説明

熱動式過電流継電器の電調方法

【課題】電調による調整バラツキを抑制して調整精度および生産性を向上させることができる熱動式過電流継電器の電調方法を得ること。
【解決手段】最小目盛、中央目盛、および最大目盛の各目盛におけるUTCを通電して、主回路バイメタルおよび温度補償バイメタルが温度飽和した際の各バイメタルの変位量差である各目標変位量差をあらかじめ求めておき、通電開始から短時間で主回路バイメタルに過大な熱を加え、その後、主回路バイメタルに加える熱を低下させて各バイメタルの変位量差が各目盛における各目標変位量差付近となる安定した時間範囲内で強制トリップさせることにより、各目盛位置の電調を実施するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱動式過電流継電器の電調方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱動式過電流継電器は、ヒータ部に接続された主回路の電流値が一定の動作電流値以上になると、ヒータ部が発熱して熱膨張率が異なる2枚の金属板を貼り合わせたバイメタルが変形することにより、継電器内部に設けられている接点が開閉し、電磁接触器のコイル励磁を解く等の動作が働いて、モータ焼損等の事故を未然に防ぐ保護機器である。設定される電流値の範囲は、内蔵されたバイメタルやヒータおよび反転機構部の特性によって決定される。
【0003】
このような熱動式過電流継電器をモータ等の機器の保護に使用する場合、熱動式過電流継電器を使用する使用者は、何種類もの異なる使用可能電流範囲を持つ熱動式過電流継電器が複数ある中から、モータ等の保護対象に対してどの熱動式過電流継電器を使用するか選定する。
【0004】
そのため、熱動式過電流継電器を選定しやすいように、代表的な電流値ごとに熱動式過電流継電器の種類を分け、使用可能な電流値の範囲を代表的電流値ごとに決定しカタログ等に記載している。この代表的電流値をヒータ呼びという。そして、このヒータ呼びを概略の中央値として最小値から最大値までの使用可能電流値(これを「整定電流の調整範囲」という)およびそれらの目盛が熱動式過電流継電器に表示されている。例えば、ヒータ呼び3.6Aの熱動式過電流継電器の整定電流の調整範囲は、最小値が2.8A、中央値が3.6A、最大値が4.4Aであり、動作電流値を調整するツマミには、最小目盛に2.8A、中央目盛に3.6A、最大目盛に4.4Aの電流値が表示される。
【0005】
上記のような熱動式過電流継電器の動作特性は、IEC60947−4−1(JIS C8201−4−1)等の規格で規定されている。この規定の一節に、整定電流の105%の電流を2時間通じても動作しないが、この状態(整定電流の105%の電流を通電した状態)で温度一定となった後、引き続き通電電流を整定電流の120%にした場合には、2時間以内に熱動式過電流継電器が動作しなければならないという規定がある。
【0006】
一方、熱動式過電流継電器の動作時間および動作電流値は、バイメタルの板厚、幅、長さ、湾曲定数、体積抵抗率、および先端部の初期位置や、ヒータの線径、長さ、および体積抵抗率、あるいはそれぞれの部品の寸法精度のばらつき等によって、特性ばらつきが生じる。このため、調整を行わずして上記規格で規定された特性を満足することは難しく、製品個別に特性調整工程が必要であり、これを電調と呼ぶ。この電調の具体的な調整工程の一つとして、最小値、中央値、および最大値のそれぞれの目盛における熱動式過電流継電器の最小動作電流(以下、「UTC(Ultimate Trip Current)」という)が整定電流の105%から120%の範囲に入るようにする調整工程がある。この調整工程では、例えば、ヒータ呼び3.6A(整定電流の調整範囲が2.8Aから4.4A)の熱動式過電流継電器の場合、最小目盛のUTCは2.94Aから3.36Aの範囲に、中央目盛のUTCは3.78Aから4.32Aの範囲に、最大目盛のUTCは4.62Aから5.28Aの範囲にそれぞれ入るように調整する。
【0007】
熱動式過電流継電器の電調方法としては、例えば、中央目盛整定電流の200%を通電させつつ機構部を移動させ、バイメタルの湾曲変形量が各目盛整定電流の115%を通電させたときの湾曲変形量と等しくなる位置で強制的にトリップさせることにより、製品個々の特性に合わせた各目盛位置および角度を決定する電調方法が開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−213991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来の電調方法では、電調を実施している間は、バイメタルおよびヒータに過電流が通電され続け、強制的にトリップさせるために機構部を移動させている間もバイメタルが変形し続けるため、目標とするトリップ位置となる時間はある一点にしか存在しない。このため、目標とするトリップ位置に対して、実際にトリップさせる位置に誤差が生じる。この誤差が調整バラツキに繋がり、調整精度が低下する、という問題があった。また、その調整バラツキにより規格外となった製品に対して再度電調を実施する必要があるため、生産性が悪化する、という問題があった。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、電調による調整バラツキを抑制して調整精度および生産性を向上させることができる熱動式過電流継電器の電調方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明にかかる熱動式過電流継電器の電調方法は、主回路電流が通電されることにより発熱するヒータと、前記ヒータの発熱に応じて湾曲変形する主回路バイメタルと、前記主回路バイメタルの変位を伝達する連動板と、前記連動板との当接によりトリップ動作して接点の開閉状態を反転させる反転機構部と、前記反転機構部の位置を移動させて前記接点の開閉状態が反転する位置を調整する調整機構部と、を備えた熱動式過電流継電器の電調方法であって、所定の加熱期間において第1の熱量を前記主回路バイメタルに加える第1の加熱工程と、前記第1の熱量よりも低い第2の熱量を前記主回路バイメタルに加え、所定の時間範囲において前記主回路バイメタルの湾曲変形量が所定の範囲内に保持される第2の加熱工程と、前記時間範囲内に前記調整機構部を操作することにより前記反転機構部を強制的に動作させ、動作した位置をトリップ位置として定める強制トリップ工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電調による調整バラツキが抑制され、調整精度および生産性の向上を図ることができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、実施の形態1にかかる熱動式過電流継電器の内部構造の一例を示す図である。
【図2】図2は、図1に示す熱動式過電流継電器のA−A線に沿う矢視断面図である。
【図3】図3は、図1に示す熱動式過電流継電器の左側面図である。
【図4】図4は、図1に示す熱動式過電流継電器の背面図である。
【図5】図5は、図1に示す熱動式過電流継電器の上面図である。
【図6】図6は、図1に示す熱動式過電流継電器の内部構造の拡大図である。
【図7】図7は、各バイメタルの湾曲変形量と通電電流値および通電時間との関係の一例を示す図である。
【図8】図8は、実施の形態1にかかる熱動式過電流継電器における電調処理フローの一例を示す図である。
【図9】図9は、図8に示す電調処理フローに沿った各バイメタルの湾曲変形量と通電電流値および通電時間との関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照し、本発明の実施の形態にかかる熱動式過電流継電器の電調方法について説明する。なお、以下に示す実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0015】
実施の形態1.
