説明

熱収縮性生分解フィルム

【課題】
柔軟性、透明性および低温収縮性に優れ、更に商品を収縮包装した際にフィルムが白濁せず、美麗な収縮包装体を得ることが可能な熱収縮性生分解フィルムを提供することを課題とする。
【解決手段】
主として乳酸(A)からなるA層と主としてなる脂肪族−芳香族共重合ポリエステル(B)からなるB層を、主として脂肪族共重合ポリエステル(C)からなるC層を介して、A層とB層が隣接しないように積層してなる熱収縮性生分解フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性を有する熱収縮性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から包装分野において多量の熱収縮性フィルムが、熱収縮包装の用途に使用されている。熱収縮性フィルムに用いられる合成樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂やポリエチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂などが挙げられる。しかしながら、これらの合成樹脂からなる熱収縮性フィルムは、包装材としての用を終えた後に自然環境中に投棄されると、その化学的安定性のため分解されることなく、自然環境に長期にわたって残留し環境汚染の一因になっている。また、熱収縮性フィルムによる収縮包装は食品容器の包装にも頻繁に利用されているが、最近ではゴミ減量化の観点から生ゴミのコンポスト化が推進されており、包装された食品容器を取り出すために破り取ったフィルムが生ゴミに混入した場合、分別は困難であり、生ゴミのコンポスト化の妨げの一因になっている。
【0003】
微生物の働きによって、生分解性を有する樹脂組成物からなる各種の熱収縮性フィルムが提案されている。例えば、90℃の油浴中に1分間浸漬した後の少なくとも一方向の収縮率が20%以上であることを特徴とするポリ乳酸を主成分とする熱収縮性フィルムが提案されている(特許文献1)。ポリ乳酸を主成分とすることで、透明性に優れた熱収縮性フィルムを得ることが可能であるが、得られた熱収縮性フィルムは柔軟性が乏しく、脆く裂けやすい等の問題があった。また、ポリ乳酸の脆く裂けやすいという問題を改善することを目的に、ポリ乳酸、可塑剤および必要に応じて滑剤、熱安定剤を含む組成物を主成分とした熱可塑性ポリマー組成物を用いた熱収縮性生分解フィルムが提案されている(特許文献2)。ポリ乳酸に可塑剤を配合することで、柔軟性を付与することは可能であるが、可塑剤がブリードアウトして時間の経過と共にフィルムの物性が変化したり、ブリードアウトした可塑剤によって被包装物が汚染されるという問題があった。
そこで、本願発明者らは透明性に優れたポリ乳酸を両外層に、柔軟性に優れた脂肪族−芳香族共重合ポリエステルを中間層に配し、ポリ乳酸の特長である透明性と延伸性および収縮性は維持したまま、柔軟性を付与した生分解性二軸延伸フィルムを提案している(特許文献3)。しかしながら、こうして得られたフィルムで熱収縮包装を行うと、フィルムの一部が白濁し、美麗な包装袋が得られない場合があるという問題点があった。
【特許文献1】特開平8−230036号公報
【特許文献2】特開平9−95605号公報
【特許文献3】特願2004−286565号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような状況に鑑みなされたもので、ポリ乳酸からなる層と脂肪族−芳香族共重合ポリエステルからなる層を積層し、柔軟性、透明性および低温収縮性に優れた熱収縮性生分解フィルムであり、さらに、商品を熱収縮包装した際にもフィルムが白濁せず、美麗な収縮包装体を得ることが可能な熱収縮性生分解フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明者らは鋭意検討を行った結果、主として乳酸(A)からなるA層と、主として脂肪族−芳香族共重合ポリエステル(B)からなるB層を、主として脂肪族共重合ポリエステル(C)からなるC層を介して、A層とB層が隣接しないように積層し、二軸延伸することによって、上記課題が解決された熱収縮性生分解フィルムが得られることを見出し本発明に至った。
即ち本発明は、
