説明

熱収縮性木調化粧シート

【課題】住宅用デッキ材等に用いられる複合材向けの熱収縮性木調化粧シートに関し、芯材の表面に樹脂を被覆して複合材(製品)を製造する際、製品の外観を良好にでき、リサイクルし易く、後加工により様々な形状に加工できるようにする。
【解決手段】エチレン系共重合体(A)97〜70質量部と木粉(B)3〜30質量部とを含む混合樹脂組成物を主成分として含有し、少なくとも一軸方向に延伸して得られる熱収縮性木調化粧シートを提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に住宅用デッキ材等に用いられる複合材向けの熱収縮性木調化粧シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、住宅部材や建築材などの分野で、金属製芯材の表面に樹脂を被覆した複合材が盛んに用いられている。金属製の芯材をそのまま用いる場合もあるが、肌に触れたときの無機質的な接触感があり、冬場に冷たく、逆に夏場に熱いという難点があるほか、美観的にも好ましくなく、さらにその無機質的な印象から冷たい感じを受けることが多い。
他方、木製や樹脂製のものを用いる場合もあるが、強度が不十分であったり、コストが割高になったりしてしまう。
これに対して、芯材の表面に樹脂を被覆してなる複合材は、十分な強度を維持しつつ、外観や触感を良くすることができるため、例えばテラスの床面に使用されるデッキ材や、屋根の雨樋から雨水を流下排出する縦樋を固定したテラスの支柱等に好適に用いられている。
【0003】
芯材の表面に樹脂を被覆した複合材に関しては、例えば特許文献1において、セルロース系粉粒を金属石または鉛系化合物で被覆処理し、得られた被覆処理セルロース系粉粒と、ポリ塩化ビニル系樹脂を混合し、ついで押出成形又は射出成形して木質様部材を成形する方法が開示されている。
また、特許文献2には、金属筒を木目模様の合成樹脂シートで被覆して形成する竹垣支柱が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−286862号公報
【特許文献2】実開平6−82331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
芯材の表面に樹脂を被覆した複合材を成形する方法としては、従来、例えば断面が円形や楕円系の芯材の表面に木質調の合成樹脂材を押出して、芯材と合成樹脂材を一体成形した後、表面にエンボス加工、ブラシ等の研磨により模様をつけて風合いを出す手法や、木目柄をプリントした塩化ビニル樹脂のシートを芯材にラミネートする手法などが一般的であった。
【0006】
しかし、前者のように芯材と合成樹脂材を一体成型する手法は、予め芯材の形状に合わせて成形した樹脂が、接着剤や嵌め込みなどによって芯材に被着されているため、合成樹脂材と芯材が長期にわたり固定される点では優れているが、逆に合成樹脂材を芯材から外し難いため、リサイクルし難いという課題を抱えていた。
他方、後者のように、木目柄をプリントしたシートを芯材にラミネートする手法は、屋外構築物のような明るい場所では、その外観が人工的な印象を与えることが多いという課題を抱えていた。
【0007】
そこで本発明は、芯材の表面に樹脂を被覆して複合材(製品)を製造する際、製品の外観を良好にすることができ、リサイクルし易く、しかも、後加工により様々な形状に加工することができる、新たな熱収縮性木調化粧シートを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、エチレン系共重合体(A)97〜70質量部と木粉(B)3〜30質量部とを含む混合樹脂組成物を主成分として含有し、少なくとも一軸方向に延伸して得られる熱収縮性木調化粧シートを提案する。
【0009】
本発明が提案する熱収縮性木調化粧シートは、芯材の表面に被せて加熱して熱収縮させることにより、木調化粧シートを芯材に被着させることができる。この際、木粉(B)を配合することによって、外観を自然な木調に仕上げることができるばかりか、接着や嵌合によって化粧シートを芯材に被着させる訳ではないから、化粧シートを容易に芯材から剥がすことができ、リサイクル性の点でも優れている。さらに、後加工により様々な形状に加工することも可能である。例えば、熱収縮性木調化粧シートを押出した後、後工程で丸めたり、巻き回したり、チューブ状にしたり、各種形状に加工乃至成形することができるため、様々な形状の芯材に被覆することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態の一例としての熱収縮性木調化粧シート(以下「本化粧シート」と称する)について説明する。但し、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0011】
<本化粧シート>
