説明

熱可塑性エラストマー樹脂組成物

【課題】ワイヤーハーネス用止水材として必要な電線被覆材との接着性、耐熱性、柔軟性を併せ持ち、かつポッティング法を用いずに、射出成形によって止水可能な熱可塑性エラストマー樹脂組成物およびその成形体を提供する。
【解決手段】酸変性されたスチレン系エラストマー(A1)と未変性スチレン系エラストマー(A2)を含むスチレン系エラストマー(A)と、主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体(B)を含有する樹脂組成物であって、スチレン系エラストマー(A)における酸変性スチレン系エラストマー(A1)と未変性スチレン系エラストマー(A2)の合計量に対する酸変性スチレン系エラストマー(A1)の質量比〔A1/(A1+A2)〕が0.99〜0.05であり、(A)成分と(B)成分の質量比が40〜99:60〜1であることを特徴とする熱可塑性エラストマー樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性エラストマー樹脂組成物に関し、特に、電子機器、車載・電送部品、トランス・コイルパワーモジュール及びそのデバイス、リレー、センサー等のワイヤーハーネスの止水材用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や二輪車などに搭載される電子制御ユニットは、水のかからない非被水領域に搭載される場合においても、接続するワイヤーハーネスに雨水等が浸入しやすい被水領域を通って配線される場合が多いため、ワイヤーハーネス側からの電子制御ユニット内への水の浸入を防止することが重要である。
従来、ワイヤーハーネスの止水には耐熱性を必要とされることから、シリコーン樹脂をはじめとして硬化性の樹脂をポッティングする方法が用いられている(例えば、特許文献1参照)。しかし、これらの樹脂は硬化のために長時間の工程が必要となり、また、硬化するまで単体で形状保持が出来ないため、箱型の中に流し入れるポッティング法が使用されている。
近年、シール部材の材料として耐熱性を向上させた熱可塑性エラストマーが開発されている(例えば、特許文献2参照)。しかしこの材料では、軟化剤の添加を必須とし、流動性を高め、また、高温時の形状保持のために、フィラーの添加を必須としている。
【0003】
主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体(SPS)は、他の構造のものに比べて格別に融点が高いため熱成形に際して高い温度において行う必要がある。しかし、このように高い温度で成形する際には、熱分解による分子量低下を招くことになり、機械的性質が低下する。
従来から、成形時の熱分解による機械的性質の低下を防ぐために、ポリスチレン樹脂に、トリホスファイトとフェノール系酸化防止剤を添加したものや、トリホスファイト、ジホスファイトおよびフェノール系酸化防止剤を加えた方法が知られており、SPSと熱可塑性エラストマーからなる組成物に特定構造を有するリン系化合物とフェノール系酸化防止剤を配合してなるポリスチレン系樹脂組成物が公知である(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−292898号公報
【特許文献2】特開2005−132922号公報
【特許文献3】特開平1−182350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はワイヤーハーネス用止水材として必要な電線被覆材との接着性、耐熱性、柔軟性を併せ持ち、かつポッティング法を用いずに、射出成形によって止水可能な熱可塑性エラストマー樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題について鋭意検討を行った結果、酸変性されたスチレン系エラストマーを含むスチレン系エラストマーと、主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体(SPS)からなる樹脂組成物が上記の目的に適うものであり、射出成形によって止水可能な止水材として使用できるものであることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の熱可塑性エラストマー樹脂組成物を提供するものである。
1.酸変性されたスチレン系エラストマー(A1)と未変性スチレン系エラストマー(A2)を含むスチレン系エラストマー(A)と、主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体(B)を含有する樹脂組成物であって、スチレン系エラストマー(A)における酸変性スチレン系エラストマー(A1)と未変性スチレン系エラストマー(A2)の合計量に対する酸変性スチレン系エラストマー(A1)の質量比〔A1/(A1+A2)〕が0.99〜0.05であり、(A)成分と(B)成分の質量比が40〜99:60〜1であることを特徴とする熱可塑性エラストマー樹脂組成物。
2.〔A1/(A1+A2)〕が0.95〜0.5である上記1の熱可塑性エラストマー樹脂組成物。
