説明

熱収縮性オレフィンフィルム

【課題】熱収縮性、低自然収縮性に優れ、かつPETボトルのラベルとして用いることが可能な透明性と常温での剛性や腰の強さを有し、比重が1未満である熱収縮性フィルムを得る。
【解決手段】ポリプロピレン系共重合体50〜95質量%と、石油系樹脂、ロジン系樹脂又はテルペン樹脂の少なくとも一種5〜50質量%とからなる樹脂組成物100質量%に対して、スチレン系エラストマーを1〜80質量%添加した混合樹脂組成物を、少なくとも一軸方向に延伸して、熱収縮性オレフィンフィルムを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱収縮性オレフィンフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ジュース等の清涼飲料水をガラス瓶やポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と略す。)製ボトル(以下、「PETボトル」と略す。)等の容器に充填して販売する際に、他の商品との差別化や、商品の視認性向上のために、上記容器の外側に、印刷が施された熱収縮性ラベルを装着する場合が多い。このようなラベルの材質としては、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン等が用いられている。
【0003】
近年、ガラス瓶やPETボトルを被覆するラベルフィルムは、需要の増大が見込まれているため、ボトルへのラベル被覆工程において、より短時間かつ低温での、高度な収縮仕上がり外観が得られることが求められている。すなわち、近年のガラス瓶やPETボトルを覆うシュリンクフィルムのラベリング工程は、蒸気の熱によりフィルムを収縮させることで瓶やボトルに密着させる蒸気シュリンカーを用いることが主流となっており、そこで無菌充填や、内容物の温度による品質低下等を回避するために、上記蒸気シュリンカーの温度を下げる必要が出てきている。そのため、用いるラベルフィルムはより低温の状態の蒸気シュリンカーで収縮を開始することが必要とされ、かつ、優れた収縮仕上がりを得られることを求められている。
【0004】
また、単に収縮しやすいだけでは、室温下において保存する際にも徐々に収縮を起こしてしまい、保存中にフィルム寸法が変化したり、ロール巻きにした状態で変形を起こしたりするといった不都合が生じるおそれがあるので、自然収縮率の小さい低自然収縮性フィルムであることも求められている。
【0005】
さらに、PETボトルに限らず上記のガラス瓶も含めた容器は資源保護のために使用後のリサイクルが進められており、PETボトルの場合は、回収したPETボトルからフレークやペレットに再生されることが多くなっている。その回収から再生までの工程の概略を以下に説明する。
【0006】
回収されたPETボトルは、人手、重量分離機、X線検査等によって、ガラス瓶、缶、塩ビ製ボトル等の他の容器から選別される。ただし、回収されたPETボトルの多くには、ポリエチレン等からなるキャップや、熱収縮性ラベルが付属している。そのため、PETボトルをこれらのキャップやラベルごと2mm〜10mm角程度に砕いて粉砕体とした後、まず、PETの比重が1より大きいことを利用して、比重分離機により、比重が1未満である熱収縮性ラベルやキャップの粉砕体を除去する。その後さらに、PETと同じく比重が1以上であるため上記の比重分離機ではPETと分離できない熱収縮性ラベルの粉砕体を、風力分離機によって除去する。こうして分離されたPETボトルの粉砕体から、再生PETフレークや再生PETペレットが得られる。
【0007】
上記の比重分離機とは、上記粉砕体を水中に入れ、比重が1未満である熱収縮性ラベルやキャップといった水に浮くものと、比重が1以上である熱収縮性ラベルやPETボトルの粉砕体といった水に沈むものとを分離することができる装置である。また、上記の風力分離機とは、上記粉砕体を拡散させたところに下から風を当てて熱収縮性ラベルの粉砕体のみを吹き飛ばすことができる装置である。各々の原理上、単位時間あたりの処理能力は、上記比重分離機に比べて、上記風力分離機は低い。このため、処理能力の高い比重分離機でPETから分離できるように、熱収縮性ラベルは比重が1未満であることが求められている。
