説明

熱可塑性エラストマーの製造方法

【課題】熱安定性、耐熱性及び柔軟性に優れた熱可塑性エラストマー及びその製造方法、並びに該熱可塑性エラストマーを加熱成形して得られる成形体を提供すること。
【解決手段】少なくとも、反応性基含有エラストマー、環状ポリエステルオリゴマー及びポリエステル重合触媒を120〜300℃の温度で加熱混合する工程1、並びに工程1で得られた混合物をリン酸エステル化合物及び/又はヒドラジド化合物からなるエステル重合反応抑制剤と混合する工程2を含む、熱可塑性エラストマーの製造方法、該方法により得られる熱可塑性エラストマー、並びに該熱可塑性エラストマーを加熱成形して得られる成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気電子用部品、自動車用部品、シール材、パッキン、制振部材、チューブ等に用いられる熱可塑性エラストマー及びその製造方法、並びに該熱可塑性エラストマーを加熱成形して得られる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性エラストマーには、室温で硬度の高いハードセグメントと呼ばれる分子構造と硬度の低いソフトセグメントと呼ばれる分子構造を併せ持つ分子的特長を有し、加熱溶融することで押出成形や射出成形が可能な材料として広範に用いられている。また、架橋分子構造を持つゴム材料とは異なり、加熱溶融することで再利用可能な材料として用いられている(非特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、芳香族ジカルボン酸を主成分とするジカルボン酸成分(a)と、水素添加したダイマージオール(b-1)と、主に1,4-ブタンジオールを主成分とする水素添加したダイマージオール以外のジオール(b-2)とを主成分とするジオール成分(b)とから得られる共重合ポリエステル(A)に、チタン化合物(B)と、スズ化合物(C)と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(D)とを配合した共重合ポリエステル組成物が記載されている。
【0004】
特許文献2には、反応性オリゴマーが重合して形成された熱可塑性ポリマーマトリックス中に、加硫したエラストマーが分散したゴム組成物の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−239504号公報
【特許文献2】特開2005−213499号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】プラスチックエージ、2008年7月、72頁、図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
スチレン系エラストマーは柔軟性に優れるもののハードセグメントのポリスチレンのガラス転移温度が比較的低いため、たとえば100℃程度の温度では使用が制限される。また、特許文献1に記載されているようなポリエステル系エラストマーは、結晶性を有するハードセグメントの融点が高いため使用温度が高いが、柔軟性に劣る。
【0008】
特許文献2に記載されているゴム組成物は、分散相を形成する架橋エラストマーが低硬度成分であっても、連続相を形成する反応性オリゴマーの重合物が高融点、高硬度の成分であるため、硬度については連続相の寄与が大きく、柔軟性が不足するものとなりやすい。また、柔軟性改善のために架橋エラストマーの割合を大きくすると溶融粘度が高くなるため成形性も不足しやすい。
【0009】
本発明の課題は、熱安定性、耐熱性及び柔軟性に優れた熱可塑性エラストマー及びその製造方法、並びに該熱可塑性エラストマーを加熱成形して得られる成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
〔1〕 少なくとも、反応性基含有エラストマー、環状ポリエステルオリゴマー及びポリエステル重合触媒を120〜300℃の温度で加熱混合する工程1、並びに工程1で得られた混合物をリン酸エステル化合物及び/又はヒドラジド化合物からなるエステル重合反応抑制剤と混合する工程2を含む、熱可塑性エラストマーの製造方法、
〔2〕 前記〔1〕記載の製造方法により得られる熱可塑性エラストマー、並びに
〔3〕 前記〔2〕記載の熱可塑性エラストマーを加熱成形して得られる成形体
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法により、熱安定性、耐熱性及び柔軟性に優れた熱可塑性エラストマーが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、少なくとも、反応性基含有エラストマー、環状ポリエステルオリゴマー及びポリエステル重合触媒を所定の温度で加熱混合する工程1、並びに工程1で得られた混合物をリン酸エステル化合物及び/又はヒドラジド化合物からなるエステル重合反応抑制剤と混合する工程2を含む方法により、熱可塑性エラストマーを得る方法であり、本発明の方法により得られる熱可塑性エラストマーは、耐熱性と柔軟性に優れたものである。
【0013】
工程1では、少なくとも、反応性基含有エラストマー、環状ポリエステルオリゴマー及びポリエステル重合触媒を120〜300℃の温度で加熱混合する。
【0014】
