説明

熱収縮性ポリエステル系フィルム

【課題】加熱した時に収縮不足が生じることなく、かつ耐自然収縮性に極めて優れる熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供する。
【解決手段】主収縮方向の自然収縮率が40℃×30日保管後で0.30%以下であり、かつフィルムを80℃の温水に10秒間浸漬したときの主収縮方向の収縮率が20%以上80%未満であることを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱収縮性ポリエステル系フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
熱収縮性フィルムは、収縮包装、収縮結束包装、プラスチック容器(ペットボトル等)の収縮ラベル、ガラス容器の破壊飛散防止包装、キャップシール等に広く使用されている。なかでも、ポリ塩化ビニル(PVC)やポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂からなる延伸フィルムが各種容器のラベル用として用いられている。
【0003】
従来、PVC系熱収縮フィルムが主に使用されてきたが、PVCは焼却時に塩素系ガス等の有害物質を発生する問題があることから、ポリスチレン系熱収縮性フィルムやポリエステル系熱収縮性フィルムへの置き換えが進められている。ポリスチレン系熱収縮性フィルムは、熱収縮させたときの仕上がりが良いことから、飲料用ペットボトルに広く使用されているが、他素材に比べると耐溶剤性が低く、特殊なインキを使用しなければならない点や、自然収縮しやすいといった欠点がある。自然収縮率の高いフィルムにグラビア印刷を施そうとすると、保管中に寸法変化したり、印刷中にインキ溶剤の浸透や乾燥炉の熱によりフィルム寸法が不安定となり、印刷ピッチが合わないというトラブルが生じやすくなる。更には、ペットボトル用ラベルとしてスリーブ状に形成した後にも、保管中にラベルの径が小さくなり、容器に装着しようとした際に装着し難いというトラブルが生じることがある。
これに対し、ポリエステル系フィルムは焼却時に有害物質を発生せず、耐溶剤性が高く、また自然収縮率が低いことから、保管・輸送時に収縮しにくい素材としても注目されている。
【0004】
国内の流通において、このような熱収縮性フィルム又はそのラベル等の加工品は主にトラックで搬送されるが、季節によってはトラック荷台の雰囲気温度は40℃を超えるため、前述のような自然収縮によるトラブルが生じるおそれがある。また、製品の保管においても同様に、温度管理されていない倉庫では、日中は気温が上昇して自然収縮してしまう恐れがある。従って、外気温が上昇する時期の製品搬送や保管は、保冷車や保冷倉庫等を使用し、自然収縮を抑制する措置をとるのが一般的である。
【0005】
さらには近年、このような熱収縮性フィルム又はそのラベル等の加工品を、海外へ輸出するケースが増えてきている。特に船舶での搬送においては、赤道付近を通過する際、高温多湿の状況下に長期間晒されるため、リーファーコンテナ等に入れて定温を保ち、収縮を防ぐ措置がとられている。しかし、リーファーコンテナや前述の保冷車、保冷倉庫等を使用するとコストが嵩むため、より自然収縮しにくい熱収縮性フィルムが求められている。
【0006】
加えて、意匠性の観点よりPETボトルの形状が複雑になり、かつ環境負荷の低減、ならびにコストダウンの観点からラベルの薄膜化が進行している。これらにより、ラベル装着時の安定性をより高める必要が出てきており、剛性(いわゆるラベルの腰)だけでなく、寸法安定性についても従来品よりさらに優れた(従来品よりさらに自然収縮率の低い)フィルムが求められている。
【0007】
自然収縮率の低い熱収縮性フィルムとしては、ポリエステル系樹脂又はポリスチレン系樹脂の単一素材からなるフィルム、又はポリスチレン系樹脂とポリエステル系樹脂の積層フィルム等が検討されている。
単一素材からなるフィルムとしては、例えば特許文献1には、少なくとも2種以上のポリエステル系共重合体からなり、熱収縮率−温度グラフにおいて、60℃〜95℃の間で急激な立ち上がりを画く熱収縮性フィルムが開示されている。また、特許文献2には、ポリエステル系樹脂又はポリスチレン系樹脂からなり、主延伸方向の収縮率が70℃×10秒で10%以下であり、40℃×7日で2.5%以下である熱収縮性フィルムが開示されている。
積層フィルムとしては、例えば特許文献3には、ポリエステル系樹脂と該ポリエステル系樹脂に対して反応性を有する変性スチレン系エラストマーとを含有する表裏層と、ポリスチレン系樹脂とポリエステル系樹脂とを含有する中間層とからなり、30℃で30日間保存した後の主収縮方向の自然収縮率が3.0%以下である熱収縮性積層フィルムが開示されている。また、特許文献4には、ポリエステル系樹脂からなる層、粘着付与樹脂を含む層、スチレン系樹脂からなる層の少なくとも3層からなり、30℃50%RH雰囲気下で30日間保管したときの自然収縮率が3%未満である熱収縮性積層フィルムが開示されている。
