説明

熱収縮性チューブ及びその製造方法

【課題】耐熱性、難燃性、電気絶縁性、およびすべり性を同時に満足できるポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物からなる熱収縮性チューブを提供する。
【解決手段】ポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物から構成され、85℃で60分間熱固定した後、熱機械特性分析(TMA)によって、5℃/分の昇温速度で20℃から280℃まで加熱しながら測定された円周方向の熱変形率の最小値と、200℃における円周方向の熱変形率との差の絶対値が0%以上、6.5%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱収縮性チューブ及びその製造方法に関し、より詳しくは、ポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物からなる熱収縮性チューブ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンデンサなどの電子部品は、製品の軽薄短小化のため高密度化し、また自動車の電装部品など、使用温度の高い分野も急速に拡大しつつある。このようなニーズに伴い、コンデンサ被覆用途などで使用されている熱収縮性チューブに対しても良好な難燃性および耐熱性が求められている。
【0003】
従来、熱収縮性チューブで使用される材料としては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィンなどが広く知られている。
ポリ塩化ビニル製の熱収縮性チューブは難燃性に優れるが、耐熱性が不充分であり、また廃棄物処理の際、適切に処理されない場合にはダイオキシン発生などの環境問題を生じるおそれがある。一方、ポリエチレンテレフタレートをはじめとするポリエステル樹脂からなる熱収縮性チューブは耐熱性に優れるが、難燃性が不充分である。
また、ポリオレフィン系樹脂を用いた熱収縮性チューブは、難燃性を付与するために臭素系難燃剤を添加するため、ポリ塩化ビニル製熱収縮性チューブと同じく廃棄物処理の際、適切に処理されなかった場合には環境問題が生じるおそれがある。また、ポリオレフィン系樹脂を用いた熱収縮性チューブは、耐熱性を付与するために電子線架橋を施すため、チューブを製造する際の工程が複雑になる等の問題点を抱えている。
【0004】
このような状況下、従来、難燃性と耐熱性とを同時に満たす材料としてポリフェニレンスルフィド系樹脂が知られている。ポリフェニレンスルフィド系樹脂は、難燃性及び耐熱性の他、耐薬品性、耐電解液性などの特性を満たす優れた材料である。このような特性に着目して、ポリフェニレンスルフィド系樹脂やポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物からなる熱収縮性チューブが知られている(例えば特許文献1及び2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−157402号公報
【特許文献2】国際公開第2008/114731号
【0006】
ここで、コンデンサを基板にハンダ付けにて実装する方法としては、工業的にはハンダフロー形式及びハンダリフロー形式の二つを挙げることができる。ハンダリフロー形式においてはハンダの主成分を基板上に印刷し、コンデンサなどの電子部品をその上に載せ、150〜200℃程度の温度のリフロー炉を通すことで電子部品の基板上への実装を行なう。
しかしながら、特許文献1又は2に記載されたポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物からなる熱収縮性チューブでは、この150〜200℃のリフロー炉を通す際、コンデンサに被覆した熱収縮性チューブの一部または外周全部が膨張し、チューブがコンデンサに密着しなくなるという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術における課題を解決するためになされたものであり、その課題は、生産時に安定して延伸することができ、耐熱性、難燃性、電気絶縁性、および電子部品などを被覆する際のスムーズな作業性を得るためのすべり性を同時に満足できるポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物からなる熱収縮性チューブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、ポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物からなる熱収縮性チューブに関し鋭意検討した結果、85℃で60分間熱固定した後、熱機械特性分析(TMA)によって、5℃/分の昇温速度で20℃から280℃まで加熱しながら測定された円周方向の熱変形率の最小値と、200℃における円周方向の熱変形率の差の絶対値が一定の範囲におさまるポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物からなる熱収縮性チューブが、耐熱性、難燃性、電気絶縁性、およびすべり性を同時に満足できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の課題は、ポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物からなり、次のような特徴を持つ熱収縮性チューブにより達成される。
熱収縮性チューブを85℃で60分間熱固定した後、熱機械特性分析(TMA)によって、5℃/分の昇温速度で20℃から280℃まで加熱しながら測定された円周方向の熱変形率の最小値と、200℃における円周方向の熱変形率との差の絶対値が0%以上、6.5%以下である。
【0010】
