説明

熱収縮性ポリエステル系フィルム、及び熱収縮性ラベル

【課題】少なくとも熱収縮率が高く且つ熱収縮による白化の発生を抑えることができ、さらに、高温でのブロッキング発生が抑制でき、静電気によるトラブル発生を抑制することができる熱収縮性ポリエステル系フィルム、及びこの熱収縮性ポリエステル系フィルムを用いた熱収縮ラベルを提供すること。
【解決手段】少なくとも1種のラジカル重合性モノマーを疎水性共重合ポリエステルにグラフトさせたポリエステル系グラフト共重合体を含有する耐ブロッキング性改良層をポリエステル系基材フィルムの少なくとも片面に設け、且つアニオン系帯電防止剤が前記耐ブロッキング性改良層中に存在する熱収縮性ポリエステル系フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱収縮性ポリエステル系フィルム、及び、該フィルムを用いて製造される熱収縮性ラベルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
加熱により収縮する性質を有する熱収縮性プラスチックフィルムは、ポリエチレンテレフタレート(PET)容器、ポリエチレン容器、ガラス容器などの各種容器のラベル、キャップシール、集積包装などの用途に広く用いられている。かかる熱収縮性プラスチックフィルムとしては、ポリ塩化ビニル系フィルム、ポリスチレン系フィルム、ポリエステル系フィルムなどの延伸フィルムが知られている。
しかしながら、ポリ塩化ビニル系フィルムは、耐熱性が低い上、これを焼却処理すると塩化水素ガスやダイオキシンの発生原因となるなど、環境適合性に関する問題を抱えている。また、ポリ塩化ビニル系フィルムのラベルが設けられているPET製容器等の容器をリサイクル利用する際には、当該容器からラベルを分離しなければならないという問題がある。
【0003】
また、ポリスチレン系フィルムは、収縮後の仕上がり性が良好であるものの、耐溶剤性に乏しいために、ポリスチレン系フィルム表面へ印刷を施す場合には特殊な組成のインキを使用しなければならない。また、ポリスチレン系フィルムをホット用飲料PETボトルラベルとして適用した場合、そのボトル保管の際に使用するホットウォーマーなどの加温設備の熱線等にラベルが接触するとラベルが瞬時に融けてしまうという、耐熱性に関する問題がある。その他、ポリスチレン系フィルムには、商品の良イメージとして要求される透明性が低いこと(ポリスチレン系フィルムを熱風で収縮させると、失透が発生し易い)、処理するための焼却温度を高めなければならないこと、焼却時に多量の黒煙と異臭を発生することなどの問題がある。
【0004】
これに対し、ポリエステル系フィルムは、上述したポリ塩化ビニル系フィルムやポリスチレン系フィルムが有する耐熱性、環境適合性、耐溶剤性などの問題が改善されたフィルムとして、容器のラベルなどとして好適に使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
近年、かかるポリエステル系フィルムに対して、その収縮特性をさらに改善することが求められている。改善が望まれる第一の特性として、ポリエステル系フィルムからなるラベルを加熱収縮により容器に装着する際のラベル(フィルム)の白化抑制がある。この白化は特に熱風などの乾熱によりフィルムを加熱収縮させる場合に生じ易く、また、熱収縮率の高いフィルムで発生し易い傾向がある。そして、生じた白化は、経時的に悪化する傾向がある。低熱収縮率フィルムを選択してラベルの白化を避けることも考えられるが、フィルム収縮のための必要熱量が大きくなるために、特に、耐熱性が低い容器にダメージを与えたり、熱膨張した容器が収縮して元の大きさに戻るときにラベルと容器との密着性が低下したりするなどの問題がある。また、近年進められている、省資源化を背景とした容器原料の使用量削減に基づく容器の薄肉化に伴って、容器の耐熱性が低下する傾向にあることから、上記の容器へのダメージ付与と密着性低下がさらに発生し易くなっている。そのため、熱収縮率が低いフィルムを選択するよりも、熱収縮率が高く、かつ、白化の発生を抑えることができるフィルムが望まれる。
【0006】
また、ポリエステル系フィルムに望まれる第二特性として、収縮ムラの発生抑制がある。さらには、第三特性として、ラベルの飛び上がり(加熱収縮によって容器にラベルを装着する際に、ラベルが所望の装着位置から容器の軸方向(例えば上端方向)に不作為に移動すること)抑制がある。上記第一特性と共に、これら第二特性および第三特性は、ラベルを外観良く容器に装着するために望まれる特性である。収縮ムラは、特に熱風等の乾熱によりフィルムを加熱収縮させる場合に生じ易く、またフィルムが急激に熱収縮するような特性を持つと生じ易い。ラベルの飛び上がりは、主収縮方向と直交する方向の収縮率が高いフィルムを加熱収縮させる場合に生じ易い。いずれも店頭における商品の見栄えに影響を及ぼすことから、収縮時にムラや飛び上がりが生じないフィルムが望まれる。
【0007】
ところで、従来公知のポリエステル系フィルムは絶縁体であることから、そのフィルムには静電気が発生・蓄積し易いといった問題がある。例えば、フィルム製造工程、フィルムへの印刷、フィルム同士の接着等でのロールへのフィルム巻き付きや人体への感電を生じさせる静電気は、フィルムの取り扱いを煩雑にさせる要因となる。また、静電気は所謂印刷ヒゲ、フィルム表面の汚れ等の原因になるため、商品価値の低下を誘引しかねない。したがって、静電気の発生・蓄積が抑えられたポリエステル系フィルムが望まれる。
【0008】
また、必要に応じて印刷加工が施された熱収縮性フィルム(熱収縮性ラベル)を容器に装着する方法としては、熱収縮性フィルムを筒状に加工した後、その内周面が容器の外周面と接するように熱収縮性フィルムを配置し、次いで、このフィルムを熱収縮させて容器の周面にフィルムを密着させる方法が多用されている。熱収縮性フィルムを筒状に加工する方法としては、フィルムの一端部の片面(表面)に溶剤を塗布し、この塗布面をフィルムの他端部の片面(裏面)と貼り合わせて接着する方法が一例として挙げられる。
【0009】
しかしながら、ポリエステル系フィルムの組成によっては、フィルム両端部の接着性が不足する場合があった。この接着性が不足、つまり接着強度が不足した場合には、熱収縮過程または容器取り扱い時に、一度は容器に装着されたラベルが剥離する恐れがある。そのため、上記の接着性が十分な熱収縮性ラベルが望まれる。
【0010】
また、容器に充填される飲料等の内容物が高温であるような場合は、隣接する容器間で、容器に装着された熱収縮性フィルム(熱収縮性ラベル)同士のブロッキングが発生することがある。フィルムには、印刷を含めた加工時の静電気によるトラブル防止のために、静電気防止剤が塗布されることが一般的であり、静電気防止剤が耐熱ブロッキング効果をもたらす。しかしながら、高温の内容物を容器に充填した後は、容器に温水シャワー等を浴びせて冷却することが多く、その結果、フィルム表面に塗布された静電気防止剤が温水で流されてしまい、実質上耐熱ブロッキング効果が得られない場合がある。
【特許文献1】特開平7−138388号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、少なくとも熱収縮率が高く且つ熱収縮による白化の発生を抑えることができると共に、静電気によるトラブル発生を抑制することができ、さらに、高温でのブロッキング発生が抑制された熱収縮性ポリエステル系フィルム、及びこの熱収縮性ポリエステル系フィルムを用いた熱収縮ラベルを提供することを課題として掲げた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
即ち、本発明は以下の構成よりなる。
1. 少なくとも1種のラジカル重合性モノマーを疎水性共重合ポリエステルにグラフトさせたポリエステル系グラフト共重合体を含有する耐ブロッキング性改良層をポリエステル系基材フィルムの少なくとも片面に設け、且つアニオン系帯電防止剤が耐ブロッキング性改良層中に存在することを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルム。
2. ポリエステル系基材フィルムの少なくとも片面に、ポリエステル系グラフト共重合体及び帯電防止剤を含む塗布液を塗布して乾燥した後、さらに少なくとも一軸延伸し、次いで熱固定して、アニオン系帯電防止剤を含む耐ブロッキング性改良層を形成した上記第1に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
3. ラジカル重合性モノマーが、少なくともマレイン酸無水物とスチレンとを含む上記第1または第2に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
4. アニオン系帯電防止剤が、アルキル基を有し且つ炭素数が10〜20である上記第1から第3のいずれか1項に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
5. 95±0.5℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向の熱収縮率が30〜60%であり、
59.5〜90.5℃かつ[一定温度±0.5℃]に該当するいずれかの温度の温水中に10秒間浸漬した際において主収縮方向に直交する方向の長さが伸長する上記第1から第4のいずれか1項に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
〔本発明に係る熱収縮性ポリエステル系フィルムにおいて、「主収縮方向」とは、試料フィルムの最も収縮した方向を意味し、正方形のフィルムを試料とする場合、その正方形の縦方向または横方向が収縮方向となる。「熱収縮率」とは、温水中に試料フィルムを無荷重状態で浸漬した後、25℃の水中に10秒浸漬して引き上げ、温水への浸漬前(収縮前)と25℃の水への浸漬後(収縮後)の試料フィルムの寸法を下記式(1)に当てはめて算出される値である。また、「59.5〜90.5℃かつ[一定温度±0.5℃]に該当するいずれかの温度」とは、例えば、60±0.5℃、65±0.5℃、70±0.5℃、75±0.5℃、80±0.5℃、85±0.5℃、および90±0.5℃から選択された一種または二種以上の温度である。
式(1):熱収縮率(%)
=100×(収縮前の長さ−収縮後の長さ)÷(収縮前の長さ) 〕
6. 80±0.5℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向の熱収縮率が、40%未満である上記第1から第5のいずれか1項に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
7. 60±0.5℃、65±0.5℃、70±0.5℃、75±0.5℃、80±0.5℃、85±0.5℃、90±0.5℃、および95±0.5℃の温水中に10秒間浸漬した際の何れかの温水中への浸漬で主収縮方向の熱収縮が始まり、