【0008】
特許文献1〜4に開示されている熱収縮性フィルムは、常温下では殆ど自然収縮しない程度の耐自然収縮性を有しつつ、60℃以上に加熱した際には速やかに収縮するという良好な収縮仕上がり性や収縮加工性も付与している。
しかしながら、外気温が上昇する季節や、特に前述のとおり海外へ船舶で搬送する場合には、フィルムは40℃を超える環境下に長時間晒されることになり、これら熱収縮性フィルムでは自然収縮が進行してしまうおそれがある。したがって、特許文献1〜4に開示されている熱収縮性フィルムの搬送や保管には、コストが嵩む保冷倉庫での保管や保冷車での搬送が必要不可欠である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−122152号公報
【特許文献2】特開2000−229357号公報
【特許文献3】特許第4364085号公報
【特許文献4】特許第4426488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、加熱した時に収縮不足が生じることなく、かつ耐自然収縮性に極めて優れる熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、下記[1]〜[6]に関する。
[1]主収縮方向の自然収縮率が40℃×30日保管後で0.30%以下であり、かつフィルムを80℃の温水に10秒間浸漬したときの主収縮方向の収縮率が20%以上80%未満であることを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルム。
[2]全ポリエステル樹脂成分中において、ジカルボン酸成分の主成分をテレフタル酸、ジオール成分の主成分をエチレングリコールとし、かつ(a)イソフタル酸、(b)1,4−シクロヘキサンジメタノール、及び(c)ネオペンチルグリコールからなる群から選ばれる1種以上を含有した共重合ポリエステルである、上記[1]に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
[3]全ポリエステル樹脂成分中における、すべてのジオール成分を100mol%としたとき、ジエチレングリコールを0.1mol%以上10mol%未満含有する、上記[1]又は[2]に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムを基材として用いた熱収縮性ラベル。
[5]前記成形品が熱収縮性ラベルである、上記[4]に記載の成形品。
[6]上記[4]又は[5]に記載の成形品を装着した容器。
【発明の効果】
【0012】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、60℃以下の雰囲気下では収縮しにくく自然収縮率が極めて低い一方で、80℃以上に加熱した時には良好に熱収縮し、収縮不足が生じにくい。そのため、外気温が上昇する季節においても、温度制御下での保管が必要ない。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムについて、詳細に説明する。
【0014】
[熱収縮性ポリエステル系フィルム]
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、フィルムの主収縮方向の自然収縮率が、40℃×30日保管後で0.30%以下であり、好ましくは0.20%以下である。40℃×30日保管後の自然収縮率が0.30%を上回ると、温度制御されていない船舶又はトラックでの搬送、ならびに倉庫での保管中に、フィルムが自然収縮してしまうため好ましくない。
【0015】
40℃×30日保管後の自然収縮率を0.30%以下に抑えるには、フィルムの材質や成分、ならびに主収縮方向の延伸条件を制御することが有用である。
まず材質について、ポリ塩化ビニル(PVC)やポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂等を延伸してなる熱収縮性フィルムが各種容器に用いられているが、本発明の効果を達成するにはポリエステル系樹脂からなるフィルムであることが重要である。ポリエステル系樹脂からなる熱収縮性フィルムは材質の特性上、他に比べて耐自然収縮性に優れるためである。
また、ポリエステル系フィルムを構成する成分が変動すると結晶性が変化し、例えば結晶性の高いフィルムは80℃以上に加熱したときの収縮率が低くなる傾向にあり、PETボトル等のラベルとして用いた際に収縮不足が生じやすくなる。そこで、製膜条件の変更により80℃以上に加熱したときの収縮率を高くしようとすると、今度は自然収縮率が高くなってしまう。つまり、結晶性の高いフィルムでは、収縮不足の解消と耐自然収縮性とを両立するのが難しい。したがって、本発明においては結晶性を抑えるようなフィルム成分とする方が好ましい。
