説明

熱収縮性ポリエステル系フィルム

【課題】可視光線の短波長領域を遮断し、容器を被覆したときにその容器の内容物が光線により劣化するのを防止し、かつ、内容物の状態や液面の確認をすることが可能な熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供すること。
【解決手段】主にポリエステルからなるフィルムであって、波長500nmの光線透過率が20%以下、曇度(ヘイズ)が20%以下、かつ、温度95℃における主収縮方向の温湯収縮率が30%以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱収縮性ポリエステル系フィルムに関し、さらに詳しくは、印刷加工を施さなくとも可視光線の短波長領域の遮蔽性を有し、容器を被覆したときにその容器の内容物の光線による劣化を防止し、かつ、内容物の状態や液面の確認をすることが可能な熱収縮性ポリエステル系フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、容器の内容物の紫外線からの保護を目的として容器の外周に紫外線遮蔽性を有する収縮性フィルムを熱収縮ラベルとして使用するケースが増えている。具体的な紫外線遮蔽性についての要求特性は、容器の内容物によって異なるが、化粧品や食品の容器の場合、紫外線の長波長領域で内容物の変質や着色等が起こるため、紫外線の長波長領域である波長360〜400nmの領域、特に、380及び400nmの光線の遮蔽性が重要である。また、ビールに代表される着色瓶に保存されている食品類は、可視光の短波長領域(特に、波長500nmの光線)における光線遮蔽性が重要となる。しかしながら、従来の熱収縮性ポリエステル系フィルムでは上記の可視光線の短波長領域を遮断するものはなかった。
【0003】
ところで、熱収縮性フィルムとしては、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等からなる熱収縮性フィルムが主として用いられてきた(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかし、ポリスチレンからなる熱収縮性フィルムについては印刷が困難である等の問題があり、ポリ塩化ビニルからなる熱収縮性フィルムについては、近年、廃棄時に焼却する際の塩素系ガスの発生が問題となり、最近はポリエステルからなる熱収縮性フィルムの利用が注目を集めている。
【0005】
また、ペットボトルにおいて、内容物を光線から保護するために、ボトルを着色して用いることがある。しかしながら、着色ボトルは、回収してリサイクルするのに不向きであることからその代替案が検討されていた。その1つとして無着色ボトルを利用し、着色ラベルをボトル全体に装着する方法がある。
【0006】
また、容器を被覆するのに熱収縮性フィルムを使用する場合は、収縮ラベルの内側に図柄印刷した後に白色印刷を施して用いるのが通常であった。しかしながら、このときの印刷インキの厚みは通常3μm程度であり光線遮断をするには十分でなかった。さらに、黒色印刷等を施すことにより、波長500nmの光線透過率を20%以下にするという目標を達成することはできるが、内容物の状態や液面の確認ができないため、異物混入等の検査を行いにくいという欠点があった。
【0007】
また、透明な熱収縮性フィルムに紫外線遮蔽剤をコーティング又は印刷して容器のラベルとしたときに、その内容物を確認することが可能な曇度(ヘイズ)の範囲に収めるという方法が知られているが、別工程が必要で加工コストが高くなり、納期も長くなるという点で工業的に不利であった。
【0008】
さらに、紫外線遮蔽剤を添加した熱収縮性ポリエステル系フィルムも知られている(例えば、特許文献2参照)。しかし、紫外線領域の波長(400nm以下)を遮断するタイプの紫外線遮蔽剤が用いられており、かかるフィルムは波長500nmの光線透過率が90%程度と光線遮蔽性フィルムとしての実用性は乏しいものであった。
【特許文献1】特開平11−188817号公報
【特許文献2】特開2002−331581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来の熱収縮性ポリエステル系フィルムの有する問題点に鑑み、可視光線の短波長領域を遮断し、容器を被覆したときにその容器の内容物が光線により劣化するのを防止し、かつ、内容物の状態や液面の確認をすることが可能な熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、主にポリエステルからなるフィルムであって、波長500nmの光線透過率が20%以下、曇度が20%以下、かつ、温度95℃における主収縮方向の温湯収縮率が30%以上であることを特徴とする。