本化粧シートは、エチレン系共重合体(A)と木粉(B)とを含む混合樹脂組成物を主成分として含有し、少なくとも一軸方向に延伸して得られる熱収縮性木調化粧シートである。
ここで、「混合樹脂組成物を主成分として含有する」とは、混合樹脂組成物以外の成分を含有することを許容する意であると共に、当該混合樹脂組成物の割合が50質量%を超え、好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90%質量以上を占める場合を包含するものである。
【0012】
(エチレン系共重合体(A))
本化粧シートにおいて、エチレン系共重合体(A)は、木粉(B)を担持させるための材料であり、かつ延伸によって熱収縮性を本化粧シートに付与するための材料でもある。かかる観点から、エチレン系共重合体(A)は、製膜時の成形加工安定性、特に延伸加工における安定性を有し、その後熱収縮を発揮するものであればよい。
【0013】
エチレン系共重合体(A)としては、例えばエチレンと、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、ヘプテン−1、オクテン−1などの炭素数3〜10のα−オレフィン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどの不飽和カルボン酸エステル、これらのアイオノマー、共役ジエンや非共役ジエンのような不飽和化合物の中から選ばれる一種又は二種以上のコモノマーとの共重合体、又は多元共重合体を挙げることができる。
エチレン系重合体中のエチレン単位の含有量は、通常50質量%を越えるものである。
【0014】
中でも、低温シール性、ホットタック性及び金属に対する接着性の観点から、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体及びエチレン−メタクリル酸エステル共重合体、並びにそれらのアイオノマーの中から選ばれる1種又は2種類以上の混合樹脂を特に好ましい例として挙げることができる。
例えばエチレン−アクリル酸エステル共重合体は、分子構造中にカルボキシル基を有しているため、金属に対する接着性が特に優れているほか、カルボキシル基同士で分子間に水素結合を形成することにより、高強度及び強靱性を備えるばかりか、溶融粘度が大きくて優れたホットタック性を得ることができる。また、低融点で高強度樹脂であるので、低温ヒートシール性に優れており、特に好ましい。
また、アイオノマーは、イオンにより分子間結合しているため、非常に強靱で、かつ適度の弾力性と柔軟性を有し、しかも、カルボン酸基を有しているため、金属等への熱接着性が安定しており、さらには、低温から高温まで幅広いヒートシール温度域で優れたホットタック強度が得られる点で、特に好ましい。
【0015】
上記のアクリル酸エステルとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル等が挙げられる。
また、上記のメタクリル酸エステルとしては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等が挙げられる。
【0016】
上記エチレン系重合体(A)の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知のオレフィン重合用触媒を用いた公知の重合方法、例えばチーグラー・ナッタ型触媒に代表されるマルチサイト触媒やメタロセン系触媒に代表されるシングルサイト触媒を用いた重合法等が挙げられる。
【0017】
なお、アイオノマーとは、疎水性高分子主鎖に、側鎖として部分的にカルボン酸やスルホン酸などの金属塩又はアンモニウム塩のイオン基を少量含んだイオン性高分子であり、当該金属塩又はイオン基による凝集力を利用して高分子を凝集体とした合成樹脂である。加熱すると分子間架橋が緩んで流動性を示すため、熱可塑性樹脂と同じ手法で成型加工が可能である。具体的には、エチレンと、不飽和カルボン酸と、任意成分として他の不飽和化合物からなる共重合体の不飽和カルボン酸成分の少なくとも一部を、金属イオンもしくは有機アミンのうち少なくともいずれか一方で中和することにより得ることができ、その中和成分としては、Na+、K+、Li+、Ca2+、Mg2+、Zn2+、Cu2+、Co2+、Ni2+、Mn2+、Al3+などの1価から3価の金属の陽イオンまたは有機アミンを挙げることができる。
【0018】
エチレン系重合体(A)の質量平均分子量は2万〜50万の範囲が好ましい。当該分子量が2万以上であれば、機械的強度等において実用に十分な物性を得ることができる一方、50万以下であれば、成形加工性に顕著に劣ることもない。
かかる観点から、エチレン系重合体(A)の質量平均分子量は2万〜50万の範囲が好ましく、中でも15万以上或いは25万以下であるのがさらに好ましい。
【0019】
