説明

熱可塑性エラストマーを被覆された架橋ゴム成形体およびその製造方法

【課題】架橋ゴム成形体の表面に熱可塑性エラストマーの被膜を強固な結合力で被覆することができる熱可塑性エラストマーを被覆された架橋ゴム成形体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】未架橋のゴムに熱可塑性エラストマーを混合し、この未架橋のゴムを、熱可塑性エラストマーは架橋することなく、成形架橋し、架橋ゴム成形体1を得る。前記ゴムに混合された熱可塑性エラストマーと親和性を有する熱可塑性エラストマーを、ゴムに混合された熱可塑性エラストマーも可溶な有機溶剤に溶かした状態で、架橋ゴム成形体1の表面に被覆する。被覆された熱可塑性エラストマー被膜2と親和性を有する熱可塑性エラストマーが未架橋状態で架橋ゴム成形体1に混合されているので、架橋ゴム成形体1と熱可塑性エラストマー被膜2との結合を強固にすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面全面または表面の一部に熱可塑性エラストマー被膜を被覆された架橋されたゴム成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種ゴムはそれぞれが持つ優れた特長に応じて種々の用途に使用されているが、ほとんど例外なく、そのゴム単体では短所をも有している。
【0003】
例えば、卓球ラケットのラバーシートとしては、高い反発弾性等が必要とされるため、天然ゴム(NR)やイソプレンゴム(IR)を主たるベースゴムとして成形架橋されたものが用いられており、ブタジエンゴム(BR)を少量混ぜる場合もある。
【0004】
しかし、天然ゴム、イソプレンゴムおよびブタジエンゴムは、分子構造内に不飽和結合を沢山有しているため、耐オゾン、耐候性が悪い。このため、従来の卓球ラケット用ラバーシートは、比較的短期間のうちに表面が劣化し、摩擦係数が低下して、ボールに回転をかけにくくなるとともに外観が悪くなるという問題を有していた。
【0005】
同様にして、他の用途の各種架橋ゴム成形体も、使用されているゴムが有する短所に由来する問題点を有していた。
【0006】
このため、従来より、架橋ゴム成形体の表面を、該架橋ゴム形成体を構成するゴムが持つ短所を有さない異種の材料で被覆することにより、上記問題を解決しようとする試みが種々なされている。
【0007】
このような架橋ゴム成形体の表面を異種の材料で被覆する試みは、大別すると、
(a)架橋ゴム成形体の表面を異種のゴムで被覆する(例えば、特許文献1)、
(b)架橋ゴム成形体の表面を樹脂等のゴム弾性を有さない異種材料で被覆する(例えば、特許文献2)、
(c)架橋ゴム成形体の表面を熱可塑性エラストマー(TPE)で被覆する(例えば、特許文献3)の3つのタイプに分類される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3198422号公報
【特許文献2】特公平3−21339号公報
【特許文献3】特開平4−370120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記(a)架橋ゴム成形体の表面を異種のゴムで被覆する方法では、架橋済みのゴムに異種ゴムからなる被膜を被覆することになるため、被膜を架橋ゴム成形体に強固に結合させることができないとともに、異種ゴム被膜の方も被覆後、架橋する必要があるという問題があった(架橋しないと、異種ゴム被膜は強度がないととともに弾力がない)。
【0010】
また、前記(b)架橋ゴム成形体の表面を樹脂等のゴム弾性を有さない材料で被覆する方法では、ゴムではない異種材料を架橋ゴム成形体に被覆することになるため、被膜を架橋ゴム成形体に強固に結合させることができないとともに、被膜はゴム弾性を持たないため、製品全体として表面のゴム弾性を失ってしまうことになるという問題があった。
【0011】
さらに、前記従来の(c)架橋ゴム成形体の表面を熱可塑性エラストマーで被覆する方法では、熱可塑性エラストマーはゴム弾性を有するため、製品全体として表面のゴム弾性を維持できるが、やはり異種材料を架橋ゴム成形体に被覆することになるため、被膜を架橋ゴム成形体に強固に結合させることができないという問題があった。