【0011】
この場合において、紫外線遮蔽剤を含有してなる層を少なくとも1層含むことができる。
【0012】
また、熱収縮性ポリエステル系フィルムの少なくとも一方の面を、1,3−ジオキソランにより溶剤接着可能とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、印刷加工を施さなくとも、可視光線の短波長側についての光線を遮断することができるので、かかるフィルムで容器を被覆したときにその内容物を光線から保護して、光線により劣化するのを防止することができ、また、容器中の内容物の状態を確認することができるので内容物が液体の場合その液面を確認することができ、さらに、化粧品、芳香剤等の複雑な形状が求められる容器の内容物を保護することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの詳細を説明する。
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、主にポリエステルからなり、波長500nmの光線透過率が20%以下、曇度が20%以下、かつ、温度95℃における主収縮方向の温湯収縮率が30%以上という特性を有している。
【0015】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを形成するポリエステルは、多価アルコール成分及び多価カルボン酸成分からなる。
多価アルコール成分を構成する多価アルコール類としては、ポリエステルユニットを形成するためのジオールとしてエチレングリコールを主として用いることが好ましいが、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール又は1,6−ヘキサンジオールを主として用いることもできる。また、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール,1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール等のアルキレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジエチレングリコール、ダイマージオール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ビスフェノール化合物又はその誘導体のアルキレンオキサイド付加物等を併用することができる。
【0016】
また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを形成するポリエステルの多価カルボン酸成分としては、ポリエステルユニットを形成するため芳香族ジカルボン酸又はそれらのエステル形成誘導体、特に、テレフタル酸(及びそのエステル)を主として用いることが好ましいが、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸(及びそのエステル)を主として用いることもできる。また、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−1,4−ジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸又はそれらのジアルキルエステル、ジアリールエステル等のエステル誘導体を併用することができる。また、芳香族ジカルボン酸のほかに一部、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、シュウ酸、コハク酸等や、通常、ダイマー酸と称される脂肪族ジカルボン酸を併用することができ、さらに、p−オキシ安息香酸等のオキシカルボン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の多価カルボン酸も必要に応じて併用することができる。
【0017】
一般に、熱収縮性ポリエステル系フィルムは、熱収縮特性と強度等を両立させる観点から、2種以上の種類・組成の異なるポリエステルを混合したり、共重合モノマー成分を複数にする等して、主たる構成ユニット以外に副次的構成ユニットを原料ポリエステルに導入して、得られるフィルムの特性を目的に応じて変化させる手法が採用されている。
【0018】
