説明

熱可塑性エラストマーの防着処理方法

【課題】固体の防着材を用いずに、熱可塑性エラストマーに防着性を付与すること。
【解決手段】(a)ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つからなるブロック共重合体に水素添加して得られる重量平均分子量が10万以上である水添ブロック共重合体100質量部に、(b)軟化剤1〜3000質量部及び(c)ポリオレフィン系樹脂1〜100質量部が含有され、かつJIS−Aで硬度が25度以下の熱可塑性エラストマーを、極性溶媒と接触させることにより、当該熱可塑性エラストマーの表面に当該極性溶媒を存在させてタック性を低下させる熱可塑性エラストマーの防着処理方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマーの防着処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ゴム、熱可塑性樹脂、または熱可塑性エラストマーからなる製品、成形体又はペレット等の被着体(部材)は、長期間の使用において互いに粘着するといった問題が生じることが知られている。この問題を解決するために、表面に防着材を塗布することにより、これらの被着体が互いに粘着するのを防止する方法が一般に知られている。このような外部添加防着材としては、従来、炭酸カルシウム、タルク、炭酸マグネシウム、マイカ等の天然物を含む無機物、及びシリコーンオイル、シリコーンポリマー等のシリコーン類が使用されている。しかしながら、天然物を含む無機物は、吸湿性及び吸油性が大きいため、防着性を付与しようとするゴム又は熱可塑性エラストマーからなる製品等に配合されているオイル等の低分子量成分を吸収してしまい、このため、製品等を長期間使用することができないことが多かった。また、シリコーン類は高価であり、かつ電気的に接点不良を起こす可能性や、揮発する可能性が高いため、シリコーン類を外部添加したゴムや熱可塑性エラストマーで光学部品や精密部品を作製するには問題があることが懸念されていた。
【0003】
このような問題を解決するために、特定の平均粒径を有する有機粒状物質等の防着剤、及び該防着剤を被着体表面に塗布して得られるゴムもしくは熱可塑性エラストマーからなる製品、成形体又はペレット等が開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、熱可塑性エラストマー等の製品を他の製品に組み込んだ場合、防着剤という固体を使用するため、防着剤が被着体表面から脱離して他の部品へ悪影響を及ぼすおそれがあるという問題があった。
また、防着剤の脱落を防止し、防着効果を長期間発揮させるために、粒状物質よりも転がりにくく、成形体に突き刺さりやすいウィスカを含む防着剤をポリマー成形物の表面に添加したゴムもしくは熱可塑性エラストマーからなる成形体等が開示されている(例えば、特許文献2、3参照)。しかし、この成形体等も、ウィスカという固体を被着体の表面に被着するものに変りはなく、ウィスカが被着体表面から脱離して他の部品へ悪影響を及ぼすおそれがあるという問題は解決されていない。
さらに、これらのような固体の防着剤を用いた熱可塑性エラストマーでは、防着剤が脱離する可能性があるため、クリーンルーム内で使用することができないという問題もある。
【0004】
【特許文献1】特開2001−64445号公報
【特許文献2】特開2003−268244号公報
【特許文献3】特開2006−299284号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記問題を解決するために、固体の防着剤を用いずに、熱可塑性エラストマーに防着性を付与することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、熱可塑性エラストマーを極性溶媒と接触させることで、その目的を達成し得ることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1) (a)ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つからなるブロック共重合体に水素添加して得られる重量平均分子量が10万以上である水添ブロック共重合体100質量部に、(b)軟化剤1〜3000質量部及び(c)ポリオレフィン系樹脂1〜100質量部が含有され、かつJIS−Aで硬度が25度以下の熱可塑性エラストマーを、極性溶媒と接触させることにより、当該熱可塑性エラストマーの表面に当該極性溶媒を存在させてタック性を低下させる熱可塑性エラストマーの防着処理方法、