[(主収縮方向の熱収縮率が0%を超えた温度+10℃)の主収縮方向の熱収縮率]から[(主収縮方向の収縮率が0%を超えた温度−5℃)の主収縮方向の熱収縮率]を減じた値が20%未満である上記第1から第6のいずれか1項に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
8. 熱収縮後のヘーズが10%以下である上記第1から第7のいずれか1項に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
〔熱収縮後のヘーズは、次の通り決定される。すなわち、温度30℃、相対湿度85%の雰囲気に4週間保存した熱収縮性ポリエステル系フィルムを使用し、主収縮方向が径方向となるように作成した直径11cmのチューブ状フィルムを用いて、次の方法により求められる。
チーブ状フィルム内に温度40℃の円筒状ガラス瓶(直径6.6cm)を配置させ、そのフィルムに向けて150℃(風速10m/秒)の熱風を13秒当て、熱風による収縮後のフィルム(チューブ状フィルムサンプル数10)を切り出し、これを熱収縮後のフィルム試料とする。熱収縮後のフィルムのヘーズをJIS K7136に準拠して測定して、その平均値が熱収縮後のヘーズである。〕
9. 非塩素系有機溶剤で接着可能である上記第1から第8のいずれか1項に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
10. 上記第1から第9のいずれか1項に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムより作製された熱収縮性ラベル。
【発明の効果】
【0013】
本発明において、水蒸気により収縮させた場合だけでなく熱風により収縮させた場合においても優れた熱収縮特性を有し、かつ、熱収縮処理を行った場合の白化の発生が抑制され、さらに、熱収縮によるシワ、端部の折れ込み、および飛び上がりが抑制されるのみならず、高温でのブロッキングの発生も抑制された熱収縮性ポリエステル系フィルムを得ることができた。さらに、熱収縮性ポリエステル系フィルムの表面に存在しているアニオン系帯電防止剤は、フィルム内部に練り込まれていないからこそフィルムの表面固有抵抗値を低く抑え、静電気によるトラブル発生の抑制が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、少なくとも1種のラジカル重合性モノマーを疎水性共重合ポリエステルにグラフトさせたポリエステル系グラフト共重合体、及びアニオン系帯電防止剤を含有する耐ブロッキング性改良層を、ポリエステル系基材フィルムの少なくとも片面に設けたことを特徴とする。以下、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムについて説明する。
【0015】
(ラジカル重合性モノマー)
本発明で用いるラジカル重合性モノマーとしては、親水性ラジカル重合性モノマーを必須的に含むラジカル重合性モノマーであることが好ましい。これにより、本発明の耐ブロッキング性改良層を、ポリエステル系グラフト共重合体の水系溶媒の分散液を用いて形成することができるからである(詳細は後述する)。
【0016】
親水性ラジカル重合性モノマーとは、親水基を有するか、後で親水基に変化できる基を有するラジカル重合性モノマーを意味する。親水基を有するラジカル重合性モノマーとしては、カルボキシル基、ヒドロキシル基、リン酸基、亜リン酸基、スルホン酸基、アミド基、第4級アンモニウム塩基等を含むラジカル重合性モノマーを挙げることができる。一方、親水基に変化できる基を有するラジカル重合性モノマーとしては、酸無水物基、グリシジル基、クロル基等を含むラジカル重合性モノマーを挙げることができる。
【0017】
具体的には、フマル酸とその無水物、フマル酸モノエチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジブチルなどのフマル酸のモノエステルまたはジエステル;マレイン酸とその無水物、マレイン酸モノエチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチルなどのマレイン酸のモノエステルまたはジエステル;イタコン酸とその無水物、イタコン酸のモノエステルまたはジエステル;フェニルマレイミド等のマレイミド;スチレン、α−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、クロロメチルスチレン等のスチレン誘導体;ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
【0018】
また、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート(アルキル基としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、フェニルエチル基等);2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のヒドロキシ含有アクリル単量体;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N,N−ジメチロールアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−メトキシメチルメタクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド等のアミド基含有アクリルモノマー;N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート等のアミノ基含有アクリルモノマー;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有アクリルモノマー;アクリル酸、メタクリル酸及びそれらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩)等のカルボキシル基またはその塩を含有するアクリルモノマーが挙げられる。
上記親水性ラジカル重合性モノマーは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
これらの中でも、ポリエステル系グラフト共重合体の水分散性、及び酸価を好適な範囲(後述する)にする点から、親水基はカルボキシル基が好ましく、したがって、親水性ラジカル重合性モノマーは、カルボキシル基を有するか、カルボキシル基を発生する基を有するラジカル重合性モノマーが好ましく、例えば、マレイン酸無水物とそのエステルが挙げられる。
【0020】
本発明においては、ラジカル重合性モノマーが、少なくともマレイン酸無水物とスチレンとを含んでいることが好ましい。
【0021】
(疎水性共重合ポリエステル)
本発明で用いる疎水性共重合ポリエステルは、本来それ自身で水に分散または溶解しない本質的に水不溶性のポリエステルであることが好ましい。水に分散するまたは溶解するポリエステルをグラフト重合の際の幹ポリマーとして使用する場合に比べて、耐水性に優れているからである。
【0022】
疎水性共重合ポリエステルは、主鎖あるいは側鎖にエステル結合を有するもので、多価カルボン酸とグリコールとを重縮合して得られるものである。疎水性共重合ポリエステルを構成する多価カルボン酸成分としては、芳香族、脂肪族、脂環族のジカルボン酸や、ラジカル重合性二重結合を含有するジカルボン酸、3価以上の多価カルボン酸、あるいはこれらのエステル誘導体を用いることができる。
【0023】
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸等を挙げることができる。芳香族ジカルボン酸のエステル誘導体としては、前記の具体的に挙げた芳香族ジカルボン酸のジアルキルエステル、ジアリールエステルが挙げられる。5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の親水基含有ジカルボン酸は、耐水性が低下することから用いない方が好ましい。
【0024】
脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸等を挙げることができる。
【0025】
脂環族ジカルボン酸としては、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸とその酸無水物等を挙げることができる。
【0026】
ラジカル重合性二重結合を含有するジカルボン酸としては、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等のα、β−不飽和ジカルボン酸;2,5−ノルボルネンジカルボン酸無水物、テトラヒドロ無水フタル酸等のラジカル重合性二重結合を含有する脂環族ジカルボン酸等を挙げることができる。重合性の点から、フマル酸、マレイン酸、2,5−ノルボルネンジカルボン酸が好ましい。
【0027】
本発明で用いる疎水性共重合ポリエステルは、ジカルボン酸成分100モル%中、芳香族ジカルボン酸60〜99.5モル%、脂肪族ジカルボン酸および/または脂環族ジカルボン酸0〜39.5モル%、ラジカル重合性二重結合を含有するジカルボン酸0.5〜10モル%であることが好ましい。
【0028】
芳香族ジカルボン酸の含有率が60モル%未満である場合や脂肪族ジカルボン酸および/または脂環族ジカルボン酸の含有率が39.5モル%を越える場合は、耐熱性が低下する場合がある。また、ラジカル重合性二重結合を含有するジカルボン酸の含有率が0.5モル%未満の場合、疎水性共重合ポリエステルに対するラジカル重合性モノマーの効率的なグラフト化が行われ難くなる。逆に、ラジカル重合性二重結合を含有するジカルボン酸の含有率が10モル%を越える場合は、グラフト化反応の後期に粘度が上昇し過ぎて、反応の均一な進行を妨げる場合があるので好ましくない。
【0029】
より好ましくは、芳香族ジカルボン酸の含有率が63〜98モル%、脂肪族ジカルボン酸および/または脂環族ジカルボン酸の含有率が0〜30モル%、ラジカル重合性二重結合を含有するジカルボン酸の含有率が2〜7モル%である。
【0030】
疎水性共重合ポリエステルを構成するグリコール成分は、炭素数2〜10の脂肪族グリコールおよび/または炭素数6〜12の脂環族グリコールおよび/またはエーテル結合含有グリコールよりなる。
【0031】
炭素数2〜10の脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−エチル−2−ブチルプロパンジオール等を挙げることができる。
【0032】
炭素数6〜12の脂環族グリコールとしては、1,4−シクロヘキサンジメタノール等を挙げることができる。
【0033】
エーテル結合含有グリコールとしては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールの他、ビスフェノール類の二つのフェノール性水酸基に、エチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドを付加して得られるグリコール類、例えば2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン等を挙げることができる。ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールも必要により使用し得る。