本発明の熱収縮性チューブは、示差走査熱量測定(DSC)により求められるガラス転移温度Tgが50℃以上85℃以下であり、DSCにおいて結晶融解ピーク温度Tm+40℃からTm+100℃まで昇温し1分間保持した後、降温速度10℃/分で測定される結晶化ピーク温度Tcと前記結晶融解ピーク温度Tmとの温度差が80℃以上であることを特徴とするポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物からなることが好ましい。
【0011】
本発明の熱収縮性チューブは、構成するポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物が、ポリフェニレンスルフィド系樹脂以外の樹脂、エラストマー、及び可塑剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0012】
本発明の熱収縮性チューブは、UL224 Optional VW−1 Flame Testにより評価した難燃性がVW−1規格を満たすことが好ましい。
【0013】
本発明の熱収縮性チューブは、JIS K 6911により評価した体積抵抗率が4×1016Ω・cm以上であることが好ましい。
【0014】
本発明の熱収縮性チューブは、JIS C 2110により評価した絶縁破壊電圧が20kV/mm以上であることが好ましい。
【0015】
本発明の熱収縮性チューブは、JIS K 7125により評価したアルミ板との間の静止摩擦係数が0.45以下であることが好ましい。
【0016】
本発明の熱収縮性チューブの製造においては、ポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物からなるチューブをチューブラー延伸法により、82〜105℃の温度で、チューブの径方向において1.2〜1.8倍に延伸する工程を含む製造方法が好ましく用いられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、生産時に安定して延伸することができ、耐熱性、難燃性、電気絶縁性、およびすべり性が優れた、ポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物からなる熱収縮性チューブを提供することができる。
【0018】
特に示差走査熱量測定(DSC)により求められるガラス転移温度Tgが50℃以上85℃以下であり、DSCにおいて結晶融解ピーク温度Tm+40℃からTm+100℃まで昇温し1分間保持した後、降温速度10℃/分で測定される結晶化ピーク温度Tcと前記結晶融解ピーク温度Tmとの温度差が80℃以上であることを特徴とするポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物からなる熱収縮性のチューブは、厚みに関わらず安定して延伸が可能となる。
【0019】
特にポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物がポリフェニレンスルフィド系樹脂以外の樹脂、エラストマー、及び可塑剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する場合には、含有する樹脂、エラストマー、及び可塑剤の特性に応じて、異種材料密着性や、低温での耐衝撃性、低温収縮性などを発現させることができる。
【0020】
また、本発明の熱収縮性チューブは、UL224 Optional VW−1 Flame Testにより評価した難燃性がVW−1規格を満たすため、難燃性を要求される電子部品の被覆に好適に用いることができる。
【0021】
また、本発明の熱収縮性チューブは、JIS K 6911により評価した体積抵抗率が4×1016Ω・cm以上であるため、絶縁性を必要とする電子部品の被覆に好適に用いることができる。
【0022】
また、本発明の熱収縮性チューブは、JIS C 2110により評価した絶縁破壊電圧が20kV/mm以上であるため、高電圧がかかるような電子部品の被覆に好適に用いることができる。
【0023】
また、本発明の熱収縮性チューブは、JIS K 7125により評価したアルミ板との間の静止摩擦係数が0.45以下であるため、筐体がアルミで形成されたコンデンサなどの電子部品を被覆する際に、引っかかりが生じにくく、自動化されたラインにおいてもスムーズに電子部品を被覆することができる。すなわち、自動化されたラインでの電子部品の被覆に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明の熱収縮性チューブの熱収縮率を熱機器特性分析(TMA)により測定した一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の熱収縮性チューブ、及び該チューブを用いた部材について詳細に説明する。
【0026】
<ポリフェニレンスルフィド系樹脂>
本発明で用いるポリフェニレンスルフィド(以下「PPS」と省略することがある。)系樹脂は、下記式(1)で表される繰返し単位を、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上含む樹脂である。該繰返し単位が70モル%以上であれば、ポリマーの結晶性や熱転移温度などの過度の低下を抑えることができ、また、PPS系樹脂を主成分とする樹脂組成物の特徴である耐熱性、難燃性、耐薬品性及び電気的特性などの諸特性を損なうことを抑えることができる。
【0027】
【化1】

【0028】
上記PPS系樹脂において、好ましくは30モル%未満、より好ましくは20モル%未満であれば、共重合可能な他のスルフィド結合を有する繰り返し単位が含まれていてもかまわない。前記繰り返し単位としては、例えば、メタ結合単位、オルト結合単位、3官能単位、エーテル単位、ケトン単位、スルホン単位、アルキル基などの置換基を有するアリール単位、ビフェニル単位、ターフェニレン単位、ビニレン単位、カーボネート単位などが具体例として挙げられ、これらは、1種類のみを単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることができる。この場合、これらの構成単位は、ランダム型又はブロック型などのいずれの共重合方式であってもかまわない。
