説明

熱収縮性ポリエステル系フィルム

【課題】長時間、高温で使用された時に、ひび割れが生ず、耐アルカリ性に優れ、しかも、廃棄物処理に際して燃焼時の有毒ガスの発生や燃焼炉を傷めるなどの問題の少ないポリエステル系フィルムからなり優れた特性の熱収縮性フィルムを提供する。
【解決手段】ガラス転移点が78〜82℃の結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂50〜75重量%と、ガラス転移点が90〜105℃の非晶質性又は弱晶質性のスピログリコール変性ポリエチレンテレフタレート系樹脂25〜50重量%とからなるフィルムを少なくとも一方向に延伸してなることを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルムによる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱収縮性ポリエステル系フィルムに関し、特に高温での耐久性に優れた縦収縮性ラベルで、乾電池用やホット飲料用として用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
現在使用されている熱収縮性フィルムには、ポリ塩化ビニル系フィルム、ポリスチレン系フィルム、ポリオレフィン系フィルム、ポリエステル系フィルムなどがある。ポリ塩化ビニル系フィルムは印刷性がよく、きれいな包装ができるのでラベル等に多用されているが、耐熱性が低く、焼却すると塩化水素の発生など環境面での問題がある。ポリスチレン系フィルムは保存中での自然収縮量が大きく、耐溶剤性などが劣るなどの短所もある。ポリオレフィン系フィルムは耐熱性が比較的高いが、印刷性に劣り、加熱収縮温度の範囲が狭いという欠点がある。
【0003】
乾電池の絶縁・保護を目的として、熱収縮性フィルムに印刷を施した乾電池用ラベルが用いられている。このフィルムには、使用する環境に応じた厳しい性能が求められている。第1に、高温長時間下での割れなどが生じない耐熱性。第2に、アルカリ性の電解液に浸されてヒビや割れなどが生じない耐アルカリ性等がある。
【0004】
近年、乾電池用ラベルとして、ポリエステル系の一軸延伸した熱収縮性フィルムが使用されている。その構成する樹脂成分として、ガラス転移点(Tg)が80℃程度の1,4−シクロヘキサンジメタノールで変性した非晶質性共重合ポリエステル樹脂を用い、加工性、延伸性を改善している。
【0005】
しかし、60℃付近以上で熱収縮が大きくなるため、乾電池を高温長時間の保管の際、ズレや割れが生じる欠点があった。この欠点を克服するため、延伸条件を変更して生産することができるが、特殊な条件であるので生産性に大きな問題を抱えていた。
【0006】
そこで、Tgの高い非晶質乃至低晶質のスピログリコール変性の共重合ポリエステル樹脂を用いた熱収縮性フィルムが開発されている(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−183421号公報
【特許文献2】特開2003−183422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、スピログリコール変性の共重合ポリエステル樹脂を用いた熱収縮性フィルムは、例えば、乾電池の外装ラベルとして用いられた場合、長時間、高温で使用された時に、ひび割れが生じることが判明した。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記の耐熱性の問題や耐アルカリ性に優れ、しかも、廃棄物処理に際して燃焼時の有毒ガスの発生や燃焼炉を傷めるなどの問題の少ないポリエステル系フィルムにおいて、優れた特性の熱収縮性フィルムを提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、ガラス転移点(Tg)が78〜82℃の結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂50〜75重量%と、ガラス転移点(Tg)が90〜105℃の非晶質性又は弱晶質性のスピログリコール変性ポリエチレンテレフタレート系樹脂25〜50重量%とからなるフィルムを少なくとも一方向に延伸してなることを特徴とする。
【0011】
上記の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、延伸方向の熱収縮率が、80℃で1%以下、好ましくは0.5%以下、130℃で10%以上、好ましくは15%以上であることがさらに好ましい。
【0012】