主収縮方向の延伸条件について、例えばテンター法により延伸した場合、延伸温度、熱処理温度、及び弛緩率を制御する必要があり、延伸温度については破断しない程度に極力低い温度で延伸し、続いて収縮不足を引き起こさない程度に極力高い温度で熱処理を施すのが好ましい。その後に弛緩しながら再熱処理を施せば、更に収縮率を抑えることが可能である。より具体的に言えば、延伸温度はフィルムのガラス転移温度Tg〜(Tg+25℃)の範囲、好ましくはTg〜(Tg+20℃)の範囲で延伸するのがよく、熱処理は、伸温度と同等以上の温度で処理するのがよい。再熱処理における弛緩率は、0.1〜10%の範囲が好ましい。以上のように、極力低温で延伸した後、熱処理や弛緩により低温域の配向を緩和させることで、40℃×30日保管後の自然収縮率を0.30%%以下に抑えることができる。
なお、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、40℃を超える雰囲気温度においても熱収縮しにくいという高い耐自然収縮性の観点から、フィルムの主収縮方向の自然収縮率が、40℃×7日保管後で好ましくは0.30%以下であり、より好ましくは0.20%以下である。
【0016】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、80℃の温水に10秒間浸漬したときの主収縮方向の収縮率が20%以上80%未満であり、好ましくは25%以上75%未満、より好ましくは30%以上70%未満である。80℃の温水に10秒間浸漬したときの収縮率が20%未満であると、例えばPETボトル用のラベルとして用いた際に、80℃以上に加熱した時に収縮不足となりやすいので好ましくない。また、80%以上であると、前記同様、フィルムが自然収縮してしまうため好ましくない。
【0017】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、全ポリエステル樹脂成分中において、ジカルボン酸成分の主成分をテレフタル酸、ジオール成分の主成分をエチレングリコールとし、かつ(a)イソフタル酸、(b)1,4−シクロヘキサンジメタノール、及び(c)ネオペンチルグリコールからなる群から選ばれる1種以上を含有した共重合ポリエステルであることが好ましい。
【0018】
ポリエステル系樹脂を構成する主なジカルボン酸成分は、前述のとおりテレフタル酸であり、ジカルボン酸成分100モル%に対してテレフタル酸を好ましくは50モル%以上、より好ましくは55モル%以上、更に好ましくは60モル%以上含有する。テレフタル酸以外のジカルボン酸成分としては、例えば、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、コハク酸、アゼライン酸、デカン酸、ダイマー酸、シクロヘキサンジカルボン酸、トリメリット酸等を含有することができるが、中でもイソフタル酸を好適に含有することができる。
【0019】
ポリエステル系樹脂を構成する主なジオール成分は、前述のとおりエチレングリコールであり、ジオール成分100モル%に対してエチレングリコールを好ましくは50モル%以上、より好ましくは55モル%以上、更に好ましくは60モル%以上含有する。エチレングリコール以外のジオール成分としては、例えば、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ヘキサンジオール、ノナンジオール、ダイマージオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物やプロピレンオキサイド付加物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、トリシクロデカンジメタノール、2,2,4−トリメチル−1,5−ペンタンジオール等を含有することができ、中でもネオペンチルグリコールや1,4−シクロヘキサンジメタノールを好適に含有することができる。また、1,4−シクロヘキサンジメタノールにはシス型及びトランス型の2種類の異性体が存在するが、いずれであってもよい。
ただし、1,4−ブタンジオールのように、エチレングリコールに比べてガラス転移温度(Tg)が低下するような成分を含有させる場合は、自然収縮率の上昇を抑える観点から、その含有量をジオール成分100モル%に対して好ましくは5モル%以下、より好ましくは3%以下に抑える。
【0020】
本発明において、特に好適に用いられるのは、ジカルボン酸成分がテレフタル酸100モル%であり、ジオール成分がエチレングリコールを主成分とし、第2成分として1,4−シクロヘキサンジメタノールを含有した熱収縮性ポリエステル系フィルムである。ここで言う主成分及び第2成分とは、全ポリエステル樹脂成分中におけるジカルボン酸成分、ジオール成分を各々100モル%(合計200モル%)としたとき、各成分においてモル比率が最も高いものを主成分、2番目に高いものを第2成分という。同様に、3番目に高いものを第3成分といい、第3成分以降を含有していても本発明の要件を満たしていれば構わない。