まず、実施の形態1にかかる熱動式過電流継電器の構造について、図1〜図6を参照して説明する。図1は、実施の形態1にかかる熱動式過電流継電器の内部構造の一例を示す図である。図2は、図1に示す熱動式過電流継電器のA−A線に沿う矢視断面図である。図3は、図1に示す熱動式過電流継電器の左側面図である。図4は、図1に示す熱動式過電流継電器の背面図である。図5は、図1に示す熱動式過電流継電器の上面図である。図6は、図1に示す熱動式過電流継電器の内部構造の拡大図である。
【0016】
図1〜図6において、熱動式過電流継電器100は、各部品が収められているケース1と、ケース1を覆うカバー2と、主回路電流が通電されることにより発熱するヒータ4と、ヒータ4の発熱に応じて湾曲変形する主回路バイメタル3と、主回路バイメタル3の変位を伝達する連動板5と、連動板5より加えられる力で接点の開閉状態を反転させる反転機構部20とを有している。ここで、反転機構部20は、温度補償バイメタル6と反転板7そして引きばね8、およびそれらを支持する反転機構支持部材9により構成されている。そして、連動板5は、主回路バイメタル3の先端に当接し主回路バイメタル3の湾曲変位を反転機構部20の温度補償バイメタル6に伝える。
【0017】
熱動式過電流継電器100は、さらに、常閉可動接点7aが設けられた反転板7と、常閉固定接点10aが設けられた常閉固定接触子10と、螺旋回転することで図6の上下方向に変位し反転機構支持部材9を回動させるための調整ねじ11と、調整可能な範囲の電流値および目盛が印字され調整ねじ11にかぶせられるツマミ12と、反転機構部20の動作に応じて回転する回転レバー13と、回転レバー13に持ち上げられることで湾曲変形する常開可動接触子14と、常開可動接触子14に設けられた常開可動接点14aと、常開固定接点15aが設けられた常開固定接触子15と、反転機構部20をトリップ状態から定常状態へと戻すためのリセットバー16と、リセットの方法を手動リセットまたは自動リセットに切り換えるための切換板17とを有している。ここで、調整ねじ11とツマミ12とは、接点の開閉状態が反転する位置を調整する調整機構部を構成している。
【0018】
まず、熱動式過電流継電器100の基本的な動作について述べる。モータ等の負荷(図示せず)になんらかの異常が生じ主回路に通電されている電流値が大きくなると、ヒータ4の発熱量も大きくなる。これにより、主回路バイメタル3が湾曲しその先端位置が変位する。この変位によって、連動板5が図6の左方向へと移動する。そして、その移動量が一定量に達すると温度補償バイメタル6の下端部6bと当接する。そこからさらに連動板5が図6の左方向へ移動すると、温度補償バイメタル6は連動板5に下端部6bを押圧されることによって反転機構支持部材9に設けられた温度補償バイメタル6の支点部9aを支点として図6の時計方向へと回動する。
【0019】
そして、温度補償バイメタル6に設けられた引きばね8の引掛け部6aが、反転板7に設けられた引きばね8の引掛け部7bと反転機構支持部材9に設けられた反転板7の支点部9bとを結ぶ直線よりも図6における右側に位置したとき、引きばね8により反転板7に生じる力の方向が図6の反時計方向から時計方向へと反転するために、反転板7は図6における時計方向へと回動を始める。反転板7が図6の時計方向へ回動することで、反転板7に設けられた常閉可動接点7aと常閉固定接触子10に設けられた常閉固定接点10aが開成する。つまり、温度補償バイメタル6、反転板7、引きばね8、および反転機構支持部材9から構成される反転機構部20は、トグル機構の動作をする。
【0020】
また、反転板7が回転レバー13を押圧することで、回転レバー13はケース1に設けられた突出軸1aを中心として図6の反時計方向へと回転し、常開可動接触子14は回転レバー13の突出片13aによって持ち上げられ、常開可動接触子14に設けられた常開可動接点14aと常開固定接触子15に設けられた常開固定接点15aが閉じられる。この一連の動作をトリップと呼び、トリップ動作によって接点の開閉状態が反転した状態(すなわち常閉接点が開き且つ常開接点が閉じた状態)をトリップ状態と呼ぶ。
【0021】
トリップ状態から接点の開閉状態を定常状態(すなわち常閉接点が閉じ且つ常開接点が開いた状態)へとリセットするためには、リセットバー16を図6の下方向へ押圧することにより回転レバー13を図6の時計方向へ回転させ、反転板7が回転レバー13に押圧されることで図6の反時計方向へと回動し、反転板7の角度がリセットラインである反転機構支持部材9に設けられた反転板7の支点部9bと温度補償バイメタル6の支点部9aとを結ぶ直線よりも図6における左側に倒れこむことで、引きばね8により反転板7に生じる力の方向が再び図6の時計方向から反時計方向へと復転し、リセットすることができる。
【0022】
切換板17を切換板17に設けられた軸17aを中心として図6の反時計方向へと回動させることにより、リセットバー16を使用者が押圧してリセットさせる手動リセット設定からリセットバー16を使用者が押圧する必要なくリセットする自動リセット設定へとリセット方法を変更することができる。
【0023】
切換板17により自動リセット設定となると、切換板17の突出片17bによって常開固定接触子15が押し下げられ常開固定接点15aと常開可動接点14aとの間の接点ギャップが小さくなると同時に回転レバー13の反時計方向の回転量が抑制され、反転板7のトリップ状態の角度がリセットラインである反転機構支持部材9に設けられた反転板7の支点部9bと温度補償バイメタル6の支点部9aとを結ぶ直線よりも図6の右側へ倒れこむことがないように構成されることにより、負荷の異常が回復しヒータ4の発熱が収まって主回路バイメタル3の湾曲が無くなり連動板5が図6の右方向に移動することで温度補償バイメタル6に連動板5からの力が加わらなくなると、自動的に反転機構部20が定常状態へと戻るように構成されている。
【0024】
ツマミ12を図5の時計方向へと回すと、調整ねじ11は螺旋回転しながら図6の下方向へ反転機構支持部材9を押圧し、反転機構支持部材9は反転機構支持部材9のL字曲げ部9zとケース1に設けられた突起1zとの係合部を支点として、図6の時計方向に回動する。逆にツマミ12を図5の反時計方向へと回すと、調整ねじ11は螺旋回転しながら図6の上方向へと戻り、反転機構支持部材9は板ばね18からの押圧力により反転機構支持部材9のL字曲げ部9zとケース1に設けられた突起1zとの係合部を支点として、図6の反時計方向に回動する。