(1) 主としてポリ乳酸(A)からなるA層と、主として脂肪族−芳香族共重合ポリエステル(B)からなるB層、主として脂肪族共重合ポリエステル(C)からなるC層の少なくとも三層からなり、A層とB層が隣接しないようにC層を介して積層され、二軸延伸されてなる熱収縮性フィルムであって、
脂肪族−芳香族共重合ポリエステル(B)が、脂肪族および芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールを重縮合して得られるものであり、脂肪族共重合ポリエステル(C)が、脂肪族オキシカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸ならびに脂肪族ジオールを重縮合して得られるものであることを特徴とする熱収縮性生分解フィルムが提供され、
(2) 主としてポリ乳酸(A)からなるA層と、主として脂肪族共重合ポリエステル(B)からなるB層、主として脂肪族−芳香族共重合ポリエステル(C)からなるC層が、A層/C層/B層/C層/A層の順で積層されてなることを特徴とする(1)に記載の熱収縮性生分解フィルムが提供され、
(3) 脂肪族共重合ポリエステル(C)が、脂肪族ジオールとして1,4−ブタンジオール、脂肪族ジカルボン酸としてコハク酸、脂肪族オキシカルボン酸として乳酸を重縮合して得られるものであることを特徴とする(1)または(2)に記載の熱収縮性生分解フィルムが提供され、
(4) 脂肪族共重合ポリエステル(C)が、脂肪族ジオールとして1,4−ブタンジオール、脂肪族ジカルボン酸としてコハク酸およびアジピン酸、脂肪族オキシカルボン酸として乳酸を重縮合して得られるものであることを特徴とする(1)または(2)に記載の熱収縮性生分解フィルムが提供され、
(5) 脂肪族−芳香族共重合ポリエステル(B)が、脂肪族ジオールとして1,4−ブタンジオール、脂肪族ジカルボン酸としてアジピン酸、芳香族ジカルボン酸としてテレフタル酸を重縮合して得られるものであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の熱収縮性生分解フィルムが提供され、
(6) 縦方向および横方向のヤング率が700〜2500MPaであり、
80℃のグリセリン中での縦方向および横方向の収縮率が30%以上であることを特徴とする(1)〜(5)に記載の熱収縮性生分解フィルムが提供され、
(7) 全層の厚みに対する各樹脂層の合計厚み割合が、
主としてポリ乳酸(A)からなるA層が20〜70%、
主として脂肪族−芳香族共重合ポリエステル(B)からなるB層が10〜75%、
主として脂肪族共重合ポリエステル(C)からなるC層が5〜40%、
であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の熱収縮性生分解フィルムが提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明の熱収縮性生分解フィルムは柔軟性、透明性および低温収縮性に優れており、熱収縮包装後にフィルムの白濁が発生しないので、広い包装条件範囲で美麗な包装体を得られるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の内容を詳細に説明する。
本発明の熱収縮性生分解フィルムに用いられるポリ乳酸(A)としては、主としてL−乳酸またはD−乳酸の単独重合体や共重合体、例えば、構造単位がL−乳酸であるポリL−乳酸や、構造単位がD−乳酸であるポリD−乳酸、L−乳酸とD−乳酸の共重合体であるポリLD−乳酸などが例示される。また、上記ポリ乳酸の単独重合体や共重合体を単独で使用しても良いし、複数を混合して使用しても良い。
【0008】
また、ポリ乳酸(A)は、重縮合法や開環重合法などの従来公知の方法で製造されたものを使用することができる。例えば、L−乳酸やD−乳酸またはこれらの混合物を直接脱水重縮合することで任意の組成を持つポリ乳酸が得られる。また、開環重合法では乳酸の環状二量体であるラクチドを、必要に応じて重合調整剤なども用いながら、所定の触媒存在下で開環重合して任意の組成を持つポリ乳酸を得られる。上記ラクチドには、L−乳酸の二量体であるL−ラクチド、D−乳酸の二量体であるD−ラクチド、L−乳酸とD−乳酸の二量体であるLD−ラクチドがあり、これらを必要に応じて混合することにより任意の組成、すなわち様々な結晶性を有する重合体を得ることができる。
