説明

熱収縮性成形体

【課題】 耐UV変色性、透明性、低温収縮特性、耐衝撃性に優れた熱収縮性成形体の提供。
【解決手段】 構造の一部に下記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(a)とシクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位(b)とを含み、前記構造単位(b)の割合が45モル%以上、80モル%以下である脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)を含有する樹脂組成物(X)を用いてなる熱収縮性成形体とする。


(但し、上記一般式(1)で表される部位が−CH−O−Hの一部である場合を除く。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐UV変色性、透明性、低温収縮特性、及び耐衝撃性を有する熱収縮性成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
収縮包装や収縮結束包装、あるいは収縮ラベルやキャップシールなどに利用される熱収縮性成形体としては、ポリ塩化ビニル(PVC)、スチレン−ブタジエンブロック共重合体(SBS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などを溶融押出した後、延伸・急冷して作られる熱収縮性フィルム(以後、収縮フィルムと呼ぶ)が知られており、産業界で広く利用されている。
【0003】
このうち、PVCは収縮フィルムとしての優れた実用特性とコスト性を有しているものの、廃棄後焼却する際に塩素を含んだ有毒ガスを発生するという問題が指摘されており、用途によっては、こういった焼却公害問題のないSBSやPETに置き換えられている。
【0004】
一方、SBSやPETは、焼却公害問題はないが、PVCに比べ収縮フィルムとしてのいくつかの問題点を有している。代表的なものとして、SBSは室温の剛性(弾性率)が低く、また、PETについては、用途によっては耐衝撃性が不十分である等の問題点があり、それぞれ実用上の不具合を引き起こしている。
【0005】
室温における弾性率が高く、引張破断伸度も大きい非PVC材料としては、ポリカーボネートが挙げられる。ポリカーボネートは、弾性率・破断伸度以外にも、優れた耐衝撃性、光学特性を備えており、収縮フィルムとして従来品に優るとも劣らない物性を有していると考えられる。
【0006】
また、収縮フィルムは、その使用対象物が食品や医薬・化粧品、もしくはそれらを包む紙やプラスチックの容器、あるいは、コンデンサ、電池等である場合が多く、これら使用対象物に変化を与えないようなマイルドな加熱条件下で収縮されることが必要条件となる。具体的には、蒸気、熱風、温水、シリコーンオイル等を用い、70〜140℃ 、通常80〜100℃ で1分以内、多くの場合数秒〜十数秒間の加熱により収縮される。したがって、収縮フィルムとして実用的な収縮特性を有しているか否かの一つの簡便な指標として、フィルムを実際上の代表的な温度である100℃ のシリコーンオイル中に20秒浸漬した時、ある程度の収縮率を持っているかどうかが重要となる。
【0007】
こうした背景を受けて、特許文献1には芳香族ポリカーボネート樹脂からなる収縮フィルムが、また特許文献2には、ポリカーボネートに可塑剤を配合してなる収縮フィルム・チューブが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭60−245539号公報
【特許文献2】特開2004−339525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示されている収縮フィルムは、140℃よりも高い温度に加熱しなければ収縮を開始しないため、内容物保護の面や、エネルギー消費の面からも
実用上十分なものとは言い難い。
【0010】
また、特許文献2に開示されている収縮フィルム・チューブにおいては、可塑剤を配合することで収縮を開始する温度は低下するものの、使用環境によっては可塑剤のブリードアウトを生じる場合があり、外観を損なうだけでなく、収縮を開始する温度が高くなる等の不具合を生じる場合がある。
【0011】
このように従来の技術においては、低温収縮特性、耐衝撃性を兼ね備え、かつ、透明で耐UV変色性に優れる熱収縮性成形体を得ることは非常に困難であった。
【0012】
そこで本発明の目的は、このような従来技術の課題に鑑み、耐UV変色性、透明性、低温収縮特性、耐衝撃性に優れた熱収縮性成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、構造の一部に下記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(a)とシクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位(b)とを含み、前記構造単位(b)の割合が45モル%以上、80モル%以下である脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)を含有する樹脂組成物(X)を用いてなることを特徴とする熱収縮性成形体を提供するものである。
【0014】
【化1】

(但し、上記一般式(1)で表される部位が−CH−O−Hの一部である場合を除く。)
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐UV変色性、透明性、低温収縮特性、及び耐衝撃性に優れた熱収縮性成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態の1つの例としての熱収縮性成形体について説明する。但し、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0017】
<樹脂組成物(X)>
本発明に用いる樹脂組成物(X)は、以下に説明する脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)を含んでなることを特徴とする。樹脂組成物(X)は脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)のみで構成されてもよく、また本発明の熱収縮性成形体の特徴を損なわない範囲でさらに脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)以外の樹脂や添加剤を含んでもよい。
【0018】
<脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)>
本発明に用いる脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)としては、構造の一部に下記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位とシクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位とを含むポリカーボネート樹脂が用いられる。