【0029】
上記PPS系樹脂は、直鎖状の分子量50,000以上の高分子であることが好ましいがこれに限定されるものではなく、分岐鎖を有した高分子でも、一部架橋構造を有した高分子であっても用いることができる。
【0030】
上記PPS系樹脂は、低分子量オリゴマーを含んでいてもかまわないが、全質量に対して低分子量オリゴマーの含有量が1.5質量%程度以下であることが耐熱劣化性や機械的強度の点から好ましい。一般に低分子量オリゴマーの分子量は100以上2,000以下の範囲であり、PPS系樹脂中に含まれる低分子量オリゴマーは、ジフェニルエーテルなどの溶媒で洗浄することにより除去できる。
【0031】
上記PPS樹脂の溶融粘度は、熱収縮性チューブを得ることができれば特に制限はないが、320℃、剪断速度100sec-1、オリフィスL/D=10/1(mm)にて測定した見かけ粘度が、100Pa・s以上であることが好ましく、200Pa・s以上であることがより好ましく、400Pa・s以上であることがさらに好ましく、かつ10,000Pa・s以下であることが好ましく、5,000Pa・s以下であることがより好ましく、2,000Pa・s以下であることがさらに好ましい。見かけ粘度が100Pa・s以上あれば製膜が可能であり、また見かけ粘度が10,000Pa・s以下であれば、押出時における押出機の負荷を抑えることができる。
【0032】
上記PPS系樹脂の製造方法は、任意の製造方法を適用でき、特に限定されるものではないが、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(以下「NMP」と略することがある。)等の非プロトン性有機溶媒中でp−ジクロロベンゼン等のジハロゲン化芳香族化合物と硫化ナトリウム等のナトリウム塩とを反応させるという方法が一般に用いられる。重合度を調整するために苛性アルカリ、カルボン酸アルカリ金属塩などの重合助剤を添加して、230℃以上280℃以下の温度で反応させるのが好ましい。重合系内の圧力、重合時間は、所望する重合度、使用する重合助剤の種類や量などによって適宜決定すればよい。
【0033】
しかしながら、上記方法ではハロゲン化ナトリウムが副生し、このハロゲン化ナトリウムはNMP等の溶媒に不溶であるため樹脂中に取り込まれてしまい、重合後、多量の水でPPS系樹脂を洗浄しても、PPS樹脂中のハロゲン化ナトリウムを十分に取り除くことはできない。そこで、ナトリウム塩に代えてリチウム塩を用いて重合を行う方法も用いることができる。
【0034】
上記PPS系樹脂の市販品としては、例えばフォートロン(ポリプラスチックス株式会社製)、DIC−PPS(DIC株式会社製)、トレリナ(東レ株式会社製)などが挙げられる(いずれも商品名)。
【0035】
<PPS系樹脂以外の樹脂及びエラストマー>
本発明の熱収縮性チューブを構成するPPS系樹脂組成物は、PPS系樹脂単独で構成されていてもよいし、他の樹脂やエラストマーなどとブレンド及びアロイ化して構成されていてもよい。
ブレンド及びアロイ化用の他の樹脂としては、ポリエステル、液晶ポリマー、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリスチレン、ABS樹脂、イミド変性ABS樹脂、AES樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンエーテルとポリスチレンとの共重合体及び/又は混合物、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルホン、ポリサルホンなどを例示できる。これらの樹脂とブレンド及びアロイ化することによりPPS樹脂とインキなどとの異種材料密着性を高めるなどの効果が得られる。
【0036】
一方、エラストマーとしては、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、オレフィン系共重合体、スチレン系エラストマー等の熱可塑性エラストマー、ニトリル系ゴム、アクリル系ゴムなどが挙げられる。
【0037】
ポリエステル系エラストマーとしては、例えばポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートといった芳香族ポリエステルをハードセグメントとし、ポリエチレングリコールやポリテトラメチレングリコールといったポリエーテル、又はポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリカプロラクトンといった脂肪族ポリエステルをソフトセグメントとするブロック共重合体が挙げられる。
【0038】
また、ポリアミド系エラストマーとしては、例えばナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12などをハードセグメントとし、ポリエーテル又は脂肪族ポリエステルをソフトセグメントとするブロック共重合体が挙げられる。
【0039】
また、ウレタン系エラストマーとしては、例えば4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等のジイソシアネートとエチレングリコール、テトラメチレングリコール等のグリコールとを反応させることによって得られるポリウレタンをハードセグメントとし、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテル若しくはポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリカプロラクトン等の脂肪族ポリエステルをソフトセグメントとするブロック共重合体が挙げられる。
【0040】