反応性基含有エラストマーとしては、(メタ)アクリルエラストマー〔側鎖中官能基:エステル基、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基等〕、ポリエステルエラストマー〔末端官能基:水酸基、カルボキシル基、主鎖:エステル結合(−COO−)〕、ポリウレタンエラストマー〔末端官能基:水酸基、イソシアネート基、主鎖:ウレタン結合(−NH−COO−)〕、ポリアミドエラストマー〔末端官能基:カルボキシル基、アミノ基、主鎖:アミド結合(−CO−NH−)〕、変性スチレン系エラストマー(無水マレイン酸変性、アミン変性)等が挙げられるが、これらの中では、耐熱性向上効果が顕著に奏される、及び得られる熱可塑性エラストマーの成形性が優れるという観点から、(メタ)アクリルエラストマーが好ましい。結晶性のポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリアミドエラストマー等は、溶融物の粘度が低すぎるため、得られる熱可塑性エラストマーも溶融状態での粘度が低いものとなり、成形材料として使用するには増粘する等の工夫を要する。
【0015】
(メタ)アクリルエラストマーは、1種又は2種以上の(メタ)アクリルビニルモノマー、及び必要に応じてその他共重合可能なビニルモノマーを構成成分とし、重合反応で高分子量化することにより得られる。
【0016】
(メタ)アクリルビニルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エトキシエチル、アクリル酸ブトキシエチル、アクリル酸フェノキシエチル等が挙げられる。その他共重合可能なビニルモノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、酢酸ビニル、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、無水マレイン酸等が挙げられる。なお、本明細書において、(メタ)アクリルと示される場合、メタクリル及びアクリルの両者を意味する。
【0017】
(メタ)アクリルビニルモノマーの量は、構成成分中、20モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましい。
【0018】
その他共重合可能なビニルモノマーの好適例としては、スチレン、α−メチルスチレン及びエチレンが挙げられる。
【0019】
(メタ)アクリルエラストマーを得るためのモノマーの重合方法として、例えば、ラジカル重合法、リビングアニオン重合法、リビングラジカル重合法等が挙げられる。また、重合の形態として、例えば、溶液重合法、エマルジョン重合法、懸濁重合法、塊状重合法等が挙げられる。
【0020】
代表的な(メタ)アクリルエラストマーの例としては、例えば、1個のポリアクリル酸n−ブチルを主体とするソフトセグメントの両側に各1個のポリメタクリル酸メチルを主体とするハードセグメントを備えるブロック共重合体が挙げられる。なかでもトリブロック共重合体が好ましい。また、ハードセグメントはポリスチレンであってもよい。(メタ)アクリルエラストマーがソフトセグメント及びハードセグメントを備える場合、ソフトセグメントのガラス転移温度は、0℃以下が好ましく、-90〜-5℃がより好ましく、-80〜-10℃がさらに好ましい。
【0021】
市販されている(メタ)アクリルエラストマーの例としては、(株)クラレ製のクラリティ(登録商標)、(株)カネカ製のNABSTAR(登録商標)、アルケマ(株)製のNanostrength(登録商標)等が挙げられる。
【0022】
市販されているポリエステルエラストマーの例としては、東レ・デュポン(株)社製のハイトレル(登録商標)、東洋紡(株)社製のペルプレン(登録商標)、三菱化学(株)社製のプリマロイ(登録商標)等が挙げられる。
【0023】
市販されているポリウレタンエラストマーの例としては、BASFジャパン(株)社製のエラストラン(登録商標)、(株)クラレ社製のクラミロン(登録商標)U等が挙げられる。
【0024】
市販されているポリアミドエラストマーの例としては、アルケマ(株)社製のPebax(登録商標)、日本ゼオン(株)社製のゼオサーム(登録商標)等が挙げられる。
【0025】
市販されている変性スチレン系エラストマーの例としては、旭化成ケミカルズ(株)社製のタフテック(登録商標)M(無水マレイン酸変性)等が挙げられる。
【0026】
反応性基含有エラストマーは、熱可塑性エラストマーに柔軟性を与える観点から、ガラス転移温度が、好ましくは-90〜0℃、より好ましくは-90〜-5℃であり、さらに好ましくは-80〜-10℃である。
【0027】
反応性基含有エラストマーの融点は、得られる熱可塑性エラストマーの耐熱性と熱可塑性(加熱溶融されたときの流動性)のバランスの観点から、好ましくは150〜300℃、より好ましくは170〜280℃である。
【0028】
環状ポリエステルオリゴマーは、芳香族ジカルボン酸単位と脂肪族ジオール単位とからなるエステル単位を2〜10個、好ましくは2〜8個を有する環状の分子構造を有するポリエステル化合物であることが好ましい。
【0029】
芳香族ジカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。また、脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール(1,4-ブチレングリコール)等が挙げられ、炭素数2〜10の脂肪族ジオールが好ましい。
【0030】
本発明に用いられ得る環状ポリエステルオリゴマーの市販品としては、スズ系ポリエステル重合触媒含有環状ポリブチレンテレフタレートオリゴマー「CBT-160」(サイクリックス(株)製、テトラメチレングリコール単位とテレフタル酸単位とからなるエステル単位2〜5個が環状に結合したポリエステルオリゴマーの混合物、スズ系ポリエステル重合触媒含有量:スズとして1000ppm)、環状ポリブチレンテレフタレートオリゴマー「CBT-100」(サイクリックス(株)製、テトラメチレングリコール単位とテレフタル酸単位とからなるエステル単位2〜5個が環状に結合したポリエステルオリゴマーの混合物)等が挙げられる。
