説明

熱収縮性チューブ

【課題】生産時に安定して延伸することができ、かつ、ハンダリフロー耐熱性及び難燃性に優れた熱収縮性チューブを提供する。
【解決手段】ポリフェニレンスルフィド系樹脂を含有する樹脂成分100質量部に対してアジン系縮合化合物0.05質量部以上2.5質量部以下を含有し、かつ、示差走査熱量測定(DSC)により求められるガラス転移温度Tgが50℃以上85℃以下であるポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物からなる熱収縮性チューブ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱収縮性チューブに関し、詳しくは、ポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物からなる熱収縮性チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンデンサ等の電子部品は、製品の軽薄短小化のため高密度化し、また自動車の電装部品等、使用温度の高い分野も急速に拡大しつつある。このようなニーズに伴い、コンデンサ被覆用途等で使用されている熱収縮性チューブに対しても良好な難燃性及び耐熱性が求められている。
【0003】
従来、熱収縮性チューブで使用される材料としては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン等が広く知られている。
ポリ塩化ビニル製の熱収縮性チューブは、難燃性に優れるが、耐熱性が不充分であり、また廃棄物処理の際、適切に処理されない場合にはダイオキシン発生等の環境問題を生じるおそれがある。一方、ポリエチレンテレフタレートをはじめとするポリエステル樹脂からなる熱収縮性チューブは、耐熱性に優れるが、難燃性が不充分である。
また、ポリオレフィン系樹脂を用いた熱収縮性チューブは、難燃性を付与するために臭素系難燃剤を添加するため、ポリ塩化ビニル製熱収縮性チューブと同じく廃棄物処理の際、適切に処理されなかった場合には環境問題が生じるおそれがある。また、ポリオレフィン系樹脂を用いた熱収縮性チューブは、耐熱性を付与するために電子線架橋を施すため、チューブを製造する際の工程が複雑になる等の問題点を抱えている。
【0004】
このような状況下、従来、難燃性と耐熱性とを同時に満たす材料としてポリフェニレンスルフィド系樹脂が知られている。ポリフェニレンスルフィド系樹脂は、難燃性及び耐熱性の他、耐薬品性、耐電解液性等の特性を満たす優れた材料である。このような特性に着目して、ポリフェニレンスルフィド系樹脂やポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物からなる熱収縮性チューブが知られている(例えば、特許文献1及び2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−157402号公報
【特許文献2】国際公開第2008/114731号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、コンデンサを基板にハンダ付けにて実装する方法としては、工業的にはハンダフロー形式及びハンダリフロー形式の二つを挙げることができる。ハンダリフロー形式においてはハンダの主成分を基板上に印刷し、コンデンサ等の電子部品をその上に載せ、150〜200℃程度の温度のリフロー炉を通すことで電子部品の基板上への実装を行う。
しかしながら、特許文献1又は2に記載されたポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物からなる熱収縮性チューブでは、この150〜200℃のリフロー炉を通す際、コンデンサに被覆した熱収縮性チューブの一部又は外周全部が膨張し、チューブがコンデンサに密着しなくなるという問題がある。
【0007】
本発明の課題は、生産時に安定して延伸することができ、かつ、ハンダリフロー耐熱性及び難燃性に優れた熱収縮性チューブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、ポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物からなる熱収縮性チューブに関し鋭意検討した結果、特定量のアジン系縮合化合物を含有し、かつ、示差走査熱量測定(DSC)により求められるガラス転移温度Tgが特定の範囲であるポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物からなる熱収縮性チューブが、生産時の延伸安定性、ハンダリフロー耐熱性、外観、難燃性を同時に満足できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、下記[1]〜[6]に関する。