【0019】
【化2】

(但し、上記一般式(1)で表される部位が−CH−O−Hの一部である場合を除く。)
すなわち、上記ジヒドロキシ化合物は、二つのヒドロキシル基と、更に上記一般式(1)の部位を少なくとも含むものを言う。
【0020】
構造の一部に上記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物としては、分子構造の一部が上記一般式(1)で表されるものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチル−6−メチルフェニル)フルオレン9,9−ビス(4−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等、側鎖に芳香族基を有し、主鎖に芳香族基に結合したエーテル基を有する化合物、下記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に代表される無水糖アルコール、下記一般式(3)で表されるスピログリコール等の環状エーテル構造を有する化合物が挙げられ、下記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられる。また、下記一般式(3)で表されるジヒドロキシ化合物としては、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン(慣用名:スピログリコール)、3,9−ビス(1,1−ジエチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン、3,9−ビス(1,1−ジプロピル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカンなどが挙げられる。
これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
【化3】

【0022】
【化4】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立に、炭素数1から炭素数3のアルキル基である。)
【0023】
上記の中でもイソソルビドが最も好ましく、これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
上記構造単位(a)以外の構造単位として、シクロヘキサンジメタノールに由来する構
造単位(b)を含むことが重要であり、なかでも前記脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)中に占めるシクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位(b)の割合が45モル%以上、80モル%以下であることが好ましい。シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位(b)の割合の下限としては、より好ましくは50モル%であり、さらに好ましくは55モル%である。45モル%以上とすることによって100℃における十分な収縮特性を付与することができ、耐衝撃性にも優れた熱収縮性材料を提供することができる。一方、上限としては、より好ましくは75モル%以下、さらに好ましくは70モル%以下である。80モル%以下とすることで脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)に起因する熱収縮性成形体の大幅な耐熱性低下、軟質化を防止でき、幅広い用途で使用が可能となる。
尚、シクロヘキサンジメタノールの中でも、工業的に入手が容易である、1,4−シクロヘキサンジメタノールが好ましい。
【0025】
さらに、脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)は、本発明の目的を損なわない範囲で、上記構造単位(a)、及び、上記構造単位(b)以外の構造単位を含むこともでき、例えば、国際公開第2004/111106号パンフレットに記載の脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位や、国際公開第2007/148604号パンフレットに記載の脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位等を挙げることができる。
【0026】
上記脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の中でも、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、及び1,6−ヘキサンジオールからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の化合物に由来する構造単位を含むことが好ましい。
【0027】
上記脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の中でも、5員環構造又は6員環構造を含むものであることが好ましい。6員環構造は共有結合によって椅子形又は舟形に固定されていてもよい。5員環構造又は6員環構造である脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むことにより、得られるポリカーボネートの耐熱性を高くすることができる。脂環式ジヒドロキシ化合物に含まれる炭素原子数は通常70以下であり、好ましくは50以下、さらに好ましくは30以下である。
【0028】
前記5員環構造又は6員環構造を含む脂環式ジヒドロキシ化合物としては、上述の国際公開第2007/148604号パンフレットに記載のものを挙げることができ、トリシクロデカンジメタノール、アダマンタンジオール及びペンタシクロペンタデカンジメタノールを好適に例示することができ、これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
上記脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度は75℃以上、105℃以下であることが好ましく、80℃以上、105℃以下であることがより好ましく、85℃以上、105℃以下であることがさらに好ましい。ガラス転移温度がかかる範囲内の脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)を用いることで、優れた耐熱性を有する熱収縮性成形体を提供することができる。
【0030】
上記脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)の分子量の指標である還元粘度は、溶媒として塩化メチレンを用い、ポリカーボネート濃度を0.60g/dlに精密に調整し、温度20.0℃±0.1℃で測定され、通常、0.20dl/g以上1.0dl/g以下で、好ましくは0.30dl/g以上0.80dl/g以下の範囲内である。
脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)の還元粘度が過度に低いと、成形した際の機械的強度が低下する傾向がある。また、脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)の還元粘度が過度に高いと、成形する際の流動性が低下し、サイクル特性を低下させ、成形体の歪みが大きくなり易い傾向がある。
【0031】
上記脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)は、一般に用いられる重合方法で製造することができ、ホスゲン法、炭酸ジエステルと反応させるエステル交換法のいずれでもよい。なかでも、重合触媒の存在下に、構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物と、シクロヘキサンジメタノールと、必要に応じて用いられるその他のジヒドロキシ化合物と、炭酸ジエステルとを反応させるエステル交換法が好ましい。
エステル交換法は、前記構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物と、シクロヘキサンジメタノールと、必要に応じて用いられるその他のジヒドロキシ化合物と、炭酸ジエステルとを塩基性触媒、さらにはこの塩基性触媒を中和する酸性物質を添加し、エステル交換反応を行う製造方法である。
【0032】
炭酸ジエステルの代表例としては、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m−クレジルカーボネート、ジナフチルカーネート、ビス(ビフェニル)カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネートなどが挙げられる。これらのうち、特にジフェニルカーボネートが好ましく用いられる。
【0033】
<芳香族ポリカーボネート樹脂(B)>
本発明の熱収縮性成形体の収縮開始温度や耐熱性を調整する方法として、樹脂組成物(X)にはさらに芳香族ポリカーボネート樹脂(B)を含むことができる。前記芳香族ポリカーボネート樹脂(B)は、ホモポリマー及びコポリマーのいずれであってもよい。また、芳香族ポリカーボネート樹脂(B)は、分岐構造であっても、直鎖構造であってもよいし、さらに分岐構造と直鎖構造との混合物であってもよい。
【0034】
上記芳香族ポリカーボネート樹脂(B)の製造方法は、ホスゲン法、エステル交換法、ピリジン法等、公知のいずれの方法を用いてもかまわない。以下一例として、エステル交換法による芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法を説明する。
【0035】
エステル交換法は、2価フェノールと炭酸ジエステルとを塩基性触媒、さらにはこの塩基性触媒を中和する酸性物質を添加し、溶融エステル交換縮重合を行う製造方法である。2価フェノールの代表例としては、ビスフェノール類が挙げられ、特に2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、すなわちビスフェノールAが好ましく用いられる。また、ビスフェノールAの一部又は全部を他の2価フェノールで置き換えてもよい。他の2価フェノールとしては、ハイドロキノン、4,4−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタンや1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタンなどのビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどのビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4−ヒドロキシフェニル) スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフォン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフォキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテルのような化合物、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパンなどのアルキル化ビスフェノール類、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンなどのハロゲン化ビスフェノール類を挙げることができる。
【0036】
炭酸ジエステルの代表例としては、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m−クレジルカーボネート、ジナフチルカーネート、ビス(ビフェニル)カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネートなどが挙げられる。これらのうち、特にジフェニルカーボネートが好ましく用いられる。
【0037】
上記芳香族ポリカーボネート樹脂(B)の粘度平均分子量は、力学特性と成形加工性のバランスから、通常、8,000以上、30,000以下、好ましくは10,000以上、25,000以下の範囲である。又、上記芳香族ポリカーボネート樹脂(B)の還元粘度は、溶媒として塩化メチレンを用い、ポリカーボネート濃度を0.60g/dlに精密に調整し、温度20.0℃±0.1℃で測定され、通常、0.23dl/g以上0.72dl/g以下で、好ましくは0.27dl/g以上0.61dl/g以下の範囲内である。
なお、本発明においては、芳香族ポリカーボネート樹脂(B)を1種のみを単独、又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0038】
本発明における芳香族ポリカーボネート樹脂(B)とは、2価フェノールに由来する構造単位中、50モル%以上(好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上)が一つ以上の芳香環を有するものをいい、上記芳香環は置換基を有していてもよい。又、脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)および芳香族ポリカーボネート(B)の両方に該当するものについては、脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)に含めるものとする。
【0039】