【0025】
このように反転機構支持部材9が回動することで、反転機構支持部材9に設けられた反転板7の支点部9bおよび温度補償バイメタル6の支点部9aの位置が移動し、なおかつ連動板5と温度補償バイメタル6の下端部6bとが当接するまでの距離も変化するため、トリップ動作までに必要となる連動板5の移動量を変化させることができる。
【0026】
ここで、連動板5は主回路バイメタル3の変位に応じて移動し、主回路バイメタル3は主回路電流によるヒータ4の発熱量に応じて湾曲するから、ツマミ12を回すことにより、熱動式過電流継電器100がトリップ動作するのに要する電流値を調整することができる。そして、ツマミ12には、ヒータ呼びと呼ばれる代表的電流値を概ね中央値として最小値から最大値までの使用可能電流値(これを「整定電流の調整範囲」という)およびそれらの目盛が表示される。
【0027】
通常のトリップ動作は、前述の通り、すでに位置調整済みの反転機構支持部材9に支持された反転機構部20に対し、連動板5が移動して温度補償バイメタル6を押圧することによりトリップ動作が行われる。一方、実施の形態1にかかる熱動式過電流継電器100の電調方法では、ある所に位置している連動板5に対して、反転機構支持部材9を図6の反時計方向へ回動させることで、連動板5と温度補償バイメタル6の下端部6bとの距離を縮め、温度補償バイメタル6の下端部6bと連動板5とが当接した状態となっても、さらに反転機構支持部材9の図6の反時計方向への回動を続け、強制的に温度補償バイメタル6を図6の時計方向へと回動させることで反転機構部20を反転させ強制的にトリップ状態にすることにより、電調を実施する。このような強制的にトリップ状態にする動作を、強制トリップという。なお、電調において強制トリップを行う前にトリップ状態になることを、ミストリップという。
【0028】
つぎに、実施の形態1にかかる熱動式過電流継電器100の電調方法について説明する。ここでは、まず、実施の形態1にかかる熱動式過電流継電器100の電調方法の概念について、図7を参照して説明する。図7は、各バイメタルの湾曲変形量と通電電流値および通電時間との関係の一例を示す図である。図7において、横軸は時間を示し、図7(a)および図7(b)の縦軸は各バイメタルの湾曲変形量を示し、図7(c)、図7(d)、および図7(e)の縦軸は主回路通電電流を示している。
【0029】
図7(c)は、時刻T0から時刻T1までの期間において熱動式過電流継電器100の中央目盛整定電流の200%の過電流を通電し、時刻T1以降の時間範囲において中央目盛整定電流の135%の電流を通電する通電パターンを示し、図7(d)は、時刻T0以降の全時間範囲において中央目盛整定電流の112.5%の電流(中央目盛におけるUTCに相当)を通電する通電パターンを示し、図7(e)は、時刻T0から時刻T1までの期間では通電させず、時刻T1以降の時間範囲において中央目盛整定電流の135%の電流を通電する通電パターンを示している。
【0030】
図7(a)に太い実線で示す各グラフC1,C2は、図7(c)に示す通電パターンによる主回路バイメタル3の湾曲変形量の変化を示し、図7(a)に細い実線で示すグラフB1は、図7(d)に示す通電パターンによる主回路バイメタル3の湾曲変形量の変化を示し、図7(a)に太い破線で示すグラフA2は、図7(c)に示す通電パターンによる温度補償バイメタル6の湾曲変形量の変化を示し、図7(a)に細い破線で示すグラフA1は、図7(d)に示す通電パターンによる温度補償バイメタル6の湾曲変形量の変化を示している。
【0031】
また、図7(b)に太い実線で示すグラフC1,C2は、図7(a)に太い実線で示すグラフC1,C2と同一であり、図7(b)に細い実線で示すグラフB2は、図7(e)に示す通電パターンによる主回路バイメタル3の湾曲変形量の変化を示している。なお、図7(b)に細い破線で示すグラフE1は、時刻T0から時刻T1までの期間において熱動式過電流継電器100の中央目盛整定電流の200%の過電流を通電した後、時刻T1以降の時間範囲において通電させない場合の主回路バイメタル3の湾曲変形量の変化を示している。なお、図7に示す例では、時刻T0から時刻T9までの時間を約2時間程度と想定し、時刻T0から時刻T2までの時間を約110秒と想定し、時刻T0から時刻T5までの時間を約220秒と想定している。
【0032】
例えば、中央目盛整定電流の112.5%の電流(中央目盛におけるUTCに相当)を通電して(図7(d))、主回路バイメタル3および温度補償バイメタル6が温度飽和し、熱動式過電流継電器100がトリップする際の主回路バイメタル3と温度補償バイメタル6との湾曲変形量の差(以下、「変形量差」という)を目標変形量差F1とすると、通電開始時刻T0から、時刻T9において変形量差が目標変形量差F1となるまで、約2時間程度かかる(図7(a))。
【0033】
一方、例えば、中央目盛整定電流の200%の過電流を通電した場合(図7(c))、時刻T0から時刻T1までの短時間に主回路バイメタル3の湾曲変形量が急増し、変形量差が目標変形量差F1付近となる期間が短くなるため、変形量差が目標変形量差F1付近となる位置、つまり、目標とするトリップ位置で強制トリップさせることが困難となる。その結果生じる誤差が調整バラツキに繋がり、調整精度が低下する。
【0034】
したがって、本実施の形態にかかる熱動式過電流継電器100の電調方法では、時刻T0から時刻T1までの短時間(例えば、数十秒間)において、一旦変形量差が目標変形量差F1以上となるまで、中央目盛整定電流の200%の過電流を通電し、時刻T1以降において、中央目盛整定電流の135%の電流を通電する通電パターン(図7(c))を用いることにより、時刻T1以降において変形量差が目標変形量差F1付近に保たれる長い時間範囲(例えば、数十秒間から数百秒間)において電調を実施することにより、調整精度の向上を図る。なお、目標変形量差F1は、あらかじめ中央目盛整定電流の112.5%の電流(中央目盛におけるUTCに相当)を通電して主回路バイメタル3および温度補償バイメタル6が温度飽和した際に熱動式過電流継電器100を強制トリップさせ、そのときの変形量差を中央目盛における目標変形量差F1として求めておく。以下、図7を参照して、より具体的に説明する。
【0035】