[1]ポリフェニレンスルフィド系樹脂を含有する樹脂成分100質量部に対してアジン系縮合化合物0.05質量部以上2.5質量部以下を含有し、かつ、示差走査熱量測定(DSC)により求められるガラス転移温度Tgが50℃以上85℃以下であるポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物からなることを特徴とする熱収縮性チューブ。
[2]前記樹脂成分が、ポリフェニレンスルフィド系樹脂以外の樹脂及び/又はエラストマーを含有する、上記[1]に記載の熱収縮性チューブ。
[3]前記ポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物が可塑剤を含有する、上記[1]又は[2]に記載の熱収縮性チューブ。
[4]UL224 Optional VW−1 Flame Testにより評価した難燃性がVW−1規格を満たす、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の熱収縮性チューブ。
[5]上記[1]〜[4]のいずれかに記載の熱収縮性チューブで被覆された部材。
[6]電子機器又は電気機器の用途に用いられる、上記[5]に記載の部材。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱収縮性チューブは、難燃性に優れ、かつ、生産時に安定して延伸することができ、しかも、被覆後にハンダリフロー炉等において高熱の雰囲気にさらされても膨れ等を生じることがなくハンダリフロー耐熱性に優れる。また、本発明の熱収縮性チューブは、表面が平滑であり外観に優れる。
本発明の熱収縮性チューブは、電子機器又は電気機器の被覆用部材として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の熱収縮性チューブについて詳細に説明する。
本発明の熱収縮性チューブは、ポリフェニレンスルフィド系樹脂を含有する樹脂成分100質量部に対してアジン系縮合化合物0.05質量部以上2.5質量部以下を含有し、かつ、示差走査熱量測定(DSC)により求められるガラス転移温度Tgが50℃以上85℃以下であるポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物からなることを特徴とする。
【0012】
1.ポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物
1−1.樹脂成分
本発明の熱収縮性チューブを構成するポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物の樹脂成分は、ポリフェニレンスルフィド(以下「PPS」と省略することがある。)系樹脂を含有する。前記樹脂成分は、PPS系樹脂単独で構成されていてもよいが、PPS系樹脂以外の樹脂及び/又はエラストマーを含有してもよい。
【0013】
<ポリフェニレンスルフィド系樹脂>
本発明に用いられるポリフェニレンスルフィド系樹脂は、下記式(1)で表される繰返し単位を、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上含む樹脂である。該繰返し単位が70モル%以上であれば、ポリマーの結晶性や熱転移温度等が必要以上に低下するのを抑えることができ、また、PPS系樹脂を主成分とする樹脂組成物の特徴である耐熱性、難燃性、耐薬品性及び電気的特性等の諸特性が損なわれるのを抑えることができる。
【0014】
【化1】

【0015】
上記PPS系樹脂において、好ましくは30モル%未満、より好ましくは20モル%未満であれば、共重合可能な他のスルフィド結合を有する繰り返し単位が含まれていても構わない。前記繰り返し単位としては、例えば、メタ結合単位、オルト結合単位、3官能単位、エーテル単位、ケトン単位、スルホン単位、アルキル基等の置換基を有するアリール単位、ビフェニル単位、ターフェニレン単位、ビニレン単位、カーボネート単位等が具体例として挙げられ、これらは、単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。この場合、これらの構成単位は、ランダム型又はブロック型等のいずれの共重合方式であっても構わない。
【0016】
上記PPS系樹脂は、直鎖状の分子量50,000以上の高分子であることが好ましいがこれに限定されるものではなく、分岐鎖を有した高分子でも、一部架橋構造を有した高分子であっても用いることができる。
【0017】
上記PPS系樹脂は、低分子量オリゴマーを含んでいても構わないが、耐熱劣化性や機械的強度の点からは、PPS系樹脂の全質量に対する低分子量オリゴマーの含有量が1.5質量%程度以下であることが好ましい。一般に低分子量オリゴマーの分子量は100以上2,000以下の範囲であり、PPS系樹脂中に含まれる低分子量オリゴマーは、ジフェニルエーテル等の溶媒で洗浄することにより除去できる。