イソフタル酸やネオペンチルグリコールを第2成分として含有した熱収縮性フィルムも好適に用いることができるが、ガラス転移温度をより適切な範囲として、耐自然収縮性、収縮応力、及び収縮率の制御を効率的に行う観点からは、1,4−シクロヘキサンジメタノールを第2成分として含有するフィルムがより好ましい。1,4−シクロヘキサンジメタノールの含有量は、上記観点から、全ジオール成分100モル%中、好ましくは10モル%以上45モル%以下であり、より好ましくは20モル%以上40モル%以下である。
【0021】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、ガラス転移温度をより適切な範囲として、耐自然収縮性の制御を効率的に行う観点からは、全ポリエステル樹脂成分中における、すべてのジオール成分を100mol%としたとき、ジエチレングリコールを好ましくは0.1mol%以上10mol%未満、より好ましくは0.2mol%以上8mol%未満含有する。なお、ジエチレングリコールは、ポリエチレンテレフタレートをはじめとするポリエステル製造時の副生成物としても生成されるため、0.1mol%未満に抑制するのは困難である。
【0022】
本発明に係るポリエステル系樹脂は、ポリエステル系樹脂の慣用の製造方法、すなわち、直接重合法又はエステル交換法等により、回分式又は連続式によって製造することができる。ここで、任意の共重合成分は、重縮合反応過程の任意の段階で添加することができる。また、ジカルボン酸化合物とジオール化合物とから低重合度のオリゴマーを製造しておき、これと任意の共重合成分とを重縮合させてポリエステル樹脂を製造することもできる。
重縮合反応により得られた樹脂は、通常、重縮合反応槽の底部に設けられた抜き出し口からストランド状に抜き出して、水冷しながら若しくは水冷後、カッターで切断されてペレット状とされる。さらに、この重縮合後のペレットを加熱処理して固相重縮合させることにより、さらに高重合度化させ得ると共に、反応副生物のアセトアルデヒドや低分子オリゴマー等を低減化することもできる。
前記製造方法において、エステル化反応は、必要に応じて、例えば、三酸化二アンチモンや、アンチモン、チタン、マグネシウム、カルシウム等の有機酸塩や有機金属化合物等のエステル化反応触媒の存在下で行うことができ、エステル交換反応は、必要に応じて、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、マンガン、チタン、亜鉛等の有機酸塩や有機金属化合物等のエステル交換反応触媒の存在下で行うことができる。
また、重縮合反応は、例えば、正リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ポリリン酸、及びこれらのエステルや有機酸塩等のリン化合物の存在下で行うことができ、例えば、三酸化二アンチモン、二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム等の金属酸化物、或いは、アンチモン、ゲルマニウム、亜鉛、チタン、コバルト等の有機酸塩や有機金属化合物等の重縮合触媒の存在下で行うこともできる。これらの重縮合触媒のうち、特にテトラブトキシチタネート、三酸化二アンチモン、二酸化ゲルマニウムから選択される1種以上が好適に使用される。
また、重縮合過程での消泡を促進するため、シリコーンオイル等の消泡剤を添加することもできる。
【0023】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、40℃を超える雰囲気温度においても熱収縮しにくいという高い耐自然収縮性の観点から、60℃の温水に5分間浸漬したときの主収縮方向の収縮率が好ましくは3.0%以下、より好ましくは2.7%以下、更に好ましくは2.5%以下である。
また、同様の観点から、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、70℃の温水に10秒間浸漬したときの主収縮方向の収縮率が好ましくは3%以下、より好ましくは2.5%以下である。
【0024】
本発明の熱収縮性フィルムは、単層フィルムであってもよく、積層フィルムの少なくとも1層に用いてもよい。積層フィルムの場合、本発明の要件を満たしていれば、積層するフィルムの材質や層の数には特に制限がなく、本発明のフィルムと同質の材料であっても異質の材料であっても構わない。異質の材料としては、例えばポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等が挙げられる。しかし、本フィルムの特長である優れた耐自然収縮性を維持するためには、他層についてもポリエステル系樹脂で構成されるのが好ましい。また、積層フィルムとした場合の本フィルムの厚さについて、特に制限されるものではないが、全層の厚さに対して50%以上であれば、耐自然収縮性を阻害しにくいので好ましい。
【0025】