上記芳香族ポリカーボネート樹脂(B)の配合量としては、前記脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)100質量%に対して、芳香族ポリカーボネート樹脂(B)を通常1質量%以上、50質量%以下、より好ましくは5質量%以上、40質量%以下、さらに好ましくは10質量%以上、30質量%以下の割合で配合することができる。かかる範囲で芳香族ポリカーボネート樹脂(B)を配合することにより、本発明の熱収縮性成形体の優れた収縮特性、耐熱性を損なうことなく、様々な用途に対応した収縮特性、耐熱性に調整することができる。
【0040】
<ポリカーボネート樹脂以外の樹脂>
本発明の熱収縮性成形体に用いる樹脂組成物(X)には前記脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)及び芳香族ポリカーボネート樹脂(B)のようなポリカーボネート樹脂以外の樹脂や、樹脂以外の添加剤をさらに配合することもできる。
【0041】
成形加工性や諸物性のさらなる向上・調整を目的として配合する、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂の具体例としては、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート等の樹脂やコア−シェル型、グラフト型又は線状のランダム及びブロック共重合体のようなゴム状改質剤などが挙げられる。前記ポリカーボネート樹脂以外の樹脂の配合量としては、本発明の熱収縮性成形体に用いる樹脂組成物(X)100質量%に対して、1質量%以上、30質量%以下の割合で配合することが好ましく、3質量%以上、20質量%以下の割合で配合することがより好ましく、5質量%以上、10質量%以下の割合で配合することがさらに好ましい。
【0042】
<熱安定剤>
本発明の熱収縮性成形体に用いる樹脂組成物(X)には、成形時における分子量の低下や色相の悪化を防止するために熱安定剤を配合することができる。かかる熱安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸およびこれらのエステル等が挙げられ、具体的には、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル) ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル) オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル) ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、ベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。なかでも、トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、およびベンゼンホスホン酸ジメチルが好ましく使用される。 これらの熱安定剤は、1種を単独で用いてもよく、
2種以上を併用してもよい。前記熱安定剤の配合量は、本発明の熱収縮性成形体に用いる樹脂組成物(X)100質量%に対して、0.0001質量%以上、1質量%以下の割合で配合することが好ましく、0.0005質量%以上、0.5質量%以下の割合で配合することがより好ましく、0.001質量%以上、0.2質量%以下の割合で配合することがさらに好ましい。かかる範囲で熱安定剤を配合することにより、添加剤のブリード等を生じることなく熱収縮性成形体の分子量低下や変色を防止することができる。
【0043】
<酸化防止剤>
また、本発明の熱収縮性成形体に用いる樹脂組成物(X)には、酸化防止の目的で通常知られた酸化防止剤を配合することができる。かかる酸化防止剤としては、例えばペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート) 、ペンタエリスリトール
テトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、グリセロール−3−ステアリルチオプロピオネート、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスホネート−ジエチルエステル、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等の1種又は2種以上が挙げられる。前記酸化防止剤の配合量は、本発明の熱収縮性成形体に用いる樹脂組成物(X)100質量%に対して、0.0001質量%以上、1質量%以下の割合で配合することが好ましく、0.0005質量%以上、0.5質量%以下の割合で配合することがより好ましく、0.001質量%以上、0.2質量%以下の割合で配合することがさらに好ましい。かかる範囲で酸化防止剤を配合することにより、酸化防止剤のブリード、熱収縮性成形体の機械特性低下を生じることなく、熱収縮性成形体の酸化劣化を防止することができる。
【0044】
<滑剤>
また、本発明の熱収縮性成形体に対して表面滑性の付与を目的として、滑剤を配合することができる。前記滑剤としては、一価または多価アルコールの高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸、パラフィンワックス、蜜蝋、オレフィン系ワックス、カルボキシ基および/
またはカルボン酸無水物基を含有するオレフィン系ワックス、シリコーンオイル、オルガノポリシロキサン等が挙げられる。
【0045】
前記高級脂肪酸エステルとしては、炭素原子数1〜20の一価または多価アルコールと炭素原子数10〜30の飽和脂肪酸との部分エステルまたは全エステルが好ましい。かかる一価または多価アルコールと飽和脂肪酸との部分エステルまたは全エステルとしては、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸ジグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ステアリン酸モノソルビテート、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸モノグリセリド、ベヘニン酸ベヘニル、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトラペラルゴネート、プロピレングリコールモノステアレート、ステアリルステアレート、パルミチルパルミテート、ブチルステアレート、メチルラウレート、イソプロピルパルミテート、ビフェニルビフェネ− ト、ソルビタンモノステアレート、2−エチルヘキシルステアレート等が挙げられる。中でも、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ベヘニン酸ベヘニルが好ましく用いられる。高級脂肪酸としては、炭素原子数10〜30の飽和脂肪酸が好ましい。かかる脂肪酸としては、ミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸などが挙げられる。これらの滑剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。前記滑剤の配合量は、本発明の熱収縮性成形体に用いる樹脂組成物(X)100質量%に対して、0.0001質量%以上、1質量%以下の割合で配合することが好ましく、0.0005質量%以上、0.5質量%以下の割合で配合することがより好ましく、0.001質量%以上、0.2質量%以下の割合で配合することがさらに好ましい。かかる範囲で滑剤を配合することにより、滑剤のブリード、熱収縮性成形体の機械特性低下を生じることなく、熱収縮性成形体に表面滑性を付与することができる。