【0008】
上記のラベルのうち、ポリスチレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル製のラベルは比重が1より大きいため、上記の比重分離機では分離できないという問題がある。一方、ポリプロピレンは比重が1未満であるので、ポリプロピレン製のラベルはPETボトルとの比重差が大きく、浮遊分離がし易い上に耐熱性にも優れるが、低温での加熱収縮性が不十分である。
【0009】
これに対し、低温での加熱収縮性を改良するために、ポリプロピレンに、ポリプロピレン・ブテン−1共重合体を添加したり、石油樹脂やテルペン樹脂を添加したりする方法が、特許文献1に記載されている。
【0010】
【特許文献1】特開昭62−62846号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、フィルムの熱収縮性を向上させる効果が不十分であり、また、加熱収縮性を付与してより低温で延伸できるようになった分、フィルムの自然収縮性が大きくなるといった問題があった。
【0012】
そこでこの発明は、熱収縮性、低自然収縮性に優れ、かつPETボトルのラベルとして用いることが可能な透明性と常温での剛性や腰の強さを有した熱収縮性フィルムを得ることを目的とし、併せて、そのフィルムが水による比重分離でPETと分離可能であるように、比重を1未満にしたフィルムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は、ポリプロピレン系共重合体50〜95質量%と、石油系樹脂、ロジン系樹脂又はテルペン樹脂の少なくとも一種50〜5質量%とからなる樹脂組成物に対して、スチレン系エラストマーを1〜80質量%添加した混合樹脂組成物を、少なくとも一軸方向に延伸したフィルムである、熱収縮性オレフィンフィルムにより、上記の課題を解決したのである。
【発明の効果】
【0014】
この発明にかかる熱収縮性オレフィンフィルムは、ポリプロピレン系のオレフィンフィルムであるため強度と透明性があり、石油系樹脂等とスチレン系エラストマーとを添加させることでポリプロピレン系樹脂の結晶性を抑えて熱収縮性を高め、かつ分子配向を低下させ、一方で、石油系樹脂等を添加することによりガラス転移温度を上昇させて分子を動きにくくすることで自然収縮性を抑え、また、スチレン系エラストマーを添加させることで剛性や耐衝撃性、腰の強さを高めたものとなる。なお、腰が強いとは、ここでは撓み度が小さく剛性が高く、弾性率が高いことをいう。
さらに、この熱収縮性オレフィンフィルムは、低比重のポリプロピレンを基本としているため、比重を1未満とすることができ、水を用いた比重分離機でPETと分離することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明について詳細に説明する。
この発明は、ポリプロピレン系共重合体と、石油系樹脂、ロジン系樹脂又はテルペン樹脂の少なくとも一種とからなる樹脂組成物に、スチレン系エラストマーを添加した混合樹脂組成物を、少なくとも一軸方向に延伸したフィルムである、熱収縮性オレフィンフィルムである。
【0016】
この発明におけるポリプロピレン系共重合体とは、共重合体を構成するモノマーのうち、プロピレンが主成分であるものをいう。なお、主成分とはモノマー中の最大mol量を占める化合物をいう。上記ポリプロピレン系共重合体は、プロピレンとプロピレン以外のα−オレフィンとの共重合体であることにより延伸等の際に扱いやすく、それらのランダム共重合体であると、結晶性が低下するため熱収縮性が向上するのでより好ましい。上記のα−オレフィンとしては、エチレン又は炭素数4〜20のα−オレフィンを用いると、共重合の際扱いやすく、得られる共重合体の物性も良好である。
【0017】
これらのα−オレフィンを用いたポリプロピレン系共重合体の具体例としては、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−エチレン−1−ブテン共重合体、プロピレン−1−ブテン共重合体、プロピレン−1−ヘキセン共重合体などとの共重合体などが挙げられ、これらを単独で用いてもよいし、これらを複数組み合わせて用いてもよい。