(2) 前記軟化剤が、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル及び合成系のポリイソブチレン系オイルからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、その重量平均分子量が400〜5000である上記(1)に記載の熱可塑性エラストマーの防着処理方法、
(3) 前記熱可塑性エラストマーが、170℃、2.165kgの荷重下におけるMFR(メルトフローレート)がJIS−K7210規格で10g/10分以上である上記(1)又は(2)に記載の熱可塑性エラストマーの防着処理方法、
(4) 前記熱可塑性エラストマーの70℃における圧縮永久歪がJIS−K6301規格で50%以下である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の熱可塑性エラストマーの防着処理方法、
(5) 前記極性溶媒が、少なくとも1つの水酸基を含有している極性溶媒である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の熱可塑性エラストマーの防着処理方法、
(6) 前記接触が、浸漬である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の熱可塑性エラストマーの防着処理方法、
(7) 上記(1)〜(6)のいずれかに記載の熱可塑性エラストマーの防着処理方法により処理された熱可塑性エラストマーを、不活性ガスを含む密閉容器に入れて保存する熱可塑性エラストマーの保存方法、
(8) 上記(1)〜(6)のいずれかに記載の熱可塑性エラストマーの防着処理方法により処理された熱可塑性エラストマーを保存し、その後、当該処理に用いられた極性溶媒より沸点の低い極性溶媒に接触させて、当該熱可塑性エラストマーの表面からすべての極性溶媒を除去し、その後、当該熱可塑性エラストマーに加工を施す熱可塑性エラストマーの加工方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、熱可塑性エラストマーを極性溶媒と接触させることにより、当該熱可塑性エラストマーの表面に当該極性溶媒を存在させてタック性(粘着性)を低下させることができるので、固体の防着剤の脱離の問題が生じない。
また、熱可塑性エラストマーの表面に極性溶媒が存在することにより、当該熱可塑性エラストマーのタック性は低下し、当該極性溶媒の除去によりタック性が回復するので、熱可塑性エラストマーが有している特性を容易に回復させることができる。
さらに、極性溶媒は、揮発等により容易に除去することができるので、熱可塑性エラストマーの加工等の作業効率がアップし、また他の製品へ悪影響を及ぼすおそれがなく、クリーンルーム内での使用も可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の熱可塑性エラストマーは、(a)ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つからなるブロック共重合体に水素添加して得られる重量平均分子量が10万以上である水添ブロック共重合体100質量部に、(b)軟化剤1〜3000質量部及び(c)ポリオレフィン系樹脂1〜100質量部が含有され、かつJIS−Aで硬度が25度以下の熱可塑性エラストマーを用いる。
【0009】
(a)成分として具体的には、例えば、ポリブタジエンとブタジエン−スチレンランダム共重合体とのブロック共重合体を水添して得られる結晶性ポリエチレンとエチレン/ブチレン−スチレンランダム共重合体とのブロック共重合体、ポリブタジエンとポリスチレンとのブロック共重合体、及びポリイソプレンとポリスチレンとのブロック共重合体、あるいは、ポリブタジエン又はエチレン−ブタジエンランダム共重合体とポリスチレンとのブロック共重合体を水添して得られる、例えば、結晶性ポリエチレンとポリスチレンとのジブロック共重合体、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンのトリブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンのトリブロック共重合(SEPS)等、中でも、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体又はスチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体等を挙げることができる。これらのエラストマーは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの水添ブロック共重合体の重量平均分子量は10万以上であればよく、好ましくは10万〜40万である。重量平均分子量が上記の範囲内にあれば、著しい軟化剤のブリードによって圧縮永久歪みが増大して、実際の使用に耐えないという不都合が生じることがなく、また、熱可塑性エラストマーの粘度の上昇により、加工性が悪化するといった不都合も生じない。