ポリLD−乳酸は、L−乳酸またはD−乳酸の主構造を構成するいずれか一方の構造単位が90%以上占めるものが、結晶性が高いので耐熱性に優れ、延伸加工性や熱収縮特性に優れているので好ましい。
【0009】
また、本発明の熱収縮性生分解フィルムに用いられる脂肪族共重合ポリエステル(C)としては、脂肪族ジオールとして1,4−ブタンジオール、脂肪族ジカルボン酸としてコハク酸、脂肪族オキシカルボン酸として乳酸を直接脱水重縮合して得られる脂肪族共重合ポリエステル(C)、または、脂肪族ジオールとして1,4−ブタンジオール、脂肪族ジカルボン酸としてコハク酸およびアジピン酸、脂肪族オキシカルボン酸として乳酸を直接脱水重縮合して得られる脂肪族共重合ポリエステル(C)が好適に利用される。さらに、190℃、せん断速度100(sec−1)における溶融粘度が400〜2,000(Pa・s)であり、融点が80〜120℃である上記脂肪族共重合ポリエステル(C)がより好適に利用される。
上記の様な脂肪族共重合ポリエステルとしては、三菱化学(株)から市販されている「GS Pla」(商品名)などを例示することができる。
【0010】
さらに、本発明の熱収縮性生分解フィルムに用いられる脂肪族−芳香族共重合ポリエステル(B)は、脂肪族ジオールとして1,4−ブタンジオール、脂肪族ジカルボン酸としてアジピン酸、芳香族ジカルボン酸としてテレフタル酸を重縮合して得られる、柔軟性に富んだ脂肪族−芳香族共重合ポリエステル(B)が好適に利用される。さらに、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸の割合が30〜60mol%であるものがより好適に利用される。
上記のような脂肪族−芳香族共重合ポリエステル(B)としては、BASF社から市販されている「エコフレックス」(商品名)などを例示することができる。
【0011】
本発明の熱収縮性生分解フィルムは、主としてポリ乳酸(A)からなるA層と、主として脂肪族−芳香族共重合ポリエステル(B)からなるB層、脂肪族ジオール成分と脂肪族ジカルボン酸成分、脂肪族オキシカルボン酸成分から構成される脂肪族共重合ポリエステル(C)を主成分とするC層の少なくとも三層からなり、A層とB層が隣接しないようにA層とB層はC層を介して積層されなければならない。例えば、A層/C層/B層の順に積層されなければならない。
主としてポリ乳酸(A)からなるA層と主として脂肪族−芳香族共重合ポリエステル(B)からなるB層が隣接するように積層した場合には、A層とB層の層間の接着強度が弱く、さらに、ポリ乳酸(A)と脂肪族−芳香族共重合ポリエステル(B)ではフィルム収縮時の収縮率や収縮速度、収縮応力などの収縮挙動が異なる。そのため、A層とB層が隣接して積層されている熱収縮性生分解フィルムを用いて熱収縮包装を行うとポリ乳酸(A)からなるA層と脂肪族−芳香族共重合ポリエステル(B)からなるB層との層間の界面でズレが生じ、フィルムが白濁して収縮包装後の包装体の美麗性が損なわれてしまう。
【0012】
一方、脂肪族ジオール成分と脂肪族ジカルボン酸、脂肪族オキシカルボン酸を重縮合して得られる脂肪族共重合ポリエステル(C)は、ポリ乳酸(A)および脂肪族−芳香族共重合ポリエステル(B)との層間接着性が良好である。そのため、ポリ乳酸(A)からなるA層と脂肪族−芳香族共重合ポリエステル(B)からなるB層の間に、該脂肪族共重合ポリエステル(C)を主成分とするC層を配することにより、A層とC層間およびB層とC層間の接着強度が向上し、ポリ乳酸(A)と脂肪族−芳香族共重合ポリエステル(B)の収縮挙動が著しく異なっていても、各層間の界面でズレが発生しないので、収縮包装後にフィルムが白濁して包装体の美麗性が損なわれることがない。
【0013】
また、主としてポリ乳酸(A)からなるA層と主として脂肪族共重合ポリエステル(B)からなるB層、主として脂肪族−芳香族共重合ポリエステル(C)からなるC層は、ポリ乳酸(A)からなるA層が両外層となるように積層されていることが好ましい。例えば、A層/C層/B層/C層/A層の順で積層されていることが好ましい。
ポリ乳酸(A)は、透明性ならびに光沢に優れているので、ポリ乳酸(A)からなるA層を両外層に位置するように各層を積層することで、透明性ならびに光沢に優れた熱収縮性生分解フィルムを得ることが可能となる。こうして得られる熱収縮性生分解フィルムの透明性は、ヘーズ値で4.0以下であることが好ましい。ヘーズ値が4.0を超えると、フィルムの曇りによって被包装物がくすんで見えてしまい、ディスプレー効果が損なわれるので好ましくない。