【0012】
本発明は、このような従来の事情に鑑みてなされたもので、本発明の目的の一つは、架橋ゴム成形体の表面に熱可塑性エラストマーの被膜を強固な結合力で被覆することができる熱可塑性エラストマーを被覆された架橋ゴム成形体およびその製造方法を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、架橋ゴム成形体の表面に、ゴム自体にはない所望の機能を付与することができる熱可塑性エラストマーを被覆された架橋ゴム成形体およびその製造方法を提供することにある。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、以下の説明から明らかになろう。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明による熱可塑性エラストマーを被覆された架橋ゴム成形体は、
熱可塑性エラストマーを混合されている成形架橋されたゴムからなる架橋ゴム成形体と、
有機溶剤に溶かした状態で前記架橋ゴム成形体の表面に被覆された、前記ゴムに混合されている熱可塑性エラストマーに対し親和性を有する熱可塑性エラストマーとを有してなり、
前記ゴムに混合されている熱可塑性エラストマーは架橋されておらず、かつ前記有機溶剤に可溶であるものである。
【0016】
また、本発明による熱可塑性エラストマーを被覆された架橋ゴム成形体の製造方法は、
未架橋のゴムに有機溶剤に可溶な熱可塑性エラストマーを混合する段階と、
前記未架橋のゴムを成形する段階と、
前記未架橋のゴムを、前記熱可塑性エラストマーは架橋することなく、架橋する段階と、
前記未架橋のゴムに混合された熱可塑性エラストマーに対し親和性を有する熱可塑性エラストマーを前記未架橋のゴムに混合された熱可塑性エラストマーも可溶な有機溶剤に溶かした状態で、成形および架橋された前記ゴムからなる架橋ゴム成形体の表面に被覆する段階とを有してなるものである。
【0017】
なお、前記未架橋のゴムを成形する段階と、前記未架橋のゴムを架橋する段階とは、同時に行ってもよいし、別々に行ってもよい。
【0018】
本発明においては、ゴムに混合されている熱可塑性エラストマーは架橋されていないので、有機溶剤に溶かされた熱可塑性エラストマーが架橋ゴム成形体の表面に被覆されると、架橋ゴム成形体の表面付近の熱可塑性エラストマーも有機溶剤に溶かされる。そして、ゴムに混合されている熱可塑性エラストマーと架橋ゴム成形体に被覆される熱可塑性エラストマーとは親和性を有しているので、架橋ゴム成形体と熱可塑性エラストマー被膜との親和性がよいため、架橋ゴム成形体と熱可塑性エラストマー被膜との結合を非常に強固にすることができる。
【0019】
なお、ゴムに混合されている熱可塑性エラストマーが架橋されているとすると、架橋された熱可塑性エラストマーは有機溶剤に溶けないので、本願発明の場合とは異なり、架橋ゴム成形体と熱可塑性エラストマー被膜との結合を強固にすることはできない。
【0020】
本発明においては、熱可塑性エラストマーはゴム弾性を有するので、製品全体として表面のゴム弾性は維持される。
【0021】
また、熱可塑性エラストマーは、ゴムと異なり、架橋しなくても十分な強度および弾性を有しているので、被覆された熱可塑性エラストマーを改めて架橋する必要はない(ただし、本発明においては、被覆された熱可塑性エラストマーを架橋してもよい)。
【0022】
そして、本発明においては、架橋ゴム成形体に被覆される熱可塑性エラストマーとして、ゴムの短所を持たないものを使用することにより、耐オゾン、耐候性等の架橋ゴム成形体の表面に関わる短所を解消することができる。その一方、架橋ゴム成形体の長所はそのまま維持できる。
【0023】
また、被覆される熱可塑性エラストマーに、ゴム自体にはない機能(例えば、電子導電性、イオン伝導性、表面粘着性、光拡散性、抗菌性等)を付与する機能付与材料を添加すれば、架橋ゴム成形体の表面に所望の機能を付与することができる。その一方、ゴムの方には機能付与材料を添加しなくてよいので、ゴムの方の加工性やその他の特性を阻害することがない。
【0024】