【0018】
上記PPS系樹脂の溶融粘度は、熱収縮性チューブを得ることができれば特に制限はないが、320℃、剪断速度100sec-1、オリフィスL/D=10/1(mm)にて測定した見かけ粘度が、100Pa・s以上であることが好ましく、200Pa・s以上であることがより好ましく、400Pa・s以上であることが更に好ましく、かつ10,000Pa・s以下であることが好ましく、5,000Pa・s以下であることがより好ましく、2,000Pa・s以下であることが更に好ましい。見かけ粘度が100Pa・s以上あれば製膜が可能であり、また見かけ粘度が10,000Pa・s以下であれば、押出時における押出機の負荷を抑えることができる。
【0019】
上記PPS系樹脂の製造方法は、任意の製造方法を適用でき、特に限定されるものではないが、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(以下「NMP」と略することがある。)等の非プロトン性有機溶媒中でp−ジクロロベンゼン等のジハロゲン化芳香族化合物と硫化ナトリウム等のナトリウム塩とを反応させるという方法が一般に用いられる。重合度を調整するために苛性アルカリ、カルボン酸アルカリ金属塩等の重合助剤を添加して、230℃以上280℃以下の温度で反応させるのが好ましい。重合系内の圧力、重合時間は、所望する重合度、使用する重合助剤の種類や量等によって適宜決定すればよい。
【0020】
ただし、上記方法ではハロゲン化ナトリウムが副生し、このハロゲン化ナトリウムはNMP等の溶媒に不溶であるため樹脂中に取り込まれてしまい、重合後、多量の水でPPS系樹脂を洗浄しても、PPS系樹脂中のハロゲン化ナトリウムを十分に取り除くことはできない。そこで、ナトリウム塩に代えてリチウム塩を用いて重合を行う方法も用いることができる。
【0021】
上記PPS系樹脂の市販品としては、例えばフォートロン(ポリプラスチックス株式会社製)、DIC−PPS(DIC株式会社製)、トレリナ(東レ株式会社製)等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0022】
<ポリフェニレンスルフィド系樹脂以外の樹脂及びエラストマー>
ポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物の樹脂成分は、PPS系樹脂とPPS系樹脂以外の樹脂及び/又はエラストマーとをブレンド及びアロイ化して構成されていてもよい。
【0023】
ブレンド及びアロイ化用の他の樹脂としては、ポリエステル、液晶ポリマー、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリスチレン、ABS樹脂、イミド変性ABS樹脂、AES樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンエーテルとポリスチレンとの共重合体及び/又は混合物、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン等を例示できる。PPS系樹脂をこれらの樹脂とブレンド及びアロイ化することにより、PPS系樹脂とインキ等との異種材料密着性を高める等の効果が得られる。
【0024】
一方、エラストマーとしては、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、オレフィン系共重合体、スチレン系エラストマー等の熱可塑性エラストマー、ニトリル系ゴム、アクリル系ゴム等が挙げられる。
【0025】
ポリエステル系エラストマーとしては、例えばポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートといった芳香族ポリエステルをハードセグメントとし、ポリエチレングリコールやポリテトラメチレングリコールといったポリエーテル、又はポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリカプロラクトンといった脂肪族ポリエステルをソフトセグメントとするブロック共重合体が挙げられる。
【0026】
ポリアミド系エラストマーとしては、例えばナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12等をハードセグメントとし、ポリエーテル又は脂肪族ポリエステルをソフトセグメントとするブロック共重合体が挙げられる。
【0027】