3.スチレン系エラストマー(A)が、スチレンイソプレンスチレンブロック共重合体(SIS)、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(SBS)、スチレンエチレンプロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレンエチレンエチレンプロピレンスチレン共重合体(SEEPS)から選ばれる少なくとも一種である上記1又は2の熱可塑性エラストマー樹脂組成物。
4.スチレン系エラストマー(A)がスチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)である上記3の熱可塑性エラストマー樹脂組成物。
5.酸変性スチレン系エラストマー(A1)がマレイン酸変性スチレン系エラストマーである上記1〜4いずれかの熱可塑性エラストマー樹脂組成物。
6.マレイン酸変性スチレン系エラストマー(A1)がマレイン酸変性スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)である上記5の熱可塑性エラストマー樹脂組成物。
7.スチレン系エラストマー(A)および主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体(B)の合計100質量部に対して、さらにポリフェニレンエーテル(C)0.5〜10質量部を含有する上記1〜6いずれかの熱可塑性エラストマー樹脂組成物。
8.ポリフェニレンエーテル(C)が酸変性ポリフェニレンエーテルである上記7の熱可塑性エラストマー樹脂組成物。
9.酸変性ポリフェニレンエーテルが、フマル酸変性ポリフェニレンエーテルである上記8の熱可塑性エラストマー樹脂組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、柔軟性と耐熱性を併せ持ち、かつ電線被覆材との接着性に優れた熱可塑性エラストマー樹脂組成物を提供する。該樹脂組成物は、ポッティング法を用いずに、射出成形などによってワイヤーハーネスの止水が可能であり、電子機器、車載・電送部品、トランス・コイルパワーモジュール及びそのデバイス、リレー、センサー等のワイヤーハーネスの止水材として極めて好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例及び比較例においてシール性の評価試験に用いた装置の斜視図である。
【図2】実施例及び比較例においてシール性の評価試験に用いた装置の断面図である。
【図3】実施例及び比較例におけるシール性の評価試験の様子を示す概念図である。
【図4】実施例におけるSPS添加量とピーリング応力(N)の関係を示す図である。
【図5】実施例におけるSPS添加量とビカット軟化点(℃)の関係を示す図である。
【図6】実施例におけるSPS添加量と破断伸び(%)の関係を示す図である。
【図7】実施例におけるPPE添加量とピーリング応力(N)の関係を示す図である。
【図8】実施例におけるPPE添加量とビカット軟化点(℃)の関係を示す図である。
【図9】実施例におけるPPE添加量と破断伸び(%)の関係を示す図である。
【図10】実施例におけるSEBS中のマレイン酸変性SEBSの比率とピーリング応力(N)の関係を示す図である。
【図11】実施例におけるSEBS中のマレイン酸変性SEBSの比率とビカット軟化点(℃)の関係を示す図である。
【図12】実施例におけるSEBS中のマレイン酸変性SEBSの比率と破断伸び(%)の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の熱可塑性エラストマー樹脂組成物は、酸変性されたスチレン系エラストマー(A1)と未変性スチレン系エラストマー(A2)を含むスチレン系エラストマー(A)と、主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体(B)を含有する樹脂組成物であって、スチレン系エラストマー(A)における酸変性スチレン系エラストマー(A1)と未変性スチレン系エラストマー(A2)の合計量に対する酸変性スチレン系エラストマー(A1)の質量比〔A1/(A1+A2)〕が0.99〜0.05であり、(A)成分と(B)成分の質量比が40〜99:60〜1であることを特徴とするものである。
ワイヤーハーネス(Wire Harness)は、絶縁されている導線を絶縁体の物質を用いてまとめてくくりつけたもので、電源供給・信号通信を目的とした複数の電線を束にして、それらを配線し易い長さ、形状にかたどったものであり、ケーブルハーネス(Cable Harness)とも呼ばれている。
屋外に設置される電気・電子機器は、接続するワイヤーハーネスに雨水等が浸入しやすい被水領域を通って配線される場合が多いため、ワイヤーハーネス側からの電子制御ユニット内への水の浸入を防止することが重要であり、本発明の熱可塑性エラストマー樹脂組成物は該ワイヤーハーネスの止水材として使用されるものである。
【0011】
本発明の熱可塑性エラストマー樹脂組成物で用いられる(A)成分のスチレン系エラストマーは、スチレンイソプレンスチレンブロック共重合体(SIS)、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(SBS)、スチレンエチレンプロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレンエチレンエチレンプロピレンスチレン共重合体(SEEPS)から選ばれる少なくとも一種からなるものである。また、これらスチレン系エラストマーの中でスチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)が好ましい。