また、オレフィン系共重合体としては、ブタジエン共重合体、イソプレン共重合体、クロロブタジエン共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、イソブチレン共重合体、イソブチレン−ブタジエン共重合体、イソブチレン−イソプレン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−ブテン共重合体などが上げられる。
一方、スチレン系エラストマーとしては、スチレン−イソプレン共重合体、ブタジエン−スチレン共重合体(ランダム、ブロック、グラフトの各共重合体)、スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体などが挙げられる。
【0041】
さらに、部分変性したゴム成分も用いることができ、例えば、部分水添スチレン−ブタジエンブロック共重合体、酸変性部分水添スチレン−ブタジエンブロック共重合体、部分水添スチレン−イソプレンブロック共重合体などが挙げられる。なかでも酸変性部分水添スチレン−ブタジエンブロック共重合体が好ましい。ここでいう酸変性とは、マレイン酸、フタル酸、クエン酸、リンゴ酸、アジピン酸、アクリル酸等の有機酸で変性されていることを言い、特にマレイン酸で変性されていること(例えば、マレイン酸変性SEBS)が好ましい。
【0042】
PPS系樹脂と上記エラストマーとをブレンドまたはアロイ化することにより、PPS系樹脂組成物の耐衝撃性などを高めることができる。溶融成形の際、310℃以上の高温に曝されることや、低温での耐衝撃性向上の観点から、エラストマーとしてはオレフィン系共重合体が特に好ましく用いられる。また、PPSとの接着性を高めるため、これらのオレフィン系共重合体に、無水マレイン酸基や、エポキシ基、シラン基などを官能基として分子鎖中に導入することもでき、無水マレイン酸グラフト共重合ポリオレフィン、無水マレイン酸共重合ポリオレフィンなどが好ましく、より好ましくはエチレン/アクリル酸/無水マレイン酸ターポリマーを挙げることができる。
【0043】
上記の無水マレイン酸を共重合したオレフィン系共重合体の市販品としては、例えばモディック(酸変性ポリオレフィン樹脂、三菱化学株式会社製)、アドマー(酸変性ポリオレフィン樹脂、三井化学株式会社製)、ボンダイン(エチレン/アクリル酸/無水マレイン酸ターポリマー、仏アルケマ社製)などが挙げられる(いずれも商品名)。
【0044】
PPS系樹脂に混合する他の樹脂および/またはエラストマーの含有量は、PPS系樹脂と他の樹脂および/またはエラストマーとの合計の質量を100質量%とした場合、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上であり、好ましくは35質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下であることが好ましい。PPS系樹脂に混合する他の樹脂および/またはエラストマーの割合が少なすぎると、その添加効果を期待できず、また多すぎると難燃性などのPPS樹脂の特徴が損なわれるおそれがある。
【0045】
<可塑剤>
本発明の熱収縮性チューブを構成するPPS系樹脂組成物は、樹脂組成物のガラス転移温度Tgを下げ、低温収縮性を発現させるために可塑剤を含有することが好ましい。本発明で用いる可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル系可塑剤、テトラヒドロフタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、アジピン酸エステル系可塑剤、セバシン酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、ホスホニトリル酸エステル系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤、ラクタム系可塑剤、スルホンアミド系可塑剤、グリコール酸系可塑剤、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油、ポリオレフィン及びポリシロキサンなどの公知の各種可塑剤が挙げられる。中でもホスホニトリル酸エステル系可塑剤をはじめとする難燃剤として機能するものは、PPS系樹脂の特徴である難燃性を損なうことがないため好ましい。
【0046】
上記可塑剤は、熱重量分析(TGA)により窒素雰囲気下10℃/分の昇温速度で20℃から加熱し、質量減少率5%(質量が5%減少すること)となる温度が260℃以上であることが好ましく、270℃以上であることがさらに好ましい。上限の温度は可塑剤の種類により定まるが、450℃以下であることが好ましい。
【0047】
本発明において好ましいリン酸エステル系可塑剤としては、より耐熱性の高い、芳香族縮合リン酸エステルや、ホスホニトリル酸フェニルエステルなどが挙げられる。これらの難燃剤兼可塑剤を用いることにより、PPS樹脂の優れた難燃性を損なうことなく樹脂のガラス転移温度を下げることができ、その結果、チューブに低温収縮性を付与できる。
【0048】
本発明で用いられるPPS系樹脂組成物中に添加する可塑剤の添加量は、PPS系樹脂又はPPS系樹脂と他の樹脂および/またはエラストマーの総量に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは3質量部以上であって、好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは7質量部以下である。可塑剤の添加量が0.5質量部以上あれば、可塑化効果が得られ、低温収縮性が得られる。また、含有率が15質量部以下であると、溶融粘度の下がりすぎや、厚み精度の悪化を抑えられる。
【0049】
上記可塑剤の市販品としては、例えばホスホニトリル酸フェニルエステル(株式会社伏見製薬所製、商品名:ラビトルFP−110)、4,4’−ビフェニリレンホスホン酸テトラキス(2,6−ジメチルフェニル)(大八化学工業株式会社製、商品名:PX−202)などが挙げられる。
【0050】