ポリウレタン系エラストマーとしては、例えば4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等のジイソシアネートとエチレングリコール、テトラメチレングリコール等のグリコールとを反応させることによって得られるポリウレタンをハードセグメントとし、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテル若しくはポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリカプロラクトン等の脂肪族ポリエステルをソフトセグメントとするブロック共重合体が挙げられる。
【0028】
オレフィン系共重合体としては、ブタジエン共重合体、イソプレン共重合体、クロロブタジエン共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、イソブチレン共重合体、イソブチレン−ブタジエン共重合体、イソブチレン−イソプレン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−ブテン共重合体等が挙げられる。
スチレン系エラストマーとしては、スチレン−イソプレン共重合体、ブタジエン−スチレン共重合体(ランダム、ブロック、グラフトの各共重合体)、スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体等が挙げられる。
【0029】
さらに、部分変性したゴム成分も用いることができ、例えば、部分水添スチレン−ブタジエンブロック共重合体、酸変性部分水添スチレン−ブタジエンブロック共重合体、部分水添スチレン−イソプレンブロック共重合体等が挙げられる。なかでも酸変性部分水添スチレン−ブタジエンブロック共重合体が好ましい。ここでいう酸変性とは、マレイン酸、フタル酸、クエン酸、リンゴ酸、アジピン酸、アクリル酸等の有機酸で変性されていることを言い、特にマレイン酸で変性されていることが好ましい。具体例としては、マレイン酸変性SEBSが挙げられる。
【0030】
PPS系樹脂と上記エラストマーとをブレンド又はアロイ化することにより、PPS系樹脂組成物の耐衝撃性等を高めることができる。溶融成形の際、310℃以上の高温に曝されることや、低温での耐衝撃性向上の観点から、エラストマーとしてはオレフィン系共重合体が特に好ましく用いられる。また、PPS系樹脂との接着性を高めるため、これらのオレフィン系共重合体に、無水マレイン酸基や、エポキシ基、シラン基等を官能基として分子鎖中に導入することもでき、無水マレイン酸グラフト共重合ポリオレフィン、無水マレイン酸共重合ポリオレフィン等が好ましく、より好ましくはエチレン/アクリル酸/無水マレイン酸ターポリマーを挙げることができる。
【0031】
上記の無水マレイン酸を共重合したオレフィン系共重合体の市販品としては、例えばモディック(酸変性ポリオレフィン樹脂、三菱化学株式会社製)、アドマー(酸変性ポリオレフィン樹脂、三井化学株式会社製)、ボンダイン(エチレン/アクリル酸/無水マレイン酸ターポリマー、仏アルケマ社製)等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0032】
PPS系樹脂組成物の樹脂成分におけるPPS系樹脂以外の樹脂及び/又はエラストマーの含有量は、PPS系樹脂の難燃性等の特徴や他の樹脂及び/又はエラストマーの添加効果の観点から、PPS系樹脂と他の樹脂及び/又はエラストマーとの合計量を100質量%とした場合、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であり、好ましくは35質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下である。
【0033】
1−2.アジン系縮合化合物
本発明の熱収縮性チューブを構成するPPS系樹脂組成物は、アジン系縮合化合物を含有する。本発明者らは、PPS系樹脂組成物からなる熱収縮性チューブについて鋭意検討を行った結果、PPS系樹脂組成物にアジン系縮合化合物を添加することでハンダリフロー耐熱性を高めることができ、チューブを電子部材等に被覆した後にハンダリフロー処理した際、チューブに膨れが生じるのを防ぐことができることを見出した。
【0034】
一般に、アジン系化合物とは、一般式R12C=N−N=CR34で表される化合物である(式中、R1〜R4は各々独立に、置換又は無置換の炭化水素基を表す。)。本発明では、アジン系縮合化合物として、アジン系化合物の各種縮合物を用いることができるが、前記一般式R12C=N−N=CR34で表される構造を環内に含むアジン系縮合環化合物が好ましく用いられる。このアジン系縮合環化合物は特定の構造式で表すことができる純物質であってもよいし、混合物であってもよい。前記一般式R12C=N−N=CR34で表される構造を環内に含むアジン系縮合環化合物は、その分子構造から各種の色を呈することが知られているが、本発明に用いられるアジン系縮合化合物は有色でも無色でも構わない。
【0035】