本発明では、前述した成分のほか、本発明の効果を著しく阻害しない範囲内で、フィルムの耳等のトリミングロス等から発生するリサイクル樹脂、その他樹脂;シリカ、タルク、カオリン、炭酸カルシウム等の無機粒子;酸化チタン、カーボンブラック等の顔料;難燃剤、紫外線吸収剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、溶融粘度改良剤、架橋剤、滑剤、核剤、可塑剤等の添加剤を適宜添加することもできる。
【0026】
[熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法]
本発明の熱収縮性フィルムは、前述のポリエステル系樹脂や添加剤等からなる混合物を、一軸押出機、又は二軸(同方向、異方向)押出機によって溶融押出してシート又はフィルムを作製し、更に少なくとも1軸に延伸して製造されることが好ましい。混合物は、ヘンシェルミキサー等の公知の方法で作製してもよいし、押出機で溶融してペレット化しても構わない。押出方法としては、Tダイ法、チューブラ法等の公知の方法を採用してもよい。また、積層フィルムを製造する場合、共押出や、単層毎に押し出した後に重ね合わせる方法等を採用することができる。
【0027】
溶融押出されたシート又はフィルムは、冷却ロール、空気、水等で冷却された後、熱風、温水、赤外線等の適当な方法で再加熱され、ロール法、テンター法、チューブラ法等により、少なくとも1軸に延伸されることが好ましい。延伸温度は、熱収縮性フィルムを構成する各樹脂のガラス転移温度(Tg)や要求される特性によって変える必要があるが、生産性や収縮特性の観点から、概ねTg〜(Tg+25℃)とすることが好ましい。
【0028】
主収縮方向における延伸倍率は特に制限されるものではないが、生産性や収縮特性の観点から、2〜8倍の範囲が好ましい。
【0029】
延伸されたフィルムは、加熱収縮時の急激な収縮を防ぎ、かつ耐自然収縮性を向上させる目的で、熱処理工程にて熱処理されることが好ましい。熱処理は、ロール、テンター等、公知のどの方法を採用しても構わない。熱処理条件は特に限定されないが、生産性や収縮特性の観点から、延伸温度〜(延伸温度+40℃)で2〜120秒処理するのが好ましい。。
【0030】
熱処理工程は、弛緩せずに熱処理する工程と、主収縮方向に弛緩させながら熱処理する工程とを組み合わせるのが好ましい。主収縮方向への弛緩率が高いほど耐自然収縮性は向上するが、弛緩率は、生産性や収縮特性の観点から、0.5〜10%の範囲とするのが好ましい。
【0031】
本発明のポリエステル系熱収縮フィルムの厚みは、特に限定されないが、PETボトル用ラベル等に用いる場合は、PETボトルへの装着性やコストの観点から、好ましくは10μm以上100μm以下、より好ましくは20μm以上70μm以下である。
【0032】
[成形品及びこれを有する容器]
本発明のポリエステル系熱収縮フィルムは、熱可塑性樹脂の慣用の成形法によって各種の成形品、例えば、押出成形によるフィルムやシートや、それらを延伸加工に付した延伸フィルム、またはそれらを真空成形、圧空成形等の熱成形に付したトレイや容器、射出成形、中空成形、圧縮成形等による各種の成形品(例えば、円筒状、四角柱、胴体部分が括れた形状を有する成形品)に成形し、あるいは、それらを他材料との積層構造とした成形品に成形し、又は、本発明のフィルムやシートを他材料と部分的に貼り合せたりして用いられる。特に包装用資材として好適である。中でも各種飲食品用ボトル等の外周面を被覆するラベル材や口部シール材、あるいは、工業用部品等を包装、結束、被覆等するための資材等としての熱収縮性フィルム、特に首の細い部分と胴の太い部分を併せもつアンバランスな形態をもつ容器の熱収縮ラベルとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限を受けるものではない。なお、実施例に示す測定値及び評価は、次のとおり実施した。
【0034】
[熱収縮率]
(1)40℃×7日保管後の主収縮方向の熱収縮率
主収縮方向が長手方向となるように幅30mm、長さ600mmの大きさにフィルムを切り取り、かつ500mm間隔となる標線を入れて試料とした。その試料を40℃の雰囲気に調整された恒温槽に入れた。7日間保管後に恒温槽より取り出し、標線間A(mm)の寸法を計測した。その寸法より、熱収縮率を次式で算出した。
収縮率(%)=[(500−A)/500]×100
(2)40℃×30日保管後の主収縮方向の熱収縮率
主収縮方向が長手方向となるように幅30mm、長さ600mmの大きさにフィルムを切り取り、かつ500mm間隔となる標線を入れて試料とした。その試料を40℃の雰囲気に調整された恒温槽に入れた。30日間保管後に恒温槽より取り出し、標線間B(mm)の寸法を計測した。その寸法より、熱収縮率を次式で算出した。
収縮率(%)=[(500−B)/500]×100
(3)80℃温水×10秒浸漬後の主収縮方向の熱収縮率