【0046】
<紫外線吸収剤、光安定剤>
また、本発明の熱収縮性成形体の耐候性をさらに向上する目的で、紫外線吸収剤、光安定剤を配合することができる。かかる紫外線吸収剤、光安定剤としては、例えば2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル) ベンゾトリアゾール、2−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス(4−クミル−6−ベンゾトリアゾールフェニル)、2,2’−p−フェニレンビス(1,3−ベンゾオキサジン−4−オン)等が挙げられる。紫外線吸収剤の融点としては、特に120〜250℃の範囲にあるものが好ましい。融点が120℃ 以上の紫外線吸収剤を使用すると、成形品表面のガスによる曇りが減少し改善される。具体的には、2−(2'−ヒドロキシ−5'−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2 '−ヒドロキシ−3'−tert−ブチル−5'−メチルフェニル) −5−クロロベンゾトリアゾール、2−[2'−ヒドロキシ−3'−(3",4",5",6"−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5'−メチルフェニル]ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジクミルフェニル)ベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が使用され、これらのうちでも、特に、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジクミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル) −6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノールが好ましい。これらの紫外線吸収剤、光安定剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。 前記紫外線吸収剤、光安定剤の配合量は、本発明の熱収縮性成形体に用いる樹脂組成物(X)100質量%に対して、0.0001質量%以上、1質量%以下の割合で配合することが好ましく、0.0005質量%以上、0.5質量%以下の割合で配合することがより好ましく、0.001質量%以上、0.2質量%以下の割合で配合することがさらに好ましい。かかる範囲で紫外線吸収剤、光安定剤を配合することにより、紫外線吸収剤、光安定剤のブリード、熱収縮性成形体の機械特性低下を生じることなく、熱収縮性成形体の耐候性を向上することができる。
【0047】
<エポキシ系化合物>
さらに、本発明の熱収縮性成形体の耐加水分解性をさらに向上するため、エポキシ系化合物を配合することができる。エポキシ系化合物の具体例としては、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3',4'−
エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−3',4'−エポキシ−6'−メチルシクロヘキシルカルボキシレート、2,3−
エポキシシクロヘキシルメチル−3',4'−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、
4−(3,4−エポキシ−5−メチルシクロヘキシル) ブチル−3',4'−エポキシシク
ロヘキシルカルボキシレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチレンオキシド、シクロヘキシルメチルー3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−6'−メチルシロヘキシルカルボキシレート、ビ
スフェノールAジグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノールAグリシジルエーテル、フタル酸のジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸のジグリシジルエステル、ビス−エポキシジシクロペンタジエニルエーテル、ビス−エポキシエチレングリコール、ビス−エポキシシクロヘキシルアジペート、ブタジエンジエポキシド、テトラフェニルエチレンエポキシド、オクチルエポキシタレート、エポキシ化ポリブタジエン、3,4−ジメチル−1,2−エポキシシクロヘキサン、3,5−ジメチル−1,2−エポキシシクロヘキサン、3−メチル−5−t−ブチル−1,2−エポキシシクロヘキサン、オクタデシル−2,2−ジメチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、N−ブチル−2,2−ジメチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、シクロヘキシル−2−メチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、N−ブチル−2−イソプロピル−3,4−エポキシ−5−メチルシクロヘキシルカルボキシレート、オクタデシル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、2−エチルヘキシル−3',4'−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、4,6−ジメチル−2,3−エポキシシクロヘキシル−3',4'−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、4,5−エポキシ無水テトラヒドロフタル酸、3−t−ブチル−4,5−エポキシ無水テトラヒドロフタル酸、ジエチル−4,5−エポキシ−シス−1,2−シクロヘキシルジカルボキシレート、ジ−N−ブチル−3−tブチル−4,5−エポキシ-シス−1,2−シクロヘキシルジカルボキシレートなどが挙げられる。ビスフェノールAジグリシジルエーテルが相溶性などの点から好ましい。前記エポキシ系化合物の配合量としては、本発明の熱収縮性成形体に用いる樹脂組成物(X)100質量%に対して、0.0001質量%以上、5質量%以下の割合で配合することが好ましく、0.001質量%以上、1質量%以下の割合で配合することがより好ましく、0.005質量%以上、0.5質量%以下の割合で配合することがさらに好ましい。かかる範囲でエポキシ系化合物を配合することにより、エポキシ系化合物のブリード、熱収縮性成形体の機械特性低下を生じることなく、熱収縮性成形体の耐加水分解性を向上することができる。