【0012】
本発明において、(A)成分のスチレン系エラストマーとしては上記のスチレン系エラストマーを酸変性した酸変性スチレン系エラストマー(A1)と未変性スチレン系エラストマー(A2)からなるものが使用される。この酸変性スチレン系エラストマー(A1)としては、マレイン酸やフマル酸などで変性したものが使用され、マレイン酸変性のものが好ましい。酸変性スチレン系エラストマー(A1)の酸価は1mgCH3ONa/g以上が好ましく、5mgCH3ONa/g以上がより好ましい。
【0013】
(B)成分の主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体(SPS)におけるシンジオタクチック構造とは、立体化学構造がシンジオタクチック構造、即ち炭素-炭素結合から形成される主鎖に対して側鎖であるフェニル基が交互に反対方向に位置する立体構造を有するものであり、そのタクティシティーは同位体炭素による核磁気共鳴法(13C−NMR法)により定量される。
核磁気共鳴法(13C−NMR法)により測定されるシンジオタクチック構造のタクティシティーは、連続する複数個の構成単位の存在割合、例えば2個の場合はダイアッド、3個の場合はトリアッド、5個の場合はペンタッドによって示すことができるが、(B)成分の主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体には、通常はラセミダイアッドで75%以上、好ましくは85%以上、若しくはラセミペンタッドで30%以上、好ましくは50%以上のシンジオタクティシティーを有するポリスチレン系重合体が用いられる。
【0014】
(B)成分のSPSにおけるスチレン系重合体としては、ポリスチレン、ポリ(アルキルスチレン)、ポリ(ハロゲン化スチレン)、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)、ポリ(アルコキシスチレン)、ポリ(ビニル安息香酸エステル)、これらの水素化重合体及びこれらの混合物、あるいはこれらを主成分とする共重合体が挙げられる。
ここでポリ(アルキルスチレン)としては、ポリ(メチルスチレン)、ポリ(エチルスチレン)、ポリ(イソピルスチレン)、ポリ(t-ブチルスチレン)、ポリ(フェニルスチレン)、ポリ(ビニルナフタレン)、ポリ(ビニルスチレン)などがあり、ポリ(ハロゲン化スチレン)としては、ポリ(クロロスチレン)、ポリ(ブロモスチレン)、ポリ(フルオロスチレン)などがある。また、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)としては、ポリ(クロロメチルスチレン)など、またポリ(アルコキシスチレン)としては、ポリ(メトキシスチレン)、ポリ(エトキシスチレン)などがある。
【0015】
なお、これらの中で特に好ましいスチレン系重合体としては、ポリスチレン、ポリ(p-メチルスチレン)、ポリ(m-メチルスチレン)、ポリ(p-又はt-ブチルスチレン)、ポリ(p-クロロスチレン)、ポリ(m-クロロスチレン)、ポリ(p-フルオロスチレン)、水素化ポリスチレン及びこれらの構造単位を含む共重合体が挙げられる。
このようなSPSは、例えば、不活性炭化水素溶媒中又は溶媒の不存在下に、チタン化合物及び水とトリアルキルアルミニウムの縮合生成物を触媒として、スチレン系単量体(上記スチレン系重合体に対応する単量体)を重合することにより製造することができる(特開昭62−187708号公報参照)。また、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)については特開平1−46912号公報に記載の方法、水素化重合体は特開平1−178505号公報に記載の方法などにより得ることができる。これらのSPSは一種のみを単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
(A)成分と(B)成分の質量比は40〜99:60〜1であり、50〜90:50〜10であることが好ましく、67.5〜80:32.5〜20であることが好ましい。(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して(B)成分(SPS)が1質量部未満の場合にはSPSによる耐熱性向上効果が得られず、60質量部よりも多い場合には止水材として必要な電線被覆材との接着性が維持できなくなるおそれがある。
【0017】
スチレン系エラストマー(A)における酸変性スチレン系エラストマー(A1)と無変性スチレン系エラストマー(A2)の質量比〔A1/(A1+A2)〕は0.99〜0.05であることが好ましく、0.95〜0.5であることがさらに好ましく、0.95〜0.55であることが特に好ましい。酸変性スチレン系エラストマーを使用することにより電線被覆材との接着性が向上するため、止水用樹脂組成物としての適性が向上する。
【0018】
本発明の熱可塑性エラストマー樹脂組成物には、必要により、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、さらにポリフェニレンエーテル(C)を、好ましくは0.5〜10質量部、より好ましくは1〜7質量部を含有することが望ましい。ポリフェニレンエーテル(C)を0.5質量部以上含有させることによりポリフェニレンエーテルによる接着性の向上効果が得られ、10質量部以下とすることにより、エラストマーの伸びが阻害されず、必要とされる柔軟性が得られる。