【0034】
本発明で用いる疎水性共重合ポリエステルには、0〜5モル%の3官能以上のポリカルボン酸および/またはポリオールを共重合することができるが、3官能以上のポリカルボン酸としては、(無水)トリメリット酸、(無水)ピロメリット酸、(無水)ベンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメシン酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)等が挙げられる。また、3官能以上のポリオールとしては、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0035】
3官能以上のポリカルボン酸および/またはポリオールは、全酸成分あるいは全グリコール成分に対し0〜5モル%、望ましくは0〜3モル%の範囲で共重合される。5モル%を越えると重合時のゲル化が起こり易い。
【0036】
本発明で用いる疎水性共重合ポリエステルの重量平均分子量は、5000〜50000の範囲が好ましい。重量平均分子量が5000未満の場合は耐熱性の低下があり、50000を越えると重合時にゲル化する等の問題が起きる。
【0037】
(疎水性共重合ポリエステルへのラジカル重合性モノマーのグラフト化)
本発明における、疎水性共重合ポリエステルへのラジカル重合性モノマーのグラフト化は、疎水性共重合ポリエステルを有機溶剤中に溶解させた状態において、グラフト重合開始剤を用いて少なくとも一種のラジカル重合性モノマーを反応させることにより行う。
【0038】
なお、グラフト反応終了後の反応生成物は、所望の疎水性共重合ポリエステルとラジカル重合性モノマーとのグラフト共重合体の他に、グラフト化を受けなかった疎水性共重合ポリエステル及び疎水性共重合ポリエステルにグラフトしなかったラジカル重合性モノマーから得られる(共)重合体をも含有している。本明細書におけるポリエステル系グラフト共重合体とは、上記したポリエステル系グラフト共重合体だけでなく、これに加えて、グラフト化を受けなかった疎水性共重合ポリエステル、グラフトしなかったラジカル重合性モノマーから得られる(共)重合体およびモノマー(残存モノマー)も含む反応混合物をも包含する。
【0039】
本発明の目的に適合する疎水性共重合ポリエステルとラジカル重合性モノマーの質量比率は、ポリエステル/ラジカル重合性モノマー=40/60〜95/5の範囲が望ましく、55/45〜93/7の範囲がさらに望ましく、60/40〜90/10の範囲が最も望ましい。疎水性共重合ポリエステルの質量比率が40質量%未満であるとき、ポリエステル樹脂の優れた耐熱性を発揮することができない。一方、疎水性共重合ポリエステルの質量比率が95質量%を超えるときは、ポリエステル樹脂の欠点であるブロッキングが起こり易くなる。
【0040】
本発明で用い得るグラフト重合開始剤としては、例えば、当業者に公知の有機過酸化物類や有機アゾ化合物類が挙げられる。有機過酸化物としては、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレートが挙げられる。有機アゾ化合物としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルパレロニトリル)、アゾビスジメチルバレロニトリル等が挙げられる。グラフト重合を行うための重合開始剤の使用量は、ラジカル重合性モノマーに対して、少なくとも0.2質量%以上、好ましくは0.5質量%以上である。
【0041】
本発明においては、グラフト重合開始剤の他に、枝ポリマーの鎖長を調節するための連鎖移動剤、例えば、オクチルメルカプタン、メルカプトエタノール、3−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソールなどを必要に応じて用い得る。この場合、連鎖移動剤は、ラジカル重合性モノマーに対して0〜5質量%の範囲で添加することが望ましい。
【0042】
疎水性共重合ポリエステルへのラジカル重合性モノマーのグラフト化に際して用いる反応溶媒は、沸点が50〜250℃の水性有機溶媒から構成されることが好ましい。ここで水性有機溶媒とは、20℃における水に対する溶解性が少なくとも10g/L以上、望ましくは20g/L以上である有機溶媒を意味する。沸点が250℃を越える水性有機溶媒は、蒸発速度が余りにおそく、塗膜の高温焼付によっても溶媒を充分に取り除くことができないので不適当である。また沸点が50℃以下の水性有機溶媒では、かかる溶媒中でグラフト化反応を実施する場合、50℃以下の温度でラジカルに解裂するグラフト重合開始剤を用いねばならず取扱上の危険が増大することから好ましくない。
【0043】
本発明で用いる水性有機溶媒のうち、疎水性共重合ポリエステルをよく溶解し、かつカルボキシル基含有ラジカル重合性モノマーを含むラジカル重合性モノマー、およびラジカル重合性モノマーのグラフト反応生成物(ポリエステル系グラフト共重合体)を比較的良く溶解する第一群の水性有機溶媒として、例えば、酢酸エチル等のエステル類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,3−ジオキソラン等の環状エーテル類;エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコ−ルプロピルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル等のグリコールエーテル類;メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール等のカルビトール類;グリコール類;エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート等の、グリコールエーテルの低級エステル類;ダイアセトンアルコール等のケトンアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のN−置換アミド類が挙げられる。
【0044】
また、疎水性共重合ポリエステルはほとんど溶解しないが、カルボキシル基含有ラジカル重合性モノマーを含むラジカル重合性モノマー、およびラジカル重合性モノマーのグラフト反応生成物を比較的よく溶解する第二群の水性有機溶媒として、水、低級アルコール類、低級カルボン酸類、低級アミン類等が挙げられる。本発明の実施に特に好ましい第二群の水性有機溶媒は、炭素数1〜4のアルコール類およびグリコール類である。
【0045】
グラフト化反応を単一溶媒で行なう態様としては、例えば、第一群の水性有機溶媒からただ一種を選んで行なう態様を挙げることができる。混合溶媒で行なう態様としては、例えば、第一群の水性有機溶媒からのみ複数種選ぶ態様や、第一群の水性有機溶媒から少なくとも一種を選び、それに第二群の水性有機溶媒から少なくとも一種を加える態様を挙げることができる。
【0046】
反応溶媒が、第一群の水性有機溶媒からの単一溶媒である場合と、第一群および第二群の水性有機溶媒のそれぞれ一種からなる混合溶媒である場合のいずれにおいても、グラフト重合反応を行なうことができる。しかし、グラフト化反応の進行挙動、グラフト化反応生成物およびそれから導かれる水分散体の外観、性状などに差異がみられる。本発明のグラフト反応においては、第一群および第二群の水性有機溶媒のそれぞれ一種からなる混合溶媒を用いる方が好ましい。というのも、疎水性共重合ポリエステルの溶解状態を調節し分子間架橋を起こり難くすることが、グラフト反応中のゲル化の防止に有効であるところ、効率の高いグラフト化とゲル化抑制の両立は後者の混合溶媒系において達成できるからである。これは、第一群の溶媒中では疎水性共重合ポリエステル分子鎖が延びた(広がりの大きい)状態にあり、一方、第一群/第二群の混合溶媒中では疎水性共重合ポリエステル分子鎖が糸まり状に絡まった(広がりの小さい)状態にあることが、これら溶液中の疎水性共重合ポリエステルの粘度測定により確認されたことに基づく。
【0047】
本発明においては、第一群/第二群の混合溶媒の質量比率は、より望ましくは95/5〜10/90、さらに望ましくは90/10〜20/80、最も望ましくは85/15〜30/70の範囲である。最適の質量比率は、使用する疎水性共重合ポリエステルの溶解性などに応じて決定される。
【0048】
(ポリエステル系グラフト共重合体)
上記グラフト化によって得られるポリエステル系グラフト共重合体は、有機溶媒の溶液もしくは分散液、あるいは、水系溶媒の溶液もしくは分散液の形態になる。特に、水系溶媒の分散液、すなわち、水分散体の形態が、作業環境、塗布性の点で好ましい。この様な水分散体は、上記水性有機溶媒中で疎水性共重合ポリエステルに親水性ラジカル重合性モノマーを含むラジカル重合性モノマーをグラフト重合した後、水を添加し、次いで水性有機溶媒を留去することにより得ることができる。
【0049】
本発明において、ポリエステル系グラフト共重合体の酸価は、600eq/106g以上であることが好ましい。より好ましい酸価は1200eq/106g以上である。ポリエステル系グラフト共重合体の酸価が600eq/106g未満である場合は、ライマー処理材に被覆される層との接着性が十分とはいえない。
【0050】
ポリエステル系グラフト共重合体のガラス転移温度は、特に制限されるものではないが、好ましくは30℃以下である。ガラス転移温度が30℃以下のポリエステル系グラフト共重合体を耐ブロッキング性改良層に用いることにより、特に耐熱ブロッキング性に優れた熱収縮性ポリエステル系フィルムが得られる。
【0051】
本発明での水分散体は、レーザー光散乱法により測定される平均粒子径が500nm以下の、半透明ないし乳白色の外観を呈する。重合方法の調整により、多様な粒子径の水分散体が得られるが、粒子径は10〜500nmが適当であり、分散安定性の点から400nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましい。粒子径が500nmを越えると被覆膜表面の光沢の低下がみられ、被覆物の透明性が低下する場合がある。また、10nm未満では、本発明の目的である耐熱ブロッキング性が低下する場合がある。
【0052】
本発明で用いるポリエステル系グラフト共重合体は、塩基性化合物で中和することが好ましく、中和することによって容易に水分散化することが出来る。塩基性化合物としては、塗膜形成時、あるいは硬化剤配合による焼付硬化時に揮散する化合物が望ましく、アンモニア、有機アミン類等が好適である。望ましい化合物の例としては、トリエチルアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどが挙げられる。
【0053】