また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法は、ガラス転移点が78〜82℃の結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂50〜75重量%と、ガラス転移点が90〜105℃の非晶質性又は弱晶質性のスピログリコール変性ポリエチレンテレフタレート系樹脂25〜50重量%からなるフィルムを、90〜115℃に予熱した後、ロール間延伸法により2〜6倍延伸してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、乾電池用外装ラベルとして加熱収縮させて用いた場合、高温長時間の保管あるいは使用中に、ズレや割れが発生しないこと、また、耐アルカリ性や耐摩耗性が良好である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを構成する一方の成分である結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂は、ガラス転移点が80℃前後であることが必要である。これがあまり低いものは、フィルムの収縮開始温度が低くなり過ぎてフィルムの保管中に部分的な収縮が起こるようになり、またガラス転移点が80℃より大幅に高くなると、収縮率が必要となる温度域で発現しないので好ましくない。
【0015】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムにおける他方の成分であるガラス転移点が90〜105℃の非晶質性又は弱晶質性のスピログリコール変性ポリエチレンテレフタレート系樹脂である。ガラス転移点が90℃よりも低くなると、スピログリコールの共重合割合が少なくなるゆえに、結晶性となり熱収縮率が発現しにくくなるので好ましくない。また、ガラス転移点が 105℃より高いと、実用温度域での収縮率が発現しないので好ましくない。
【0016】
該スピログリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂としては、たとえば、三菱瓦斯化学社製「アルテスタ20」(Tg;95℃)、「アルテスタ30」(Tg;100℃)が市販されている。
【0017】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムに用いられる、ガラス転移点が78〜82℃の結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂と、ガラス転移点が90〜105℃の非晶質性又は弱晶質性のスピログリコール変性ポリエチレンテレフタレート系樹脂の配合割合は、50〜75重量%/25〜50重量%とすることが必要である。
【0018】
結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂の割合が50重量%未満では、80〜90℃温度領域で収縮率が高くなり、乾電池に装着した場合にワレなどが生じて好ましくない。また、75重量%を超えると収縮率が不足して装着時に不具合が生じるので好ましくない。
【0019】
延伸方向の熱収縮率が、80℃で1%以下、130℃で10%以上という熱収縮性ポリエステル系フィルムの熱収縮特性を得るには、延伸条件として、100〜110℃での温度で予熱したのち、一軸方向に2〜6倍、好ましくは3〜5倍の延伸倍率とすることが好ましい。
【0020】
上記の熱収縮特性を有する熱収縮性ポリエステル系フィルムをロール間延伸で製造する場合、予熱温度を高くするするとフィルムに粘着性が生じ、生産性が低下するという問題があり、ガラス転移点(Tg)の高いポリエステル樹脂が求められるが、熱収縮性に欠点があった。
【0021】
本発明は、ガラス転移点が78〜82℃の結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂と、前記のガラス転移点が90〜105℃の非晶質性又は弱晶質性のスピログリコール変性ポリエチレンテレフタレート系樹脂とを併用することにより、ロール間延伸による生産が良好で、80℃で1%以下、130℃で10%以上という熱収縮率が得られた。
【0022】
本発明による熱収縮性ポリエステル系フィルムは、これを乾電池にラベルとして被覆し収縮させたときに、高温長時間下での割れなどが無く、また、アルカリ性の電解液に浸されてヒビや割れなどが無い等の改善が認められた。
また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムには、上記ポリマー成分のほかに、必要に応じて安定剤、滑剤、着色剤、酸化防止剤、静電気防止剤、フィルム同士の滑性を改良するための有機および/または無機の滑剤などを添加してもよい。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の具体的態様を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例および比較例の評価は、次のように行った。
【0024】
〔割れの評価〕:熱収縮性ポリエステル系フィルムを乾電池にラベルとして装着し、80℃のオーブンに5日間保持した後、外観を確認する。
○: 割れの発生無し
×: 割れを生じた
【0025】
〔耐アルカリ性〕:30重量%の水酸化カリウム溶液に、室温で24時間浸漬した後、水洗、乾燥して外観を確認する。
○: 問題なし。
×: 異常あり(シワ、ワレ、ラベルの緩み、シール部の剥がれなど)
【0026】
