物は工程(b)における反応の後で、非常に細かく分割された粉体に容易に粉砕し戻すことが可能であるからである。
【0026】
混合物の反応は有利には、噴霧乾燥によって、例えば噴霧乾燥器において実施されてもよい。この場合には、特に細かく分割された粉体は直接的に反応によって得られるので、粉砕操作の形をとった更なる工程の必要はない。しかし、粉砕操作がそれでもなお特定の適用のために必要である場合には、粉砕操作が更なる方法の工程として引き続き実施されてもよい。
【0027】
方法は有利には流動層反応器及び/又は移動層反応器の使用を含んでよい。
【0028】
本発明の特に有利な実施態様においては、遊離OH基の数が前記熱分解酸化物において決定され、及び前記遊離OH基の数に対して0.5〜1.5倍、及び有利には0.7〜1.0倍の前記リチウム化合物の理論量が使用される。大量のLi2Oの形成はこのようにして回避される。これは支持体のOH基の数に対して1.5倍以上のモル量の余剰なリチウム化合物は大量のLi2Oの形成を生じる可能性があるからである。しかし、Li2Oの吸湿性のために大量のLi2Oは避けることが好ましく、さもなければ粉体の含水量は不利な水準にまで上昇する可能性がある。従ってOH基に対して、等モル量のリチウム化合物、又は不足したリチウム化合物を使用することが特に有利である。しかし不足は有利にはOH基の量に対してリチウム化合物の理論量の0.5倍より少なくはなく、より有利には0.7倍より少なくはない。本実施態様において得られる本発明の熱分解酸化物粉末は特に電気化学的なセルのためのセパレーターの製造のために有利である。これは、電気化学的なセルのためのセパレーターにおける水は、アルカリ又はアルカリ土類金属イオンを利用するセルの場合には問題となるからである。セルは全体として結果的に非常に熱くなり、これは更に多量のエネルギーが最初の充電サイクルにおいて消費されることを意味する。これは、明らかに劣った長期の安定性を生じる。また、特にホットスポットの形で非常に激しい過熱が生じる。結果として、電池は製造工程のうちに非常に激しく損傷され、最初から役に立たない可能性がある。
【0029】
OH基は次の方法により決定される:
減圧下で120℃で乾燥された(これは水のみを除去し、OH基は除去しない)試料を初期装入物として滴下漏斗及び気体のための側方出口を備える2つ口フラスコ中に装入する。この試料に対して次に徐々にテトラヒドロフラン中の水素化アルミニウムリチウム1mol/Lの溶液を滴加した。OH基と水素化アルミニウムリチウムとの反応は水素を生じる(試料中のOH基1mol当たり脱離する水素が1molである化学量論において)。生成した水素を容量分析によって測定する。生成した水素の量はこのようにOH基の数へと変換されることが可能である。
【0030】
本発明の更なる実施態様においては、本発明の方法において使用される混合物は加水分解する及び/又は酸化する気体の存在下で熱分解によって熱分解酸化物を生成する蒸発可能な化合物を含有する。反応は有利には高温加水分解として、例えば火炎又はプラズマ加水分解の形で行われる。方法の操作は高温加水分解の通常の方法によって、及び通常の火炎及び/又はプラズマ加水分解装置において実施されてもよい。高温加水分解は特に200℃より高い、有利には800℃より高い、とりわけ有利には1000℃より高い温度において実施されてよい。燃焼気体の温度は有利には水の露点よりも高く維持される。
【0031】
蒸発可能な化合物は有利にはハロゲン化物、水素化物、アルコキシド又は有機金属化合物を含有する。ハロゲン化物は有利には塩化物、特に、ケイ素、アルミニウム又はジルコニウムの元素の塩化物、例えばAlCl3、SiCl4である。有利にはケイ素の塩化物である。更に一般式RnSiCl4−n(Rはアルキル基及び有利にはC1−4アルキル基及びnは0〜4の整数)のアルキルクロロシランを蒸発可能な化合物として使用することも可能である。アルコキシド、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)も蒸発可能な化合物としての使用のために有利である。特に有利な有機金属化合物はアセチルアセトナトジルコニウムである。
【0032】
本方法において反応される混合物は予め、又は混合物が反応される反応器中において混合されてもよい。水素含有気体及び/又は酸素含有気体は有利な実施態様において存在する。
【0033】
反応器は高温反応が実施される管状の反応器であってよい。
【0034】