塩基性化合物は、ポリエステル系グラフト共重合体中に含まれるカルボキシル基含有量に応じて、少なくとも部分中和、または完全中和によって水分散体のpH値が5.0〜9.0の範囲であるように使用するのが望ましい。沸点が100℃以下の塩基性化合物を使用した場合であれば、乾燥後の塗膜中の残留塩基性化合物を少なくし易いことから、塗膜の安定性に優れる。また100℃以上の塩基性化合物を使用したり乾燥条件を制御したりして、乾燥後の塗膜中に塩基化合物を500ppm以上残留させることにより、印刷インクの転移性が向上する。
【0054】
本発明で用いるポリエステル系グラフト共重合体では、ラジカル重合性モノマーの重合物の重量平均分子量は500〜50,000であるのが好ましい。ラジカル重合性モノマーの重合物の重量平均分子量を500未満にコントロールすることは一般に困難であり、グラフト効率が低下し、疎水性共重合ポリエステルへの親水性基の付与が十分に行なわれない傾向がある。また、ラジカル重合性モノマーのグラフト重合物は分散粒子の水和層を形成するが、十分な厚みの水和層をもたせ、安定な水分散体を得るためにはラジカル重合性モノマーのグラフト重合物の重量平均分子量は500以上であることが望ましい。また、ラジカル重合性モノマーのグラフト重合物の重量平均分子量の上限は、溶液重合における重合性の観点から50,000が好ましい。この範囲内での重量平均分子量のコントロールは、開始剤量、モノマー滴下時間、重合時間、反応溶媒、モノマー組成あるいは必要に応じて連鎖移動剤や重合禁止剤を適宜組み合わせることにより行なうことができる。
【0055】
また、本発明に係るフィルムの他の特徴は、この表面の少なくとも片面(好ましくは両面)にアニオン系帯電防止剤が存在していることである。練り込み等によりアニオン系帯電防止剤をフィルム原料に含ませることによっても、フィルム内部から表面にアニオン系帯電防止剤が滲みでれば静電気の発生と蓄積を抑えることが可能である。しかしながら、フィルムを構成するポリエステルのガラス転移温度は一般的に高いため、常温およびその付近の温度でアニオン系帯電防止剤がフィルム表面に滲み出難いことが多く、静電気の発生と蓄積を十分に抑えることができない傾向にある。また、樹脂の延伸により製造される本発明に係るフィルムを製造するための製膜温度が比較的高く、更にはポリエステルが有する極性基の反応活性が高いこともあって、フィルム原料中に帯電防止剤が配合されれば、製膜時にポリエステルの劣化が促されるがためにフィルムの物理的性質の低下や着色が発生することがある。
【0056】
フィルム表面に形成される耐ブロッキング性改良層中のアニオン系帯電防止剤の存在量は、0.001〜0.5g/m2であることが好ましい。アニオン系帯電防止剤の存在量が上記範囲を下回ると、帯電防止効果を十分に確保できないことがある。他方、アニオン系帯電防止剤の存在量が上記範囲を超えると、フィルムの透明性や耐ブロッキング性が低下することがある。
上記アニオン系帯電防止剤は、アルキル基を有し且つ炭素数が10〜20のものが好ましい。このような帯電防止剤であれば、例えば、フィルム製造やフィルムの二次加工での熱による飛散・消失があっても当該飛散等の量を低く抑えることができる。また、炭素数が20を超える場合には、帯電防止剤自体の帯電防止効果が不十分な場合がある。より好ましいアニオン系帯電防止剤は、その炭素数が12〜18のものである。
【0057】
公知の帯電防止剤から本発明におけるアニオン系帯電防止剤を選定することができ、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール酸化エチレン付加体の硫酸エステル塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩などの硫酸及びスルホン酸誘導体から選択すると良い。より具体的には、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエトキシ硫酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩が挙げられる。好適なアニオン系帯電防止剤としては、例えば、ドデシルスルホネート、ドデシルベンゼンスルホネートが挙げられる。
【0058】
(耐ブロッキング性改良層)
本発明の耐ブロッキング性改良層は、上記ポリエステル系グラフト共重合体と帯電防止剤のみから形成することもできるが、他の目的から、汎用のポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル樹脂、それらの共重合体、各種水溶性樹脂、あるいは、例えばポリアニリンやポリピロール等の導電性樹脂や抗菌性樹脂、紫外線吸収性樹脂、ガスバリアー性樹脂等の各種機能性樹脂を混合して形成してもかまわない。
【0059】
また、耐ブロッキング性改良層中には、本発明の効果を損なわない範囲で、各種の添加剤、例えば界面活性剤、無機滑剤、有機滑剤、抗菌剤、光酸化触媒、紫外線吸収剤等が配合されていてもよい。
【0060】
(ポリエステル系基材フィルム)
本発明で用いるポリエステル系基材フィルムとしては、多価カルボン酸とグリコールを重縮合して得られるものであれば特に限定されるものではないが、かかるポリエステル系基材フィルムを用いて得られる本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムが、後述する特性を示し得るためには、下記のように構成されることが好ましい。
【0061】
ポリエステル系基材フィルムを構成する多価カルボン酸としては、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸のエステル、脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0062】
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−1,4―ジカルボン酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸が挙げられる。芳香族ジカルボン酸のエステルとしては、前記の具体的に挙げた芳香族ジカルボン酸のジアルキルエステル、ジアリールエステルが挙げられる。脂肪族ジカルボン酸としては、ダイマー酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、シュウ酸、コハク酸が挙げられる。なお、p−オキシ安息香酸などのオキシカルボン酸;無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の3価以上のカルボン酸;が必要に応じて、ポリエステル系基材フィルムを構成する多価カルボン酸成分となっていても良い。
【0063】
ポリエステル系基材フィルムを構成するグリコール成分としては、ジオール、トリオールなどがある。
【0064】
ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、トリエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールなどのアルキレングリコール;ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ビスフェノール系化合物、またはその誘導体のアルキレンオキサイド付加物などのエーテルグリコール類;ダイマージオール;が挙げられる。また、トリオールとしては、例えば、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトールなどのアルキルトリオールが挙げられる。
【0065】
上記グリコール成分のうち、ネオペンチルグリコールや1,4−シクロヘキサンジメタノールなどは、フィルムの非晶化と高熱収縮性を実現するための有用な成分であり、ネオペンチルグリコールおよび1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの量は、全ジオールを100モル%としたときに5〜40モル%が良く、10〜35モル%が好ましく、更にフィルムの溶剤接着性を考慮すれば、18〜35モル%がより好ましく、20〜35モル%が更に好ましい。また、1,4−ブタンジオール、1,3−プロパンジオールなどは、フィルムのガラス転移温度低下と低温度域での熱収縮性を発現させるのに有用であるが、過剰量であると低温度領域で急激な熱収縮が生じて収縮後の仕上がりと透明性が悪化する場合があるので1,4−ブタンジオール等の量は適宜に設定される。
【0066】
多価カルボン酸とグリコールが縮合してできるポリエステルの繰り返し構成単位に相当する酸成分由来の単位とグリコール成分由来の単位を1つずつ有するものを「ユニット」とした場合、本発明に係るポリエステル系基材フィルムは、優れた熱収縮特性、白化発生の抑制、および溶剤による良接着性を実現可能な、エチレングリコールおよびテレフタル酸とからなるユニット(エチレンテレフタレートユニット)、ネオペンチルグリコールおよびテレフタル酸とからなるユニット(ネオペンチルテレフタレートユニット)、1,4−シクロヘキサンジメタノールおよびテレフタル酸とからなるユニット(1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレートユニット)、1,4−ブタンジオールとテレフタル酸とからなるユニット(ブチレンテレフタレートユニット)、プロピレングリコールおよびテレフタル酸とからなるユニット(プロピレンテレフタレートユニット)、エチレングリコールとテレフタル酸からなるユニット(エチレンナフタレートユニット)、エチレングリコールとイソフタル酸からなるユニット(エチレンイソフタレートユニット)等のから選択されたユニットを少なくとも一種有し、フィルムの耐破れ性、耐熱性、収縮仕上り性、降伏点応力増加による容器への密着性、コスト等の観点から、エチレンテレフタレートユニットが全ポリエステル中の主要構成単位となっているものである。全ポリエステル中におけるエチレンテレフタレートユニットの量は、60モル%以上、72モル%未満であると良く、70モル%以下であると好ましい。72モル%未満であれば溶剤接着性に優れ、また70モル%以下であればより適正な熱収縮率となる。
【0067】
本発明においては、次のユニットのいずれかの組み合わせがポリエステル系基材フィルムに含まれていることが好適である。その組み合わせとは、エチレンテレフタレートユニットと、ネオペンチルテレフタレートユニットまたは1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレートユニットと、ブチレンテレフタレートユニットまたはプロピレンテレフタレートユニットである。この組み合わせにおけるモル比は、エチレンテレフタレートユニット:ネオペンチルテレフタレートユニットまたは1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレートユニット:ブチレンテレフタレートユニットまたはプロピレンテレフタレートユニット=60〜72:5〜40:9〜15であることが好ましい。ユニットの含有量の解析は、例えば、1H−NMRを用いて行うことができる。