本発明の熱収縮性チューブを構成するPPS系樹脂組成物は、通常の公知の製造方法を用いて製造することができる。例えば、PPS系樹脂、あるいはこれにその他の樹脂および/またはエラストマー、可塑剤、必要に応じて他の添加剤を予備混合して、単軸あるいは2軸の押出機、タンブラー、V型ブレンダー、バンバリーミキサー、ニーダー、ミキシングロールなど通常公知の溶融混合機に供給して280℃以上360℃以下程度の温度で混練する方法や、2ケ所以上の供給口を有する押出機の各供給口に別々に計量した成分を供給する方法などが挙げられる。
【0051】
また、原料の混合順序にも特に制限はなく、使用するPPS系樹脂に直接他の樹脂、エラストマー、可塑剤、添加剤などを混合し、溶融混練する方法、他の樹脂、エラストマー、可塑剤、添加剤をPPS系樹脂に高濃度(代表的な含有量としては5〜60質量%程度)に混合したマスターバッチを別途作製しておき、これをPPS系樹脂に濃度を調整して混合する方法、一部の原材料を上記の方法により溶融混練しさらに残りの原材料を溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を単軸あるいは二軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法など、いずれの方法を用いてもよい。また、少量添加剤成分については、他の成分を上記の方法などで混練し、ペレット化した後、成形前に添加して成形に供することもできる。
【0052】
<PPS系樹脂組成物からなる熱収縮性チューブ>
本発明の熱収縮性チューブは、85℃で60分間熱固定した後、熱機械特性分析(TMA)によって、5℃/分の昇温速度で20℃から280℃まで加熱しながら測定された円周方向の熱変形率の最小値と、200℃における円周方向の熱変形率との差の絶対値が、0%以上、6.5%以下であり、好ましくは1.0%以上、6.0%以下である。この熱変形率の差の絶対値が6.5%を超えると、コンデンサを基板に実装する工程において、被覆した熱収縮性チューブの一部または全体が膨張し、コンデンサとの密着が保たれなくなるおそれがある。
【0053】
本発明の熱収縮性チューブの熱変形率を上記の規定の範囲に収めるために、種々の方法を用いることができる。例としては、PPS系樹脂組成物に結晶化が進行しにくいPPS樹脂を用いる方法、熱収縮性チューブの製造時において、主収縮方向、すなわち本発明においては径方向の延伸倍率を調整する方法、熱収縮性チューブの製造時において、延伸温度を調節する方法などを挙げることができる。なかでも、熱収縮性チューブの製造時において、延伸温度及び主収縮方向の延伸倍率を調整する方法は、他の方法に比べて簡便であることから、最も好ましく用いられる。
【0054】
径方向の延伸倍率は、1.2〜1.8倍が好ましく、1.3〜1.7倍がより好ましく、さらに好ましくは1.4〜1.6倍である。また、延伸温度は82〜105℃が好ましい。延伸倍率を1.7〜1.8倍と、比較的高くしたいときは延伸温度を100℃前後に高めることがより好ましい。同じく、延伸倍率を1.2〜1.5倍と、比較的低いものにしたい場合は、延伸温度を90℃未満とすることがより好ましい。
熱収縮性チューブの径方向の延伸倍率が1.2倍以上であれば被覆するのに足りる収縮量が得られ、また1.8倍以下であれば、コンデンサを基板に実装する工程において、熱収縮性チューブが熱膨張する現象を抑えることができる。
ただし、熱膨張の原因は下記のとおり結晶化した領域の並び方が主な要因であり、延伸倍率だけに左右されるわけではなく、延伸温度もまた重要である。延伸温度が高ければ、延伸中に生じた配向が延伸中に緩和され、延伸倍率が高くても熱膨張が生じにくくなる。一方、延伸倍率が低くても、延伸温度が低ければ、延伸中に生じた配向が保存されるため、十分な収縮率を得ることができる。いずれの場合においても、熱膨張の発生の有無は本願発明によるTMAの測定によってのみ事前に判断することができる。
【0055】
<PPS系樹脂組成物のガラス転移温度Tg>
本発明の熱収縮性チューブは、低温収縮性を発現させるため、示差走査熱量測定(DSC)により求められるガラス転移温度Tgが50℃以上85℃以下であることが好ましい。ここで、Tgが85℃以下であれば、十分な低温収縮性を付与することができ、一方、Tgが50℃以上であれば、使用前の保管時の自然収縮を抑制できることから好ましい。これらのことから、本発明の熱収縮性成形体のガラス転移温度Tgは、好ましくは53℃以上、より好ましくは55℃以上であり、83℃以下、好ましくは80℃以下であることが望ましい。
【0056】
<PPS系樹脂組成物の結晶融解ピーク温度Tm>
本発明の熱収縮性チューブは、製造工程において溶融押出温度がPPS系樹脂組成物の結晶融解ピーク温度Tmから40℃以上100℃以下(Tm+40℃〜Tm+100℃)、好ましくは40℃以上80℃以下(Tm+40℃〜Tm+80℃)、さらに好ましくは43℃以上70℃以下(Tm+43℃〜Tm+70℃)の温度範囲であることが望ましい。PPS系樹脂組成物の溶融押出温度がTm+40℃よりも低いと、熱収縮性チューブの結晶化度を充分に小さくすることが困難になる場合がある。また、溶融押出温度がTm+100℃より高くなると、熱収縮性チューブ状の結晶化度は小さくなるものの、PPS系樹脂組成物に含まれるPPS系樹脂以外の樹脂、エラストマーまたは可塑剤が熱分解しやすくなる場合がある。
【0057】
<PPS系樹脂組成物の結晶化ピーク温度Tc>
本発明の熱収縮性チューブは、製造工程においてPPS系樹脂組成物の結晶化ピーク温度Tcを制御することも望ましい。結晶化ピーク温度Tcが十分低ければ、溶融押出の後、冷却して引き取る際に非晶のままで熱収縮性チューブを採取することができ、その後の延伸工程を安定して行なうことができるので好ましい。PPS系樹脂組成物の結晶化ピーク温度Tcが高いと、溶融押出の後、冷却して非晶のまま引き取ろうとしても、熱収縮性チューブのシートの内部で温度勾配が生じ、徐冷となる箇所ができ、結果として、延伸前の熱収縮性チューブは不均一に結晶化したものとなり、延伸工程も不安定になる傾向がある。この傾向は、厚みが0.3mm以上ある熱収縮性チューブの製造においてはとりわけ顕著である。