【0031】
工程1における反応性基含有エラストマーと環状ポリエステルオリゴマーの割合について、両者の合計を100重量部とするとき、環状ポリエステルオリゴマーの量は、耐熱性の観点から、5重量部以上が好ましく、柔軟性の観点から、60重量部以下が好ましい。これらの観点から、工程1における反応性基含有エラストマーと環状ポリエステルオリゴマーの重量比(反応性基含有エラストマー/環状ポリエステルオリゴマー)は、熱可塑性及び耐熱性の観点から、40/60〜95/5が好ましく、50/50〜90/10がより好ましく、60/40〜85/15がさらに好ましく、65/35〜80/20がさらに好ましい。
【0032】
ポリエステル重合触媒としては、アンチモン系触媒、スズ系触媒、ジルコニウム系触媒、チタン系触媒等が挙げられる。アンチモン系触媒としては三酸化アンチモン等のアンチモン化合物、スズ系触媒としてはブチル錫、オクチル錫、スタノキサン等のスズ化合物、ジルコニウム系触媒としてはジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリプトキシモノアセチルアセトネート、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)等のジルコニウムキレート、ジルコニウムアシレート等のジルコニウム化合物、チタン系触媒としてはチタンアルコキシド、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミテート)、チタンラクテート等のチタンキレート、チタンアシレート等のチタン化合物等が挙げられ、これらは併用されていてもよい。本発明では、重合反応性の観点から、スズ化合物、ジルコニウム化合物及びチタン化合物が好ましく、スズ化合物及びチタン化合物がより好ましい。
【0033】
ポリエステル重合触媒の使用量は、環状ポリエステルオリゴマーの開環重合反応を促進し、得られる熱可塑性エラストマーの耐熱性を向上する観点から、環状ポリエステルオリゴマー100重量部に対して、0.01重量部以上が好ましい。また、反応性基含有エラストマー同士の縮合反応(副反応)による柔軟性及び熱可塑性の低下を防止する観点、反応性基含有エラストマーが側鎖に反応性基を有するものである場合は、架橋反応による熱可塑性の低下を防止する観点から、10重量部以下が好ましい。これらの観点から、ポリエステル重合触媒の使用量は、環状ポリエステルオリゴマー100重量部に対して、0.01〜10重量部が好ましく、0.03〜8重量部がより好ましく、0.05〜6重量部がさらに好ましい。なお、反応性基含有エラストマーの有する反応性基がエステルに関連する基(エステル結合、カルボキシル基、水酸基等)である場合はもちろん、アミドに関連する基(アミド結合、カルボキシル基、アミノ基等)、ウレタンに関連する基(ウレタン結合、イソシアネート基、水酸基等)等である場合にも、該反応性基の反応はポリエステル重合触媒によって促進される。
【0034】
環状ポリエステルオリゴマーの例示にて記載しているように、ポリエステル重合触媒は、予め環状ポリエステルオリゴマーに含まれていてもよい。
【0035】
反応性基含有エラストマーと環状ポリエステルオリゴマーとの加熱混合においては、主に以下の反応(1)〜(3)が生じるものと推定される。
(1) 環状ポリエステルオリゴマー同士の開環重合反応
(2) 反応性基含有エラストマーの反応性基の部分に、環状ポリエステルオリゴマーが反応してグラフト鎖またはブロック鎖を形成する反応
(3) 反応性基含有エラストマーの反応性基の部分に、環状ポリエステルオリゴマー同士の開環重合体(反応(1)の生成物)が結合してグラフト鎖又はブロック鎖を形成する反応
上記(2)及び(3)において、反応性基含有エラストマーの側鎖に存在する反応性基が環状ポリエステルオリゴマー等と反応する場合は、環状ポリエステルオリゴマー由来の成分がグラフト鎖を形成し、反応性基含有エラストマーの末端に存在する反応性基が環状ポリエステルオリゴマー等と反応する場合は、環状ポリエステルオリゴマー由来の成分がブロック鎖を形成する。反応性基含有エラストマーの主鎖に存在する反応性基部分の結合が開裂して、新たに生成した末端反応性基に環状ポリエステルオリゴマー由来のブロック鎖が形成されることもある。
【0036】
従って、加熱混合には、環状ポリエステルオリゴマーが十分に溶融する温度を要する。加熱温度は、120〜300℃であり、好ましくは150〜290℃、より好ましくは170〜280℃である。加熱温度が120℃未満であると、環状ポリエステルオリゴマーが溶融しないか又は溶融しにくいため、ポリエステルの重合反応が十分に進行せず、得られる熱可塑性エラストマーの耐熱性が向上しない。また、過剰な加熱混合が行われるとグラフト形成に止まらずに過度な高分子量化又は架橋構造の形成が生じるため、得られるエラストマーが熱可塑性を失う。加熱温度が300℃を超えると、反応性基含有エラストマーが熱分解又は熱劣化し、得られる熱可塑性エラストマーの機械的強度が低下する。
【0037】
工程1の加熱混合では、反応性基含有エラストマー分子間の架橋反応を極力防止し、環状ポリエステルオリゴマーの開環重合反応を円滑に行わせる観点から、反応器中で予め120〜300℃の温度で加熱溶融されている反応性基含有エラストマーに、環状ポリエステルオリゴマー及びエステル重合反応触媒の混合物を添加することが好ましい。