エチレン系重合体(A)のメルトフローレート(MFR)は、特に制限されるものではない。通常は、MFR(JISK7210、温度:190℃、荷重:2.16kg)が、0.2g/10分以上であるのが好ましく、中でも0.5g/10分以上或いは18g/10分以下であるのがさらに好ましく、その中でも1g/10分以上或いは15g/10分以下であるのがさらに好ましい。
【0020】
(木粉(B))
木粉(B)は、植物繊維を主原料として製造された粉状、粒状ないし短繊維状の充填材であればよい。例えば松、米栂、栂、桜、杉、桧、ブナ、ラワン、カツラ、クリ、ナラ、樅等の木粉を使用することができる。
また、木粉以外のセルロース系充填材を用いてもよい。例えば竹粉、パルプ、バガス、ケナフ、おが屑、木質繊維、籾殻、破砕チップ材、果実殻粉、古紙や廃木材チップ等が挙げられ、これらは1種単独でも2種類以上、もしくは木粉と組み合わせて用いてもよい。
【0021】
木粉(B)の平均粒径は、特に制限されるものではない。一般的に、木粉(B)の平均粒径が10メッシュ以上であれば、成形品の均質性、平面性、機械的強度が低下しないように維持することができる一方、200メッシュ以下であれば、取り扱いが困難ではない上、配合量が多くても、樹脂中への分散状態を良好に維持することができる。よって、かかる観点から、木粉(B)の平均粒径は10〜200メッシュ、中でも60メッシュ以上或いは100メッシュ以下であるのが好ましい。
【0022】
木粉(B)の含有量は、木粉(B)とエチレン系共重合体(A)の含有合計100質量部に対して、3〜30質量部であることが好ましく、中でも3〜25質量部、その中でも5質量部以上或いは20質量部以下であるのがさらに好ましい。
木粉含有量が3質量部未満では木質感を付与しづらく、30質量部以上ではエチレン系共重合体(A)が有する延伸性およびそれに伴う熱収縮性を阻害してしまう。
【0023】
(その他の添加剤)
本化粧シートは、エチレン系共重合体(A)及び木粉(B)以外にも、必要に応じて、例えば着色剤、相溶化剤、滑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、加工助剤などの添加剤を含有してもよい。
【0024】
着色剤としては、例えば酸化チタン、硫化亜鉛、シリカ、モリブデンホワイト、鉛白、カーボンブラック、チタンブラック、鉄黒、酸化クロム、クロムグリーン、ジンクグリーン、塩化銅フタロシアニングリーン、フタロシアニングリーン、ナフトールグリーン、マラカイトグリーンレーキ、エメラルドグリーン、ギネー緑、群青、紺青、銅フタロシアニンブルー、コバルトブルー、フタロシアニンブルー、フォストスカイブルー、インダンスレンブルー、鉛丹、ベンガラ、塩基性クロム酸亜鉛、クロムバーミリオン朱、カドミウム赤、バラレッド、ブリリアントカーミン、ブリリアントスカーレット、キナクリドン赤、リソールレッド、バーミリオン、チオインジゴレッド、ミンガミヤレッド、モリブデン赤、ジオキサジンバイオレット、黄鉛、亜鉛黄、黄色酸化鉄、チタンイエロー、ファーストイエロー、ハンサイエロー、オーラミンレーキ、ベンジジンイエロー、インダンスレンイエロー、カドミウム黄、鉄・亜鉛複合酸化物エロー、酸化コバルト、酸化鉄、銀朱、ストロンチウムクロメート、ジンククロメート、リサージ、リトポン、アゾ顔料、イソインドリノン、キナクリドン、ペリノンペリレン、マイカ、アルミニウムなどを挙げることができる。これらは単独で又は2種類以上を組み合わせて配合してもよい。
【0025】
相溶化剤、すなわち木粉(B)をエチレン系共重合体(A)に相溶させ易くする相溶化剤としては、例えば無水マレイン酸グラフト化ポリプロピレン樹脂、無水マレイン酸グラフト化ポリエチレン樹脂、マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂、マレイン酸変性ポリエチレン樹脂、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、SEBS、エチレングリシジルメタクリレート(EGMA)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)などを挙げることができる。これらは単独で又は2種類以上を組み合わせて配合してもよい。
相溶化剤の添加量は、エチレン系共重合体(A)と木粉(B)の合計含有量100質量部に対して、0.1〜10質量部であるのが好ましく、中でも0.5質量部以上或いは5質量%以下であるのがより好ましい。相溶化剤の含有量が0.1質量%以上であれば、相溶化の効果を得ることができる一方、10質量%以下であれば、曲げ強度等の機械的物性を低下させることもない。
ちなみに、木粉含有量が10質量部を超えると、外観に気泡やムラが生じる可能性があるため、特にこの場合には上記相溶化剤を加えるのが好ましい。
【0026】