このポリフェニレンエーテルが酸変性ポリフェニレンエーテルである場合、より電線被覆材との接着性が向上する。酸変性ポリフェニレンエーテルとしては、マレイン酸やフマル酸などで変性したものが使用され、フマル酸変性のものが好ましい。
【0019】
(C)成分のポリフェニレンエ−テル(PPE)の例としては、ポリ(2,3−ジメチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−メチル−6−クロロメチル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−メチル−6−ヒドロキシエチル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−メチル−6−n−ブチル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−エチル−6−イソプロピル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−エチル−6−n−プロピル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2,3,6−トリメチル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ〔2−(4'−メチルフェニル)−1,4−フェニレンエーテル〕;ポリ(2−ブロモ−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−フェニル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−クロロ−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−メチル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−クロロ−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−クロロ−6−ブロモ−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2,6−ジ−n−プロピル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−メチル−6−イソプロピル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−クロロ−6−メチル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2,6−ジブロモ−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレンエーテル)及びポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)等が挙げられる。この中で、特にポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)が好ましい。なお、上記ポリフェニレンエ−テルは、一種のみを単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
これらのポリフェニレンエ−テルは、公知の化合物であり、米国特許第3,306,874号,同3,306,875号,同3,257,357号及び同3,257,358号の各明細書を参照することができる。ポリフェニレンエーテルは、通常、銅アミン錯体、および二箇所もしくは三箇所を置換した一種以上のフェノール化合物の存在下で、ホモポリマー又はコポリマーを生成する酸化カップリング反応によって調製される。ここで、銅アミン錯体は、第一,第二及び第三アミンから誘導される銅アミン錯体を使用できる。
【0020】
また、本発明の熱可塑性エラストマー樹脂組成物には、コンパウンド中および製品の熱安定性を高める目的で、5質量%以内で酸化防止剤を添加しても良い。
酸化防止剤としてはペンタエリスリトール テトラキス[3−(3、5−ジ-t-ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ブロビオネート(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製、IRGANOX1010)、ビス−(2、6−ジ−tert−ブチル-メチルフェニル)ペンタエリスリトール ジ ホスファイト(株式会社ADEKA製、アデカスタブ PEP−36)、1、3、5−トリス−(3'、5'−ジ‐tert−ブチル−4‘−ヒドロキシベンジル)イソシアヌル酸(株式会社ADEKA製、アデカスタブ AO−20)等を用いることができる。
【0021】
本発明の熱可塑性エラストマー樹脂組成物の調製方法については、特に制限はなく、公知の方法により調製することができる。例えば、上記成分を常温で混合した後、溶融混練など様々な方法でブレンドすればよく、その方法は特に制限はされない。混合・混練方法として、二軸押出機を用いた溶融混練が好ましく用いられる。