【0018】
また、上記ポリプロピレン系共重合体がプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体である場合は、二種類以上のプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体を混合して用いてもよい。
【0019】
この発明に用いる上記ポリプロピレン系共重合体として、ポリプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体を用いる場合、このランダム共重合体中のα−オレフィンの含有量は2.0〜30質量%であると好ましく、特にα−オレフィンがエチレンである場合は、2.0〜10質量%であることが好ましく、2.0〜6.0質量%であるとより好ましい。このような含有量であると、適度な結晶性を有するので、収縮性と常温でのフィルムの腰が特に適したものとなる。
【0020】
また、上記ポリプロピレン系共重合体のメルトフローレート(以下、「MFR」と略す。JIS K 7210に従い、230℃、21.18Nの荷重で測定した値をいう。)は、0.4〜20g/10分であるとよく、0.5〜5g/10分であると好ましい。MFRが0.4g/10分未満であると、押出時の付加が高くなりすぎて生産性が低下してしまうおそれがあり、20g/10分を超えると安定した延伸が行えない場合がある。
【0021】
この発明にかかるポリプロピレン系共重合体は、示差走査熱量計にて測定される結晶融解ピーク温度が、100〜150℃であることが好ましい。ここで上記結晶融解ピーク温度が100℃未満であると、耐熱性が不十分となる場合があり、150℃を超えると、延伸が難しくなる場合があり、熱収縮性も低下する場合がある。
【0022】
この発明に用いる石油系樹脂、ロジン系樹脂及びテルペン樹脂(以下、まとめて「石油系樹脂等」という。)は、ポリプロピレン系共重合体に混合することで、得られる上記樹脂組成物及び上記混合樹脂組成物の結晶性を低下させ、収縮性、透明性、熱成形性を向上させるほか、常温での剛性を高めるものである。これらは単独で用いてもよいし、複数の樹脂を併用してもよい。
【0023】
ここで上記の石油系樹脂とは石油に由来する樹脂を示し、例えば、シクロペンタジエン又はその二量体からの脂環式炭化水素樹脂や、C9成分からの芳香族石油樹脂、クマロン−インデン樹脂等が挙げられる。上記のロジン系樹脂としては、例えば、ガムロジン、ウッドロジン等のロジン樹脂、及びグリセリンやペンタエリスリトールなどで変性したエステル化ロジン樹脂等が挙げられる。上記のテルペン樹脂としては、例えば、β−ピネンからのテルペン樹脂や、テルペン−フェノール樹脂等が挙げられる。また、これらの石油系樹脂等の中には、これらの樹脂の水添誘導体も含むものである。
【0024】
上記の石油系樹脂等は、上記のポリプロピレン系共重合体と混合した場合に、比較的良好な相溶性を示す。さらに、上記の水添誘導体を用いると、色調や熱安定性、相溶性、耐透湿性が優れた上記樹脂組成物が得られる。特に、水添率が95%を超えて、かつ水酸基やカルボキシル基、ハロゲン基などの極性基や二重結合などの不飽和結合が出来るだけ少ない石油系樹脂又はテルペン樹脂を用いると、より優れた樹脂組成物が得られる。
【0025】
上記の石油系樹脂等はそのガラス転移温度が50〜100℃であるものがよく、70〜90℃であるとより好ましい。ガラス転移温度が50℃未満であると、上記のポリプロピレン系共重合体と混合する際に、常温での剛性と収縮性、熱成形性とのバランスを調整するために、上記石油系樹脂等を多量に含有させる必要が生じるため、フィルムにした際に表面に上記石油系樹脂等が染み出してブロッキングを起こしたり、フィルムの機械的強度が不足して破れやすくなったりして、実用上問題となる場合がある。一方、ガラス転移温度が100℃を超える上記石油系樹脂等を採用すると、上記のポリプロピレン系共重合体との相溶性が悪化して、フィルムにした後時間経過とともに表面に染み出したり、ブロッキングや透明性の低下を起こしたりすることがある。
【0026】