【0038】
加熱混合に用いられる加熱混合装置は、加熱状態を維持できる槽を有した混合装置であれば任意の装置を用いることができる。例えば、ニーダー、押出機、加熱ジャケットを有する重合缶等が挙げられる。
【0039】
適切な加熱混合時間は、加熱温度や触媒の種類、濃度等に依存するため、一概には決定できないが、得られる熱可塑性エラストマーの品質のバラツキの制御と生産性を考慮して適宜決定することが好ましい。代表的な加熱混合時間は、例えば、1〜200分間、好ましくは2〜150分間、より好ましくは3〜120分間、さらに好ましくは4〜90分間、さらに好ましくは5〜60分間である。
【0040】
次に、工程1で得られた混合物をリン酸エステル化合物及び/又はヒドラジド化合物からなるエステル重合反応抑制剤と混合する工程2を行う。エステル重合反応抑制剤は、環状ポリエステルオリゴマーの重合反応の停止作用を有しており、エステル重合反応抑制剤を用いて加熱混合時の反応を制御することが好ましい。そのため、過剰な反応(架橋反応)を抑制し、得られる熱可塑性エラストマーの熱可塑性及び柔軟性を維持する観点から、工程1において、環状ポリエステルオリゴマーの重合反応が十分に進行した時点で、エステル重合反応抑制剤を系内に添加して、工程2を行うことが好ましい。かかる観点から、工程1における混合物の融点が反応性基含有エラストマーの融点より好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、さらに好ましくは30℃以上高くなった後に、工程2を行うことが望ましい。融点上昇幅の上限は特にないが、熱可塑性を維持するため、工程1で生成する混合物の融点が300℃を超えない範囲にすることが好ましい。また、同様の観点から、環状ポリエステルオリゴマーの重合反応率が好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上となった後、工程2を行うことが望ましい。
【0041】
リン酸エステル化合物としては、式(I):
【0042】
【化1】

【0043】
(式中、R1は炭素数1〜10のアルキレン基、mは1〜10の整数を示す)
で表されるリン酸エステル化合物、式(II):
【0044】
【化2】

【0045】
(式中、R2は炭素数1〜20のアルキル基、nは1又は2を示す)
で表されるリン酸エステル化合物等が挙げられる。
【0046】
式(I)で表されるリン酸エステル化合物としては、トリ(ヒドロキシエトキシ)ホスフェート、トリ(ヒドロキシエトキシエトキシ)ホスフェート等が挙げられる。
【0047】
式(II)で表されるリン酸エステル化合物としては、モノ−ステアリルアシッドホスフェート、ジ−ステアリルアシッドホスフェート等が挙げられる。
【0048】
その他エステル重合反応抑制剤として機能するリン化合物として、例えば、フェニルホスホン酸、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、イソプロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、トリルホスホン酸、キシリルホスホン酸、ビフェニルホスホン酸、ナフチルホスホン酸、アントリルホスホン酸、2-カルボキシフェニルホスホン酸、3-カルボキシフェニルホスホン酸、4-カルボキシフェニルホスホン酸、2,3-ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,4-ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,5-ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,6-ジカルボキシフェニルホスホン酸、3,4-ジカルボキシフェニルホスホン酸、3,5-ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,4-トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,5-トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,6-トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,4,5-トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,4,6-トリカルボキシフェニルホスホン酸等を挙げることができる。さらに、モノメチルホスフェート、モノエチルホスフェート、モノトリメチルホスフェート、モノ-n-ブチルホスフェート、モノヘキシルホスフェート、モノヘプチルホスフェート、モノノニルホスフェート、モノデシルホスフェート、モノドデシルホスフェート、モノフェニルホスフェート、モノベンジルホスフェート、モノ(4-ドデシル)フェニルホスフェート、モノ(4-メチルフェニル)ホスフェート、モノ(4-エチルフェニル)ホスフェート、モノ(4-プロピルフェニル)ホスフェート、モノ(4-ドデシルフェニル)ホスフェート、モノトリルホスフェート、モノキシリルホスフェート、モノビフェニルホスフェート、モノナフチルホスフェート、モノアントリルホスフェート等が挙げられる。
【0049】
ヒドラジド化合物は酸とヒドラジンが縮合した酸ヒドラジドであり、鎖状ヒドラジド、環状ヒドラジド等が挙げられる。
【0050】
鎖状ヒドラジドとしては、式(IIIa)又は(IIIb):