【0010】
上記水添ブロック共重合体の非晶質スチレンブロックの含有量は、10〜70質量%、好ましくは15〜60質量%の範囲のものが望ましい。また、非晶質スチレンブロック部のガラス転移温度(Tg)は、60℃以上、好ましくは80℃以上であるものが望ましい。また、両末端の非晶質スチレンブロックを連結する部分の重合体としては、やはり非晶質のものが好ましく、例えば、エチレン−ブチレン共重合体、ブタジエン重合体、イソプレン重合体等を挙げることができ、これらのブロックあるいはランダム共重合体であってもよい。なお、これらの水添ブロック共重合体は主に単独で用いられるが、2種以上をブレンドして用いてもよい。
【0011】
上記熱可塑性エラストマーにおいて、(b)成分の軟化剤は、(a)成分の熱可塑性エラストマーを低硬度化する目的で配合される。この軟化剤は、40℃における動粘度が100mm2/sec以上である非芳香族系ゴム用軟化剤が好ましく、軟化剤の40℃における動粘度が上記の範囲内にあれば、揮発による組成物の質量減や著しいブリードが生じず、実際の使用において好ましい。この動粘度は、実用上及び製造上の点から、40℃において100〜10000mm2/secであることが好ましく、特に200〜5000mm2/secが好ましい。また、分子量の観点からは、重量平均分子量は20000未満、特に10000以下、とりわけ5000以下であるものが好ましい。このような軟化剤としては、通常、室温で液体または液状のものが好適に用いられる。また、親水性、疎水性のいずれの軟化剤も使用できる。このような性状を有する軟化剤としては、例えば鉱物油系、植物油系、合成系などの各種非芳香族系ゴム用軟化剤の中から適宜選択することができる。ここで、鉱物油系としては、ナフテン系、パラフィン系などのプロセス油が挙げられ、植物油系としては、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、梛子油、落花生油、木ろう、パインオイル、オリーブ油などが挙げられる。なかでも、特に鉱物油系のパラフィン系オイル、ナフテン系オイル又は合成系のポリイソブチレン系オイルから選択される1種又は2種以上であって、その重量平均分子量が400〜5000であるものが好ましい。
【0012】
なお、これらの軟化剤は1種を単独で用いてもよく、互いの相溶性が良好であれば2種以上を混合して用いてもよい。これらの軟化剤の配合量は、上記(a)成分100質量部に対し、1〜3000質量部であるが、好ましくは50〜1000質量部、特に好ましくは100〜300質量部である。この配合量が上記の範囲内にあれば、充分な低硬度化が達成できるので熱可塑性エラストマーの柔軟性が充分であり、また、軟化剤がブリードしやすくなり、かつ熱可塑性エラストマーの機械的強度が低下するといったこともない。なお、この軟化剤の配合量は、(a)成分の水添ブロック共重合体の分子量及び該水添ブロック共重合体に添加される他の成分の種類に応じて、上記範囲で適宜選定することが好ましい。
【0013】
上記熱可塑性エラストマーにおいて、(c)成分のポリオレフィン系樹脂は、加工性、耐熱特性の向上を図るために加えられる。該樹脂としては、ポリプロピレンを主成分とする炭化水素系樹脂が好ましく、アイソタクティックポリプロピレン、プロピレンと他の少量のα−オレフィンとの共重合体(例えば、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン/4−メチル−1−ペンテン共重合体)等を挙げることができる。ポリオレフィン樹脂としてアイソタクティックポリプロピレンの共重合体を用いる場合、そのMFR(メルトフローレート、JIS−K7210)が0.1〜100g/10分、特に0.5〜50g/10分の範囲のものが好適に使用できる。(c)成分の配合量は、上記(a)成分100質量部に対し、1〜100質量部であるが、好ましくは1〜50質量部、特に好ましくは5〜20質量部である。配合量が上記の範囲内にあれば、得られる熱可塑性エラストマーの硬度が適切となる。上記熱可塑性エラストマーにおいては、加工性や耐熱性の向上のために(c)成分にポリスチレン樹脂を併用してもよく、圧縮永久歪みを改善する等の目的で、所望によりポリフェニレンエーテル樹脂を配合することもできる。また、必要に応じて充填剤や染料、顔料等の各種添加剤を添加することもできる。
【0014】
本発明にかかる熱可塑性エラストマーは、JIS−Aで硬度が25度以下であり、好ましくは10度以下である。上記範囲内であれば、優れた防着効果が得られ、かつ十分な柔軟性、加工性、耐熱性を得ることができる。