アジン系縮合化合物の合成方法としては、各種の公知の方法を用いることができる。例えば、アニリンもしくはアニリンの塩酸塩及びニトロベンゼンに塩酸を加え、銅系又は鉄系等の触媒下で脱水、脱アンモニア、酸化・還元縮合反応でアジン系縮合化合物を得ることができる。このような手法で得られたアジン系縮合化合物は、トリフェナジンオキサジン、フェナジンアジン等を主成分とする混合物であることが知られており、吸収する波長がそれぞれ異なる物質が数多く混合されているため、黒色に見える。
【0036】
このようにして得られた黒色を呈するアジン系縮合化合物に各種の化学的処理を行い得られる色素の例としては、ソルベントブラック5、ソルベントブラック7、ソルベントブラック29等が挙げられる。これらの色素は、染料として工業的に広く利用されており、容易に入手でき、また比較的安価であることから、本発明に用いられるアジン系縮合化合物として好ましい。
【0037】
上記色素の市販品としては、例えばソルベントブラック5(中央合成化学株式会社製、商品名:MB)、ソルベントブラック7(オリヱント化学工業株式会社製、商品名:NUBIAN BLACK TH−827)等を挙げることができる。
【0038】
本発明において、PPS系樹脂組成物におけるアジン系縮合化合物の含有量は、樹脂成分100質量部に対して、0.05質量部以上2.5質量部以下であり、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上であり、また、好ましくは1.5質量部以下、より好ましくは0.9質量部以下である。アジン系縮合化合物の含有量が0.05質量部未満である場合は、PPS系樹脂組成物にハンダリフロー耐熱性を付与することができず、2.5質量部を超える場合は、PPS系樹脂組成物を成形する際の高温の影響で、熱収縮性チューブの外観が悪化する。
【0039】
1−3.可塑剤
本発明の熱収縮性チューブを構成するPPS系樹脂組成物は、樹脂組成物のガラス転移温度Tgを下げ、低温収縮性を発現させるために可塑剤を含有することが好ましい。
本発明で用いられる可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル系可塑剤、テトラヒドロフタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、アジピン酸エステル系可塑剤、セバシン酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、ホスホニトリル酸エステル系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤、ラクタム系可塑剤、スルホンアミド系可塑剤、グリコール酸系可塑剤、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油、ポリオレフィン及びポリシロキサン等の公知の各種可塑剤が挙げられる。中でもホスホニトリル酸エステル系可塑剤をはじめとする難燃剤として機能するものは、PPS系樹脂の特徴である難燃性を損なうことがないため好ましい。
【0040】
上記可塑剤は、熱重量分析(TGA)により窒素雰囲気下10℃/分の昇温速度で20℃から加熱し、質量減少率5%(質量が5%減少すること)となる温度が260℃以上であることが好ましく、270℃以上であることが更に好ましい。上限の温度は可塑剤の種類により定まるが、450℃以下であることが好ましい。
【0041】
本発明において好ましいリン酸エステル系可塑剤としては、より耐熱性の高い、芳香族縮合リン酸エステルや、ホスホニトリル酸フェニルエステル等が挙げられる。これらの難燃剤兼可塑剤を用いることにより、PPS系樹脂の優れた難燃性を損なうことなく樹脂のガラス転移温度を下げることができ、その結果、チューブに低温収縮性を付与できる。
【0042】
本発明において、PPS系樹脂組成物における可塑剤の含有量は、樹脂成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは3質量部以上であり、好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは7質量部以下である。可塑剤の含有量が0.5質量部以上あれば、可塑化効果が得られ、低温収縮性が得られる。また、15質量部以下であれば、溶融粘度の過度の低下や、厚み精度の悪化を抑えることができる。
【0043】
上記可塑剤の市販品としては、例えばホスホニトリル酸フェニルエステル(株式会社伏見製薬所製、商品名:ラビトルFP−110)、4,4’−ビフェニリレンホスホン酸テトラキス(2,6−ジメチルフェニル)(大八化学工業株式会社製、商品名:PX−202)等が挙げられる。
【0044】
1−4.その他の添加剤