【0051】
【化3】

【0052】
(式中、R3、R4、R5及びR7は各々独立に芳香族1価カルボン酸残基を、R6は脂肪族2価カルボン酸残基又は芳香族2価カルボン酸残基を表す。)
で表される化合物が挙げられる。
【0053】
3、R4、R5及びR7で表される芳香族1価カルボン酸残基としては、安息香酸、4-ブチル安息香酸、サリチル酸、ナフチル酸、3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、フェノキシプロピオン酸等の芳香族カルボン酸の残基が挙げられ、R6で表される脂肪族2価カルボン酸残基としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等炭素数2〜20の脂肪族ジカルボン酸の残基が挙げられる。芳香族2価カルボン酸残基としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸の残基が挙げられる。
【0054】
環状ヒドラジドは、式(IV):
【0055】
【化4】

【0056】
(式中、R8及びR9は水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭素原子数1〜18のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、又はアリール基を表す。)
で表される化合物等が挙げられる。式(IV)で表される化合物の具体例としては、フタル酸ヒドラジド等が挙げられる。
【0057】
本発明におけるエステル重合反応抑制剤の作用機構について、はっきりとした証拠はないが、リン酸エステル化合物又はヒドラジド化合物が、エステル重合触媒を構成する金属原子とキレートを形成することにより触媒効果を抑制するのではないかと推測される。リン酸エステル化合物としては、式(II)で表されるリン酸エステル化合物のように、酸性水酸基(リン原子に直接結合した水酸基)を有する部分エステル、特にリン原子1個あたり酸性水酸基2個を有する部分エステルが好ましい。リン酸エステル化合物は1分子あたり2個以上のリン原子を有するものであってもよい。ヒドラジド化合物は、カルボン酸ヒドラジドが好ましい。ヒドラジド化合物は2個以上のヒドラジド基を有するものであってもよく、ヒドラジド基の水素原子が置換基で置換されていてもよい。
【0058】
エステル重合反応抑制剤は、熱可塑性エラストマーを使用(加熱成形)する際の加熱状態での可使時間を長くする効果も発揮する。すなわち、エステル重合反応抑制剤が添加された熱可塑性エラストマーは、比較的長い時間加熱されても熱可塑性及び柔軟性を失わない(熱安定性が良好である)ため、使用条件の自由度がより大きい。
【0059】
エステル重合反応抑制剤の配合量は、環状ポリエステルオリゴマーの重合反応の停止作用を発現し、かつ過度な高分子量化又は架橋結合の形成による熱可塑性の低下を防止する及び柔軟性を維持する観点から、環状ポリエステルオリゴマー100重量部に対して、0.1〜20重量部が好ましく、0.3〜10重量部がより好ましい。
【0060】
工程1で得られた混合物とエステル重合反応抑制剤との混合は、両者が十分に混ざり合う条件であれば特に限定されないが、工程1と同様に、120〜300℃で行うことが好ましい。
【0061】
本発明で用いるエステル重合反応抑制剤以外の重合反応抑制剤であっても、同様な効果を奏する重合反応抑制剤であれば使用することができ、エステル重合反応抑制剤と同様な効果を奏するエステル重合反応抑制剤以外の重合反応抑制剤を含有する熱可塑性エラストマーであってもよい。該重合反応抑制剤を選定する視点としては、エステル重合反応又は交換反応を停止又は抑制させる機能を有すること、あるいは、エステル重合反応又は交換反応の触媒の作用を失活又は低減させる機能を有することが挙げられる。
【0062】
本発明では、組成物の硬度や強度を調整する観点から、環状ポリエステルオリゴマー以外の芳香族ポリエステルを用いてもよい。芳香族ポリエステルとしては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエステルエラストマー等が挙げられる。
【0063】
さらに、本発明の目的を損なわない範囲で任意の樹脂材料、添加剤等を用いてもよい。
【0064】
樹脂材料として、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、スチレン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。
【0065】
添加剤としては、脂肪酸金属塩や脂肪酸エステル等の滑剤;フェノール系化合物、アミン系化合物や硫黄系化合物等の熱安定剤;ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾエート化合物やヒンダードフェノール系化合物等の光安定剤;エポキシ化合物、酸無水物化合物、カルボジイミド化合物やオキサゾリン化合物等の加水分解防止剤;フタル酸エステル系化合物、ポリエステル化合物、(メタ)アクリルオリゴマー、プロセスオイル等の可塑剤;重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム等の無機系発泡剤;ニトロ化合物、アゾ化合物、スルホニルヒドラジド等の有機系発泡剤;カーボンブラック、炭酸カルシウム、タルク、ガラス繊維等の充填剤;テトラブロモフェノール、ポリリン酸アンモニウム、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウム等の難燃剤;シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤や酸変性ポリオレフィン樹脂等の相溶化剤;そのほか顔料や染料等が挙げられる。