また、柔軟性、加工性、耐熱性の観点から、本発明にかかる熱可塑性エラストマーは、170℃、2.165kgの荷重下におけるMFR(メルトフローレート)がJIS−K7210規格で10g/10分以上であることが好ましく、50g/10分以上がさらに好ましい。また、該熱可塑性エラストマーの70℃における圧縮永久歪は、JIS−K6301規格で50%以下であることが好ましく、40%以下であることがさらに好ましい。
【0015】
本発明にかかる極性溶媒は、特に制限はなく、例えば、水、第一級、第二級及び第三級アルコール及びポリオール、例えば、1〜12個の炭素原子を含む脂肪族、環状脂肪族及び芳香族アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、n−オクタノール、n−ヘプタノール、n−ヘキサノール、イソオクタノール、2,2−ジメチル−ヘキサン−6−オール、t−アミルアルコール、4−メチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、ブタンジオール、プロピレングリコール、エチレングリコール、フェノール等);ケトン(例えば、エチルメチルケトン、シクロヘキサノン等);アルデヒド(例えば、ベンズアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等)等を用いることができ、熱可塑性エラストマーの用途に応じて適宜選択することができる。
上記熱可塑性エラストマーは、非極性の材料であることから、該熱可塑性エラストマーとの極性の差をつけるために、少なくとも1つの水酸基を含有している極性溶媒が好適に用いられ、水、エタノール、プロパノールが特に好適に用いられる。
そして、上記熱可塑性エラストマーは、上記極性溶媒に溶解せず、変性されにくいので、これらの極性溶媒の存在によっても安定に存在することができる。
【0016】
熱可塑性エラストマーを極性溶媒と接触させる時間は、1秒以上1日以下が好ましい。接触時間が1秒以上1日以下であれば、熱可塑性エラストマーと極性溶媒とを十分に接触させることができ、タック性を低下させるのに十分だからである。
熱可塑性エラストマーを極性溶媒と接触させる方法は、特に制限はなく、熱可塑性エラストマーを極性溶媒に浸漬する方法、塗布する方法、スプレーする方法等、周知の方法により接触させることができる。特に、浸漬する方法が、簡便に所定の期間極性溶媒と接触させることができるので好ましい。
また、このときの極性溶媒の温度は、特に制限はなく、例えば、常温の極性溶媒を用いることができる。
【0017】
本発明の防着処理により処理された熱可塑性エラストマー同士を接触させて保存する場合や、当該熱可塑性エラストマーと他の製品とを接触させて保存等する場合、極性溶媒の存在により、熱可塑性エラストマーのタック性は低下しているので、熱可塑性エラストマー同士、あるいは熱可塑性エラストマーと他の製品が接着等することを防止することができる。
特に、熱可塑性エラストマーの防着処理と加工とが時間をおいてなされる場合や、防着処理と加工との場所が離れている場合に、熱可塑性エラストマーを接着しないように保存することは重要であり、この場合、不活性ガスを含む密閉容器に本発明の防着処理方法により処理された熱可塑性エラストマーを入れて保存するのが好ましい。
このようにすることにより、熱可塑性エラストマーが酸素や極性溶媒等と反応することなく保存できるので、防着処理状態を維持して熱可塑性エラストマーを容易に保管、輸送等することができ、例えば、保管、輸送等する期間が1週間〜1ヶ月程度であっても、タック性が低下した状態で保存することができる。
【0018】
本発明の防着処理方法により処理された熱可塑性エラストマーを保存した後等に加工を施す場合、熱可塑性エラストマーの表面に存在している極性溶媒を揮発させたり、ふき取ったりして、極性溶媒が存在しない状態にして加工することができる。
また、揮発しにくい沸点の高い極性溶媒を防着処理に用いた場合は、この熱可塑性エラストマーを、より沸点の低い極性溶媒に接触させて、熱可塑性エラストマーの表面からすべての極性溶媒を除去した後、加工を施すのがよい。
【0019】
これは、この沸点の低い極性溶媒が揮発することを利用して、沸点の低い極性溶媒と共に沸点の高い極性溶媒を揮発させるためである。この沸点の低い極性溶媒は、1種に限らず2種以上を用いることができ、この場合、沸点の低い極性溶媒の内でも沸点の高いものから順に接触させるのがよい。
ここで、すべての極性溶媒を除去するとは、複数種の極性溶媒が存在する場合に、すべての種類の極性溶媒を除去することを意味し、熱可塑性エラストマーを加工したり、部材として他の製品に組み込んだりするに当たり、支障をきたさない程度の極性溶媒の成分等が残存することは許される。
そして、この極性溶媒の除去により熱可塑性エラストマーのタック性が回復するので、加工後に他の製品等に組み込んだ場合にも、熱可塑性エラストマーが有している特性を容易に回復させることができる。