二軸押出機を用いた溶融混練においては、用いるSPSの融点以上、350℃未満での混練が好ましい。混練温度を用いるSPSの融点以上とすることにより、SPSの粘度が高くなりすぎることがないため、生産性が低下することがない。また、350℃未満とすることにより、SPSが熱分解するおそれがない。
【0022】
本発明の熱可塑性エラストマー樹脂組成物の成形方法についても特に制限はなく、射出成形、 押出成形等公知の方法により成形することができる。射出成形のときの成形温度は、用いるSPSの融点以上、350℃未満が好ましい。成形温度を用いるSPSの融点以上とすることにより、流動性が低下するおそれがなく、350℃未満とすることにより、SPSが熱分解するおそれがない。また金型温度としては、40〜100℃ が好ましく、40〜80℃ が更に好ましい。金型温度を40℃ 以上とすることにより、SPSが十分結晶化し、SPSの特徴が十分発揮される。また100℃ 以下とすることにより、本材料が金型内で溶融してしまうことがない。
【実施例】
【0023】
以下に実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、以下の実施例および比較例における物性試験の測定およびシール性の評価を次のように行った。
(1)ピーリング応力
インサート成形により127mm×13mm、厚み2mmの架橋ポリエチレン製の電線被覆材のシートと、実施例および比較例で得られた127mm×13mm、厚み1.2mmの止水材のシートを貼り合わせ、それをT型剥離試験装置(INSTRON製、5567P7529)にて25mm/minの試験速度でピーリング応力を測定した。
(2)ビカット軟化点
JIS K7206に準拠して測定した。
(3)破断伸び
ASTM D638に準拠して測定した。
(4)シール性(止水性)の評価
図1に示された導電性の芯線11と、絶縁性の被覆部12とを備えている電線1に、ペレット状に成形された本発明の熱可塑性エラストマー樹脂組成物を用いて止水部2を成形する。次いで、本発明の熱可塑性エラストマー樹脂組成物とは異なる樹脂組成物を用いて、ハウジング部3を成形する。前記手順によって得られた成形体をアルミ製の冶具(図示せず)にセットして水中にいれ、冶具にチューブを通して当該チューブから冶具内に30.0kPaの圧縮空気を30秒間送り、止水部2と電線1の界面、止水部2とハウジング部3の界面からの圧縮空気の漏れを観測した。圧縮空気の漏れがないものを合格(○)、圧縮空気の漏れがあるものを不合格(×)とした。
【0024】
製造例1(フマル酸変性ポリフェニレンエーテルの製造)
ポリフェニレンエーテル(固有粘度0.45デシリットル/g、クロロホルム中、25℃) 1kg、フマル酸30g、ラジカル発生剤として2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン(日本油脂社製、ノフマーBC) 20gをドライブレンドし、30mm二軸押出機を用いてスクリュー回転数200rpm、設定温度300℃で溶融混練を行った。この時樹脂温度は約331℃であった。
ストランドを冷却後ペレット化し、フマル酸変性ポリフェニレンエーテルを得た。変性率測定のため、得られた変性ポリフェニレンエーテル1gをエチルベンゼンに溶解後、メタノールに再沈し、回収したポリマーをメタノールでソックスレー抽出し、乾燥後IRスペクトルのカルボニル吸収の強度及び滴定により変性率を求めた。この時、変性率は1.45質量%であった。
【0025】
実施例1〜21、比較例1〜2
下記の配合成分を第1表及び第2表に示す割合でドライブレンドした後、二軸押出機を用いシリンダー温度290℃で溶融混練を行い、得られたストランドを水槽を通して冷却した後、ペレット化し、樹脂組成物を調製した。得られた樹脂組成物を用いて上記の物性試験の測定を行った。測定結果を第1表及び第2表に示す。
(A)スチレン系エラストマー
(A1)酸変性スチレン系エラストマー
マレイン酸変性スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体:(旭化成ケミカルズ株式会社製、タフテック M1913、スチレン/エチレンブチレン質量比=30/70、MFR(温度230℃、荷重2.16Kgf)=5g/10分、酸価10mgCH3ONa/g)
(A2)未変性スチレン系エラストマー
スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体:(旭化成ケミカルズ株式会社製、タフテック H1041、スチレン/エチレンブチレン質量比=30/70、MFR(温度230℃、荷重2.16Kgf)=5g/10分)
(B)主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体(SPS)
ホモシンジオタクチックポリスチレン:(出光興産株式会社製、ザレック130ZC、ラセミペンタッドタクティシティー=98%、MFR(温度300℃、荷重1.2Kgf)=13g/10分)
(C)酸変性ポリフェニレンエーテル(PPE)
製造例1で製造したフマル酸変性ポリフェニレンエーテルを使用した。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
実施例1〜6及び比較例1〜2で得られたSPS添加量と、ピーリング応力(N)、ビカット軟化点(℃)及び破断伸び(%)の関係を図4〜6にグラフで示す。