上記結晶化ピーク温度Tcは、示差走査熱量測定(DSC)において結晶融解ピーク温度Tm+40℃からTm+100℃まで昇温し1分間保持した後、降温速度10℃/分で測定することができる。
【0058】
本発明の熱収縮性チューブを構成するPPS系樹脂組成物の結晶化ピーク温度Tcを制御する方法としては公知の各種の方法を採用することができるが、例として、PPS系樹脂をアミノカルボン酸金属塩などで末端変性することで結晶化ピーク温度Tcを制御する方法(例えば、国際公開WO2007/129721号公報、特開2006−199734号公報参照)、PPS系樹脂の分子量を大きくする方法(例えば、特開2005−15792号公報参照)、メタフェニレンスルフィド単位とパラフェニレンスルフィド単位を共重合させ、低融点化に伴い、結晶化ピーク温度Tcも低下させる方法、重合開始時にトリハロ以上のポリハロ芳香族化合物を併用し、分岐または架橋重合体が形成させ、結晶化ピーク温度Tcを低下させる方法(例えば、特開2007−23263号公報参照)、などを挙げることができる。
【0059】
<TcとTmとの温度差の意義>
本発明において、樹脂組成物のTcとTmとの温度差は、80℃以上であるのが望ましく、そうすることにより、溶融押出後の冷却において、成形体の結晶化を進行させることなく成形体を引き取ることができ、その後の延伸工程も、より連続的に安定して行うことができるようになる。特に、収縮前の厚みが0.3mm以上ある熱収縮性チューブの製造において好適である。
【0060】
本発明の熱収縮性チューブは、UL224 Optional VW−1 Flame TESTにより評価した難燃性がVW−1規格を満たすことが好ましい。難燃性がVW−1規格を満たすことで、自動車や家電製品において、難燃性が必要とされる電気部品の被覆に好適に用いることができる。この難燃性は、ベース樹脂にPPS、可塑剤としてリン系の難燃剤を用いること等により達成できる。
【0061】
本発明の熱収縮性チューブは、JIS K 6911によって評価した体積抵抗率が4×1016Ω・cm以上であることが好ましい。体積抵抗率が4×1016Ω・cm以上であれば、大電気量を貯蔵するアルミ電解コンデンサなどの被覆に好適に用いることができる。これらの値は、ベースのPPS樹脂に顔料として添加する導電性カーボンブラックの重量を、全体の2%以下とすること等で達成できる。
【0062】
本発明の熱収縮性チューブは、JIS C 2110により評価した絶縁破壊電圧が、20kV/mm以上であることが好ましい。絶縁破壊電圧が20kV/mm以上であれば、大きな電気量を貯蔵するアルミ電解コンデンサなどの被覆に好適に用いることができる。これらの値は、ベースのPPS樹脂に顔料として添加する導電性カーボンブラックの重量を、全体の2%以下とすること等で達成できる。
【0063】
本発明の熱収縮性チューブは、JIS K 7125により評価したアルミ板との静止摩擦係数が0.45以下であることが好ましく、より好ましくは0.4以下である。静止摩擦係数が0.45以下であれば、コンデンサなどの電子部品に熱収縮性チューブを被覆させる際、よりスムーズに工程を進めることができる。この摩擦係数は、ホスファゼン系や縮合リン酸エステル系の難燃剤など、常温で固体状態をとる難燃剤を可塑剤として用いること等により達成できる。
【0064】
本発明の熱収縮性チューブを製造する場合、製造方法は、各種の方法を用いることができるが、通常単軸または二軸押出機を用いて原料を融解させ、丸ダイを用いて未延伸チューブを押出し、ついで延伸してシームレスの熱収縮性チューブとする方法が好ましい方法として挙げられる。その他、TダイやIダイを用いて押出・延伸したフィルムを融着、溶着または接着などにより貼合せてチューブ形状とする方法、さらに前記チューブまたはフィルムをスパイラル状に貼合せてチューブ形状とする方法などが挙げられる。
【0065】
溶融押出工程において、各種の単軸押出機または二軸押出機が用いることができるが、成形されたフィルム、シート、チューブの厚みの精度の点で、単軸押出機にペレットを入れる方法が好ましく用いられる。
【0066】
ここで、丸ダイを用いて未延伸チューブを押出し、次いで延伸して熱収縮性チューブとする方法についてさらに詳細に説明する。前記した樹脂組成物は、溶融押出装置により結晶融解ピーク温度以上の温度に加熱溶融され、丸ダイから連続的に押し出した後、強制的に冷却され未延伸チューブに成型される。強制冷却の手段としては、低温の水に浸漬する方法、冷風による方法等を用いることができる。中でも低温の水に浸漬する方法が、冷却効率が高く有効である。この未延伸チューブを連続的に次の延伸工程に供給してもよく、また一度ロール状に巻き取った後、この未延伸ロールを次の延伸工程の原反として用いてもよい。製造効率や熱効率の点から未延伸チューブを連続的に次の延伸工程に供給する方法が好ましい。
【0067】
このようにして得られた未延伸チューブは、チューブ内側より圧縮気体で加圧し、延伸する。延伸方法は特に限定されるものではないが、例えば未延伸チューブの一方の端から圧縮気体による圧力を管の内側に加えつつ一定速度で送り出し、次いで温水または赤外線ヒーター等により加熱し、径方向の延伸倍率を規制するために冷却された円筒管の中を通して固定倍率の延伸を行う。円筒管の適当な位置で延伸される様に温度条件等を調整する。円筒管で冷却された延伸後のチューブは、一対のニップロールにより挟んで延伸張力を保持しながら延伸チューブとして引き取り巻取られる。延伸は、長さ方向又は径方向のいずれの順序でもよいが、同時に行うのが好ましい。
【0068】
延伸条件は、使用する樹脂組成物の特性や目的とする熱収縮率などにより調整される。
長さ方向の延伸倍率は、未延伸チューブの送り速度と延伸後のニップロール速度との比で決められ、径方向の延伸倍率は未延伸外径と延伸チューブ外径の比で決められる。これ以外の延伸加圧方法として、未延伸チューブ送り出し側と延伸チューブ引き取り側双方をニップロールに挟み封入した圧縮気体の内圧を維持する方法も採用できる。
【0069】