【0068】
本発明で用いるポリエステル系基材フィルムには、無機粒子、有機塩粒子、および架橋高分子粒子から選択される少なくとも一種が滑剤として添加されていても良い。
【0069】
無機粒子としては、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、リン酸リチウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、フッ化リオチウム等が挙げられる。1次粒子が凝集してできた凝集体のシリカ粒子が選択されているときには、フィルムのハンドリング性が良好である上にヘーズが低い。有機塩粒子としては、例えば、蓚酸カルシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、マンガン、マグネシウム等のテレフタル酸塩が挙げられる。また、架橋高分子粒子としては、例えば、ジビニルベンゼン、スチレン、(メタ)アクリル酸等のビニル系モノマーから選択される少なくとも一種の(共)重合体;ポリテトラフルオロエチレン;ベンゾグアナミン樹脂;熱硬化性尿素樹脂;熱硬化性フェノール樹脂;が挙げられる。
【0070】
また、ポリエステル系基材フィルムには、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、抗菌剤等が必要に応じて含まれてもよい。
【0071】
本発明で用いる基材フィルムとなるポリエステルは、上記多価カルボン酸とグリコールとを、酢酸亜鉛等のエステル交換触媒および/または三酸化アンチモン等の重合触媒を適宜存在させて、重合させることにより得られる。
【0072】
滑剤等が添加されたポリエステル系基材フィルムを得る方法としては、モノマーの重合工程中に当該重合系中に滑剤等を分散させる方法;重合して得られたポリエステルを再度溶融させ、この溶融しているポリエステルに滑剤等を添加する方法;等が挙げられる。
【0073】
本発明においては、重合後のポリエステルを、溶融状態で重合装置からストランド状で取り出した後に直ちに水冷し、ストランドカッターによりカットしてチップにすることが好ましい。このカット後のチップは、底面が楕円形である円筒状となる。
【0074】
成分が異なる二種以上のポリエステルを含む基材フィルムを製造するにあたり、成分が異なる二種以上のポリエステルチップを混合する場合には、最も使用比率の高いポリエステルチップ(1)に対する他のポリエステルチップ(2)として、当該チップ(1)の楕円状底面の長径、短径、及び円筒状の高さのそれぞれの平均サイズの±20%以内(好ましくは±15%以内)の範囲にある大きさのポリエステルチップ(2)を使用することが好ましい。これにより、ホッパー内での同種ポリエステルチップの偏在現象を抑止できるので、フィルム中の滑剤等の均一な分散を実現することができる。
【0075】
また、共重合ポリエステルのチップとホモポリエステルのチップとを混合する場合には、融点が一般的に低い共重合ポリエステルには乾燥時の取り扱いが難しい等の問題があるので、ホモポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ(1,4−シクロヘキセンジエチレンテレフタレート)等)と共重合ポリエステルとを混合することが好ましい。
【0076】
ポリエステルチップからフィルム(未延伸のポリエステル系基材フィルム)を作製する方法としては、(1)当該チップを予めホッパードライヤー、パドルドライヤー等の乾燥機、または真空乾燥機を用いて乾燥し、200〜300℃の温度でフィルム状に押し出し、冷却する方法、(2)未乾燥のポリエステルチップをベント式押し出し機内で水分を除去しながらフィルム状に押し出し、冷却する方法、等がある。押し出しに際しては、Tダイ法、チューブラ法等の公知となっているいずれの方法を採用しても構わない。押し出し後の冷却は、例えば表面温度が25℃のチルロールで急冷する。
【0077】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの厚み分布を均一化させる必要がある場合には、フィルムへの熱伝導係数が0.0013カロリー/cm2・sec・℃以下の低風速で、Tg−20℃〜Tg+60℃のフィルム温度になるまで上記フィルム(未延伸のポリエステル系基材フィルム)の予備加熱を行うことが好ましい。この予備加熱工程でのフィルム表面の各位置の温度は、本発明に係る熱収縮性ポリエステル系フィルムのロールフィルム巻き長に相当する縦方向の距離の範囲内において、フィルム表面の平均温度±1℃以内であることが好ましく、平均温度±0.5℃以内であればさらに好ましい。
【0078】
(ポリエステル系基材フィルム上への耐ブロッキング性改良層の形成方法)
以上、本発明で用いるポリエステル系グラフト共重合体、及びポリエステル系基材フィルムについて説明したが、以下において、かかるポリエステル系基材フィルムの少なくとも片面に、上記ポリエステル系グラフト共重合体を含む耐ブロッキング性改良層を設ける方法について説明する。
【0079】
本発明において、ポリエステル系基材フィルムの表面に耐ブロッキング性改良層を設ける方法は特に限定されるものではないが、ポリエステル系基材フィルム表面に、ポリエステル系グラフト共重合体、及び帯電防止剤を含む塗布液を塗布し、乾燥して行うことが好ましい。
【0080】
≪ポリエステル系基材フィルム≫
本発明において、耐ブロッキング性改良層を設けるポリエステル系基材フィルムは、上記の未延伸のものであってもよいし、少なくとも一軸延伸したものであってもよい。
【0081】
一軸延伸のポリエステル系基材フィルムは、上記の未延伸のポリエステル系基材フィルムを用いて下記の方法によって得ることができる。ここで、熱収縮性ラベルとしては主収縮方向が横方向である態様が実用的であるので、主収縮方向が横方向である熱収縮性ラベルを製造するために適した延伸処理を例として説明する(次段落以降においては、「主収縮方向」と「横方向」は同義であり、「直交方向」と「縦方向」は同義である。)。なお、主収縮方向が縦方向である熱収縮性ラベルを製造する場合には、以下の未延伸フィルム処理における延伸方向を90度変えるだけで足りる。
【0082】
延伸はテンターを用いて行うと良く、Tg−30℃〜Tg+40℃の温度、さらに好ましくはTg−15℃〜Tg+30℃の温度で、フィルムの横方向を2.3〜7.3倍、好ましくは3.5〜6.0倍にする。延伸したフィルムに60〜120℃の温風を吹き付ければ、延伸後のポリエステル配向が固定されるので、これを用いて得られる熱収縮性フィルムの主収縮率が低くなる。また、先の温風の吹きつけに続けて30〜60℃の温風を延伸フィルムに吹き付ければ、[(主収縮方向の熱収縮率が0%を超えた温度+10℃)の主収縮方向の熱収縮率]から[(主収縮方向の収縮率が0%を超えた温度−5℃)の主収縮方向の熱収縮率]を減じた値が20%未満となる。
【0083】
なお、延伸における温度条件の変動は、熱収縮性フィルムの収縮特性に影響を与えやすいので、延伸時の温度、延伸後の温風温度の変動を抑止することが好ましい。延伸工程におけるフィルム表面の各位置の温度は、本発明に係る熱収縮性ポリエステル系フィルムのロールフィルム巻き長に相当する縦方向の距離の範囲内において、平均温度±1℃以内であることが好ましく、平均温度±0.5℃以内であればさらに好ましい。また、延伸に伴うフィルムの内部発熱を抑制し、横方向のフィルム温度斑を小さくする点に着目すれば、延伸工程の熱伝達係数は0.0037J/cm2・sec・℃以上が好ましく、0.00544〜0.00837J/cm2・sec・℃がより好ましい。
【0084】
縦方向の収縮をもたらす縦延伸を行う必要は必ずしもないが、フィルムの強度向上の観点からは、本発明に係るフィルムの特徴を損なうことが無い限り、テンターでの縦延伸を行っても良い。縦横の二軸延伸を行う場合の延伸態様は、逐次二軸延伸および同時二軸延伸のいずれでも良く、必要に応じて再延伸を行っても良い。また、逐次二軸延伸においては延伸の順序として、縦横、横縦、縦横縦、横縦横等のいずれの方式でも良い。これらの縦延伸工程あるいは二軸延伸工程を採用する場合においても、予備加熱工程のフィルム表面温度、延伸工程のフィルム表面温度、および延伸工程の熱伝達係数は、上記横延伸と同様である。
【0085】
≪塗布液の塗布≫
耐ブロッキング性改良層の形成方法としては、ポリエステル系基材フィルム上に、ポリエステル系グラフト共重合体、及び帯電防止剤を含有する塗布液を塗布する塗布法の他に、ポリエステル系グラフト共重合体、及び帯電防止剤を含有する樹脂層を積層する積層法があるが、本発明においては塗布法を用いて形成することが好ましい。これは、積層法では、耐ブロッキング性改良層の厚さに下限があり、基材となるフィルムの特性が変わるなどの弊害が生じる場合もあるからである。これに対し、塗布法では、ポリエステル系グラフト共重合体をフィルム表面に薄膜で存在させることができるため、基材となるフィルムの特性を変えることなく耐ブロッキング性を付与することができる。
【0086】
ポリエステル系グラフト共重合体を含有する塗布液としては、ポリエステル系グラフト共重合体の有機溶媒溶液または有機溶媒分散液、あるいは、水系溶媒溶液または水系溶媒分散液を用い得る。特に、水系溶媒溶液または水系溶媒分散液が、環境に対して問題となる有機溶媒を用いない点で好ましい。
【0087】
具体的には、溶媒として炭素数1〜3の低級アルコールと水との混合溶媒を用いることが好ましい。炭素数1〜3の低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールなどの、水と任意の割合で混合し得るものが好適である。炭素数が多いアルコールは、塗布液を調製した際に水と相分離してしまい、このような塗布液を用いると塗布斑が生じ易くなるため好ましくない。ただし、相分離を起こさない程度であれば、炭素数1〜3の低級アルコールと併用しても構わない。
【0088】
塗布液中の低級アルコール量は10質量%以上とすることが好ましい。低級アルコール量が10質量%未満の場合には、塗布液の表面張力が大きくなってフィルムへの濡れ性が低下し、塗布斑が生じ易くなる。また、理由は不明であるが、塗布液を塗布後、乾燥して得られる熱収縮性フィルムにおいて、急激な温湿度変化が生じた場合に、フィルムの透明性が低下して実用性が損なわれることがある。
【0089】
また、塗布液中の低級アルコール量は60質量%以下であることが好ましい。低級アルコール量が60質量%を超える場合には、塗布液中の有機溶媒量が多くなることとなるため、フィルム製造工程中に塗布液を塗布する場合、爆発の危険性が生じるために防爆対策を講じる必要がある。なお、低級アルコールと同時に、より炭素数の多いアルコールを併用する場合には、塗布液中のアルコールの総量を60質量%以下とすることが推奨される。
【0090】