滑剤としては、例えばステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸エステル、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、12−ヒドロキシステアリン酸亜鉛、12−ヒドロキシステアリン酸カルシウム、アマイドワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、ステアリン酸、水酸化ステアリン酸、脂肪酸エステル、長鎖脂肪酸エステル、オリゴマー脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、モンタン、天然パラフィン、合成パラフィンなどを挙げることができる。これらは単独で又は2種類以上を組み合わせて配合してもよい。
【0027】
紫外線吸収剤としては、紫外線吸収性能を有すれば特に制限はなく、例えばベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、シアノアクリレート系、トリアジン系などを挙げることができる。これらは単独で又は2種類以上を組み合わせて配合してもよい。
【0028】
光安定剤としては、例えばヒンダードアミン系を挙げることができ、加工助剤としては、例えば天然ゴムやエチレンプロピレンゴム(EPDM)、高分子アクリルやアクリル変性ポリテトラフルオロエチレンなどを挙げることができる。
【0029】
さらに、上述した着色剤、相溶化剤、滑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、加工助剤以外にも、必要に応じて酸化防止剤、熱安定剤、分散剤、アンチブロッキング剤、造核剤、加水分解防止剤、消臭剤、可塑剤、充填剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、防カビ剤、抗菌剤、発泡剤、発泡助剤などの添加剤を含有していてもよい。
【0030】
<厚み>
本化粧シートの厚みは、その用途に応じて選択すればよく、特に限定するものではない。一例としては、100μm〜5000μm、中でも300μm以上或いは3000μm以下、その中でも500μm以上或いは2000μm以下である厚さを挙げることができる。
【0031】
<特性値>
本化粧シートは、90℃の温水に10秒間浸漬した時の主収縮方向の熱収縮率が5〜70%であることが好ましく、より好ましくは10%以上或いは50%以下、さらに好ましくは15%以上或いは40%以下である。
上述の延伸倍率にも関係するが、当該熱収縮率が5%以上であれば、十分な収縮量を得ることができる一方、70%以下であれば、長さ方向の収縮量が大き過ぎることはなく、被覆加工したときに被覆位置がずれてしまったり、収縮シワが発生したりするなどの問題を防ぐことができる。
【0032】
上記の特性値を満足するシートを作製するには、例えばエチレン系共重合体(A)の選択(主成分となる樹脂の種類、その分子量やMFRなど)、厚み、製膜方法、加工条件(例えば延伸条件など)を適宜バランスよく調整することによって作製することができる。
【0033】
<用途>
本化粧シートは、芯材の表面に被せて、加熱することにより該シートを熱収縮させることにより、該シートを芯材に被着させて複合材とすることができる。
【0034】
芯材としては、例えば鉄鋼、ステンレス、アルミニウム、木材、合成樹脂、セラミック、セメント材などを挙げることができる。セラミック材、セメント系成形体、FRPなどからなる合成樹脂管又は合成樹脂棒なども使用可能である。
【0035】
複合材の表面の木質感を高めるために、金属ブラシ、サンダーなどを用いて研磨加工を施してもよい。
【0036】
こうして得られた複合材は、必要に応じて丸めたり、巻き回したり、チューブ状にするなど各種の形状に加工乃至成形した後、例えば住宅部材や建築材として利用することができる。
【0037】
<製造方法>
次に、本化粧シートの製造方法について説明する。ただし、本化粧シートの製造方法が、下記製造方法に限定されるものではない。
【0038】
フィルムの製膜にあたっては、先ず、エチレン系共重合体(A)木粉(B)、必要に応じて用いられるその他の添加剤等からなる製膜材料を混合し、ペレット化する。
この際の混合方法としては、例えば、予め同方向二軸押出機、ニーダー、ヘンシェルミキサー等を用いてプレコンパウンドするようにしてもよいし、又、各原料をドライブレンドして直接フィルム押出機に投入するようにしてもよい。ただし、混合する吸着材や添加剤等が微粉状、液状のもので、各原料のドライブレンドが困難である場合には、別々のフィーダー等により所定量をエチレン系共重合体(A)に添加することにより、混合樹脂組成物を得ることができる。いずれの混合方法においても、原料の分解による分子量の低下を考慮する必要があるが、均一に混合させるためにはプレコンパウンドすることが好ましい。例えばエチレン系共重合体(A)と、木粉(B)、その他添加剤とを必要に応じて乾燥した後、それぞれを別々のフィーダーから二軸押出機に投入し、溶融混合の後にストランド形状に押出してペレットを作製すればよい。