上記のポリプロピレン系共重合体と、上記石油系樹脂等とを混合して上記樹脂組成物を得る際の割合は、ポリプロピレン系共重合体が50〜95質量%に対して、上記石油系樹脂等が50〜5質量%であることが必要である。上記石油系樹脂等が5質量%未満である場合には混合による効果が乏しくなってしまい、50質量%を超えると脆くなりすぎてしまうおそれがある。特に上記石油系樹脂等が上記脂環式炭化水素樹脂である場合には、上記のポリプロピレン系共重合体60〜95質量%に対し、上記脂環式炭化水素樹脂が5〜40質量%であると好ましい。
【0027】
上記のポリプロピレン系共重合体と上記石油系樹脂等を混合して上記樹脂組成物を得る具体的な方法は、特に制限されるものではないが、例えば混合して相溶させる方法が挙げられる。この場合、上記ポリプロピレン系共重合体と上記石油系樹脂等は、どちらも相溶出来る程度の粘度であることが望ましい。
【0028】
次に、上記樹脂組成物と混合するスチレン系エラストマーについて説明する。このスチレン系エラストマーとは、芳香族ビニル単位と共役ジエン単位とからなるブロックポリマー又はランダムポリマーと、それらが有する共役ジエン成分の二重結合の一部又は全部に水素添加(水添)したものである。
【0029】
具体例としては、スチレン−ブタジエンブロック共重合体(SBR)、水素添加スチレン−ブタジエンブロック共重合体(SEB)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、水素添加スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−イソプレンブロック共重合体(SIR)、水素添加スチレン−イソプレンブロック共重合体(SEP)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、水素添加スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−ブタジエンランダム共重合体、水素添加スチレン−ブタジエンランダム共重合体、スチレン−エチレン−プロピレンランダム共重合体、スチレン−エチレン−ブチレンランダム共重合体などが挙げられる。これらの中でも、透明性の観点から、特にSEB、SEBS、SEP、SEPSが好ましい。具体的な製品としては、JSR(株)製の「ダイナロン」、シェル化学(株)製の「クレイトンG」、旭化成ケミカルズ(株)製の「タフテック」などがある。なお、上記したスチレン系エラストマーは、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
この発明において用いるスチレン系エラストマーのうち、スチレンの含有量は、5〜65質量%がよく、10〜60質量%であるとより好ましい。スチレンの含有量が5質量%未満であると、常温での剛性が低いために、得られるフィルムの腰が弱いものとなりやすい。なお、腰が弱いとは、撓み度が大きく剛性が低く、弾性率が低いことをいう。一方で65質量%を超えると、上記樹脂組成物との平均屈折率の差が大きくなってくるために、得られるフィルムの透明性が低下し、また、衝撃特性を向上させる効果も低下してしまう。
【0031】
この発明におけるスチレン系エラストマーの配合量は、上記樹脂組成物に対して、1〜80質量%であることが必要であり、15〜65質量%であるとより好ましく、5〜50重量%であるとさらに好ましく、8〜40重量%であると特に好ましい。1質量%未満であると、収縮性、耐衝撃性への改良効果が十分に発揮されなくなってしまい、一方で80質量%を超えると、得られるフィルムの透明性が低くなり、腰が弱くなり、自然収縮が大きくなるといった問題を生じてしまう。
【0032】
上記スチレン系エラストマーを添加することで得られる上記混合樹脂組成物は、ポリプロピレン系共重合体よりも結晶性が低下するため、延伸フィルムにした際にその収縮性が向上し、また、スチレン系エラストマーが弾性体としての役割を果たすために、得られるフィルムの耐衝撃性が向上する効果も得られる。
【0033】
この発明における混合樹脂組成物には、上記の成分の他に、成型加工性や熱収縮性などの物性を改良するために、この発明の効果を阻害しない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、光安定剤などの添加剤、改質剤を添加してもよい。