有機溶媒あるいは水系溶媒中のポリエステル系グラフト共重合体および架橋結合剤(後述する)の固形分含有量は、1質量%以上(より好ましくは3質量%以上)が好ましく、50重量%以下(より好ましくは30重量%以下)が好ましい。なお、塗布液には無機滑剤を配合することも可能である。
【0091】
ポリエステル系グラフト共重合体を含む塗布液をポリエステル系基材フィルムに塗布する方法は、特に限定されるものではなく、エアナイフ方式、グラビア方式、リバース方式、ダイ方式、バー方式、ディップ方式などの公知の塗布方式を用い得る。
塗布液の塗布量は、ポリエステル系グラフト共重合体固形分として0.002〜0.5g/m2であることが好ましく、0.004〜0.05g/m2であることがより好ましい。塗布量が0.002g/m2未満であると、耐熱ブロッキング効果が十分に確保できないことがある。また、塗布量が5g/m2を超えると、フィルムの透明性や光沢性が低下することがある。
【0092】
また、フィルム表面に形成される耐ブロッキング性改良層中のアニオン系帯電防止剤の存在量は、0.001〜0.5g/m2であることが好ましい。アニオン系帯電防止剤の存在量が上記範囲を下回ると、帯電防止効果を十分に確保できないことがある。他方、アニオン系帯電防止剤の存在量が上記範囲を超えると、フィルムの透明性や耐ブロッキング性が低下することがある。
【0093】
≪乾燥≫
本発明において用いるポリエステル系グラフト共重合体は自己架橋性を有し、常温では架橋しないが、乾燥時の熱で、熱ラジカルによる水素引き抜き反応等の分子間反応を行い、架橋剤なしで架橋する。これにより初めて、本発明の目的である耐ブロッキング性を発現できる。
【0094】
塗布後の乾燥条件は特に規制は無いが、ポリエステル系グラフト共重合体のもつ自己架橋性を発現するためには、ポリエステル系基材フィルム及びポリエステル系グラフト共重合体に熱劣化が起こらない範囲内で、熱量を多くする条件が好ましい。具体的には60℃〜250℃、さらに好ましくは65℃〜220℃である。ただし、乾燥時間を長くすることにより、比較的低い温度でも十分な自己架橋性を発現するため、上記の条件に限らない。
【0095】
塗膜の架橋性については、様々の方法で評価できるが、例えば、疎水性共重合ポリエステルおよびポリエステル系グラフト共重合体の両方を溶解するクロロホルム溶媒での不溶分率を測定する方法等が挙げられる。80℃以下で乾燥し、120℃で5分間熱処理して得られる塗膜の不溶分率が、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上である。塗膜の不溶分率が50%未満の場合は、耐水性が十分でないばかりでなく、ブロッキングも起こしてしまう。
【0096】
本発明においては、塗布液にさらに架橋結合剤を添加することにより高度な耐水性、耐溶剤性を付与することが可能である。架橋結合剤としては、前記ポリエステル系グラフト共重合体に存在する官能基などと熱や光で架橋反応をし、最終的には3次元網目構造を形成しうる架橋結合剤であれば特に限定されない。
【0097】
架橋結合剤としては、アルキル化フェノール類、クレゾール類などとホルムアルデヒドとの縮合物のフェノールホルムアルデヒド樹脂;尿素、メラミン、ベンゾグアナミンなどとホルムアルデヒドとの付加物、この付加物と炭素原子数が1〜6のアルコールからなるアルキルエーテル化合物などのアミノ樹脂;多官能性エポキシ化合物;多官能性イソシアネート化合物;ブロックイソシアネート化合物;多官能性アジリジン化合物;オキサゾリン化合物などが挙げられる。
【0098】
フェノールホルムアルデヒド樹脂としては、例えば、アルキル化(メチル、エチル、プロピル、イソプロピルまたはブチル)フェノール、p−tert−アミルフェノール、4,4’−sec−ブチリデンフェノール、p−tert−ブチルフェノール、o−、m−、p−クレゾール、p−シクロヘキシルフェノール、4,4’−イソプロピリデンフェノール、p−ノニルフェノール、p−オクチルフェノール、3−ペンタデシルフェノール、フェノール、フェニル−o−クレゾール、p−フェニルフェノール、キシレノールなどのフェノール類とホルムアルデヒドとの縮合物を挙げることができる。
【0099】
アミノ樹脂としては、例えば、メトキシ化メチロール尿素、メトキシ化メチロールN,N−エチレン尿素、メトキシ化メチロールジシアンジアミド、メトキシ化メチロールメラミン、メトキシ化メチロールベンゾグアナミン、ブトキシ化メチロールメラミン、ブトキシ化メチロールベンゾグアナミンなどが挙げられる。好ましくは、メトキシ化メチロールメラミン、ブトキシ化メチロールメラミン、およびメチロール化ベンゾグアナミンである。
【0100】
多官能性エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルおよびそのオリゴマー、水素化ビスフェノールAのジグリシジルエーテルおよびそのオリゴマー、オルソフタル酸ジグリシジルエステル、イソフタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、p−オキシ安息香酸ジグリシジルエステル、テトラハイドロフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサハイドロフタル酸ジグリシジルエステル、コハク酸ジグリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、セバシン酸ジグリシジルエステル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルおよびポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル類、トリメリット酸トリグリシジルエステル、トリグリシジルイソシアヌレート、1,4−ジグリシジルオキシベンゼン、ジグリシジルプロピレン尿素、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリグリシジルエーテル、グリセロールアルキレンオキサイド付加物のトリグリシジルエーテルなどを挙げることができる。
【0101】
多官能性イソシアネート化合物としては、低分子または高分子の芳香族、脂肪族のジイソシアネート、3価以上のポリイソシアネートが挙げられる。ポリイソシアネートとしては、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、およびこれらのイソシアネート化合物の3量体がある。さらに、これらのイソシアネート化合物の過剰量と、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ソルビトール、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの低分子活性水素化合物、またはポリエステルポリオール類、ポリエーテルポリオール類、ポリアミド類などの高分子活性水素化合物とを反応させて得られる末端イソシアネート基含有化合物を挙げることができる。
【0102】
ブロックイソシアネート化合物は上記イソシアネート化合物とブロック化剤とを従来公知の適宜の方法より付加反応させて調製し得る。イソシアネートブロック化剤としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシノール、ニトロフェノール、クロロフェノールなどのフェノール類;チオフェノール、メチルチオフェノールなどのチオフェノール類;アセトキシム、メチルエチケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム類;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類;エチレンクロルヒドリン、1,3−ジクロロ−2−プロパノールなどのハロゲン置換アルコール類;t−ブタノール、t−ペンタノールなどの第3級アルコール類;ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、ν−ブチロラクタム、β−プロピルラクタムなどのラクタム類;芳香族アミン類;イミド類;アセチルアセトン、アセト酢酸エステル、マロン酸エチルエステルなどの活性メチレン化合物;メルカプタン類;イミン類;尿素類;ジアリール化合物類;重亜硫酸ソーダなどを挙げることができる。
【0103】
上記の架橋結合剤は、それぞれ単独または2種以上混合して用いることができる。架橋結合剤の配合量は、ポリエステル系グラフト共重合体100質量部に対して、1質量部〜40質量部が好ましい。架橋結合剤の配合方法としては、(1)架橋剤が水溶性である場合、直接グラフト共重合体の水系溶媒溶液または水系溶媒分散液中に溶解または分散させる方法、または(2)架橋剤が油溶性である場合、グラフト化反応終了後、反応液に添加する方法がある。これらの方法は、架橋剤の種類、性状により適宜選択し得る。さらに架橋結合剤には、硬化剤あるいは促進剤を併用し得る。
【0104】
≪延伸、及び熱固定≫
本発明においては、上記乾燥を行った後、さらに少なくとも一軸延伸し、次いで熱固定することが好ましい。
【0105】
主収縮方向が横方向である熱収縮性ラベルが実用的であるので、そのラベルを製造するために適した未延伸フィルムの延伸処理を例として以下に説明する(次段落以降においては、「主収縮方向」と「横方向」は同義であり、「直交方向」と「縦方向」は同義である。)。なお、主収縮方向が縦方向である熱収縮性ラベルを製造する場合には、以下の未延伸フィルム処理における延伸方向を90度変えるだけで足りる。
【0106】
熱収縮性ポリエステル系フィルムの厚み分布を均一化させる必要がある場合、延伸に先立ち、フィルムへの熱伝導係数が0.0013カロリー/cm・sec・℃以下の低風速でTg−20℃〜Tg+60℃のフィルム温度になるまで未延伸フィルムの予備加熱を行うことが好ましい。この予備加熱工程でのフィルム表面の各位置の温度は、本発明に係るフィルムのロールフィルム巻き長に相当する縦方向の距離の範囲内において、フィルム表面の平均温度±1℃以内であることが好ましく、平均温度±0.5℃以内であればさらに好ましい。
【0107】
延伸はテンターを用いて行うと良く、Tg−30℃〜Tg+40℃の温度、さらに好ましくはTg−15℃〜Tg+30℃の温度で、フィルムの横方向を2.3〜7.3倍、好ましくは3.5〜6.0倍にする。延伸したフィルムに60〜120℃の温風を吹き付ければ、延伸後のポリエステル配向が固定されるので、熱収縮性フィルムの主収縮率が低くなる。また、先の温風の吹きつけに続けて30〜60℃の温風を延伸フィルムに吹き付ければ、[(主収縮方向の熱収縮率が0%を超えた温度+10℃)の主収縮方向の熱収縮率]から[(主収縮方向の収縮率が0%を超えた温度−5℃)の主収縮方向の熱収縮率]を減じた値が20%未満となる。
【0108】