時刻T0から時刻T1までの期間において中央目盛整定電流の200%の過電流を通電すると、ヒータ4が発熱して主回路バイメタル3が加熱され、主回路バイメタル3の湾曲変形量は、無通電時のG0からG3まで増加する(グラフC1)。この時刻T0から時刻T1までの期間における湾曲変形量は、通電電流値(ここでは、中央目盛整定電流の200%の過電流値)と通電時間(時刻T0から時刻T1までの時間)とを管理パラメータとして管理できる。
【0036】
時刻T1において通電電流を中央目盛整定電流の135%に切り替えると、主回路バイメタル3の湾曲変形量は、一旦は徐々に減少し、その後徐々に増加する(グラフC2)。時刻T1以降の主回路バイメタル3の湾曲変形量は、グラフB2における湾曲変形量とグラフE1における湾曲変形量との合算値にほぼ等しくなる(グラフC2)。この時刻T1以降における主回路バイメタル3の湾曲変形量(グラフC2)は、時刻T1までの通電電流値(ここでは、中央目盛整定電流の200%の過電流値)、通電時間(時刻T0から時刻T1までの時間)、および時刻T1以降の通電電流値(ここでは、中央目盛整定電流の135%の電流値)を管理パラメータとして管理できる。
【0037】
時刻T1以降の時間範囲T2−T3では、図7(b)において細い実線で示した湾曲変形量(グラフB2)の増加傾向の傾きよりも、図7(b)において破線で示した湾曲変形量(グラフE1)の減少傾向の傾きの方が大きいため、時間範囲T2−T3における主回路バイメタル3の湾曲変形量(グラフC2)は、緩やかに小さくなる。この時間範囲T2−T3における変形量差をD2−3とする。
【0038】
時間範囲T3−T4では、図7(b)において細い実線で示した湾曲変形量(グラフE1)の増加傾向の傾きと図7(b)において破線で示した湾曲変形量(グラフB2)の減少傾向の傾きとのほぼ等しくなり、時間範囲T3−T4における主回路バイメタル3の湾曲変形量(グラフC2)の平均傾きは、零に近くなる。但し、このとき温度補償バイメタル6の湾曲変形量(グラフA2)は、ヒータ4により暖められた周囲の気体の影響を受け、ある傾きをもって大きくため、変形量差は小さくなる。この時間範囲T3−T4における変形量差をD3−4とする。
【0039】
時間範囲T4−T5では、図7(b)において細い実線で示した湾曲変形量(グラフE1)の増加傾向の傾きよりも、図7(b)において破線で示した湾曲変形量(グラフB2)の減少傾向の傾きの方が小さいため、時間範囲T4−T5における主回路バイメタル3の湾曲変形量(グラフC2)は、緩やかに大きくなる。この時間範囲T4−T5における変形量差をD4−5とする。
【0040】
時間範囲T5−T6では、図7(b)において細い実線で示した湾曲変形量(グラフE1)の増加傾向の傾きよりも、図7(b)において破線で示した湾曲変形量(グラフB2)の減少傾向の傾きの方がより小さくなるため、時間範囲T5−T6における主回路バイメタル3の湾曲変形量(グラフC2)は、時間範囲T4−T5における主回路バイメタル3の湾曲変形量よりも大きくなる。この時間範囲T5−T6における変形量差をD5−6とする。
【0041】
上述した各時間範囲T2−T3,T3−T4,T4−T5,T5−T6における各変形量差D2−3,D3−4,D4−5,D5−6の変動は、時刻T0から時刻T1までの期間における変形量差の変動と比較して極めて小さい。これら各時間範囲T2−T3,T3−T4,T4−T5,T5−T6における各変形量差D2−3,D3−4,D4−5,D5−6が目標変形量差F1とほぼ等しくなるように、中央目盛整定電流の200%の過電流通電時間(時刻T0から時刻T1までの時間)を設定し、時刻T1以降の各時間範囲T2−T3,T3−T4,T4−T5,T5−T6のいずれかにおいて強制トリップさせるようにすれば、過電流を通電している期間(ここでは、時刻T0から時刻T1までの期間)において強制トリップさせる場合よりも、変形量差が目標変形量差F1付近となる期間、つまり、目標とするトリップ位置付近となる期間が長くなるため、調整バラツキが抑制され、調整精度を向上させることが可能となる。
【0042】
なお、実際の電調において、各時間範囲T2−T3,T3−T4,T4−T5,T5−T6のいずれにおいて強制トリップさせるかは、対象となる機種毎にあらかじめ実験して、各変形量差D2−3,D3−4,D4−5,D5−6の平均値が目標変形量差F1に最も近くなる時間範囲を設定すればよい。また、複数の時間範囲を強制トリップさせる時間範囲として設定することも可能である。さらに、時刻T2から時刻T6までの区間を各時間範囲T2−T3,T3−T4,T4−T5,T5−T6の4つの時間範囲ではなく、3つ以下、あるいは4つ以上の時間範囲にしてもよい。なお、上述した例では、時刻T0から時刻T1までの期間において熱動式過電流継電器100に与える過電流値は、中央目盛整定電流の200%としたが、これに限らず、例えば、中央目盛整定電流の150%や、中央目盛整定電流の250%であってもよく、中央目盛におけるUTCよりも大きい任意の電流値であればよい。また、時刻T1以降において熱動式過電流継電器100に与える電流値は、例えば、中央目盛整定電流の130%程度であってもよく、中央目盛におけるUTCよりも大きく、時刻T0から時刻T1までの期間において熱動式過電流継電器100に与える過電流値よりも小さい任意の電流値であればよい。
【0043】
つぎに、実施の形態1にかかる熱動式過電流継電器100の電調方法の手順について、図6、図8、および図9を参照して説明する。図8は、実施の形態1にかかる熱動式過電流継電器の電調方法における電調処理フローの一例を示す図である。また、図9は、図8に示す電調処理フローに沿った各バイメタルの湾曲変形量と通電電流値および通電時間との関係の一例を示す図である。図9(b)は、実施の形態1にかかる熱動式過電流継電器100の電調方法における通電パターンの一例を示している。図9(b)に示す例では、時刻T0から時刻T1までの期間において、例えば、中央目盛整定電流の200%の過電流を通電し、時刻T1から時刻T6までの各時間範囲T2−T3,T3−T4,T4−T5,T5−T6において、例えば、中央目盛整定電流の135%の電流を通電し、時刻T6から時刻T7までの期間において通電を停止し、時間範囲T7−T8において、例えば、最小目盛整定電流の112.5%の電流(最小目盛におけるUTCに相当)を通電する通電パターンとしている。また、図9(a)に太い実線で示す各グラフC1,C3,C4,C5,C6は、図9(b)に示す通電パターンによる主回路バイメタル3の湾曲変形量の変化を示し、図9(a)に細い実線で示すグラフA3は、図9(b)に示す通電パターンによる温度補償バイメタル6の湾曲変形量の変化を示している。