【実施例】
【0020】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
〔熱可塑性エラストマーシートAの作製〕
ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックからなるブロック共重合体に水素添加して得られる重量平均分子量が10万以上である水添ブロック共重合体として、スチレン系エラストマー〔クラレ社製、商品名:セプトンS4077〕を用い、このスチレン系エラストマー100質量部に対して、40℃における動粘度が380mm2/secのパラフィン系オイル〔出光興産(株)製、商品名:ダイアナプロセスオイルPW380、重量平均分子量750〕260質量部、ポリプロピレン〔日本ポリプロ株式会社製、商品名:PP・BC05B〕5質量部を加えた熱可塑性エラストマー組成物を20mm×100mm、厚さ2mmのシート状に射出成形して熱可塑性エラストマーシートA(以下、単に「シートA」と呼ぶことがある。)を作製した。
このシートAのJIS−Aの硬度は4度であり、70℃における圧縮永久歪はJIS−K6301規格で40%であり、170℃、2.165kgの荷重下におけるMFR(メルトフローレート)はJIS−K7210規格で10g/10分以上であった。
【0021】
〔防着性能の評価〕
タック測定装置(東洋精機製作所製 P−2ビクマタックテスター)を用いて、25℃、55.6%RHの測定環境で、降下速度50cm/min、上昇速度50cm/min、圧縮荷重500g、圧縮時間10秒の条件で熱可塑性エラストマーシート同士を圧縮し、圧縮部材が上昇する時の圧縮部材が熱可塑性エラストマーシートから剥がれる時の力(タック)を測定し、20mm×100mm、厚さ2mmのシートAの防着性能を評価した。
【0022】
実施例1
シートAを水洗した後、シートAを常温でイオン交換水(沸点:100℃)に1日浸漬し、防着処理をおこなった。この防着処理されたシートAを5個(n1〜n5)用意し、これらのシートAについて、イオン交換水が乾燥する前に上記の評価方法により防着性能の評価をおこなった(乾燥無し)。評価結果を第1表に示す。
次に、上記5個のシートA(n1〜n5)を室温で30分間乾燥させ、この乾燥したシートAについて、上記の評価方法により防着性能の評価をおこなった(乾燥有り)。評価結果を第1表に示す。
【0023】
実施例2
実施例1のイオン交換水をメタノール(沸点:64℃)に代えたほかは、実施例1と同様にしてシートAに防着処理をおこなった。この防着処理されたシートAについて、上記の評価方法により防着性能の評価をおこなった(乾燥無し)。評価結果を第1表に示す。
また、実施例1と同様に室温で30分間乾燥させ、乾燥したシートAについて、上記の評価方法により防着性能の評価をおこなった(乾燥有り)。評価結果を第1表に示す。
【0024】
実施例3
実施例1のイオン交換水を1−ブタノール(沸点:117℃)に代えたほかは、実施例1と同様にしてシートAに防着処理をおこなった。この防着処理されたシートAについて、上記の評価方法により防着性能の評価をおこなった(乾燥無し)。評価結果を第1表に示す。
また、実施例1と同様に室温で30分間乾燥させ、乾燥したシートAについて、上記の評価方法により防着性能の評価をおこなった(乾燥有り)。評価結果を第1表に示す。
【0025】
実施例4
実施例1のイオン交換水をポリエチレングリコール(沸点:200℃以上)に代えたほかは、実施例1と同様にしてシートAに防着処理をおこなった。この防着処理されたシートAについて、上記の評価方法により防着性能の評価をおこなった(乾燥無し)。評価結果を第1表に示す。
また、このポリエチレングリコールはほとんど揮発していなかたので、タオルでふき取った。そして、このシートAについて、上記の評価方法により防着性能の評価をおこなった(乾燥有り)。評価結果を第1表に示す。
【0026】
実施例5
実施例4と同様にして、シートAに防着処理おこない、5個のシートAを得た。得られた5個のシートAを積み重ねてアルゴンを充満させた密閉容器に入れ1日保存した。
保存後、シートAを密閉容器から取り出し、それぞれのシートAを剥離したところ、容易に剥離することがで、剥離した後のシートAの表面にはポリエチレングリコールが存在していた。
また、このシートAについて、上記の評価方法により防着性能の評価をおこなったところ、実施例4の乾燥なしの場合と同様の結果が得られた。
【0027】
実施例6
実施例5の1日保存した後のシートAをイオン交換水(沸点:100℃)にて洗浄した後、乾燥させ、乾燥したシートAについて、上記の評価方法により防着性能の評価をおこなったところ、実施例1の乾燥有りの場合と同様の結果が得られた。
【0028】
比較例1