なお、架橋ゴム成形体の表面に対する熱可塑性エラストマーの被覆は、全面でなく、一部でもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明による熱可塑性エラストマーを被覆された架橋ゴム成形体およびその製造方法は、
(イ)架橋ゴム成形体と熱可塑性エラストマー被膜との結合を非常に強固にすることができる、
(ロ)製品全体として表面のゴム弾性を維持することができる、
(ハ)熱可塑性エラストマーとして、ゴムの短所を持たないものを使用することにより、耐オゾン、耐候性等の架橋ゴム成形体の表面に関わる短所を解消することができる、
(ニ)被覆される熱可塑性エラストマーに、ゴム自体は持たない機能を付与する機能付与材料を添加すれば、架橋ゴム成形体の表面に所望の機能を付与することができる、
等の優れた効果を得られるものである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施例1における熱可塑性エラストマーを被覆される前の架橋ゴム成形体を示す断面図である。
【図2】実施例1における熱可塑性エラストマーを被覆された架橋ゴム成形体(卓球ラケット用ラバーシート)を示す拡大断面図である。
【図3】実施例1における熱可塑性エラストマーを被覆された架橋ゴム成形体(卓球ラケット用ラバーシート)が卓球ラケットに貼られた状態を示す断面図である。
【図4】本発明の実施例3における熱可塑性エラストマーを被覆される前の架橋ゴム成形体を示す断面図である。
【図5】実施例3における熱可塑性エラストマーを被覆された架橋ゴム成形体を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明におけるゴム、熱可塑性エラストマーおよび有機溶剤の組み合わせとしては、例えば、表1に例示されるようなものが使用できる。
【0028】
【表1】

【0029】
ゴムと熱可塑性エラストマーとの混合比は、ゴム100重量部に対し熱可塑性エラストマー1〜30重量部が好ましく、5〜10重量部がさらに好ましい。
【0030】
ゴムに混合される熱可塑性エラストマーと架橋ゴム成形体に被覆される熱可塑性エラストマーとは、共通の有機溶剤に可溶であって、かつ互いに親和性を有することが必要である。双方のエラストマーが完全に同一の熱可塑性エラストマーである場合は、勿論、この条件を満足するが、同種の熱可塑性エラストマーで分子量が異なる組み合わせや、構成要素の比率(例えば、スチレンとエチレンの比率等)が異なる組み合わせも、一般に前記条件を満足し、使用可能である。さらに、異種の熱可塑性エラストマーの組み合わせでも、例えばSEBS系とSEPS系の熱可塑性エラストマーとの組み合わせのように前記条件を満足するものがあり、これらの組み合わせも使用可能である。
【0031】
熱可塑性エラストマーを有機溶剤に溶かした状態で架橋ゴム成形体の表面に被覆する方法としては、例えばディッピング、印刷、スプレーイング等がある。被覆される熱可塑性エラストマー被膜の厚さは、一般に5〜30μm程度が好ましい。
【0032】
以下、本発明を図面に示す実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0033】
本実施例は、本発明を卓球ラケット用ラバーシートおよびその製造方法に適用した実施例である。
【0034】
天然ゴム100重量部、硫黄(架橋剤)3.0重量部、チウラム系加硫促進剤0.3重量部、チアゾール系加硫促進剤1.0重量部、亜鉛華5重量部、ステアリン酸0.5重量部、塩基性炭酸マグネシウム20重量部、SEPS系熱可塑性エラストマー8重量部を混練することによりゴム組成物を作成した。このゴム組成物を後述するピンプル1bに対応する凹部を備えた金型に入れ、150℃で8分間の熱プレスにより成形架橋し、図1の架橋ゴム成形体1を得た。この架橋ゴム成形体1は、平板状のベース部1aと、このベース部1aの裏側面から突出する多数の円柱状の突起であるピンプル1bとを一体的に有している。
【0035】
次に、前記天然ゴムひいては架橋ゴム成形体1に混合された熱可塑性エラストマーと同一の熱可塑性エラストマーであるSEPS系熱可塑性エラストマーを、シクロヘキサン(有機溶剤)に溶かした状態で、スプレーイングにより、図2のように架橋ゴム成形体1のベース部1aのピンプル1bがない方の表面の全面に20μmの厚さで被覆した(符号2が被覆された熱可塑性エラストマー被膜を示す)。これにより、卓球ラケット用ラバーシート3が完成する。