また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、耐破れ性、強度、耐熱性等を発揮するために、フィルムを形成するポリエステルはエチレンテレフタレートユニットを主たる構成ユニットとすることが望ましい。一方、副次的構成ユニットとしては、プロピレングリコールを多価アルコール成分とするユニット、イソフタル酸を多価カルボン酸成分とするユニット等のエチレンテレフタレートユニット以外のユニット等がいずれも選択可能である。しかし、1,4−シクロヘキサンジメタノールとテレフタル酸からなるユニット、ネオペンチルグリコールとテレフタル酸からなるユニットを特に好ましいものとして挙げることができる。これらの副次的構成ユニットをポリエステルが含むことによって、低温から高温まで幅広い温度域における熱収縮性が確保でき、美麗な収縮仕上り性を得ることができる。特に、1,4−シクロヘキサンジメタノールやネオペンチルグリコールはポリエステルを非晶化する作用に優れ、フィルムの熱収縮性を高めることができる。したがって、副次的構成ユニットを複数有する場合、最多副次的構成ユニットは、1,4−シクロヘキサンジメタノールとテレフタル酸からなるユニットが最も好ましい。また、これらのユニットを同量として、最多副次的構成ユニットを2種とすることもできる。
【0019】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの溶剤接着性は、例えば、構成するポリエステルとして低い二次転移点を有する共重合ポリエステルユニットを一部に有する構造とすることで達成することができる。低い二次転移点を有する共重合ポリエステルユニットとしては、多価アルコール成分として、トリメチレングリコール成分、1,4−ブタンジオール成分、ダイマージオール成分、又はポリオキシテトラメチレングリコール成分を有するエステルユニットや、多価カルボン酸成分として、ダイマー酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の脂肪族ジカルボン酸成分を有するエステルユニット及びε−カプロラクトン由来のユニットが好ましいものとして挙げられ、これらの1種又は2種以上を導入することができる。なお、共重合ポリエステルユニットは、前記した多価アルコール成分のいずれかと多価カルボン酸成分のいずれか同士から形成したものとすることができる。また、溶剤接着性は、ジカルボン酸成分とジオール成分とを構成成分とするポリエステルとポリエステル系エラストマーとからなるポリエステル組成物からなるポリエステル系フィルムとすることで、その特性を得ることができる。かかるポリエステル組成物によるポリエステル系フィルムとする場合、ポリエステルとポリエステル系エラストマーとの配合割合は、両者合計量に対して、通常、前者が50〜99重量%程度、特に70〜97重量%程度で、後者が1〜50重量%程度、特に3〜30重量%程度であるのが好適である。
【0020】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを形成するポリエステル組成物に用いるのに好ましいポリエステル系エラストマーとしては、例えば、高融点結晶性ポリエステルセグメント(融点200℃以上)と分子量400以上、好ましくは、400〜8000の低融点軟質重合体セグメント(融点80℃以下)とからなるポリエステル系ブロック共重合体を挙げることができ、ポリ−ε−カプロラクトン等のポリラクトンを低融点軟質重合体セグメントに用いたポリエステル系エラストマーを用いるのが、特に好ましい。ここで、ラクトンとは、開環して両端にエステル結合を有するユニットとなるものであり、1つのラクトン由来のユニットが、カルボン酸成分であり、かつ、アルコール成分であるとして扱う。
【0021】
主たる構成ユニットと副次的構成ユニットとを本発明フィルムを形成するポリエステル中に含有させる手段としては、主たる構成ユニットと副次的構成ユニットとの共重合を行ってこの共重合ポリエステルを単独で使用する方式と、異なる種類のホモポリエステルあるいは共重合ポリエステルを混合する方式がある。本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、共重合ポリエステルを単独使用する方式及び混合使用する方式のいずれも採用することができるが、それぞれ、以下に述べるような特徴を有している。即ち、共重合ポリエステルを単独使用する方式では、ロールに巻回された長尺フィルムにおいてフィルムの組成変動が起こりにくいという利点があるものの、多品種のフィルムを工業生産するのに対応するのが困難であるという欠点がある。一方、異なる種類のホモポリエステルあるいは共重合ポリエステルを混合して製膜する方式は、混合比率を変更するだけでフィルムの特性を容易に変更でき、多品種のフィルムの工業生産にも対応できるため、工業的には広く行われている。
【0022】
特に好ましい特性を有する熱収縮性ポリエステル系フィルムを得るためには、例えば、下記のような組み合わせ例に従って、チップを混合することができる。
(1)ポリエチレンテレフタレート(PET)と1,4−シクロヘキサンジメタノールとテレフタル酸からなるホモポリエステルとの組み合わせ