シートAを水洗した後、タオルでふき取り、室温で数分乾燥させ、防着処理をおこなわないシートAを5個用意した(n1〜n5)。
そして、この防着処理をおこなわない5個のシートA(n1〜n5)について、上記の評価方法により防着性能の評価をおこなった。評価結果を第1表に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
実施例1〜5及び比較例1の防着性能の評価の結果から、熱可塑性エラストマーの表面に極性溶媒が存在していれば、熱可塑性エラストマーのタック性が低下し、防着性能が高く、極性溶媒が存在しなくなればタック性が回復することを確認した。
また実施例6の結果から、沸点の高い極性溶媒が存在する熱可塑性エラストマーを沸点の低い極性溶媒と接触させることにより、沸点の低い極性溶媒と共に当該沸点の高い極性溶媒を揮発させることができ、タック性が回復することを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の熱可塑性エラストマーの防着処理方法は、固体の防着剤を使用していないので、防着材の脱離の問題が生ぜず、本発明の処理方法により処理された熱可塑性エラストマーは、インクジェットプリンター用のシール材、電子機器等のインシュレータ、ガスケット等に好適に用いられ、クリーンルーム内での使用も可能となる。特にシール性能を重視する製品については、ハンドリング等必要に応じてタック性(粘着性)を低下させ、製品としてアセンブリされた後に、タック性が回復するので、高いシール性能を示すことが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも一つからなるブロック共重合体に水素添加して得られる重量平均分子量が10万以上である水添ブロック共重合体100質量部に、(b)軟化剤1〜3000質量部及び(c)ポリオレフィン系樹脂1〜100質量部が含有され、かつJIS−Aで硬度が25度以下の熱可塑性エラストマーを、極性溶媒と接触させることにより、当該熱可塑性エラストマーの表面に当該極性溶媒を存在させてタック性を低下させる熱可塑性エラストマーの防着処理方法。
【請求項2】
前記軟化剤が、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル及び合成系のポリイソブチレン系オイルからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、その重量平均分子量が400〜5000である請求項1に記載の熱可塑性エラストマーの防着処理方法。
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマーが、170℃、2.165kgの荷重下におけるMFR(メルトフローレート)がJIS−K7210規格で10g/10分以上である請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマーの防着処理方法。
【請求項4】
前記熱可塑性エラストマーの70℃における圧縮永久歪がJIS−K6301規格で50%以下である請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性エラストマーの防着処理方法。
【請求項5】
前記極性溶媒が、少なくとも1つの水酸基を含有している極性溶媒である請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性エラストマーの防着処理方法。
【請求項6】
前記接触が、浸漬である請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性エラストマーの防着処理方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の熱可塑性エラストマーの防着処理方法により処理された熱可塑性エラストマーを、不活性ガスを含む密閉容器に入れて保存する熱可塑性エラストマーの保存方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の熱可塑性エラストマーの防着処理方法により処理された熱可塑性エラストマーを保存し、その後、当該処理に用いられた極性溶媒より沸点の低い極性溶媒に接触させて、当該熱可塑性エラストマーの表面からすべての極性溶媒を除去し、その後、当該熱可塑性エラストマーに加工を施す熱可塑性エラストマーの加工方法。

【公開番号】特開2010−132775(P2010−132775A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310118(P2008−310118)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】