【0014】
本発明の熱収縮性生分解フィルムの80℃のグリセリン中での縦方向および横方向の収縮率は30%以上であることが好ましい。80℃グリセリン中での収縮率が30%以上、つまり低温収縮性に優れていれば、収縮包装の際のフィルム収縮温度の設定を低く、かつ、加熱時間も短く設定できるので、熱によって変質しやすい被包装物の包装に好適に利用される。80℃グリセリン中での収縮率が30%未満だと収縮包装した際にフィルムのコーナー部分が十分に収縮しないで硬い突起状になった、いわゆる、角(つの)が発生したり、被包装体と接する部分が十分に収縮しないでシワが発生したりして美麗な包装体が得られない。
【0015】
また、熱収縮性生分解フィルムのヤング率は、700〜2500MPaであることが好ましい。ヤング率が2500MPaを超えると、熱収縮性生分解フィルムの柔軟性が低下し、収縮包装を行った際に、収縮しきらないで残った角(つの)の部分が硬くなり、包装袋の美観が損なわれるのみならず、包装体を取り扱う際に硬く残った角(つの)の部分で手指を傷つけたり、包装体を積み重ねて梱包した際に角(つの)の部分でフィルムが破れたりする恐れがあるので好ましくない。一方、700MPa未満では、熱収縮性生分解フィルムの柔軟性が増すものの、熱収縮性生分解フィルムの製膜時の取り扱いや、高速自動包装機で使用した場合に包装適性が低下するので好ましくない。
【0016】
さらに、全層の厚みに対する各樹脂層の合計の厚み割合は、ポリ乳酸(A)からなるA層が20〜70%、脂肪族−芳香族共重合ポリエステル(B)からなるB層が10〜75%、脂肪族共重合ポリエステル(C)からなるC層が5〜40%であることが好ましい。
さらに、ポリ乳酸(A)からなるA層の合計の厚み割合は、50〜70%であることがより好ましい。ポリ乳酸(A)は、デンプンなどの植物由来原料から製造されている。植物は大気中の二酸化炭素を固定するため、たとえ廃棄後に焼却された場合でも、二酸化炭素があらたに発生することがない。そのため、生分解性の観点だけではなく、地球温暖化の解決策の一つとして植物由来原料を使用した樹脂に対する社会の関心は高まっており、植物由来原料から製造されたポリ乳酸(A)をより多く使用することが好ましく、A層の合計の厚み割合が50%以上あることが好ましい。
【0017】
脂肪族共重合ポリエステル(C)からなるC層の合計厚みの割合が5%未満でれば、C層の厚みのバラツキによって極端に薄い場所が生じた場合に、所定の層間接着性が得られなくなり、収縮包装後にフィルムの白濁が発生することがあるので好ましくない。一方、脂肪族共重合ポリエステル(C)からなるC層の合計厚みの割合が40%を超えると、透明性が低下するので好ましくない。さらに、C層の厚みをこれ以上厚くしても、ポリ乳酸(A)からなるA層、および、脂肪族−芳香族共重合ポリエステル(B)からなるB層との層間の接着強度の向上は見られない。
【0018】
本発明の生分解性二軸延伸フィルムの厚みは、5〜300μmであることが好ましい。高速自動包装機などで包装を行う軟包装の用途に使用する場合には、10〜50μmであることがより好ましい。
【0019】
なお、本発明の熱収縮性生分解フィルムには、本発明の目的を損なわない範囲において、酸化防止剤や紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、ブロッキング防止剤、粘着性付与剤、防曇剤、耐電防止剤、各種充填剤などの従来公知の添加剤やその他の合成樹脂を適宜配合しても良い。
【0020】
本発明の熱収縮性生分解フィルムは、従来公知の方法によって製造される。例えば、サーキュラーダイを備えた複数の押出機から各々の樹脂を押し出して得られたチューブ状の未延伸フィルムを同時二軸延伸することによって製造することができる。また、T型ダイスを備えた複数の押出機から各々の樹脂を押し出して得られたフラットな未延伸フィルムをテンター延伸機によって同時二軸延伸、或いは逐次二軸延伸することによっても製造することができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例及び比較例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下に記載される事項によって限定されるものではない。なお、本発明における熱収縮性生分解フィルムの評価方法は以下の通りである。