(2)PETとネオペンチルグリコールとテレフタル酸とからなるホモポリエステルとの組み合わせ
(3)PETと1,4−ブタンジオールとテレフタル酸とからなるホモポリエステルとの組み合わせ
(4)上記4種類のホモポリエステルの組み合わせ
(5)PETと、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール及び1,4−ブタンジオールよりなる群から選択される1種以上のジオールからなる混合ジオール(必要によりエチレングリコールも加えることができる)とテレフタル酸とからなる共重合ポリエステルとの組み合わせ
【0023】
熱収縮性ポリエステル系フィルムを形成するポリエステルは常法により溶融重合することによって製造できるが、ジカルボン酸とグリコールとを直接反応させて得られたオリゴマーを重縮合する、いわゆる直接重合法、ジカルボン酸のジメチルエステルとグリコールとをエステル交換反応させたのちに重縮合する、いわゆるエステル交換法のほか、任意の重合法を適用することができる。なお、ラクトン由来のユニットの導入は、例えば、上記の重縮合前にラクトンを添加して重縮合を行う方法や、上記の重縮合により得られた ポリマーとラクトンを共重合する方法等により達成できる。
【0024】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを講成するポリエステルの極限粘度は好ましくは0.50以上、さらに好ましくは0.60以上、特に好ましくは0.65以上である。ポリエステルの極限粘度が0.50未満であると結晶性が高くなり、十分な収縮性を得ることが困難になって、好ましくない。
【0025】
かかる熱収縮性ポリエステル系フィルムは、分光光度計にて測定されたフィルムの波長500nmの光線透過率が20%以下である。波長500nmの光線透過率が20%を超えると、容器の内容物に悪影響を及ぼす可視光線を遮断できずに内容物が劣化したりして好ましくない。現在市販されているビールの瓶(アンバー色)の波長500nmの光線透過率は18%程度であるが15%以下であることが、特に好ましい。
【0026】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、JIS−K−7136に準じて測定されたフィルムの曇度(ヘイズ)が20%以下である。曇度(ヘイズ)が20%を超えると、内容物が見えなくなり好ましくない。内容物の状態や液体内容物の液面等の確認のためには曇度(ヘイズ)は15%以下であることが、特に好ましい。
【0027】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムに、波長500nmの光線透過率を達成するように、短波長側の光線の遮蔽性を付与するためには、例えば、フィルム中に光線遮蔽剤として無機滑剤、有機滑剤等の微粒子をフィルム重量に対して0.1〜30重量%、好ましくは0.5〜20重量%含有させることが好適である。該微粒子の含有量が0.1重量%未満の場合は、光線遮蔽性を得ることが困難な傾向にあり、一方30重量%を超えるとフィルム強度が低下して製膜が困難になる傾向にある。
【0028】
かかる、光線遮蔽剤として用いる微粒子は、ポリエステル重合前に添加してもよいが、通常は、ポリエステル重合後に添加する。微粒子として添加される無機滑剤としては、例えば、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、酸化鉄、酸化ケイ素、テフタル酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、リン酸カルシウム、カーボンブラック等の公知の不活性微粒子を挙げることができる。また、有機滑剤としては、ポリエステルの溶融製膜に際して不溶な高融点有機化合物、架橋ポリマー及びポリエステル合成時に使用する金属化合物触媒、例えばアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等によってポリマー内部に形成される内部粒子等を挙げることができる。酸化鉄の微粒子が、可視光線の遮蔽性と透明性のバランスをとることができるという理由で特に好ましい微粒子として挙げることができる。
【0029】
本発明の熱収縮ポリエステル系フィルムには、上記、可視光線の短波長側の光線の遮蔽性を付与するために含有させる無機滑剤、有機滑剤等の微粒子のほかに、紫外線遮蔽性を付与するために紫外線遮蔽剤を含有させることが好ましい。具体的には、紫外線遮蔽剤を練り込む方法、塗布する方法及び含浸する方法等を挙げることができるが、高度な紫外線遮蔽性を達成するためには、紫外線遮蔽剤を練り込む方法が遮断層の厚みを大きくすることができ、好ましい。