【0044】
実施の形態1にかかる熱動式過電流継電器100の電調方法では、例えば、電調機(図示せず)を設置した電調室内(図示せず)に、製品として組みあがった熱動式過電流継電器100を設置して、個体毎に電調を実施する。熱動式過電流継電器100は、電調室内の電調機に接続されて主回路に電流が通電され、あらかじめ設定された時間範囲内において強制トリップ装置により強制トリップが行われることにより、電調が実施される。
【0045】
熱動式過電流継電器100は、電調室内に運ばれると、熱動式過電流継電器100の温度が電調室内の室温と同じ一定の温度となるように設置される。そして、ツマミ12を図5の時計方向に回動させて反転機構部20の温度補償バイメタル6を連動板5から遠ざけ、ミストリップしないように調整して、熱動式過電流継電器100を通電開始前の待機状態にする。なお、電調室内の室温は、熱動式過電流継電器100の周囲温度が電調中に急激に変化しないように、一定の温度に保たれる。さらに、周囲温度の微小変化に追従するように、主回路バイメタル3およびヒータ4へ通電する電流値を補正する補正係数を設けてもよい。
【0046】
つぎに、待機状態となった熱動式過電流継電器100に対し、主回路の通電確認を行う。例えば、テスターを電調機に備え付け、主回路間抵抗を測定することにより主回路バイメタル3やヒータ4に定格値が異なる部品が誤組込されていないか、また、通電経路の断線がないかを確認する。
【0047】
主回路の通電確認の後、図8に示す電調処理フローに移行する。電調機は、図9に示す時刻T0から時刻T1までの期間において中央目盛整定電流の200%の過電流を通電する(ステップST101)。このとき、ヒータ4が発熱して主回路バイメタル3が加熱され、主回路バイメタル3の湾曲変形量は、無通電時のG0からG3まで増加し、変形量差は、目標変形量差F1以上となる(グラフC1)。
【0048】
つぎに、電調機は、時刻T1において通電電流を中央目盛整定電流の135%に切り替える(ステップST102)。このとき、ヒータ4の発熱は、ステップST101よりも低下し、主回路バイメタル3は、ステップST101よりも低い温度で加熱され、主回路バイメタル3の湾曲変形量は、時刻T1から時刻T6までの各時間範囲T2−T3,T3−T4,T4−T5,T5−T6において、一旦はG3から徐々に減少し、その後徐々に増加する(グラフC3)。強制トリップ装置は、あらかじめ設定した時間範囲、つまり、変形量差が目標変形量差F1に最も近くなるように設定された時間範囲において、熱動式過電流継電器100のツマミ12を図5の反時計方向に回転させることにより、反転機構支持部材9を図6の反時計方向へと回動させ、強制トリップを実施し、その位置で回動を停止する(ステップST103:強制トリップ工程)。このときのツマミ12の位置を中央目盛におけるトリップ位置、すなわち中央目盛位置とする。
【0049】
強制トリップの実施後、電調機は、時刻T6において通電電流を遮断する(ステップST104)。このとき、ヒータ4の温度が低下すると共に主回路バイメタル3の温度が低下して湾曲変形量が減少し(グラフC4)、自動リセット設定によりトリップ状態がリセットされる(ステップST105)。なお、自動リセット設定にしていない場合には、リセットバー16を操作してトリップ状態をリセットしてもよい。また、自動リセット設定で電調を実施する場合には、電調工程内で自動リセットのチェックを行う工程を設けることも可能である。
【0050】
主回路バイメタル3の湾曲変形量がG5となる時刻T7において、電調機は、最小目盛整定電流の112.5%の電流(最小目盛におけるUTCに相当)を通電する(ステップST106)。このとき、主回路バイメタル3は、ステップST102よりも低い温度で加熱される。この時刻T7は、変形量差があらかじめ最小目盛における目標変形量差F2付近となる時刻にあらかじめ設定しておく。これにより、時刻T7以降における変形量差は、目標変形量差F2付近でほぼ一定に保たれる。なお、目標変形量差F2は、中央目盛における目標変形量差F1と同様に、あらかじめ最小目盛整定電流の112.5%の電流(最小目盛におけるUTCに相当)を通電して主回路バイメタル3および温度補償バイメタル6が温度飽和した際に熱動式過電流継電器100を強制トリップさせ、そのときの変形量差を最小目盛における目標変形量差F2として求めておく。
【0051】
強制トリップ装置は、時間範囲T7−T8において、熱動式過電流継電器100のツマミ12を図5の反時計方向にさらに回転させることにより、反転機構支持部材9を図6の反時計方向へと回動させ、強制トリップを実施し、その位置で回動を停止する(ステップST107)。このときのツマミ12の位置を最小目盛におけるトリップ位置、すなわち最小目盛位置とする。
【0052】
強制トリップの実施後、電調機は、時刻T8において主回路通電電流を遮断する(ステップST108)。このとき、ヒータ4の温度が低下すると共に主回路バイメタル3の温度が低下して湾曲変形量が減少し(グラフC6)、自動リセット設定によりトリップ状態がリセットされる(ステップST109)。なお、自動リセット設定にしていない場合には、リセットバー16を操作してトリップ状態をリセットしてもよい。
【0053】
上述したステップST101〜ステップST109において最小目盛位置と中央目盛位置とが定まることにより、最小目盛位置と中央目盛位置との間の角度を算出することができる。また、一般的にバイメタルの変形量は電流の2乗に比例する。電調機は、算出された最小目盛位置と中央目盛位置との間の角度を用いて、中央目盛位置と最大目盛位置との間の角度を算出し、最大目盛におけるトリップ位置、すなわち最大目盛位置を定める(ステップST110)。
【0054】
そして、レーザー照射やインク粒子塗布などの手段を用いて、最小目盛、中央目盛、および最大目盛の各目盛位置および各整定電流値等をツマミ12に印字する(ステップST111)。また、ツマミ12に目盛等を直接印字せず、例えば紙やツマミ12以外の部品などに印字して組み合わせ、各目盛を表現する等の手段を用いることも可能である。
【0055】
実施の形態2.