本発明に従って、本発明の熱分解酸化物粉末は電気化学的なセルのためのセパレーターを製造するために使用される。この熱分解酸化物粉末を用いて製造されるセパレーターは高められた電気伝導率及びカチオン、特にリチウムイオンの向上した輸率を有する。更にこのようなセパレーターを利用する電気化学的なセルはより高い負荷において動作されてもよい。
【0035】
本発明は従ってまた、本発明の熱分解酸化物粉末を含有する電気化学的なセルのためのセパレーターを提供する。本発明のセパレーターは動作中にセパレーターをリチウムイオンが通り抜ける電気化学的なセルのために特に有利である。
【0036】
本発明のセパレーターは有利にはポリマー電解質、例えばポリエチレンオキシド、又はポリマーアクリル樹脂を含有する。
【0037】
セパレーターにおいてポリマーとしてポリエチレンオキシド(PEO)が使用される場合には、酸素対リチウムの比(O:Li)は6:1〜10:1の範囲内及び、有利な実施態様においては8:1であってよい。リチウムはリチウムを含有する伝導性の塩の形で加えられる。更にリチウムは本発明の熱分解酸化物粉末の形において未知の化学量論において添加されてもよく、従ってO:Li比は有利な比である8:1から逸脱する可能性がある。というのは解離したリチウムイオンの数は正確には分からないからである。
本発明のセパレーターは有利な実施態様において熱分解金属酸化物粉末を、50質量%まで、ことに30質量%までの割合において、及び特に有利には20質量%までの割合において含有してもよい。
【0038】
しかし、セパレーターは、ポリマー電解質の代わりにセラミックから及び非電気伝導性材料の基板から形成された多孔性複合材料を含有していてもよく、この場合、基板は有利にはフレキシブルである。このような基板は不織布、繊維又はフィラメントを含有してもよい。特に、このような基板は有利にはポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)及び/又はポリオレフィン、例えばポリエチレン(PE)又はポリプロピレンの繊維から選択されるポリマー繊維、ガラス繊維又はセラミック繊維を含有してもよい。
【0039】
本発明は電気化学的なセル、特に、それぞれが有利には高エネルギー及び/又は高出力適用のためである、リチウムバッテリー、リチウムイオンバッテリー又はリチウムポリマーバッテリーの製造のための本発明の熱分解酸化物粉末を含有するセパレーターの使用をも提供する。
【0040】
本発明は更に、熱分解酸化物粉末を含有する上述の本発明によるセパレーターの一つを有する、電気化学的なセル、特にリチウムバッテリー、リチウムイオンバッテリー又はリチウムポリマーバッテリーを提供する。
【0041】
本発明は次に実施例、試験例、及び比較例と関連して述べられる。
【0042】
実施例及び試験例
実施例1:
水500ml中にAerosil(R)200 100gを分散する。炭酸リチウム(Lancaster)3gを添加する。マグネチックスターラーを用いた1時間の均質化及びUltraturraxでの引き続く5分間の処理の後、材料をロータリーエバポレーター中で乾燥するまで蒸発させる。炉中で350℃において5時間におよぶ引き続く処理は、リチウム化合物の完全な反応を保証する。更なる加工のために、例えば電気化学的なセルのためのセパレーターのための細かい粒子の形状のフィラーとして、この部分的に凝集した材料は更に粉砕されなくてはならない。
実施例2:
無水エタノール500ml中にAerosil(R)Ox50 100gを分散する。リチウムエトキシド(Lancaster)0.8gを添加する。1時間の均質化の後、材料をロータリーエバポレーター中で乾燥するまで蒸発させる。炉中で350℃において5時間におよぶ引き続く処理はリチウム化合物の完全な反応を保証する。更なる加工のために、例えば電気化学的なセルのためのセパレーターのための細かい粒子の形状のフィラーとして、この部分的に凝集した材料は更に粉砕されなくてはならない。
実施例3:
無水エタノール500ml中にAerosil(R)150 100gを分散する。酢酸リチウム(Lancaster)2.3gを添加する。1時間の均質化の後、材料をロータリーエバポレーター中で乾燥するまで蒸発させる。炉中で350℃において5時間におよぶ引き続く処理はリチウム化合物の完全な反応を保証する。更なる加工のために、例えば電気化学的なセルのためのセパレーターのための細かい粒子の形状のフィラーとして、この部分的に凝集した材料は更に粉砕されなくてはならない。
【0043】
実施例4:
無水テトラヒドロフラン(Aldrich)500ml中にAerosil(R)200 50gを分散する。水素化アルミニウムリチウム(Lancaster)1.0gを添加する。1時間の均質化の後、材料をロータリーエバポレーター中で乾燥するまで蒸発させる。炉中で350℃において5時間におよぶ引き続く処理はリチウム化合物の完全な反応を保証する。更なる加工のために、例えば電気化学的なセルのためのセパレーターのための細かい粒子の形状のフィラーとして、この部分的に凝集した材料は更に粉砕されなくてはならない。
【0044】
実施例5:
無水エタノール500ml中にDegussaの酸化アルミニウム C(aluminium oxide C)100gを分散する。リチウムエトキシド(Lancaster)0.6gを添加する。1時間の均質化の後、材料をロータリーエバポレーター中で乾燥するまで蒸発させる。炉中で350℃において5時間におよぶ引き続く処理はリチウム化合物の完全な反応を保証する。更なる加工のために、例えば電気化学的なセルのためのセパレーターのための細かい粒子の形状にあるフィラーとして、この部分的に凝集した材料は更に粉砕されなくてはならない。
【0045】
実施例6:
無水エタノール500ml中に酸化ジルコニウム(DegussaのVP25) 100gを分散する。リチウムエトキシド(Lancaster)0.5gを添加する。1時間の均質化の後、材料をロータリーエバポレーター中で乾燥するまで蒸発させる。炉中で350℃において5時間におよぶ引き続く処理はリチウム化合物の完全な反応を保証する。更なる加工のために、例えば電気化学的なセルのためのセパレーターのための細かい粒子の形状のフィラーとして、この部分的に凝集した材料は更に粉砕されなくてはならない。
【0046】
実施例7:
水500ml中のAerosil(R) 200 100g及び炭酸リチウム(Lancaster)3gの混合物を完全に均質化し、実験室用の噴霧乾燥機において350℃までで乾燥する。噴霧エア対酸化物混合物の比は350℃での熱風1m3〜1.5m3対分散液100gである。処理した酸化物をサイクロンの下流のガスフィルターにおいて収集する。細かく分割された酸化物粉末は、実施例1〜6において述べられた酸化物とは異なり、使用前に粉砕される必要はない。
【0047】
実施例8:
テトラエチルオルトシリケート(TEOS)(Dynasilane A)10mol及びリチウムエトキシド(Lancaster)1.5molの混合物をH2/O2バーナーの、バーナーの火炎へと計量供給する。7〜50nmの一次粒子サイズ及び20〜300m2/gの比表面積を有する、リチウムを含有する二酸化ケイ素粒子が1000℃以上の火炎中で生成される。粒子をサイクロン及びガスフィルターの組み合わせを使用して収集した。このようにして得られた細かく分割された酸化物粉末は更なる処理なしに使用することが可能である。
【0048】
試験例
実施例1〜8において製造された熱分解酸化物粉末を、必要ならば粉砕の後、過塩素酸リチウムの伝導性の塩を有するポリエチレンオキシド電解質へ20質量%の割合において混合し、電解質におけるO:Li比は8:1である。この混合物をLiCoO2の正極材料とグラファイトとの負極材料からなるリチウムセルへ熱分解酸化物粉末フィラーを有するポリマー電解質として組み込む。このセルの充電及び放電挙動は500サイクルの後に非常に少ない容量の減少を示す。充電電圧を4.1から4.2へ増加させてもバッテリーを損傷しない。セルの負荷容量は0.5Cでの放電において総容量における減少が読みとられる。リチウムの輸率をまたそれぞれの電解質に対して測定する。様々な熱分解酸化物粉末で得られた試験結果は表1に示される。比較例1及び2はフィラーなしのポリマー電解質(比較例1)、及びリチウムを含有しないフィラーとしてAerosil(R) 200を20質量%含有するポリマー電解質(比較例2)である。
【0049】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)元素の周期表の3A、4A、3B又は4B族の元素の原子、及び
(ii)酸素原子
を含有する粒子からなる熱分解酸化物粉末において、前記粒子はリチウム原子が酸素架橋を介して前記原子に結合していることを特徴とする熱分解酸化物粉末。
【請求項2】
ケイ素、アルミニウム又は/及びジルコニウムの元素の酸化物又は混合酸化物を含有する、請求項1記載の熱分解酸化物粉末。
【請求項3】
リチウムは少なくとも前記粒子の表面上に存在する、請求項1又は2記載の熱分解酸化物粉末。
【請求項4】
リチウムは前記粒子の内部に同様に存在する、請求項1から3までのいずれか1項記載の熱分解酸化物粉末。
【請求項5】