【0048】
本発明の熱収縮性成形体に用いる樹脂組成物(X)には、上記以外にも、可塑剤、顔料、染料、充填剤等の添加剤をさらに配合することもできる。
【0049】
次に本発明の熱収縮性成形体のうち、フィルム、及び、チューブの製造方法について説明する。以下、これらを「本発明の熱収縮性フィルム」、及び、「本発明の熱収縮性チューブ」ともいうことにする。
【0050】
なお、一般的に「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さ
が任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいい(JIS K6900)、一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、その厚さが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいう。しかし、シートとフィルムの境界は定かでなく、本発明において文言上両者を区別する必要がないので、本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとする。
【0051】
<熱収縮性フィルムの製造方法>
本発明の熱収縮性フィルムの製造方法については特に限定されるものではないが、本発明の熱収縮性フィルムは、単層、または、二層以上の積層フィルムとすることができる。積層方法としては既知の方法を採用することができる。例えば、1)複数の押出機を用いフィードブロック式、あるいはマルチマニホールド式にひとつの口金に連結するいわゆる共押出法、2)巻き出したフィルムの表面上に別種のフィルムをロールやプレス板を用いて加熱圧着するフィルムラミ方法、3)巻き出したフィルムの表面上に、別種のフィルムを押出すいわゆる押出ラミ法等がある。
【0052】
前記樹脂組成物(X)を構成する脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)、更に必要に応じてその他樹脂及び/または添加剤等を同一の押出機に投入し、口金より押出して直接フィルムを作製する方法、あるいはストランド形状に押し出してペレットを作製し、再度押出機にてフィルムを製造する方法がある。いずれも、分解による分子量の低下を考慮しなければならないが、均一に混合させるには後者を選択する方がよい。押出温度は脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)とその他樹脂、添加剤等の混合比率により適宜調整が必要であるが、一般的には200℃〜260℃の範囲に設定される。
【0053】
次に、押出機先端の口金より溶融成形されたシート状物は、回転するキャスティングドラム(冷却ドラム)に接触させて急冷するのが好ましい。キャスティングドラムの温度は脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)と、更に必要に応じて添加されたその他樹脂及び/または添加剤等との混合比率により適宜調整が必要であるが、60℃〜130℃の範囲に設定される。
【0054】
上記方法にて得られたフィルムは、脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度の通常−10℃以上、+50℃以下、より好ましくは−5℃以上、+40℃以下、さらに好ましくは前記ガラス転移温度以上、+30℃以下に加熱され、長さ方向、及びその幅方向に延伸される。ここで、フィルムの押出機からの流れ方向を長さ方向、その直行方向を幅方向と呼ぶ。
【0055】
本発明のフィルムは、未延伸フィルムをその幅方向に1.2倍以上、好ましくは1.3倍以上、さらに好ましくは通常1.4倍以上であり、2.0倍以下、好ましくは1.9倍以下、さらに好ましくは1.8倍以下であり、また、その長さ方向に1.0倍以上、好ましくは1.02倍以上であり、1.5倍以下、好ましくは1.4倍以下、さらに好ましくは1.3倍以下の範囲で延伸させて得られたものが好ましい。
【0056】
延伸法としては、シートを周速差のある2個のロール間で延伸するロール延伸法、および/または、テンターを用いクリップでシートを把持しながらクリップ列の列間隔を拡大させて延伸するテンター延伸法が工業的に最も好ましく採用される。延伸後は、室温から60℃程度の低温のゾーンを通過させるなどして速やかに冷却を行い、熱収縮性を発現するよう延伸歪みを固定する。
【0057】
<熱収縮性チューブの製造方法>
本発明の熱収縮性チューブの製造方法については、特に限定されるものではないが、通常丸ダイを用いて未延伸チューブを押出した後、未延伸チューブを延伸して熱収縮性チュ
ーブとする方法が好ましい方法として挙げられる。その他、TダイやIダイを用いて押出・延伸したフィルムを融着、溶着または接着などにより貼合せてチューブ形状とする方法、更に前記チューブまたはフィルムをスパイラル状に貼合せてチューブ形状とする方法などが挙げられる。
【0058】
ここで、丸ダイを用いて未延伸チューブを押出し、次いで延伸して熱収縮チューブとする方法についてさらに詳細に説明する。前記樹脂組成物(X)を構成する各原料を、溶融押出装置により融点以上の温度に加熱溶融し、丸ダイから連続的に押し出した後、冷却され未延伸チューブを成型する。冷却の手段としては、低温の水に浸漬する方法、冷風による方法等を用いることができる。中でも低温の水に浸漬する方法が、冷却効率が高く有効である。この未延伸チューブを連続的に次の延伸工程に供給してもよく、また一度ロール状に巻き取った後、この未延伸ロールを次の延伸工程の原反として用いてもよい。製造効率や熱効率の点から未延伸チューブを連続的に次の延伸工程に供給する方法が好ましい。
【0059】
次に、上記方法にて成形した未延伸チューブを、チューブ内側より圧縮気体で加圧し、延伸する。延伸方法は特に限定されるものではないが、例えば未延伸チューブの一方の端から圧縮気体による圧力を管の内側に加えつつ一定速度で送り出し、次いで温水または赤外線ヒーター等により加熱し、径方向の延伸倍率を規制するために冷却された円筒管の中を通して固定倍率の延伸を行う。円筒管の適当な位置で延伸される様に温度条件等を調整する。円筒管で冷却された延伸後のチューブは、一対のニップロールにより挟んで延伸圧力を保持しながら延伸チューブとして引き取り、巻取られる。延伸は、長さ方向または径方向のいずれの順序でもよいが、同時に行なうのが好ましい。ここで、チューブの押出機からの流れ方向を長さ方向、その直交方向を径方向と呼ぶ。
【0060】
長さ方向の延伸倍率は、未延伸チューブの送り速度と延伸後のニップロール速度との比で決められ、径方向の延伸倍率は未延伸外径と延伸チューブ外径の比で決められる。これ以外の延伸加圧方法として、未延伸チューブ送り出し側と延伸チューブ引き取り側双方をニップロールに挟み封入した圧縮気体の内圧を維持する方法も採用できる。