本発明の熱収縮性チューブを構成するPPS系樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で任意の添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、滑剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0045】
1−5.PPS系樹脂組成物の製造方法
本発明の熱収縮性チューブを構成するPPS系樹脂組成物は、通常の樹脂組成物の製造方法と同様にして製造することができる。例えば、PPS系樹脂及びアジン系縮合化合物、必要に応じて他の樹脂及び/又はエラストマー、可塑剤、他の添加剤を予備混合して、単軸あるいは2軸の押出機、タンブラー、V型ブレンダー、バンバリーミキサー、ニーダー、ミキシングロール等の任意の溶融混合機に供給して280℃以上360℃以下程度の温度で混練する方法や、2ケ所以上の供給口を有する押出機の各供給口に別々に計量した各原料を供給して混練する方法等が挙げられる。
【0046】
また、原料の混合順序にも特に制限はなく、使用するPPS系樹脂に直接、アジン系縮合化合物、必要に応じて他の樹脂及び/又はエラストマー、可塑剤、他の添加剤を混合して溶融混練する方法、アジン系縮合化合物、必要に応じて他の樹脂及び/又はエラストマー、可塑剤、他の添加剤を、PPS系樹脂に高濃度(代表的な含有量としては5〜60質量%程度)に混合したマスターバッチを別途作製しておき、これをPPS系樹脂に濃度を調整しながら混合する方法、一部の原材料を上記の方法により溶融混練し更に残りの原材料を溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を単軸あるいは二軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法等、いずれの方法を用いてもよい。また、添加量が少量である成分については、他の成分を上記の方法等で混練し、ペレット化した後、成形前に添加して成形に供することもできる。
【0047】
1−6.PPS系樹脂組成物のガラス転移温度Tg
本発明の熱収縮性チューブを構成するPPS系樹脂組成物は、低温収縮性の観点から、示差走査熱量測定(DSC)により求められるガラス転移温度Tgが50℃以上85℃以下であり、好ましくは53℃以上、より好ましくは55℃以上であり、また、好ましくは83℃以下、より好ましくは80℃以下である。Tgが85℃以下であれば、十分な低温収縮性を発現することができ、本発明の熱収縮性チューブにより電子部材等を好適に被覆することができる。一方、Tgが50℃以上であれば、本発明の熱収縮性チューブの使用前の保管時の自然収縮を抑制することができる。
【0048】
2.熱収縮性チューブ
本発明の熱収縮性チューブを製造する場合、製造方法は、各種の方法を用いることができるが、通常、単軸又は二軸押出機を用いて原料を融解させ、丸ダイを用いて未延伸チューブを押出し、ついで延伸してシームレスの熱収縮性チューブとする方法が好ましい方法として挙げられる。その他、TダイやIダイを用いて押出・延伸したフィルムを融着、溶着又は接着等により貼合せてチューブ形状とする方法、更に前記チューブ又はフィルムをスパイラル状に貼合せてチューブ形状とする方法等が挙げられる。
【0049】
溶融押出工程において、各種の単軸押出機又は二軸押出機が用いることができるが、成形されたフィルム、シート、チューブの厚みの精度の点で、単軸押出機にペレットを入れる方法が好ましく用いられる。
【0050】
ここで、丸ダイを用いて未延伸チューブを押出し、次いで延伸して熱収縮性チューブとする方法について更に詳細に説明する。前記PPS系樹脂組成物は、溶融押出装置により結晶融解ピーク温度以上の温度に加熱溶融され、丸ダイから連続的に押し出した後、強制的に冷却され未延伸チューブに成型される。強制冷却の手段としては、低温の水に浸漬する方法、冷風による方法等を用いることができる。中でも低温の水に浸漬する方法が、冷却効率が高く有効である。この未延伸チューブを連続的に次の延伸工程に供給してもよく、また一度ロール状に巻き取った後、この未延伸ロールを次の延伸工程の原反として用いてもよい。製造効率や熱効率の点から未延伸チューブを連続的に次の延伸工程に供給する方法が好ましい。
【0051】
このようにして得られた未延伸チューブは、チューブ内側より圧縮気体で加圧し、延伸する。延伸方法は特に限定されるものではないが、例えば未延伸チューブの一方の端から圧縮気体による圧力を管の内側に加えつつ一定速度で送り出し、次いで温水又は赤外線ヒーター等により加熱し、径方向の延伸倍率を規制するために冷却された円筒管の中を通して固定倍率の延伸を行う。円筒管の適当な位置で延伸されるように温度条件等を調整する。円筒管で冷却された延伸後のチューブは、一対のニップロールにより挟んで延伸張力を保持しながら延伸チューブとして引き取り巻取られる。延伸は、長さ方向又は径方向のいずれの順序でもよいが、同時に行うのが好ましい。