【0022】
[熱収縮性]
フィルムを裁断して、縦方向(長手方向)、横方向ともに100mmの正方形の試験片を作成する。この試験片を80℃に設定したグリセリン中に30秒間浸漬した後、試験片の縦方向および横方向の寸法(L)を測定して下記の式を用いて収縮率を算出する。
収縮率(%)=100×(100−L)/100[L:所定温度に設定されたグリセリン中に30秒間浸漬した後の試験片の長さ(mm)]
[ヤング率]
ASTM D 882に準拠して、引張速度5mm/minで測定する。
[透明性(ヘーズ)]
ASTM D 1003に準拠して、株式会社村上色彩技術研究所製HM−150にて測定する。
[接着強度]
二軸延伸前の未延伸フィルムを10mm幅に裁断し、引張速度500mm/minで、各層間の180°剥離強度を測定する。
[収縮後のフィルム白濁]
各種フィルムで被包装物(ポリプロピレン製、幅120mm×長さ195mm×高さ30mmの箱状体)を外周に対する余裕率18%で仮包装した後、協和電機社製熱風循環式収縮トンネルPS−2400FFを通過させて収縮包装体を得た。なお、収縮トンネルの設定条件は以下の通りである。
設定温度:160℃
通過時間:5秒
収縮後のフィルムの白濁の状態を下記の判断基準に基づき目視により評価した。
○:白濁なし、または、ほとんどなし。
×:白濁あり。
【0023】
実施例及び比較例には以下の樹脂を使用した。
<ポリ乳酸(A)>
L−乳酸:96%、D−乳酸:4%からなるポリ乳酸(三井化学(株)製、商品名:レイシアH440、密度:1.25g/cm、融点:155℃)・・以下PLAと略称する。
<脂肪族−芳香族共重合ポリエステル(B)>
1,4−ブタンジオールとアジピン酸、テレフタル酸の共重合体であるポリブチレンアジペートテレフタレート共重合体(BASF社製、商品名:エコフレックスFBX7011、密度:1.26g/cm、融点:105〜115℃)・・以下PBATと略称する。
<脂肪族共重合ポリエステル(C)>
1,4−ブタンジオールとコハク酸、アジピン酸、乳酸を直接脱水重縮合して得られる脂肪族共重合ポリエステル(三菱化学(株)製、商品名:GS Pla AD92W、密度:1.25g/cm、融点:87℃)・・以下PBSLaと略称する。
【0024】
[実施例1〜3]
エルカ酸アミド(滑剤)200ppmを含有するPLAおよびPBSLa、PBATを三台の押出機及び下向きサーキュラーダイを備えたチューブラー製膜機に供給し、溶融押出しした後、直ちに35℃の水で冷却し、PLA/PBSLa/PBAT/PBSLa/PLAの順に積層されたチューブ状の五層の未延伸フィルムを得た。各層の厚みの割合は表1に示した通りである。次いで、該未延伸フィルムを卓上二軸延伸試験機(岩本製作所製)にて、延伸温度100℃、余熱時間2分、延伸速度30mm/sec、延伸倍率4.0×4.0倍で同時二軸延伸を行い、厚さ15μmの生分解性主縮フィルムを得た。こうして得られた熱収縮性生分解フィルムの性能評価結果も併せて表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
[比較例1]
エルカ酸アミド(滑剤)200ppmを含有するPLAおよびPBATを使用して、実施例と同様にしてPLA/PBAT/PLAの順に積層された三層で、厚さ15μmの熱収縮性生分解フィルムを得た。得られた延伸フィルムについて、実施例と同様にして性能評価を行い、その結果と実施例1の結果を併せて表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
実施例1〜3で得られた熱収縮性生分解フィルムは、透明性、柔軟性、収縮特性、製膜性優れていた。また、未延伸フィルムにおいてPLA層とPBSLa層の間の剥離強度が2.9N/10mmと強固に接着しており、さらに、PBAT層とPBSLa層の間は剥離しないほど接着しており、二軸延伸を行った後の熱収縮性フィルムを用いて収縮包装してもフィルムの白濁は発生しなかった。尚、実施例1〜3で得られた生分解性収縮フィルの包装適性は、フィルムのコーナー部分が十分に収縮しないで硬く突起状になった、いわゆる角(つの)の発生もなく良好であった。