【0066】
芳香族ポリエステルやその他の添加剤は、工程1の前から原料に添加しても、工程1の途中や工程2の後に添加してもよい。
【0067】
芳香族ポリエステル等の添加剤を、工程1の終盤や工程2の後に添加した場合は、組成物を均一とする観点から、添加後、適度(例えば10分間程度)な加熱混合を継続することが好ましい。
【0068】
かくして得られる本発明の熱可塑性エラストマーは、連続相と分散相とからなる相分離構造を有していることが好ましい。連続相は反応性基含有エラストマーに由来する成分を含み、分散相は環状ポリエステルオリゴマーに由来する成分を含む。本発明の熱可塑性エラストマーは、分散相が連続相中に微細に分散しており、透過型電子顕微鏡により観察される熱可塑性エラストマー中の分散相の最大径は、1μm以下が好ましく、0.8μm以下がより好ましい。なお、分散相の径は、真円状の場合は直径を、楕円状の場合は長径とする。
【0069】
連続相を形成する反応性基含有エラストマーは低硬度成分であるため、熱可塑性エラストマーは柔軟性及び成形性に優れたものになる。分散相を形成する環状ポリエステルオリゴマー由来の重合体は高融点の成分であるため、熱可塑性エラストマーに優れた耐熱性を付与する。環状ポリエステルオリゴマーの一部は反応性基含有エラストマーとも反応してグラフト鎖又はブロック鎖を形成するため、組成物の耐熱性向上が効果的になされるものと推察される。
【0070】
なお、本発明における熱可塑性エラストマーは、できるだけ、反応性基含有エラストマーの架橋をさけるという観点からは、反応性基含有エラストマーと反応する硬化剤、例えば、反応性基含有エラストマーが(メタ)アクリルエラストマーである場合は、(メタ)アクリルエラストマーと反応する硬化剤、例えば、イオウ、イオウ供与体、ペルオキシド、フェノール系硬化剤、ジアミン、ビスマレイミド等の硬化剤は実質的に含んでいないことが好ましく、全く含まないことがさらに好ましい。ここで、「実質的に」とは、多少含まれていたとしても硬化剤の作用が発揮される程度には含まれていないことを意味する。
ポリエステル重合触媒が、反応性基含有エラストマーの硬化剤としても作用し得ることは否定できないが、本発明の熱可塑性エラストマーにはエステル重合反応抑制剤が添加されているため、加熱された状態での安定性に優れており、活性を失っていない硬化剤を含有する組成物とは異なるものである。
【0071】
本発明の方法により得られる熱可塑性エラストマーの融点は、耐熱性及び成形性の観点から、180〜300℃が好ましく、200〜300℃がより好ましく、220〜280℃がさらに好ましい。融点が存在しない、または融点が300℃を超える場合は、成形性が悪く、本発明では熱可塑性を備えていないものとする。
【0072】
本発明の方法により得られる熱可塑性エラストマーは、柔軟性に優れており、特に、高い引張伸び率を有するという特徴を有している。熱可塑性エラストマーの引張伸び率は、エラストマーに要求される基本的な特性であり、100%以上が好ましく、200%以上がより好ましく、250%以上がさらに好ましく、300%以上がさらに好ましく、350%以上がさらに好ましい。
【0073】
本発明の熱可塑性エラストマーのデュロメータA硬さは、10〜90が好ましく、15〜80がより好ましい。
【0074】
本発明の熱可塑性エラストマーを、常法に従って、適宜加熱成形することにより、成形体が得られる。本発明の熱可塑性エラストマーを加熱成形して得られる成形体の用途は、特に限定されるものではなく一般的なスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、アクリル系エラストマーやポリエステル系エラストマー等が用いられる分野に用いることができる。
【0075】
本発明の熱可塑性エラストマーを用いた成形体の製造に用いられる装置は、成形材料を溶融混合できる任意の成形機を用いることができる。例えば、ニーダー、押出成形機、射出成形機、プレス成形機、ブロー成形機、ミキシングロール等が挙げられる。
【実施例】
【0076】
実施例1〜4及び比較例2、3
表1に示す(メタ)アクリルエラストマーを、240℃に加熱したニーダー(ブラベンダー(株)製のプラストグラフEC 350型ミキサー)に投入後、60r/minのブレード回転数で1分間混練した。溶融後、表1に示す環状ポリエステルオリゴマー及びチタン触媒の混合物を5分かけて添加し、10分間混合した。混合後、表1に示すエステル重合反応抑制剤を添加して同じ条件(温度、回転数)で5分間混合した。混合後、得られた熱可塑性エラストマーを取り出した。
【0077】
実施例5、6
表1に示す(メタ)アクリルエラストマー、環状ポリエステルオリゴマー及びスズ触媒の混合物を、240℃に加熱したニーダー(ブラベンダー(株)製のプラストグラフEC 350型ミキサー)に5分かけて投入し、60r/minのブレード回転数で30分間混合した。混合後、表1に示すエステル重合反応抑制剤を添加して同じ条件(温度、回転数)で5分間混合した。得られた熱可塑性エラストマーを取り出した。
【0078】
実施例7
表1に示す(メタ)アクリルエラストマーを、230℃に加熱したニーダー(ブラベンダー(株)製のプラストグラフEC 50型ミキサー)に投入後、60r/minのブレード回転数で1分間混練した。溶融後、表1に示す環状ポリエステルオリゴマー及びジルコニウム触媒の混合物を5分かけて添加し、添加完了後10分間混合した。混合後、表1に示すエステル重合反応抑制剤を添加して同じ条件(温度、回転数)で5分間混合した。混合後、得られた熱可塑性エラストマーを取り出した。