【0034】
この発明における上記混合樹脂組成物を、周波数10Hz、ひずみ0.1%の条件で動的粘弾性測定した、20℃における貯蔵弾性率(E1’)は、1.0×10〜3.0×10Paであることが好ましく、1.2×10〜2.5×10Paであるとより好ましい。20℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa未満であると、得られるフィルムの腰が弱くなってしまい、ラベルとしてPETボトルやガラス瓶などの飲料ボトルに装着した際に不良を生じやすくなってしまう。一方で、3.0×10Paを超えると、熱収縮してボトルに装着させた際にツノ(フィルム端部が立ち上がった状態)が発生し、ボトルを手に持った際の感触が悪くなることがある。
【0035】
また、この発明における上記混合樹脂組成物を、周波数10Hz、ひずみ0.1%の条件で動的粘弾性測定した、80℃における貯蔵弾性率(E2’)は、5.0×10〜3.0×10Paであることが好ましく、7.0×10〜2.0×10Paであるとより好ましい。80℃における貯蔵弾性率が5.0×10Pa未満である場合、延伸課程における材料の弾性率が低下し、厚みが均一であるフィルムの製膜が困難となる。一方で、3.0×10Paを超えると、延伸が困難になるだけでなく、延伸できたとしても延伸応力が高くなるために、自然収縮が大きくなりやすい。また、良好な収縮特性を得にくくもなってしまう。
【0036】
この発明にかかる熱収縮性オレフィンフィルムは、上記混合樹脂組成物を、一般的な延伸フィルムの製造に用いられる公知の延伸方法により、少なくとも一軸方向に延伸したフィルムであり、二軸方向に延伸したものであってもよい。得られるフィルムの形態は、平面状やチューブ状のいずれであってもよいが、平面状であると、原反フィルムの幅方向に製品として数丁取りが可能であるという生産性の有利さがあり、また、内面にも印刷が可能であるのでより好ましい。平面状である場合の製造方法としては、例えば、複数の押出機を用いて樹脂を溶解し、Tダイから共押出し、チルドロールで冷却固化し、縦方向にロール延伸し、横方向にテンター延伸し、アニールし、冷却し、印刷を施す場合にはその印刷を行う予定の面にコロナ放電処理をした上で、巻取機で巻き取ることによりフィルムを得る方法が挙げられる。また、チューブラー法により製造したフィルムを切り裂いて平面状にする方法も挙げられる。
【0037】
この発明にかかる熱収縮性オレフィンフィルムの延伸倍率は、オーバーラップ用などの二方向に収縮させる用途に用いる場合は、直交する二軸方向それぞれについて2〜10倍であることが好ましく、3〜6倍であるとより好ましい。一方で、収縮ラベル用などの、主として一方向に収縮させる用途に用いる場合の延伸倍率は、主収縮方向に相当する方向が2〜10倍、好ましくは4〜8倍であり、主収縮方向と直交する方向が、1〜2倍であることが好ましく、1.1〜1.5倍であるとより好ましい。なお、1倍とは延伸していないことを示す。
【0038】
通常の二軸延伸で得られるフィルムは、主収縮方向と直交する方向の熱収縮率も大きくなるため、例えば収縮ラベルとして用いてボトルに装着すると、ボトルの高さ方向にもフィルムが熱収縮する、いわゆる縦引け現象が起こり、好ましくない。そのため、用途によって一軸方向のみの延伸をしたフィルムと、二軸方向への延伸をしたフィルムとを使い分けると好ましい。
【0039】
この発明にかかる熱収縮性オレフィンフィルムを収縮させる方法としては、一般的に、蒸気シュリンカーによって必要な熱収縮を起こす温度の蒸気に曝す方法や、熱風ヒーター等により熱風を吹き付ける方法等が知られている。
【0040】