一方、比較例1で得られたPLAとPBATの二種三層構成の熱収縮性生分解フィルムでは、透明性、柔軟性、収縮特性、製膜性優れているものの、収縮包装後フィルムの全面にわたって白濁が発生し、包装体の美麗性が劣っていた。また、未延伸フィルムのPLA層とPBAT層間の剥離強度は0.05N/10mmであり、容易に剥離した。
【0029】
尚、実施例1〜3で得られた熱収縮性フィルムの生分解性については記載していないが、使用している樹脂の特性から、生分解性を有することは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の熱収縮性生分解フィルムは、ポリ乳酸からなるフィルムの欠点である硬さや脆さがなく、柔軟性に優れている。また、収縮包装後にフィルムが白濁することなく、コーナー部分が十分に収縮しないで硬い突起状になった、いわゆる、角(つの)が発生しないので、広い包装条件範囲で美麗な収縮包装体を得ることが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主としてポリ乳酸(A)からなるA層と、主として脂肪族−芳香族共重合ポリエステル(B)からなるB層、主として脂肪族共重合ポリエステル(C)からなるC層の少なくとも三層からなり、A層とB層が隣接しないようにC層を介して積層され、二軸延伸されてなる熱収縮性フィルムであって、
脂肪族−芳香族共重合ポリエステル(B)が、脂肪族および芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールを重縮合して得られるものであり、脂肪族共重合ポリエステル(C)が、脂肪族オキシカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸ならびに脂肪族ジオールを重縮合して得られるものであることを特徴とする熱収縮性生分解フィルム。
【請求項2】
主としてポリ乳酸(A)からなるA層と、主として脂肪族共重合ポリエステル(B)からなるB層、主として脂肪族−芳香族共重合ポリエステル(C)からなるC層が、A層/C層/B層/C層/A層の順で積層されてなることを特徴とする請求項1に記載の熱収縮性生分解フィルム。
【請求項3】
脂肪族共重合ポリエステル(C)が、脂肪族ジオールとして1,4−ブタンジオール、脂肪族ジカルボン酸としてコハク酸、脂肪族オキシカルボン酸として乳酸を重縮合して得られるものであることを特徴とする請求項1または2に記載の熱収縮性生分解フィルム。
【請求項4】
脂肪族共重合ポリエステル(C)が、脂肪族ジオールとして1,4−ブタンジオール、脂肪族ジカルボン酸としてコハク酸およびアジピン酸、脂肪族オキシカルボン酸として乳酸を重縮合して得られるものであることを特徴とする請求項1または2に記載の熱収縮性生分解フィルム。
【請求項5】
脂肪族−芳香族共重合ポリエステル(B)が、脂肪族ジオールとして1,4−ブタンジオール、脂肪族ジカルボン酸としてアジピン酸、芳香族ジカルボン酸としてテレフタル酸を重縮合して得られるものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱収縮性生分解フィルム。
【請求項6】
縦方向および横方向のヤング率が700〜2500MPaであり、
80℃のグリセリン中での縦方向および横方向の収縮率が30%以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の熱収縮性生分解フィルム。
【請求項7】
全層の厚みに対する各樹脂層の合計厚み割合が、
主としてポリ乳酸(A)からなるA層が20〜70%、
主として脂肪族−芳香族共重合ポリエステル(B)からなるB層が10〜75%、
主として脂肪族共重合ポリエステル(C)からなるC層が5〜40%、
であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の熱収縮性生分解フィルム。

【公開番号】特開2006−181754(P2006−181754A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−375409(P2004−375409)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000206473)大倉工業株式会社 (124)
【Fターム(参考)】