また、実施例17〜21より、フマル酸変性PPE添加量と、ピーリング応力(N)、ビカット軟化点(℃)及び破断伸び(%)の関係を図7〜9にグラフで示す。
さらに、実施例7〜11より、SPS添加量25質量部および60質量部におけるSEBS全体に対するマレイン化SEBSの比率と、ピーリング応力(N)、ビカット軟化点(℃)及び破断のび(%)の関係を図10〜12にグラフで示す。
なお、図7〜図9において、PPEはフマル酸変性PPEである。
【0029】
以上の実施例及び比較例の結果から次のようなことが確認される。
(1)スチレン系エラストマーにSPSを添加することによりビカット軟化点が高くなり、耐熱性が向上すると共に、ポッティング法を用いずに、射出成形によって止水可能な熱可塑性エラストマー樹脂組成物およびその成形体を得ることができる。
(2)スチレン系エラストマーとSPSの組成物にポリフェニレンエーテル(PPE)を添加することにより、ビカット軟化点が高くなると共に、ピーリング応力が上昇し、接着性が向上する。但し、破断伸びが低下するので、用いられるワイヤーハーネスに応じたPPEの含有量が選定される。
(3)特に、図10からSPS添加量が25質量部において、酸変性スチレン系エラストマーを、スチレン系エラストマー中50%以上用いることにより、ピーリング応力を著しく増大させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、柔軟性と耐熱性を併せ持ち、かつ電線被覆材との接着性に優れた熱可塑性エラストマー樹脂組成物が提供され、電子機器、車載・電送部品、トランス・コイルパワーモジュール及びそのデバイス、リレー、センサー等のワイヤーハーネスの止水材として極めて好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 電線
2 止水部
3 ハウジング部
11 芯線
12 被覆部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸変性されたスチレン系エラストマー(A1)と未変性スチレン系エラストマー(A2)を含むスチレン系エラストマー(A)と、主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体(B)を含有する樹脂組成物であって、スチレン系エラストマー(A)における酸変性スチレン系エラストマー(A1)と未変性スチレン系エラストマー(A2)の合計量に対する酸変性スチレン系エラストマー(A1)の質量比〔A1/(A1+A2)〕が0.99〜0.05であり、(A)成分と(B)成分の質量比が40〜99:60〜1であることを特徴とする熱可塑性エラストマー樹脂組成物。
【請求項2】
質量比〔A1/(A1+A2)〕が0.95〜0.5である請求項1に記載の熱可塑性エラストマー樹脂組成物。
【請求項3】
スチレン系エラストマー(A)が、スチレンイソプレンスチレンブロック共重合体(SIS)、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(SBS)、スチレンエチレンプロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレンエチレンエチレンプロピレンスチレン共重合体(SEEPS)から選ばれる少なくとも一種である請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー樹脂組成物。
【請求項4】
スチレン系エラストマー(A)がスチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)である請求項3に記載の熱可塑性エラストマー樹脂組成物。
【請求項5】
酸変性スチレン系エラストマー(A1)がマレイン酸変性スチレン系エラストマーである請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー樹脂組成物。
【請求項6】
マレイン酸変性スチレン系エラストマー(A1)がマレイン酸変性スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)である請求項5に記載の熱可塑性エラストマー樹脂組成物。
【請求項7】
スチレン系エラストマー(A)および主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体(B)の合計100質量部に対して、さらにポリフェニレンエーテル(C)0.5〜10質量部を含有する請求項1〜6のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー樹脂組成物。
【請求項8】
ポリフェニレンエーテル(C)が酸変性ポリフェニレンエーテルである請求項7に記載の熱可塑性エラストマー樹脂組成物。
【請求項9】
酸変性ポリフェニレンエーテルが、フマル酸変性ポリフェニレンエーテルである請求項8に記載の熱可塑性エラストマー樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−167134(P2012−167134A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26471(P2011−26471)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】