〔熱収縮率〕:各実施例・比較例にて製造した熱収縮性ポリエステル系フィルムを10cm角に切断したものをサンプルとし、各サンプルを各温度のグリセリン浴に30秒間浸漬し、30秒経過後直ちに25℃の水槽に10秒間浸漬した後、サンプルの寸法を測定し、その測定温度における収縮率とした。
【0027】
実施例および比較例で用いた樹脂は、次のとおり。
PET−1:イーストマンケミカル社製、非晶質性シクロヘキサンジメタノール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂「PETG Copolyester 6763」(Tg;80℃)
PET−2:ベルポリエステルプロダクツ社製、結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂「FMS20」(Tg;80℃)
PET−3:ベルポリエステルプロダクツ社製、弱晶質性イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート樹脂「IFG8L」(Tg;76℃)
PET−4:三菱瓦斯化学社製、弱晶質性スピログリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂「アルテスタ20」(Tg;95℃)
PET−5:三菱瓦斯化学社製、非晶質性スピログリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂「アルテスタ30」(Tg;100℃)
【0028】
実施例1〜2および比較例1〜4
表1に示した各樹脂の混合ペレットを、熱風式棚段乾燥機を用いて120℃で6時間乾燥した後、押出機のホッパーに100〜110℃の乾燥窒素ガスを流しながらT−ダイから押出して、冷却ロールで急冷して200μm厚さのフィルムを成形した。なお、押出機の温度条件は160〜250℃、T−ダイ温度は280℃であった。次に、複数の予熱ロールを用い、予熱ロール温度を80℃から最終ロール110℃で予熱し、ロール間延伸方法を用いた延伸機を用いて、延伸ロールの入口側ロールを70℃、出口側ロール30℃に設定して、フィルムを長手方向に4倍延伸して厚さ約50μmのフィルムを得た。表1に、各温度の長手方向の収縮率と各評価を示す。
【0029】
【表1】

【0030】
表1から判るように、実施例の各熱収縮性ポリエステル系フィルムは、80℃での熱収縮率がほぼ0%で、130℃の熱収縮率が15%以上を示し、高温長時間下での割れなどが無く、耐アルカリ性に優れたもので、乾電池の外装用ラベルとして優れている。
これに対して、比較例2〜4は、高温ロール延伸におけるロールへの粘着性があり生産性に劣り、また、比較例は全て、割れの評価も劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、被包物品に熱収縮装着後、40〜60℃程度の高温環境において長時間保管しても、使用中においても、ズレや割れが発生せず、耐アルカリ性や耐摩耗性が良好である。そのため、特に高温環境において保管および/または使用される用途、たとえば乾電池用外装ラベルとして好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移点が78〜82℃の結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂50〜75重量%と、ガラス転移点が90〜105℃の非晶質性又は弱晶質性のスピログリコール変性ポリエチレンテレフタレート系樹脂25〜50重量%とからなるフィルムを少なくとも一方向に延伸してなることを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項2】
前記熱収縮性ポリエステル系フィルムが一軸延伸フィルムであり、かつ、延伸方向の熱収縮率が、80℃で1%以下、130℃で10%以上である請求項1に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項3】
前記熱収縮性ポリエステル系フィルムが縦一軸延伸フィルムであり、乾電池外装用ラベルに用いることを特徴とする請求項1または2に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項4】
ガラス転移点が78〜82℃の結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂50〜75重量%と、ガラス転移点が90〜105℃の非晶質性又は弱晶質性のスピログリコール変性ポリエチレンテレフタレート系樹脂25〜50重量%からなるフィルムを、90〜115℃に予熱した後、ロール間延伸法により2〜6倍延伸してなることを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2011−79229(P2011−79229A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233480(P2009−233480)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000106726)シーアイ化成株式会社 (267)
【Fターム(参考)】