【0052】
延伸条件は、使用する樹脂組成物の特性や目的とする熱収縮率等により調整される。
長さ方向の延伸倍率は、未延伸チューブの送り速度と延伸後のニップロール速度との比で決められ、径方向の延伸倍率は未延伸外径と延伸チューブ外径の比で決められる。これ以外の延伸加圧方法として、未延伸チューブ送り出し側と延伸チューブ引き取り側双方をニップロールに挟み封入した圧縮気体の内圧を維持する方法も採用できる。
【0053】
本発明の熱収縮性チューブは、未延伸チューブを径方向及び長さ方向に延伸して作製される。このとき、本発明の熱収縮性チューブの主収縮方向である径方向の延伸倍率は、1.2〜2.0倍が好ましく、1.4〜1.9倍がより好ましく、更に好ましくは1.5〜1.8倍である。熱収縮性チューブの径方向の延伸倍率が1.2倍以上であれば被覆するのに足りる収縮量が得られ、また2.0倍以下であれば、コンデンサを基板に実装する工程において、熱収縮性チューブが熱膨張する現象を抑えることができる。
また、長さ方向には未延伸でもよいが、好ましくは1.02倍以上で2.0倍以下、好ましくは1.05倍以上1.1倍以下の範囲の倍率で延伸させて得られたものが好ましい。熱収縮性チューブの長さ方向の延伸倍率が2.0倍以下であれば、長さ方向の収縮量が大きくなりすぎて、電子部品等を被覆加工したときに被覆位置がずれる現象や、カット長さを長くする必要もないためコストアップを抑えることができる。
【0054】
上記のようにして得られる熱収縮性チューブの厚さは特に限定されないが、コンデンサに使用されるチューブの厚みは、コンデンサの定格電圧に応じて、約0.05mmから1.0mmまでの範囲、代表的には0.07mmから0.3mmまでの範囲のものが好ましい。また、チューブを折り畳んだ状態の幅(以下「折径」という)が4mmから300mmまでの範囲のものが、汎用コンデンサや電池の被覆、汎用の電池のパッケージング全般に対応できる点で好ましい。
【0055】
本発明の熱収縮性チューブは、UL224 Optional VW−1 Flame TESTにより評価した難燃性がVW−1規格を満たすことが好ましい。難燃性がVW−1規格を満たすことで、自動車や家電製品において、難燃性が必要とされる電気部品の被覆に好適に用いることができる。この難燃性は、ベース樹脂にPPS系樹脂、各種エラストマー、可塑剤としてリン系の難燃可塑剤を用いること等により達成できる。
【0056】
本発明の熱収縮性チューブは、容器、電気ケーブル、各種パイプ、電子機器等の各種部材の被覆に用いられ、特には、一次電池、二次電池、アルミ電解コンデンサ、等の電子機器、特に、難燃性が求められる電子機器の被覆の用途に好適に用いられる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、本明細書中に表示される熱収縮性チューブについての種々の測定値及び評価は次のようにして行った。
【0058】
<使用する原料>
以下の評価に供される熱収縮性チューブを構成する樹脂組成物について、実施例及び比較例で使用した原料を以下に示す。
・PPS系樹脂:ポリフェニレンスルフィド樹脂[ポリプラスチックス株式会社製、商品名:フォートロンW300、結晶融解ピーク温度Tm:278℃、溶融粘度(310℃、剪断速度1200sec-1):500Pa・s]
・エラストマー:エチレン/アクリル酸/無水マレイン酸ターポリマー(ARKEMA(アルケマ)社製、商品名:ボンダインTX8030)
・難燃可塑剤:ホスホニトリル酸フェニルエステル(株式会社伏見製薬所製、商品名:FP−110)
・アジン系縮合化合物:ソルベントブラック7(オリヱント化学工業株式会社製、商品名:NUBIAN BLACK TH−827)
【0059】
<DSC測定>
サンプル約10mgをアルミニウムパンに入れて、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製、商品名:DSC−7)を用いてDSC測定を行った。測定中は、乾燥窒素を50ml/分で流して窒素雰囲気で行った。DSCチャートは、サンプルを30℃から10℃/分の昇温速度で加熱して測定・記録した。これらの結果より、樹脂組成物のガラス転移温度及び昇温時の結晶化ピーク温度を測定した。
【0060】
<ハンダリフロー耐熱性>
熱収縮性チューブのハンダリフロー耐熱性の評価試験として、実施例及び比較例で得られた折径129mm、厚さ0.3mmの熱収縮性チューブを、直径76mm、長さ114mmのアルミ製の円筒にかぶせ、ヒートガンを用いて400℃の熱風を5秒間当てて被覆した後、85℃の熱風乾燥機で60分間アニーリング処理を行った。次いで、サンプルを200℃の熱風乾燥機に5分間入れた後、チューブのゆるみ及び膨らみの有無を観察した。
○:熱風乾燥機に入れても、チューブのゆるみ及び膨らみは生じなかった。