本発明の熱収縮性チューブは、未延伸チューブを径方向および長さ方向に延伸して作製される。このとき径方向の延伸倍率は、上記の通り1.2〜1.8倍が好ましく、1.3〜1.7倍がより好ましく、さらに好ましくは1.4〜1.6倍である。また、長さ方向には未延伸でもよいが、好ましくは1.02倍以上で2.0倍以下、好ましくは1.5倍以下、より好ましくは1.3倍以下の範囲の倍率で延伸させて得られたものが好ましい。ここで、熱収縮性チューブの長さ方向の延伸倍率が1.8倍以下であれば、長さ方向の収縮量が大きくなりすぎて、電子部品等を被覆加工したときに被覆位置がずれる現象や、カット長さを長くする必要もないためコストアップを抑えることができる。
【0070】
上記のようにして得られる熱収縮性チューブの厚さは特に限定されないが、一般にコンデンサに使用されるチューブの厚みは、コンデンサの定格電圧に応じて、おおよそ0.05mmから1.0mmまでの範囲、代表的には0.07mmから0.3mmまでの範囲のものが使用されている。また、チューブを折り畳んだ状態の幅(以下「折径」という)が4mmから300mmまでの範囲のものが汎用コンデンサや電池の被覆、汎用の電池のパッケージング全般に対応できる点で好ましい。
【0071】
本発明の熱収縮性チューブは、主にアルミ電解コンデンサなどの電子部材やニッケル水素電池、リチウムイオン電池などの各種電池の被覆用部材として好適に用いることができる。また、他の用途、例えば、電線(丸線、角線)、乾電池、鋼管又はモーターコイルエンド、トランスなどの電気機器や小型モーター、あるいは電球、蛍光灯、ファクシミリやイメージスキャナーの蛍光灯被覆用チューブとしても利用可能である。
【実施例】
【0072】
以下に実施例でさらに詳しく説明するが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。なお、本明細書中に表示される熱収縮性チューブについての種々の測定値及び評価は次のようにして行った。
【0073】
<使用する原料>
以下の評価に供される熱収縮性チューブを構成する樹脂組成物の実施例、比較例、及び参考例で使用した原料を以下に示す。
・PPS1:ポリフェニレンスルフィド樹脂[ポリプラスチックス株式会社製、商品名:フォートロンW300、結晶融解ピーク温度Tm:278℃、溶融粘度(310℃、剪断速度1200sec-1):500Pa・s]
・PPS2:ポリフェニレンスルフィド樹脂[ポリプラスチックス株式会社製、商品名:フォートロン0220C9、溶融粘度(310℃、剪断速度1200sec-1):245Pa・s]
・エラストマー1:エチレン/アクリル酸/無水マレイン酸ターポリマー(ARKEMA(アルケマ)社製、商品名:ボンダインTX8030)
・エラストマー2:酸変性SEBS樹脂(旭化成ケミカルズ株式会社製、商品名:タフテックM1943)
・難燃可塑剤1:ホスホニトリル酸フェニルエステル(株式会社伏見製薬所製、商品名:FP−110)
・難燃可塑剤2:トリフェニルホスフェート(大八化学工業株式会社製、商品名:TPP)
【0074】
<熱変形率測定>
熱変形率測定は、熱機械特性分析(TMA)装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、商品名:TMA/SS7100)を用いて測定した。延伸チューブを50mm×50mmのサイズに切り出し、熱処理枠に固定し、85℃×60分間アニーリングを行なった。アニーリングを行なったサンプルを、チューブの円周方向に平行に20mm、チューブの長さ方向が3mmの長方形になるように切り出し、この長方形の短いほうの2辺から9.8mN/mm2の張力を加えて、5℃/分の昇温速度で20℃から280℃まで加熱しながら、円周方向の熱変形率を測定した。
熱変形率の差は、最初のサンプルに対する測定中のサンプルの長さの比率から計算することができる。TMAの測定結果の一例を図1に示す。本発明において、「熱変形率の最小値」とは、図1において点線の丸で囲った落ち込み部分の熱変形率の値を指す。また、「200℃における熱変形率」とは、図1において点線の四角形で囲った200℃における熱変形率の値を指す。
【0075】
<耐熱試験後膨れ評価>
熱収縮性チューブの耐熱試験後の膨れについては、実施例で得た折径129mm、厚さ0.3mmの熱収縮性チューブを直径76mm、長さ114mmのアルミ製の円筒にかぶせ、ヒートガンを用いて、400℃の熱風を5秒間当てて被覆した後、85℃の熱風乾燥機で60分間アニーリング処理を行なった。その後、サンプルを、200℃の熱風乾燥機に5分間入れ、チューブのゆるみ、膨らみの有無を観察した。
○:200℃の熱風乾燥機に入れても、チューブのゆるみ、膨らみは生じなかった。
×:200℃の熱風乾燥機に入れた後、チューブのゆるみ、膨らみが観察された。
【0076】
<DSC測定>
熱的性質は、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製、商品名:DSC−7)を用いて測定した。測定中は、乾燥窒素を50ml/分で流して、窒素雰囲気で行った。サンプルは、約10mg用い、アルミニウムパンに入れて測定した。DSCチャートは、サンプルを50℃から10℃/分の昇温速度で加熱して測定・記録した。
【0077】
<延伸安定性>
溶融押出と冷却により得られた原チューブに、所定の温度の熱水をシャワー状にかけて予熱しながら、圧縮空気を挿入し、チューブラー延伸を行なった時の延伸性を次のような基準で評価した。
○:圧縮空気を挿入した後は特に問題なく延伸が連続的に行なわれた。
×:圧縮空気を挿入した後に破裂が生じる等、連続的に延伸が不可能であった。
【0078】
<難燃性評価>
熱収縮性チューブの難燃性をUL224 Optional VW−1 Flame Testに基づいて評価した。
○:VW−1規格を満たす。
×:VW−1規格を満たさない。
【0079】
<体積抵抗率>
JIS K 6911 5.13に基づき、実施例で得られた熱収縮性チューブを試験片に規定サイズの二つの電極を接触させ、500Vの直流電圧を印可し、1分後の電極間に流れる電流を測定し抵抗を求めた。