主収縮方向が長手方向となるように幅10mm、長さ140mmの大きさにフィルムを切り取り、かつ100mm間隔となる標線を入れて試料とした。その試料を80℃の温水に10秒間浸漬し、その後すばやく冷水で冷却してから標線間C(mm)の寸法を計測した。その寸法より、熱収縮率を次式で算出した。
収縮率(%)=[(100−C)/100]×100
(4)70℃温水×10秒浸漬後の主収縮方向の熱収縮率
主収縮方向が長手方向となるように幅10mm、長さ140mmの大きさにフィルムを切り取り、かつ100mm間隔となる標線を入れて試料とした。その試料を70℃の温水に10秒間浸漬し、その後すばやく冷水で冷却してから標線間D(mm)の寸法を計測した。その寸法より、熱収縮率を次式で算出した。
収縮率(%)=[(100−D)/100]×100
(5)60℃温水×5分浸漬後の主収縮方向の熱収縮率
主収縮方向が長手方向となるように幅30mm、長さ600mmの大きさにフィルムを切り取り、かつ500mm間隔となる標線を入れて試料とした。その試料を60℃の温水に5分間浸漬し、その後すばやく冷水で冷却してから標線間E(mm)の寸法を計測した。その寸法より、熱収縮率を次式で算出した。
収縮率(%)=[(500−E)/500]×100
【0035】
[耐自然収縮性]
(60℃×8時間保管後の主収縮方向の熱収縮率)
主収縮方向が長手方向となるように幅30mm、長さ600mmの大きさにフィルムを切り取り、かつ500mm間隔となる標線を入れて試料とした。その試料を、60℃、(30±10)%RHの雰囲気に調整された恒温槽に入れ、8時間保管後に恒温槽より取り出し、標線間F(mm)の寸法を計測した。その寸法より、熱収縮率を次式で算出し、その値から次の基準に従って評価した。
収縮率(%)=[(500−F)/500]×100
評価基準 ○:熱収縮率が2.0%未満 ×:熱収縮率が2.0%以上
【0036】
以下の実施例及び比較例では、表1に示された組成のポリエステル(A)〜(D)を使用した。なお、表1に示されたポリエステル系樹脂の組成は、それぞれNMR(核磁気共鳴装置)により定性定量分析して得られたものである。
【0037】
【表1】

【0038】
実施例1
表1記載のポリエステル(A)を押出機で溶融した後、Tダイにて押出し、その溶融体をキャストロールで冷却し、厚さ260μmの未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを流れ方向(MD)に1.05倍延伸してからテンターに導き、その直角方向(TD)に88℃で5.8倍延伸した。引き続き89℃で5秒間熱処理した後、85℃で4.6%TD方向に弛緩しながら5秒間再熱処理を施し、厚さ45μmの単層フィルムを作製した。このとき、主収縮方向はTD方向である。得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0039】
実施例2
実施例1のTD方向での延伸後における熱処理条件を変更して、87℃で5秒間熱処理した後、85℃で4.6%TD方向に弛緩しながら5秒間再熱処理した以外は、実施例1と同様にして厚さ45μmの単層フィルムを作製した。得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0040】
実施例3
実施例1と同様にして厚さ270μmの未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを流れ方向(MD)に1.05倍延伸してからテンターに導き、その直角方向(TD)に88℃で6.0倍延伸した。引き続き86℃で5秒間熱処理した後、85℃で4.6%TD方向に弛緩しながら5秒間再熱処理を施し、厚さ45μmの単層フィルムを作製した。得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0041】
実施例4
実施例1と同様にして厚さ240μmの未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを流れ方向(MD)に1.05倍延伸してからテンターに導き、その直角方向(TD)に86℃で5.2倍延伸した。引き続き92℃で5秒間熱処理した後、80℃で1.6%TD方向に弛緩しながら5秒間再熱処理を施し、厚さ45μmの単層フィルムを作製した。得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0042】
実施例5
実施例1と同様にして厚さ230μmの未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを流れ方向(MD)に1.05倍延伸してからテンターに導き、その直角方向(TD)に86℃で5.2倍延伸した。引き続き92℃で5秒間熱処理した後、85℃で7.2%TD方向に弛緩しながら5秒間再熱処理を施し、厚さ45μmの単層フィルムを作製した。得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0043】
比較例1