×:熱風乾燥機に入れた後、チューブのゆるみ又は膨らみが観察された。
【0061】
<外観>
実施例及び比較例で得られた熱収縮性チューブの外観を次のような基準で評価した。
○:チューブの表面が平滑である。
×:チューブの表面が痘痕状である。
【0062】
<延伸安定性>
溶融押出と冷却により得られた原チューブを90℃の熱水に通して予熱し、更に高温の蒸気を外側から吹きかけながら圧縮空気を挿入し、チューブラー延伸を行った時の延伸性を次のような基準で評価した。
◎:圧縮空気を挿入した後は特に問題なく延伸が連続的に行われた。
○:熱水の温度をなるべく一定に保つことで、連続的に延伸を行うことができた。
×:圧縮空気を挿入した後に破裂が生じる等、連続的に延伸が不可能であった。
【0063】
<難燃性評価>
実施例及び比較例で得られた熱収縮性チューブの難燃性をUL224 Optional VW−1 Flame Testに基づいて評価した。
○:VW−1規格を満たす。
×:VW−1規格を満たさない。
【0064】
実施例1〜2、比較例1〜3
表1に記載した組成の樹脂組成物を、290〜320℃の範囲で温度勾配があるようにシリンダー温度を設定した押出機で溶融させ、丸ダイを通してチューブラー成型加工し、ただちに水に浸漬して冷却して未延伸チューブを得た。冷却した未延伸チューブは連続的に次の延伸工程に供給した。延伸工程では、最初に約90℃の熱水を連続的にチューブに流しかけることで予熱し、続いて圧縮空気を用いたチューブラー二軸延伸法により、未延伸チューブを流れ方向に0.15倍、径方向には1.8倍、同時に延伸を行った。チューブラー二軸延伸をしたものをたたんで巻き取ることで、折径129mm、厚さ0.3mmの熱収縮性チューブを得た。得られた熱収縮性チューブについて特性を評価した結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
アジン系縮合化合物を含有しない樹脂組成物からなる比較例1のチューブ及びアジン系縮合化合物を0.01質量部しか含有しない樹脂組成物からなる比較例2のチューブは、いずれもハンダリフロー耐熱性の評価試験においてチューブの膨れが発生し、ハンダリフロー耐熱性に劣るものであった。また、アジン系縮合化合物を3質量部含有する樹脂組成物からなる比較例3のチューブは、成形時にアジン系縮合化合物が分解してチューブ表面が痘痕状になっており、製品として使用に耐えないものであった。
これに対し、アジン系縮合化合物を0.05質量部以上2.5質量部以下含有する樹脂組成物からなる実施例1及び2のチューブは、いずれもハンダリフロー耐熱性、外観、延伸安定性、難燃性等すべての評価項目において良好な結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の熱収縮性チューブは、主にアルミ電解コンデンサ等の電子部材やニッケル水素電池、リチウムイオン電池等の各種電池の被覆用部材として好適に用いることができる。また、他の用途、例えば、電線(丸線、角線)、乾電池、鋼管又はモーターコイルエンド、トランス等の電気機器や小型モーター、あるいは電球、蛍光灯、ファクシミリやイメージスキャナーの蛍光灯等の被覆用チューブとしても利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンスルフィド系樹脂を含有する樹脂成分100質量部に対してアジン系縮合化合物0.05質量部以上2.5質量部以下を含有し、かつ、示差走査熱量測定(DSC)により求められるガラス転移温度Tgが50℃以上85℃以下であるポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物からなることを特徴とする熱収縮性チューブ。
【請求項2】
前記樹脂成分が、ポリフェニレンスルフィド系樹脂以外の樹脂及び/又はエラストマーを含有する、請求項1に記載の熱収縮性チューブ。
【請求項3】
前記ポリフェニレンスルフィド系樹脂組成物が可塑剤を含有する、請求項1又は2に記載の熱収縮性チューブ。
【請求項4】
UL224 Optional VW−1 Flame Testにより評価した難燃性がVW−1規格を満たす、請求項1〜3のいずれかに記載の熱収縮性チューブ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の熱収縮性チューブで被覆された部材。
【請求項6】
電子機器又は電気機器の用途に用いられる、請求項5に記載の部材。

【公開番号】特開2013−10212(P2013−10212A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143225(P2011−143225)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】