20〜500m2/gの比表面積を有する、請求項1から4までのいずれか1項記載の熱分解酸化物粉末。
【請求項6】
ほぼLi2Oを含有しない、請求項1から5までのいずれか1項記載の熱分解酸化物粉末。
【請求項7】
(a)
(a−1)リチウム化合物、
(a−2)熱分解酸化物、又は加水分解する及び/又は酸化する気体の存在下で熱分解によって熱分解酸化物を生成する蒸発可能な化合物、及び
(a−3)場合により溶液又は分散溶媒
を含有する混合物を供給し、
及び
(b)前記混合物を50℃より低くない温度において反応させる
工程を有する、請求項1から6までのいずれか1項記載の熱分解酸化物粉末の製造方法。
【請求項8】
前記リチウム化合物が、硝酸リチウム、塩化リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウム、ギ酸リチウム、アジ化リチウム、水素化金属リチウム、リチウムアルコキシド又は有機リチウム化合物から選択される、請求項7項記載の熱分解酸化物粉末の製造方法。
【請求項9】
前記混合物は熱分解酸化物、有利にはケイ素、アルミニウム、又はジルコニウムの元素の熱分解酸化物、及び溶液又は分散溶媒を含有する、請求項7又は8記載の熱分解酸化物粉末の製造方法。
【請求項10】
前記熱分解酸化物は前記リチウム化合物の溶液と混合される、請求項9記載の熱分解酸化物粉末の製造方法。
【請求項11】
前記熱分解酸化物は5〜100nm、特に5〜50nm、とりわけ有利には7〜40nmの一次粒子サイズを有する、請求項9又は10記載の熱分解酸化物粉末の製造方法。
【請求項12】
前記の反応は50〜450℃、有利には100〜350℃の温度で行われる、請求項7から11までのいずれか1項記載の熱分解酸化物粉末の製造方法。
【請求項13】
遊離OH基の数が前記熱分解酸化物において決定され、及び前記遊離OH基の数に対して0.5〜1.5倍、及び有利には0.7〜1.0倍の前記リチウム化合物の理論量が使用される、請求項7から12までのいずれか1項記載の熱分解酸化物粉末の製造方法。
【請求項14】
前記の蒸発可能な化合物はハロゲン化物、水素化物、アルコキシド又は有機金属化合物を含有する、請求項7又は8記載の熱分解酸化物粉末の製造方法。
【請求項15】
前記反応は高温加水分解として行われる、請求項14記載の熱分解酸化物粉末の製造方法。
【請求項16】
前記高温加水分解は、200℃より高い、有利には800℃より高い、とりわけ有利には1000℃より高い温度で行われる、請求項14記載の熱分解酸化物粉末の製造方法。
【請求項17】
水素含有気体及び/又は酸素含有気体が存在する、請求項14から16までのいずれか1項記載の熱分解酸化物粉末の製造方法。
【請求項18】
請求項7から17までのいずれか1項記載の方法によって得ることが可能な熱分解酸化物粉末。
【請求項19】
電気化学的なセルのためのセパレーターを製造するための請求項1から6までのいずれか1項又は請求項18記載の熱分解酸化物粉末の使用。
【請求項20】
電気化学的なセルのためのセパレーター、特に動作中に前記セパレーターをリチウムイオンが通り抜ける電気化学的なセルのためのセパレーターにおいて、前記セパレーターが請求項1から6までのいずれか1項又は請求項18記載の熱分解酸化物粉末を含有することを特徴とする、電気化学的なセルのためのセパレーター。
【請求項21】
ポリマー電解質を含有する、請求項20記載のセパレーター。
【請求項22】
電気化学的なセル、特に、それぞれが有利には高エネルギー及び/又は高出力適用のためである、リチウムバッテリー、リチウムイオンバッテリー又はリチウムポリマーバッテリーの製造のための請求項20又は21記載のセパレーターの使用。
【請求項23】
電気化学的なセルが請求項20又は21に記載されたセパレーターを有する、電気化学的なセル、特にリチウムバッテリー、リチウムイオンバッテリー又はリチウムポリマーバッテリー。

【公表番号】特表2006−507205(P2006−507205A)
【公表日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−554317(P2004−554317)
【出願日】平成15年11月5日(2003.11.5)
【国際出願番号】PCT/EP2003/012309
【国際公開番号】WO2004/048269
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【出願人】(501073862)デグサ アクチエンゲゼルシャフト (837)
【Fターム(参考)】