【0030】
紫外線遮蔽剤としては、紫外線を吸収する有機系と遮断する無機系のものを挙げることができる。本明細書中では、上記の両者を併せて紫外線遮蔽剤という。有機系紫外線遮蔽剤としてはインドール系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、シアノアクリレート系等の有機系低分子化合物、高分子有機系化合物を挙げることができる。紫外線遮蔽剤は市販のものを使用でき、このような高分子有機系化合物として具体的にはノバペックスU110(日本ユニペット社製)等を挙げることができる。また、このような有機系低分子量化合物として具体的には、チヌビン326(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、ボナソープUA3901(オリエント化学工業社製)、ユビナール3049(BASF社製)等を挙げることができる。無機系紫外線遮蔽剤としては、粒子径が可視光線の波長よりも小さい微粒子である酸化チタン等の粒子を挙げることができる。微粒子酸化チタンの場合、粒子径は0.04μm以下であるのが好ましい。
【0031】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルム中の紫外線遮蔽剤の量は特に限定されず、使用する紫外線遮蔽剤の種類や後記のような層構成により適宜設定できる。紫外線遮蔽剤として有機系低分子量化合物を使用する場合、好ましくは、フィルムを形成するポリエステル全体に対し、層構成に関わらず0.1〜5重量%程度である。有機系低分子量化合物からなる紫外線遮蔽剤の含有量が0.1重量%未満であると、波長380nm及び波長400nmの光線を遮蔽する等の紫外線遮蔽剤を含有する効果が得られにくい。かかる紫外線遮蔽剤としての有機系低分子量化合物はフィルム製造におけるポリエステルの溶融時の熱によって劣化を生じるが、紫外線遮蔽剤の含有量が5重量%を超えると、その劣化に起因するフィルムの機械的特性の低下が大きくなりやすい。
【0032】
また、紫外線遮蔽剤として高分子有機系化合物を使用する場合、好ましくは、フィルムを形成するポリエステル全体に対し、層構成に関わらず2〜50重量%程度である。高分子有機系化合物からなる紫外線遮蔽剤の含有量が2重量%未満であると、紫外線遮蔽剤を含有させる効果が得られにくく、50重量%を超えると、上記のような収縮特性が低下し、所望の収縮特性を得るのが困難になる。
【0033】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは単層であっても、2層以上の複数層であってもよいが、複数層である場合、光線遮蔽剤及び紫外線遮蔽剤を含有する層Bの少なくとも一方の面に光線遮蔽剤及び紫外線遮蔽剤が添加されていない層Aを設けることが製膜時の発煙を低減させる等、操業性を改善することができるので好ましい。本発明のフィルムは光線遮蔽剤及び紫外線遮蔽剤を含有する層Bを中間層とし、両表層に光線遮蔽剤及び紫外線遮蔽剤が添加されていない層Aを設ける構成とすることが特に好ましい。フィルムの層構成をこのようにするためには異なる原料をA,Bそれぞれ異なる押出機に投入、溶融し、Tダイの前又はダイ内部にて溶融状態でA/B、A/B/A等の組み合わせで貼り合わせ、冷却ロールに密着固化させた後、少なくとも1方向に延伸することが好ましい。紫外線遮蔽剤による煙を防止し、工程を汚して操業性悪化を引き起こすことがないように、層Bを中間層にすることにより発煙の問題を解消し、長時間の安定製膜が実施可能となる。
【0034】
この場合、層Aと層Bの厚み比率はA/B/A=25/50/25から10/80/10の範囲であるのが好ましい。層Bの厚み比率が全層中で50%未満であるときは、光線遮蔽性が不足し、内容物が劣化して好ましくない。
【0035】
また、本発明のフィルムには、さらに必要に応じて、安定剤、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤等の添加剤を含有させることができる。
【0036】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、主収縮方向に温度95℃、処理時間10秒後の温湯収縮率が30%以上であり、好ましくは、35〜95%である。温湯収縮率が30%未満では容器に十分密着することができず、収縮不足が発生する。一方、温湯収縮率が95%を越えると収縮率が大きいために、収縮トンネル通過中に飛び上がりや図柄の歪みが発生する場合があるので、いずれも好ましくない。ここで、主収縮方向とは、収縮率の大きい方向を意味する。
【0037】