○:体積抵抗率が4×1016Ω・cm以上である。
×:体積抵抗率が4×1016Ω・cm未満である。
【0080】
<絶縁破壊電圧>
JIS C 2110に基づき、実施例で得られた熱収縮性チューブを所定のサイズの試験片に切り出し、2つの電極間に試験片をはさみ電圧をあげていくと、突然破壊が起こる。この絶縁破壊の起こる瞬間の電圧を求めた。上昇電圧速度は1kV/secとした。
○:絶縁破壊電圧が、20kV/mm以上である。
×:絶縁破壊電圧が、20kV/mm未満である。
【0081】
<静止摩擦係数>
JIS K 7125に基づき、実施例により得られた熱収縮性チューブとアルミ板との間の静止摩擦係数を評価した。
○:静止摩擦係数が、0.45以下である。
×:静止摩擦係数が、0.45より大きい。
【0082】
実施例1〜6、比較例1〜7
表1に記載した組成の樹脂組成物を、シリンダーの一部の温度が320℃になるようにシリンダー温度を設定した押出機で溶解させ、丸ダイを通してチューブラー成型加工し、折径129mm、厚さ0.3mmのチューブを得た。得られたチューブを表2に示す条件で径方向に延伸加工を行った。長さ方向はすべて1.05倍で延伸をした。得られた熱収縮性チューブについて特性を評価した結果を表2に示す。なお、比較例6及び7は、延伸が安定せず、チューブの正確な大きさを測定することができなかったため、熱変形率の測定及び耐熱試験後膨れの評価を行うことができなかった。また、比較例6においては、他の実施例・比較例に比べて表面が痘痕状に荒れており、印刷等を施すことができないような状態であった。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【0085】
表2から分かるように、熱変形率の差の絶対値が6.5%より大きい比較例1〜5では、耐熱性試験後の膨れにおいて劣る結果であったのに対し、熱変形率の差の絶対値が6.5%以下である実施例1〜6では、耐熱性試験後の膨れ、難燃性、体積抵抗率、絶縁破壊電圧、および静止摩擦係数のすべての評価項目において優れる。また、Tm−Tcが80℃未満である比較例6及び7では延伸安定性が劣っており、収縮率、厚み等の分布が均一な熱収縮性チューブを得ることができなかったのに対し、Tm−Tcが80℃以上である実施例1〜6では延伸が安定して行なうことができた。したがって、本発明の熱収縮性チューブは、延伸安定性、耐熱性、難燃性、電気絶縁性、およびすべり性を同時に満足することができる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の熱収縮性チューブは、耐熱性、難燃性、電気絶縁性、およびすべり性を同時に満足することができ、アルミ電解コンデンサなどの電子部材やニッケル水素電池、リチウムイオン電池などの各種電池の被覆用部材として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物からなり、熱収縮性チューブを85℃で60分間熱固定した後、熱機械特性分析(TMA)によって、5℃/分の昇温速度で20℃から280℃まで加熱しながら測定された円周方向の熱変形率の最小値と、200℃における円周方向の熱変形率との差の絶対値が0%以上、6.5%以下であることを特徴とする熱収縮性チューブ。
【請求項2】
示差走査熱量測定(DSC)により求められるガラス転移温度Tgが50℃以上85℃以下であり、DSCにおいて結晶融解ピーク温度Tm+40℃からTm+100℃まで昇温し1分間保持した後、降温速度10℃/分で測定される結晶化ピーク温度Tcと前記結晶融解ピーク温度Tmとの温度差が80℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の熱収縮性チューブ。
【請求項3】
前記ポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物が、ポリフェニレンスルフィド系樹脂以外の樹脂、エラストマー、及び可塑剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項1又は2に記載の熱収縮性チューブ。
【請求項4】
UL224 Optional VW−1 Flame Testにより評価した難燃性がVW−1規格を満たす、請求項1〜3のいずれかに記載の熱収縮性チューブ。
【請求項5】
JIS K 6911により評価した体積抵抗率が4×1016Ω・cm以上である、請求項1〜4のいずれかに記載の熱収縮性チューブ。
【請求項6】
JIS C 2110により評価した絶縁破壊電圧が20kV/mm以上である、請求項1〜5のいずれかに記載の熱収縮性チューブ。
【請求項7】
JIS K 7125により評価したアルミ板との間の静止摩擦係数が0.45以下である、請求項1〜6のいずれかに記載の熱収縮性チューブ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の熱収縮性チューブで被覆された部材。
【請求項9】
電子機器又は電気機器の用途に用いられる、請求項8に記載の部材。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の熱収縮性チューブを製造する方法であって、ポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物からなるチューブをチューブラー延伸法により、82〜105℃の温度で、チューブの径方向に1.2〜1.8倍に延伸する工程を含む、熱収縮性チューブの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−116971(P2012−116971A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268703(P2010−268703)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】