【0039】
次に、上記により得られたペレットを、押出機に投入して溶融押出し、Tダイ又は環状ダイを用いて製膜する。Tダイを用いる場合であれば、押出・延伸したシートを融着、溶着または接着などにより貼合せてチューブ形状とし、被覆部材として利用することができる。一方、環状ダイを用いる方法であれば、環状ダイから溶融押出されたシートを延伸することでチューブ形状となるため、そのまま被覆部材として利用することができる。
【0040】
シートの押出温度は、エチレン系共重合体(A)の種類や、各樹脂の流動特性にもよるが、概ね180℃〜280℃が好ましく、190℃〜250℃の範囲にあることがより好ましい。押出温度が180℃以上であれば、溶融樹脂の粘度が十分に低く成形性に優れ、一方、上限温度以下であれば、樹脂の劣化、ひいてはフィルムの機械的強度の低下を抑制できる。
【0041】
次いで、溶融押出されたシートを少なくとも一軸方向に延伸する。
Tダイで成形されたシートであれば、縦方向(MD)への延伸もしくは横方向(TD)への延伸を選択することができる。縦方向への延伸であれば、ロール間の速度差を利用して延伸する公知の技術を用いればよいが、その延伸条件に関しては各ロールの速度を適宜決定することにより、一段であっても二段以上の多段延伸であってもよい。また、横方向への延伸であれば、これも公知の技術であるテンター法を用いればよい。
前記縦延伸もしくは横延伸を施す場合の延伸温度は、エチレン系共重合体(A)の種類や混合樹脂組成物の組成等によって適時選択する必要があるが、例えばポリオレフィン樹脂を選択する場合の延伸温度は、概ね60〜120℃であり、より好ましくは70〜100℃である。
また、延伸倍率は目的とする熱収縮率により決めるのが好ましい。例えば1.2〜4.0倍、中でも1.4以上或いは3.0倍以下とすることができる。延伸倍率が1.2倍以上であれば、十分な収縮量を得ることができる一方、4.0倍以下であれば、収縮量が大きくなり過ぎることがなく、被覆加工したときに被覆位置がずれてしまったり、収縮シワが発生したりするのを防ぐことができる。
【0042】
他方、環状ダイにより成形されたシートであれば、未延伸のチューブ状シート(未延伸チューブ)の内側より圧縮気体で加圧し、延伸することができる。
延伸方法は特に限定されるものではない。例えば未延伸チューブの一方の端から圧縮気体による圧力を管の内側に加えつつ一定速度で送り出し、次いで温水または赤外線ヒーター等により予熱し、延伸温度に加熱した延伸管の中に入れ延伸を行う。長さ方向の延伸倍率は、未延伸チューブの送り速度と延伸後のニップロール速度との比で決められ、径方向の延伸倍率は未延伸外径と延伸チューブ外径の比で決められる。
延伸温度は、エチレン系共重合体(A)の種類や混合樹脂組成物の組成等によって適時選択する必要があるが、例えばポリオレフィン樹脂を選択する場合の延伸温度は、概ね60〜110℃、より好ましくは70℃以上或いは100℃以下である。
また、延伸倍率は環状ダイから押出された未延伸チューブをその径方向に1.2〜4.0倍、好ましくは1.4倍以上或いは3.0倍以下であり、長さ方向に1.0〜2.0倍、好ましくは1.0倍以上或いは1.7倍以下である。
ここで、チューブの径方向の延伸倍率が1.2倍以上であれば、十分な収縮量を得ることができる一方、4.0倍以下であれば、収縮量が大きくなり過ぎることがなく、被覆加工したときに被覆位置がずれてしまったり、収縮シワが発生したりするのを防ぐことができる。
【0043】
このようにして得られたシートは、熱収縮率や自然収縮率の軽減、幅収縮の発生の抑制等の目的に応じて、必要に応じて加熱ロール間での縦延伸、各種の熱固定、エージング等の熱処理を行うようにしてもよい。
また、コロナ処理、印刷、コーティング等の表面処理や表面加工を行ってもよい。
【0044】
<用語の説明>
一般的に「フィルム」とは、長さおよび幅に比べて厚みが極めて小さく、最大厚みが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいい(日本工業規格JISK6900)、一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、一般にその厚みが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいう。しかし、シートとフィルムの境界は定かでなく、本発明において文言上両者を区別する必要がないので、本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【0045】
本発明において、「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」および「好ましくはYより小さい」の意を包含する。