また、主収縮方向の直角方向に温度95℃、処理時間10秒後の温湯収縮率は好ましくは15%以下であり、さらに好ましくは10%以下である。主収縮方向に直角方向の温湯収縮率が15%を超えるとラベルの縦収縮が大きくなり、図柄の歪みが大きくなるほか、使用するフィルム量が多くなり経済的に問題が生ずるので、好ましくない。
【0038】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを形成するポリエステルの二次転移点Tgは50〜90℃程度、好ましくは55〜85℃、さらに好ましくは55〜80℃の範囲である。二次転移点がこの範囲内にあれば、低温収縮性は十分でかつ自然収縮が大きすぎることがなく、ラベルの仕上り性が良好である。
【0039】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、その少なくとも一方の面が、1,3−ジオキソランで溶剤接着できることが好ましい。この場合、溶剤接着強度は、4N/15mm幅以上であることが好ましく、5N/15mm幅以上であることがさらに好ましい。4N/15mm幅未満では、筒状に接着した収縮ラベルを容器の外周に収縮、密着させる際に接合部が剥がれることがあり、実用的でない。かかる溶剤接着特性を有するとき、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、フェノール等のフェノール類、テトラヒドロフラン等のフラン類、1,3−ジオキソラン等のオキソラン類等の有機溶剤によっても溶剤接着性を有する。実用的には、安全性の面からすれば、1,3−ジオキソランにより溶剤接着することが好ましいが、上記溶剤で代表される、任意の溶剤で溶剤接着することができる。
【0040】
以下、本発明のフィルムの製造方法を具体的に説明する。
【0041】
原料ポリエステルチップを、ホッパドライヤー、パドルドライヤー等の乾燥機、又は、真空乾燥機を用いて乾燥し、押出機を用いて200〜300℃の温度でフィルム状に押出す。あるいは、未乾燥のポリエステル原料チップをベント式押出機内で水分を除去しながら同様にフィルム状に押出す。溶融押出しに際してはTダイ法、チューブラ法等、既存のいかなる方法を採用することもできる。押出し後は、キャスティングロールで冷却(急冷)して未延伸フィルムを得る。なお、この「未延伸フィルム」には、フィルム製造時の送りのために必要な張力が作用したフィルムも含まれるものである。
【0042】
次いで、上記未延伸フィルムに対して延伸処理を行う。フィルムの最大収縮方向がフィルム横(幅)方向であることが、生産効率上、実用的であるので、ここでも、最大収縮方向を横方向とする場合の延伸法の例を示す。なお、最大収縮方向をフィルム縦(長手)方向とする場合も、下記方法における延伸方向を90゜変える等により、通常の操作に準じて延伸することができる。
【0043】
熱収縮性ポリエステル系フィルムの厚み分布を均一化させるためには、テンター等を用いて横方向に延伸する際、延伸工程に先立って予備加熱工程を行うことが好ましい。この予備加熱工程では、熱伝導係数が0.00544J/cm・sec・℃(0.0013カロリー/cm・sec・℃)以下となるように、低風速で、フィルム表面温度が二次転移点+0℃〜二次転移点+60℃の範囲内のある温度になるまで加熱を行うことが好ましい。
【0044】
延伸に伴うフィルムの内部発熱を抑制し、幅方向のフィルム温度斑を小さくする点に着目すれば、延伸工程の熱伝達係数は、0.00377J/cm・sec・℃(0.0009カロリー/cm・sec・℃)以上とすることが好ましい。0.00544〜0.00837J/cm・sec・℃(0.0013〜0.0020カロリー/cm・sec・℃)とすることがより好ましい。
【0045】
熱処理は通常、緊張固定下、実施されるが、同時に20%以下の弛緩又は幅出しを行うことも可能である。熱処理方法としては加熱ロールに接触させる方法やテンター内でクリップに把持して行う方法等の既存の方法を行うことも可能である。
【0046】
本発明における熱収縮性ポリエステル系フィルムのロールは、幅0.2m以上の熱収縮性フィルムを巻取りコア(芯)に長さ300m以上巻取ったものであることが好ましい。幅が0.2mに満たないフィルムのロールは、工業的に利用価値の低いものであり、また、長さ300mに満たないフィルムロールは、フィルムの巻長が少ないために、フィルムの全長に亘る温湯収縮率変動が小さくなるので、本発明の効果が発現し難くなる。フィルムロールの幅は0.3m以上であるのが好ましく、0.4m以上であるのがさらに好ましい。また、ロールに巻回されるフィルムの長さは400m以上であるのがより好ましく、500m以上であるのがさらに好ましい。
【0047】