【0061】
延伸条件は、脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)の種類や、該脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)と、更に必要に応じて添加されたその他樹脂及び/または添加剤との配合比率、及び、目的とする熱収縮率などにより調整されるが、通常延伸温度は脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度の通常−10℃以上、+50℃以下、より好ましくは−5℃以上、+40℃以下、さらに好ましくは前記ガラス転移温度以上、+30℃以下の範囲で行われる。
【0062】
本発明のチューブは、未延伸チューブをその径方向に通常1.2倍以上、好ましくは1.3倍以上、さらに好ましくは1.4倍以上であり、通常2.0倍以下、好ましくは1.9倍以下、さらに好ましくは1.8倍以下であり、また、その長さ方向に通常1.0倍以上、好ましくは1.02倍以上であり、通常1.5倍以下、好ましくは1.4倍以下、さらに好ましくは1.3倍以下の範囲で延伸させて得られたものが好ましい。
【0063】
チューブの径方向の延伸倍率が1.2倍未満では、被覆するに十分な収縮量が得られない場合がある。一方、チューブの径方向の延伸倍率が3.0倍を超えると、厚み振れが大きくなる傾向がある。またチューブの長さ方向の延伸倍率が2.0倍を超えると、長さ方向の収縮量が大きくなり、電子部品等を被覆加工したときに被覆位置がずれてしまう場合があり好ましくない。
【0064】
上記熱収縮性フィルム、又は、チューブは、100℃のシリコーンオイル中に20秒間静置した時の加熱収縮率が、フィルムの幅方向、又は、チューブの径方向では通常30%
以上、好ましくは35%であり、さらに好ましくは40%以上であり、かつ、通常70%以下、好ましくは65%以下、さらに好ましくは60%以下である。また、フィルム長さ方向、又は、チューブの長さ方向では40%以下、好ましくは15%以下、さらに好ましくは5%以下であり、最も好ましくは0%である。100℃のシリコーンオイル中に20秒間静置した時の加熱収縮率が上記範囲であれば、低温収縮特性に優れているため、食品や医薬・化粧品、もしくはそれらを包む紙やプラスチックの容器、あるいは、コンデンサ、電池等の内容物を破損する恐れもなく、さらに、低温から徐々に収縮するため、内容物を被覆する工程での被覆仕上がりが向上し、また被覆速度の高速化などが達成されることが期待される。
【0065】
さらに、本発明の熱収縮性成形体は耐UV変色性にも優れており、キセノン72時間照射前後の色差ΔEが20以下であることが好ましく、15以下であることがより好ましく、10以下であることがさらに好ましい。ΔEが20以下であれば、屋外での使用や、UVが照射される環境においても変色せず、優れた透明性を保持し続けることができるため、特に用途を限定されず、広い分野で本発明の熱収縮性成形体を使用することができる。
【0066】
本発明の熱収縮性成形体は、主にフィルムやチューブの形状として、食品や医薬・化粧品、もしくはそれらを包む紙やプラスチックの容器、あるいは、アルミ電解コンデンサなどのコンデンサの被覆用、電線(丸線、角線)、乾電池、リチウムイオン電池等の2次電池、鋼管またはモーターコイルエンド、トランスなどの電気機器や小型モーター、あるいは、電球、蛍光灯、ファクシミリやイメージスキャナーの蛍光灯被覆用チューブとしても利用可能である。また、その用途に応じて、フィルムやチューブ以外の形状であっても構わない。
【実施例】
【0067】
以下に実施例でさらに詳しく説明するが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。なお、本明細書中に表示される種々の測定値及び評価は次のようにして行った。
【0068】
(1)粘度平均分子量(Mv)
ウベローデ粘度計を使用し、ポリカーボネート樹脂試料の塩化メチレン溶液(0.6g/dl)を調製し、20℃におけるηspを測定し、以下の式(I)及び(II)より粘度平均分子量(Mv)を求めた。
ηsp/C=[η]×(1+0.28ηsp) (I)
[η]=1.23×10-4×(Mv)0.83 (II)
(式(I)中、ηspはポリカーボネート樹脂試料の塩化メチレン中20℃で測定した比粘度であり、Cはこの塩化メチレン溶液の濃度である。塩化メチレン溶液としては、ポリカーボネート樹脂試料の濃度が0.6g/dlの溶液を使用する。)
【0069】
(2)還元粘度
中央理化社製DT−504型自動粘度計にてウベローデ型粘度計を用い、溶媒として、塩化メチレンを用い、温度20.0℃±0.1℃でポリカーボネート樹脂試料の還元粘度を測定した。濃度は0.60g/dlになるように、精密に調整した後に測定した。
溶媒の通過時間t0、溶液の通過時間tから、下記式:
ηrel=t/t0
より相対粘度ηrelを求め、 相対粘度ηrelから、下記式:
ηsp=(η−η0)/η0=ηrel−1
より比粘度ηspを求めた。
比粘度ηspを濃度c(g/dl)で割って、下記式:
ηred=ηsp/c
より還元粘度(換算粘度)ηredを求めた。
この数値が高いほど分子量が大きい。
【0070】
(3)耐UV変色性
スガ試験機社製キセノンウェザーメーターWBL75XSを用い、面照射度60W/cm、波長300〜400nm、ブラックパネル温度63℃、相対湿度50%の条件下において、サンプルに対して72時間の照射を行った。照射前後のサンプルについて色差ΔEを測定した。ΔEが20以下であるものを合格とした。
【0071】
(4)全光線透過率、ヘーズ
JIS K7105に基づいて、全光線透過率および拡散透過率を測定し、ヘーズを以下の式で算出した。厚み0.2mmでの全光線透過率が80%以上、ヘーズが3%以下であるものを合格とした。
[ヘーズ]=[拡散透過率]/[全光線透過率]×100
(5)加熱収縮率
100℃のシリコーンオイル中に幅100mm、長さ100mmのフィルム、あるいは、径30mm、長さ100mmのチューブを20秒間静置した後のフィルムの幅方向、あるいは、チューブの径方向の収縮率を下式に基づいて算出した。
加熱収縮率(%)=[(L0−L1)/L0]×100
ここで、L0は収縮前の寸法、L1は収縮後の寸法を意味する。
【0072】
(6)耐衝撃性
ハイドロショット高速衝撃試験器(島津製作所社製「HTM−1型」)を用いて、長さ方向900mm×幅方向、あるいは、径方向900mmの大きさに切り出したシートを試料とし、クランプで固定し、温度23℃でシート中央に直径が1/2インチの撃芯を落下速度3m/秒で落として衝撃を与え、試料が破壊するときの破壊エネルギー(kgf・mm)を測定した。破壊エネルギーが100kgf・mm以上のものを合格とした。
【0073】
[脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)]