なお、延伸における温度条件の変動は、熱収縮性フィルムの収縮特性に影響を与えやすいので、延伸時の温度、延伸後の温風温度の変動を抑止することが好ましい。延伸工程におけるフィルム表面の各位置の温度は、本発明に係るフィルムのロールフィルム巻き長に相当する縦方向の距離の範囲内において、平均温度±1℃以内であることが好ましく、平均温度±0.5℃以内であればさらに好ましい。また、延伸に伴うフィルムの内部発熱を抑制し、横方向のフィルム温度斑を小さくする点に着目すれば、延伸工程の熱伝達係数は0.0037J/cm2・sec・℃以上が好ましく、0.00544〜0.00837J/cm2・sec・℃がより好ましい。
【0109】
縦方向の収縮をもたらす縦延伸を行う必要は必ずしもないが、フィルムの強度向上の観点からは、本発明に係るフィルムの特徴を損なうことが無い限り、テンターでの縦延伸を行っても良い。縦横の2軸延伸を行う場合の延伸態様は、逐次2軸延伸および同時2軸延伸のいずれでも良く、必要に応じて再延伸を行っても良い。また、逐次2軸延伸においては延伸の順序として、縦横、横縦、縦横縦、横縦横等のいずれの方式でも良い。これらの縦延伸工程あるいは2軸延伸工程を採用する場合においても、予備加熱工程のフィルム表面温度、延伸工程のフィルム表面温度、および延伸工程の熱伝達係数は、上記横延伸と同様である。これらの方法で延伸することにより、容易に薄膜を形成することができる。また、熱固定することによりポリエステル配向が固定されるので、これを用いて得られる熱収縮性フィルムの主収縮率が低くなる。
【0110】
(熱収縮性ラベル)
本発明の熱収縮性ラベルは、上記熱収縮性ポリエステル系フィルムを用いて作製される。この際、必要に応じて印刷加工が施されてもよい。
【0111】
(熱収縮性ポリエステル系フィルム(熱収縮性ラベル)の特性)
ポリエステル系基材フィルムの少なくとも片面に、耐ブロッキング性改良層を設けて構成される、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルム(熱収縮性ラベル)は、以下の特性を有していることが好ましい。
【0112】
<熱収縮性>
本発明に係る熱収縮性ポリエステル系フィルムは、95±0.5℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向の熱収縮率が30〜60%であることが好ましい。その熱収縮率は、35〜57%であるとより好ましく、40〜55%であるとさらに好ましい。熱収縮率が30%未満のフィルムは熱収縮率が不足するので、このフィルムを例えばラベルとして使用した場合には、当該ラベルが容器に密着固定されない。その収縮率が30%未満のフィルムに高熱量を付加して収縮させても、容器の熱的ダメージを与える恐れがあると共に、容器の熱変形によるラベル緩みが発生し易くなる。一方、熱収縮率が60%を超えるフィルムは、熱収縮による白化、急激な収縮による収縮ムラ、印刷した場合の印刷図柄の歪み、ラベル上部の不均一な仕上がりが生じ易くなる。
【0113】
本発明に係る熱収縮性ポリエステル系フィルムの80±0.5℃温水中に浸漬した場合の主収縮方向の熱収縮率は、40%未満であることが好ましい。当該熱収縮率が40%を超えると、急激な収縮が生じやすくなり、収縮ムラの発生や白化の発生によってフィルムの透明性が低下してしまう場合がある。
【0114】
また、本発明に係る熱収縮性ポリエステル系フィルムにおいては、60±0.5℃、65±0.5℃、70±0.5℃、75±0.5℃、80±0.5℃、85±0.5℃、90±0.5℃、および95±0.5℃の温水中に10秒間浸漬した際の何れかの温水中への浸漬で主収縮方向の熱収縮が始まり、[(主収縮方向の熱収縮率が0%を超えた温度+10℃)の主収縮方向の熱収縮率]から[(主収縮方向の収縮率が0%を超えた温度−5℃)の主収縮方向の熱収縮率]を減じた値が20%未満であると好適である。この値が20%を超えても、急激な収縮が生じやすくなり、収縮ムラの発生や白化の発生によってフィルムの透明性が低下してしまう場合がある。
【0115】
本発明に係る熱収縮性ポリエステル系フィルムは、上記の主収縮方向の熱収縮率と共に、59.5〜90.5℃かつ[一定温度±0.5℃]に該当するいずれかの温度の温水中に10秒間浸漬した際において主収縮方向に直交する方向の長さが伸長することも好ましい。このような直交方向の伸長が生じることは、本発明に係る熱収縮性ポリエステル系フィルムが容器用ラベル部材として適することを意味しいている。つまり、本発明に係る熱収縮性ポリエステル系フィルムの主収縮方向を径方向とし、かつ、同フィルムの主収縮方向の直交方向を軸方向とする筒状熱収縮性ラベルは、径方向の収縮によりラベルが容器に固定される前において軸方向が伸長するか又は軸方向の収縮が小さいものとなるから、ラベル上端の仕上がりの不均一と、背貼り加工部を起点にする上下部の山形とを生じさせ易くする軸方向の引き込みを抑制できるのである。
【0116】
上記の直交方向の伸長は、温水中に試料フィルムを無荷重状態で浸漬した後、25℃の水中に10秒浸漬して引き上げ、温水への浸漬前(収縮前)と25℃の水への浸漬後(収縮後)の試料フィルムの寸法を上記式(1)に当てはめて算出することにより確認される。このときに算出された値が負の値であれば、直交方向の伸長が生じたことになる。
【0117】
なお、上記の伸長が59.5〜90.5℃かつ[一定温度±0.5℃]に該当するいずれかの温度で最終的に生じる限り、当該いずれかの温度で一時的な直交方向の収縮率が3%以内(好ましくは2%以内)のものも本発明に係るフィルムに該当する。
【0118】
上記の伸長は、熱収縮率と同様にして求めた値が0%以下であると良く、−0.5%以下が好ましい。また、伸長は、80±0.5℃および85±0.5℃の温水中に10秒間浸漬した際に生じることが好ましい。
【0119】
<ヘーズ>
本発明に係る熱収縮性ポリエステル系フィルムの熱収縮後のヘーズは、通常、10%以下であり、9.7%以下であると好ましく、9.5%以下であると更に好ましい。
【0120】
<厚み>
本発明に係る熱収縮性ポリエステル系フィルムの厚みは、20〜100μmが好ましく、30〜60μmがより好ましい。
【0121】
<溶剤接着性>
本発明に係る熱収縮性ポリエステル系フィルムは、フィルム同士を溶剤で接着可能なものであることが好ましい。この「溶剤で接着可能」とは、後記実施例における「溶剤接着性」評価方法により決定される溶剤接着強度が3N/15mm以上であることを意味する。本発明に係るフィルムを容器用ラベルとして適用する場合には、フィルムを円筒状等の筒状にする必要があり、この筒状を形成するために溶剤が使用される。つまり、フィルムの2つの端部を主収縮方向が径方向となるように接着して熱可塑性筒状フィルム(熱可塑性ラベル)を作製するために、溶剤が使用される。なお、フィルム同士の接着は、一方のフィルム端部の裏面に溶剤を塗布し、当該塗布面を他方のフィルム端部の表面に圧接させることで実現可能であり、作製された熱可塑性ラベルは、通常、必要な長さに切断される。
【0122】
フィルム同士を接着するための溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素;フェノール等のフェノール類;テトラヒドロフラン等のフラン類;1,3−ジオキソラン等のオキソラン類等の有機溶剤が用いられる。塩素原子等のハロゲンに起因する有毒物質の発生を考慮すれば、非塩素系有機溶剤が好ましく、安全性の観点を特に考慮すれば、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソランが好ましい。
【実施例】
【0123】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、もとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは、いずれも本発明の技術的範囲に含まれる。なお、実施例で採用した測定・評価方法は次の通りである。また、実施例中で「部」とあるのは「質量部」を意味し、「%」とあるのは断りのない限り「質量%」を意味する。
【0124】
(測定・評価方法)
(1)ポリエステルのNMR解析
試料(基材フィルム用のポリエステル)を、クロロホルムD(ユーリソップ社製)とトリフルオロ酢酸D1(ユーリソップ社製)を10:1(体積比)で混合した溶媒に溶解させて、試料溶液を調製し、NMR(「GEMINI−200」;Varian社製)を用いて、温度23℃、積算回数64回の測定条件で試料溶液の1H−NMRを測定した。NMR測定では、所定のプロトンのピーク強度を算出して、チップ組成およびフィルム組成をモル%として求めた。
【0125】
(2)熱収縮率
熱収縮性ポリエステル系フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断して試料とし、所定温度±0.5℃(所定温度については表2参照)の温水中に無荷重状態で10秒間処理して熱収縮させた後、直ちに25℃±0.5℃の水中に10秒浸漬してから、試料の縦および横方向の長さを測定し、下記式に従い熱収縮率を求めた。
熱収縮率(%)=(収縮前の長さ−収縮後の長さ)÷収縮前の長さ×100
【0126】
(3)ヘーズ
温度30℃、相対湿度85%の雰囲気に4週間保存した熱収縮性ポリエステル系フィルムを使用して、溶剤接着法またはヒートシール法にて、フィルムの主収縮方向が径方向となるように直径11cm、長さ16cmのチーブ状とし、このチューブ状フィルム内に温度40℃の直径が6.6cmである円筒状ガラス瓶を配置させ、そのフィルムに向けて150℃(風速10m/秒)の熱風を13秒当てた。熱風による収縮後のフィルム(チューブ状フィルムサンプル数10)を切り出し、これを熱収縮後のフィルム試料とした。熱収縮後のフィルムのヘーズをJIS K7136に準拠して測定し、平均値を求めた。また、熱収縮前のフィルムについてもヘーズの平均値を求めた。
【0127】
(4)溶剤接着性
熱収縮性ポリエステル系フィルムの片面に、フィルムの縦方向に沿って、1,3−ジオキソランを綿棒で塗布量5±0.3g/m2、塗布幅5±1mmで塗布し、この塗布部と塗布されていない縦方向のフィルム表面とを貼り合わせてチューブ状フィルムを作製した。25℃の温度条件で24時間放置した後のチューブ状フィルムから、前記貼り合わせ部を含めた縦方向長さ15mmのチューブ状フィルムを切り取り、これを万能引張り試験機(株式会社ボールドウィン社製「STM−50」)にセットし、90°剥離試験で引張速度200mm/分で貼り合わせ部を剥離させた。この剥離における最大強度を溶剤剥離強度とした。
【0128】
(5)収縮仕上がり性
熱収縮性ポリエステル系フィルムに、印刷機を使用してあらかじめ東洋インキ製造(株)の草・青金・白色のインキを3色印刷した。次いで、このフィルムを用い、溶剤接着法、もしくは、ヒートシール法にて横方向(径方向)が主収縮方向となるように熱収縮性ラベルを作製した。このラベルを温度が60℃のガラス瓶に被せ、175℃(風速12m/秒)の熱風を10秒当てて熱収縮させた。熱収縮後のラベル全体の収縮性および仕上がりを目視確認し、以下の5段階の基準で評価した。なお、以下の評価基準では、「○」が合格レベルで、「△」「×」、および「××」が不良である。また、以下の評価基準における「欠点」には、飛び上がり、シワ、収縮不足、ラベル端部折れ込み、および収縮白化が該当する。