また、本発明において、「X以上」(Xは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「好ましくはYより小さい」の意を包含する。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例によりさらに詳しく説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例により何ら制限を受けるものではない。
【0047】
[物性の測定方法]
実施例及び比較例における各種物性の測定方法は以下の通りである。
【0048】
(1)シート外観
得られたシートの外観を以下の基準により評価した。
◎:十分な木質感が付与されている。
○:木質感がある程度付与されている。
×:木質感が付与されていない
【0049】
(2)延伸性
シートの延伸性について以下の基準により評価した。
○:加熱延伸時、問題なく延伸でき均一な熱収縮性木調化粧シートが得られた。
△:加熱延伸時、若干の延伸ムラが生じやや不均一な熱収縮性木調化粧シートが得られた。
×:加熱延伸時、破断、穴あきが生じて熱収縮性木調化粧シートが得られなかった。
【0050】
(3)熱収縮率(%)
90℃の温水に10秒浸漬した後、下式に基づいて算出した。
熱収縮率(%)=[(L0−L1)/L0]×100
ここで、L0:収縮前の寸法、L1:収縮後の寸法である。
【0051】
(4)被覆適性
得られたシートを内径180mmのチューブ状に成形し、縦30mm、横50mm、長さ200mmのアルミ芯材に被覆した後、90℃に熱したオーブンに入れて熱収縮させた。得られた成形品サンプルの外観を以下の基準により評価した。
○:シートがアルミ芯材に均一に被覆されている。
△:被覆面に若干のシワやたるみが生じている。
×:シワやたるみが顕著に生じている。
【0052】
[製膜材料]
実施例及び比較例で使用した製膜材料は以下の通りである。
【0053】
<エチレン系共重合体(A)>
(A−1):エチレン−アクリル酸エステル系アイオノマー(三井・デュポン(株)製「ハイミラン1705」、MFR(JISK7210、温度:190℃、荷重:2.16kg)7g/10分)
(A−2):エチレン−アクリル酸エステル(日本ポリエチレン(株)製「レクスパールEAA A201M」、MFR(JISK7210、温度:190℃、荷重:2.16kg)5g/10分)
【0054】
<木粉(B)>
(B):米栂(国見興産製「セルロシン100M」、100メッシュ)
【0055】
[実施例1]
エチレン系共重合体(A)と木粉(B)とを表1に示す質量割合で含有されるように秤量して混合すると共に、エチレン系共重合体(A)と木粉(B)の合計質量100質量部に対して、0.5質量部の相溶化剤(グリセリン脂肪酸エステル 日油(株)製「ユニグリGL−106」)、0.2質量部の紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系 城北化学(株)製「JF−79」)及び0.2質量部の光安定剤(ヒンダードアミン系 城北化学(株)製「JF−90」)を混合した後、これらを二軸押出機に投入し、溶融混合の後にストランド形状に押出してペレットを作製した。
その後、得られた樹脂組成物を二軸押出機により、200℃でTダイより押出し、冷却固化してフィルムを形成した。得られたフィルムを、延伸温度75℃、延伸倍率1.6倍にてTD方向に一軸延伸し、厚み500μmの熱収縮性木調化粧シートを得た。得られたシートについて評価した結果を表1に示す。
【0056】
[実施例2]
エチレン系共重合体(A)と木粉(B)とを表1に示す質量割合で含有されるように秤量して混合すると共に、エチレン系共重合体(A)と木粉(B)の合計質量100質量部に対して、3.5質量部の着色剤(大日精化工業(株)製「PE−D AZ 11D3006」)、0.5質量部の相溶化剤(グリセリン脂肪酸エステル 日油(株)製「ユニグリGL−106」)、0.2質量部の紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系 城北化学(株)製「JF−79」)及び0.2質量部の光安定剤(ヒンダードアミン系 城北化学(株)製「JF−90」)を混合した後、実施例1と同様にして厚み500μmの熱収縮性木調化粧シートを得た。得られたシートについて評価した結果を表1に示す。
【0057】
[実施例3]
エチレン系共重合体(A)と木粉(B)とを表1に示す質量割合で含有されるように秤量して混合すると共に、エチレン系共重合体(A)と木粉(B)の合計質量100質量部に対して、3.5質量部の着色剤(大日精化工業(株)製「PE−D AZ 11D3006」)、1.0質量部の相溶化剤(グリセリン脂肪酸エステル 日油(株)製「ユニグリGL−106」)、1.0質量部の滑剤(脂肪酸エステル 日油(株)製「エレガンN−1100」)、0.2質量部の紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系 城北化学(株)製「JF−79」)、0.2質量部の光安定剤(ヒンダードアミン系 城北化学(株)製「JF−90」)及び0.5質量部の加工助剤(アクリル変性ポリテトラフルオロエチレン 三菱レイヨン(株)製「メタブレンA−3000」)を混合した後、実施例1と同様にして厚み500μmの熱収縮性木調化粧シートを得た。得られたシートについて評価した結果を表1に示す。