【0036】
前記卓球ラケット用ラバーシート3は、図3に示されるように、卓球ラケットの木材等からなるブレード(打球面を構成するラケットの本体部分)4にスポンジシート5を介して貼られる。この際、ラバーシート3のピンプル1bがスポンジシート5側に配置され、熱可塑性エラストマー被膜2はラバーシート3の外表面をなすようにされる。
【0037】
SEPS系熱可塑性エラストマーは耐オゾン、耐候性がよいので、耐オゾン、耐候性が悪いという天然ゴムの短所を解消することができた。すなわち、従来の卓球ラケット用ラバーシートが有していた、比較的短期間のうちに表面が劣化し、摩擦係数が低下してボールに回転をかけにくくなるとともに外観が悪くなるという問題を解決することができた。その一方、反発弾性が高い等の天然ゴムの長所はそのまま維持できた。
【0038】
なお、本実施例の場合とは反対に、ラバーシート3のピンプル1bと反対側の面がブレード4側に配置され、ピンプル1b側がラバーシート3の外表面となるタイプの卓球ラケットにおいては、ラバーシート3のピンプル1b側の面を熱可塑性エラストマーで被覆すればよい。
【0039】
また、本実施例のように卓球ラケット用ラバーシート3を対象とする場合、天然ゴムに代えてイソプレンゴムをベースゴムとしてもよいし、天然ゴムまたはイソプレンゴムにブタジエンゴムを少量混ぜてもよい。
【0040】
また、本実施例のように架橋ゴム成形体1の耐オゾン、耐候性の悪さをを解消したい場合、架橋ゴム成形体1に被覆される熱可塑性エラストマーとして、SEBS系等のその他の耐オゾン、耐候性がよい熱可塑性エラストマーを使用することもできる。
【実施例2】
【0041】
架橋ゴム成形体1に被覆されるSEPS系熱可塑性エラストマー中に機能付与材料としてテルペン系樹脂からなる粘着付与剤をSEPS系熱可塑性エラストマー100重量部に対し55重量部添加した。他の構成は実施例1と同様である。
【0042】
本実施例においては、熱可塑性エラストマー中に粘着付与剤を添加していることにより、卓球ラケット用ラバーシート3の表面に表面粘着性を付与でき、これにより卓球のボールに回転を一層かけやすくなった。その一方、ゴムの方には粘着付与剤を添加しなくてよいので、ゴムの方の加工性やその他の特性は阻害されなかった。
【0043】
なお、粘着付与剤としては、クマロン・インデン樹脂等の他の種の粘着付与剤を使用することもできる。
【実施例3】
【0044】
エチレンプロピレンゴム(EPDM)100重量部、硫黄(架橋剤)1.5重量部、チウラム系加硫促進剤0.5重量部、チアゾール系加硫促進剤1.0重量部、亜鉛華5重量部、ステアリン酸0.5重量部、カーボンブラック(充填剤)15重量部、SEBS系熱可塑性エラストマー8重量部を混練することによりゴム組成物を作成した。このゴム組成物を金型に入れ、150℃で8分間の熱プレスにより成形架橋し、図4に示される厚さ3mmのシート状の架橋ゴム成形体1を得た。
【0045】
次に、前記ゴム組成物ひいては架橋ゴム成形体1に混合された熱可塑性エラストマーと同一の熱可塑性エラストマーであるSEBS系熱可塑性エラストマーを、トルエン(有機溶剤)に溶かすとともに機能付与材料として導電性カーボンブラックを添加した状態で、ディッピングにより、図5のように架橋ゴム成形体1の両方の表面の全面に20μmの厚さで被覆した(符号2が被覆された熱可塑性エラストマー被膜を示す)。前記導電性カーボンブラックの添加量は熱可塑性エラストマー100重量部に対し15重量部とした。
【0046】
本実施例においては、熱可塑性エラストマー中に導電性カーボンブラックを添加することにより、架橋ゴム成形体1の表面に電子導電性を付与できた。その一方、ゴムの方には導電性カーボンブラックを添加しなくてよいので、ゴムの方の加工性やその他の特性は阻害されなかった(なお、本実施例においてゴムに混合されているカーボンブラックは充填剤として使用されているもので、電子導電性付与を目的とするものではないので、量的にゴムの加工性等を阻害することはない)。
【0047】