実施の形態1では、変形量差が中央目盛における目標変形量差F1付近となる時間範囲と、変形量差が最小目盛における目標変形量差F2付近となる時間範囲とで強制トリップを実施して各目盛位置を定め、最小目盛位置と中央目盛位置との間の角度を用いて、中央目盛位置と最大目盛位置との間の角度を算出し、最大目盛位置を定めるようにしたが、これに限らず、最大目盛における目標変形量差をあらかじめ求めておき、変形量差が最大目盛における目標変形量差付近となる時間範囲において強制トリップさせる手順を含むことも可能である。なお、最大目盛における目標変形量差は、中央目盛における目標変形量差F1と同様に、あらかじめ最大目盛整定電流の112.5%の電流(最大目盛におけるUTCに相当)を通電して主回路バイメタル3および温度補償バイメタル6が温度飽和した際に熱動式過電流継電器100を強制トリップさせ、そのときの変形量差を最大目盛における目標変形量差として求めておく。
【0056】
具体的には、例えば、図9に示す時刻T2〜時刻T6の範囲における変形量差が最大目盛における目標変形量差付近となるようにして、時刻T2〜時刻T6の範囲で強制トリップさせて最大目盛位置を定め、時刻T7〜時刻T8の範囲における変形量差が中央目盛における目標変形量差F1付近となるようにして、時刻T7〜時刻T8の範囲で強制トリップさせて中央目盛位置を定め、さらに時刻T8において主回路通電電流を遮断して、変形量差が最小目盛における目標変形量差F2付近となる時刻に最小目盛整定電流の112.5%の電流(最小目盛におけるUTCに相当)を通電し、変形量差が目標変形量差F2付近でほぼ一定に保たれる時間範囲で強制トリップさせて最小目盛位置を定める。
【0057】
実施の形態3.
実施の形態2では、最大目盛位置、中央目盛位置、最小目盛位置の順で強制トリップさせる例について説明したが、各目盛位置を定める順番は、上述した例に限らず、例えば、最小目盛位置、中央目盛位置、最大目盛位置の順番に定めるようにすることも可能である。
【0058】
具体的には、まず過電流(例えば、中央目盛整定電流の200%)を通電して、その後、通電電流を最小目盛整定電流の135%に切り替え、変形量差が最小目盛における目標変形量差F2付近となる時間範囲で強制トリップさせて最小目盛位置を定め、つぎに、再び過電流を通電して、その後、通電電流を中央目盛整定電流の135%に切り替え、変形量差が中央目盛における目標変形量差F1付近となる時間範囲で強制トリップさせて中央目盛位置を定め、つぎに、再び過電流を通電して、その後、通電電流を最大目盛整定電流の135%に切り替え、変形量差が最大目盛における目標変形量差付近となる時間範囲で強制トリップさせて最大目盛位置を定める。さらに、通電パターンの組み合わせを変えることにより、各目盛位置を定める順番を任意に変えることも可能である。
【0059】
実施の形態4.
実施の形態1〜実施の形態3では、個体毎に各目盛位置をそれぞれ定めて、各目盛位置および各整定電流値等をレーザー照射やインク粒子塗布などの手段を用いてツマミ12に印字、あるいは、紙等のツマミ12以外の部品に印字してツマミ12に組み合わせるようにしたが、あらかじめいずれかの目盛位置とそれ以外の目盛位置との角度を実験等により決めて、ツマミ12あるいは紙等の部品に各目盛位置を印字しておき、いずれかの目盛位置を上述した手順のステップST101〜ステップST107を実施して定め、その目盛位置をツマミ12あるいは紙等の部品に印字された目盛位置に合わせてツマミ12を取り付けるようにすることも可能である。このようにすれば、いずれか1つの目盛位置を定めればよいので、電調にかかる時間が短縮でき、生産性の向上を図ることができる。また、この場合、電調により定めた目盛位置以外の目盛位置は、例えば、ヒータ間違いや組立間違い等の不良品を発見する出荷検査の際に各目盛位置において強制トリップを実施することにより確認することができる。
【0060】
実施の形態5.
実施の形態1〜実施の形態4では、製品として組みあがった熱動式過電流継電器100を個体毎に1台ずつ設置して電調を実施することを想定したが、複数台の熱動式過電流継電器100の電調を同時に実施することも可能である。この場合、複数台の熱動式過電流継電器100を強制トリップさせるタイミングは、あらかじめ設定した時間範囲内の一点であってもよいし、あらかじめ設定した時間範囲内において複数台の熱動式過電流継電器に対してそれぞれ異なる複数点であってもよい。
【0061】
実施の形態6.