この発明にかかる熱収縮性オレフィンフィルムを80℃の温水中に10秒間浸漬させたときの熱収縮性は、少なくとも1方向において30%以上であることが好ましい。この発明にかかる熱収縮性フィルムを、例えば、ボトル用ラベルとして用いる場合に、フィルムを収縮してボトルに密着させるのは、80℃の温度環境での収縮を求められることが多く、その環境において、30%以上収縮すれば、ラベル巻き付け作業を効率よく、所要時間を短縮して行うことができる。なお、延伸前の大きさ未満にまで縮む熱収縮性は現実的ではない。また、上記熱収縮性オレフィンフィルムが二軸方向に延伸されたものである場合には、それらのそれぞれの方向において30%以上の熱収縮性を有してもよい。ただし、一軸方向に優先的に熱収縮するものであると、収縮の際の収縮倍率やラベルのレイアウトを制御しやすいので、扱いやすい場合がある。
【0041】
この発明にかかる熱収縮性オレフィンフィルムは、ポリプロピレン系のオレフィンフィルムの強度と透明性を有し、上記石油系樹脂等とスチレン系エラストマーとを添加させることで、結晶性を抑えて熱収縮性を高め、さらにスチレン系エラストマーの添加により剛性や耐衝撃性、腰の強さを有しており、また、これらを適切な配合比とすることで、延伸応力を低下させるとともにガラス転移温度を上げて分子運動を抑制して、低自然収縮性を実現している。これにより、例えばボトル用シュリンクラベルとして用いると、80℃程度の低温で容易に熱収縮させることができるため、ボトルにラベルを付与する工程を短縮、簡素化できる。また、ラベルが自然に収縮するのを抑えることができる。
【0042】
さらに、比重が0.87であるポリプロピレンを主成分としているため、比重を1以下にすることができ、水に浮くフィルムとすることができる。この発明にかかる熱収縮性オレフィンフィルムの比重は、0.87〜0.97であることが好ましい。0.97以下であると、水を用いた比重分離機によって、一般的にボトルに使用されるPETとの分離が容易にできるためである。一方、純粋なポリプロピレンの比重が0.87であり、これにポリプロピレンより比重の高い上記石油系樹脂等やスチレン系エラストマーを加えるため、この発明にかかる熱収縮性オレフィンフィルムの比重はそれより高くなる傾向にある。
【実施例】
【0043】
以下、この発明について実施例を用いてより具体的に説明する。
まず、使用する材料について説明する。
・エチレン−プロピレンランダム共重合体・・日本ポリケム(株)製:WFX4T(実施例中、「ランダムPP」と表記する。)
・水添石油樹脂・・荒川化学工業(株)製:アルコンP140
・スチレン系エラストマーSEBS・・旭化成ケミカルズ(株)製:タフテックH1041(実施例中、「SEBS」と表記する。)
・ホモポリプロピレン・・出光石油化学(株)製:F300SP(実施例中、「ホモPP」と表記する。)
【0044】
次に、測定方法及び評価方法について説明する。なお、ここではフィルムを引き取る流れ方向を「縦」方向、その縦方向と直角な方向を「横」方向とする。
【0045】
<ヘイズの測定方法>
JIS K 7105に準拠し、フィルム厚み50μmで測定した。
【0046】
<熱収縮率の測定方法>
フィルムを縦100mm、横100mmの大きさに切り取り、80℃の温水バスに10秒間浸漬して熱収縮率を測定した。なお数値は、横方向について収縮前の原寸に対する収縮により減少した差との比を百分率で表した。
【0047】
<自然収縮率の測定方法>
フィルムを、縦100mm、横500mmの大きさに切り取り、30℃の雰囲気の恒温槽に30日間保管後、横方向の長さA(mm)を測定し、下記式(1)により自然収縮率を算出した。
【0048】
自然収縮率(%)=(500−A)÷500×100 (1)
【0049】
<貯蔵弾性率E’の測定方法>
混合樹脂組成物からなる未延伸シートを、縦4mm、横60mmの大きさに切り出し、粘弾性スペクトロメーター(アイティ計測(株)製:DVA−200)を用いて、20℃と80℃との環境において、振動周波数10Hz、ひずみ0.1%、昇温速度1℃/分、チャック間25mmで横方向について測定を行った。それぞれをE1’、E2’とする。
【0050】
<比重の測定方法>
JIS K 7112に準拠して、密度勾配管法により比重を算出した。
【0051】
(実施例1)