実施例1と同様にして厚さ245μmの未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを流れ方向(MD)に1.05倍延伸してからテンターに導き、その直角方向(TD)に86℃で5.2倍延伸した。引き続き91℃で5秒間熱処理した後、弛緩せずに80℃で5秒間再熱処理を施し、厚さ45μmの単層フィルムを作製した。得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0044】
比較例2
実施例1と同様にして厚さ275μmの未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを流れ方向(MD)に1.05倍延伸してからテンターに導き、その直角方向(TD)に88℃で5.8倍延伸した。引き続き90℃で5秒間熱処理した後、弛緩せずに80℃で5秒間再熱処理を施し、厚さ45μmの単層フィルムを作製した。得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0045】
比較例3
表1記載のポリエステル(B)を押出機で溶融した後、Tダイにて押出し、その溶融体をキャストロールで冷却し、厚さ245μmの未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを流れ方向(MD)に1.05倍延伸してからテンターに導き、その直角方向(TD)に80℃で5.2倍延伸した。引き続き82℃で5秒間熱処理した後、弛緩せずに70℃で5秒間再熱処理を施し、45μmの単層フィルムを作製した。得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0046】
比較例4
表1記載の原材料ペレットのうち、ポリエステル(A)/ポリエステル(C)/ポリエステル(D)=58/27/15(重量比)の比率でブレンドしておき、押出機のホッパーへ投入して溶融した後、Tダイにて押出し、その溶融体をキャストロールで冷却し、厚さ245μmの未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを流れ方向(MD)に1.05倍延伸してからテンターに導き、その直角方向(TD)に81℃で5.2倍延伸した。引き続き95℃で5秒間熱処理した後、弛緩せずに80℃で5秒間再熱処理を施し、厚さ45μmの単層フィルムを作製した。得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
表2の結果より、実施例1〜5の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、40℃×7日及び30日で保存した場合に収縮しにくく、耐自然収縮性に極めて優れていることがわかる。また、60℃及び70℃の温水に浸漬した際にも収縮しにくく、耐自然収縮性に極めて優れることがわかる。その一方で、80℃の温水に浸漬した際には速やかに熱収縮することがわかる。
これに対し、比較例1、3及び4のフィルムは、40℃×7日及び30日で保存した場合に熱収縮が起きており、外気温が上昇する季節の製品搬送や保管の際には、製品の変形が生じる可能性が高いことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主収縮方向の自然収縮率が40℃×30日保管後で0.30%以下であり、かつフィルムを80℃の温水に10秒間浸漬したときの主収縮方向の収縮率が20%以上80%未満であることを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項2】
全ポリエステル樹脂成分中において、ジカルボン酸成分の主成分をテレフタル酸、ジオール成分の主成分をエチレングリコールとし、かつ(a)イソフタル酸、(b)1,4−シクロヘキサンジメタノール、及び(c)ネオペンチルグリコールからなる群から選ばれる1種以上を含有した共重合ポリエステルである、請求項1に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項3】
全ポリエステル樹脂成分中における、すべてのジオール成分を100mol%としたとき、ジエチレングリコールを0.1mol%以上10mol%未満含有する、請求項1又は2に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムを基材として用いた成形品。
【請求項5】
前記成形品が熱収縮性ラベルである、請求項4に記載の成形品。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の成形品を装着した容器。

【公開番号】特開2012−36273(P2012−36273A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176445(P2010−176445)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】