PC1:
イソソルビドに由来する構造単位/1,4−シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位=30/70モル%、
ガラス転移温度=80℃、還元粘度 0.69dl/g
PC2:
イソソルビドに由来する構造単位/1,4−シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位=50/50モル%、
ガラス転移温度=101℃、還元粘度 0.57dl/g
PC3:
イソソルビドに由来する構造単位/1,4−シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位=60/40モル%、
ガラス転移温度=110℃、還元粘度 0.51dl/g
【0074】
[芳香族ポリカーボネート樹脂(B)]
PC4:
三菱エンジニアリングプラスチックス社製ユーピロンS3000
ガラス転移温度=150℃、粘度平均分子量=20,000、還元粘度 0.49dl/g
【0075】
(実施例1)
脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)としてPC1を用い、40mmφ同方向二軸押出機
を用いて220℃で溶融混練した後、Tダイより押出し、次いで約70℃のキャスティングロールにて急冷し、未延伸フィルムを得た。次いで、未延伸フィルムを、周速差を付けた2つのロール間で、シート温度85℃で長さ方向に1.09倍延伸し、次に、三菱重工製フィルムテンターを用い、85℃で幅方向に2.0倍延伸し、厚さ0.1mmの熱収縮性フィルムを得た。得られた熱収縮性フィルムについて、耐UV変色性、全光線透過率、ヘーズ、加熱収縮率、耐衝撃性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0076】
(実施例2)
脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)としてPC2を用いた以外は実施例1と同様の方法で熱収縮性フィルムの作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
【0077】
(実施例3)
脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)のPC1と、芳香族ポリカーボネート樹脂(B)のPC4を、混合質量比80:20の割合でブレンドし、実施例1と同様の方法で熱収縮性フィルムの作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
【0078】
(実施例4)
脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)のPC1をφ40mm同方向二軸押出機にて220℃で溶融混練した後、丸ダイを用いて押出し、水に浸漬、冷却固化して外径20mm、厚み0.2mm未延伸チューブを得た。次いで、未延伸チューブを85℃の温水で加熱し、長さ方向に1.09倍、径方向に1.8倍延伸後、冷却して外径11mm、厚み0.1mmの熱収縮性チューブを得た。得られたチューブに関して、実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0079】
(比較例1)
脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)を使用せず、芳香族ポリカーボネート樹脂(B)のPC4を単独で用い、実施例1と同様の方法で熱収縮性フィルムの作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
【0080】
(比較例2)
脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)としてPC3を用いた以外は実施例1と同様の方法で熱収縮性フィルムの作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
表1より、本発明の熱収縮性成形体は、本発明の規定の範囲内であれば耐UV変色性、透明性、低温収縮特性、及び耐衝撃性に優れていた。一方比較例では、耐UV変色性、透
明性、低温収縮特性、及び耐衝撃性のいずれかについて実施例より劣っていた。これより、本発明の熱収縮性成形体は、耐UV変色性、透明性、低温収縮特性、及び耐衝撃性に優れた熱収縮性成形体であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造の一部に下記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(a)とシクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位(b)とを含み、
前記構造単位(b)の割合が45モル%以上、80モル%以下である脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)を含有する樹脂組成物(X)を用いてなることを特徴とする熱収縮性成形体。
【化1】

(但し、上記一般式(1)で表される部位が−CH−O−Hの一部である場合を除く。)
【請求項2】
前記ジヒドロキシ化合物が、下記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の熱収縮性成形体。
【化2】

【請求項3】
前記樹脂組成物(X)が、前記脂肪族ポリカーボネート樹脂(A)100質量%に対して芳香族ポリカーボネート樹脂(B)を1質量%以上、50質量%以下の割合で含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の熱収縮性成形体。
【請求項4】
前記熱収縮性成形体がフィルム、又はチューブであることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の熱収縮性成形体。
【請求項5】
前記フィルムが、100℃のシリコーンオイル中で20秒間静置した際の幅方向の加熱収縮率が30%以上、70%以下であることを特徴とする請求項4に記載の熱収縮性成形体。
【請求項6】
前記チューブが、100℃のシリコーンオイル中で20秒間静置した際の径方向の加熱収縮率が30%以上、70%以下であることを特徴とする請求項4に記載の熱収縮性成形体。
【請求項7】
前記熱収縮性成形体のキセノン72時間照射前後の色差ΔEが20以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の熱収縮性成形体。

【公開番号】特開2011−126971(P2011−126971A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285405(P2009−285405)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】