なお、架橋ゴム成形体1の表面に対する熱可塑性エラストマーの被覆2は、全面でなく一部でもよいし、架橋ゴム成形体1の表面に印刷等により所望のパターンで導電性付与剤を添加された熱可塑性エラストマーを被覆し、熱可塑性エラストマーにより導電性の回路を構成してもよい。
【実施例4】
【0048】
スチレンブタジエンゴム(SBR)100重量部、硫黄(架橋剤)1.5重量部、チウラム系加硫促進剤0.3重量部、チアゾール系加硫促進剤1.0重量部、亜鉛華5重量部、ステアリン酸0.5重量部、カーボンブラック20重量部、プロセスオイル5重量部、SEBS系熱可塑性エラストマー8重量部を混練することによりゴム組成物を作成した。このゴム組成物を金型に入れ、150℃で8分間の熱プレスにより成形架橋し、厚さ3mmのシート状の架橋ゴム成形体を得た。
【0049】
次に、前記ゴム組成物ひいては架橋ゴム成形体に混合された熱可塑性エラストマーと同一の熱可塑性エラストマーであるSEBS系熱可塑性エラストマーを、キシレン(有機溶剤)に溶かすとともに光拡散性を付与する機能付与材料としてシリコン粒子からなる光拡散粒子を添加した状態で、スプレーイングにより、架橋ゴム成形体の一方の表面の全面に20μmの厚さで被覆した。シリコン粒子の添加量は熱可塑性エラストマー100重量部に対し7.5重量部とした。
【0050】
本実施例においては、熱可塑性エラストマー中に光拡散粒子を添加することにより、架橋ゴム成形体1の表面に光拡散性を付与できた。その一方、ゴムの方には光拡散粒子を添加しなくてよいので、ゴムの方の加工性やその他の特性は阻害されなかった。
【実施例5】
【0051】
ニトリルゴム(NBR)100重量部、硫黄(架橋剤)1.5重量部、チウラム系加硫促進剤0.3重量部、チアゾール系加硫促進剤1.0重量部、亜鉛華5重量部、ステアリン酸0.5重量部、炭酸カルシウム70重量部、ポリエステル系熱可塑性エラストマー8重量部を混練することによりゴム組成物を作成した。このゴム組成物を金型に入れ、150℃で8分間の熱プレスにより成形架橋し、厚さ3mmのシート状の架橋ゴム成形体を得た。
【0052】
次に、前記ゴム組成物ひいては架橋ゴム成形体に混合された熱可塑性エラストマーと同一の熱可塑性エラストマーであるポリエステル系熱可塑性エラストマーを、塩化メチレン80重量%にテトラヒドロフラン(THF)を20重量%を混和した有機溶剤に溶かすとともにイオン伝導性を付与する機能付与材料として過塩素酸リチウムを添加した状態で、ディッピングにより、架橋ゴム成形体の両方の表面の全面に20μmの厚さで被覆した。過塩素酸リチウムの添加量は熱可塑性エラストマー100重量部に対し2重量部とした。
【0053】
本実施例においては、熱可塑性エラストマー中に過塩素酸リチウムを添加することにより、架橋ゴム成形体の表面にイオン伝導性を付与できた。その一方、ゴムの方には過塩素酸リチウムを添加しなくてよいので、ゴムの方の加工性やその他の特性は阻害されなかった。
【0054】
なお、本実施例において、有機溶剤中のテトラヒドロフランは過塩素酸リチウムを溶解させる目的で使用されており、ポリエステル系熱可塑性エラストマー自体はテトラヒドロフランには不溶である。
【0055】
なお、前記各実施例では、成形と同時にゴムを架橋しているが、本発明においては、ゴムを成形する段階と、ゴムを架橋する工程を分けて行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上のように本発明による熱可塑性エラストマーを被覆された架橋ゴム成形体およびその製造方法は、種々の架橋ゴム成形体に適用できるものであり、有用である。
【符号の説明】
【0057】
1 架橋ゴム成形体
1a ベース部
1b ピンプル
2 熱可塑性エラストマー被膜
3 卓球ラケット用ラバーシート
4 卓球ラケットのブレード


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマーを混合されている成形架橋されたゴムからなる架橋ゴム成形体と、
有機溶剤に溶かした状態で前記架橋ゴム成形体の表面に被覆された、前記ゴムに混合されている熱可塑性エラストマーに対し親和性を有する熱可塑性エラストマーとを有してなり、