フィルムロールの幅及び巻長の上限は特に制限されるものではないが、取扱いのしやすさから、一般的には幅1.5m以下、巻長はフィルム厚み50μmの場合に6000m以下が好ましい。また、巻取りコアとしては、通常、3インチ、6インチ、8インチ等のプラスチックコア、金属製コア、あるいは紙管を使用することができる。
【0048】
前記延伸工程中、延伸前又は延伸後に本発明フィルムの一方の面又は両方の面にコロナ放電処理を施し、本発明フィルム表面に形成する印刷層及び/又は接着剤層に対する接着性を向上させることも可能である。
【0049】
また、上記延伸工程中、延伸前又は延伸後にフィルムの一方の面又は両方の面に塗布を施し、本発明フィルムの接着性、離型性、帯電防止性、易滑性、遮光性等を向上させることも可能である。
【0050】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの厚みは特に限定するものではないが、例えば、ラベル用熱収縮性ポリエステル系フィルムとしては、10〜200μmであるのが好ましく、20〜100μmであるのがさらに好ましい範囲である。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明をさらに詳述するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施する場合も本発明に含まれる。本明細書中におけるフィルムの物性の測定法は以下の通りである。
【0052】
(1)光線透過率
日立ハイテクノロジーズ社製U−3310を用い、スキャンスピード300nm/minで測定した。
【0053】
(2)曇度(ヘイズ)
日本電飾工業社製NDH−2000Tを用い、JIS−K−7136に準じ測定した。
【0054】
(3)温湯収縮率
フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、95±0.5℃の温水中に無荷重状態で10秒間浸漬処理して熱収縮させた後、直ちに25±0.5℃の水中に10秒間浸漬し、その後フィルムの縦及び横方向の寸法を測定し、下式に従い温湯収縮率を求めた。該収縮率の大きい方向を主収縮方向とした。
温湯収縮率={(収縮前の長さ−収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%)
【0055】
(4)溶剤接着性
1,3−ジオキソランを用いて230mm幅のロールフィルムをセンターシールマシンでチューブ状に接合加工し、主収縮方向が円周方向となるようにチューブ状に接合加工し、該チューブ状体を加工時の流れ方向と直交方向に15mm幅に切断してサンプル20個を取り、東洋精機社製のテンシロン(型式:UTL−4L)を用いてチャック間を20mm、引張速度200mm/min.でT型剥離し、剥離抵抗力を測定した。測定値が4N以上であれば「○」、4N未満であれば「×」とした。
【0056】
(5)収縮仕上り性
1,3−ジオキソランを用いてフィルムをセンターシールマシンでチューブ状に接合加工して主収縮方向が円周方向となるようにチューブ状にし、さらに切断してラベルを作製した(折り径110mm、ピッチ120mm)。このラベルを、日本コカコーラ社製角ペットボトル(350mLホット爽健美茶に使用しているもの)に被せ、スチームシュリンクトンネル(Fuji Astec Inc製スチームトンネル 型式:SH−1500−L)を使用し、通過時間5秒、ゾーン温度80℃で収縮処理を行った(測定数=10)。評価は目視で行い、基準は下記の通りとした。
・シワ、飛び上がり、収縮不足のいずれも発生なし:○
・シワ、飛び上がり又は収縮不足が発生:×
【0057】
(6)融点、二次転移点
島津製作所社製の示差走査熱量計(型式:DSC−60)を用いて、未延伸フィルム5mgを0℃から200℃まで昇温速度20℃/分で昇温した際に得られた発熱曲線より低い温度にあるDSC曲線の変曲点の前後に接線を引きその交点を二次転移点、また、吸熱曲線の変曲点の前後に接線を引きその交点を融点とした。
【0058】
実施例、比較例において用いたポリエステルは以下の通りである。
・ポリエステルa:ポリエチレンテレフタレート(IV 0.75)
・ポリエステルb:テレフタル酸100モル%と、エチレングリコール70モル%、ネオペンチルグリコール30モル%とからなるポリエステル(IV 0.72)
・ポリエステルc:ポリブチレンテレフタレート(IV 1.20)
・ポリエステルd:ポリエチレンテレフタレート50重量部と光線遮蔽剤50重量部とを混合溶融し造粒したマスターバッチ(東洋インキ社製、原料名称:PEN 6KA906 BRN)
・ポリエステルe:ポリエステルbを89.7重量部と紫外線遮蔽剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名:チヌビン326)10重量部と酸化防止剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名:イルガノックス1010)0.3重量部とを混合溶融し造粒したマスターバッチ(日本ピグメント社製、原料名称:UR10−MB)