実施の形態1では、時刻T0〜時刻T1において過電流(例えば、中央目盛整定電流の200%)を通電し、時刻T1に中央目盛整定電流の135%に切り替え、変形量差が中央目盛における目標変形量差F1付近となる時間範囲で強制トリップさせて中央目盛位置を定めている。この場合、主回路バイメタル3の湾曲変形量が飽和状態に至る前に強制トリップさせているが、時刻T1に切り替える通電電流を中央目盛におけるUTC(例えば、中央目盛整定電流の112.5%)とし、主回路バイメタル3の湾曲変形量が飽和状態に至った時点で強制トリップさせることにより中央目盛位置を定めることも可能である。この場合は、主回路バイメタル3の湾曲変形量が飽和状態に至るまでに長い時間が必要となるが、中央目盛整定電流の135%を通電して主回路バイメタル3の湾曲変形量が飽和状態に至る前に強制トリップさせる場合よりも正確に中央目盛位置を定めることができる。また、最小目盛位置および最大目盛位置を定める場合においても同様である。
【0062】
実施の形態7.
実施の形態1〜実施の形態6では、主回路に電流を通電させることにより主回路バイメタル3を加熱して電調を実施するようにしたが、外部から加熱装置(図示せず)を用いて主回路バイメタル3を加熱して電調を実施することも可能である。例えば、時刻T0〜時刻T1において過電流を通電させることに相当する熱を外部から与え、その後外部から与える熱を低下させて変形量差が各目盛における各目標変形量差付近となる時間範囲において強制トリップさせるようにしてもよい。
【0063】
実施の形態8.
実施の形態7では、外部から加熱装置(図示せず)を用いて主回路バイメタル3を加熱して電調を実施する例について説明したが、主回路に一定の電流を通電しておき、外部から加熱装置を用いて与える熱を変化させて電調を実施することも可能である。例えば、主回路に中央目盛におけるUTC(例えば、中央目盛整定電流の112.5%)を通電しておき、時刻T0〜時刻T1において加熱装置を用いて急激に主回路バイメタル3を変形させ、その後加熱装置を停止して変形量差が目標変形量差F1付近となる時間範囲において強制トリップさせ中央目盛位置を定める。このようにすれば、主回路に通電する電流値を管理することなく、加熱装置の入り切りのみで主回路バイメタル3および温度補償バイメタル6の湾曲変形量を制御することができるので制御が容易となる。
【0064】
実施の形態9.
実施の形態1〜実施の形態8では、主回路バイメタルに6を備えた熱動式過電流継電器100を用いて説明したが、温度補償バイメタル6を備えていない熱動式過電流継電器においても、同様の効果を得ることができる。この場合には、主回路バイメタル3の湾曲変形量のみを用いて電調を実施すればよい。
【0065】
実施の形態10.
実施の形態1では、時刻T1において通電電流を過電流(例えば、中央目盛整定電流の200%)から中央目盛整定電流の135%に切り替える通電パターンとしたが、例えば、時刻T1において一旦中央目盛整定電流の150%に切り替え、時刻T1〜時刻T6の期間において中央目盛整定電流の135%に切り替えるようにする等、複数の段階に分けて通電電流を切り替える通電パターンとすることも可能である。このようにすれば、時刻T1〜時刻T6の期間における主回路バイメタル3の湾曲変形量(図9に示すグラフC3)の変動をより小さくすることができる。
【0066】
実施の形態11.
実施の形態1〜実施の形態10では、主回路バイメタル3および温度補償バイメタル6の湾曲変形量を用いて電調を実施するようにしたが、主回路バイメタル3および温度補償バイメタル6の湾曲変形量を各バイメタル3,6が受ける熱量に置き換え、各バイメタル3,6の温度を管理することにより電調を実施することも可能である。この場合は、あらかじめ各バイメタル3,6に熱電対を取り付けて温度を測定し、各バイメタル3,6の温度変化量と湾曲変形量との相関をとり、電調を実施するようにすればよい。上記した電調処理フロー(図8)に沿った各説明においても、主回路バイメタル3および温度補償バイメタル6の各湾曲変形量を各温度変化量に置き換え、主回路バイメタル3の湾曲変形量と温度補償バイメタル6の湾曲変形量との差である湾曲変形量差を温度変化量差に置き換え、各目盛におけるUTCを通電して各バイメタル3,6が温度飽和した際の湾曲変形量差である目標湾曲変形量差を目標温度変化量差とすればよい。
【0067】
以上のように、実施の形態にかかる熱動式過電流継電器の電調方法によれば、最小目盛、中央目盛、および最大目盛の各目盛におけるUTCを通電して、主回路バイメタルおよび温度補償バイメタルが温度飽和した際の各バイメタルの変位量差である各目標変位量差をあらかじめ求めておき、通電開始から短時間で主回路バイメタルに過大な熱を加え、その後、主回路バイメタルに加える熱を低下させて各バイメタルの変位量差が各目盛における各目標変位量差付近となる安定した時間範囲内で強制トリップさせることにより、各目盛位置の電調を実施するようにしたので、強制トリップさせる際の反転機構部を移動させる過程における各バイメタルの変位量の変動を小さくすることができ、各個体毎の調整バラツキが抑制され、調整精度および生産性の向上を図ることができる。
【0068】
また、各バイメタルの変位量差が各目盛における各目標変位量差付近となる時間範囲が短い場合には、通電前にあらかじめ「強制トリップ待機位置調整」(狙いの強制トリップ位置と実際に強制トリップ完了する位置との間になるべく誤差なく強制トリップでき、且つ強制トリップを行う前にトリップしてしまうことがない最適な位置に反転機構部を移動させておく)を実施して初期位置を厳密に管理しておき、初期位置に対する強制トリップ位置の相対位置により各目盛位置を定める必要があるが、実施の形態にかかる熱動式過電流継電器の電調方法によれば、各バイメタルの変位量差が各目盛における各目標変位量差付近となる時間範囲が十分に長いため、通電前における位置は、ミストリップしない程度の位置に設定しておけばよく、強制トリップさせた位置がすなわち各目盛におけるトラップ位置、すなわち各目盛位置となる。したがって、強制トリップ待機位置調整を実施して初期位置を管理するための設備が不要となり、生産コストを低減することができる。
【0069】
また、複数台の熱動式過電流継電器に対して同時に電調を実施する際に、各バイメタルの変位量差が各目盛における各目標変位量差付近となる時間範囲が短い場合には、電調を実施する台数分の強制トリップ装置が必要となるが、実施の形態にかかる熱動式過電流継電器の電調方法によれば、各バイメタルの変位量差が各目盛における各目標変位量差付近となる時間範囲が十分に長いため、あらかじめ設定した時間範囲内において、1台の強制トリップ装置を用いて順次強制トリップを実施すればよい。したがって、複数台の熱動式過電流継電器に対して同時に電調を実施する場合でも、同時に電調を実施する熱動式過電流継電器の台数分の強制トリップ装置を用意する必要がなくなり、生産コストを低減することができる。