上記熱可塑性エラストマーをさらに230℃で10分間加熱した。該加熱処理物の融点は198℃(300℃以下)であり、熱可塑性を維持していた。すなわち熱安定性が良好であった。
【0079】
実施例8
表1に示すポリアミドエラストマーを、230℃に加熱したニーダー(ブラベンダー(株)製のプラストグラフEC 50型ミキサー)に投入後、60r/minのブレード回転数で1分間混練した。溶融後、表1に示す環状ポリエステルオリゴマー及びチタン触媒の混合物を5分かけて添加し、添加完了後10分間混合した。混合後、表1に示すエステル重合反応抑制剤を添加して同じ条件(温度、回転数)で5分間混合した。混合後、得られた熱可塑性エラストマーを取り出した。
上記熱可塑性エラストマーをさらに230℃で10分間加熱した。該加熱処理物の融点は182℃(300℃以下)であり、熱可塑性を維持していた。すなわち熱安定性が良好であった。
【0080】
比較例1
表1に示す(メタ)アクリルエラストマーを、240℃に加熱したニーダー(ブラベンダー(株)製のプラストグラフEC 350型ミキサー)に投入後、60r/minのブレード回転数で1分間混練した。溶融後、表1に示す環状ポリエステルオリゴマー及びチタン触媒の混合物を5分かけて添加し15分間混合した。混合後、得られた熱可塑性エラストマーを取り出した。
【0081】
実施例1〜8及び比較例1〜3において、ニーダーにおけるエステル重合反応抑制剤添加後のトルク値の上昇の抑制効果の有無を観察し、以下の評価基準に従って評価した。結果を表1に示す。
【0082】
〔評価基準〕
○:効果あり(トルク値の上昇がなくなり、その後トルク値が徐々に低下した)
△:やや効果あり(トルク値の上昇がほとんどなくなった)
×:効果なし(トルク値が上昇しつづけた)
【0083】
参考例
表2に示す(メタ)アクリルエラストマーを、240℃に加熱したニーダー(ブラベンダー(株)製のプラストグラフEC 50型ミキサー)に投入後、60r/minのブレード回転数で1分間混練した。溶融後、表2に示す環状ポリエステルオリゴマー及びチタン触媒の混合物を5分かけて添加し1分間混練した。混合後、得られた熱可塑性エラストマーを取り出した。
【0084】
実施例9〜14
表2に示す(メタ)アクリルエラストマーを、240℃に加熱したニーダー(ブラベンダー(株)製のプラストグラフEC 50型ミキサー)に投入後、60r/minのブレード回転数で1分間混練した。混合後、表2に示す環状ポリエステルオリゴマー及びチタン触媒の混合物を5分かけて添加し1分間混練した。混合後、エステル重合反応抑制剤を添加し10分間混合した。混合後、得られた熱可塑性エラストマーを取り出した。エステル重合反応抑制剤を添加する前の混合物の融点(工程1における混合物の融点)は、209℃であった。
【0085】
なお、反応性基含有エラストマーのガラス転移温度、並びに反応性基含有エラストマー及びエステル重合反応抑制剤を添加する前の混合物の融点は以下の方法により測定した。
【0086】
〔反応性基含有エラストマーのガラス転移温度〕
動的粘弾性測定装置(ティーエーインスツルメント(株)製のARES-RDS)を使用し、-80〜50℃の温度範囲、5℃/分の昇温速度、周波数10Hzの条件でtanδ(損失正接)のピーク温度を求め、ガラス転移温度とする。試験片としては、厚さ2mm、幅12.5mm、長さ30mmのものを使用する。
【0087】
〔反応性基含有エラストマー及び混合物の融点〕
動的粘弾性測定装置(ティーエーインスツルメント(株)製のARES-RDS)を使用し、25〜310℃の温度範囲、5℃/分の昇温速度、周波数10Hzの条件で試験片を加熱し、試験片の溶融のために測定不能になった(貯蔵弾性率が104Pa以下になった)温度を融点とする。試験片としては、厚さ2mm、幅12.5mm、長さ30mmのものを使用する。
混合物(工程1で得られた混合物)はエステル重合反応抑制剤が添加されていないため、環状ポリエステルオリゴマーの重合反応が停止されておらず、融点の測定準備中及び融点の測定中にも重合反応が進行することは否定できないが、本発明では便宜上、該履歴も含んだ試験の測定値を採用している。
【0088】
得られた熱可塑性エラストマーにおける環状ポリエステルオリゴマーの重合反応率を下記の方法により測定した。結果を表1、2に示す。
【0089】
〔環状ポリエステルオリゴマーの重合反応率〕
示差走査熱量計((株)パーキンエルマー社製のDSC-8500)を用い、以下の2回の昇温過程での示差走査熱量を測定し、1回目測定と2回目測定の環状ポリエステルオリゴマーの開環重合体に由来する(この場合は200〜230℃の温度領域における)溶融熱量の比較を行う。
重合反応率(%)=(1回目測定の溶融熱量)/(2回目測定の溶融熱量)×100
1回目の測定は、40℃から280℃へ20℃/minの温度条件で行い、次いで-20℃/minで40℃まで冷却後、引き続き2回目の測定を1回目と同条件で行う。
【0090】
熱可塑性エラストマーを230℃に加熱した熱プレス機(東邦(株)製の50t熱プレス機)にて、2mm厚×10cm×10cmの型枠を用いて5分間プレス成形した。その後、5分間冷却プレスを施し、2mm厚のシートサンプルを取り出した。
【0091】
シートサンプルを使用して得られた熱可塑性エラストマーのデュロメータA硬さ及び融点を測定した。融点は、反応性基含有エラストマー及び混合物の融点と同じ方法により測定した。結果を表1、2に示す。