ランダムPP80質量%と、水添石油樹脂20質量%との樹脂組成物に対し、SEBSを30質量%の割合で混合した混合樹脂組成物を、同方向二軸押出機を用いて溶融混練し、混合樹脂組成物のペレットを得た。このペレットを単軸押出機に投入して押出、50℃キャストロールで引き取り固化させて幅200mm、厚さ200μmの未延伸シートを得た。この未延伸シートをテンター延伸設備内にて温度80℃で一軸方向に4倍延伸し、膜厚50μmの熱収縮性オレフィンフィルムを得た。得られた未延伸シート及び熱収縮性オレフィンフィルムの物性、評価を上記の測定方法に従い測定した。その結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
(実施例2)
実施例1において、ランダムPPを70質量%、水添石油樹脂を30質量%とし、SEBSを10質量%とした以外は実施例1と同様の手順により未延伸シート及び熱収縮性オレフィンフィルムを得て、測定を行った。その結果を表1に示す。
【0054】
(比較例1)
実施例1において、SEBSを混合することなく、樹脂組成物をそのまま同方向二軸押出機で溶融混練してペレットを作成した以外は、実施例1と同様の手順により未延伸シート及び熱収縮性オレフィンフィルムを得て、測定を行った。その結果を表1に示す。
【0055】
(比較例2)
実施例2において、SEBSの添加量を100質量%とした以外は実施例2と同様の手順により未延伸シート及び熱収縮性オレフィンフィルムを得て、測定を行った。その結果を表1に示す。
【0056】
(比較例3)
実施例1において、水添石油樹脂を用いずに、ランダムPPを100質量%とした以外は、実施例1と同様の手順により、未延伸シート及び熱収縮性オレフィンフィルムを得て、測定を行った。その結果を表1に示す。
【0057】
(比較例4)
実施例1において、ランダムPPをホモPPに変更した以外は、実施例1と同様の手順により、未延伸シートを得て、この未延伸シートをテンター延伸設備内にて温度80℃で一軸方向に4倍延伸を試みたところ、破断した。また、未延伸シートについての測定結果を表1に示す。
【0058】
(結果)
実施例1及び2における、この発明にかかる熱収縮性オレフィンフィルムは、熱収縮性、低自然収縮性、透明性、常温での弾性率に優れ、かつ比重が1未満であった。
これに対して、スチレン系エラストマー(SEBS)を配合しない比較例1においては、熱収縮率が30%未満と小さくなった。次に、スチレン系エラストマーを過剰に用いた場合には、透明性が大きく低下し、自然収縮率が高くなる一方で、熱収縮率は30%未満となった。また、その他の石油系樹脂等を添加しなかった比較例3では、熱収縮性が20%未満となった。さらに、共重合体ではないホモポリプロピレンを用いた比較例4では、延伸することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系共重合体50〜95質量%と、石油系樹脂、ロジン系樹脂及びテルペン樹脂から選ばれる少なくとも一種50〜5質量%とからなる樹脂組成物に対して、スチレン系エラストマーを1〜80質量%添加した混合樹脂組成物を、少なくとも一軸方向に延伸したフィルムであり、かつ、80℃の温水中に10秒間浸漬させたときの熱収縮性が少なくとも一方向において30%以上である、熱収縮性オレフィンフィルム。
【請求項2】
ポリプロピレン系共重合体50〜95質量%と、石油系樹脂、ロジン系樹脂及びテルペン樹脂から選ばれる少なくとも一種50〜5質量%とからなる樹脂組成物に対して、スチレン系エラストマーを1〜80質量%添加した混合樹脂組成物を、少なくとも一軸方向に延伸した、ラベル用に用いられる、熱収縮性オレフィンフィルム。
【請求項3】
上記混合樹脂組成物の、動的粘弾性測定により周波数10Hz、温度20℃で測定した貯蔵弾性率(E1’)が1.0×10〜3.0×10Paであり、温度80℃で測定した貯蔵弾性率(E2’)が5.0×10〜3.0×10Paである、請求項1又は2に記載の熱収縮性オレフィンフィルム。
【請求項4】
比重が0.87以上0.97以下である、請求項1乃至3のいずれかに記載の熱収縮性オレフィンフィルム。

【公開番号】特開2006−82383(P2006−82383A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−269344(P2004−269344)
【出願日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】