【0070】
なお、以上の実施の形態に示した構成は、本発明の構成の一例であり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、一部を省略する等、変更して構成することも可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0071】
1 ケース
2 カバー
3 主回路バイメタル
4 ヒータ
5 連動板
6 温度補償バイメタル
7 反転板
7a 常閉可動接点
8 引きばね
9 反転機構支持部材
10 常閉固定接触子
10a 常閉固定接点
11 調整ねじ(調整機構部)
12 ツマミ(調整機構部)
13 回転レバー
14 常開可動接触子
14a 常開可動接点
15 常開固定接触子
15a 常開固定接点
16 リセットバー
17 切換板
18 板ばね
20 反転機構部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主回路電流が通電されることにより発熱するヒータと、前記ヒータの発熱に応じて湾曲変形する主回路バイメタルと、前記主回路バイメタルの変位を伝達する連動板と、前記連動板との当接によりトリップ動作して接点の開閉状態を反転させる反転機構部と、前記反転機構部の位置を移動させて前記接点の開閉状態が反転する位置を調整する調整機構部と、を備えた熱動式過電流継電器の電調方法であって、
所定の加熱期間において第1の熱量を前記主回路バイメタルに加える第1の加熱工程と、
前記第1の熱量よりも低い第2の熱量を前記主回路バイメタルに加え、所定の時間範囲において前記主回路バイメタルの湾曲変形量が所定の範囲内に保持される第2の加熱工程と、
前記時間範囲内に前記調整機構部を操作することにより前記反転機構部を強制的に動作させ、動作した位置をトリップ位置として定める強制トリップ工程と、
を有することを特徴とする熱動式過電流継電器の電調方法。
【請求項2】
主回路電流が通電されることにより発熱するヒータと、前記ヒータの発熱に応じて湾曲変形する主回路バイメタルと、前記主回路バイメタルの変位を伝達する連動板と、周囲温度の変化に応じて湾曲変形する温度補償バイメタルを有し、前記温度補償バイメタルと前記連動板との当接によりトリップ動作し、接点の開閉状態を反転させる反転機構部と、前記反転機構部の位置を移動させて前記接点の開閉状態が反転する位置を調整する調整機構部と、を備えた熱動式過電流継電器の電調方法であって、
所定の加熱期間において第1の熱量を前記主回路バイメタルに加える第1の加熱工程と、
前記第1の熱量よりも低い第2の熱量を前記バイメタルに加え、所定の時間範囲において前記主回路バイメタルおよび前記温度補償バイメタルの湾曲変形量差が所定の範囲内に保持される第2の加熱工程と、
前記時間範囲内に前記調整機構部を操作することにより前記反転機構部を強制的に動作させ、動作した位置をトリップ位置として定める強制トリップ工程と、
を有することを特徴とする熱動式過電流継電器の電調方法。
【請求項3】
前記第1の加熱工程と前記第2の加熱工程との間に、
所定の加熱停止期間において前記バイメタルへの加熱を停止する加熱停止工程を有することを特徴とする請求項1または2に記載の熱動式過電流継電器の電調方法。
【請求項4】
前記主回路電流を通電することにより、前記各加熱工程における前記主回路バイメタルへの加熱を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱動式過電流継電器の電調方法。
【請求項5】
前記熱動式過電流継電器の外部から加温することにより、前記各加熱工程における前記主回路バイメタルへの加熱を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱動式過電流継電器の電調方法。
【請求項6】
前記主回路電流への通電および外部からの加温を組み合わせて、前記各加熱工程における前記主回路バイメタルへの加熱を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱動式過電流継電器の電調方法。
【請求項7】
前記熱動式過電流継電器が前記トリップ位置を複数有する場合に、いずれか1つの前記トリップ位置を前記強制トリップ工程により定め、前記強制トリップ工程により定めた前記トリップ位置を基準として、他の前記トリップ位置の相対的位置が固定されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱動式過電流継電器の電調方法。
【請求項8】
前記熱動式過電流継電器が前記トリップ位置を3つ以上有する場合に、いずれか2つ以上の前記トリップ位置を前記強制トリップ工程により定め、前記強制トリップ工程により定めた複数の前記トリップ位置に基づいて、他の前記トリップ位置を算出することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱動式過電流継電器の電調方法。
【請求項9】
主回路電流に応動して湾曲変形する主回路バイメタルの湾曲変形量に応じてトリップする熱動式過電流継電器の電調方法であって、
第1の熱量を前記主回路バイメタルに加えて前記湾曲変形量を増大させ、前記主回路バイメタルに加える熱量を前記第1の熱量よりも低い第2の熱量に切り替え、前記湾曲変形量が安定した時間範囲において電調を実施することを特徴とする熱動式過電流継電器の電調方法。
【請求項10】
主回路電流に応動して湾曲変形する主回路バイメタルおよび周囲温度の変化に応じて湾曲変形する温度補償バイメタルの湾曲変形量差に応じてトリップする熱動式過電流継電器の電調方法であって、
第1の熱量を前記主回路バイメタルに加えて前記湾曲変形量差を増大させ、前記主回路バイメタルに加える熱量を前記第1の熱量よりも低い第2の熱量に切り替え、前記湾曲変形量差が安定した時間範囲において電調を実施することを特徴とする熱動式過電流継電器の電調方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−230788(P2012−230788A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97367(P2011−97367)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)