【0092】
〔デュロメータA硬さ〕
JIS K6253に記載の方法に従い測定する。
【0093】
試験例
実施例1〜8及び比較例1〜3の熱可塑性エラストマーの引張伸び率を、JIS 8号ダンベルにより測定した(測定温度:23℃、引張速度:200mm/min)。結果を表1に示す。
【0094】
【表1】

【0095】
【表2】

【0096】
以上の結果より、所定のエステル重合反応抑制剤を用いて得られた実施例1〜14の熱可塑性エラストマーは、180〜298℃の融点を有しており、耐熱性及び熱可塑性を備えたものである。エステル重合反応抑制剤を用いていない比較例1、エステル重合反応抑制剤として亜リン酸エステル化合物を用いた比較例2、3の熱可塑性エラストマー類似物は、融点が存在しないかまたは融点が300℃を超えており、実質的に熱可塑性を失っており成形性が劣り使用が制限されるものである。また、実施例の熱可塑性エラストマーは、高い引張伸び率を有し、柔軟性に優れていることが分かる。また、表2の結果より、参考例を考慮して、操作(1)の後、エステル重合反応抑制剤を添加する前に数分間〜十数分間反応を継続することにより、得られる組成物の熱可塑性(融点300℃以下)を維持しながら環状ポリエステルオリゴマーの反応率を高める設計ができることが分かる。
増粘の抑制が良好になされることは、エステル重合反応抑制剤がポリエステル重合触媒の活性を効果的に失わせていることを示すものであり、得られる熱可塑性エラストマーの熱安定性を良好にしていることに結びつく。
熱安定性については、上記実施例7及び実施例8でも言及しているが、下記の実施例において、熱可塑性エラストマーの射出成形による成形体の製造の例示と合わせて、熱安定性についても説明する。
【0097】
実施例15
実施例1、2及び4で得られた熱可塑性エラストマーを下記の条件で射出成形し、長さ125mm、幅125mm、厚さ2mmのプレート状成形体を製造した。
<射出成形条件>
・射出成形機:三菱重工(株)製100MSIII
・シリンダー温度: 230〜240℃
・射出圧力: 98MPa
・射出時間: 3秒
・金型温度: 40℃
【0098】
得られたプレート状の射出成形体について、デュロメータA硬さ及び融点を前記と同様にして測定した。結果を表3に示す。実施例1、2、4のいずれの射出成形体も良好な柔軟性と融点を維持していた。すなわち熱可塑性エラストマーの熱安定性は良好であった。
【0099】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の方法により得られる熱可塑性エラストマーは、電気電子用部品、自動車用部品、シール材、パッキン、制振部材、チューブ等に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、反応性基含有エラストマー、環状ポリエステルオリゴマー及びポリエステル重合触媒を120〜300℃の温度で加熱混合する工程1、並びに工程1で得られた混合物をリン酸エステル化合物及び/又はヒドラジド化合物からなるエステル重合反応抑制剤と混合する工程2を含む、熱可塑性エラストマーの製造方法。
【請求項2】
反応性基含有エラストマーが(メタ)アクリルエラストマーである、請求項1記載の熱可塑性エラストマーの製造方法。
【請求項3】
工程1における反応性基含有エラストマーと環状ポリエステルオリゴマーの重量比(反応性基含有エラストマー/環状ポリエステルオリゴマー)が40/60〜95/5であり、ポリエステル重合触媒の使用量が、環状ポリエステルオリゴマー100重量部に対して0.01〜10重量部であり、工程2におけるエステル重合反応抑制剤の使用量が、環状ポリエステルオリゴマー100重量部に対して0.1〜20重量部である、請求項1又は2記載の熱可塑性エラストマーの製造方法。
【請求項4】
工程1における混合物の融点が反応性基含有エラストマーの融点より10℃以上高くなった後に、該混合物をエステル重合反応抑制剤と混合する工程2を行う、請求項1〜3いずれか記載の熱可塑性エラストマーの製造方法。
【請求項5】
反応性基含有エラストマーのガラス転移温度が-90〜0℃である、請求項1〜4いずれか記載の熱可塑性エラストマーの製造方法。
【請求項6】
環状ポリエステルオリゴマーが、芳香族ジカルボン酸単位と脂肪族ジオール単位とからなるエステル単位を2〜10個有する、請求項1〜5いずれか記載の熱可塑性エラストマーの製造方法。
【請求項7】
ポリエステル重合触媒が、スズ化合物、ジルコニウム化合物及びチタン化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種である、請求項1〜6いずれか記載の熱可塑性エラストマーの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか記載の製造方法により得られる熱可塑性エラストマー。
【請求項9】
融点が200〜300℃である請求項8記載の熱可塑性エラストマー。
【請求項10】
引張伸び率が100%以上である請求項8又は9記載の熱可塑性エラストマー。
【請求項11】
請求項8〜10いずれか記載の熱可塑性エラストマーを加熱成形して得られる成形体。


【公開番号】特開2012−251042(P2012−251042A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123512(P2011−123512)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000000505)アロン化成株式会社 (317)
【Fターム(参考)】