○:仕上がり性良
△:欠点少し有り(2ヶ所以内)
×:欠点有り(3〜5ヶ所)
××:欠点多い(6ヶ所以上)
【0129】
(6)ガラス転移温度(Tg)
ポリエステル系グラフト共重合体の溶液または分散液をガラス板に塗布し、次いで170℃で乾燥してグラフト重合体固形分を得た。この固形分10mgをサンプルパンに取り、示差走査熱量計(島津製作所製、雰囲気制御装置:FC−60A、ワークステーション:TA−60WS)を使用して、窒素雰囲気下で昇温速度10℃/分で測定し得られたデータよりガラス転移温度(Tg)を求めた。
【0130】
(7)ブロッキング性
ヒートシーラーにて、シールバーの表面温度が95±0.5℃の範囲内で、圧力40N/cm2、時間300秒にてフィルム面同士をヒートシール後、15mm巾のサンプルを切り出し、引張試験機にて剥離強度を測定し、以下の判定基準で評価した。
○:剥離強度0.1N/15mm未満
×:剥離強度0.1N/15mm以上
【0131】
(8)表面固有抵抗
アドバンテスト社製表面固有抵抗測定器(本体:R8340、試料箱:R12704)を用いて、印加電圧100V、23℃・65%RHの雰囲気下で測定し、測定器の読取値を表面固有抵抗とした。
【0132】
(合成例A:基材フィルム用のポリエステルの合成)
撹拌機、温度計、及び部分環流式冷却器を備えたステンレススチール製オートクレーブに、ジカルボン酸成分であるジメチルテレフタレート(DMT)と、グリコール成分であるエチレングリコール(EG)とをモル比EG/DMT=2.2となるように仕込んだ。そのEGの仕込みの際には、無機滑剤をエチレングリコールに分散させた。また、エステル交換触媒である酢酸亜鉛を0.05モル%(ジカルボン酸成分に対して)と、重縮合触媒である三酸化アンチモン0.025モル%(ジカルボン酸成分に対して)とを上記オートクレーブ内に添加し、生成するメタノールを反応系外へ留去させながら、エステル交換反応を進行させた。その後、280℃、26.7Paの条件で重縮合反応を進行させ、減圧下で重縮合反応を終了させ、窒素加圧下で得られたポリマーをストランド状にして水中に吐出させ、当該吐出物をストランドカッターで切断することにより、エチレンテレフタレートユニットを有し且つ無機滑剤を0.7質量%含有するポリエステルAのチップを得た。得られたチップのNMR解析を行い、その組成を調べた。その結果を表1に示す。
【0133】
【表1】

【0134】
(合成例B〜C:基材フィルム用のポリエステルの合成)
ジカルボン酸成分としてDMTを使用し、グリコール成分としてEG、EGとネオペンチルグリコール(NPG)、1,4−ブタンジオール(BD)を使用し、合成例Aと同様の方法(但し、無機滑剤を使用せず)により、ポリエステルB〜Cのチップを得た。得られたチップのNMR解析を行い、その組成を調べた。その結果を表1に示す。
【0135】
(ポリエステル系基材フィルムの調製)
別個に予備乾燥したポリエステルA〜Cのチップを、Aが15wt%、Bが75wt%、Cが10wt%の割合で混合して押出し機に供給後に275℃で溶融押出しし、表面温度25℃のチルロール上で急冷させて厚さ180μmの未延伸のポリエステル系基材フィルムを得た。得られたフィルムのNMR解析を行い、その組成を調べた。その結果を表2に示す。
【0136】
(ポリエステル系グラフト共重合体の調製)
<疎水性共重合ポリエステルの調製>
撹拌機、温度計、および部分還流式冷却器を具備したステンレススチール製オートクレーブに、ジカルボン酸成分としてジメチルテレフタレート(DMT)345部、グリコール成分として1,4ブタンジオール(BD)211部、エチレングリコール(EG)270部、および重合触媒としてテトラ−n−ブチルチタネート0.5部を仕込み、160℃から220℃まで、4時間かけてエステル交換反応を行った。次いで、ジカルボン酸成分としてフマル酸14部およびアジピン酸160部を加え、200℃から220℃まで1時間かけて昇温し、エステル化反応を行った。次いで255℃まで昇温し、反応系を徐々に減圧した後、0.22mmHgの減圧下で1時間30分反応させ、疎水性共重合ポリエステルを得た。得られた疎水性共重合ポリエステルは、重量平均分子量20000、淡黄色透明であった。
【0137】
<ラジカル重合性モノマーのグラフト化>
撹拌機、温度計、還流装置と定量滴下装置を備えた反応器に、上記疎水性共重合ポリエステル75部、メチルエチルケトン56部およびイソプロピルアルコール19部を入れ、65℃で加熱、撹拌し、疎水性共重合ポリエステルを溶解した。疎水性共重合ポリエステルが完溶した後、ラジカル重合性モノマーとして無水マレイン酸(MA)15部をポリエステル溶液に添加した。次いで、ラジカル重合性モノマーとしてスチレン(ST)10部、およびグラフト重合開始剤としてアゾビスジメチルバレロニトリル1.5部を12部のメチルエチルケトンに溶解した溶液を0.1ml/minでポリエステル溶液中に滴下し、さらに2時間撹拌を続けた。反応溶液から分析用のサンプリングを行った後、メタノール5部を添加した。次いで、水300部とトリエチルアミン15部を反応溶液に加え、1時間撹拌した。その後、反応器内温を100℃に上げ、メチルエチルケトン、イソプロピルアルコール、過剰のトリエチルアミンを蒸留により留去し、水分散ポリエステル系グラフト共重合体を得た。該ポリエステル系グラフト共重合体は淡黄色透明で、ガラス転移温度−10℃であった。
【0138】
(塗布液1の調合)
上記水分散ポリエステル系グラフト共重合体に水を加えて希釈し、ドデシルスルホネートを加え、イソプロパノールを加えて固形分濃度が3質量%の塗布液(ポリエステル系グラフト共重合体:2.6質量%、帯電防止剤:0.4質量%、水:62質量%、イソプロパノール:35質量%)を得た。
【0139】
(実施例1)
上記未延伸のポリエステル系基材フィルムの片面に、塗布液1を、ポリエステル系グラフト共重合体固形分として乾燥後に0.03g/m2となるようエアナイフ方式で塗布し、連続的にテンターに導きフィルム温度が70℃になるまで予備加熱した後、温度72℃で横方向に4.0倍延伸した。次いで95℃にて14秒間熱処理を行い、続けて50℃で10秒間の処理を行い、厚さ45μmの熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。このとき、予備加熱工程での熱伝達係数は0.0009、延伸工程での熱伝達係数は0.0056であった。得られたフィルムロールのフィルムの物性値を表2に示す。
【0140】
【表2】

【0141】
(実施例2)
実施例1において、塗布液1の塗布量をポリエステル系グラフト共重合体固形分として乾燥後に0.004g/m2とした以外は実施例1と同様にして、熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。得られたフィルムロールのフィルムの物性値を表2に示す。
【0142】
(比較例1)
塗布液1を塗布しない以外は実施例1と同様にして、厚さ45μmの熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。得られたフィルムロールのフィルムの物性値を表2に示す。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、外観を良好に保つことができ、ラベル用途に好適で工業上利用価値の高いものである。また、高温での耐ブロッキング性を有するものであることから、高温の内容物が充填される容器へのラベル用途に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のラジカル重合性モノマーを疎水性共重合ポリエステルにグラフトさせたポリエステル系グラフト共重合体を含有する耐ブロッキング性改良層をポリエステル系基材フィルムの少なくとも片面に設け、且つアニオン系帯電防止剤が前記耐ブロッキング性改良層中に存在することを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項2】
ポリエステル系基材フィルムの少なくとも片面に、ポリエステル系グラフト共重合体、及び帯電防止剤を含む塗布液を塗布して乾燥した後、さらに少なくとも一軸延伸し、次いで熱固定して、アニオン系帯電防止剤を含む耐ブロッキング性改良層を形成した請求項1に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項3】
ラジカル重合性モノマーが、少なくともマレイン酸無水物とスチレンとを含む請求項1または2に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項4】
アニオン系帯電防止剤が、アルキル基を有し且つ炭素数が10〜20である請求項1から3のいずれか1項に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項5】
95±0.5℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向の熱収縮率が30〜60%であり、
59.5〜90.5℃かつ[一定温度±0.5℃]に該当するいずれかの温度の温水中に10秒間浸漬した際において主収縮方向に直交する方向の長さが伸長する請求項1から4のいずれか1項に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項6】
80±0.5℃の温水中に10秒間浸漬した際の主収縮方向の熱収縮率が、40%未満である請求項1から5のいずれか1項に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項7】
60±0.5℃、65±0.5℃、70±0.5℃、75±0.5℃、80±0.5℃、85±0.5℃、90±0.5℃、および95±0.5℃の温水中に10秒間浸漬した際の何れかの温水中への浸漬で主収縮方向の熱収縮が始まり、
[(主収縮方向の熱収縮率が0%を超えた温度+10℃)の主収縮方向の熱収縮率]から[(主収縮方向の収縮率が0%を超えた温度−5℃)の主収縮方向の熱収縮率]を減じた値が20%未満である請求項1から6のいずれか1項に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項8】
熱収縮後のヘーズが10%以下である請求項1から7のいずれか1項に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項9】
非塩素系有機溶剤で接着可能である請求項1から8のいずれか1項に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムより作製された熱収縮性ラベル。

【公開番号】特開2010−115863(P2010−115863A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−290646(P2008−290646)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】