前記ゴムに混合されている熱可塑性エラストマーは架橋されておらず、かつ前記有機溶剤に可溶である、熱可塑性エラストマーを被覆された架橋ゴム成形体。
【請求項2】
前記ゴムを架橋する架橋剤として、前記ゴムに混合されている熱可塑性エラストマーは架橋しない架橋剤が使用されている請求項1記載の熱可塑性エラストマーを被覆された架橋ゴム成形体。
【請求項3】
前記架橋ゴム成形体の表面に被覆された熱可塑性エラストマーに、前記ゴムは持たない機能を付与する機能付与材料が添加されている請求項1または2記載の熱可塑性エラストマーを被覆された架橋ゴム成形体。
【請求項4】
卓球ラケットのブレードに貼られるラバーシートとして使用される、熱可塑性エラストマーを被覆された架橋ゴム成形体であって、
前記ゴムは天然ゴムまたはイソプレンゴムを含み、前記架橋ゴム成形体の表面に被覆された熱可塑性エラストマーは耐オゾン、耐候性がよい熱可塑性エラストマーであり、
前記架橋ゴム成形体の表面に被覆された熱可塑性エラストマーの被膜は前記ラバーシートの外表面をなしている請求項1乃至3のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマーを被覆された架橋ゴム成形体。
【請求項5】
卓球ラケットのブレードに貼られるラバーシートとして使用される、熱可塑性エラストマーを被覆された架橋ゴム成形体であって、
前記ゴムは天然ゴムまたはイソプレンゴムを含み、前記架橋ゴム成形体の表面に被覆された熱可塑性エラストマーは耐オゾン、耐候性がよい熱可塑性エラストマーであり、前記機能付与材料は粘着付与剤であり、
前記架橋ゴム成形体の表面に被覆された熱可塑性エラストマーの被膜は前記ラバーシートの外表面をなしている請求項3記載の熱可塑性エラストマーを被覆された架橋ゴム成形体。
【請求項6】
未架橋のゴムに有機溶剤に可溶な熱可塑性エラストマーを混合する段階と、
前記未架橋のゴムを成形する段階と、
前記未架橋のゴムを、前記熱可塑性エラストマーは架橋することなく、架橋する段階と、
前記未架橋のゴムに混合された熱可塑性エラストマーに対し親和性を有する熱可塑性エラストマーを前記未架橋のゴムに混合された熱可塑性エラストマーも可溶な有機溶剤に溶かした状態で、成形および架橋された前記ゴムからなる架橋ゴム成形体の表面に被覆する段階とを有してなる熱可塑性エラストマーを被覆された架橋ゴム成形体の製造方法。
【請求項7】
前記未架橋のゴムを架橋する架橋剤として、前記未架橋のゴムに混合された熱可塑性エラストマーは架橋しない架橋剤を使用する請求項6記載の熱可塑性エラストマーを被覆された架橋ゴム成形体の製造方法。
【請求項8】
前記架橋ゴム成形体の表面に被覆される熱可塑性エラストマーに、前記ゴムは持たない機能を付与する機能付与材料を添加する段階を有する請求項6または7記載の熱可塑性エラストマーを被覆された架橋ゴム成形体の製造方法。
【請求項9】
卓球ラケットのブレードに貼られるラバーシートとして使用される、熱可塑性エラストマーを被覆された架橋ゴム成形体の製造方法であって、
前記ゴムは天然ゴムまたはイソプレンゴムを含み、前記架橋ゴム成形体の表面に被覆される熱可塑性エラストマーは耐オゾン、耐候性がよい熱可塑性エラストマーであり、
前記架橋ゴム成形体の表面に被覆された熱可塑性エラストマーの被膜は前記ラバーシートの外表面をなす請求項6乃至8のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマーを被覆された架橋ゴム成形体の製造方法。
【請求項10】
卓球ラケットのブレードに貼られるラバーシートとして使用される、熱可塑性エラストマーを被覆された架橋ゴム成形体の製造方法であって、
前記ゴムは天然ゴムまたはイソプレンゴムを含み、前記架橋ゴム成形体の表面に被覆される熱可塑性エラストマーは耐オゾン、耐候性がよい熱可塑性エラストマーであり、前記機能付与材料は粘着付与剤であり、
前記架橋ゴム成形体の表面に被覆された熱可塑性エラストマーの被膜は前記ラバーシートの外表面をなす請求項8記載の熱可塑性エラストマーを被覆された架橋ゴム成形体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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