【0058】
[実施例4]
実施例2において、エチレン系共重合体(A)を(A−1)から(A−2)に変更し、エチレン系共重合体(A)と木粉(B)の合計質量100質量部に対して、0.5質量部の滑剤(脂肪酸エステル 日油(株)製「エレガンN−1100」)をさらに添加した以外は、実施例2と同様にして厚み500μmの熱収縮性木調化粧シートを得た。得られたシートについて評価した結果を表1に示す。
【0059】
[実施例5]
実施例2において、エチレン系共重合体(A)を(A−1)と(A−2)の混合系とし、表1に示す質量割合に変更した以外は、実施例2と同様にして厚み500μmの熱収縮性木調化粧シートを得た。得られたシートについて評価した結果を表1に示す。
【0060】
[比較例1]
実施例1において、延伸を施さなかった以外は、実施例1と同様にして厚み500μmのシートを得た。得られたシートについて評価した結果を表1に示す。
【0061】
[比較例2]
実施例1において、木粉(B)の添加量を変更した以外は、実施例1と同様にして厚み500μmのシートを得た。得られたシートについて評価した結果を表1に示す。
【0062】
[比較例3]
実施例2において、木粉(B)を添加せず、エチレン系共重合体(A−1)と着色剤のみとした以外は、実施例2と同様にして厚み500μmの熱収縮性木調化粧シートを得た。得られたシートについて評価した結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1の結果より、実施例1〜4は、少なくとも1種のエチレン系共重合体(A)97〜70質量部と木粉(B)3〜30質量部とを含む混合樹脂組成物を主成分として含有するフィルムを少なくとも一軸方向に延伸することにより、十分な木質感が得られ、かつ90℃の温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の熱収縮率を規定範囲内にすることができ、その際、アルミ芯材への被覆適性も良好であった。また、実施例5に示すように、エチレン系共重合体(A)として(A−1)と(A−2)の混合成分とした場合においても、良好な特性を得ることができた。
さらに、いずれの実施例の場合も、被覆後のシートがアルミ芯材から簡単に剥がすことができ、リサイクル性にも優れることが確認できた。
【0065】
これに対して、延伸加工を施さなかった場合には(比較例1)、熱収縮率が本発明の規定外でありアルミ芯材に被覆することができなかった。また、木粉の添加量が本発明の規定値よりも多い場合には(比較例2)、延伸時に原反が破断し、シートを得ることができなかった。一方、木粉を全く添加せず、着色剤の添加のみとした場合には(比較例3)、シートに木質感を付与することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン系共重合体(A)97〜70質量部と木粉(B)3〜30質量部とを含む混合樹脂組成物を主成分として含有し、少なくとも一軸方向に延伸して得られる熱収縮性木調化粧シート。
【請求項2】
エチレン系重合体(A)が、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体及びエチレン−メタクリル酸エステル共重合体、並びにそれらのアイオノマーの中から選ばれる1種又は2種類以上の混合樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の熱収縮性木調化粧シート。
【請求項3】
90℃の温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の熱収縮率が5〜70%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱収縮性木調化粧シート。
【請求項4】
鉄鋼、ステンレス、アルミニウム、木材、セラミック、セメント材及び合成樹脂からなる群から選ばれる一種の材料からなる芯材に、請求項1〜3のいずれかに記載の熱収縮性木調化粧シートを被覆してなる構成を備えた複合材。


【公開番号】特開2013−40303(P2013−40303A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179403(P2011−179403)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】