【0059】
(実施例1)
表1に示すように、層Aの原料して、ポリエステルaを37重量%、ポリエステルbを53重量%、ポリエステルcを10重量%混合したポリエステル組成物を、層Bの原料して、ポリエステルaを7重量%、ポリエステルbを53重量%、ポリエステルcを10重量%とポリエステルdを30重量%混合したポリエステル組成物を、それぞれ別々の押出機に投入、混合、溶融したものをフィードブロックで接合し、280℃でTダイから延伸後のA/B/Aの厚み比率が50μm/100μm/50μmとなるように積層しながら溶融押出しし、チルロールで急冷して未延伸フィルムを得た。該未延伸フィルムを、テンターでフィルム温度75℃で横方向に4.0倍延伸し、厚み50μmの熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。
【0060】
(実施例2、3及び比較例1、2)
表1に示すようにポリエステル配合割合、製膜条件を変更したこと以外は、実施例1と同様にして厚み50μmの熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。
【0061】
実施例1、2、3及び比較例1、2で用いたポリエステルの配合割合、製膜条件を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
実施例1、2、3及び比較例1、2で得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
表2から明らかなように、実施例1、2、3で得られた熱収縮性ポリエステル系フィルムは、良好な光線遮蔽性・透明性を有するものであった。
【0066】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、高品質で実用性が高く、特に劣化しやすい内容物の包装収縮ラベル用として好適である。
【0067】
一方、比較例1で得られた熱収縮性ポリエステル系フィルムは、透明性は有するものの光線遮蔽性が劣っており、比較例2で得られた熱収縮性ポリエステル系フィルムは、波長500nmの光線遮蔽性が劣っていた。このように比較例の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、品質が劣り、実用性の低いものであった。
【0068】
以上、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムについて、複数の実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、各実施例に記載した構成を適宜組み合わせる等、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、印刷や加工を施さなくとも可視光線の短波長領域を遮断することができるので、かかるフィルムで容器を被覆したときにその内容物を光線から保護して、光線により劣化するのを防止することができ、また、容器中の内容物の状態を確認することができるので内容物が液体の場合その液面を確認することが求められる容器の被覆ラベルの用途に好適に用いることができるほか、化粧品、芳香剤等複雑な形状が求められる容器の内容物を保護する被覆ラベルの用途にも用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主にポリエステルからなるフィルムであって、波長500nmの光線透過率が20%以下、曇度(ヘイズ)が20%以下、かつ、温度95℃における主収縮方向の温湯収縮率が30%以上であることを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項2】
紫外線遮蔽剤を含有してなる層を少なくとも1層含んでなることを特徴とする請求項1記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項3】
1,3−ジオキソランにより溶剤接着可能なことを特徴とする請求項1又は2記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。

【公開番号】特開2006−321937(P2006−321937A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−148030(P2005−148030)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】